【MN】月面強行偵察

マスター:篠崎砂美

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • duplication
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2016/08/14 12:00
完成日
2016/08/25 03:42

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「先日来観測されていた異常波動の発生源はヴォイドとの見方が強まった。よって、諸君らのミッションだが、月面を探査し、当該ヴォイドの発見と排除となる」
 ブリーフィングルームに集められたCAMパイロットたちに、作戦参謀が大型モニターに月面のマップを表示しながらミッションの説明を始めた。
 おそらく、敵はヴォイドの偵察端末としての個体だと推測される。
 過去に球体状(スフィア)の群体が確認されており、その探査シグナルに酷似していたからだ。
 月における人類の戦力配置を偵察することが目的であろう。これを許してはならない。
 敵ヴォイドは、本体がCAM大の球体であり、センサー子機である小型スフィアを周囲に展開している。小型スフィアによる体当たり攻撃や、本体からのブラスター攻撃が主であり、一撃でCAMを破壊するほどの威力はないが、連続攻撃に晒されればCAMであっても破壊はまぬがれない。
 今回、投入されるCAMは、デュナミス強行偵察仕様となる。
 背部ブースターパックの装備により、プレパラントタンクが増槽され、航続距離が増加している。ただし、その結果として、被弾面積も増加しているので注意されたい。基本武装は、ブースターパック両サイドに対ヴォイド用マイクロミサイルランチャー2基、アサルトライフル1丁、高周波振動ナイフ1本となっている。ただし、パイロットの特性によるカスタマイズは可能となっているので、メカニックと相談の上、適時対応されたい。
「各自ベースを発進後、分散して索敵開始。発見次第、各機の合流をもってこれを殲滅する。以上だ」

リプレイ本文

●索敵
「エレメント1から2へ。なんでそんなに遅れているんですか?」
 クオン・サガラ(ka0018)が、自機の後方に位置する央崎 遥華(ka5644)の乗るデュナミスに確認する。
 追加装備である長距離用ブースターのせいで、前傾姿勢による低空飛行は、まるで月面というプールを潜水泳法で泳いでいるかのようだ。
「えー、だって、ブースターって、邪魔くさいんですよ。キルケー壊したくないですし」
 不満そうに、央崎が返信した。
 サガラ機と比べて、通常の背部スラスターで低空飛行をしている央崎機は、スケートでもしているような体勢である。ときどき軽い段差は足でジャンプして高度をとるため、まるで月ウサギのようだ。
「月はウサギさんが似合うと思うのに、最近、可愛くない敵しかきませんし……」
 彼女がキルケーとパーソナルコードで呼ぶデュナミスは、30mmガトリングガンをメインウェポンとし、ブースターをつけない代わりに背部ミサイルランチャーをサブウエポンとし、両肩には追加シールドを装着している。機体各部にはカメラセンサーが増設されており、360度の動体監視を可能としていた。飛行による高速長距離移動はできないが、歩行状態の機動性は損なわれてはいない。
 月の砂(レゴリス)カラーの迷彩塗装を施された機体は、月の風景に溶け込んで目視では補足されにくかった。
 先行するサガラの機体も、同様の迷彩塗装がなされていた。だが、こちらの塗装は、セラミックパウダーを含む耐熱塗装だ。そのため、機体重量がかなり増大しているが、月面のために行動に支障が出るほどではない。理論的には1000度ほどの熱に耐えられるが、サガラとしては対ブラスター用にさらに耐熱繊維によるマントを特注した。だが、そんな物つけて飛行できるかと、チーフメカニックの親父さんに一喝されて泣く泣く諦めている。完全な地上戦でもない限り、姿勢制御用ブースター口をマントで塞いでしまっては何にもならないからだ。
 メインウエポンとしては120mmスナイパーライフルを装備し、ブースターサイドに中距離AVM(対ヴォイドミサイル)を二基ずつ計四基装備している。さらに、スナイプスタンドにもなるシールドを携帯し、近接武器として高周波ブレードをシールド裏面に装着していた。偵察用にセンサー類も増設されており、頭部形状が通常型とは異なってやや平たい大型の物となっている。脚部には土蜘蛛と渾名されているボードを足裏に装備し、接地荷重を分散させて柔らかい月表面での足回りを補助している。また、脚部サーボモーターも強化してあり、ジャンプによる移動力の強化も図られていた。
 こちらも、低空を高速で移動しながら索敵を行っている。
 サガラとしては、本来は近距離攻撃仕様の機体と二機編隊(エレメント)を組むつもりであったのだが、もっとも近くにいたのが央崎機だったというわけだ。どう見ても遠距離狙撃機と中遠距離攻撃機の組み合わせで、サガラの思惑とは端から違ってしまっている。だいたいにして、狙撃機が先行している段階で無茶苦茶だ。
「ここら辺に、おいておこうかしら」
 サガラなどお構いなしに、マイペースな央崎が携帯していた30mmアサルトライフルを地面に突き立てた。戦闘になった場合を想定して、予備武装を補給できるベースを、想定される敵進行ルートに作っておこうという作戦だ。全力攻撃と共に敵を引き寄せて後退し、この地点でさらなる全力攻撃を加えようというのである。もちろん、予想など当てにもならないのだが……。いずれにしても、ごてごてと銃火器を両手に持っていたのでは取り回しが悪い。かといって、瞬間火力や継戦能力を考えると予備武装もほしい。そこから央崎が導き出した答えだ。

 二人とは別方向からは、水城もなか(ka3532)機が索敵を行っていた。
「火星決戦に備えての訓練にはちょうどいいかもしれませんね。まあ、それまで生き残れていればの話ですが」
 索敵に特化させた水城機は、耐熱シールドを装備し、高周波振動ナイフ以外の武装をすべて外し、レドームつきの高感度センサー群と、ビーコン射出装置に換装している。
 地形に沿って低空を進みながら、要所にレーダービーコンを埋め込み、定期的に周辺情報を収集して行く。これで、仮に通過した地域に敵が侵入してきても確実に発見できるはずであった。

●発見
 各機順次索敵エリアを塗り潰していき、敵位置を絞り込んでいった。異常が観測された地点を中心に、六機のデュナミスで包囲網を縮めるように索敵していく。
 最初に敵を発見したのは伊藤 毅(ka0110)機だった。ベーシックな強行偵察仕様のデュナミスだ。
 中空を飛行していた伊藤機のレーダーに感があり、すぐさま地表に降りてアクティブレーダーを切る。敵にレーダー波を感知され、こちらの位置を特定されないためだ。
「スカウト1よりHQ、対象をレーダーに捉えた。現状、変化はなし。これより目視での確認に移る」
 崑崙基地へと報告を行うと、伊藤機は、敵に接近していった。先のレーダーによる敵補足位置と月面マップを重ね、敵との間に遮蔽物がある地形を選択して慎重に進んで行く。
 やがて、中規模のクレーター中央に敵を発見した。
「対象を視認」
 レーダーにメモリされていた敵位置に、銀色に輝くデュナミスよりやや大きい球体(スフィア)が浮かんでいた。その周囲には、1メートルほどの小型の球体が大量に浮遊していた。目視だけでも数十体はいるだろうか。
 本体と思われる球体は位置を固定し、小型の物が活発に移動している。母艦と艦載機の関係か、本体ベースと探査端末ドローンのような関係なのだろう。
 小型ヴォイドから逐一情報を受け取っているのか、たまに本体表面に構造色の光の波が走っていた。
 いくつかの小型ヴォイドが、水城機がビーコンを設置した方向にむかって飛んでいく。展開している先行端末が、レーダー波を補足したのかもしれない。その報告を待つ形で、本体はこの場に留まっているようであった。
 伊藤機の報告を受けた崑崙基地から指示を受け、各地に散らばっていた偵察隊各機が集結しつつある。
 それら僚機の位置を細かく確認しながら、伊藤機が自機のポジション取りをした。ちょうどサガラ機や央崎機とは対面方向にあり、後方からは他の僚機が接近してきている。

●接敵
「先を越されましたか」
 連絡を受けたサガラ機が、ブースターを全開にしてエンゲージポイントへとむかう。
 ほどなくして、報告にあったクレーターが見えてきた。
 急いで岩陰に身を隠すと、メインモニタで敵が確認できる場所へと移動する。
 その場から敵を観察するが、思ったよりも数が多いようだ。サガラは、雑魚に惑わされないようにと、長距離から敵本体にミサイルをロックオンして待機することにした。いつ戦闘が始まっても大丈夫なように、準備はぬかりなく行っておきたい。
 ターゲットサイト内のマーカーが、いくつかの敵をサーチした後に、最大の大きさのヴォイドにロックオンする。これで、いつでも四基のミサイルを撃てる。
 だが、それがまずかった。
 ヴォイドの表面に黒い波模様がたったかと思うと、サガラ機のいる方向にむかって同心円状に収束していった。ロックオンのレーダー波を感知されたのだ。
 一斉に、小型ヴォイドの一団がサガラ機のいる方向へむかって移動を開始した。
「こっちに気づいた!? いや、サガラ機か。スカウト1、これより交戦に入る。エンゲイジ!」
 逸早く敵の動きを察知した伊藤機が、戦闘加速で敵本体へとむかった。ちょうど、サガラ機とは反対側からの接近となり、敵が手薄な方向からの奇襲となる。
 予想外の方向からのアサルトライフルの攻撃に、敵に動揺が走った。挟み撃ちにされる形になったため、一瞬どちらに対応しようかで、子機の足並みが乱れる。
 その一瞬を逃さず、サガラがミサイルを発射した。一直線に敵本体へとむかうが、間に位置していた敵子機が素早く反応し、浮遊盾としてミサイルにぶつかって迎撃する。
 そのころ、本体の方は先に直接攻撃を受けた伊藤機の方にむかって移動を開始していた。球体の周囲に金色に輝くリングが発生し、低空を浮遊移動していく。さしずめ、グラビティホバーといったところだ。
 本体表面に赤い同心円状の波紋が現れた。それらが収束した一点から、ブラスターが放たれる。
 プレパラントタンクをパージした伊藤機が、急速上昇して緊急回避を行う。宙に放り出されたタンクに熱線があたり、残っていた推進剤が爆発を起こして盛大に周囲に飛び散った。
「さあ、ついてこい!」
 蒸発した推進剤の煙に隠れつつ、反転した伊藤機が、本体を引きつけながら後退する。
 それを追うように本体がゆっくりと移動していき、続いて子機が一斉に伊藤機の後を追いかけ始めた。ブースターをつけたデュナミスには遠くおよばないが、歩行モードほどのスピードは十分に出ている。
「私を忘れてもらっては困りますね」
 自機へむかってきた子機に対して、サガラ機がスナイパーライフルで狙撃を開始した。結果として引きつける形になってしまった子機を足止めして各個撃破すれば、対角上にいる味方の負担はかなり減るだろう。
「お待たせしましたー」
 遅れてやってきた央崎機が、サガラ機と合流した。すぐさま、攻撃を開始する。
 接近してくる敵小型ヴォイドを、央崎機がガトリングで次々に撃ち落としていった。撃ちもらしたり、本体方向へとって返そうとする子機はサガラ機が狙撃して確実に撃墜する。
 最初にサガラ機にむかった一隊は完全に釘づけとなり、結果的に敵部隊の分断に成功したことになる。

 一方の伊藤機は、遅れている僚機が駆けつけてくる方向にむかって、敵本体を誘導しつつ後退していた。
 そこへ、岩陰から、水城機が一気に飛びだしてきた。
 設置したビーコンに接近した子機は、ビーコンを自爆させてすでに排除していた。どのみち、本体を確実に補足できれば、無駄となるビーコンは必要ない。
「確実に敵位置を把握し続ければ、偵察任務は完遂ですから。時間をかけるのは危険です」
 そう言うと、水城はブースターを全開にして一気に加速した。体当たりしてくる子機を完全に無視して、敵本体だけを目指す。センサーユニットが子機にぶつかり、ごっそりと抉られたが、その程度では水城機の突進は止まらなかった。
「何をして……」
 伊藤が、慌てて水城機の援護をする。こんな特攻は、伊藤の予定にはない。
 掩護を受けた水城機が、あっという間に敵本体に肉薄した。
 すれ違い様に、ほとんど体当たりするかのように高周波振動ナイフを突き立てる。敵外皮装甲を貫いて、高周波振動ナイフが突き刺さった。直後に、弾かれるようにして、水城機が上空へと進路を変えて離脱していく。
 高周波振動ナイフの柄には、発信機が仕込んである。これをビーコンとすれば、万が一敵を討ちもらしたときにも、第二攻撃隊の派遣や、艦船による長距離攻撃が選択肢として残るはずだ。
「後は任せたー」
 唯一の武器を消耗して完全に戦闘能力を失った水城機が、そのまま戦線を離脱していった。弾き飛ばされるように、遥か高空へとひたすら慣性で飛んでいく。ブースターの推進剤を使い切ってしまったので、しばらく高空に待機して観測機を演じた後に、地上に降りてから歩行で帰投するしかないだろう。幸いにして、光学カメラはまだ生きているようだ。
 だが、絶対的な保険としてのビーコンであったが、索敵型のヴォイドに対してはあからさますぎた。ビーコンの発する電波がよほど気に障るのか、ヴォイドの表面に黒い斑点のような模様が浮かびあがる。どうやら怒っているらしい。
 次の瞬間、いくつかの子機が本体に体当たりをし始めた。やがて、高周波振動ナイフが子機にぶつかってあっけなく外れる。本体はといえば、損傷はしたようだが、かすり傷にもならない程度のようだ。
「任されました。降り注ぐ火の粉は払い除けます……。いくよ、キルケー」
 だが、ナイフが破壊されてビーコンの信号が消失する前に、央崎が、ロックオンしたミサイルを一斉発射していた。増設した背部ミサイルランチャーから、マイクロミサイルがこれでもかと発射されていく。
 半数ほどは敵子機に阻まれたとはいえ、サガラ機が撃ち落として数を減らした敵子機の間をすり抜けて、ミサイルが敵本体に降り注いだ。爆発と共に、敵本体が月表面に叩きつけられる。舞いあがったレゴリスの砂煙の中に閃光が走った。
「やったあ!? ……えっ?」
 爆発かと央崎が思ったが、閃光は広がることなく、一点に集中すると指向性を持って周囲にいた子機にむかって放たれた。
 そして、反射する。
 平板な形のリフレクターに変形した子機を次々に反射経由していった熱線が、央崎機のいた場所を貫いた。
 間一髪、回避行動を取った央崎機の手の中でガトリングガンだけが赤熱して溶解する。投げ捨てようとしたときに、左マニピュレータと共にガトリングガンが爆散した。今少し判断が遅ければ、直撃であった。
「後退してください!」
 央崎機に指示を飛ばしつつ、サガラ機も後退した。アサルトライフルで、リフレクターに変化した小型ヴォイドを牽制する。
 あの攻撃には、物陰に隠れても意味がない。敵射程外か、感知範囲外に出るしかなかった。幸いにも、熱線の反射減衰によって、直接照準よりは射程が短いようだ。
「武器を取りに戻らなくっちゃ……」
 央崎が、アサルトライフルを設置しておいたベースへと戻っていく。こうなると、予備武装を持ってきておいてよかったのか、読みが外れて離れた場所に置いてきてしまったのが裏目に出てしまったのか、どちらとも判断がつかない。
 ブラスターの余波によって、舞いあがったレゴリスが不規則な閃光を周囲の空間に走らせる。それが収まると、擱坐した敵ヴォイドの姿が現れた。央崎のミサイルによって撃破はされなかったものの、移動機能に損傷を受けたようだ。移動時に発生していたリングの形が崩れ、波打ったまま明滅している。
「止まった的なら……」
 伊藤がミサイルの照準を定めようとしたとき、敵ヴォイドに変化が現れた。身体の各部から、水滴が飛び散るかのように、球体が分離していく。それは、本体が操っている小型ヴォイドだった。まるで、親が卵を産んででもいるかのように、敵子機の数が爆発的に増えていく。
「これはまずいね」
 伊藤が、躊躇せずにミサイルを発射した。ここは一気に叩くべきだ。これ以上数を増やされては、敵に回復する時間を与えてしまう。そうでなくとも、増援が来る可能性を無視してはならない。手間取れば、水城が言ったように不利となる。

「こちらスピアー。待たせたな。おや、ずいぶんと、数が増えてるじゃないか。増援か? ……招かれざるお客というところか。躾のなっていない御仁には早々にお帰りいただくことにしよう。みんな、全力で叩くぞ!」
 そこへ、ようやく単独行動を取っていた味方機が二機やってきた。
 パーソナルコードをスピアーと設定している榊 兵庫(ka0010)機は、ブースター上面に特徴的な幅広の剣を装備している。ディフェンダーと呼ぶその剣は、剣というよりはエッジのあるシールドに柄がついたような物で、攻防一体だが取り回しにくい癖のある武器だ。それ以外は、ベーシックにブースター、マイクロミサイルポッド、アサルトライフルという構成だ。
 有効射程に入るなり、増えつつある敵子機を榊機がミサイルで撃墜していく。
 それに呼応するように、伊藤機もミサイルでの攻撃を開始した。
「ミグの獲物はどれだあ!!」
 そこへ、最後にミグ・ロマイヤー(ka0665)機が現れた。
 CAMの全長ほどもある大刀のみを構えて、戦闘加速で接近してくる。
 彼女が大轟刀「斬虚刀」と呼ぶ、剛刀一振りのみで敵を倒すという異例の戦闘スタイルがロマイヤーの売りだ。彼女は、これを剣技「斬虚次元流」と呼んでいる。
「よりによって、あの問題児か……」
 伊藤が軽く頭をかかえた。敵撃墜数という戦闘成果は上げているが、作戦をまったく聞かないという問題児だ。崑崙の鉄砲玉とも呼ばれている、ある意味敵旗艦単艦にぶつけるには最適、敵部隊にぶつけるには最悪のパイロットだ。そういえば、ブリーフィングルームにも来ていなかった。
「現在、敵ヴォイドは移動機構に損傷を受けて静止している。固定砲台みたいな物だ」
「了解」
 伊藤の状況説明に、ロマイヤーが一言で応える。それだけで十分だった。動かない的が、彼女を待っていてくれる。
「どけどけどけえ!」
 あっさりと榊機と伊藤機を追い越して、ロマイヤー機が敵群に突っ込んでいった。ブースターをパージして、身軽に地表を走りだす。
「ようし、雑魚の相手は任せておけ! お前は本体を落とすことだけを考えて突撃すればいい」
「もち!」
 榊の言葉に、ロマイヤーが即答した。
 ある意味、榊はロマイヤーの扱いをよく分かっていると伊藤が感心する。
「進路を確保するぞ。援護射撃!」
 ミサイルの残弾を撃ち尽くして弾幕を張ると、伊藤がアサルトライフルで敵子機を撃墜していった。
 対角からは、サガラ機が、本体の子機の分離の瞬間を狙って狙撃していく。そのそばでは、央崎機がやっと拾ってきたアサルトライフルを無事な右手に持ち、サガラ機を援護していた。
「全部落としちゃえばいいんですよ」
 またブラスターの反射攻撃を受けないために、目についた敵はすべて撃ち落としている央崎機だ。強化した光学センサーに捉えた敵は逃さなかった。
「敵展開に変化。データ送ります」
 戦線を離脱して高空に漂流していた水城機が、各機に上空からの光学解析データを送ってきている。それにリンクして、サガラ機が正確な狙撃をしていた。
 どこにどんな機構が内装されているのか、外観からはまったく判別のできない敵ヴォイドではあったが、さすがに、身体のどこからでも子機や熱線を出せるというわけではないらしい。サガラ機の狙撃を受けた箇所からは、一時的にしろ子機の発生は止まっていた。これで、これ以上の追加はなしだ。
「どけどけー!」
 大刀の一振りで敵子機を複数いっぺんに斬り飛ばしながら、ロマイヤー機が進んでいった。単純に振り回すのではなく、複雑な軌跡を描いて舞うように閃く大刀に、なすすべもなく小型ヴォイドが叩き切られていく。
 ただ、あまりに馬鹿正直な進軍に、敵本体がブラスターの標準をロマイヤー機に合わせた。表面に波立つ赤い波紋が、一点に収束していく。
「あたらない!」
 ロマイヤーが、ジャンプしてブラスターを回避する。着弾しなかった熱線が、榊機と伊藤機の間を突き抜けていった。
「おいおい」
「薙ぎ払われでもしたらヤバかったな」
 すぐに、両機がポイントを変えて左右から回り込んで援護を続ける。
「さらに……あれっ!?」
 ジャンプしたロマイヤー機が、敵子機を踏んで二段ジャンプしようとした。だが、小型機がそんな足場になるわけもない。偵察用の小型ドローンの上に乗ってCAMが飛び跳ねたりできないようなものだ。当然、バランスを崩して、敵を踏みつけるようにして落下していく。そのまま、ロマイヤー機が月面に墜落した。
「あの馬鹿!」
 もうもうとレゴリスを巻きあげて墜落したロマイヤー機の援護に、榊機が飛び出していった。手近な敵機をディフェンダーで破壊して、敵の注意を引こうとする。みごと、多くの小型ヴォイドを引きつけたものの、すべてではない。
 それとは別に、リフレクター状に変形した敵ヴォイドが、砂煙の上方に展開しつつあった。そちらへむけて、敵本体表面の赤い波紋が収束していく。倒れているであろうロマイヤー機には、避ける術はないはずだ。
 だが、ブラスターが放たれるよりもわずかに早く、伊藤がリフレクター型のヴォイドをアサルトライフルで狙撃していた。被弾して姿勢がクルクル変わって錐揉みするヴォイドに、ブラスターが命中する。乱反射された熱線が、地上空中所構わず横切った。直後に小型ヴォイドが爆発する。
 その熱線の一本が傍を掠めて、上空の水城がひやりとした。眼下では、熱線を浴びたレゴリスが、フラッシュを焚くように発光している。その光る砂煙が晴れていくと、そこには、機体を低くして降着ポーズをとったロマイヤー機の姿があった。
「いっけえっ!」
 まさに、砂塵巻きあげて飛び出したロマイヤー機が、一気に敵本体に肉薄する。そのまま、大上段に振り上げた大刀を、ヴォイドの真上に振り下ろした。金属とも有機物ともつかない手応えがあり、ヴォイドにざっくりと縦に亀裂が走る。クイッと刀を捻ると、ロマイヤー機がヴォイドに刀を突き刺したままその横を駆け抜けていった。敵の本体を横に切り裂いて、銀色の刀身が再びその姿を現す。
「滅殺……」
 L字型に切り裂かれたヴォイドが、黒い煙をあげて崩れ始め、そのまま消滅していった。
 敵を倒したロマイヤーが、クルクルと大刀を宙に舞わせる。大気の無い月では、風の音が聞こえないのが残念だ。
「よし、敵の沈黙を確認。各機、残敵処理に移行!」
 状況を確認しつつ、伊藤たちが残った小型ヴォイドを各個撃破していった。もともと偵察用のため、小型ヴォイドにはほとんど戦闘力はない。体当たり攻撃さえ気をつければ、対処しやすい敵であった。
「こら、お前も掃除手伝え」
 榊が、突っ立っているだけに見えるロマイヤーに言った。たまに、攻撃を仕掛けてくる敵だけ、ヒュンと刀の一振りで破壊している。榊たちのように、敵を逃がさないように撃墜してはいない。
「えー、だって、ちゃんとお仕事はしただろう?」
 十分ではないのかなと、ロマイヤーが答えた。
「やれやれ」
 確かに、残った敵は少なく、再集結した全員の手持ちの白兵戦用武器で簡単に駆逐することができた。倒したヴォイドは消滅するため、戦場には損傷したCAMパーツの破片以外は残らない。
 それにしても、敵は何を調べていたのだろうか。考えられることは、崑崙基地の偵察だ。いずれにしろ、基地の位置は時間の問題で特定されるだろう。今日の戦いは、それを数日延ばしただけのことなのかもしれない。
「終わった?」
 そこへ、上空へ避難していた水城機が、着陸というかほぼ墜落してくる。
「残敵見あたらず」
「クリア」
「崑崙基地へ、こちら偵察部隊。ミッションクリア。これより帰投する」
 戦闘で踏み荒らされた周辺を確認すると、全員が帰途についた。
「先に行くぞ」
「ちょっと、待ってよ。ずるい!」
 ブースターが健在なサガラ機と榊機が先行するのを、残りの機体が軽快に月の大地を蹴って走りながら追いかけていった。

 先ほどまでの戦闘が嘘のように静まりかえった月の大地。その表面に堆積したレゴリスがわずかに動いた。その下から、銀色の小さな球体が、白い砂を振り払いながら姿を現す。
 その表面に、ギロリと目のような文様が現れた。
 それは、球体の表面をせわしなく移動すると、偵察部隊が帰投していった方向を見据えて、ピタリと止まった。
 次の瞬間、その瞳から血潮のような赤い液体が勢いよく噴き出し、白い月の大地を染めていった。同時に、ヴォイドが形を失って崩れ去っていく。
 後には、地上に描かれた赤い矢印のような物だけが残された。それは、ある一方向を指し示していた。
 ヴォイドによる崑崙襲撃、蒼乱の数日前のことであった。

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重体一覧

参加者一覧

  • 亜竜殺し
    榊 兵庫(ka0010
    人間(蒼)|26才|男性|闘狩人
  • 課せられた罰の先に
    クオン・サガラ(ka0018
    人間(蒼)|25才|男性|機導師

  • 伊藤 毅(ka0110
    人間(蒼)|29才|男性|猟撃士
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • 特務偵察兵
    水城もなか(ka3532
    人間(蒼)|22才|女性|疾影士
  • 雷影の術士
    央崎 遥華(ka5644
    人間(蒼)|21才|女性|魔術師

サポート一覧

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アイコン 相談卓?
榊 兵庫(ka0010
人間(リアルブルー)|26才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/08/13 13:46:42
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/08/13 13:40:34