ゲスト
(ka0000)
酔いどれ? 新トマト祭!
マスター:奈華里

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/09/17 09:00
- 完成日
- 2016/10/01 03:11
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ここはトマト栽培が盛んな村、カルドルビーノ。
この村では毎年ある祭りが行われ、その日ばかりは街中が大騒ぎ。老若男女一心不乱にあるモノを投げ合う。
そう、そのあるモノとは――もちろんトマトだ。来年の豊作を願い、今年とれたトマトの一部を投げ合い街中を真っ赤に染める事で大地の精霊が喜び、次の年も恵みをもたらしてくれる。そう信じて人々はトマトを投げ合う。ちなみに人にぶつければ、ぶつけられた側の無病息災を願う事になるというから面白い。
だが、今年の開催は些か遅れていた。というのも、それには深い訳がある。
「やっと出来たぞ…」
くつくつと笑う一人の男――彼はトマト祭り実行委員の一人、月チームの自称・参謀だ。
さて、月チームというのは何かといえばこの祭り。賞品こそでないものの、街を分断する川を境に西側を太陽、東側を月としてチームを作り、毎年どちらが早く真っ赤に出来るかを競っているから。去年は彼が秘密裏に作らせた投石器ならぬ投トマト器による劇的な一発逆転を狙ったのだが、性能がいまいちであり太陽チームの勝利に終わったのだった。その雪辱を胸に…彼は新たなものを導入し、勝利を企む。そして辿り着いたのは――。
「諸君、待たせたな。今年のトマト祭りにはこれを導入しようじゃないか!」
会議のテーブルにどんっとおいたのは彼が研究し作り上げたトマト酒だ。
「おいおい、流石にそんなもの使ったら酔った勢いで乱闘とかになっちまうだろう」
別の実行委員がそれを見て待ったをかける。
「それに子供も参加するんだぞ。アルコールはちょっと…」
「判っている。これはあくまで私の自慢……ではなく、言いたいのは液体という部分だ」
「液体…ですか?」
元々この祭りでは固形の、つまり収穫し立ての熟したトマトを使っている。
それを初めから絞って使うという事だろうか。
「でも、それじゃあ持ち運べないだろうし・・・第一瓶は危険だ」
健康と豊作を願う祭りである筈なのに、怪我人が出ては元も子もない。しかし、そこは彼とて考慮済みだ。
「馬鹿なのかね、君達は。そんな事を配慮していない私ではないっ! つまりはこれだ!!」
ばばーんと大袈裟に壁を叩いて、いつ改造したのか会議室の壁がくるりと回る。
「おいおい、勝手に変な事すんなよ…」
そのからくりはさておいて、その裏にあったのは皮袋と竹筒だ。
「いいか。今年はこの皮袋にトマトジュースを入れ街の何処かに設置しておく。所謂ボーナスだな。これを発見したら一発逆転が出来るという訳だ。紐を引いたらその場所一帯を染める事が出来る画期的システムだ。そして、こっちの竹筒は水鉄砲になっている。これにはこのトマト酒を仕込んでおく。かける側は人を選べるから、子供にうたなければ酔わす事もないだろう…まぁ、念の為多少薄めて装填しておけば問題ないし、投げるのが下手な奴でもこれならば命中率は格段に上がるという仕組みだ。どうだね?」
いつものように彼は自慢げにこの意見を披露する。
「そうだなぁ。マンネリになってもあれだし…面白いかも知んねぇなぁ」
太陽側の委員がそれに賛同する。
「ならば決まりだ。流しトマトのそれに加えて、今年はこの二つを導入。より白熱した戦いをしようではないか」
彼のこの祭りに対する意気込みに若干名圧倒されながらも、満場一致でこの試みの導入が決定する。
(フッフッフ、今度こそ見ていろ。それにこの酒を使用する事でうちの商品のPRにもなるし、一石二鳥。これは高笑いが止まらんわっ)
男が密かに歓喜の声を上げる。だが、太陽側とて負けてはいない。
「去年のアレ、うちでも導入しような」
「ああ、そうしよう」
はてさて、両チームの思惑やいかに。
この村では毎年ある祭りが行われ、その日ばかりは街中が大騒ぎ。老若男女一心不乱にあるモノを投げ合う。
そう、そのあるモノとは――もちろんトマトだ。来年の豊作を願い、今年とれたトマトの一部を投げ合い街中を真っ赤に染める事で大地の精霊が喜び、次の年も恵みをもたらしてくれる。そう信じて人々はトマトを投げ合う。ちなみに人にぶつければ、ぶつけられた側の無病息災を願う事になるというから面白い。
だが、今年の開催は些か遅れていた。というのも、それには深い訳がある。
「やっと出来たぞ…」
くつくつと笑う一人の男――彼はトマト祭り実行委員の一人、月チームの自称・参謀だ。
さて、月チームというのは何かといえばこの祭り。賞品こそでないものの、街を分断する川を境に西側を太陽、東側を月としてチームを作り、毎年どちらが早く真っ赤に出来るかを競っているから。去年は彼が秘密裏に作らせた投石器ならぬ投トマト器による劇的な一発逆転を狙ったのだが、性能がいまいちであり太陽チームの勝利に終わったのだった。その雪辱を胸に…彼は新たなものを導入し、勝利を企む。そして辿り着いたのは――。
「諸君、待たせたな。今年のトマト祭りにはこれを導入しようじゃないか!」
会議のテーブルにどんっとおいたのは彼が研究し作り上げたトマト酒だ。
「おいおい、流石にそんなもの使ったら酔った勢いで乱闘とかになっちまうだろう」
別の実行委員がそれを見て待ったをかける。
「それに子供も参加するんだぞ。アルコールはちょっと…」
「判っている。これはあくまで私の自慢……ではなく、言いたいのは液体という部分だ」
「液体…ですか?」
元々この祭りでは固形の、つまり収穫し立ての熟したトマトを使っている。
それを初めから絞って使うという事だろうか。
「でも、それじゃあ持ち運べないだろうし・・・第一瓶は危険だ」
健康と豊作を願う祭りである筈なのに、怪我人が出ては元も子もない。しかし、そこは彼とて考慮済みだ。
「馬鹿なのかね、君達は。そんな事を配慮していない私ではないっ! つまりはこれだ!!」
ばばーんと大袈裟に壁を叩いて、いつ改造したのか会議室の壁がくるりと回る。
「おいおい、勝手に変な事すんなよ…」
そのからくりはさておいて、その裏にあったのは皮袋と竹筒だ。
「いいか。今年はこの皮袋にトマトジュースを入れ街の何処かに設置しておく。所謂ボーナスだな。これを発見したら一発逆転が出来るという訳だ。紐を引いたらその場所一帯を染める事が出来る画期的システムだ。そして、こっちの竹筒は水鉄砲になっている。これにはこのトマト酒を仕込んでおく。かける側は人を選べるから、子供にうたなければ酔わす事もないだろう…まぁ、念の為多少薄めて装填しておけば問題ないし、投げるのが下手な奴でもこれならば命中率は格段に上がるという仕組みだ。どうだね?」
いつものように彼は自慢げにこの意見を披露する。
「そうだなぁ。マンネリになってもあれだし…面白いかも知んねぇなぁ」
太陽側の委員がそれに賛同する。
「ならば決まりだ。流しトマトのそれに加えて、今年はこの二つを導入。より白熱した戦いをしようではないか」
彼のこの祭りに対する意気込みに若干名圧倒されながらも、満場一致でこの試みの導入が決定する。
(フッフッフ、今度こそ見ていろ。それにこの酒を使用する事でうちの商品のPRにもなるし、一石二鳥。これは高笑いが止まらんわっ)
男が密かに歓喜の声を上げる。だが、太陽側とて負けてはいない。
「去年のアレ、うちでも導入しような」
「ああ、そうしよう」
はてさて、両チームの思惑やいかに。
リプレイ本文
●勧誘
トマト祭り前夜と言うのは何処も活気に溢れている。
宿屋には各地から集まったトマト野郎、もとい祭り好きが集まり明日のあれこれを話し合い、馬鹿騒ぎを繰り広げている。それに加えて、チームが決まっていない者への勧誘合戦。これも恒例の行事だったりする。
(今年は何人捕まえられるか…)
月チームの参謀が宿の前でハンターを物色する。
そこへやってきたのは椿姫・T・ノーチェ(ka1225)を含む四人のハンター。
年の頃はバラバラであるが、どうやら皆面識があるらしい。角の付いた帽子の少年・鬼百合(ka3667)は椿姫の事を『姐さん』と呼んでいるからかなり慕っていると見える。
「へえ、ブルーにも同じような祭りがあったんですかい?」
キラキラした瞳は尊敬の眼差しか。彼女から聞く話に何より興味があるらしい。
「ええ、あっちとは少しルールが違うようですが、大凡は同じです」
そう言う椿姫の言葉に成程と頷く。
「どっちにしてもすごく楽しそうなんだよ♪ 本当誘ってくれてありがとう」
とこれは桜蘭(ka2051)だ。猫耳フードを揺らして、嬉々とした表情をを見せる。
「ふふ、いいのよ。私も来てくれて嬉しいし…皆でこういう事をするのも悪くないもの」
クリムゾンウェストに来て出来た仲間達。軍にいた頃は統制が先で治療役だったとはいえ、こういったものに参加する機会はなかったのだ。ここに来て苦労もあったが、家族に近い仲間が出来たのは喜ばしい事である。
「ああ、皆さんもう参加するチームはお決まりで?」
そんな彼らを見つけて、参謀が声をかける。
「チームってのは?」
「トマト祭りのですよ。太陽と月…こちらにお泊りになるなら断然『月』をお勧めしますが」
月側にある宿屋であるからそんな言い方をしても問題ないだろうと、参謀がこっそり自軍を推す。
「へぇ…どうする、椿姫?」
民族色の強い衣装でクィーロ・ヴェリル(ka4122)が尋ねる。
「いいんじゃないかしら? どちらのチームでも全力を尽くすまでです」
椿姫がそう言うと早速皆でメンバー登録へ。今年は月は青、太陽は赤の鉢巻をするようだ。
「なあ、あんた。ここの土地の人だよね?」
彼女に続いて鉢巻を受け取りながらクィーロが問う。
「ええ、そうですが何か?」
「この祭り、ハンターは覚醒とかスキルとか使っていいのかな?」
初参加であるから念の為の確認のようだ。
「勿論。思う存分使って勝ちを呼び込んで下さいませ」
「ああ、わかった」
参謀の返事を聞き、彼の中の好奇心と闘争心に火が灯る。
(殺し合いじゃねぇけど…これはなかなか楽しめるかもなァ)
内心でそう思うクィーロの心を読み取ったように参謀がにやりとする。
(今年は骨のある奴も多そうだしイケそうだな。クククッ)
勝負は闘う前に決しているのが理想だ。圧倒的戦力を持って士気を下げてしまえば、大抵の戦は勝てる。
「では、明日よろしくお願いしますよ」
参謀はそう言うとその場を離れて、
「おっと!?」
踏み出そうとした先を過ったのは一台のママチャリだった。
彼の挙動を前に慌てて操縦者がブレーキをかける。
「すみません。怪我はなかったですかね?」
表情一つ変えず、どこか機械的に細身の男が尋ねる。
「えっとあなたは?」
「ハンターをしているGacrux(ka2726)と言います。ところでトマト祭りのある街はここでよかったですかね?」
白目がちな瞳で彼が尋ねる。そんな彼に参謀はしめたと思った。
彼がハンターだというなら、これはチームに引き込むチャンスである。
「トマト祭りに来られた方でしたか…祭りは明日ですが、もうチームはお決まりで?」
土埃を払いつつさりげなく問う。
「いや、まだですが」
「ではぜひ月チームへ。今のところ無事ですが、明日になったらどうかも判りませんし、私の代わりに活躍して頂けたら有難い」
別段自転車との接触はないし大丈夫そうであるが、こういう時は嘘も方便だと参謀は思う。
「そうですね。なら、こちらで。うん、間に合って良かったです」
聞けば以前この祭りの記事を読んで気になっていたとのこと。
やはり表情には出ていないが、彼が言うならそうなのだろう。
「それはそれは光栄です。明日はこちらで思う存分トマトを投げ尽して下さいね」
「ええ、そうします」
両者爽やかな笑顔を作る。しかし、やはりGacruxの顔の変化は乏しくて、かなりの熱意をもって答えたにも関わらず、参謀にはあまりうまく伝わってはいないようだった。
一方太陽側の宿を取り、明日に備える面子は僅か三名。
だが、それぞれがなかなかの個性の持ち主だったりする。
「昨年は街のご婦人に露出が多過ぎると叱られてしまいましたからね。今回は抑えておきませんと」
宿の一室で鞄から衣装を出しながらエルことエルバッハ・リオン(ka2434)が静かに呟く。
彼女はこのお祭り唯一の去年参加者でもあった。
ちなみにその折、どんな衣装を着ていたのかと言えば…トマト塗れになる事を考慮して水着をチョイス。別にも水着の参加者はいたのだが、彼女のは際ど過ぎる蒼のビキニであり、街のご婦人に叱られ、パーカーを着せられてしまったのだ。けれでもチラリズムに萌える男性が後を絶たず、川縁で陣取っていた彼女はそこでの注目の的となっていた過去をもつ。
そんな彼女の今年の衣装は戦闘用のドレスだった。
しかしながらこれもまた何というか、素敵な感じで……けれど、彼女は気付かない。
「うん、これで完璧です」
彼女の親から受け継がれた特別な感性…それは些か世間のそれとはズレているが、彼女は全く悪くない。
いやむしろ、世間がまだ彼女の感性に追いついていないだけかもしれないのだから。
(明日は去年同様大暴れして見せます!)
服の確認を終えて、小さく拳を作り彼女は決意する。
そんな彼女の隣りの部屋ではエル同様銀髪色白の少女が明日を待ち遠しく思いながら、窓から星を眺めていた。
「明日、晴れるといいの~」
聖導士らしく天にそう願う彼女は、ほわほわした雰囲気を纏っていてなんとも可愛らしい。
そんな彼女の名はディーナ・フェルミ(ka5843)。
ハンターであっても戦う事より癒す事が得意。クルセイダーよりヒーラーになりたいと思っている彼女である。
「トマトをぶつけ合って豊穣を願うなんてびっくりだけど、なんか楽しそうなの」
一見野蛮で乱暴に見えるお祭りであるが、その実はやってみなくては判らない。
(早く明日になってほしいの~)
輝く星と心で会話しながら、明日に備えてベッドに入り時を待つ。
「うふふふふ~、秘密兵器探しはお任せですぅ」
と太陽チーム作戦本部では星野 ハナ(ka5852)が一人名乗りを上げていた。
彼女は早々と現地入りして、太陽チームに入り住民達の打ち合わせに参加していたようだ。
「だったら、あんたに任せるよ。何処にあるか判んねぇが、よろしく頼むわ」
「えぇえぇ、お任せ下さいな。あっという間に見つけてみせますからぁ」
男達の中に入っても全く動じず、むしろイキイキと発言する。
そんな彼女がそう言い切れる理由、それは彼女の持つスキルにあった。
「占術に占いの使用で的中率はぐぐんと上がるのですよぅ」
当てずっぽうと言われればそれまでであるが、これが意外と馬鹿に出来ない。回数を行使すれば精度は上がるし、闇雲に動くよりはよっぽど効率的である。
「まっこっちはハンターが少ないんだ。使えるもん使って頑張っていこうやっ」
太陽チームのメンバーらが一致団結すべく拳を掲げる。
「大丈夫! 私がいれば百人力ですぅ」
ハナはそんな彼等に堂々とそう言い切るのだった。
●士気力
ディーナの祈りが届いたのかどうかはさておいて、祭り当日はいい天気であった。
真っ青な空に時折流れる白い雲。川面は日光でキラキラ煌めき暑さを視覚的に少しだけ和らげてくれている。
時間は朝の九時、当日エントリーの受付が開始され、徐々に人々が川に集まり始めた頃、突如太陽チームから歓声が上がる。
「なんだ、なんだ?」
その様子に対岸の者達の目が引付けられて…そこにいたのは去年の美少女・密かなアイドルと化したエルだ。
「えっと、これはどういう事でしょうか?」
彼女の登場に男達が道を開けてくれる。その行為に僅かに動揺しつつも悪い気はしないのだが、やはり気になる。
その訳は…今年も彼女の衣装にあった。スケスケのドレスは彼女が戦闘用にカスタマイズしたからだ。布を纏ってはいるのだが、それは天女の羽衣如き薄さでうっすら肌が透けている。その下にはビキニアーマーを装着してはいるが、これがまたいけない。見えそうで見えないじれったさと、見ていいものなのに見ちゃいけないような背徳感が程よくブレンドされて、男性陣の心を鷲掴んで離さない。
「おぉっ、今年は女神さま光臨じゃー!」
戦う美少女の図からリアルブルー出身の者ならジャンヌ・ダルクを想像したであろう。
此方の者はならば物語に見るヴァルキリーを連想したに違いない。
「あぁ…俺、今年はあっちの味方しようかな…」
思わずそんな事を呟く月チームの男性も現れて、奥歯を噛み締めるは参謀殿。
来年はマスコットガールも必要かもと本気で考えていたりする。だが、その眼福もそう長くは続かなかった。
「あーもう全くこの子は! またなのかいっ」
いつぞやのご婦人がそう言って、またまた長めのパーカーを着せてくる。
「あら、これもダメなのですか。服装と言うのは難しいですね…」
エルの溜息に男性陣の溜息も重なった。
そんなこんなで始まる前から盛り上がった両チームであるが、ここからが本番だ。
両者始まりの合図とともに一斉に川を目指す。それは勿論トマトを確保する為だ。
ばしゃばしゃと川へと踏み込み、流れてくるトマトを手に取る。
しかし、今年はその流れてくるトマトにも工夫がされていて、
「おや、やけに小さいものばかりですね」
Gacruxの呟き。そうなのだ。
今年は勝負展開をより面白くしようと、主催者側も序盤はミニトマトばかりを流すつもりらしい。
「ほう、面白いじゃねぇか!」
クィーロがいつもと違い嬉々とした様子でトマトを握る。
だが、ミニトマトであるから一つ程度じゃ物足りなくて。
(これだと一気に投げるべきか?)
小さいモノであれば最大五つは手のひらに収まるだろう。命中率は下がるものの、効率はいいかもしれない。
が彼にもポリシーはある。
(やるなら、やっぱり動かねぇ獲物より動く獲物だ!)
闇雲に投げるより狙いを定めて…その方が当てた時の達成感が大きいのではないか。
「クィーロさん、私がガンガン拾い集めるからどうぞ思いっきり投げてほしいんだよっ!」
当初から手伝いをメインに動こうと考えていた桜蘭が麻袋を片手に叫ぶ。
「それは助かる」
彼はそう答えて――狙うは網を持つ男達だ。中には投網で大量のトマトを掻っ攫って行く者もいる。
「狙うべきはアレだな」
二刀流を駆使して、彼らに狙いを定め投げ放つ。
「させませんっ!」
がそこに割って入ったのは対岸のエルだ。
網を持つ彼等を庇うようにクィーロのトマトを相殺、迎撃する。
「ほう、俺とやろうってのか?」
好敵手現れたりとクィーロが静かな声で言う。
「望む所です」
本能剥き出しのクィーロにエルもにやりと微笑を返す。
「クィーロ、あなたは?」
街へ向かおうとする椿姫が彼にそう尋ねたが、答えはもうしれたこと。
「俺はここで敵を引き付けてやる。椿姫は思いっきりトマトぶつけてこい!」
「わかったわ。気を付けてね」
「ああ…そうだ、鬼百合。椿姫を頼むな」
「合点承知っ!」
流石は仲間。視線を合わさずとも気配でわかるのか、会話はスムーズに成立している。
「さて、では先手必勝でいきましょう」
椿姫が鬼百合と共に敵地へ向かう。
彼女が目指すは今年から追加された竹鉄砲とボーナス袋だ。
片手に抱えられる最小限トマトを抱えて、応戦は二の次に探索して回る。
ただ、小さな街と言えど見知らぬ場所だ。事前に地図程度なら目を通していたが、駆けてみると思いの外広く感じられ、例のものもそう簡単に見つからない。
「どうします、姐さん?」
ついて回る鬼百合もそれには少し困り顔。川から拾ってきたトマトを帽子に溜めていた彼であるが、既に半分以上を椿姫の防御に使い心許ない。
「そうねぇ、一旦戻るのもありだけど」
時間が惜しい。ランアウトでうまくかわしてここまできたが、駆け抜けてしまったから細かな場所の見落としがあったのかもしれない。かと言って戻ってまた同じ道を行くのは無駄足になりかねない。
そんな時だった。
ひゅっと風を切る音がしたかと思うとものすごいスピードで飛んできたのは複数のトマト。路地にいたのが敵チームに見つかったらしい。一斉に投げられては流石に避けきれない。
「くっ!?」
椿姫は腹を括って衝撃に備える。しかし、そこに聞こえたのは重い音。
そっと目を開けて確認すれば、彼女の前には土の壁が出現している。
「これは…」
「姐さん、ここはオレが引き受けます。この壁を足場にもっと上から探して下…」
べちょっ
かっこいい台詞のその途中で空気を読まない一投が炸裂。
ゆっくりとそちらに視線を向ければほわほわした雰囲気の小柄な少女。
顔に似合わずの剛速球で周りの住人も目を疑う。
「ふふっ、これ楽しいの~♪」
ディーナが童心に帰ったように笑う。一方当てられた鬼百合はおかんむりだ。
「いま…今、いいところだったのにぃーーーー!!」
そうして、涙目になりつつディーナを追い猛ダッシュ。こういう所はまだまだお子様な彼だ。
「あ、あの…ありがとね、鬼百合くん。私、頑張るから」
呆気にとられるもその後はくすりと笑って、椿姫は壁を踏み台に建物の上へと向かうのだった。
●形勢
さて、昨日意気込んでいたハナは現在月チームの街の裏路地で本日何度目かの占いを行使していた。
「おかしいですねぇ、この辺だと出ているのですが」
回数を重ねているからここで間違いはない筈なのに、全くもって竹鉄砲が見当たらない。
(むぅ~、どういうことでしょうかぁ?)
謎が深まり、自然と唸り声が漏れる。するとやっぱり目立ってしまう訳で…。
(ん、何か見つけたようですね?)
ペットのイヌワシを空に飛ばして、偵察させていたGacruxがペットの動きの変化を察しその地点へと向かう。
するとそこには敵チームの鉢巻を巻いたハナがいて、彼は籠に用意したトマトを使って奇襲を敢行。
「ここはまみれて頂きます」
その呟きと共に彼はママチャリのペダルを深く踏み込む。
そして目指すはハナの元。幸いハナは意識を集中している為、彼の接近に気付かない。
チリンチリンッ
小気味のいいベルを鳴らして、籠のトマトをばら撒く。
「えっ、ちょっ」
それに気付いた時にはもう遅かった。慌てて逃げようとした彼女の脚をトマトが捕える。
「どうぞ。遠慮せずに」
そんな彼女の横を涼しい顔ですいーと走ってゆく彼を横目にハナの視界はぐらりと反転。
振り返り投げられたトマトは駄目押しのクリティカル顔面ヒットである。そして、その後は・・・。
どっすーーん
大量のミニトマトに足をとられて、バナナの皮を踏んだ時よろしくつるっと滑って盛大に転倒する。
「あっちゃー…私とした事が」
汚れてもいいようにマントと水着に着替えていたが、この一転びで全身真っ赤に染まるというこの祭り特有の洗礼を受ける。だが、悪い事ばかりではなかった。視線が低くなったことによって見えなかったものも見えてくる。
「あれは…」
剥き出しの階段の裏に備えつけられているのは必死で探していた竹鉄砲ではないか。
「フフフッ、形勢逆転ですよぉ~」
ハナがぼそりと呟き走る。
残念ながらそこに全部の竹鉄砲があった訳ではなかったが、それでも強力な武器に違いない。
「さっきのママチャリ、待つんですよぉ~」
彼女はそう叫ぶと、竹鉄砲を片手にGacruxを追いかける。
「あっ、と…まさかあそこにあるとは」
月チームのメンバーであったが、彼も実は知らなかった。
作戦会議に出ていなかったから無理もない。
朝場所を聞こうと試みたが、何処に耳があるか判らないからと教えて貰えなかったのだ。
「とりあえず逃げましょうか」
乗り物がある事をいいことにGacruxは全速力でペダルをこぐ。
が、彼は急ぐあまりに道が判らなくなってきて…迷い込んだのは敵地だったり。
「フッフッフッ、飛んで火にいる夏の虫なんですよぉ」
いつの間にか手に入れた竹鉄砲を仲間にも配って、彼を行き止まりに差し掛かったのをいい事にじわりじわりとにじり寄る。
「ッ…これは困りましたねえ」
流石のチャリでもこのピンチは切り抜けられないか。
村人達を無視して無理矢理突破する事も出来なくないが、ハンターが怪我人を出しては面目が立たない。
「喰らうがいいのですぅ―――!」
ハナ他太陽チームの者達が竹鉄砲と完熟トマトで彼を染め上げていく。
(あっ、確かにこのトマト酒…体に良さそうな味ですね)
Gacruxはトマトの集中砲火を浴びながらもちゃっかりゴーグルで目を守って、トマト酒の味まで堪能するのだった。
●対峙
場所は戻って川原付近。
ここでは熾烈なトマト争奪戦と共に、壮絶なトマトの投げ合いが繰り広げられていた。
というのも全ては去年の秘密兵器に始まる。投石器ならぬトマト投げ器の導入がこの場を更に混乱へと導いたのだ。月チームの大量投下型に対して太陽チームが導入したのは小さめの回数押し型。どちらにも利点はあり、それぞれが互いにそれを使って、トマトを飛ばし合う。そんな中でいつの間にか出来ていた二大勢力もそれぞれのやり方で敵を狙う。
「嬢ちゃんを守れ―! 一個たりともぶつけさせるなー!」
そう叫ぶのはエルを守る太陽勢。
白肌にトマトをぶつけさせる等言語道断とばかりに村人たちはエルの周りに集結し、飛んでくるトマトを何が何でも阻止すべく立ちはだかる。
そして、エルの傍にはトマトを補充する者までいて…。
「これを使って下さいな」
まるで従者のように…彼女にトマトを献上する村人。そんな彼らをエルは有難く思い、サービスサービス♪
一本足投法の要領で足を高く上げて、振り被り投げてチラリズムで感謝のお返し。
けれど、それは感謝ばかりではない。
投げるからには当てなければ――勿論目標はクィーロだ。
「さっさと沈んで下さいませんか?」
身体で受け止める彼を見てエルが言う。
「いや、こっちも負けられねぇんだよね」
とこれはクィーロ。その男らしさから彼の周りにも親衛隊の様なものが出来ていたりする。
ちなみに彼の方は老若男女、様々な層の者が付き迎撃を繰り返しているようだ。
「仕方ありません。あれをもう一度お願いします」
そこでエルが村人達に頼んで投石器(小)を準備させる。
「は、甘いな。桜蘭、こっちの具合は?」
「もうすぐいっぱいだよ。やっちゃう?」
クィーロの言葉に答えて、桜蘭も投石器(大)の発射を確認する。
「おっしゃあ、やったれーー!」
「ОKだよ~♪」
器がデカい分回数は打てないが、それでも威力は折り紙付きだ。去年から改良も加えられている。
『いっけぇ~~~!!』
桜蘭他太陽チームの嬉々として声が重なり、彼女の切断で大量のトマトがあちらへと飛来する。
それらは一際大きな音を立てて、対岸に真っ赤な雨を降らせていた。
(へっ、オレの目を嘗めて貰っちゃあ困りまさぁ)
あの後、必死でディーナを追いかけて、見失った路地の一角。しかし彼は冷静に対処する。
さっき同様アースウォールで壁を作ってそこに跳び乗り、当たりをくまなく観察。
作った壁の高さは約二m、彼の身長を入れれは三m半の高さとなり視野はグッと広がる。
この視野ならば隠れている彼女の発見も安易となる事だろう。
(おっ、あそこか)
ゴミ箱の陰に隠れる彼女を見つけて、彼は素早く飛び降りる。
だが、あくまで気付いていない振りを装って徐々に接近。至近距離まで近付いて、
「くらいやがれっ!」
「き、きゃあっ!」
てっきり気付かれていないと思っていたディーナは完全無防備。
鬼百合の潰したトマトが彼女の顔面にヒットする。
「ふっふっふっ、借りはかえしたでさぁ」
彼が不敵に微笑む。
「むぅ~、確かにやられたのぉ。でもトマトって美肌にも効果があるって聞くしありがとなの~♪」
真っ赤な顔でしみる果汁を堪えながら彼女が笑う。
「それにこれ…なかなか、美味しいの♪」
流れてくるトマトの果肉をそのまま口に運んでディーナはむしゃむしゃ。トマトの味をみる。
「やられてお礼を言われるとは、本当に変わった祭りでさぁ」
そんな彼女の言動と行動にあきれながらも彼も笑顔になる。
本当に理屈では解けない不思議な祭り。それがこのトマト祭りだ。
ただ、トマトを投げ合うだけだというのに、それだけの事が何故か楽しく思えてくる不思議な感覚。街全体で皆が一体となって行われるこの祭りには目に見えぬ力――トマトの、いや大地の精霊が彼等に何かを伝えようとしているようにも思える。
「さてと、じゃあオレは姐さんの所に戻らないと…」
一段落終えて、鬼百合が踵を返す。
がその時、早くも終了のベルが鳴って…勝利したのは何とまたもや太陽チームのようだった。
●勝敗
真っ赤に染まった街の中、祭りが終わると住民達は総出で街の掃除を始める。
これも大事な仕事の一つなのだ。遊んだ後はちゃんと片付ける。参加者は皆それを理解している。
「えー、それじゃあ何で負けたんだろう」
椿姫の話を聞いて桜蘭が首を傾げる。
「さあね…というか、私の雄姿を見せられなくて残念よ」
クィーロと桜蘭は川縁で戦い、鬼百合はディーナの追跡に向かった後の事。
彼女はあの後も必死で探し、ボーナス袋を二つも発見していた。なのに、勝てなかったのは何故なのだろうか。
「一体何処にあったの?」
桜蘭が興味津々に尋ねる。
「そうね…一つは民家の屋根の上、もう一つは建物の影になる所に吊ってあったわ」
椿姫が思い出しながら言う。その時の様子はこうだ。
鬼百合と別れて、屋根を行く彼女。見晴らしが良い分、敵チームの目にもついてしまう。
案の定、すぐに彼女を狙って太陽チームの者達がトマトを片手に上がってきた。その数はおよそ十数名。
投げられ掠めていくトマトを何とか交わしながら、椿姫は駆ける。
(皆がくれたチャンスだもの。絶対無駄にはしないわっ)
残るトマトの数は後三つ。それも小ぶりのものばかりだ。
幸い、敵の中に凄腕のハンターはいないようで彼女に追いついてくる者はいない。
けれど、油断は出来なかった。屋根にいなくとも、下から飛ばしてくる可能性もある。
梯子に登れば、ヘリからの攻撃もありうる。
仕事並みの集中力でその場を切り抜けた彼女はふと休憩しよう屋根のへりに腰かけて、顔を上げた先にぶら下がる袋を発見する。
「やったわ。あれがきっとボーナス袋ね」
判りやすく袋の側面にはトマトの絵が描かれているそれは、確かに大きく一気に多くの面積を染める事が出来るだろう。場所も見つかりにくい場所に隠している事から、逆に考えればそこはある意味盲点になる場所でもある。
つまりはその場所は塗り忘れやすい場所であり、見つけた人へのご褒美に他ならない。
「頂くわね」
彼女はそう言って袋の口を開け、豪快にトマト汁をぶちまける。
するとそれに気付いてまたも彼女を染めんとする太陽チームの猛攻に見舞われて…。
「もう、本当に大変だったんだから。建物の陰にあったのを見つけられたのは奇跡だったわ」
思い出しつつ話す彼女の言葉に仲間が微笑む。
「あ、先程はどうもなの」
そこへ箒片手にやってきたのはディーナだった。
汚れた服そのままに、せっせとトマト汁を排水溝へと掃き出している。
「なあ、あんたなんでそっちが勝ったか知ってるか?」
クィーロが彼女に尋ねる。
「えと…私が利いた話では占いがどうとかで」
「占い?」
あまりにも突飛な話に皆が首を傾げる。
「そうですよぉ。私の占いの勝利なのですぅ!」
すると話を嗅ぎ付けて、今回の勝利の立役者がやってきて自慢げにどや顔を決めてみせる。
「お気付きではなかったかもしれませんが、私隠された場所探し、結構得意なんですよねぇ。だから占術でそちらのボーナス場所占わせて頂きました。そして、重点的に占いで出た場所に此方の仲間を送らせて頂いたんですぅ」
その場所がなかなかにいい線をついていたようで、ボーナス袋は四つもゲットし、竹鉄砲は知っての通りだ。
よって今回のこの勝負、月チーム参謀が必死で考え取り入れたモノをまんまと太陽チームが利用し勝ちをもぎ取ったという事になる。
「あ、後コレも結構役に立ちましたよぉ」
チリンチリンッとベルを鳴らして押してきたのはGacruxのママチャリさん(笑)だ。
「ああ、それさえ奪われなければ…」
Gacruxが悔しそうに呟く。
「フフッ、面白い発想です。ルールブックには乗り物不可とは書いていませんでしたから」
今回の防衛姫、エルも彼等の話に加わって言う。
「ですよねぇ。発想は良かったと思いますよぉ」
ハナがニヤニヤとした様子で告げる。
つまりはこのママチャリも初めは月のものだった。
しかし、ハナに見つかった事により奪われて、街塗に利用されてしまったらしい。
「来年は、来年こそは勝ってみせるぞー!」
参謀殿が橋の下で悔し涙を流しながら叫ぶ。
「あー、はいはい。まぁ、この後はチームを忘れて楽しくやろうや」
「あんたんとこのトマト酒も期待してるぜ」
そう慰める実行委員の仲間達であったが、中には太陽のものが混じっていて更に虚しさを覚える参謀であった。
そうして、最後はトマトパーティー。戦いの疲れはトマトで癒す。
ハナは食べる事が好きと言うところから始まっての料理上手であり、ここでも腕を揮う。
ガスパチョに野菜入りのトマトジュースを始め、新鮮なトマトピューレを使ってオムレツには絵を描いてみたりと実に多彩だ。村の方でも定番のピザにサラダは勿論、今年は誰から教わったのかトマトのおでんなんかも登場してパーティーを盛り上げている。
「うんまいでさ、これ!」
「わ、ホントだ。このトマト凄く美味しいっ」
野菜は苦手だと言う鬼百合であったが、ここのトマトはいけるらしい。桜蘭もご満悦だ。
それもその筈ここのフルーツトマトは糖度がメロンよりもあるという事もあり、酸味の少ない品種は子供でも食べやすくなっている。
「俺は青臭いのが好きですがね」
サラダになっているトマトをフォークに刺して齧りつつ、Gacruxが言う。
「どれもおいしいの。ここにきてよかったの~」
口一杯に頬張って幸せを噛み締めるのはディーナだ。
「また、こんな機会があったら誘ってほしいんだよ」
桜蘭が言う。
「もちろんよ。だってあなたたちは私の家族同然ですもの」
椿姫のその言葉に桜蘭、鬼百合、クィーロは照れを隠せない。
「そういえば、鬼百合もクィーロも結構素の方が出てたけど気付いてた?」
親しい仲だから当然であるが、特に鬼百合は「です、ます調」よりも方言というか彼特有の言い回しが多かったように感じる。
「あー…ちょっとはめ外し過ぎたか?」
外見年齢二十五歳、大人なクィーロが冷静に呟く。
「そ、そうでしたでしょうか? オレは別に…」
逆に鬼百合は恥ずかしさを感じたのか少し照れつつ、そう答える。
(まあ、私も結構素だった気もするのよね)
そんな彼らを椿姫は微笑ましく見守りながら夜が更けるまで、彼らの話は尽きないようだった。
トマト祭り前夜と言うのは何処も活気に溢れている。
宿屋には各地から集まったトマト野郎、もとい祭り好きが集まり明日のあれこれを話し合い、馬鹿騒ぎを繰り広げている。それに加えて、チームが決まっていない者への勧誘合戦。これも恒例の行事だったりする。
(今年は何人捕まえられるか…)
月チームの参謀が宿の前でハンターを物色する。
そこへやってきたのは椿姫・T・ノーチェ(ka1225)を含む四人のハンター。
年の頃はバラバラであるが、どうやら皆面識があるらしい。角の付いた帽子の少年・鬼百合(ka3667)は椿姫の事を『姐さん』と呼んでいるからかなり慕っていると見える。
「へえ、ブルーにも同じような祭りがあったんですかい?」
キラキラした瞳は尊敬の眼差しか。彼女から聞く話に何より興味があるらしい。
「ええ、あっちとは少しルールが違うようですが、大凡は同じです」
そう言う椿姫の言葉に成程と頷く。
「どっちにしてもすごく楽しそうなんだよ♪ 本当誘ってくれてありがとう」
とこれは桜蘭(ka2051)だ。猫耳フードを揺らして、嬉々とした表情をを見せる。
「ふふ、いいのよ。私も来てくれて嬉しいし…皆でこういう事をするのも悪くないもの」
クリムゾンウェストに来て出来た仲間達。軍にいた頃は統制が先で治療役だったとはいえ、こういったものに参加する機会はなかったのだ。ここに来て苦労もあったが、家族に近い仲間が出来たのは喜ばしい事である。
「ああ、皆さんもう参加するチームはお決まりで?」
そんな彼らを見つけて、参謀が声をかける。
「チームってのは?」
「トマト祭りのですよ。太陽と月…こちらにお泊りになるなら断然『月』をお勧めしますが」
月側にある宿屋であるからそんな言い方をしても問題ないだろうと、参謀がこっそり自軍を推す。
「へぇ…どうする、椿姫?」
民族色の強い衣装でクィーロ・ヴェリル(ka4122)が尋ねる。
「いいんじゃないかしら? どちらのチームでも全力を尽くすまでです」
椿姫がそう言うと早速皆でメンバー登録へ。今年は月は青、太陽は赤の鉢巻をするようだ。
「なあ、あんた。ここの土地の人だよね?」
彼女に続いて鉢巻を受け取りながらクィーロが問う。
「ええ、そうですが何か?」
「この祭り、ハンターは覚醒とかスキルとか使っていいのかな?」
初参加であるから念の為の確認のようだ。
「勿論。思う存分使って勝ちを呼び込んで下さいませ」
「ああ、わかった」
参謀の返事を聞き、彼の中の好奇心と闘争心に火が灯る。
(殺し合いじゃねぇけど…これはなかなか楽しめるかもなァ)
内心でそう思うクィーロの心を読み取ったように参謀がにやりとする。
(今年は骨のある奴も多そうだしイケそうだな。クククッ)
勝負は闘う前に決しているのが理想だ。圧倒的戦力を持って士気を下げてしまえば、大抵の戦は勝てる。
「では、明日よろしくお願いしますよ」
参謀はそう言うとその場を離れて、
「おっと!?」
踏み出そうとした先を過ったのは一台のママチャリだった。
彼の挙動を前に慌てて操縦者がブレーキをかける。
「すみません。怪我はなかったですかね?」
表情一つ変えず、どこか機械的に細身の男が尋ねる。
「えっとあなたは?」
「ハンターをしているGacrux(ka2726)と言います。ところでトマト祭りのある街はここでよかったですかね?」
白目がちな瞳で彼が尋ねる。そんな彼に参謀はしめたと思った。
彼がハンターだというなら、これはチームに引き込むチャンスである。
「トマト祭りに来られた方でしたか…祭りは明日ですが、もうチームはお決まりで?」
土埃を払いつつさりげなく問う。
「いや、まだですが」
「ではぜひ月チームへ。今のところ無事ですが、明日になったらどうかも判りませんし、私の代わりに活躍して頂けたら有難い」
別段自転車との接触はないし大丈夫そうであるが、こういう時は嘘も方便だと参謀は思う。
「そうですね。なら、こちらで。うん、間に合って良かったです」
聞けば以前この祭りの記事を読んで気になっていたとのこと。
やはり表情には出ていないが、彼が言うならそうなのだろう。
「それはそれは光栄です。明日はこちらで思う存分トマトを投げ尽して下さいね」
「ええ、そうします」
両者爽やかな笑顔を作る。しかし、やはりGacruxの顔の変化は乏しくて、かなりの熱意をもって答えたにも関わらず、参謀にはあまりうまく伝わってはいないようだった。
一方太陽側の宿を取り、明日に備える面子は僅か三名。
だが、それぞれがなかなかの個性の持ち主だったりする。
「昨年は街のご婦人に露出が多過ぎると叱られてしまいましたからね。今回は抑えておきませんと」
宿の一室で鞄から衣装を出しながらエルことエルバッハ・リオン(ka2434)が静かに呟く。
彼女はこのお祭り唯一の去年参加者でもあった。
ちなみにその折、どんな衣装を着ていたのかと言えば…トマト塗れになる事を考慮して水着をチョイス。別にも水着の参加者はいたのだが、彼女のは際ど過ぎる蒼のビキニであり、街のご婦人に叱られ、パーカーを着せられてしまったのだ。けれでもチラリズムに萌える男性が後を絶たず、川縁で陣取っていた彼女はそこでの注目の的となっていた過去をもつ。
そんな彼女の今年の衣装は戦闘用のドレスだった。
しかしながらこれもまた何というか、素敵な感じで……けれど、彼女は気付かない。
「うん、これで完璧です」
彼女の親から受け継がれた特別な感性…それは些か世間のそれとはズレているが、彼女は全く悪くない。
いやむしろ、世間がまだ彼女の感性に追いついていないだけかもしれないのだから。
(明日は去年同様大暴れして見せます!)
服の確認を終えて、小さく拳を作り彼女は決意する。
そんな彼女の隣りの部屋ではエル同様銀髪色白の少女が明日を待ち遠しく思いながら、窓から星を眺めていた。
「明日、晴れるといいの~」
聖導士らしく天にそう願う彼女は、ほわほわした雰囲気を纏っていてなんとも可愛らしい。
そんな彼女の名はディーナ・フェルミ(ka5843)。
ハンターであっても戦う事より癒す事が得意。クルセイダーよりヒーラーになりたいと思っている彼女である。
「トマトをぶつけ合って豊穣を願うなんてびっくりだけど、なんか楽しそうなの」
一見野蛮で乱暴に見えるお祭りであるが、その実はやってみなくては判らない。
(早く明日になってほしいの~)
輝く星と心で会話しながら、明日に備えてベッドに入り時を待つ。
「うふふふふ~、秘密兵器探しはお任せですぅ」
と太陽チーム作戦本部では星野 ハナ(ka5852)が一人名乗りを上げていた。
彼女は早々と現地入りして、太陽チームに入り住民達の打ち合わせに参加していたようだ。
「だったら、あんたに任せるよ。何処にあるか判んねぇが、よろしく頼むわ」
「えぇえぇ、お任せ下さいな。あっという間に見つけてみせますからぁ」
男達の中に入っても全く動じず、むしろイキイキと発言する。
そんな彼女がそう言い切れる理由、それは彼女の持つスキルにあった。
「占術に占いの使用で的中率はぐぐんと上がるのですよぅ」
当てずっぽうと言われればそれまでであるが、これが意外と馬鹿に出来ない。回数を行使すれば精度は上がるし、闇雲に動くよりはよっぽど効率的である。
「まっこっちはハンターが少ないんだ。使えるもん使って頑張っていこうやっ」
太陽チームのメンバーらが一致団結すべく拳を掲げる。
「大丈夫! 私がいれば百人力ですぅ」
ハナはそんな彼等に堂々とそう言い切るのだった。
●士気力
ディーナの祈りが届いたのかどうかはさておいて、祭り当日はいい天気であった。
真っ青な空に時折流れる白い雲。川面は日光でキラキラ煌めき暑さを視覚的に少しだけ和らげてくれている。
時間は朝の九時、当日エントリーの受付が開始され、徐々に人々が川に集まり始めた頃、突如太陽チームから歓声が上がる。
「なんだ、なんだ?」
その様子に対岸の者達の目が引付けられて…そこにいたのは去年の美少女・密かなアイドルと化したエルだ。
「えっと、これはどういう事でしょうか?」
彼女の登場に男達が道を開けてくれる。その行為に僅かに動揺しつつも悪い気はしないのだが、やはり気になる。
その訳は…今年も彼女の衣装にあった。スケスケのドレスは彼女が戦闘用にカスタマイズしたからだ。布を纏ってはいるのだが、それは天女の羽衣如き薄さでうっすら肌が透けている。その下にはビキニアーマーを装着してはいるが、これがまたいけない。見えそうで見えないじれったさと、見ていいものなのに見ちゃいけないような背徳感が程よくブレンドされて、男性陣の心を鷲掴んで離さない。
「おぉっ、今年は女神さま光臨じゃー!」
戦う美少女の図からリアルブルー出身の者ならジャンヌ・ダルクを想像したであろう。
此方の者はならば物語に見るヴァルキリーを連想したに違いない。
「あぁ…俺、今年はあっちの味方しようかな…」
思わずそんな事を呟く月チームの男性も現れて、奥歯を噛み締めるは参謀殿。
来年はマスコットガールも必要かもと本気で考えていたりする。だが、その眼福もそう長くは続かなかった。
「あーもう全くこの子は! またなのかいっ」
いつぞやのご婦人がそう言って、またまた長めのパーカーを着せてくる。
「あら、これもダメなのですか。服装と言うのは難しいですね…」
エルの溜息に男性陣の溜息も重なった。
そんなこんなで始まる前から盛り上がった両チームであるが、ここからが本番だ。
両者始まりの合図とともに一斉に川を目指す。それは勿論トマトを確保する為だ。
ばしゃばしゃと川へと踏み込み、流れてくるトマトを手に取る。
しかし、今年はその流れてくるトマトにも工夫がされていて、
「おや、やけに小さいものばかりですね」
Gacruxの呟き。そうなのだ。
今年は勝負展開をより面白くしようと、主催者側も序盤はミニトマトばかりを流すつもりらしい。
「ほう、面白いじゃねぇか!」
クィーロがいつもと違い嬉々とした様子でトマトを握る。
だが、ミニトマトであるから一つ程度じゃ物足りなくて。
(これだと一気に投げるべきか?)
小さいモノであれば最大五つは手のひらに収まるだろう。命中率は下がるものの、効率はいいかもしれない。
が彼にもポリシーはある。
(やるなら、やっぱり動かねぇ獲物より動く獲物だ!)
闇雲に投げるより狙いを定めて…その方が当てた時の達成感が大きいのではないか。
「クィーロさん、私がガンガン拾い集めるからどうぞ思いっきり投げてほしいんだよっ!」
当初から手伝いをメインに動こうと考えていた桜蘭が麻袋を片手に叫ぶ。
「それは助かる」
彼はそう答えて――狙うは網を持つ男達だ。中には投網で大量のトマトを掻っ攫って行く者もいる。
「狙うべきはアレだな」
二刀流を駆使して、彼らに狙いを定め投げ放つ。
「させませんっ!」
がそこに割って入ったのは対岸のエルだ。
網を持つ彼等を庇うようにクィーロのトマトを相殺、迎撃する。
「ほう、俺とやろうってのか?」
好敵手現れたりとクィーロが静かな声で言う。
「望む所です」
本能剥き出しのクィーロにエルもにやりと微笑を返す。
「クィーロ、あなたは?」
街へ向かおうとする椿姫が彼にそう尋ねたが、答えはもうしれたこと。
「俺はここで敵を引き付けてやる。椿姫は思いっきりトマトぶつけてこい!」
「わかったわ。気を付けてね」
「ああ…そうだ、鬼百合。椿姫を頼むな」
「合点承知っ!」
流石は仲間。視線を合わさずとも気配でわかるのか、会話はスムーズに成立している。
「さて、では先手必勝でいきましょう」
椿姫が鬼百合と共に敵地へ向かう。
彼女が目指すは今年から追加された竹鉄砲とボーナス袋だ。
片手に抱えられる最小限トマトを抱えて、応戦は二の次に探索して回る。
ただ、小さな街と言えど見知らぬ場所だ。事前に地図程度なら目を通していたが、駆けてみると思いの外広く感じられ、例のものもそう簡単に見つからない。
「どうします、姐さん?」
ついて回る鬼百合もそれには少し困り顔。川から拾ってきたトマトを帽子に溜めていた彼であるが、既に半分以上を椿姫の防御に使い心許ない。
「そうねぇ、一旦戻るのもありだけど」
時間が惜しい。ランアウトでうまくかわしてここまできたが、駆け抜けてしまったから細かな場所の見落としがあったのかもしれない。かと言って戻ってまた同じ道を行くのは無駄足になりかねない。
そんな時だった。
ひゅっと風を切る音がしたかと思うとものすごいスピードで飛んできたのは複数のトマト。路地にいたのが敵チームに見つかったらしい。一斉に投げられては流石に避けきれない。
「くっ!?」
椿姫は腹を括って衝撃に備える。しかし、そこに聞こえたのは重い音。
そっと目を開けて確認すれば、彼女の前には土の壁が出現している。
「これは…」
「姐さん、ここはオレが引き受けます。この壁を足場にもっと上から探して下…」
べちょっ
かっこいい台詞のその途中で空気を読まない一投が炸裂。
ゆっくりとそちらに視線を向ければほわほわした雰囲気の小柄な少女。
顔に似合わずの剛速球で周りの住人も目を疑う。
「ふふっ、これ楽しいの~♪」
ディーナが童心に帰ったように笑う。一方当てられた鬼百合はおかんむりだ。
「いま…今、いいところだったのにぃーーーー!!」
そうして、涙目になりつつディーナを追い猛ダッシュ。こういう所はまだまだお子様な彼だ。
「あ、あの…ありがとね、鬼百合くん。私、頑張るから」
呆気にとられるもその後はくすりと笑って、椿姫は壁を踏み台に建物の上へと向かうのだった。
●形勢
さて、昨日意気込んでいたハナは現在月チームの街の裏路地で本日何度目かの占いを行使していた。
「おかしいですねぇ、この辺だと出ているのですが」
回数を重ねているからここで間違いはない筈なのに、全くもって竹鉄砲が見当たらない。
(むぅ~、どういうことでしょうかぁ?)
謎が深まり、自然と唸り声が漏れる。するとやっぱり目立ってしまう訳で…。
(ん、何か見つけたようですね?)
ペットのイヌワシを空に飛ばして、偵察させていたGacruxがペットの動きの変化を察しその地点へと向かう。
するとそこには敵チームの鉢巻を巻いたハナがいて、彼は籠に用意したトマトを使って奇襲を敢行。
「ここはまみれて頂きます」
その呟きと共に彼はママチャリのペダルを深く踏み込む。
そして目指すはハナの元。幸いハナは意識を集中している為、彼の接近に気付かない。
チリンチリンッ
小気味のいいベルを鳴らして、籠のトマトをばら撒く。
「えっ、ちょっ」
それに気付いた時にはもう遅かった。慌てて逃げようとした彼女の脚をトマトが捕える。
「どうぞ。遠慮せずに」
そんな彼女の横を涼しい顔ですいーと走ってゆく彼を横目にハナの視界はぐらりと反転。
振り返り投げられたトマトは駄目押しのクリティカル顔面ヒットである。そして、その後は・・・。
どっすーーん
大量のミニトマトに足をとられて、バナナの皮を踏んだ時よろしくつるっと滑って盛大に転倒する。
「あっちゃー…私とした事が」
汚れてもいいようにマントと水着に着替えていたが、この一転びで全身真っ赤に染まるというこの祭り特有の洗礼を受ける。だが、悪い事ばかりではなかった。視線が低くなったことによって見えなかったものも見えてくる。
「あれは…」
剥き出しの階段の裏に備えつけられているのは必死で探していた竹鉄砲ではないか。
「フフフッ、形勢逆転ですよぉ~」
ハナがぼそりと呟き走る。
残念ながらそこに全部の竹鉄砲があった訳ではなかったが、それでも強力な武器に違いない。
「さっきのママチャリ、待つんですよぉ~」
彼女はそう叫ぶと、竹鉄砲を片手にGacruxを追いかける。
「あっ、と…まさかあそこにあるとは」
月チームのメンバーであったが、彼も実は知らなかった。
作戦会議に出ていなかったから無理もない。
朝場所を聞こうと試みたが、何処に耳があるか判らないからと教えて貰えなかったのだ。
「とりあえず逃げましょうか」
乗り物がある事をいいことにGacruxは全速力でペダルをこぐ。
が、彼は急ぐあまりに道が判らなくなってきて…迷い込んだのは敵地だったり。
「フッフッフッ、飛んで火にいる夏の虫なんですよぉ」
いつの間にか手に入れた竹鉄砲を仲間にも配って、彼を行き止まりに差し掛かったのをいい事にじわりじわりとにじり寄る。
「ッ…これは困りましたねえ」
流石のチャリでもこのピンチは切り抜けられないか。
村人達を無視して無理矢理突破する事も出来なくないが、ハンターが怪我人を出しては面目が立たない。
「喰らうがいいのですぅ―――!」
ハナ他太陽チームの者達が竹鉄砲と完熟トマトで彼を染め上げていく。
(あっ、確かにこのトマト酒…体に良さそうな味ですね)
Gacruxはトマトの集中砲火を浴びながらもちゃっかりゴーグルで目を守って、トマト酒の味まで堪能するのだった。
●対峙
場所は戻って川原付近。
ここでは熾烈なトマト争奪戦と共に、壮絶なトマトの投げ合いが繰り広げられていた。
というのも全ては去年の秘密兵器に始まる。投石器ならぬトマト投げ器の導入がこの場を更に混乱へと導いたのだ。月チームの大量投下型に対して太陽チームが導入したのは小さめの回数押し型。どちらにも利点はあり、それぞれが互いにそれを使って、トマトを飛ばし合う。そんな中でいつの間にか出来ていた二大勢力もそれぞれのやり方で敵を狙う。
「嬢ちゃんを守れ―! 一個たりともぶつけさせるなー!」
そう叫ぶのはエルを守る太陽勢。
白肌にトマトをぶつけさせる等言語道断とばかりに村人たちはエルの周りに集結し、飛んでくるトマトを何が何でも阻止すべく立ちはだかる。
そして、エルの傍にはトマトを補充する者までいて…。
「これを使って下さいな」
まるで従者のように…彼女にトマトを献上する村人。そんな彼らをエルは有難く思い、サービスサービス♪
一本足投法の要領で足を高く上げて、振り被り投げてチラリズムで感謝のお返し。
けれど、それは感謝ばかりではない。
投げるからには当てなければ――勿論目標はクィーロだ。
「さっさと沈んで下さいませんか?」
身体で受け止める彼を見てエルが言う。
「いや、こっちも負けられねぇんだよね」
とこれはクィーロ。その男らしさから彼の周りにも親衛隊の様なものが出来ていたりする。
ちなみに彼の方は老若男女、様々な層の者が付き迎撃を繰り返しているようだ。
「仕方ありません。あれをもう一度お願いします」
そこでエルが村人達に頼んで投石器(小)を準備させる。
「は、甘いな。桜蘭、こっちの具合は?」
「もうすぐいっぱいだよ。やっちゃう?」
クィーロの言葉に答えて、桜蘭も投石器(大)の発射を確認する。
「おっしゃあ、やったれーー!」
「ОKだよ~♪」
器がデカい分回数は打てないが、それでも威力は折り紙付きだ。去年から改良も加えられている。
『いっけぇ~~~!!』
桜蘭他太陽チームの嬉々として声が重なり、彼女の切断で大量のトマトがあちらへと飛来する。
それらは一際大きな音を立てて、対岸に真っ赤な雨を降らせていた。
(へっ、オレの目を嘗めて貰っちゃあ困りまさぁ)
あの後、必死でディーナを追いかけて、見失った路地の一角。しかし彼は冷静に対処する。
さっき同様アースウォールで壁を作ってそこに跳び乗り、当たりをくまなく観察。
作った壁の高さは約二m、彼の身長を入れれは三m半の高さとなり視野はグッと広がる。
この視野ならば隠れている彼女の発見も安易となる事だろう。
(おっ、あそこか)
ゴミ箱の陰に隠れる彼女を見つけて、彼は素早く飛び降りる。
だが、あくまで気付いていない振りを装って徐々に接近。至近距離まで近付いて、
「くらいやがれっ!」
「き、きゃあっ!」
てっきり気付かれていないと思っていたディーナは完全無防備。
鬼百合の潰したトマトが彼女の顔面にヒットする。
「ふっふっふっ、借りはかえしたでさぁ」
彼が不敵に微笑む。
「むぅ~、確かにやられたのぉ。でもトマトって美肌にも効果があるって聞くしありがとなの~♪」
真っ赤な顔でしみる果汁を堪えながら彼女が笑う。
「それにこれ…なかなか、美味しいの♪」
流れてくるトマトの果肉をそのまま口に運んでディーナはむしゃむしゃ。トマトの味をみる。
「やられてお礼を言われるとは、本当に変わった祭りでさぁ」
そんな彼女の言動と行動にあきれながらも彼も笑顔になる。
本当に理屈では解けない不思議な祭り。それがこのトマト祭りだ。
ただ、トマトを投げ合うだけだというのに、それだけの事が何故か楽しく思えてくる不思議な感覚。街全体で皆が一体となって行われるこの祭りには目に見えぬ力――トマトの、いや大地の精霊が彼等に何かを伝えようとしているようにも思える。
「さてと、じゃあオレは姐さんの所に戻らないと…」
一段落終えて、鬼百合が踵を返す。
がその時、早くも終了のベルが鳴って…勝利したのは何とまたもや太陽チームのようだった。
●勝敗
真っ赤に染まった街の中、祭りが終わると住民達は総出で街の掃除を始める。
これも大事な仕事の一つなのだ。遊んだ後はちゃんと片付ける。参加者は皆それを理解している。
「えー、それじゃあ何で負けたんだろう」
椿姫の話を聞いて桜蘭が首を傾げる。
「さあね…というか、私の雄姿を見せられなくて残念よ」
クィーロと桜蘭は川縁で戦い、鬼百合はディーナの追跡に向かった後の事。
彼女はあの後も必死で探し、ボーナス袋を二つも発見していた。なのに、勝てなかったのは何故なのだろうか。
「一体何処にあったの?」
桜蘭が興味津々に尋ねる。
「そうね…一つは民家の屋根の上、もう一つは建物の影になる所に吊ってあったわ」
椿姫が思い出しながら言う。その時の様子はこうだ。
鬼百合と別れて、屋根を行く彼女。見晴らしが良い分、敵チームの目にもついてしまう。
案の定、すぐに彼女を狙って太陽チームの者達がトマトを片手に上がってきた。その数はおよそ十数名。
投げられ掠めていくトマトを何とか交わしながら、椿姫は駆ける。
(皆がくれたチャンスだもの。絶対無駄にはしないわっ)
残るトマトの数は後三つ。それも小ぶりのものばかりだ。
幸い、敵の中に凄腕のハンターはいないようで彼女に追いついてくる者はいない。
けれど、油断は出来なかった。屋根にいなくとも、下から飛ばしてくる可能性もある。
梯子に登れば、ヘリからの攻撃もありうる。
仕事並みの集中力でその場を切り抜けた彼女はふと休憩しよう屋根のへりに腰かけて、顔を上げた先にぶら下がる袋を発見する。
「やったわ。あれがきっとボーナス袋ね」
判りやすく袋の側面にはトマトの絵が描かれているそれは、確かに大きく一気に多くの面積を染める事が出来るだろう。場所も見つかりにくい場所に隠している事から、逆に考えればそこはある意味盲点になる場所でもある。
つまりはその場所は塗り忘れやすい場所であり、見つけた人へのご褒美に他ならない。
「頂くわね」
彼女はそう言って袋の口を開け、豪快にトマト汁をぶちまける。
するとそれに気付いてまたも彼女を染めんとする太陽チームの猛攻に見舞われて…。
「もう、本当に大変だったんだから。建物の陰にあったのを見つけられたのは奇跡だったわ」
思い出しつつ話す彼女の言葉に仲間が微笑む。
「あ、先程はどうもなの」
そこへ箒片手にやってきたのはディーナだった。
汚れた服そのままに、せっせとトマト汁を排水溝へと掃き出している。
「なあ、あんたなんでそっちが勝ったか知ってるか?」
クィーロが彼女に尋ねる。
「えと…私が利いた話では占いがどうとかで」
「占い?」
あまりにも突飛な話に皆が首を傾げる。
「そうですよぉ。私の占いの勝利なのですぅ!」
すると話を嗅ぎ付けて、今回の勝利の立役者がやってきて自慢げにどや顔を決めてみせる。
「お気付きではなかったかもしれませんが、私隠された場所探し、結構得意なんですよねぇ。だから占術でそちらのボーナス場所占わせて頂きました。そして、重点的に占いで出た場所に此方の仲間を送らせて頂いたんですぅ」
その場所がなかなかにいい線をついていたようで、ボーナス袋は四つもゲットし、竹鉄砲は知っての通りだ。
よって今回のこの勝負、月チーム参謀が必死で考え取り入れたモノをまんまと太陽チームが利用し勝ちをもぎ取ったという事になる。
「あ、後コレも結構役に立ちましたよぉ」
チリンチリンッとベルを鳴らして押してきたのはGacruxのママチャリさん(笑)だ。
「ああ、それさえ奪われなければ…」
Gacruxが悔しそうに呟く。
「フフッ、面白い発想です。ルールブックには乗り物不可とは書いていませんでしたから」
今回の防衛姫、エルも彼等の話に加わって言う。
「ですよねぇ。発想は良かったと思いますよぉ」
ハナがニヤニヤとした様子で告げる。
つまりはこのママチャリも初めは月のものだった。
しかし、ハナに見つかった事により奪われて、街塗に利用されてしまったらしい。
「来年は、来年こそは勝ってみせるぞー!」
参謀殿が橋の下で悔し涙を流しながら叫ぶ。
「あー、はいはい。まぁ、この後はチームを忘れて楽しくやろうや」
「あんたんとこのトマト酒も期待してるぜ」
そう慰める実行委員の仲間達であったが、中には太陽のものが混じっていて更に虚しさを覚える参謀であった。
そうして、最後はトマトパーティー。戦いの疲れはトマトで癒す。
ハナは食べる事が好きと言うところから始まっての料理上手であり、ここでも腕を揮う。
ガスパチョに野菜入りのトマトジュースを始め、新鮮なトマトピューレを使ってオムレツには絵を描いてみたりと実に多彩だ。村の方でも定番のピザにサラダは勿論、今年は誰から教わったのかトマトのおでんなんかも登場してパーティーを盛り上げている。
「うんまいでさ、これ!」
「わ、ホントだ。このトマト凄く美味しいっ」
野菜は苦手だと言う鬼百合であったが、ここのトマトはいけるらしい。桜蘭もご満悦だ。
それもその筈ここのフルーツトマトは糖度がメロンよりもあるという事もあり、酸味の少ない品種は子供でも食べやすくなっている。
「俺は青臭いのが好きですがね」
サラダになっているトマトをフォークに刺して齧りつつ、Gacruxが言う。
「どれもおいしいの。ここにきてよかったの~」
口一杯に頬張って幸せを噛み締めるのはディーナだ。
「また、こんな機会があったら誘ってほしいんだよ」
桜蘭が言う。
「もちろんよ。だってあなたたちは私の家族同然ですもの」
椿姫のその言葉に桜蘭、鬼百合、クィーロは照れを隠せない。
「そういえば、鬼百合もクィーロも結構素の方が出てたけど気付いてた?」
親しい仲だから当然であるが、特に鬼百合は「です、ます調」よりも方言というか彼特有の言い回しが多かったように感じる。
「あー…ちょっとはめ外し過ぎたか?」
外見年齢二十五歳、大人なクィーロが冷静に呟く。
「そ、そうでしたでしょうか? オレは別に…」
逆に鬼百合は恥ずかしさを感じたのか少し照れつつ、そう答える。
(まあ、私も結構素だった気もするのよね)
そんな彼らを椿姫は微笑ましく見守りながら夜が更けるまで、彼らの話は尽きないようだった。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 5人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
トマト祭り【参加者控え室】 Gacrux(ka2726) 人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/09/16 23:56:38 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/09/16 23:54:32 |