ゲスト
(ka0000)
気になるあのコとスイカ割り
マスター:紺堂 カヤ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/08/20 19:00
- 完成日
- 2016/08/26 07:02
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
十五歳の少年、シェイマスは恋をしていた。
相手は、同じく十五歳の少女、ハンナ。いつもぴっかぴかの笑顔で村中の人に挨拶をする、すばらしく元気な女の子だった。
二年前、家具職人の親方のところへ弟子入りするため、この村にやってきたシェイマスは、一目で恋に落ちてしまった。
しかし、シェイマスは男兄弟ばかりで育ったせいもあり、女の子と話すのが大の苦手だった。自分から声をかけることなど、到底、できそうにもない。
(いいんだ、遠くからあの笑顔を見ているだけでも……)
シェイマスはそう思って、日々黙々と、タンスやテーブルの彫刻細工の技を磨いていた。恋心はこっそり、胸の中に隠しておこう、とそう決めて。
しかし、そんなシェイマスの恋心は実は周囲にダダ漏れだった。そりゃあそうだろう、毎朝、家具工房の前を通って雑貨屋の仕事へ向かうハンナの背中に熱視線を送っているのだから。
特に、その様子を一番間近で見ている親方とおかみさんは、なんとかしてやりたいという思いが日々強くなっていた。そして、ひとつ仲を取り持ってやろうじゃないか、と行動に出た。
「なあ、シェイマス。ひとつ、頼みがあるんだが」
親方がそう声をかけたとき、シェイマスは飾り彫りをするための薄板をやすりで磨いてるところだった。
「何ですか、親方。急ぎの仕事ですか?」
「いや、そうじゃないんだ。実はなあ、つい先日、知り合いからスイカを大量にもらってなあ」
「は?スイカですか?」
親方がスイカを大量にもらった、というのは本当だった。家庭菜園で作ってみたら信じられないくらい豊作で、と言って十玉も置いて行かれたのである。
「そう、スイカだ。立派なスイカで、とても甘いらしいんだが、残念なことになあ、俺も家内もスイカが苦手でなあ」
「はあ、それは残念ですね」
「だからな、お前にどうにかしてほしいんだよ。スイカ、好きだったよな?」
「好きですけど、え、でも、どうにかって」
シェイマスが戸惑っていると、親方はにっこり笑ってこう言った。
「スイカ割りでもして遊んだらどうだ。夏休みをあげるから。そうだな、三日後にでも。ハンナを誘ったら、喜んで行く、ってさ」
「えっ、えっ、えええええええ~~~~~~~??????」
シェイマスは大きく叫んで、持っていた薄板をばっきりと折った……。
相手は、同じく十五歳の少女、ハンナ。いつもぴっかぴかの笑顔で村中の人に挨拶をする、すばらしく元気な女の子だった。
二年前、家具職人の親方のところへ弟子入りするため、この村にやってきたシェイマスは、一目で恋に落ちてしまった。
しかし、シェイマスは男兄弟ばかりで育ったせいもあり、女の子と話すのが大の苦手だった。自分から声をかけることなど、到底、できそうにもない。
(いいんだ、遠くからあの笑顔を見ているだけでも……)
シェイマスはそう思って、日々黙々と、タンスやテーブルの彫刻細工の技を磨いていた。恋心はこっそり、胸の中に隠しておこう、とそう決めて。
しかし、そんなシェイマスの恋心は実は周囲にダダ漏れだった。そりゃあそうだろう、毎朝、家具工房の前を通って雑貨屋の仕事へ向かうハンナの背中に熱視線を送っているのだから。
特に、その様子を一番間近で見ている親方とおかみさんは、なんとかしてやりたいという思いが日々強くなっていた。そして、ひとつ仲を取り持ってやろうじゃないか、と行動に出た。
「なあ、シェイマス。ひとつ、頼みがあるんだが」
親方がそう声をかけたとき、シェイマスは飾り彫りをするための薄板をやすりで磨いてるところだった。
「何ですか、親方。急ぎの仕事ですか?」
「いや、そうじゃないんだ。実はなあ、つい先日、知り合いからスイカを大量にもらってなあ」
「は?スイカですか?」
親方がスイカを大量にもらった、というのは本当だった。家庭菜園で作ってみたら信じられないくらい豊作で、と言って十玉も置いて行かれたのである。
「そう、スイカだ。立派なスイカで、とても甘いらしいんだが、残念なことになあ、俺も家内もスイカが苦手でなあ」
「はあ、それは残念ですね」
「だからな、お前にどうにかしてほしいんだよ。スイカ、好きだったよな?」
「好きですけど、え、でも、どうにかって」
シェイマスが戸惑っていると、親方はにっこり笑ってこう言った。
「スイカ割りでもして遊んだらどうだ。夏休みをあげるから。そうだな、三日後にでも。ハンナを誘ったら、喜んで行く、ってさ」
「えっ、えっ、えええええええ~~~~~~~??????」
シェイマスは大きく叫んで、持っていた薄板をばっきりと折った……。
リプレイ本文
夏らしい晴空のもと、ハンターたちは河原に集まった。
不安そうにして緊張した面持ちのシェイマスと、シェイマスの内心など一向に気が付いていないふうにニッコリしているハンナが出迎える。
「ええっと、あの、来てくれて、ありがとうござい、ます」
シェイマスがたどたどしく挨拶すると、遠藤・恵(ka3940)が元気よく手を挙げた。
「はーい、遠藤・恵でっす♪ はりきっていきますよー」
「よろしくお願いします、ハンナです」
同じ年頃の、しかも元気の良い女の子がいるということが嬉しかったようで、ハンナも挨拶をした。小宮・千秋(ka6272)も楽しみな様子を全面に出して頷く。
「いやー、夏と言えばやっぱりスイカ割りですよねー」
フレンドリーな雰囲気が漂い、皆、そわそわと川の方を気にし始めた。それに気が付いたシェイマスが、川岸に岩で囲いをして作った簡易水槽を指差した。
「スイカは、あそこに冷やしてあるんです」
見れば、丸々としたスイカがずらりと十玉。雫をしましまの肌につけて、きらきらと光るようであった。
コウ(ka3233)が、呆れたように呟く。
「こりゃ随分贅沢だな」
「おー、美味そうなスイカじゃん! こりゃ楽しみだなー」
オウガ(ka2124)はわくわくと目を輝かせた。
「では、水から上げましょう」
シェイマスがそう言って川へ入って行くと、千秋やコウ、オウガといった男性陣がそれを手伝いにかかった。フィリテ・ノート(ka0810)が恋人のオウガに手をふって見送る。その間に、艶やかなブルーローズの水着に身を包み、向日葵の麦わら帽子をかぶったマルカ・アニチキン(ka2542)が、花柄のレジャーシートを木陰に引いて休憩場所を作った。
スイカを川から引き上げる作業を進めつつ、千秋がシェイマスに尋ねた。
「御主人様へのお土産としてスイカをお一つ頂きたいと思っているんですがー、よろしいでしょうかねー」
「構いませんが……、一玉というのは難しいかもしれませんので、後ほど切り分けたものを差し上げますね」
シェイマスはそう返事をしながらも、河原をちらちらと気にしていた。河原を、というよりはもちろん、河原にいるハンナを、だ。ハンナは、スイカ割りに使う目隠しの布を広げ、玉兎 小夜(ka6009)&恵のカップルと談笑していた。スイカ割り初めてなんだよね、などと言う小夜の声が聞こえてくる。
「俺はコウってんだ、よろしくな」
そんなシェイマスに、コウが声をかけた。ハッとしてから、よろしく、と返すシェイマスに笑いかけて、アドバイスをする。
「見てるだけじゃ届かねえからさ。こんな機会なんだから話しかけてったほうがいいぜ」
そして、自分の恋人・イルミナ(ka5759)を見ながら、気持ちはわかるしな、と呟いた。
コウの反対側からシェイマスに近寄って、なあなあ、と声をかけてきたのはオウガだ。
「んで、お前あの子のどの辺が好きなん?」
「えっ!?」
ド直球の質問に、シェイマスがたちまち赤面する。好きならそのくらい言えないと、と促されて、俯きつつ恥ずかしそうに言った。
「あ、明るい笑顔とか……、元気なところとか……。お、オウガさんはどうなんですか? フィリテさん、恋人なんですよね」
シェイマスが切り返すと。
「あ? 俺? 嫌いなところなんてねえよ、全部好きだ!」
オウガは快活に笑って言いきった。しっかりアピールすんだぜ、と背中を叩き、スイカを運び去っていく。シェイマスはオウガをポカンと見送ってから、ちょっと、笑った。ようやく笑顔を見せたシェイマスに、千秋がヒマワリのブローチを手渡した。
「ハンナさんはヒマワリがお好きだということでー。差し上げますー。頑張ってください」
「あ、ありがとうございます」
びっくりしつつも嬉しそうに受け取ったシェイマスに、コウも微笑みかけた。
「頑張れよ」
ひとまず、五玉のスイカを河原に運びだし、親方が用意してくれていたらしいシートの上に並べると、一気にスイカ割りの雰囲気が高まった。
マルカが川から上がってきた面々にテミス特製手ぬぐいを渡してくれ、男性陣はそれで濡れた手足を拭いた。司会進行に注力しようと決めていたらしい恵が、テキパキと組み分けをしていく。
「二人一組、で問題ないですよね。恋人同士で参加されてる方はそこで組んでいただいて、マルカさんは千秋さんとペアでよろしいでしょうか。シェイマス君はハンナさんと、ね。私はもちろん小夜さんと、です」
皆、異存はないようで、うんうん、と頷いた。シェイマスだけが妙に気恥ずかしそうにしていたが。
「ねえねえ。スイカ割りの仕方ってどうするの?」
そういえば、とでもいうように、フィリテがそんな疑問を投げかけた。それを聞いて、コウは傍らの恋人に尋ねてみる。
「イルミナ、スイカ割りって知ってるよな?」
「スイカ割り? バカにしないでくれる? 知ってるわよそれくらい」
イルミナはツンとそう答えるが、どうも知っている様子ではない。遊びに来たのではない、と言っていたくせに、どちらかというときわどい線の白いビキニを着て、銃を構えた。
「割るって言うんだから、散弾か徹甲弾でも……」
水着に銃。意外と似合う。などと言っている場合ではない。
「イルミナ、違う違う!」
コウがあわてて止めると、イルミナは不服そうにしつつも銃をおろした。
「ここは、シェイマスさんとハンナさんに見本を見せて貰いましょうよ」
フィリテがにこにこして言うと、えっ、と息を飲んだシェイマスとは対照的に、ハンナはわかりました、と明るく即答して、目隠しの布を広げて見せた。
「これで、割る人の目を隠して……、シェイマス君、巻くよ?」
「あ、うん」
「そして、割る人に棒を持たせて……、スイカの位置を口頭で教えます。シェイマス君、もっと前、そして右! そこ!」
シェイマスはハンナの声に合わせて移動をし、そこ、と言われたところで棒を振り下ろした。ぽこ、という音がして、棒がスイカを叩く。
「……今は見本なので軽めに叩きましたが、実際はもっと思い切りやってください。ふたりで交代に何度かやれば、スイカは割れると思います」
最後の説明はシェイマスが付け加えた。
「ようし、やろうぜ! 俺の野生の嗅覚をなめんなよ!」
オウガが腕まくりをして木刀を振り上げた。恋人にいいところを見せようとしている気合も充分に周りに伝わって、ハンターたちはそれぞれ、気分を高めるのであった。
気合充分なオウガとフィリテのペアは、まずフィリテから目隠しをして叩いてみることになった。
「リテ、もっと右、あっ、行き過ぎた、もう少し左に戻して……」
「えいっ」
そこ、という合図がある前に振り下ろしてしまったフィリテの棒は、すか、とスイカの脇で空を切った。
「むぅ。なんだか上手くいかないわね。……奥、深いかも」
目隠しを外し、頬を膨らませて唸るフィリテは、オウガに交代を申し出た。すぐさま、任せとけ、と元気な声が返ってきて、頼もしい恋人の姿に、フィリテは頬を膨らませた顔を笑顔に変えた。
その隣で、銃を諦めたイルミナとコウが正しくスイカ割りをしていた。息はぴったりで、ふたりとも見事にスイカに棒を叩き込み、亀裂を大きくさせている。
それを横目に見て、うーん、と唸ったのは小夜だ。
「刀ダメって言われちゃったんだよなー……」
どうやら、知人にスイカ割りに行くと話したところ、刀は使わないようにと忠告を受けたらしい。しかし、棒で叩いてできていく亀裂はあまり美しくない。
「仕方がない、この拳で割るしかない。バトラーグローブもつけてるし、怪我は平気だな!」
恵に目隠しをつけてもらい、グッと拳を固める。
「小夜さん頑張ってくださいー!」
恵の可愛らしい応援にも後押しされて、いざ、と足を踏み出すと。その足に、石がひっかかった。あっ、と思った時にはもう遅い。小夜は見事にすっころび、その結果。
ガツッ、と鈍い音がして、頭、それもド正面のおでこの部分が、ダイレクトにスイカに当たった。ゴッ、とスイカに大きな亀裂が入る。
「きゃーっ!?」
恵が慌てて駆け寄ると、小夜は当然と言うべきか、頭をくらくらさせてひっくり返った。
「はれほれひれ」
ふたりのスイカ割りは一時中断。恵は本気で心配しつつ膝枕をして小夜の治療を始めた。どうやら大事ではないようだ、ということはすぐにわかった。恵は、中断したけれど再開の必要はなさそうな、ぱっくりと綺麗に割れたスイカをちらり、と見る。
「はあ……兎さんは頭硬いんですねえ」
思わずそんな感心をしてしまうのだった。
「要は割れば良いのですよねー」
頭で割ったペアもいるとはいざ知らず、千秋はそんなことを呟いていた。目の前では、へっぴり腰のマルカが絶賛スイカと格闘中だ。スイカに棒が当たってはいるものの、力が弱いのか、ぽこん、ぽこん、とスイカの上で棒が跳ねるばかりだ。
「位置は良いですよー、もっと勢いよくー!」
千秋が声をかえると、マルカは覚悟を決めたように背筋を伸ばした。えいっ、と渾身の一撃をスイカに与える。と。
ビキ、と音がして、スイカに亀裂が走った。
「やりましたー!」
千秋が自分のことのように喜んでくれて、マルカも嬉しそうに目隠しを取る。
「では私はその亀裂目掛けて叩けばいいわけですねー。格闘士らしく素手で割ってはダメでしょうかー。その方が目隠しをしていても正確に狙えますのでー」
「いいんじゃないでしょうか。小夜さんも、素手で挑戦されていたようですよ」
結果は頭で割ったことになっているとは知らずに、マルカが微笑んで、千秋の目隠しをつけた。それなら、と千秋が拳を固める。まるで見えているかのように狙いを定めて、えいっ、と拳を叩きつけると。
ぱかっ、と綺麗にスイカが真っ二つになった。
「すごーい!」
と歓声を上げたのは、ハンナだった。こちらも、シェイマスと滞りなくスイカ割りを楽しんだようで、にっこにこの笑顔である。
「千秋さん、凄いですね! あっ、あの、ブローチ、千秋さんがくださったそうで、ありがとうございます!」
無邪気にお礼を言うハンナの声は、参加者全員の耳に届いた。そして、誰もが思った。
(自分からってことで渡しておけよ!)
思った以上の不器用さだったようだ。緻密な細工は得意らしいのに、これはどうしたことか。誰も言葉でツッコミができないままに、皆を代表して、イルミナが黙ってシェイマスの背中に蹴りを入れた。
すべてのペアがスイカ割りを終え、食べる準備へと移った。小夜は、自分のおでこで割ったスイカをひとつまみ食べてみて顔をしかめた。
「……なんか微妙」
「兎さん、今から私が切り分けますからちょっと待っててくださいね」
恵がくすくす笑いながらそう言った。恵や、ハンナ、マルカなどが割れたスイカを食べやすい大きさに切って配ると、皆、思い思いの場所に移動してスイカを楽しみ始めた。
小夜は、待ちきれないというように、恵の持つスイカに口を近づけてぱくり、と頬張る。
「超美味しい」
これが愛の力か、などとよくわからないことを呟きながら、そのまま夢中で食べる小夜を、恵は実に愛おしそうににこにこ眺めていた。
川辺の静かなところへ移動したペアも多かった。オウガとフィリテもそうだ。大きな石に並んで腰を下ろしていた。フィリテは川に両脚をつけてぱたぱた動かしつつ、スイカに塩をふって食べている。
「いい場所だし、今度は二人だけで遊びにきたいわ♪ その時は、川遊びしたいわね」
フィリテがそう言いながらオウガを見ると、オウガはスイカを頬張りながらこくこくと頷いた。その頬に、スイカの種がついているのを見つけ、フィリテはつまんで取ってやる。
「オー君、スイカの種が頬についてるわよ。とったげる♪ 他のところにもついてないわよね?」
反対側の頬をみようと、オウガの膝の上に上半身を乗っけるようにして確認すると、オウガは急に至近距離へやってきた恋人にときめきを隠せず、固まってしまっていた。
「反対側の頬には種ついてないみたい♪ ……ん? どうしたの? オー君?」
不思議そうなフィリテの言葉に、答えられずオウガはまたスイカに噛り付いた。
川辺に移動したペアは、もう一組。コウとイルミナだ。イルミナは、スイカをしばらく眺めて、どう食べようかと迷ったが、まあかぶりつけばいいか、と口を開く。と、そのタイミングで、コウがかぶり、とスイカにかぶりついたものだから、妙にかぶりつきにくくなってやめてしまった。食べようとしないイルミナに、コウが言う。
「食い方がわからなかったりするか? こうかぶりつく感じでいいんだよ」
「知らない……あなただけで食べてれば?」
変に意地を張るイルミナに、コウは微笑んだ。
「お前はこんな所でも無愛想なんだからよー、もうちっと笑ってみ? 可愛いんだからよ」
恋人の言葉に、イルミナは笑ってみようとした……、けれど素直にはなりきれず、つい、気恥ずかしくて目を逸らしてしまうのだった。
こうした先輩カップルたちを前に、シェイマスとハンナがどうしていたのかというと。千秋、マルカと共に四人でスイカを食べていた。それでいいのかな、と千秋もマルカも思わなくはなかったが、不器用なシェイマスにいきなり二人きりを乗り切れというのも酷なので黙っておいた。ハンナは終始楽しそうで、それを見ているシェイマスも、とても幸せそうだった、というのもある。マルカは、ハンナがスイカの皮を捨てに行ったすきに、シェイマスに龍鉱石をこっそり渡した。
「効果のほどは定かではないですが、身に着けていると負のマテリアルの影響を受けにくくなるそうです。雑貨屋で働くハンナさんなら珍しい鉱石に興味を持ち、深い意味として受け取らずに純粋に喜んでくれるのでは……。シェイマスさんならそれをアクセサリーに加工できるのではないですか? プレゼントがきっかけで仲を進展させることができるかもしれませんし。でも所詮恋愛ごとに疎い自分が考えたことですから、強要はしないので好きに使ってください」
マルカはおどおどとそう言うだけ言って、自分も片付けのために動き出した。
そうして、そろそろお開きだ、という時刻になって、まだスイカが五玉も残されていることに気が付くと、俄然張り切ったのは小夜だった。切り分ける役を買って出たのだ。刀を存分に振るえる、というわけだ。
「円舞+二夜! まだだ、まだおわらんよ! 四等分したのを狙ってー……、円舞+縦横無尽!」
ネネキリマルで見事に切り分ける小夜の凛々しさに、恵が喝采を送っていた。おでこの赤さは、ご愛嬌だ。
なお、シェイマスとハンナは、まだ恋人同士ではないものの、スイカ割りの一件以来、たびたびふたりで出かけるようになった、と、家具工房の親方から、こっそり報告が入ったのであった。
不安そうにして緊張した面持ちのシェイマスと、シェイマスの内心など一向に気が付いていないふうにニッコリしているハンナが出迎える。
「ええっと、あの、来てくれて、ありがとうござい、ます」
シェイマスがたどたどしく挨拶すると、遠藤・恵(ka3940)が元気よく手を挙げた。
「はーい、遠藤・恵でっす♪ はりきっていきますよー」
「よろしくお願いします、ハンナです」
同じ年頃の、しかも元気の良い女の子がいるということが嬉しかったようで、ハンナも挨拶をした。小宮・千秋(ka6272)も楽しみな様子を全面に出して頷く。
「いやー、夏と言えばやっぱりスイカ割りですよねー」
フレンドリーな雰囲気が漂い、皆、そわそわと川の方を気にし始めた。それに気が付いたシェイマスが、川岸に岩で囲いをして作った簡易水槽を指差した。
「スイカは、あそこに冷やしてあるんです」
見れば、丸々としたスイカがずらりと十玉。雫をしましまの肌につけて、きらきらと光るようであった。
コウ(ka3233)が、呆れたように呟く。
「こりゃ随分贅沢だな」
「おー、美味そうなスイカじゃん! こりゃ楽しみだなー」
オウガ(ka2124)はわくわくと目を輝かせた。
「では、水から上げましょう」
シェイマスがそう言って川へ入って行くと、千秋やコウ、オウガといった男性陣がそれを手伝いにかかった。フィリテ・ノート(ka0810)が恋人のオウガに手をふって見送る。その間に、艶やかなブルーローズの水着に身を包み、向日葵の麦わら帽子をかぶったマルカ・アニチキン(ka2542)が、花柄のレジャーシートを木陰に引いて休憩場所を作った。
スイカを川から引き上げる作業を進めつつ、千秋がシェイマスに尋ねた。
「御主人様へのお土産としてスイカをお一つ頂きたいと思っているんですがー、よろしいでしょうかねー」
「構いませんが……、一玉というのは難しいかもしれませんので、後ほど切り分けたものを差し上げますね」
シェイマスはそう返事をしながらも、河原をちらちらと気にしていた。河原を、というよりはもちろん、河原にいるハンナを、だ。ハンナは、スイカ割りに使う目隠しの布を広げ、玉兎 小夜(ka6009)&恵のカップルと談笑していた。スイカ割り初めてなんだよね、などと言う小夜の声が聞こえてくる。
「俺はコウってんだ、よろしくな」
そんなシェイマスに、コウが声をかけた。ハッとしてから、よろしく、と返すシェイマスに笑いかけて、アドバイスをする。
「見てるだけじゃ届かねえからさ。こんな機会なんだから話しかけてったほうがいいぜ」
そして、自分の恋人・イルミナ(ka5759)を見ながら、気持ちはわかるしな、と呟いた。
コウの反対側からシェイマスに近寄って、なあなあ、と声をかけてきたのはオウガだ。
「んで、お前あの子のどの辺が好きなん?」
「えっ!?」
ド直球の質問に、シェイマスがたちまち赤面する。好きならそのくらい言えないと、と促されて、俯きつつ恥ずかしそうに言った。
「あ、明るい笑顔とか……、元気なところとか……。お、オウガさんはどうなんですか? フィリテさん、恋人なんですよね」
シェイマスが切り返すと。
「あ? 俺? 嫌いなところなんてねえよ、全部好きだ!」
オウガは快活に笑って言いきった。しっかりアピールすんだぜ、と背中を叩き、スイカを運び去っていく。シェイマスはオウガをポカンと見送ってから、ちょっと、笑った。ようやく笑顔を見せたシェイマスに、千秋がヒマワリのブローチを手渡した。
「ハンナさんはヒマワリがお好きだということでー。差し上げますー。頑張ってください」
「あ、ありがとうございます」
びっくりしつつも嬉しそうに受け取ったシェイマスに、コウも微笑みかけた。
「頑張れよ」
ひとまず、五玉のスイカを河原に運びだし、親方が用意してくれていたらしいシートの上に並べると、一気にスイカ割りの雰囲気が高まった。
マルカが川から上がってきた面々にテミス特製手ぬぐいを渡してくれ、男性陣はそれで濡れた手足を拭いた。司会進行に注力しようと決めていたらしい恵が、テキパキと組み分けをしていく。
「二人一組、で問題ないですよね。恋人同士で参加されてる方はそこで組んでいただいて、マルカさんは千秋さんとペアでよろしいでしょうか。シェイマス君はハンナさんと、ね。私はもちろん小夜さんと、です」
皆、異存はないようで、うんうん、と頷いた。シェイマスだけが妙に気恥ずかしそうにしていたが。
「ねえねえ。スイカ割りの仕方ってどうするの?」
そういえば、とでもいうように、フィリテがそんな疑問を投げかけた。それを聞いて、コウは傍らの恋人に尋ねてみる。
「イルミナ、スイカ割りって知ってるよな?」
「スイカ割り? バカにしないでくれる? 知ってるわよそれくらい」
イルミナはツンとそう答えるが、どうも知っている様子ではない。遊びに来たのではない、と言っていたくせに、どちらかというときわどい線の白いビキニを着て、銃を構えた。
「割るって言うんだから、散弾か徹甲弾でも……」
水着に銃。意外と似合う。などと言っている場合ではない。
「イルミナ、違う違う!」
コウがあわてて止めると、イルミナは不服そうにしつつも銃をおろした。
「ここは、シェイマスさんとハンナさんに見本を見せて貰いましょうよ」
フィリテがにこにこして言うと、えっ、と息を飲んだシェイマスとは対照的に、ハンナはわかりました、と明るく即答して、目隠しの布を広げて見せた。
「これで、割る人の目を隠して……、シェイマス君、巻くよ?」
「あ、うん」
「そして、割る人に棒を持たせて……、スイカの位置を口頭で教えます。シェイマス君、もっと前、そして右! そこ!」
シェイマスはハンナの声に合わせて移動をし、そこ、と言われたところで棒を振り下ろした。ぽこ、という音がして、棒がスイカを叩く。
「……今は見本なので軽めに叩きましたが、実際はもっと思い切りやってください。ふたりで交代に何度かやれば、スイカは割れると思います」
最後の説明はシェイマスが付け加えた。
「ようし、やろうぜ! 俺の野生の嗅覚をなめんなよ!」
オウガが腕まくりをして木刀を振り上げた。恋人にいいところを見せようとしている気合も充分に周りに伝わって、ハンターたちはそれぞれ、気分を高めるのであった。
気合充分なオウガとフィリテのペアは、まずフィリテから目隠しをして叩いてみることになった。
「リテ、もっと右、あっ、行き過ぎた、もう少し左に戻して……」
「えいっ」
そこ、という合図がある前に振り下ろしてしまったフィリテの棒は、すか、とスイカの脇で空を切った。
「むぅ。なんだか上手くいかないわね。……奥、深いかも」
目隠しを外し、頬を膨らませて唸るフィリテは、オウガに交代を申し出た。すぐさま、任せとけ、と元気な声が返ってきて、頼もしい恋人の姿に、フィリテは頬を膨らませた顔を笑顔に変えた。
その隣で、銃を諦めたイルミナとコウが正しくスイカ割りをしていた。息はぴったりで、ふたりとも見事にスイカに棒を叩き込み、亀裂を大きくさせている。
それを横目に見て、うーん、と唸ったのは小夜だ。
「刀ダメって言われちゃったんだよなー……」
どうやら、知人にスイカ割りに行くと話したところ、刀は使わないようにと忠告を受けたらしい。しかし、棒で叩いてできていく亀裂はあまり美しくない。
「仕方がない、この拳で割るしかない。バトラーグローブもつけてるし、怪我は平気だな!」
恵に目隠しをつけてもらい、グッと拳を固める。
「小夜さん頑張ってくださいー!」
恵の可愛らしい応援にも後押しされて、いざ、と足を踏み出すと。その足に、石がひっかかった。あっ、と思った時にはもう遅い。小夜は見事にすっころび、その結果。
ガツッ、と鈍い音がして、頭、それもド正面のおでこの部分が、ダイレクトにスイカに当たった。ゴッ、とスイカに大きな亀裂が入る。
「きゃーっ!?」
恵が慌てて駆け寄ると、小夜は当然と言うべきか、頭をくらくらさせてひっくり返った。
「はれほれひれ」
ふたりのスイカ割りは一時中断。恵は本気で心配しつつ膝枕をして小夜の治療を始めた。どうやら大事ではないようだ、ということはすぐにわかった。恵は、中断したけれど再開の必要はなさそうな、ぱっくりと綺麗に割れたスイカをちらり、と見る。
「はあ……兎さんは頭硬いんですねえ」
思わずそんな感心をしてしまうのだった。
「要は割れば良いのですよねー」
頭で割ったペアもいるとはいざ知らず、千秋はそんなことを呟いていた。目の前では、へっぴり腰のマルカが絶賛スイカと格闘中だ。スイカに棒が当たってはいるものの、力が弱いのか、ぽこん、ぽこん、とスイカの上で棒が跳ねるばかりだ。
「位置は良いですよー、もっと勢いよくー!」
千秋が声をかえると、マルカは覚悟を決めたように背筋を伸ばした。えいっ、と渾身の一撃をスイカに与える。と。
ビキ、と音がして、スイカに亀裂が走った。
「やりましたー!」
千秋が自分のことのように喜んでくれて、マルカも嬉しそうに目隠しを取る。
「では私はその亀裂目掛けて叩けばいいわけですねー。格闘士らしく素手で割ってはダメでしょうかー。その方が目隠しをしていても正確に狙えますのでー」
「いいんじゃないでしょうか。小夜さんも、素手で挑戦されていたようですよ」
結果は頭で割ったことになっているとは知らずに、マルカが微笑んで、千秋の目隠しをつけた。それなら、と千秋が拳を固める。まるで見えているかのように狙いを定めて、えいっ、と拳を叩きつけると。
ぱかっ、と綺麗にスイカが真っ二つになった。
「すごーい!」
と歓声を上げたのは、ハンナだった。こちらも、シェイマスと滞りなくスイカ割りを楽しんだようで、にっこにこの笑顔である。
「千秋さん、凄いですね! あっ、あの、ブローチ、千秋さんがくださったそうで、ありがとうございます!」
無邪気にお礼を言うハンナの声は、参加者全員の耳に届いた。そして、誰もが思った。
(自分からってことで渡しておけよ!)
思った以上の不器用さだったようだ。緻密な細工は得意らしいのに、これはどうしたことか。誰も言葉でツッコミができないままに、皆を代表して、イルミナが黙ってシェイマスの背中に蹴りを入れた。
すべてのペアがスイカ割りを終え、食べる準備へと移った。小夜は、自分のおでこで割ったスイカをひとつまみ食べてみて顔をしかめた。
「……なんか微妙」
「兎さん、今から私が切り分けますからちょっと待っててくださいね」
恵がくすくす笑いながらそう言った。恵や、ハンナ、マルカなどが割れたスイカを食べやすい大きさに切って配ると、皆、思い思いの場所に移動してスイカを楽しみ始めた。
小夜は、待ちきれないというように、恵の持つスイカに口を近づけてぱくり、と頬張る。
「超美味しい」
これが愛の力か、などとよくわからないことを呟きながら、そのまま夢中で食べる小夜を、恵は実に愛おしそうににこにこ眺めていた。
川辺の静かなところへ移動したペアも多かった。オウガとフィリテもそうだ。大きな石に並んで腰を下ろしていた。フィリテは川に両脚をつけてぱたぱた動かしつつ、スイカに塩をふって食べている。
「いい場所だし、今度は二人だけで遊びにきたいわ♪ その時は、川遊びしたいわね」
フィリテがそう言いながらオウガを見ると、オウガはスイカを頬張りながらこくこくと頷いた。その頬に、スイカの種がついているのを見つけ、フィリテはつまんで取ってやる。
「オー君、スイカの種が頬についてるわよ。とったげる♪ 他のところにもついてないわよね?」
反対側の頬をみようと、オウガの膝の上に上半身を乗っけるようにして確認すると、オウガは急に至近距離へやってきた恋人にときめきを隠せず、固まってしまっていた。
「反対側の頬には種ついてないみたい♪ ……ん? どうしたの? オー君?」
不思議そうなフィリテの言葉に、答えられずオウガはまたスイカに噛り付いた。
川辺に移動したペアは、もう一組。コウとイルミナだ。イルミナは、スイカをしばらく眺めて、どう食べようかと迷ったが、まあかぶりつけばいいか、と口を開く。と、そのタイミングで、コウがかぶり、とスイカにかぶりついたものだから、妙にかぶりつきにくくなってやめてしまった。食べようとしないイルミナに、コウが言う。
「食い方がわからなかったりするか? こうかぶりつく感じでいいんだよ」
「知らない……あなただけで食べてれば?」
変に意地を張るイルミナに、コウは微笑んだ。
「お前はこんな所でも無愛想なんだからよー、もうちっと笑ってみ? 可愛いんだからよ」
恋人の言葉に、イルミナは笑ってみようとした……、けれど素直にはなりきれず、つい、気恥ずかしくて目を逸らしてしまうのだった。
こうした先輩カップルたちを前に、シェイマスとハンナがどうしていたのかというと。千秋、マルカと共に四人でスイカを食べていた。それでいいのかな、と千秋もマルカも思わなくはなかったが、不器用なシェイマスにいきなり二人きりを乗り切れというのも酷なので黙っておいた。ハンナは終始楽しそうで、それを見ているシェイマスも、とても幸せそうだった、というのもある。マルカは、ハンナがスイカの皮を捨てに行ったすきに、シェイマスに龍鉱石をこっそり渡した。
「効果のほどは定かではないですが、身に着けていると負のマテリアルの影響を受けにくくなるそうです。雑貨屋で働くハンナさんなら珍しい鉱石に興味を持ち、深い意味として受け取らずに純粋に喜んでくれるのでは……。シェイマスさんならそれをアクセサリーに加工できるのではないですか? プレゼントがきっかけで仲を進展させることができるかもしれませんし。でも所詮恋愛ごとに疎い自分が考えたことですから、強要はしないので好きに使ってください」
マルカはおどおどとそう言うだけ言って、自分も片付けのために動き出した。
そうして、そろそろお開きだ、という時刻になって、まだスイカが五玉も残されていることに気が付くと、俄然張り切ったのは小夜だった。切り分ける役を買って出たのだ。刀を存分に振るえる、というわけだ。
「円舞+二夜! まだだ、まだおわらんよ! 四等分したのを狙ってー……、円舞+縦横無尽!」
ネネキリマルで見事に切り分ける小夜の凛々しさに、恵が喝采を送っていた。おでこの赤さは、ご愛嬌だ。
なお、シェイマスとハンナは、まだ恋人同士ではないものの、スイカ割りの一件以来、たびたびふたりで出かけるようになった、と、家具工房の親方から、こっそり報告が入ったのであった。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/08/18 23:47:46 |
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作戦()相談卓 玉兎 小夜(ka6009) 人間(リアルブルー)|17才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2016/08/15 19:53:39 |