• 猫譚

【猫譚】真紅の騎士様は御乱心

マスター:鹿野やいと

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/09/09 07:30
完成日
2016/09/22 18:05

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 赤の隊は北方動乱の後、長期に渡った遠征を終えて王国へと帰還した。連合軍の動きに合わせて遠征に次ぐ遠征の赤の隊ではあったが、リアルブルーの転移実験や船団を編成しての南方開拓など、騎馬隊としての赤の隊が協力可能な局面が少なくなった。この状況を受けて協議の結果、王国への帰還が決定された。
 赤の隊にエリオット行方不明の報が正式に知らされたのは、王国帰還の後であった。エリオットの顛末は赤の隊の騎士にも衝撃を与えた。泣き喚く者こそいなかったが、同じ騎士として敬愛する者は多く、一時的な鬱に見舞われる者は少なくなかった。死が日常に広がる赤の隊では感傷的な騎士は多くないが、それを差し引いても今回の件の衝撃は大きい。
 新人の訓練を兼ねて国内の巡回の命が下された事は、王国上層部からのせめてもの優しさであった。


 王国東部リンダールの森近辺。ダンテ・バルカザール(kz0153)は馬を駆り森に沿うように作られた巡礼路を進んでいた。供回りは50騎に満たず、部隊のほぼ全てを街道沿いの街に残してきた。近隣の村への挨拶周りが目的だが、同時に部隊長不在という状況を意図的に作る為でもあった。
 戦場働きに慣れた者ばかりとはいえ、誰もが鋼の心を持つわけではない。エリオットの事を受け入れるために、今は時間を費やしても良い頃合いだ。長く戦場を渡り歩いたダンテはこの切り替えも心得てはいたが、実際に細やかな対応をするのは苦手だった。 彼は自分の得手不得手も把握した上で、極力普段通り指揮官の役目を果たした。
 とはいえ元から奔放で豪放な男だけあって、いらだちを隠しきれない場面もあった。
「……行方不明は死んだのと同じだな」
「 …… 左様で」
「つまらん消え方をしやがって」
 ジェフリー・ブラックバーン(kz0092) はその独り言を聞き流す。返事や同情が必要でないのは理解していた。
 大事な約束があるのだと、遠征の最中にダンテは語っていた。
個人的で些細な話には違いないのだろうが、ダンテにとっては大事な話だったようで、約束の話をしている時はいつも楽しそうだった。
そして、今は話をするたびにため息が漏れる。
「ん? なんだありゃ?」
 馬を止めるダンテの視線を追って、供回りの騎士達も異常に気づく。
 視線の先の森の中、ユグディラが木の実や木の枝を拾っている。
 身長は1mにも満たない二足歩行の猫のような生き物、幻獣ユグディラ。
 白や黒、三毛や茶など猫らしいバリエーションの毛皮の持つ彼らは、人前に姿を現すこと自体が珍しい。
「……猫共か。仕方ねえな。4人で良い、俺についてこい。あとはジェフリーについて野営に使えそうな土地を探しておけ」
 ダンテは盛大な溜息と共に命じた。 ユグディラは邪悪な生き物では無いものの、近隣の村から見れば食料を奪っていく害獣だ。
 殺すほどではないにせよ、脅かして追い払うぐらいはする必要がある。 ダンテは「騎士の仕事じゃないな」などとぶつくさ言いながら森の中へわけいっていく。
 周囲の騎士達は重苦しい空気が晴れた事に胸をなでおろしつつ、足の速いダンテを必死に追いかけた。



 ダンテが森の中へ消えて少し経った頃、ダンテの供回りであった騎士達が血相を変えて慌てて戻って来た。地図と地形を照合していたジェフリー・ブラックバーン(kz0092)は、異常を察してすぐさま荒い息の騎士に駆け寄った。
「ダンテ隊長が! その……大変なんです!」
「……は?」
 具体的に話せ。と叱責するのが常だが、見てきた本人達が困惑してる状況では埒が明かない。
ようやく「乱心なされました」という答えだけ引き出すと、ジェフリーは信頼のおける騎士数名とハンター数名を伴って、ダンテを連れ戻すために森を掻き分けて進んだ。
 騎士達に先導されて着いた先は、木々に隠された小さな広場と泉のほとりであった。広場は優しい陽光が注いでおり、仕事でもなければ日がな一日寝そべっているだろう。しかしその広場に近づくに連れ、何者かが暴れる音と慌てふためくユグディラ達が見えてくる。
 急ぎ近づいたジェフリーはそこで、破壊の限りを尽くす何者かと対峙した。
「にゃ~?」
 ジェフリーは固まった。そこに居たのは野太い声で可愛くない猫の声真似をするダンテだった。表情にはふてぶてしさは欠片もなく、目を大きく開いてジェフリー達を観察している。一体何の冗談なのか。
「………… あの ……………隊長?」
「ウーー、グルルルルルル!」
 猫かと思ったら今度は犬だか狼だかの真似を始めた。鎧もつけぬ軽装のままで、四つん這いになって走り回る。ユグディラの作ったハンモックらしき物を噛みちぎると、 手あたり次第に周囲の石やらユグディラの荷物をやらを投げ始めた。
「うきゃきゃきゃ!」
「……………………」
 ジェフリーは頭痛がする思いだった。困惑したのは配下の騎士も同様で、しきりに互いを見かわしている。
「あの、ジェフリー隊長……」
「仕方ない。ふんじばっていいから捕まえろ!」
「はっ!」
 ジェフリーの命令で我に返った騎士達は次々とダンテにとびかかっていく。武器は使えないが素手で簡単に後れを取る者達ではない。
何が起こっているのかは不明だが、ダンテを捕まえて丁寧に回復魔法でもかければ問題は無いはずだ。
(それはそれとして……このキャンプは新しいな。しかも随分数が多い)
 ジェフリーは無残に破壊された広場を見渡した。ユグディラにも集落はあると言われていたが、これは幾らなんでも新しすぎる。何より人里に近すぎるため、これが彼らの集落であれば既に発見されていただろう。であればキャンプの用途は何なのか。野営というには食料などの備蓄も多いように思える。
 ジェフリーは冷静な目で状況を検分していく。そうしてダンテから目を離したことが、致命的な結果に繫がった。
「うきゃ!!」
「がっ!」「おごっ!」「ぐえー…」
 野太い掛け声と共にうなるアッパーカットにボディブロー。そして手あたり次第に拳の嵐。哀れ赤の隊の騎士達は数秒差で倒れ伏した。 残った騎士達も一斉にとびかかるが、まったく相手にならない。無為に屍(死んでない)が積みあがるだけである。
「うーきゃきゃきゃきゃ!」
 何がそんなに嬉しいのか、気絶した騎士を足蹴にしたまま、ダンテは手を叩きはじめた。もしかして挑発しているのだろうか。
「にゃー」 「にゃー」
 キャンプを破壊された為か、悲しげに人間たちを見上げるユグディラ達。状況は混沌としたまま、収まる気配がない。
「………気を引き締めてかかるぞ」
 ハンターにも捕縛を命じると、ジェフリーは自身も重りとなる武器を取り外した。目の前のことをまず全力で。 前進こそが本分である赤の隊の教えであるが、 今回ばかりは状況を直視したくなかった。

リプレイ本文

 混沌、ここに極まれり。悲壮な覚悟で突撃を敢行しようとするジェフリー・ブラックバーン(kz0092)だったが、ジャック・J・グリーヴ(ka1305)はその肩を掴み制止した。
「おい待てよ。赤猿はバカだが人間兵器だ。作戦が必要だろ?」
 確かにと思いジェフリーは足を止める。流石は歴戦の戦士とジャックを見直すが、彼がもう一方の手に持っている品が気になった。
「……話はわかったがそれはなんだ?」
「まずは敵戦力の確認をする為に魔導カメラで激写しねえとな!」
 真新しい魔導カメラを片手で持ちつつ、自然な動作で一枚撮影。秒速でジェフリーの目が曇っていく。
「いずれゆするネタを確保する為だとかそんなんは考えてねえぜいやホント全くもって」
 不審に濁った目がジャックに向けられるが、不自然なほど爽やかに笑うジャックはまるで動じない。
「まさにバカ猿…いや、ダンテのようななにかだ。洒落になってねーぜ」
 その一幕の背後でラスティ(ka1400)も容赦なくシャッターを切る。目的はジャックと同じ。ダンテの財布だ。
「まぁまぁ。まずは場を収めるのが肝心ですよ」
 うっかり切れそうになってるジェフリーを宥めるように、神代 誠一(ka2086)は理性的に物事を語る。口元が笑いで引きつっていなければ完璧だった。その背後に居る央崎 枢(ka5153)は、笑いを収めるのにもう少し掛かりそうだった。
「みんな、がんばって」
 いち早く物陰に身を伏せたジェーン・ノーワース(ka2004)は、1人その茶番を他人の振りで眺め続けていた。
 兎にも角にも、仕切りなおしてダンテの捕縛作戦は開始される。力押しでは逃げられる可能性もある。ならば策を講じるのみ。
「僕に良い考えがある」
 最初に名乗りを上げたのはミリア・エインズワース(ka1287)だった。彼女は作戦を簡単に説明しつつも防具を外していくが、アルマ・A・エインズワース(ka4901)はおろおろと彼女の行動を見守っていた。
「不安です。ミリアにもしものことがあったら……」
「大丈夫だって。ただのスデゴロでどうにかなったりしねえよ」
 そう断言されてはアルマもそれ以上は止められない。アルマも覚醒者としては優秀だが、微妙な力加減は得意ではない。始めてしまえば最後、対象どころか周囲一帯を焼き払ってしまう。本人も周囲もその事を良く知るため、彼は手出しができなかった。
 一方で鎧の着脱を手伝っていたラスティはアルマと違い純粋にその策の効果に訝しんでいた。
「俺も不安しかないんだが」
「うるせーな。まあ見てろって」
 ぶつけるように防具を押し付けると、ミリアは準備運動代わりに肩を回しながらダンテの前に立った。
「さあこい!」
 ミリアは首から大きめの干し肉をネックレスのように吊り下げる。紐の長さが余ってちょうど胸の間に挟まるような位置に来た。
「…………ふぅー……」
 肉に反応したダンテは思惑通り突っ込んだ。ミリアは飛び込んでくるダンテの勢いに逆らわず、その腕を捉えて後ろに倒れながら両手両足でダンテをホールドした。
「おっしゃ!!」喝采をあげ嬉しそうに写真を取る臨時写真部。一方、
「あーーー……」
ジェフリーが絶望の呻き声を吐き出す。

 流れは作戦通りだが非常にまずい。これではまるでダンテが薄着の女性に乱暴しているような絵ではないか。
ひとかどの戦士であるミリアはしっかりホールドを取ろうと動いているのだが、手足の長さと図体のでかさに差があってダンテが一方的に暴れてるようにしか見えない。
ミリアが胸を押し付けてダンテの窒息を狙うよう動いてるが、これが図の悪さに拍車をかけている。
「猛獣に力で勝つにはコレしか無いんだよというか力で勝負しちゃダメだ。距離なんか空けたら勢いつけて殴られるからな。コレなら動きが制限されてフルパワーは出されない」
 ミリアは最初にそう説明していた。ここでもう少しジェフリーが考慮すべきだったかもしれない。撮影班の存在を。頭を抱えて崩れ落ちそうなジェフリーだったが、不穏な気配を感じて踏みとどまった。
「燃やす」
 
物騒な台詞が背後から漏れ出ていた。
正気に戻ったジェフリーは声の方向に振り返る。

 そこには変わらない笑顔のアルマがそこに立っていた。聞き違いかと思ったジェフリーだが、どう見ても目が笑ってない。
「ちょ、待てって!」
 撮影班は気づくわけもなく
止める間もない。ジェフリーが飛びかかるように腕を掴みあげたが、放たれた青い炎は容赦なくダンテに飛ぶ。事前に気づいたミリアは慌ててホールドを解き地面を転がって逃げた。

 ダンテはそれよりも遅くに立ち上がったが、驚くべき俊敏さで火炎の範囲から逃れる。辛うじて被害なし、そう思った一堂だったが、隠れていたジェーンに直撃していた。

「うそ……でしょ」
 炎はジェーンの側を通り抜ける。避けそこなったジェーンのマントに引火したため、ジェーンは慌てて泉に飛び込んだ。

「あ」

 一応は鎮火したが、ジェーンは濡れ鼠のまま泉の中からアルマを恨みがましい目で見ている。
「す、すみません」
 正気に戻ったアルマはおとなしくなる。ジェフリーは息をはいてアルマの手を離した。問題はこの騒ぎで、ダンテのホールドまでとかれたことだ。ダンテは捕縛されかかったことに怒っているのか、さらに凶暴さが増している。
「ここは私が相手です!」
 干し肉を奪われたミリアに変わって、餌となる魚の干物を持って飛び出したのは誠一だった。食べ物を奪おうとするダンテに光奪、蔦葛と牽制・拘束の技を立て続けに放つ。ダンテは猫のような犬のような、しなやかな動きで難なくかわしていく。口にくわえていた干し肉を完全に飲み込むと、犬のように唸って誠一を威嚇し始めた。その姿は完全に犬。ダンテの挙動の犬っぽさに、誠一のいたずら心がむくむくと湧き上がってくる
「お手!」
 シュバッ、と音でも立てそうな勢いで誠一はダンテの前に右手を出した。空気が凍りつく。周囲は呆れ顔だが意外と効果はあった。何の条件反射か、ダンテはその手に右手を載せたのだ。
「……ぶほっ!」
 その異様な光景に耐えきれず誠一は思い切り吹き出してしまった。この一瞬の隙を逃さずダンテは動いた。犬から猿に戻ったダンテは誠一の手首を掴んで強引に引き寄せる。態勢を崩した誠一にすかさず左のストレート。猛獣の鉄拳は見事に誠一の顔面の中央にめり込み、鼻の骨が折れたような音がした。見事に鼻が曲がっている。ついでに意識もなくなった。
「誠一ィィィィ!!」
 弟分のラスティが悲痛な叫び声をあげた。この間、カメラを手放していない。
「誠一。くそ、なんてことだ」
 ラスティはイケメンが台無しになって倒れた兄貴分をいたわる風を装いつつ、潰れて男前になった顔を写真に収めた。これも貴重な青春の1ページである。馴染みの兄貴分の無様な顔写真は、どこに売ろう。誠一の彼女なら買ってくれるだろうか。
 この時のラスティの頭には金の計算しかなかった。ジェーンは自前のマントを絞りながら、ラスティに冷たい視線を送っていた。
「この穀潰し。少しは働きなさいよ」
「そういうお前も手伝えよ」
「イヤよ。ダンテにゃん的な怪生物と闘うのは男の仕事でしょ」
 ジェーンはラスティが再び何かを言う前に、気配を消して物陰に隠れる。
 一体どんなタイミングでそれをなしたのか、いつの間にか誠一の懐から魔導カメラが消え失せていた。



 前衛(?)の大騒ぎをヴァルナ=エリゴス(ka2651)は、我関せずとばかりに遠巻きに見守っていた。さぼっているわけではない。ユグディラ達に事の顛末を確認する大事な作業があるのだ。幻術の事も含め、聞くことはいくらでもある。
「上手く行きませんね」
「にゃー」
 ヴァルナに抱きかかえられた一匹は同意するかのように鳴き声をあげる。真面目な質問を何度も繰り返しているが、ユグディラの使う幻術のイメージを捉えるのは難しく、成果はあがっていない。これはユグディラが状況を掴みきれていないからでもあった。
この作業は中々に骨の折れる作業だったが、それでもあの混沌に巻き込まれるよりは良い。何より、自分にあれを御す腕力は無いのだ。
 もふもふもふもふ。ユグディラの柔らかいお腹の毛をなでているだけで多幸感で一杯になる。騒動の沈静化は周りに任せておけばいい。こうしてヴァルナは、結局一歩も動くことはなかった。一方でやる気のあるユグディラも少しは居た。
「よし、話はついた」
 干物を元手に猫達と交渉していた央崎が勢い良く立ち上がる。足元ではロープを持った猫達がそれに合わせて手(拳?)を振り上げていた。口には今しがた貰ったばかりの干物をくわえている。
 戦場は更に混迷の度合いを増し、さらなる被害者も出たところ。央崎は荒れ狂う戦場に飛び込んでいった。
「さあダンテ隊長! こっちを見るんだ!」
 央崎が取り出したのは何枚ものイラスト。いわゆる紙芝居だ。
「むかしむかし、あるところに……」
 何事かと訝しんだのかダンテの動きが止まる。1枚目はよく書かれたバナナの絵。2枚目はジャック。そして3枚目は王女。一枚ずつ順番にめくる動作を見ながら、ダンテの動きが止まった。
「あれ、有効なのか?」
「やっぱりお猿さんだからでしょうか?」
「そっか、猿だけに」
 ミリアとアルマの評は無意味に辛辣だった。絵を変える度にダンテの反応は変わる。バナナ、王女、バナナ、王女。そして……。
「これならどうだ?」
 エリオットの絵が出る。びくりとダンテの身が硬直した。
「よし、反応が……え?」
 央崎が紙を組み替える一瞬、目を話した隙にダンテがすぐ目の前まで迫っていた。ダンテのパンチが紙芝居に炸裂する。急激な動作に合図を出す暇もない。猫達も当然、反応しきれず呆然と見送っている。無残、央崎は拳が直撃し吹き飛んでいった。
 野獣と化したダンテが何に反応したかは定かではないが、この状態でも苛立ちが消せなかったのかもしれない。
 ここに来て被害は増すばかり。やはり策を弄するのではなく、皆で一斉にかかったほうが良かったか。当たり障りない結論に落ち着きかけた一堂の前に、ジャックが満を持して前に出た。
「やっぱ俺がいなきゃダメだな!」
「今度は何をする気だ」
 もはやジェフリーも傍観の体だ。呆れながら鎧を脱ぐジャックを見ている。ジャックは鎧どころか上着まで脱ぎ去り中のシャツ一枚だけに。筋肉を誇示するようにポーズを決め、ダンテを挑発する。
「おい猫ども! 俺にあいつと同じ幻術をかけろ」
 ユグディラ達はぽかんとジャックを見返している。何を言われたのかさっぱり理解できていなかった。理解できないのは猫だけでなく周囲の人間も同様だったが。
「俺もやつと同じ、最強の筋肉でぶつかる! 赤猿がユグディラでおかしくなったってんならば!俺様も! ユグディラでおかしくなりゃいんだよ!
 来いよユグディラ! 俺様が望むは世界最強の筋肉! 赤猿をもねじ伏せる事の出来る筋肉! 幻影でも何でもかけてこい!」
 猫達は困ったように周囲を見回していたが、周囲は反応無しな上にジャックが本気とわかると揃って幻術を使い始めた。一斉に使われた幻術で目眩を引き起こし、ジャックの体が揺れる。
「来た来た来たぁぁぁ!! うおおおおお!」
 ジャックは一声吼えると敢然とダンテに向かって飛びかかる。
「どっせい!!」
 タックルの要領でぶつかるジャックとダンテ。筋肉と筋肉がぶつかりあう。ぎちぎちと音を立てながらも、組み合ったまま両者一歩も引かない。期待してなかった周囲もこれには目を見張った。
「本当に幻術の効果なのですか?」
「にゃー……」
 ヴァルナの問いに首を横にふる猫達。つまりは本人の強い自己暗示である。
「元から自意識過剰なやつだったからな」
 投げやりなコメントを残すミリア。擦り傷切り傷の手当は終わったのだが、流石に関わりあいになりたくないのか、千載一遇のチャンスに手出しはしない。ラスティは手空きが自分だけと悟ると、渋々カメラを脇においた。
「しかたねえな」
 飛び出していったラスティはジェットブーツで反対側に抜けると、ロープを投げつけ器用に巻きつける。2人もろともに。
「なんで俺まで!?」
「危険だからだろ」
 ラスティは悪びれることもない。ラスティは悪びれないついでに、転がってもがくダンテにエレクトリックショックを放った。背中からの雷撃で体を痺れさせるダンテ、と巻き添えのジャック。電気を流している間中、叫び声に混じってかなりの悪態が聞こえたが、ラスティは特に手加減しなかった。
「てめ……覚えてろ……」
 ダンテが意識を失うのと同時に、ジャックもそのまま意識を手放す。こうして一行は組み合ったままのジャックごとダンテを取り押さえることに成功した。



 ハンター達はキャンプに修復を申し出たが、ユグディラ達はそれ以上キャンプに執着はしなかった。集まった物を布で丁寧に包むと、1匹1匹がそれを背負って支度を終えた。エリスの抱き上げていた一匹もやがてそれに倣う。
「もう行くのですね」
 ヴァルナの足元でにゃーにゃーと大合唱するユグディラ達が何を言っているのかわからない。頭を下げるジェスチャーで、何かの礼を言っているという事だけは辛うじて理解できた。
「どちらまで?」
 一匹がまっすぐに南を指す。ここから真っ直ぐ先は多くの街があり、森や丘もある。ただ明瞭に、彼らは何らかの目的地を持っていた。何度となく伝えられたイメージは不明瞭だが、強い光のイメージは共通している。曖昧さは彼ら自身が理解していないからかもしれない。
 別れたユグディラは森を軽やかに進んでいく。一堂は小さく手を振って見送った。
 一方、どうしようも無かった人間も居る。
 ダンテはこの間、1人でこの世の終わりのような顔で泉のほとりで三角座りのままうずくまっていた。記憶が残っていたらしいのだ。それも割りと鮮明に。
「死にてえ……」
「元気だして、ダンテにゃん」
「うるせえ……ほっとけよ」
 誰が声をかけてもこのザマで、ジェーン以外は相手をしなくなった。ジェーンが記念に1枚、シャッターを切る。
 持ち主である誠一は死んだ(注:死んでない)が、カメラはなおも役目を果たしていた。
 ダンテがそれらの写真の存在に気づき、大暴れを始めるのはもう少し後のことである。

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 英雄譚を終えし者
    ミリア・ラスティソード(ka1287
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • all-rounder
    ラスティ(ka1400
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • グリム・リーパー
    ジェーン・ノーワース(ka2004
    人間(蒼)|15才|女性|疾影士
  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一(ka2086
    人間(蒼)|32才|男性|疾影士
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 祓魔執行
    央崎 枢(ka5153
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン スーパー雑談タイム
ラスティ(ka1400
人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2016/09/08 23:19:54
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/09/08 23:15:28