【選挙】喜劇の幕は誰が上げる

マスター:稲田和夫

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/09/18 22:00
完成日
2014/09/26 08:14

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

ゆっくりと目を開けた青年は、利き腕に激痛を感じて顔を顰めた。粗末な寝台の上で、苦労して身を起こす。その利き腕には包帯が巻かれている。手厚い治療を受けた事は明白だが、傷は深く腕は最早ほとんど動かない。
「まだ痛むの?」
 部屋の扉が開かれ、厚いスモッグの雲を通してなお眩しい早朝の太陽に青年は目を細める。また、腕に激痛が走る。だが、開かれた扉の向こうから聞こえる子供たちの明るい声と、何より自分を心配そうに見つめる女性気遣うような笑顔が痛みをしばしば忘れさせてくれた。

 帝都バルトアンデルス革命前から存在するこの孤児院で、このハンターの青年が行き倒れている所を発見されたのは10日ほど前、丁度今ゾンネンシュトラール帝国を騒がせる選挙の準備が佳境を迎えていたころである。
 孤児院の院長も、子供たちの世話をしているこの若い女性も、何も聞かずに青年を手当てし、当面の食事と寝床を与えた。
 当初は、何かを気にして早く立ち去ろうとしていた青年であったが――。
「あ、兄ちゃん起きてる! なあ、また剣術教えてくれよ!」
「待って! 今日は字を教えてくれる約束でしょ? 私は一杯勉強して、帝国の『ぶんかん』になるんだから!」
 青年が、保母や院長と朝食を食べていると、待ちきれないのか孤児院の子供たちが元気よく食堂に入って来た。
 青年は、覚醒者であるということ以外は自分の素性を明かす事は無かったが、利き腕を怪我してなお確かな武術の腕前や、まるでかつては上流階級であったかのような豊富な知識と教養、そして何よりもその人柄で、今では子供たちに先生のように慕われていた。
「もう、皆エメリヒは怪我人なのよ」
 少し怒った顔で子供たちを窘めるロミルダ。
「構わないよ、ロミルダ」
 苦笑しつつ、腰を上げるエメリヒ。だが、子供たちは、何故か急にざわめき出した。
「? どうしたんだい?」
 屈みこんで優しく尋ねるエメリヒ。すると、何人かの子供が二人を指差し一斉に叫んだ。
『今、二人とも呼び捨てだったー!』
 二人の男女は、思わず相手を見つめ――頬を赤くして俯いた。


 日が沈み、帝都に夜の帳が訪れる頃孤児院のある通り。その街角に数名の男女が立っていた。
「間違いねぇんだろうな……?」
 そう仲間に聞いたのは、ナイフを持ったモヒカン頭の痩せた男である。いかにも不良じみた雰囲気で盾などの特徴が無ければ一見兵士には見えない。
「し、失礼な。ワ、ワタシを疑うんですか? 大体ゲロルトさんの部隊がヘマをしなければ、こんな厄介な事には、な、ならなかったんですよ!」
 不愉快そうに言い返したのは、眼鏡に出っ歯の男だ。どう見てもリアルブルーの背広にしか見えない服の上に無理やり鎧や盾と言ったクリムゾンウェストの装備を着込んでいる。
「カワベ、 あの時期は幾つの反体制派組織を俺達が潰してたと思ってんだぁ!? 幾ら雑魚ばかりで、こっちが精鋭で固めてても限度があらぁ! おまけにこっちは生かしたまま捕えなきゃいけねえのに、連中はそこまで優しくねえからなぁ!」
 その格好からは想像も出来ないだろうが、彼らは第一師団の人員である。あの時期とは、丁度第一師団が選挙の実施に呼応して破壊活動や、要人の襲撃を企図していた旧体制派の組織の摘発に第一師団が忙殺されていた時期を示す。
 一口に、旧体制派と言っても決して一枚岩ではない。それ故、組織として脅威にはなりえない小規模なものや、中には単に名目としてそう名乗っているだけの犯罪集団もある。
 選挙の実施に応じて動きを見せた組織の大半もこのような取るに足らないものが多かったが、いかんせん。その数が多過ぎた。
 そして、中には小規模であっても覚醒者を複数擁している油断のならない組織も存在する。
 現在、孤児院に潜伏している青年がかつて所属していた組織もそんな小規模ではあるが結束の強い組織の一つであった。
 この組織は、今回の選挙を欺瞞と見做し、その是非を問うべく選挙の実施に合わせて妨害活動を計画していた。だが、以前から密かにこの組織をマークしていた第一師団副長のヴィタリー・エイゼンシュテイン(kz0059)は部下に命じてこの組織の計画を未然に防がせた。
 結果、組織は壊滅してほとんどの主要メンバーは捕縛された。只一人、この青年を除いては。
「コイツも意外に手強くってよぉ……利き腕を潰してやっておいただけでも感謝して欲しいくらいだぜぇ」
 そう言うとゲロルトはベロリとナイフを舐めた。
「貴様の事だ。また、『愉しんで』いたのではないだろうな」
 それまで黙っていた女性が口を開く。この女性は他の二人に比べれば一般的な軍人らしい出で立ちである。ただ、眼鏡に隠された目は凄まじく剣呑だ。
「あんだと、オレーシャ……」
 ゲロルトが何か言い返そうとした所に、男性の静かではあるが威圧感のある声がそれを制止した。
「無力化に失敗したのは、別の覚醒者の抵抗で劣勢だった師団員の援護を優先せざるをえなかったためだ」
 エイゼンシュテインが現れた途端、三名は即座に直立不動の姿勢を取り敬礼で応じた。
「も、申し訳ありませんヴィタリー副「部」長。今回は直々にお出でを願うような事態になってしまいまして……」
 滑稽なほどペコペコと頭を下げる出っ歯。ヴィタリーに委縮しているといった風ではなく、これが彼なりの敬意の払い方なのだろう。
「構わん。情報に変更は」
「いえ、何も! やはり孤児院の院長や、保母、それに子供らは反体制派とは全くの無関係でして……全く面倒な事で申し訳ありません、ハイ」
「兵の配置、完了しております。想定される逃走経路は全て封鎖完了。ところで副長。彼らは、一体?」
 彼女同様、ゲロルトとカワベもうさん臭そうな視線を貴方方に向けた。
「ハンターだ。今回の作戦に協力を要請した」
「きょ、きょ、協力!? し、失礼ですが今回の任務は我が国の非常にデリケートな問題に関わっています! 迂闊に部外者の協力を求めるのは……」
 ヴィタリーはくどくど説明するようなことはせず、無言で手に持った書類を部下たちと自体が呑み込めず呆然としている貴方たちに配った。
 やがて、それを読みえ終えたゲロルトが愉快そうに笑う。
「……ヒャハハハハッ! こいつはいいや! 確かに反逆者どもに顔の知られていないハンターにゃあピッタリだ。精々大根役者なりに頑張ってみせろよォ? 何と言っても罪の無いスケとガキ共の命が掛かってるんだからなァ!」

リプレイ本文

 フローレンス・レインフォード(ka0443)から、ハンターたちの計画を伝えられた第一師団の兵士たちは不満の声を上げた。
 しかし、フローレンスは譲らなかった。
「出来ることなら、孤児院の人間は何も知らないまま……それが、一番ではないかしら?」
 オレーシャは納得しない。
「最初の計画でも可能な筈だ。対象を無力化してこちらに迅速に引き渡した後で上手く取り繕えば良い」
 しかし、ここでエイゼンシュテインが手を上げて部下を制した。
「構わん。やってみろ」
「これで失敗したら目も当てられねえなァ?」
 そう嘲笑うゲロルトへの嫌悪を内心で抑えつつ、フローレンスはカワベに言う。
「では、失敗しないために、解っているだけの組織等に関する資料を見せて頂けるかしら?」
 カワベは不機嫌になりながらも、丁寧に説明しながら資料を渡す。しかし、最後にこう付け加えるのを忘れなかった。
「あ、あなたたちが対象にどのような印象を持っているか解りせんが、相手は話の通じるような手合いではないんですよっ!?」
「大丈夫。任せて頂戴」
 力強く言い切るフローレンスだった。


 孤児院の玄関に出た院長に挨拶したのはルトガー・レイヴンルフト(ka1847)である。
「失礼。我々も日々生まれる不幸な子供たちを憂い、彼らに救いの手を差し伸べたいと考えている者です」
 続いて、神楽(ka2032)も爽やかに挨拶する。
「将来、こっちの道に進むか考えているんで手伝わせて欲しいっす!」
 だが、院長はにこやかに笑いつつも、どこか不審そうな様子を隠せない。 幾ら、ボランティアとはいえ曲がりなりにも集団で訪ねていく以上、前もってその事について連絡し、何時なら、何人くらいなら都合が良いか取り決めておくのが常識ではないだろうか。
「ごめんなさい。直接お見せした方が早いかしら」
 咄嗟に進み出たのはミスティカ(ka2227)であった。彼女は院長の目の前で、持ち物を使った簡単な手品を披露する。
「ああ! 旅芸人の方たちでしょうか?」
 根が善人である院長は、どうやら都合の良い方に解釈してくれたらしく、ようやく笑みを浮かべる。
「私たちはにこういう施設を無償で回らせていただいておりまして……もし、宜しければ、手品だけでなく簡単なお手伝いもさせていただければと……」
 畳みかけるようにレオン・イスルギ(ka3168)も、頭を下げる。こうして、辛くもハンターたちは孤児院に迎え入れられたのであった。


「よ~し、ガキ共、ミスティカ姉さんのショーの前に、神楽さんが遊んでやるっす~!」
中に入った神楽は、早速個人の中庭に子供たちを集めた。歓声が上がるとヴァイス(ka0364)が口を開く。
「待った。武器が間違って子供の手に渡ると危険だろう。皆も武器を外しておかないか?」
 仲間たちは次々と武器を外し、とりあえず鍵のかかる倉庫に置く。
「えー、つまんないの!」
 男の子たちは恰好良い武器がしまわれてしまったのが不満のようだ。
「大丈夫、神楽さんが遊んでやるっすよ~!」
 こうして、騒がしくなった中庭の喧騒を聞きながらレオンはロミルダに案内されて孤児院の中を回っていた。
「帝国では……一族の外では、親族を亡くし、身寄りをなくした子供たちは、このような場所に集うのですね」
 レオンはそう言うと、ふと山と積まれた選択済みの衣服に目を留めた。
「貴重な時間を割いていただいたのですから、今度はお手伝いさせてください。あの衣服はどこに干せばよろしいでしょうか?


 レオンとロミルダが洗濯物を抱えて中庭に現れた時、神楽は言った。
「あれが保母さんのロミルダさん? 美人っすね~……タイプっす。おまいら飴ちゃんをやるから情報を教えるといいっすよ! ……具体的には彼氏がいるのかとか」
 いかにも、とろんとした表情を浮かべる神楽。だが、子供たちは元気よく笑いながらこう答えた。
「へっへ~、兄ちゃんもロミルダ先生に夢中なのかい?」
「でも残念! もう先生はエメリヒ兄ちゃんに夢中だもんね~!」
 それを聞いた神楽はいかにもびっくりしたように叫んだ。
「エメリヒってまさか兄貴っすか!?」
 神楽の態度に子供たちは訝しげな様子。
「あれ? エメリヒ兄ちゃんのこと知ってるの?」
 すると、神楽はさも慌てたように取り繕った。
「い……いや、そういう訳じゃないっすが……おまいら、飴ちゃんをもっとやるから兄、じゃなかったエメリヒの事を教えてくれっす!」
 こうして、神楽は子供たちから聞き出した。エメリヒが如何にしてこの孤児院を訪れ、住人達に受け入れらるようになったのかを。

「なるほど……そうやって、エメリヒ様に心惹かれるようになったのですね?」
 一方、レオンは家事を手伝いながらロミルダに話を聞いていた。
「い、いえ、あのそう言う訳では……」
 ロミルダは否定しているが、レオンは彼女の様子から、彼女とエメリヒの間に淡い思いが存在していることを感じた。
 今も、子供たちの相手をしているエメリヒの立ち振る舞いから伺えるその人柄の良さ……レオンは自分たちがここにいる目的を想いだし、苦しんだ。この子達と、彼らを守る先生達の力になりたい。それもまた、レオンの偽らざる本心であったから。
 そして、それ故にエメリヒが歓迎されていること。悪人でないこと。……いなくなれば、皆が悲しむことは良く解る。

「驚いたな」
 子供たちの遊びを眺めながら、ヴァイスは空き箱に腰掛けて年長の子供に話しかけていた。
「何がだい?」
 問い返すエメリヒ。
「いや、単なるチャンバラや騎士ごっこじゃない。最低限の基礎がちゃんと動きに入っているからな」
「うん! エメリヒ兄ちゃんのおかげだよっ! 兄ちゃんが来て、色んなことを教えてくれたんだ!」
「そうか」
 ヴァイスは笑って子供を再び遊びに戻るよう促すが、やはり子供たちのエメリヒへの信頼を知った故の苦い思いは拭えないでいた。
 と、そこに手伝いが一段落したレオンがやって来た。彼女はヴァイスの様子から、彼もまた自分と同様の想いを抱いている事を察する。
 それでも、レオンはこう言った。
「……情に流されるわけにはまいりません……せめて、彼らを悲しませない、穏やかな別れとなりますよう」
「ならば、やるべきことは一つだな」
 やはり、視察と称して孤児院内を回っていたルトガーも同意する。
「……私に任せて頂戴」
 ミスティカが微笑む。
「ガキ共や孤児院の人たちは自分が上手く足止めするっす……!」
 と神楽。
 気がつけば、太陽は既に中点を過ぎ依頼の刻限が迫っていた。


「次のマジックは……そうね、エメリヒにも協力してもらおうかしら?」
 ミスティカの宣言に、一際大きい子供たちの歓声上がった。ここは、孤児院の建物の中央にある食堂である。ハンターたちはここに子供たちや孤児院の人々を集めミスティカの手品を披露していたのだ。
「じゃあ、剣を貸してもらっても良いかしら?」
 この言葉に、一瞬ではあるがエメリヒが動揺したのにミスティカは気付く。しかし、エメリヒはちらりと丸腰のヴァイス、そしてハンターらを見て快諾した。これは、予め自主的に武装解除を行ったヴァイスの手柄であろう。
「ありがとう。では、この剣をこうして……」
 ミスティカが披露したのは、受け取った剣を飲み込んで見せる、という手品だった。再び歓声が上がり、ミスティカに人々の視線が集中する。頃合いであった。
「すまない。少しだけこちらに来てくれないか?」
 ルドガーはさり気無くエメリヒに呼びかけた。 流石に、というべきかエメリヒは何かに気付いたようだったが、表面上はルドガーに従うのであった。


孤児院の裏の勝手口でハンター五名とエメリヒは静かに向かい合っていた。
「俺達はハンター。そして依頼主は帝国軍だ」
 ルドガーの言葉にエメリヒは表面上、諦めたように肩を竦めた。
「今更驚くことじゃないな。ボランティアというのは無理があったよ」
 ルドガーその言葉を沈黙で受け流し、なおも続ける。
「……既に街路は囲まれている。逃走は不可能だ。そして、刻限が迫っている」
「エイゼンシュテイン……忌々しい革命の狂犬がっ!」
 ルドガーは続ける。
「孤児院を混乱に陥れたくない。そして……君も同じはずだ」
「だから、僕に投降しろと」
「そうだ」
 頷いて、ルドガーは続けた。
「幾ら声高に訴えても届かないと……次第に過激な手段に出てしまう。信念に燃えるがゆえに、周囲が見えなくなる」
 エメリヒは表面上は穏やかな表情でルドガーの言葉に耳を傾ける姿勢を見せる。
「だが、その場に……実行しようとしていた破壊活動の現場にもし、此処の子供たちが居合わせていたら……? どんな惨状になっていただろう」
「あなたの言う通りかもしれない」
 とエメリヒ。
「そうだ。人は誰でも過ちを犯す。取り返しのつかないこともあるだろう。そして、それから逃げ続け、偽り続ければ、罪悪感と後悔に押し潰されてしまう」
 突然、エメリヒの口の端に、極めて皮肉な、あざ笑うかのような微笑が浮かぶ。しかし、幸か不幸かルドガーはこれに気付かない。
「だが幸いにして、君は償うことができる。けじめをつけて、やり直せる」
「償う……だと?」
 ここに来て、明確にエメリヒは怒りに近い表情を見せた。
 今度はヴァイスが口を開く。
「そうだな……俺は現帝国とあんた達、どちらが正しいか何て答えることはできない……償い、という言い方は酷かもしれない」
 再びエメリヒが落ち着いたのを見たヴァイスはなおも続ける。
「……でも、大儀があるからとそこに住まう人々を危険に晒す行動は間違っていると思う」
 ヴァイスはそう伝えると、口を閉じた。エメリヒも、他のハンターも何も言わない。ただ、爽やかな秋の風だけが庭を吹き抜け、時折建物の中から未だにミスティカの手品に心奪われている子供たちの声だけが微かに響いてくる。
「このまま、俺達と投降して黙って姿を消すか。また戻ると一時の別れを告げるか、それとも、真実を述べ再会を誓うか……最大限希望は容れよう」
 時間が迫っている焦燥を隠しルドガーが告げた。
「……わかった。どうせ、逃げ道も無さそうだしな」
 エメリヒの言葉に一同は安堵した。
「だた、最後に部屋に行かせて欲しい。まだ大切な物も置いてあるのだよ。それと、5分間だけ、一人にしてくれ……皆に、ロミルダに何て言っていいか、まだ、纏まらないんだ」
 それ故、何も疑わずエメリヒのこの頼みを快諾した。


「ハンター……この帝国の抱えた闇など何も知らぬ、余所者風情が勝手な口ばかり叩くものだ!」
 10分後、部屋の窓から抜け出したエメリヒは全力で街路を駆け抜けながら嫌悪と共に吐き捨てた。
 駆け抜けながら、思う。
 相手を一瞬でも信用して武器を奪われたのは失敗であった。やはり、あの居心地の良い場所で勘が鈍っていたのだろう。
 だが、彼は反体制派としての矜持を全く捨てていなかった。勿論、孤児院での穏やかな数日間を慈しむ想い、子供たちへの愛情、そしてロミルダに対する感情は紛れもない本物だ。だが、彼にはそれよりも大切なことがあった。
 子供たちは確かに可哀そうだ、そして、これ以上あのような子供たちを増やさないためにこそ、彼と彼の同士たちは苦しい戦いを続けていたのだ。そう信じる彼の想いは組織が壊滅したくらいでは揺らがない。
 まして、余所者のハンターの説得など尚更である。
「最後まで、諦める訳にはいかない……志半ばで捕えられた同志たちのために!」
 そう言って、彼がなおも足を速めようとした時――唐突にこの喜劇の最終幕が訪れた。
「止まれ」
 角を曲がった先の十字路の、丁度エメリヒから見て真北の位置にエイゼンシュテインが待ち構えていた。呆然と立ち尽くすエメリヒ。例え、万全な状態であっても勝負にならない相手であることは良く理解している。
「そんな……どうして……!」
 息を切らして走って来たフローレンスが呆然自失で呟く。
「お目出度い連中だぜ……」
 呆れたように呟くゲロルト。彼とフローレンスは、十字路の東からエメリヒを見る形となった。
 これが、副長の保険であった。彼は、街路の包囲にあえて「抜け穴」を作り、そこに誘い込まれたエメリヒをこの十字路で補足したのだ。
「だが、危険な賭けだった」
 西側の街路から、護衛の兵士と共に現れたオレーシャは刺すような視線でフローレンスを睨みつける。
「ここに来るまでにも人家は多い。孤児院の人間たちだけに限らん。貴様らの的外れな三文芝居で怒り狂った反逆者が一か八かで周辺の住民を巻き込む可能性がったという事すら理解できんのか」
 オレーシャの怒りは、フローレンスだけでなく、ようやく事態に気がついて慌てて追いついて来た他のハンターたちにも向けられていた。
「も、目標が一般兵士か配置されていない通りに逃げ込んでいたら、あ、相手は利き腕が使えないとはいえ覚醒者です! わが軍の貴重な戦力が被害を受ける可能性も、あ、あったかと!」
 東側の建物の影から、剣を構えたカワベが怒りつつ現れる。
 彼らの言い分は明白だった。エメリヒを無力化せず、外に出した時点でハンターたちは失敗していたのだ。
 市民や兵士に被害が出ず、こうして捕縛にも成功しそうなのは結果論に過ぎないのである。
「まだだ……例えこの命尽きようとも、正しき陽光の輝きを簒奪者たちに示す!」
 完全に覚悟を決めたエメリヒは素手で戦う様子を見せる。
「そんな態度を取るんじゃ、孤児院の連中も尋問の必要がありそうだぜぇ」
 余りにも見え透いたゲロルトの挑発。
「なんだと……!」
 だが、もはや冷静さなど残っていないエメリヒは怒り顕わにする。
「まずは、あの保母の体にでも聞くとするぜェ……」
「うぉおおおおおおおおお!」
 絶叫と共にゲロルトに襲いかかるエメリヒ。その腹に、ゲロルトの綺麗な当身が叩きこまれ、エメリヒはなす術も無く気絶した。
「はっ、正しき陽光が聞いて呆れらあ。最後は女じゃねえか」
 面倒そうに吐き捨てたゲロルトは、エメリヒを肩に担ぐと面倒そうに舌打ちすると、部下の兵士と共に師団の詰所へと向かう。
 その最中、ゲロルトとフローレンスの視線が合う。唇を噛むフローレンス。だが、ゲロルトは意外にも、何も言わず、笑いもせず、ただ無表情になって視線を外した。
 それをきっかけに、他の師団の兵士たちも現場に残って事後処理を担当する者を除いて次々と撤収し始めた。
 彼らの中には時折ハンターたちの方を一瞥する者もいたが、声をかける者は居なかった。
 やがて、現場にはエイゼンシュテインとハンターたちだけが残される。
「時には迅速で残酷な手段こそが慈悲である場合もある。それを学べたのなら、無駄ではあるまい」
 副長は、踵を返す間際そう述べるに留めた。

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MVP一覧

  • 大悪党
    神楽ka2032

重体一覧

参加者一覧


  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 爆乳爆弾
    フローレンス・レインフォード(ka0443
    エルフ|23才|女性|聖導士
  • クラシカルライダー
    ルトガー・レイヴンルフト(ka1847
    人間(紅)|50才|男性|機導師
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 黒き刃
    ミスティカ(ka2227
    人間(紅)|23才|女性|疾影士
  • 命を刃に
    レオン・イスルギ(ka3168
    人間(紅)|16才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/09/13 21:29:07
アイコン 作戦相談卓
フローレンス・レインフォード(ka0443
エルフ|23才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2014/09/18 20:41:28