ゲスト
(ka0000)
もふもふ、羊に追われて城の中
マスター:芹沢かずい

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/09/06 09:00
- 完成日
- 2016/09/14 16:39
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
グラズヘイム王国領、とある田舎。
小高い丘には雑木林に囲まれた古城。人もまばらな名もない村に、賑やかな姉妹がやって来た。
この村を見渡すように、小高い丘の上には千年の昔から城がある。今は誰もおらず、ただ時が流れるに任せて佇んでいるだけだ。
その古城に、コボルドを飼い馴らしたゴブリン達が巣食ったのは数ヶ月前。
亜人に抵抗する術を持たない村人の多くは、家族を護るために村を捨てた。
食料を求めて、ゴブリンやコボルドが物色してまわった結果、村は荒れ放題。廃村の危機に直面することになる。
……僅かに残った者たちを嘲笑うかのように、ゴブリン達は我が物顔で古城に居座り続けていた……。
そんな中、遠く離れた土地で商売をしていた老夫婦が、故郷であるこの村に戻って来た。
老夫婦・ガーゴ爺とイル婆の引っ越しを手伝った縁だと言い張り、リタとエマの姉妹は廃村を阻止する為に、頼りないながらも奮闘しているわけだ。
老夫婦の昔馴染みというリブ爺、何より優秀なハンター達の協力が得られた事が大きかった。
姉妹が言い出した『古城奪還作戦』は大成功。……殆どがハンター達の功績によるものだが、古城と、そこに棲まうゴブリン達の調査を敢行し、殲滅するに至った。
●
荒んでいた村からは生活の匂いが漂い始めていた。古城奪還の話を聞いた者たちが、荒れた村と古城を復興させるべく頑張っているのだ。
村おこしの拠点となっている、ガーゴ爺の家。
集まった村人達と姉妹は、テーブルに置かれた古城の見取り図と、古城周辺の地図を覗き込んでいた。見取り図には、最近書き込まれたと思われる新しい文字が目立つ。
「んーと……一階の食堂から二階の天井が見えたわね!」
『?』
何故か偉そうにふんぞり返って見取り図を指差し、自分が見てきた古城の様子を覚えている限りで村人に伝えようとしていた。
身振り手振りの多いリタの力説、細かく書き込まれた見取り図、そしてエマの丁寧な説明によって、状況は少しずつ整理されてきている。
今の議題の中心に上がっているのは、どうやって古城を修復するか、ということだった。村おこしのメインにするつもりらしい。
古城には、すでに集められるだけの資材が運び込まれている。近隣の町に避難していた者たちが声を掛け合って集めたものだ。何がどれだけ必要なのか、まだはっきりしていない部分もあるが、千年の歴史は伊達ではなかったらしい。村人達の気合いの入りようが分かる。
「石壁が崩れてるし、二階の床は抜け落ちそうな場所も多かったですからね。特にテラスの上……」
エマが指摘する。
古城の正面玄関を入って右には食堂がある。当時は何かで仕切られていたのだろうが、現在は何もない。風通しの良さが原因かどうかは不明だが、老朽化が進んでいる。
「ガーゴ爺ちゃん、どうしたのよ?」
見取り図を覗き込んでいたガーゴ爺が、何やら思い出そうと頭をひねっている。見取り図を覗き込んだそのままで、ガーゴが昔の記憶を引っ張り出しながら唸るように声を出す。
「ふぅむむ……この辺り……随分と崩れてしまっているようだが、隠し部屋は見つからんかったのかのぅ?」
『隠し部屋っ?』
がばっ! と音さえたててガーゴの言葉に食いつく姉妹と村人。
「う、うむ……」
驚いてガーゴが顔を上げると、恐ろしくキラキラとした瞳が彼を待ち受けていた。
少々面食らいつつも、ガーゴが記憶を掘り起こす。
「城の四方に塔があるじゃろ? その昔、使用人達が使う為の部屋が塔の中にあってな。『隠し部屋』というのは雰囲気でそう呼ばれとっただけだがの。数十年前、一般に開放しとった時だったか……悪戯好きの大工がこっそり仕掛けを作って扉を隠してしもうたんじゃ」
懐かしそうに目を細め、ガーゴは言う。
「当時は子供らに大人気じゃったわ。そのまま塔の屋上まで出られて……懐かしいのぅ。……あそこからの眺めは絶景じゃよ?」
伝える言葉の最後は、集っていた者の表情を伺うように、少しばかり悪戯っぽい。
「…………」
エマが無言のまま隣に視線をやると、両肩をふるふると震わせながら片方の拳を握りしめたリタの横顔が見えた。
「隠し部屋……面白そうねっ!」
「絶対! 一人で行っちゃだめだからね!」
間髪入れずに言い放つ。
「……え? あれっ?!」
が、その言葉が行き場を失う。
「?」
「どうし……あれ?」
空間が『あれ?』に支配されている。
今の今までそこにいたはずの、リタがいない。はっとして窓に駆け寄るエマ。
「ああああああっ!」
悲鳴に近い声が室内に響き渡る。
彼女と村人達が見たのは、古城とは反対側に走って行くリタの姿だった。……お約束である。
「戻って来てぇっ! あれっ? ホントに戻って来た……って! そっちじゃないよ! いやそっちだけど、そうじゃなくてぇ!」
窓から飛び出すべきか玄関から出るべきか、右往左往しながら叫ぶエマ。
目に入ったのは、古城とは逆方向に向かっていたリタの傍を通り過ぎる小さな『何か』。
それに興味を奪われ、くるりと方向転換したリタが、『何か』を追いかけて真っ直ぐに古城に向かって行く姿だった。
●
「お姉ちゃん! どこにいるのーっ?」
辿り着いた城の正面玄関。エマの叫びが虚しく響き、反響して消える。
代わりに答えている(のかどうかは不明だが)猫のような鳴き声。それも一匹や二匹ではない。
『にゃあぁーん』
「どうした? 何があった?」
騒ぎを聞きつけた者、村おこしに興味を持つ者、通りすがりに古城見物に来た者……村人の他にも何人か、エマに続いてこの場に集まっていた。
彼らの横をすり抜けるように古城に駆け込んで行くのは、猫。ただし、二足歩行。
「こいつぁ……」
『にゃああっ』
誰かの声が言う。
「ユグディラじゃないか……? なんでこんな……」
「もふもふ……」
「見てあれっ!」
誰かの鋭い声が、城の外へと皆の視線を導く。
「今度は……羊?」
『ンンメエェエ……』
可愛くない声が、彼らの警戒心を煽る。
「ただの羊じゃないぞ」
……見れば分かる。
彼らもまた二足歩行。……雰囲気が友好的ではないし、なんか可愛くない。
『まさか……歪虚?!』
どこかで見たような姿貌だが、出来損ない感が半端ない。その羊が、猫を追い立てているのだ。古城に逃げ込んだ猫を追って、棒のような武器を持った羊がこちらへ来る。
「ちょっ……お姉ちゃーんっ! どうしよう……っ」
エマは頭をフル稼働させて考える。そして叫んだ。
「なんか可愛くないし武器持ってるから! 取り敢えずあの羊を撃退しましょうっ! お姉ちゃんは後でいいからっ!」
『………………いいのか?』
グラズヘイム王国領、とある田舎。
小高い丘には雑木林に囲まれた古城。人もまばらな名もない村に、賑やかな姉妹がやって来た。
この村を見渡すように、小高い丘の上には千年の昔から城がある。今は誰もおらず、ただ時が流れるに任せて佇んでいるだけだ。
その古城に、コボルドを飼い馴らしたゴブリン達が巣食ったのは数ヶ月前。
亜人に抵抗する術を持たない村人の多くは、家族を護るために村を捨てた。
食料を求めて、ゴブリンやコボルドが物色してまわった結果、村は荒れ放題。廃村の危機に直面することになる。
……僅かに残った者たちを嘲笑うかのように、ゴブリン達は我が物顔で古城に居座り続けていた……。
そんな中、遠く離れた土地で商売をしていた老夫婦が、故郷であるこの村に戻って来た。
老夫婦・ガーゴ爺とイル婆の引っ越しを手伝った縁だと言い張り、リタとエマの姉妹は廃村を阻止する為に、頼りないながらも奮闘しているわけだ。
老夫婦の昔馴染みというリブ爺、何より優秀なハンター達の協力が得られた事が大きかった。
姉妹が言い出した『古城奪還作戦』は大成功。……殆どがハンター達の功績によるものだが、古城と、そこに棲まうゴブリン達の調査を敢行し、殲滅するに至った。
●
荒んでいた村からは生活の匂いが漂い始めていた。古城奪還の話を聞いた者たちが、荒れた村と古城を復興させるべく頑張っているのだ。
村おこしの拠点となっている、ガーゴ爺の家。
集まった村人達と姉妹は、テーブルに置かれた古城の見取り図と、古城周辺の地図を覗き込んでいた。見取り図には、最近書き込まれたと思われる新しい文字が目立つ。
「んーと……一階の食堂から二階の天井が見えたわね!」
『?』
何故か偉そうにふんぞり返って見取り図を指差し、自分が見てきた古城の様子を覚えている限りで村人に伝えようとしていた。
身振り手振りの多いリタの力説、細かく書き込まれた見取り図、そしてエマの丁寧な説明によって、状況は少しずつ整理されてきている。
今の議題の中心に上がっているのは、どうやって古城を修復するか、ということだった。村おこしのメインにするつもりらしい。
古城には、すでに集められるだけの資材が運び込まれている。近隣の町に避難していた者たちが声を掛け合って集めたものだ。何がどれだけ必要なのか、まだはっきりしていない部分もあるが、千年の歴史は伊達ではなかったらしい。村人達の気合いの入りようが分かる。
「石壁が崩れてるし、二階の床は抜け落ちそうな場所も多かったですからね。特にテラスの上……」
エマが指摘する。
古城の正面玄関を入って右には食堂がある。当時は何かで仕切られていたのだろうが、現在は何もない。風通しの良さが原因かどうかは不明だが、老朽化が進んでいる。
「ガーゴ爺ちゃん、どうしたのよ?」
見取り図を覗き込んでいたガーゴ爺が、何やら思い出そうと頭をひねっている。見取り図を覗き込んだそのままで、ガーゴが昔の記憶を引っ張り出しながら唸るように声を出す。
「ふぅむむ……この辺り……随分と崩れてしまっているようだが、隠し部屋は見つからんかったのかのぅ?」
『隠し部屋っ?』
がばっ! と音さえたててガーゴの言葉に食いつく姉妹と村人。
「う、うむ……」
驚いてガーゴが顔を上げると、恐ろしくキラキラとした瞳が彼を待ち受けていた。
少々面食らいつつも、ガーゴが記憶を掘り起こす。
「城の四方に塔があるじゃろ? その昔、使用人達が使う為の部屋が塔の中にあってな。『隠し部屋』というのは雰囲気でそう呼ばれとっただけだがの。数十年前、一般に開放しとった時だったか……悪戯好きの大工がこっそり仕掛けを作って扉を隠してしもうたんじゃ」
懐かしそうに目を細め、ガーゴは言う。
「当時は子供らに大人気じゃったわ。そのまま塔の屋上まで出られて……懐かしいのぅ。……あそこからの眺めは絶景じゃよ?」
伝える言葉の最後は、集っていた者の表情を伺うように、少しばかり悪戯っぽい。
「…………」
エマが無言のまま隣に視線をやると、両肩をふるふると震わせながら片方の拳を握りしめたリタの横顔が見えた。
「隠し部屋……面白そうねっ!」
「絶対! 一人で行っちゃだめだからね!」
間髪入れずに言い放つ。
「……え? あれっ?!」
が、その言葉が行き場を失う。
「?」
「どうし……あれ?」
空間が『あれ?』に支配されている。
今の今までそこにいたはずの、リタがいない。はっとして窓に駆け寄るエマ。
「ああああああっ!」
悲鳴に近い声が室内に響き渡る。
彼女と村人達が見たのは、古城とは反対側に走って行くリタの姿だった。……お約束である。
「戻って来てぇっ! あれっ? ホントに戻って来た……って! そっちじゃないよ! いやそっちだけど、そうじゃなくてぇ!」
窓から飛び出すべきか玄関から出るべきか、右往左往しながら叫ぶエマ。
目に入ったのは、古城とは逆方向に向かっていたリタの傍を通り過ぎる小さな『何か』。
それに興味を奪われ、くるりと方向転換したリタが、『何か』を追いかけて真っ直ぐに古城に向かって行く姿だった。
●
「お姉ちゃん! どこにいるのーっ?」
辿り着いた城の正面玄関。エマの叫びが虚しく響き、反響して消える。
代わりに答えている(のかどうかは不明だが)猫のような鳴き声。それも一匹や二匹ではない。
『にゃあぁーん』
「どうした? 何があった?」
騒ぎを聞きつけた者、村おこしに興味を持つ者、通りすがりに古城見物に来た者……村人の他にも何人か、エマに続いてこの場に集まっていた。
彼らの横をすり抜けるように古城に駆け込んで行くのは、猫。ただし、二足歩行。
「こいつぁ……」
『にゃああっ』
誰かの声が言う。
「ユグディラじゃないか……? なんでこんな……」
「もふもふ……」
「見てあれっ!」
誰かの鋭い声が、城の外へと皆の視線を導く。
「今度は……羊?」
『ンンメエェエ……』
可愛くない声が、彼らの警戒心を煽る。
「ただの羊じゃないぞ」
……見れば分かる。
彼らもまた二足歩行。……雰囲気が友好的ではないし、なんか可愛くない。
『まさか……歪虚?!』
どこかで見たような姿貌だが、出来損ない感が半端ない。その羊が、猫を追い立てているのだ。古城に逃げ込んだ猫を追って、棒のような武器を持った羊がこちらへ来る。
「ちょっ……お姉ちゃーんっ! どうしよう……っ」
エマは頭をフル稼働させて考える。そして叫んだ。
「なんか可愛くないし武器持ってるから! 取り敢えずあの羊を撃退しましょうっ! お姉ちゃんは後でいいからっ!」
『………………いいのか?』
リプレイ本文
●
「歪虚をブッコロしてユグディラちゃん達と交流しつつ隠し部屋とリタちゃんを探す、ですかぁ。盛りだくさんで楽しそうですぅ」
星野 ハナ(ka5852)が言う。アブない言動は愛嬌だ。
「よっしゃ! エマの許しもでたし、まずは目の前の脅威から片付けないとな……数が多いから油断せずにいこう」
ヴァイス(ka0364)は言葉と共に、炎のようなオーラを纏う。
「食材歪虚の分際でぇ、ユグディラちゃんと女の子をいじめようとは片腹痛いですぅブッコロですぅ」
複数の符を使い結界を張る。
御酒部 千鳥(ka6405)はすでに出来上がっているのか、ゆらりとした動き。
「隠し部屋探しに子供探し……するにも山羊が邪魔じゃな」
うん。羊の間違いだ。
「ほっほっほっ、山羊なら山羊らしく紙でも食ろうて大人しくしていれば良いのじゃ」
気を練り上げ、抉るような突きを繰り出す。
「羊ですよ、千鳥さん」
スフィル・シラムクルム(ka6453)はそう言うと、素早く羊との間を詰め、その勢いで強烈な蹴りを放つ。
「……なぬ、羊の歪虚じゃと?」
羊の棒切れを躱しつつ、千鳥。
「んー、まぁ山羊歪虚でも羊歪虚でも似たようなもんじゃろ。どっちも殴れば倒せるんじゃから」
バキイッ!
言いつつ放ったのは強烈な蹴り。
ザレム・アズール(ka0878)は自らの防御力を上昇させ、声を上げつつ走る! 声に誘われ羊の注意が惑う。
「ここはお前らが住んで良い場所じゃない。とっととお帰り願おう」
言葉と共に、容赦なく剣が振り下ろされる。
「行き先は地獄……選択肢はない」
戦況を見るエマの瞳から、心配そうな表情が見える。無自覚だが。
そんなエマを見ていたカティス・ノート(ka2486)。
くすっと笑ったその声に振り返るエマ。
「……あ、ごめんなさいなのです。つい。その、姉さん達のことを思っちゃって♪」
カティスはエマを庇い移動する。周囲を警戒しつつも、ふと脳裏に昔の記憶が蘇る。
(そういえば、ハンターになったばかりの頃にも羊と戦ったっけ……)
「悪ぃっ! 一匹そっちに行ったぞっ!」
ヴァイスの鋭い声に続いて、二人は揃って悲鳴を上げた。
『いやあああっ! 可愛くないっ!!』
……そこか。
嫌悪感が二人の闘争意欲を刺激した。二人は素早く羊から距離をとる。
カティスが放った冷たい氷の矢が、羊の動きを鈍らせる。
「私だって……!」
ガシュっ……!
エマの一撃が羊を捉えた。
壁役のヴァイスに引きつけられている隙に、千鳥が強烈な体術で、ザレムが剣と放つ光で容赦なく葬り去る。
連続して放たれたハナの符の結界の中で羊は焼かれ、逃れたものをスフィルが撃破。カティスは後方で戦況を見つつ、的確な援護。
気付くと、羊達の姿はなかった。
●
「んむ。羊だか山羊だかはもうおらん様じゃな」
後には、ぽつりと佇むユグディラだけ。ザレムはユグディラに近付いて軽く撫でる。
「あの羊はもういない。もう大丈夫だ」
優しい声に安心したのか、目を閉じて気持ち良さそうにしている。
(ああ、癒される……)
ザレムさん、至福の時である。
その横で、カティスがほくほく顔。
「はゎ♪ この猫さん達、ユグディラってゆーんです? 精霊、です? 可愛いのです♪」
『なおーん』
「そういえば、どこから来たんでしょうね? この羊さん達……? 猫さん達に聞けるかな」
思い出したように、カティス。猫は首を傾げただけだ。
「さあ、今度はユグディラちゃんとリタちゃんを助けに行きますよぅ」
腕をぶんぶん振り回しハナが声を張り上げる。
「何かもうほぼ単独行動になりそうですしぃ、それならある程度攻撃魔法を準備していかないといけませんからぁ……そうなると勘頼み?」
ハナはタロットカードを広げる。結果はこれだ。
『なんとかと煙が好む場所』
●
全員の携行品を確認し、ザレムが通信機器を強化して準備は完了。
ヴァイスは改めてエマに視線を合わせる。
「一年ぶりか? 成長したなぁ」
言って、エマの頭を撫でる。エマは真っ赤になって俯いてしまう。
それを見て誰かが思った。
(あ、撃ち落とした)
「で、どうする? まぁリタを探したいだろうが」
「いえ、お姉ちゃんは後回しで……」
ヴァイスの質問に歯切れ悪く答える。その視線はヴァイスから離れない。
「んじゃ、俺と行くか?」
「はい!」
「俺は移動できる範囲で古城の外周と中庭を回ってみて、外側からの構造を把握してみるかな」
「そうだエマ、リタの私物を何か持っていないか?」
ザレムにそう言われ、慌てて探す。
「えっと、これはどうですか?」
差し出されたのは、彼女の日記帳。
「ありがとう」
受け取ると、猟犬シバに匂いを覚えさせる。
「さあ行こか」
ザレムの声が出発の合図。
●
ザレムは兵舎塔から探索を開始。
修復に役立つよう簡易見取り図を用意し、その後厨房なども探索するつもりだ。
「おーいリター! 居るのか?」
がらんとした空間に、虚しく響く。シバの鼻にも反応はないようだ。
「居ないなら居ないで居ないって返事してくれー」
……ザレムさんはお約束に忠実だった。
ユグディラが二匹、ドヤ顔でシバの背に乗っていた。ここで救出されたようだ。
ライトを付け、観察する。
ほぼ正円の部屋の奥には、兵舎に続くドア。天井は低く、何もない。
兵舎を探索する。壁を叩き、空間違和感を探す。
「隠し部屋……俺なら何処に作るかな」
(遊び心なら致命傷にはならないな……楽しもうか)
と、床にレバーを発見。迷わず動かす。
ごぐん……。ごごご……ごっ……ごぐごつんっ!
盛大な音を追って見ると、天井に四角い穴が開いている。壊れかけの梯子もあった。
上は書庫のようだ。壁一面に本棚が据え付けられ、ぎっしりと書物が納められている。
ライトを片手に、床の模様までつぶさに見て回る。
(無茶苦茶楽しんでるな、俺)
探索するうち、本棚に隠れてドアノブのない扉を見つけた。ふと思いつき、手近な本を順に動かしてみる。猫マークのついた本を引いた時、
ごぐぅん……。
ビンゴ。
その先には老朽化した梁の通路。渡った先にはドアと鍵。難なく解錠すると、西の塔に辿り着いた。衣装部屋を通って通路に出る。
ヴァイスとエマは、エントランス広場から東に回り、城の外周を調べて行く。やがて二人は、城の裏にある湖のほとりに辿り着いた。
「結構な眺めだな。落ち着いたらここらで一休みってのもいいかもな」
ヴァイスの提案に、エマが断る理由もなく。
改めて見ると、四方の塔はかなり大きく、屋上付近にまで窓がある。かなり上まで何かがありそうだ。
不意に通信が入った。
『こちら星野ハナですぅ。西の塔は階段が壊れてて上には登れないですぅ。絨毯の下とか額縁の裏とか衣装ダンスの奥とかが隠し部屋っぽいんですけどぉ』
こんな感じで、各自状況を報告・共有しながら探索を進めている。
正面玄関から入って螺旋階段を昇り、西の塔に向かうのはハナ。
「秘密の小部屋と地下通路はロマンですからぁ。衣装部屋からの脱出口は1度チェックしておかないとと思うんですぅ」
ハナは言葉通り、衣装部屋から続く階段で地下へと進む。
地下にはユグディラが二匹。ツナサンドを用意していたハナは、それをちらつかせ、すり寄って来た猫たちをモフりながら問いかける。
「ユグディラちゃん、無事ですぅ?」
視線を合わせてしゃがみ込むハナ。
「ところで、この位の背格好の女の子を見かけませんでしたかぁ? ここのお城、隠し部屋が多くて探険に行っちゃったらしいんですぅ。もし見かけて、危なそうな事してたら助けに行きますから教えて下さい!」
『にゃう』
敵意は無いと判断したのか、彼らはハナの前を歩き出した。
千鳥は一階から。用意していた筆記具で、城内の見取り図を書きながら進む。自分の歩幅を基準に、距離や高さまで書き込んで。
「おっと、崩れておるな……ここは目算で……」
『にゃう』
傍にいたユグディラが、千鳥の周りを元気に走り回っている。
「ほっほっほ、やんちゃな猫じゃのう♪」
させ放題にさせていた千鳥だが、不意に真顔になる。
「ただし、酒にチョッカイ出してくるなら別じゃな」
『にゃ』
「酒にチョッカイ出してくるなら別じゃぞ」
二回言った。大事な事だ。
それでも、彼女の酒瓶をじっと見つめる。
「……一緒に呑むかえ?」
『にゃあっ!』
元気な返事だ。
カティスは二階、南側に連なる空き部屋へ向かう。ガーゴ爺の『使用人達が使う為の部屋』という言葉を参考にしたようだ。
彼女の前にはとことこ進むユグディラが一匹。案内しているのか心配しているのか、時々カティスを振り返っては、立ち止まる。
「はわ〜♪ 可愛いのです♪」
ユグディラの数歩先には、誰かが踏み抜いたらしい穴。
周囲の埃を払って覗き込んだり瓦礫の下に声を掛けたり、念入りに隠し部屋への入り口とリタの痕跡を探す。
「ねえユグディラさん。隠し部屋とかリタさんの居場所について、知ってることはないかしら?」
スフィルが小さな猫に問いかける。
彼女の傍には三匹のユグディラ。……お菓子に誘われたのは間違いない。
『なうにゃうう……』
持参したお菓子でユグディラとお友達になったスフィルが問う。
彼女がいるのは、衣装部屋から領主の間を挟んで反対側にある、北側の塔。入り口は施錠されておらず、古びた木のドアは重かったが、仕掛けもなくすんなりと中に入れた。
ここは空き部屋が並ぶ二階の南側。
「使用人が使うお部屋……この内のどれかということでしょうか」
ユグディラは相変わらずカティスの前を歩いていた。時々飛び出した床板に躓いていたが。
老朽化した床板の下を覗き込み、穴から落ちそうになったユグディラを助けたりしながら慎重に探索する。
一部屋ずつ念入りに調べて行く。出入り口のドア、据え付けのベッドや衣装ダンス、クローゼット。暖炉まであった。カティスはその奥までじっくり観察していたが、怪しいものは見つけられない。
そこに、千鳥が合流した。
「リタさん、どこにいるんでしょうね?」
千鳥が書いた見取り図を覗き込んで、カティス。
「そう言えば何処にもおらん様じゃな。行動力の塊の様なお子の様じゃから、既に隠し部屋の中かもしれんのう」
見取り図には、南側の部屋が書き加えられていた。
南側に並んだ部屋は7つ。東の塔に隣接している部屋は、かなり手狭に感じる。
一方こちらは北の塔。内部には簡単に入る事が出来たが、その先は円筒形の部屋。
「ここは……宝物庫になるのかな?」
『なぁう』
スフィルの問いを肯定するようにひと鳴き。
部屋の壁一面には、棚が作り付けられている。そこに所狭しと並べられているのは、形も大きさも種類も様々な置物の数々。
「私なら……どんなところに隠すかな……こういうの、得意な方なんだけど……」
品々を見定めるスフィル。天井近くまで棚が連なっている。が、傍にある梯子は折れている。上まで調べるのは無理そうだった。
スフィルは、手近にあった猫の置物に触れると、何気なく動かしてみる。
……ごちんっ。
奇妙な音。
「?」
動く事が分かったスフィルは、そのまま奥へとそれを倒す。
ごぅんごぅんごぅん……!
「……っ!」
『きゃあああああっ!』
「この声……スフィルか?」
「スフィルさんは北の塔ですねっ!」
ヴァイスとエマが、悲鳴を聞きつけ走り出す。
城門付近にいた彼らは、エントランスを駆け抜け、干からびた池を飛び越えて正面玄関から城内へ、真っ直ぐホールを突っ切り螺旋階段を昇り……、
どっかん!
「きゃあっ!」
「うをっ? あ、わ、悪いっ」
螺旋階段の途中にある扉が不意に開き、出てきたハナと正面衝突で再会を果たした。
「大丈夫ですよぅ、スフィルさんの所に急ぎましょお!」
●
「大丈夫かっ?」
ヴァイス、ハナ、エマが辿り着いた時、そこにはすでにカティスと千鳥、ザレムの姿もあった。
「だ、大丈夫です。お騒がせしました……」
怪我をしている様子はない。
「何があったんだ?」
ヴァイスが問いかけると、スフィルは後ろを指差した。
「あれにちょっと吃驚しちゃって……」
そこには、グロテスクな銅像。頭は猛獣、胴体は山羊。そして蛇のような尻尾がついている。
「猫さんの置物がスイッチになっていたようで、急に出て来たんです。すみません……」
叫んでしまった事と、見つけたのが隠し部屋ではなかった事に落胆を隠せないスフィルであった。
合流した所で、これまでの成果を交換し合う。ここは東の塔に隣接する部屋。
一階は特別これといった仕掛けはなかった。西、南、北の塔に関しても同様。最上部まで調べる事はできなかったが、やはり怪しいのは……
「東の塔……ここか」
ヴァイスが言い、皆が腰を浮かしかけた時。
『あ、あー、聞こえますかー』
「「?」」
声が聞こえた。
「お姉ちゃん?! どこにいるのっ?」
「……暖炉から?」
小柄なスフィルが気付いた。
『伝声管があったのよ! で、皆どこにいるの?』
「それは俺たちが聞きたいんだが」
呆れた声で苦笑いのヴァイスが逆に問う。
『にゃにゃにゃっ!』
ユグディラが何かを教えている。暖炉に頭から突っ込んで。
もしかして……その中に何か……?
むぎゅうっ!
一斉に暖炉に突っ込むが、当然入りきれる訳もなく。そして誰かの頭が何かを押した。
ぐうぅう……ん。
壁の隙間から螺旋階段が伸びて来た。皆が暖炉から出たとき、ハナが頭を擦っていた。
●
「ね、凄い景色よね! まさに絶景だわ!」
ユグディラを胸に抱えたリタが、興奮した声で言う
確かに景色は素晴らしいが、それよりも、リタに聞きたい事があった。
『どうやってここに……?』
「ゆぐでぃんが教えてくれたのよ! 可愛いでしょ!」
「ゆぐでぃん?」
ヴァイスが問う。
「ユグディラちゃん、略してゆぐでぃんよ!」
『なあぁう』
呼ばれたユグディラもまんざらではない様子。
東の塔の内部構造は他の塔とは少々違っていた。小さめのベッドが幾つも並び、衣装ダンスや机が据え付けられて……ここが隠し部屋に違いない。
●
無事に任務を成功させた彼らは、そのまま見晴らしの良い屋上で休憩していた。
「湖の傍も良かったが、ここもなかなかだな」
景色を眺めヴァイスが呟く。
「ユグディラ達もお菓子食べるか?」
もふを堪能しつつ、ザレムがお菓子を振る舞う。
持参したお菓子に寄って来たユグディラをモフモフする至福の時間。あぁ癒される。
千鳥に至ってはユグディラと酒を酌み交わしていた。
広い屋上に賑やかな声。人とユグディラの奇妙な宴会が開かれていた。
やがて日が沈みかけた頃、ユグディラ達は夕日に照らされて遥か東に見える森に視線を巡らせた。揃って夕日に背を向けたその姿は、一種異様なものを感じさせた。ーーこれから、何かが起こるのではないか、とーー。
「歪虚をブッコロしてユグディラちゃん達と交流しつつ隠し部屋とリタちゃんを探す、ですかぁ。盛りだくさんで楽しそうですぅ」
星野 ハナ(ka5852)が言う。アブない言動は愛嬌だ。
「よっしゃ! エマの許しもでたし、まずは目の前の脅威から片付けないとな……数が多いから油断せずにいこう」
ヴァイス(ka0364)は言葉と共に、炎のようなオーラを纏う。
「食材歪虚の分際でぇ、ユグディラちゃんと女の子をいじめようとは片腹痛いですぅブッコロですぅ」
複数の符を使い結界を張る。
御酒部 千鳥(ka6405)はすでに出来上がっているのか、ゆらりとした動き。
「隠し部屋探しに子供探し……するにも山羊が邪魔じゃな」
うん。羊の間違いだ。
「ほっほっほっ、山羊なら山羊らしく紙でも食ろうて大人しくしていれば良いのじゃ」
気を練り上げ、抉るような突きを繰り出す。
「羊ですよ、千鳥さん」
スフィル・シラムクルム(ka6453)はそう言うと、素早く羊との間を詰め、その勢いで強烈な蹴りを放つ。
「……なぬ、羊の歪虚じゃと?」
羊の棒切れを躱しつつ、千鳥。
「んー、まぁ山羊歪虚でも羊歪虚でも似たようなもんじゃろ。どっちも殴れば倒せるんじゃから」
バキイッ!
言いつつ放ったのは強烈な蹴り。
ザレム・アズール(ka0878)は自らの防御力を上昇させ、声を上げつつ走る! 声に誘われ羊の注意が惑う。
「ここはお前らが住んで良い場所じゃない。とっととお帰り願おう」
言葉と共に、容赦なく剣が振り下ろされる。
「行き先は地獄……選択肢はない」
戦況を見るエマの瞳から、心配そうな表情が見える。無自覚だが。
そんなエマを見ていたカティス・ノート(ka2486)。
くすっと笑ったその声に振り返るエマ。
「……あ、ごめんなさいなのです。つい。その、姉さん達のことを思っちゃって♪」
カティスはエマを庇い移動する。周囲を警戒しつつも、ふと脳裏に昔の記憶が蘇る。
(そういえば、ハンターになったばかりの頃にも羊と戦ったっけ……)
「悪ぃっ! 一匹そっちに行ったぞっ!」
ヴァイスの鋭い声に続いて、二人は揃って悲鳴を上げた。
『いやあああっ! 可愛くないっ!!』
……そこか。
嫌悪感が二人の闘争意欲を刺激した。二人は素早く羊から距離をとる。
カティスが放った冷たい氷の矢が、羊の動きを鈍らせる。
「私だって……!」
ガシュっ……!
エマの一撃が羊を捉えた。
壁役のヴァイスに引きつけられている隙に、千鳥が強烈な体術で、ザレムが剣と放つ光で容赦なく葬り去る。
連続して放たれたハナの符の結界の中で羊は焼かれ、逃れたものをスフィルが撃破。カティスは後方で戦況を見つつ、的確な援護。
気付くと、羊達の姿はなかった。
●
「んむ。羊だか山羊だかはもうおらん様じゃな」
後には、ぽつりと佇むユグディラだけ。ザレムはユグディラに近付いて軽く撫でる。
「あの羊はもういない。もう大丈夫だ」
優しい声に安心したのか、目を閉じて気持ち良さそうにしている。
(ああ、癒される……)
ザレムさん、至福の時である。
その横で、カティスがほくほく顔。
「はゎ♪ この猫さん達、ユグディラってゆーんです? 精霊、です? 可愛いのです♪」
『なおーん』
「そういえば、どこから来たんでしょうね? この羊さん達……? 猫さん達に聞けるかな」
思い出したように、カティス。猫は首を傾げただけだ。
「さあ、今度はユグディラちゃんとリタちゃんを助けに行きますよぅ」
腕をぶんぶん振り回しハナが声を張り上げる。
「何かもうほぼ単独行動になりそうですしぃ、それならある程度攻撃魔法を準備していかないといけませんからぁ……そうなると勘頼み?」
ハナはタロットカードを広げる。結果はこれだ。
『なんとかと煙が好む場所』
●
全員の携行品を確認し、ザレムが通信機器を強化して準備は完了。
ヴァイスは改めてエマに視線を合わせる。
「一年ぶりか? 成長したなぁ」
言って、エマの頭を撫でる。エマは真っ赤になって俯いてしまう。
それを見て誰かが思った。
(あ、撃ち落とした)
「で、どうする? まぁリタを探したいだろうが」
「いえ、お姉ちゃんは後回しで……」
ヴァイスの質問に歯切れ悪く答える。その視線はヴァイスから離れない。
「んじゃ、俺と行くか?」
「はい!」
「俺は移動できる範囲で古城の外周と中庭を回ってみて、外側からの構造を把握してみるかな」
「そうだエマ、リタの私物を何か持っていないか?」
ザレムにそう言われ、慌てて探す。
「えっと、これはどうですか?」
差し出されたのは、彼女の日記帳。
「ありがとう」
受け取ると、猟犬シバに匂いを覚えさせる。
「さあ行こか」
ザレムの声が出発の合図。
●
ザレムは兵舎塔から探索を開始。
修復に役立つよう簡易見取り図を用意し、その後厨房なども探索するつもりだ。
「おーいリター! 居るのか?」
がらんとした空間に、虚しく響く。シバの鼻にも反応はないようだ。
「居ないなら居ないで居ないって返事してくれー」
……ザレムさんはお約束に忠実だった。
ユグディラが二匹、ドヤ顔でシバの背に乗っていた。ここで救出されたようだ。
ライトを付け、観察する。
ほぼ正円の部屋の奥には、兵舎に続くドア。天井は低く、何もない。
兵舎を探索する。壁を叩き、空間違和感を探す。
「隠し部屋……俺なら何処に作るかな」
(遊び心なら致命傷にはならないな……楽しもうか)
と、床にレバーを発見。迷わず動かす。
ごぐん……。ごごご……ごっ……ごぐごつんっ!
盛大な音を追って見ると、天井に四角い穴が開いている。壊れかけの梯子もあった。
上は書庫のようだ。壁一面に本棚が据え付けられ、ぎっしりと書物が納められている。
ライトを片手に、床の模様までつぶさに見て回る。
(無茶苦茶楽しんでるな、俺)
探索するうち、本棚に隠れてドアノブのない扉を見つけた。ふと思いつき、手近な本を順に動かしてみる。猫マークのついた本を引いた時、
ごぐぅん……。
ビンゴ。
その先には老朽化した梁の通路。渡った先にはドアと鍵。難なく解錠すると、西の塔に辿り着いた。衣装部屋を通って通路に出る。
ヴァイスとエマは、エントランス広場から東に回り、城の外周を調べて行く。やがて二人は、城の裏にある湖のほとりに辿り着いた。
「結構な眺めだな。落ち着いたらここらで一休みってのもいいかもな」
ヴァイスの提案に、エマが断る理由もなく。
改めて見ると、四方の塔はかなり大きく、屋上付近にまで窓がある。かなり上まで何かがありそうだ。
不意に通信が入った。
『こちら星野ハナですぅ。西の塔は階段が壊れてて上には登れないですぅ。絨毯の下とか額縁の裏とか衣装ダンスの奥とかが隠し部屋っぽいんですけどぉ』
こんな感じで、各自状況を報告・共有しながら探索を進めている。
正面玄関から入って螺旋階段を昇り、西の塔に向かうのはハナ。
「秘密の小部屋と地下通路はロマンですからぁ。衣装部屋からの脱出口は1度チェックしておかないとと思うんですぅ」
ハナは言葉通り、衣装部屋から続く階段で地下へと進む。
地下にはユグディラが二匹。ツナサンドを用意していたハナは、それをちらつかせ、すり寄って来た猫たちをモフりながら問いかける。
「ユグディラちゃん、無事ですぅ?」
視線を合わせてしゃがみ込むハナ。
「ところで、この位の背格好の女の子を見かけませんでしたかぁ? ここのお城、隠し部屋が多くて探険に行っちゃったらしいんですぅ。もし見かけて、危なそうな事してたら助けに行きますから教えて下さい!」
『にゃう』
敵意は無いと判断したのか、彼らはハナの前を歩き出した。
千鳥は一階から。用意していた筆記具で、城内の見取り図を書きながら進む。自分の歩幅を基準に、距離や高さまで書き込んで。
「おっと、崩れておるな……ここは目算で……」
『にゃう』
傍にいたユグディラが、千鳥の周りを元気に走り回っている。
「ほっほっほ、やんちゃな猫じゃのう♪」
させ放題にさせていた千鳥だが、不意に真顔になる。
「ただし、酒にチョッカイ出してくるなら別じゃな」
『にゃ』
「酒にチョッカイ出してくるなら別じゃぞ」
二回言った。大事な事だ。
それでも、彼女の酒瓶をじっと見つめる。
「……一緒に呑むかえ?」
『にゃあっ!』
元気な返事だ。
カティスは二階、南側に連なる空き部屋へ向かう。ガーゴ爺の『使用人達が使う為の部屋』という言葉を参考にしたようだ。
彼女の前にはとことこ進むユグディラが一匹。案内しているのか心配しているのか、時々カティスを振り返っては、立ち止まる。
「はわ〜♪ 可愛いのです♪」
ユグディラの数歩先には、誰かが踏み抜いたらしい穴。
周囲の埃を払って覗き込んだり瓦礫の下に声を掛けたり、念入りに隠し部屋への入り口とリタの痕跡を探す。
「ねえユグディラさん。隠し部屋とかリタさんの居場所について、知ってることはないかしら?」
スフィルが小さな猫に問いかける。
彼女の傍には三匹のユグディラ。……お菓子に誘われたのは間違いない。
『なうにゃうう……』
持参したお菓子でユグディラとお友達になったスフィルが問う。
彼女がいるのは、衣装部屋から領主の間を挟んで反対側にある、北側の塔。入り口は施錠されておらず、古びた木のドアは重かったが、仕掛けもなくすんなりと中に入れた。
ここは空き部屋が並ぶ二階の南側。
「使用人が使うお部屋……この内のどれかということでしょうか」
ユグディラは相変わらずカティスの前を歩いていた。時々飛び出した床板に躓いていたが。
老朽化した床板の下を覗き込み、穴から落ちそうになったユグディラを助けたりしながら慎重に探索する。
一部屋ずつ念入りに調べて行く。出入り口のドア、据え付けのベッドや衣装ダンス、クローゼット。暖炉まであった。カティスはその奥までじっくり観察していたが、怪しいものは見つけられない。
そこに、千鳥が合流した。
「リタさん、どこにいるんでしょうね?」
千鳥が書いた見取り図を覗き込んで、カティス。
「そう言えば何処にもおらん様じゃな。行動力の塊の様なお子の様じゃから、既に隠し部屋の中かもしれんのう」
見取り図には、南側の部屋が書き加えられていた。
南側に並んだ部屋は7つ。東の塔に隣接している部屋は、かなり手狭に感じる。
一方こちらは北の塔。内部には簡単に入る事が出来たが、その先は円筒形の部屋。
「ここは……宝物庫になるのかな?」
『なぁう』
スフィルの問いを肯定するようにひと鳴き。
部屋の壁一面には、棚が作り付けられている。そこに所狭しと並べられているのは、形も大きさも種類も様々な置物の数々。
「私なら……どんなところに隠すかな……こういうの、得意な方なんだけど……」
品々を見定めるスフィル。天井近くまで棚が連なっている。が、傍にある梯子は折れている。上まで調べるのは無理そうだった。
スフィルは、手近にあった猫の置物に触れると、何気なく動かしてみる。
……ごちんっ。
奇妙な音。
「?」
動く事が分かったスフィルは、そのまま奥へとそれを倒す。
ごぅんごぅんごぅん……!
「……っ!」
『きゃあああああっ!』
「この声……スフィルか?」
「スフィルさんは北の塔ですねっ!」
ヴァイスとエマが、悲鳴を聞きつけ走り出す。
城門付近にいた彼らは、エントランスを駆け抜け、干からびた池を飛び越えて正面玄関から城内へ、真っ直ぐホールを突っ切り螺旋階段を昇り……、
どっかん!
「きゃあっ!」
「うをっ? あ、わ、悪いっ」
螺旋階段の途中にある扉が不意に開き、出てきたハナと正面衝突で再会を果たした。
「大丈夫ですよぅ、スフィルさんの所に急ぎましょお!」
●
「大丈夫かっ?」
ヴァイス、ハナ、エマが辿り着いた時、そこにはすでにカティスと千鳥、ザレムの姿もあった。
「だ、大丈夫です。お騒がせしました……」
怪我をしている様子はない。
「何があったんだ?」
ヴァイスが問いかけると、スフィルは後ろを指差した。
「あれにちょっと吃驚しちゃって……」
そこには、グロテスクな銅像。頭は猛獣、胴体は山羊。そして蛇のような尻尾がついている。
「猫さんの置物がスイッチになっていたようで、急に出て来たんです。すみません……」
叫んでしまった事と、見つけたのが隠し部屋ではなかった事に落胆を隠せないスフィルであった。
合流した所で、これまでの成果を交換し合う。ここは東の塔に隣接する部屋。
一階は特別これといった仕掛けはなかった。西、南、北の塔に関しても同様。最上部まで調べる事はできなかったが、やはり怪しいのは……
「東の塔……ここか」
ヴァイスが言い、皆が腰を浮かしかけた時。
『あ、あー、聞こえますかー』
「「?」」
声が聞こえた。
「お姉ちゃん?! どこにいるのっ?」
「……暖炉から?」
小柄なスフィルが気付いた。
『伝声管があったのよ! で、皆どこにいるの?』
「それは俺たちが聞きたいんだが」
呆れた声で苦笑いのヴァイスが逆に問う。
『にゃにゃにゃっ!』
ユグディラが何かを教えている。暖炉に頭から突っ込んで。
もしかして……その中に何か……?
むぎゅうっ!
一斉に暖炉に突っ込むが、当然入りきれる訳もなく。そして誰かの頭が何かを押した。
ぐうぅう……ん。
壁の隙間から螺旋階段が伸びて来た。皆が暖炉から出たとき、ハナが頭を擦っていた。
●
「ね、凄い景色よね! まさに絶景だわ!」
ユグディラを胸に抱えたリタが、興奮した声で言う
確かに景色は素晴らしいが、それよりも、リタに聞きたい事があった。
『どうやってここに……?』
「ゆぐでぃんが教えてくれたのよ! 可愛いでしょ!」
「ゆぐでぃん?」
ヴァイスが問う。
「ユグディラちゃん、略してゆぐでぃんよ!」
『なあぁう』
呼ばれたユグディラもまんざらではない様子。
東の塔の内部構造は他の塔とは少々違っていた。小さめのベッドが幾つも並び、衣装ダンスや机が据え付けられて……ここが隠し部屋に違いない。
●
無事に任務を成功させた彼らは、そのまま見晴らしの良い屋上で休憩していた。
「湖の傍も良かったが、ここもなかなかだな」
景色を眺めヴァイスが呟く。
「ユグディラ達もお菓子食べるか?」
もふを堪能しつつ、ザレムがお菓子を振る舞う。
持参したお菓子に寄って来たユグディラをモフモフする至福の時間。あぁ癒される。
千鳥に至ってはユグディラと酒を酌み交わしていた。
広い屋上に賑やかな声。人とユグディラの奇妙な宴会が開かれていた。
やがて日が沈みかけた頃、ユグディラ達は夕日に照らされて遥か東に見える森に視線を巡らせた。揃って夕日に背を向けたその姿は、一種異様なものを感じさせた。ーーこれから、何かが起こるのではないか、とーー。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/09/04 11:46:42 |
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相談卓 スフィル・シラムクルム(ka6453) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/09/06 00:40:22 |