ゲスト
(ka0000)
Nachtwache
マスター:稲田和夫
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/08/14 09:00
- 完成日
- 2016/08/23 17:23
このシナリオは1日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「ここは……どこなの? 現在位置を確認しないと……」
深夜、星明かりすらない暗い街道を鋼鉄の義手を持つ暴食の歪虚、アイゼンハンダー(kz0109)が彷徨っていた。
その表情からも、本来彼女にとって重さなど感じさせない筈の義手を引きずるようにして歩く姿からも、色濃い憔悴が漂って来る。
戦いで受けた傷で歪虚としての生命力が弱っているのが原因という訳ではなく、彼女の精神に原因があるようだ。
「何故、同胞が……帝国軍同士が殺し合わなければならないの? 反乱軍は手強い……仲間割れをしていては勝てるものも勝てなくなるのに……」
アイゼンハンダーを混乱させていたのは、北方王国と其処に封印された強欲の歪虚王メイルストロムの封印を巡って行われた【龍奏】と呼ばれる一連の戦いである。
戦いが推移する中、クリムゾンウェストに転位して来た狂気の眷属と交戦したことで、歪虚を『戦友』と認識してる彼女の精神構造が破綻をしそうになっているのだろう。
「オルクス兵長に判断を仰がなければ……オルクス兵長? そうだ、オルクス兵長はどちらに?」
それ以上に、アイゼンハンダーにとって大きかったのは、彼女を指揮していた四霊剣が一刀、不変の剣妃オルクスが未帰還であるということかもしれない。
「そうだ、ハヴァマール司令官やフロイラインの安否も気になる。私にはこんなところで時間を無駄にしている暇などないのに……」
しかし、一歩歩いた途端アイゼンハンダーの表情が怪訝なものに変わる。
「ハヴァマール……? 私は何を言っている? 私たちの司令官の名前は……、いや! それよりフロイラインはもう……くぅ! あ、頭が……!」
――記憶の混乱……ツィカーデ、哀れな娘よ。お前がなおも過去の幻に縋り続けるのか、それとも、真に歪虚として目覚めるのか、見ものではあるがな。
少女には聞こえないよう義手が呟く。
やがて、アイゼンハンダーがふと気付くと、街道の脇に、土を盛って石を乗せだだけの小さな塚があった。
その傍らには、朽ち果てた銃剣が地面に突き刺され、銃床には錆び果てた鉄兜が引っ掛けられている。
「お墓……?」
思わず、その鉄兜を手に取るアイゼンハンダー。その途端、塚から突然負のマテリアルが吹き上がった。
「これは……!」
アイゼンハンダーの表情が明るくなる。歪虚である彼女にとって負のマテリアルの感触は心地よく、目の前に現れた旧帝国軍の軍服を纏った亡霊のような姿をした歪虚は仲間、いや戦友に他ならなかった。
「貴様も、私同様本隊とはぐれた口か?」
亡霊の方は恐らく、アイゼンハンダーが仲間であるという事は認識していても、彼女の言っていることが理解できないのか、無言で佇むばかりである。
「無口な奴だな。まあ良い。少し、疲れた……。すまないが、少しの間歩哨に立ってくれないか?」
アイゼンハンダーはそう言い終えると、塚の側に腰を下ろしボロボロになった外套を身体に巻き付け、そっと目を閉じる。
微かに残る人間だったころの記憶の残滓なのか、それとも、上位者に本能的に従う暴食としての本能がそうさせただけなのか、亡霊は半透明の揺らめく手でアイゼンハンダーに敬礼を返すと、塚から引き抜いた、朽ち果てた銃剣を肩に乗せ、周囲を警戒し始めた。
●
帝都バルトアンデルスにある詰め所に集まったハンターたちに対し、第一師団副長ヴィタリー・エイゼンシュテイン(kz0059)は単刀直入に依頼の説明を始めた。
「帝都北部の旧街道にて、旧帝国軍の軍服を着た歪虚が目撃されたという情報が入った」
集まったハンターたちの間に微かに動揺が走る。旧帝国軍との関連を匂わせる歪虚ということで、アイゼンハンダーを思い出した者も多かったのだ。
「北方王国での戦い以来、行方の掴めないアイゼンハンダーである可能性も捨てきれない。よって、諸君らにはまず少人数のチームで現地に赴き、情報を収集して貰う」
そして、エイゼンシュテインはハンターの一人が怪訝な表情を浮かべたのを見て、こう補足した。
「相手が通常の歪虚なら撃破せよ。もし、アイゼンハンダーと接敵したのなら、生還して情報を報告することを最優先の目標とする」
ハンターたちの間に緊張が走った。もし、敵が本当にアイゼンハンダーであれば、この少人数ではリスクの高い任務になる。
「なお、現時点では情報の確度が低いため、私が直接出向くことは出来ない。疑問があれば、この場で回答する」
エイゼンシュテインが沈黙すると、早速ハンターたちは依頼の詳しい情報を確認し始めた。
「ここは……どこなの? 現在位置を確認しないと……」
深夜、星明かりすらない暗い街道を鋼鉄の義手を持つ暴食の歪虚、アイゼンハンダー(kz0109)が彷徨っていた。
その表情からも、本来彼女にとって重さなど感じさせない筈の義手を引きずるようにして歩く姿からも、色濃い憔悴が漂って来る。
戦いで受けた傷で歪虚としての生命力が弱っているのが原因という訳ではなく、彼女の精神に原因があるようだ。
「何故、同胞が……帝国軍同士が殺し合わなければならないの? 反乱軍は手強い……仲間割れをしていては勝てるものも勝てなくなるのに……」
アイゼンハンダーを混乱させていたのは、北方王国と其処に封印された強欲の歪虚王メイルストロムの封印を巡って行われた【龍奏】と呼ばれる一連の戦いである。
戦いが推移する中、クリムゾンウェストに転位して来た狂気の眷属と交戦したことで、歪虚を『戦友』と認識してる彼女の精神構造が破綻をしそうになっているのだろう。
「オルクス兵長に判断を仰がなければ……オルクス兵長? そうだ、オルクス兵長はどちらに?」
それ以上に、アイゼンハンダーにとって大きかったのは、彼女を指揮していた四霊剣が一刀、不変の剣妃オルクスが未帰還であるということかもしれない。
「そうだ、ハヴァマール司令官やフロイラインの安否も気になる。私にはこんなところで時間を無駄にしている暇などないのに……」
しかし、一歩歩いた途端アイゼンハンダーの表情が怪訝なものに変わる。
「ハヴァマール……? 私は何を言っている? 私たちの司令官の名前は……、いや! それよりフロイラインはもう……くぅ! あ、頭が……!」
――記憶の混乱……ツィカーデ、哀れな娘よ。お前がなおも過去の幻に縋り続けるのか、それとも、真に歪虚として目覚めるのか、見ものではあるがな。
少女には聞こえないよう義手が呟く。
やがて、アイゼンハンダーがふと気付くと、街道の脇に、土を盛って石を乗せだだけの小さな塚があった。
その傍らには、朽ち果てた銃剣が地面に突き刺され、銃床には錆び果てた鉄兜が引っ掛けられている。
「お墓……?」
思わず、その鉄兜を手に取るアイゼンハンダー。その途端、塚から突然負のマテリアルが吹き上がった。
「これは……!」
アイゼンハンダーの表情が明るくなる。歪虚である彼女にとって負のマテリアルの感触は心地よく、目の前に現れた旧帝国軍の軍服を纏った亡霊のような姿をした歪虚は仲間、いや戦友に他ならなかった。
「貴様も、私同様本隊とはぐれた口か?」
亡霊の方は恐らく、アイゼンハンダーが仲間であるという事は認識していても、彼女の言っていることが理解できないのか、無言で佇むばかりである。
「無口な奴だな。まあ良い。少し、疲れた……。すまないが、少しの間歩哨に立ってくれないか?」
アイゼンハンダーはそう言い終えると、塚の側に腰を下ろしボロボロになった外套を身体に巻き付け、そっと目を閉じる。
微かに残る人間だったころの記憶の残滓なのか、それとも、上位者に本能的に従う暴食としての本能がそうさせただけなのか、亡霊は半透明の揺らめく手でアイゼンハンダーに敬礼を返すと、塚から引き抜いた、朽ち果てた銃剣を肩に乗せ、周囲を警戒し始めた。
●
帝都バルトアンデルスにある詰め所に集まったハンターたちに対し、第一師団副長ヴィタリー・エイゼンシュテイン(kz0059)は単刀直入に依頼の説明を始めた。
「帝都北部の旧街道にて、旧帝国軍の軍服を着た歪虚が目撃されたという情報が入った」
集まったハンターたちの間に微かに動揺が走る。旧帝国軍との関連を匂わせる歪虚ということで、アイゼンハンダーを思い出した者も多かったのだ。
「北方王国での戦い以来、行方の掴めないアイゼンハンダーである可能性も捨てきれない。よって、諸君らにはまず少人数のチームで現地に赴き、情報を収集して貰う」
そして、エイゼンシュテインはハンターの一人が怪訝な表情を浮かべたのを見て、こう補足した。
「相手が通常の歪虚なら撃破せよ。もし、アイゼンハンダーと接敵したのなら、生還して情報を報告することを最優先の目標とする」
ハンターたちの間に緊張が走った。もし、敵が本当にアイゼンハンダーであれば、この少人数ではリスクの高い任務になる。
「なお、現時点では情報の確度が低いため、私が直接出向くことは出来ない。疑問があれば、この場で回答する」
エイゼンシュテインが沈黙すると、早速ハンターたちは依頼の詳しい情報を確認し始めた。
リプレイ本文
接近する人間を感知した歩哨が顔を上げた。
最初に彼に語りかけたのは星輝 Amhran(ka0724)であった。
「成る程。歪虚として現界したにもかかわらず上官に忠誠を尽くすその姿、聞きしに勝る忠国の士といった風情じゃの」
動揺か、単に霊体であるが故の不安定さか、星輝(以下キララと表記)の言葉に歩哨の輪郭が揺れた。
しかし、次の瞬間にはアイゼンハンダーが跳ね起きて叫ぶ。
「敵襲か!」
だが、6名から戦意を感じなかったせいか、アイゼンハンダーもまた生還する様子を見せる。
「革命軍には違いないようだが……少し、様子をみるか」
アイゼンハンダーが攻撃して来ないことを確認したキララが歩哨に質問する。
「……お主の上官殿じゃが、少々乱心されているとは感じんか?」
「……なんだと?!」
自分の事を言われたアイゼンハンダーが一歩前に出た。しかし、Uisca Amhran(ka0754)がそれを制止する。
「……では、問います。アイさん」
「え……?」
いきなりあだ名で呼ばれ、戸惑うアイゼンハンダー。しかしUisca(以下イスカ)は全く意に介した様子も無い。
「貴女はアイゼンハンダーさんでしょう? だからアイさんです。それとも本当の名前を名乗ってくれます?」
「反徒に名乗る名前など無い!」
「なら、アイさんです。さて、アイさん、その塚が見えますか?」
「これがどうしたというのだっ?」
「塚があるという事は、一緒に居る歩哨さんはすでに死んでいる筈です。それを認めないのは貴女の『戦友』に対する冒涜ではありませんか?」
「な、何を言っている、貴様!」
イスカの指摘は、アイゼンハンダーの精神が抱える矛盾を突いたらしい。すっかり動揺したアイゼンハンダーは、縋るように傍らの歩哨に問いかける。
「その従軍聖職者の言う通りなのか……?」
だが、それに対する歩哨の返答は、持ち上げられた銃口であった。無論、その狙いはハンターたち、いやイスカに向けられている。
「やっぱり、問答無用で攻撃して来るのかぁ? ……それとも、お前の上官を守ろうとでも言うのかなぁ?」
歩哨の動向に注意を怠っていなかったヒース・R・ウォーカー(ka0145)が、槍の柄に手をかける。
しかし、歩哨を止めたのは意外にもアイゼンハンダーだ。
「Schluss Jetzt(止めろ)! 無警告で従軍聖職者に発砲するな! 交渉が終わるまでは待て!」
今度はアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が口を開いた。
「話に応じてくれるのなら、聞きたいことがあるんだが……あんたは、何故軍人になった?」……そして、何故革命側のヒルデブラントではなく、旧皇帝ブンドルフの側についた?」
「知れた事……故郷を、大切な人を守るために決まっている。それ以外の理由で軍人になる者などいるのか?」
「もっともらしい理由だな」
溜息をつくアルト。だが、アイゼンハンダーの言葉には続きがあった。
「と、答えられれば恰好も付くのだがな……」
「……どういう意味だ?」
「帝国では食べるために軍人になるしか無かった者も多い……私だってそうだった……」
「これは……意外な反応だねぇ」
ヒースも呟く。
融通の利かない生粋の帝国軍人、それが彼らの抱くアイゼンハンダーの印象だった。
「だけど、軍隊で本当に守りたい者が見つかった。お世話になった上官たち、辛い訓練や過酷な作戦を共にした部隊の戦友たち。そして、閲兵式で私はフロイラインに出会った……」
アイゼンハンダーの目が、ふっと優しい光を宿す。
「革命軍にも彼らの正義と理由があるのだろう。だが、私は一介の軍人だ。反乱軍の正義を慮って自分の守るべきものをないがしろにすることは出来なかった……それだけだよ」
そう静かに断言したアイゼンハンダーに妄執は感じられなかった。むしろ、数多の葛藤の果てに彼女が、その時彼女自身の置かれた状況と、それまでに歩いて来た道から選ぶしかなかった、そんな想いすらその答えには滲んでいた。
「……何だか、聞いていた印象と随分違うけど、あんたの答えは解った。じゃあ、次の質問だ。……人類の盾である筈の帝国軍人が歪虚とは何の冗談だ?」
一瞬はっとなったアイゼンハンダーだったが、すぐさま薄笑いを、わざとらしいくらいの薄笑いを浮かべてこう答えた。
「何を言っている『人間』め! 私は――歪虚などではない!」
二体の歪虚が戦闘態勢に入ったことを示すように、強烈な負のマテリアルが放出される。
ハンターたちは、会話の時間が終わったことを認識するしかなかった。
それでも、キララはこう持ち掛ける。
「戦しか道が無いというのなら、せめて一人の兵として万全の状態で参られよ」
「……何が言いたい?」
訝しむアイゼンハンダーに対し、今度はイスカが説明した。
「その兜、アイさんの格好に合ってないですが、そこの歩哨さんの物です? それならお返しして差し上げないと。兜は頭を守る大切な防具……アイさんもご存知ですよね?」
アイゼンハンダーはきょとんとした様子で、無意識に持っていた鉄兜と傍らの歩哨とを見比べていたが、やがて不敵に笑う。
「正々堂々……という訳か」
渡された鉄兜を霊体の歩哨が装備したのを確認したキララが刀を構えた。
「では、尋常に……大事なモノを賭けた『戦』を殺ろうではないか」
●
「……この威力は!」
自身のシールドが、歩哨の放った黒い弾丸を受け止めた時、その威力にイスカは驚愕していた。
亡霊はなおも精密な射撃を連発。イスカは何とか防いでいたが、長くは持ちそうにない。
「やるではないか……だが!」
しかし、亡霊が次の弾丸をイスカに向けて放った瞬間、キララのワイヤーウィップがうなる。
そのワイヤーは見事に銃剣の銃身と、着剣された刀身を切断した。
だが、亡霊には何の変化も無く、おまけに亡霊は切断された銃からなおも弾丸を放ってくる。
「巫女として、さ迷える魂は天に返さねばなりません……!」
今度はイスカが歩哨の兜に向けてホーリーライトを放つ。
イスカの放った輝く光の球は、狙い違わず歩哨の頭の鉄兜に命中し、光の爆発となって鉄兜を粉々に吹き飛ばす。
亡霊の虚ろな口が絶叫の形に開かれ、直後には霊体の頭部までもが光に飲み込まれていく。
「畳みかけます」
更に、イスカと同時に攻撃態勢に入っていたフローラ・ソーウェル(ka3590)が放った聖なる光と衝撃波が頭部と鉄兜を失った亡霊の全身を飲み込んでいく。
霊体は瞬く間に消滅し――後には切断された銃剣だけが地面に転がっていた。
●
「歪虚だと……違う、私は帝国軍人だ……!」
アイゼンハンダーはまだ動揺しているのか、ぶつぶつと呟き続けながら戦っている。
「お前は今、とても揺れている、ねぇ?」
ヒースの鋭い斬り込みを、辛うじて義手が弾くが、その動きに精彩は感じられない。
「赤毛の反徒か!? またしても邪魔を……!」
「戦ったり話したり色々忙しいね。まぁ、答えを出さなきゃいけないね、お互い。戦うモノとして何の為に誰の為に戦うのかを」
「私は戦友のために……お前たちに殺されていった者たちの無念を――!」
斬撃が弾かれたとみるや、即座にヒットアンドウェイで離脱を図るヒースを捕えようと生身の方の腕を伸ばす。しかし、その腕に今度はアルトのワイヤーが巻き付き、ヒースへの反撃を妨害する。
「……残念だな。もう少し話が出来るかと思ったんだけど」
「こんなものっ!」
アイゼンハンダーの両足が大地を踏みしめた。その臍力をもって、アルトを逆に引き寄せるつもりか。だが、その脚をアルトの物とは別の方向から伸びて来たワイヤーウィップが絡め取った。
「貴様は……!」
アイゼンハンダーの怒りに満ちた視線を向けられ、シュネー・シュヴァルツ(ka0352)は、ここで初めてフードを脱ぎ捨て素顔を見せる。
「新顔か? いや、どこかで見たような……」
「幾らお前でも、余所見をする余裕があるのかぁ?」
アイゼンハンダーがその声に振り向いた時、目に映ったのは黒い羽の生えたコウモリのような黒い幻影のみ。
次の瞬間にはヒースの構えた刃が眼前に迫っていた。
「ふぁふぇるはぁ(舐めるなぁ……!)
しかし、アイゼンハンダーはヒースが突き立てた槍を歯でがっちりと咥え込んで受け止めた。
「そう簡単にはいかないみたいだねぇ」
ヒースは槍を引き抜こうとして、気付く。アイゼンハンダーの片目を覆う包帯がいつの間にか解け、その下の眼が黒い炎を宿していることを。。
だが、その直後、マテリアルで構成された光の杭がアイゼンハンダーの足を大地に縫い止める。
「おのれ……!」
「歩哨さんは、無事天に帰ることが出来ました。貴女はどうなのです? アイさん」
イスカが穏やかな表情で言い放つ。
「今しかないか……!」
一方、アイゼンハンダーの抵抗が緩んだのを感じたアルトは、片手でワイヤー握りつつ魔導カメラを構えた。
「写真が手掛かりになれば……」
だが、アルトが片手で苦労しつつも、ようやくピントを合わせたその瞬間、何処からともなく発射された弾丸がアルトのカメラを貫いた。
「鉄兜は破壊したのに……!」
イスカが悲鳴を上げる。
ハンターたちの背後では霧散した筈の歩哨の霊体が再度集合しつつあった。その中心には銃剣が浮遊している。
『天に帰った、ですって……ほほほっ! 身勝手な人間共め!』
次の瞬間、アイゼンハンダーの足を封じていた光の杭が砕け散る。同時に響いた声の主は確かにアイゼンハンダーの筈。しかし、シュネーは違和感を覚え、思わずこう尋ねた。
「まさか……『貴女』なのですか……?」
アイゼンハンダーはシュネーの方に、黒い炎の燃える目を向けた。
「やはり……」
シュネーはそこに、かつて東方で遭遇した姑獲鳥という憤怒の歪虚の面影と意志を見た。
そして、アイゼンハンダーはシュネーから目を逸らすと慈しむ様な声色で歩哨へと語り掛ける。
『さあ、身勝手な人間によって全てを奪われた同胞よ。共に無念を晴らしましょうぞ!』
直後、アイゼンハンダーの背中から黒い炎によって形成された翼が出現する。
「皆さん、来ます……! 彼女から離れてください!」
シュネーは即座に、アイゼンハンダーに絡みつかせていたワイヤーを放すと、彼女自身はアルトを抱えての離脱を試みる。
「お前のいう事なら、間違いは無さそうかなぁ……!」
ヒースもそれ以上、攻撃に固執せずシュネーと共に離脱を図る。
だが、その二人の足元に突如黒い弾丸が浴びせかけられた。離脱を邪魔された二人は周囲を見渡し、ようやく味方の置かれた状況を理解した。
●
歩哨は、最早人型を留めていなかった。
本来、亡霊型の霊体は不定形であり、状況に応じてその形を変えるのは決して特殊な能力ではない。
今、歩哨は上半身だけの、辛うじて頭部だけが判別できる影のような姿に変化し、己の体を可能な限り広範囲に広げていた。
そして、この霊体の檻はシュネーたちだけでなく、キララたちをも追い詰めていた。6人のハンターたちは全員がアイゼンハンダーと歩哨に包囲されていたのである。
『閉じ込められた気分はどうかえ? このまま焼き殺してくれる! ……私の子供たちがされたように!』
翼が一際大きく燃え上がる。シュネーはそれが広範囲を焼き尽くす攻撃の全長であると推測していたが、歩哨によって退路が断たれている今、彼女に状況を打開する術は無かった。
一方、必死に思考を巡らせていたキララに目に、半透明の歩哨の霊体を通してある物が映った。
「……塚か!」
「任せてください」
フローラが斧を塚に向けて投げつける。
回転する刃が石を砕き、盛り上がった土に深々と突き刺さる。
その瞬間、歩哨は絶叫するように口を開ける。そして、霊体が徐々に黒い霧となって飛散し始める。
「皆さん、早く……!」
シュネーが叫ぶと同時に、ハンターたちは全力でアイゼンハンダーから離れ、直後に起きた黒い炎による爆発からは逃れることが出来た。
●
最初に異変に気付いたのはシュネーだった。
「まさか……あの時と同じ……」
風に吹き散らされるかに見えた歩哨の霊体の残滓が、焦げた地面の中央に立つアイゼンハンダーの方に集まり始める。
やがて、歩哨の霊体を吸収し終えたアイゼンハンダーはこう呟いて立ち去ろうとした。
「貴様の無念……確かに受け取った。さあ、本隊の捜索を続行しよう」
「待ってください」
その背中にフローラが声をかける。
「……?」
訝し気な表情で振り向くアイゼンハンダーの前でフローラは仮面を取って見せた。
「こうして会うのも四度目ですか」
「貴様、斧兵か……?」
アイゼンハンダーが戸惑ったのは、フローラの雰囲気が以前と違うせいだろうか。
「――かつてあなたはおっしゃった。『皆は自由になったんだ』と。そう、”私も自由になった”のです」
「……良かったね」
意外なほど優しい声色に動揺しつつも、フローラは質問を止めない。
「なのに、あなたはなにをしているのです? あなたは『戦友』を自由にするどころか、そうやって自らに取り込むことで、縛り付けるのですか――!」
僅かにではあるが声に怒りを滲ませるフローラ。
「貴女は本当に自由になったんだ……でもね、私『たち』は、違う」
「何を――」
『解らぬか。人間共』
答えたのは、義手だった。
『それは、生き残った者の、勝ち残った者の理屈だ』
義手は、この場にいるハンターたち全員に語り掛けていた。
『人として踏みにじられたからこそ、ここに歪虚として居るのだ。それを討ち果たすことが解放だというのなら、戦うしか無かろう』
「――うん、わかったよ。ようやく解った……だから、私は選ばれたんだね」
アイゼンハンダーは、そう呟きながら愛おし気に義手を撫でた。
だが、フローラはなおも言い募る。
「――私はあなたと同じモノ。仲間のために戦う者。だから私は、あなたを斬る。あなたがいつまでも不自由では、哀れ過ぎて涙も出ません。何より……先に逝ったご友人が、きっと心配なさっているでしょうから」
最後にヒースが語り掛けた。
「ようやく選ぶことが出来たのかぁ? だとしてもボクらがやる事には変わりない。戦士も軍人も、戦う以外の道は選べないモノだからねぇ」
アイゼンハンダーは無言のまま、今度こそ飛翔して、暗闇の空を飛び去って行く。
「だから……縁があったらまた会おう、ツィカーデ」
去って行くアイゼンハンダーを見上げながらヒースが呟いた。
一方、シュネーは帰還の際にも考え続けていた。
(元軍人としては彼女の気持ち、個人としては彼女が取り込んだ力の持ち主の狂おしさもわからないでもない……でも、だからこそ、何時か倒す事が彼女と彼女を解放する術なのだろうか……)
なお、アルトのカメラは報告を受けたエイゼンシュテインの配慮で後に補填されたそうである。
最初に彼に語りかけたのは星輝 Amhran(ka0724)であった。
「成る程。歪虚として現界したにもかかわらず上官に忠誠を尽くすその姿、聞きしに勝る忠国の士といった風情じゃの」
動揺か、単に霊体であるが故の不安定さか、星輝(以下キララと表記)の言葉に歩哨の輪郭が揺れた。
しかし、次の瞬間にはアイゼンハンダーが跳ね起きて叫ぶ。
「敵襲か!」
だが、6名から戦意を感じなかったせいか、アイゼンハンダーもまた生還する様子を見せる。
「革命軍には違いないようだが……少し、様子をみるか」
アイゼンハンダーが攻撃して来ないことを確認したキララが歩哨に質問する。
「……お主の上官殿じゃが、少々乱心されているとは感じんか?」
「……なんだと?!」
自分の事を言われたアイゼンハンダーが一歩前に出た。しかし、Uisca Amhran(ka0754)がそれを制止する。
「……では、問います。アイさん」
「え……?」
いきなりあだ名で呼ばれ、戸惑うアイゼンハンダー。しかしUisca(以下イスカ)は全く意に介した様子も無い。
「貴女はアイゼンハンダーさんでしょう? だからアイさんです。それとも本当の名前を名乗ってくれます?」
「反徒に名乗る名前など無い!」
「なら、アイさんです。さて、アイさん、その塚が見えますか?」
「これがどうしたというのだっ?」
「塚があるという事は、一緒に居る歩哨さんはすでに死んでいる筈です。それを認めないのは貴女の『戦友』に対する冒涜ではありませんか?」
「な、何を言っている、貴様!」
イスカの指摘は、アイゼンハンダーの精神が抱える矛盾を突いたらしい。すっかり動揺したアイゼンハンダーは、縋るように傍らの歩哨に問いかける。
「その従軍聖職者の言う通りなのか……?」
だが、それに対する歩哨の返答は、持ち上げられた銃口であった。無論、その狙いはハンターたち、いやイスカに向けられている。
「やっぱり、問答無用で攻撃して来るのかぁ? ……それとも、お前の上官を守ろうとでも言うのかなぁ?」
歩哨の動向に注意を怠っていなかったヒース・R・ウォーカー(ka0145)が、槍の柄に手をかける。
しかし、歩哨を止めたのは意外にもアイゼンハンダーだ。
「Schluss Jetzt(止めろ)! 無警告で従軍聖職者に発砲するな! 交渉が終わるまでは待て!」
今度はアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が口を開いた。
「話に応じてくれるのなら、聞きたいことがあるんだが……あんたは、何故軍人になった?」……そして、何故革命側のヒルデブラントではなく、旧皇帝ブンドルフの側についた?」
「知れた事……故郷を、大切な人を守るために決まっている。それ以外の理由で軍人になる者などいるのか?」
「もっともらしい理由だな」
溜息をつくアルト。だが、アイゼンハンダーの言葉には続きがあった。
「と、答えられれば恰好も付くのだがな……」
「……どういう意味だ?」
「帝国では食べるために軍人になるしか無かった者も多い……私だってそうだった……」
「これは……意外な反応だねぇ」
ヒースも呟く。
融通の利かない生粋の帝国軍人、それが彼らの抱くアイゼンハンダーの印象だった。
「だけど、軍隊で本当に守りたい者が見つかった。お世話になった上官たち、辛い訓練や過酷な作戦を共にした部隊の戦友たち。そして、閲兵式で私はフロイラインに出会った……」
アイゼンハンダーの目が、ふっと優しい光を宿す。
「革命軍にも彼らの正義と理由があるのだろう。だが、私は一介の軍人だ。反乱軍の正義を慮って自分の守るべきものをないがしろにすることは出来なかった……それだけだよ」
そう静かに断言したアイゼンハンダーに妄執は感じられなかった。むしろ、数多の葛藤の果てに彼女が、その時彼女自身の置かれた状況と、それまでに歩いて来た道から選ぶしかなかった、そんな想いすらその答えには滲んでいた。
「……何だか、聞いていた印象と随分違うけど、あんたの答えは解った。じゃあ、次の質問だ。……人類の盾である筈の帝国軍人が歪虚とは何の冗談だ?」
一瞬はっとなったアイゼンハンダーだったが、すぐさま薄笑いを、わざとらしいくらいの薄笑いを浮かべてこう答えた。
「何を言っている『人間』め! 私は――歪虚などではない!」
二体の歪虚が戦闘態勢に入ったことを示すように、強烈な負のマテリアルが放出される。
ハンターたちは、会話の時間が終わったことを認識するしかなかった。
それでも、キララはこう持ち掛ける。
「戦しか道が無いというのなら、せめて一人の兵として万全の状態で参られよ」
「……何が言いたい?」
訝しむアイゼンハンダーに対し、今度はイスカが説明した。
「その兜、アイさんの格好に合ってないですが、そこの歩哨さんの物です? それならお返しして差し上げないと。兜は頭を守る大切な防具……アイさんもご存知ですよね?」
アイゼンハンダーはきょとんとした様子で、無意識に持っていた鉄兜と傍らの歩哨とを見比べていたが、やがて不敵に笑う。
「正々堂々……という訳か」
渡された鉄兜を霊体の歩哨が装備したのを確認したキララが刀を構えた。
「では、尋常に……大事なモノを賭けた『戦』を殺ろうではないか」
●
「……この威力は!」
自身のシールドが、歩哨の放った黒い弾丸を受け止めた時、その威力にイスカは驚愕していた。
亡霊はなおも精密な射撃を連発。イスカは何とか防いでいたが、長くは持ちそうにない。
「やるではないか……だが!」
しかし、亡霊が次の弾丸をイスカに向けて放った瞬間、キララのワイヤーウィップがうなる。
そのワイヤーは見事に銃剣の銃身と、着剣された刀身を切断した。
だが、亡霊には何の変化も無く、おまけに亡霊は切断された銃からなおも弾丸を放ってくる。
「巫女として、さ迷える魂は天に返さねばなりません……!」
今度はイスカが歩哨の兜に向けてホーリーライトを放つ。
イスカの放った輝く光の球は、狙い違わず歩哨の頭の鉄兜に命中し、光の爆発となって鉄兜を粉々に吹き飛ばす。
亡霊の虚ろな口が絶叫の形に開かれ、直後には霊体の頭部までもが光に飲み込まれていく。
「畳みかけます」
更に、イスカと同時に攻撃態勢に入っていたフローラ・ソーウェル(ka3590)が放った聖なる光と衝撃波が頭部と鉄兜を失った亡霊の全身を飲み込んでいく。
霊体は瞬く間に消滅し――後には切断された銃剣だけが地面に転がっていた。
●
「歪虚だと……違う、私は帝国軍人だ……!」
アイゼンハンダーはまだ動揺しているのか、ぶつぶつと呟き続けながら戦っている。
「お前は今、とても揺れている、ねぇ?」
ヒースの鋭い斬り込みを、辛うじて義手が弾くが、その動きに精彩は感じられない。
「赤毛の反徒か!? またしても邪魔を……!」
「戦ったり話したり色々忙しいね。まぁ、答えを出さなきゃいけないね、お互い。戦うモノとして何の為に誰の為に戦うのかを」
「私は戦友のために……お前たちに殺されていった者たちの無念を――!」
斬撃が弾かれたとみるや、即座にヒットアンドウェイで離脱を図るヒースを捕えようと生身の方の腕を伸ばす。しかし、その腕に今度はアルトのワイヤーが巻き付き、ヒースへの反撃を妨害する。
「……残念だな。もう少し話が出来るかと思ったんだけど」
「こんなものっ!」
アイゼンハンダーの両足が大地を踏みしめた。その臍力をもって、アルトを逆に引き寄せるつもりか。だが、その脚をアルトの物とは別の方向から伸びて来たワイヤーウィップが絡め取った。
「貴様は……!」
アイゼンハンダーの怒りに満ちた視線を向けられ、シュネー・シュヴァルツ(ka0352)は、ここで初めてフードを脱ぎ捨て素顔を見せる。
「新顔か? いや、どこかで見たような……」
「幾らお前でも、余所見をする余裕があるのかぁ?」
アイゼンハンダーがその声に振り向いた時、目に映ったのは黒い羽の生えたコウモリのような黒い幻影のみ。
次の瞬間にはヒースの構えた刃が眼前に迫っていた。
「ふぁふぇるはぁ(舐めるなぁ……!)
しかし、アイゼンハンダーはヒースが突き立てた槍を歯でがっちりと咥え込んで受け止めた。
「そう簡単にはいかないみたいだねぇ」
ヒースは槍を引き抜こうとして、気付く。アイゼンハンダーの片目を覆う包帯がいつの間にか解け、その下の眼が黒い炎を宿していることを。。
だが、その直後、マテリアルで構成された光の杭がアイゼンハンダーの足を大地に縫い止める。
「おのれ……!」
「歩哨さんは、無事天に帰ることが出来ました。貴女はどうなのです? アイさん」
イスカが穏やかな表情で言い放つ。
「今しかないか……!」
一方、アイゼンハンダーの抵抗が緩んだのを感じたアルトは、片手でワイヤー握りつつ魔導カメラを構えた。
「写真が手掛かりになれば……」
だが、アルトが片手で苦労しつつも、ようやくピントを合わせたその瞬間、何処からともなく発射された弾丸がアルトのカメラを貫いた。
「鉄兜は破壊したのに……!」
イスカが悲鳴を上げる。
ハンターたちの背後では霧散した筈の歩哨の霊体が再度集合しつつあった。その中心には銃剣が浮遊している。
『天に帰った、ですって……ほほほっ! 身勝手な人間共め!』
次の瞬間、アイゼンハンダーの足を封じていた光の杭が砕け散る。同時に響いた声の主は確かにアイゼンハンダーの筈。しかし、シュネーは違和感を覚え、思わずこう尋ねた。
「まさか……『貴女』なのですか……?」
アイゼンハンダーはシュネーの方に、黒い炎の燃える目を向けた。
「やはり……」
シュネーはそこに、かつて東方で遭遇した姑獲鳥という憤怒の歪虚の面影と意志を見た。
そして、アイゼンハンダーはシュネーから目を逸らすと慈しむ様な声色で歩哨へと語り掛ける。
『さあ、身勝手な人間によって全てを奪われた同胞よ。共に無念を晴らしましょうぞ!』
直後、アイゼンハンダーの背中から黒い炎によって形成された翼が出現する。
「皆さん、来ます……! 彼女から離れてください!」
シュネーは即座に、アイゼンハンダーに絡みつかせていたワイヤーを放すと、彼女自身はアルトを抱えての離脱を試みる。
「お前のいう事なら、間違いは無さそうかなぁ……!」
ヒースもそれ以上、攻撃に固執せずシュネーと共に離脱を図る。
だが、その二人の足元に突如黒い弾丸が浴びせかけられた。離脱を邪魔された二人は周囲を見渡し、ようやく味方の置かれた状況を理解した。
●
歩哨は、最早人型を留めていなかった。
本来、亡霊型の霊体は不定形であり、状況に応じてその形を変えるのは決して特殊な能力ではない。
今、歩哨は上半身だけの、辛うじて頭部だけが判別できる影のような姿に変化し、己の体を可能な限り広範囲に広げていた。
そして、この霊体の檻はシュネーたちだけでなく、キララたちをも追い詰めていた。6人のハンターたちは全員がアイゼンハンダーと歩哨に包囲されていたのである。
『閉じ込められた気分はどうかえ? このまま焼き殺してくれる! ……私の子供たちがされたように!』
翼が一際大きく燃え上がる。シュネーはそれが広範囲を焼き尽くす攻撃の全長であると推測していたが、歩哨によって退路が断たれている今、彼女に状況を打開する術は無かった。
一方、必死に思考を巡らせていたキララに目に、半透明の歩哨の霊体を通してある物が映った。
「……塚か!」
「任せてください」
フローラが斧を塚に向けて投げつける。
回転する刃が石を砕き、盛り上がった土に深々と突き刺さる。
その瞬間、歩哨は絶叫するように口を開ける。そして、霊体が徐々に黒い霧となって飛散し始める。
「皆さん、早く……!」
シュネーが叫ぶと同時に、ハンターたちは全力でアイゼンハンダーから離れ、直後に起きた黒い炎による爆発からは逃れることが出来た。
●
最初に異変に気付いたのはシュネーだった。
「まさか……あの時と同じ……」
風に吹き散らされるかに見えた歩哨の霊体の残滓が、焦げた地面の中央に立つアイゼンハンダーの方に集まり始める。
やがて、歩哨の霊体を吸収し終えたアイゼンハンダーはこう呟いて立ち去ろうとした。
「貴様の無念……確かに受け取った。さあ、本隊の捜索を続行しよう」
「待ってください」
その背中にフローラが声をかける。
「……?」
訝し気な表情で振り向くアイゼンハンダーの前でフローラは仮面を取って見せた。
「こうして会うのも四度目ですか」
「貴様、斧兵か……?」
アイゼンハンダーが戸惑ったのは、フローラの雰囲気が以前と違うせいだろうか。
「――かつてあなたはおっしゃった。『皆は自由になったんだ』と。そう、”私も自由になった”のです」
「……良かったね」
意外なほど優しい声色に動揺しつつも、フローラは質問を止めない。
「なのに、あなたはなにをしているのです? あなたは『戦友』を自由にするどころか、そうやって自らに取り込むことで、縛り付けるのですか――!」
僅かにではあるが声に怒りを滲ませるフローラ。
「貴女は本当に自由になったんだ……でもね、私『たち』は、違う」
「何を――」
『解らぬか。人間共』
答えたのは、義手だった。
『それは、生き残った者の、勝ち残った者の理屈だ』
義手は、この場にいるハンターたち全員に語り掛けていた。
『人として踏みにじられたからこそ、ここに歪虚として居るのだ。それを討ち果たすことが解放だというのなら、戦うしか無かろう』
「――うん、わかったよ。ようやく解った……だから、私は選ばれたんだね」
アイゼンハンダーは、そう呟きながら愛おし気に義手を撫でた。
だが、フローラはなおも言い募る。
「――私はあなたと同じモノ。仲間のために戦う者。だから私は、あなたを斬る。あなたがいつまでも不自由では、哀れ過ぎて涙も出ません。何より……先に逝ったご友人が、きっと心配なさっているでしょうから」
最後にヒースが語り掛けた。
「ようやく選ぶことが出来たのかぁ? だとしてもボクらがやる事には変わりない。戦士も軍人も、戦う以外の道は選べないモノだからねぇ」
アイゼンハンダーは無言のまま、今度こそ飛翔して、暗闇の空を飛び去って行く。
「だから……縁があったらまた会おう、ツィカーデ」
去って行くアイゼンハンダーを見上げながらヒースが呟いた。
一方、シュネーは帰還の際にも考え続けていた。
(元軍人としては彼女の気持ち、個人としては彼女が取り込んだ力の持ち主の狂おしさもわからないでもない……でも、だからこそ、何時か倒す事が彼女と彼女を解放する術なのだろうか……)
なお、アルトのカメラは報告を受けたエイゼンシュテインの配慮で後に補填されたそうである。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/08/09 22:44:46 |
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第一師団副長殿に質問が…! アルト・ヴァレンティーニ(ka3109) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/08/13 00:07:23 |
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作戦相談所 ヒース・R・ウォーカー(ka0145) 人間(リアルブルー)|23才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/08/13 22:15:43 |