ゲスト
(ka0000)
彼等と猫
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/08/25 19:00
- 完成日
- 2016/09/02 02:57
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
蒸気工場都市フマーレの工業区の外れに、古ぼけた民家を改装した建物がある。
アパートを隣接したそこは、出来てからまだそれ程経っていない自警組織の詰め所として使われていた。
街の警邏を主に、迷子の子供や泥酔者の保護、依頼があれば失せ物を探したり、ときどきコボルトの駆除程度なら駆り出される。
初夏の頃には、強力な歪虚の出現に伴い見回りを強化し、ハンター達が戦っている間は近隣住民の避難を手伝って奔走していた。
その事件の収束から一月、二月と経ち、街も元の賑わいを取り戻しつつある。
彼等の内の1人、シオは今日も、件の跡地に事件で失った友人や少なくない街の人々達へ手向ける花を供えて街を歩く。
彼等の元に1人の女性が加わった。
ハンターオフィスの受付嬢に付き添われ、初めてここへ来た日から数週間、閑散とした詰め所の中で受付や掃除を手伝い、時折クッキーを焼く仕事をしている。
盲目で足も弱っているらしい。
白い瞼が開かれたことはなく、杖を突きながらも歩くのは壁際を慎重に。
快方の兆しはなく、日毎その足は痩せていくようにさえ思われた。
オフィスの受付嬢の話によると、彼女は件の事件の被害者らしい。
歪虚に操られる様にして契約を行い、自覚の無いままその力を行使したという。
その反動で光を失い、身体は酷く衰弱していた。
歩ける程度には回復したがこれ以上は望めない。
――寧ろ、彼女の状態は良好で、驚かれるかも知れませんが、本当にとてもとても良いくらいなんです――
既に亡くなっていても可笑しくないくらいだと受付嬢は気まずそうに言った。
彼等とのそんな会話を隣で聞いていた女性はくすりと笑った。
「私、少し前まで喫茶店で働いていたの。その店にはハンターをされてる常連さんも多くて、よくお喋りをしていたのよ。だからね、そのお陰で精霊が守ってくれたのかな……って、思っているの」
さて、この通りを見回ったら詰め所に戻ろう。
そろそろ彼女のクッキーが焼き上がる時間だ。
●
シオが街の通りを巡って、今日も問題なし、と詰め所に戻ろうとしたところ、1人の少女がその制服を認めて駆け寄ってきた。
「あの、すみませんが、猫、見ませんでした?」
猫、とシオが聞き返すと少女はこくりと頷いた。
これくらいの、と手で示しながら特徴を説明する。
ずんぐりとした三毛らしい。
見ていないとシオが応えると、少女はそうですかと溜息を吐く。
「飼い猫?」
「はい、ずっと家族で……」
「名前は?」
「猫太郎」
「雄?」
「女の子」
「……」
「こ、子猫の時に、名前付けちゃって……」
「ああ。……猫太郎、ちゃん」
「ネコって呼んでるの」
「――仲間内にだけど、見たら保護するように伝えておこう。もう少し特徴とか聞きたいから、詰め所まで来て貰えるかな?」
「はい!」
少女と連れだって詰め所に戻ると、交代のメンバーが集まってクッキーを摘まんでいた。
コーヒーを煎れるのは苦手だという女性の代わりに、彼等のリーダーが振る舞っている。
「コーヒー、飲める?」
「甘いのなら」
「わかった、座ってて。……おい、ちょっといいか、この子のネコちゃん……猫太郎ちゃんが脱走したらしい。特徴を聞いておくからお前等も交代の奴らに言っておけよ――それから、カフェオレを一杯」
メンバーの返事を聞きながら、シオは紙に猫の特徴を書き並べていく。
他には、と少女に問うと、少女は思い出話を交えながら答えた。
「猫太郎っていう名前は私が付けたの。まだ小っちゃかったから、女の子だったらとか考えつかなかったみたいで」
懐かしがる様に目を細めた少女をシオは暫しじっと見詰め、瞬いて咳払い、何かを言い掛けた口を噤んで眉を寄せ口許を手で隠しながら溜息を吐いた。
粗方書き終えた紙を掲示板に、シオも出されたコーヒーを啜りとクッキーを摘まむ。
いつもの芳しいはずのコーヒーが薄く渋く、クッキーは砂を食むように味気なく感じられた。
「この後は暇なんだ。探すなら付き合うぞ」
「本当ですか!」
少女は無邪気に微笑んだ。
蒸気工場都市フマーレの工業区の外れに、古ぼけた民家を改装した建物がある。
アパートを隣接したそこは、出来てからまだそれ程経っていない自警組織の詰め所として使われていた。
街の警邏を主に、迷子の子供や泥酔者の保護、依頼があれば失せ物を探したり、ときどきコボルトの駆除程度なら駆り出される。
初夏の頃には、強力な歪虚の出現に伴い見回りを強化し、ハンター達が戦っている間は近隣住民の避難を手伝って奔走していた。
その事件の収束から一月、二月と経ち、街も元の賑わいを取り戻しつつある。
彼等の内の1人、シオは今日も、件の跡地に事件で失った友人や少なくない街の人々達へ手向ける花を供えて街を歩く。
彼等の元に1人の女性が加わった。
ハンターオフィスの受付嬢に付き添われ、初めてここへ来た日から数週間、閑散とした詰め所の中で受付や掃除を手伝い、時折クッキーを焼く仕事をしている。
盲目で足も弱っているらしい。
白い瞼が開かれたことはなく、杖を突きながらも歩くのは壁際を慎重に。
快方の兆しはなく、日毎その足は痩せていくようにさえ思われた。
オフィスの受付嬢の話によると、彼女は件の事件の被害者らしい。
歪虚に操られる様にして契約を行い、自覚の無いままその力を行使したという。
その反動で光を失い、身体は酷く衰弱していた。
歩ける程度には回復したがこれ以上は望めない。
――寧ろ、彼女の状態は良好で、驚かれるかも知れませんが、本当にとてもとても良いくらいなんです――
既に亡くなっていても可笑しくないくらいだと受付嬢は気まずそうに言った。
彼等とのそんな会話を隣で聞いていた女性はくすりと笑った。
「私、少し前まで喫茶店で働いていたの。その店にはハンターをされてる常連さんも多くて、よくお喋りをしていたのよ。だからね、そのお陰で精霊が守ってくれたのかな……って、思っているの」
さて、この通りを見回ったら詰め所に戻ろう。
そろそろ彼女のクッキーが焼き上がる時間だ。
●
シオが街の通りを巡って、今日も問題なし、と詰め所に戻ろうとしたところ、1人の少女がその制服を認めて駆け寄ってきた。
「あの、すみませんが、猫、見ませんでした?」
猫、とシオが聞き返すと少女はこくりと頷いた。
これくらいの、と手で示しながら特徴を説明する。
ずんぐりとした三毛らしい。
見ていないとシオが応えると、少女はそうですかと溜息を吐く。
「飼い猫?」
「はい、ずっと家族で……」
「名前は?」
「猫太郎」
「雄?」
「女の子」
「……」
「こ、子猫の時に、名前付けちゃって……」
「ああ。……猫太郎、ちゃん」
「ネコって呼んでるの」
「――仲間内にだけど、見たら保護するように伝えておこう。もう少し特徴とか聞きたいから、詰め所まで来て貰えるかな?」
「はい!」
少女と連れだって詰め所に戻ると、交代のメンバーが集まってクッキーを摘まんでいた。
コーヒーを煎れるのは苦手だという女性の代わりに、彼等のリーダーが振る舞っている。
「コーヒー、飲める?」
「甘いのなら」
「わかった、座ってて。……おい、ちょっといいか、この子のネコちゃん……猫太郎ちゃんが脱走したらしい。特徴を聞いておくからお前等も交代の奴らに言っておけよ――それから、カフェオレを一杯」
メンバーの返事を聞きながら、シオは紙に猫の特徴を書き並べていく。
他には、と少女に問うと、少女は思い出話を交えながら答えた。
「猫太郎っていう名前は私が付けたの。まだ小っちゃかったから、女の子だったらとか考えつかなかったみたいで」
懐かしがる様に目を細めた少女をシオは暫しじっと見詰め、瞬いて咳払い、何かを言い掛けた口を噤んで眉を寄せ口許を手で隠しながら溜息を吐いた。
粗方書き終えた紙を掲示板に、シオも出されたコーヒーを啜りとクッキーを摘まむ。
いつもの芳しいはずのコーヒーが薄く渋く、クッキーは砂を食むように味気なく感じられた。
「この後は暇なんだ。探すなら付き合うぞ」
「本当ですか!」
少女は無邪気に微笑んだ。
リプレイ本文
●
クッキーの焼き上がる香りに誘われて詰め所を訪ねていた日野下 あさぎ(ka6447)がメンバーと談笑していた頃、少女を連れたシオが戻ってきた。異常なしと報告する声にほっとしてまた1つクッキーを摘まんだ。
少女から猫の話しを聞き終えたシオがメンバーに掛ける声に、日野下も立ち上がって彼等を振り返る。
「もしよければ、手伝うよ。僕は日野下あさぎ。ハンターだ」
猫太郎。愛称はネコ。
面白いネーミングセンスだと少女に笑いかけると、少女は日野下の申し出をとても喜んだ。
一仕事終えた鞍馬 真(ka5819)は街へ繰り出すと、昼下がりの屋台で冷えたレモネード片手に、熱いときこそ辛い物とホットスパイスが染みる程効いたターキーブレストを齧る。
屋台の声、職人達の掛け声に、蒸気の上がる音。
見上げれば青い空に昇っていく白い煙と、眩しい雲。
賑やかの通りの端に何かを探しているらしい姿が見えた。
「つらい……」
照り返す石畳をふらふらと歩きながら、ナツキ(ka2481)は夏の陽差しに項垂れて街中へ。
屋台の下を建物の隙間を野良猫がすり抜けていく。
猫さんたちなら、涼しい場所を知っている。会いに行こう。
白い小さな猫に続いて通りを歩いていくと、何やら困っているような3人の姿を見付けた。
鞍馬とナツキが声を掛けるとシオが事情を簡単に説明し、少女を紹介する。
鞍馬が分かったと頷くと、猫探しならわたしはきっと役に立つと金の目を細めたナツキが、猫の様に丸めた手を揺らしてみせた。
日野下と入れ違いになるように詰め所を訪ねたカリアナ・ノート(ka3733)は、入り口の近くに座っていたユリアに声を掛ける。
調子はどう。そう尋ねるとユリアはカリアナの声を嬉しそうに聞きながら訪問の礼を告げてクッキーを勧めた。
「あのねあのね。この猫さん探しのことなんだけど……」
掲示板に貼られていた真新しい張り紙が目に入り、その傍まで近づいて手を伸ばす。
依頼人と、メンバーの1人が、来ていたハンターと共にさっき出発したところだと聞くと、カリアナも手伝うと外へ飛び出した。
6人が集まり少女が心当たりを考えていると、その集団にザレム・アズール(ka0878)と小宮・千秋(ka6272)も声を掛けて猫探しに加わった。
ところで、とザレムが少女を見詰めて問う。
「名前を教えてくれるだろうか?」
「あ、はい。私、マオっていいます」
名乗って少女は肩を竦めた。
「固まって動いたら非効率だ。ここは手分けして探さないかい?」
集まったハンター達を見回し日野下が提案する。
屈んで撫でていた白い猫を撫でて見送ったナツキは立ち上がって頷く。猫はナツキの足首にじゃれついてから屋台の影へ走って行った。
「良い風が吹くところ。涼しい日陰。あとは餌がもらえるところ、とか……」
あの猫さんは彼女を知らないみたいだったと、街並みを眺め温い風に手を翳す。
この時期に猫の集まりそうな場所を思い浮かべ、そういう所を知らないかとシオに尋ねた。
それなら工業区の方だろうとシオが答えると、鞍馬もそちらへ向かおうと続く。
「私は、散歩の途中で何かあったんじゃないかなって、思うの。どうかしら?」
カリアナが尋ねると、マオは確かにときどき1匹で彷徨いていたと答える。
しかし、その散歩コースは1つでは無いらしい。
「では、わたくしも御一緒致しますよー。単独で動く理由もありませんのでー」
小宮が手を上げて小柄な身体で跳ねる。
マオはハンター達にも通りの先を指して猫太郎の散歩コースを伝える。
ザレムと日野下は工業区からも散歩コースからも外れる場所を回ることにした。
マオから猫太郎の気に入りの場所を聞き、匂いの移った物を尋ねると、手許には無いと答えて自宅を伝えられる。
気に入りの場所も自宅周辺に多いが、どこで呼んでも返事は無かったという。
ザレムはポケットから伝話を取り出すとハンター達を呼び集める。
「持ってる人は集まってくれ」
ハンター達が伝話を向けると、ザレムの目が深紅に色を変えて、龍の如き黒い皮膜の翼が空気を撫でる様に羽ばたく。マテリアルを巡らせて通信の力を強化し、よし、と頷く。
「連携を取っていこう」
ハンター達と依頼人は散開し街を走っていく。
●
「ほいでは、早速、猫太郎さん探しと行きますよー」
小宮は連れていたマルチーズと黒猫を道へ放す。
匂いを覚えさせるまでは、黒猫の猫繋がりに期待しながら、散歩コースをマオの家の方に向かって歩く。
「迷子の迷子の猫さんー……確かお名前は猫太郎さんだったでしょうかー?」
太郎と付いても女の子なのですねとマオに尋ねる。彼女を探させている黒猫にはまだ名前が付いていない。
これを機会にじっくり考えようかと考えながら、道の影を覗いて歩く。
「猫さんの、よく寝てた場所ってどんなところだったかしら? 探す参考になると思うの」
カリアナに、寝てた場所、と聞き返したマオは足を止めて考え込む。
余り外では眠らなかったのか、眠っているところは見なかったと首を横に振った。
「散歩の途中の、お気に入りの場所があったかなって……」
マルチーズに匂いを教えて探し始める前にそういう所は考えておきたいからと、寝ていたところ、居座っていたところと並べていく。
カリアナと話しながらいくつかの宛を思い付いた頃、一旦家に戻ったマオは猫太郎の気に入りの玩具を小宮に差し出す。小宮のマルチーズは暫くそれを嗅いでいたが、家の所在なく尻尾を垂れさせた。
「ここは猫太郎さんの匂いばかりですからねー」
朗らかに笑って道へ出ると、高く1つ鳴いて走り出した。
マオの記憶を頼りに、カリアナはその通りを歩く人々に声を掛ける。
「あのね、探し猫なんだけど、ここら辺でみかけてないかしら? 特徴は……」
忙しいと突っぱねられるマオを庇う様に、話しを継いで尋ねるが、殆どの答えは知らないか、或いは、最近は見ていないだった。
「んー。居ないみたいね。次、どこを探す?」
黒猫が得てきたらしい情報も同じらしく、順調に匂いを追ったマルチーズも暫く進むと、迷うことが多くなってきた。
次の行き先をマオが思い付かなくなった頃、小宮の脳裏に過ぎるものが有った。
匂いが薄れ、目撃情報も途絶えている。
どうか御無事でと目を閉じた。
シオの案内で工業区に向かったナツキと鞍馬の頬に工場の合間を縫った風が触れる。
この辺りは工場の影が多く庇の下は風も相俟って街中よりも僅かに涼しい。
「――よ、っと……よし、猫の気分で探そう」
鞍馬がそう、工場の塀に飛び乗るとすぐ、その影に小さな餌皿が見えた。
君の見込みは当たったようだと、塀の上から飛び降りてナツキの方を見た。
「餌が貰える……猫太郎のことを知っている猫さんいるかも」
聞いてみようかと門を叩くと、1人の職員が顔を覗かせた。
ナツキが門の内へ一歩進み、餌皿を指す。
「猫さん、いる?」
職員はあれは偶に訪れる野良猫の物だという。その猫は痩せていて猫太郎とは似つかない。
猫太郎の特徴を伝えると、やはり首を横に振りながらも、この近隣の工場なら蒸気を立てて動かす音を立てる機械も少なく、職人に猫好きも多いから寄り付いているかも知れないと答えた。
職員の話が聞こえた鞍馬が聞いて回ろうと言うとシオに言うと、どこかぼうっとした顔で頷いた。
「何か考え事でもしていたか?」
シオは何でも無いと目を逸らした。
通りを聞いて回ると、住宅街が近付くに連れ、知っているという答えが増えていったが、最後に見たのはいずれも、マオが探し始めるよりも前の話しだった。
鞍馬が横目に覗うと、シオは落ち着き無く辺りを見回していた。
「どうした、気になることがあるのであれば教えてくれないか?」
ナツキが淡々と職員と話し、最近の猫太郎の様子を聞いている傍らから誘い、少し離れた塀に凭れて尋ねる。
マオが幼少の頃に名付けてずっと一緒に過ごしてきたと聞いたからと、ナツキと職員を見る。
飼い猫だろう手入れはされていたが年寄りらしく行動は鈍い、何年前から見ているのかも覚えていない。
「……わかった、気に掛けておこう」
その時はマオの心情を大切にする。鞍馬が頷くとシオの表情が和らいだように見えた。
「シバ、行こう!」
匂いを覚えた相棒の柴犬が尻尾を振る。
猫太郎愛用のケットを手にザレムが追う。
マオに聞いた猫太郎の特徴を思い浮かべて、日野下を見た。
「……おばあちゃん猫さんみたいだね」
呟いたザレムに日野下も視線を向けた。
「最悪のパターンも考えておくか」
抑えた声で応え、丁字でザレムと分かれる。
「人が居たら聞いてみよう、見た人は居るかも知れない」
「――ああ、何かあったら連絡する」
日野下が一方へ進み、ザレムもシバを走らせて猫が隠れられそうな物陰を覗く。
散歩コースはマオと向かった2人に任せることにして、そこから少し外れるように工業区まで脚を伸ばす。
猫太郎の気紛れによるものか、近隣住人の目撃情報はまちまちだった。
「……では、猫のたまり場のような所に心当たりはありませんか?」
猫太郎のような猫は見ていないといった住人にそう尋ねると、それならと通りの先を指した。
その先は空き地で煩いくらい集まっているという。
ザレムは礼を告げると、行ってみるかとシバを促した。
日野下が向かった道の先には住宅街が暫く続く。野良猫ならいそうな路地裏を覗いても、飛び出してきたのは別の猫だ。
「数日間も住処を留守にするなんて少し考えにくいな」
足を止めて首を捻る。
雌の猫の縄張りは雄に比べると狭いと聞く。
もしかしたら、家の近くにまだいるかも知れない。
走って向かう公園。
呼んでみたが返事は無かったと言ったマオの寂しげな表情が過ぎった。
――公園に連れて行ったこともあったかな。気に入ったみたいで、そこから連れて帰るのが大変だったな――
――私が、小っちゃい頃ね。今は抱えて帰れるから――
「…………ザレム殿か、見付けた」
●
公園を隅々まで見て回る。植え込み中を覗いたとき、茶色の毛並みが見えた。
青く茂った葉を掻き分けるようにその姿を審らかにすると、身体を丸めて横臥した猫の亡骸があった。
近くに居るだろうザレムへ連絡すると、切れかかった彼の錬結通話が音声を震わせながら他のハンターへも日野下の声を届けた。
然程離れていないザレムがすぐに駆けつけ、場所と状態を他のハンターへ伝えた。
日野下の連絡に驚いていたハンター達は公園へ向かう。
鞍馬とナツキはシオを連れて駆けつけたが、カリアナと小宮は今暫くマオの様子を覗いながら遠回りをしている。
ザレムが茂みから抱き上げた亡骸をケットの上に寝かせる。
「最期に、みんながかなしい顔をしてるの、見たくないから、一人で逝くんだって。……それだと、この子はずっと一人。ずっとさびしいまま」
傍らに屈んだナツキが丸くなった猫太郎の背をゆっくりと撫でた。
寂しいと言う様に猫は何も答えない。
表情の安らかさにザレムはほっと息を吐く。苦しむことは無かったようだ。
目許を濡らして瞑った目は笑っているようにさえ見える。
「……受け止められるだろうか」
鞍馬が猫を見詰めて呟いた。シオから聞いているのは、楽しそうに話していたという猫太郎との思い出話だけだ。
――一緒に寝ると、お腹に乗ってきてすごく重いの。潰れそうなの――
――寒い日に抱っこすると、いつまでも抱えていたいくらい温かいんだぁ……――
大丈夫だとザレムが頷いて伝話を繋ぐ。
傍にマオがいるのだろう、答えた小宮の声はそれを悟らせないような明るさがある。
収穫なく戻ってきた黒猫とマルチーズをおかえりなさいと撫でながら、カリアナと喋るマオの様子を話す。
見付からない状況に焦り、疲れも見えている。不安げな表情も見え、少し前からは猫太郎を呼ぶ声を掛けずに、影や隙間を覗くことが増えていた。
「わかりましたー。マオさんに代わりまーす……」
ザレムが猫太郎の死を伝えると言うと、暫く経ってマオの声が聞こえた。
代わりましたと言う声は硬い。伝話越しにも伝わる切望にザレムの指が微かに震えた。
「……落ち付いて聞いて欲しいんだ。……猫太郎、見付かったよ。君の言った通りの笑ってるみたいに目の細い三毛猫だった……」
公園にいると告げて話しを終える。
程なく現れたマオはカリアナが背をさすり、小宮が手を引いていた。
引き摺る様な重い足で集まっているハンター達の方へ近付いて行く。
そのすぐ側に寝かされた亡骸を目にした途端膝から崩れる体を日野下が抱き留めた。
日野下の手を借りながら傍に座ると、ここにいたのと尋ねて見上げる。日野下が頷くと、あなたが見付けてくれたのかと、亡骸へ嘗てそうしていたように指を伸ばして喉を擽る。
「その、影にいた」
植え込みの方を指すと、マオは眦を赤くしたまま目を細めた。
「何度も呼んだんだけどなぁ……答えてくれないんだもん」
嗚咽混じりの震える声。
マオの背に暖かな掌が触れた。
「いなくなったのは、お別れが寂しいから」
ナツキの声が穏やかに紡ぐ。見付けてあげたから、この子はもう寂しくない。
そう、静かに背をさすりながら。
「お墓を作ってあげたら良いと思う、いつでも会いにいけるように」
私もそう思うと鞍馬が傍らに屈んで手を添える。
「……家族、だったんだろう? いつまでも、ともにいたいと、思う……」
忘れてしまった家族という存在を思い浮かべる。理解しがたい情を手探りに、それでも分からないと自嘲しながら。
この子は家族なのだろうと泣き濡れた横顔を見詰める。マオの首が縦に揺れた。
「家の庭がいいかな、好きだった物を一緒に埋めてあげよう。天国に持って行くんだ」
ザレムが寝かせたケットを指して、マオを励ます様に笑む。
「俺も猫を飼っているから同じ経験があるよ。爺さんだったんだ……猫太郎と会えているかもしれないな」
毛並みをゆっくりと撫でると、そうだといいとマオは目を細める。
温もりの失せた身体を膝に抱き上げると軽いなと呟いた。
ハンター達に礼を告げ、ケットに包む亡骸を大切に抱きかかえて帰途に就くマオを見送る。
空耳だろうか、どこからともなく、猫の鳴く声がした。
ずんぐりと大柄な身体を思わせる、どことなくふてぶてしいようなその声は、とても嬉しそうに聞こえた。
クッキーの焼き上がる香りに誘われて詰め所を訪ねていた日野下 あさぎ(ka6447)がメンバーと談笑していた頃、少女を連れたシオが戻ってきた。異常なしと報告する声にほっとしてまた1つクッキーを摘まんだ。
少女から猫の話しを聞き終えたシオがメンバーに掛ける声に、日野下も立ち上がって彼等を振り返る。
「もしよければ、手伝うよ。僕は日野下あさぎ。ハンターだ」
猫太郎。愛称はネコ。
面白いネーミングセンスだと少女に笑いかけると、少女は日野下の申し出をとても喜んだ。
一仕事終えた鞍馬 真(ka5819)は街へ繰り出すと、昼下がりの屋台で冷えたレモネード片手に、熱いときこそ辛い物とホットスパイスが染みる程効いたターキーブレストを齧る。
屋台の声、職人達の掛け声に、蒸気の上がる音。
見上げれば青い空に昇っていく白い煙と、眩しい雲。
賑やかの通りの端に何かを探しているらしい姿が見えた。
「つらい……」
照り返す石畳をふらふらと歩きながら、ナツキ(ka2481)は夏の陽差しに項垂れて街中へ。
屋台の下を建物の隙間を野良猫がすり抜けていく。
猫さんたちなら、涼しい場所を知っている。会いに行こう。
白い小さな猫に続いて通りを歩いていくと、何やら困っているような3人の姿を見付けた。
鞍馬とナツキが声を掛けるとシオが事情を簡単に説明し、少女を紹介する。
鞍馬が分かったと頷くと、猫探しならわたしはきっと役に立つと金の目を細めたナツキが、猫の様に丸めた手を揺らしてみせた。
日野下と入れ違いになるように詰め所を訪ねたカリアナ・ノート(ka3733)は、入り口の近くに座っていたユリアに声を掛ける。
調子はどう。そう尋ねるとユリアはカリアナの声を嬉しそうに聞きながら訪問の礼を告げてクッキーを勧めた。
「あのねあのね。この猫さん探しのことなんだけど……」
掲示板に貼られていた真新しい張り紙が目に入り、その傍まで近づいて手を伸ばす。
依頼人と、メンバーの1人が、来ていたハンターと共にさっき出発したところだと聞くと、カリアナも手伝うと外へ飛び出した。
6人が集まり少女が心当たりを考えていると、その集団にザレム・アズール(ka0878)と小宮・千秋(ka6272)も声を掛けて猫探しに加わった。
ところで、とザレムが少女を見詰めて問う。
「名前を教えてくれるだろうか?」
「あ、はい。私、マオっていいます」
名乗って少女は肩を竦めた。
「固まって動いたら非効率だ。ここは手分けして探さないかい?」
集まったハンター達を見回し日野下が提案する。
屈んで撫でていた白い猫を撫でて見送ったナツキは立ち上がって頷く。猫はナツキの足首にじゃれついてから屋台の影へ走って行った。
「良い風が吹くところ。涼しい日陰。あとは餌がもらえるところ、とか……」
あの猫さんは彼女を知らないみたいだったと、街並みを眺め温い風に手を翳す。
この時期に猫の集まりそうな場所を思い浮かべ、そういう所を知らないかとシオに尋ねた。
それなら工業区の方だろうとシオが答えると、鞍馬もそちらへ向かおうと続く。
「私は、散歩の途中で何かあったんじゃないかなって、思うの。どうかしら?」
カリアナが尋ねると、マオは確かにときどき1匹で彷徨いていたと答える。
しかし、その散歩コースは1つでは無いらしい。
「では、わたくしも御一緒致しますよー。単独で動く理由もありませんのでー」
小宮が手を上げて小柄な身体で跳ねる。
マオはハンター達にも通りの先を指して猫太郎の散歩コースを伝える。
ザレムと日野下は工業区からも散歩コースからも外れる場所を回ることにした。
マオから猫太郎の気に入りの場所を聞き、匂いの移った物を尋ねると、手許には無いと答えて自宅を伝えられる。
気に入りの場所も自宅周辺に多いが、どこで呼んでも返事は無かったという。
ザレムはポケットから伝話を取り出すとハンター達を呼び集める。
「持ってる人は集まってくれ」
ハンター達が伝話を向けると、ザレムの目が深紅に色を変えて、龍の如き黒い皮膜の翼が空気を撫でる様に羽ばたく。マテリアルを巡らせて通信の力を強化し、よし、と頷く。
「連携を取っていこう」
ハンター達と依頼人は散開し街を走っていく。
●
「ほいでは、早速、猫太郎さん探しと行きますよー」
小宮は連れていたマルチーズと黒猫を道へ放す。
匂いを覚えさせるまでは、黒猫の猫繋がりに期待しながら、散歩コースをマオの家の方に向かって歩く。
「迷子の迷子の猫さんー……確かお名前は猫太郎さんだったでしょうかー?」
太郎と付いても女の子なのですねとマオに尋ねる。彼女を探させている黒猫にはまだ名前が付いていない。
これを機会にじっくり考えようかと考えながら、道の影を覗いて歩く。
「猫さんの、よく寝てた場所ってどんなところだったかしら? 探す参考になると思うの」
カリアナに、寝てた場所、と聞き返したマオは足を止めて考え込む。
余り外では眠らなかったのか、眠っているところは見なかったと首を横に振った。
「散歩の途中の、お気に入りの場所があったかなって……」
マルチーズに匂いを教えて探し始める前にそういう所は考えておきたいからと、寝ていたところ、居座っていたところと並べていく。
カリアナと話しながらいくつかの宛を思い付いた頃、一旦家に戻ったマオは猫太郎の気に入りの玩具を小宮に差し出す。小宮のマルチーズは暫くそれを嗅いでいたが、家の所在なく尻尾を垂れさせた。
「ここは猫太郎さんの匂いばかりですからねー」
朗らかに笑って道へ出ると、高く1つ鳴いて走り出した。
マオの記憶を頼りに、カリアナはその通りを歩く人々に声を掛ける。
「あのね、探し猫なんだけど、ここら辺でみかけてないかしら? 特徴は……」
忙しいと突っぱねられるマオを庇う様に、話しを継いで尋ねるが、殆どの答えは知らないか、或いは、最近は見ていないだった。
「んー。居ないみたいね。次、どこを探す?」
黒猫が得てきたらしい情報も同じらしく、順調に匂いを追ったマルチーズも暫く進むと、迷うことが多くなってきた。
次の行き先をマオが思い付かなくなった頃、小宮の脳裏に過ぎるものが有った。
匂いが薄れ、目撃情報も途絶えている。
どうか御無事でと目を閉じた。
シオの案内で工業区に向かったナツキと鞍馬の頬に工場の合間を縫った風が触れる。
この辺りは工場の影が多く庇の下は風も相俟って街中よりも僅かに涼しい。
「――よ、っと……よし、猫の気分で探そう」
鞍馬がそう、工場の塀に飛び乗るとすぐ、その影に小さな餌皿が見えた。
君の見込みは当たったようだと、塀の上から飛び降りてナツキの方を見た。
「餌が貰える……猫太郎のことを知っている猫さんいるかも」
聞いてみようかと門を叩くと、1人の職員が顔を覗かせた。
ナツキが門の内へ一歩進み、餌皿を指す。
「猫さん、いる?」
職員はあれは偶に訪れる野良猫の物だという。その猫は痩せていて猫太郎とは似つかない。
猫太郎の特徴を伝えると、やはり首を横に振りながらも、この近隣の工場なら蒸気を立てて動かす音を立てる機械も少なく、職人に猫好きも多いから寄り付いているかも知れないと答えた。
職員の話が聞こえた鞍馬が聞いて回ろうと言うとシオに言うと、どこかぼうっとした顔で頷いた。
「何か考え事でもしていたか?」
シオは何でも無いと目を逸らした。
通りを聞いて回ると、住宅街が近付くに連れ、知っているという答えが増えていったが、最後に見たのはいずれも、マオが探し始めるよりも前の話しだった。
鞍馬が横目に覗うと、シオは落ち着き無く辺りを見回していた。
「どうした、気になることがあるのであれば教えてくれないか?」
ナツキが淡々と職員と話し、最近の猫太郎の様子を聞いている傍らから誘い、少し離れた塀に凭れて尋ねる。
マオが幼少の頃に名付けてずっと一緒に過ごしてきたと聞いたからと、ナツキと職員を見る。
飼い猫だろう手入れはされていたが年寄りらしく行動は鈍い、何年前から見ているのかも覚えていない。
「……わかった、気に掛けておこう」
その時はマオの心情を大切にする。鞍馬が頷くとシオの表情が和らいだように見えた。
「シバ、行こう!」
匂いを覚えた相棒の柴犬が尻尾を振る。
猫太郎愛用のケットを手にザレムが追う。
マオに聞いた猫太郎の特徴を思い浮かべて、日野下を見た。
「……おばあちゃん猫さんみたいだね」
呟いたザレムに日野下も視線を向けた。
「最悪のパターンも考えておくか」
抑えた声で応え、丁字でザレムと分かれる。
「人が居たら聞いてみよう、見た人は居るかも知れない」
「――ああ、何かあったら連絡する」
日野下が一方へ進み、ザレムもシバを走らせて猫が隠れられそうな物陰を覗く。
散歩コースはマオと向かった2人に任せることにして、そこから少し外れるように工業区まで脚を伸ばす。
猫太郎の気紛れによるものか、近隣住人の目撃情報はまちまちだった。
「……では、猫のたまり場のような所に心当たりはありませんか?」
猫太郎のような猫は見ていないといった住人にそう尋ねると、それならと通りの先を指した。
その先は空き地で煩いくらい集まっているという。
ザレムは礼を告げると、行ってみるかとシバを促した。
日野下が向かった道の先には住宅街が暫く続く。野良猫ならいそうな路地裏を覗いても、飛び出してきたのは別の猫だ。
「数日間も住処を留守にするなんて少し考えにくいな」
足を止めて首を捻る。
雌の猫の縄張りは雄に比べると狭いと聞く。
もしかしたら、家の近くにまだいるかも知れない。
走って向かう公園。
呼んでみたが返事は無かったと言ったマオの寂しげな表情が過ぎった。
――公園に連れて行ったこともあったかな。気に入ったみたいで、そこから連れて帰るのが大変だったな――
――私が、小っちゃい頃ね。今は抱えて帰れるから――
「…………ザレム殿か、見付けた」
●
公園を隅々まで見て回る。植え込み中を覗いたとき、茶色の毛並みが見えた。
青く茂った葉を掻き分けるようにその姿を審らかにすると、身体を丸めて横臥した猫の亡骸があった。
近くに居るだろうザレムへ連絡すると、切れかかった彼の錬結通話が音声を震わせながら他のハンターへも日野下の声を届けた。
然程離れていないザレムがすぐに駆けつけ、場所と状態を他のハンターへ伝えた。
日野下の連絡に驚いていたハンター達は公園へ向かう。
鞍馬とナツキはシオを連れて駆けつけたが、カリアナと小宮は今暫くマオの様子を覗いながら遠回りをしている。
ザレムが茂みから抱き上げた亡骸をケットの上に寝かせる。
「最期に、みんながかなしい顔をしてるの、見たくないから、一人で逝くんだって。……それだと、この子はずっと一人。ずっとさびしいまま」
傍らに屈んだナツキが丸くなった猫太郎の背をゆっくりと撫でた。
寂しいと言う様に猫は何も答えない。
表情の安らかさにザレムはほっと息を吐く。苦しむことは無かったようだ。
目許を濡らして瞑った目は笑っているようにさえ見える。
「……受け止められるだろうか」
鞍馬が猫を見詰めて呟いた。シオから聞いているのは、楽しそうに話していたという猫太郎との思い出話だけだ。
――一緒に寝ると、お腹に乗ってきてすごく重いの。潰れそうなの――
――寒い日に抱っこすると、いつまでも抱えていたいくらい温かいんだぁ……――
大丈夫だとザレムが頷いて伝話を繋ぐ。
傍にマオがいるのだろう、答えた小宮の声はそれを悟らせないような明るさがある。
収穫なく戻ってきた黒猫とマルチーズをおかえりなさいと撫でながら、カリアナと喋るマオの様子を話す。
見付からない状況に焦り、疲れも見えている。不安げな表情も見え、少し前からは猫太郎を呼ぶ声を掛けずに、影や隙間を覗くことが増えていた。
「わかりましたー。マオさんに代わりまーす……」
ザレムが猫太郎の死を伝えると言うと、暫く経ってマオの声が聞こえた。
代わりましたと言う声は硬い。伝話越しにも伝わる切望にザレムの指が微かに震えた。
「……落ち付いて聞いて欲しいんだ。……猫太郎、見付かったよ。君の言った通りの笑ってるみたいに目の細い三毛猫だった……」
公園にいると告げて話しを終える。
程なく現れたマオはカリアナが背をさすり、小宮が手を引いていた。
引き摺る様な重い足で集まっているハンター達の方へ近付いて行く。
そのすぐ側に寝かされた亡骸を目にした途端膝から崩れる体を日野下が抱き留めた。
日野下の手を借りながら傍に座ると、ここにいたのと尋ねて見上げる。日野下が頷くと、あなたが見付けてくれたのかと、亡骸へ嘗てそうしていたように指を伸ばして喉を擽る。
「その、影にいた」
植え込みの方を指すと、マオは眦を赤くしたまま目を細めた。
「何度も呼んだんだけどなぁ……答えてくれないんだもん」
嗚咽混じりの震える声。
マオの背に暖かな掌が触れた。
「いなくなったのは、お別れが寂しいから」
ナツキの声が穏やかに紡ぐ。見付けてあげたから、この子はもう寂しくない。
そう、静かに背をさすりながら。
「お墓を作ってあげたら良いと思う、いつでも会いにいけるように」
私もそう思うと鞍馬が傍らに屈んで手を添える。
「……家族、だったんだろう? いつまでも、ともにいたいと、思う……」
忘れてしまった家族という存在を思い浮かべる。理解しがたい情を手探りに、それでも分からないと自嘲しながら。
この子は家族なのだろうと泣き濡れた横顔を見詰める。マオの首が縦に揺れた。
「家の庭がいいかな、好きだった物を一緒に埋めてあげよう。天国に持って行くんだ」
ザレムが寝かせたケットを指して、マオを励ます様に笑む。
「俺も猫を飼っているから同じ経験があるよ。爺さんだったんだ……猫太郎と会えているかもしれないな」
毛並みをゆっくりと撫でると、そうだといいとマオは目を細める。
温もりの失せた身体を膝に抱き上げると軽いなと呟いた。
ハンター達に礼を告げ、ケットに包む亡骸を大切に抱きかかえて帰途に就くマオを見送る。
空耳だろうか、どこからともなく、猫の鳴く声がした。
ずんぐりと大柄な身体を思わせる、どことなくふてぶてしいようなその声は、とても嬉しそうに聞こえた。
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相談 カリアナ・ノート(ka3733) 人間(クリムゾンウェスト)|10才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/08/25 12:15:09 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/08/24 02:13:21 |