ゲスト
(ka0000)
宿題てつだって
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/09/02 22:00
- 完成日
- 2016/09/08 00:31
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
残暑厳しき今日この頃。
冷房の利いたハンターオフィスでうだうだ時を過ごしていたハンターたちの前に、生意気そうな男の子が現れ、こう言ってきた。
「ねえ、宿題手伝ってよ」
いきなりなんだと話を聞いてみれば、もう夏休みが終わろうかとしているのに、宿題が仕上がってないのだという。
「明後日登校日なんだよね。1人じゃ出来そうもないんだ。だから手伝ってよ」
……そんなことは家族に頼んだらどうだろう、とハンターたちは言った。
男の子は肩をすくめ、へっと笑いを浮かべる。
「冗談。親になんか頼んだら、絶対説教されるし。兄貴や姉貴に頼んだなら恩着せてくるに決まってるし。面倒くさいじゃんそういうの。金さえ払えばなんでもしてくれるハンターに頼んだ方が、後腐れなくてよっぽどいいよ」
……ハンターは何でも屋ではないのだが。
……まあ確かに何でも屋みたいになっていることは否定しない。否定しないが本業は歪虚退治であって、そのことに特化したスペシャリストなのであって……。
などとハンターたちが考えている間に男の子は、宿題が入っている学習鞄を置き去りにして、さっさとオフィスから出ていく。
「じゃあ頼んだよ。明日またここに来るから、それまでに仕上げておいてよ。俺行くところあるから」
オフィスの外では、彼の友達と思しき子供たちが手を振っている。
「おーいマルコ! 何してるんだよ。早くプール行こう!」
「悪い悪い。今行くー!」
……おい待てマルコとやら。お前は今「手伝ってくれ」と言ったんじゃなかったのか。なんで友達と遊びに行ってるんだ。
そんな疑問がハンターたちの脳裏に浮かぶ。
が、相手は子供であるし、依頼料は少ないがきちんと置いていっているし……と考え直し学習鞄を開ける。
中から出てきたのは、算数ドリルと綴り練習ノート、絵日記帳、画用紙、原稿用紙。
すべて真っ白。
あの野郎手伝えどころの話じゃない。丸投げではないか……。
リプレイ本文
突然ですが、夏休みの風物詩のお一つに宿題がありまーす。夏休みを全力で楽しもうとする方々の最大の敵として有名ですよねー。宿題の魔の手から逃げる事も出来ますが、逃げ切ったと思っているところに別のお姿で襲ってくるところもこれまた恐ろしやー。
●
ヨルムガンド・D・アルバ(ka5168)は舌打ちし、飴を噛み砕く。
「あのガキ逃げやがったな……」
天央 観智(ka0896)は学習鞄から『夏休みの課題』と書いてあるプリントを取り出し、内容を読み上げた。
「『その1、算数ドリル。その2、綴り練習ノート。その3、読書感想文――原稿用紙3枚以上。本は自由に選んでください。その4、絵日記――ちゃんと毎日書きましょう。その4――図画工作。絵、工作、どちらでもかまいません。必ず一点製作し提出してください。勉強は、毎日こつこつ少しずつ。夏休みも規則正しい生活をしましょう。勉強は、なるべく朝の涼しいうちに終わらせましょう。』……だそうですよ」
島野 夏帆(ka2414)は感慨に耐えない調子で言った。
「いやー、懐かしいわね! 夏休み最終日の宿題!! まあ、夏帆ちゃんは夏休み始まる前に全部終わらせちゃう派だったんだけど、親戚の子がそんな感じだったのよねー」
ケイ(ka4032)はさらっと髪を梳きながら、豪語する……
「ほほう? 夏休みの宿題? その程度私にかかればちょちょいのちょいってものよ。……ところで、宿題って何かしら?」
……が、依頼に対して基本的な知識が欠けているようだ。夏帆は目をまん丸にした。
「ケイさん宿題知らないの? 先生から出されたりしたことないの?」
「ええ。そもそも学校というものに通ったこともないわ」
「じゃあ、中間テストとか期末テストとかも受けたことないの?」
「皆無ね」
「そっかー。いいなー」
咲月 春夜(ka6377)は算数ドリルをぺらぺらめくった。ざっと見たところ、どうやら問題のレベルは、リアルブルーの小学校中学年程度といったところらしい。
「友人に見せてくれと拝み倒したり怒られるのも醍醐味だと思うが」
何にしても「金さえ払えば良い」といった考えを、子供が持つのは問題だ。
「さて、どうしたものか……」
考えていると、鍛島 霧絵(ka3074)が側に寄ってきた。
算数ドリルを見るためなのだと分かっていても、春夜は、ちょっと緊張してしまう。彼のパーソナルスペースは、椅子一個分。異性同性にかかわらず、あまり近寄られるのはちょっと苦手。
「宿題……こちらにもあるのね。こういう事は自分でやるから価値があるのだけど」
「そ――そうだな」
照れが入り、返事がぎこちない。とはいえ霧絵の側は彼の挙動を、ほとんど問題視していなかった。
「……いいでしょ。仕事なら仕方ないわ。この問題を解けば良いのね。……でもこのままだと早く終わってしまうから、ちょっと遊んでみましょうか」
「そう――だな」
マルカ・アニチキン(ka2542)は、真っ白な日記帳片手に、思案顔。
(あからさまに『他人がやりました』って分かってしまっては、いけませんよね……)
彼女としては、ちゃんとした結果を出したいと思うのである。内容はどうでも、正式な依頼なのだから。
とはいえマルコの考えをよしとしているわけでは全然ない。要はルールに則って、反省を促したいのだ。
(宿題を終わらせるのにどのようにするか具体的に言われてないので……周囲にマルコくんが宿題をやったと思わせれば内容は何をしてもいいってことですよね……?)
そこに小宮・千秋(ka6272)が「わたくしも絵日記をやりたいですっ」と申し出てくる。
「いやー、このような攻略法を思いつくとはマルコさんとやらできますねー。ここはお一つ、しっかりばっちり仕上げまして、先生方を驚かせちゃいましょー」
ところでケイは夏帆に説明され、ようやく『宿題』の意味が分かった所。
「へえ、そう。つまり宿題というのは、期間内にこの書き物を終わらせればいいと、そういうことなのね。面白そうじゃない」
ヨルムンガンドが巻かれていた画用紙を開き、逆に巻き、癖を取っている。どうやら図画工作を受け持つようだ。
観智は原稿用紙の束を手にする。
(ホントは、リアルブルーの科学系の学術書か何か……在れば、良かったのですけれど。流石に、記憶を頼りに……本を読まずに読書感想文、と言う訳にはいきませんからね)
感想を書くには本がいる。本がたくさんある場所と言えば――。
「皆さん、今から図書館に行きませんか? あそこなら資料等、集めやすそうですし……」
●
夏休み終盤、図書館には少なからぬ子供らの姿が見受けられた。皆それぞれの課題に四苦八苦し、鉛筆を噛んだり頭を掻いたりしている。
ハンター達は彼らの邪魔にならないよう、離れたところに席を確保。
観智は魔導専門書を棚から何冊も抜き出していく。どれも釘が打てそうなほど分厚い。
「ホントは、リアルブルーの科学系の学術書か何か……在れば、良かったのですけれど。流石に、記憶を頼りに……本を読まずに読書感想文、という訳にはいきませんからね」
それらを自分の両脇に積み、執筆を始める。
「丁度良い所に、魔導書は在りましたから……これを読んで、論文調に……一応、読書感想文……とも辛うじて言えるモノを仕上げましょうか? 幸い……本なら何でも良いみたいですし」
夏帆とケイは机を挟み、正面に向かい合う。絵日記係のマルカ、千秋と同じく、作業を2人で分担する模様だ。
「ふっふー! 夏帆ちゃんのじつりき、とくと味わうがよい!」
「これでも子供のころ、お前は何もできない屑だが字だけは達者だなとよく褒められたものよ……エルフ文字と忍者の暗号よ? 最高にクールよね! 後世に残る作品になること確実だわ」
ところでその絵日記、さすがに一から十まで創作するのは骨。
というわけでマルカは元ネタとなる『本当にあったかも? 怖い話』を、じっくり読み込む所から始める。
その間に千秋は、自身の体験をマルコの体験に変換し、書き込み。
「5:00。起床。寝過ごしてしまったので、急いで着替えをし台所に行きました。朝ごはんを作るためです。今朝のメニューは焼きたてのパンと絞りたてのミルク、そして新鮮な卵を使った……」
霧絵と春夜は単純な計算問題を後回し、何かと手を加えられそうな文章問題から先に入る。
「えーと、『タロウくんが野原を歩いていると、鶴と亀に出会いました。鶴と亀の頭は合計で10です。鶴と亀の足は合計で28です。鶴と亀はそれぞれ何匹いるのでしょうか、答えなさい』……ここにも鶴亀算ってあるのね」
「基本はどこの世界も変わらないようだな……とはいえこの問題、簡単すぎるな」
「ええ。とりあえず――足の数と頭の数を増やしましょうか」
「この『野原を歩いて』という安直な設定もどうかと思うから、そこも変えよう」
ヨルムンガンドは白い画用紙を前に、腕組み。
「さて、テーマは……自分の「好きなもの」ってことにするか」
彼の好きなものは決まっている。甘いもの、可愛いもの。例えば飴、練乳、苺、リボン、兎……。
「よし、背景はお花畑にしよっと。色はピンクに黄色、水色……明るい色の方がいいよね」
●
時計を見れば午後3時。
課題を半分ほど消化した春夜は、皆に途中休憩を持ちかけた。
「一回息抜きはどうだ。ちょっとした甘いものなんかも、持ってきてるぞ。頭を使うと糖分が欲しくなるからな」
他のハンターたちも皆、きりのいいところまで出来上がっていたので、その提案に乗る。
いったん図書館から出て公園に赴き、炭酸飲料、ポテトチップ、緑茶、紅茶に桜餅とクッキーをお供におやつの時間。外で主人の帰りを待っていたペットたちも近くに座ったり、寝そべったり。
春夜は鼻面を寄せてくる雨月をモフり、袖もとにからんでくるディアを撫でながら、霧絵と算数問題の微調整。
綴りノートを夏帆たちから見せられたヨルムンガンドは、眉間に縦皺を刻む。
「おい、このページ書いたのどっちだ?」
「ああ、そこは私! 達筆でしょー! 心を無にしての楷書体だよ!」
「……こっちのくるくるしたの、何だ」
「それは私が書いたエルフ文字。完璧に美しく天使のような素晴らしい言葉よ」
千秋はヨルムンガンドの絵を見て大興奮。
「クール! ヨルムンガンド様、わたくしも端っこに目玉を描いていいですかー?」
絵日記用の色鉛筆を削るマルカは、観智が書類入れから引っ張り出してきた原稿用紙の量に驚く。
「何枚あるんですか、それ」
「ええとー……現在67枚ですか……ちょっと……気合を入れて、書き過ぎてしまいましたかね? まぁ……3枚以上という指定で、上限には触れられていませんから……大丈夫、でしょう。これを更に要約して……3枚程度に抑える、事も出来なくはない……でしょうけれど、面倒ですし」
●
休み明けの職員室。
生徒達が提出してきた夏休みの宿題を点検していた先生は、10人目の綴り字ノートではたと手を止めた。
「なんだこれは……」
ノートにびっしり書き込まれているのは、読ませることを拒否しているとしか思えない謎の文字。そして、踊るようなクルクル模様――両者は1ページ毎、交互に書き綴られている。
先生はエルフ語を専攻していないので、前者はともかく後者が一応ちゃんとした文になっているということが、さっぱり分からなかった。どっちも、ただふざけた遊び書きに見えただけである。
そんなわけでノートが誰のものなのか。きっちり確認。
「マルコか……再提出だな」
呟いてそのノートだけ、机の隅に避けておく。
その後どうも胸騒ぎがするので、他の提出物からもマルコ名義の物を捜し出す。
とりあえず算数ドリルを当たってみた。
……妙に分厚い。何故かと思って開いてみれば、大量の別紙が挟み込まれている。書き込まれているのは計算問題の解答――だけではない。自作と思える改題とその回答まで書き込まれている。
最後に『簡単すぎたのでつい遊んでしまいました。次からはもう少し難しいのでも良いですよ』という一文まで付け加える念の入れよう。
文章例題については、もっと度を超した改編がなされていた。
一応もとの例題に回答をした後で『この鶴亀算の例題にはいまいち現実味がないと思うので、もっと適当な例題を考えてみました』との断りをつけ、以下の問題を書き加えている。
――ハンターのタロウくんは夜釣りをするため、100メートルを10秒で進むボートに乗って港から出ました。
1時間30分かけ沖合に出たところで、イカ型歪虚とタコ型歪虚に遭遇しました。
歪虚の本体は暗い水中にあるので見えませんが、目玉だけは光っているのでよく見えます。数えてみると全部で45個ありました。
次に乗っているボートに絡み付いている足を数えました。全部で318本ありました。
なお、イカ型歪虚の目玉は1つ、タコ型歪虚の目玉は2つ。
イカ型歪虚の足は10本、タコ型歪虚の足は8本です。
イカ型歪虚、タコ型歪虚、それぞれ何匹いるか答えなさい。
また、タロウくんは港から何キロメートル離れたところにいるでしょうか。それも答えなさい――
そして最後に小さな文字で、『マルコくん、人の話をちゃんと聞くように。将来のためです。』
……どのように考えてみても本人が書いたとは思えない。
先生は少々おかんむりである。
「あいつ……誰かに手伝ってもらったな……」
続いて感想文。
先生の眉間はさらに険しくなった。
これも誰かに手伝ってもらったに違いない。そうでなければ、こんな、100枚も書けるものか。
しかも題名が『「最新魔導学全書」を読んで~魔導の発展とそれに伴う今後の課題』。大人でもふだん使うかどうかという専門用語がてんこもり。
……明日登校してきたら、いの一番にとっちめてやろう。確かに毎年数件は、提出物にこういう怪しい物件が交じっているが、こいつのは群を抜いている。
そう決心する先生は、ここまで来ればついでだと、残った分――図画工作と日記も確認。
まずは絵。
「ウッ!?」
裏返しになっていた画用紙を表にした先生は、固まった。
描かれていたのは、ピンク、黄色、水色のお花畑。花束を持った、リボンつきの兎。宙を舞う練乳のかかった苺と、色とりどりのキャンディー。
ひとつひとつの要素だけを見るならば、ファンシー。女の子受けしそうだ。
しかし兎の目がおかしい。ポップな地の絵柄から、完全に逸脱しているこのリアル感。光彩や毛細血管、睫まで執拗に再現されている。
よく見たら花の間にも、小さな目玉が描いてある。
「……」
先生は、マルコの精神状態が心配になってきた――さすがに絵くらいは彼の描いたものだろうと思ったので。
(この夏休みに何かあったのか?)
続いて日記に行ってみた。
8月1日から15日(千秋の書いたパート)について先生は、さほどおかしいとは思わなかった。洗濯や家事といった手伝いだけはよくしていたようだ。と受け止める。
しかし15日から後、(マルカの書いたパート)を読み始めたとき、考えが変わった。
『家にあるトイレは、薄暗いです。明かりが切れかけてるのに、まだ使えるからと、お母さんが取り替えないのです。僕はおやつの時間、魔導冷蔵庫に置いてあったおやつのゼリーを食べようと思いましたが、ありませんでした。これはきっとお兄ちゃんが食べたに違いない。そう思って文句を言ったらお兄ちゃんは、『お前がさっき自分で食べてただろ』と言いました。僕が友達の家に行ってきて、今帰ってきたばかりだと言うと、『うそつけ、お前ずっと家にいたじゃないか』と言われました。そこに、お姉ちゃんがやってきて変な顔をしました。『あら、あんた今さっきトイレに入ったばっかりなのに、もう出てきたの?』僕は、トイレへ行ってみました。じゃーっと、水を流す音がしました。でも、待っても、誰も出てきません。扉を開けてみたら、やっぱり誰もいませんでした。』
『今朝犬の散歩をしていると、溝におじさんがはまっているのを発見しました。僕が何してるのと声をかけるとおじさんは、「私は溝になりたいんだ」と言いました。そこに警察の人が来て、おじさんをどこかに連れて行きました。』
『今日プールに行きました。友達と遊んでいたら、お姉さんたちが叫び声を上げ、次々プールから出て行きました。何だろうと潜ってみたらプールの排水口から髪の毛がいっぱい出て、ゆらゆら揺れていました。』
翌日マルコは補修を受けた。日記と絵と綴りは彼がやったものと思われていたが、それが幸いかどうかは微妙であった。夏休みの生活について根掘り葉掘りされたので。
後日苦情を言いに来た彼に、あるハンターはこう答えた。
「まだ挽回がきく子供のうちにたくさん失敗しなさい、若人よ!」
●
ヨルムガンド・D・アルバ(ka5168)は舌打ちし、飴を噛み砕く。
「あのガキ逃げやがったな……」
天央 観智(ka0896)は学習鞄から『夏休みの課題』と書いてあるプリントを取り出し、内容を読み上げた。
「『その1、算数ドリル。その2、綴り練習ノート。その3、読書感想文――原稿用紙3枚以上。本は自由に選んでください。その4、絵日記――ちゃんと毎日書きましょう。その4――図画工作。絵、工作、どちらでもかまいません。必ず一点製作し提出してください。勉強は、毎日こつこつ少しずつ。夏休みも規則正しい生活をしましょう。勉強は、なるべく朝の涼しいうちに終わらせましょう。』……だそうですよ」
島野 夏帆(ka2414)は感慨に耐えない調子で言った。
「いやー、懐かしいわね! 夏休み最終日の宿題!! まあ、夏帆ちゃんは夏休み始まる前に全部終わらせちゃう派だったんだけど、親戚の子がそんな感じだったのよねー」
ケイ(ka4032)はさらっと髪を梳きながら、豪語する……
「ほほう? 夏休みの宿題? その程度私にかかればちょちょいのちょいってものよ。……ところで、宿題って何かしら?」
……が、依頼に対して基本的な知識が欠けているようだ。夏帆は目をまん丸にした。
「ケイさん宿題知らないの? 先生から出されたりしたことないの?」
「ええ。そもそも学校というものに通ったこともないわ」
「じゃあ、中間テストとか期末テストとかも受けたことないの?」
「皆無ね」
「そっかー。いいなー」
咲月 春夜(ka6377)は算数ドリルをぺらぺらめくった。ざっと見たところ、どうやら問題のレベルは、リアルブルーの小学校中学年程度といったところらしい。
「友人に見せてくれと拝み倒したり怒られるのも醍醐味だと思うが」
何にしても「金さえ払えば良い」といった考えを、子供が持つのは問題だ。
「さて、どうしたものか……」
考えていると、鍛島 霧絵(ka3074)が側に寄ってきた。
算数ドリルを見るためなのだと分かっていても、春夜は、ちょっと緊張してしまう。彼のパーソナルスペースは、椅子一個分。異性同性にかかわらず、あまり近寄られるのはちょっと苦手。
「宿題……こちらにもあるのね。こういう事は自分でやるから価値があるのだけど」
「そ――そうだな」
照れが入り、返事がぎこちない。とはいえ霧絵の側は彼の挙動を、ほとんど問題視していなかった。
「……いいでしょ。仕事なら仕方ないわ。この問題を解けば良いのね。……でもこのままだと早く終わってしまうから、ちょっと遊んでみましょうか」
「そう――だな」
マルカ・アニチキン(ka2542)は、真っ白な日記帳片手に、思案顔。
(あからさまに『他人がやりました』って分かってしまっては、いけませんよね……)
彼女としては、ちゃんとした結果を出したいと思うのである。内容はどうでも、正式な依頼なのだから。
とはいえマルコの考えをよしとしているわけでは全然ない。要はルールに則って、反省を促したいのだ。
(宿題を終わらせるのにどのようにするか具体的に言われてないので……周囲にマルコくんが宿題をやったと思わせれば内容は何をしてもいいってことですよね……?)
そこに小宮・千秋(ka6272)が「わたくしも絵日記をやりたいですっ」と申し出てくる。
「いやー、このような攻略法を思いつくとはマルコさんとやらできますねー。ここはお一つ、しっかりばっちり仕上げまして、先生方を驚かせちゃいましょー」
ところでケイは夏帆に説明され、ようやく『宿題』の意味が分かった所。
「へえ、そう。つまり宿題というのは、期間内にこの書き物を終わらせればいいと、そういうことなのね。面白そうじゃない」
ヨルムンガンドが巻かれていた画用紙を開き、逆に巻き、癖を取っている。どうやら図画工作を受け持つようだ。
観智は原稿用紙の束を手にする。
(ホントは、リアルブルーの科学系の学術書か何か……在れば、良かったのですけれど。流石に、記憶を頼りに……本を読まずに読書感想文、と言う訳にはいきませんからね)
感想を書くには本がいる。本がたくさんある場所と言えば――。
「皆さん、今から図書館に行きませんか? あそこなら資料等、集めやすそうですし……」
●
夏休み終盤、図書館には少なからぬ子供らの姿が見受けられた。皆それぞれの課題に四苦八苦し、鉛筆を噛んだり頭を掻いたりしている。
ハンター達は彼らの邪魔にならないよう、離れたところに席を確保。
観智は魔導専門書を棚から何冊も抜き出していく。どれも釘が打てそうなほど分厚い。
「ホントは、リアルブルーの科学系の学術書か何か……在れば、良かったのですけれど。流石に、記憶を頼りに……本を読まずに読書感想文、という訳にはいきませんからね」
それらを自分の両脇に積み、執筆を始める。
「丁度良い所に、魔導書は在りましたから……これを読んで、論文調に……一応、読書感想文……とも辛うじて言えるモノを仕上げましょうか? 幸い……本なら何でも良いみたいですし」
夏帆とケイは机を挟み、正面に向かい合う。絵日記係のマルカ、千秋と同じく、作業を2人で分担する模様だ。
「ふっふー! 夏帆ちゃんのじつりき、とくと味わうがよい!」
「これでも子供のころ、お前は何もできない屑だが字だけは達者だなとよく褒められたものよ……エルフ文字と忍者の暗号よ? 最高にクールよね! 後世に残る作品になること確実だわ」
ところでその絵日記、さすがに一から十まで創作するのは骨。
というわけでマルカは元ネタとなる『本当にあったかも? 怖い話』を、じっくり読み込む所から始める。
その間に千秋は、自身の体験をマルコの体験に変換し、書き込み。
「5:00。起床。寝過ごしてしまったので、急いで着替えをし台所に行きました。朝ごはんを作るためです。今朝のメニューは焼きたてのパンと絞りたてのミルク、そして新鮮な卵を使った……」
霧絵と春夜は単純な計算問題を後回し、何かと手を加えられそうな文章問題から先に入る。
「えーと、『タロウくんが野原を歩いていると、鶴と亀に出会いました。鶴と亀の頭は合計で10です。鶴と亀の足は合計で28です。鶴と亀はそれぞれ何匹いるのでしょうか、答えなさい』……ここにも鶴亀算ってあるのね」
「基本はどこの世界も変わらないようだな……とはいえこの問題、簡単すぎるな」
「ええ。とりあえず――足の数と頭の数を増やしましょうか」
「この『野原を歩いて』という安直な設定もどうかと思うから、そこも変えよう」
ヨルムンガンドは白い画用紙を前に、腕組み。
「さて、テーマは……自分の「好きなもの」ってことにするか」
彼の好きなものは決まっている。甘いもの、可愛いもの。例えば飴、練乳、苺、リボン、兎……。
「よし、背景はお花畑にしよっと。色はピンクに黄色、水色……明るい色の方がいいよね」
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時計を見れば午後3時。
課題を半分ほど消化した春夜は、皆に途中休憩を持ちかけた。
「一回息抜きはどうだ。ちょっとした甘いものなんかも、持ってきてるぞ。頭を使うと糖分が欲しくなるからな」
他のハンターたちも皆、きりのいいところまで出来上がっていたので、その提案に乗る。
いったん図書館から出て公園に赴き、炭酸飲料、ポテトチップ、緑茶、紅茶に桜餅とクッキーをお供におやつの時間。外で主人の帰りを待っていたペットたちも近くに座ったり、寝そべったり。
春夜は鼻面を寄せてくる雨月をモフり、袖もとにからんでくるディアを撫でながら、霧絵と算数問題の微調整。
綴りノートを夏帆たちから見せられたヨルムンガンドは、眉間に縦皺を刻む。
「おい、このページ書いたのどっちだ?」
「ああ、そこは私! 達筆でしょー! 心を無にしての楷書体だよ!」
「……こっちのくるくるしたの、何だ」
「それは私が書いたエルフ文字。完璧に美しく天使のような素晴らしい言葉よ」
千秋はヨルムンガンドの絵を見て大興奮。
「クール! ヨルムンガンド様、わたくしも端っこに目玉を描いていいですかー?」
絵日記用の色鉛筆を削るマルカは、観智が書類入れから引っ張り出してきた原稿用紙の量に驚く。
「何枚あるんですか、それ」
「ええとー……現在67枚ですか……ちょっと……気合を入れて、書き過ぎてしまいましたかね? まぁ……3枚以上という指定で、上限には触れられていませんから……大丈夫、でしょう。これを更に要約して……3枚程度に抑える、事も出来なくはない……でしょうけれど、面倒ですし」
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休み明けの職員室。
生徒達が提出してきた夏休みの宿題を点検していた先生は、10人目の綴り字ノートではたと手を止めた。
「なんだこれは……」
ノートにびっしり書き込まれているのは、読ませることを拒否しているとしか思えない謎の文字。そして、踊るようなクルクル模様――両者は1ページ毎、交互に書き綴られている。
先生はエルフ語を専攻していないので、前者はともかく後者が一応ちゃんとした文になっているということが、さっぱり分からなかった。どっちも、ただふざけた遊び書きに見えただけである。
そんなわけでノートが誰のものなのか。きっちり確認。
「マルコか……再提出だな」
呟いてそのノートだけ、机の隅に避けておく。
その後どうも胸騒ぎがするので、他の提出物からもマルコ名義の物を捜し出す。
とりあえず算数ドリルを当たってみた。
……妙に分厚い。何故かと思って開いてみれば、大量の別紙が挟み込まれている。書き込まれているのは計算問題の解答――だけではない。自作と思える改題とその回答まで書き込まれている。
最後に『簡単すぎたのでつい遊んでしまいました。次からはもう少し難しいのでも良いですよ』という一文まで付け加える念の入れよう。
文章例題については、もっと度を超した改編がなされていた。
一応もとの例題に回答をした後で『この鶴亀算の例題にはいまいち現実味がないと思うので、もっと適当な例題を考えてみました』との断りをつけ、以下の問題を書き加えている。
――ハンターのタロウくんは夜釣りをするため、100メートルを10秒で進むボートに乗って港から出ました。
1時間30分かけ沖合に出たところで、イカ型歪虚とタコ型歪虚に遭遇しました。
歪虚の本体は暗い水中にあるので見えませんが、目玉だけは光っているのでよく見えます。数えてみると全部で45個ありました。
次に乗っているボートに絡み付いている足を数えました。全部で318本ありました。
なお、イカ型歪虚の目玉は1つ、タコ型歪虚の目玉は2つ。
イカ型歪虚の足は10本、タコ型歪虚の足は8本です。
イカ型歪虚、タコ型歪虚、それぞれ何匹いるか答えなさい。
また、タロウくんは港から何キロメートル離れたところにいるでしょうか。それも答えなさい――
そして最後に小さな文字で、『マルコくん、人の話をちゃんと聞くように。将来のためです。』
……どのように考えてみても本人が書いたとは思えない。
先生は少々おかんむりである。
「あいつ……誰かに手伝ってもらったな……」
続いて感想文。
先生の眉間はさらに険しくなった。
これも誰かに手伝ってもらったに違いない。そうでなければ、こんな、100枚も書けるものか。
しかも題名が『「最新魔導学全書」を読んで~魔導の発展とそれに伴う今後の課題』。大人でもふだん使うかどうかという専門用語がてんこもり。
……明日登校してきたら、いの一番にとっちめてやろう。確かに毎年数件は、提出物にこういう怪しい物件が交じっているが、こいつのは群を抜いている。
そう決心する先生は、ここまで来ればついでだと、残った分――図画工作と日記も確認。
まずは絵。
「ウッ!?」
裏返しになっていた画用紙を表にした先生は、固まった。
描かれていたのは、ピンク、黄色、水色のお花畑。花束を持った、リボンつきの兎。宙を舞う練乳のかかった苺と、色とりどりのキャンディー。
ひとつひとつの要素だけを見るならば、ファンシー。女の子受けしそうだ。
しかし兎の目がおかしい。ポップな地の絵柄から、完全に逸脱しているこのリアル感。光彩や毛細血管、睫まで執拗に再現されている。
よく見たら花の間にも、小さな目玉が描いてある。
「……」
先生は、マルコの精神状態が心配になってきた――さすがに絵くらいは彼の描いたものだろうと思ったので。
(この夏休みに何かあったのか?)
続いて日記に行ってみた。
8月1日から15日(千秋の書いたパート)について先生は、さほどおかしいとは思わなかった。洗濯や家事といった手伝いだけはよくしていたようだ。と受け止める。
しかし15日から後、(マルカの書いたパート)を読み始めたとき、考えが変わった。
『家にあるトイレは、薄暗いです。明かりが切れかけてるのに、まだ使えるからと、お母さんが取り替えないのです。僕はおやつの時間、魔導冷蔵庫に置いてあったおやつのゼリーを食べようと思いましたが、ありませんでした。これはきっとお兄ちゃんが食べたに違いない。そう思って文句を言ったらお兄ちゃんは、『お前がさっき自分で食べてただろ』と言いました。僕が友達の家に行ってきて、今帰ってきたばかりだと言うと、『うそつけ、お前ずっと家にいたじゃないか』と言われました。そこに、お姉ちゃんがやってきて変な顔をしました。『あら、あんた今さっきトイレに入ったばっかりなのに、もう出てきたの?』僕は、トイレへ行ってみました。じゃーっと、水を流す音がしました。でも、待っても、誰も出てきません。扉を開けてみたら、やっぱり誰もいませんでした。』
『今朝犬の散歩をしていると、溝におじさんがはまっているのを発見しました。僕が何してるのと声をかけるとおじさんは、「私は溝になりたいんだ」と言いました。そこに警察の人が来て、おじさんをどこかに連れて行きました。』
『今日プールに行きました。友達と遊んでいたら、お姉さんたちが叫び声を上げ、次々プールから出て行きました。何だろうと潜ってみたらプールの排水口から髪の毛がいっぱい出て、ゆらゆら揺れていました。』
翌日マルコは補修を受けた。日記と絵と綴りは彼がやったものと思われていたが、それが幸いかどうかは微妙であった。夏休みの生活について根掘り葉掘りされたので。
後日苦情を言いに来た彼に、あるハンターはこう答えた。
「まだ挽回がきく子供のうちにたくさん失敗しなさい、若人よ!」
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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【相談卓】宿題は計画的に ヨルムガンド(ka5168) 人間(クリムゾンウェスト)|22才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/09/02 21:16:37 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/08/30 02:54:23 |