ゲスト
(ka0000)
【蒼乱】【詩天】吹き来る秋風
マスター:猫又ものと

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/08/19 22:00
- 完成日
- 2016/08/27 14:43
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●密談
「……今戻りました」
「秋寿さん。どちらまで行かれていたんですか?」
「部下の不始末を片づけに行ってたんですよ……って、うあー。この口調うぜぇ」
「身体を得たのに口調は変わらないんですね」
「当たり前だろ! 外見変わったって中身は変わらねえよ! で? わざわざ呼び出して何の用だよ」
秋寿と呼ばれた男は苛立たしげに金色の煙管をカチカチと鳴らし、紺色の狩衣の優男を見る。
「以前お話ししていた協力者がいらしてましてね。ご紹介しようかと」
「……まだ協力するとは言っていないが」
「おや。私の弟達を召し上がるのでは報酬として不足ですか? 青木さん」
「お前の弟達とやらがどの程度マテリアルを持っているか分からんからな」
後ろに立つ黒いコートの男……青木 燕太郎(kz0166)をに薄い笑みを返す優男。
その表情を変えぬまま、薄い緑の瞳に黒い歪虚を映す。
「成功した暁には、私を召し上がって戴いて構いませんよ」
「……ほう? お前自身をか」
「ええ。私は、私の仇が討てればそれで良いですから。……与えられた役目などどうでも良いのですよ」
優男の変わらぬ微笑。己を差し出すという割にあまりにもその響きは他人事だ。
彼は抑揚のない声で続ける。
「復讐の為には……『器』が必要です。秋寿さんが真の意味で復活を果たす為の『器』が。その為には力が足りない……」
その言葉に沈黙を返す青木。秋寿は彼を探るように血色の双眸を向ける。
「……お前、西方の歪虚か? 何でこんな辺鄙な場所までわざわざ来たんだ」
「西方で名が売れ過ぎてしまってな。自由に動ける場と……力を蓄える場が欲しかった。それだけだ」
「ふーん。名が売れてるってことはまあまあ強いってことか」
「試してみるか?」
「……止めとく。仮初の身体じゃ力が出し切れない。俺の方が不利だ」
そう言いながら睨み合う青木と秋寿。その間に、まあまあ……と優男が割り込む。
「これから協力しようかというところなのにケンカは良くありませんよ。それで、青木さん。色好いお返事は戴けるのですか?」
「……どのみち俺に損はなさそうだ。いいだろう、協力しよう」
「ありがとうございます。……では、手筈を説明しましょう」
優雅に狩衣を翻す優男。3人の密やかな話し声が続く――。
●九代目詩天の決意
「……随分みっちりと叱られておったようですな」
「大体爺やは心配性なのですよ……。あれもダメ、これもダメと……」
「真美様はこの国の要。あやつは心配するのが仕事ゆえ仕方ありませんなぁ」
ゲンナリとしている幼き主に豪快な笑いを返す水野 武徳(kz0196)。
三条 真美(kz0198)はため息をつくと、三条家の軍師を真っ直ぐに見つめる。
「武徳。内密に話したいことがあります」
「ふむ。死んだはずの人間が動き回っている……そんなところですかな?」
「……!? 何故それを……?」
「先日、秋寿様の側についていた武将、本田 喜兵衛と戦いました。……歪虚として蘇ったようでしてな。他にいたとしても驚くような話ではございますまい。して、真美様はどなたに会われたのですかな」
「……秋寿兄様です。何だか雰囲気が変わっておられましたが、間違いなく兄様でした」
「左様でございますか。ふむ。これはなかなか厄介にございますな。……この話を他にしたものは?」
「この城では武徳だけです。あとは、依頼に同行してくれていたハンター達は知っています」
「宜しい。この話は真美様と拙者の間だけに。……死したはずの詩天候補が動いているとなれば、無用な争いを呼びかねませぬゆえ」
「心得ております。……武徳。私はこの一件の調査を続けたいと思っています。秋寿兄様は泥田坊を引き連れていました。放っておけば、これまで以上に民が苦しむ結果となるかもしれませんから」
「承知致しました。くれぐれも無理はなさいませんよう。御身の安全を第一にお考えください」
「止めないのですか……?」
「貴方様は止めて止まるような方でもございますまい? その代わり、分かった事は全て拙者にお話し下され。宜しいですな」
「分かりました。あ、あの。爺やには内密にお願いしますね」
「御意。……この一件と関係あるかは分かりませぬが、最近詩天周辺で巫女が行方不明になる事件が多発しておるようです。くれぐれもご注意を」
「うん。……ありがとう、武徳」
微笑む真美に、頷き返す武徳。
――詩天は今、大きな渦に巻き込まれようとしていた。
●消えゆく巫女達
「……その巫女が行方不明になったあたりで目撃されてるのか? その、……名前なんだっけ」
「三条 秋寿です。千石原の乱に敗れ、自害したはずなのですが……」
ハンターの声に小さくため息をつく少年。
真美の依頼に応じたハンター達が、小料理屋の一室に集まっていた。
「巫女さんが消えたところに現れる死んだはずの人間、か……。疑ってくれって言ってるようなもんだな」
「消えた巫女に共通点とかはないの?」
「そこまでは調べきれておりません。そこで、皆さんに調査の協力を願いたいのです」
「ふむ。巫女達の周辺を洗っていれば、何かわかるかもしれんな」
「詩天に巫女さんってどれくらいいるの? もしかしたらまた行方不明になるかもしれないよね」
「そうね……。当の本人がひょっこり現れるかもしれないしね」
「巫女の正確な数までは分かりかねますが、詩天は若峰の梅鶯神社の他にあちこちに神社がありますから、そこにはいらっしゃるかと。……何をどのように調査するかは、皆さまにお任せします。ハンターさんが仰るように、三条 秋寿が現れる可能性もあります。十分注意してください」
「了解。お前も一緒に来るんだろう? 気を付けるんだぞ」
ハンターの言葉にこくりと頷く真美。
死したはずの人間。消える巫女。
その情報を求めて、ハンター達が動き出す。
「……今戻りました」
「秋寿さん。どちらまで行かれていたんですか?」
「部下の不始末を片づけに行ってたんですよ……って、うあー。この口調うぜぇ」
「身体を得たのに口調は変わらないんですね」
「当たり前だろ! 外見変わったって中身は変わらねえよ! で? わざわざ呼び出して何の用だよ」
秋寿と呼ばれた男は苛立たしげに金色の煙管をカチカチと鳴らし、紺色の狩衣の優男を見る。
「以前お話ししていた協力者がいらしてましてね。ご紹介しようかと」
「……まだ協力するとは言っていないが」
「おや。私の弟達を召し上がるのでは報酬として不足ですか? 青木さん」
「お前の弟達とやらがどの程度マテリアルを持っているか分からんからな」
後ろに立つ黒いコートの男……青木 燕太郎(kz0166)をに薄い笑みを返す優男。
その表情を変えぬまま、薄い緑の瞳に黒い歪虚を映す。
「成功した暁には、私を召し上がって戴いて構いませんよ」
「……ほう? お前自身をか」
「ええ。私は、私の仇が討てればそれで良いですから。……与えられた役目などどうでも良いのですよ」
優男の変わらぬ微笑。己を差し出すという割にあまりにもその響きは他人事だ。
彼は抑揚のない声で続ける。
「復讐の為には……『器』が必要です。秋寿さんが真の意味で復活を果たす為の『器』が。その為には力が足りない……」
その言葉に沈黙を返す青木。秋寿は彼を探るように血色の双眸を向ける。
「……お前、西方の歪虚か? 何でこんな辺鄙な場所までわざわざ来たんだ」
「西方で名が売れ過ぎてしまってな。自由に動ける場と……力を蓄える場が欲しかった。それだけだ」
「ふーん。名が売れてるってことはまあまあ強いってことか」
「試してみるか?」
「……止めとく。仮初の身体じゃ力が出し切れない。俺の方が不利だ」
そう言いながら睨み合う青木と秋寿。その間に、まあまあ……と優男が割り込む。
「これから協力しようかというところなのにケンカは良くありませんよ。それで、青木さん。色好いお返事は戴けるのですか?」
「……どのみち俺に損はなさそうだ。いいだろう、協力しよう」
「ありがとうございます。……では、手筈を説明しましょう」
優雅に狩衣を翻す優男。3人の密やかな話し声が続く――。
●九代目詩天の決意
「……随分みっちりと叱られておったようですな」
「大体爺やは心配性なのですよ……。あれもダメ、これもダメと……」
「真美様はこの国の要。あやつは心配するのが仕事ゆえ仕方ありませんなぁ」
ゲンナリとしている幼き主に豪快な笑いを返す水野 武徳(kz0196)。
三条 真美(kz0198)はため息をつくと、三条家の軍師を真っ直ぐに見つめる。
「武徳。内密に話したいことがあります」
「ふむ。死んだはずの人間が動き回っている……そんなところですかな?」
「……!? 何故それを……?」
「先日、秋寿様の側についていた武将、本田 喜兵衛と戦いました。……歪虚として蘇ったようでしてな。他にいたとしても驚くような話ではございますまい。して、真美様はどなたに会われたのですかな」
「……秋寿兄様です。何だか雰囲気が変わっておられましたが、間違いなく兄様でした」
「左様でございますか。ふむ。これはなかなか厄介にございますな。……この話を他にしたものは?」
「この城では武徳だけです。あとは、依頼に同行してくれていたハンター達は知っています」
「宜しい。この話は真美様と拙者の間だけに。……死したはずの詩天候補が動いているとなれば、無用な争いを呼びかねませぬゆえ」
「心得ております。……武徳。私はこの一件の調査を続けたいと思っています。秋寿兄様は泥田坊を引き連れていました。放っておけば、これまで以上に民が苦しむ結果となるかもしれませんから」
「承知致しました。くれぐれも無理はなさいませんよう。御身の安全を第一にお考えください」
「止めないのですか……?」
「貴方様は止めて止まるような方でもございますまい? その代わり、分かった事は全て拙者にお話し下され。宜しいですな」
「分かりました。あ、あの。爺やには内密にお願いしますね」
「御意。……この一件と関係あるかは分かりませぬが、最近詩天周辺で巫女が行方不明になる事件が多発しておるようです。くれぐれもご注意を」
「うん。……ありがとう、武徳」
微笑む真美に、頷き返す武徳。
――詩天は今、大きな渦に巻き込まれようとしていた。
●消えゆく巫女達
「……その巫女が行方不明になったあたりで目撃されてるのか? その、……名前なんだっけ」
「三条 秋寿です。千石原の乱に敗れ、自害したはずなのですが……」
ハンターの声に小さくため息をつく少年。
真美の依頼に応じたハンター達が、小料理屋の一室に集まっていた。
「巫女さんが消えたところに現れる死んだはずの人間、か……。疑ってくれって言ってるようなもんだな」
「消えた巫女に共通点とかはないの?」
「そこまでは調べきれておりません。そこで、皆さんに調査の協力を願いたいのです」
「ふむ。巫女達の周辺を洗っていれば、何かわかるかもしれんな」
「詩天に巫女さんってどれくらいいるの? もしかしたらまた行方不明になるかもしれないよね」
「そうね……。当の本人がひょっこり現れるかもしれないしね」
「巫女の正確な数までは分かりかねますが、詩天は若峰の梅鶯神社の他にあちこちに神社がありますから、そこにはいらっしゃるかと。……何をどのように調査するかは、皆さまにお任せします。ハンターさんが仰るように、三条 秋寿が現れる可能性もあります。十分注意してください」
「了解。お前も一緒に来るんだろう? 気を付けるんだぞ」
ハンターの言葉にこくりと頷く真美。
死したはずの人間。消える巫女。
その情報を求めて、ハンター達が動き出す。
リプレイ本文
「これがハニワ……。西方で流行しているのですか?」
「それは微妙だが、これから流行ると信じてるんだぞ、と」
「……ちょっとアルト。話が反れてるぞ」
「あ、すみません」
紅媛=アルザード(ka6122)に窘められて頭を掻くアルト・ハーニー(ka0113)の横で申し訳なそうにしている三条 真美(kz0198)。
真美が一生懸命聞いてくるので、つい脱線してしまった。
もしかしたらこの子は、この地を出た事がないのかもしれないな――。
アルトがそんな事を考えている間も、仲間達の話し合いが続く。
「まずは巫女さんが行方不明になったって場所に行って聞き込みかな」
紅媛の言葉に、三條 時澄(ka4759)が腕を組んで考え込む。
「そうだな。調査はなるべく大っぴらに行こう。……わかりやすい釣り針だが、シンもいる。向こうも食いつかんわけにもいかんだろうさ」
「ええ。賛成です。思いっきり注目を引きましょう」
「え。奏、巫女の格好をして歩くんでしょ? それじゃ狙われやすくなるじゃない」
「それが目的ですし。ユーリさんが守って下さるんでしょ?」
冷や汗を流すユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)ににっこりと笑みを返す八雲 奏(ka4074)。
友人は時々思い切った行動に出る。今回もしっかりフォローしなくては……。
ユーリが決意を固める横で、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)がはいっ! と挙手をする。
「真美さん……あ、シンさんの方がいいのかな? 秋寿さんの似顔絵ってあります? 私達、秋寿さんを知らないから何か分かるものがあるといいなって」
「似顔絵、ですか。ちょっと今から手配するのは難しいかもしれません」
「そうですか……。せめて特徴とか教えてもらえます?」
「えーと。髪は金色で、身長は俺と大して変わらないくらいで……目は赤かったか? 時澄の兄さん」
「ああ、間違いない」
思い出すように言うラジェンドラ(ka6353)に頷く時澄。
秋寿に会った事がある2人の証言に、マリィア・バルデス(ka5848)は小首を傾げる。
「……経験則からしか学ばないのは愚者の証拠らしいけど。私は今まで、死んだと言われて生者だったケースに遭遇した事がないの」
――今回は、その例外のケースである事を期待したい。
そう呟いた彼女を、真美は真っ直ぐ見つめる。
「……生きていたにせよ、歪虚だったにせよ。私は兄様を止めなくてはなりません」
「おう、良く言った! なら俺は友を助けるためにもっと強くなるさ」
「私も従妹の分まで頑張るよ!」
ニヤリと笑うラジェンドラに、ぐっと握り拳を作った紅媛。彼は思い出したように仲間達を見る。
「あ、そうそう。秋寿の実力もちらっと見たが……正直今は引かせるだけで済ませたいな」
「相手の実力を測るという意味でも、今回は目的を探るだけに留めた方がいいかもしれませんね」
奏の言葉に頷く仲間達。
それぞれ手分けして、調査へと向かう。
「……何ですって?」
「おいおい。そりゃ初耳だぞ、と」
「はい。誰が消えるか分からないと、詩天の者達も皆怯えております」
失踪した巫女がいる神社にやって来たマリィアとアルトは、神主の言葉に目を丸くした。
最近は巫女だけではなく、符術師も消えていると言われたからだ。
「……今のところ消えているのは、巫女と符術師だけなんだな?」
「そうです」
「もう一つ聞きたいんだけど、金髪に赤い目の男の人を見なかったかしら? その男以外にも、怪しい奴を見かけたら教えて欲しいんだけど」
「そうですね……男性は見ませんでしたが、この辺りに赤い肌の女性が出没していたと近隣の住民が話しているのを聞きました」
「どんな格好をしていたか分かる?」
「特にこれと言って……着物を着ていた、くらいでしょうか。そういえば、件の巫女が失踪してから見なくなりましたね」
顔を見合わせるアルトとマリィア。
神主に、疾走した巫女が戻ってきたら知らせて欲しい事、今伝えた人物や、巫女達に接触しようとする者が現れたら、ハンターか三条家に知らせて欲しいと頼み、神社を後にする。
「……ただ巫女ってだけで攫ってたら厄介な事この上ないと思ってたが、こりゃ思った以上に面倒だぞ」
「浚われたって事は、その力を狙われたって事よ。贄にされたか、歪虚にされたか……残念だけど、それ以外の結末はないと思う」
「それは概ね同意だが、巫女が足りずに符術師を狙っているのか、それとも覚醒者であればいいのか……敵の狙いが見え辛い」
「問題はそこよね……。もうちょっと情報が欲しいところだわ。もうちょっと付き合って頂戴」
「おう。次の神社に行くとするかね」
「いいえ、その前に遊郭に行きましょ」
「は? そんなところに巫女さんがいると思えないぞ?」
「巫女はいなくても秋寿が潜んでるかもしれないわ。大の大人、しかも男が隠れられる場所ってそう多くないものよ」
「あー。そういう事か……」
「そういう事。女一人で行くのはどうかと思ったけど、アルトがいるなら安心ねー」
「俺は埴輪にぞっこんだからそんじょそこらの女には引っかからないしな!」
「それもどうなの……」
軽口を叩き合いながら歩き出すアルトとマリィア。
――その結果、遊郭で秋寿らしき人物も目撃されていたが、最近は現れていないという事が分かった。
「そうでしたか。従妹さんにお世話になってます」
「いいや、こちらこそ。シンをすごく心配して来たがってたんだけど」
「あいつらしいなぁ」
この場にいない人の話で盛り上がる真美と紅媛、ラジェンドラ。
真美が描いた詩天の簡略な地図に、巫女が消えたという場所を書き記して行く。
「うーん。場所に法則性があるとしたら、普段から人気が少ない、若峰の中心地から離れてる……ってところかな」
「浚った後に離脱しやすく、目撃もされにくい場所を狙ってるのかもしれないな」
「そうだとすると、その秋寿って人はなかなか知恵が回るって事だな……」
ラジェンドラの考察に頷きつつ考え込む紅媛。彼はふと思い出したように真美を見る。
「ここんとこ秋寿は現れてないって話だが……浚われた巫女が全員覚醒者だったのも気になるな。シン。巫女のクラスは聖導士に当たるんだっけか?」
「はい。符術師も行方不明になっているとマリィアさんが報せて下さいました」
真美の呟きに言葉を失くす2人。
大量の覚醒者を必要とするなんて、これから何かやらかします、と言っているようなものだ。
「そういえば、シン。秋寿の獲物は何だ? どんな戦い方をする? 最近は現れてないって話だが、いずれ逢う事もあるだろ。知っておきたい」
「そうですね……。秋寿兄様は刀の使い手で、私にも護身術を教えて下さったりしました。でも、本当に優しい方で、争いも嫌がるお方で……」
「……そんな人が、歪虚の頭を握り潰したのか? いよいよもって怪しいな……」
「紅媛の嬢ちゃん、なんでその話知ってんだ?」
「従妹に聞いてるからね」
なるほど、と頷くラジェンドラ。
――先日、自分達が見た秋寿は、真美が慕っていた『秋寿』ではない可能性が高い。
それでも。少年の事を思うと、それを口に出すのは躊躇われて……。
「……よし。符術師が行方不明になった場所も出来る限り当たろう」
「ああ。そっちに秋寿が現れているかもしれないしな」
頷く3人。
ラジェンドラも紅媛も、出来る限りこの少年の力になろう……と改めて思う。
「今日はフラッシュルンルンな気分なんだからっ!」
現場百篇、ニンジャの基本は脚とばかりに巫女が失踪したとされる現場を回っていたルンルン。
致命的に絵心がない彼女は、魔導カメラで現場付近の写真を撮りまくっていた。
時澄に、足跡や不自然に折れたりした木など、『その場にいたら違和感を感じるもの』を保存しておいてくれと頼まれたからというのもある。
今のところ怪しいところはない……というか、どこも怪しいような気がして困る。
聞き込みによると、目撃者が少なく犯人の足取りは分からなかったが、失踪した巫女はお使いに行ったっきり戻らないとか、家に戻る途中で失踪した、という『一人でいる時』に姿を消す事が多いようだ。
犯人は、巫女が一人になった時を狙っているんだとしたら……。
ともあれ、こうやって残しておけば、後になってからでも怪しい場所を確認できる。
今は分からなかった犯人の痕跡に、気付く事が出来るかもしれない――。
ルンルンがくるくると飛び回っている間に、時澄は失踪した巫女を抱える、古い神社の古老の神主に話を聞いていた。
「翁。この詩天に死者を蘇らせるような昔話はないか? 一度死んだはずの者が再び現れる……といった話とか」
すっと青ざめた老人にただならぬものを感じた時澄。表情を固くしたまま続ける。
「……何か失礼を働いただろうか。お気を悪くされたら申し訳ない」
「いや、お前さんは西方の者か。この詩天の成り立ちを知らぬのも無理はないの」
「それはどういう事だろうか」
「詩天の『詩』は『死』に通じる。忌まわしき国だと言われておったんじゃよ」
「『死』に通じる……?」
「初代詩天様は大変力の強い方だったそうでの。この国を作り上げる功績は遺したが……同時に、禁忌に触れる術をも使ったと言われておる。……もう遠い昔の話じゃて、覚えておるものも少ないがな」
「そうか……。話辛い事を聞いてしまい、申し訳なかった」
「いんや。耄碌した老いぼれの話じゃ。話半分に聞いておくれ」
「何だかやっぱり事件の匂いがするですよー」
「そうだな……」
いつの間に戻って来ていたのか、顔を出したルンルンに頷く時澄。
――翁の話が、棘のように引っかかる。
「……奏、何か色々と連れてるわね。一体どうしたの?」
「この子達ですか? お友達が戻るまでの間だけお預かりしたんです」
「何も連れて来る事なかったんじゃないの?」
「いいえ。この子達にも重要な役割があるんですよ」
小首を傾げるユーリに、微笑を返す奏。
奏は真美に東方の巫女装束を借りて纏い、馬や狼、狛犬を連れて聞き込みを続けている。
仲間達も積極的に『力ある桜色の巫女が若峰に滞在している』と噂を流していたし、彼女自身も従者を連れた旅の巫女が修行に訪れている……という風情を出すように努力していた為か、道行く人からも聞き込みに行った先の人からも敬われ、丁重に扱われた。
「被害者達は、封印や特別な秘儀の継承者や管理者……という訳ではなさそうですね」
「そうね。聞いた感じ、『巫女であれば何でもいい』という印象を受けるわ」
「やはり、贄か依代にする事が目的なんでしょうか……」
2人が巫女を贄や依代とする術や存在について確認すると、聞いた者達は大抵口を噤んだ。
……それは、この詩天には、口外出来ぬような『何か』があると示しているようなもので――。
そんな事を話ながら、奏とユーリは目配せをし合う。
さっきからずっと、後方に何かの気配がある。
――尾行されているようだ。
2人は周囲に人がいない事を確認すると、立ち止まって振り返る。
「……そこの貴方。私に何か御用ですか?」
「そこにいるのは分かっています。隠れても無駄ですよ」
その声に誘われるようにゆらりと姿を現した人影。
走り寄って来たそれは、奏に向かって手を伸ばす。
真っ赤な肌。黒い長い髪。着物を纏った身体を見るに女性の鬼だろうか……?
否。違う、これは……。
「奏! こいつ歪虚よ……!」
「突然襲って来るだなんて……。貴方が巫女を浚っているんですか?」
「―――」
長く鋭い爪が生えた手を刀で弾き返すユーリ。
奏の問いに、何かを叫んだが……言葉になっていない。
そして歪虚はユーリを避け、奏に狙いを絞っているように見える。
……この歪虚は話せはしないが、巫女かどうか見分ける知能はある、という事だ。
「秋寿って男は、この歪虚を使って巫女を誘拐してたって事かしら」
「そうなのかもしれません。……困りましたね。これでは尋問できないじゃないですか。それも先方の狙いなんでしょうか……」
「……とりあえず、泳がせて主に報告を持ち帰って貰いましょ。奏、それでいい?」
「ええ。お願いします」
「了解」
歪虚の腕を、ひたすら法刀で受け止める奏。
重い一撃に顔を顰める。
何度となく切り結び、離れた瞬間……ユーリがその間に風のように疾く滑り込む――!
「悪いけど、奏も巫女達も連れて行かせない! ついでに……腕の一本は獲らせて貰うわよ!」
ユーリの叫び。深く潜り込み、猫のようにしなる身体。その一閃が、歪虚の片腕を刎ね飛ばす……!
「勝負ありました。貴方の負けです。お引きなさい」
「―――!」
奏の鋭い目線。歪虚は腕を押さえて走り去った。
「ユーリさん達が戦った現場の写真も撮って来ました!」
「ありがとうございます。これで改めて今までの現場の検証も出来ますね」
戻って来たルンルンを労う奏。アルトは報告に集まった仲間達にお茶を配りながら口を開く。
「秋寿は最近ここらじゃ見ないらしい。その代わり、赤い肌の女……さっきユーリが追っ払った歪虚が現れてたみたいだな」
「歪虚を使って誘拐させているのに間違いなさそうね。……根が深そうだわ」
「泥田坊以外の歪虚も使えるって事だもんな……」
マリィアの言葉に考え込むラジェンドラ。
時澄は真美に目線を投げる。
「そういえば、シン。詩天の『詩』は『死』に通じる……という言葉に聞き覚えはないか?」
「……それは。この地はかつて『死天』と呼ばれ忌み嫌われていたと、亡くなった父に聞いた事があります。死を齎す者が住まう土地と言われていたそうです」
「……贄か依代でビンゴってとこかね。こりゃ」
「やっぱりマテリアルか、何らかの能力が必要って事なんでしょうね」
ため息を漏らすアルト。小首を傾げるルンルンに仲間達は頷いて……。
「詩天の伝承の詳細については、次回皆様にお会いするまでに調べて来ます」
「お願いします。あと……巫女と符術師の保護を早急に進めた方がいいと思います。必要なだけの巫女や符術師がそろえば、向こうが計画の実行に移る可能性がありますから」
「そうね。向こうの尻尾を出して貰うためにも、やりにくくするのは必須だと思います」
奏とユーリの言葉に素直に頷く真美。紅媛は弾かれたように顔を上げる。
「符術師って事は……シンも狙われるんじゃないのか?」
「あ。その発想はありませんでした」
「おいおい。しっかりしてくれよ。ま、いざとなったら俺が助けてやるけどさ」
「調子いいわねえ」
胸を叩くラジェンドラにマリィアはくすりと笑う。
「いいか、シン。無理はするな。何かあったら、すぐ俺達を呼べ」
「……はい。時澄兄様」
もう一度頷いた真美。時澄は一瞬目を見開くと、少年の頭をそっと撫でた。
形を成し始めた陰謀。
詩天と死天。その言葉の意味をハンター達が知るのは、もう少し先の話となる。
「それは微妙だが、これから流行ると信じてるんだぞ、と」
「……ちょっとアルト。話が反れてるぞ」
「あ、すみません」
紅媛=アルザード(ka6122)に窘められて頭を掻くアルト・ハーニー(ka0113)の横で申し訳なそうにしている三条 真美(kz0198)。
真美が一生懸命聞いてくるので、つい脱線してしまった。
もしかしたらこの子は、この地を出た事がないのかもしれないな――。
アルトがそんな事を考えている間も、仲間達の話し合いが続く。
「まずは巫女さんが行方不明になったって場所に行って聞き込みかな」
紅媛の言葉に、三條 時澄(ka4759)が腕を組んで考え込む。
「そうだな。調査はなるべく大っぴらに行こう。……わかりやすい釣り針だが、シンもいる。向こうも食いつかんわけにもいかんだろうさ」
「ええ。賛成です。思いっきり注目を引きましょう」
「え。奏、巫女の格好をして歩くんでしょ? それじゃ狙われやすくなるじゃない」
「それが目的ですし。ユーリさんが守って下さるんでしょ?」
冷や汗を流すユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)ににっこりと笑みを返す八雲 奏(ka4074)。
友人は時々思い切った行動に出る。今回もしっかりフォローしなくては……。
ユーリが決意を固める横で、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)がはいっ! と挙手をする。
「真美さん……あ、シンさんの方がいいのかな? 秋寿さんの似顔絵ってあります? 私達、秋寿さんを知らないから何か分かるものがあるといいなって」
「似顔絵、ですか。ちょっと今から手配するのは難しいかもしれません」
「そうですか……。せめて特徴とか教えてもらえます?」
「えーと。髪は金色で、身長は俺と大して変わらないくらいで……目は赤かったか? 時澄の兄さん」
「ああ、間違いない」
思い出すように言うラジェンドラ(ka6353)に頷く時澄。
秋寿に会った事がある2人の証言に、マリィア・バルデス(ka5848)は小首を傾げる。
「……経験則からしか学ばないのは愚者の証拠らしいけど。私は今まで、死んだと言われて生者だったケースに遭遇した事がないの」
――今回は、その例外のケースである事を期待したい。
そう呟いた彼女を、真美は真っ直ぐ見つめる。
「……生きていたにせよ、歪虚だったにせよ。私は兄様を止めなくてはなりません」
「おう、良く言った! なら俺は友を助けるためにもっと強くなるさ」
「私も従妹の分まで頑張るよ!」
ニヤリと笑うラジェンドラに、ぐっと握り拳を作った紅媛。彼は思い出したように仲間達を見る。
「あ、そうそう。秋寿の実力もちらっと見たが……正直今は引かせるだけで済ませたいな」
「相手の実力を測るという意味でも、今回は目的を探るだけに留めた方がいいかもしれませんね」
奏の言葉に頷く仲間達。
それぞれ手分けして、調査へと向かう。
「……何ですって?」
「おいおい。そりゃ初耳だぞ、と」
「はい。誰が消えるか分からないと、詩天の者達も皆怯えております」
失踪した巫女がいる神社にやって来たマリィアとアルトは、神主の言葉に目を丸くした。
最近は巫女だけではなく、符術師も消えていると言われたからだ。
「……今のところ消えているのは、巫女と符術師だけなんだな?」
「そうです」
「もう一つ聞きたいんだけど、金髪に赤い目の男の人を見なかったかしら? その男以外にも、怪しい奴を見かけたら教えて欲しいんだけど」
「そうですね……男性は見ませんでしたが、この辺りに赤い肌の女性が出没していたと近隣の住民が話しているのを聞きました」
「どんな格好をしていたか分かる?」
「特にこれと言って……着物を着ていた、くらいでしょうか。そういえば、件の巫女が失踪してから見なくなりましたね」
顔を見合わせるアルトとマリィア。
神主に、疾走した巫女が戻ってきたら知らせて欲しい事、今伝えた人物や、巫女達に接触しようとする者が現れたら、ハンターか三条家に知らせて欲しいと頼み、神社を後にする。
「……ただ巫女ってだけで攫ってたら厄介な事この上ないと思ってたが、こりゃ思った以上に面倒だぞ」
「浚われたって事は、その力を狙われたって事よ。贄にされたか、歪虚にされたか……残念だけど、それ以外の結末はないと思う」
「それは概ね同意だが、巫女が足りずに符術師を狙っているのか、それとも覚醒者であればいいのか……敵の狙いが見え辛い」
「問題はそこよね……。もうちょっと情報が欲しいところだわ。もうちょっと付き合って頂戴」
「おう。次の神社に行くとするかね」
「いいえ、その前に遊郭に行きましょ」
「は? そんなところに巫女さんがいると思えないぞ?」
「巫女はいなくても秋寿が潜んでるかもしれないわ。大の大人、しかも男が隠れられる場所ってそう多くないものよ」
「あー。そういう事か……」
「そういう事。女一人で行くのはどうかと思ったけど、アルトがいるなら安心ねー」
「俺は埴輪にぞっこんだからそんじょそこらの女には引っかからないしな!」
「それもどうなの……」
軽口を叩き合いながら歩き出すアルトとマリィア。
――その結果、遊郭で秋寿らしき人物も目撃されていたが、最近は現れていないという事が分かった。
「そうでしたか。従妹さんにお世話になってます」
「いいや、こちらこそ。シンをすごく心配して来たがってたんだけど」
「あいつらしいなぁ」
この場にいない人の話で盛り上がる真美と紅媛、ラジェンドラ。
真美が描いた詩天の簡略な地図に、巫女が消えたという場所を書き記して行く。
「うーん。場所に法則性があるとしたら、普段から人気が少ない、若峰の中心地から離れてる……ってところかな」
「浚った後に離脱しやすく、目撃もされにくい場所を狙ってるのかもしれないな」
「そうだとすると、その秋寿って人はなかなか知恵が回るって事だな……」
ラジェンドラの考察に頷きつつ考え込む紅媛。彼はふと思い出したように真美を見る。
「ここんとこ秋寿は現れてないって話だが……浚われた巫女が全員覚醒者だったのも気になるな。シン。巫女のクラスは聖導士に当たるんだっけか?」
「はい。符術師も行方不明になっているとマリィアさんが報せて下さいました」
真美の呟きに言葉を失くす2人。
大量の覚醒者を必要とするなんて、これから何かやらかします、と言っているようなものだ。
「そういえば、シン。秋寿の獲物は何だ? どんな戦い方をする? 最近は現れてないって話だが、いずれ逢う事もあるだろ。知っておきたい」
「そうですね……。秋寿兄様は刀の使い手で、私にも護身術を教えて下さったりしました。でも、本当に優しい方で、争いも嫌がるお方で……」
「……そんな人が、歪虚の頭を握り潰したのか? いよいよもって怪しいな……」
「紅媛の嬢ちゃん、なんでその話知ってんだ?」
「従妹に聞いてるからね」
なるほど、と頷くラジェンドラ。
――先日、自分達が見た秋寿は、真美が慕っていた『秋寿』ではない可能性が高い。
それでも。少年の事を思うと、それを口に出すのは躊躇われて……。
「……よし。符術師が行方不明になった場所も出来る限り当たろう」
「ああ。そっちに秋寿が現れているかもしれないしな」
頷く3人。
ラジェンドラも紅媛も、出来る限りこの少年の力になろう……と改めて思う。
「今日はフラッシュルンルンな気分なんだからっ!」
現場百篇、ニンジャの基本は脚とばかりに巫女が失踪したとされる現場を回っていたルンルン。
致命的に絵心がない彼女は、魔導カメラで現場付近の写真を撮りまくっていた。
時澄に、足跡や不自然に折れたりした木など、『その場にいたら違和感を感じるもの』を保存しておいてくれと頼まれたからというのもある。
今のところ怪しいところはない……というか、どこも怪しいような気がして困る。
聞き込みによると、目撃者が少なく犯人の足取りは分からなかったが、失踪した巫女はお使いに行ったっきり戻らないとか、家に戻る途中で失踪した、という『一人でいる時』に姿を消す事が多いようだ。
犯人は、巫女が一人になった時を狙っているんだとしたら……。
ともあれ、こうやって残しておけば、後になってからでも怪しい場所を確認できる。
今は分からなかった犯人の痕跡に、気付く事が出来るかもしれない――。
ルンルンがくるくると飛び回っている間に、時澄は失踪した巫女を抱える、古い神社の古老の神主に話を聞いていた。
「翁。この詩天に死者を蘇らせるような昔話はないか? 一度死んだはずの者が再び現れる……といった話とか」
すっと青ざめた老人にただならぬものを感じた時澄。表情を固くしたまま続ける。
「……何か失礼を働いただろうか。お気を悪くされたら申し訳ない」
「いや、お前さんは西方の者か。この詩天の成り立ちを知らぬのも無理はないの」
「それはどういう事だろうか」
「詩天の『詩』は『死』に通じる。忌まわしき国だと言われておったんじゃよ」
「『死』に通じる……?」
「初代詩天様は大変力の強い方だったそうでの。この国を作り上げる功績は遺したが……同時に、禁忌に触れる術をも使ったと言われておる。……もう遠い昔の話じゃて、覚えておるものも少ないがな」
「そうか……。話辛い事を聞いてしまい、申し訳なかった」
「いんや。耄碌した老いぼれの話じゃ。話半分に聞いておくれ」
「何だかやっぱり事件の匂いがするですよー」
「そうだな……」
いつの間に戻って来ていたのか、顔を出したルンルンに頷く時澄。
――翁の話が、棘のように引っかかる。
「……奏、何か色々と連れてるわね。一体どうしたの?」
「この子達ですか? お友達が戻るまでの間だけお預かりしたんです」
「何も連れて来る事なかったんじゃないの?」
「いいえ。この子達にも重要な役割があるんですよ」
小首を傾げるユーリに、微笑を返す奏。
奏は真美に東方の巫女装束を借りて纏い、馬や狼、狛犬を連れて聞き込みを続けている。
仲間達も積極的に『力ある桜色の巫女が若峰に滞在している』と噂を流していたし、彼女自身も従者を連れた旅の巫女が修行に訪れている……という風情を出すように努力していた為か、道行く人からも聞き込みに行った先の人からも敬われ、丁重に扱われた。
「被害者達は、封印や特別な秘儀の継承者や管理者……という訳ではなさそうですね」
「そうね。聞いた感じ、『巫女であれば何でもいい』という印象を受けるわ」
「やはり、贄か依代にする事が目的なんでしょうか……」
2人が巫女を贄や依代とする術や存在について確認すると、聞いた者達は大抵口を噤んだ。
……それは、この詩天には、口外出来ぬような『何か』があると示しているようなもので――。
そんな事を話ながら、奏とユーリは目配せをし合う。
さっきからずっと、後方に何かの気配がある。
――尾行されているようだ。
2人は周囲に人がいない事を確認すると、立ち止まって振り返る。
「……そこの貴方。私に何か御用ですか?」
「そこにいるのは分かっています。隠れても無駄ですよ」
その声に誘われるようにゆらりと姿を現した人影。
走り寄って来たそれは、奏に向かって手を伸ばす。
真っ赤な肌。黒い長い髪。着物を纏った身体を見るに女性の鬼だろうか……?
否。違う、これは……。
「奏! こいつ歪虚よ……!」
「突然襲って来るだなんて……。貴方が巫女を浚っているんですか?」
「―――」
長く鋭い爪が生えた手を刀で弾き返すユーリ。
奏の問いに、何かを叫んだが……言葉になっていない。
そして歪虚はユーリを避け、奏に狙いを絞っているように見える。
……この歪虚は話せはしないが、巫女かどうか見分ける知能はある、という事だ。
「秋寿って男は、この歪虚を使って巫女を誘拐してたって事かしら」
「そうなのかもしれません。……困りましたね。これでは尋問できないじゃないですか。それも先方の狙いなんでしょうか……」
「……とりあえず、泳がせて主に報告を持ち帰って貰いましょ。奏、それでいい?」
「ええ。お願いします」
「了解」
歪虚の腕を、ひたすら法刀で受け止める奏。
重い一撃に顔を顰める。
何度となく切り結び、離れた瞬間……ユーリがその間に風のように疾く滑り込む――!
「悪いけど、奏も巫女達も連れて行かせない! ついでに……腕の一本は獲らせて貰うわよ!」
ユーリの叫び。深く潜り込み、猫のようにしなる身体。その一閃が、歪虚の片腕を刎ね飛ばす……!
「勝負ありました。貴方の負けです。お引きなさい」
「―――!」
奏の鋭い目線。歪虚は腕を押さえて走り去った。
「ユーリさん達が戦った現場の写真も撮って来ました!」
「ありがとうございます。これで改めて今までの現場の検証も出来ますね」
戻って来たルンルンを労う奏。アルトは報告に集まった仲間達にお茶を配りながら口を開く。
「秋寿は最近ここらじゃ見ないらしい。その代わり、赤い肌の女……さっきユーリが追っ払った歪虚が現れてたみたいだな」
「歪虚を使って誘拐させているのに間違いなさそうね。……根が深そうだわ」
「泥田坊以外の歪虚も使えるって事だもんな……」
マリィアの言葉に考え込むラジェンドラ。
時澄は真美に目線を投げる。
「そういえば、シン。詩天の『詩』は『死』に通じる……という言葉に聞き覚えはないか?」
「……それは。この地はかつて『死天』と呼ばれ忌み嫌われていたと、亡くなった父に聞いた事があります。死を齎す者が住まう土地と言われていたそうです」
「……贄か依代でビンゴってとこかね。こりゃ」
「やっぱりマテリアルか、何らかの能力が必要って事なんでしょうね」
ため息を漏らすアルト。小首を傾げるルンルンに仲間達は頷いて……。
「詩天の伝承の詳細については、次回皆様にお会いするまでに調べて来ます」
「お願いします。あと……巫女と符術師の保護を早急に進めた方がいいと思います。必要なだけの巫女や符術師がそろえば、向こうが計画の実行に移る可能性がありますから」
「そうね。向こうの尻尾を出して貰うためにも、やりにくくするのは必須だと思います」
奏とユーリの言葉に素直に頷く真美。紅媛は弾かれたように顔を上げる。
「符術師って事は……シンも狙われるんじゃないのか?」
「あ。その発想はありませんでした」
「おいおい。しっかりしてくれよ。ま、いざとなったら俺が助けてやるけどさ」
「調子いいわねえ」
胸を叩くラジェンドラにマリィアはくすりと笑う。
「いいか、シン。無理はするな。何かあったら、すぐ俺達を呼べ」
「……はい。時澄兄様」
もう一度頷いた真美。時澄は一瞬目を見開くと、少年の頭をそっと撫でた。
形を成し始めた陰謀。
詩天と死天。その言葉の意味をハンター達が知るのは、もう少し先の話となる。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/08/15 00:18:13 |
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相談卓 三條 時澄(ka4759) 人間(クリムゾンウェスト)|28才|男性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2016/08/19 20:53:47 |