WOUNDED BONDS

マスター:真柄葉

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~10人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2016/08/17 07:30
完成日
2016/08/21 18:45

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●砦
 高地の薄い空気をかき集める様に大きく息を吸う。
「西! 第二波来るぞ!!」
 簡易の櫓からもたらさせた報に、顔を上げた。
「馬防柵の数は!」
「あと二! そう多くはもたないぞ!」
 即座に返ってくる報告に、拳を握る。
(敵はまだ400……。このまま防柵に頼っていたら……思い出せ……思い出せ……!)
 こんな時、団長ならどんな決断を下すか。
 共に駆け抜けた数々の戦場、そして戦況が脳裏に甦る。
「どうするソニア! 指示を出せ!!」
 司令官の沈黙に耐えかねたのか櫓の上からの怒声にも似た要求の声がかかる。
「馬防柵を破棄する! 岩を落として!!」
「なにっ!? 柵を放棄する気か! そんなことをすれば、残りは門だけになるぞ!!」
 当然の返答。
「このまま馬防柵まで抜かれたら、岩を落とすタイミングがなくなってしまう! 使える武器は使える時に使え! 何度も聞かされた言葉でしょ!」
 だが、有無は言わせない。そんなことをすれば指揮系統が混乱してしまう。
「典光、復唱!」
「ちぃっ! どうなっても知らないからな!」
 隻眼の偵察兵との視線のぶつけ合いに勝利し、ソニアは大きく一息ついた。
 典光と呼ばれた男が、すぐさま部下に攻撃の準備をさせる。
 その様子を見ながらソニアは、崖に掘られた洞窟へ視線を遣った。
「……団長」
 この砦へ撤退させるために自ら殿を買って出た『手負いの絆傭兵団』団長は、今静かにあの洞窟で眠っている。
 まだまだたくさん聞きたいことがあった。
 戦傷兵の集団であるこの傭兵団での戦い方。
 舐められ飼い殺しにされない為の交渉術。
 兵を餓えさせない為の集団運営術。
 そして、若年の自分が何故副長に選ばれたのか。
「ソニア、ソニア――」
「えっ」
 聞き覚えのある声に、ソニアははっと顔を上げた。
「大丈夫か。息が荒いぞ?」
「……なんだ、レイニードか」
 瞳に映った顔に落胆し、差し出された水を一気にあおる。
「おいおい、兄貴とでも思ったか?」
「っ!」
「はは、図星かよ」
 一瞬恨めしげに見上げてから、大きく肩を落とした。
「そうよ、図星よ」
 付き合いの長いこの男に、変に弁明でもしようものなら余計に遊ばれるのは目に見えている。
「ねぇ、どうしてあなたじゃないの……」
「あん?」
「副長のポストも、次期団長のポストも、本当ならあなたが受け継ぐべきじゃない……」
 ずっとずっと言えずに心の奥に溜まっていた思いが、溢れてくる。
 ソニアは溢れ続ける言葉を吐き出し続けた。
「俺はずっと一匹狼だ。人を纏め上げるなんざぁ出来ねぇよ」
「そんなことない! 私みたいな若輩の女より全然経験もあるし、皆からの信頼も……!」
 不安を形にするように言葉を吐き出し続けるソニアに対し、レイニードは鼻に指を突っ込む。
「まぁ、そうだな」
 指について出てきた巨大な黒塊を、まずまずと頷きながら、ピンと弾いた
「理想を語ることは簡単だ。だけどな、自ら実践するのはすげぇ難しい」
「な、何よいきなり……」
 ゴソゴソと懐をあさり、レイニードはくしゃくしゃになった煙草を取り出す。
「だからこそ、とにかくどんな状況に立たされても、最善を尽くして生きていかなきゃならねぇ。その結果が、うまくいく時もあれば、そうでない時もあるあるだろうよ。それどころか、間違いを犯すことだってある。でもな――」
 しけた煙草を口に咥え、ジッポーを何度も擦る。
「自分自身に誠実であり、そしてなにより、自分の描いた夢に向かって、精一杯生きていくことができる奴だ」
 ようやく点いた煙草を一気に吸い込んだ。
「お前にはこの傭兵団を導きたい先があるんだろ?」
「っ!」
 紫煙を雲のように吐き出して。
「残念ながら俺にはそんな崇高な夢はねぇ。自分が生きていくのが精いっぱいだ」
「だ、だからって!」
「兄貴がお前を選んだ理由が理解できたか?」
「……っ!」
 頭が納得を拒んでいるのがわかる。しかし、理性は首を縦に振っていた。
「私が……私で、本当にいいの?」
『お前以外に誰がいるんだ』
 レイニードの声があの人の声と重なった。
「おいおい、泣いてる場合か?」
「な、泣いてないっ!」
 溢れる涙を一本しか残っていない腕で強引に拭いとる。
「そうかそうか。それは重畳重畳。んじゃまぁ、俺は持ち場に戻るわ。よろしく、団長さん」
「ま、まだ団長じゃないわよっ!」
「へいへい、副団長さん。何でもいいんでこの状況をよろしくしてやってくれや」
 器用に長銃を杖にして、片足の狙撃兵は去っていった。

 ばんっ!

 残った掌で思い切り頬を張った。
「よしっ!」
 じんじんとしびれを訴える頬を無視し、ぬける様な空を見上げる。
「この砦、必ず守るわよ!」
 突然響き渡ったソニアの大声に、傭兵団の皆が何事かと視線を向けた。
「みんな、勝鬨を上げろ!!」
 最初はまばらに、そして声は、波を打つように広がっていく。

『おおぉぉおおぉぉぉぉぉっっ!!!!』

 突然巻き起こる怒号の様な声に、崖下の歪虚たちですら何事かと一瞬動きを止めた。

「……あなた達には関係のない戦いだから、こんな事頼むのは、本当は筋違いだと思う。それでもお願い……」
 散り散りに持ち場に戻っていく士気高い仲間達を見送り、ソニアはハンター達に向かう。
「私達を助けて」
 恥も外聞もない心からの願いと共に、ソニアは深々と頭を下げた。

リプレイ本文

●砦
「顔を上げてください」
 深く首を垂れたソニアに、レイレリア・リナークシス(ka3872)は微笑みかける。
「傭兵団と随行するにあたって、このような事態も覚悟の上。あなた方の責任ではありません」
「そうよ。悪いのは無能な将に率いられた帝国軍の方。あなた達『手負いの絆』は立派に責務を果たしているわ」
 レイレリアと並ぶコントラルト(ka4753)もまた、表情を緩めた。
「じゃ、じゃぁ」
「当然です。ここであなた方を見捨てては、私が自身を許せません」
「私も当然協力するわ。傭兵に縁ある者として、見殺しになんてできない」
「……ありがとう」
「傭兵が涙なんて見せるもんじゃない」
 二人の心の籠った決意に当てられ声を震わせるソニアの頭を、エヴァンス・カルヴィ(ka0639)が乱暴に掻く。
「そう言う事っす、団長。さぁ、指示を。皆、あなたの号令を待ってるんすから」
 無限 馨(ka0544)が、不安な視線を向ける傭兵団を指さした。
「今は立派な団長を演じるっす。上の不安はすぐに下に伝播するっすよ」
 耳打ちされた馨の言葉に、ソニアははっと背筋を伸ばすと、威勢よく号令を発した。


 坂を落とされた巨岩が、ひしめく歪虚の群れを押し潰す。
「敵は乱れた! 今こそ好機よ!! 後方支援隊を残し――全軍突撃! 蹴散らせぇぇ!!」
 ソニアの一声に再びの鬨の声が上がった。

 ハンター達の先導の元、前衛が一気に坂道を駆け下りる。
 裂帛の気合いを纏った覚醒者の一団が鋒矢を形作り、落石の策により混乱する敵軍に突き刺さった。
「はっはっはっ! どうしたどうした有象無象共! この程度の包囲で、俺を殺せるなんて思ってないだろうな!!」
 愛馬を駆り先陣を駆けるエヴァンスが、蒼翠に輝く大剣を薙ぎ払い、混乱する烏賊兵の数体を纏めて両断した。
「すっごいなぁ。まるで敵がゴミのようだー」
 破竹の勢いで敵陣を切り裂くエヴァンスの奮迅ぶりを、葛音 水月(ka1895)は観客気分で見つめる。
「ほらほら、なーにのんびりしてるっすか」
 やんややんやと喝采を送る水月の肩に、馨が手を置いた。
「僕達いらなくないですー? ほら、エヴァンスさん無双ってますし」
 答える水月が超速の抜刀で邪石像の首を跳ね飛ばす。
「今は全力出してるだけっすよ。それも長くは続かないっす」
 水月の肩に置いた手はそのままに、残る手で投げられたカードが烏賊兵の眉間を貫いた。

 琥珀色の残影を残し生まれた衝撃波は、一陣の風となり敵兵を薙ぎ払った。
「……はぁはぁ、ったく、きりがねぇな!」
 必殺の一撃が切り裂いた敵陣は、見る間に新たな敵影に塗りつぶされる。
 エヴァンスは沼を手で突く様な薄い手応えに、辟易と声を漏らした。
「そろそろ頃合いっすよ」
「時間か!」
「正解でーす。ほらほら、あれ」
 と、水月が指差したのは砦の南側。こちらに向けて敵兵が大挙しているのが見える。
「『釣れた』っすよ」
 息弾むエヴァンスに、馨は口元を僅かに釣り上げた。

「満ちたりて満ちたりて――天衝く紅蓮の腕よ。灼熱の拳を持て大地を砕けっ! ファイアボールっ!」
「――心粛正鵠。淡弓百々。ただ粛々とただ淡々に、あるがままに貫きなさい。ファイアースローワー!」
 生まれた劫火の巨球と業火の豪雨が、相乗の協演をもって、増援の頭上に降り注ぐ。
 マテリアルの狂乱が無慈悲な審判を下す時、敵兵達は熱を感じる間もなく炭と化し、崩れて消えた。

 これに合わせ前線は、さらに敵陣深くへと切り込みをかける。
 炭の墓場と化した戦場を突っ切り、敵が殺到する南側へと深く切り込んだ。
 援護を受けつつ戦場を蹂躙する前衛は、混乱する敵兵に容赦のない一撃を加えていく。
「次はどいつだ! 死にたい奴からかかって――」
「エヴァンスさん、時間ですー! そろそろ、撤退をお願いします!」
 獲物を求めるエヴァンスに、水月は覚醒限界を知らせるアラームの鳴動を伝える。
「ちっ! おまえら命拾いしたな! 前衛、退くぞ!」
 敵兵に唾を吐きかけエヴァンスは、愛馬の嘶きと共に踵を返すと鞭を入れた。


 撤退を開始した坂に達した前衛を見送り、二人は視線を交える。
 混乱の極みにあった敵軍も徐々に秩序を取り戻し再び体制を立て直し始めていた。

「我は此処にあり! 死にたい奴は出てきて勝負しろ!」

 群がる敵軍へ向け、水月はどんと刀の柄を地面に突き立て大喝をくらわせた。
「おや、張益徳っすか」
「ですです、一度やってみたかったんですよねー。馨さんも一緒にどうですか?」
 にししと無邪気な笑みを浮かべる水月。
「そうっすねぇ。やりたいのはやまやまっすけど……効果ないみたいっすよ?」
 と、馨が指さした敵軍は、水月の威嚇など気にもせず続々と押し寄せてきていた。
「あれれ? 恐怖とか畏怖とか、そういうの期待したんですけど、ね?」
「想像よりよっぽどバカって事っすね。――という事で、戦略的撤退っす」
「残念。仕方ないですねー、戦略的ー戦略的ー」
 顔を見合わせた二人はとっとと踵を返した。

 殿で敵を迎え撃った二人は、疾影士の戦い方を存分に見せつける。
 馨が敵を引き付け坂を登れば、背後から水月が放つ神速の太刀が首を掻く。
 水月が敵としのぎを削れば、頭上から馨の一太刀が振り下ろされた。
 二人ははつるべ式に入れ替わり、敵の突撃を鎬ながら坂を上る。
「それじゃ、仕上げっす!」
 撤退の時間は十分に稼いだ。馨が発煙手榴弾を押し寄せる敵兵に向け投げつけた。

「前線が退きましたか。コントラルトさん、こちらも退きましょう」
 煙幕の合図を受け、坂中にて眼下の敵に痛打を与えていた二人が顔を見合わせた。
「ええ、頃合いね」
「レイニード様、中衛も下がります! 前線へ支援隊の援護を!」
 レイレリアが砦から支援を行っていたレイニード以下支援隊へ声を飛ばした。

●砦
 機先を制する奇襲の成果に、砦の兵達の士気は高い。
「こんな死地だってのに、生気に溢れてる。悪くない状況だな」
 そんな、傭兵達を横目にカイ(ka3770)はふらりふらりと砦を散歩していた。
「よぉ、見張ご苦労さん。差し入れだ」
 丸太で組まれた櫓に着いたカイは、背を伸ばし見張り台にカップを置く。
「で、状況はどうだ?」
「静かなものよ」
 カップを受け取り、敵の監視を行うコントラルトが答えた。
「数は?」
「目測で200と少しかしら」
「半分か……」
「欲を言えばもう少し減らしておきたかったわね」
「敵も案山子じゃないしな。半数も減らしたんだ、満足しておけって」
 初檄に全てを賭ける勢いで行った落石策と突撃により、敵の半数を減らす大成果を上げた。
 しかし、それでもなお、彼我の戦力差は7対1。コントラルトの言葉の理由もよくわかる。
「それで? まだ何かあるかしら? できれば監視に集中したいのだけど」
「いや、ありがとな。そんじゃ、引き続きよろしく」
「ええ、あなたも仕事してね」
 チクリと釘を刺すコントラルトに軽く手を振り、カイは再びぶらりと砦を行く。

「へぇ、ここは涼しいな」
 日陰に入れば流石高地、ひんやりととても過ごしやすい。
「少し休んでいかれますか?」
「ん? いいのか?」
「ただし、お昼寝はダメですよ?」
 北側の洞窟へと足を踏み入れたカイを、レイレリアが迎えた。
 彼女は先の突撃で負傷した者の介護に当たっている。
「生憎、陽だまりの方が好きなんでね。って、そうじゃなくて。負傷者の方はどうだ?」
「怪我人への治療は施しました。命に別状ありませんが、この防衛戦に復帰するのは……」
「ふむ……何人いるんだ?」
「五名ですね」
「五か……」
 戦線へ出せない兵が五名。これで彼我の戦力差がさらに広がった。カイは口元に手を当てしばし思考に沈む。
「何か考えでも?」
「……うん? いや、まぁ、ちょっと奥も見てくるわ」
 レイレリアの問いかけに答えをぼかしたカイは、更に洞窟の奥へと足を踏み入れた。

●二日目
 朝日が眼下で蠢く敵兵の姿を鮮明に照らし出す。
「動きはどうだ?」
「いや、無いな……」
 エヴァンスは夜を徹して監視を行っていたレイニードに熱い珈琲を差し出した。
「本当は酒の方がよかったんだろうけどな」
「いやいや、目覚めの一杯としては最高だ」
 レイニードは差し出された珈琲に口をつける。
「しかし、噂に聞くお前達とこんな所で仕事ができるとはな」
「はは、ろくな噂じゃないんだろ?」
「最高の噂だぜ? ただし、『傭兵にとっては』だけどな」
 大方、死神とでも噂されてるのだろうと、レイニードは苦笑を浮かべた。
「敵はどうだ?」
 レイニードとのやり取りに満足したのかエヴァンスは眼下の視線を遣ると、懐から写真を数枚取り出した。
 コントラルトが撮り貯めていた写真と現状を何度も見比べ、エヴァンスは呟く。
「どういう事だ……後退してる」
「なに?」
 写真で残しておかなければ気付かなかったであろうほんの小さな変化。
「いや違う……整列している、のか?」

 それが何を意味するのか。
 この発見に、砦内で議論は紛糾するが、結局答えの出ぬまま――三日目の朝を迎えた。

●早朝
 東の空が白み始めた早暁。砦に甲高い笛の音が響き渡った。
「西より邪石像の一団!」
 まるで行進でもするように二列横隊の邪石像が整然と坂道を登ってくる。
「南から東、一眼兵他多数!!」
 包囲網を狭める様に二列縦隊の一眼兵と烏賊兵が砦との距離を詰めていた。
「来た……!」
 敵の総攻撃にソニアの表情に緊張が走る。
「皆、ここが踏ん張りどころよ! あと一日、絶対守りきるわよ!」
 皆の視線を受けたソニアが発した檄が砦に響き渡った。

 ハンター達の提案で三交代で行われていた警戒態勢を二交代の戦時下体制に移行し、それぞれ迎撃態勢に移る。
 西は城門を死守する為、門の左右から銃撃と、レイレリア、コントラルトによる炎撃が加えられ、敵兵の前進を阻止している。
 しかし、南から東にかけては――。
「くそっ、一体何をやっているんだ!」
 典光がイラつきに言葉を吐き出した。眼下では一眼兵達が砦の影に次々と吸い込まれていく。
「何をする気だ……」
 そして、間もなく、馨の張った鳴子などかき消す程の大音量と共に大地が揺れた。

 巨大な一眼兵が隊列を成し、何度となく砦を支える岩盤に拳を打ち付けていた。
「……まずい! 急いで止めるんだ!!」
 眼下で繰り広げられる行為に、カイはすぐさま周りに声をかける。
「崩しに来てるぞ!!」
 カイの言葉に一瞬呆然とした傭兵団の面々は、瞬時に表情を引き締めると、崖の縁に駆け寄った。
「だめだ! 射線が……!」
 しかし、地形上、壁に張り付く一眼兵を直接狙う事ができない。
 困難ながらも工夫し、迎撃に当たるが、地鳴りは絶えることなく続いている。
 そして、その時は訪れる――。
「き、亀裂?!」
 南西から北東にかけ刻まれた一筋の亀裂は、すぐにその幅を増やす。
「崩れるぞぉ!! 退避しろぉぉ!!」
 カイの叫び声もかき消す程の轟音を伴って、砦は一瞬にして面積の半分を失った。

「くそっ! 何人落ちた!!」
「ろ、六人だ!」
「ちぃ! 今助けに行くぞ!!」
「待って! ……もう遅いよ」
 崩落した崖へ身を躍らせようとしていたエヴァンスを、水月が止める。
 崖下で発せられていた悲鳴も、すでに歪虚達の絶叫にかき消されていた。

「ソニア様、ご提案があります」
 混乱を収めようと必死で指揮を執っていたソニアの元に、レイレリアが現れた。
「な、なに?」
 レイレリアの表情の奥に決意めいたものを感じ、ソニアは息を飲む。
「坂を――落します」
「えっ!?」
「このままでは登坂され挟撃に遭います。そうなれば全滅しか道はありません」
 坂を落とすという事は自らの退路を断つという事。
 驚愕するソニアに、レイレリアは落ち着き払った声で思いを伝える。
「私もその考えに同意よ」
「あなたまで!」
 レイレリアの意見に同意するコントラルトに、ソニアの動揺は更に深まった。
 それが兵達の心理にどれ程の影響を及ぼすか。それを考えるにソニアは二人に同意するのをためらってしまう。
「決断を迷ってはいけないわ。傭兵の迷いは死に直結する」
 コントラルトが放った言葉には、妙な重みが込められていた。
「……わかったわ。お願い!」
 ソニアの同意に、二人は深く頷き、残り少ない魔力を練り上げる。

「一つ目だけ倒してくれればいい!」
 多くの一眼兵は崩落に巻き込まれ姿を消した。残る個体は数えられる程しかいない。
 崩れた崖を駆け上がってくる敵中で最も目立つ巨体を目標に据える様、カイが叫んだ。
 最早誰も否を唱える者はいなかった。
 烏賊兵の存在を無視し、ハンター達と傭兵団は一眼兵に狙いを定めた。


 乱戦の中、ようやく一眼兵を倒し終えた、その時、再び戦場に笛の大音が響き渡った。
「撤退だと!?」
 水月の指示で決められていた笛の音の符丁が示すのは撤退。そして行く先は、洞窟。
「急げ、ぐずぐずしている暇はないぞ!」
 怒気を強めるカイに気圧され、皆が一斉に洞窟へ駆け出した。

「まだいけるか!」
 カイが問いかけたのは、退避してきたレイレリアとコントラルト。
「もうほとんど力を残っていませんが、敵に一矢報いるのなら!」
 レイレリアの答えにカイは首を横に振った。
「どういう事?」
 困惑するコントラルトにカイが指差したのは、入り口の天井。
「崩してくれ!」
『なっ!?』
 この答えには、二人だけでなく退避してきた皆が驚愕の声を上げた。
「急げ時間がない!」
 しかし、カイは有無を言わせぬ勢いで天井を指さし続けている。
「そんなことをすれば洞窟が崩壊するわ!?」
「大丈夫だ。そこはうまくやった」
「うまくって、一体――」
「いいから急げ!」
「どうなっても知りませんからね!」

 二人の手から放たれたマテリアルの渦が、洞窟の天井を撃ちぬいた。
 轟音と共に崩壊する落石が、洞窟の入り口をふさいだ。

●洞窟
 崩れた土砂の先では、判別の付かぬ物音がずっと鳴り続いていた。
「まさか楔を打ち込んでいたなんて、いったいつの間にやったんですかー?」
「二日目の暇なときにちょっとな」
「お蔭でうまく逃げ込めましたけど……」
「で、一体いつになったら出れるんだ?」
「そこっすよね……」
 松明の心細い明かりの中、じっと息を殺しただ時を待つ。
「……もうすぐ朝になるわ」
 コントラルトが腕時計を見やる。
 暗い洞窟の中では時計だけが唯一時の経過を知るすべであった。
 4日目の朝。情報通りであれば援軍が到着する時間である。
 しかし、塞がれた洞窟の中ではそれを確認する術がなかった。

 再び沈黙が訪れ、少なくない時間が過ぎ去る――。

 がらっ!

 石垣の様に積み重なった岩石が僅かに動き、洞窟に身を潜める皆が身構える。
「生存者はいるか!!」
 ずらされた岩の隙間から差し込む陽光と共にかけられた声に、誰もが力なく地面へへたり込んだ。

依頼結果

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MVP一覧

  • 情報屋兼便利屋
    カイka3770
  • 六水晶の魔術師
    レイレリア・リナークシスka3872

重体一覧

参加者一覧

  • スピードスター
    無限 馨(ka0544
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士
  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • 黒猫とパイルバンカー
    葛音 水月(ka1895
    人間(蒼)|19才|男性|疾影士
  • 情報屋兼便利屋
    カイ(ka3770
    人間(紅)|20才|男性|疾影士
  • 六水晶の魔術師
    レイレリア・リナークシス(ka3872
    人間(紅)|20才|女性|魔術師
  • 最強守護者の妹
    コントラルト(ka4753
    人間(紅)|21才|女性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
エヴァンス・カルヴィ(ka0639
人間(クリムゾンウェスト)|29才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/08/16 08:38:24
アイコン 相談卓
レイレリア・リナークシス(ka3872
人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/08/16 23:46:27
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/08/12 22:13:44