• 詩天

【詩天】越地屋の野望を砕け!

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/08/19 07:30
完成日
2016/08/23 01:59

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●龍尾城
「詩天へと通じる街道から特変を知らせる報告はありますか?」
 物腰柔らかく立ち上がった立花院 紫草(kz0126)が配下に確認をする。
 問われた配下は首を横に振った。
「ございませぬ。問い合わせてみたものの、『異常無し』と……」
 主要街道の維持管理は本来、武家の仕事であった。
 だが、長く続いた憤怒の歪虚との戦いで人手不足になり、場所によっては委託している街道もある。
 もちろん、監査は厳しい。それでも、監視の目を掻い潜り、悪事を働く者もいるとは情けない話だ。
「必要であれば、呼び出す事も可能ですが?」
 征夷大将軍の立場を使えば、責任者を呼び出す事もできるだろう。
 しかし、配下の言葉に立花院は首を横に振った。
「……その必要はありません」
「……承知致しました」
 配下は一礼すると部屋から出て行った。
 胸に貯めた空気を吐き出すと、立花院は窓に近づく。
「私達、東方の者は、絶対に許してはいけない事があるのです――」

●とある麺屋
 かけうどんを食べ終わって、タチバナは丁寧に手を合わせた。
「ご馳走様でした」
 さっと女将が食器を片付け、代わりにお茶を差し出した。
 お礼の言葉を言いながらタチバナはお茶を受け取った。
「――ん?」
 受け取った瞬間、女将の顔を見上げる。
「ぬるいお茶は女将としては認められないけどね、うちの看板娘が『タチバナ様には』その方が良いっていうのよ」
 女将の台詞に店の奥で待機していた看板娘にタチバナは視線を向けた。
 看板娘はニッコリと笑って、軽く頭を下げる。
 タチバナは視線を女将に戻した。
「お気遣いありがとうございます」
「ネコ舌なら、早く言ってくれればいいのに、タチバナさん」
「なかなか、言い難いので。皆さん、忙しそうですし」
 言い訳するタチバナに女将は笑った。
「もう、そんな性格だから、いつまで経っても、仕官先が見つからないのですよ」
 そんな女将の言葉にタチバナも笑うしかなかった。
 ぬるいお茶を一気に飲み干すと、流浪の侍は席を立つ。
「さて、それでは、『仕事』に行ってきますね」
「はいはい。精一杯やって来て下さいね」
 頑張りますと応え、タチバナは店を出た。

●越地屋
 詩天に至る街道の傍に、越地屋の屋敷はあった。
 屋敷といっても、元武家なだけに、かなりの敷地の屋敷だ。広い庭に面した一室で越地屋の主と部下が、豪勢な食事を食べていた。
「わははは。狙い通り、例の街道は、ほぼ我々だけじゃぞ」
「これも、全て、越地様のお力あってこそです」
 部下は仰々しく頭を下げた。
 詩天に至る街道に雑魔を出現させて危険とアピールさせる。
 そうすれば競争相手も行商人も詩天への商売を控えるようになる。
「最初は雑魔をわざと発生させようとしたが、上手くは行かなかったからのう」
 魔導器具の産廃などをわざと捨てて魔法公害を発生させて雑魔を出現させるつもりだったのだ。
「雑魔を誘導させて、街道へと出現させる……素晴らしいです」
「素浪人が金目当てに雑魔を討伐していたそうで、倒す手間も省けたというものです」
「馬鹿な、浪人だ。おう、そうだ、この前に商品を台無しにした小娘はどうした?」
 部下はニヤリと笑った。
「その小娘の身内を使って雑魔を誘き出しました」
「それは結構な事だ」
 二人同時に笑い声を上げる。

 ――その時だった。

 障子を突き破って、小鞠が投げ込まれた。
 咄嗟に部下がライフル銃を構えて障子を開け放つ。
「何奴!」
 そこには、汚い衣服を纏った浪人と、ハンター達が幾人かが居た。
 ひょこっと顔を出して安全を確認してから、越地屋の主が姿を現した所でタチバナが厳しい口調で言った。
「詩天に至る街道に、雑魔を誘き出す事によって私利私欲に働くとは、その悪事、許すわけにはいかないのです」
「何を戯言を!」
 銃をタチバナに向かって構える部下。
「街道を守護する役目にある者が、雑魔を誘き出す為に、人の命を使い捨てるとは――恥を知りなさい!」
「浪人の癖に、この越地屋に向かって……許さんぞ! 者共、出会え! 出会え!」
 警護の為に控えていたのだろう。
 他の部屋の襖が一斉に開き、兵が幾人も出てきて、タチバナとハンター達を囲った。
 それらにぐるりと視線を回した後、タチバナは視線を越地屋に向けた。
「愚か者! 私の顔を見忘れたか!」
 その一喝に怪訝な顔をした越地屋はマジマジと浪人の顔を見た。
 気が付くまでそれほど長くは掛からなかった。一瞬にして驚愕へと変わった。
「う、う、う、上様!」
 慌てる越地屋に部下も兵達もどうしていいのか分からず狼狽える。
「ま、間違いではないですか?」
「この前、登城して、直接報告したのだ、間違えるはずが……」
 生唾を飲み込んでそこまで言い、言葉を途切らせた。
「い、いや、間違いじゃ。上様がこのような所に来るはずがない」
 開き直り残忍な表情を浮かべ、タチバナを指差す。
「この曲者共を切り捨てろ! 屋敷に踏み入った強盗じゃ!」
 兵達が一斉に刀を抜いて構えた。
 その様子にタチバナは大太刀を静かに抜いた。
「仕方ありませんね」
 怒号が響き渡ると同時に、何かが落下した衝撃が屋敷を襲った。

「人間同士の諍いには興味はないけど……」
 屋敷が一望できる丘の上で、憤怒の歪虚である虚博が呟いた。
 髪の代わりの無数の蛇が一斉に赤い舌を出す。
「僕の雑魔を勝手に利用した事には怒りを覚えるね。これは、その代償だよ」
 挙げた腕を屋敷へと向けた。
 同時に何かが飛翔し、屋敷に何かを落とした。
「ついでに、僕の作った雑魔を見て欲しいな」
 ニヤリと虚博の顔に笑みが見えた。

リプレイ本文


 越地屋の兵士達に順ぐりと視線を向け、和泉 澪(ka4070)が言い放つ。
「さて、悪代官の成敗といきますかっ!」
 刀先を越地屋に向け――澪の気迫に押されたのか、奥の部屋へと逃げ出す。それを遮りつつ、ライフル銃を構えた敵の覚醒者が発砲した。
 銃弾はタチバナに向けられたが、彼は僅かに首を動かし避ける。
 その様子にアルマ・A・エインズワース(ka4901)の瞳に宿っていたものが一変した。
「見ぃーつけたっ。貴方、タチバナさんにひどい事したヒトですー。僕、怒ってますからね?」
 先の依頼でも雨の中、タチバナを狙撃していたのだ。
 覚醒者がアルマの逆鱗に触れているのは間違いないようだ。
「彼、僕が貰っていいですー?」
「お願いします」
 タチバナが深く頷きながら応える。
 刀を構えるタチバナに並ぶようにライラ = リューンベリ(ka5507)が竜尾刀を手にしながら頭を下げた。
「立花院様と知らなかったとはいえ、失礼いたしました。今も武器を手にしたままでありますが」
 物騒な獲物を持ってはいるが、いかにも貴族に仕えるメイドらしい彼女の言葉にタチバナは微笑みを返す。
 一方、天竜寺 舞(ka0377)は、ふと、頭の中に思い浮かんだリアルブルーでの光景に首を振っていた。
 どこかで見たような見てないような、そんな光景だったからだ。
「タチバナさんて、将軍様だったのか。あたしの事は、お園と呼んでくれていいよ」
「舞さんではなくて、お園ですか。妹さんに似ている方と思っていましたが……」
「妹が知ったら驚くだろうな」
 含みのある笑みを浮かべる、お園(舞)。どの様に驚くか容易に想像できる。
 その背後でチョココ(ka2449)も笑顔を湛えていた。
「タチバナ様は、やっぱりしょーぐーんでしたの」
 予想通りというべき所である。
「んー……偉い人って皆、出歩くのがお好きですのね……」
 むしろ、そういう仕様かもしれない。
 人の上に立つと、お忍びで出歩きたくなるようになるかもとか、ふと、思い至る。
「さてさて、捕物と言うか、御用立てだね。大人しくお縄につかずに抵抗するなら、少し痛い目を見てもらおうか」
 片手に符を構え、もう片手に刀を持ったシェルミア・クリスティア(ka5955)の言葉。
 いつもは符術での戦いを得意とするが、今回は今後の為に刀での実戦にも挑むつもりだ。
 一行の最前線に里見 茜(ka6182)が進み出る。
「私の故郷を奪った妖怪も許せませんが、妖怪を使って人を陥れるような悪者も許せません!」
 ググっと拳を力強く握る、茜。
「そんな人には、天誅! です!!」
 どこからか軽快な戦闘BGMが響き流れそうな雰囲気の中、戦闘が始まった。


 三つ首を持つ狛犬の様な雑魔に、舞が怪訝な顔を向けた。
「ケルベロス?」
 妹から虚博という名の憤怒の歪虚の事は聞いている。
 和洋折衷の雑魔を生み出す歪虚のようだが、この雑魔も同様なのかもしれない。
「それなら!」
 雑魔に駆け出した舞は包囲している越地屋の兵士達を華麗に飛び越え――立体的な動きで狼狽える兵士の肩を踏み台にして――接近する。
 敵味方見境なく人間を襲ってくるはずだ。放置する訳にはいかない。
「これが越後屋の番犬でないのなら、和洋折衷歪虚との繋がりは無いようですね」
 ライラも同様に雑魔へと向かう。
 どうみても番犬のようには見えない。この屋敷の事をどこかで虚博は知ったのかもしれない。
 越地屋は虚博が作り出した雑魔を散々利用していたのだ。憤怒の歪虚の怒りを買ったとしてもおかしくはない。
 舞とライラが接近するまでの僅かな間に、チョココとシェルミアの攻撃魔法が迸った。
「……氷よ、凍てる矢となりて、突き刺さり、動きを封じてなのー」
「六行の天則に従い、清き風よ、貫く雷となり、魔を滅せよ! 風雷陣!」
 雑魔は三つ首が同時に咆哮をあげると、一つの首から迫ってくるハンターに向かって炎を吐き出す。
 パッと、舞とライラが二手に分かれる。
「躾けて差し上げますわ」
 竜尾刀を鞭モードに切り替え、華麗なステップを踏みつつ、追撃の炎を避ける。
 クルリと地面に手を付きながら回転し手裏剣を放ち意識を向けさせ、ライラの作った隙を突いて舞が刀先を閃かす。
 雑魔の首の1つがあっと言う間に切り刻まれる。
「逃がさないよ!」
 鋭い鈎爪の攻撃を避け、立木を足場代わりに姿勢を整えて、再び斬りかかる。
 それを迎え撃とうとした雑魔の首に鞭がぐるぐると巻き付いた。ライラが放ったものだ。
「首輪をつけて差し上げますわ」
「これで終わり!」
 炎を噴き出そうにも吹き出せずもどかしげに首を振る雑魔に対し、名前通りに、舞い踊るような動きで刀を振るう舞。
 雑魔は塵となって崩れていった。

 舞とライラが雑魔相手に奮戦を始めようとした時、覚醒者とアルマの戦いも始まろうとしていた。
「僕の大事なお友達に、一度ならず二度も銃を向けるなんて、当然、覚悟はお済みの筈です」
 青い尾を引く流星のような軌跡を残し、アルマの機導術が放たれる。
 三筋飛んだそれは、不幸な越地兵を二人ほど戦闘不能にさせたが、肝心の敵覚醒者を倒すには至らなかった。
 襖を閉めつつ身を翻して避けたからだ。
 アルマが跳躍する姿勢を見せ、覚醒者が行く手を塞ぐようにマテリアルを込めた弾丸を放つ。
「……良い度胸です、よ!!」
 狙われたのはアルマでは無かった。
 タチバナを狙撃した一撃だったからだ。皮一枚避け損ねたのか、端正な彼の顔に一筋の血が流れている。
 マテリアルの光を踵から放出しながら一気に距離を詰めるアルマ。
 覚醒者は素早く銃床を構えた接近戦の構えだ。接近してくるハンターが杖装備なので侮っているのだろう。
「接近戦が出来ないなんて言った覚えはありませんねェ?」
 機導術で蒼く輝く刃を作り出しながら斬りかかるアルマ。
 それは覚醒者が持つライフル銃を叩き割りながら、深い斬撃を与えた。

「中にも外にも兵達で一杯です!」
 茜が越地屋の兵士をちぎっては投げちぎっては投げと繰り返していた。
 ハンターと非覚醒者では、その力量において雲泥の差がある。命を無用に奪う事はしたくないというハンター達は手加減して兵士達にあたっていた。
 逆にこれ幸いと、兵は倒されては起きて再び向かってくる。
「寝かしても同じようなのですー」
 チョココも睡眠の魔法を唱えるのを断念していた。
 眠らせた所で別の兵が起こしてしまうからだ。
「澪さんとタチバナさんは越地屋を追いかけて下さい」
 そう言いながら、符術を仲間の援護に使いながらシェルミアが峰打ちで兵の一人を叩き伏せた。
 とりあえず、越地屋の人数だけは無駄に多い。
「あの人に近付く為に……あの人みたいに、両立出来る様に……自分の力で……託されたモノの為に!」
 数人の兵士らの攻撃を避け、あるいは受けてから、シェルミアは符を掲げた。
 まだ誰も居ない空間に向かって符術による結界を作ったのを確認しながら、再び刀を振るう。上手く出来るかどうかは分からない。それでも、あの人に少しでも近づけるのならと刀を振るう。
 ふと、視線をタチバナへと向けた。

 だらりと太刀を下げていながら、繰り出される斬撃は流水のようで――。
 タチバナの戦い振りを澪は間近で見ていた。
「うぉぉぉ!」
 怒声をあげて数人の兵が迫って来るのを澪は回避を意識しながら無理をしないで避け、立ち回って対峙しているのに対し、タチバナは通りをゆっくりと散歩でもしているかのような歩みでバッサバッサと切り倒している。
 峰打ちではあるが、その叩き込まれた箇所はいずれも峰打ちでなければ致命傷だっただろう。
(強い……という言葉では足りませんね。次元が違うとでも言うべきでしょうか)
 澪はそんな感想を心の中で呟いた。
 兵を刀で払うとタチバナは澪に向けて口を開いた。
「越地屋が居ませんね。確かに、奥へと逃げたはずなのですが」
「一度、態勢を整えますか?」
 襖を全部開いて調べながら来たが、肝心の越地屋が見つからない。ここは外に戻るべきだろうと澪は判断した。
 それに、外での戦いは一段落してきたはずである。
 タチバナは「そうしますか」と頷くと庭へと向かった。


 兵らとハンター達の戦いの中、タチバナが澪を伴って屋敷から姿を現した。
 それを見て、アルマが大声を発する。
「静かにー!」
 その表情は先程、覚醒者と戦った時とは明らかに違っていた。
 タチバナの姿を確認できて嬉しいという雰囲気が出ている。
 チョココも杖で兵を叩きつつ、精一杯、声を張り上げた。
「静まれですのー!」
 それでも人の話を聞かない兵が数人向かって来るので、シェルミアは刀で、茜は手刀で叩き伏せる。
「静かにって!」
「まだ来るなら、足の骨、砕くよ!」
 ハンター達の呼び掛けに越地兵数十人が一箇所に集まる。
「なんだか、違う話と合わさっている気がするわ」
 ボソっと舞が呟いた。
 大体、この後の動きが大体予想出来たからだ。

 タチバナの横に居た澪が一歩踏み出すと、宣言する。
「ええい! このお方を、どなたと心得る! 八代目征夷大将軍、立花院紫草公であらせられるぞ!」
 若干、芝居が入っているような気もしないでもないが、澪の言葉に狼狽える兵士達。
 追い打ちを掛けるようにライラも言う。
「兵士の皆様、頭が高いです」
「今なら将軍様が、罪一等減じて島流しくらいに留めてくれるって」
 舞の台詞に兵士達はお互い顔を見合わせると――見事なまでの一斉土下座。
 その時になって塀際の植木が揺れた。越地屋が状況を見極めて出口へと逃げ去ろうとしていたのだ。
「うわ! なんだこれは!」
 出口まで後少しという所で越地屋は足を取られていた。
 シェルミアの符術による結界だ。
 それでも、なお、動こうと悶える越地屋に茜が楽しそうな笑顔を向けながら近づく。
「通せんぼー!」
 ガシっと腕を掴むと見事な投げで越地屋を飛ばす。
「鳴隼一刀流、隼巻閃!」
 飛んでくる勢いを利用して澪が一閃。
 ボテっと地に倒れた所で、その首筋に舞が刃を当てた。
「はい、チェックメイト♪」
「ひぃぃ!」
 さすがの越地屋も観念したようで蹲った。
「ここで、成敗してもいいのですが……」
 タチバナの言葉にハンター達は首を横に振った。
 お白州で法による裁きを受けるべきという事なのだろう。
「ハンター達の温情に感謝して下さい……この者の捕縛を」
 ライラが滑らかな素早い動きで縄を掛けると、数人の兵士達が、先程まで主であった越地屋を引っ立てる。
 龍尾城で死よりも恐ろしい拷問が待っているかもしれないが、その事をタチバナは口にはしなかった。行き着く先は変わらない。

 縄に繋がれて連れて行かれる越地屋をシェルミアは見届けながら言う。
「因果応報……わたし達だって、いつかは何かの形で報いは受けると思うよ。でも、だからこそ『人として』間違った事はしたくない」
 街道を守護する役目の者が、雑魔を利用して私利私欲に走り、虚偽の報告を続けた。
 正しく、因果応報だろう。
「……本当に、偶然だったのですね」
 ライラは連れ去られる間際、越地屋に1つ確認していた。
 それは雑魔が生み出されていた場所を、なぜ、越地屋が知っていたかという事だ。
「これは、きっと物的な証拠ですよ!」
 埃や泥で汚れ切った姿で茜が姿を現した。
 手には商品の目録や金銭の帳簿らしいものを手にしている。
 詳しく調べれば、詩天への商売の独占が分かるはずだ。もしかして、雑魔に関する記述も見つかるかもしれない。
「それにしても、こういう時は紋所入りの印籠用意しとかないと」
 舞が苦笑を浮かべてタチバナに言った。将軍と分かる証拠を持っていれば、こういう時には役に立つ場合もあるだろう。
 神妙な顔つきで同意しながらタチバナはハンター達に深く一礼した。
「ハンターの皆さん、本当にありがとうございました。また、身分を隠していた事、お――」
 その言葉を遮るようにアルマがタチバナに飛びついた。
「ん。いつものタチバナさんですー」
「あまり、驚かないのですね」
「良い所のヒトだとは思ってたですよ。良い匂いがしたので、ただの浪人さんじゃありえないですもん」
 犬かよというツッコミが何処からか流れてきそうな話ではある。
「紫草さん」
 脇から澪が大真面目な顔でタチバナに迫る。
「私に剣術を師事して頂けませんでしょうか?」
 その言葉にシェルミアもピクっと体を動かした。少しでも参考に出来そうな動きを見極め、自分の糧にしたいと思っていたからだ。
 先程の戦闘でタチバナの動きを見ていたが、もっと見られるのなら……と思わず、生唾を飲む。
 対して、タチバナは冷静だった。どこからともなく、大根を取り出すと、それを澪に手渡した。
「『戻し切り』が出来るようになったら、いつでも来て下さい」
 夕飯のおかずの材料のような大根を受け取り――マジマジと大根を見つめる澪とシェルミア。
 しばらくは大根料理になりそうな予感を漂わせる中、チョココが首を傾げていた。
「偽名が半端ですわ……タチバナ……シノスケ……紫之介、とかですの?」
 その台詞にタチバナは相槌を打った。
「良いですね。これからは、立花紫之介とでも名乗りましょうか」
「しのさん、ですの」
 ニッコリと微笑んだチョココにタチバナは改めて頭を下げた。
 その様子にアルマが不安そうな顔を向けて問いかける。
「僕も、しのさんとお呼びしても良いです?」
「えぇ。アルマさんも、皆さんも、私にとって、かけがえのない『友』ですから」
 応じたタチバナの台詞にアルマは再び飛びついた。
「正体がバレてしまった事になるけど、大丈夫?」
 舞が心配する。もっとも、自身が妹には真っ先に言ってしまいそうな気もするのだが。
「確かに、そうですね」
「別の姿に変装とか?」
 澪とシェルミアが早くも真っ二つになった大根をそれぞれ手にしながら、心配に同意した。
「ここまで正体が明らかになる事はなかったから、きっと、大丈夫、と思います」
「私もそう思うよ! 言われれば、そっかーってなるけど」
 貴族のお忍びの変装と比べても、きっとタチバナの変装姿は、遜色ないだろうと思ったライラの台詞と、そもそも、東方出身でもある茜の言葉が続いた。
 それに対し、タチバナは苦笑を浮かべて応える。
「皆さんが知り合いの方にお話する程度なら、きっと大丈夫だと、私は思っています」
 その言葉は、きっと、誰も信じてくれなかったという過去の話がありそうな、そんな雰囲気だった――それが、お約束というもの。
 ハンター達は天ノ都まで、全員で和気あいあいと戻るのであった。


 こうして、ハンター達は、流浪の侍タチバナ――立花院 紫草(kz0126)――と共に越地屋の陰謀を見事打ち砕いた。
 詩天へと至る街道の治安は回復され、詩天地方の復興やこれから先へと繋がる事になるのである。


 おしまい。

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MVP一覧

  • 光森の太陽
    チョココka2449
  • 符術剣士
    シェルミア・クリスティアka5955
  • 裡に宿せしは≪業炎≫
    里見 茜ka6182

重体一覧

参加者一覧

  • 行政営業官
    天竜寺 舞(ka0377
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • 光森の太陽
    チョココ(ka2449
    エルフ|10才|女性|魔術師
  • Centuria
    和泉 澪(ka4070
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 【魔装】猫香の侍女
    ライラ = リューンベリ(ka5507
    人間(紅)|15才|女性|疾影士
  • 符術剣士
    シェルミア・クリスティア(ka5955
    人間(蒼)|18才|女性|符術師
  • 裡に宿せしは≪業炎≫
    里見 茜(ka6182
    鬼|13才|女性|格闘士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/08/16 04:11:31
アイコン 相談卓だよ
天竜寺 舞(ka0377
人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2016/08/19 02:13:40
アイコン タチバナさんへの質問
シェルミア・クリスティア(ka5955
人間(リアルブルー)|18才|女性|符術師(カードマスター)
最終発言
2016/08/18 12:08:42