ゲスト
(ka0000)
【蒼乱】谷の守護者は何処より
マスター:稲田和夫

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/08/19 09:00
- 完成日
- 2016/09/02 00:33
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「しかしまあ、改めて見ると凄い秘境が身近な所あったヨ~! ね、イェンロン!」
ゾンネンシュトラール帝国第五師団の少年兵士である小鷲(シャオシュウ)は自身のグリフォンの上で、左右に迫る巨大な岸壁を眺めながら、感心したように叫んだ。
現在彼が飛行しているのは王国と帝国の間に存在する中立の崖上都市ピースホライズンの真下に口を開ける大渓谷の中である。
つい最近まで、この大渓谷は敢えて探索する者も無く、小鷲が表現した通り身近な秘境という扱いであったが最近になってその状況に変化が訪れた。
クリムゾンウェストの国家やハンターズソサエティが主導するという形で大渓谷の調査が行われるようになったのだ。
調査は当然のことながらハンターたちが中心となって行われていたが、帝国も支援を惜しまず、結果として地理的に近く、何より機動性という点で最適な第五師団も、調査に協力することになったのである。
「今のところ、どのチームも異常は無しだネ。予想されていた雑魔との戦闘以外は大きなトラブルもなさそうだヨ~」
小鷲らの任務はその飛行能力を生かして、空中から調査に当たるチームを警備しつつ、時には調査に当たるハンターたちとピースホライズンとの間を伝令として往復することである。
「よーし、そろそろ探索チームが到着していない未踏破地域の偵察に出発するヨ~」
小鷲がそうイェンロンに命令して、大渓谷の未踏破地域に侵入してから間もなくのことであった。
「……!? 砲撃! イェンロン避けて!」
小鷲がそう命じてイェンロンを急降下させた瞬間、それまで彼らがいた場所を一条の閃光が薙ぎ払った。
「まるで対空レーザーだヨ! ……でも、どういうこと? 歪虚の気配なんか感じなかったヨ……」
機導砲による攻撃、ということで彼が真っ先に思い浮かべたのは帝国の宿敵ともいえる剣機の眷属である。しかし、どうも様子が変だ。
「……離れたら撃って来なくなったヨ。こっちを狙っている訳じゃなくて、近づけたくないだけ……? 何かを守っている……?」
小鷲は暫く悩んだ後グリフォンを反転させ、攻撃の放たれた方向に向けた。
「ちょっと分が悪いけど、これを調べるのも任務の内だからネ~! イェンロン、頼んだヨ!」
小鷲とグリフォンが降下を開始して数秒後、再び閃光が谷底から放たれる。
「こーんなレーザーくらいどうってことないヨ~!」
見事な飛行でレーザーを回避する小鷲だったが、太いレーザーが照射中に突如無数の細い光に拡散した瞬間、たまらず叫ぶ。
「こんなの、聞いてないヨ~!?」
峡谷の合間という環境と、突然の広範囲への攻撃は流石の彼も避け切れず、遂にレーザーがグリフォンに命中する。小鷲は必死に体勢を立て直しながら峡谷の底へと落下して行き、見る見るうちに小さくなりやがて見えなくなった。
数時間後、予定の時刻になってもピースホライズンに帰還しなかった小鷲の捜索を依頼する依頼が、急遽張り出されたのであった。
ゾンネンシュトラール帝国第五師団の少年兵士である小鷲(シャオシュウ)は自身のグリフォンの上で、左右に迫る巨大な岸壁を眺めながら、感心したように叫んだ。
現在彼が飛行しているのは王国と帝国の間に存在する中立の崖上都市ピースホライズンの真下に口を開ける大渓谷の中である。
つい最近まで、この大渓谷は敢えて探索する者も無く、小鷲が表現した通り身近な秘境という扱いであったが最近になってその状況に変化が訪れた。
クリムゾンウェストの国家やハンターズソサエティが主導するという形で大渓谷の調査が行われるようになったのだ。
調査は当然のことながらハンターたちが中心となって行われていたが、帝国も支援を惜しまず、結果として地理的に近く、何より機動性という点で最適な第五師団も、調査に協力することになったのである。
「今のところ、どのチームも異常は無しだネ。予想されていた雑魔との戦闘以外は大きなトラブルもなさそうだヨ~」
小鷲らの任務はその飛行能力を生かして、空中から調査に当たるチームを警備しつつ、時には調査に当たるハンターたちとピースホライズンとの間を伝令として往復することである。
「よーし、そろそろ探索チームが到着していない未踏破地域の偵察に出発するヨ~」
小鷲がそうイェンロンに命令して、大渓谷の未踏破地域に侵入してから間もなくのことであった。
「……!? 砲撃! イェンロン避けて!」
小鷲がそう命じてイェンロンを急降下させた瞬間、それまで彼らがいた場所を一条の閃光が薙ぎ払った。
「まるで対空レーザーだヨ! ……でも、どういうこと? 歪虚の気配なんか感じなかったヨ……」
機導砲による攻撃、ということで彼が真っ先に思い浮かべたのは帝国の宿敵ともいえる剣機の眷属である。しかし、どうも様子が変だ。
「……離れたら撃って来なくなったヨ。こっちを狙っている訳じゃなくて、近づけたくないだけ……? 何かを守っている……?」
小鷲は暫く悩んだ後グリフォンを反転させ、攻撃の放たれた方向に向けた。
「ちょっと分が悪いけど、これを調べるのも任務の内だからネ~! イェンロン、頼んだヨ!」
小鷲とグリフォンが降下を開始して数秒後、再び閃光が谷底から放たれる。
「こーんなレーザーくらいどうってことないヨ~!」
見事な飛行でレーザーを回避する小鷲だったが、太いレーザーが照射中に突如無数の細い光に拡散した瞬間、たまらず叫ぶ。
「こんなの、聞いてないヨ~!?」
峡谷の合間という環境と、突然の広範囲への攻撃は流石の彼も避け切れず、遂にレーザーがグリフォンに命中する。小鷲は必死に体勢を立て直しながら峡谷の底へと落下して行き、見る見るうちに小さくなりやがて見えなくなった。
数時間後、予定の時刻になってもピースホライズンに帰還しなかった小鷲の捜索を依頼する依頼が、急遽張り出されたのであった。
リプレイ本文
大渓谷の底を進む6人のハンターたちが最初に遭遇したのは、岩陰にじっと蹲る一頭のグリフォンであった。
「ほーん、……これがそのイェンロンちゃんだっけ? たかし丸にそっくりだね。羽根生えたたかし丸って感じ」
メオ・C・ウィスタリア(ka3988)は何故か嬉しそうに、発見したイェンロンに近づこうとする。
しかし、そんなメオに対しイェンロンは羽を広げると、鋭い鳴き声を上げて威嚇した。
「どうしよう……怪我をして気が立っているみたい」
傍らのレホス・エテルノ・リベルター(ka0498)が心配そうに呟く。
すると、メオは片手に嵌めた鷲のパペット『たかし丸』をイェンロンに向かって動かして見せる。
「ほーら、たかし丸だぞー。イェンロンちゃんに似てるだろー。怖くないぞー」
イェンロンはじっとメオのパペットを凝視している。更に、その頭部はたかし丸の動きに合わせて鳥類がよくやるように、かくっ、かくっと動き始めた。
いける、と判断したメオはじわじわと、グリフォンに近づいていく。そして、両者の距離が近づいたその時だった。
「あぶない!」
レホスが咄嗟に叫ぶ。
その時にはもうグリフォンの嘴がぱっくりとパペットを咥え込んでいた。
「~!?」
言葉にならない悲鳴を上げ、慌てて腕を引っ込めるメオ。痛みは無いが、大切なたかし丸が傷つけられてはたまらないのだろう。
「ちょっとちょっとメオし丸ちゃ~ん、それ仲間じゃなく餌と思われてるんじゃないの~?」
その光景に鵤(ka3319)がへらへらと笑う。
「私の事覚えてないですか? ご主人は何処へ行ったのですか?」
次に、レホスが真剣な表情で語り掛けた。
すると、イェンロンはじっとレホスの顔を眺めてから微かに首を傾げた。
その仕種はまるで、レホスの事を思い出そうとしているかにも見える。安心するレホス。しかし、次の瞬間表情が強張った。
「血が……!」
撃墜された時に怪我をしたのか、イェンロンの後ろ足に血が滲んでいたのである。
「……グリフォンの治療の仕方は解らないけど、基本は普通の動物と同じはずだよね」
レホスは近くを流れている水で傷口を洗うと、服の一部を破り包帯代わりにして傷口を塞いだ。
イェンロンはこの間、声も出さず抵抗もしないでじっとしていたが、レホスの処置が終わると、甲高い鳴き声を上げる。
すると、近くの岩の陰からまるで少女のような容姿の少年がひょっこりと現れた。
「イェンロンが急に呼ぶから何事かと思ったら、お姉さんだったんだネ~」
「小鷲さん! やっぱり無事だったんだ!」
レホスの笑顔を見て嬉しそうに笑う小鷲。こちらは特に怪我もしていないようでピンピンでいる。
「あなたが撃墜されたグリフォンライダーですか。初めまして。お勤めご苦労様です」
マッシュ・アクラシス(ka0771)が丁寧に挨拶する。
こうして、ハンターたちは小鷲と無事合流し、彼から必要な情報を聞きだすことが出来たのであった。
●
「っは……ファンタジーに転移したかと思えば次は機械世界ってかぁ? 世界ってやつは幾つあるわけよ、いやんなっちまうねぇ」
鵤がそうぼやいたのも無理はなかった。
ハンターたちが砲台の潜伏場所と思しき地点に進むにつれ、峡谷の壁は何時の間にか滑らかな金属に変化して行き、各種の見慣れない機械がそこかしこに見え隠れし始め、一帯はまるで機械文明の基地のような様相を呈し始めていたのだ。
「……考えてみると、我々の世界も、謎は多いものですねえ」
マッシュも遺跡の壁面を撫でながら相槌を打つ。
「ここにその機械砲台がいるんですよね? 危ない物は排除したいけど、この遺跡は気になるし……リスクがあっても調べて行きたいですね」
岩井崎 メル(ka0520)はそう真面目な顔で言ってから仲間たちを見る。そして、レホスやエニアが緊張した顔をしているのを見ると、場を和ませるように苦笑する。
「っと…難しいかねぇ。まっ、皆が居るから心配はしてないけどさ。たはは」
そうやって一行が進む中、頭上を見上げていたレホスが片手を上げて一行を制した。
「見てください。あそこではないでしょうか」
レホスが指したのは、岸壁の中腹に空いた洞窟……というよりは、機械の基地に作られたハッチと呼ぶべきものであった。
「皆、ちょっと良い?。一斉に仕掛けるんじゃなくてこっちから誘き出した方が良いと思うんだけど」
メルがそう全員に提案すると、メオが愛用の大斧を担いですっと前に出た。
「やってみるわー……おーい、でてこーい、大事な物壊しちゃうぞー」
大声で叫んでぶんぶんと斧を振り回すメオ。
その刃が、渓谷の中に辛うじて届く日の光を浴びてキラリと光った、その瞬間であった。
『侵入者確認。排除開始』
合成音声が響き、ハッチの中に閃光が溢れ一条の光線がメオに向かって放たれる。
「……っ。ちょっと、熱いじゃんかよー!」
光線に炙られたメオだったが、これは予定通りだ。メオはすかさず斧を振り、衝撃波を敵に向かって撃ち返す。
「って、あれー……避けんじゃねーのー?」
だが、次に砲台がとった行動は完全にメオの予定外だった。砲台は全く回避する様子を見せることなく、棒立ちのままアルトの衝撃波を受けたのだ。
一瞬の沈黙の後、メオのこめかみにぴくりと血管が浮かび上がる。
「効かねーってことー? ……それはそれでムカつくー……」
メオがイラっした瞬間、再度砲台の銃口が光り始め、それを見た小鷲が叫んだ。
「皆注意するんだヨ!」
小鷲が予測した通り、それは拡散するレーザーだった。
放たれた太い光が拡散し、細いレーザーとなってハンターたちへと降り注ぐ。
「この距離なら……!」
無論、ハンターたちとて棒立ちで攻撃を待っていた訳ではない。いち早く反応したレホスは自身の眼前に展開した攻勢障壁でレーザーを受け止めて見せる。
「動く気が無いなら……こっちで良いよね!」
一方、十色 エニア(ka0370)は紙一重でレーザーを躱すと、逆に冷気の弾丸を砲台に撃ち返す。
だが、冷気の弾丸が直撃したにもかかわらず、砲台の装甲は先ほどメオの衝撃波を受けた時同様無傷だった。
「魔法が……効かないの!?」
エニアが叫ぶ。
続いて、レホスの形成した光の障壁が電気を纏って砲台に襲い掛かる。
しかし、砲台はこれも全て真正面から受け止めた。その装甲の表面に電気が走るが、見た目には砲台が受けた影響はそれだけで、その場から吹っ飛ばされることも無い。
「効いていないのですか……? 動きを封じられないなんて……」
レホスも驚愕に目を見開いた。
「ちょっと、マッシュちゃんもっとこうさぁ、攻めようよー。何してんだよもー」
その間、メオの方は降り注ぐレーザーに耐えながら、マッシュにむかって文句を言っていた。
「お言葉ですが、守りに徹しないと私まであぶないので。それに、今私はメオさんの分まで攻撃を受けるのに忙しいのですが」
その言葉通り、マッシュは最初のレーザーをまともに受けたメオの負担を減らすべく、前に立って敵のレーザーを惹き付けていた。
だが、それでいてなおレーザーはメオとマッシュの二人を足止めするだけの威力があった。
「わかってはいるんだけどさぁー……! こらー鵤ちゃーん、サボんないでさっさと何かしらしろよなー」
だが、メオに睨まれた鵤は悪びれた様子もなく、へらへらと笑う。
「ちょとメオし丸ちゃーん、それは酷いんでなぁい? おじさんが何もやってないように見えるのぉ……と、そろそろ頃合かねぇ、二人共突撃ぃ!」
一瞬、はぁ? という顔になるメオ。だが、メオもマッシュも鵤がこんな時にふざけたりはしないと知っている。
「仕方がありません。参りましょうか。防御は引き受けます」
はぁ、と溜息をついたマッシュが敢えて敵の砲火に身を晒したその瞬間だった。
「何を守っているのか知らないけど、この渓谷の秘密は私たちにとっても重要なものだからね。ここで引き下がる訳にはいかない!」
メルが砲台の頭上から高らかに叫ぶ。彼女は砲台が地上の敵に集中している間に、ワイヤーと靴からのブースターを駆使して移動していたのだ。
幸い、この遺跡は堅牢な素材で作られており、各所にある突起などはワイヤーにも十分耐えてくれた。
『――警告。高所に要対処目標を認識』
砲台が混乱していたのは一瞬だった。地上の敵に対する射撃を中断することはリスクが高いと判断したのか、即座に背部に装備されたミサイルポッドのハッチを開き、頭上のメルに照準を合わせる。
「ほい来たぁ! そいつを開くのを待ってたのよぉ!」
機導士としての能力で敵を解析し、ミサイルポッドらしきものの位置を把握していた鵤は、ミサイルが発射されるこの瞬間を逃さず、狙いすました一撃をそこに撃ち込んだ。
直後、ミサイルの誘爆による衝撃で、堅牢な装甲を誇っていた砲台も一瞬動作不良を起こした。
そして、砲台がなんとか正常動作に復帰した時にはマッシュがその眼前に迫っていた。
「……ミサイル、とやらを拝見する暇もありませんでしたか」
マッシュ至近距離用の拳銃を引き抜くと、砲台の脚部の関節に向けて正確な射撃を叩き込む。脆い可動部を狙った弾丸は見事に脚の一本を吹き飛ばした。
「壊す前に写真とっておきたかったんだけどー」
続いて、斧を構えたメオも砲台に肉薄する。
「カメラ、忘れてきちゃったんだよねぇ!」
マッシュに習うように、関節を狙って叩きつけられた斧は、紅い光を放つ十字の爪痕と共に脚部を叩き切った。
「お願い!」
これが勝機と見たレホスは、エニアに自身のマテリアルを送り込む。
「ありがとう。……やっぱり、魔法は効きが悪いみたいだね。なら!」
最後に、大鎌を携えたエニアが遺跡の壁面を飛び移るように移動しながら砲台を狙う。
『脚部損傷甚大。目標接近中。近接格闘用意』
ややノイズの混じった音声が流れ、砲台は破れかぶれで、刃物のようになった脚を振り回す。
「遅いよ!」
だが、レホスの支援によって更に運動性を高めたエニアにとってその攻撃は止まっているも同然であった。
姿勢を低くして脚の刺突を潜り抜けたエニアの大鎌が煌めき、また一本砲台の脚部を切断した。
『直立不能。擱座します』
右側の脚を全て失った砲台は、なす術もなくその場に擱座する。だが、まだ砲台は機能を停止した訳ではなく、最大の武器であるレーザー砲も生きていた。
そして、この時砲台の注意はワイヤーを使って頭上からハッチの入り口に向けて降りて来るメルに向けられていたのである。
『戦闘能力低下。施設への侵入を図る目標の排除を優先』
砲台は擱座した状態のまま、砲身の角度を調整すると再び砲身にマテリアルの充電を開始した。
「メルさん!」
レホスが思わず叫ぶ。この時メルは丁度ワイヤーで壁面からぶら下がった状態であり、恰好の的であった。
『目標補足』
だが、砲台が照準を完了した瞬間、メルの姿が消えていた。
『目標消失。再度サーチを再開……』
「悪いけど、排除させてもらう」
そして、次の瞬間にはVOBで加速したメルが砲台の横をすり抜けていた。
『目標を再発見。施設までの……ザザ……距離……ザザザ……』
砲身を旋回させようとする砲台。だがその時には、メルがすれ違いざまに砲口に撃ち込んでいた帯電ネィルがスパークし、砲台はショートによる動作不良を起こしていた。
『ザザ……目標の、迎撃をザザ……ザザザ……』
深刻なショートにより、砲台のカメラアイの画像にもノイズが混じる。
カメラが切れる直前に砲台が認識した情報は、ハッチの入り口でどこか物悲しそうな表情で砲台を振り返ったメルとマッシュの構えた銃の銃口であった。
「貴方にも言うべきなのでしょうかね。『お努め、ご苦労様でした』、と」
●
「あーあー派手に壊しちまってまぁ。ちったぁ加減なさいよっと……」
沈黙した砲台の残骸を漁りながら、鵤がぼやいた。
彼の嘆きも、もっともではあった。砲台は砲身がショートして無防備になった後、ハンターたちの集中攻撃を受けて徹底的に破壊されていたのである。
「だって仕方ないじゃんよー。どこをどれだけ壊せば止まるかなんてわかりっこねーもんよー」
メオが口をとがらせて反論する。
「あはは……私もちょっとやり過ぎたかなって思うけど」
レホスもそう言って苦笑していたが、破片の一部をつまみ上げると真剣な顔で言う
「でも、こういう『お土産』を調べればもっと沢山のことが解る筈ですよね」
「ま、そういうことだねぇ。さて、持ち帰れそうな物は大分集めたし、そろそろ写真でも……」
鵤がそう言って魔導カメラを取り出したその瞬間、突然砲台が潜伏していたハッチの中から凄まじい悲鳴が響いた。
「きゃああああああっ!」
それは、先にハッチの中に入っていたエニアの声であった。
●
「みんな、気を付けて!」
中に入った一行が見たのは、臨戦態勢になって大鎌を構えたエニアだった。その彼女が指さした方向には、まるで格納庫のような広大な空間が広がっていた。
そして、その奥には先ほどハンターたちが苦戦して倒した多脚砲台が大量に駐機されていたのである。
「全く……割に合わない仕事ですね」
冷静なマッシュが驚いた様子も見せず、武器を構える。だが、その時マッシュの前に小鷲の檄が突き出されその進路を塞ぐ。
「少年、どういうつもりですか?」
訝しむマッシュに小鷲はこう告げた。
「良く見てヨ。……こいつら、全部とっくの昔に壊れてるヨ」
「なぁんだ、びっくりしたよー……でも、何だか悲しいね」
メルが手近な砲台の残骸を撫でながらほっと息を吐くと、鵤の声が聞こえて来た。
「よぉし写真も結構撮れたし帰ろうかぁ。そろそろ回収地点に行かないとまずいんじゃないの、小鷲くぅん」
この声を聞いたハンターたちは、一人、また一人とハッチの外へと歩き始める。
「……本当に、これで全部なの? なんか‥‥形状的に、単体のソレって感じがしないのは、気のせいだよね?」
エニアはまだ納得がいかない様子だったが、格納庫の外から再度仲間たちに呼ばれたため、遂にその場を後にした。
それ故、幸いにもエニアはそれから数分後に格納庫の中で起きた事態を目撃せずに済んだ。
『基地内各所にて侵入者及び、ガードロボットへの攻撃を確認。警戒態勢をレベル3に移行。全ガードロボット逐次起動』
電子音声が流れると同時に、格納庫の奥のシャッターがゆっくりと開く。
その奥に広がっていた闇の中で、多種多様な遺跡の防衛機械たちに次々と光が灯り始めた。
「ほーん、……これがそのイェンロンちゃんだっけ? たかし丸にそっくりだね。羽根生えたたかし丸って感じ」
メオ・C・ウィスタリア(ka3988)は何故か嬉しそうに、発見したイェンロンに近づこうとする。
しかし、そんなメオに対しイェンロンは羽を広げると、鋭い鳴き声を上げて威嚇した。
「どうしよう……怪我をして気が立っているみたい」
傍らのレホス・エテルノ・リベルター(ka0498)が心配そうに呟く。
すると、メオは片手に嵌めた鷲のパペット『たかし丸』をイェンロンに向かって動かして見せる。
「ほーら、たかし丸だぞー。イェンロンちゃんに似てるだろー。怖くないぞー」
イェンロンはじっとメオのパペットを凝視している。更に、その頭部はたかし丸の動きに合わせて鳥類がよくやるように、かくっ、かくっと動き始めた。
いける、と判断したメオはじわじわと、グリフォンに近づいていく。そして、両者の距離が近づいたその時だった。
「あぶない!」
レホスが咄嗟に叫ぶ。
その時にはもうグリフォンの嘴がぱっくりとパペットを咥え込んでいた。
「~!?」
言葉にならない悲鳴を上げ、慌てて腕を引っ込めるメオ。痛みは無いが、大切なたかし丸が傷つけられてはたまらないのだろう。
「ちょっとちょっとメオし丸ちゃ~ん、それ仲間じゃなく餌と思われてるんじゃないの~?」
その光景に鵤(ka3319)がへらへらと笑う。
「私の事覚えてないですか? ご主人は何処へ行ったのですか?」
次に、レホスが真剣な表情で語り掛けた。
すると、イェンロンはじっとレホスの顔を眺めてから微かに首を傾げた。
その仕種はまるで、レホスの事を思い出そうとしているかにも見える。安心するレホス。しかし、次の瞬間表情が強張った。
「血が……!」
撃墜された時に怪我をしたのか、イェンロンの後ろ足に血が滲んでいたのである。
「……グリフォンの治療の仕方は解らないけど、基本は普通の動物と同じはずだよね」
レホスは近くを流れている水で傷口を洗うと、服の一部を破り包帯代わりにして傷口を塞いだ。
イェンロンはこの間、声も出さず抵抗もしないでじっとしていたが、レホスの処置が終わると、甲高い鳴き声を上げる。
すると、近くの岩の陰からまるで少女のような容姿の少年がひょっこりと現れた。
「イェンロンが急に呼ぶから何事かと思ったら、お姉さんだったんだネ~」
「小鷲さん! やっぱり無事だったんだ!」
レホスの笑顔を見て嬉しそうに笑う小鷲。こちらは特に怪我もしていないようでピンピンでいる。
「あなたが撃墜されたグリフォンライダーですか。初めまして。お勤めご苦労様です」
マッシュ・アクラシス(ka0771)が丁寧に挨拶する。
こうして、ハンターたちは小鷲と無事合流し、彼から必要な情報を聞きだすことが出来たのであった。
●
「っは……ファンタジーに転移したかと思えば次は機械世界ってかぁ? 世界ってやつは幾つあるわけよ、いやんなっちまうねぇ」
鵤がそうぼやいたのも無理はなかった。
ハンターたちが砲台の潜伏場所と思しき地点に進むにつれ、峡谷の壁は何時の間にか滑らかな金属に変化して行き、各種の見慣れない機械がそこかしこに見え隠れし始め、一帯はまるで機械文明の基地のような様相を呈し始めていたのだ。
「……考えてみると、我々の世界も、謎は多いものですねえ」
マッシュも遺跡の壁面を撫でながら相槌を打つ。
「ここにその機械砲台がいるんですよね? 危ない物は排除したいけど、この遺跡は気になるし……リスクがあっても調べて行きたいですね」
岩井崎 メル(ka0520)はそう真面目な顔で言ってから仲間たちを見る。そして、レホスやエニアが緊張した顔をしているのを見ると、場を和ませるように苦笑する。
「っと…難しいかねぇ。まっ、皆が居るから心配はしてないけどさ。たはは」
そうやって一行が進む中、頭上を見上げていたレホスが片手を上げて一行を制した。
「見てください。あそこではないでしょうか」
レホスが指したのは、岸壁の中腹に空いた洞窟……というよりは、機械の基地に作られたハッチと呼ぶべきものであった。
「皆、ちょっと良い?。一斉に仕掛けるんじゃなくてこっちから誘き出した方が良いと思うんだけど」
メルがそう全員に提案すると、メオが愛用の大斧を担いですっと前に出た。
「やってみるわー……おーい、でてこーい、大事な物壊しちゃうぞー」
大声で叫んでぶんぶんと斧を振り回すメオ。
その刃が、渓谷の中に辛うじて届く日の光を浴びてキラリと光った、その瞬間であった。
『侵入者確認。排除開始』
合成音声が響き、ハッチの中に閃光が溢れ一条の光線がメオに向かって放たれる。
「……っ。ちょっと、熱いじゃんかよー!」
光線に炙られたメオだったが、これは予定通りだ。メオはすかさず斧を振り、衝撃波を敵に向かって撃ち返す。
「って、あれー……避けんじゃねーのー?」
だが、次に砲台がとった行動は完全にメオの予定外だった。砲台は全く回避する様子を見せることなく、棒立ちのままアルトの衝撃波を受けたのだ。
一瞬の沈黙の後、メオのこめかみにぴくりと血管が浮かび上がる。
「効かねーってことー? ……それはそれでムカつくー……」
メオがイラっした瞬間、再度砲台の銃口が光り始め、それを見た小鷲が叫んだ。
「皆注意するんだヨ!」
小鷲が予測した通り、それは拡散するレーザーだった。
放たれた太い光が拡散し、細いレーザーとなってハンターたちへと降り注ぐ。
「この距離なら……!」
無論、ハンターたちとて棒立ちで攻撃を待っていた訳ではない。いち早く反応したレホスは自身の眼前に展開した攻勢障壁でレーザーを受け止めて見せる。
「動く気が無いなら……こっちで良いよね!」
一方、十色 エニア(ka0370)は紙一重でレーザーを躱すと、逆に冷気の弾丸を砲台に撃ち返す。
だが、冷気の弾丸が直撃したにもかかわらず、砲台の装甲は先ほどメオの衝撃波を受けた時同様無傷だった。
「魔法が……効かないの!?」
エニアが叫ぶ。
続いて、レホスの形成した光の障壁が電気を纏って砲台に襲い掛かる。
しかし、砲台はこれも全て真正面から受け止めた。その装甲の表面に電気が走るが、見た目には砲台が受けた影響はそれだけで、その場から吹っ飛ばされることも無い。
「効いていないのですか……? 動きを封じられないなんて……」
レホスも驚愕に目を見開いた。
「ちょっと、マッシュちゃんもっとこうさぁ、攻めようよー。何してんだよもー」
その間、メオの方は降り注ぐレーザーに耐えながら、マッシュにむかって文句を言っていた。
「お言葉ですが、守りに徹しないと私まであぶないので。それに、今私はメオさんの分まで攻撃を受けるのに忙しいのですが」
その言葉通り、マッシュは最初のレーザーをまともに受けたメオの負担を減らすべく、前に立って敵のレーザーを惹き付けていた。
だが、それでいてなおレーザーはメオとマッシュの二人を足止めするだけの威力があった。
「わかってはいるんだけどさぁー……! こらー鵤ちゃーん、サボんないでさっさと何かしらしろよなー」
だが、メオに睨まれた鵤は悪びれた様子もなく、へらへらと笑う。
「ちょとメオし丸ちゃーん、それは酷いんでなぁい? おじさんが何もやってないように見えるのぉ……と、そろそろ頃合かねぇ、二人共突撃ぃ!」
一瞬、はぁ? という顔になるメオ。だが、メオもマッシュも鵤がこんな時にふざけたりはしないと知っている。
「仕方がありません。参りましょうか。防御は引き受けます」
はぁ、と溜息をついたマッシュが敢えて敵の砲火に身を晒したその瞬間だった。
「何を守っているのか知らないけど、この渓谷の秘密は私たちにとっても重要なものだからね。ここで引き下がる訳にはいかない!」
メルが砲台の頭上から高らかに叫ぶ。彼女は砲台が地上の敵に集中している間に、ワイヤーと靴からのブースターを駆使して移動していたのだ。
幸い、この遺跡は堅牢な素材で作られており、各所にある突起などはワイヤーにも十分耐えてくれた。
『――警告。高所に要対処目標を認識』
砲台が混乱していたのは一瞬だった。地上の敵に対する射撃を中断することはリスクが高いと判断したのか、即座に背部に装備されたミサイルポッドのハッチを開き、頭上のメルに照準を合わせる。
「ほい来たぁ! そいつを開くのを待ってたのよぉ!」
機導士としての能力で敵を解析し、ミサイルポッドらしきものの位置を把握していた鵤は、ミサイルが発射されるこの瞬間を逃さず、狙いすました一撃をそこに撃ち込んだ。
直後、ミサイルの誘爆による衝撃で、堅牢な装甲を誇っていた砲台も一瞬動作不良を起こした。
そして、砲台がなんとか正常動作に復帰した時にはマッシュがその眼前に迫っていた。
「……ミサイル、とやらを拝見する暇もありませんでしたか」
マッシュ至近距離用の拳銃を引き抜くと、砲台の脚部の関節に向けて正確な射撃を叩き込む。脆い可動部を狙った弾丸は見事に脚の一本を吹き飛ばした。
「壊す前に写真とっておきたかったんだけどー」
続いて、斧を構えたメオも砲台に肉薄する。
「カメラ、忘れてきちゃったんだよねぇ!」
マッシュに習うように、関節を狙って叩きつけられた斧は、紅い光を放つ十字の爪痕と共に脚部を叩き切った。
「お願い!」
これが勝機と見たレホスは、エニアに自身のマテリアルを送り込む。
「ありがとう。……やっぱり、魔法は効きが悪いみたいだね。なら!」
最後に、大鎌を携えたエニアが遺跡の壁面を飛び移るように移動しながら砲台を狙う。
『脚部損傷甚大。目標接近中。近接格闘用意』
ややノイズの混じった音声が流れ、砲台は破れかぶれで、刃物のようになった脚を振り回す。
「遅いよ!」
だが、レホスの支援によって更に運動性を高めたエニアにとってその攻撃は止まっているも同然であった。
姿勢を低くして脚の刺突を潜り抜けたエニアの大鎌が煌めき、また一本砲台の脚部を切断した。
『直立不能。擱座します』
右側の脚を全て失った砲台は、なす術もなくその場に擱座する。だが、まだ砲台は機能を停止した訳ではなく、最大の武器であるレーザー砲も生きていた。
そして、この時砲台の注意はワイヤーを使って頭上からハッチの入り口に向けて降りて来るメルに向けられていたのである。
『戦闘能力低下。施設への侵入を図る目標の排除を優先』
砲台は擱座した状態のまま、砲身の角度を調整すると再び砲身にマテリアルの充電を開始した。
「メルさん!」
レホスが思わず叫ぶ。この時メルは丁度ワイヤーで壁面からぶら下がった状態であり、恰好の的であった。
『目標補足』
だが、砲台が照準を完了した瞬間、メルの姿が消えていた。
『目標消失。再度サーチを再開……』
「悪いけど、排除させてもらう」
そして、次の瞬間にはVOBで加速したメルが砲台の横をすり抜けていた。
『目標を再発見。施設までの……ザザ……距離……ザザザ……』
砲身を旋回させようとする砲台。だがその時には、メルがすれ違いざまに砲口に撃ち込んでいた帯電ネィルがスパークし、砲台はショートによる動作不良を起こしていた。
『ザザ……目標の、迎撃をザザ……ザザザ……』
深刻なショートにより、砲台のカメラアイの画像にもノイズが混じる。
カメラが切れる直前に砲台が認識した情報は、ハッチの入り口でどこか物悲しそうな表情で砲台を振り返ったメルとマッシュの構えた銃の銃口であった。
「貴方にも言うべきなのでしょうかね。『お努め、ご苦労様でした』、と」
●
「あーあー派手に壊しちまってまぁ。ちったぁ加減なさいよっと……」
沈黙した砲台の残骸を漁りながら、鵤がぼやいた。
彼の嘆きも、もっともではあった。砲台は砲身がショートして無防備になった後、ハンターたちの集中攻撃を受けて徹底的に破壊されていたのである。
「だって仕方ないじゃんよー。どこをどれだけ壊せば止まるかなんてわかりっこねーもんよー」
メオが口をとがらせて反論する。
「あはは……私もちょっとやり過ぎたかなって思うけど」
レホスもそう言って苦笑していたが、破片の一部をつまみ上げると真剣な顔で言う
「でも、こういう『お土産』を調べればもっと沢山のことが解る筈ですよね」
「ま、そういうことだねぇ。さて、持ち帰れそうな物は大分集めたし、そろそろ写真でも……」
鵤がそう言って魔導カメラを取り出したその瞬間、突然砲台が潜伏していたハッチの中から凄まじい悲鳴が響いた。
「きゃああああああっ!」
それは、先にハッチの中に入っていたエニアの声であった。
●
「みんな、気を付けて!」
中に入った一行が見たのは、臨戦態勢になって大鎌を構えたエニアだった。その彼女が指さした方向には、まるで格納庫のような広大な空間が広がっていた。
そして、その奥には先ほどハンターたちが苦戦して倒した多脚砲台が大量に駐機されていたのである。
「全く……割に合わない仕事ですね」
冷静なマッシュが驚いた様子も見せず、武器を構える。だが、その時マッシュの前に小鷲の檄が突き出されその進路を塞ぐ。
「少年、どういうつもりですか?」
訝しむマッシュに小鷲はこう告げた。
「良く見てヨ。……こいつら、全部とっくの昔に壊れてるヨ」
「なぁんだ、びっくりしたよー……でも、何だか悲しいね」
メルが手近な砲台の残骸を撫でながらほっと息を吐くと、鵤の声が聞こえて来た。
「よぉし写真も結構撮れたし帰ろうかぁ。そろそろ回収地点に行かないとまずいんじゃないの、小鷲くぅん」
この声を聞いたハンターたちは、一人、また一人とハッチの外へと歩き始める。
「……本当に、これで全部なの? なんか‥‥形状的に、単体のソレって感じがしないのは、気のせいだよね?」
エニアはまだ納得がいかない様子だったが、格納庫の外から再度仲間たちに呼ばれたため、遂にその場を後にした。
それ故、幸いにもエニアはそれから数分後に格納庫の中で起きた事態を目撃せずに済んだ。
『基地内各所にて侵入者及び、ガードロボットへの攻撃を確認。警戒態勢をレベル3に移行。全ガードロボット逐次起動』
電子音声が流れると同時に、格納庫の奥のシャッターがゆっくりと開く。
その奥に広がっていた闇の中で、多種多様な遺跡の防衛機械たちに次々と光が灯り始めた。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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方針相談 岩井崎 メル(ka0520) 人間(リアルブルー)|17才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/08/18 22:45:51 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/08/15 22:08:06 |