ゲスト
(ka0000)
鈴虫草を探しに
マスター:STANZA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/09/16 09:00
- 完成日
- 2014/09/25 13:04
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ここはフマーレ商店街の一角にある、猫雑貨と花の店フロル。
その日の閉店間際、店に駆け込んで来た客がいた。
「おい、明日の夜までに鈴虫草を用意してくれ! 30本ほどな!」
その注文を聞いて、主のフロル(kz0042)は大きな溜息を吐いた――客の前であるにも関わらず、遠慮なく。
客の名はエドアルド・ジラルディ、ヴァリオスの上流階級には及ばないが、ここフマーレでは相当な金持ちの部類に入る男だ。
そして、店にとっては金離れの良い上客でもある。
無理難題さえ、ふっかけて来なければ。
彼が店に置いてある花を素直に買って行く事は滅多にない。
大抵の場合、特注でなければ用意出来ない様な珍しい花を欲しがるのだ。
しかも、他の花屋には無理だと断られた難易度の高いものばかり。
ただ今回の鈴虫草は、それほどの無茶振りという訳でもない。
が、大抵の花屋が渋るであろう依頼だった。
「用意は出来ると思いますがー、明日の夜までというのは……ちょっとぉ……」
鈴虫草はその名が示す通り、鈴虫の鳴き声の様な音を出す植物だ。
鈴の様な形をした小さな花が、夜になるとリーンリーンという軽やかな音を立てる。
だが栽培技術が確立されていない為、野山に自生するものを探すしかなかった。
自生地の場所ならフロルも知っているが――明日の夜までとなると、これから徹夜で探す羽目になるだろう。
「30本も、どうされるのですかー?」
鈴虫草は一本か二本なら子守唄代わりに丁度良い音量で、枕元に置けば心地よい眠りに誘ってくれるだろう。
実際、この季節には睡眠導入剤の代わりに使うという金持ちも多い。
だが30本となると……はっきり言って、うるさい。
リンリンリンリンと、耳鳴りの様に響く。
だから、たまに店に置く事があっても、せいぜいが5〜6本程度に留めているのだ。
しかしエドアルドは嬉しそうに言って、フロルの肩を思いきり叩いた。
「まさにそれだ! それを経験してみたいのだよ私は!」
鈴虫草が自生しているのは、ハンターでなければ危険で近寄れない場所が多い。
「こう、周りじゅうを鈴虫草に囲まれてだな、サラウンドなリンリンを経験してみたいのだよ!」
「それならば、護衛でも付けてご自分で自生地に行かれた方がよろしいのでは~?」
「冗談じゃない! そこらの野っ原には虫がいるだろう、余計な虫が!」
刺されて痒いし、チーチーガチャガチャと雑音が入るのも気に入らない。
「私は鈴虫草の音だけに囲まれたいのだ!」
金持ちの考える事は、よくわからない。
様々な虫が好き勝手に鳴き交わす、デタラメな様で不思議と調和のとれたそのハーモニーこそが美しいのに。
多少の危険はあっても、星の見える夜空の下で耳を傾ける事こそが楽しいのに。
それでも。
「……わかりました、何とか……してみます」
フロルは折れた。
と言うか、折れるしかなかった。
お得意様の頼みとあっては断れない。
それに、提示された金額が余りにも魅力的だったのだ。
この仕事だけで、今月はもう働く必要がないほどに。
「睡眠時間を削る価値は、ありますよねー」
ついでに、ちょっとした危険を冒す価値も。
何しろ鈴虫草は夜の間しか見付ける事が出来ないのだ。
そしてその自生地は大抵、人の手が届かない場所――つまりはモンスター達が闊歩する危険地帯だ。
「あの辺りに出るのは、ゴブリンかコボルド……でもたまーに、オーガなんかも出るんですよねー」
探し物に夢中になっているうちに背後から襲われるなんて、考えたくはないが有り得る話だ。
「ここは素直に、ハンターオフィスで人を集めましょうかー」
報酬を支払ったら手元に残る金は僅かだが、所詮は臨時収入、あぶく銭だ。
そんなものに頼っていては堅実な商売は出来ない。
「安全第一、ですよねー」
商売に関しても、自分自身についても。
フロルは肩に乗った白と黒の猫達を撫でる。
自分に何かあったら、この子達が路頭に迷ってしまうではないか。
ゴブリンなどの雑魚クラスは、集団で行動していれば滅多に出て来ない。
強敵が出ても、人数が多ければ対処は難しくないだろう。
というわけで。
「みなさーん、これから一緒に夜のピクニックに行きませんかぁ〜?」
リプレイ本文
「ピクニック~ピクニック~♪」
カミル・イェジェク(ka3174)は、ハーモニカを吹きながら踊る様に山道を歩く。
「虫達も騒ぎ出す夜の道~みんなで楽しく歩こうよ~♪」
あれ、でも虫の声がしないね?
そりゃそうか、これだけ大きな音を出してれば!
「全く、風情というものが解っておらんの」
「え、オレ?」
ふと聞こえたレーヴェ・W・マルバス(ka0276)の言葉に思わず聞き返すが、違う、君じゃない。
「その金持ちとやらの事じゃ。様々な音が混じりあうから緩和されて耳に良い音となるというに、30本も同じ音が重なれば五月蠅いだけじゃろうて」
「でも、理解は出来ないけど懐を肥やす事に執心するような人物よりは好感が持てるね」
そう言ったのは、イーディス・ノースハイド(ka2106)だ。
金持ちには趣味人も多いと聞くが、鈴虫草とはまた風流な事だ。
(鈴虫のような音色の草、か)
その会話を聞いて、椿姫・T・ノーチェ(ka1225)はまだ見ぬ未知の植物に思いを馳せる。
(向こうじゃ聞いたこともない珍しい草ね。是非この目で見てみたいわ)
出来れば一本、持ち帰ってみたいのだが。
「持ち帰りは可能ですか?」
その心中を察したかの様に、神代 誠一(ka2086)がフロルに訊ねる。
彼等は共に蒼界の出身、歳が近い事に加えて何かと趣味が合う事もあり、今では仲の良い友人同士だった。
「ええ、構いませんよー」
ただ、余剰が出るほど見付かるとは限らないが。
「もし余分がなくても、翌日には半分くらい戻って来ると思いますけれどねー?」
多分、余りの騒音に耐えきれなくなって、金は返さなくて良いから引き取ってくれ、と。
「フロルさんは、お花屋さんなのですね」
皆に初めましての挨拶を済ませたソナ(ka1352)は、フロルに笑いかける。
「すてきなお仕事ですね♪」
「ありがとうございますー、私もこの仕事が大好きなのですよー」
ところで、今日のフロルには何かが足りない気がすると、シグリッド=リンドベリ(ka0248)が首を傾げる。
「フロルさんちの白黒ねこさんsはお留守番なのでしょうか」
「ええ、危ない事になるかもしれませんからー」
シグリッドの頭に堂々と乗っかった白猫のシェーラさんと違って、フロルの猫達は臆病な内弁慶なのだ。
そうして雑談を楽しみながら、一行は月明かりに照らされた山道を歩く。
「時間はたっぷりありそうですから、のんびり行きましょうか」
のんびりと言いながらも、ソナはさりげなく周囲に気を配っていたが、いつでも応じられるように備えてさえいれば問題はなさそうだ。
道端には、蒼界から来た者にとっては珍しい植物が沢山生えていた。
こうして景色を眺めながら歩くのも良い物だと、誠一は目を細める。
「向こうにいた頃は仕事ばかりだったんですが、今は時間もゆっくりとすぎる気がします」
「あの、これは何という植物ですか?」
ふと足を止めた椿姫が指差したのは、鬼灯に似た、ぼんやりと赤く光る実を沢山付けた草。
「それは提灯草ですねー」
フロルの説明では、その実を沢山集めれば夜道の明かりになると言うのだが……実用に供する為には何百個も必要になりそうだ。
「こちらには変わった草花があるんですね」
誠一は感心した様に頷いている。
蛍草というものもあると聞いて、椿姫がくすりと微笑んだ。
きっと提灯よりも更に淡い光で瞬くのだろう。
「へえ……。見たことがあるものもないものも、こんなにたくさん……。いいですね、自然って」
「それ、くえるのか?」
脇から覗き込んだアルディシャカ(ka2968)が、かくりと首を傾げる。
彼女にとって、全ての生き物は糧である。
動物でも植物でも、何でも火さえ通せば食べられる――そう考えて実行した結果、死にかけた事もあるが、彼女の辞書に「懲りる」という文字が加筆される事はなかった。
今も皆の会話に出て来た植物を手に取って、匂いを嗅いだりしているが――とりあえず今は、空腹ではない様だ。
列の最後を歩くジェーン・ノーワース(ka2004)は、皆の会話を聞きながら夜の散歩を楽しんでいた。
自分が居た世界には無い不思議な植物。
単純に、見て見たい、と思った。
この世界では「当たり前」なのかもしれないが、異世界からやって来た者にとっては、どれもこれも珍しいものばかりだ。
かと思えば、見覚えのある草花がふと郷愁を感じさせたりして――
(……そもそも、夜のピクニックっていうのも初めてね)
でも、星々や月に見下ろされているこの感じは昼間以上に落ち着かない。
ジェーンは空から顔を見られない様に、普段よりも更にフードを深く被った。
その彼女よりも更に遅れて、クオン・サガラ(ka0018)はアサルトライフルを構えつつ、周囲を警戒しながら歩を進めていた。
皆がピクニック気分に浸る中、ひとりだけ景色を楽しむ余裕もなく全く違う空気を纏っているのは、雰囲気を壊す様で申し訳ない気もするのだが――
「ああ、わたしの事はどうかお構いなく」
心配して足を止めた仲間達に、そう言って軽く頭を下げる。
ここは自分の常識や経験が一切通用しない異世界。
何がどれほどの脅威になるのかそのデータが自分の中に殆ど存在しない現状では、全ての存在に対して最大限の警戒をしておく必要があった。
そのうちに慣れてくれば、その判別も容易になるだろうが……それまでは。
やがて一行は、目的地に辿り着いた。
「夜の月の下って普段と違う雰囲気で、なんだかドキドキわくわくするよね!」
カミルは目の前に広がる光景に目を奪われる。
「ずいぶん明るいんですね……!」
シグリッドも目を輝かせて辺りをキョロキョロ。
青白い光に照らされた草原には、ススキやエノコログサなどに似た植物も多い。
しかし中には、空の星を振りかけた様にキラキラと光る草や、満月の様なまん丸い実を沢山付けた草などもあった。
「これが光っているから、ここはこんなに明るいのですね」
ソナが小さな満月を指でつつくと、パンッと弾けて中から白い綿の様なものが飛び出して来た。
「まるで、わたあめの様です」
それを手に取り、そっと鼻を近付けてみる。
少し甘い香りがする様な……?
「これはくえるのか?」
ひょいと顔を出したアルディシャカが、ふんふんと鼻を鳴らした。
「ええ、甘くて美味しいですよー?」
フロルに言われて、早速ぱくり。
「うまい!」
赤毛の獣は満足そうだ。
あれ、でも何しに来たんだっけ?
そうそう、鈴虫草を探さないと!
「わたしが警戒に当たりますから、皆さんは探索に専念して下さい」
迷彩ジャケットと周囲の草木で簡単な擬装を施したクオンが、草原全体を見渡せる木陰に身を潜める。
その言葉に甘えて、皆はさっそく探索にかかった。
「ねぇねぇ、フロルさんはお花の音知ってるの?」
カミルが訊ねる。
「俺は聞いたこと無いんだよね~。どんな音なんだろう……?」
「今も聞こえていますよ-?」
フロルに言われて耳を澄ますが、色々聞こえすぎて何が何だか。
「これは、やっぱりアレだな。毛布ばっさばさ作戦ー!」
毛布で風を起こすのだ。
「そうしたら虫が鳴き止むでしょ……で、花の音は鳴るから大体どの辺りに花があるか聞き分け出来ると思うんだ!」
我ながらナイスアイデア!
よし、じゃあやってみようか!
「きれいなお花、見つかるといいなっ!」
ばっさー!
「僕もお手伝いするのですよ……!」
シグリッドは念の為に持っていたランタンをフロルに預け、毛布を広げて……って、あれ、なんか重い?
「みゃーっ」
「え、シェーラさん!?」
いつの間にか、くっついていた。
うん、ばさばさ動く毛布の端っこは魅力的だよね。
でもごめんね、今お仕事中だから……!
シェーラさんをフロルの頭に預け、改めてばさーっ!
なるほど、確かに虫の声が一斉に止んだ。
……リーン。
音のした方へ、他の草花を踏まない様に慎重に近付いた椿姫は、手で大きな丸を描いて皆に知らせる。
「これが、鈴虫草……」
後に続いた誠一は、その小さな白い花にそっと触れてみた。
リーン。
その音に、ふわりと笑みが零れる。
近くにはまだ、何本かのそれらしき花が見えた。
「しかし、根こそぎ取るという訳ではないにしても、群落の中にいくつかは残しておきたいものじゃな」
自らも一本を切り取りながら、レーヴェが言う。
時間もあるし、草原は広い。この程度の集まりなら、まだ他にも見付けられるだろう。
「環境保護も金持ちの嗜みじゃ。そこんとこ解っておらんようじゃの」
これは勿論、依頼人への言葉だ。
「いい具合に場所離れてすると効率がいいかもね!」
カミルの言葉に応え、ソナが少し離れた所で毛布をばさばさ。
「私も風起こしを手伝いますね」
すぐ近くで聞こえた音に従って目を懲らす。
「これでしょうか」
耳を近づけて、そっと揺らしてみた。
「うん、大丈夫ね」
手探りで茎を探り、根元の近くでナイフで切り取る。
「他の珍しい草も、ついでに頂いて良いかしら」
キラキラ光る星屑草や、燻し銀の細葉を持つ刀草、流水の様な音がするせせらぎ草。
それらと合わせると、夜の寝室に似合うアレンジが出来そうだ。
「おれもやるぞー」
アルディシャカは毛皮のマントをばっさばさ。
「おー、これかー」
鈴虫が鈴なりになっている、という訳ではない。
それなのに鈴虫の様に鳴る花。
「ふしぎだなー」
首を傾げ、その音に耳を傾ける。
じっとしていると、次第に他の虫の声も戻り始めた。
様々な音が混ざり合い、競い合い、音そのものはかなり大きい筈なのに、何故か静寂を感じる音。
「いいこえだー」
聞いていると、眠りに誘われそうな――
しかし、その静寂は突然破られた。
「来ましたよ」
クオンの声が伝話から響いた。
大きな身体のオーガが三体、草を踏み付けながら近付いて来る。
周囲にはそれよりも小さな影が、いくつも飛び跳ねていた。
数と言い大きさと言い、まるでオーガにたかるノミの様に見える。
その様子に、誠一が眉を寄せた。
「草花を無遠慮に踏みつけるのは感心出来ませんね」
荒らされる範囲がこれ以上広がらないうちに、さっさと片付けてしまおう。
「おれ、オーガいためつける」
折角良い気持ちで聞き入っていたのにと、アルディシャカが眉間に皺を寄せた。
でも鈴虫草を持ったままでは戦い難い。
「鈴虫草は、きっとフロルさんが預かってくれるのです」
シグリッドがこくりと頷いた。
鈴虫草も、毛布もマントも他の荷物も、きっと喜んで預かってくれるよ!
身軽になったアルディシャカは、獣の様な動きで素早く距離を詰めた。
二度とこの花園にやって来られなくなる位に恐ろしい思いをさせてやると、真っ正面から踏み込んで縦横無尽にウォーハンマーを振り回す。
手当たり次第に暴れ回るその姿は、鬼とも呼ばれるオーガ達よりも、更に鬼らしく見えた。
「援護しますね」
そんな彼女の背を狙って棍棒を振り上げたオーガに向けて、ソナは白く輝く光弾を撃ち放つ。
別の方向からは椿姫が、威力と命中を上げたダーツを投げ付けた。
クオンはその足元を狙ってアサルトライフルを連射、オーガ達の釘付けを狙う。
「タフそうですから、接近されない様に立ち回るのが得策ですね」
棘付き棍棒の一撃は、当たると痛そうだ。
それに、周囲をウロチョロしているゴブリン達も放ってはおけなかった。
「オーガを倒せばゴブリンも逃げそうだけれど、その前に逃げ出させる位の気持でいくわ」
自分の背丈よりも長いスピア「オケアニス」を手に、ジェーンは瞬脚で側面から回り込む。
使えるスキルは惜しみなく注ぎ、最初から全力でゴブリンと対峙、その群れを勢いよく薙ぎ倒した。
「これで逃げ出してくれれば良いのですが」
シグリッドは後衛が襲われないように道を塞ぎつつ、ショートソードを振るう。
「あんまり深追いはしないでおこう、今日の目的はこっちじゃないからね」
前衛の隙を埋める様に、カミルが銃弾を撃ち込んでいった。
「しかし、どうにも鬱陶しいのう」
猟銃を放ちながら、レーヴェがボヤく。
一撃当たれば動けなくなる程に弱いのに、どうしてこう性懲りもなく湧いて来るのか。
体重の軽そうなゴブリン達なら、踏まれた植物もそれほど痛みはしないだろう。
しかし、それを売り物にするとなれば――
「踏んでは価値を損なうからの」
そうでなくとも、草花への被害は最小限に食い止めたいところだ。
踏みつけられた名もなき植物達に哀しげな目を注ぎながら、誠一はゴブリン達に接近戦を挑む。
不意打ちを食らっても避ける事はせず、誰かを庇う様に足を踏ん張り受け止める。
彼が守るのは、足元の小さな命。
「俺の傷はヒーリングで治りますが、植物はこの場を動くことが出来ませんから」
その脇では、イーディスがグラディウスを振るっていた。
やはり植物を踏み荒らさない様に気を付けながら、盾で防御しつつ反撃でその小さな身体を切り裂いていく。
「オーガは当然だけどゴブリンも油断は禁物だよ、知性が低いとはいえ動物よりは遥かに賢いからね」
一般人にとっては危険な存在、逃げたものが腹いせに何処かの集落を荒らさないとも限らない。
全滅は難しいだろうが、可能な限り駆逐したいところだ。
「わかりました、仕方ありませんね」
シグリッドも、今度は倒すつもりで剣を振るった。
やがて一体のオーガが崩れ落ちる。
ここに至って漸く不利を悟ったオーガ達は、じりじりと後退を始めた。
だが、椿姫は容赦しない。
懐に飛び込み、月明かりに光るシルバークローを一閃。
その迫力に怖れをなしたのか、残ったオーガ達はくるりと背を向けて走り去る。
取り巻きのゴブリン達も慌ててその後に付いて行った。
「それっ機導砲! ぶちこんじゃってー!」
逃げ散るその背にカミルが追撃を浴びせる。
これでもう、戻って来る事はないだろう。
静寂が戻ると、耳につき始めるのが鈴虫草の音。
今はフロルが纏めて持っているそれは、まだ10本余りだが、それでもリンリンリンリンとやかましい。
しかも、ほんの僅かに揺れただけで大合唱が始まるのだ。
「だから出発は朝になってからなのですね」
ソナが頷く。
明るくなれば鈴虫草は黙り込む。その隙に運んでしまおうという訳だ。
「今も鳴らないようにして置かないと、どんどん探すのが難しくなるわよね」
ジェーンが軽く溜息を吐いた。
「自分達の手元がリンリン言ってちゃ、遠くの音なんて聞こえないもの」
毛布の下に纏めてそっと隠しておけば、少しは静かになるだろうか。
いや、動かさなければ良いのだから、このまま風も当てない様に置いておけば大丈夫そうだ。
その後は襲撃もなく、夜半を過ぎる頃には目標の数をクリア、更には各自の土産用の分も確保する事が出来た。
「後は朝を待つだけですね」
シグリッドはシェーラさんにツナ缶のごはんをあげながら、虫達の声に耳を澄ます。
ハンター達の食事は依頼人であるフロルが用意していた。
「ああ、私はこれで良いよ。干し肉とパンだけの食事というのもたまにはオツなものさ」
イーディスは足りない人に分けて欲しいと、その視線をアルディシャカに向ける。
「それよりフロル殿、報酬は頂いているけれどドライフラワーの作り方を教えて貰えないかな?」
「ええ、良いですよー」
では店に戻ってからでも、ゆっくりと。
夜間の見張りは二人一組。
もう襲撃の怖れはないだろうが、安全第一、念には念をだ。
「帰るまでが遠足だって田舎のかーちゃんも言ってたよね! ……あれ? 違ったっけ?」
カミルが首を傾げるが、うん、多分間違ってない。
クオンから見張りを引き継いだソナとジェーンは、虫達の声にそっと耳を澄ます。
「私も鈴虫草を持ち帰りたいけれど、今晩はこれだけ沢山の響きに囲まれていられるもの。十分満喫できるわね」
返事はなかったが、ジェーンも同じ様に感じていることだろう。
誠一は椿姫と一緒だ。
普段からこうして、共にのんびりと夜を過ごしている二人だったが、今日は椿姫の様子がいつもと少し違う様な……?
「珍しいですね、いつもこの時間になると大抵うとうとしてらっしゃるのに」
違和感を感じてくすりと笑う誠一に、椿姫は苦笑いを返す。
「流石に外ではそんなことありませんよ。まして、今は仕事中ですし」
植物の保護の為、火は焚かない。
まだ寒い時期ではないし、マントや毛布だけで充分だろう。
「鎧を脱ぐ訳にもいかないから真っ当な睡眠は取れないけど、何、野外訓練と思えば慣れたものさ」
イーディスは座ったまま寝息を立て始める。
お腹が一杯になったアルディシャカに至っては、すっかり寛いだ様子で熟睡していた。
しかしその分早起きして、きちんと見張る事も忘れない。
やがて陽が昇ると、鈴虫草はどんなに振ってもリンとも言わなくなった。
今のうちに持ち帰り、花束にして引き渡せば納品完了だ。
「さて、音波攻撃といこうかの」
レーヴェがニヤリと笑う。
30本の大軍は、さぞかし良い声を聞かせてくれることだろう。
嫌いだという蟲の羽音に悩まされるが良い。
もし文句を言って来たとしても、それは筋違いだ。
自分達は言われた通りに集めてきただけなのだから。
さて、これに懲りて余り無茶を言わなくなれば良いのだが――?
カミル・イェジェク(ka3174)は、ハーモニカを吹きながら踊る様に山道を歩く。
「虫達も騒ぎ出す夜の道~みんなで楽しく歩こうよ~♪」
あれ、でも虫の声がしないね?
そりゃそうか、これだけ大きな音を出してれば!
「全く、風情というものが解っておらんの」
「え、オレ?」
ふと聞こえたレーヴェ・W・マルバス(ka0276)の言葉に思わず聞き返すが、違う、君じゃない。
「その金持ちとやらの事じゃ。様々な音が混じりあうから緩和されて耳に良い音となるというに、30本も同じ音が重なれば五月蠅いだけじゃろうて」
「でも、理解は出来ないけど懐を肥やす事に執心するような人物よりは好感が持てるね」
そう言ったのは、イーディス・ノースハイド(ka2106)だ。
金持ちには趣味人も多いと聞くが、鈴虫草とはまた風流な事だ。
(鈴虫のような音色の草、か)
その会話を聞いて、椿姫・T・ノーチェ(ka1225)はまだ見ぬ未知の植物に思いを馳せる。
(向こうじゃ聞いたこともない珍しい草ね。是非この目で見てみたいわ)
出来れば一本、持ち帰ってみたいのだが。
「持ち帰りは可能ですか?」
その心中を察したかの様に、神代 誠一(ka2086)がフロルに訊ねる。
彼等は共に蒼界の出身、歳が近い事に加えて何かと趣味が合う事もあり、今では仲の良い友人同士だった。
「ええ、構いませんよー」
ただ、余剰が出るほど見付かるとは限らないが。
「もし余分がなくても、翌日には半分くらい戻って来ると思いますけれどねー?」
多分、余りの騒音に耐えきれなくなって、金は返さなくて良いから引き取ってくれ、と。
「フロルさんは、お花屋さんなのですね」
皆に初めましての挨拶を済ませたソナ(ka1352)は、フロルに笑いかける。
「すてきなお仕事ですね♪」
「ありがとうございますー、私もこの仕事が大好きなのですよー」
ところで、今日のフロルには何かが足りない気がすると、シグリッド=リンドベリ(ka0248)が首を傾げる。
「フロルさんちの白黒ねこさんsはお留守番なのでしょうか」
「ええ、危ない事になるかもしれませんからー」
シグリッドの頭に堂々と乗っかった白猫のシェーラさんと違って、フロルの猫達は臆病な内弁慶なのだ。
そうして雑談を楽しみながら、一行は月明かりに照らされた山道を歩く。
「時間はたっぷりありそうですから、のんびり行きましょうか」
のんびりと言いながらも、ソナはさりげなく周囲に気を配っていたが、いつでも応じられるように備えてさえいれば問題はなさそうだ。
道端には、蒼界から来た者にとっては珍しい植物が沢山生えていた。
こうして景色を眺めながら歩くのも良い物だと、誠一は目を細める。
「向こうにいた頃は仕事ばかりだったんですが、今は時間もゆっくりとすぎる気がします」
「あの、これは何という植物ですか?」
ふと足を止めた椿姫が指差したのは、鬼灯に似た、ぼんやりと赤く光る実を沢山付けた草。
「それは提灯草ですねー」
フロルの説明では、その実を沢山集めれば夜道の明かりになると言うのだが……実用に供する為には何百個も必要になりそうだ。
「こちらには変わった草花があるんですね」
誠一は感心した様に頷いている。
蛍草というものもあると聞いて、椿姫がくすりと微笑んだ。
きっと提灯よりも更に淡い光で瞬くのだろう。
「へえ……。見たことがあるものもないものも、こんなにたくさん……。いいですね、自然って」
「それ、くえるのか?」
脇から覗き込んだアルディシャカ(ka2968)が、かくりと首を傾げる。
彼女にとって、全ての生き物は糧である。
動物でも植物でも、何でも火さえ通せば食べられる――そう考えて実行した結果、死にかけた事もあるが、彼女の辞書に「懲りる」という文字が加筆される事はなかった。
今も皆の会話に出て来た植物を手に取って、匂いを嗅いだりしているが――とりあえず今は、空腹ではない様だ。
列の最後を歩くジェーン・ノーワース(ka2004)は、皆の会話を聞きながら夜の散歩を楽しんでいた。
自分が居た世界には無い不思議な植物。
単純に、見て見たい、と思った。
この世界では「当たり前」なのかもしれないが、異世界からやって来た者にとっては、どれもこれも珍しいものばかりだ。
かと思えば、見覚えのある草花がふと郷愁を感じさせたりして――
(……そもそも、夜のピクニックっていうのも初めてね)
でも、星々や月に見下ろされているこの感じは昼間以上に落ち着かない。
ジェーンは空から顔を見られない様に、普段よりも更にフードを深く被った。
その彼女よりも更に遅れて、クオン・サガラ(ka0018)はアサルトライフルを構えつつ、周囲を警戒しながら歩を進めていた。
皆がピクニック気分に浸る中、ひとりだけ景色を楽しむ余裕もなく全く違う空気を纏っているのは、雰囲気を壊す様で申し訳ない気もするのだが――
「ああ、わたしの事はどうかお構いなく」
心配して足を止めた仲間達に、そう言って軽く頭を下げる。
ここは自分の常識や経験が一切通用しない異世界。
何がどれほどの脅威になるのかそのデータが自分の中に殆ど存在しない現状では、全ての存在に対して最大限の警戒をしておく必要があった。
そのうちに慣れてくれば、その判別も容易になるだろうが……それまでは。
やがて一行は、目的地に辿り着いた。
「夜の月の下って普段と違う雰囲気で、なんだかドキドキわくわくするよね!」
カミルは目の前に広がる光景に目を奪われる。
「ずいぶん明るいんですね……!」
シグリッドも目を輝かせて辺りをキョロキョロ。
青白い光に照らされた草原には、ススキやエノコログサなどに似た植物も多い。
しかし中には、空の星を振りかけた様にキラキラと光る草や、満月の様なまん丸い実を沢山付けた草などもあった。
「これが光っているから、ここはこんなに明るいのですね」
ソナが小さな満月を指でつつくと、パンッと弾けて中から白い綿の様なものが飛び出して来た。
「まるで、わたあめの様です」
それを手に取り、そっと鼻を近付けてみる。
少し甘い香りがする様な……?
「これはくえるのか?」
ひょいと顔を出したアルディシャカが、ふんふんと鼻を鳴らした。
「ええ、甘くて美味しいですよー?」
フロルに言われて、早速ぱくり。
「うまい!」
赤毛の獣は満足そうだ。
あれ、でも何しに来たんだっけ?
そうそう、鈴虫草を探さないと!
「わたしが警戒に当たりますから、皆さんは探索に専念して下さい」
迷彩ジャケットと周囲の草木で簡単な擬装を施したクオンが、草原全体を見渡せる木陰に身を潜める。
その言葉に甘えて、皆はさっそく探索にかかった。
「ねぇねぇ、フロルさんはお花の音知ってるの?」
カミルが訊ねる。
「俺は聞いたこと無いんだよね~。どんな音なんだろう……?」
「今も聞こえていますよ-?」
フロルに言われて耳を澄ますが、色々聞こえすぎて何が何だか。
「これは、やっぱりアレだな。毛布ばっさばさ作戦ー!」
毛布で風を起こすのだ。
「そうしたら虫が鳴き止むでしょ……で、花の音は鳴るから大体どの辺りに花があるか聞き分け出来ると思うんだ!」
我ながらナイスアイデア!
よし、じゃあやってみようか!
「きれいなお花、見つかるといいなっ!」
ばっさー!
「僕もお手伝いするのですよ……!」
シグリッドは念の為に持っていたランタンをフロルに預け、毛布を広げて……って、あれ、なんか重い?
「みゃーっ」
「え、シェーラさん!?」
いつの間にか、くっついていた。
うん、ばさばさ動く毛布の端っこは魅力的だよね。
でもごめんね、今お仕事中だから……!
シェーラさんをフロルの頭に預け、改めてばさーっ!
なるほど、確かに虫の声が一斉に止んだ。
……リーン。
音のした方へ、他の草花を踏まない様に慎重に近付いた椿姫は、手で大きな丸を描いて皆に知らせる。
「これが、鈴虫草……」
後に続いた誠一は、その小さな白い花にそっと触れてみた。
リーン。
その音に、ふわりと笑みが零れる。
近くにはまだ、何本かのそれらしき花が見えた。
「しかし、根こそぎ取るという訳ではないにしても、群落の中にいくつかは残しておきたいものじゃな」
自らも一本を切り取りながら、レーヴェが言う。
時間もあるし、草原は広い。この程度の集まりなら、まだ他にも見付けられるだろう。
「環境保護も金持ちの嗜みじゃ。そこんとこ解っておらんようじゃの」
これは勿論、依頼人への言葉だ。
「いい具合に場所離れてすると効率がいいかもね!」
カミルの言葉に応え、ソナが少し離れた所で毛布をばさばさ。
「私も風起こしを手伝いますね」
すぐ近くで聞こえた音に従って目を懲らす。
「これでしょうか」
耳を近づけて、そっと揺らしてみた。
「うん、大丈夫ね」
手探りで茎を探り、根元の近くでナイフで切り取る。
「他の珍しい草も、ついでに頂いて良いかしら」
キラキラ光る星屑草や、燻し銀の細葉を持つ刀草、流水の様な音がするせせらぎ草。
それらと合わせると、夜の寝室に似合うアレンジが出来そうだ。
「おれもやるぞー」
アルディシャカは毛皮のマントをばっさばさ。
「おー、これかー」
鈴虫が鈴なりになっている、という訳ではない。
それなのに鈴虫の様に鳴る花。
「ふしぎだなー」
首を傾げ、その音に耳を傾ける。
じっとしていると、次第に他の虫の声も戻り始めた。
様々な音が混ざり合い、競い合い、音そのものはかなり大きい筈なのに、何故か静寂を感じる音。
「いいこえだー」
聞いていると、眠りに誘われそうな――
しかし、その静寂は突然破られた。
「来ましたよ」
クオンの声が伝話から響いた。
大きな身体のオーガが三体、草を踏み付けながら近付いて来る。
周囲にはそれよりも小さな影が、いくつも飛び跳ねていた。
数と言い大きさと言い、まるでオーガにたかるノミの様に見える。
その様子に、誠一が眉を寄せた。
「草花を無遠慮に踏みつけるのは感心出来ませんね」
荒らされる範囲がこれ以上広がらないうちに、さっさと片付けてしまおう。
「おれ、オーガいためつける」
折角良い気持ちで聞き入っていたのにと、アルディシャカが眉間に皺を寄せた。
でも鈴虫草を持ったままでは戦い難い。
「鈴虫草は、きっとフロルさんが預かってくれるのです」
シグリッドがこくりと頷いた。
鈴虫草も、毛布もマントも他の荷物も、きっと喜んで預かってくれるよ!
身軽になったアルディシャカは、獣の様な動きで素早く距離を詰めた。
二度とこの花園にやって来られなくなる位に恐ろしい思いをさせてやると、真っ正面から踏み込んで縦横無尽にウォーハンマーを振り回す。
手当たり次第に暴れ回るその姿は、鬼とも呼ばれるオーガ達よりも、更に鬼らしく見えた。
「援護しますね」
そんな彼女の背を狙って棍棒を振り上げたオーガに向けて、ソナは白く輝く光弾を撃ち放つ。
別の方向からは椿姫が、威力と命中を上げたダーツを投げ付けた。
クオンはその足元を狙ってアサルトライフルを連射、オーガ達の釘付けを狙う。
「タフそうですから、接近されない様に立ち回るのが得策ですね」
棘付き棍棒の一撃は、当たると痛そうだ。
それに、周囲をウロチョロしているゴブリン達も放ってはおけなかった。
「オーガを倒せばゴブリンも逃げそうだけれど、その前に逃げ出させる位の気持でいくわ」
自分の背丈よりも長いスピア「オケアニス」を手に、ジェーンは瞬脚で側面から回り込む。
使えるスキルは惜しみなく注ぎ、最初から全力でゴブリンと対峙、その群れを勢いよく薙ぎ倒した。
「これで逃げ出してくれれば良いのですが」
シグリッドは後衛が襲われないように道を塞ぎつつ、ショートソードを振るう。
「あんまり深追いはしないでおこう、今日の目的はこっちじゃないからね」
前衛の隙を埋める様に、カミルが銃弾を撃ち込んでいった。
「しかし、どうにも鬱陶しいのう」
猟銃を放ちながら、レーヴェがボヤく。
一撃当たれば動けなくなる程に弱いのに、どうしてこう性懲りもなく湧いて来るのか。
体重の軽そうなゴブリン達なら、踏まれた植物もそれほど痛みはしないだろう。
しかし、それを売り物にするとなれば――
「踏んでは価値を損なうからの」
そうでなくとも、草花への被害は最小限に食い止めたいところだ。
踏みつけられた名もなき植物達に哀しげな目を注ぎながら、誠一はゴブリン達に接近戦を挑む。
不意打ちを食らっても避ける事はせず、誰かを庇う様に足を踏ん張り受け止める。
彼が守るのは、足元の小さな命。
「俺の傷はヒーリングで治りますが、植物はこの場を動くことが出来ませんから」
その脇では、イーディスがグラディウスを振るっていた。
やはり植物を踏み荒らさない様に気を付けながら、盾で防御しつつ反撃でその小さな身体を切り裂いていく。
「オーガは当然だけどゴブリンも油断は禁物だよ、知性が低いとはいえ動物よりは遥かに賢いからね」
一般人にとっては危険な存在、逃げたものが腹いせに何処かの集落を荒らさないとも限らない。
全滅は難しいだろうが、可能な限り駆逐したいところだ。
「わかりました、仕方ありませんね」
シグリッドも、今度は倒すつもりで剣を振るった。
やがて一体のオーガが崩れ落ちる。
ここに至って漸く不利を悟ったオーガ達は、じりじりと後退を始めた。
だが、椿姫は容赦しない。
懐に飛び込み、月明かりに光るシルバークローを一閃。
その迫力に怖れをなしたのか、残ったオーガ達はくるりと背を向けて走り去る。
取り巻きのゴブリン達も慌ててその後に付いて行った。
「それっ機導砲! ぶちこんじゃってー!」
逃げ散るその背にカミルが追撃を浴びせる。
これでもう、戻って来る事はないだろう。
静寂が戻ると、耳につき始めるのが鈴虫草の音。
今はフロルが纏めて持っているそれは、まだ10本余りだが、それでもリンリンリンリンとやかましい。
しかも、ほんの僅かに揺れただけで大合唱が始まるのだ。
「だから出発は朝になってからなのですね」
ソナが頷く。
明るくなれば鈴虫草は黙り込む。その隙に運んでしまおうという訳だ。
「今も鳴らないようにして置かないと、どんどん探すのが難しくなるわよね」
ジェーンが軽く溜息を吐いた。
「自分達の手元がリンリン言ってちゃ、遠くの音なんて聞こえないもの」
毛布の下に纏めてそっと隠しておけば、少しは静かになるだろうか。
いや、動かさなければ良いのだから、このまま風も当てない様に置いておけば大丈夫そうだ。
その後は襲撃もなく、夜半を過ぎる頃には目標の数をクリア、更には各自の土産用の分も確保する事が出来た。
「後は朝を待つだけですね」
シグリッドはシェーラさんにツナ缶のごはんをあげながら、虫達の声に耳を澄ます。
ハンター達の食事は依頼人であるフロルが用意していた。
「ああ、私はこれで良いよ。干し肉とパンだけの食事というのもたまにはオツなものさ」
イーディスは足りない人に分けて欲しいと、その視線をアルディシャカに向ける。
「それよりフロル殿、報酬は頂いているけれどドライフラワーの作り方を教えて貰えないかな?」
「ええ、良いですよー」
では店に戻ってからでも、ゆっくりと。
夜間の見張りは二人一組。
もう襲撃の怖れはないだろうが、安全第一、念には念をだ。
「帰るまでが遠足だって田舎のかーちゃんも言ってたよね! ……あれ? 違ったっけ?」
カミルが首を傾げるが、うん、多分間違ってない。
クオンから見張りを引き継いだソナとジェーンは、虫達の声にそっと耳を澄ます。
「私も鈴虫草を持ち帰りたいけれど、今晩はこれだけ沢山の響きに囲まれていられるもの。十分満喫できるわね」
返事はなかったが、ジェーンも同じ様に感じていることだろう。
誠一は椿姫と一緒だ。
普段からこうして、共にのんびりと夜を過ごしている二人だったが、今日は椿姫の様子がいつもと少し違う様な……?
「珍しいですね、いつもこの時間になると大抵うとうとしてらっしゃるのに」
違和感を感じてくすりと笑う誠一に、椿姫は苦笑いを返す。
「流石に外ではそんなことありませんよ。まして、今は仕事中ですし」
植物の保護の為、火は焚かない。
まだ寒い時期ではないし、マントや毛布だけで充分だろう。
「鎧を脱ぐ訳にもいかないから真っ当な睡眠は取れないけど、何、野外訓練と思えば慣れたものさ」
イーディスは座ったまま寝息を立て始める。
お腹が一杯になったアルディシャカに至っては、すっかり寛いだ様子で熟睡していた。
しかしその分早起きして、きちんと見張る事も忘れない。
やがて陽が昇ると、鈴虫草はどんなに振ってもリンとも言わなくなった。
今のうちに持ち帰り、花束にして引き渡せば納品完了だ。
「さて、音波攻撃といこうかの」
レーヴェがニヤリと笑う。
30本の大軍は、さぞかし良い声を聞かせてくれることだろう。
嫌いだという蟲の羽音に悩まされるが良い。
もし文句を言って来たとしても、それは筋違いだ。
自分達は言われた通りに集めてきただけなのだから。
さて、これに懲りて余り無茶を言わなくなれば良いのだが――?
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/09/11 21:18:56 |
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相談はこっちで。 ジェーン・ノーワース(ka2004) 人間(リアルブルー)|15才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/09/16 00:54:58 |