リンダール狂想曲

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/08/08 19:00
完成日
2016/08/14 20:21

みんなの思い出

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オープニング

 小さい頃から英雄になりたかった。
 祭りの度に、吟遊詩人たちが奏でる冒険譚に心躍らせた。
 英雄になれると信じていた。年齢を重ねてもその想いは変わらなかった。

 だが、夢は挫折した。
 グラズヘイム王立学校は彼女に門戸を閉ざした。
 王都にただ一人取り残され、村に帰る手段もなく──
 かつて、英雄を志した少女、ジーン・リドリーは、今、王都の何でも屋の一人として── 刺すような真夏の陽光の下、村人の弁当を盗んだこそ泥を捕らえるべく、ジャングルの様な森の中を駆けていた。


「ジーン! 右から回り込め! 俺が追い込む。挟み撃ちだ!」
 森の奥から上司の声がする。
 姿は見えない。
 そこまで遠く離れてはいないはずなのに、まるで海の底から呼びかけられている様な感じがする。
 全てはこの森の濃密な──そう感じさせる──大気のせいだ。
 全身に纏わりつくような湿気は、まるでぬるま湯につかっているかのよう。森渡る風はそよともせず、かさとも枝葉の揺れぬ沈黙したままの森はただひたすらによそよそしく…… 表情もなく遠目に立ち並んだ人の群れを思わせた。
「行ったぞ、坊主! 今度こそ捕らえろ!」
 何でも屋唯一の上司にして同僚、所長のダイク・ダンヴィルの声が響く。
 ジーンは額の汗を拭った。濡れタオルの様になった袖を不快に見下ろし、同じ袖で顎の汗も拭った。
「だから、ボクは坊主じゃないと何度……」
 目の前の茂みが音を立て、中から彼女らの目標が──村人の弁当を盗んだこそ泥が飛び出して来た。
 ユグディラ── 王国東部リンダールの森や南の島に住むと言われる、小動物の様な幻獣。妖猫とも言われる。王国の至る所で目撃例があり、地方によっては幸運の象徴であったり、畑を食い荒らす害獣であったりする。
 予想外のタイミングでの顔合わせ── 一瞬、硬直した一人と一匹は、刹那、動作を瞬発する。
 両手で掻き抱くように跳びかかるジーンを跳び躱し、その後頭部を蹴るようにして背後の茂みへ飛び込むユグディラ。蹴られたジーンはバランスを崩して、べしゃりと盛大に地面へ突っ込んだ。
 そのまま森の奥へと逃げ行くユグディラ…… ムスッとした表情のまま身を起こすジーンに手も貸さず。その傍らに駆け寄って来たダイクがげんなりした表情で彼女を見下ろした。
「……何やってんだよ、お前はよぉ」
「……………………すみません」
 不貞腐れたように謝りながら、ジーンは泥と汗でべっとりと身体に張り付いたシャツを摘み上げ、少しでも隙間に空気を入れようとする。
「……俺はな。こんな依頼、さっさと終わらせてこのくそ忌々しい森からさっさと帰りたいんだよ。分かるか? その千載一遇の機会をお前は…… ったく、使えねぇ」
「ええ、ええ。全く同意します。たかが弁当泥棒を追って、こんなリンダールの森くんだりまで…… まったくもって割に合いません。こんな依頼を受けたのはどこの誰でしょう? なんでこんな依頼を受けたんでしょう?」
「……………………」
「また女がらみですか?」
「……いいから! あのこそ泥野郎を追うぞ!」
 呆れた様に呟くジーンに、ごまかす様に走り始めるダイク。
 逃げ切ったと安心していたユグディラが、気づいて更に森の奥へ逃げ…… 
 頭上の陽光が南天を過ぎた頃。ダイクは握り拳を顔の横に上げ、ジーンに移動の停止を命じた。
「どうしたんです?」
「嫌な予感がする」
 さっきから、まるで誘導されてる様な…… そんな気分がダイクにはあった。……もしかして、と所長が呟く。あのユグディラ…… しつこい追手を撒く為に、俺たちをここに誘い込んだ……とか?
「そのとーりだよ、諸君!」
「わあ!」
 いきなり地面から声がして、ジーンは驚き、飛び上がった。
 見れば、茂みの陰に壮年の男が2人、うつ伏せに寝転んでいた。だだだだ、誰ですか! と、腰を抜かしたジーンが指さして尋ねると、2人はうつ伏せのまま元気よく答えてくれた。
「私はサー・ロック・ド・サクソン!」
「私はサー・ポロット・ド・フランク!」
「我らはアークエルスで遺跡考古学の教授をしておる。遺跡調査に来てたのだが、弟子たちと逸れ、迷ってしまい……」
「……ちょいとお腹がすいたので、先程、通り掛かりのユグディラが咥えていたお魚を『拝借』したところ、怒らせてここに追い込まれてしまったのだ!」
 地面に伏せたままピクリとも動かずに、大きな声でロックとポロット。ジーンはダイクと顔を見合わせた。えーっと…… 状況がまったく呑み込めません。
「気にするでない! わしらもちっとも分かっておらん!」
「だが、天才たる我らは状況から察することは出来る。見よ!」
 そう言うと、サクソンだかフランクだか名乗った教授がすぐ側の地面の一角を指さした。
 そこには何か植物の蔦の様なものが這っていた。シー、と口の前に指を立てた教授がその指で蔦をなぞる様に森の奥の方を指さす。
 その先に、1本の植物が生えていた──まるで木々の陰に隠れる様に。花は既に落ちていた。代わりに、丸い大きな人頭くらいの大きな実が生っていた。植物──ではあるのだが、色々とサイズがおかしい。
「あれは……」
 ジーンの問いに答える前に、教授の一人がそちらに石を放った。瞬間、轟音と共に実が弾け、周囲へ対人地雷の如く種子の散弾を撒き散らす。
「なああぁぁっ!?」
 慌ててジーンは地に伏せた。チュンッ! と甲高い音がして、すぐ側の地面に破片が──もとい、放たれた種子がめり込んだ。
「な、な、な…… なんですか! なんなんですか、アレ!」
「うむ! 花が落ちて実をつけた状態のアレに触ると、ああして弾けて種子を撒き散らすのだ。周囲に伸ばされた蔦に触れても同様だぞ? おそらくああして獲物の養分を啜るのだろう。わしは地雷草と呼んでおる!」
「地雷草などと風情のない…… わしが名付けた『爆裂殺人鳳仙花』と呼ぶがよい!」
 教授たちの話によれば。リンダールの森の中でもこの辺りは、遺跡の影響か周囲のマテリアルが異常なのだろう、と言う。その為か、あのような魔法公害的雑魔チックな植物がうようよ生えていたりする……らしい。
「うようよ?」
「うむ。この辺りにも群生しておる。下手に動くとドカンじゃぞ?」
「しかも、鳳仙花の実が爆発すると、獲物を横取りすべく、他の異常植物がやって来るのだ」
「……え?」
 歩くの、ソレ? いや、そうでなく。なら、なんで爆発させた……?
 教授たちは顔を見合わせると、フッ……と渋い笑みを浮かべた。
「決まっておろう…… 説の証明には実証が一番!」
「ていうか、もう限界なんじゃー! もう一刻も早く私らをこんな所から助け出してくれー!」

リプレイ本文

 遺跡の調査と聞いていたのに、なぜこんな事になってしまったのか── 枝葉の隙間から蒼空を見上げながら。ミグ・ロマイヤー(ka0665)は光の消えた瞳でそんなことを考えていた。
「説明の為だけにわざわざ敵を集めたの? 貴方たちも逃げにくくなるのに? 随分頭のいいお馬鹿さんたちなのねぇ」
 弁当泥棒のユグディラを追って──こちらもまたなんともご苦労な話である──やって来た何でも屋組、マリィア・バルデス(ka5848)が、教授たちへ呆れたようにそう告げる。
 ミグは内心、首肯した。──学はあっても常識のないバカは、フィールドワークなんぞさせずに研究室に隔離しておくべきだ。
「何を言っておる。遺跡に迷宮あらば隅から隅まで探索し、気になるボタンや仕掛けがあれば全て押す! それが遺跡調査の常道ではないか!」
 真顔で答える教授たちに、おいおい、マジか、とミグ。その答えに一瞬、きょとんとしたマリィアは、しかし、「……そういうお馬鹿さんたちは嫌いじゃないけど」などと微笑を浮かべたり。
「あー、その、なんと言うべきか、中々に面妖な状況に陥ってしまったようだな…… まあ、なんにせよ、今はこの現状を立て直さないことには始まらん」
「私は同意する。久延毘大二郎の意見に。本来は両教授から遺跡考古学を学ぶつもりであったが、それは別の機会としよう」
 遺跡調査に同行すべく参加していた久延毘 大二郎(ka1771)とレイン──雨を告げる鳥(ka6258)が、当初の目的に拘泥せずに一時撤収を決意する。
「はい。なんとしても脱出しないとですが、問題はあの群生する地雷草です」
 なんとも厄介な所に誘い込まれたものです、と、サクラ・エルフリード(ka2598)。あの化け物草にどうにか対処せねば、この場から離れることすら難儀である。
「その地雷草なんじゃがのぅ」
 御酒部 千鳥(ka6405)が何か思いついたようにひらひら片手を上げて。だが、迅雷の如き速さで振り返ったポロット教授がそれを制する。
「待て。先程から地雷草の名称が定着しつつある。私が命名した『爆裂殺人鳳仙花』に呼称を変更するよう要求する」
「貴様!」
 ……本筋を逸れ、言い争いを始める教授2人に、ピキッと笑顔を強張らせるシレークス(ka0752)。
「まぁまぁ、2人とも大人げない。ここは一つ、BMF──ブロードソードマインフラワー(ミグ命名)と呼ぶのはどうか?」
「「引っ込んでろ!」」
「なにぃ!」
 ミグの参戦で三つ巴。「あはは……」と苦笑する時音 ざくろ(ka1250)。シレークスがついに切れた。いや、むしろよく耐えた。
「風情がどうのこうの言ってる場合じゃねーです! さっさとこんな場所からおさらばしねーと!」
「しかし……」
「あ"ぁ"ん!?」
 ピキキッと青筋増やしたシレークスの笑顔に沈黙する教授たち。それを「まあまあ」とざくろが取り成し、仲裁案を提示した。
「間を取って、JHってことでどうでしょう?」
「JH?」
「地雷鳳仙花」
 教授二人は素直にそれを受け入れた。それ以上ごねるとシレークスが本気で怖いと彼らの生存本能が理解したのだ。
 その解決を見て、サクラが千鳥に話の続きをするよう促した。話に水を差された千鳥は、だが、気分を害してはいなかった。むしろ、面白そうに『子供の喧嘩』を眺めている内に、自分が意見を言おうとしていたことを忘れてしまっていた節がある。
「おお、そうじゃった。あのJH? じゃが…… よく見ると、アレらはお互いの爆発影響範囲内には生えていないようじゃ。一々連鎖爆発してたら地雷群が出来上がるほど増えるわけないから、当然じゃな」
 であれば、実や茎に触れないように通り抜けることも可能なはず。実際、ユグディラや何でも屋たちはそうやってここに来たのだ。爆発させることなく突破できれば、無駄な『朝顔』を呼び寄せる危険はなくなる。
「そのことなんだが……」
 千鳥と同様、何でも屋たちが来た道を退路に、と探していた大二郎が、難解な顔して振り返る。
 いつの間にか道がなくなっていた。それどころか、彼我の間隔が狭まっているように見える。──それこそ、連鎖爆発でもしかねない位に。
「まさか…… JHも『歩く』というのですか……?」
「あ~もう何でやがりますか、この状況は!? まったくもって面倒くせぇ!」
 戦慄するサクラとシレークスの横で、なるほど、と大二郎。種子を残せさえすれば構わぬと言うわけか?
「或いは、根に本体が……? なぜこのような生態が発生したのか、それはそれで興味深いのだがね」
「私は記録する。世界の理、マテリアルの均衡が崩れたことによる影響についてを。この状況を脱することこそが先決ではあるが、記録することにより新たな被害を低減できるが故に」
 こんな時でも学術の徒らしく探求に余念がない大二郎。レインもまた帽子のてるてる坊主を揺らしながら魔導カメラを荷から取り出す。
「こうなったら、レインの土壁と我らの盾の壁でBMF……もとい、JHを囲み、連鎖爆発せぬよう1株ごとに除去していくほかないか」
 自身も盾を持ち出しながら、手早く指示を出すミグ。サクラも膝をついた姿勢で盾を構え、教授や何でも屋たちに背後に伏せるよう告げる。
「さあ、皆さんは私の盾の陰に。姿勢は低く。決して頭を上げないでください」
「大丈夫。サクラのことは、ざくろが護るよ!」
 その傍らに並んで直掩につくざくろ。レインがJHの生態を記録するべくパシャリとカメラのシャッターを押し…… ジー……と出て来た写真を見やって、眉根を寄せて、どうしたものかと考えた後…… サクラを守ると言ったざくろにそれを手渡すことにする。
「私は謝罪する。記録用の写真としては不適切。処分しておいて欲しいと」
「は?」
 手渡された写真に視線を落とし、ざくろはボッと顔を赤らめた。
 写真にはJHと…… 盾を構えてしゃがみ込んだサクラの後ろ姿が写っていた。ビキニアーマーの彼女の肌を覆い隠すものは殆どなく。背中から尻に掛けてのあられもないラインが艶めかしく露わになっていた。
 わあ! と騒ぐざくろに怪訝な表情を向けるサクラ。その尻を、何かがさわさわ撫でた。
 眉根を寄せて背後を振り返ったサクラが見たものは── 声もなく腰を抜かして尻餅ついた教授たちと、尻に伸ばされた植物の蔦と。そして、眼前でぐぱぁ、と花弁を広げる巨大な『朝顔』の花──
 瞬間、絡みついて来た蔦にその身を拘束され、頭からがばちょと呑まれるサクラ。気づいたマリィアが間髪入れずに機関銃の銃床で殴りつけて敵をサクラから引き剥がし。我に返ったざくろがまなじり決して、瞬間的に抜き放った魔導符剣で朝顔の『首』を跳ね飛ばす。
「わ、私が真っ先に狙われたのはちびっこだからですか!? ちっちゃくて食べやすそうだったからですかー!?」
 混乱するサクラに落ち着きやがれ、と叫びながら、全周より迫る『他の朝顔』たちを近づけさせぬよう鉄鎖をぶん回すシレークス。
 そう、サクラを襲った個体だけでなく、幾体もの朝顔がいつの間にか這い寄っていた。見つからぬよう畳んでいた花弁を大きくねちょりと広げ、次々と戦闘態勢に入る朝顔たち── 乱戦か、と舌を打ちつつ、左手で引き抜いた神罰銃を立て続けに撃ち放つマリィアの横で、教授たちを背後に庇った千鳥が迫る朝顔の蔦を軒並み払い除ける。
「ほっほっほ、大ぴんちじゃな。さーて、どうしたもんかのう」
 絡んできた蔦を逆に引っ掴み。引き寄せて拳を叩き込みつつ、呑気に千鳥。
「ええい、煮ても焼いても食えん草のくせに……!」
「サクラから…… 皆から、離れろォ!」
 群れ成し迫る朝顔どもに忌々し気に悪態を吐きながら、ミグとざくろが『攻勢防壁』を展開した。触れ来る敵を雷の壁で次から次へと弾き飛ばし。どうにか味方が立て直せるだけの空間と暫しの時を稼ぐ……
「私は提案する。この状況を打破する案を」
 ずり下がった三角帽子を直しながら、レインが常よりは大きな声で皆にそう呼びかけた。
 ──教授たちを中心にして方陣を組む。私の『ストーンウォール』と皆の盾で、飛んでくる破片より守る強固な壁を四方に築く。
「そうか。敵が密集して来たのを逆手に取るんだね。JHの誘爆を利用して……!」
 ざくろの言葉にレインはコクリと頷いた。1度はJHの連鎖爆発に晒されることになるが、それさえ凌げば一度に多数の敵を無力化できる。
「いかれてる!」
 『風刃』──生じせしめた風の剣を前方に投射して朝顔の首を斬り飛ばしながら、大二郎は笑い、叫んだ。だが、確かにその案ならば、極力無駄な戦闘をせずに退路は確保できる。
 ハンターたちの反応は早かった。きょとんとする教授2人を中央に押し込みつつ、密集して中央に小さく纏まる。
 レインの合図と共に、大二郎が前面にマテリアルの鏡面を展開させた。バチバチと帯電を始める大二郎── 側面の壁の一つとして膝をついたマリィアが、草の陰で小さく縮こまって震える小動物にその時、気づいた。
「ユグディラ……?」
 考えている暇はなかった。マリィアは「来い!」と妖猫に叫び。一瞬、躊躇しながらも(弁当箱と一緒に)飛び込んできたそれを胸に抱く。
 直後、大二郎が前方に放った『雷閃』が森の薄闇を貫いた。爆導索の如く地雷原を貫いた閃光が、放電に反応した周囲のJHを一斉に誘爆。炸裂させる。
 連鎖爆発はハンターたちの全周に及び、情け容赦のない弾片の暴風がハンターたちと──朝顔らとを諸共に薙ぎ払う。
「私は願う。皆に移動をと」
 レインの言葉にマリィアが左手で前進を示す手信号を振り…… 軍人時代の癖が抜けていないことに苦笑しながら、改めて言葉で前進の指示を出す。
 放たれるざくろとミグの6条光線。森の薄闇へ火線を曳きつつマリィアが撃ち捲る機関銃── 飛び行く曳光弾が木々の間を断続的に飛び抜ける度、朝顔の花弁が砕け散り。光条が退路の草たちを撫で斬りにする。
「ひとまずこっちに向かいやがりますか。……なんだか妙な胸騒ぎがしやがりますけど」
 その支援攻撃の下、シレークスと千鳥が先行する形で前に出た。
 穴だらけになった朝顔を蹴り倒しつつ、『ソウルトーチ』を焚いて進むシレークス。その光を無視しえず、視界の端、木陰から姿を現した敵へ左手のみで鉄鎖を振るい。遅れて弧を描いた棘付き鉄球でもって花を砕く。
「おらおらぁっ! わたくしを喰えるもんなら喰ってみやがれです!」
 直後、朝顔の喇叭より噴出せし轟音に鼓膜を強打され、仰け反りながら…… 飛びそうになる意識を強引に引き戻しつつ、味方の退路を切り開いていく。
「道幅は広い方が良いだろう?」
 大二郎の雷閃が地を這うように、再び地雷原を啓開した。撃ち漏れたJHには揺れる様な動きで千鳥が駆け寄り、実の下の茎を握り折りつつ脚甲で蹴り刈って。折れた実を敵へと投げつけ、別の朝顔を吹き飛ばす。
 ハンターたちの猛攻に、雪崩を打って退く朝顔たち── 大二郎やマリィアらによって誘爆を強いられたJHはすでに無く。森の中に退路が開く。
「今でやがります!」
 受けた傷を片っ端から癒しながら走るシレークスを先頭に、一気に突破を図るハンターたち。
 結果から言えば、シレークスの嫌な予感は的中した。
 木立を抜け、森の中の開けた空間に出た所で── 全長4~5にも達する巨大な向日葵が。侵入者たちへと振り向き、睥睨する。
「……何やら不吉なモンがおるのう。見た目だけならヒマワリっぽいが」
「最後のボス、といったところでしょうか。出来るだけこちらで惹きつけるので、退避を」
 千鳥とサクラがそれまで背に庇ってきた教授たちに、自分たちを置いて先にこの場から離れるよう告げた。
「待て。それでは君たちは……」
「行くぞ、ポロット。今は一刻も早くこの場を離れることが私たちにできる最大の援護だ」
 何でも屋の護衛の下、走り去る教授たち。向日葵の『顔面』が収縮し…… その動作にぶわっと汗を噴き出したミグが警告の叫びを発する。
「ファランクス方陣! 盾を頭上に掲げて密集隊形を取れ!」
「させるかっ! 拡がれ、希望の盾よ!」
 掲げられる盾の壁。ざくろは己の盾を『超重錬成』で巨大化させて、傘の如く頭上に掲げた。
 収縮していたヒマワリが一気に広がり──直後、巨大な種子がバンッ! と一斉に放たれた。まるで豪雨の如き一斉射はあっけなく盾の壁を打ち破り、ハンターたちの周囲の地面を一瞬にして耕し、掘り返す。
「チッ。まるで爆撃だ…… けど、要救助者が戦場を抜けるまでは」
 逃げる教授たちをチラと見やりながら、腰溜めに構えた機関銃を巨大向日葵へ撃ち捲るマリィア。すかさずさくらが範囲回復を用いて周囲の皆の傷を癒し。己の体内に気を巡らせた千鳥が散開し、それを向日葵へ放ちながら「こっちじゃ、こっちじゃ!」と向日葵の注意を呷る。他方には再び『ソウルトーチ』を焚いたシレークス。右へ、左へ、向日葵がその頭を巡らせ…… やがて、教授たちの離脱を確認したハンターたちは向日葵たちから一斉に距離を取る。
「これ以上、戦う意味はないでしょうかね…… 私たちも退避しましょう」
 後退を始めるサクラ。殿に立つ大二郎とレイン。勾玉の如き火の玉を展開する大二郎の横で、炎の矢を両手から立ち昇らせつつ、レインがマテリアルを導く言葉を紡ぐ。
「貪欲なる炎よ。父なる息吹よ。流転の理から外れたものを、正しき流れへと返せ」
 詠唱の終わりと共に立て続けに放たれた火弾と火矢が、巨大な向日葵の『脚部』に集中して浴びせられる。その根の1本を焼かれて、つんのめるように揺れる向日葵。

 その間に、ハンターたちは全員無事に離脱した。
 追って来るものはいなかった。


 近場の村へと帰って、逸れた教授の助手たちと合流し── レインは今回の森の植物たちの資料を提出した。今後の遺跡探索の資料に、と。そして、二度と同じ目に遭わぬように、と。
「さて、ユグディラはどうしてくれましょうかねぇ?」
 連れてこられた妖猫を見下ろし、シレークス。ぴるぴる震える妖猫に苦笑しながら、『保護者』マリィアが片手を上げて彼女を制する。
「ユグディラは、ちょっといたずら好きの幻獣だもの。しょうがないわよ」
 そう言うと、マリィアは盗まれた弁当箱を取り戻すと、代わりにクッキーを与えて森へと返した。こちらを何度も振り返りながら戻っていくユグディラを手を振って見送るマリィア。それをうんうん見守りながら「これで良いのじゃ」と千鳥が締める。
 受け取った弁当は、ざくろからジーンに手渡された。
「ご近所の小さな平和を守るのも大事だもんね…… 幸せってそういう先にあると思うし」
 目を瞬かせるジーンに、ざくろは小さく微笑んだ。
「英雄になるってことも、こういう小さな平和を守る積み重ねだってざくろは思うよ」

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重体一覧

参加者一覧

  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 飽くなき探求者
    久延毘 大二郎(ka1771
    人間(蒼)|22才|男性|魔術師
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 雨呼の蒼花
    雨を告げる鳥(ka6258
    エルフ|14才|女性|魔術師
  • 喧嘩と酒とモフモフと
    御酒部 千鳥(ka6405
    人間(紅)|24才|女性|格闘士

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
久延毘 大二郎(ka1771
人間(リアルブルー)|22才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/08/08 18:11:54
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/08/06 14:57:31