ゲスト
(ka0000)
【MN】パイプのかわりにロリポップ!
マスター:紺堂 カヤ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/08/11 19:00
- 完成日
- 2016/08/19 04:30
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「う~む」
大きなデスクの前で、一人の少女が腕組みをしてうなっていた。
少女の髪は綺麗な栗色で、頭の上にはチェック模様のハンチング帽が乗っている。
「これは事件だわ」
大きくうなずくと、おもむろに何やら棒状のものを取り出し、火をつけるような仕草をしてから口に咥えた。
「……ただの飴のくせに」
「わああ!」
背後でぼそっと呟く声がして、少女は跳び上がって驚く。
「ちょ、ちょっとクロス! 突然現れないでよね!」
「別に突然現れたわけではありませんよ。ダイヤお嬢様が気が付かなかっただけです」
「助手のくせに生意気な物言いね! っていうか! お嬢様って呼ばないで、って言ってるでしょ?」
「あー、はい、名探偵でしたね、はいはい」
クロスと呼ばれた青年が面倒くさそうに答える。
ここは、つい三日前に開かれたばかりの新設探偵事務所、モンド探偵事務所。ちなみに、所員はダイヤとクロスの二名。蒸気都市クライズヘイムの宝石商・モンド氏の一人娘ダイヤの、思いつきによって開かれた事務所だ。
「で、名探偵。何が事件なんですか?」
「よくぞ訊いてくれた、クロス君!」
うむ、とうなずいて、ダイヤはパイプのつもりらしい棒付飴をふかす(当然、煙は出ない)
「今日食べる予定にしていた、私のクッキーが! 消えているのだよ! 何者かに盗まれたに違いない!」
「……」
クロスは絶句した。
「お嬢様」
「ん?」
「そのクッキーは、お嬢様が夜中に召しあがったでしょう。『お腹すいた! 我慢できない!』とか言って」
「あっ」
ダイヤの顔がみるみる赤くなる。わざとらしく、ごほん、と咳払いをして、お粗末な取り繕いをした。
「そ、そうだったわね。さすがは私の助手だ、クロス君! そして私のことはお嬢様と呼ばないように!」
「いや、へっぽこにもほどがありますよ、お嬢……名探偵」
「う、うるさぁい!」
さすがに恥ずかしかったらしいダイヤが、ふくれて足を踏み鳴らすと、その拍子に床に置いてあった箱に躓いてしまった。
「きゃっ」
「ったく」
クロスが素早くダイヤを支えたものの、右の足首がぐきっといった。
「痛っ」
「大丈夫ですか? ああ、箱の中身は無事ですね。りんごジュースの瓶なんですよ。割れてなくてよかった」
「そっち!?」
思わず突っ込んだダイヤに、クロスはそれでもちゃんと手を貸して椅子に座らせた。
「まったく、不注意にもほどがありますよ、名探偵。それでは事件どころではないんじゃないですか、名探偵。まあ、こんな開設したばかりの事務所に依頼をしにくる人もいなさそうですけどね。……おや? どうかしましたか名探偵」
これみよがしに、皮肉っぽさ全開で「名探偵」を繰り返すクロスを、ダイヤは悔しげに睨んだ。ダイヤが望んだとおり、「名探偵」と呼んでいるので文句も言いづらい。
ダイヤがむくれてツン、と横を向くと。事務所の扉がそろそろと動くのが見えた。
「ん?」
「あ、あのう……」
遠慮がちに顔をのぞかせたのは、ダイヤと同じ年頃の少女。
「ここは、探偵事務所なんですよね……?」
「ええ! そうよ! ご依頼ですか!? どうぞ中へ!」
ダイヤは嬉しそうに顔を輝かせ、それから得意げにクロスを見やった。ちなみに、飴は咥えたままである。クロスは大きくため息をつく。
ダイヤの向かい側に椅子を勧めて少女を座らせ、紅茶を出すと、彼女は鍵のかかった小箱をひとつと手紙を一通差し出して、依頼内容を語り始めた。
「私は、レイラといいます。母と二人暮らしで……、父は長いこと遠い街に出稼ぎに出ているんです。この前、私の誕生日に、父からこの箱が届いたんですけど……、開けられなくて。これを開けてほしい、というのが依頼なんです」
「鍵はついてなかったんですか?」
ダイヤが尋ねると、レイラは首を横に振った。
「代わりに、これが」
と言って手紙を広げる。
手紙には、
『鍵はお家の中にあります。探してください。
レイラを毎日見ているところ
レイラが毎日見ているところ
夜はひっそり闇に溶け
朝は光を倍にする
お誕生日おめでとう』
と書いてあった。
「自分の部屋はくまなく探したんですけど、見つからなくて……」
「わかりました!!! この美少女名探偵にお任せください!!!」
ダイヤは勢いよく立ち上がって……、しかし。
「いたたたたた」
すぐ座り込んでしまった。どうやら、先ほど躓いた足は、思いのほかダメージを受けていたらしい。
「……その足じゃ、レイラさんのお家に行くことも難しそうですね」
クロスが跪いてダイヤの足を見てやりながら首を横に振る。
「そんなあ……」
ダイヤはがっかりと首を落としたが、依頼を断るつもりはないようで、すぐに顔を上げると、レイラに向かって大きくうなずいた。
「安心してください。調査員を、雇いますから!」
「まあ、そうするしかありませんよね。……ところで」
クロスが立ち上がって、ダイヤを哀れむような目で見降ろした。
「な、何よ」
「ご自分で美少女名探偵、なんて言って、恥ずかしくないんですか?」
大きなデスクの前で、一人の少女が腕組みをしてうなっていた。
少女の髪は綺麗な栗色で、頭の上にはチェック模様のハンチング帽が乗っている。
「これは事件だわ」
大きくうなずくと、おもむろに何やら棒状のものを取り出し、火をつけるような仕草をしてから口に咥えた。
「……ただの飴のくせに」
「わああ!」
背後でぼそっと呟く声がして、少女は跳び上がって驚く。
「ちょ、ちょっとクロス! 突然現れないでよね!」
「別に突然現れたわけではありませんよ。ダイヤお嬢様が気が付かなかっただけです」
「助手のくせに生意気な物言いね! っていうか! お嬢様って呼ばないで、って言ってるでしょ?」
「あー、はい、名探偵でしたね、はいはい」
クロスと呼ばれた青年が面倒くさそうに答える。
ここは、つい三日前に開かれたばかりの新設探偵事務所、モンド探偵事務所。ちなみに、所員はダイヤとクロスの二名。蒸気都市クライズヘイムの宝石商・モンド氏の一人娘ダイヤの、思いつきによって開かれた事務所だ。
「で、名探偵。何が事件なんですか?」
「よくぞ訊いてくれた、クロス君!」
うむ、とうなずいて、ダイヤはパイプのつもりらしい棒付飴をふかす(当然、煙は出ない)
「今日食べる予定にしていた、私のクッキーが! 消えているのだよ! 何者かに盗まれたに違いない!」
「……」
クロスは絶句した。
「お嬢様」
「ん?」
「そのクッキーは、お嬢様が夜中に召しあがったでしょう。『お腹すいた! 我慢できない!』とか言って」
「あっ」
ダイヤの顔がみるみる赤くなる。わざとらしく、ごほん、と咳払いをして、お粗末な取り繕いをした。
「そ、そうだったわね。さすがは私の助手だ、クロス君! そして私のことはお嬢様と呼ばないように!」
「いや、へっぽこにもほどがありますよ、お嬢……名探偵」
「う、うるさぁい!」
さすがに恥ずかしかったらしいダイヤが、ふくれて足を踏み鳴らすと、その拍子に床に置いてあった箱に躓いてしまった。
「きゃっ」
「ったく」
クロスが素早くダイヤを支えたものの、右の足首がぐきっといった。
「痛っ」
「大丈夫ですか? ああ、箱の中身は無事ですね。りんごジュースの瓶なんですよ。割れてなくてよかった」
「そっち!?」
思わず突っ込んだダイヤに、クロスはそれでもちゃんと手を貸して椅子に座らせた。
「まったく、不注意にもほどがありますよ、名探偵。それでは事件どころではないんじゃないですか、名探偵。まあ、こんな開設したばかりの事務所に依頼をしにくる人もいなさそうですけどね。……おや? どうかしましたか名探偵」
これみよがしに、皮肉っぽさ全開で「名探偵」を繰り返すクロスを、ダイヤは悔しげに睨んだ。ダイヤが望んだとおり、「名探偵」と呼んでいるので文句も言いづらい。
ダイヤがむくれてツン、と横を向くと。事務所の扉がそろそろと動くのが見えた。
「ん?」
「あ、あのう……」
遠慮がちに顔をのぞかせたのは、ダイヤと同じ年頃の少女。
「ここは、探偵事務所なんですよね……?」
「ええ! そうよ! ご依頼ですか!? どうぞ中へ!」
ダイヤは嬉しそうに顔を輝かせ、それから得意げにクロスを見やった。ちなみに、飴は咥えたままである。クロスは大きくため息をつく。
ダイヤの向かい側に椅子を勧めて少女を座らせ、紅茶を出すと、彼女は鍵のかかった小箱をひとつと手紙を一通差し出して、依頼内容を語り始めた。
「私は、レイラといいます。母と二人暮らしで……、父は長いこと遠い街に出稼ぎに出ているんです。この前、私の誕生日に、父からこの箱が届いたんですけど……、開けられなくて。これを開けてほしい、というのが依頼なんです」
「鍵はついてなかったんですか?」
ダイヤが尋ねると、レイラは首を横に振った。
「代わりに、これが」
と言って手紙を広げる。
手紙には、
『鍵はお家の中にあります。探してください。
レイラを毎日見ているところ
レイラが毎日見ているところ
夜はひっそり闇に溶け
朝は光を倍にする
お誕生日おめでとう』
と書いてあった。
「自分の部屋はくまなく探したんですけど、見つからなくて……」
「わかりました!!! この美少女名探偵にお任せください!!!」
ダイヤは勢いよく立ち上がって……、しかし。
「いたたたたた」
すぐ座り込んでしまった。どうやら、先ほど躓いた足は、思いのほかダメージを受けていたらしい。
「……その足じゃ、レイラさんのお家に行くことも難しそうですね」
クロスが跪いてダイヤの足を見てやりながら首を横に振る。
「そんなあ……」
ダイヤはがっかりと首を落としたが、依頼を断るつもりはないようで、すぐに顔を上げると、レイラに向かって大きくうなずいた。
「安心してください。調査員を、雇いますから!」
「まあ、そうするしかありませんよね。……ところで」
クロスが立ち上がって、ダイヤを哀れむような目で見降ろした。
「な、何よ」
「ご自分で美少女名探偵、なんて言って、恥ずかしくないんですか?」
リプレイ本文
機械油が鼻を突く、無骨な作りのエレベーターで、その建物の三階へ上がると、モンド探偵事務所の扉は目の前だった。ハンターたち七人がその扉の内側へ入ると、そこには、真剣な表情でタイプライターを叩いているダイヤがいた。口元には、棒付飴を咥えている。
「よお、ダイヤ! 今度は探偵かよ!? 意外に、ちゃんとやってんじゃん!」
大伴 鈴太郎(ka6016)が笑ってそう言うと、ダイヤはパアッと顔を輝かせたが、すぐにハッとしたように真面目な表情を作って、こほん、と咳払いをした。
「皆の衆、よくぞお集まりくださった。我がモンド探偵事務所の初依頼にご協力いただけて嬉しい」
もっともらしく堅苦しい挨拶をするダイヤは、すっかり探偵気分だった。そんなダイヤに微笑んで、ザレム・アズール(ka0878)が何やらきらきらしたものを取り出した。
「ダイヤ、探偵事務所の開設、おめでとう。これは開設祝いだ」
それは薔薇水晶のネックレスだった。ダイヤは両手で受け取って、ありがとう、と頬を緩めた。そして再びハッとしたように真面目な表情を作り、今度は事務所の奥をチラッと気にしてから、七人に向かって説明を始めた。
「えー、すぐにでも依頼の解決に乗り出していただきたい。今回は捜索依頼だ。ここに、依頼内容の詳細をまとめてある」
ダイヤは全員に一枚ずつ用紙を配った。タイプライターで作っていたのはこの用紙であったらしい。
「残念ながら私は諸事情で現場に行くことができない。しっかり、頼むよ」
「諸事情で、ねえ……」
冷ややかな声が奥から響いたかと思うと、仏頂面のクロスが姿を現した。
「もっともらしく言ってますけど、不注意で足を痛めただけですから」
「足を?」
それならヒールで治療を、と言いかけたディーナ・フェルミ(ka5843)だったが、クロスの手に氷とタオルがあるのを見て言葉を飲み込んだ。彼に任せた方がよさそうだ。
「皆様、ご面倒をおかけいたしますが、よろしくお願い致します」
クロスは、ダイヤの手元にあるネックレスを少々気にしたようにも見えたが、特に顔色を変えることもなく丁寧なお辞儀で七人を送り出した。去りぎわ、イルム=ローレ・エーレ(ka5113)が優雅に振り向いた。
「では、行ってくるよっ。お代はラブで結構……なあんてね?」
そして軽やかなウインクを、ダイヤに投げて行ったのであった。
ダイヤに渡された用紙に記載してある住所を頼りに、七人は霧の立ち込める路地を進んでレイラのアパートへと向かった。
出迎えてくれたのはレイラの母親であった。穏やかにふっくらと微笑むその人に、央崎 遥華(ka5644)が丁寧に挨拶した。
「大人数で押しかけてしまってすみません。少々騒がしくなりますが、必ずお探し物が見つかるようお手伝いさせていただきますね」
「安心するが良い。思いのこもった物はいずれ正しき持ち主の手に収まるものだ」
レイラと母親を見下ろして、重々しげに言ったのは、咲月 春夜(ka6377)だ。今は「Herrschaft=Archives(ヘルシャフト=アーカイブス)」として振舞っている。その騎士風の衣装や仮面に、レイラと母親は気圧されたように頷いて、皆をアパートの中へ招き入れた。
「ほいほーい、頑張りますよー!」
緊張した空気は、この間延びしたふうな、けれど元気な声によって打ち破られた。小宮・千秋(ka6272)だ。見れば、もともとの白い髪が、栗色のウィッグの下に隠れている。さらにその上に乗せられたハンチング帽。
「お足を痛めてしまい来られなくなってしまったダイヤさんに代わりまして、私がダイヤさんになっちゃいまーす」
探偵に変装はつきものですよねー、などと言って胸を張る千秋に、遥華が笑いながら同意した。
「なんか違う気がするけど、気持ちはわかるよ。私も眼鏡かけて雰囲気出しちゃおう、ふふふ」
そんなふたりに、レイラは目を丸くしたが、すぐにくすくすと笑い始めた。
「皆さん、よろしくお願いします」
「任せとけ!」
鈴太郎が気合充分に、ぐっと固めた拳を見せる。が、すぐにしおしおと自信なさげな表情で呟いた。
「とは言ってみたけどよー、手紙読んでもさっぱりわかンねぇ。大体オレこーゆー頭使うの向いてねンだよ……」
それに大きく頷いたのは、ディーナだった。
「全然推理分かんないの、ローラー作戦で全部探しちゃ駄目かなぁ?」
「まあそれもひとつの手じゃないか? 俺たちはダイヤに雇われた調査員なんだし、部屋を調べてダイヤに報告したらいいんじゃないかな。探偵はダイヤなわけだから、推理はダイヤにしてもらえばいい」
ザレムがそう言うと、ふたりはなるほど、と納得して、ぽん、と手を叩いた。そして三人は、アパートのあちらこちらを調べ始めた。物陰を覗くばかりでなく、歩いて床の寸法を測ったりもしている。ヘルシャフトも、三人同様に捜索を始めていた。向いてない、と弱音は吐いたものの、諦めてしまうのも情けないと思ったらしい鈴太郎は、捜索しつつもときどき手を止めて考え込んだりしていた。
その間、他のハンターが何をしていたかと言うと。主に、情報収集にまわっていた。レイラや、レイラの母親から何か手がかりが得られないか、というわけだ。
「謎解きを一緒にプレゼントするなんて、君のお父さんはユニークな方だねっ」
イルムがレイラに微笑みかける。大好きな父親を褒められて、レイラも嬉しそうに頷いた。
「ところでどうだい。この依頼が無事に解決したらお祝いに食事でも」
「こらこら」
すかさずレイラを口説き始めるイルムに、遥華が苦笑して水を差した。
「解決したら、も何も、まずはその解決を目指さないと。レイラさん、良かったら、一日の行動パターンとか教えてもらえる? 何かヒントになるかも」
「は、はい」
レイラが遥華の方を向いてしまったため、イルムは次にレイラの母親へと話しかけた。申し遅れました、と優雅な所作でお辞儀をして挨拶を述べるイルムに、母親も打ち解けた笑顔を向けてくれた。
「ふっふっふー。実を言うと、ボクはもう鍵がどこにあるのか分かっているのですよ!」
「まあ、そうなんですか? 一体、どこに?」
「それはずばり、花台さっ。花瓶に生けた花は毎日レイラ君を見つめているし、夜は花弁を閉じて眠りにつく。そして朝日を浴びて華やかに輝くものだからねっ」
イルムのその言葉が聞こえたらしいヘルシャフトが花台を調べたが、鍵らしきものはどこにもなかった。彼はゆるく首を横に振ると、黙って本棚の方へ移動して行った。
「おや。違ったかな?」
あてが外れたイルムは、しかし、さして悔しくもなさそうに笑った。それでは……、と次の案を考え始める。その隣で千秋が、くだんの箱を手に何やら調べている。
「黒猫さんとマルチーズさんに御協力頂きますよー」
千秋は箱を自分のペットたちの目先・鼻先に近付けた。匂いなどでペットにも手がかりを探してもらおう、という算段らしい。ハンターたちは、実に多種多様な、平たく言えばてんでバラバラな捜査を展開していた。
「レイラ、引き出しを開けてもいいかな?」
ザレムがレイラに声をかけ、レイラは頷きながら遥華と共にザレムの方へ近付いた。行動パターンについての話は、ザレムも聞いておきたかったところらしく、三人で話しながら捜索をし始める。
そんな彼らを尻目に、ヘルシャフトは本棚の本を押したり引いたり……、開いたり。
「良いか。ワインを飲んでいる時間を無駄だと思うな。それは心の休息時間であって必要な時間だ」
格言めいた言葉を聞いて、レイラの母親が神妙な顔で頷いている。なるほど、と愉快そうに同意して見せるのは、いまだ母親の隣にいるイルムだ。
「ボクも休息を取りながらもう一度考えてみたよ。食器棚はどうかな? ピカピカに磨かれたお皿はご飯の度に……」
ちょうどキッチンを捜索していたディーナが食器棚を探すが、そこにも鍵らしきものはなかった。
「見つからない?……アッハッハ、いやあ。実に難問だねっ」
ヘルシャフトとイルムの言動で、現場は随分と賑やかになってはいたものの、それを楽しいと受け取れずに追いつめられている者もいた。鈴太郎である。
「やっぱ闇雲に探しても見つかンねぇよ……。ああメンドクセー! もう力任せに開けちまやいンじゃねーか!? ってダメだダメだ! ダイヤのツラに泥塗れっかよ……華麗に推理で解決してこその探偵だっての!」
煮詰まりすぎて混乱している鈴太郎を見て、ディーナが自分の考えを話そうと近付いた。大声で宣言するには自信がないので、鈴太郎にこっそり耳打ちしようと思ったのである。が、しかし、鈴太郎は。
「いい加減知恵熱出そうだぜ……、洗面所借りて一回頭冷やすか……」
ふらふらと洗面所へ向かってしまった。ディーナは慌ててそれを追う。
「鈴太郎ちゃん! 待ってほしいの!」
ザレムと遥華は、レイラの話を聞いて、しっかり情報収集をしたらしい。ザレムはこの情報をダイヤに伝えて推理してもらうべきだと考えていた。しかし、ダイヤに推理させるまでもなく場所の予想が付いてしまったのもまた事実で、遥華などはしきりに、鈴太郎とディーナが姿を消した洗面台の方を気にしている。
「ほむほむー、レイラさんを毎日見ているところ、レイラさんが毎日見ているところ、夜はひっそり闇に溶け、朝は光を倍にする、ですかー。なるほどなるほどー」
千秋も歩き回りながら考えて、遥華と同じ方向に顔を向けた。ペットを使っての捜索はいまひとつ上手くいかなかったようだが、自分で考えを巡らせた結果、思い当たることがあったようだ。
と。
「ななな謎はすべて解けた! 証明終了! モンド探偵事務所の名にかけて真実はいつも一つ!! み、皆ぁ!!」
鈴太郎とディーナが、洗面所から飛び出してきた。まるで待ち構えていたように、皆の視線が自分たちの方へ向けられているのに気が付いて少々たじろぐ。ひとり優雅にその様子を見ていたイルムが微笑んだ。
「やあ、これは解決に向かいそうだねっ」
てんでバラバラな動きをしていたかに見えたハンターたちの捜査は、今、上手い具合に重なって、一つの答えを導き出そうとしていた。
「お待たせしたわ! 美少女名探偵の登場よ!」
素晴らしいタイミングでのご登場であった。
ハンターたちは調査結果及び、それぞれの見解にして偶然の一致をみた結論をダイヤに報告した。ダイヤは驚いたふうもなく鷹揚に頷く。どうやら安楽椅子探偵的に、事務所でも推理を展開していたようである。
まあ、ダイヤの考えって言うよりは、と思ったハンターたちが、誰からともなく、付き添って来たクロスへと視線を送ったが、クロスはしれっと涼しい顔をしていた。
「答えは出たな。だが、これは私が推理を披露するべきではないと思っている。きっと皆も同じ考えだろう」
ハンターたちは皆頷いた。これは、レイラに見つけてもらうべきだろう。
「大切なモノなら己の手で掴め。俺達という道標を元に歩むが良い」
ヘルシャフトの言葉が、本日一番の重みをもって響いた。
「その通りだね。と、いうわけで、レイラさん。私にはもう答えが出ているのだ。ヒントを差し上げるから、是非、自分で答えを見つけて欲しいのだけれど」
「は、はい」
ダイヤの宣言を聞いて、レイラは緊張した様子で返事をし、毎日生活しているアパートをぐるりと見回した。
「ザレムくんと遥華ちゃんが、一日の行動パターンについて質問をしたんだと思うけれど、そこから何か思い当たることはない?」
「思い当たること……」
ダイヤが尋ねると、レイラは考え込むようにして俯いた。すかさず、ザレムが助け舟を出す。
「ダイヤ、さっきプレゼントしたネックレス、つけてみてくれよ」
「ネックレス……、うん、つけたいところだけど、一人じゃなあ」
「そうか。じゃあ、これを使ったらどうかな」
棒読みのセリフを言うダイヤへの笑いをかみ殺しながら、ザレムが小型の置き鏡を差し出した。レイラは困惑気味にそれを眺める。
「私、毎朝ネックレスなんてつけませんけど……、あっ、でも」
「そう。鏡は毎朝、見るよね」
答えを見つけたらしいレイラに、遥華が微笑みかけた。
「さ、探そうぜ、レイラ!」
鈴太郎に手を引かれて、レイラは洗面台へと向かう。洗面台に取り付けられた鏡の、真鍮のフレームの隙間をくまなく覗き、探すと。
「あったわ……」
小さな鍵が、あらわれた。
「やったな!」
鈴太郎がガッツポーズをした後ろから、千秋が箱を差し出した。
「さっそく開けてみてくださいー! 果たして中には何が入っているんでしょうかー」
全員が、どきどきわくわくしながら、鍵を開けるレイラの手元を見守った。カチリ、と小さな音がして、箱が開くと、そこには。
薄紅色の紙片が、一枚。
「紙ぃ!?」
しかし、その紙片を良く見ると。
「夏の終わり、って書いてあるわ」
レイラが呟いた。すると。
「ふふふ。そうなのよ」
レイラの母親が、洗面所の入り口で微笑んでいた。
「この夏が終わったらね、お父さん、一度帰ってくるのよ。たーくさんのお土産と、プレゼントを持ってね」
「本当に!? すごい……、嬉しいわ! 何よりのプレゼントだわ!」
レイラは満面の笑みで飛び跳ねた。良かったなあああ、と人一倍感動している鈴太郎や千秋と抱き合って喜ぶレイラを見て、母親は目を細める。箱を贈ることは遠方からでもできるが、鍵を隠すのはその家にいなければできない。つまり父親だけでは無理だ。鍵を隠したのは、母親であったに違いなかった。
「きっとお父様は遠く離れた場所にいても、レイラさんの成長を感じ取っているんだと思います。成長するにつれて容姿も変わります。お洒落もしたくなります。そうなれば鏡を見るだろう……、そう考えたのかもしれませんね」
母親に優しい言葉をかける遥華の顔は穏やかで、思いやりに満ちていた。母親も、ゆっくりと頷く。
「ええ、そうだと思います。皆様、本当に協力してくださってありがとうございました」
「誕生日おめでとう!」
「よかったな」
イルムやヘルシャフトも口々に、レイラや母親にお祝いを述べた。そうした中で、ディーナはふとダイヤの足に巻かれた包帯に気が付いた。そうっと、ダイヤとクロスにすり寄って耳打ちした。
「足は大丈夫そうなの。 しーっかり、二人きりで治療できたみたいなの」
「なっ!!! 何の話よっ」
途端に真っ赤になったダイヤは、照れ隠しのつもりだろうか、新しい棒付飴を取り出して咥えると、それ以上喋ろうとはしなかった。
「お嬢様、飴ばかり食べていると虫歯になりますよ」
というようなことだけをさらっと言ったクロスは顔色を変えていないかに見えたが、その耳は少し赤くなっているようにも思えた。
「だから! お嬢様じゃなくて名探偵だってばー!!」
「よお、ダイヤ! 今度は探偵かよ!? 意外に、ちゃんとやってんじゃん!」
大伴 鈴太郎(ka6016)が笑ってそう言うと、ダイヤはパアッと顔を輝かせたが、すぐにハッとしたように真面目な表情を作って、こほん、と咳払いをした。
「皆の衆、よくぞお集まりくださった。我がモンド探偵事務所の初依頼にご協力いただけて嬉しい」
もっともらしく堅苦しい挨拶をするダイヤは、すっかり探偵気分だった。そんなダイヤに微笑んで、ザレム・アズール(ka0878)が何やらきらきらしたものを取り出した。
「ダイヤ、探偵事務所の開設、おめでとう。これは開設祝いだ」
それは薔薇水晶のネックレスだった。ダイヤは両手で受け取って、ありがとう、と頬を緩めた。そして再びハッとしたように真面目な表情を作り、今度は事務所の奥をチラッと気にしてから、七人に向かって説明を始めた。
「えー、すぐにでも依頼の解決に乗り出していただきたい。今回は捜索依頼だ。ここに、依頼内容の詳細をまとめてある」
ダイヤは全員に一枚ずつ用紙を配った。タイプライターで作っていたのはこの用紙であったらしい。
「残念ながら私は諸事情で現場に行くことができない。しっかり、頼むよ」
「諸事情で、ねえ……」
冷ややかな声が奥から響いたかと思うと、仏頂面のクロスが姿を現した。
「もっともらしく言ってますけど、不注意で足を痛めただけですから」
「足を?」
それならヒールで治療を、と言いかけたディーナ・フェルミ(ka5843)だったが、クロスの手に氷とタオルがあるのを見て言葉を飲み込んだ。彼に任せた方がよさそうだ。
「皆様、ご面倒をおかけいたしますが、よろしくお願い致します」
クロスは、ダイヤの手元にあるネックレスを少々気にしたようにも見えたが、特に顔色を変えることもなく丁寧なお辞儀で七人を送り出した。去りぎわ、イルム=ローレ・エーレ(ka5113)が優雅に振り向いた。
「では、行ってくるよっ。お代はラブで結構……なあんてね?」
そして軽やかなウインクを、ダイヤに投げて行ったのであった。
ダイヤに渡された用紙に記載してある住所を頼りに、七人は霧の立ち込める路地を進んでレイラのアパートへと向かった。
出迎えてくれたのはレイラの母親であった。穏やかにふっくらと微笑むその人に、央崎 遥華(ka5644)が丁寧に挨拶した。
「大人数で押しかけてしまってすみません。少々騒がしくなりますが、必ずお探し物が見つかるようお手伝いさせていただきますね」
「安心するが良い。思いのこもった物はいずれ正しき持ち主の手に収まるものだ」
レイラと母親を見下ろして、重々しげに言ったのは、咲月 春夜(ka6377)だ。今は「Herrschaft=Archives(ヘルシャフト=アーカイブス)」として振舞っている。その騎士風の衣装や仮面に、レイラと母親は気圧されたように頷いて、皆をアパートの中へ招き入れた。
「ほいほーい、頑張りますよー!」
緊張した空気は、この間延びしたふうな、けれど元気な声によって打ち破られた。小宮・千秋(ka6272)だ。見れば、もともとの白い髪が、栗色のウィッグの下に隠れている。さらにその上に乗せられたハンチング帽。
「お足を痛めてしまい来られなくなってしまったダイヤさんに代わりまして、私がダイヤさんになっちゃいまーす」
探偵に変装はつきものですよねー、などと言って胸を張る千秋に、遥華が笑いながら同意した。
「なんか違う気がするけど、気持ちはわかるよ。私も眼鏡かけて雰囲気出しちゃおう、ふふふ」
そんなふたりに、レイラは目を丸くしたが、すぐにくすくすと笑い始めた。
「皆さん、よろしくお願いします」
「任せとけ!」
鈴太郎が気合充分に、ぐっと固めた拳を見せる。が、すぐにしおしおと自信なさげな表情で呟いた。
「とは言ってみたけどよー、手紙読んでもさっぱりわかンねぇ。大体オレこーゆー頭使うの向いてねンだよ……」
それに大きく頷いたのは、ディーナだった。
「全然推理分かんないの、ローラー作戦で全部探しちゃ駄目かなぁ?」
「まあそれもひとつの手じゃないか? 俺たちはダイヤに雇われた調査員なんだし、部屋を調べてダイヤに報告したらいいんじゃないかな。探偵はダイヤなわけだから、推理はダイヤにしてもらえばいい」
ザレムがそう言うと、ふたりはなるほど、と納得して、ぽん、と手を叩いた。そして三人は、アパートのあちらこちらを調べ始めた。物陰を覗くばかりでなく、歩いて床の寸法を測ったりもしている。ヘルシャフトも、三人同様に捜索を始めていた。向いてない、と弱音は吐いたものの、諦めてしまうのも情けないと思ったらしい鈴太郎は、捜索しつつもときどき手を止めて考え込んだりしていた。
その間、他のハンターが何をしていたかと言うと。主に、情報収集にまわっていた。レイラや、レイラの母親から何か手がかりが得られないか、というわけだ。
「謎解きを一緒にプレゼントするなんて、君のお父さんはユニークな方だねっ」
イルムがレイラに微笑みかける。大好きな父親を褒められて、レイラも嬉しそうに頷いた。
「ところでどうだい。この依頼が無事に解決したらお祝いに食事でも」
「こらこら」
すかさずレイラを口説き始めるイルムに、遥華が苦笑して水を差した。
「解決したら、も何も、まずはその解決を目指さないと。レイラさん、良かったら、一日の行動パターンとか教えてもらえる? 何かヒントになるかも」
「は、はい」
レイラが遥華の方を向いてしまったため、イルムは次にレイラの母親へと話しかけた。申し遅れました、と優雅な所作でお辞儀をして挨拶を述べるイルムに、母親も打ち解けた笑顔を向けてくれた。
「ふっふっふー。実を言うと、ボクはもう鍵がどこにあるのか分かっているのですよ!」
「まあ、そうなんですか? 一体、どこに?」
「それはずばり、花台さっ。花瓶に生けた花は毎日レイラ君を見つめているし、夜は花弁を閉じて眠りにつく。そして朝日を浴びて華やかに輝くものだからねっ」
イルムのその言葉が聞こえたらしいヘルシャフトが花台を調べたが、鍵らしきものはどこにもなかった。彼はゆるく首を横に振ると、黙って本棚の方へ移動して行った。
「おや。違ったかな?」
あてが外れたイルムは、しかし、さして悔しくもなさそうに笑った。それでは……、と次の案を考え始める。その隣で千秋が、くだんの箱を手に何やら調べている。
「黒猫さんとマルチーズさんに御協力頂きますよー」
千秋は箱を自分のペットたちの目先・鼻先に近付けた。匂いなどでペットにも手がかりを探してもらおう、という算段らしい。ハンターたちは、実に多種多様な、平たく言えばてんでバラバラな捜査を展開していた。
「レイラ、引き出しを開けてもいいかな?」
ザレムがレイラに声をかけ、レイラは頷きながら遥華と共にザレムの方へ近付いた。行動パターンについての話は、ザレムも聞いておきたかったところらしく、三人で話しながら捜索をし始める。
そんな彼らを尻目に、ヘルシャフトは本棚の本を押したり引いたり……、開いたり。
「良いか。ワインを飲んでいる時間を無駄だと思うな。それは心の休息時間であって必要な時間だ」
格言めいた言葉を聞いて、レイラの母親が神妙な顔で頷いている。なるほど、と愉快そうに同意して見せるのは、いまだ母親の隣にいるイルムだ。
「ボクも休息を取りながらもう一度考えてみたよ。食器棚はどうかな? ピカピカに磨かれたお皿はご飯の度に……」
ちょうどキッチンを捜索していたディーナが食器棚を探すが、そこにも鍵らしきものはなかった。
「見つからない?……アッハッハ、いやあ。実に難問だねっ」
ヘルシャフトとイルムの言動で、現場は随分と賑やかになってはいたものの、それを楽しいと受け取れずに追いつめられている者もいた。鈴太郎である。
「やっぱ闇雲に探しても見つかンねぇよ……。ああメンドクセー! もう力任せに開けちまやいンじゃねーか!? ってダメだダメだ! ダイヤのツラに泥塗れっかよ……華麗に推理で解決してこその探偵だっての!」
煮詰まりすぎて混乱している鈴太郎を見て、ディーナが自分の考えを話そうと近付いた。大声で宣言するには自信がないので、鈴太郎にこっそり耳打ちしようと思ったのである。が、しかし、鈴太郎は。
「いい加減知恵熱出そうだぜ……、洗面所借りて一回頭冷やすか……」
ふらふらと洗面所へ向かってしまった。ディーナは慌ててそれを追う。
「鈴太郎ちゃん! 待ってほしいの!」
ザレムと遥華は、レイラの話を聞いて、しっかり情報収集をしたらしい。ザレムはこの情報をダイヤに伝えて推理してもらうべきだと考えていた。しかし、ダイヤに推理させるまでもなく場所の予想が付いてしまったのもまた事実で、遥華などはしきりに、鈴太郎とディーナが姿を消した洗面台の方を気にしている。
「ほむほむー、レイラさんを毎日見ているところ、レイラさんが毎日見ているところ、夜はひっそり闇に溶け、朝は光を倍にする、ですかー。なるほどなるほどー」
千秋も歩き回りながら考えて、遥華と同じ方向に顔を向けた。ペットを使っての捜索はいまひとつ上手くいかなかったようだが、自分で考えを巡らせた結果、思い当たることがあったようだ。
と。
「ななな謎はすべて解けた! 証明終了! モンド探偵事務所の名にかけて真実はいつも一つ!! み、皆ぁ!!」
鈴太郎とディーナが、洗面所から飛び出してきた。まるで待ち構えていたように、皆の視線が自分たちの方へ向けられているのに気が付いて少々たじろぐ。ひとり優雅にその様子を見ていたイルムが微笑んだ。
「やあ、これは解決に向かいそうだねっ」
てんでバラバラな動きをしていたかに見えたハンターたちの捜査は、今、上手い具合に重なって、一つの答えを導き出そうとしていた。
「お待たせしたわ! 美少女名探偵の登場よ!」
素晴らしいタイミングでのご登場であった。
ハンターたちは調査結果及び、それぞれの見解にして偶然の一致をみた結論をダイヤに報告した。ダイヤは驚いたふうもなく鷹揚に頷く。どうやら安楽椅子探偵的に、事務所でも推理を展開していたようである。
まあ、ダイヤの考えって言うよりは、と思ったハンターたちが、誰からともなく、付き添って来たクロスへと視線を送ったが、クロスはしれっと涼しい顔をしていた。
「答えは出たな。だが、これは私が推理を披露するべきではないと思っている。きっと皆も同じ考えだろう」
ハンターたちは皆頷いた。これは、レイラに見つけてもらうべきだろう。
「大切なモノなら己の手で掴め。俺達という道標を元に歩むが良い」
ヘルシャフトの言葉が、本日一番の重みをもって響いた。
「その通りだね。と、いうわけで、レイラさん。私にはもう答えが出ているのだ。ヒントを差し上げるから、是非、自分で答えを見つけて欲しいのだけれど」
「は、はい」
ダイヤの宣言を聞いて、レイラは緊張した様子で返事をし、毎日生活しているアパートをぐるりと見回した。
「ザレムくんと遥華ちゃんが、一日の行動パターンについて質問をしたんだと思うけれど、そこから何か思い当たることはない?」
「思い当たること……」
ダイヤが尋ねると、レイラは考え込むようにして俯いた。すかさず、ザレムが助け舟を出す。
「ダイヤ、さっきプレゼントしたネックレス、つけてみてくれよ」
「ネックレス……、うん、つけたいところだけど、一人じゃなあ」
「そうか。じゃあ、これを使ったらどうかな」
棒読みのセリフを言うダイヤへの笑いをかみ殺しながら、ザレムが小型の置き鏡を差し出した。レイラは困惑気味にそれを眺める。
「私、毎朝ネックレスなんてつけませんけど……、あっ、でも」
「そう。鏡は毎朝、見るよね」
答えを見つけたらしいレイラに、遥華が微笑みかけた。
「さ、探そうぜ、レイラ!」
鈴太郎に手を引かれて、レイラは洗面台へと向かう。洗面台に取り付けられた鏡の、真鍮のフレームの隙間をくまなく覗き、探すと。
「あったわ……」
小さな鍵が、あらわれた。
「やったな!」
鈴太郎がガッツポーズをした後ろから、千秋が箱を差し出した。
「さっそく開けてみてくださいー! 果たして中には何が入っているんでしょうかー」
全員が、どきどきわくわくしながら、鍵を開けるレイラの手元を見守った。カチリ、と小さな音がして、箱が開くと、そこには。
薄紅色の紙片が、一枚。
「紙ぃ!?」
しかし、その紙片を良く見ると。
「夏の終わり、って書いてあるわ」
レイラが呟いた。すると。
「ふふふ。そうなのよ」
レイラの母親が、洗面所の入り口で微笑んでいた。
「この夏が終わったらね、お父さん、一度帰ってくるのよ。たーくさんのお土産と、プレゼントを持ってね」
「本当に!? すごい……、嬉しいわ! 何よりのプレゼントだわ!」
レイラは満面の笑みで飛び跳ねた。良かったなあああ、と人一倍感動している鈴太郎や千秋と抱き合って喜ぶレイラを見て、母親は目を細める。箱を贈ることは遠方からでもできるが、鍵を隠すのはその家にいなければできない。つまり父親だけでは無理だ。鍵を隠したのは、母親であったに違いなかった。
「きっとお父様は遠く離れた場所にいても、レイラさんの成長を感じ取っているんだと思います。成長するにつれて容姿も変わります。お洒落もしたくなります。そうなれば鏡を見るだろう……、そう考えたのかもしれませんね」
母親に優しい言葉をかける遥華の顔は穏やかで、思いやりに満ちていた。母親も、ゆっくりと頷く。
「ええ、そうだと思います。皆様、本当に協力してくださってありがとうございました」
「誕生日おめでとう!」
「よかったな」
イルムやヘルシャフトも口々に、レイラや母親にお祝いを述べた。そうした中で、ディーナはふとダイヤの足に巻かれた包帯に気が付いた。そうっと、ダイヤとクロスにすり寄って耳打ちした。
「足は大丈夫そうなの。 しーっかり、二人きりで治療できたみたいなの」
「なっ!!! 何の話よっ」
途端に真っ赤になったダイヤは、照れ隠しのつもりだろうか、新しい棒付飴を取り出して咥えると、それ以上喋ろうとはしなかった。
「お嬢様、飴ばかり食べていると虫歯になりますよ」
というようなことだけをさらっと言ったクロスは顔色を変えていないかに見えたが、その耳は少し赤くなっているようにも思えた。
「だから! お嬢様じゃなくて名探偵だってばー!!」
依頼結果
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MVP一覧
- 友よいつまでも
大伴 鈴太郎(ka6016)
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/08/11 10:55:03 |
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相談卓 大伴 鈴太郎(ka6016) 人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2016/08/11 14:53:30 |