ゲスト
(ka0000)
初恋とお弁当
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/09/12 22:00
- 完成日
- 2016/09/21 01:50
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
この町まで届けてくれたハンター達にはいくら感謝してもしきれないくらいだ。
ボートの買い手が付いて、ついでにその家の屋根裏に居候が決まったことは僥倖。
伝手のある宿に入って通報……もとい、お叱りを受ける前に逃げ出すなんていう、杜撰な計画よりも余程良かった。
その日は僕もティナも疲れきって、ベッドも無いなんて言う床の硬さも気にならないくらいに眠ってしまった。
次の日から仕事を探して、何日かを日雇いで繋いですぐに近くの商店が雇ってくれたのも運が良かったのだろう。場所も品揃えも良くて、店長にもう少し商売っ気があれば繁盛していたのになんて言いながら、伝票を見れば買っていった客の顔が思い浮かぶような、この町に寄り添った商売を僕はとても気に入った。
ティナとの逃避行について、父に連絡したのはその週の終わり。荒れ狂ったティナの父、カッペリーニ家の当主が家中を探していったらしいけれど、僕以上に充実した日々を送っているらしい彼女に帰る気は無さそうだ。
●
僕がまだ日雇いで船を繋ぐロープの結び方にすら苦しんでいた頃、ボートと荒い潮風に滅入ったティナは、屋根裏で一日中転がって居たらしい。
何も出来なくてごめんね、なんてしおらしく謝りながら、寝しなに幼少期の話しを聞かせてくれた。
庭で遊んでいて、気に入りのドレスを破いてしまった。
それを直してくれたナニーは魔法使いに見えたし、糸は魔法の光りに、針はそれを操るステッキに見えた。
幼い頃からお転婆で可愛らしかったんだろうなと、ティナが寝付くまで髪を撫でながら思い浮かべていた。
「その頃から、私の夢は魔法使いなの」
ティナがそう言ったが、すぐに聞こえてきた寝息に、それは寝言だと思った。
体調が回復したティナは、屋根裏を貸してくれた家の奥さんに習いながら僕の弁当を作ってくれた。
その日はその奥さんに町を案内して貰ったらしい。
どこに行ったかも聞き忘れて、ティナの元気そうな様子にただ安堵した。
元漁師の旦那さんは一線を退いて船の修理や若い漁師を鍛えていると言っていた。
奥さんも似たようなものだと言っていたが、昔の勤め先はもっと街中にあるらしい。
「ティナちゃんを連れて行ったら、すっごく喜んでくれてさー」
大きな声で笑って、ティナも嬉しそうにしている。旦那さんも柔和な目で僕たちを見ていた。
仲の良い夫婦の様子に、両親を思い出したり、ティナとの未来を考えたりもするけれど、新しいことばかりの目まぐるしい日々は、そんなことに耽る時間を与えてはくれない。
ティナはその日から毎日、とても楽しそうに出掛けていた。
●
僕が通うことになった商店は言ってしまえば何でも屋だ。
この辺りは店というもの自体が少ないから、注文があれば扱っていない物でも探して発注する。
断ろうかとさえ思うような難しい注文にも一日で答えてしまった店長を、僕はとても尊敬している。
ある日、少し先の工場から弁当の注文が入った。
その工場の近所の弁当屋が休みらしい。
幸い数は揃った物の運ぶ手立てが無い。
店長が引っ張り出してきた自転車を突き付けて、乗れるかと聞いた。
「乗れますよ」
荷台に籠に詰めるだけ括り付けて、ナップザックの中にも詰めて。
こんなに沢山何の工場かと尋ねると、店長一言、服、と答えた。
縫製の工場らしい。
この自転車にお針子達の昼ご飯を託されているわけだ。
「……行ってきます」
店長は頷いて、気を付けろと言った。
自転車で街を走る。風が心地良い。
もうすぐかと道を眺めながら走っていると、不意に飛び出してきた影にブレーキを握り締めた。
それ程スピードは出していなかったが弁当が心配になる。
「……な、何だったんだ……」
片足を付けて弁当を確かめると、店長の面目は保てる程度で済んでいる。
不審な影はぎょろりと大きな目でこちらを向いていた。
背筋に冷や汗が伝う。
狙われている。
弁当が。
自転車を思い切り漕いで、その影から逃げながら工場を目指した。
吼えながら追ってくるその姿は嘗て図鑑で見たコボルトにとてもよく似ていた。
工場に近づくと庭へ出ている所長らしき人が出てきていた。
「――すみません! コボルトに追われてます……!」
叫ぶと彼は落ち葉用の大きなフォークを持って仁王立ちになる。僕に入れと庭を示すと、追ってきたコボルトを一突きでその腹を貫いた。
「……よく出るんですか……? あ、弁当お届けに上がりました……」
「最近増えてね。駆除しても駆除しても……だから、娘達にも」
若い女性が多い職場だ。食べ物を持っての通勤途中で襲われたら大事だからと、所長は溜息交じりに言いながら、自転車に積んだ弁当の荷解きを手伝ってくれた。
その時、建物の中から悲鳴が上がった。
何事だとドアを開けると、所長に気付いた女性の1人が指差した。
そこにはどこからか進入したらしいコボルトが3匹。
更に悲鳴が、工場に向かった僕たちの背後から、擦れ違って庭へ逃げたお針子達から聞こえてきた。
振り返ると更に2匹のコボルトが自転車に迫っていた。
「べ、弁当っ」
背負っていたナップザックを近くの女性に預けて、自転車を、積み残した弁当を守ろうと思った。
「持っててくれる?」
「ええ、マウロ、ちゃんと預かっておくわね」
「――――ティナ!」
「そうよ?」
「何でここ……っ、あとで、詳しく聞くからね!」
揃いのエプロンを着けて糸くずに塗れながら可愛らしく笑ったティナに見送られ自転車に向かった僕に、所長はもう1本のフォークを投げて寄越した。
この町まで届けてくれたハンター達にはいくら感謝してもしきれないくらいだ。
ボートの買い手が付いて、ついでにその家の屋根裏に居候が決まったことは僥倖。
伝手のある宿に入って通報……もとい、お叱りを受ける前に逃げ出すなんていう、杜撰な計画よりも余程良かった。
その日は僕もティナも疲れきって、ベッドも無いなんて言う床の硬さも気にならないくらいに眠ってしまった。
次の日から仕事を探して、何日かを日雇いで繋いですぐに近くの商店が雇ってくれたのも運が良かったのだろう。場所も品揃えも良くて、店長にもう少し商売っ気があれば繁盛していたのになんて言いながら、伝票を見れば買っていった客の顔が思い浮かぶような、この町に寄り添った商売を僕はとても気に入った。
ティナとの逃避行について、父に連絡したのはその週の終わり。荒れ狂ったティナの父、カッペリーニ家の当主が家中を探していったらしいけれど、僕以上に充実した日々を送っているらしい彼女に帰る気は無さそうだ。
●
僕がまだ日雇いで船を繋ぐロープの結び方にすら苦しんでいた頃、ボートと荒い潮風に滅入ったティナは、屋根裏で一日中転がって居たらしい。
何も出来なくてごめんね、なんてしおらしく謝りながら、寝しなに幼少期の話しを聞かせてくれた。
庭で遊んでいて、気に入りのドレスを破いてしまった。
それを直してくれたナニーは魔法使いに見えたし、糸は魔法の光りに、針はそれを操るステッキに見えた。
幼い頃からお転婆で可愛らしかったんだろうなと、ティナが寝付くまで髪を撫でながら思い浮かべていた。
「その頃から、私の夢は魔法使いなの」
ティナがそう言ったが、すぐに聞こえてきた寝息に、それは寝言だと思った。
体調が回復したティナは、屋根裏を貸してくれた家の奥さんに習いながら僕の弁当を作ってくれた。
その日はその奥さんに町を案内して貰ったらしい。
どこに行ったかも聞き忘れて、ティナの元気そうな様子にただ安堵した。
元漁師の旦那さんは一線を退いて船の修理や若い漁師を鍛えていると言っていた。
奥さんも似たようなものだと言っていたが、昔の勤め先はもっと街中にあるらしい。
「ティナちゃんを連れて行ったら、すっごく喜んでくれてさー」
大きな声で笑って、ティナも嬉しそうにしている。旦那さんも柔和な目で僕たちを見ていた。
仲の良い夫婦の様子に、両親を思い出したり、ティナとの未来を考えたりもするけれど、新しいことばかりの目まぐるしい日々は、そんなことに耽る時間を与えてはくれない。
ティナはその日から毎日、とても楽しそうに出掛けていた。
●
僕が通うことになった商店は言ってしまえば何でも屋だ。
この辺りは店というもの自体が少ないから、注文があれば扱っていない物でも探して発注する。
断ろうかとさえ思うような難しい注文にも一日で答えてしまった店長を、僕はとても尊敬している。
ある日、少し先の工場から弁当の注文が入った。
その工場の近所の弁当屋が休みらしい。
幸い数は揃った物の運ぶ手立てが無い。
店長が引っ張り出してきた自転車を突き付けて、乗れるかと聞いた。
「乗れますよ」
荷台に籠に詰めるだけ括り付けて、ナップザックの中にも詰めて。
こんなに沢山何の工場かと尋ねると、店長一言、服、と答えた。
縫製の工場らしい。
この自転車にお針子達の昼ご飯を託されているわけだ。
「……行ってきます」
店長は頷いて、気を付けろと言った。
自転車で街を走る。風が心地良い。
もうすぐかと道を眺めながら走っていると、不意に飛び出してきた影にブレーキを握り締めた。
それ程スピードは出していなかったが弁当が心配になる。
「……な、何だったんだ……」
片足を付けて弁当を確かめると、店長の面目は保てる程度で済んでいる。
不審な影はぎょろりと大きな目でこちらを向いていた。
背筋に冷や汗が伝う。
狙われている。
弁当が。
自転車を思い切り漕いで、その影から逃げながら工場を目指した。
吼えながら追ってくるその姿は嘗て図鑑で見たコボルトにとてもよく似ていた。
工場に近づくと庭へ出ている所長らしき人が出てきていた。
「――すみません! コボルトに追われてます……!」
叫ぶと彼は落ち葉用の大きなフォークを持って仁王立ちになる。僕に入れと庭を示すと、追ってきたコボルトを一突きでその腹を貫いた。
「……よく出るんですか……? あ、弁当お届けに上がりました……」
「最近増えてね。駆除しても駆除しても……だから、娘達にも」
若い女性が多い職場だ。食べ物を持っての通勤途中で襲われたら大事だからと、所長は溜息交じりに言いながら、自転車に積んだ弁当の荷解きを手伝ってくれた。
その時、建物の中から悲鳴が上がった。
何事だとドアを開けると、所長に気付いた女性の1人が指差した。
そこにはどこからか進入したらしいコボルトが3匹。
更に悲鳴が、工場に向かった僕たちの背後から、擦れ違って庭へ逃げたお針子達から聞こえてきた。
振り返ると更に2匹のコボルトが自転車に迫っていた。
「べ、弁当っ」
背負っていたナップザックを近くの女性に預けて、自転車を、積み残した弁当を守ろうと思った。
「持っててくれる?」
「ええ、マウロ、ちゃんと預かっておくわね」
「――――ティナ!」
「そうよ?」
「何でここ……っ、あとで、詳しく聞くからね!」
揃いのエプロンを着けて糸くずに塗れながら可愛らしく笑ったティナに見送られ自転車に向かった僕に、所長はもう1本のフォークを投げて寄越した。
リプレイ本文
●
蹄の音。蹄鉄が土埃を上げながら地面を蹴って、低くは無い柵を跳び越える、その馬の嘶き。
不意の襲撃に慌てふためく工場の女性達が、何事かと更に押し合って庭を見る。
そこに響き渡った笛の音、高く低く奏でる深い音が辺りを包む。
色めき立つ彼女達がその音に気を取られた瞬間、2頭の馬は柵を越えて、マテリアルの輝きを纏うハンター達もそれに続いて庭に入る。
馬を飛び降りたアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は建物へと向かい、笛を下ろして柵を越えたザレム・アズール(ka0878)もそれに続く。
2人を妨げる様に犇めく女性達に、再び笛を。耳障りな高い音を立てて注目を促す。
「動くな! ハンターだ!」
ザレムの声に、囁き合う声が広がる。
彼女達の見詰めるザレムの背には皮膜の翼の幻影が悠然と羽ばたき、周囲の状況を眺める瞳は深紅に染まる。
庭まで飛び出してきている女性達は、その姿に少しずつ避けて場所を譲る。
「お待たせしました! 工場内に仲間が入るので道を開けて下さい!」
馬から飛び降りて、マテリアルを込めた得物を振るい、派手に到着を告げた藤峰 雪凪(ka4737)が、尚も戸惑う女性達に声を掛ける。
女性達に向かって声を張り上げながら、ザレムとアルトに視線を向ける。藤峰が再度声を上げながら、女性達の方へと歩を進め、工場の入り口に通れるだけの隙間を作った。
2人は頷くと、建物の中からも聞こえる騒ぎへ飛び込むように開け放たれる扉を潜った。
炎の色に染めた長い髪を靡かせて、欄と煌めく瞳で前を見詰めてアルトが地面を蹴った。
鯉口を切る刀までその炎を広げ、目端に捉えた敵を、そちらへ向かう仲間に任せたと心の内だけで告げる。
「じっとして、その場で伏せろ!」
ザレムの声と笛に怯え竦み、椅子や机を得物代わりにし掛かる女性達が竦むと、その隙間を眩い軌跡を残して縫うように駆け抜ける。
最前列でコボルトに対峙し、トルソーを振り上げて震えていた女性に微笑みかける。
安堵のあまり卒倒した彼女を他の女性達が支える。
「もう大丈夫、落ち着いて。貴女達には傷一つつけさせないから」
アルトの声に女性達が手を下ろす。
「ここは俺達が引き受けた。押さないで落ち着いて外にでるんだ」
彼女達を飛び越えてきたのは幻影の翼の羽ばたきではなく、脚に込めたマテリアルの跳躍力。
最前線の女性達を庇う様に、彼女達が傾けた机に降り立ったザレムが振り返りながらそう告げて退室を促す。
2人の動きに合わせるように、カティス・ノート(ka2486)は所長に駆け寄った。
「えと。針子さん達に、びしっ、と正気に戻してくださいませんか? 多分、一番効くと思うのです」
混乱して出てくる女性達を統率出来るのは、きっと彼だけだろう。
それから、と優しげな茶色の双眸が見回した。
「避難しても大丈夫な安全な場所、思い当たりませんか? 誘導するのです!」
所長は首を横に振った。この辺りでは、この庭は広い方だと言う。それならばと、カティスは藤峰と頷き合う。
「――コボルトを興奮させてしまうので、距離を取るようお願いします!」
「みなさん、こちらへ……!」
「ご協力、ありがとうございます!――あ! そちらでは無いです。こっちに来てください!」
「所長さんも、……お願いします」
藤峰が両手を口許に、声を響かせて女性達をコボルトから遠ざけると、カティスが彼女達を1箇所に集めるように誘導する。
カティスに促されて得物を置いた所長も女性達の誘導に回る。
庭の入り口から彼女達の前へ銀の髪を靡かせ、その残像さえ浮かぶ動きでアルスレーテ・フュラー(ka6148)が現れた。
移動する女性達を背に庇いながら、蒼に染めた双眸が敵を睨む。
アルスレーテの出現に振り返り目を瞠った女性に、髪を掻き上げて口角を上げてみせる。
「早く行きなさい?」
囁く様に言えば一時見とれたその女性は慌てて避難の集団に戻っていく。
「ふ……お腹を空かせてるとはいえ、人の物を奪おうとしたなら立派な罪よ。たっぷりお灸を据えてやらないとね……」
柵を越え、弁当満載の自転車とマウロの傍へ駆けつけた鞍馬 真(ka5819)もそれに頷く。
彼には弁当を守って貰おう。
「少し下がってもらえるか?」
瞳に金の光りを宿らせて、影の色を帯びたグローブの守る拳を握り固める。
マウロは頷いて、傾く自転車を支えながら引き摺る様に、2人の背後で息を潜めた。
気に掛けていた少年の健常な姿に、僅かに口角を上向かせるも、挨拶は後だと引き締める。
●
庭で集まっている女性達を一瞥する。
まだ混乱の見える彼女達の前で刃物を出すことは憚られる。
鞍馬はマテリアルを込めて、地面の土を踏み締めると近くのコボルトを殴りつけた。
大きく体勢を崩した小柄な身体を立て直して、コボルトは爪を向けて殴り返してくる。
煤けた被毛に覆われた獣の腕を躱して放った次の一撃は、コボルトの顔面を正確に捉えた。
骨を捉えた感触に、力を緩めずに昏倒させる。地面に倒れて数回転がった身体は動かないが、僅かに揺れる肩がその息遣いを示している。
女性達の誘導の手がカティスと藤峰で足るようになり、落ち着きを取り戻した所長も、2人を助けて女性達に声を掛けるようになると、アルスレーテも地面を蹴ってコボルトの前へ駆る。
鞍馬の対峙する隣で唸るそれは、ぎらつく目で弁当を狙っている。
拳を構えれば、その甲に据えられたマテリアル鉱石が陽差しを受けて煌めいた。
颯爽と現れた謎の助っ人に、集団の中から身を乗り出して期待の眼差しを向ける女性達。かっこいいと囁く声が聞こえる。
それを裏切るわけにはいかないわね、とコボルトを睨む。
アルスレーテに反応した、その1匹が飛び掛かってくる。その爪を手甲に受け留めながら、マテリアルを込めた拳を見舞う。
被毛の装甲を容易く抜いて通った衝撃に、そのコボルトは地面に転がる。
立ち上がる様子が無い事にほっとしながら、女性達を振り返った。
鞍馬も同じく彼女達を気に掛けながら、交互にコボルトを眺めていた。
広くは無いがすぐ前の道なら、ここの女性達が落ち付いて待てるだろうと所長は言う。
カティスは頷いて、透明な装飾を施す流木の杖を構えて女性達の前に立つ。
巡るマテリアルを感じながらいつでも攻撃に転じられるように握り締めて。じっと、鞍馬とアルスレーテ、その2人が対峙するコボルトを見詰めた。
藤峰も所長の言葉に応じ、集団からはぐれる女性に声を掛けて、建物から出てくる女性を呼んで。
彼女達の移動が可能な状態を保ち続ける。
コボルトの沈黙を知ると、その後始末の前に2人と所長は女性達を工場の外へと誘導する。アルスレーテは最後尾から女性達に声を掛けて促した。
それを見届けてから鞍馬は刀を抜き、2匹のコボルトに止めを刺した。
その骸を隅へ寄せて片付ける。
外に出ると、所長が漸く息を吐いた。混乱していた女性達も今は静かに並んでいる。
数人の、今し方まで建物の中に居たらしい女性がそちらを気にしている様子にアルスレーテが建物の方へ振り返った。
「中は終わったかしら?」
もう終わっているとは思うけれど、と呟きながら戻る。
●
ランチパックをちらつかせてみるが、この混乱と騒ぎに気の立っているらしいコボルトは寄ってくる様子が無い。
アルトはその手に構えるものを刀に戻し、避難を始める庭の方へ一瞥を向けた。
血は見せたくないが、建物内の避難まで動かずには待てそうに無い。
ザレムも同様に、前へ出ようとする女性達を宥めながら、コボルトの注意を自身に向けさせている。
椅子を振り上げた女性を宥め、その背後で怯える女性の肩を撫でて、彼女を任せると穏やかな声で退室を促す。
足が竦んだと震える女性にアルトは、安心してと微笑みかけ、外へ向かう女性達と共に歩けるまで、コボルトとの間に入って庇う。
1歩ずつ進む彼女が床を蹴って走ると、そのままと促す様に頷いた。
縋る女性にザレムが、任せろと告げ抱き締め返して背中を撫でる。
落ち付かせながら、五芒星をあしらう拳銃を解して障壁を張り、コボルトの接近を阻んだ。
「彼女が最後だ」
「――大丈夫、後のことは、ボクたちに任せてくれる?」
ザレムの腕を離れて不安げな顔を向ける彼女に微笑みかけて、アルトは外へと促した。
「地獄のディナーが待ってるぜ」
攻勢に転じた瞬間の、3条の光り。貫かれたコボルトが藻掻いている。
アルトは抜いた刀を裏返す。ここがこれ以上血に汚れるのは嫌だろう。庭の女性達に合流する彼女の震える細い肩を見詰めた。
峰打ちでも気絶させる程度の力は有る。
気絶させた1匹を拘束し、残りに止めを刺して。外に運びだそうとしたところにアルスレーテが様子を見に戻ってきた。
女性達は庭の外に避難している、骸を片付け次第戻れるだろう。庭の始末も鞍馬が済ませている。
「やっぱり終わっていたわね、あとは、これだけ?」
「ああ。そちらも、落ち付いたようでよかった」
荒れ放題の屋内だが、幸い血の汚れは多くない。
ザレムは飛び乗った机を直して室内を眺める。
散らかっているのは彼女達の仕事道具だ。手は出さず、片付けは任せた方が良いだろう。
「庭と女性達は?」
「――終わったところだ。誘導は2人と所長に任せてある」
手伝うことはあるだろうかと建物の中を覗いた鞍馬が応える。俄に賑やかな声が聞こえてきた。
声が騒ぎ出す前に骸は運んで仕舞おうと、ハンター達が急ぎ仕事に戻った。
●
「全員、いるわね?」
アルスレーテが庭へ戻る女性達を見回した。
所長も隣に立って点呼を行う。
「怪我人がいるなら治療するわ、申し出て貰えるかしら?」
マテリアルの灯った蒼の瞳が穏やかに女性達に向けられる。見守るような柔らかな眼差しに、応える女性達の笑顔は皆にこやかで、先程までの怯えていた様子は薄い。
彼女達の中に1人、逃げる途中で転んだ女性がいた。柵に掴まりながら平気だというが、回りの女性達に引っ張られるように、アルスレーテの傍へ連れ出された。
無理はしないでね、と傷に手を翳す。
温かなマテリアルに包まれて気が緩んだのか、彼女の目からぽとりと雫が零れた。
骸は隅に積んで隠し、戦いの跡は土を均して。
女性達と所長が戻る前に、可能な限り痕跡を消す。
片付けたコボルトの内の4匹は事切れているが、アルトが確保している1匹は深傷を負ったまま細く息を繋いでいる。
「これを放したら巣に帰らないだろうか」
始末の傍ら、まだ気を失っているそのコボルトをつついて呟いた。それはまだ、目覚めない。
粗方の始末を終えると鞍馬は自転車に戻ったマウロと、それを手伝う所長とティナに声を掛けた。
「久しぶり」
騒ぎのなか挨拶も忘れていたと、マウロが項垂れるように頭を下げた。
ティナもぱちくりと瞬いてはしゃいでいる。
「元気そうで良かった、変わりないか?……何かあるようならいつでも頼ってくれ」
恐縮気味に応じるマウロが次第に冷静に、過日の礼を交えながら近況を伝えるが、ティナがその言葉を遮るように、毎日が充実していると笑ってマウロに抱き付いていた。
抱き留めて窘め、弁当を渡し女性達に配らせ、運んで戻ってきては、楽しそうに話し掛ける睦まじい様子を眺め、ザレムは溜息を吐いて空を仰いだ。
自分と片思い中のひと。あの人とこんな風に手を取って、笑い合って。
羨望と浮かんでは消える想像を払うように首を振って、女性達に目を向ける。
先程縋ってきた彼女も、椅子を振り回さんとしていた彼女も、この後の片付けに建物を覗いて笑いながら弁当を受け取っていた。
彼女達を守れた安堵に、寂しさに震えた胸が温まる。
ティナとマウロの様子を見ると、カティスもほっと息を吐いた。
弁当を渡しながら、交わす笑みに、女性達に指摘されて頬を染める様子に。
幸せそう、と口許が綻んだ。
2人とも幸せそうなのです。良い感じなのですよ。弾む心地を抑えながら、短い挨拶の声を掛ける。
「こんにちは、お元気そうでなによりです」
ここも無事で良かった、そう一言告げて、弁当の配布を手伝う所長にも軽い会釈を。
呼び止める声の掛かる前にその場を離れた。
アルトの隣に藤峰も屈む。
巣に戻るのを追って駆除した方が良いだろう。
「わたくし達が常駐できたら良いのですが……」
「そうだね、繁殖力は凄いらしいし、根本から立ちたいと思う」
このコボルトだけでは無く、犬も使って巣を割り出して、この辺りのものを一掃出来ないだろうか。
ぐったりとしているコボルトと隠した骸を前に首を捻って考え込む。
藤峰が所長を探して声を掛けた。
この辺りでよく見かけるのなら、と、庭から外を振り返る。
「近くにコボルトの集落があるのかもしれません。1度、オフィスに相談されてはどうでしょう?」
依頼が無いと動けないのは歯痒いと溜息が零れた。
目が覚めたら、これの巣だけでも潰しておこうかとアルトはコボルトを見下ろしながら。所長も近い内に近隣の他の工場や店とも話してみようと頷いた。
ハンター達が引き上げる頃には穏やかな時間が戻り、昼食を済ませた女性達は気合を入れて、散らかした工場の片付けに挑む。
コボルトの骸も引き上げられ、気絶していたコボルトが目を覚ます。それを追ってアルトと藤峰が見回った巣はすぐに見付かった。
巣の駆除はすぐに済んだが、近辺に出没しているコボルトの根絶には至らなかったらしく、その後も目撃情報や駆除の依頼が続いている。
蹄の音。蹄鉄が土埃を上げながら地面を蹴って、低くは無い柵を跳び越える、その馬の嘶き。
不意の襲撃に慌てふためく工場の女性達が、何事かと更に押し合って庭を見る。
そこに響き渡った笛の音、高く低く奏でる深い音が辺りを包む。
色めき立つ彼女達がその音に気を取られた瞬間、2頭の馬は柵を越えて、マテリアルの輝きを纏うハンター達もそれに続いて庭に入る。
馬を飛び降りたアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は建物へと向かい、笛を下ろして柵を越えたザレム・アズール(ka0878)もそれに続く。
2人を妨げる様に犇めく女性達に、再び笛を。耳障りな高い音を立てて注目を促す。
「動くな! ハンターだ!」
ザレムの声に、囁き合う声が広がる。
彼女達の見詰めるザレムの背には皮膜の翼の幻影が悠然と羽ばたき、周囲の状況を眺める瞳は深紅に染まる。
庭まで飛び出してきている女性達は、その姿に少しずつ避けて場所を譲る。
「お待たせしました! 工場内に仲間が入るので道を開けて下さい!」
馬から飛び降りて、マテリアルを込めた得物を振るい、派手に到着を告げた藤峰 雪凪(ka4737)が、尚も戸惑う女性達に声を掛ける。
女性達に向かって声を張り上げながら、ザレムとアルトに視線を向ける。藤峰が再度声を上げながら、女性達の方へと歩を進め、工場の入り口に通れるだけの隙間を作った。
2人は頷くと、建物の中からも聞こえる騒ぎへ飛び込むように開け放たれる扉を潜った。
炎の色に染めた長い髪を靡かせて、欄と煌めく瞳で前を見詰めてアルトが地面を蹴った。
鯉口を切る刀までその炎を広げ、目端に捉えた敵を、そちらへ向かう仲間に任せたと心の内だけで告げる。
「じっとして、その場で伏せろ!」
ザレムの声と笛に怯え竦み、椅子や机を得物代わりにし掛かる女性達が竦むと、その隙間を眩い軌跡を残して縫うように駆け抜ける。
最前列でコボルトに対峙し、トルソーを振り上げて震えていた女性に微笑みかける。
安堵のあまり卒倒した彼女を他の女性達が支える。
「もう大丈夫、落ち着いて。貴女達には傷一つつけさせないから」
アルトの声に女性達が手を下ろす。
「ここは俺達が引き受けた。押さないで落ち着いて外にでるんだ」
彼女達を飛び越えてきたのは幻影の翼の羽ばたきではなく、脚に込めたマテリアルの跳躍力。
最前線の女性達を庇う様に、彼女達が傾けた机に降り立ったザレムが振り返りながらそう告げて退室を促す。
2人の動きに合わせるように、カティス・ノート(ka2486)は所長に駆け寄った。
「えと。針子さん達に、びしっ、と正気に戻してくださいませんか? 多分、一番効くと思うのです」
混乱して出てくる女性達を統率出来るのは、きっと彼だけだろう。
それから、と優しげな茶色の双眸が見回した。
「避難しても大丈夫な安全な場所、思い当たりませんか? 誘導するのです!」
所長は首を横に振った。この辺りでは、この庭は広い方だと言う。それならばと、カティスは藤峰と頷き合う。
「――コボルトを興奮させてしまうので、距離を取るようお願いします!」
「みなさん、こちらへ……!」
「ご協力、ありがとうございます!――あ! そちらでは無いです。こっちに来てください!」
「所長さんも、……お願いします」
藤峰が両手を口許に、声を響かせて女性達をコボルトから遠ざけると、カティスが彼女達を1箇所に集めるように誘導する。
カティスに促されて得物を置いた所長も女性達の誘導に回る。
庭の入り口から彼女達の前へ銀の髪を靡かせ、その残像さえ浮かぶ動きでアルスレーテ・フュラー(ka6148)が現れた。
移動する女性達を背に庇いながら、蒼に染めた双眸が敵を睨む。
アルスレーテの出現に振り返り目を瞠った女性に、髪を掻き上げて口角を上げてみせる。
「早く行きなさい?」
囁く様に言えば一時見とれたその女性は慌てて避難の集団に戻っていく。
「ふ……お腹を空かせてるとはいえ、人の物を奪おうとしたなら立派な罪よ。たっぷりお灸を据えてやらないとね……」
柵を越え、弁当満載の自転車とマウロの傍へ駆けつけた鞍馬 真(ka5819)もそれに頷く。
彼には弁当を守って貰おう。
「少し下がってもらえるか?」
瞳に金の光りを宿らせて、影の色を帯びたグローブの守る拳を握り固める。
マウロは頷いて、傾く自転車を支えながら引き摺る様に、2人の背後で息を潜めた。
気に掛けていた少年の健常な姿に、僅かに口角を上向かせるも、挨拶は後だと引き締める。
●
庭で集まっている女性達を一瞥する。
まだ混乱の見える彼女達の前で刃物を出すことは憚られる。
鞍馬はマテリアルを込めて、地面の土を踏み締めると近くのコボルトを殴りつけた。
大きく体勢を崩した小柄な身体を立て直して、コボルトは爪を向けて殴り返してくる。
煤けた被毛に覆われた獣の腕を躱して放った次の一撃は、コボルトの顔面を正確に捉えた。
骨を捉えた感触に、力を緩めずに昏倒させる。地面に倒れて数回転がった身体は動かないが、僅かに揺れる肩がその息遣いを示している。
女性達の誘導の手がカティスと藤峰で足るようになり、落ち着きを取り戻した所長も、2人を助けて女性達に声を掛けるようになると、アルスレーテも地面を蹴ってコボルトの前へ駆る。
鞍馬の対峙する隣で唸るそれは、ぎらつく目で弁当を狙っている。
拳を構えれば、その甲に据えられたマテリアル鉱石が陽差しを受けて煌めいた。
颯爽と現れた謎の助っ人に、集団の中から身を乗り出して期待の眼差しを向ける女性達。かっこいいと囁く声が聞こえる。
それを裏切るわけにはいかないわね、とコボルトを睨む。
アルスレーテに反応した、その1匹が飛び掛かってくる。その爪を手甲に受け留めながら、マテリアルを込めた拳を見舞う。
被毛の装甲を容易く抜いて通った衝撃に、そのコボルトは地面に転がる。
立ち上がる様子が無い事にほっとしながら、女性達を振り返った。
鞍馬も同じく彼女達を気に掛けながら、交互にコボルトを眺めていた。
広くは無いがすぐ前の道なら、ここの女性達が落ち付いて待てるだろうと所長は言う。
カティスは頷いて、透明な装飾を施す流木の杖を構えて女性達の前に立つ。
巡るマテリアルを感じながらいつでも攻撃に転じられるように握り締めて。じっと、鞍馬とアルスレーテ、その2人が対峙するコボルトを見詰めた。
藤峰も所長の言葉に応じ、集団からはぐれる女性に声を掛けて、建物から出てくる女性を呼んで。
彼女達の移動が可能な状態を保ち続ける。
コボルトの沈黙を知ると、その後始末の前に2人と所長は女性達を工場の外へと誘導する。アルスレーテは最後尾から女性達に声を掛けて促した。
それを見届けてから鞍馬は刀を抜き、2匹のコボルトに止めを刺した。
その骸を隅へ寄せて片付ける。
外に出ると、所長が漸く息を吐いた。混乱していた女性達も今は静かに並んでいる。
数人の、今し方まで建物の中に居たらしい女性がそちらを気にしている様子にアルスレーテが建物の方へ振り返った。
「中は終わったかしら?」
もう終わっているとは思うけれど、と呟きながら戻る。
●
ランチパックをちらつかせてみるが、この混乱と騒ぎに気の立っているらしいコボルトは寄ってくる様子が無い。
アルトはその手に構えるものを刀に戻し、避難を始める庭の方へ一瞥を向けた。
血は見せたくないが、建物内の避難まで動かずには待てそうに無い。
ザレムも同様に、前へ出ようとする女性達を宥めながら、コボルトの注意を自身に向けさせている。
椅子を振り上げた女性を宥め、その背後で怯える女性の肩を撫でて、彼女を任せると穏やかな声で退室を促す。
足が竦んだと震える女性にアルトは、安心してと微笑みかけ、外へ向かう女性達と共に歩けるまで、コボルトとの間に入って庇う。
1歩ずつ進む彼女が床を蹴って走ると、そのままと促す様に頷いた。
縋る女性にザレムが、任せろと告げ抱き締め返して背中を撫でる。
落ち付かせながら、五芒星をあしらう拳銃を解して障壁を張り、コボルトの接近を阻んだ。
「彼女が最後だ」
「――大丈夫、後のことは、ボクたちに任せてくれる?」
ザレムの腕を離れて不安げな顔を向ける彼女に微笑みかけて、アルトは外へと促した。
「地獄のディナーが待ってるぜ」
攻勢に転じた瞬間の、3条の光り。貫かれたコボルトが藻掻いている。
アルトは抜いた刀を裏返す。ここがこれ以上血に汚れるのは嫌だろう。庭の女性達に合流する彼女の震える細い肩を見詰めた。
峰打ちでも気絶させる程度の力は有る。
気絶させた1匹を拘束し、残りに止めを刺して。外に運びだそうとしたところにアルスレーテが様子を見に戻ってきた。
女性達は庭の外に避難している、骸を片付け次第戻れるだろう。庭の始末も鞍馬が済ませている。
「やっぱり終わっていたわね、あとは、これだけ?」
「ああ。そちらも、落ち付いたようでよかった」
荒れ放題の屋内だが、幸い血の汚れは多くない。
ザレムは飛び乗った机を直して室内を眺める。
散らかっているのは彼女達の仕事道具だ。手は出さず、片付けは任せた方が良いだろう。
「庭と女性達は?」
「――終わったところだ。誘導は2人と所長に任せてある」
手伝うことはあるだろうかと建物の中を覗いた鞍馬が応える。俄に賑やかな声が聞こえてきた。
声が騒ぎ出す前に骸は運んで仕舞おうと、ハンター達が急ぎ仕事に戻った。
●
「全員、いるわね?」
アルスレーテが庭へ戻る女性達を見回した。
所長も隣に立って点呼を行う。
「怪我人がいるなら治療するわ、申し出て貰えるかしら?」
マテリアルの灯った蒼の瞳が穏やかに女性達に向けられる。見守るような柔らかな眼差しに、応える女性達の笑顔は皆にこやかで、先程までの怯えていた様子は薄い。
彼女達の中に1人、逃げる途中で転んだ女性がいた。柵に掴まりながら平気だというが、回りの女性達に引っ張られるように、アルスレーテの傍へ連れ出された。
無理はしないでね、と傷に手を翳す。
温かなマテリアルに包まれて気が緩んだのか、彼女の目からぽとりと雫が零れた。
骸は隅に積んで隠し、戦いの跡は土を均して。
女性達と所長が戻る前に、可能な限り痕跡を消す。
片付けたコボルトの内の4匹は事切れているが、アルトが確保している1匹は深傷を負ったまま細く息を繋いでいる。
「これを放したら巣に帰らないだろうか」
始末の傍ら、まだ気を失っているそのコボルトをつついて呟いた。それはまだ、目覚めない。
粗方の始末を終えると鞍馬は自転車に戻ったマウロと、それを手伝う所長とティナに声を掛けた。
「久しぶり」
騒ぎのなか挨拶も忘れていたと、マウロが項垂れるように頭を下げた。
ティナもぱちくりと瞬いてはしゃいでいる。
「元気そうで良かった、変わりないか?……何かあるようならいつでも頼ってくれ」
恐縮気味に応じるマウロが次第に冷静に、過日の礼を交えながら近況を伝えるが、ティナがその言葉を遮るように、毎日が充実していると笑ってマウロに抱き付いていた。
抱き留めて窘め、弁当を渡し女性達に配らせ、運んで戻ってきては、楽しそうに話し掛ける睦まじい様子を眺め、ザレムは溜息を吐いて空を仰いだ。
自分と片思い中のひと。あの人とこんな風に手を取って、笑い合って。
羨望と浮かんでは消える想像を払うように首を振って、女性達に目を向ける。
先程縋ってきた彼女も、椅子を振り回さんとしていた彼女も、この後の片付けに建物を覗いて笑いながら弁当を受け取っていた。
彼女達を守れた安堵に、寂しさに震えた胸が温まる。
ティナとマウロの様子を見ると、カティスもほっと息を吐いた。
弁当を渡しながら、交わす笑みに、女性達に指摘されて頬を染める様子に。
幸せそう、と口許が綻んだ。
2人とも幸せそうなのです。良い感じなのですよ。弾む心地を抑えながら、短い挨拶の声を掛ける。
「こんにちは、お元気そうでなによりです」
ここも無事で良かった、そう一言告げて、弁当の配布を手伝う所長にも軽い会釈を。
呼び止める声の掛かる前にその場を離れた。
アルトの隣に藤峰も屈む。
巣に戻るのを追って駆除した方が良いだろう。
「わたくし達が常駐できたら良いのですが……」
「そうだね、繁殖力は凄いらしいし、根本から立ちたいと思う」
このコボルトだけでは無く、犬も使って巣を割り出して、この辺りのものを一掃出来ないだろうか。
ぐったりとしているコボルトと隠した骸を前に首を捻って考え込む。
藤峰が所長を探して声を掛けた。
この辺りでよく見かけるのなら、と、庭から外を振り返る。
「近くにコボルトの集落があるのかもしれません。1度、オフィスに相談されてはどうでしょう?」
依頼が無いと動けないのは歯痒いと溜息が零れた。
目が覚めたら、これの巣だけでも潰しておこうかとアルトはコボルトを見下ろしながら。所長も近い内に近隣の他の工場や店とも話してみようと頷いた。
ハンター達が引き上げる頃には穏やかな時間が戻り、昼食を済ませた女性達は気合を入れて、散らかした工場の片付けに挑む。
コボルトの骸も引き上げられ、気絶していたコボルトが目を覚ます。それを追ってアルトと藤峰が見回った巣はすぐに見付かった。
巣の駆除はすぐに済んだが、近辺に出没しているコボルトの根絶には至らなかったらしく、その後も目撃情報や駆除の依頼が続いている。
依頼結果
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MVP一覧
- 幻獣王親衛隊
ザレム・アズール(ka0878)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 鞍馬 真(ka5819) 人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/09/12 00:34:44 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/09/10 01:32:51 |