ゲスト
(ka0000)
【詩天】なみのあや
マスター:鷹羽柊架

- シナリオ形態
- シリーズ(新規)
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/08/19 15:00
- 完成日
- 2016/08/26 06:19
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
上弦の三日月の夜は思った以上に光源が強かった。
蜘蛛が一匹、爪の先に乗る。
何かを感じ取ったのだろうか、飽きたようなそぶりで指を振っては蜘蛛を落とした。
その視線の先にいた「彼」は再び動き出し、闇夜に消えた。
●
即疾隊に新しく、小隊が出来ることになった。
人数が増えたことにより、局長副局長が任務に対していちいち班分けするという面倒を省くのが主な理由。
現状、小隊は五番隊までであり、一番から四番隊までは実務隊。
五番隊だけは総務を担当する。
映えある一番隊の隊長は壬生和彦となっていた。
新たな形式に隊士達の意欲は上がってきており、治安部隊に所属しているという責任も少しずつであるが、芽生えてきている。
それは、ハンターを介して、少しずつ詩天の街の人々との距離が縮まってきているのも要因だと思われる。
とはいえ、まだまだ資金不足の即疾隊。
見回り以外は行く当てなどもないので、稽古に精を出す。
そんなある朝、即疾隊の屯所へ転がり込んでくる人物がいた。
「なんだ、壬生か?」
見張り番の隊士が来客だろう人物に尋ねると、「そうだ」と答える。
その人物は筒香町の岡っ引き、八助親分だった。
局長副局長は和彦を呼んで同席させる。
「辻斬りがまた現れた」
八助の切り出しに三人の目は鋭くなる。
「春先にあったきりだったな」
副局長の前沢の言葉に八助が頷く。
詩天が州都、若峰では春先まで辻斬りが出ていた。
番所の方で取り扱っていた事件であったが、犯人の捕縛までには至らなく、捜査は梅雨前に打ち切りとなったそうだ。
「でまぁ、俺達がダメだったってこともあるんだがよ、この件、あんた達にお任せしようって、俺は思ってる」
「その心は?」
局長の江邨の返しに八助は和彦の方を向いた。
「先日の豊後屋の若衆、忘れてないよな」
八助が言っていたのは、先日まで即疾隊が担当していた失踪事件の件だ。
浪人や町人などを言葉巧みにいいようにし、蜘蛛型歪虚を飼っていた覚醒者である斉鹿。
実際、斉鹿は歪虚を借りただけであり、彼にも歪虚は巣食っており、落ち度があったのか、斉鹿は歪虚に身を破られて死んでしまった。
「今回の辻斬りも、そいつが空き家で飼っていた大蜘蛛と同じ殺され方だった」
八助の言葉に和彦は目を見張る。
「もしかしたら、斉鹿の身体をあんなにしたやつにたどり着けるかもしれねぇ」
やってくれるかという八助の言葉に和彦は「承った」と答えた。
その表情は追い詰められたような、切羽詰まったような鬼気迫るものだった。
隊士達は辻斬りの事件を担当すると聞いて気合を入れていた。
辻斬りは夜の犯行ともあり、夜の見回り班も組むことになる。
提灯を片手に隊士達は見回りに入った。
事件場所の殆どが中心部から中流上流の者達が住まう北の方の倉本町辺りだという。中心部から北のへ向かうと、住宅街故に一気に人通りは減り、静かであった。
見回りは今まであった辻斬り現場を通りつつ見回る。
「辻斬り班ならば、斬りあいも仕方ないからな」
「俺が捕まえてやるさ」
隊士達は低く小さい声で笑いつつ、辻斬りとの対峙を待っていたようだった。
右に曲ろうとした時、暗がりに人の影を見る。
「即疾隊だ」
「何者だ」
隊士達が手を刀にかけつつ、問う。
影は蝋燭の火のように揺れると、瞬時に隊士達へ間合いを詰めた。
抜かれる刀が微かに月光を弾いて切っ先が隊士の肩から鎖骨にかけて切り上げる。
「うっ」
短く呻く隊士の身体には血が滲んでいるのか、着物を汚していく。
「おのれ!」
別の隊士二人が斬られた隊士を庇うように前に立つと、辻斬り班は振り上げたままの刀を隊士の額目掛けて振り下ろす。
隊士達は和彦ほどではないが、実力には自信があったが、赤子のように手が出せなかった。
「た、退却だ!」
怪我をした隊士達を抱えて見回り班が逃げていく。
辻斬りは逃す気はないのか、そのまま即疾隊を早歩きで追う。
追われていることに肝を冷やす隊士達は恐慌状態寸前であるが、まだなんとか距離は稼げている。
ここを曲ればと思ったところ、手招く手が見え、隊士達は転がり込んだ。
隊士達が中に入りきると、手招きした者はそっと戸を閉め、息を殺すように手振りで指示をする。
足音が聞こえなくなった頃、全員が大きく息を吐く。
「お前さんら、即疾隊じゃな?」
しゃがれた老人の声だが、中々にピンシャンしている。
「貴様は……」
尋ねる隊士の後ろにいた隊士には見覚えがあった。
「ここは、亀田診療所か」
「その通り」
隊士の声に老人は頷いた。
「この辺には辻斬りが現れるからな。いたずらに剣で人を斬るなど、言語道断。これだから剣士は」
ぶちぶち説教と嫌味を言う老人に知っている隊士は他の隊士に「若峰では剣士嫌いで有名な医者だ」と素早く教える。
「なんか言ったか」
ぎろりと睨み付ける老人だが、重症の隊士に気づく。
「出血はひどいが、まぁ、すぐに治るじゃろ。上がれ」
老人が言えば、隊士達は診療所に上がり、適切な治療を受けた。
朝を待ち、無傷の隊士が屯所へと駆け込み、和彦を叩き起こす。
「辻斬りが出た」
眠れてなかったのか、ぐったりした様子の和彦は、その言葉にはすぐに反応して飛び起きる。
即座に用意をして診療所へ飛び込んだ。
診療所では重症の隊士はまだ寝てるが、軽傷の隊士含め、他の隊士は朝食を頂いていた。
「あら、先生。噂の壬生和彦さんですよ」
助手の女医が老人……亀田医師を呼ぶ。
「いらぬ食客がきおったか」
嫌そうに言う亀田医師だが、和彦は「隊士の容体は!」と詰め寄る。
「出血はあったが、数日安静にしておれば問題はない」
ほっとする和彦に医師は無遠慮に和彦の長い前髪をあげる。
「なんじゃ、その顔は。全く寝ておらん顔じゃないか」
顔を見られて和彦は反射的に医者の手を振り払うが、はっとなって「すみません」と謝った。
医師は和彦の様子を見て、「医者の性分じゃ。許せ」と返した。
状況を聞いた局長達は穴が開いた部分は他の隊で賄い、辻斬り犯を追う為、再びハンターオフィスへ依頼をかけた。
蜘蛛が一匹、爪の先に乗る。
何かを感じ取ったのだろうか、飽きたようなそぶりで指を振っては蜘蛛を落とした。
その視線の先にいた「彼」は再び動き出し、闇夜に消えた。
●
即疾隊に新しく、小隊が出来ることになった。
人数が増えたことにより、局長副局長が任務に対していちいち班分けするという面倒を省くのが主な理由。
現状、小隊は五番隊までであり、一番から四番隊までは実務隊。
五番隊だけは総務を担当する。
映えある一番隊の隊長は壬生和彦となっていた。
新たな形式に隊士達の意欲は上がってきており、治安部隊に所属しているという責任も少しずつであるが、芽生えてきている。
それは、ハンターを介して、少しずつ詩天の街の人々との距離が縮まってきているのも要因だと思われる。
とはいえ、まだまだ資金不足の即疾隊。
見回り以外は行く当てなどもないので、稽古に精を出す。
そんなある朝、即疾隊の屯所へ転がり込んでくる人物がいた。
「なんだ、壬生か?」
見張り番の隊士が来客だろう人物に尋ねると、「そうだ」と答える。
その人物は筒香町の岡っ引き、八助親分だった。
局長副局長は和彦を呼んで同席させる。
「辻斬りがまた現れた」
八助の切り出しに三人の目は鋭くなる。
「春先にあったきりだったな」
副局長の前沢の言葉に八助が頷く。
詩天が州都、若峰では春先まで辻斬りが出ていた。
番所の方で取り扱っていた事件であったが、犯人の捕縛までには至らなく、捜査は梅雨前に打ち切りとなったそうだ。
「でまぁ、俺達がダメだったってこともあるんだがよ、この件、あんた達にお任せしようって、俺は思ってる」
「その心は?」
局長の江邨の返しに八助は和彦の方を向いた。
「先日の豊後屋の若衆、忘れてないよな」
八助が言っていたのは、先日まで即疾隊が担当していた失踪事件の件だ。
浪人や町人などを言葉巧みにいいようにし、蜘蛛型歪虚を飼っていた覚醒者である斉鹿。
実際、斉鹿は歪虚を借りただけであり、彼にも歪虚は巣食っており、落ち度があったのか、斉鹿は歪虚に身を破られて死んでしまった。
「今回の辻斬りも、そいつが空き家で飼っていた大蜘蛛と同じ殺され方だった」
八助の言葉に和彦は目を見張る。
「もしかしたら、斉鹿の身体をあんなにしたやつにたどり着けるかもしれねぇ」
やってくれるかという八助の言葉に和彦は「承った」と答えた。
その表情は追い詰められたような、切羽詰まったような鬼気迫るものだった。
隊士達は辻斬りの事件を担当すると聞いて気合を入れていた。
辻斬りは夜の犯行ともあり、夜の見回り班も組むことになる。
提灯を片手に隊士達は見回りに入った。
事件場所の殆どが中心部から中流上流の者達が住まう北の方の倉本町辺りだという。中心部から北のへ向かうと、住宅街故に一気に人通りは減り、静かであった。
見回りは今まであった辻斬り現場を通りつつ見回る。
「辻斬り班ならば、斬りあいも仕方ないからな」
「俺が捕まえてやるさ」
隊士達は低く小さい声で笑いつつ、辻斬りとの対峙を待っていたようだった。
右に曲ろうとした時、暗がりに人の影を見る。
「即疾隊だ」
「何者だ」
隊士達が手を刀にかけつつ、問う。
影は蝋燭の火のように揺れると、瞬時に隊士達へ間合いを詰めた。
抜かれる刀が微かに月光を弾いて切っ先が隊士の肩から鎖骨にかけて切り上げる。
「うっ」
短く呻く隊士の身体には血が滲んでいるのか、着物を汚していく。
「おのれ!」
別の隊士二人が斬られた隊士を庇うように前に立つと、辻斬り班は振り上げたままの刀を隊士の額目掛けて振り下ろす。
隊士達は和彦ほどではないが、実力には自信があったが、赤子のように手が出せなかった。
「た、退却だ!」
怪我をした隊士達を抱えて見回り班が逃げていく。
辻斬りは逃す気はないのか、そのまま即疾隊を早歩きで追う。
追われていることに肝を冷やす隊士達は恐慌状態寸前であるが、まだなんとか距離は稼げている。
ここを曲ればと思ったところ、手招く手が見え、隊士達は転がり込んだ。
隊士達が中に入りきると、手招きした者はそっと戸を閉め、息を殺すように手振りで指示をする。
足音が聞こえなくなった頃、全員が大きく息を吐く。
「お前さんら、即疾隊じゃな?」
しゃがれた老人の声だが、中々にピンシャンしている。
「貴様は……」
尋ねる隊士の後ろにいた隊士には見覚えがあった。
「ここは、亀田診療所か」
「その通り」
隊士の声に老人は頷いた。
「この辺には辻斬りが現れるからな。いたずらに剣で人を斬るなど、言語道断。これだから剣士は」
ぶちぶち説教と嫌味を言う老人に知っている隊士は他の隊士に「若峰では剣士嫌いで有名な医者だ」と素早く教える。
「なんか言ったか」
ぎろりと睨み付ける老人だが、重症の隊士に気づく。
「出血はひどいが、まぁ、すぐに治るじゃろ。上がれ」
老人が言えば、隊士達は診療所に上がり、適切な治療を受けた。
朝を待ち、無傷の隊士が屯所へと駆け込み、和彦を叩き起こす。
「辻斬りが出た」
眠れてなかったのか、ぐったりした様子の和彦は、その言葉にはすぐに反応して飛び起きる。
即座に用意をして診療所へ飛び込んだ。
診療所では重症の隊士はまだ寝てるが、軽傷の隊士含め、他の隊士は朝食を頂いていた。
「あら、先生。噂の壬生和彦さんですよ」
助手の女医が老人……亀田医師を呼ぶ。
「いらぬ食客がきおったか」
嫌そうに言う亀田医師だが、和彦は「隊士の容体は!」と詰め寄る。
「出血はあったが、数日安静にしておれば問題はない」
ほっとする和彦に医師は無遠慮に和彦の長い前髪をあげる。
「なんじゃ、その顔は。全く寝ておらん顔じゃないか」
顔を見られて和彦は反射的に医者の手を振り払うが、はっとなって「すみません」と謝った。
医師は和彦の様子を見て、「医者の性分じゃ。許せ」と返した。
状況を聞いた局長達は穴が開いた部分は他の隊で賄い、辻斬り犯を追う為、再びハンターオフィスへ依頼をかけた。
リプレイ本文
東方は詩天が首都若峰に足を踏み入れたハンター達が向かうのは即疾隊屯所。
「……辻斬りの噂話が出てきてるようですね」
そっとため息を吐くのはマシロビ(ka5721)。
「一時はなりを潜めていたが、斉鹿の件で再び動き出した。不安になるのも仕方ないが」
マシロビと話をしながら、ルイトガルト・レーデル(ka6356)はまっすぐ前を向き、言葉を返す。
「歪虚の事といい、斉鹿さんの事といい、気になることだらけですっ」
今度こそと意気込むカリン(ka5456)を横目に見つつ、七葵はそろそろ見えてくるだろう屯所の方向を見ていた。
屯所では隊士達が稽古をしており、野次馬の隊士はいなかった。
「あ、湯島さん」
カリンが声をかけた隊士は温和な表情を浮かべてハンター達を迎える。
「来られると伺ってました。その節はお世話になりました」
湯島は剣術よりも計算ごとが得意としているので、総務の役割を持つ五番隊に配属されたと言っていた。
「稼ぎはありませんが、浪人業の時よりは充実してます」
「それは良い事です」
湯島の笑顔は充実していることが伝わり、マシロビが優しく微笑む。
「局長達はどちらに」
皆守 恭也(ka5378)が尋ねると、湯島が案内してくれる。
通された部屋には、局長と副局長、そして、一番隊隊長の壬生和彦がいた。
「また来てくれたか、そちらの二人は初見だな。よろしく頼む」
一見、筋者のような外見の江邨局長だが、にこりと綿狸 律(ka5377)と恭也に笑いかける。
「おう、任せておけ」
笑顔には笑顔で返すのは律であるが、隣に座る恭也がちらりと律を見ると、律は少し慌てた風に背筋を伸ばす。
「また、よろしくお願いします」
頭を下げた和彦に七葵(ka4740)は本題に入る。
「医師の話が聞きたい」
七葵の言葉に和彦は「参りましょう」とハンター達を促した。
マシロビは筒香町の八助親分のところに顔を出していた。
「すみません、八助親分いませんか?」
麦茶を飲もうとしていた八助がマシロビに手招きをする。
マシロビに渡したのは辻斬り事件当時の書付だ。
「最初の一太刀は致命傷にはならないそうです。遺体を見た医者曰く、殺した相手の身体に合わせて斬る時の加減を変えてるんじゃないかって言ってました」
八助の子分がマシロビに麦茶を渡しつつ、補足説明をする。
「大人が斬られた時と同じ様に子供も斬られたら、脇近くのところが千切れるそうです」
「そんな加減もできるなんて……相当な手練れということですね」
マシロビが言えば、岡っ引き達が頷いた。
「相手の素性が分からんからな……気を付けろよ」
「あの、即疾隊の方でも潜伏先を洗い出ししてます」
マシロビが気配りに頷きつつ、見回りについた際に辻斬りと間違われないようにと言葉を差し込む。
「ああ、そうだな。倉本町や二岡町の番所にも顔を出しておけよ。その辺でも辻斬りはあったからよ」
「わかりました」
助言をありがたく受けたマシロビは倉本町へと向かう。
北の方へ歩いていたのはルイトガルトだ。
残暑の最中であるが、その暑さは盛夏にも負けてなく、首に張り付く金の髪を払う。
視界に入る景色は住宅街に入っており、人影も少ない。二岡町を歩いていたルイトガルトは周囲を見回す。
即疾隊より渡された資料には、二岡町より先で犯行には及んではいない。
これより北にあるのは、上流武家の屋敷が建ち並び、九代目詩天が居住する三条家もある。
斉鹿は現詩天である三条家を憎んでいた。
千石原の乱が終わろうとも、人に遺された傷は時に疼くもの。
思案していたルイトガルトはぬるい風が右よりきたので、そのまま足を向けた。
カリンは若峰中央より南の筒香町から倉本町、二岡町へと向かっていく。
教えて貰ったルートと分岐を確認していく。
「おやおや、お嬢ちゃん、どうかしたのか?」
「私は即疾隊の者で、辻斬りを追ってるんです」
倉本町の勝手口より出てきた下働きの老人に声をかけられた。
「そうかい、ご苦労さんだねぇ」
「この辺りに辻斬りが出るようですが、不審な人とか見たことありませんか?」
カリンの問いに老人はうーんと、唸る。困ったように白髪の眉を八の字にして。
「……どうかされましたか?」
「うちの旦那様、酒が弱くてね。ある日、酔っぱらって人気無い天水桶の陰で寝てたんだよ。ちょっと目を開けた時にまるで鬼のような姿の浪人が倉本町近くを歩いていたって言ってたんだ」
「え! その旦那様は無事だったのですか?」
心配するカリンの様子に老人は「また寝ちまったから気づかれなかった」と笑う。
「それはよかったですっ。夜の外出は控えてくださいね」
注意するカリンの言葉に老人は「ありがとうよ」と頷いた。
和彦に連れられてきた七葵と律と恭也が来たのは、亀田診療所。
玄関で腕を組んで即疾隊を見上げるのは亀田医師。
「まぁまぁ、先生。皆さまお疲れ様です」
女医の初名が即疾隊と亀田医師との間を取り持って即疾隊を診療所に上げる。
怪我を見るため、診療所で療養していた隊士は動けるほど回復していたが、経過診察で診療所に来ていた。
「どうせ、刀傷を見に来たのだろう。これから看るから、ちゃんと見ていけ」
亀田医師がそう言うと、診察が始まる。
「横の太刀傷はほぼ治っているな」
恭也の言葉に亀田医師が頷く。
「ああ。傷は浅くても、出血量が多かった」
「二の太刀を受けていたら、ただじゃすまなかっただろう」
刀傷を受けた隊士は一の太刀のみ。二の太刀を受けていたら、死んでいただろう。
患部を見せてもらった七葵だが、浅い傷であろうとも、
「でも、よかったな。いい先生に診てもらって」
にっかりと笑う律に隊士は「そうだな」と頷く。
「ふん、お世辞を言われても嬉しくないわ」
剣士如きがとそっぽを向く亀田医師だが、誉められてまんざらでもなかった。
「じゃ、俺ときょーやは先に話聞いてくる」
律と恭也が診療所を先に出ると、七葵と和彦は隊士の話を聞く。
「辻斬りの姿は覚えているか?」
尋ねられた隊士は暗いところだったのと、よくは覚えていない模様だが、思い出すような素振りを見せる。
「斬られた時、髪が月の光に似ていた。顔はよく覚えていないが、一緒にいた連中は鬼の形相と言ってた。覚醒者かもしれないな」
「鬼か……」
ぽつりと呟く七葵が俯いた時、隣に座っていた和彦がぎゅっと手を握り締める所を見た。
「覚醒者の人間か、歪虚かは俺達にはわからん。そして、俺たちの手に余る相手だ……頼む」
隊士が頭を下げると、七葵は「承った」と返した。
即疾隊の話を横で聞いていた亀田医師はため息まじりに和彦の方を向く。
「何を思い詰めておる」
「いえ」
和彦は先日髪を上げられたことで警戒心を持っているようにも見える。
街中に出て情報を収集するのは律と恭也。
「迷子になるなよ?」
「平気だって! 大きな道なんだ、迷子になったりなんかしないって」
突っぱねる律であるものの、最終的には「多分?」と疑問形になった。
律を迷子にさせてはいけないと思った恭也は人混みで少し離れてしまった律の方を向くと……その姿は見えなくなった。
律は甘味屋の前で陳列されている団子や大福を物色していた。
「この団子二本」
団子の一本を口に咥えつつ、恭也を探すも、すぐに見つけた。
「きょーや。ここの団子、うま……じゃない。怪しいにおいがぷんぷんするから、中に入って調査しようぜ」
きりっと音が聞こえるくらいに真面目に言う律に恭也はため息を吐く。
「お菓子ばっかり食べるんじゃなく、きちんと聞き込みをしろ」
恭也のお小言を頂きつつ、律は甘味屋で聞き取り調査を恭也と一緒に行うことにした。
店の中では辻斬りの話でもちきりで、即疾隊士も襲われたという話に流れる。
「亀田先生が助けたんだってね!」
その名前に二人が反応する。
「あの剣士嫌いの先生がねぇ」
などと口々に飛び交うので、意外だったのだろう。
「先生って千石原の乱前に来たって話でしょ?」
乱の前とはいえ、何かと治安が良くない時期だったので、物好きだと思っていたようだ。
そんな噂話を聞いて、二人は顔を見合わせる。
ルイトガルトの狙いは辻斬り犯の犯行後の逃亡先。
空き家などを見て回ったが、この辺りは特にはなかった。
向こうから歩いてきた白い髪の少女に気づいたルイトガルトが声をかける。
「あ、お疲れ様です」
二人で情報交換をし終わると、一緒に周辺を歩いていた。
「お、即疾隊の」
ルイトガルトに声をかけてきたのは渡世人の風待。
「こんなところをどうしたのだ」
風待の家は筒香町近くのはず。ここは中央部よりは北よりなので、反対方向になる。
「辻斬りの話でさ、気になって俺なりに調べてたんだが、さっぱりわからねぇんだ」
出鼻をくじかれたような気がするが、風待はなおも話を続ける。
「この間、襲われた隊士。剣士嫌いの亀田先生の所に世話になってるって?」
「ええ、そうです」
頷くマシロビに風待は不思議そうな顔をしていた。
「この辺りで空き家になっちまってるのは、千石原の乱で被害被った武家連中だ。現詩天の三条家派閥の武家も住んでるけどな」
周囲を見やった風待二人の方を向く。
「亀田先生がこのあたりを歩いているって話があったんだよ。往診なんて滅多にしない人だから、不思議に思ったって」
風待の言葉に二人は顔を見合わせた。
日が暮れたころ、ハンター達は集まって情報の整理をしていた。
「どうにしろ、辻斬り犯のおびき出しは確定だな」
七葵が言えば、全員が納得する。
「カリン殿、マシロビ殿、前衛に立つ者へ施術をお願いします」
和彦が声をかけると、二人は返事をしたが、それに対して固まったのは恭也。
「よろしく頼む」
頷くルイトガルトに続いて、恭也は背筋を伸ばして畏まる。
「よろしく頼みます……」
夜になり、二つの班に分かれて見回りに出た。
即疾隊はこの夜は見回りをせず、和彦とハンター達が見回る。
夜空に浮かぶのは満月を少し過ぎた月。しかし、雲がかかっており、月の光を遮っていた。
こんな日に人を斬るのか思いつつも、恭也は暗い路地を歩くため、提灯を用意している。
辻斬りの件もあり、人の気配はなかった。
「……壬生先輩、大丈夫ですか?」
眉を寄せて声をかけたマシロビの様子に和彦ははっとなったように目を見開く。
「大丈夫です。顔色悪かったですか?」
「ええ……でも、戦う事はあまり気分のいいことではありませんが」
「皆で力を合わせれば大丈夫だって、な、きょーや」
余計な緊張をほぐすように律が言えば、恭也は穏やかな笑みを浮かべて頷く。
ハンター達の気遣いに和彦はぎこちなくであるが、少しだけ笑みのような表情を浮かべた。
和彦達とは別のルートを歩いている七葵達も見回りを開始している。
出歩いている人がいない事を祈りつつ、カリンは空を見上げた。
今歩いているところは月明かりが差し込む場所であり、雲が流れたあとに見える月の光の下での提灯は眩しくも思える。
ルイトガルトが昼間に自身で確認していった場所をルートに入れつつ、歩いているが、今のところ、姿は見えなかった。
昼間に会った風待の話を皆にしたところ、七葵の話に寄れば、亀田医師は大人しく家にいると言っていた。
二岡町に差し掛かる十字路を曲る時に、流れる雲が月を隠す。
ハンター達の目の前を歩く人物に三人の様子が固まる。
平均的な身長に中肉であるが、しっかりとした体躯。腰に差している刀はどこかボロボロだ。
月光に透けるような煌く金の髪の後ろ姿……歩く足をぴたりと止める。
「……俺は七葵」
七葵が問いても答えはしなかった。
「何が目的でその刃を振るう?」
周囲は静寂、聞こえないはずはない。
「大蜘蛛も人も、お前に区別はないのか」
静かに問う七葵の声に反応はせず、ルイトガルトが横に回り、手を差し伸べたカリンに提灯を預ける。
声の問いに返さないならば、刀で問うまで。
七葵が納刀状態のまま、駆け出す。上段に構えた七葵の刀が振り下ろされようとすると、月の光を弾いて刀が抜かれる。
下段より抜かれる刀は七葵の速さを越え、その切っ先を七葵の胸を斬りつけようとしていた。
間に合わないと思った瞬間、刀に触れた光が崩れ、二の太刀を避けようと身体を背けるも、凶刃は七葵の肩を滑べり、服が血で汚れる。
無駄のない浪人の動きに常に平静なルイトガルトが言葉を失う。
マシロビの魔導短伝話よりカリンの声が響く。
皆の視線がマシロビへと向けられている中、彼女はカリンの報告を復唱する。
四人がカリン達を見つけると、三人がかりで一人の浪人に手こずっている姿があった。
「お前、何がしたくてこんなことしてんだ!」
律の責める声に反応するわけもなく、浪人はルイトガルトの膝を斬りつける。
歯噛みする律が素早く魔導カメラでその現場を映し、顔からカメラを手放したのを確認した恭也が加勢に走る。
カリンがデルタレイで浪人の動きを阻止しようにも、身体を貫かれても浪人は動きが鈍ることなく、恭也より早く動いて斬りつけては、事前に施術されていた防御障壁を発動させていた。
「貴殿が噂の辻斬りか」
自身を守ってくれた崩れるガラスの光を見つめた恭也が呟く。
「その罪、償ってもらうぞ」
脚にマテリアルを流し込んだ恭也は斬りかかりながら一気に踏み込んで斬りかかる。
恭也の一撃を刀で受けた浪人は力で恭也の刀を受け流し、素早く恭也へと斬りつけた。
「きょーや!」
律の叫び声に反応した恭也は身を捩り、攻撃をかわそうとしたが、刃は恭也の腹を滑る。
更に前に出た和彦が恭也の肩を掴んで、後ろに下がらせた。
「これ以上、その剣で傷つけさせるか!」
叫ぶ和彦は刀を水平に構える。
ぴくりと、動いた浪人にはマシロビが展開した桜吹雪の幻影でも見ているのだろうか。
しかし、浪人は迷うことなく、振り下ろした凶刃を和彦へと落とされ、カリンやマシロビに施された魔法も符あって、胸へのかすり傷で済んだが衝撃に耐えれず、仰向けに倒れた。
隙をついて逃亡する浪人を律とカリンが追ったものの、曲道の多い路地に逃げ込まれてしまい、見失ってしまった。
皆、怪我は浅かったが、衝撃が強くて動けなかった模様。
「あいつ……なんなんだよ……」
恭也を支えるため、律が腕を回して立ち上がる。
「大丈夫ですか」
「……かなりの使い手だな……」
マシロビの手を借り、申し訳なく立ち上がった七葵が呻くように呟くと、視線に入ったルイトガルトが見つめた先は和彦であった。
ルイトガルトは痛む足を抑えながら、自身の跳ねる鼓動を、荒くなる呼吸を聞いていた。
街中で魚型歪虚が暴れていた時、和彦の剣技を観察していたのを思い出していた。
似ていたのだ。
あの浪人の構えが。
疲労を隠せないハンター達は屯所へと戻って行った。
「……辻斬りの噂話が出てきてるようですね」
そっとため息を吐くのはマシロビ(ka5721)。
「一時はなりを潜めていたが、斉鹿の件で再び動き出した。不安になるのも仕方ないが」
マシロビと話をしながら、ルイトガルト・レーデル(ka6356)はまっすぐ前を向き、言葉を返す。
「歪虚の事といい、斉鹿さんの事といい、気になることだらけですっ」
今度こそと意気込むカリン(ka5456)を横目に見つつ、七葵はそろそろ見えてくるだろう屯所の方向を見ていた。
屯所では隊士達が稽古をしており、野次馬の隊士はいなかった。
「あ、湯島さん」
カリンが声をかけた隊士は温和な表情を浮かべてハンター達を迎える。
「来られると伺ってました。その節はお世話になりました」
湯島は剣術よりも計算ごとが得意としているので、総務の役割を持つ五番隊に配属されたと言っていた。
「稼ぎはありませんが、浪人業の時よりは充実してます」
「それは良い事です」
湯島の笑顔は充実していることが伝わり、マシロビが優しく微笑む。
「局長達はどちらに」
皆守 恭也(ka5378)が尋ねると、湯島が案内してくれる。
通された部屋には、局長と副局長、そして、一番隊隊長の壬生和彦がいた。
「また来てくれたか、そちらの二人は初見だな。よろしく頼む」
一見、筋者のような外見の江邨局長だが、にこりと綿狸 律(ka5377)と恭也に笑いかける。
「おう、任せておけ」
笑顔には笑顔で返すのは律であるが、隣に座る恭也がちらりと律を見ると、律は少し慌てた風に背筋を伸ばす。
「また、よろしくお願いします」
頭を下げた和彦に七葵(ka4740)は本題に入る。
「医師の話が聞きたい」
七葵の言葉に和彦は「参りましょう」とハンター達を促した。
マシロビは筒香町の八助親分のところに顔を出していた。
「すみません、八助親分いませんか?」
麦茶を飲もうとしていた八助がマシロビに手招きをする。
マシロビに渡したのは辻斬り事件当時の書付だ。
「最初の一太刀は致命傷にはならないそうです。遺体を見た医者曰く、殺した相手の身体に合わせて斬る時の加減を変えてるんじゃないかって言ってました」
八助の子分がマシロビに麦茶を渡しつつ、補足説明をする。
「大人が斬られた時と同じ様に子供も斬られたら、脇近くのところが千切れるそうです」
「そんな加減もできるなんて……相当な手練れということですね」
マシロビが言えば、岡っ引き達が頷いた。
「相手の素性が分からんからな……気を付けろよ」
「あの、即疾隊の方でも潜伏先を洗い出ししてます」
マシロビが気配りに頷きつつ、見回りについた際に辻斬りと間違われないようにと言葉を差し込む。
「ああ、そうだな。倉本町や二岡町の番所にも顔を出しておけよ。その辺でも辻斬りはあったからよ」
「わかりました」
助言をありがたく受けたマシロビは倉本町へと向かう。
北の方へ歩いていたのはルイトガルトだ。
残暑の最中であるが、その暑さは盛夏にも負けてなく、首に張り付く金の髪を払う。
視界に入る景色は住宅街に入っており、人影も少ない。二岡町を歩いていたルイトガルトは周囲を見回す。
即疾隊より渡された資料には、二岡町より先で犯行には及んではいない。
これより北にあるのは、上流武家の屋敷が建ち並び、九代目詩天が居住する三条家もある。
斉鹿は現詩天である三条家を憎んでいた。
千石原の乱が終わろうとも、人に遺された傷は時に疼くもの。
思案していたルイトガルトはぬるい風が右よりきたので、そのまま足を向けた。
カリンは若峰中央より南の筒香町から倉本町、二岡町へと向かっていく。
教えて貰ったルートと分岐を確認していく。
「おやおや、お嬢ちゃん、どうかしたのか?」
「私は即疾隊の者で、辻斬りを追ってるんです」
倉本町の勝手口より出てきた下働きの老人に声をかけられた。
「そうかい、ご苦労さんだねぇ」
「この辺りに辻斬りが出るようですが、不審な人とか見たことありませんか?」
カリンの問いに老人はうーんと、唸る。困ったように白髪の眉を八の字にして。
「……どうかされましたか?」
「うちの旦那様、酒が弱くてね。ある日、酔っぱらって人気無い天水桶の陰で寝てたんだよ。ちょっと目を開けた時にまるで鬼のような姿の浪人が倉本町近くを歩いていたって言ってたんだ」
「え! その旦那様は無事だったのですか?」
心配するカリンの様子に老人は「また寝ちまったから気づかれなかった」と笑う。
「それはよかったですっ。夜の外出は控えてくださいね」
注意するカリンの言葉に老人は「ありがとうよ」と頷いた。
和彦に連れられてきた七葵と律と恭也が来たのは、亀田診療所。
玄関で腕を組んで即疾隊を見上げるのは亀田医師。
「まぁまぁ、先生。皆さまお疲れ様です」
女医の初名が即疾隊と亀田医師との間を取り持って即疾隊を診療所に上げる。
怪我を見るため、診療所で療養していた隊士は動けるほど回復していたが、経過診察で診療所に来ていた。
「どうせ、刀傷を見に来たのだろう。これから看るから、ちゃんと見ていけ」
亀田医師がそう言うと、診察が始まる。
「横の太刀傷はほぼ治っているな」
恭也の言葉に亀田医師が頷く。
「ああ。傷は浅くても、出血量が多かった」
「二の太刀を受けていたら、ただじゃすまなかっただろう」
刀傷を受けた隊士は一の太刀のみ。二の太刀を受けていたら、死んでいただろう。
患部を見せてもらった七葵だが、浅い傷であろうとも、
「でも、よかったな。いい先生に診てもらって」
にっかりと笑う律に隊士は「そうだな」と頷く。
「ふん、お世辞を言われても嬉しくないわ」
剣士如きがとそっぽを向く亀田医師だが、誉められてまんざらでもなかった。
「じゃ、俺ときょーやは先に話聞いてくる」
律と恭也が診療所を先に出ると、七葵と和彦は隊士の話を聞く。
「辻斬りの姿は覚えているか?」
尋ねられた隊士は暗いところだったのと、よくは覚えていない模様だが、思い出すような素振りを見せる。
「斬られた時、髪が月の光に似ていた。顔はよく覚えていないが、一緒にいた連中は鬼の形相と言ってた。覚醒者かもしれないな」
「鬼か……」
ぽつりと呟く七葵が俯いた時、隣に座っていた和彦がぎゅっと手を握り締める所を見た。
「覚醒者の人間か、歪虚かは俺達にはわからん。そして、俺たちの手に余る相手だ……頼む」
隊士が頭を下げると、七葵は「承った」と返した。
即疾隊の話を横で聞いていた亀田医師はため息まじりに和彦の方を向く。
「何を思い詰めておる」
「いえ」
和彦は先日髪を上げられたことで警戒心を持っているようにも見える。
街中に出て情報を収集するのは律と恭也。
「迷子になるなよ?」
「平気だって! 大きな道なんだ、迷子になったりなんかしないって」
突っぱねる律であるものの、最終的には「多分?」と疑問形になった。
律を迷子にさせてはいけないと思った恭也は人混みで少し離れてしまった律の方を向くと……その姿は見えなくなった。
律は甘味屋の前で陳列されている団子や大福を物色していた。
「この団子二本」
団子の一本を口に咥えつつ、恭也を探すも、すぐに見つけた。
「きょーや。ここの団子、うま……じゃない。怪しいにおいがぷんぷんするから、中に入って調査しようぜ」
きりっと音が聞こえるくらいに真面目に言う律に恭也はため息を吐く。
「お菓子ばっかり食べるんじゃなく、きちんと聞き込みをしろ」
恭也のお小言を頂きつつ、律は甘味屋で聞き取り調査を恭也と一緒に行うことにした。
店の中では辻斬りの話でもちきりで、即疾隊士も襲われたという話に流れる。
「亀田先生が助けたんだってね!」
その名前に二人が反応する。
「あの剣士嫌いの先生がねぇ」
などと口々に飛び交うので、意外だったのだろう。
「先生って千石原の乱前に来たって話でしょ?」
乱の前とはいえ、何かと治安が良くない時期だったので、物好きだと思っていたようだ。
そんな噂話を聞いて、二人は顔を見合わせる。
ルイトガルトの狙いは辻斬り犯の犯行後の逃亡先。
空き家などを見て回ったが、この辺りは特にはなかった。
向こうから歩いてきた白い髪の少女に気づいたルイトガルトが声をかける。
「あ、お疲れ様です」
二人で情報交換をし終わると、一緒に周辺を歩いていた。
「お、即疾隊の」
ルイトガルトに声をかけてきたのは渡世人の風待。
「こんなところをどうしたのだ」
風待の家は筒香町近くのはず。ここは中央部よりは北よりなので、反対方向になる。
「辻斬りの話でさ、気になって俺なりに調べてたんだが、さっぱりわからねぇんだ」
出鼻をくじかれたような気がするが、風待はなおも話を続ける。
「この間、襲われた隊士。剣士嫌いの亀田先生の所に世話になってるって?」
「ええ、そうです」
頷くマシロビに風待は不思議そうな顔をしていた。
「この辺りで空き家になっちまってるのは、千石原の乱で被害被った武家連中だ。現詩天の三条家派閥の武家も住んでるけどな」
周囲を見やった風待二人の方を向く。
「亀田先生がこのあたりを歩いているって話があったんだよ。往診なんて滅多にしない人だから、不思議に思ったって」
風待の言葉に二人は顔を見合わせた。
日が暮れたころ、ハンター達は集まって情報の整理をしていた。
「どうにしろ、辻斬り犯のおびき出しは確定だな」
七葵が言えば、全員が納得する。
「カリン殿、マシロビ殿、前衛に立つ者へ施術をお願いします」
和彦が声をかけると、二人は返事をしたが、それに対して固まったのは恭也。
「よろしく頼む」
頷くルイトガルトに続いて、恭也は背筋を伸ばして畏まる。
「よろしく頼みます……」
夜になり、二つの班に分かれて見回りに出た。
即疾隊はこの夜は見回りをせず、和彦とハンター達が見回る。
夜空に浮かぶのは満月を少し過ぎた月。しかし、雲がかかっており、月の光を遮っていた。
こんな日に人を斬るのか思いつつも、恭也は暗い路地を歩くため、提灯を用意している。
辻斬りの件もあり、人の気配はなかった。
「……壬生先輩、大丈夫ですか?」
眉を寄せて声をかけたマシロビの様子に和彦ははっとなったように目を見開く。
「大丈夫です。顔色悪かったですか?」
「ええ……でも、戦う事はあまり気分のいいことではありませんが」
「皆で力を合わせれば大丈夫だって、な、きょーや」
余計な緊張をほぐすように律が言えば、恭也は穏やかな笑みを浮かべて頷く。
ハンター達の気遣いに和彦はぎこちなくであるが、少しだけ笑みのような表情を浮かべた。
和彦達とは別のルートを歩いている七葵達も見回りを開始している。
出歩いている人がいない事を祈りつつ、カリンは空を見上げた。
今歩いているところは月明かりが差し込む場所であり、雲が流れたあとに見える月の光の下での提灯は眩しくも思える。
ルイトガルトが昼間に自身で確認していった場所をルートに入れつつ、歩いているが、今のところ、姿は見えなかった。
昼間に会った風待の話を皆にしたところ、七葵の話に寄れば、亀田医師は大人しく家にいると言っていた。
二岡町に差し掛かる十字路を曲る時に、流れる雲が月を隠す。
ハンター達の目の前を歩く人物に三人の様子が固まる。
平均的な身長に中肉であるが、しっかりとした体躯。腰に差している刀はどこかボロボロだ。
月光に透けるような煌く金の髪の後ろ姿……歩く足をぴたりと止める。
「……俺は七葵」
七葵が問いても答えはしなかった。
「何が目的でその刃を振るう?」
周囲は静寂、聞こえないはずはない。
「大蜘蛛も人も、お前に区別はないのか」
静かに問う七葵の声に反応はせず、ルイトガルトが横に回り、手を差し伸べたカリンに提灯を預ける。
声の問いに返さないならば、刀で問うまで。
七葵が納刀状態のまま、駆け出す。上段に構えた七葵の刀が振り下ろされようとすると、月の光を弾いて刀が抜かれる。
下段より抜かれる刀は七葵の速さを越え、その切っ先を七葵の胸を斬りつけようとしていた。
間に合わないと思った瞬間、刀に触れた光が崩れ、二の太刀を避けようと身体を背けるも、凶刃は七葵の肩を滑べり、服が血で汚れる。
無駄のない浪人の動きに常に平静なルイトガルトが言葉を失う。
マシロビの魔導短伝話よりカリンの声が響く。
皆の視線がマシロビへと向けられている中、彼女はカリンの報告を復唱する。
四人がカリン達を見つけると、三人がかりで一人の浪人に手こずっている姿があった。
「お前、何がしたくてこんなことしてんだ!」
律の責める声に反応するわけもなく、浪人はルイトガルトの膝を斬りつける。
歯噛みする律が素早く魔導カメラでその現場を映し、顔からカメラを手放したのを確認した恭也が加勢に走る。
カリンがデルタレイで浪人の動きを阻止しようにも、身体を貫かれても浪人は動きが鈍ることなく、恭也より早く動いて斬りつけては、事前に施術されていた防御障壁を発動させていた。
「貴殿が噂の辻斬りか」
自身を守ってくれた崩れるガラスの光を見つめた恭也が呟く。
「その罪、償ってもらうぞ」
脚にマテリアルを流し込んだ恭也は斬りかかりながら一気に踏み込んで斬りかかる。
恭也の一撃を刀で受けた浪人は力で恭也の刀を受け流し、素早く恭也へと斬りつけた。
「きょーや!」
律の叫び声に反応した恭也は身を捩り、攻撃をかわそうとしたが、刃は恭也の腹を滑る。
更に前に出た和彦が恭也の肩を掴んで、後ろに下がらせた。
「これ以上、その剣で傷つけさせるか!」
叫ぶ和彦は刀を水平に構える。
ぴくりと、動いた浪人にはマシロビが展開した桜吹雪の幻影でも見ているのだろうか。
しかし、浪人は迷うことなく、振り下ろした凶刃を和彦へと落とされ、カリンやマシロビに施された魔法も符あって、胸へのかすり傷で済んだが衝撃に耐えれず、仰向けに倒れた。
隙をついて逃亡する浪人を律とカリンが追ったものの、曲道の多い路地に逃げ込まれてしまい、見失ってしまった。
皆、怪我は浅かったが、衝撃が強くて動けなかった模様。
「あいつ……なんなんだよ……」
恭也を支えるため、律が腕を回して立ち上がる。
「大丈夫ですか」
「……かなりの使い手だな……」
マシロビの手を借り、申し訳なく立ち上がった七葵が呻くように呟くと、視線に入ったルイトガルトが見つめた先は和彦であった。
ルイトガルトは痛む足を抑えながら、自身の跳ねる鼓動を、荒くなる呼吸を聞いていた。
街中で魚型歪虚が暴れていた時、和彦の剣技を観察していたのを思い出していた。
似ていたのだ。
あの浪人の構えが。
疲労を隠せないハンター達は屯所へと戻って行った。
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相談しましょう! カリン(ka5456) エルフ|17才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/08/18 23:15:23 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/08/15 19:58:30 |