ゲスト
(ka0000)
【詩天】知追う者、強盗を捕まえる?
マスター:狐野径

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/08/23 22:00
- 完成日
- 2016/08/29 00:42
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●約束
エトファリカ連邦国、詩天の若峰に無事到着した大江 紅葉(kz0163)はグラズヘイム王国から来ているリシャール・べリンガーとルゥルと別行動をとる。
紅葉は符術師として町の状況を見て回るつもりであった。詩天が符術が盛んなこともあるし、大江が住んでいた里の近辺を復興させるヒントがあるかもしれないと考えていたからだ。
最大の難関は大江家がいたあたりにいた大名を復興させるか、大江家が手柄を立てるかして土地を取得しないとならない。里くらいなら住み着いて勝手に復旧できるかもしれないが、都との道中を考えると、途中をどうにかしないとならないのは現実だ。
リシャールとルゥルも一応ハンターとしての実力もないことはないし、落ち着けば2人はきちんと行動とれることはわかっている。そのため、2人が若峰を歩き回ることは良しとした。
約束事は2つ。
1つは離れ離れになるようなことにならない。できれば手をつなぐ。
2つ目は人気が減る路地には入らない。
持ってきていた小袖をルゥルとリシャールに着せる。動きやすいように2人とも袴を着ける。2人はエトファリカ調の服にはしゃいでいた。
「これで目立つことは減ります」
「減るだけですか」
「減るだけです」
紅葉はルゥルにきっぱり告げた。粗末な服ではないし、そこそこに上等だ。2人とも着慣れていないもので、着こなせていないうえ、草履は無理で靴のまま。
ルゥルのペットは留守番させる。2匹とも畳の上でゴロゴロして気持ちよさそうであった。
●衝撃
機嫌よく戻ってきた紅葉は、ふと首筋がむずがゆくなり振り返る。宿の入り口を見ている男がいた男と目があったような気がした。
「何か御用ですか?」
男は素知らぬ顔をして立ち去る。
紅葉は気のせいだったかと宿に入った。
「ただいま戻りました」
困惑顔の女将と泣きそうなルゥルと青ざめたリシャールが迎えた。
「あ、あの……大江様」
「紅葉さん……」
「みぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
女将とリシャールは言葉だったが、ルゥルは泣き声だった。ひっくり返って泣き始めたので、紅葉は抱きかかえて奥の部屋に行くこととなる。
「変な会話を聞いちゃったんですぅ」
リシャールが説明するには、2人で手をつないで露店がある通りを進んだ。そして、食事を買って開けたところの隅っこで座って食べていたのだという。
隅っこの奥、細い路地からぼそぼそとした声がした。
それを総合するともめていると理解できたという。
「頭髪が寂しいおじさんは、頭髪が普通のおじさんを好きで、普通のおじさんは宿屋の女の人が好きなんです」
「……は?」
紅葉はリシャールを見る。
「聞こえた言葉でルゥルさんが変なドラマを想像したようなんです。『あの女』『彼女は関係ない』『連れて行けばいい』『やめてくれ』というのは聞こえました」
「……ああ、で、男の人たちの一人は禿頭だったのですね」
「もう一人は商人風でしたが……私たちが変なところに座っていたために……」
「ルゥルは踏みつけられました」
紅葉はなんといっていいかわからないまま、ルゥルを慰める。たぶん、そこに座ってはいけないと2人は理解しただろうから叱ることはしない。
「それににらみつけられました」
「……リシャール君は怪我はありませんね?」
「はい、ルゥルさんは打ち身」
ルゥルを紅葉は優しく抱きしめ、撫でる。
「みぎゃぎゃぎゃ。紅葉さんはいい匂いなのです」
衣にしがみつき甘える。
「うーん、何かの事件かもしれませんが、事件じゃないかもしれません。ただ、ここの入り口を見張るように人がいたんですよ、ごろつき風」
「……ルゥルたちが恨みを買いましたっ」
「むしろルゥルさんが怒っていいんです」
ルゥルとリシャールが言う。
「言い争っている人たちがどこの人かわかればいいんですが」
「商人風の人はお隣の武相屋に入っていきました」
「……は?」
紅葉のつぶやきにルゥルが自信ありげに言う。リシャールもうなずいているため、ほぼ間違いないだろう。
紅葉は降りかかる火の粉があるのならと、情報を集めに出かけたのだった。
●夜の襲撃
紅葉が調査と称して向かった武相屋。その商人は泊まっていたがすでに宿を後にしているという。その商人は仲居と仲良くなっていたとも話を聞けた。
今日はちょうど大口の宿泊がなく、武相屋は久々に静かだという。休みや掃除に費やされるという。明日には客がそこそこ来るとも。
この近辺の事件状況も聞きに行ってみるが、結局確信は得られないがもやもやが残る。
「……押し込みとか引き込みが頻発しているって話もないようですしというか、あったらみなさん警戒していますね」
紅葉は頭を悩ました。時間をかけて調査するなら、もっと金がある商人を狙うだろう。
「推測ですし、何もなければいいのですが、こちらを狙う可能性もありますね」
小さい宿であるため下調べはいらない。ただし、禿頭の男が何か握っているなら、ルゥルとリシャールを殺すために来る可能性がある。
「うーん……気のせいならいいんですが」
護衛という立場のハンターに紅葉はお願いをする。夜の用心を今まで以上にしてほしいと。
それと、紅葉はリシャールとルゥルのそばでできる限り眠らないつもりでいるとも。リシャールも「寝ません」ときりっとして告げる。ルゥルはトランプを喜々として取り出している。
それを見て紅葉は苦笑する。
「……何が起こるかわからない、何もないかもしれない」
もし、予想が外れたなら、町の警備担当にやんわりと「こんなことがあった」と耳に入れておけばいい。紅葉たちも帰らないといけないのだから。
エトファリカ連邦国、詩天の若峰に無事到着した大江 紅葉(kz0163)はグラズヘイム王国から来ているリシャール・べリンガーとルゥルと別行動をとる。
紅葉は符術師として町の状況を見て回るつもりであった。詩天が符術が盛んなこともあるし、大江が住んでいた里の近辺を復興させるヒントがあるかもしれないと考えていたからだ。
最大の難関は大江家がいたあたりにいた大名を復興させるか、大江家が手柄を立てるかして土地を取得しないとならない。里くらいなら住み着いて勝手に復旧できるかもしれないが、都との道中を考えると、途中をどうにかしないとならないのは現実だ。
リシャールとルゥルも一応ハンターとしての実力もないことはないし、落ち着けば2人はきちんと行動とれることはわかっている。そのため、2人が若峰を歩き回ることは良しとした。
約束事は2つ。
1つは離れ離れになるようなことにならない。できれば手をつなぐ。
2つ目は人気が減る路地には入らない。
持ってきていた小袖をルゥルとリシャールに着せる。動きやすいように2人とも袴を着ける。2人はエトファリカ調の服にはしゃいでいた。
「これで目立つことは減ります」
「減るだけですか」
「減るだけです」
紅葉はルゥルにきっぱり告げた。粗末な服ではないし、そこそこに上等だ。2人とも着慣れていないもので、着こなせていないうえ、草履は無理で靴のまま。
ルゥルのペットは留守番させる。2匹とも畳の上でゴロゴロして気持ちよさそうであった。
●衝撃
機嫌よく戻ってきた紅葉は、ふと首筋がむずがゆくなり振り返る。宿の入り口を見ている男がいた男と目があったような気がした。
「何か御用ですか?」
男は素知らぬ顔をして立ち去る。
紅葉は気のせいだったかと宿に入った。
「ただいま戻りました」
困惑顔の女将と泣きそうなルゥルと青ざめたリシャールが迎えた。
「あ、あの……大江様」
「紅葉さん……」
「みぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
女将とリシャールは言葉だったが、ルゥルは泣き声だった。ひっくり返って泣き始めたので、紅葉は抱きかかえて奥の部屋に行くこととなる。
「変な会話を聞いちゃったんですぅ」
リシャールが説明するには、2人で手をつないで露店がある通りを進んだ。そして、食事を買って開けたところの隅っこで座って食べていたのだという。
隅っこの奥、細い路地からぼそぼそとした声がした。
それを総合するともめていると理解できたという。
「頭髪が寂しいおじさんは、頭髪が普通のおじさんを好きで、普通のおじさんは宿屋の女の人が好きなんです」
「……は?」
紅葉はリシャールを見る。
「聞こえた言葉でルゥルさんが変なドラマを想像したようなんです。『あの女』『彼女は関係ない』『連れて行けばいい』『やめてくれ』というのは聞こえました」
「……ああ、で、男の人たちの一人は禿頭だったのですね」
「もう一人は商人風でしたが……私たちが変なところに座っていたために……」
「ルゥルは踏みつけられました」
紅葉はなんといっていいかわからないまま、ルゥルを慰める。たぶん、そこに座ってはいけないと2人は理解しただろうから叱ることはしない。
「それににらみつけられました」
「……リシャール君は怪我はありませんね?」
「はい、ルゥルさんは打ち身」
ルゥルを紅葉は優しく抱きしめ、撫でる。
「みぎゃぎゃぎゃ。紅葉さんはいい匂いなのです」
衣にしがみつき甘える。
「うーん、何かの事件かもしれませんが、事件じゃないかもしれません。ただ、ここの入り口を見張るように人がいたんですよ、ごろつき風」
「……ルゥルたちが恨みを買いましたっ」
「むしろルゥルさんが怒っていいんです」
ルゥルとリシャールが言う。
「言い争っている人たちがどこの人かわかればいいんですが」
「商人風の人はお隣の武相屋に入っていきました」
「……は?」
紅葉のつぶやきにルゥルが自信ありげに言う。リシャールもうなずいているため、ほぼ間違いないだろう。
紅葉は降りかかる火の粉があるのならと、情報を集めに出かけたのだった。
●夜の襲撃
紅葉が調査と称して向かった武相屋。その商人は泊まっていたがすでに宿を後にしているという。その商人は仲居と仲良くなっていたとも話を聞けた。
今日はちょうど大口の宿泊がなく、武相屋は久々に静かだという。休みや掃除に費やされるという。明日には客がそこそこ来るとも。
この近辺の事件状況も聞きに行ってみるが、結局確信は得られないがもやもやが残る。
「……押し込みとか引き込みが頻発しているって話もないようですしというか、あったらみなさん警戒していますね」
紅葉は頭を悩ました。時間をかけて調査するなら、もっと金がある商人を狙うだろう。
「推測ですし、何もなければいいのですが、こちらを狙う可能性もありますね」
小さい宿であるため下調べはいらない。ただし、禿頭の男が何か握っているなら、ルゥルとリシャールを殺すために来る可能性がある。
「うーん……気のせいならいいんですが」
護衛という立場のハンターに紅葉はお願いをする。夜の用心を今まで以上にしてほしいと。
それと、紅葉はリシャールとルゥルのそばでできる限り眠らないつもりでいるとも。リシャールも「寝ません」ときりっとして告げる。ルゥルはトランプを喜々として取り出している。
それを見て紅葉は苦笑する。
「……何が起こるかわからない、何もないかもしれない」
もし、予想が外れたなら、町の警備担当にやんわりと「こんなことがあった」と耳に入れておけばいい。紅葉たちも帰らないといけないのだから。
リプレイ本文
●妥当
ロニ・カルディス(ka0551)とザレム・アズール(ka0878)はリシャール・べリンガーを伴って隣の宿武相屋に向かった、見張りという名で滞在できるよう交渉するため。何か起こってからでは遅いのだから。説得のためということで目撃者であるリシャールとルゥルを連れて行く予定だったが、ルゥルは大江 紅葉に張り付いて離れなかった。
「そんなに不審な人たちだったの? 心配なら見張ってみるわ、待つのは得意よ」
鍛島 霧絵(ka3074)は武器のチェックを行う。
「代わりに日中は寝ていていいんですよね? すぐに宿を引き払って、帰路とか……ないですよね?」
天央 観智(ka0896)は白黒つけるために問う。
「……ないですよ! 睡眠は重要です!」
言質を取った後、観智は宿の見取り図と隣とこの地域の簡便な地図を眺める。何が必要か考えるために。
「紛らわしい偶然が絶妙に重なっただけで何もないかもしれんのう」
御酒部 千鳥(ka6405)は酔っているのか酔っていないのか今一つわからぬ雰囲気を漂わせて微笑む。心の内では「暗殺ということは?」と考えていた。ルゥルの出自はよくわからないが、リシャールの場合貴族でもある。
「大江、トランシーバーの使い方、教えておいた方がいいか? それと見張りの時はこの子らは預ける」
咲月 春夜(ka6377)は真摯に告げる。外見は貴族のような衣装に仮面といういで立ち――覚醒状態に現れる幻影の衣装を模したものをまとい、ヘルシャフトと名乗っている。彼の言葉を受け桜型妖精アリスのディアがふわふわ漂い紅葉の頭に座り、フェレットのスターリングシルバーの雨月はルゥルの前にすっくと立った。
「わ、フレオにもお友達です」
ルゥルはペットのフェレットのフレオを雨月の上の載せた。その瞬間、聞こえないゴングが鳴り、2匹は走り出した。畳がえぐれるのではという脚力で2匹は走る。
「元気がいいのう、若いモンは。不審者が強盗かもしれぬのじゃな……外れればそれはそれでよい」
婆(ka6451)は年の功で生じる穏やかさで、フェレットを眺めていた。
龍崎・カズマ(ka0178)は苦笑する。他の者にも見やすいように畳の上に置いた地図を2匹が走り抜けたのだった。なお、2匹はカズマを壁にけん制し合っている。
「……なんでこんな状態に」
カズマがそれぞれの手でがっちりつかむと、2匹は一瞬おとなしくなるが、それぞれ脱出しようとビチビチうねる。
「……痛いんだが地味に」
フレオはすごい形相で指をかんでいたため、カズマは2匹を畳に置いた。
「ただいま」
ザレムが開けた襖に向かって2匹が走っていき、すり抜けようとした。フェレットはザレムの後ろから来ていたロニにぶつかり、その横にいたリシャールに捕獲された。
「隣は協力してくれるそうだ。目撃が商人風の男の言動を裏付け、不安が生じてたとのことだ」
ロニは結果を言う。
「強盗なんて入られたら迷惑だし、人命もある。証拠隠滅で火をかけるかもしれない。安全は確保したいとのことだったよ」
ザレムは追加情報を言う。視線はリシャールの手をかじっているフェレットたちに向かう。
「ところで、なんでこの子たちけんかしていたんだい?」
「俺も知りたい。仲良くしてほしい、なごんでほしいと思っている」
ザレムの問いかけにヘルシャフトも困惑する。
「物知りお兄さんたちですら知らないフェレットの世界です」
ルゥルがもったいぶる顔をする。
「そこに、同族がいるから遊んでいるだけです。ルゥルたちはただの障害物です」
直後、納得した。
●民宿にて
夜、起きる満々のルゥルは寝かしつけられる。紅葉の袖をがっちり握りしめて寝ている。もしもを考え、寝間着ではなく部屋着のままであり枕元にはワンドもある。
リシャールと紅葉は時間制で交代で眠ることにした。リシャールのやる気とハンターたちの協力があるから。
千鳥が同じ部屋におり、一人でない。
「では、私はひとまず寝ます。リシャールさん、御酒部さんやヘルシャフトさんの言うことを聞くんですよ? 何かあったら起こすんですよ?」
「はい」
紅葉に念を押されリシャールは返事をした。リシャールの頭の上にはヘルシャフトの桜型妖精アリスのディアが乗っており、「任せて」というような動作をしている。
紅葉が床に就いた後、千鳥は生真面目に座っているリシャールを見て苦笑する。これが一定年齢以上なら「少し、酒でも」と勧められるが、まだ子供のリシャールにはできない。少しでも話して気を紛らわせようと考える。
「緊張しすぎも力がだせぬぞ?」
「はい」
「ふふっ。ま、仕方がないじゃろう」
道中での話でもしようかと思ったころ、ヘルシャフトが入ってきた。
「肩の力は抜け」
やはり同じことを言われるリシャールだが、なかなか難しい。
「これをおなかがすいたら食べろ」
「ありがとうございます」
ヘルシャフトは桜餅を差し出す。
「妾の分は?」
千鳥は唇を尖らせながら、手の平を見せる。
ヘルシャフトは溜息を1つ吐き出してから、千鳥にも渡す。
「嬉しいのう」
千鳥はさっそく食べた。
「外の状況はどうじゃ?」
「まだ特には。周囲も寝静まってはいないしな」
「ふむ、何もないなら良いの」
ヘルシャフトはうなずき、持ち場に戻っていった。
民宿の屋根の上に同化するように霧絵は待機する。夜でもまだ人の動きがあり、見張るには早いかもしれないが、周囲の変化を知らないと異変も気づけない。だから、隠れる。
トランシーバーで仲間と決めた合図で時々連絡を入れる。相手からも時々連絡が来る。
夜は少しずつ更けていく。何かあるならだんだんと危険度が増していく。
(真冬だと寒いのだろうけど)
見上げた空は、星が瞬き明るかった。
民宿の庭には婆がたたずむ。
鬼と言っても大柄ではなく、重ねた年の分、小さくなっているのか元からなのか……本人でないと分からぬ物語。
(最近の若いモンは物騒じゃねえ。昔も今も変わらぬかの?)
提灯の明かりとともに考える、過去と近くに来るかもしれない未来を。
トランシーバーの扱いも教わり、新しい知識が増える。山の中だけでない人生、そして、人間たちとの交わり。
(わざと鎌をかけるように話しかけてみてどう反応するかのう。ポロリと本当のことをいうかもしれん)
玄関の片隅にたたずむ観智は不意に眠くなる。
民宿ということもあり、すでに扉は締めて鍵もかけてあった。泊まっている人も限られているため、個別に対応すればいいのだ。見張るといった観智に宿の主は「明かりつけますか?」とも問うていた。普段はつけていないというため、断った、不自然となる。
明かりがあったとしても、状況が見えぬところで待つのは骨が折れること。
杞憂であればいい。
この隅で寝てしまっても、朝に宿の人に起こされる笑えるなら。
●武相屋にて
ハンターが発した問いかけの「盗まれそうなものがあるのはどこか」に、武相屋の主は不思議そうな顔をしていた。信用がないと答えないだろうが、ロニには「わからない」という表情に見えた。
「ハンターさんを信じて言えば、現金はおいています。何かあったら、使いますし」
宿の主はそう言っていた。建物を直すのも人を雇うのも、食料を買うのもお金が必要だ。大きい宿であればその分、必要である。
倉にあらゆるものを片づけてあると主は言う。ガラクタと思っている物に実は恐ろしい価値があるのかもしれないし、犯人を捕まえてみないとわからないことが多い。
「杞憂で済めばいいのだが、こういうときほど悪いほうに転がりそうだ」
ロニは気を引き締めて、信用してくれた武相屋の主や心配性の雇い主のために見張りをする。倉が見える、玄関からの通路上の陰に隠れた。
「嫌疑かかる前に行動するなら今、あきらめるなら何もない……だろう」
ザレムは屋根の上に上がって様子を見る。
調査の許可が武相屋からおりた後、商人風の男と仲良くなっていた仲居やその同僚たちから話を聞いた。商人風の男には何かあるのは薄々感づかれていた。人柄はいいのだがどこかよそよそしく、商売で来ているのにがつがつしていない雰囲気。妻子があるとか、借金まみれで逃げているとかいろいろ憶測は飛んでいた。
(強盗でなくて本当は妻子に見つけられってこともあるかもしれないんだな)
紅葉の心配とは異なり家庭事情もありうるかもしれないし、ルゥルが言うような謎の修羅場もあるのかもしれない。
考えをめぐらす間に、周囲の明かりは消えていく。
倉の屋根に上り、じっとするカズマは出入り口を軍事双眼鏡で見つめる。仲間から何かあったという連絡はない。
事前調査で入っている情報だと人が少なく狙うなら今日。
「何事もなきゃ、それに越したことはないし」
護衛としていても、狙われたら終わりだ。先手打てるなら打った方がいい。
「過ごしやすく、いい空の色だな、と」
ちらと空を見る。満月ではない細い月が星を従えてたたずむ。
町の灯が消えてきたころ、通りに面したところを見ていたザレムから連絡が入る。続いてカズマの視界の中にいくつかの人影が入ってきた。
「さてと、お仕事か?」
仲間に注意するようにと連絡を入れ、静かに下りる準備を整えた。その時、一気に事態は動いた。
●襲撃
ロニは慎重に行動を起こすタイミングを計った。
ザレムが連絡で入れた人数に、目の前を通った人数は1人足りないかもしれない。
玄関の方で争うような音がしたため、異変に彼らが気づく前に動くことにした。
「一気に止める【セイクリッドフラッシュ】」
ロニが近づくのに気づいた侵入者だが、行動に移ろうとしたときにはすでに光に飲まれていた。
この光が収まるころ、倉の上からカズマが下りてきた。そのためごろつきは挟み撃ちにあった状態だ。
「さて、おとなしくお縄についてくれるならいいんだが」
カズマは戦に武器等は使わない構えでこぶしを固めた。
「たたた助けてくれ」
「いい仕事があるっていうから」
「ひいい」
侵入者が怯える。
「逃げようとしても無駄だからな、見張りの奴も捕まえた」
ザレムがロニの後ろからやってくる。
なぜかロニをあがめる侵入者たち。
「……あ、光ったな」
カズマの指摘にロニが虚を突かれた表情となる。
「見慣れぬものを見た結果、これ?」
ザレムはあきれる。
『もう片付いたの?』
トランシーバーからこちらが見える位置に隠れていた霧絵の連絡が入る。
「そっちはどうだ?」
『あ、動きがあったわ』
霧絵は目視したらしいが、トランシーバーに「侵入者が1人、覆面の男」と短く観智から入ってきたのだった。
ほぼ同時刻の民宿の方、玄関の扉を開ける音がする。観智はスタッフを握りしめる。マテリアルを紡ぎあげるのは少し待ち、様子をうかがった。
かすかに鍵が開く音がし、忍び込む人の影。
相手は一人のようだ。
下手をすると逃がす危険性もありが、奥に入れるのも危険だ。
その影は中に入っていく。退路を塞ぐよう観智は立ち、顔めがけてLEDライトを照らした。
「ちっ」
影は観智が誰何の声をあげるより早く舌打ちして、奥に入っていく。
「侵入者が1人、覆面の男!」
トランシーバーで告げるとともに、周囲に聞こえるように話す。
観智は追いかけるか悩む、この隙に別の者が来るのも警戒した。
『こっちは任せろ』
『婆さん、奥もすぐに行けるなら。周囲は私が見ています』
ヘルシャフトと屋根の上の霧絵からの返答があった。
奥に行く覆面の男はヘルシャフトと婆を見て、部屋の方に入る。庭に逃げない理由はわからないが、小さな宿ではすぐに目的は達せると踏んだのだろう。
「来たのぅ」
千鳥が真っ先に反応した。その後ろでリシャールとルゥルをかばうようにカードバインダーを閉じたまま構えた紅葉がいる。リシャールは身を起こして、刀を手にしている。
「ちっ用意がいい」
男のマテリアルが動いた。
「この人、覚醒者です」
「なら、思いっきりやっても、危なくないのぉ」
千鳥はふらりと動きつつ、マテリアルを込めてこぶしを叩き込んだ。
覆面の男は避けるが、そこにヘルシャフトと婆がやってくる。
「【Delta Licht・Schwert】」
3つの光の剣が生じ、覆面の男を貫く。
「こっちにくれば投げ飛ばしてあげようかのう……おや?」
婆は倒れた覆面の男を縛り上げたのだった。
無事、侵入者をすべて捕獲したと思われるため、警邏担当の者に話を付けに行くこととなった。真相は意外とあっさりとわかったのは、リーダー格の男の人望のなさでもあった。
●狙いは
翌朝、小脇にフェレットを1匹ずつ抱えたルゥルは騒ぎに気付いていなかった。
「……え?」
リシャールがキョトンとする。紅葉もあえてルゥルを起こさないようにしていたが、目の前で殴り合いがあったのだ。なお、リシャールは紅葉に踏みつけられたので目が覚めた。
「こちらを狙ったのはイレギュラーな事態だったようです。ルゥルさんとリシャールさんに顔をしっかり見られているため殺して、宿に火をつけようと考えていたみたいです」
観智は説明をする。
「盗むために金を持っていそうで、調べやすいところをまず狙ったらしい。成功した暁には復興で潤いそうな商人の家に入り込んでじっくりと狙うつもりだったそうだ」
「根こそぎ奪うため時間をかけてやるために、顔を見られないようにしたかった。目撃者になる者は消す。殺した上で火をつけるつもだったとかいうしな」
ザレムとカズマが言うとルゥルはフェレットをぎゅと握りしめた。
「仲間意識とともに力で押さえつけられていたみたいだからな、あっさり吐きたくもなるだろう。離れたとき逃げることもできたがいたっていうのが……相当怖かったか、盗みをやる気があったのか」
ロニはリーダーに従っていた者たちの心情を考えると気の毒と自業自得という気持ちになる。
「それでハンターの信用がなくなるって困るわよね?」
霧絵は眉を寄せた。
「その辺はきちんと告げてあるんじゃ。あとは良きに計らってくれるじゃろう?」
ズズッと茶をすする婆。
「そうそう。そのためのソサエティじゃ。さて、今日は遠慮なく飲もう。暗殺も防げたしのぅ」
千鳥はどこからか取り出した徳利を手に笑顔だ。
暗殺?
言葉の重さに表情が固まる。改めて考えると危険な状況だったのだ。
「分かれて見張って正解だったわけだな」
ヘルシャフトは浅く笑う。そして、ルゥルから雨月を回収する。抱きしめられすぎてぐったりしていたのだった。
「そうですね。さて、今日はどうしましょうか」
紅葉は笑顔でハンターを見渡したのだった。
詩天滞在も終わろうとしている。
ロニ・カルディス(ka0551)とザレム・アズール(ka0878)はリシャール・べリンガーを伴って隣の宿武相屋に向かった、見張りという名で滞在できるよう交渉するため。何か起こってからでは遅いのだから。説得のためということで目撃者であるリシャールとルゥルを連れて行く予定だったが、ルゥルは大江 紅葉に張り付いて離れなかった。
「そんなに不審な人たちだったの? 心配なら見張ってみるわ、待つのは得意よ」
鍛島 霧絵(ka3074)は武器のチェックを行う。
「代わりに日中は寝ていていいんですよね? すぐに宿を引き払って、帰路とか……ないですよね?」
天央 観智(ka0896)は白黒つけるために問う。
「……ないですよ! 睡眠は重要です!」
言質を取った後、観智は宿の見取り図と隣とこの地域の簡便な地図を眺める。何が必要か考えるために。
「紛らわしい偶然が絶妙に重なっただけで何もないかもしれんのう」
御酒部 千鳥(ka6405)は酔っているのか酔っていないのか今一つわからぬ雰囲気を漂わせて微笑む。心の内では「暗殺ということは?」と考えていた。ルゥルの出自はよくわからないが、リシャールの場合貴族でもある。
「大江、トランシーバーの使い方、教えておいた方がいいか? それと見張りの時はこの子らは預ける」
咲月 春夜(ka6377)は真摯に告げる。外見は貴族のような衣装に仮面といういで立ち――覚醒状態に現れる幻影の衣装を模したものをまとい、ヘルシャフトと名乗っている。彼の言葉を受け桜型妖精アリスのディアがふわふわ漂い紅葉の頭に座り、フェレットのスターリングシルバーの雨月はルゥルの前にすっくと立った。
「わ、フレオにもお友達です」
ルゥルはペットのフェレットのフレオを雨月の上の載せた。その瞬間、聞こえないゴングが鳴り、2匹は走り出した。畳がえぐれるのではという脚力で2匹は走る。
「元気がいいのう、若いモンは。不審者が強盗かもしれぬのじゃな……外れればそれはそれでよい」
婆(ka6451)は年の功で生じる穏やかさで、フェレットを眺めていた。
龍崎・カズマ(ka0178)は苦笑する。他の者にも見やすいように畳の上に置いた地図を2匹が走り抜けたのだった。なお、2匹はカズマを壁にけん制し合っている。
「……なんでこんな状態に」
カズマがそれぞれの手でがっちりつかむと、2匹は一瞬おとなしくなるが、それぞれ脱出しようとビチビチうねる。
「……痛いんだが地味に」
フレオはすごい形相で指をかんでいたため、カズマは2匹を畳に置いた。
「ただいま」
ザレムが開けた襖に向かって2匹が走っていき、すり抜けようとした。フェレットはザレムの後ろから来ていたロニにぶつかり、その横にいたリシャールに捕獲された。
「隣は協力してくれるそうだ。目撃が商人風の男の言動を裏付け、不安が生じてたとのことだ」
ロニは結果を言う。
「強盗なんて入られたら迷惑だし、人命もある。証拠隠滅で火をかけるかもしれない。安全は確保したいとのことだったよ」
ザレムは追加情報を言う。視線はリシャールの手をかじっているフェレットたちに向かう。
「ところで、なんでこの子たちけんかしていたんだい?」
「俺も知りたい。仲良くしてほしい、なごんでほしいと思っている」
ザレムの問いかけにヘルシャフトも困惑する。
「物知りお兄さんたちですら知らないフェレットの世界です」
ルゥルがもったいぶる顔をする。
「そこに、同族がいるから遊んでいるだけです。ルゥルたちはただの障害物です」
直後、納得した。
●民宿にて
夜、起きる満々のルゥルは寝かしつけられる。紅葉の袖をがっちり握りしめて寝ている。もしもを考え、寝間着ではなく部屋着のままであり枕元にはワンドもある。
リシャールと紅葉は時間制で交代で眠ることにした。リシャールのやる気とハンターたちの協力があるから。
千鳥が同じ部屋におり、一人でない。
「では、私はひとまず寝ます。リシャールさん、御酒部さんやヘルシャフトさんの言うことを聞くんですよ? 何かあったら起こすんですよ?」
「はい」
紅葉に念を押されリシャールは返事をした。リシャールの頭の上にはヘルシャフトの桜型妖精アリスのディアが乗っており、「任せて」というような動作をしている。
紅葉が床に就いた後、千鳥は生真面目に座っているリシャールを見て苦笑する。これが一定年齢以上なら「少し、酒でも」と勧められるが、まだ子供のリシャールにはできない。少しでも話して気を紛らわせようと考える。
「緊張しすぎも力がだせぬぞ?」
「はい」
「ふふっ。ま、仕方がないじゃろう」
道中での話でもしようかと思ったころ、ヘルシャフトが入ってきた。
「肩の力は抜け」
やはり同じことを言われるリシャールだが、なかなか難しい。
「これをおなかがすいたら食べろ」
「ありがとうございます」
ヘルシャフトは桜餅を差し出す。
「妾の分は?」
千鳥は唇を尖らせながら、手の平を見せる。
ヘルシャフトは溜息を1つ吐き出してから、千鳥にも渡す。
「嬉しいのう」
千鳥はさっそく食べた。
「外の状況はどうじゃ?」
「まだ特には。周囲も寝静まってはいないしな」
「ふむ、何もないなら良いの」
ヘルシャフトはうなずき、持ち場に戻っていった。
民宿の屋根の上に同化するように霧絵は待機する。夜でもまだ人の動きがあり、見張るには早いかもしれないが、周囲の変化を知らないと異変も気づけない。だから、隠れる。
トランシーバーで仲間と決めた合図で時々連絡を入れる。相手からも時々連絡が来る。
夜は少しずつ更けていく。何かあるならだんだんと危険度が増していく。
(真冬だと寒いのだろうけど)
見上げた空は、星が瞬き明るかった。
民宿の庭には婆がたたずむ。
鬼と言っても大柄ではなく、重ねた年の分、小さくなっているのか元からなのか……本人でないと分からぬ物語。
(最近の若いモンは物騒じゃねえ。昔も今も変わらぬかの?)
提灯の明かりとともに考える、過去と近くに来るかもしれない未来を。
トランシーバーの扱いも教わり、新しい知識が増える。山の中だけでない人生、そして、人間たちとの交わり。
(わざと鎌をかけるように話しかけてみてどう反応するかのう。ポロリと本当のことをいうかもしれん)
玄関の片隅にたたずむ観智は不意に眠くなる。
民宿ということもあり、すでに扉は締めて鍵もかけてあった。泊まっている人も限られているため、個別に対応すればいいのだ。見張るといった観智に宿の主は「明かりつけますか?」とも問うていた。普段はつけていないというため、断った、不自然となる。
明かりがあったとしても、状況が見えぬところで待つのは骨が折れること。
杞憂であればいい。
この隅で寝てしまっても、朝に宿の人に起こされる笑えるなら。
●武相屋にて
ハンターが発した問いかけの「盗まれそうなものがあるのはどこか」に、武相屋の主は不思議そうな顔をしていた。信用がないと答えないだろうが、ロニには「わからない」という表情に見えた。
「ハンターさんを信じて言えば、現金はおいています。何かあったら、使いますし」
宿の主はそう言っていた。建物を直すのも人を雇うのも、食料を買うのもお金が必要だ。大きい宿であればその分、必要である。
倉にあらゆるものを片づけてあると主は言う。ガラクタと思っている物に実は恐ろしい価値があるのかもしれないし、犯人を捕まえてみないとわからないことが多い。
「杞憂で済めばいいのだが、こういうときほど悪いほうに転がりそうだ」
ロニは気を引き締めて、信用してくれた武相屋の主や心配性の雇い主のために見張りをする。倉が見える、玄関からの通路上の陰に隠れた。
「嫌疑かかる前に行動するなら今、あきらめるなら何もない……だろう」
ザレムは屋根の上に上がって様子を見る。
調査の許可が武相屋からおりた後、商人風の男と仲良くなっていた仲居やその同僚たちから話を聞いた。商人風の男には何かあるのは薄々感づかれていた。人柄はいいのだがどこかよそよそしく、商売で来ているのにがつがつしていない雰囲気。妻子があるとか、借金まみれで逃げているとかいろいろ憶測は飛んでいた。
(強盗でなくて本当は妻子に見つけられってこともあるかもしれないんだな)
紅葉の心配とは異なり家庭事情もありうるかもしれないし、ルゥルが言うような謎の修羅場もあるのかもしれない。
考えをめぐらす間に、周囲の明かりは消えていく。
倉の屋根に上り、じっとするカズマは出入り口を軍事双眼鏡で見つめる。仲間から何かあったという連絡はない。
事前調査で入っている情報だと人が少なく狙うなら今日。
「何事もなきゃ、それに越したことはないし」
護衛としていても、狙われたら終わりだ。先手打てるなら打った方がいい。
「過ごしやすく、いい空の色だな、と」
ちらと空を見る。満月ではない細い月が星を従えてたたずむ。
町の灯が消えてきたころ、通りに面したところを見ていたザレムから連絡が入る。続いてカズマの視界の中にいくつかの人影が入ってきた。
「さてと、お仕事か?」
仲間に注意するようにと連絡を入れ、静かに下りる準備を整えた。その時、一気に事態は動いた。
●襲撃
ロニは慎重に行動を起こすタイミングを計った。
ザレムが連絡で入れた人数に、目の前を通った人数は1人足りないかもしれない。
玄関の方で争うような音がしたため、異変に彼らが気づく前に動くことにした。
「一気に止める【セイクリッドフラッシュ】」
ロニが近づくのに気づいた侵入者だが、行動に移ろうとしたときにはすでに光に飲まれていた。
この光が収まるころ、倉の上からカズマが下りてきた。そのためごろつきは挟み撃ちにあった状態だ。
「さて、おとなしくお縄についてくれるならいいんだが」
カズマは戦に武器等は使わない構えでこぶしを固めた。
「たたた助けてくれ」
「いい仕事があるっていうから」
「ひいい」
侵入者が怯える。
「逃げようとしても無駄だからな、見張りの奴も捕まえた」
ザレムがロニの後ろからやってくる。
なぜかロニをあがめる侵入者たち。
「……あ、光ったな」
カズマの指摘にロニが虚を突かれた表情となる。
「見慣れぬものを見た結果、これ?」
ザレムはあきれる。
『もう片付いたの?』
トランシーバーからこちらが見える位置に隠れていた霧絵の連絡が入る。
「そっちはどうだ?」
『あ、動きがあったわ』
霧絵は目視したらしいが、トランシーバーに「侵入者が1人、覆面の男」と短く観智から入ってきたのだった。
ほぼ同時刻の民宿の方、玄関の扉を開ける音がする。観智はスタッフを握りしめる。マテリアルを紡ぎあげるのは少し待ち、様子をうかがった。
かすかに鍵が開く音がし、忍び込む人の影。
相手は一人のようだ。
下手をすると逃がす危険性もありが、奥に入れるのも危険だ。
その影は中に入っていく。退路を塞ぐよう観智は立ち、顔めがけてLEDライトを照らした。
「ちっ」
影は観智が誰何の声をあげるより早く舌打ちして、奥に入っていく。
「侵入者が1人、覆面の男!」
トランシーバーで告げるとともに、周囲に聞こえるように話す。
観智は追いかけるか悩む、この隙に別の者が来るのも警戒した。
『こっちは任せろ』
『婆さん、奥もすぐに行けるなら。周囲は私が見ています』
ヘルシャフトと屋根の上の霧絵からの返答があった。
奥に行く覆面の男はヘルシャフトと婆を見て、部屋の方に入る。庭に逃げない理由はわからないが、小さな宿ではすぐに目的は達せると踏んだのだろう。
「来たのぅ」
千鳥が真っ先に反応した。その後ろでリシャールとルゥルをかばうようにカードバインダーを閉じたまま構えた紅葉がいる。リシャールは身を起こして、刀を手にしている。
「ちっ用意がいい」
男のマテリアルが動いた。
「この人、覚醒者です」
「なら、思いっきりやっても、危なくないのぉ」
千鳥はふらりと動きつつ、マテリアルを込めてこぶしを叩き込んだ。
覆面の男は避けるが、そこにヘルシャフトと婆がやってくる。
「【Delta Licht・Schwert】」
3つの光の剣が生じ、覆面の男を貫く。
「こっちにくれば投げ飛ばしてあげようかのう……おや?」
婆は倒れた覆面の男を縛り上げたのだった。
無事、侵入者をすべて捕獲したと思われるため、警邏担当の者に話を付けに行くこととなった。真相は意外とあっさりとわかったのは、リーダー格の男の人望のなさでもあった。
●狙いは
翌朝、小脇にフェレットを1匹ずつ抱えたルゥルは騒ぎに気付いていなかった。
「……え?」
リシャールがキョトンとする。紅葉もあえてルゥルを起こさないようにしていたが、目の前で殴り合いがあったのだ。なお、リシャールは紅葉に踏みつけられたので目が覚めた。
「こちらを狙ったのはイレギュラーな事態だったようです。ルゥルさんとリシャールさんに顔をしっかり見られているため殺して、宿に火をつけようと考えていたみたいです」
観智は説明をする。
「盗むために金を持っていそうで、調べやすいところをまず狙ったらしい。成功した暁には復興で潤いそうな商人の家に入り込んでじっくりと狙うつもりだったそうだ」
「根こそぎ奪うため時間をかけてやるために、顔を見られないようにしたかった。目撃者になる者は消す。殺した上で火をつけるつもだったとかいうしな」
ザレムとカズマが言うとルゥルはフェレットをぎゅと握りしめた。
「仲間意識とともに力で押さえつけられていたみたいだからな、あっさり吐きたくもなるだろう。離れたとき逃げることもできたがいたっていうのが……相当怖かったか、盗みをやる気があったのか」
ロニはリーダーに従っていた者たちの心情を考えると気の毒と自業自得という気持ちになる。
「それでハンターの信用がなくなるって困るわよね?」
霧絵は眉を寄せた。
「その辺はきちんと告げてあるんじゃ。あとは良きに計らってくれるじゃろう?」
ズズッと茶をすする婆。
「そうそう。そのためのソサエティじゃ。さて、今日は遠慮なく飲もう。暗殺も防げたしのぅ」
千鳥はどこからか取り出した徳利を手に笑顔だ。
暗殺?
言葉の重さに表情が固まる。改めて考えると危険な状況だったのだ。
「分かれて見張って正解だったわけだな」
ヘルシャフトは浅く笑う。そして、ルゥルから雨月を回収する。抱きしめられすぎてぐったりしていたのだった。
「そうですね。さて、今日はどうしましょうか」
紅葉は笑顔でハンターを見渡したのだった。
詩天滞在も終わろうとしている。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/08/22 00:55:10 |
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【相談】杞憂ならいい 龍崎・カズマ(ka0178) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/08/23 21:32:24 |