ゲスト
(ka0000)
【MN】風花カクテル~迷いの森の喫茶店~
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/08/18 07:30
- 完成日
- 2016/08/22 01:26
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
迷いの森はいつでも真夜中。だけど決して真っ暗ではありません。お空にはお月様がニコニコ黄色い明かりを届けてくれます。たくさんの木々には妖精さんが光の粉を取らして飛んでいるし、木々に実る果実は淡く色とりどりに照らしてくれます。地面では、ほら。妖精の粉を受けたキノコがぽんっと笠を開きます。ちょろちょろ流れる小川はそんな明かりをいくつも運んでキラキラ輝き眩しいくらい。
そんな森のど真ん中で、喫茶店『月の雫亭』はひっそり営業をしています。
大きな樫の木のうろ二つから、煌々灯りが漏れていて、その間にある大きな口に見えるのが入り口の扉です。ゆっくりあけると、扉から伸びたスズランが、チリリン、リリンとかわいらしい音を立てて皆さんの来訪を知らせます。
扉をくぐったあなたの真横をすべるように、何かが一足お先とお店の中に入っていきます。
「おや、風花ですね」
長い髪を後ろで束ねたマスターさんの手の平に収まったのは、綿毛のように小さな一つ花弁でした。
それだけではありません。ふわり。ふわり。
あなたの横を次々と滑り込んできます。薄紅、萌黄、藍に、橙。なんて華やか(colorfully)!
「この花(flower)はね。湧き出るもの(flow er)なんですよ。今日は素敵なお茶会になりそうですね」
湧き出る?
なんのことやらと首をひねりつつ、だけども気になるあなたはお店に入りカウンターに腰かけます。
そんなあなたの目の前で、マスターさんはガラス(glass)カップの上で風花の軸を持ってをくるくると回して見せてくれました。そうすると、滴が溢れ出たかと思うとカップに緑色の草原(grass)が映り出します。
「爽やかな風と共に。はい、どうぞ。プレゼントです」
スダチを一振りすると、草原の空に向かって小鳥が巣立っていくのと同時に、爽やかな香りが鼻をくすぐります。
そうして差し出されたグラスをまじまじと眺めるあなたの視界の真横に風花は横切っていきます。
「よろしければ、作ってみませんか? あなただけのカクテル」
横切った風花をそっと瓶に導いたマスターさんはその瓶を差し出してくれました。
カクテル? お酒なんだ?
「いいえ、お酒(cocktail)ではなく作り手のお話(cook tale)です」
なるほど。わかったような、余計にわからなくなったような。
おそるおそるあなたはそれを手に取り、花の軸をくるくる回転させます。
自由に思い起こすあなた(caller free)の目の前で、風花は色をくるくると変えていきます。
そんな森のど真ん中で、喫茶店『月の雫亭』はひっそり営業をしています。
大きな樫の木のうろ二つから、煌々灯りが漏れていて、その間にある大きな口に見えるのが入り口の扉です。ゆっくりあけると、扉から伸びたスズランが、チリリン、リリンとかわいらしい音を立てて皆さんの来訪を知らせます。
扉をくぐったあなたの真横をすべるように、何かが一足お先とお店の中に入っていきます。
「おや、風花ですね」
長い髪を後ろで束ねたマスターさんの手の平に収まったのは、綿毛のように小さな一つ花弁でした。
それだけではありません。ふわり。ふわり。
あなたの横を次々と滑り込んできます。薄紅、萌黄、藍に、橙。なんて華やか(colorfully)!
「この花(flower)はね。湧き出るもの(flow er)なんですよ。今日は素敵なお茶会になりそうですね」
湧き出る?
なんのことやらと首をひねりつつ、だけども気になるあなたはお店に入りカウンターに腰かけます。
そんなあなたの目の前で、マスターさんはガラス(glass)カップの上で風花の軸を持ってをくるくると回して見せてくれました。そうすると、滴が溢れ出たかと思うとカップに緑色の草原(grass)が映り出します。
「爽やかな風と共に。はい、どうぞ。プレゼントです」
スダチを一振りすると、草原の空に向かって小鳥が巣立っていくのと同時に、爽やかな香りが鼻をくすぐります。
そうして差し出されたグラスをまじまじと眺めるあなたの視界の真横に風花は横切っていきます。
「よろしければ、作ってみませんか? あなただけのカクテル」
横切った風花をそっと瓶に導いたマスターさんはその瓶を差し出してくれました。
カクテル? お酒なんだ?
「いいえ、お酒(cocktail)ではなく作り手のお話(cook tale)です」
なるほど。わかったような、余計にわからなくなったような。
おそるおそるあなたはそれを手に取り、花の軸をくるくる回転させます。
自由に思い起こすあなた(caller free)の目の前で、風花は色をくるくると変えていきます。
リプレイ本文
夜闇に身をすくませた高瀬 未悠(ka3199)さんは恐る恐るといった手つきで、マスターさんから渡された瓶から風花を選びます。
闘争の赤、寂しい青、孤独な黒、縁にあわないように緑も外して。そうして悩んで悩んで白を選び取ります。
だけれども手に取った瞬間に、真昼のような白い風花は、夕焼け色に染まってみるみる赤く滴ります。
「っ!」
同じ。あの時咲いた血の華と。白は死の恐怖に脅えた目の色と。
凍り付いた未悠さんは持っていた花を取りこぼしてしまいました。花も凍り付いて滑っていくのを、わんこがくわえて、主人たる明王院 雫(ka5738) さんの手に渡ります。
「あら、悲しい色」
「だって……痛い」
戦うってなんてつらいこと。未悠さんは戦って流れた血の色がずっと忘れられませんでした。毎日怖くて辛くて。逃げ出したくって。
「『痛』 みは誰もが『通』ります。水も『涌』き出る時には大地を割るように。でも、水はたくさんの命を育み、大地を富ませる。みんなが『踊』る糧になりますわ」
雫さんは悲しい(sad)色の花を逆さにすると、それは花弁を手や足として、にわかに踊り出し(pas)ます。
「ふさぎ込んで暗くなれば、それは夜のとばりに。幾度も繰り返す光景は蛍の明かりにしましょう」
雫さんは風花をくるくると回すと、ふわりふわりと明るい光が飛び交います。それはコップには収まりきらず喫茶店の中をふわりふわり。
「一つ一つは弱い光。でも集まれば、人の心もまた動かす……」
薄緑の弱い光は未悠さんの前を横切ります。
横切る刹那に光の中に、小さな世界が、光の中に映っています。
そんな幾多の光に導かれるようにしてやってきたユリアン(ka1664)さんは蛍の光を手に載せて眺めています。
「これを遠くに放てば、想いは誰かに届くのかな……」
誰かに届けたい。
誰にだっただろう。ユリアンさんは窓の外を見渡しますが、ここはまよい(宵)の森。よう(陽)とはしれません。
「誰かにわかってもらいたい?」
「んー、まあ、そうかも。どうにかできるほどの事もしてないし、そんな力もないけれど。傍にいるよ。って伝えたい気は……する。でもここからだと遠いかな」
未悠さんの問いかけに、ユリアンさんは首を少しひねって考えました。
見上げるのは空一面に広がる夜のカーテンばかりです。何かが映ればいいのだけれど、残念ながら真っ暗。お先真っ暗。どうなるか予想もつきません。
「そんな時は、みんなでまあるくなれば、いい知恵がでるかもしれません」
雫さんは溢れた夜空を集めたカクテルから、スプーン(spoon)を使ってくるりとかきまぜ、お月様をそっと取り出します。
「幸せも不幸せも裏表。全部かきまぜ、あなたの物語紡ぎ(spool)ましょう♪」
黒髪をゆらして唄うと、雫さんが取り出したお月様はおおきくふんわり広がって。お皿に載せると美味しそうなパンケーキになっています。
「ああ、素敵な歌と、甘くいい香り。今日はお茶会かな。それとも同窓会?」
高くついばむ声は、窓から入って来た青い鳥さん。ハミングバード。
お月様のパンケーキをくるくる回って席に着くとシャーリーン・クリオール(ka0184)になっていました。もう手にはスプーンとフォークは準備済み。
「友達も呼んでいいかな? あたしの友達じゃない。みんな友達さ」
そうして、シャーリーンさんは、ルルル、ルルルっと歌うと。外からパルムがルルルと応えてくれました。
「おいしそうパル。ねーねー。チョココ。おいしそールルル。はやくたべたーい」
パルムはぎゅーぎゅーとはちみつ色の髪をひっぱって、ご主人様のチョココ(ka2449)を喫茶店に連れてきます。
ぎゅむむ。
扉が詰まりました。
「パルパル。『痛』いですわ~。想い出いっぱい友達いっぱいですと、『通』るのも大変なのですわ」
「やれやれ。仕方ないね。大地に受け止めてもらおうかい。マスターさん、チョコとライム、それにラム酒をもらうよ」
シャーリーンさんは「どうぞ」の一言と同時に、棚からお酒をいくつか取り出すと、ミキサーにかけます。それをグラスに注ぐと。
「こいつはダイキリ。強いぞ」
グラスに注いだ琥珀色は剣に早変わり。それをもって、すぱんっと入り口を切って広げます。支えを失った扉はぱかっと外れて、詰まっていたチョココさんとそのお友達がどどどっと地面に倒れ込みます。小鳥さんもリスさんも、それから狼のアーデルベルトさんも。
「故郷の森もこんな感じで不思議で賑やかだったな。どこかでつながってるのかな」
地面に積み重なって倒れるチョココさんと友達さんを助け起こしたラティナ・スランザール(ka3839)さんはそう言って、森の様子を眺めました。もしかすると見知った光景がどこかにあるかも。
「森はforest。記憶の底にあるのはfoget。遠くて近いのはforeign。いつもあなたの傍にいますよ」
マスターはにこりと笑って、風花を一つ渡しました。それは燃えるような紅から橙、輝く金のめしべをもっています。
「……あいつみたいだな」
ラティナさんがくるくると風花を回すと、差し出されたグラスに太陽が映ります。燃えるような空の中で一際さんさん輝く太陽(sun)です。でも今日のはちょっと黄昏気味?
ぼんやりと見ゆるラティナさんは愛おしい目でそれを眺めますが、黄昏気味の太陽に口元は哀しそう。ラティナさんの太陽と言えばたった一人のあの子です。
「いつも通りに元気だしゃあいいのにな」
沈んでいく。少しずつ青に藍にと染まっていきます。少し口に含むと、焼けるような熱さがさっと吹き抜け、すっとした涼やかな空気が口の中に残ります。
「どうすりゃいいかな」
「ずっと同じでいるって難しいわね。鉛筆の線のように真っ直ぐでいられない」
足りない味に眉を顰めるラティナさんに、未悠さんもため息一つ。吐息がラティナさんのカクテルに雲を呼び込みます。ユリアンさんもそれを見てどうしたものかと考えるばかり。
「ああ、もう真っ暗だ」
「昏いのはお困りですか? 全ての始まりの色だと思いますよ」
みんなして沈んだ空色の顔して俯く様子にレオナ(ka6158)さんがくすりと笑います。
「大地の色としては、豊穣の色。色は混ぜれば黒く見えます。さあ、全てを含んだこの色に、光を差しましょう♪」
レオナさんは長い耳をふるんと上下に動かして、まるで魔法を唱えるかのようにココナッツミルクを足していきます。
するとぽんぽんと音と共に、蛍の光がぼんやり浮かび上がります。
「だめですよ。まだ店じまいじゃありませんから」
「疲れた時には眠るのが一番だけどな。これだけ見守っているんだ。必ず起きてくれるさ。今必要なのは」
ラティナさんは新たに舞う黄色と白の風花一つを手に取りました。
「……ちょっとすっぱそうかな。月の光のようだけど、ちょっと刺激がすぎるかもしれないかな」
「ではでは、みんなでまろやかにしますの~。すっぱいお月様じゃ食べられませんもの」
チョココさんは雫さんが作ったパンケーキをお友達とたらふく分け合い、元気を取り戻したようです。そんな彼女たちは輪になって、踊り始めます。
「レモンもお友達。踊り、踊り、おどりまーしょー♪」
軽妙なステップ一つ。マイムマイム。まいむまいむ。レモンのお友達はライム。その明かりさしてライムライト。
「こりゃあ安らぐ光だね。さあ、胎動を呼び起こそう」
シャーリーンさんは、明るい光に変わったカクテルの光にベルモットとスロージンを少し足して。
「名前はKiss of fire。お目覚めには燃えるようなキスをってね。誰の口づけにする?」
ええっ。
ユリアンさん、ラティナさんはびっくりして、照れました。
チョココさんにはまだ早い。雫さんやレオナさんは育てる役ですから、この暗い気持ちを吹き飛ばすのは……。
「わかったわ、この口づけで暗闇を変えられるなら」
淡い金色の光はさらさらのあの人の髪のよう。
失いたくない。
未悠さんは、息を飲んで、みんなで作ったカクテルをそっと一口。
「か、か、からぁぁぁぁい!!」
これどれだけ強いの? でも負けてなるものか。
「『辛』いかあ。じゃあもう一つ足せば、『幸』になるねぇ」
「辛い出来事も、たくさんの人と思い出があれば、変わりゆくものですよ」
シャーリーンさんの笑みに、雫さんがスズランのベルを鳴らして答えます。鈴はいっぱい。触れれば隣の鈴と触れ合って、チリリ、リリンとみんなで響き渡ります。
「この人数でも足りませんの? でもお店はぎゅうぎゅうですわ」
「なんてことはないさ。太陽も月もあるなら、朝を待てばいいんだ。お店だって今はっぱいだけど、明日少し前は空いていた、考えるのは三次元ではなく一つ足して四次元。続く時間も空間もいっぱいにしたらどうかな」
シャーリーンさんの言葉にチョココさんはそれならと取り出したのはイチゴとタイム。
「甘いひと時、ストロベリータイムがあればばっちりですの♪」
ツルつきイチゴを針にして、タイムと風花の雫で器を満たして、くーるくる。
「昨日も明日も明後日も。みーんな一緒」
チョココさんの歌と共に、カクテルの上にふわりと長い銀色の髪と、青い衣が浮かび上がります。
「あれ、おばさ……?」
ユリアンさんが目をぱちくりしました。いえ、ちょっと違います。あれはリd……。
「見知らぬ場所、見知らぬ人々…けれど、どこか懐かしい。確かに初対面のはずなのに、会ったことのある顔もいるような……?」
そんな姿をふわりと纏っていたのは蓬泉 花月(ka5577)さんでした。緑香るユリアンさんを見て花月さんはにこりとして、自らのヴェールをふわりと皆に掲げます。
「時は流れ、姿形は変われども、涌き出る想像を創造し」
「あら」
雫さんは東方の装束姿の別嬪さんに。レオナさんも袖の広い春色の衣が見え隠れ。
チョココさんの背には羽がぱたたた。
「あらゆる舞台を器に二つとない彩をかさねて、あなたの胸にその色を、わたしの胸にその色を」
ヴェールがするりと動くと、また皆別の姿が映して消えて。
そうして集まる色姿を花月さんはストロベリータイムの上で絞ります。七色の時間が零れ落ちて、こちこち音を立てます。迷った時間もこれならカチコチ音を立てて進むことができますね。
「見て、明るくなった!」
レオナさんは真っ暗にほのかな明かりだけカクテルに漣だつのを見て跳びあがりました。光は緑になってふかふかの黒から伸びあがっていきます。
「もうすぐ花も咲きそう。準備は良いですか?」
レオナの呼び声に、花咲く瞬間というものに、どきりとした人達はいましたが、それでもまだまだ。シャーリーンさんがゆらゆら揺れて(swing)歌います(sing)。
「一朝一夕で足りるかしら」
心配そうな未悠さんの声。するとレオナさんはくるりと器を回し、花月さんはその周りを舞い廻り。
「グラス(大地)だけで足りなければ、私たちも回りましょうか。公転すれば事態も好転。楽しさ(fun)いっぱいのばして羽(fan)のように踊りましょう」
「春夏秋冬ってか。あいつの歌声は本当に一年通して聴いていたな。時間の果てに今に至る。そこで……終わりじゃないものな。太陽も月もこれからずっとめぐる。俺も……」
ラティナは昔を思い出して風花をくるくると巡らせます。
すると花は音符になってグラスの中でさざめきます。
「ああ、この音……そうだ。届ける相手、思い出した」
ユリアンさんは空に掲げるお月様を見てうなずくと、周りをゆららと飛んでいた蛍のような光をそっと手に集めます。手を開けばそれは小さな杏子になっていました。まだ若いそれはまるで猫の瞳みたいに色がころころ変わります。
「蛍雪は星のように」
それを、ひとかけぽとりと落とせば、星はしゅわわと泡を立てます。
雫さんがそれを見て、一緒によろしいでしょうか? と前置きしたうえで、星を一緒になってカクテルに注ぎます。たくさんの流れ星は天の川となってミルクのようにカクテルを包みます。
そうそう。こんな風に。イガイガの星も柔らかくなって。流れ落ちてくれることを祈って。
「ああ、この光景……懐かしいな」
ユリアンがぽそりと呟く最中、花月さんがまるで手品のように、ヴェールをたなびかせます。ヴェール越しに見える雫さんは若い青年に、ユリアンさんは銀髪の女性に見えます。妹さんはじゃあ、どんな姿をしているでしょう。ずるい。って言っているのは変わらなさそうだけど。
「いくつもの軌跡を濯いで、ミルクを飲んで大きくなーれ」
レオナさんの一言に。カクテルの中の緑はぐんぐんと大きくなって、ケヤキにブナにヒメシャラに。枝がまじりあって大きな樹となり、空を星まで昇っていきます。
「これ以上混ぜたらすごい味しそうだな。大地から空まで行けるならきっと太陽も月にも声をかけられるな」
「空の境界を越えて……」
とくり。
未悠さんはその言葉に胸を詰まらせます。もう見上げるだけじゃないのね。
「みんなで作りましたの。独りじゃ切なくても、みんなと一緒にいた時の想いは切れたりしませんの」
だからはい。今日もわけあいっこ。
チョココさんはイチゴ(strawberry)の実(-berry)をとって、みんなにストローとしてプレゼント。
「皆さんの飲み物(drink)が新たなきっかけ(blink)になりますように」
みんなでストローさして。
1,2の3。
チョコをベースに、ラムの香り。通り抜けてはレモンとライム。ジンの突き抜ける風味にイチゴと甘いミルクが柔らかくして。適度にしゅわわと弾ける泡に、ココナッツ。
お陽様と、お月様とお星様が揃ってて。
くらくら目も回るけれど。
昨日と今日と明日の味。
みんなで描き合った悲しいも哀しいも愛しいも。全部詰まった甘酸っぱい味。
不思議(wonder)な味。
また旅立つ僕たち(wonderer)にしか作れない味。
色んなことに出会ったら、また作りに来てね。
あなただけのカクテルを。
闘争の赤、寂しい青、孤独な黒、縁にあわないように緑も外して。そうして悩んで悩んで白を選び取ります。
だけれども手に取った瞬間に、真昼のような白い風花は、夕焼け色に染まってみるみる赤く滴ります。
「っ!」
同じ。あの時咲いた血の華と。白は死の恐怖に脅えた目の色と。
凍り付いた未悠さんは持っていた花を取りこぼしてしまいました。花も凍り付いて滑っていくのを、わんこがくわえて、主人たる明王院 雫(ka5738) さんの手に渡ります。
「あら、悲しい色」
「だって……痛い」
戦うってなんてつらいこと。未悠さんは戦って流れた血の色がずっと忘れられませんでした。毎日怖くて辛くて。逃げ出したくって。
「『痛』 みは誰もが『通』ります。水も『涌』き出る時には大地を割るように。でも、水はたくさんの命を育み、大地を富ませる。みんなが『踊』る糧になりますわ」
雫さんは悲しい(sad)色の花を逆さにすると、それは花弁を手や足として、にわかに踊り出し(pas)ます。
「ふさぎ込んで暗くなれば、それは夜のとばりに。幾度も繰り返す光景は蛍の明かりにしましょう」
雫さんは風花をくるくると回すと、ふわりふわりと明るい光が飛び交います。それはコップには収まりきらず喫茶店の中をふわりふわり。
「一つ一つは弱い光。でも集まれば、人の心もまた動かす……」
薄緑の弱い光は未悠さんの前を横切ります。
横切る刹那に光の中に、小さな世界が、光の中に映っています。
そんな幾多の光に導かれるようにしてやってきたユリアン(ka1664)さんは蛍の光を手に載せて眺めています。
「これを遠くに放てば、想いは誰かに届くのかな……」
誰かに届けたい。
誰にだっただろう。ユリアンさんは窓の外を見渡しますが、ここはまよい(宵)の森。よう(陽)とはしれません。
「誰かにわかってもらいたい?」
「んー、まあ、そうかも。どうにかできるほどの事もしてないし、そんな力もないけれど。傍にいるよ。って伝えたい気は……する。でもここからだと遠いかな」
未悠さんの問いかけに、ユリアンさんは首を少しひねって考えました。
見上げるのは空一面に広がる夜のカーテンばかりです。何かが映ればいいのだけれど、残念ながら真っ暗。お先真っ暗。どうなるか予想もつきません。
「そんな時は、みんなでまあるくなれば、いい知恵がでるかもしれません」
雫さんは溢れた夜空を集めたカクテルから、スプーン(spoon)を使ってくるりとかきまぜ、お月様をそっと取り出します。
「幸せも不幸せも裏表。全部かきまぜ、あなたの物語紡ぎ(spool)ましょう♪」
黒髪をゆらして唄うと、雫さんが取り出したお月様はおおきくふんわり広がって。お皿に載せると美味しそうなパンケーキになっています。
「ああ、素敵な歌と、甘くいい香り。今日はお茶会かな。それとも同窓会?」
高くついばむ声は、窓から入って来た青い鳥さん。ハミングバード。
お月様のパンケーキをくるくる回って席に着くとシャーリーン・クリオール(ka0184)になっていました。もう手にはスプーンとフォークは準備済み。
「友達も呼んでいいかな? あたしの友達じゃない。みんな友達さ」
そうして、シャーリーンさんは、ルルル、ルルルっと歌うと。外からパルムがルルルと応えてくれました。
「おいしそうパル。ねーねー。チョココ。おいしそールルル。はやくたべたーい」
パルムはぎゅーぎゅーとはちみつ色の髪をひっぱって、ご主人様のチョココ(ka2449)を喫茶店に連れてきます。
ぎゅむむ。
扉が詰まりました。
「パルパル。『痛』いですわ~。想い出いっぱい友達いっぱいですと、『通』るのも大変なのですわ」
「やれやれ。仕方ないね。大地に受け止めてもらおうかい。マスターさん、チョコとライム、それにラム酒をもらうよ」
シャーリーンさんは「どうぞ」の一言と同時に、棚からお酒をいくつか取り出すと、ミキサーにかけます。それをグラスに注ぐと。
「こいつはダイキリ。強いぞ」
グラスに注いだ琥珀色は剣に早変わり。それをもって、すぱんっと入り口を切って広げます。支えを失った扉はぱかっと外れて、詰まっていたチョココさんとそのお友達がどどどっと地面に倒れ込みます。小鳥さんもリスさんも、それから狼のアーデルベルトさんも。
「故郷の森もこんな感じで不思議で賑やかだったな。どこかでつながってるのかな」
地面に積み重なって倒れるチョココさんと友達さんを助け起こしたラティナ・スランザール(ka3839)さんはそう言って、森の様子を眺めました。もしかすると見知った光景がどこかにあるかも。
「森はforest。記憶の底にあるのはfoget。遠くて近いのはforeign。いつもあなたの傍にいますよ」
マスターはにこりと笑って、風花を一つ渡しました。それは燃えるような紅から橙、輝く金のめしべをもっています。
「……あいつみたいだな」
ラティナさんがくるくると風花を回すと、差し出されたグラスに太陽が映ります。燃えるような空の中で一際さんさん輝く太陽(sun)です。でも今日のはちょっと黄昏気味?
ぼんやりと見ゆるラティナさんは愛おしい目でそれを眺めますが、黄昏気味の太陽に口元は哀しそう。ラティナさんの太陽と言えばたった一人のあの子です。
「いつも通りに元気だしゃあいいのにな」
沈んでいく。少しずつ青に藍にと染まっていきます。少し口に含むと、焼けるような熱さがさっと吹き抜け、すっとした涼やかな空気が口の中に残ります。
「どうすりゃいいかな」
「ずっと同じでいるって難しいわね。鉛筆の線のように真っ直ぐでいられない」
足りない味に眉を顰めるラティナさんに、未悠さんもため息一つ。吐息がラティナさんのカクテルに雲を呼び込みます。ユリアンさんもそれを見てどうしたものかと考えるばかり。
「ああ、もう真っ暗だ」
「昏いのはお困りですか? 全ての始まりの色だと思いますよ」
みんなして沈んだ空色の顔して俯く様子にレオナ(ka6158)さんがくすりと笑います。
「大地の色としては、豊穣の色。色は混ぜれば黒く見えます。さあ、全てを含んだこの色に、光を差しましょう♪」
レオナさんは長い耳をふるんと上下に動かして、まるで魔法を唱えるかのようにココナッツミルクを足していきます。
するとぽんぽんと音と共に、蛍の光がぼんやり浮かび上がります。
「だめですよ。まだ店じまいじゃありませんから」
「疲れた時には眠るのが一番だけどな。これだけ見守っているんだ。必ず起きてくれるさ。今必要なのは」
ラティナさんは新たに舞う黄色と白の風花一つを手に取りました。
「……ちょっとすっぱそうかな。月の光のようだけど、ちょっと刺激がすぎるかもしれないかな」
「ではでは、みんなでまろやかにしますの~。すっぱいお月様じゃ食べられませんもの」
チョココさんは雫さんが作ったパンケーキをお友達とたらふく分け合い、元気を取り戻したようです。そんな彼女たちは輪になって、踊り始めます。
「レモンもお友達。踊り、踊り、おどりまーしょー♪」
軽妙なステップ一つ。マイムマイム。まいむまいむ。レモンのお友達はライム。その明かりさしてライムライト。
「こりゃあ安らぐ光だね。さあ、胎動を呼び起こそう」
シャーリーンさんは、明るい光に変わったカクテルの光にベルモットとスロージンを少し足して。
「名前はKiss of fire。お目覚めには燃えるようなキスをってね。誰の口づけにする?」
ええっ。
ユリアンさん、ラティナさんはびっくりして、照れました。
チョココさんにはまだ早い。雫さんやレオナさんは育てる役ですから、この暗い気持ちを吹き飛ばすのは……。
「わかったわ、この口づけで暗闇を変えられるなら」
淡い金色の光はさらさらのあの人の髪のよう。
失いたくない。
未悠さんは、息を飲んで、みんなで作ったカクテルをそっと一口。
「か、か、からぁぁぁぁい!!」
これどれだけ強いの? でも負けてなるものか。
「『辛』いかあ。じゃあもう一つ足せば、『幸』になるねぇ」
「辛い出来事も、たくさんの人と思い出があれば、変わりゆくものですよ」
シャーリーンさんの笑みに、雫さんがスズランのベルを鳴らして答えます。鈴はいっぱい。触れれば隣の鈴と触れ合って、チリリ、リリンとみんなで響き渡ります。
「この人数でも足りませんの? でもお店はぎゅうぎゅうですわ」
「なんてことはないさ。太陽も月もあるなら、朝を待てばいいんだ。お店だって今はっぱいだけど、明日少し前は空いていた、考えるのは三次元ではなく一つ足して四次元。続く時間も空間もいっぱいにしたらどうかな」
シャーリーンさんの言葉にチョココさんはそれならと取り出したのはイチゴとタイム。
「甘いひと時、ストロベリータイムがあればばっちりですの♪」
ツルつきイチゴを針にして、タイムと風花の雫で器を満たして、くーるくる。
「昨日も明日も明後日も。みーんな一緒」
チョココさんの歌と共に、カクテルの上にふわりと長い銀色の髪と、青い衣が浮かび上がります。
「あれ、おばさ……?」
ユリアンさんが目をぱちくりしました。いえ、ちょっと違います。あれはリd……。
「見知らぬ場所、見知らぬ人々…けれど、どこか懐かしい。確かに初対面のはずなのに、会ったことのある顔もいるような……?」
そんな姿をふわりと纏っていたのは蓬泉 花月(ka5577)さんでした。緑香るユリアンさんを見て花月さんはにこりとして、自らのヴェールをふわりと皆に掲げます。
「時は流れ、姿形は変われども、涌き出る想像を創造し」
「あら」
雫さんは東方の装束姿の別嬪さんに。レオナさんも袖の広い春色の衣が見え隠れ。
チョココさんの背には羽がぱたたた。
「あらゆる舞台を器に二つとない彩をかさねて、あなたの胸にその色を、わたしの胸にその色を」
ヴェールがするりと動くと、また皆別の姿が映して消えて。
そうして集まる色姿を花月さんはストロベリータイムの上で絞ります。七色の時間が零れ落ちて、こちこち音を立てます。迷った時間もこれならカチコチ音を立てて進むことができますね。
「見て、明るくなった!」
レオナさんは真っ暗にほのかな明かりだけカクテルに漣だつのを見て跳びあがりました。光は緑になってふかふかの黒から伸びあがっていきます。
「もうすぐ花も咲きそう。準備は良いですか?」
レオナの呼び声に、花咲く瞬間というものに、どきりとした人達はいましたが、それでもまだまだ。シャーリーンさんがゆらゆら揺れて(swing)歌います(sing)。
「一朝一夕で足りるかしら」
心配そうな未悠さんの声。するとレオナさんはくるりと器を回し、花月さんはその周りを舞い廻り。
「グラス(大地)だけで足りなければ、私たちも回りましょうか。公転すれば事態も好転。楽しさ(fun)いっぱいのばして羽(fan)のように踊りましょう」
「春夏秋冬ってか。あいつの歌声は本当に一年通して聴いていたな。時間の果てに今に至る。そこで……終わりじゃないものな。太陽も月もこれからずっとめぐる。俺も……」
ラティナは昔を思い出して風花をくるくると巡らせます。
すると花は音符になってグラスの中でさざめきます。
「ああ、この音……そうだ。届ける相手、思い出した」
ユリアンさんは空に掲げるお月様を見てうなずくと、周りをゆららと飛んでいた蛍のような光をそっと手に集めます。手を開けばそれは小さな杏子になっていました。まだ若いそれはまるで猫の瞳みたいに色がころころ変わります。
「蛍雪は星のように」
それを、ひとかけぽとりと落とせば、星はしゅわわと泡を立てます。
雫さんがそれを見て、一緒によろしいでしょうか? と前置きしたうえで、星を一緒になってカクテルに注ぎます。たくさんの流れ星は天の川となってミルクのようにカクテルを包みます。
そうそう。こんな風に。イガイガの星も柔らかくなって。流れ落ちてくれることを祈って。
「ああ、この光景……懐かしいな」
ユリアンがぽそりと呟く最中、花月さんがまるで手品のように、ヴェールをたなびかせます。ヴェール越しに見える雫さんは若い青年に、ユリアンさんは銀髪の女性に見えます。妹さんはじゃあ、どんな姿をしているでしょう。ずるい。って言っているのは変わらなさそうだけど。
「いくつもの軌跡を濯いで、ミルクを飲んで大きくなーれ」
レオナさんの一言に。カクテルの中の緑はぐんぐんと大きくなって、ケヤキにブナにヒメシャラに。枝がまじりあって大きな樹となり、空を星まで昇っていきます。
「これ以上混ぜたらすごい味しそうだな。大地から空まで行けるならきっと太陽も月にも声をかけられるな」
「空の境界を越えて……」
とくり。
未悠さんはその言葉に胸を詰まらせます。もう見上げるだけじゃないのね。
「みんなで作りましたの。独りじゃ切なくても、みんなと一緒にいた時の想いは切れたりしませんの」
だからはい。今日もわけあいっこ。
チョココさんはイチゴ(strawberry)の実(-berry)をとって、みんなにストローとしてプレゼント。
「皆さんの飲み物(drink)が新たなきっかけ(blink)になりますように」
みんなでストローさして。
1,2の3。
チョコをベースに、ラムの香り。通り抜けてはレモンとライム。ジンの突き抜ける風味にイチゴと甘いミルクが柔らかくして。適度にしゅわわと弾ける泡に、ココナッツ。
お陽様と、お月様とお星様が揃ってて。
くらくら目も回るけれど。
昨日と今日と明日の味。
みんなで描き合った悲しいも哀しいも愛しいも。全部詰まった甘酸っぱい味。
不思議(wonder)な味。
また旅立つ僕たち(wonderer)にしか作れない味。
色んなことに出会ったら、また作りに来てね。
あなただけのカクテルを。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/08/17 00:44:26 |