• 蒼乱

【蒼乱】大蜘蛛砲兵隊in大渓谷

マスター:馬車猪

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/09/04 22:00
完成日
2016/09/11 16:28

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●絶壁の拠点
 垂直に近い崖から出っ張りが伸びている。
 非常に分厚い一枚岩で、水と食料と各種弾薬が山積みされてもびくともしない。
「絶景だな」
 選抜され派遣された弓騎士が目を細めた。
 出っ張りから見落とすと、薄明かりに照らされた奇妙な建物が見える。
 サルバトーレ・ロッソと一部似ていてそれ以外は全く異なり、地上の各国の建物とも異なる奇妙な建造物群だ。
「なんだあれは」
 小さなものが建物の間から現れた。
 背中から筒を生やした金属光沢を持つ蜘蛛。
 これが、地上との補給線を巡る激闘の始まりだった。

●蜘蛛対人
「撃て!」
 8張りのオークボウから一斉に矢が放たれた。
 射手は皆熟練だ。
 狙いは鋭く威力も高く、同時に着弾して分厚い装甲を貫通した。
「目標大破!」
 被弾部分から火花が散る。
 機械仕掛けの足が機能を失い大蜘蛛が動けなくなる。
「第2目標への攻撃を開始する。全員……」
 大蜘蛛の背にある筒が、音もなく向きを変えた。
 間の抜けた音を残して筒から弾が撃ち出される。
「っ……撃て! 回避ぃっ!」
 判断は悪くなく動きも素晴らしかった。
 より強そうな大蜘蛛が射貫かれて爆発し、射手全員が遅滞なく散って回避と防御に専念する。
 だが相手が悪かった。
 砲弾が出っ張りの上4メートルで弾けて無数の鉄片をばらまく。
 射撃特化装備の射手達では回避能力も受け能力も足りず、たった一度の被弾で重傷に近いダメージを負ってしまった。

●蜘蛛対人2
「奴らは前座よ」
 くくくと邪悪っぽく笑う騎士は、身動きがとれなくなるほど分厚く重い鎧で身を固めていた。
「第二陣である我々がここを守り抜く。よし蜘蛛が来たぞ、撃て撃て!」
 そこからは第一陣の焼き直しだった。
 蜘蛛を破壊し増援の蜘蛛も破壊したところで反撃の砲弾が飛んでくる。
「効かんわ!」
 第二陣の8人は、指揮官ほどではないが分厚い鎧を装備していた。
 分厚い装甲でも無傷とはいかないが後2、3度は耐えられる。
「蜘蛛共を制圧し……何ぃっ!?」
 3匹目の蜘蛛が8本の足を使い跳んだ。
 着地予定地は第二陣の8人だ。
 覚醒者騎士の目から見れば素人くさい動きで速度も速くはなく、いつもなら軽々回避出来たはずだ。
「いかんっ」
 分厚い防護を提供する重鎧は酷く重い。
 要するに足が遅くなるので雑な跳躍体当たりでも回避出来ない!
 こうして、第二陣は酷くあっさり撃退されて、慌てて投入された第三次により辛うじて大蜘蛛が撃退された。

●ブリーフィング
「とまあこんな感じです」
 ピースホライズンのギルド支部で説明が行われている。
「全幅3メートルから6メートル、全高2メートルから4メートルの蜘蛛型の敵による襲撃を受けています」
 プロジェクターが白い布に地形を映し出す。
 崖から突き出した頑丈そうな出っ張りだ。
 崖上から頻繁に物資がおろされているようで、広大な崖下探索の中継拠点として機能しているらしい。
「今回の依頼はここの防衛です。拠点から打って出て戦うのも止めはしませんが……」
 最優先は拠点の防衛であり、敵を100体討とうが拠点の機能を失えば依頼完全失敗として扱われる。
「ソサエティとしては確実な防衛を希望します。拠点までのユニット輸送は我々が行います。成果を期待しています」
 スーツ姿の職員は、礼儀正しいはずなのに妙に胡散臭かった。

リプレイ本文

●大断崖の出っ張りで
 巨大な空間が闇で覆われている。
 天頂から届く光も、作業現場を頼りなく照らす松明も、暗黒を強調する要素にしかなっていない。
エルバッハ・リオン(ka2434)が振り返る。
 温厚であり勇気にも不足のないイェジドが、予想より3メートルは後ろに下がっていた。
 イェジドがそっと前足を伸ばして軽く触れる。
 小さな石と細かな砂が落ちていく音が聞こえ、足場のどこかがわずかに割れる振動が伝わってくる。
 いつの間にか作業員風の男たち……身分は歴とした王国騎士たちが緊張と恐怖で額に汗を浮かべていた。
「一緒に頑張りましょうね、ガルム」
 エルバッハ単独なら軽いので問題ない。
 3メートル下がってイェジドの胸から腹をさすると、胸元の赤毛の下の筋肉から緊張が抜けていく。
「敵の総数がはっきりしないというのも不安要素ですね」
 目が闇に慣れてきた。
 向かい側の崖は見えない。
 大渓谷の名に相応しい巨大さだ。
「しかし、中継地点を放棄するわけにはいきませんから、全力を尽くして護るだけです」
 崖下を一瞥して持ち場へ向かう。
 ガルムは音も無く立ち上がり、主の背中を守る位置を保って付き従った。
「ディヴァインウィルの効果範囲は直径18m範囲なの」
 可愛らしい声が闇の中でよく目立った。
「どうしても大事な物資はそこに揃えつつトーチカ代わりにするといいと思うの」
 細身の体を精一杯動かし説明するディーナ・フェルミ(ka5843)はとても愛らしい。
 作業員風の男たちの士気が上がって気合いが入る。天使だ、と陶酔した声が聞こえたのは気のせいではない。
 崖下で動きがあった。
 強いて言えば蜘蛛型の機械が闇の中から現れて、いきなりこちらに向けて跳躍する。
「ディヴァインウィルは透明な結界で敵は防ぐけど攻撃は防がないの」
 豪奢な十字架型戦槌を軽々と掲げる。
 ディーナを中心に6×6メートルの空間の気配が変わった。
 巨大蜘蛛は気配の変化に気づかずディーナに着地しようとして、不可視の境界を破れず垂直に落下。
 ガルムが避けた場所へなんとか着地したように見えた。
 作業員風の男共がディーナを守ろうと飛び出す。
 しかし目立つ戦装束の男により遮られる。
 Gacrux(ka2726)は彼等とは比較にならないほど冷静であると同時に危機感が無い。まるで巨大蜘蛛が既に死んでいるかのようだ。
「ここまでうまくいくのは滅多にないの」
 出っ張りの先端部分が砕けていく。
 大蜘蛛は崩壊に巻き込まれて移動もできず最期の一撃も繰り出せず、石と岩と一緒に谷底に落ち数秒後には爆発した。
「どうしても大事な物資はそこに揃えつつトーチカ代わりにするといいと思うの」
 ディーナは相変わらず可愛らしい。
 この時点でようやく、彼女が自分たちよりはるかに強いことに気づいた騎士もいた。
『ここでいいですかね?』
 いつの間にか魔導型デュミナスが現れていた。
 外部スピーカーから聞こえるのはGacruxの声だ。
「はい。よろしくお願いします」
 Gacrux機がCAMシールドを接地させ、その背後に重要物資を移動させていった。
「ひゃぁー……まだまだ高いですけど、ここからなら下が見えるんですねー」
 恐ろしいほど身軽な動作で、葛音 水月(ka1895)が出っ張りの先端から身を乗り出していた。
 強い風がいきなり吹いても問題ない。
 感じた直後に後退すれば安全圏への待避が十分可能だ。もちろん水月に匹敵する身体能力がなければ自殺行為にしかならないが。
「うん、やっぱり機械だ」
 砕けた大蜘蛛から火花が散っている。
 負のマテリアルを感じないので兵器だろう。
「なんでここにこんなものがあるのやら」
 上を見る。
 大空の青が遠くに見えた。
「とんでもない高さだなぁ」
 少年の気配を残した顔に、不敵な笑みが浮かんだ。

●砲射撃戦
 魔導型デュミナス、シルバーレードルが崖の下を睨み付けている。
 白地に緑の装甲が松明の淡い光に照らされ、この世のものとは思えない美と力を感じさせる。
 もっともそう感じたのは外部にいる者たちだけだ。
 中にいる操縦者は戦闘の準備に没頭している。
「全機能正常」
 片手で器用にHMDを被る。
 すると機体の動きがより繊細になる。脳波を関知し機体に反映しているのだ。
 CAMの足で一歩進む。
 反動制御用補助脚と地面の接触箇所にも問題なし。戦闘準備完了だ。
「足元も大丈夫そうですし、シルバーレードルの射撃の見せ所ですね」
 周囲の安全確認も済ませた上で崖下を観察する。
 ここに来て1時間が経過したため暗闇にも慣れた。
 崖下に散らばったままの残骸まで視認可能だ。
「絶景ですね」
 自然に出来た広大な空間だ。
 しかも少なくとも数百年は人の手が入っていないはずの大渓谷でもある。
 この光景を見られるなら千金を積み上げる金持ちも大勢いるはずだ。
「ここに、本当に敵勢が現れるのでしょうか」
 意識と五感を研ぎ澄ます。
 目に映るぼんやりとした画像が高速で処理され1つの形をつくる。
「建物?」
 無意識につぶやいた時には既にコマンド入力を終えている。
 スナイパーライフルに105ミリ弾を装填。建物に見える何かの横5メートルに狙いを定める。
 そして、先程落ちた大蜘蛛と同型が、全くも警戒していない歩みで建物の影から姿を現した。
「攻撃は最大の防御、先手必勝です」
 トリガーを引く。
 105ミリ弾の衝撃がスナイパーライフルごと機体を揺らす。
 マテリアルの濃い空気をかき分け弾着、大蜘蛛型兵器を細かな粉塵が包み込んだ。
「当たった!」
「素晴らしい射程と威力だ」
 今回は戦闘員では無く作業員な騎士たちが喜び騒ぐ。
 実際は手前1メートルの崖底を穿っただけなのだが、今は訂正している時間が惜しい。
「火器管制システムは正常に稼働中。至近弾が出るだけでもすごいんですけど」
 敵の行動を予測、機体の状況を把握、両方を考慮し関節複数の角度と砲口の向きを修正。
 覚醒に伴うマテリアル漏れが、ミオレスカ(ka3496)とコクピットを華やかに彩った。
「攻撃の隙を与えません……と言いたいですが」
 無意識に引き金を引いていた。
 全力で前進する蜘蛛型兵器は吸い寄せられるように105ミリ弾に近づき、前脚1本を砕いて本体装甲を貫く。
 一際強い火花が散って、命も負のマテリアルも持たない機体が闇の中で浮き上がる。
 敵走行機能は健在だ。
「戦術データリンクなんて贅沢は言わないけど」
 重装甲の魔導型デュミナスが射撃姿勢をとる。
「トランシーバーか魔導短伝話を持ち込むべきだったかもね。……敵さん捕捉。さぁーて、僕の重火兵装の最初の一撃ですよぉー♪」
 スナイパーライフル「クルーアル」が咆哮する。
 敵が前進した分狙いは正確になり、うっすら煙まで吐き始めた大蜘蛛の中心に当たる。
 飛び出す火花が大きくなり無傷のはずの後ろ脚2つが脱落した。
 後ろの歓声が大きくなる。
 2機の砲台が一方的な勝利を約束してくると、まるで素人のように確信していた。
 魔導型デュミナス(重火兵装)がハンドサインを複数使う。
 白と緑の機体は素直にうなずいて、狙いを左に10メートル、遠方に40メートルずらして発砲した。
 直撃。漏電し発光。2体目大蜘蛛の火花が3体目を照らし出す。
 後ろの歓声はあっという間に小さくなった。
 大蜘蛛の1体が体を仰け反らせる。
 背中の砲塔が斜め上方を向いて、ぽん、と緊張感に欠ける音を出して大型弾を1つ飛ばして来る。
 ミオレスカは咄嗟に撃ち落とそうと銃口を向け、ほんの少しだけ口元を引きつらせた。
「むり」
 的が大きくても敵弾を撃って落とすのは、少なくとも現時点では不可能に近い。
 瞬時に優先順位を並び替える。最も接近した大蜘蛛に対して105ミリ弾を浴びせ、大型弾が距離20メートルに迫る前に周囲に警告しシールドを展開した。
 大型弾が爆ぜ割れる。大量の鉄片が出っ張りに降り注ぐ。
 薄いシールドでは防ぎきれない。ミオレスカのシルバーレードルは上半身を中心に装甲多数に傷がついた。
 水月の機体も無事では無い。
 人よりずっと大きな機体は多くの鉄片を食らうことになり、HMDに多数のエラーが表示された。
「射撃型にすると回避が落ちるので装甲値を上げてカバーしているといえ」
 水月が長い息を吐く。
 予想通り、エラーは全て軽度だった。
「新しい機体にあんま傷が付くのも嫌ですし、射撃戦で減らせるだけ減らしますよ」
 跳躍のため脚部のバネに力を込め始めた大蜘蛛に一撃を入れる。
 大蜘蛛の砲や脚部を狙えるほどの射撃精度は未だ無く、しかし射撃戦特化でくみ上げられた機体は高い命中率を実現し崖底の大蜘蛛へ大量の砲弾をプレゼントする。
「中盤戦、始まりますよっ」
 水月とミオレスカが大蜘蛛を1つずつスクラップに変えた時点で、生き残りと新手の一体ずつが非常識な速度で跳躍した。

●命綱攻防戦
 CAMによる弾幕では大重量を食い止めるのは困難だ。
 大蜘蛛は、断崖から突き出た足場に危なげ無く着地した。
 背中の砲塔がじりじりと向きを変え、地上とこの場を結ぶロープを狙おうとする。
『右側は俺が押さえる』
 Gacrux機がスラスターを補助に使って前へ加速。
 CAMが複数機載っても大丈夫とはいえ、10機載れば身動きも出来ずに足場ごと落ちそうな広さしか無い。
 敵機との距離が1メートル未満になるまで数秒しかかからなかった。
『回避行動の種類が少ない』
 鋭く突き出される前足をCAMシールドで防御。右腕を接触寸前まで近づけてプラズマカッターを起動する。
 塗装が蒸発しカッターの当たった装甲が赤熱する。
 派手な戦闘に背後から歓声が沸き起こった。
「修理用装備の限界か」
 一時的にマイクを切ってつぶやきシールドの角度と位置を変更。
 自爆覚悟でないと砲塔を使えないよう大蜘蛛を押し込んでいく。
 とはいえ崖下に落とすこともできない。Gacruxの魔導型デュミナスアリアドネが巻き込まれる可能性もあるし、何よりそれは傭兵の戦い方ではない。
 非常に地味でその実過酷なつばぜり合いが、誰にとっても予想外に長く続くことになる。
 崖近くで幻獣の唸りが聞こえる。
 落ち着かない様子でリーリーがうろうろしていると、ロープを守る騎士から戸惑う視線を何度も向けられた。
「何度か共に戦った事はあるけど……ミストラル、きみの本格的な実戦は初めてだね」
 主であるイーディス・ノースハイド(ka2106)は落ち着いている。
 仲間が戦っているのに前に出ようとしない。リーリーが困惑し目を瞬かせた。
「うん、どうした?」
 イーディスは視線を前線に向けた状態で、ミストラルの苛立ちと戸惑いに気づいた。
「なるほど、早く戦いたくてウズウズしているというわけか。慌てなくても敵は沢山いるらしい、キミの出番が無くなるなどという事はないさ」
 前線である出っ張り先端部分では、黒いイェジドが派手に暴れている。
 馬に勝る体格を活かして左柄の大蜘蛛の行く手を遮り、高速で突き出された機械蜘蛛足を躱して蜘蛛本体に体当たりして前に進ませない。
「行きます」
 エルバッハが黒いイェジドの背で宣言する。
 詠唱ではない。既にマテリアルが冷気に変化し彼女の周囲で渦巻いている。
「ブリザード!」
 大気が揺れる。
 冷たい空気が彼女とイェジドの前へ流れ、それに触れた大蜘蛛が一瞬で凍り付く。
 内側と外側で激しい温度差があったのだろう。
 装甲に多数のひび割れが生じ、回路の一部が壊れて動きが急に鈍くなる。
 冷気の流れは止まらない。
 Gacrux機が大蜘蛛の動きに逆らわずに4メートル後退をすると、不用意にも前に出てしまった大蜘蛛機に衰えぬ冷気が直撃した。
 戦闘開始から今までで最大音量の歓声が響いた瞬間、イーディスが一点を指さしリーリーが弾かれたように駆けだした。
『敵の新手到達まで後2秒!』
 Gacruxの警告が歓声を吹き飛ばす。
 ミストラルは素晴らしい加速と何より恐るべき勇気で以て速度を上げ、出っ張りに着地した直後の大蜘蛛へ突進した。
「ここはもうキミの領域ではない。異論があるなら実力で語るがいい」
 銀の突撃槍が闇の中に浮かび上がる。
 今から減速を初めても出っ張りの先端を踏み越えてしまう。
 なのにミストラルは加速を止めずイーディスも止めようとしない。
「回避機動はミストラル、キミに任せた。危ないと思ったら自由に避けてくれて構わない……ははは、キミらしい答えだ」
 ミストラルは己の最高速を維持したまま突っ込む。
 大蜘蛛は砲塔の旋回を停止し棘だらけの前足複数で迎撃の構えだ。
 激突する。リーリーが右肩と左脇を数ミリずつ削られても動揺せず、己の主を敵の至近に運ぶことに成功した。
 突撃槍が分厚い装甲板を貫いた。
 大蜘蛛から大量の火花が散る。
 降り注ぐ光は場違いに美しい。
「参った」
 イーディスが軽く息を吐いて槍を押し込む。
 細かな部品が砕ける感触があるが、予想したダメージより随分と少ない。
「このサイズなら薙ぎ払いが有効だったね」
 敵が大きいときは範囲攻撃がよく効く。ダメージが2倍3倍と増えていくのだから当然だ。
「蜘蛛なんて所詮食材なのこんなところで負けられないの。できたのっ」
「承知したよディーナ殿。ミストラル!」
 リーリーが大蜘蛛を一蹴りして180度回って前進する。
 ひらけた空間の端っこをするりと抜けた2秒後、大蜘蛛がその場に侵入しようとして何もない場所で制止する。
 砲塔が苛立たしげに左右に動き、非常に甘い狙いで大型砲弾を打ち上げた。
「あっ」
 ディーナは動けない。ディヴァインウィルを解除したら大蜘蛛がロープに向かって大型砲弾以上の被害が出る。
「次弾は撃たせない」
 イーディスたちも大型砲弾を終えない。
 不可視の境界と積まれた荷物を大回りして、大蜘蛛の背後から襲いかかった所だった。
 切っ先が装甲と装甲の隙間をこじ開け動力部分を破壊。おそらく数百年は動き続けた機体が黒い煙を吐いて完全停止する。
『俺が』
 Gacrux機がCAMシールドで殴りつけて反転する。
 既に8割壊れていた大蜘蛛が出っ張りから落ちていく。
 スラスターが限界まで光る。Gacrux機が強引に加速。必要度の低い荷物を踏みつけ跳躍した。
 大型砲弾が爆発する。
 Gacrux機が巻き込まれる。
 騎士たちが悲鳴をあげ、ディーナが己の白い手を握りしめた。
「Gacruxさん!? ありがとなの」
 鉄片が装甲で止まったのを、ディーナの瞳がしっかりと捉えていた。

●大渓谷遺跡調査へ
 ミオレスカの砲弾が崖底の建物を破壊し数風程度が経過した。
 出口の1つが塞がれ瓦礫も邪魔になり、大蜘蛛の出現速度が急速に低下する。
 今戦場にいる蜘蛛は3機で増援が現れる気配は無い。
「駆けろミストラル!」
 血だらけのリーリーが出っ張りの先端を全速で駆け抜ける。
 足を下ろす場所を半歩分間違えば奈落へ一直線。
 8本足の蜘蛛の動きは慎重さを増した分速度が落ちている。その結果、普段と変わらぬ速度で攻めて守るイーディスに一方的にやられることになる。
「4体目っ」
 この数はイーディスとミストラルの処理数であり全員分の合計は20を超えている。
 5体目にとりかかるがもう慣れた。
 盾で己と一部ミストラルに向かう前脚を防ぎ、隙を見つけると鋭く槍で突く。
 突撃は無しだ。今は敵殲滅の速度より物資の安全を優先したい。
 Gacrux機がCAMシールドを回収。慣れを感じさせる動作で崖から離れた場所へ移動させる。
 センサーが壊れた大蜘蛛機が真正面からぶつかり進めなくなる。
 水月機のガトリングガンが大量の30ミリ弾を打ち出しシールド前の大蜘蛛を残骸に。
 Gacrux機のアサルトライフルが正確な狙いで30ミリを打ち込み、出っ張り隅の大蜘蛛へ止めを刺す。
 そして、最後の大蜘蛛が死地から1機だけで逃げだそうとした。
 赤い花が咲く。
 威力の割に狭い範囲にまとまった爆発が、大蜘蛛とその逃げる先を覆い尽くす。
 そんな地獄を作り出した本人はガルムの背中で静かに蜘蛛を観察している。
「優先順位の設定が時代遅れです。いつ作られたのでしょう」
 蜘蛛は撤退を諦めGacrux機を道連れにしようと走り出す。
 判断が甘すぎる。CAMの戦力は大蜘蛛の認識よりずっと大きい。
 至極あっさりシールドで受け止められる。
「そろそろ残弾が。使いますけど」
 冷気がパーツ全てを砕き、数百年この場を守ってきた機体をスクラップに変えた。
 エルバッハが魔導カメラと一緒に大量の用紙を取り出した。
 荷物の確認と片付けを騎士たちに任せて、己のマテリアルを注いで蜘蛛の残骸と建物の残骸を撮影する。
 どれも整備状態は良好。なのにとんでもなく古びている。
「西方地方の古代遺跡の話は耳にした事はありましたが……」
 Gacruxは印刷されたものを見比べる。
「数百年前に、これ程の高度文明の機械兵器が? つい先日までバリスタで戦争していた俺達が、まるで猿ですね」
「地球の学者に聞かせたら憤死するかもね」
 水月が整備中の機体から降りてきた。
「CAMが出来たのはトマーゾ教授以降で最近ですからねー。数百年前の城ならそこのエルフさん1人で燃やせそうだし」
 ロッソがもう少しパーツを回してくれたらなー、とつぶやきながら、水月は性能向上のためのパーツを要望するため意見書を書いている。
「おーい。余裕のある奴は下までロープを伸ばしてくれ」
 すっかり薄汚れた作業員現役風騎士が手を振っている。
 CAMの遠距離射撃能力は防衛に必要なため、エルバッハが下に降りて固定することになった。
「12機目」
 また大蜘蛛が近寄ってくる。
 在庫が少なくなっているらしく、どれも小さいか古びて性能が低いかだ。
 吹雪くたびに残骸が増え、爆発するたびに大量の残骸が増える。
 たまに生き延びるものがいるが出っ張りからの射撃で確実に仕留められていく。
 エルバッハはロープの固定を終えると出っ張りへ戻り、大渓谷遺跡調査へ来たハンターと入れ替わりに地上へ戻っていった。

 今回防衛された拠点は大渓谷遺跡調査のための拠点に転用され、大勢のハンターを助けることになる。
 戦闘後に収集された情報も今後の調査に活かされることになるだろう。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 4
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 黒猫とパイルバンカー
    葛音 水月(ka1895
    人間(蒼)|19才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    フロージ(ジュウカヘイソウ)
    フロージ(重火兵装)(ka1895unit004
    ユニット|CAM
  • 鍛鉄の盾
    イーディス・ノースハイド(ka2106
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ミストラル
    ミストラル(ka2106unit001
    ユニット|幻獣
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ガルム
    ガルム(ka2434unit001
    ユニット|幻獣
  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacrux(ka2726
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    マドウガタデュミナス
    アリアドネ(ka2726unit001
    ユニット|CAM
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    シルバーレードル
    シルバーレードル(ka3496unit001
    ユニット|CAM
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
イーディス・ノースハイド(ka2106
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/09/04 21:56:58
アイコン 質問卓
Gacrux(ka2726
人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/09/01 17:56:56
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/09/02 00:45:07