• 蒼乱

【蒼乱】まだ見ぬ赤龍の故郷へ 前

マスター:葉槻

シナリオ形態
シリーズ(新規)
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
4日
締切
2016/08/18 12:00
完成日
2016/08/21 02:14

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 冒険都市リゼリオ。
 ハンターズソサエティ本部が置かれたこの都市の港へ行けば、数十km先の南方の孤島ラッツィオ島に漂着したサルヴァトーレ・ロッソの赤い船体が見え、一つの名物ともなっていた。
 ――サルヴァトーレ・ロッソが再び空を飛ぶまでは。

 ロッソがいなくなったその地には、今は何もない。
 ただ、孤島が見えるだけ。
 だが、港にはロッソに代わりに3艘のガレオン船が港を狭しと占拠していた。


「おー、良く来てくれたな、俺が船長のグァバだ。よろしくな」
 いかにも海の男、といったこんがりと焼けた肌に無数の傷をこさえた、筋骨隆々の男がガハハ、と笑った。
「第六師団副師団長、イズン・コスロヴァです。この度はよろしくお願いします」
 生真面目に差し出したイズン・コスロヴァ(kz0144)の華奢な白い手を、肉厚の大きな手が掴むと豪快に上下に振る。
「っと、俺も階級言った方がいいのかね? まぁ、でもアンタが副師団長だろうが何だろうが、海の上では俺の言う事を聞いてもらわにゃならん」
「それはもちろん。私は地の底には通じておりますが、海上のことは全く解りません。航海中は全面的にあなたを頼りにさせていただきますので」
 『地の底』という表現にグァバは体格に見合わない小さくてつぶらな黒い瞳をぱちくりと瞬かせた。そしてやがて大声を上げて、合点がいったというように笑った。
「あー! そうか、第六師団っていや、あれか。『アナグラ』か!」
 第六師団、ショーフェルラッドバッガーは地底都市オルブリッヒを師団都市とする為、『鉱員師団』『アリ地獄在住部隊』そして『アナグラ』と揶揄される事がある。
 言ってから、グァバは「あぁ……すまん」と背を丸め、水兵帽を外すと頭頂を掻いた。
「いえ、慣れておりますので、お気になさらずに」
 事実、それ以上の罵りを受けることもあるし、何よりグァバ自身がそういう嘲りを含んで口走ったのでは無い事が分かっていたので、イズンとしては気にも掛けない。
 しかし、グァバは怒られた大型犬(というよりは水牛っぽいが)のように、申し訳なさそうに小さくなっている。それが少し可笑しくて、イズンは口元をほころばせた。
「では、早速で申し訳ありませんが、船内を案内していただけますか? 船長殿」

 萎縮していたグァバは、船内を案内するうちにいつもの調子を取り戻していた。
「俺の家は代々漁師をやってたんだが、どうせならでかいことがやりたくて、帝国の海軍に志願したのよ。で、あのユーディトってばあちゃんに認められて今回船長に大抜擢、ってな」
 少し照れくさそうに自分の経歴を語っているが、あの第四師団長であるユーディトに認められたのだとしたら相当な実力者なのだろう。
 イズンはグァバに船内を案内して貰いつつ、そっと視線を落とした。
『……副師団長とは肩書きだけで、北へ南へと私は一体どこへ行こうというのだろうか』
 砲兵部隊として北伐へ参加し、今度は南へ行けと命ぜられここにいるわけだが。
 師団長のヴァーリは開発畑の引きこもり。副師団長は出向ばかりで師団都市におらず、それでも回るように人事を手配はしたのは自分だが、ほぼヴァーリの謎のカリスマ性が師団を纏めているに近いと思っている。
 ……これで師団長がうっかり爆発事故死でもしたら、恐らく第六師団は壊滅するだろう。
「……大丈夫か? 疲れたか? この船は広いからなぁ」
 気付けばグァバが心配そうにイズンの顔色を窺っている。
「いえ、すみません。ちょっと考え事を。ところでここには何名の船員が?」
 イズンは小さく首を振って、グァバが入った部屋へと入る。
 そこは食堂だった。コックと思わしき人物達が食材や調理器具などを忙しそうに配置している。
 グァバはイズンに席に座るよう促すと、中央に置かれた樽から水を汲み、一つはイズンの前に、一つは自分の手に持って、軽く掲げて見せた。
「まぁ、タダの水だけどな。航海に出るとこれがとんでも無い貴重品になる」
 ごくごくと音を鳴らし、杯を呷る。のど仏が上下する様がイズンからは見え、イズンもちびりとコップに口を付けた。
「あーと、総員数だっけか? 一隻につき30人だ。うちは3隻からなる船団だからな、全部で90人。そこに各師団から派遣された兵やら術士、ハンターを9名ずつ乗っけて、一隻39人の総勢117人」
「多いですね」
「ガレオン船としては普通だな。入る船なら50人以上乗る」
「……そう、なのですか。無知ですみません」
 申し訳なさそうにイズンが言うと、グァバはあっけらかんと笑った。
「何、そりゃ船の上に乗るのが初めてじゃ、知りようもねぇだろ。わかんねぇことは聞きな! これは俺の船だ。俺には地の底のことはわかねぇが、この船のことなら、どこに鼠の穴が空いているのかも解るぜ」
 その時、何の前触れも無く生暖かい物がイズンの脛を通過した。
「!?」
 驚いて机の下を見ると、そこには白い猫が長い尾をピンと立てて歩いて行く後ろ姿があった。
「あぁ、ありゃ鼠取り用の猫だ。全部で10匹いる。あれらも家族っちゃぁ、家族だな。あぁ! あと普段なら家畜も積む。豚かヤギ、あとニワトリだな。今回はさほどの航海にならねぇはずだから積んでねぇが」
 そういえばロッソの中にも様々な設備があると聞いたのを思い出す。
「……船とは本当に一つの村のような物なのですね」
 イズンがしみじみと言うと、グァバはニヤリと口元を歪めて笑った。
「プライバシーもねぇし、航海が続けば続いただけ風呂に入れねぇから、悪臭漂う環境劣悪な村だがな」


 出発当日の早朝。船室内では不安げな顔で見上げる2匹のパルムの頭部をそっと撫で、イズンは安心させるように微笑んだ。
「大丈夫ですよ、あなた達のことは、必ず守りますから」
 パルム達はその言葉に嬉しそうに笑うと、お互いで挟み込むようにして抱えている神霊樹の分樹をさらにぎゅーっと抱きしめた。
「そう、なので、あなた達はそれを大事に守っていて下さいね」
 イズンの言葉に「任せろ!」と言わんばかりのドヤ顔を示したパルムを見て、イズンは小さく笑う。
 それは、副師団長として人の前に立つときには見せたことの無い、優しく美しい微笑みだった。
 そのすぐ横には台座に納められた巨大なイニシャライザーが安置されている。
「イズン様」
 不安げにエルフの術者2名が背後からイズンへと声を掛けた。
「大丈夫です、あなた方のことも、必ず、護り通します」
 振り向いたその顔からは先ほどまでの微笑は消え、『副師団長』のイズンの顔だった。


「総員、帆を上げろ!」
「「アイアイサー!」」
 地鳴りのような野太い声が船上に響き、一斉に白いマストが降りると、風を受けて膨み広がっていく。
 ゆるりと船が動き始め、第四師団グァバ上等兵が率いる3隻のガレオン船がハンターと、そしてクリムゾンウェストの人々の希望を背負い出港したのだった。


リプレイ本文


 青い空、白い雲。
 深い藍色の海は穏やかで風をはらんだ帆が陽の光を浴びて眩しかった。
 エルフハイムの術者達が龍脈を探査し、航海士はその方角へ舵を切る。
 出港して1時間。
 3艘のガレオン船は順調に大海原を突き進んでいた。
「……ほんっと、のどかだな」
 大檣楼の上。軍用双眼鏡から顔を上げるとグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)は大きく伸びをした。
「こんな穏やかな海は年に何度あるかってくらいだ。あんた達ツイてるな」
 グリムバルドに背を向けながら反対側を見ていた青年二等兵が笑う。
 いつもはベルドルードから自由都市同盟までの貿易海路の維持の為に海上に出ているという彼らの話しによると、大地に沿ってではあるが確立された航路を維持し、貿易船を保護するのは彼ら第四師団の最重要任務だという。
「だが、いつもの決まったルートじゃなくて未知の航路ってのに浪漫があるよな」
「わかる。謎に包まれた大陸か……いい響きだよな。燃えてくるぜ!」
 すっかり意気投合した2人は、見張りを続けながらも今までお互いが遭遇した歪虚や事件について大いに盛り上がったのだった。

「赤龍……強欲王メイルストロムがかつて居た地……か。あの王竜の過去を知る為にも、いつかはと思っていたし、是非もないわ」
 舳先に1人佇み竜の地への想いを馳せていたフィルメリア・クリスティア(ka3380)は近付いて来る気配に気付いて、振り返った。
「お邪魔してしまいましたか?」
「いいえ。でもどうしましたか?」
 双眼鏡の首掛け紐を弄っているリリティア・オルベール(ka3054)の様子を見てフィルメリアは首を傾げた。
「……グリムバルドさんが盛り上がっちゃってて、交代して貰えないんです」
 リリティアはちらりとメインマストの上、大檣楼を見上げて拗ねたように唇を尖らせる。
「……あぁ、なるほど」
 フォアマストとミズンマストにも檣楼はあるが、こちらは狭いため第四師団の担当者以外が立ち入ることが難しく、ハンター達はメインマストの檣楼にだけ交代で1人ずつなら昇って良いとされていた。
「1時間で交代って約束したのに」
 ふくれっ面のリリティアを見て思わずフィルメリアは微笑んだ。
「ここから見る景色も壮大ですよ」
 船首楼に立てば波を切り、前進していく様が風と共に体感できた。
 藍色の海は陽の光を反射して煌めき、空と海が混ざる水平線はどこまでも遠い。
「……南方大陸……。赤龍、そしてザッハークが堕ちる原因となった地……残るは核だけとはいえ、強欲王を知る一助になればいいんですけどね」
 リリティアの呟きにフィルメリアも「そうですね」と視線を前方へと移す。
「かの王の肉体を直接この手で討った手前、此処で途中下車はしたくないしね……一緒に来れなかった人達の分も、しっかり務めを果たしましょうか」
「はい」
(私自身が想うモノの為に、歩みを止めない。何があっても進み続ける)
 フィルメリアは縁を握り締めながら誓う。
 こうして2人は潮風に長い髪をなびかせながら、いつまでもまだ見ぬ大地を探して水平線を見つめ続けた。

「……あぁ、央崎殿の弟さんなのですか」
「そうなんっすよ、あの時は姉さんがお世話になりました」
「いえ、その言葉はこちらが言うべきでしょう。……とても助かりました」
「あ、おーい」
 央崎 枢(ka5153)がイズン・コスロヴァ(kz0144)と談笑していると、正面からジルボ(ka1732)が2人を見つけて駆け寄ってくる。
「どうかしましたか?」
「いや、船長探してるんだけど……見てない?」
「船長室では?」
「行ったけどいなかった」
「……んじゃぁ、甲板に出ているとか?」
「うーん、入れ違ったかなぁ」
 弱ったな、と後頭部を掻くジルボの姿にイズンと枢は顔を見合わせる。
「何か急用ですか?」
「あぁ、いや。個人的にちょっと操舵のコツ、波と天候の読み方、天候不良時の対応とか聞いてみたいなって」
 「俺、便利屋だからさ」とニカリと笑うジルボに、なるほど、と頷いたのは枢。
「今、イズンさんと食堂通ってこっち来たけど、船長とは会わなかったな」
「マジか。んじゃぁ、下かなぁ」
「イズンさーん……ってあれ? みんなこんなところでどうしたの?」
 テノール(ka5676)がイズン達の後ろからのんびりと歩いて来た。
 狭い廊下に武装した覚醒者が4人も集まると、ほぼ身動きが取れなくなる。
「……とりあえず、甲板行くか」
 ジルボは船長探索を諦め、3人と共に甲板へと上がった。

 テノールの巧みな話術により、イズンは魔導カメラの前に緊張した面持ちで立っていた。
「笑って笑ってー」
 テノールの言葉にも困ったように眉間にしわを寄せたまま直立不動となっているイズンに、枢とジルボは思わずこぼれそうになる笑みを噛み殺す。
「にしても、南方ってどんな所何だろう」
「もう何百年と人が住んでないって土地なんだろ? ……北狄みたいに寒くなけりゃいいけど」
 撮り終わり、テノールが出てきた写真をイズンに見せる。
 映る自分の仏頂面にイズンの眉間のしわが更に深くなる。
 テノールが何やらイズンを慰めているが、イズンの表情は変わらない。
 そんな2人を見守りながら「何にせよ」とジルボがニヤリと口角を上げた。
「まずはこの航海も楽しむつもりだ。船旅の経験はまだ無いしね。ご立派な船に乗れるのも気分が良い」
「そうだな」
 枢はリアルブルーにいた頃、高校で習った漢文を思い出す。
 確か、あれは荘子だったはずだ。
 『図南鵬翼』。大きな鳥が南の果ての海を目指しはばたいて行くこと。転じて大事業や海外進出を企てることのたとえとして用いられる。
 まさしく今自分達はそうなのだろう。
 枢は快晴の空を見上げ、その眩しさに目を細めた。



 昼食後、出港の興奮も徐々に冷めてきた頃だった。
 突然の大きな銅鑼の音にハンター達は文字通り飛び上がった。
 リズミカルに刻まれる音に合わせ、船員達が一斉に持ち場へと散っていく。
 ハンター達はその波に逆らうように甲板へ出る。
「前方に歪虚の群れだ」
 大檣楼の上からロープを伝って一足飛びに降りてきたグリムバルドが素早く皆に告げる。
「本当だったらあんた達の手を患わせたくはねぇんだが、無事にあんた達を南方へ届ける為にもここは抜けなきゃならねぇ。頼む」
 船長であるグァバが船長室から走り寄ってきてハンター達に頭を下げると、指揮を執る為に船首楼へと走っていく。
 進路である龍脈の上、避けるには広範囲に敵が広がっているため突っ切る、といういささか強引な手段で突破するらしい。
「船を死守します。船が沈んだら全員の命がありませんから」
「……そりゃそうだ」
 イズンの言葉にテノールが両肩を竦めて失笑した。
 その後、テノールとグリムバルドが船首側へ、中央にジルボと枢そしてフィルメリア、船尾にリリティアとイズンが走る。
 第四師団の兵士達も砲手以外は甲板の上から敵を狙うべく銃を構えていた。
 ハンター達も全員がそれぞれに銃を構え、そして、一斉砲撃が開始されると同時に引き金を引いた。


「……酷い目に遭った」
 甲板の縁に背を預け、項垂れたようにしゃがみ込んだジルボが深い溜息を吐いた。
 ジルボだけでは無い。ハンター全員がジルボと同じように甲板の上にしゃがみ込んでぐったりしていた。
 端的に言えば、おおよそ1時間。砲撃による船の揺れに耐えながら、ジルボは小さなスコープ越しに歪虚を狙い続けた。
 それは他の面々も同じ事で、慣れない銃撃戦にリリティアやテノール、枢はとにかく近付いて来た海上の歪虚へ一撃を当てる事に集中した。
 結果、敵の群れを抜けたにもかかわらず船体に殆ど傷が無いのは、ひとえにハンター達の対応が優れていたからと言って過言ではない。
 全員が遠距離攻撃が出来る武器を持参していたこと、空からの敵に対してマストを守るよう事前に対策を練ったこと、それでもなお、甲板に上がってくるような敵にはそれぞれの持ち場に近接攻撃が得意な者が1人はいた事で、他者の手を患わせる前に早期に対処できたため、大事に至らずに済んだのだ。
「いやぁ、お見事だぜ、良い腕してんな、あんた達!」
 ガハハと笑いながらグァバがイイ笑顔でサムズアップしてくるので、枢もそれに微妙な笑顔と共にサムズアップで応えた。
「あぁいう歪虚の巣、みたいなのが今後もあるかもしれん。あんた達も休めるうちに休んでおいてくれな」
「……マジかよ」
 グリムバルドが甲板の上に大の字に寝転がった。

 地図も無い海上では、術士達が探る龍脈だけが唯一の道標だ。
 ここから外れ、龍脈を見失っても方角から同盟や帝国領に戻ることは可能かも知れないが、南方大陸に上陸することは今回の航海では不可能になる。
 北伐の時は道中で拠点を作り、そこで浄化術を行うことで一時的な安全地帯を作る事が出来たが、海上ではそういう訳にもいかなかった。
 一度出発したが最後、陸地に着くまで突き進むしか無い。

 その後も陽が沈むまでに3度、このような戦闘が行われたが、唯一の救いは歪虚がそこまで強くない、という点だった。
 もちろん中には大物もいたが、そういった個体は総じて巨体である分、砲撃で狙いやすく、運良く近付いて来たとしても兵士やハンター達の銃撃により早期に塵へと還すことが出来た。

「……暫く、トビウオが嫌いになりそうです」
 リリティアは子供くらいの背丈のある、トビウオと魚人が悪魔合体したような奇妙な歪虚の群れが船尾を狙って襲いかかってきた為、海上から甲板へと飛び込んで来たこれらを相手に奮戦する中で、これらに体当たりをされたり、まとわりつかれたりと散々な目に遭ったのだ。
「強欲って……色々いるんですね」
 フィルメリアも遠くを見ながら前髪を力なく掻き上げる。
 『直接王竜を討った』という点で囮になることも考えていたフィルメリアだったが、空飛ぶタツノオトシゴじみた小さな強欲竜は言葉が通じなかった。
 他にも強欲はいたものの、どうやら彼らにはあまり強欲王への義理などがあるタイプでは無いようだった。
「……夕飯の時間だって言ってたけど……みんな食べられる?」
 酷い疲労感に襲われたテノールが気合いを入れながら身を起こし、一同を見渡す。
「まぁ、食べないと体力が持たないからな。……消化に良い物を食べ過ぎない程度にしよう」
 枢も船上でバランスを取る為に普段使わない筋肉を使った為か、体中がギシギシと悲鳴を上げている。
「食べれるうちに食べておくか」
 グリムバルドの言葉に、一同は一瞬動きを止め、それから一様に大きな溜息を吐いたのだった。



 翌日。
 幸いなことに夜間の敵襲は無かった。
 波も穏やかなままで、そのため各自、ゆっくりと身体を休めることが出来た。
「……贅沢とは判っていますが……お風呂に入りたいですね」
「同感です」
 食堂で朝食をとった後、潮にべたつく髪をまとめ上げながらフィルメリアがぼやけば、リリティアもそれに強く同意した。
 一応、濡れタオルで身体を拭いたりはしたのだが、髪は洗うことが出来ない。
「スコールでもあれば洗えるんだろうけどね」
 やはり髪の長いテノールが窓から外を見るが、今日も空は晴天だった。
「でも嵐になったら髪洗うどころじゃないんじゃね? ほら、揺れて」
 ジルボの言葉に、3人は「あぁ……」とようやく思い至ったようで天井を仰ぐ。
 その時だった、夢にまで出てきた銅鑼の音が甲板に響き渡る。
「またかよ!」
 各々嘆きながら甲板へと走ったのだった。

 昼食までに2度、昼食後に1度の戦闘を経て、ハンター達は船上での戦い方のコツをかなり掴んでいた。
「確かに、“船に近付けさせない”この一点に限りますね」
「砲撃を抜けてくるのは大概小型ばかりなので、最初からこれらに集中して的を絞れば殆ど接近されませんしね」
「あとは砲撃の後の揺れだな。最初の頃はこれで狙いがぶれて困ったけど、慣れてしまえばタイミング読むだけだし」
「早期発見、早期対処。これが出来ればスキルも使わなくて済む事が多いな」
「あと、兵士達と狙いを合わせるってのも大事ですね」
「海の上だからかな? 今の所火を扱う敵がいないってのは助かるよな……今後もそうとは限らないから油断は出来ないけど」
 あと何日こんな生活が続くのか判らないのだ。嵐になれば眠れない夜もあるかもしれない。身体が休まらなければスキルの回復も見込めない。計画的で無駄の無い戦い方が必要だった。
 一同座して今までの戦闘の振り返りと今後の対策を練った。

 作戦会議を終え、グリムバルドは船首楼へ来ていた。
 大檣楼は1番高いし、左右をみるには良いが、前を見ようと思うとフォアマストが邪魔になるのが欠点だった。
 船首に立てばここから見る景色は陸では決して見る事が出来ない、360度真っ青な海と空。
「南方か……一体何が待っているんだろうな……いや敵は勿論居るんだろうが」
 見た事の無い景色や遺跡なんかを見れたら良いな、とグリムバルドはまだ見ぬ大陸へ想いを馳せる。
 元々リアルブルーにいた頃から見聞を深めようと世界を巡る旅をしていたくらいだ。未知の生物や文化には人並み以上の興味があった。
「どんだけ厳しかろうが、絶対辿り着いてみせ……え?」
 双眼鏡でのぞき込んだ青い水平線。その線が黄金色に見えた。
「えぇ!?」
 驚きに上手く言葉が出ず、思わず前檣楼にいる兵士の顔を見上げた。
 グリムバルドは、自分と同じく目の前に見えた物が信じられないと言った表情の兵士を見て、自分だけの幻想や錯覚では無い事を知った。

 銅鑼が鳴る。
 だが、それはいつもの戦闘を告げるリズミカルな物では無く、全員甲板に集合せよという連打だった。

「何だ、どうした?!」
 グァバが真っ先に船首楼へ駆けつけた。
 グリムバルドからのトランシーバー越しの連絡を受けたハンター達も兵士達を掻き分けて船首楼へと走った。
「え、えぇえええええ!?」
 少しずつ広がる黄金色の水平線。
 それは徐々に厚みを増し、砂漠の地平線となっていく。
「ここが……南方大陸……???」
 出航してから30時間余り。あまりに早い大陸発見に誰もがぽかんと口を開けたまま、徐々に近付く砂漠の大地を見つめ続けたのだった。



 ガレオン船からボートを降ろして、ハンター達は南方大陸と思わしき大地へと降り立った。
「暑っ!」
 テノールと枢が2人がかりで船から儀式用のイニシャライザーと、それを運ぶ為の御輿を降ろすと、吹き出る汗を乱暴に袖で拭った。
「……ここで門を作っちゃだめなんですか?」
「「ここではマテリアルが上手く活性出来ません」」
 術者2人に否定されて、リリティアは困ったように柳眉を寄せる。
「……ところで」
「?」
「アレは誰?」
 ジルボの視線の先、そこには全身に青い布を纏った幾人かの人影が静かに佇んでいた。

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重体一覧

参加者一覧

  • ライフ・ゴーズ・オン
    ジルボ(ka1732
    人間(紅)|16才|男性|猟撃士
  • The Fragarach
    リリティア・オルベール(ka3054
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士
  • 世界より大事なモノ
    フィルメリア・クリスティア(ka3380
    人間(蒼)|25才|女性|機導師
  • 友と、龍と、翔る
    グリムバルド・グリーンウッド(ka4409
    人間(蒼)|24才|男性|機導師
  • 祓魔執行
    央崎 枢(ka5153
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • ―絶対零度―
    テノール(ka5676
    人間(紅)|26才|男性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン イズンさんへの質問
フィルメリア・クリスティア(ka3380
人間(リアルブルー)|25才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2016/08/18 01:11:25
アイコン 船旅への支度(相談卓)
フィルメリア・クリスティア(ka3380
人間(リアルブルー)|25才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2016/08/18 11:35:26
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/08/14 00:43:05