ゲスト
(ka0000)
強襲殲滅―ゴブリンズキャンプ―
マスター:紫月紫織

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/08/26 22:00
- 完成日
- 2016/09/03 00:55
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
調査隊がそこについたのは昼下がりのことだった。
鬱蒼とした森を抜け、少し開けたところに出た。
向かいには切り立った崖があり、その下には動物たちが集まって憩う場所ができていたのである。
調査隊は、護衛の者達に促されて一息の休憩を入れるはずだった。
「動物たちがあんなに集まっているということは、湧き水でもあるのかもしれませんね……」
「ほう、それでは水の補充ができるかもしれませんな」
軽くなりつつあった水筒を気にしていた護衛の一人が、学者の言葉に嬉しそうな反応を示し、動物の憩う場所へと足をすすめる。
彼は決して武器を抜いたり、殺気をたてたりして動物たちを追い立てることはしなかった。
理由はこの調査隊の理念にある。
調査をする際、その場所を荒らしてしまうことは調査のまえに自分たちの手を入れてしまうことになる。
だからこそ、出来る限り現地に干渉するべきではない。
そう考える隊長の元に、出来る限りの非干渉をこの調査隊は掲げていたのだ。
だがそれは護衛の難易度を引き上げることを意味する。
当初、護衛を引き受ける者達は難色を示していた。
今の護衛はそんな条件を呑み、調査隊と良い関係を築いていたのである。
そんな中の一人が動物たちの中から戻ってきた。
彼の掲げた水筒から水がこぼれ落ち、それが満杯になっていることを示した。
学者の読み通り水場だったのだろう、一団に笑みが溢れる。
そして戻ってきた彼から驚きの報告がされたのである。
「この水場、少し変です。なんか人工物っぽいですよ」
彼の言葉に調査隊の学者たちが色めき立つ。
動物の断末魔が響いたのはその直後だった。
●
ハンターオフィスのテーブルに、二人の男性が腰掛けていた。
一人は老練な空気をまとう護衛のリーダー。
もう一人は鍛え上げられた、というほどではないがそれなりに引き締まった体つきの調査隊の隊長だった。
二人の前には女性職員が、依頼の内容を確認するべく対応にあたっている。
「では、依頼の内容を確認させていただきます。主な依頼は調査地である森林奥の水場を占拠したゴブリン、ホブゴブリン集団の殲滅ですね」
読み上げる女性職員の声に、二人は頷いて返す。
「依頼の内容はそれで間違いありません。ただし、少々追加条件があります」
「追加条件ですか、どのようなものでしょう?」
「出来る限り穏便に……と言うと少々語弊がありますが、周囲に──これは崖、調査対象、周辺の生態系などを含みますが、被害をあたえないでいただきたい」
調査隊の隊長が提示する条件、それは彼らの理念に従ったものだった。
対象はそう強くない、本来ならばそう難しくもないはずの依頼は、彼らの理念により別の側面を持つのだった。
調査隊がそこについたのは昼下がりのことだった。
鬱蒼とした森を抜け、少し開けたところに出た。
向かいには切り立った崖があり、その下には動物たちが集まって憩う場所ができていたのである。
調査隊は、護衛の者達に促されて一息の休憩を入れるはずだった。
「動物たちがあんなに集まっているということは、湧き水でもあるのかもしれませんね……」
「ほう、それでは水の補充ができるかもしれませんな」
軽くなりつつあった水筒を気にしていた護衛の一人が、学者の言葉に嬉しそうな反応を示し、動物の憩う場所へと足をすすめる。
彼は決して武器を抜いたり、殺気をたてたりして動物たちを追い立てることはしなかった。
理由はこの調査隊の理念にある。
調査をする際、その場所を荒らしてしまうことは調査のまえに自分たちの手を入れてしまうことになる。
だからこそ、出来る限り現地に干渉するべきではない。
そう考える隊長の元に、出来る限りの非干渉をこの調査隊は掲げていたのだ。
だがそれは護衛の難易度を引き上げることを意味する。
当初、護衛を引き受ける者達は難色を示していた。
今の護衛はそんな条件を呑み、調査隊と良い関係を築いていたのである。
そんな中の一人が動物たちの中から戻ってきた。
彼の掲げた水筒から水がこぼれ落ち、それが満杯になっていることを示した。
学者の読み通り水場だったのだろう、一団に笑みが溢れる。
そして戻ってきた彼から驚きの報告がされたのである。
「この水場、少し変です。なんか人工物っぽいですよ」
彼の言葉に調査隊の学者たちが色めき立つ。
動物の断末魔が響いたのはその直後だった。
●
ハンターオフィスのテーブルに、二人の男性が腰掛けていた。
一人は老練な空気をまとう護衛のリーダー。
もう一人は鍛え上げられた、というほどではないがそれなりに引き締まった体つきの調査隊の隊長だった。
二人の前には女性職員が、依頼の内容を確認するべく対応にあたっている。
「では、依頼の内容を確認させていただきます。主な依頼は調査地である森林奥の水場を占拠したゴブリン、ホブゴブリン集団の殲滅ですね」
読み上げる女性職員の声に、二人は頷いて返す。
「依頼の内容はそれで間違いありません。ただし、少々追加条件があります」
「追加条件ですか、どのようなものでしょう?」
「出来る限り穏便に……と言うと少々語弊がありますが、周囲に──これは崖、調査対象、周辺の生態系などを含みますが、被害をあたえないでいただきたい」
調査隊の隊長が提示する条件、それは彼らの理念に従ったものだった。
対象はそう強くない、本来ならばそう難しくもないはずの依頼は、彼らの理念により別の側面を持つのだった。
リプレイ本文
●森西側─昼
森の木々に隠れ、開けた場所に作られたゴブリンたちの急ごしらえのキャンプを伺う二つの影があった。
雨月彩萌(ka3925)とネーロ(ka6435)は森の影に隠れることを意識しつつ、見える範囲からゴブリンたちの配置や動向を探っていた。
「見張り台のようなものは見当たりませんね、雨月さん」
生い茂った葉の隙間から覗いたネーロが囁くように口にした言葉に、雨月も同意を返す。
「そうですね。高所からの攻撃は想定しなくて良さそうです」
木々の向こう側に蠢くゴブリン達、見えるだけでも十数匹、そのうち見える範囲で弓持ちが数えて四。
視界が綺麗に取れているわけではないため、それ以上の数が居ることは確実だろう。
「環境保護がなければ銃を使っていたのですが……残念です」
今回の依頼のことを考え置いてきた銃を思いネーロが口にこぼす。
銃とくらべると、手に持っている聖儀杖カエルムとアセイミナイフが少々弱々しく感じた。
「環境への影響を考慮した戦闘ですか」
ネーロの言葉に雨月も魔導拳銃イグナイテッドに手を伸ばす。
使うのは極力控えようと考えた、依頼の内容を考えれば、それが正常だと。
日が暮れて夜になると見張りの数が目に見えて減った。
「……どれもこれも似たような顔ばかりですね」
個体を識別しようと試みるネーロだったが、彼女の記憶力を持ってしてもそれは少々難航した。
中心の焚き火を囲み周囲にぽつぽつと残る見張り、中には船を漕ぐものがおり、それだけ覚えるよう心がけ、それを雨月へと伝える
彼女も心得たのか、その個体の特徴を確認すると連絡のためにネーロを残し距離を取る。
「こちらA班の雨月。得られた情報をお伝えします」
船を漕ぐゴブリンの特徴、崖から降りる場合のルート、巡回に決まったルートがなさそうであることなど、雨月は要点を的確に伝えていくのだった。
●崖上─夜
崖の上へと上る途中、アシェ-ル(ka2983)は周囲の動物たちがやけに殺気立っていると感じていた。
おそらく、水場を奪われたことが原因なのだろう。
「周囲の環境に被害を与えるな……か」
調査隊が出した条件を思い出し、ヴィント・アッシェヴェルデン(ka6346)はやや呆れたように口にした。
そのつぶやきを聞くのは、側で双眼鏡を使ってゴブリンたちのキャンプを確認しているアシェ-ルのみだ。
「可哀想な気もしますが、調査も大事ですし……追い立てても人を襲って来るようだから、やっぱり、討伐するしかないですよね」
ヴィントのつぶやきに応えるように口にしながら、一度引っ込むとまた別の場所からの観察を続行する。
彼女の言うことは確かで、人を襲ってくるようであればそれは確かに討伐するべきなのだろう、だが……。
「調査と称して踏み込んでる時点でゴブリンとさして変わりないだろうが……。まぁ、別にいいか。連中と論じるつもりは毛頭ないしな」
夜陰に乗じて動き、見張りのおおよその位置を確認しつつ狙撃し易いポイントを頭に入れていく。
その隣ではアシェールが崖下を覗いては焚き火の影の具合などから個体の数を数えていた。
「それなりの数がいそうですね、ヴィントさん」
彼女が数えているだけですでにカウントは三十近い、夜闇に紛れた数え残しがあるだろう事も考えれば、一人が対応しなければならない数は片手では足りないだろう。
「水場の近くが特に数が多いみたいだな、銃だとやりづらいか」
狙撃を外すつもりはない、だが倒れた敵がどうなるかまで保証ができないため、やりづらいのも事実だった。
「水場付近で暴れられても困りますし、位置を見計らってスリープクラウドしますね」
魔導拳銃スピリトゥス片手に、アシェールはそうヴィントに応えるのだった。
●森東側─早朝
ぽつぽつと起き始めるゴブリン達を、鬱蒼と茂る森の木陰から見据える二つの視線があった。
「いやはや、ややこしい条件があるものですねえ……はて、さて」
軍用双眼鏡を覗き込み、ゴブリンたちの朝の動きを観察するマッシュ・アクラシス(ka0771)、そのレンズの向こうにはゴブリンがホブゴブリンに殴られる光景が写っていた。
どうやら寝起きの悪い個体であるらしい、特徴的な飾りが付いていたのを見て、マッシュはその個体をそっと記憶に残す。
そのマッシュから少し離れたところで、暫しの休憩をとっていたカイン・マッコール(ka5336)はマッシュの口にした言葉を聞きとったのか冷徹に言葉を口にする。
「地域環境や生態系に配慮して殲滅しろか、奴らはそんなに甘い相手じゃない、逃げられる可能性だってあるのに、そこからこちらの事が広まってしまえば、対策を練ってくることだって十分にありえる、奴らは知恵も膂力も技術も持った危険な存在という認識が無さ過ぎる。どちらにしろ奴らは殺す」
休息はもう十分だとばかりに視線をゴブリンたちの居る方へと向ける、そこには黒い情念とも言えるものが纏わりついていた。
そんなカインの様子にマッシュは小さく嘆息しつつ視線を戻した。
「柵の位置も乱雑ですし、高さもそれほどではないですね。使い方次第ではこちらに有利になるように使うこともできそうです」
マッシュの所見にカインも同意するかのように頷いて返す、その視線は大柄な個体へと注がれていた。
周りよりも大きな棍棒や剣を持つ大柄な個体、ホブゴブリン。
「それなりに強いのが何匹か居るようです、どんなに弱いと思える相手でも、正面からではリスクが大きいと考えておく必要があります」
互いに頷き合うと、ゴブリンの活動が活発化する前に二人は離れて仲間との最後の連絡を取り合う。
襲撃予定は、夜明けの一時間前と決まった。
●強襲
強襲前の最後の連絡が終わり、あとは狼煙を上げるのみとなった。
静寂に包まれた森のなか、空気にじんわりと殺気が混ざってゆく。
それは突如として現れた。
夜陰の中、青白い霧が刹那の間に広がりゴブリン達を包み込むと、彼らは次々と力なく倒れていく。
少し離れた場所に、魔導拳銃スピリトゥスを構え、桃色の幾何学模様の魔法陣を纏ったアシェールの姿があった。
この後カインが注意を引き付ける手はずになっている、そこへ向かうゴブリンを減らすため、次の魔術を準備すると、銃口に桃色の魔法陣が浮かび上がった。
次々と舞う霧に、動くゴブリンが見当たらなくなったことで新たな対象を探すため彼女は足を前に向け、そして影から飛び出して来たゴブリンと鉢合わせした。
相手にとっても想定外の遭遇だったのだろう、至近距離で躊躇する一瞬、それが決定的な差となった。
「おやすみなさいです」
自分を巻き込み躊躇なく発動されたアシェールのスリープクラウドが二人を包み込む。
彼女自身の高い抵抗力故に眠りに落ちたのはゴブリンのみ、ぐらりと揺れるその体にそっと銃を向けた。
「この距離なら外さない……はずです!」
ためらいがちに引き絞られた引き金から、銃声がこだました。
カインはゴブリンたちの位置を抜け目なく観察し、一番きちんと見張りをしていると判断した個体へと狙いを定めて短弓テムジンを引き絞る。
その膂力は間違いなく覚醒者のものだった。
離れた場所ではゴブリンが霧に包まれて倒れていくのを視界に収め、順調なようだと確認を怠らない。
放たれた矢は夜陰を切り裂き、ゴブリンの粗悪な鎧をやすやすと貫いた。
吹き出す血が夜闇に吸い込まれていく、それに気づいた別のゴブリンが声を上げる前に今度はカイン自身が引き絞られた矢のように飛び出した。
抜き放たれた両手の太刀がひらめき、喉をやすやすと食い破る、両の手に力を入れればごきりと首が断ち切られて宙を舞った。
「首なら刃も通りやすいし、鎧や骨に邪魔されにくいから楽です」
血しぶきとともに、狼煙が上がった。
残った個体が叫び声をあげ、そしてそれが他に伝播するのと頭がはじけ飛ぶのはほぼ同時。
カインの陽動によって読みやすくなった動きと、それまでつけていた狙い、お膳立てのされた状態で血煙のような赤いオーラを纏ったヴィントの狙撃はゴブリンの頭を的確に撃ちぬいた。
一度撃つとすぐに身を隠し、また別のポイントから弓持ちを撃つ。
二度、三度と繰り返すごとに、狙撃を警戒され始めたのか頭部が狙いづらくなったと感じたヴィントは狙いを足に切り替えた。
「ホブゴブリンか……あれに暴れ回られると厄介だな」
目につく範囲のホブゴブリンの足をヴィントは的確に射抜く、それは確実にゴブリンたちの行動を制圧していった。
強襲を行う直前、ふわりとした光が雨月とマッシュを包んだ。
ネーロのプロテクションは確かに効力を発揮して二人を守る力場を発生させている。
「ありがとうございます」
「いやはや、これは助かりますね」
二人の言葉に小さく微笑んで返すと、改めて杖とアセイミナイフを構え直す。
それに応えるように、雨月の瞳が血のように赤く染まった、ぐにゃりと歪む視界は程なく調節され普段よりも明確な視野を広げた。
戦う準備は整った。
直後、木陰から最初に飛び出したマッシュは側に居たゴブリンの死角を巧みに捉え、攻撃的な姿勢制御からサーベルナイトメアを一閃させる。
突きを得意とするサーベルであったが、それでもその一撃はゴブリンの首を刎ねるに十分な威力を持っており、弧を描いてゴブリンの頭が地に落ちる。
続けざまに放たれた手裏剣が側に居たゴブリン達を捉え、突き刺さった痛みが奴らの気を逸らした。
マッシュたちのイニシアティブは揺るがない、聖機剣タンホイザーを翻した雨月が夜闇を駆ける。
夜陰を切り裂く光の剣が二度三度と翻るたび赤い飛沫が舞う。
数度すら切り結ぶことすらもかなわずに、ゴブリン二体が切り伏せられて崩れ落ちた。
「射撃の方が得意ですが、近接戦ができないわけではありません。役目を果たすため、全力を尽くします」
直ぐ側に残ったゴブリンが鈍らな剣を振り上げる、それを雨月は剣で受け止めた、競り合う雨月とゴブリン、その背後にはネーロの姿が迫っていた。
「基本的に弱点は変わりませんよね? ならば、死ね」
雨月と鍔迫り合いを繰り広げていたゴブリンは背後からネーロの聖儀杖カエルムによって首を突き刺された。
近接の武器として使うことを想定されていないであろう杖はそう深くは突き刺さらなかったものの、その一撃は主要な動脈を貫いたのだろう、引き抜かれると同時に血が飛沫をあげる。
振り向こうとしたゴブリンはぐらりとよろめいた所を止めとばかりに蹴り倒され、そして二度と立ち上がることはなかった。
空気に混じった血の匂い、ゴブリンの響いた断末魔が他の個体を目覚めさせる。
新たに飛びかかってきたゴブリンに対し、ネーロは避けるのではなくプロテクションを使うことで応えた。
その思いがけない行動に咄嗟に雨月が防護障壁を彼女の前に展開する。
幸いにして咄嗟の、そして賢明な判断はネーロへの被害を最小に止め、彼女の前にゴブリンを押し止めた、その頭にネーロはすっと手を伸ばす。
「その命、私の神の礎として、捧げなさい!」
衝撃音とともに、ゴブリンが吹き飛ばされて地面を転げる。
「……ネーロさん、少々無茶かと」
彼女の行動に雨月が言葉をかけるが、ゴブリン達はそんな悠長な会話をさせてはくれない、振り下ろされる棍棒を受け流し次へと備えるしか無かった。
治癒があるとはいえ防御を顧みなかったネーロに、マッシュはネーロの方へ向かおうとするゴブリンの腕や足をめがけ優先して手裏剣を散らす。
被害は少しでも減らし、そして勝利することこそ望ましい、なにより彼女の離脱は被害の増減に影響するだろう。
迫るゴブリンを牽制するかのように、マッシュはサーベルを振りぬいた。
空が白み始めた頃、戦闘も残すは二体のホブゴブリンを残すのみになり、周囲には無数の屍が散らばっている。
それは凄惨な光景だった、そしてまもなく終わるだろうことは明白だった。
「此処が拠点になれば、また村が狙わる、そんなことをさせると思うか? お前たちを一匹たりとも逃がすつもりは無い」
足を幾度もカインに切りつけられたホブゴブリン達は機動力を奪われ、マッシュの手裏剣によって腕からは幾筋もに渡り血が滴り落ちている。
ネーロのホーリーライトが大きく一体を揺さぶった、その直後の硬直をヴィントは見逃さなかった。
頭が弾けたホブゴブリンの巨体が崩れ、アシェールが前もって生み出していたアースウォールによって支えられた。
「ふぅ、セーフなのです」
遺跡目掛けて倒れた巨体が遺跡を壊すということは阻止できたようだ。
残る一体のホブゴブリンは、膝をついた所を雨月の光の刃によって仕留められて、ついに大地に転がった。
動くものはもはや無く、あたりにはむせ返るような血の匂いと、無数の死体だけが残されていた。
●後始末
すべてが終わったあと、ネーロは怪我をした仲間の治癒を始めていた。
ゴブリンの数が多かったために皆怪我は相応にあり、治療にもだいぶ時間がかかった。
死体を片付け始めたのは治療が終わった後のことである。
「さすがに死体をそのままにもできませんしね」
「そうですね、柵も動物たちの邪魔になるでしょうし、一緒に処分してしまいましょう」
アシェールの言葉に賛同するネーロ、ヴィントも思うところがあるのかそれに協力し、マッシュもまたそれが有益だろうと判断したのか反対することはなかった。
「正常に戻すためであれば、お手伝いしましょう」
雨月もまた賛同したようで、ゴブリン達の亡骸をまとめてゆく。
「僕は周囲に残党が居ないか確認してきます」
カインはいまだ周囲を警戒しているようで、ゴブリンの残党が居ないか目を光らせているようだった。
やがて積み上げられたゴブリンたちの死体の山と柵は、まとめて焼き払われた。
長い時間を通し燃え上がった送り火は、夜が更ける頃には白い灰の山へと変わっていった。
残ったのは崖の側に燃え上がった炎の跡と、静寂のみだった。
火が完全に消えたのを確認した翌朝、ハンターたちは支度を整えてその場を跡にすることにした。
遺構にはおびただしい血の跡が残されいて、いまだ匂いは消えていない。
そのためか動物たちも近寄りがたいらしく、周囲に殺気立った動物の気配はあれど水場に近寄ってくるものはいなかった。
水場は目的通り守られており、綺麗な水が湧き出していたが、動物たちがそれで喉を潤せるようになるのはだいぶ先のことになるかもしれない。
帰路を目指して森の中へと再び分け入ろうとしたその時、鳥のさえずる音が聞こえた。
振り返ってみれば、水場に数羽の小鳥たちが降り立っている姿が見て取れる。
その光景は、この場所がいずれまた動物たちの憩いの場に成るであろうことを予感させるものだった。
森の木々に隠れ、開けた場所に作られたゴブリンたちの急ごしらえのキャンプを伺う二つの影があった。
雨月彩萌(ka3925)とネーロ(ka6435)は森の影に隠れることを意識しつつ、見える範囲からゴブリンたちの配置や動向を探っていた。
「見張り台のようなものは見当たりませんね、雨月さん」
生い茂った葉の隙間から覗いたネーロが囁くように口にした言葉に、雨月も同意を返す。
「そうですね。高所からの攻撃は想定しなくて良さそうです」
木々の向こう側に蠢くゴブリン達、見えるだけでも十数匹、そのうち見える範囲で弓持ちが数えて四。
視界が綺麗に取れているわけではないため、それ以上の数が居ることは確実だろう。
「環境保護がなければ銃を使っていたのですが……残念です」
今回の依頼のことを考え置いてきた銃を思いネーロが口にこぼす。
銃とくらべると、手に持っている聖儀杖カエルムとアセイミナイフが少々弱々しく感じた。
「環境への影響を考慮した戦闘ですか」
ネーロの言葉に雨月も魔導拳銃イグナイテッドに手を伸ばす。
使うのは極力控えようと考えた、依頼の内容を考えれば、それが正常だと。
日が暮れて夜になると見張りの数が目に見えて減った。
「……どれもこれも似たような顔ばかりですね」
個体を識別しようと試みるネーロだったが、彼女の記憶力を持ってしてもそれは少々難航した。
中心の焚き火を囲み周囲にぽつぽつと残る見張り、中には船を漕ぐものがおり、それだけ覚えるよう心がけ、それを雨月へと伝える
彼女も心得たのか、その個体の特徴を確認すると連絡のためにネーロを残し距離を取る。
「こちらA班の雨月。得られた情報をお伝えします」
船を漕ぐゴブリンの特徴、崖から降りる場合のルート、巡回に決まったルートがなさそうであることなど、雨月は要点を的確に伝えていくのだった。
●崖上─夜
崖の上へと上る途中、アシェ-ル(ka2983)は周囲の動物たちがやけに殺気立っていると感じていた。
おそらく、水場を奪われたことが原因なのだろう。
「周囲の環境に被害を与えるな……か」
調査隊が出した条件を思い出し、ヴィント・アッシェヴェルデン(ka6346)はやや呆れたように口にした。
そのつぶやきを聞くのは、側で双眼鏡を使ってゴブリンたちのキャンプを確認しているアシェ-ルのみだ。
「可哀想な気もしますが、調査も大事ですし……追い立てても人を襲って来るようだから、やっぱり、討伐するしかないですよね」
ヴィントのつぶやきに応えるように口にしながら、一度引っ込むとまた別の場所からの観察を続行する。
彼女の言うことは確かで、人を襲ってくるようであればそれは確かに討伐するべきなのだろう、だが……。
「調査と称して踏み込んでる時点でゴブリンとさして変わりないだろうが……。まぁ、別にいいか。連中と論じるつもりは毛頭ないしな」
夜陰に乗じて動き、見張りのおおよその位置を確認しつつ狙撃し易いポイントを頭に入れていく。
その隣ではアシェールが崖下を覗いては焚き火の影の具合などから個体の数を数えていた。
「それなりの数がいそうですね、ヴィントさん」
彼女が数えているだけですでにカウントは三十近い、夜闇に紛れた数え残しがあるだろう事も考えれば、一人が対応しなければならない数は片手では足りないだろう。
「水場の近くが特に数が多いみたいだな、銃だとやりづらいか」
狙撃を外すつもりはない、だが倒れた敵がどうなるかまで保証ができないため、やりづらいのも事実だった。
「水場付近で暴れられても困りますし、位置を見計らってスリープクラウドしますね」
魔導拳銃スピリトゥス片手に、アシェールはそうヴィントに応えるのだった。
●森東側─早朝
ぽつぽつと起き始めるゴブリン達を、鬱蒼と茂る森の木陰から見据える二つの視線があった。
「いやはや、ややこしい条件があるものですねえ……はて、さて」
軍用双眼鏡を覗き込み、ゴブリンたちの朝の動きを観察するマッシュ・アクラシス(ka0771)、そのレンズの向こうにはゴブリンがホブゴブリンに殴られる光景が写っていた。
どうやら寝起きの悪い個体であるらしい、特徴的な飾りが付いていたのを見て、マッシュはその個体をそっと記憶に残す。
そのマッシュから少し離れたところで、暫しの休憩をとっていたカイン・マッコール(ka5336)はマッシュの口にした言葉を聞きとったのか冷徹に言葉を口にする。
「地域環境や生態系に配慮して殲滅しろか、奴らはそんなに甘い相手じゃない、逃げられる可能性だってあるのに、そこからこちらの事が広まってしまえば、対策を練ってくることだって十分にありえる、奴らは知恵も膂力も技術も持った危険な存在という認識が無さ過ぎる。どちらにしろ奴らは殺す」
休息はもう十分だとばかりに視線をゴブリンたちの居る方へと向ける、そこには黒い情念とも言えるものが纏わりついていた。
そんなカインの様子にマッシュは小さく嘆息しつつ視線を戻した。
「柵の位置も乱雑ですし、高さもそれほどではないですね。使い方次第ではこちらに有利になるように使うこともできそうです」
マッシュの所見にカインも同意するかのように頷いて返す、その視線は大柄な個体へと注がれていた。
周りよりも大きな棍棒や剣を持つ大柄な個体、ホブゴブリン。
「それなりに強いのが何匹か居るようです、どんなに弱いと思える相手でも、正面からではリスクが大きいと考えておく必要があります」
互いに頷き合うと、ゴブリンの活動が活発化する前に二人は離れて仲間との最後の連絡を取り合う。
襲撃予定は、夜明けの一時間前と決まった。
●強襲
強襲前の最後の連絡が終わり、あとは狼煙を上げるのみとなった。
静寂に包まれた森のなか、空気にじんわりと殺気が混ざってゆく。
それは突如として現れた。
夜陰の中、青白い霧が刹那の間に広がりゴブリン達を包み込むと、彼らは次々と力なく倒れていく。
少し離れた場所に、魔導拳銃スピリトゥスを構え、桃色の幾何学模様の魔法陣を纏ったアシェールの姿があった。
この後カインが注意を引き付ける手はずになっている、そこへ向かうゴブリンを減らすため、次の魔術を準備すると、銃口に桃色の魔法陣が浮かび上がった。
次々と舞う霧に、動くゴブリンが見当たらなくなったことで新たな対象を探すため彼女は足を前に向け、そして影から飛び出して来たゴブリンと鉢合わせした。
相手にとっても想定外の遭遇だったのだろう、至近距離で躊躇する一瞬、それが決定的な差となった。
「おやすみなさいです」
自分を巻き込み躊躇なく発動されたアシェールのスリープクラウドが二人を包み込む。
彼女自身の高い抵抗力故に眠りに落ちたのはゴブリンのみ、ぐらりと揺れるその体にそっと銃を向けた。
「この距離なら外さない……はずです!」
ためらいがちに引き絞られた引き金から、銃声がこだました。
カインはゴブリンたちの位置を抜け目なく観察し、一番きちんと見張りをしていると判断した個体へと狙いを定めて短弓テムジンを引き絞る。
その膂力は間違いなく覚醒者のものだった。
離れた場所ではゴブリンが霧に包まれて倒れていくのを視界に収め、順調なようだと確認を怠らない。
放たれた矢は夜陰を切り裂き、ゴブリンの粗悪な鎧をやすやすと貫いた。
吹き出す血が夜闇に吸い込まれていく、それに気づいた別のゴブリンが声を上げる前に今度はカイン自身が引き絞られた矢のように飛び出した。
抜き放たれた両手の太刀がひらめき、喉をやすやすと食い破る、両の手に力を入れればごきりと首が断ち切られて宙を舞った。
「首なら刃も通りやすいし、鎧や骨に邪魔されにくいから楽です」
血しぶきとともに、狼煙が上がった。
残った個体が叫び声をあげ、そしてそれが他に伝播するのと頭がはじけ飛ぶのはほぼ同時。
カインの陽動によって読みやすくなった動きと、それまでつけていた狙い、お膳立てのされた状態で血煙のような赤いオーラを纏ったヴィントの狙撃はゴブリンの頭を的確に撃ちぬいた。
一度撃つとすぐに身を隠し、また別のポイントから弓持ちを撃つ。
二度、三度と繰り返すごとに、狙撃を警戒され始めたのか頭部が狙いづらくなったと感じたヴィントは狙いを足に切り替えた。
「ホブゴブリンか……あれに暴れ回られると厄介だな」
目につく範囲のホブゴブリンの足をヴィントは的確に射抜く、それは確実にゴブリンたちの行動を制圧していった。
強襲を行う直前、ふわりとした光が雨月とマッシュを包んだ。
ネーロのプロテクションは確かに効力を発揮して二人を守る力場を発生させている。
「ありがとうございます」
「いやはや、これは助かりますね」
二人の言葉に小さく微笑んで返すと、改めて杖とアセイミナイフを構え直す。
それに応えるように、雨月の瞳が血のように赤く染まった、ぐにゃりと歪む視界は程なく調節され普段よりも明確な視野を広げた。
戦う準備は整った。
直後、木陰から最初に飛び出したマッシュは側に居たゴブリンの死角を巧みに捉え、攻撃的な姿勢制御からサーベルナイトメアを一閃させる。
突きを得意とするサーベルであったが、それでもその一撃はゴブリンの首を刎ねるに十分な威力を持っており、弧を描いてゴブリンの頭が地に落ちる。
続けざまに放たれた手裏剣が側に居たゴブリン達を捉え、突き刺さった痛みが奴らの気を逸らした。
マッシュたちのイニシアティブは揺るがない、聖機剣タンホイザーを翻した雨月が夜闇を駆ける。
夜陰を切り裂く光の剣が二度三度と翻るたび赤い飛沫が舞う。
数度すら切り結ぶことすらもかなわずに、ゴブリン二体が切り伏せられて崩れ落ちた。
「射撃の方が得意ですが、近接戦ができないわけではありません。役目を果たすため、全力を尽くします」
直ぐ側に残ったゴブリンが鈍らな剣を振り上げる、それを雨月は剣で受け止めた、競り合う雨月とゴブリン、その背後にはネーロの姿が迫っていた。
「基本的に弱点は変わりませんよね? ならば、死ね」
雨月と鍔迫り合いを繰り広げていたゴブリンは背後からネーロの聖儀杖カエルムによって首を突き刺された。
近接の武器として使うことを想定されていないであろう杖はそう深くは突き刺さらなかったものの、その一撃は主要な動脈を貫いたのだろう、引き抜かれると同時に血が飛沫をあげる。
振り向こうとしたゴブリンはぐらりとよろめいた所を止めとばかりに蹴り倒され、そして二度と立ち上がることはなかった。
空気に混じった血の匂い、ゴブリンの響いた断末魔が他の個体を目覚めさせる。
新たに飛びかかってきたゴブリンに対し、ネーロは避けるのではなくプロテクションを使うことで応えた。
その思いがけない行動に咄嗟に雨月が防護障壁を彼女の前に展開する。
幸いにして咄嗟の、そして賢明な判断はネーロへの被害を最小に止め、彼女の前にゴブリンを押し止めた、その頭にネーロはすっと手を伸ばす。
「その命、私の神の礎として、捧げなさい!」
衝撃音とともに、ゴブリンが吹き飛ばされて地面を転げる。
「……ネーロさん、少々無茶かと」
彼女の行動に雨月が言葉をかけるが、ゴブリン達はそんな悠長な会話をさせてはくれない、振り下ろされる棍棒を受け流し次へと備えるしか無かった。
治癒があるとはいえ防御を顧みなかったネーロに、マッシュはネーロの方へ向かおうとするゴブリンの腕や足をめがけ優先して手裏剣を散らす。
被害は少しでも減らし、そして勝利することこそ望ましい、なにより彼女の離脱は被害の増減に影響するだろう。
迫るゴブリンを牽制するかのように、マッシュはサーベルを振りぬいた。
空が白み始めた頃、戦闘も残すは二体のホブゴブリンを残すのみになり、周囲には無数の屍が散らばっている。
それは凄惨な光景だった、そしてまもなく終わるだろうことは明白だった。
「此処が拠点になれば、また村が狙わる、そんなことをさせると思うか? お前たちを一匹たりとも逃がすつもりは無い」
足を幾度もカインに切りつけられたホブゴブリン達は機動力を奪われ、マッシュの手裏剣によって腕からは幾筋もに渡り血が滴り落ちている。
ネーロのホーリーライトが大きく一体を揺さぶった、その直後の硬直をヴィントは見逃さなかった。
頭が弾けたホブゴブリンの巨体が崩れ、アシェールが前もって生み出していたアースウォールによって支えられた。
「ふぅ、セーフなのです」
遺跡目掛けて倒れた巨体が遺跡を壊すということは阻止できたようだ。
残る一体のホブゴブリンは、膝をついた所を雨月の光の刃によって仕留められて、ついに大地に転がった。
動くものはもはや無く、あたりにはむせ返るような血の匂いと、無数の死体だけが残されていた。
●後始末
すべてが終わったあと、ネーロは怪我をした仲間の治癒を始めていた。
ゴブリンの数が多かったために皆怪我は相応にあり、治療にもだいぶ時間がかかった。
死体を片付け始めたのは治療が終わった後のことである。
「さすがに死体をそのままにもできませんしね」
「そうですね、柵も動物たちの邪魔になるでしょうし、一緒に処分してしまいましょう」
アシェールの言葉に賛同するネーロ、ヴィントも思うところがあるのかそれに協力し、マッシュもまたそれが有益だろうと判断したのか反対することはなかった。
「正常に戻すためであれば、お手伝いしましょう」
雨月もまた賛同したようで、ゴブリン達の亡骸をまとめてゆく。
「僕は周囲に残党が居ないか確認してきます」
カインはいまだ周囲を警戒しているようで、ゴブリンの残党が居ないか目を光らせているようだった。
やがて積み上げられたゴブリンたちの死体の山と柵は、まとめて焼き払われた。
長い時間を通し燃え上がった送り火は、夜が更ける頃には白い灰の山へと変わっていった。
残ったのは崖の側に燃え上がった炎の跡と、静寂のみだった。
火が完全に消えたのを確認した翌朝、ハンターたちは支度を整えてその場を跡にすることにした。
遺構にはおびただしい血の跡が残されいて、いまだ匂いは消えていない。
そのためか動物たちも近寄りがたいらしく、周囲に殺気立った動物の気配はあれど水場に近寄ってくるものはいなかった。
水場は目的通り守られており、綺麗な水が湧き出していたが、動物たちがそれで喉を潤せるようになるのはだいぶ先のことになるかもしれない。
帰路を目指して森の中へと再び分け入ろうとしたその時、鳥のさえずる音が聞こえた。
振り返ってみれば、水場に数羽の小鳥たちが降り立っている姿が見て取れる。
その光景は、この場所がいずれまた動物たちの憩いの場に成るであろうことを予感させるものだった。
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相談卓 カイン・A・A・カーナボン(ka5336) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/08/26 01:26:52 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/08/22 15:48:14 |