ゲスト
(ka0000)
呼ばれて飛び出て
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/09/12 22:00
- 完成日
- 2016/09/18 00:30
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
警察署には、犯罪の証拠物件が多数保管されている。刃物、銃器の他にも、弓、刀剣、魔導を使った爆破時限装置、呪いの護符、さまざまな種類のワンドなどなど、品揃えは豊富。
裁判が終わり被告の刑が確定すればそれらは順次――ある程度価値のありそうなものだけだが――公のルートを通り、新しい持ち主を探すため、競売にかけられることになっている。それで得た収入は、警察へと入る仕組み。実に無駄のないシステム。
それはさておき本日はその競売業者が買い付けに来る日。
「こんにちは、毎度お世話になります」
「ああ、こんにちは。こちらこそ毎度お世話になっております」
月並みな挨拶を所長と交わした業者は、保管庫に案内された。
今回質流れになる品は、前以て倉庫から出され、床の上に並べられている。
「今回は魔導銃が多いですな」
「ええ。北伐の片がついてから、だぶついた品が裏で安く出回っているようで。困ったものですよ」
「そういえば、リアルブルーとの間で行き来が出来るようになったとか?」
「話は聞きますな。ヴォイドゲートとか言うのでしたか……そうそう、サルバトーレ・ロッソ、リゼリオに戻ってきたらしいですよ」
世間話をしながら業者は、ふと隅にある指輪に目を留める。飾りも何もない、つるりとした指輪。色は銀色。
よく目を近づけて見れば、外側に矢印のような模様が彫り付けてある。
「これは?」
「ああ、それはスペットという魔術師が持っていたものですよ。指にはめると、自在に結界を作ることが出来るとかなんとか。詳しい仕組みは分かりませんが」
「ほう……その魔術師は今どこに?」
「北の刑務所に入ってますよ。ほかの囚人たちと一緒に、毎日岩塩を掘っているそうで」
装飾品としては受けそうなデザインではないが、何らかの魔法アイテムというのなら話が違ってくる。
業者は指輪も引き取って行くことに決めた。
●
ハンターオフィスの本部が置かれているリゼリオには、たくさんのアイテムショップが軒を連ねている。
仲間たちと通りを散策していたカチャは、とある店の前で足を止めた。
それはちょっとお高めな、中古アイテム専門店。ショーウィンドーにはよく知られたブランドの刀剣、鎧、装身具などが置いてあるのだが、それに混じって、見覚えのある品が飾ってあったのだ。
つるんとした銀色の指輪。
「あれ、これ……どこかで……」
記憶を辿った彼女は、一匹の猫が近くを通ったことで、ああ、と思い出す。
「スペットのしてた奴にそっくりですね、この指輪」
最近静かなので忘れかけていたが、あの猫人は今頃どうしているのだろうと思いを馳せるカチャ。
そうやって立ち止まっているのが悪かったのだろう。女店員が声をかけてきた。
「指輪、お買い上げになりますか?」
そんなつもり一切なかったカチャは、急いで場を離れようとする。
「あ、いえ、そういうわけではないんで」
しかし女店員は販売欲に燃えていた。もしかすると給料が歩合制なのかもしれない。頼みもしないのに指輪を展示台から取り出してくる。
「まあまあ、試しにはめてみるだけはめてみてくださいな。きっとお客様お似合いですよ」
「いえ、いいですから本当に、いいですから、今手持ちがないんで!」
「それなら分割払という手もありますよお客様!」
カチャの右の人差し指へ、強引に指輪が押し込められた。
指輪が青く光る。
同時に近くの地面へ、1メートル四方の穴があく。
「え……?」
「……なんだ?」
ハンターたちは皆で穴を覗き込んだ。その途端、熱い蒸気が吹き上がってきた。脳に刺さるような叫び声も。
ぬみゅふしないでぃいあい、あああおむぼすんいああああ
穴から突如、手と足のごちゃごちゃに絡み合ったものが、のたくり出てきた。そしてつっかえた。
どうやら体より穴の方が、はるかに小さかったらしい。
「なんだよ歪虚かよ!」
「それ以外には見えませんよね!」
むるぐぃあゑうにいきいいいいい
形容しづらい声を聞いているだけで吐き気と頭痛がしてくる。狂気系の歪虚らしい。
そこにまた、別の穴が空く。
カチャの足元から長い黒髪の女が、ずるずるもそもそはい出してきた。
「……最近よく……あちこち……穴があく……」
「のおっ!?」
反射的に竹刀で叩くカチャ。しかし手ごたえは全くなかった。しっかり目に見えているのに。
「……そういう攻撃は……無駄……」
「ななななんですあなた!?」
「……指輪の関係者……的な……? とりあえず穴……閉じたほうがいいわよ……言っておくけど……あの暴れてる人……全長……100メートル位あるから……」
聞きたくなかった情報だ。
「閉じてって……どうやって閉じればいいんですか!?」
「……指輪を外せば……?」
シンプルな指摘を受けたカチャは、指輪を外そうとした。しかし、店員が力の限り押し込んだせいできっちり指の付け根にはまってしまっており、なかなか取れない。
「……まあ……ほっておいても……あなたは……指輪にマテリアルを吸い尽くされて……死んじゃうから……そうすれば……穴も自然と閉じるから……それまで待ちましょうか……」
「死っ……ちょっと待ってくださいよ! 制御する方法とかないんですか!?」
「……ない……正当な登録ユーザー以外……制御出来ない仕様……そもそもなんで……あなたがそれを持ってるのか……そこは聞いてみたいけど……」
リプレイ本文
アイテムショップの屋根で快眠を貪っていたドゥアル(ka3746)は、目を覚ました。
いいゃいうんしおええええ
……誰だか知らないが真昼間から、大音量で奇声を発している。
「……むむ……なにやら……騒がしい……」
不機嫌そうに起き上がった彼女は、屋根を降りて行く。不届き者を突き止めるために。
●
「掴まってても事件を起こすなんて、又吉絶対許せないんだからっ!」
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は、地縛符を穴の周囲に張り巡らせた。
あんなものが路上を自由に動き回り始めたら、発狂者が続出する。それだけは阻止。募る吐き気をこらえ、手早く作業。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法通行止め! ここから先は、進入禁止な……おうえっぷ……」
天竜寺 詩(ka0396)は形容しがたい物を、なるべく真正面から直視しないように努める。
「もう、刑務所にいても迷惑かけるなぁ、あの猫頭」
そこに、別の奇声が。
「いっ、いっ、いああああああああ!」
さっきの女店員が展示品の剣を振り回し、ショーケースを叩き割っている。歪虚出現の至近距離にいたせいで、完全に錯乱してしまっているようだ。
ステラ・フォーク(ka0808)はすぐさま暴れる店員を取り押さえ、ロープで拘束した。
「ごめんなさいね、しばらくそうしていてくださいまし」
エルバッハ・リオン(ka2434)はそこに、追加でスリープクラウドをかけた。意識が無いほうが自他を傷つけなくてすむ、と。
「私は一般人の避難誘導を優先しますね」
詩は店舗内に入って行く。まだ無事な店員を探し避難誘導の応援を頼むため、それと――手頃な石鹸を探すため。なにしろカチャの指輪ときたら、ちょっとやそっとで取れそうにないのだ。
「なんで、な・ん・で・とれ・ない・のー!」
メイム(ka2290)は地団駄踏んで指輪を引っ張る友人を落ち着かせようと、軽い冗談を飛ばす。
「悪夢だけど夢じゃなかったー♪」
「一周回って現じっ――」
突っ込みを言い終わる前にカチャは、ふらっとよろめき膝をつく。
リナリス・リーカノア(ka5126)は、彼女の背をさすった。
「カチャちゃん、大丈夫?」
「だ、大丈夫ですっ……ちょっと……立ちくらみが……」
メイムはカチャの手の平を路面に押さえ付けた。おもむろに取り出し構えるのは、ナイフ。柄を指に押し当て、深刻な顔で呟く。
「仕方がないね街の平和の為、指摘めようか」
「え? ちょったんまたんまたんまあああ!!」
全力で身を引こうとするカチャ。拍子にナイフの先が指輪に当たり――引っ込んだ。仕掛けナイフだったのだ。
安堵すると同時に半眼を向けるカチャ。ぺろりと舌を出すメイム。
「冗談だよ♪ そこまで酷い事はしないから指輪みせてね――あれ矢印?」
ステラも指輪に顔を近づけ、観察する。
「……機械的な仕組みになっていそうにはありませんわね」
ところで白ワンピースの女は諸問題について我関せずの構え。ぼんやり立っているばかり。
屋根から降りてきたドゥアルは、そんな彼女の姿を一目見るや、強いシンパシーを覚えた。なので、挨拶。
「……はじめまして……ドゥアルです……」
「……どうも……」
続いて握手を求めたが、姿があるのに手ごたえがなく空を掴むばかりなので断念。
「……何か……この騒動についてご存知で……?」
「……そこの人が……他者登録のアイテムを使った結果……色々バグらせちゃってるの……」
「……ははあ……どうしたら収まりますかね……」
「……指輪を外せばいいだけ……」
メイムは顎に握りこぶしを当て、眉根を寄せた。どうせならその方法を教えてくれればいいのにと思いながら。
「……何なのかなー、この矢印……何か意味があってついている気がするんだけど……」
疑問は尽きないが、先に異形へ向かうとする。いつまでも護符だけに任せておけない。
●
あらかた一般人を避難させたリオンは急いで現場に戻ってきた。
歪虚は先程より更にこんがらがりもつれ巻き、見るに堪えないことになっている。
穴の周囲に張られた地縛符に端々が張り付いているため動きが鈍っているが、それも長くは持ちそうにない。
メイムがそれに攻撃を仕掛けている。
「行ってキノコ!」
輝くオーラをまとったパルムが、歪虚にアタックをかけた。肉の塊に穴が空く。
リオンはメイムへ声をかけた。
「メイムさん、挟み撃ちということでよろしいですか」
「うん、それでお願いエルさん。まあ、どっちが前だか後ろだかわかんないけど」
歪虚は空いた穴に周囲の肉を移動させ、埋める。
そこにアイスボルトが襲いかかった。凍りついた箇所がカサブタのように剥がれ落ちる。
ざすえういゆ!
音が衝撃となって飛んできた。リオンは刹那湧き起こりかけた恐怖感を押さえ込み、ウィンドスラッシュを繰り出す。
「――少しは黙っていられないんですかね!」
●
狂気の声は鼓膜を通じて心の中を食い荒らし、恐慌を引き起こす。
ゑいでふぁえすちいなうえばお!
カチャの様子がおかしくなってきた。
「う……う……」
「カチャさん? 指を伸ばして」
詩がそう言っても握りこんだ手を開かない。身を丸め歯を食いしばり、がたがた震え出す。目に宿るのは恐怖の影。
マテリアルを吸われているせいで、精神攻撃に対する抵抗力が弱まっているらしい。
まずいと見たリナリスはカチャを引きずるようにして物陰に移動させ、後ろから優しく抱き締め、体を密着させた。
「大丈夫だよ、絶対にあたし達が助けるから♪」
筋肉の強ばりが解けるよう手をさすりながら、手早くコルクで耳栓をし、手ぬぐいで目隠しをする。五感の一部を塞ぐことで、歪虚の影響を軽減させようと。
続けてジャージのジッパーを胸元まで降ろす――これについては歪虚は関係ない。単なる役得だ。
「リラックスして……あたしに任せて……」
指輪をはめた手が開かれた。
詩は急ごしらえの石鹸水を指に塗り付け、指輪をゆっくり回そうとする。が、しかし、指輪は指と一体化でもしたかのように、びくともしなかった。
一旦作業の手を止め、ゆらゆらしているワンピースの女に尋ねる。
「正当なユーザーなら外せるんだよね……?」
「……勿論……」
それだけ聞けば十分だとばかり詩は、場から離れる。
「ごめん、ちょっと代役探してくるよ」
代わってステラがミッションに臨んだ。
「失礼致しますわね、カチャさん」
これが魔術師のアイテムだというならば、マテリアルに対してなんらか反応があるかもしれない。ダメ元の期待を胸に精霊へ祈りを捧げ、満ちてくる力を指輪に向ける。
だが、指輪に変化は起きなかった。
ルンルンはランタンを傾け、そこから油を取り出す。
「抜けない指輪も、ニンジャの知恵にお任せです!」
油をカチャの指に垂らして揺さぶり、何とかずらそうとしたが、これも先程の石鹸と同様、目覚ましい効果は上げなかった。
横から見ていたドゥアルが意見する。
「……里に伝わる方法で……指と指輪の隙間に糸……無ければわたくしの髪で代用……指先方向にぐるぐる巻きにして…回転させれば取れると……」
最終手段としてはそれも有りかもしれない。思いながらルンルンは、先程メイムが発した言葉について考える。
(……この矢印に……何か意味があってついているとすれば……)
そこに詩が、歪虚の影響でぐんにゃりしている猫を連れてきた。肉球を指輪にくっつけ、正当な所有者の口真似をする。
「ほら、さっさと外れるんやで!」
指輪はぴくりともしなかった。さすがにこの程度の小細工ではどうにもならないらしい。
そこでルンルンは、今ふと浮かんだ思いつきを試してみる。
「引いて駄目なら押してみなって言うもの……彼の又吉の性格なら、ひねくれた行動も十分効果的なのです」
指輪を矢印の方向に向け、ぐっと押す。
その途端指輪が緩んだ。拍子抜けするほど簡単に、何の抵抗もなく、するりと指から滑り落ちた。同時に赤い輝きも消える。
もう大丈夫と見たリナリスは、カチャから目隠しと耳栓をとってやる。
「お疲れさま、よく頑張ったわね」
カチャは肩で息をしつつ、覚醒した。竹刀を支えに立ち上がる。
「……ありがとうございます……あの……胸から手、抜いてくれません……?」
「あっ、ごめんごめん♪」
安堵したルンルンはここでようやく、ワンピース女の存在に気づいた。
「……そんなとこにいたら、危ないですよ…………」
女は髪の毛を持ち上げ、手のように振って見せる。
「……私なら……のーぷろぶれむ……」
●
穴が閉じて行く。
地上に出ている歪虚の付け根が、みるみるうち細まった。
ばっ、ばい、ばいゃぢおあ!
リオンが苦笑する。
「おやおや、スリムになりましたね」
ドゥアルは満を持し、覚醒する。
「ハァァァァ! 覚醒! 歪虚よ、天……地下に帰る時が来た様だな!」
歪虚の体が変形した。マテリアルの壁が、真正面からぶつかってきたのだ。
「貴公のうめき声は近所迷惑なのよ! 今何時だと思っているのよ! わたくしはとっくに寝てる時間よ!」
結界で殴って無理矢理押し戻そうとするドゥアル。
残念ながらその前に、2つの穴は閉じた。
本体から切り離された異形は支えと同時に拘束を失う。切れたトカゲの尻尾のように跳ね回る。
リナリスはそこに、アイスボルトを撃ち込んだ。
「ごめぇん、おっきくてもふにゃふにゃなんて、好みじゃないのぉ♪」
歪虚が千切れ、2つになった――大きいのと小さいの。それぞれが別の方向へくねりだす。本能なのか、暗いところ――下水溝へ潜り込もうと。
「あなたが還る先はそこじゃございませんわよ」
大きい方の片割れを、ステラが、銃撃によって足止めする。
リオンとリナリスがアイスボルトで凍りつかせたところへ、詩が止めのホーリーライト。
まばゆい閃光の中で異形が消滅する。
小さいほうの片割れはというと、下水溝の前に先回りしたカチャから、竹刀で牽制されていた。
「しっ、し!」
歪虚が変形し唇の形を作り、吼える。
むいえぃええ!
至近距離からの叫びを受け、身を固くするカチャ。機を逃さず伸び上がり、竹刀に絡み付こうとする歪虚。
そこにパルム弾が飛んできて、歪虚の体を引きちぎった。
肩を叩かれ振り向いた先には、メイムの笑顔。
「誤解されがちだけど、あたしはカチャさん大事に思っているからねー?」
言いながら彼女は、歪虚をハンマーで叩き潰す。
カチャは少々むくれた表情で、口を尖らせた。
「それは分かってますよ。でもね、時々ちょいちょい疑いたくなるんですよ」
メイムはおかしそうに喉を鳴らす。
「もうカチャさんたらー。あたしをもっと信用しなよー」
潰れた歪虚は再び形を戻そうとする。
ルンルンはその前で、白銀の扇を広げた。
「光になれーっ!」
きらめく五色の光を浴びせられた歪虚は膨張し破裂し、消し飛ぶ。
ドゥアルはそそくさ覚醒状態から戻り、大あくびした。
「……終わりましたか……これでやっと……静かに……」
いそいそ樋を伝って屋根の上に戻る――彼女にとっては歪虚への勝利より眠りの方が、ずっと大切なのだ。
詩は、カチャに駆け寄った。
「カチャ、大丈夫?」
「大――」
カチャは、それより先の言葉を続けられなかった。いきなり昏倒する。
あわてて助け起こそうとするメイム。
「カチャ、カチャさん!」
そこで白ワンピースの女が言った。
「……ほっといたら?……体が……失ったマテリアルを……回復しようと……してるだけだから……」
リオンは女に歩み寄り、声をかける。
「私はエルバッハ・リオンと申します。よろしければ、エルと呼んでください」
「……おっけー……える……」
どうやら敵意はなさげ。
「あなたのお名前を教えていただけませんか」
リナリスも会話に参加した。女の素性については彼女も、かなり気になっていたのだ。
「あ、それあたしも知りたいなあ、教えて教えて」
女は首を傾け、答える。
「……マゴイ……」
「マゴイさん、ですか?」
「……まあ……そんな感じ……他にも色々あったけど……忘れちゃった……」
詩もついでに聞いてみた。
「ふーん。マゴイさんはどこから来たの? クリムゾンじゃ見ない感じだけど……もしかしてリアルブルー?」
「……どっちでもないわ……もっとも……随分前にそこは……消滅しちゃったから……今は気ままな……不定空間暮らし……」
リオンは、確認を取る。
「先ほどの歪虚も、あなたと同じ所から来たのですか?」
「……ああ……あの人は違うわ……リアルブルーから……うっかり私のいる空間に……入り込んできて……本人帰りたがってるんだけど……何しろ巨体だから……通れるほどの穴がなかなか……見つからないのよね……」
相手の外見をまじまじ眺めた詩は、つい以下の質問をしてみたくなった。
「もしかして、井戸の中とかそういうじめじめした場所が好きだったりしない?」
「……嫌いとは言わない……地下って……好き……閉塞感が素敵……」
リナリスはふと思い当たり、活劇コミック『舵天照』を開いて見せる。
「この漫画に出てるこの人、貴女によく似てるね♪ もしかして漫画から出てきたの? この漫画大好き♪ この胸の大きな人は他人とは思えない。あたしも小っちゃい子に色々お仕置きしたぁい♪」
「……いや……これは……平行世界の……空似……」
女の背が急に縮み始めた――地面に沈み込んでいっているのだ。
「……さて……そろそろ帰るわ……指輪……預かっていく……正式なユーザーに……戻さないと……」
路面に落ちた指輪が起き上がり、女の方へ、勝手に転がって行く。
詩は慌ててそれを押さえた。ユーザーというと、スペットだ。あれとこれがどういう関係にあるのか知らないが、このアイテムを戻されるのだけは避けないと。
「待って待って、えっと、それなら私たちがやっとくから!」
「……あ、そう……じゃあやっといて……」
相手が完全に沈む前にリオンは、礼を述べる。
「お答えくださりありがとうございました」
女の姿が消えた。
メイムは、声を潜めて言う。
「ここはリゼリオだし、指輪は魔術師協会に委託して保管して貰うのがいいかな? ソサエティだとまた換金用に外部に流れそうだしー」
ルンルンが親指を持ち上げる。
「あ、私歪虚とワンピースさんを魔導カメラで撮影しておきましたよ。指輪の危険を訴える証拠に!」
ステラは倒れているカチャの頬を、軽くぴたぴた叩いてみた。が、全く目を覚ましそうにない。
「カチャさんはどうします? このままにはしておけませんし……」
その脇からリナリスが手を伸ばす。
「カチャちゃんのことなら大丈夫! あたしがちゃあんとアパートまで連れて帰るから心配しないで!」
言うなりカチャを抱っこし、脱兎の如く走り去っていく。
この後起きたことについては……報告書の字数制限により割愛。
いいゃいうんしおええええ
……誰だか知らないが真昼間から、大音量で奇声を発している。
「……むむ……なにやら……騒がしい……」
不機嫌そうに起き上がった彼女は、屋根を降りて行く。不届き者を突き止めるために。
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「掴まってても事件を起こすなんて、又吉絶対許せないんだからっ!」
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は、地縛符を穴の周囲に張り巡らせた。
あんなものが路上を自由に動き回り始めたら、発狂者が続出する。それだけは阻止。募る吐き気をこらえ、手早く作業。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法通行止め! ここから先は、進入禁止な……おうえっぷ……」
天竜寺 詩(ka0396)は形容しがたい物を、なるべく真正面から直視しないように努める。
「もう、刑務所にいても迷惑かけるなぁ、あの猫頭」
そこに、別の奇声が。
「いっ、いっ、いああああああああ!」
さっきの女店員が展示品の剣を振り回し、ショーケースを叩き割っている。歪虚出現の至近距離にいたせいで、完全に錯乱してしまっているようだ。
ステラ・フォーク(ka0808)はすぐさま暴れる店員を取り押さえ、ロープで拘束した。
「ごめんなさいね、しばらくそうしていてくださいまし」
エルバッハ・リオン(ka2434)はそこに、追加でスリープクラウドをかけた。意識が無いほうが自他を傷つけなくてすむ、と。
「私は一般人の避難誘導を優先しますね」
詩は店舗内に入って行く。まだ無事な店員を探し避難誘導の応援を頼むため、それと――手頃な石鹸を探すため。なにしろカチャの指輪ときたら、ちょっとやそっとで取れそうにないのだ。
「なんで、な・ん・で・とれ・ない・のー!」
メイム(ka2290)は地団駄踏んで指輪を引っ張る友人を落ち着かせようと、軽い冗談を飛ばす。
「悪夢だけど夢じゃなかったー♪」
「一周回って現じっ――」
突っ込みを言い終わる前にカチャは、ふらっとよろめき膝をつく。
リナリス・リーカノア(ka5126)は、彼女の背をさすった。
「カチャちゃん、大丈夫?」
「だ、大丈夫ですっ……ちょっと……立ちくらみが……」
メイムはカチャの手の平を路面に押さえ付けた。おもむろに取り出し構えるのは、ナイフ。柄を指に押し当て、深刻な顔で呟く。
「仕方がないね街の平和の為、指摘めようか」
「え? ちょったんまたんまたんまあああ!!」
全力で身を引こうとするカチャ。拍子にナイフの先が指輪に当たり――引っ込んだ。仕掛けナイフだったのだ。
安堵すると同時に半眼を向けるカチャ。ぺろりと舌を出すメイム。
「冗談だよ♪ そこまで酷い事はしないから指輪みせてね――あれ矢印?」
ステラも指輪に顔を近づけ、観察する。
「……機械的な仕組みになっていそうにはありませんわね」
ところで白ワンピースの女は諸問題について我関せずの構え。ぼんやり立っているばかり。
屋根から降りてきたドゥアルは、そんな彼女の姿を一目見るや、強いシンパシーを覚えた。なので、挨拶。
「……はじめまして……ドゥアルです……」
「……どうも……」
続いて握手を求めたが、姿があるのに手ごたえがなく空を掴むばかりなので断念。
「……何か……この騒動についてご存知で……?」
「……そこの人が……他者登録のアイテムを使った結果……色々バグらせちゃってるの……」
「……ははあ……どうしたら収まりますかね……」
「……指輪を外せばいいだけ……」
メイムは顎に握りこぶしを当て、眉根を寄せた。どうせならその方法を教えてくれればいいのにと思いながら。
「……何なのかなー、この矢印……何か意味があってついている気がするんだけど……」
疑問は尽きないが、先に異形へ向かうとする。いつまでも護符だけに任せておけない。
●
あらかた一般人を避難させたリオンは急いで現場に戻ってきた。
歪虚は先程より更にこんがらがりもつれ巻き、見るに堪えないことになっている。
穴の周囲に張られた地縛符に端々が張り付いているため動きが鈍っているが、それも長くは持ちそうにない。
メイムがそれに攻撃を仕掛けている。
「行ってキノコ!」
輝くオーラをまとったパルムが、歪虚にアタックをかけた。肉の塊に穴が空く。
リオンはメイムへ声をかけた。
「メイムさん、挟み撃ちということでよろしいですか」
「うん、それでお願いエルさん。まあ、どっちが前だか後ろだかわかんないけど」
歪虚は空いた穴に周囲の肉を移動させ、埋める。
そこにアイスボルトが襲いかかった。凍りついた箇所がカサブタのように剥がれ落ちる。
ざすえういゆ!
音が衝撃となって飛んできた。リオンは刹那湧き起こりかけた恐怖感を押さえ込み、ウィンドスラッシュを繰り出す。
「――少しは黙っていられないんですかね!」
●
狂気の声は鼓膜を通じて心の中を食い荒らし、恐慌を引き起こす。
ゑいでふぁえすちいなうえばお!
カチャの様子がおかしくなってきた。
「う……う……」
「カチャさん? 指を伸ばして」
詩がそう言っても握りこんだ手を開かない。身を丸め歯を食いしばり、がたがた震え出す。目に宿るのは恐怖の影。
マテリアルを吸われているせいで、精神攻撃に対する抵抗力が弱まっているらしい。
まずいと見たリナリスはカチャを引きずるようにして物陰に移動させ、後ろから優しく抱き締め、体を密着させた。
「大丈夫だよ、絶対にあたし達が助けるから♪」
筋肉の強ばりが解けるよう手をさすりながら、手早くコルクで耳栓をし、手ぬぐいで目隠しをする。五感の一部を塞ぐことで、歪虚の影響を軽減させようと。
続けてジャージのジッパーを胸元まで降ろす――これについては歪虚は関係ない。単なる役得だ。
「リラックスして……あたしに任せて……」
指輪をはめた手が開かれた。
詩は急ごしらえの石鹸水を指に塗り付け、指輪をゆっくり回そうとする。が、しかし、指輪は指と一体化でもしたかのように、びくともしなかった。
一旦作業の手を止め、ゆらゆらしているワンピースの女に尋ねる。
「正当なユーザーなら外せるんだよね……?」
「……勿論……」
それだけ聞けば十分だとばかり詩は、場から離れる。
「ごめん、ちょっと代役探してくるよ」
代わってステラがミッションに臨んだ。
「失礼致しますわね、カチャさん」
これが魔術師のアイテムだというならば、マテリアルに対してなんらか反応があるかもしれない。ダメ元の期待を胸に精霊へ祈りを捧げ、満ちてくる力を指輪に向ける。
だが、指輪に変化は起きなかった。
ルンルンはランタンを傾け、そこから油を取り出す。
「抜けない指輪も、ニンジャの知恵にお任せです!」
油をカチャの指に垂らして揺さぶり、何とかずらそうとしたが、これも先程の石鹸と同様、目覚ましい効果は上げなかった。
横から見ていたドゥアルが意見する。
「……里に伝わる方法で……指と指輪の隙間に糸……無ければわたくしの髪で代用……指先方向にぐるぐる巻きにして…回転させれば取れると……」
最終手段としてはそれも有りかもしれない。思いながらルンルンは、先程メイムが発した言葉について考える。
(……この矢印に……何か意味があってついているとすれば……)
そこに詩が、歪虚の影響でぐんにゃりしている猫を連れてきた。肉球を指輪にくっつけ、正当な所有者の口真似をする。
「ほら、さっさと外れるんやで!」
指輪はぴくりともしなかった。さすがにこの程度の小細工ではどうにもならないらしい。
そこでルンルンは、今ふと浮かんだ思いつきを試してみる。
「引いて駄目なら押してみなって言うもの……彼の又吉の性格なら、ひねくれた行動も十分効果的なのです」
指輪を矢印の方向に向け、ぐっと押す。
その途端指輪が緩んだ。拍子抜けするほど簡単に、何の抵抗もなく、するりと指から滑り落ちた。同時に赤い輝きも消える。
もう大丈夫と見たリナリスは、カチャから目隠しと耳栓をとってやる。
「お疲れさま、よく頑張ったわね」
カチャは肩で息をしつつ、覚醒した。竹刀を支えに立ち上がる。
「……ありがとうございます……あの……胸から手、抜いてくれません……?」
「あっ、ごめんごめん♪」
安堵したルンルンはここでようやく、ワンピース女の存在に気づいた。
「……そんなとこにいたら、危ないですよ…………」
女は髪の毛を持ち上げ、手のように振って見せる。
「……私なら……のーぷろぶれむ……」
●
穴が閉じて行く。
地上に出ている歪虚の付け根が、みるみるうち細まった。
ばっ、ばい、ばいゃぢおあ!
リオンが苦笑する。
「おやおや、スリムになりましたね」
ドゥアルは満を持し、覚醒する。
「ハァァァァ! 覚醒! 歪虚よ、天……地下に帰る時が来た様だな!」
歪虚の体が変形した。マテリアルの壁が、真正面からぶつかってきたのだ。
「貴公のうめき声は近所迷惑なのよ! 今何時だと思っているのよ! わたくしはとっくに寝てる時間よ!」
結界で殴って無理矢理押し戻そうとするドゥアル。
残念ながらその前に、2つの穴は閉じた。
本体から切り離された異形は支えと同時に拘束を失う。切れたトカゲの尻尾のように跳ね回る。
リナリスはそこに、アイスボルトを撃ち込んだ。
「ごめぇん、おっきくてもふにゃふにゃなんて、好みじゃないのぉ♪」
歪虚が千切れ、2つになった――大きいのと小さいの。それぞれが別の方向へくねりだす。本能なのか、暗いところ――下水溝へ潜り込もうと。
「あなたが還る先はそこじゃございませんわよ」
大きい方の片割れを、ステラが、銃撃によって足止めする。
リオンとリナリスがアイスボルトで凍りつかせたところへ、詩が止めのホーリーライト。
まばゆい閃光の中で異形が消滅する。
小さいほうの片割れはというと、下水溝の前に先回りしたカチャから、竹刀で牽制されていた。
「しっ、し!」
歪虚が変形し唇の形を作り、吼える。
むいえぃええ!
至近距離からの叫びを受け、身を固くするカチャ。機を逃さず伸び上がり、竹刀に絡み付こうとする歪虚。
そこにパルム弾が飛んできて、歪虚の体を引きちぎった。
肩を叩かれ振り向いた先には、メイムの笑顔。
「誤解されがちだけど、あたしはカチャさん大事に思っているからねー?」
言いながら彼女は、歪虚をハンマーで叩き潰す。
カチャは少々むくれた表情で、口を尖らせた。
「それは分かってますよ。でもね、時々ちょいちょい疑いたくなるんですよ」
メイムはおかしそうに喉を鳴らす。
「もうカチャさんたらー。あたしをもっと信用しなよー」
潰れた歪虚は再び形を戻そうとする。
ルンルンはその前で、白銀の扇を広げた。
「光になれーっ!」
きらめく五色の光を浴びせられた歪虚は膨張し破裂し、消し飛ぶ。
ドゥアルはそそくさ覚醒状態から戻り、大あくびした。
「……終わりましたか……これでやっと……静かに……」
いそいそ樋を伝って屋根の上に戻る――彼女にとっては歪虚への勝利より眠りの方が、ずっと大切なのだ。
詩は、カチャに駆け寄った。
「カチャ、大丈夫?」
「大――」
カチャは、それより先の言葉を続けられなかった。いきなり昏倒する。
あわてて助け起こそうとするメイム。
「カチャ、カチャさん!」
そこで白ワンピースの女が言った。
「……ほっといたら?……体が……失ったマテリアルを……回復しようと……してるだけだから……」
リオンは女に歩み寄り、声をかける。
「私はエルバッハ・リオンと申します。よろしければ、エルと呼んでください」
「……おっけー……える……」
どうやら敵意はなさげ。
「あなたのお名前を教えていただけませんか」
リナリスも会話に参加した。女の素性については彼女も、かなり気になっていたのだ。
「あ、それあたしも知りたいなあ、教えて教えて」
女は首を傾け、答える。
「……マゴイ……」
「マゴイさん、ですか?」
「……まあ……そんな感じ……他にも色々あったけど……忘れちゃった……」
詩もついでに聞いてみた。
「ふーん。マゴイさんはどこから来たの? クリムゾンじゃ見ない感じだけど……もしかしてリアルブルー?」
「……どっちでもないわ……もっとも……随分前にそこは……消滅しちゃったから……今は気ままな……不定空間暮らし……」
リオンは、確認を取る。
「先ほどの歪虚も、あなたと同じ所から来たのですか?」
「……ああ……あの人は違うわ……リアルブルーから……うっかり私のいる空間に……入り込んできて……本人帰りたがってるんだけど……何しろ巨体だから……通れるほどの穴がなかなか……見つからないのよね……」
相手の外見をまじまじ眺めた詩は、つい以下の質問をしてみたくなった。
「もしかして、井戸の中とかそういうじめじめした場所が好きだったりしない?」
「……嫌いとは言わない……地下って……好き……閉塞感が素敵……」
リナリスはふと思い当たり、活劇コミック『舵天照』を開いて見せる。
「この漫画に出てるこの人、貴女によく似てるね♪ もしかして漫画から出てきたの? この漫画大好き♪ この胸の大きな人は他人とは思えない。あたしも小っちゃい子に色々お仕置きしたぁい♪」
「……いや……これは……平行世界の……空似……」
女の背が急に縮み始めた――地面に沈み込んでいっているのだ。
「……さて……そろそろ帰るわ……指輪……預かっていく……正式なユーザーに……戻さないと……」
路面に落ちた指輪が起き上がり、女の方へ、勝手に転がって行く。
詩は慌ててそれを押さえた。ユーザーというと、スペットだ。あれとこれがどういう関係にあるのか知らないが、このアイテムを戻されるのだけは避けないと。
「待って待って、えっと、それなら私たちがやっとくから!」
「……あ、そう……じゃあやっといて……」
相手が完全に沈む前にリオンは、礼を述べる。
「お答えくださりありがとうございました」
女の姿が消えた。
メイムは、声を潜めて言う。
「ここはリゼリオだし、指輪は魔術師協会に委託して保管して貰うのがいいかな? ソサエティだとまた換金用に外部に流れそうだしー」
ルンルンが親指を持ち上げる。
「あ、私歪虚とワンピースさんを魔導カメラで撮影しておきましたよ。指輪の危険を訴える証拠に!」
ステラは倒れているカチャの頬を、軽くぴたぴた叩いてみた。が、全く目を覚ましそうにない。
「カチャさんはどうします? このままにはしておけませんし……」
その脇からリナリスが手を伸ばす。
「カチャちゃんのことなら大丈夫! あたしがちゃあんとアパートまで連れて帰るから心配しないで!」
言うなりカチャを抱っこし、脱兎の如く走り去っていく。
この後起きたことについては……報告書の字数制限により割愛。
依頼結果
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▼質問卓 メイム(ka2290) エルフ|15才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2016/09/10 17:49:43 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/09/10 12:02:15 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/09/11 10:51:35 |