大きな少女と村のお祭り

マスター:春野紅葉

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
8日
締切
2016/08/31 22:00
完成日
2016/09/13 15:08

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●辿り着いた町、その現
 煉瓦製の道を歩きながら、ふと日々つよさを増す日差しを見据えて、ユリヤは一つ溜め息を吐いた。
「おお、ユリヤちゃん……」
 肉屋の店長が、ユリヤに気づいて声をかける。じゅうじゅうと音を立てながら焼かれる羊肉はこの町の名産品の一つ
「こんにちは。今日も暑いですね……こうも暑いと大変ではないですか?」
「まぁねぇ……焼いてもこの近所の人しか買わないしね……店じまいだって考えちまうよ」
 やややつれたような声を上げる。ユリヤは少しばかり世間話をした後、店を後にした。
 表通りを道なりに歩き、照りつける陽射しを見上げ、その眩しさに目を細めて、再び溜め息を吐いてこれから行く道を見る。まず目に付くのは道の端、誰のものともしれぬ家屋を背もたれにするようにして座る人達。
 多くの人達はいわゆる夜勤組と呼ばれる、夜になって力仕事に駆り出される人達だろう。外から来た人々が通る繁華街のようになっている表通りはともかく、住民たちの住まう裏通りは普段からこんな感じだった。
「のどかでもなんでもないですよ……これ」
 辛気臭いという以外の感想が出ぬほど、この町はすたれている。前情報であった酪農が盛んで云々とは別の話だろう。町の人にそもそもの活気がなかった。
「ううん……頑張らないと。折角、新しい居場所を見つけて、新しい仕事も見つけたのだから!」
 自分の両頬を叩く。パンッという綺麗な音が、路地に冷たく響いた。ユリヤが始めた仕事は、夜間に町の外で放牧されている羊の護衛だ。少なからず狼が出るという話があり、ハンターでもあるユリヤが駆り出されている形だった。

●祭りの始まり
 家へとたどり着いたユリヤは、やや元気になったような母を見た。
「ただいま、お母さん」
「おかえりなさい、ユリヤちゃん……そうだ、近々お祭りがあるらしいわよ」
「お祭り?」
 買ってきた物を机に置いたユリヤの耳にそんな単語が残った。
「そう。お祭り。最近暑いでしょう?なんでもここら辺ではこの時期にお祭りをやるらしいの」
「そうなんだ」
 しかし、祭りをやったとして、活気などないように思えた。何より、主な物品が肉と痩せた野菜、それに羊毛ぐらいしかないこの町で、町の住人が祭りをやった所で、それほどの楽しさが出るとは思えない。
 ふと、ユリアの脳裏にある人たちのことが思い出された。自分よりも遥かに色々な事を知っているあの人達を招待できれば、もしかしたらもっといい祭りになるかもしれない。
「ハンターの皆さんも呼んでみよう! うん、これ良い気がする!」
「ユリヤちゃん?」
 この町に来てから少しした時に町長と会ったことを思い出す。ふくよかな男性という印象以外に特に思い浮かばぬものの、町長はユリヤ達に対して、何でも言ってくれと言ってくれていた。
 町おこしのためならば、きっと彼も賛成してくれるだろう。そんな気がして、ユリヤは顔を上げた。
「お母さん。私、明日は町長さんの所にいって来るね。お手紙出してくる」
 ばたばたと自室へと向かったユリヤは、すぐに町長への手紙を書くと、そのまま飛び出すように家を再び後にした。

 翌日、ユリヤは町長屋敷へと訪れていた。
 面談のための部屋に通されたユリヤは、まるまると太った40代の男の対面に座った。豪華な装飾の施された椅子やテーブル、絨毯といった品々から、彼がどれだけ充実した生活をしているのか、誰だってすぐ分かる。
「ユリヤさん……昨日の今日で参られるとは。私も忙しいのですが」
「分かっています! だから手短に済ませます! お手紙でも記しました通り、今回のお祭りに、ハンターの皆さんも招待するのはどうでしょう」
「してどうするのかね? このなにもない町に」
「ハンターの皆さんなら、きっと! きっとこの町にも活気を呼んでくれると思います。私達が知らないことを、彼らは知ってると思うんです!」
 まるまるとしたお腹を撫でるようにしながら、にこにことしている町長に、ユリヤは真っ直ぐに、やや前のめりになりながら言葉を告げる。
「私達の出店以外に、ハンターさんにも出店を開いて貰ったり、企画をしてもらえば、この町の活性化につながるはずです」
「活性化……ねぇ」
 町長がちらりと秘書らしき細身の男を見る。男が小さく頷くと、町長も少し思案するような表情を浮かべた。
「分かりました。考えてみましょう。大丈夫なら、あなたが依頼書を書いて頂けますか?」
「はい! どうかお願いします!」

●暑い夏、なら
 それから数日後、外に出ればどっと汗が噴き出すような炎天下、依頼を探してオフィスに出てきたハンターは、依頼の張りだされた提示板の一角に、1つのチラシを見つける。
『静かな街に活気を! 皆さんにお祭りの協力をお願いします! 町の人が出す出店を回ったりしてお客さんとして楽しむもよし、自分達で出店を開いてみるもよし。お一人様から団体様まで。一緒に祭りを盛り上げませんか?』
 そんな見出しで始まったチラシは、小さな町で開かれるお祭りへの招待状。
「出店を開く場合は場所のご用意はもちろん、必要な物はこちらでもご用意いたします、か」
 夏が盛りに入ってきたこの時期にお祭りと言われ、ハンターはそのチラシを1つ、手に取った。

リプレイ本文

●華やかな一日のその前に
「あっ、あの。今日はよろしくお願いします!」
 ユリヤが頭を下げた。空はまだ白色を帯び始めた ばかりである。今集まってきているのは、出店をすると立候補した数人のハンター達と、元々出店をするつもりだった町の人々、特に本格的に客を入れる前に下準備が必要なグループのみだ。
 祭りは何本かあるメインストリートに並ぶようにして出店を設置し、飲食店、遊戯店、飲食店といくつかのまとまりを形成しており、町の中央にある広場に向けてまっすぐに続いている。広場では祭りが始まった後で様々な催し物が行われる予定がある他、催し物の屋台がいくつか場所を用意されている。
 シン( ka4968 )が中心となって宣伝を出したため、お祭り前日までに町を訪れた人々の数だけで、これまでのお祭りで外から来た客の総数を軽く超えており、にぎやかになる事は間違いなしであった。
 ユリヤはハンター達の申請してきた材料の運搬や最終確認のために駆り出されていた。
「ドネルケバブって料理があるの」
 まずユリヤが確認に来たのは、マリィア・バルデス ( ka5848 )が立案したドネルケバブの出店の場所だった。そこではマリィアが鍛冶屋に作らせた縦長のソレ、ドネルケバブ用の熱源のことを、周囲にいる肉屋の男たちに説明していた。
「この金属棒に羊肉なんかを巻き付けて、回しながら、外側からそぎ切りして……」
 実演をして見せながらの説明は、肉屋の男もわかりやすいのか、死んだような眼をしながらも、不思議そうに機材を見つめている。
「すごく目を引くし、羊肉の産地ならちょうどいいと思うわ」
 試しにと少しばかりそぎ落とした物をピタパンに入れて作り終えたサンドイッチを、目の前の男に差し出した。それを食した肉屋の男の目が、死んだようなソレから、華やいでいく。
「こんなおいしい食べもんを食べたの初めてだ! もっと他に、これ以外にも何かないんですか!?」
 朝方に出すには少し大きめの声で男が言うや、周囲の者たちが何事かとみる。
「そうね……ビールはあるかしら?」
 少し考えてからそう告げ、肉屋が肯定するのを見て彼女は再び作り方を説明しながら、実際に作っていく。そのマリィアの姿に、あるいは漂ってくる羊肉の匂いに、遠巻きにいた町人たちもつられて近寄ってみつつある。
「お祭りでビールって言われたら、合わせるならこれでしょう?」
 やがて、小さなパンからはみ出した大きなソーセージが特徴的なホットドッグとカリーブルストが並ぶと、どこからかおおっという感嘆の声が漏れた。

 町の人々の協力を得ながら、赤ワインとシードルの樽を自分が店を開くのに割り振られた場所へ運び込んだ星野 ハナ ( ka5852 )は、普段通りの笑顔で町人へとあざとくお礼を言って、少し腰を落ち着けた。彼女が少しだけ休んでいる間に戦馬に積んでいた荷物も運びこまれ、準備万端である。
「せっかくなら、産地直送特選屋台でババァンと盛り上げたいじゃないですかぁ」
 そういうと、ハナは町人へとこの時期の野菜と果物を確認する。
「もちろん、レシピは提供するんで町の皆さんも頑張って下さいねぇ。健気さでバッチリ胃袋掴んで彼氏GETな邪心もありますからお気になさらずですぅ」
 いつも通りの笑顔でそう告げながらレシピを配っていくと、不思議そうに村人たちが鼻の方を見ていた。
「それじゃあ、燻製塩を用意してっと……がんばりましょぉ」
 ダッチオーブンを使って作ったソレを用意しながら、あざとくハナは拳を天に突き上げた。やや不思議そうにしながらも、町人たちがそれに従って手をつきあげた。はきはきとしつつも、どこかのんびりとした雰囲気が、その一帯を覆っていった。

 マリィアやハナたちが割り振られた場所は温かい食事の出店が密集する予定の場所であったが、夏場の祭りである。当然、冷たい商品だって並ぶ。
 ティス・フュラー(ka3006)が姉のアルスレーテ・フュラー(ka6148)に誘われて作ることになったのは、かき氷店であった。
「アルスお姉様がお祭りに行こうって誘ってくるから何かと思えば、出店の手伝いなのね……」
 やるからには、手を抜かぬと、気を引き締めるティスが町人たちが提供してくれた水にピュアウォーターをかけていると、そこへ灰色の髪をした青年、咲月が姿を見せる。
「フュラーさん、初めまして。咲月だ。今日はよろしく頼む」
「ええ。ティスよ、よろしく」
 一度、ピュアウォーターを止めて、ティスが振り返ると、かすかに笑んで、手を差し出す。咲月はその手を取りながら、内心のどぎまぎとした気持ちを抑える。
「お姉さんは美しいが、妹さんは可愛らしいな」
「お褒めに預かり光栄です。これからピュアウォーターで浄化した水を氷にするので、冷凍庫に入れていただけるでしょうか?」
 自然に口に出した咲月の言葉を静かに受け入れて、ティスが返すと、すぐに咲月が動き出した。
 一方、ティスを連れ出してかき氷屋をやろうとした当の本人であるアルスレーテ・フュラー(ka6148)は、シロップを作る練習に林檎のような果物を怪力無双を駆使して握りつぶし、その果汁と天然蜂蜜を混ぜて簡単なシロップを作りだす。それをこれまた練習で咲月に作ってもらったかき氷にかけていく。それを3つ完成させたところで、ふと我に返る。
「すごく今更だけど……可愛らしさの欠片もないわね……これ」
 作った物を口に運びながら、アルスレーテは自分の身体が筋肉質になりつつあることを改めて実感しつつ、さわやかな口当たりのかき氷に舌鼓を打った。

 下準備が必要な出店をざっと見て回ったユリヤが休憩がてらに入場口となる予定の場所まで来ると、そこにいた火艶 静 ( ka5731 )に声を掛けられた。
「おはようございます!どうかしましたか?」
「ユリヤちゃん、見回りの合間に少し催し物を一緒にやってみませんか?」
「催し物……ですか?」
「ええ、町の人も参加している方が、皆さんも身近に感じられて楽しめると思うんですよ…」
「なるほど! なにをするんですか?」
「基本は居合切りの実演をしようと思っていて。目玉としてユリヤちゃんと殺陣をしてみようかと」
「面白そうです! やってみたいです」
 目を輝かせてユリヤが言うのを見て、静が優しい笑みを浮かべる。各々の準備が進んでいく中、日差しがより強く昇っていく。祭りの始まりはすぐそこまで近づいている。


●賑やかな一日を
「これより、開催致します。ご来場のお客様は入り口で地図付きのパンフレットをお持ちになって進んでください」
 開始直後の案内役の一人として、ユリヤは声を上げていた。いつもなら煉瓦製の道路や向かいの壁が見える道路は、人の姿で見えなくなっている。
「ユリヤさん、あとは私達に任せてもらって大丈夫だよ」
「ツェザーリさん……大丈夫ですか?」
「ああ。君には他にも仕事があるんだろう?」
 白髪の混じった40代ほどの男性が告げる。かつてのユリヤの村から一緒に着いてきた元村人の一人で、ユリヤの代わりに村出身の人々を纏めてくれていた人であった。
「君がユリヤか?」
「はい……?」
 ツェザーリの言葉をふと耳に入れたザレム・アズール ( ka0878 )は列から少し離れて、そう声をかけた。
「招待してくれてありがとう。今日は楽しませて貰うよ」
「あっ、はい! 来てくれてこちらこそありがとうございます!」
 手を振って立ち去っていくザレムを見送って、再びユリヤがツェザーリを見ると、彼は既に入場してくる客に地図を手渡す作業に移っていた。ユリヤは自分の仕事に移るべく、その場から静かに立ち去った。

 パトリシア=K=ポラリス(ka5996)はディーナ・フェルミ(ka5843)に誘われて町に来ていた。
「サバちゃんは、ヨイヒトと巡りあったんダヨ!」
 ディーナの連れてきた鯖猫のサバちゃんに挨拶をしてから、出店巡りへと繰り出していく。
「見たり食べ歩きもしないともったいないの。すごくいい匂いなの」
 周囲にある出店を見て、思わずディーナが呟く。
「パティちゃん、半分こして全制覇目指すのはどうかなぁ? 2人でなら出来そうな気がするの」
「良いかもダネ! じゃあ、しゅっぱつ!」
  そう言って、二人は一緒に出店の方へと歩き出した。
「ケバブサンドやひんやりかき氷、どれも美味しそうダヨ!」
「焼きそばも美味しそうなの……じゅるり」
 目を輝かせながら、数多の出店を渡り歩きつつ進んでいくと、ディーナはふと足を止めた。
「パティちゃん、手品があるの」
「ホントだ。行ってみよう!」
 二人が見つけた手品店では、二人の前にきたお客が、銀髪の少女――札抜シロ( ka6328 )の手品を見て、感嘆の息を吐いていた。どうやら、お客が引いたカードが何なのかを当てて見せたようだ。
「それじゃあ、次は、あなたが持っているカードをそのままトランプの束の中に適当な所に入れてほしいの」
 少女はお客がトランプを差し込んだのを見て優しく笑ったかと思うと、手をカードに触れたあと、一枚のカードも取ることなく、何かを持ち上げるような仕草を見せる。
「はい、それじゃあ、一番上のカードをめくってみて欲しいの」
 お客がそれをめくる。するとそこにあったのはお客さんが中ほどに置いたはずのカード――ではなかった。
「あらら……?」
 失敗に気づいたように、そっと帽子を脱いで、そっと頭に手を持って行く途中、彼女の手が移動していくリボンの所に、一枚カードが挟まれていた。
「こんなところに来ちゃってたの! お客さん、これなの?」
 ぎょっとした様子でお客が周囲に振り返って驚いた様子を見せた。
「パティちゃん、すごいの!」
「手品、すごいネ!」
「うん! あっ、もうそろそろ時間なの。私達も催し物するの」
「そうだった! 速くいかないとダネ!」
 ディーナに同意して、二人はそのまま中央広場に向けて歩き出した。

 フローレンス・レインフォード(ka0443)は何かとストレスが貯まっていることもあって、気晴らしがてら立ち寄っていた。地図を受け取って入り口から入ると、前の方に見覚えのある人の姿を認めた。
「エリス?」
 フローレンスの声に振り返ったエリス・カルディコット(ka2572)は知り合いと分かって笑みを浮かべる。
「お久しぶりです。チラシを見て、気晴らしに良いかと思いまして」
「あらエリスもそうなのね? なら、折角だし一緒に回ってみましょうか」
 歩き出した二人はハンターがやっているお店を重点的に回っていく。
「あそこのお店、行ってみましょう」
 フローレンスは焼物屋ハナと看板の置かれている出店を示して言う。エリスも頷いてそれに従う。二人は羊肉や鶏肉の串、焼きトウモロコシにトウモロコシの天麩羅などのおつまみと赤ワインを頼むと、少し離れた場所にある席に着いた。
「美味しいわね」
「そうでございますね……。ふふっ、フローレンス様、お口にお弁当が付いてございますよ?」
 楽しそうに話していると、赤ワインを飲んでいたエリスの顔がほんのりと赤みを帯びる。エリスはフローレンスの口元に手を伸ばすと、食べかすをつまみ、それを自分の口に運んでしまう。
「エリスったら、もう酔っているの? 少し弱いのね、大丈夫?」
 エリスの近くからお酒を少しだけ遠のかせながら、フローレンス達は食事を進めていった。

 リラ(ka5679)達6人はお祭りを楽しみながら美味しい物マップを作るべく奮闘していた。既に色々なお店を回っており、アルバ・ソル(ka4189)の手にはクウ(ka3730)に預けられた食べ物で塞がれている。
「甘くて美味しいです!」
 出店で購入したミックスジュースを飲み終えたエステル・ソル(ka3983)はクウの後ろに隠れるようにしながら一息入れる。
「あ! あっちにも美味しそうなのが! ちょっとアルバ、これ持ってて!」
 そう言ってクウは持っていた串焼きをアルバに持たせてそのお店に突撃する。クウに続くようにして6人で訪れると、そこでは棒に羊肉が巻かれ、横から熱源にさらされていた。
「お肉がいっぱいです!」
「いらっしゃいませ。ケバブっていうのよ」
 エステルが思わず声を出すと、店頭にいたマリィアが告げた。
「ヘルお姉さまわけっこさんしてくれますか?」
 肉が苦手なエステルの問い掛けにヘルヴェル(ka4784)が笑って了承する。
「ねぇ、食べ物も多いし、そろそろ一旦、腰を落ち着けない?」
 出店から出たところで優夜(ka6215)がふと告げる。
「じゃあ、あそこ空いてるし、座ろうよ!」
 2つ空いていた3人席をくっつけ、6人はそこに座って食事を始めた。
「ほらほら、エステル、隠れてないで!」
 まだ人見知りしているのか、優夜から隠れるような位置に座ろうとしたエステルをリラと優夜の間に座らせつつ、クウも席に着く。
「ほら、リラも優夜も一杯食べてくださいね? 食べきれない物はアルバが食べてくれるでしょうから」
 ケバブをエステルと分けて食べる合間に、ヘルヴェルが言う。6人はそんな風に、楽しみながら食事を続けていく。
「あっ、あれって!」
 不意にクウが言って、人ごみの方に声をかけた。クウの声に反応して、人ごみからひょっこりと姿を現わした少女に、他の4人も反応した。
「やぁ、ユリヤさん。久しぶりだ。今日はお世話になりにきたよ」
「お久しぶりです。楽しんで……貰えているようですね」
 テーブルの上に並ぶ品々を見て、ユリヤはホッとしたように笑った。
「はい! お祭りさんは楽しいです。笑顔さんがいっぱいで」
「お久しぶりですね、ユリヤさん。お元気でしたでしょうか?」
「はい、私は元気でやっていますよ。……そちらの方は初めまして……ですよね?」
「優夜というの。よろしくね?」
「ユリヤです! よろしくお願いします」
「そうだ、ユリヤさん、良かったらこれから一緒に回らない? 企画者だからこそ、裏方ばかりじゃなくてお祭りも楽しまなきゃ、ね?」
「これから中央広場の催し物に参加するので、それまででしたら時間はありますけど……よろしいのですか?」
「良いと思いますよ。ああ、そうだ。これ」
 ヘルヴェルが頷きつつ、一枚の地図を取り出した。クウと一緒に作っていた美味しい物マップである。
「いかがですか? ここまでの重点見回り地点ですよ?」
「では、ここから先も作らないとですね」
 中身を見て、ユリヤが微笑を零す。6人はほんの少しの間だけ、7人に増えて再び歩き出した。

「やっだ、りんちゃんったらかーわーいーいー」
 可愛らしいワンピースに髪飾り、そしてメイクといったお洒落をした大伴 鈴太郎(ka6016)をみて、ロス・バーミリオン(ka4718)が周囲にも聞こえる程の声でそう言った。
「ちょ、姐御! 声でけーよ! 知り合い着てたらどーすンだよぉ……」
 慌てた鈴太郎は動揺して周囲を見た後、髪飾りに触れたり、どこか心落ち着かない様子で見る。
「……ホ、ホントに一目じゃオレってわかンない?」
「大丈夫、お友達に会っても言わないであげる! それじゃあ、いい!? イケメン探すわよ!」
「え? え? イケメン探し??」
 自身もお洒落を決めたロスはそのまま鈴太郎を引き連れて歩き出す。二人が少し進んでいくとやや足早に進むパトリシアとディーナのペアの姿が目に入る。
「ね~ね~見て見て~っ! りんちゃん可愛いでしょぉ!」
 二人へと追いついた途端、ロスは先程の言葉は何とやら、すぐにばらしてしまう。
「ぎゃああああ!! 姐御、さっき言わねーつったじゃん!?」
 思わず叫びながら視線をパトリシアとディーナに向ける。
「あの……その……このカッコはよ……オオオレ、あそこの出店で何か買ってくる!」
 しどろもどろになった鈴太郎は、言うが早いか、そこにあった串料理の店へと突っ込んでいった。
「ふふふっ、じゃあね~!」
 ロスもそれに続くように、鈴太郎の後を追って料理の店へと足を進めて行った。

 お酒を片手に出店を巡っていた鵤(ka3319)が訪れたのはアルスレーテ達がやっているかき氷店だった。
「咲月君。俺に氷をくれないかい?」
 咲月がどことなく不快感を覚えたような顔を見せつつ、氷を手渡してくると、鵤はそれに手に持っていたお酒をそのままかけて、丸ごと食らう。
「はぁ~やっぱ夏はこれよねぇ、シロップなんぞお子ちゃまよお子ちゃまぁ」
「るかちゃーん。なぁに一人で枯れてんのよぉ」
 みぞれ酒の如く食らっていた鵤の下に現れたのは鈴太郎を連れたロスだった。
「んん? おっ、そっちにイケメンがいるぞ? 逃げちゃうかもだね~」
 ロスを視界に入れた鵤はそのまま適当な方角を指し示す。ロス達2人がそちらに向けて走っていくのを見届けて、鵤は再びかき氷に意識を向けた。

 事前に行きたい場所を調べていたスフィル・シラムクルム(ka6453)は、あらかた行きたかった場所に行き終えてひと休みをしようとしていた。しかし、視界の端に他の出店とは少しだけ様相の違う店を見つけ、何となく覗いてみていた。
「こんにちは、型抜きって知ってる?」
 店主のオシェル・ツェーント(ka5906)はそう言って入ってきたスフィルに型抜きの説明をしていく。
「このお菓子にこの針みたいなので型を抜き取っていくんだ。お菓子だから終わった後は食べれるし、景品も用意してるよ」
「とても面白そうじゃない。チャレンジするわ! 成功できるかわくわくするわね……」
 オシェルから物を受け取ったスフィルは席に座ると、慎重に抜き取っていく――のだが、力を入れ過ぎたのか、少しして割れてしまう。
「むっ、意外と難しいのね……少し悔しいわ、もう一度やらしてちょうだい!」
 言うや、悔しそうにもう一度、新しいもので進めていく。

 ●催しと一日の終わりに
 ディーナとパトリシアは催し物を行なう舞台の陰で待機していた。二人はパトリシアの歌に合わせて伴奏をディーナが奏でるつもりであった。
「感謝の気持ちを伝えるの。でもちょっと緊張するの……」
「大丈夫ダヨ!」
 楽しげに笑うパトリシアの笑顔を見ると、ディーナにも出来るような気がしてきた。頷き合った時、ちょうど良く、舞台の上から前のグループが立ち去る音がした。
「行こう……」
 どちらからともなくそう言って二人は舞台上に上がっていく。
「皆!楽しんでるカナ~!?」
 パトリシアが元気よくそう告げて、歌を紡ぎだす。ディーナはそれと共に伴奏を奏でていく。とても心地よく、どこか心の底から楽しいと思わせてくれるような、そんな声と音が会場を包んでいった。

 中央広場に辿り着いたヘルヴェル7人のうち、リラとエステルはユリヤに案内される形でそのまま広場に設置されている舞台の袖に消えて行き、4人となった。
 ヘルヴェルはそのまま優夜を連れ、僅かにクウとアルバから距離を取る。
「リラたちの歌はすぐなの?」
「ええ。こんなに人がいるなんて思わなかったから、エスティが緊張してしまわないか心配ですけれど」
 二人で隣同士の席を取ったクウとアルバが楽しそうに喋っているのを見て優しい笑みを浮かべたヘルヴェルは、すぐに優夜の問いを受けてそう答えた。
 事実、二人がそう問答をしている間に、リラとエステルが舞台上に姿を現わし、合唱を始める。透明感のある2人の歌声のハーモニーは、どこか心を癒してくれるような響きがあった。
 2人の歌声に癒されながら、ヘルヴェルは隣に座る優夜の頭を撫でながら、その歌を楽しんでいた。

 静はユリヤを見つけてもう一度、最後の申し合せの殺陣の特訓をしていた。数回、催しを繰り返したことで、ユリヤの心もどこか晴れやかになりつつあるのが感じ取れる。
「ユリヤちゃん、元気になっていただけたのですね……」
「……はい、ありがとうございます。静さん」
 杖術の特訓も兼ねた殺陣の特訓を一区切りした静が言うと、ユリヤは少しの疲労の中で、少しばかり晴れやかな笑みを漏らす。少し休憩をしていると、自分達の順番を告げるアナウンスが聞こえた。
「では……先に私が居合切りの見世物をしてきますから」
「はい! いってらっしゃいませ!」
 壇上に上がり、今日すでに何回かこなしてきた居合切りの手本を見せると、観客から歓声が聞こえる。幾つかのそれをしていくと、頃合いを見て、ユリヤを呼んだ。
「これから……殺陣をお見せします」
 静かに告げて、日本刀から棍に持ちかえる。じりじりと間合いを詰めながら、武器を振るう。どよめきが会場を包み、カンと気持ちの良い音が響く。ユリヤの気合を込めた突きを払い、引っかけて、弾く。
 それを幾度となく、順番や攻め方を変えながら繰り返して、静はぴたりとユリヤの首筋で棍を止めた。
 しんと静まり返った会場から、やがて拍手が鳴り響く。間合いを開け、礼をしてから、2人でその場から降りた。
「……あれ?」
 ふと隣にいたユリヤの声がした。隣を見て、ユリヤの視線の先を見る。そこにいたのは崩れ落ちたようにして壁を背にする一人の男性だった。
「だ、大丈夫ですか?」
 近寄って声をかけたユリヤに続き、その容態を見る。
「……熱中症とは違うみたいですね、お疲れなのでしょうか?」
 男に触れてみて、平温を感じ取る。
「分からないですけど……」
「あぁ、あんたは……大丈夫だから、ほっておいてくれ」
 声に気づいたのか、顔を上げた男は、死んだ目をしていた。
「大丈夫には見えません! 何か悩み事でもあれば、お聞きしますよ?」
 そう言って、ユリヤは男性に問いかけを続けていく。静はその姿を見て、彼女はきっと大丈夫だと、どことなく感じていた。

 どれほど活気に満ちた一日だったとしても、終わりは来るもの。日が暮れて提灯の明かりだけになった夜、不意に町の外で轟音が鳴り、パッと明るく照らされた。シンが提案して、大急ぎで作られた花火だ。
 大急ぎだったがためか、技術不足か、それほど鮮やかさは足りてない物の、その音と輝きは間違いなく祭りの終わりには相応しいそれのように、誰もが感じていた。


●祭日の影に
 祭りが始まってから少しして、町の中に入っていく人々が途絶えた頃合いだった。町の入口にいた白髪混じりの壮年男性――ツェザールの下へ、彼よりはいくらか若い男が近づいてきた。
「こんにちは、ツェザールさんですね?」
 まさに張り付けたという言葉がこれほど似合う笑顔の男は他にいないだろうというほど、露骨な作り笑いを浮かべる男は、それだけでも不気味だった。
 だが、ツェザールはその男を見ても、別段に驚くことはなかった。
「町長秘書様。いかがなさいましたか?」
 男――秘書は、張り付けた笑顔をより一層深くして、ツェザールの耳元に何やら告げ口する。
「なっ、本当ですか!?」
「ええ。町長は皆さんの心中をお察しし、私にあなたへお伝えするように申したのです」
 やや疲れているような覇気の無い瞳をしていたツェザールの目に、僅かな光が灯る。
「……しかし、証拠は、証拠は……」
「えぇ、すぐにでもお見せいたしますよ……大丈夫です。それを確認してからでも宜しいですよ?」
「分かりました。皆にも伝えます! ありがとうございます!」
 ツェザールが深々と頭を下げた。秘書の笑みがいびつなソレに変わる。
「それでは、本日はこれにて」
 そう言って、秘書は闇にとけるようにして消えて行った。

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重体一覧

参加者一覧

  • 爆乳爆弾
    フローレンス・レインフォード(ka0443
    エルフ|23才|女性|聖導士
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • ピロクテテスの弓
    ニコラス・ディズレーリ(ka2572
    人間(紅)|21才|男性|猟撃士
  • ツナサンドの高みへ
    ティス・フュラー(ka3006
    エルフ|13才|女性|魔術師
  • は た ら け
    鵤(ka3319
    人間(蒼)|44才|男性|機導師
  • 疾く強きケモノ
    クウ(ka3730
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 正義なる楯
    アルバ・ソル(ka4189
    人間(紅)|18才|男性|魔術師
  • Lady Rose
    ロス・バーミリオン(ka4718
    人間(蒼)|32才|男性|舞刀士
  • 絆を繋ぐ
    ヘルヴェル(ka4784
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • 王女の私室に入った
    シン(ka4968
    人間(蒼)|16才|男性|舞刀士
  • パティの相棒
    万歳丸(ka5665
    鬼|17才|男性|格闘士
  • 想いの奏で手
    リラ(ka5679
    人間(紅)|16才|女性|格闘士
  • 森の主を討ち果たせし者
    火艶 静 (ka5731
    人間(紅)|35才|女性|舞刀士
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師

  • オシェル・ツェーント(ka5906
    人間(紅)|19才|男性|符術師
  • 金色のもふもふ
    パトリシア=K=ポラリス(ka5996
    人間(蒼)|19才|女性|符術師
  • 友よいつまでも
    大伴 鈴太郎(ka6016
    人間(蒼)|22才|女性|格闘士
  • お約束のツナサンド
    アルスレーテ・フュラー(ka6148
    エルフ|27才|女性|格闘士
  • 即疾隊仮隊士
    優夜(ka6215
    人間(紅)|21才|女性|符術師
  • イッツァショータイム!
    札抜 シロ(ka6328
    人間(蒼)|16才|女性|符術師

  • 咲月 春夜(ka6377
    人間(蒼)|19才|男性|機導師

  • スフィル・シラムクルム(ka6453
    人間(紅)|17才|女性|疾影士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/08/30 19:05:34
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スフィル・シラムクルム(ka6453
人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2016/08/30 19:07:34