ゲスト
(ka0000)
橋上突破
マスター:湖欄黒江

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/09/17 19:00
- 完成日
- 2014/09/22 20:32
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「ああやっと着いた、ここが問題の橋だよ」
今回の依頼人、顎鬚をたくわえた大男のレーヴィ医師が身振りをするが、未だ橋は見えない。
視界10メートル以下の凄まじい霧が立ち込め、
目の前にあるはずの深い谷間をすっかり覆い隠してしまっていた。
霧の先からは間を置いて何度か、しゃらん、しゃらんと、小さな鈴をいくつも鳴らす音が聴こえる。
「もう何十年も前、リアルブルーから来た男が、
ここらの村で世話になった礼にこの橋を設計したんだ……彼は技師だったそうだ」
もう数歩進んでようやく件の吊橋と、それを支える木製のトラスが見えてきた。
霧のせいで谷の深さがどれくらいか分からないが、吊橋はかなり心細い代物だった。
板材を並べて作った踏板は幅60センチしかなく、すかすかに間の空いた横桁を含めてもどうにか2メートル。
渡っている最中に谷向こうから来た人と行き当たったら、すれ違うことはかなり困難だ。
「ちょっとおっかない橋だろう?
こう見えても結構頑丈なんだが、狭くて揺れるのが困りものだな。
予算の限られる中、とにかく渡れる橋を作ることが先決だったらしい」
ふと見上げれば、トラスから谷向こうへ張り渡された2本の主ケーブルそれぞれに、
小さな鈴が少しの間隔を置いて無数に結わえつけられている。これが鈴の音の正体らしいが、
「毎年この季節になると、今日みたいにひどい霧がかかってしまう。
谷向こうが見えないから、こっちとあっち、うっかり同時に渡ると厄介なことになる。
だから人が渡っている間、姿は見えなくても音でそうと分かるように、鈴をつけているのさ」
と、風もないのに橋が揺れ、鈴が一斉に鳴り響く。
レーヴィ氏は「おっといかん」と呟いて、数歩後ろへ下がった。
橋上を覆う灰色の霧の奥に、黒い影が一瞬ちらついたような気がした。
あれが問題のコボルドだろうか?
しかしこの霧では、実際どんな敵が潜んでいるやら分からない。
●
吊橋は何十年ものあいだ、山中のふたつの村を結ぶ大事な通路であった。
橋が架けられる以前、互いの行き来には何日もかけて険しい山道を歩くしかなく、
特に山奥にあった谷向こうの村にとっては、物ひとつ売り買いしに出るだけでも命がけの仕事だった。
だがある日現れたリアルブルーからの転移者がどうにかして、
ふたつの村を隔てる深く広い谷間に1本の橋を架ける方法を編み出した。
橋は全長約200メートル、大部分は木製だが、主ケーブルにだけは大枚を叩いて鋼線を使用。
道幅こそ狭いものの、橋の完成によって村同士の移動と輸送の問題は飛躍的に改善された。
以来、設計者が残していった書置きを頼りに毎年丹念な点検・補修が行われつつ、
多くの村人がこの橋を利用してきたのだが……。
●
数週間前、近隣の山で大規模な亜人駆除が行われた。
コボルドの大量繁殖が確認された為の措置だったのだが、ふたつの村には困ったことになった。
山狩りから逃れたコボルドの生き残りがこちらへ流れ込み、
更に悪いことに、どうやってそんな知恵をつけたのか、彼らは吊橋の上に居座ってしまったのだ。
「逃げ場のない一本道、通行人はしばしば食料などを担いで、しかも大荷物。
橋を通る人間は、コボルドには恰好の獲物だったという訳だ。
谷のこちらとあちらで村人がひとりずつやられた後、
どうにか逃げ延びた者が出て、彼の話でコボルドが橋の上に待ち伏せていることが分かった。
無論、私たちは橋を使わなくなった。しばらく誰も通らないでおけば、連中も諦めて他所へ移るだろうと……。
ところが、どうしても今すぐこの橋を通らなくてはいけない理由が出来てね。
昨日、谷向こうの村が数匹のコボルドに襲われて怪我人が何人も出た。
コボルドはどうにか追い払ったそうだが、あちらには医者が居ない。
薬も足りず、かなり危険な状態の怪我人も多いようだ。この知らせは伝書鳩で送られて来た……。
そういう訳で、連中が橋から退いてくれるのを待ってはいられないのさ。
それに今、橋の上には少なくとも10匹以上のコボルドが固まっているらしい。
どうしてこの一箇所にそこまで数が集まったのか、少々不思議ではあるが、
今後のことを考えると、ここでまとめて駆除出来て好都合だとも言える。
君たちハンターにとっては厄介かも知れないがね……」
また橋が揺れて、結えられた鈴が鳴り渡る。霧で覆われた狭い橋の上に10匹以上のコボルド。
レーヴィ医師は荷物を抱えて後ろに下がり、君たちの判断を待っている。
「ああやっと着いた、ここが問題の橋だよ」
今回の依頼人、顎鬚をたくわえた大男のレーヴィ医師が身振りをするが、未だ橋は見えない。
視界10メートル以下の凄まじい霧が立ち込め、
目の前にあるはずの深い谷間をすっかり覆い隠してしまっていた。
霧の先からは間を置いて何度か、しゃらん、しゃらんと、小さな鈴をいくつも鳴らす音が聴こえる。
「もう何十年も前、リアルブルーから来た男が、
ここらの村で世話になった礼にこの橋を設計したんだ……彼は技師だったそうだ」
もう数歩進んでようやく件の吊橋と、それを支える木製のトラスが見えてきた。
霧のせいで谷の深さがどれくらいか分からないが、吊橋はかなり心細い代物だった。
板材を並べて作った踏板は幅60センチしかなく、すかすかに間の空いた横桁を含めてもどうにか2メートル。
渡っている最中に谷向こうから来た人と行き当たったら、すれ違うことはかなり困難だ。
「ちょっとおっかない橋だろう?
こう見えても結構頑丈なんだが、狭くて揺れるのが困りものだな。
予算の限られる中、とにかく渡れる橋を作ることが先決だったらしい」
ふと見上げれば、トラスから谷向こうへ張り渡された2本の主ケーブルそれぞれに、
小さな鈴が少しの間隔を置いて無数に結わえつけられている。これが鈴の音の正体らしいが、
「毎年この季節になると、今日みたいにひどい霧がかかってしまう。
谷向こうが見えないから、こっちとあっち、うっかり同時に渡ると厄介なことになる。
だから人が渡っている間、姿は見えなくても音でそうと分かるように、鈴をつけているのさ」
と、風もないのに橋が揺れ、鈴が一斉に鳴り響く。
レーヴィ氏は「おっといかん」と呟いて、数歩後ろへ下がった。
橋上を覆う灰色の霧の奥に、黒い影が一瞬ちらついたような気がした。
あれが問題のコボルドだろうか?
しかしこの霧では、実際どんな敵が潜んでいるやら分からない。
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吊橋は何十年ものあいだ、山中のふたつの村を結ぶ大事な通路であった。
橋が架けられる以前、互いの行き来には何日もかけて険しい山道を歩くしかなく、
特に山奥にあった谷向こうの村にとっては、物ひとつ売り買いしに出るだけでも命がけの仕事だった。
だがある日現れたリアルブルーからの転移者がどうにかして、
ふたつの村を隔てる深く広い谷間に1本の橋を架ける方法を編み出した。
橋は全長約200メートル、大部分は木製だが、主ケーブルにだけは大枚を叩いて鋼線を使用。
道幅こそ狭いものの、橋の完成によって村同士の移動と輸送の問題は飛躍的に改善された。
以来、設計者が残していった書置きを頼りに毎年丹念な点検・補修が行われつつ、
多くの村人がこの橋を利用してきたのだが……。
●
数週間前、近隣の山で大規模な亜人駆除が行われた。
コボルドの大量繁殖が確認された為の措置だったのだが、ふたつの村には困ったことになった。
山狩りから逃れたコボルドの生き残りがこちらへ流れ込み、
更に悪いことに、どうやってそんな知恵をつけたのか、彼らは吊橋の上に居座ってしまったのだ。
「逃げ場のない一本道、通行人はしばしば食料などを担いで、しかも大荷物。
橋を通る人間は、コボルドには恰好の獲物だったという訳だ。
谷のこちらとあちらで村人がひとりずつやられた後、
どうにか逃げ延びた者が出て、彼の話でコボルドが橋の上に待ち伏せていることが分かった。
無論、私たちは橋を使わなくなった。しばらく誰も通らないでおけば、連中も諦めて他所へ移るだろうと……。
ところが、どうしても今すぐこの橋を通らなくてはいけない理由が出来てね。
昨日、谷向こうの村が数匹のコボルドに襲われて怪我人が何人も出た。
コボルドはどうにか追い払ったそうだが、あちらには医者が居ない。
薬も足りず、かなり危険な状態の怪我人も多いようだ。この知らせは伝書鳩で送られて来た……。
そういう訳で、連中が橋から退いてくれるのを待ってはいられないのさ。
それに今、橋の上には少なくとも10匹以上のコボルドが固まっているらしい。
どうしてこの一箇所にそこまで数が集まったのか、少々不思議ではあるが、
今後のことを考えると、ここでまとめて駆除出来て好都合だとも言える。
君たちハンターにとっては厄介かも知れないがね……」
また橋が揺れて、結えられた鈴が鳴り渡る。霧で覆われた狭い橋の上に10匹以上のコボルド。
レーヴィ医師は荷物を抱えて後ろに下がり、君たちの判断を待っている。
リプレイ本文
●
思った以上に、揺れる。
霧に濡れた踏板を歩きながら、落葉松 鶲(ka0588)は胸中穏やかではなかった。
逃げ場のない橋上では、隊列の先頭である彼女へ真っ先に攻撃が集中するだろう。だが、
「問題ありません。さ、このまま行きましょう」
そう言って踏み出した一歩一歩が、吊橋の主ケーブルから垂れ下がった鈴を鳴らす。
この音で、敵もこちらの進入を察知したはずだ。
背後の夕影 風音(ka0275)に対して邪魔にならぬよう慎重に長槍を構えつつ、鶲は行く手の霧へ目を凝らした。
「無理しないでね。危なくなったら、すぐ交替するから」
風音の言葉に頷く。何にせよ、一刻も早く敵中を突破して、怪我人たちの元へ医者を送らねばならない。
「本当に、大丈夫そうかね?」
その医者、レーヴィ氏は、薬の詰まった鞄を抱きかかえておずおずと歩を進めていく。
橋の揺れか、はたまた緊張のせいか、彼の両膝は震えていた。
「さぁな。とりあえず、この橋にビビってるのはあんただけみたいだ」
ジング(ka0342)がからかうように言葉を返した。
彼は風音の後ろに付き、更に後からスノゥ(ka1519)が続く。
スノゥが殿のアイビス・グラス(ka2477)とふたりしてレーヴィ氏を挟み、敵の攻撃から守る算段だった。
「いやぁ~……私もちょっとこれは、ドキドキしちゃいます~」
「スノゥさんの口調だとそう聞こえないねぇ。でも、私らふたりでレーヴィさんはしっかりお守りしますから」
「ありがたい。私も精々足手まといにならないよう頑張るよ。しかし、コボルドたちはもうこちらに……」
「言う通り、とうに気づかれてるさ。
良く考えたもんだ。霧は深いが、鈴のお蔭でお互いの動きはある程度把握出来る。そら」
橋が揺れ、鈴が一斉に鳴り始めた。
こちらの動きのせいではない。橋の向こうから、かなりの数の敵が向かってくる。
先頭の鶲を始め、一行は改めて身構えた。袂から約50メートルの地点。いよいよ接敵だ。
●
霧のカーテンから、小柄な影がいくつも飛び出した。
コボルドだ。牙を剥いて息を荒くし、突進してくる。
3匹が踏板に1列に並び、同時に2匹が左右それぞれの横桁を四つん這いで走ってきた。敵の先鋒。
「来ます!」
鶲が穂先を振り、コボルドの突撃を牽制する。その後ろから、
「おいワン公! 今ならまだ穏便に済ませられるかも……あ、いや、ダメだこりゃ。やるぜ」
ジングとスノゥが機導術を発動し、自身のマテリアルを前衛の要である鶲と風音へ注ぎ込んだ。
コボルドがいよいよ間近に迫ると、鶲は構えをほとんど崩さぬまま、
そっと腰の物入れを開いて、保存食の干し肉ひと切れを落とした。
鶲の足元に落ちた肉のほうへ、先頭のコボルドの鼻先が一瞬だけ逸れる。
その隙を逃さず繰り出されたひと突き――が、外れた。
揺れのせいだ。一挙に懐へ飛び込んできたコボルドの勢いで、僅かに狙いが逸れた。
殺到するコボルドたち。横桁を走る1匹に、脇を抜かれた――
「逃がさないわよ!」
風音のメイスが、横桁を走るコボルドの頭を砕く。
コボルドは大きく仰け反ると、広々と空いた桁の隙間に足を取られ、橋から転落した。
「私たちが来た以上、ここからは1匹も逃がさない!」
「鶲さんは無理しない! 抜けてきたヤツは、私らがちゃんと落とす!」
風音とアイビスの声に気を取り直し、鶲は目前に迫った3匹へと意識を集中させる。
足元から、コボルドが牙と爪による攻撃を繰り出す。
鶲は槍を縦に構えて急所の多い正中線を庇いつつ、石突きを振るって攻撃を受け流す。
前衛が持ちこたえている間にも、霧の中からコボルドの後詰が次々現れる。
新らに5匹。内2匹は、空中に張り出された主ケーブルを猿のように伝ってきた。
「あらら~、奥からどんどん次が来ますねぇ」
「連中、何だか死に物狂いって感じだ……くそっ」
素早く横桁を抜けてきた1匹に、ジングが苦し紛れのローキックを放つ。
コボルドが軽い身のこなしでそれをかわしたところへ、
「ここから先は、ダメです」
スノゥのリボルバーが火を噴いた。ジングの蹴りを避けたばかりのコボルドは、1発で吹き飛ばされる。
次いで風音が、やはり横桁から飛びかかってきた別の1匹を受け止めると、
「……ふんっ!」
力任せに放り投げた。哀れコボルドは、深い谷底へと消えていく。
●
鶲の槍が正面のコボルドを串刺しにする。
しかし、後から続く2匹は何ら怯むこともなく、仲間の死体を飛び越えて襲いかかってきた。
「くっ!」
どうにか槍を戻し、その攻撃を受け止める。
繰り返し叩きつけられるコボルド2匹の爪が、防御を掻い潜って彼女に傷をつけていく。
激しい揺れで、思うように反撃が出来ない。鶲はじりじりと後退させられ始めた。
横桁やケーブルを通って彼女を回避したコボルドは、後ろの仲間たちがどうにか処理しているが……。
「揺らさないでくれない!?」
「無茶言うな、連中のほうで勝手に揺らしてんだ!」
ケーブル伝いにとうとう頭上までやって来たコボルド2匹。ジングとアイビスが対応する。
腰の高さに張られた手すりの綱へ寄りかかり、姿勢を安定させると、ジングは水中拳銃の狙いを真上に向けた。
針のような弾丸が撃ち出され、コボルドの胸に深々と突き刺さる。
ジングは落下する死体を背中で受け止めてから、肩越しに橋の外へと投げ捨てた。
もう1匹。アイビスは前に立つレーヴィ氏の肩を掴んで伏せさせて、握っていた手裏剣を投擲した。
風切り音を立てて飛ぶ手裏剣に喉首を切り裂かれ、コボルドはケーブルから手を離す。
死体は橋に叩きつけられ、谷底へ落ちていった。
「これで何匹目かな!」
「9……10匹くらいですかね」
「――鶲ちゃん!?」
横桁、踏板、ケーブル。計6匹のコボルドが、上下左右から鶲へ猛攻を仕掛けた。
狭い橋上での一斉攻撃。防御も回避も間々ならない。
どうにか急所だけは守り切ったが、防具の手足の弱い部分には深々と爪痕を残される。
腕からの出血のせいで、槍を握る手が滑る。潮時か。
一瞬の隙を見て、石突きで正面のコボルド1匹の喉を突き絶命させると、
「御免なさい――下がります!」
「任せて!」
既に横桁へ移り交替を準備していた風音は、下がる鶲に合わせて踏板へ戻った。コボルドたちは前進するも、
「風音さん、このまま押し切るよ!」
アイビスの手裏剣が侵攻を食い止める。
スノゥとジングの銃撃がこれに加わり、横桁やケーブルを伝って迫るコボルドたちを次々撃ち落としていく。
「言われなくても!」
踏板に残っていた最後の1匹が風音に飛びかかるが、盾によって跳ね返された。
仰向けに倒れたところを、メイスによる追撃が仕留める。
「これで最後――」
●
「とは行かないみたいね」
風音が顔を上げると、そこには大盾と戦斧で武装した亜人がひとり。やけに大柄で筋肉質のゴブリンだ。
何処かで奪ったものと思しき防具で身を固め、踏板の幅一杯を塞ぎながら向かってくる。
「アレは所謂、ホブゴブリン、ってヤツですね……」
ホブゴブリンの背後から、もう1匹ゴブリンが現れる。
やはり人間から奪ったらしい槍を片手に、ホブゴブリンの後ろからひょこひょことついてきた。
「成る程ね。こいつらがワン公どもに入れ知恵してやがったんだ」
「コボルドが逃げずに突っ込んできたのも、あの2匹が後ろで見張ってたせいだろうね」
「知らなかった……こんな奴らまで、霧の中に隠れていたとは」
「大丈夫、別に依頼の内容に変わりにはないわ。
向かってくる敵を全員倒して、みんなで橋を越える。そうでしょう?」
先頭の風音が、ホブゴブリンと対峙する。お互い、慎重にすり足で間合いを詰めていくと――
「――退きなさい!」
メイスと斧、盾と盾とが激しくぶつかり合う。双方逃げ場はなく、力押しの勝負になる。
ホブゴブリンの怪力による攻撃は、しっかりと盾で受けていても、一太刀ごとに少しずつ体力を奪っていく。
しかし風音は一歩も引かず、巧みにメイスを振るって反撃する。
彼女の狙いは盾、盾、斧を持つ手、肩口、と順々に移り変わり、相手の防御を崩していった。
フェイントに織り交ぜて、本命の一撃――ホブゴブリンの右肩を、風音のメイスが捉えた。
重たい金属製のメイスによる打撃は、硬い鎧越しでも確実なダメージを与えられる。
ホブゴブリンは呻きつつ、僅かに後退した。
このまま押し切れる。橋の向こう側まで、こいつらを押し出せる。
「危ない!」
好機を逃すまいと追撃にかかった風音の額を、何かがさっとかすめた。
それは横桁から突き出された、ゴブリンの槍だった。
アイビスが手裏剣を放つが、ゴブリンはすぐさまホブゴブリンの背後へ飛び退く。
一方の風音は、額の傷から吹き出した血が目に入り、思わず構えを解いてしまった。
ホブゴブリンが緩んだ防御の隙間を縫って、風音の肩を戦斧で打つ。
刃は鎧が受け止めてくれたが、それでも強烈な打撃を受けた風音は後ろに倒れてしまう。
(あ……やば)
風音は咄嗟に盾で胸と頭を守り、敵の追撃をどうにか受けようとする。
●
「ようやくの出番だぜ……!」
風音とホブゴブリンの間へ、横桁から迂回してきたジングが割って入る。
風音を狙って振り下ろされた攻撃は、スノゥの術による支援を受けていても受け流せないタイミングだった。
ジングは身を低くすると腕を上げ、頭部を庇う。
同時に、装備していたアルケミストデバイスへと意識を集中させ――
斧がジングの腕に食い込む寸前、1本の光条がホブゴブリンの前腕を貫いた。
機導剣。デバイスを媒介に、術者のマテリアルを光の剣として放出する機導術。
不意の反撃で怯んだホブゴブリンを前に、ジングは立ち上がる。
「……ッシャァ、オラァッ!」
ジングの手刀に合わせて放たれる閃光が、ホブゴブリンの手足を切り裂いた。
盾での防御も間に合わない。ジングは一挙に攻勢へ転じると、ホブゴブリンを押し返していく。
相方が形勢不利と見るや、ゴブリンが再び横桁に回った。
ジングの横合いから槍を突き出そうと構えたその腕に、手裏剣が刺さる。
「ヘイ、こっちこっち」
アイビスがゴブリンの注意を逸らした隙に、スノゥが腰を落として照準する。
「チェックメイト……なのです」
スノゥがゴブリンを撃った。
彼女のリボルバー『シルバーマグ』に込められた強装弾は、ゴブリンの頭を西瓜のように粉々にする。
ゴブリンが排除されると、誰かが素早く横桁を過った。ホブゴブリンの背後を取るつもりだ。
(こいつで最後の機導剣……!)
ジングは光の剣をホブゴブリンに浴びせかけると、返す刀でナイフを抜き放つ。
ホブゴブリンが盾でそれを防ぎつつ、ジングを押しやろうとする。
(仕留めきれるか? それとも一旦下がるか――)
刹那、ホブゴブリンの肩越しに長槍の穂先が閃いた。敵のゴブリン――ではない。
ジングは突き出された盾を正面から受け止めた。踏ん張り、ホブゴブリンの突進を押さえ込む。
ジングと押し合う恰好になったホブゴブリン。その背後から、鶲が長槍を繰り出した。
手首を返して回転を加えられた槍がしなり、ホブゴブリンの背中に深く突き刺さる。
「……お待たせしてしまいましたね」
引き抜かれた穂先は、ホブゴブリンの血でどす黒く染まっていた。
ホブゴブリンはゆっくりと前のめりに倒れ、その振動で鈴が鳴り響く。
ハンターたちは息を呑んで、鈴が鳴り止むのを待った。果たして、橋上に静寂が戻る。
●
橋を無事渡り終えた一行は、来たばかりの道を振り返った。
霧は相変わらず橋の大半を覆っているが、見上げれば、陽の光が弱々しいながらも差し込んで、辺りが少し明るくなったように感じられた。
そして何よりも、足元がぐらつかないことが嬉しかった。
「……終わった、ようだね」
レーヴィ氏が鞄を抱いたまま腰を下ろす。緊張の続いたせいで顔色は悪いが、無傷だ。
ジングが、ホブゴブリンのシールドバッシュを受けた胸元を庇いつつレーヴィ氏へ近寄る。
「祝い酒にゃ早いが、これ、怪我人の気つけか何かで使えないかい」
ジングが差し出したのはブランデーの瓶。レーヴィ氏は一瞬首を横に振ろうとして、思い直し、
「……そっちのほうは足りると思うが、私にも気つけが必要そうだ。今、一口だけ頂くよ」
レーヴィ氏は酒を受け取って軽く呷ると、瓶の口を袖で拭ってジングへ返した。
「良いのか? そんだけで」
「私の仕事はこれからだからね。とにかく……助かった」
ジングは無言で頷く。
橋は越えたが、レーヴィ氏はこれから山道を下って、コボルドに襲われた村の救援に行かなければならない。
「その『これから』だけど、どうしようかね?」
万が一の奇襲に備えて周囲を警戒しつつ、アイビスが仲間たちへ尋ねる。ジングと鶲が振り返り、
「オレは、迷惑でなけりゃ向こうでの仕事も手伝おうかと」
「私も、料理の準備が少しありますから。水と調味料さえ貸して頂ければ……多少はお役に立てると思います」
「さっき鶲ちゃんと相談して、私も護衛を続けることにしたわ。
現地で治療を手伝えるかもだし、今から戻るのは骨だしね」
風音もそう答えた。
額の傷は回復魔法で跡形もなく消えたが、血で汚れた顔が気になるようだ。ハンカチで頻りに目元を擦っている。
「何だか、まだまだお仕事が続きそうな気配ですねぇ」
言いつつ、スノゥも拳銃に弾を込め直し、村への移動に備えている。
「ああ、その……いや、済まない。助かる、本当に助かる」
「そう言って、あんたもホントのとこ、期待してたんじゃないの?」
ジングの軽口に苦笑するレーヴィ氏。
「まぁ……正直言って、そうだな。私に万が一のことがあっても、後を頼めるんじゃないかと。
だが、報酬の追加分がいつ工面出来るか、ちょっと今は約束出来ない……」
「あー失敬、気にしないで下さい。ここでサヨナラってのも収まりが悪いんで」
「……怖いお顔の割りに、優しい人だったんですねぇ、ジングさん」
「ばっ……営業の一環だよ。腕だけじゃなく、親切丁寧なアフターサービスで名前を売る。
そういう訳で、ことが済んだらオレたちの宣伝頼むよレーヴィさん。それが追加料金分」
「私も、後でお風呂か何か貸して頂けたらそれで結構よ」
「私は寝床さえ貸してくれれば、宿代ってことでオッケー」
「村の人が動物を飼ってらしたら、後でそのコを触らせてもらえると~」
次々に手伝いを買って出るハンターたち。鶲はすっくと立ち、槍の握りを確かめると、
「……問題ありません。さ、このまま行きましょう」
レーヴィ氏が、ハンターたちに深々と頭を下げる。
だが皆はそれを気に留める様子もなく、決意も新たに、武器を携え立ち上がった。
村では、怪我人たちが助けを今かと待っている。一同、再び隊列を組み、道を急いだ。
思った以上に、揺れる。
霧に濡れた踏板を歩きながら、落葉松 鶲(ka0588)は胸中穏やかではなかった。
逃げ場のない橋上では、隊列の先頭である彼女へ真っ先に攻撃が集中するだろう。だが、
「問題ありません。さ、このまま行きましょう」
そう言って踏み出した一歩一歩が、吊橋の主ケーブルから垂れ下がった鈴を鳴らす。
この音で、敵もこちらの進入を察知したはずだ。
背後の夕影 風音(ka0275)に対して邪魔にならぬよう慎重に長槍を構えつつ、鶲は行く手の霧へ目を凝らした。
「無理しないでね。危なくなったら、すぐ交替するから」
風音の言葉に頷く。何にせよ、一刻も早く敵中を突破して、怪我人たちの元へ医者を送らねばならない。
「本当に、大丈夫そうかね?」
その医者、レーヴィ氏は、薬の詰まった鞄を抱きかかえておずおずと歩を進めていく。
橋の揺れか、はたまた緊張のせいか、彼の両膝は震えていた。
「さぁな。とりあえず、この橋にビビってるのはあんただけみたいだ」
ジング(ka0342)がからかうように言葉を返した。
彼は風音の後ろに付き、更に後からスノゥ(ka1519)が続く。
スノゥが殿のアイビス・グラス(ka2477)とふたりしてレーヴィ氏を挟み、敵の攻撃から守る算段だった。
「いやぁ~……私もちょっとこれは、ドキドキしちゃいます~」
「スノゥさんの口調だとそう聞こえないねぇ。でも、私らふたりでレーヴィさんはしっかりお守りしますから」
「ありがたい。私も精々足手まといにならないよう頑張るよ。しかし、コボルドたちはもうこちらに……」
「言う通り、とうに気づかれてるさ。
良く考えたもんだ。霧は深いが、鈴のお蔭でお互いの動きはある程度把握出来る。そら」
橋が揺れ、鈴が一斉に鳴り始めた。
こちらの動きのせいではない。橋の向こうから、かなりの数の敵が向かってくる。
先頭の鶲を始め、一行は改めて身構えた。袂から約50メートルの地点。いよいよ接敵だ。
●
霧のカーテンから、小柄な影がいくつも飛び出した。
コボルドだ。牙を剥いて息を荒くし、突進してくる。
3匹が踏板に1列に並び、同時に2匹が左右それぞれの横桁を四つん這いで走ってきた。敵の先鋒。
「来ます!」
鶲が穂先を振り、コボルドの突撃を牽制する。その後ろから、
「おいワン公! 今ならまだ穏便に済ませられるかも……あ、いや、ダメだこりゃ。やるぜ」
ジングとスノゥが機導術を発動し、自身のマテリアルを前衛の要である鶲と風音へ注ぎ込んだ。
コボルドがいよいよ間近に迫ると、鶲は構えをほとんど崩さぬまま、
そっと腰の物入れを開いて、保存食の干し肉ひと切れを落とした。
鶲の足元に落ちた肉のほうへ、先頭のコボルドの鼻先が一瞬だけ逸れる。
その隙を逃さず繰り出されたひと突き――が、外れた。
揺れのせいだ。一挙に懐へ飛び込んできたコボルドの勢いで、僅かに狙いが逸れた。
殺到するコボルドたち。横桁を走る1匹に、脇を抜かれた――
「逃がさないわよ!」
風音のメイスが、横桁を走るコボルドの頭を砕く。
コボルドは大きく仰け反ると、広々と空いた桁の隙間に足を取られ、橋から転落した。
「私たちが来た以上、ここからは1匹も逃がさない!」
「鶲さんは無理しない! 抜けてきたヤツは、私らがちゃんと落とす!」
風音とアイビスの声に気を取り直し、鶲は目前に迫った3匹へと意識を集中させる。
足元から、コボルドが牙と爪による攻撃を繰り出す。
鶲は槍を縦に構えて急所の多い正中線を庇いつつ、石突きを振るって攻撃を受け流す。
前衛が持ちこたえている間にも、霧の中からコボルドの後詰が次々現れる。
新らに5匹。内2匹は、空中に張り出された主ケーブルを猿のように伝ってきた。
「あらら~、奥からどんどん次が来ますねぇ」
「連中、何だか死に物狂いって感じだ……くそっ」
素早く横桁を抜けてきた1匹に、ジングが苦し紛れのローキックを放つ。
コボルドが軽い身のこなしでそれをかわしたところへ、
「ここから先は、ダメです」
スノゥのリボルバーが火を噴いた。ジングの蹴りを避けたばかりのコボルドは、1発で吹き飛ばされる。
次いで風音が、やはり横桁から飛びかかってきた別の1匹を受け止めると、
「……ふんっ!」
力任せに放り投げた。哀れコボルドは、深い谷底へと消えていく。
●
鶲の槍が正面のコボルドを串刺しにする。
しかし、後から続く2匹は何ら怯むこともなく、仲間の死体を飛び越えて襲いかかってきた。
「くっ!」
どうにか槍を戻し、その攻撃を受け止める。
繰り返し叩きつけられるコボルド2匹の爪が、防御を掻い潜って彼女に傷をつけていく。
激しい揺れで、思うように反撃が出来ない。鶲はじりじりと後退させられ始めた。
横桁やケーブルを通って彼女を回避したコボルドは、後ろの仲間たちがどうにか処理しているが……。
「揺らさないでくれない!?」
「無茶言うな、連中のほうで勝手に揺らしてんだ!」
ケーブル伝いにとうとう頭上までやって来たコボルド2匹。ジングとアイビスが対応する。
腰の高さに張られた手すりの綱へ寄りかかり、姿勢を安定させると、ジングは水中拳銃の狙いを真上に向けた。
針のような弾丸が撃ち出され、コボルドの胸に深々と突き刺さる。
ジングは落下する死体を背中で受け止めてから、肩越しに橋の外へと投げ捨てた。
もう1匹。アイビスは前に立つレーヴィ氏の肩を掴んで伏せさせて、握っていた手裏剣を投擲した。
風切り音を立てて飛ぶ手裏剣に喉首を切り裂かれ、コボルドはケーブルから手を離す。
死体は橋に叩きつけられ、谷底へ落ちていった。
「これで何匹目かな!」
「9……10匹くらいですかね」
「――鶲ちゃん!?」
横桁、踏板、ケーブル。計6匹のコボルドが、上下左右から鶲へ猛攻を仕掛けた。
狭い橋上での一斉攻撃。防御も回避も間々ならない。
どうにか急所だけは守り切ったが、防具の手足の弱い部分には深々と爪痕を残される。
腕からの出血のせいで、槍を握る手が滑る。潮時か。
一瞬の隙を見て、石突きで正面のコボルド1匹の喉を突き絶命させると、
「御免なさい――下がります!」
「任せて!」
既に横桁へ移り交替を準備していた風音は、下がる鶲に合わせて踏板へ戻った。コボルドたちは前進するも、
「風音さん、このまま押し切るよ!」
アイビスの手裏剣が侵攻を食い止める。
スノゥとジングの銃撃がこれに加わり、横桁やケーブルを伝って迫るコボルドたちを次々撃ち落としていく。
「言われなくても!」
踏板に残っていた最後の1匹が風音に飛びかかるが、盾によって跳ね返された。
仰向けに倒れたところを、メイスによる追撃が仕留める。
「これで最後――」
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「とは行かないみたいね」
風音が顔を上げると、そこには大盾と戦斧で武装した亜人がひとり。やけに大柄で筋肉質のゴブリンだ。
何処かで奪ったものと思しき防具で身を固め、踏板の幅一杯を塞ぎながら向かってくる。
「アレは所謂、ホブゴブリン、ってヤツですね……」
ホブゴブリンの背後から、もう1匹ゴブリンが現れる。
やはり人間から奪ったらしい槍を片手に、ホブゴブリンの後ろからひょこひょことついてきた。
「成る程ね。こいつらがワン公どもに入れ知恵してやがったんだ」
「コボルドが逃げずに突っ込んできたのも、あの2匹が後ろで見張ってたせいだろうね」
「知らなかった……こんな奴らまで、霧の中に隠れていたとは」
「大丈夫、別に依頼の内容に変わりにはないわ。
向かってくる敵を全員倒して、みんなで橋を越える。そうでしょう?」
先頭の風音が、ホブゴブリンと対峙する。お互い、慎重にすり足で間合いを詰めていくと――
「――退きなさい!」
メイスと斧、盾と盾とが激しくぶつかり合う。双方逃げ場はなく、力押しの勝負になる。
ホブゴブリンの怪力による攻撃は、しっかりと盾で受けていても、一太刀ごとに少しずつ体力を奪っていく。
しかし風音は一歩も引かず、巧みにメイスを振るって反撃する。
彼女の狙いは盾、盾、斧を持つ手、肩口、と順々に移り変わり、相手の防御を崩していった。
フェイントに織り交ぜて、本命の一撃――ホブゴブリンの右肩を、風音のメイスが捉えた。
重たい金属製のメイスによる打撃は、硬い鎧越しでも確実なダメージを与えられる。
ホブゴブリンは呻きつつ、僅かに後退した。
このまま押し切れる。橋の向こう側まで、こいつらを押し出せる。
「危ない!」
好機を逃すまいと追撃にかかった風音の額を、何かがさっとかすめた。
それは横桁から突き出された、ゴブリンの槍だった。
アイビスが手裏剣を放つが、ゴブリンはすぐさまホブゴブリンの背後へ飛び退く。
一方の風音は、額の傷から吹き出した血が目に入り、思わず構えを解いてしまった。
ホブゴブリンが緩んだ防御の隙間を縫って、風音の肩を戦斧で打つ。
刃は鎧が受け止めてくれたが、それでも強烈な打撃を受けた風音は後ろに倒れてしまう。
(あ……やば)
風音は咄嗟に盾で胸と頭を守り、敵の追撃をどうにか受けようとする。
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「ようやくの出番だぜ……!」
風音とホブゴブリンの間へ、横桁から迂回してきたジングが割って入る。
風音を狙って振り下ろされた攻撃は、スノゥの術による支援を受けていても受け流せないタイミングだった。
ジングは身を低くすると腕を上げ、頭部を庇う。
同時に、装備していたアルケミストデバイスへと意識を集中させ――
斧がジングの腕に食い込む寸前、1本の光条がホブゴブリンの前腕を貫いた。
機導剣。デバイスを媒介に、術者のマテリアルを光の剣として放出する機導術。
不意の反撃で怯んだホブゴブリンを前に、ジングは立ち上がる。
「……ッシャァ、オラァッ!」
ジングの手刀に合わせて放たれる閃光が、ホブゴブリンの手足を切り裂いた。
盾での防御も間に合わない。ジングは一挙に攻勢へ転じると、ホブゴブリンを押し返していく。
相方が形勢不利と見るや、ゴブリンが再び横桁に回った。
ジングの横合いから槍を突き出そうと構えたその腕に、手裏剣が刺さる。
「ヘイ、こっちこっち」
アイビスがゴブリンの注意を逸らした隙に、スノゥが腰を落として照準する。
「チェックメイト……なのです」
スノゥがゴブリンを撃った。
彼女のリボルバー『シルバーマグ』に込められた強装弾は、ゴブリンの頭を西瓜のように粉々にする。
ゴブリンが排除されると、誰かが素早く横桁を過った。ホブゴブリンの背後を取るつもりだ。
(こいつで最後の機導剣……!)
ジングは光の剣をホブゴブリンに浴びせかけると、返す刀でナイフを抜き放つ。
ホブゴブリンが盾でそれを防ぎつつ、ジングを押しやろうとする。
(仕留めきれるか? それとも一旦下がるか――)
刹那、ホブゴブリンの肩越しに長槍の穂先が閃いた。敵のゴブリン――ではない。
ジングは突き出された盾を正面から受け止めた。踏ん張り、ホブゴブリンの突進を押さえ込む。
ジングと押し合う恰好になったホブゴブリン。その背後から、鶲が長槍を繰り出した。
手首を返して回転を加えられた槍がしなり、ホブゴブリンの背中に深く突き刺さる。
「……お待たせしてしまいましたね」
引き抜かれた穂先は、ホブゴブリンの血でどす黒く染まっていた。
ホブゴブリンはゆっくりと前のめりに倒れ、その振動で鈴が鳴り響く。
ハンターたちは息を呑んで、鈴が鳴り止むのを待った。果たして、橋上に静寂が戻る。
●
橋を無事渡り終えた一行は、来たばかりの道を振り返った。
霧は相変わらず橋の大半を覆っているが、見上げれば、陽の光が弱々しいながらも差し込んで、辺りが少し明るくなったように感じられた。
そして何よりも、足元がぐらつかないことが嬉しかった。
「……終わった、ようだね」
レーヴィ氏が鞄を抱いたまま腰を下ろす。緊張の続いたせいで顔色は悪いが、無傷だ。
ジングが、ホブゴブリンのシールドバッシュを受けた胸元を庇いつつレーヴィ氏へ近寄る。
「祝い酒にゃ早いが、これ、怪我人の気つけか何かで使えないかい」
ジングが差し出したのはブランデーの瓶。レーヴィ氏は一瞬首を横に振ろうとして、思い直し、
「……そっちのほうは足りると思うが、私にも気つけが必要そうだ。今、一口だけ頂くよ」
レーヴィ氏は酒を受け取って軽く呷ると、瓶の口を袖で拭ってジングへ返した。
「良いのか? そんだけで」
「私の仕事はこれからだからね。とにかく……助かった」
ジングは無言で頷く。
橋は越えたが、レーヴィ氏はこれから山道を下って、コボルドに襲われた村の救援に行かなければならない。
「その『これから』だけど、どうしようかね?」
万が一の奇襲に備えて周囲を警戒しつつ、アイビスが仲間たちへ尋ねる。ジングと鶲が振り返り、
「オレは、迷惑でなけりゃ向こうでの仕事も手伝おうかと」
「私も、料理の準備が少しありますから。水と調味料さえ貸して頂ければ……多少はお役に立てると思います」
「さっき鶲ちゃんと相談して、私も護衛を続けることにしたわ。
現地で治療を手伝えるかもだし、今から戻るのは骨だしね」
風音もそう答えた。
額の傷は回復魔法で跡形もなく消えたが、血で汚れた顔が気になるようだ。ハンカチで頻りに目元を擦っている。
「何だか、まだまだお仕事が続きそうな気配ですねぇ」
言いつつ、スノゥも拳銃に弾を込め直し、村への移動に備えている。
「ああ、その……いや、済まない。助かる、本当に助かる」
「そう言って、あんたもホントのとこ、期待してたんじゃないの?」
ジングの軽口に苦笑するレーヴィ氏。
「まぁ……正直言って、そうだな。私に万が一のことがあっても、後を頼めるんじゃないかと。
だが、報酬の追加分がいつ工面出来るか、ちょっと今は約束出来ない……」
「あー失敬、気にしないで下さい。ここでサヨナラってのも収まりが悪いんで」
「……怖いお顔の割りに、優しい人だったんですねぇ、ジングさん」
「ばっ……営業の一環だよ。腕だけじゃなく、親切丁寧なアフターサービスで名前を売る。
そういう訳で、ことが済んだらオレたちの宣伝頼むよレーヴィさん。それが追加料金分」
「私も、後でお風呂か何か貸して頂けたらそれで結構よ」
「私は寝床さえ貸してくれれば、宿代ってことでオッケー」
「村の人が動物を飼ってらしたら、後でそのコを触らせてもらえると~」
次々に手伝いを買って出るハンターたち。鶲はすっくと立ち、槍の握りを確かめると、
「……問題ありません。さ、このまま行きましょう」
レーヴィ氏が、ハンターたちに深々と頭を下げる。
だが皆はそれを気に留める様子もなく、決意も新たに、武器を携え立ち上がった。
村では、怪我人たちが助けを今かと待っている。一同、再び隊列を組み、道を急いだ。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 スノゥ(ka1519) エルフ|14才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/09/17 10:10:52 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/09/13 19:44:12 |