申請! ハンターオフィス辺境支部!

マスター:真柄葉

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~5人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/09/13 22:00
完成日
2016/09/19 23:03

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●ノアーラ・クンタウ
 ノアーラ・クンタウを縦断する大通りは、朝も早い時間から様々な足音に満ちていた。
「うえぇ、今日もあっついねぇ。でも、天気は良さそうだね」
「ええ、忙しくなりそう」
 箒片手に建物の玄関を掃除している女性が二人。
 小柄な女性の名はケイト。ここノアーラ・クンタウにハンターオフィスの仮支所が置かれてからずっと勤務している古株だ。
 もう一人の名はホリー=アイスマン。ケイト同様、このオフィスで受付兼事務員として働いていた。
「んーーーーー! さぁ、今日も一日がんばろー!」
 箒を壁に立てかけ、ケイトは大きく伸びをするとともに、つつましやかな胸を張る。
「おー!」
 掛け声に応じ拳を突き上げたホリーに、にししと微笑みかけたケイトはハンターオフィスの扉を開け放った。

●オフィス
 オフィスが開くと同時に、辺境を拠点とするハンター達がどっと押し寄せてくる。
 古い商店を改装しただけの小さなオフィスは、すぐにハンター達でごった返した。
「はーい、次の人ー」
 狭いオフィス内に出来たハンター達の列に、ホリーが声をかける。
 ホリーは、慣れた手つきで書類の確認から契約締結まで、スムーズに業務を遂行していく。
「はーい、次の人どうぞー」
 わずか数分でハンターを一人、依頼へと送り出し、ホリーは次に待つハンターを呼んだ。
「む……」
 一方、同じ業務をしているはずなのにホリーの列とは対照的に、並ぶ者のまばらなケイトの列。
「むむむ……」
 仕事量的にはむしろ楽なのだが、その列の長さの差にどうにも憤りを感じてしまう。
「むむ――む? ……ふっふっふ、いいもの見っけ」
 と、何やら発見したのか、小悪魔的に口元を歪ませたケイトは徐に立ち上がると――。
「ねぇ、ホリー」
「うん? なに、ケイト」
 カウンターに並ぶハンター達の事などお構いなしに、ケイトはホリーにすり寄った。
「それそれ。ほら、ボタンが取れかけてるじゃん」
「え?」
 するすると慣れた手つきでホリーの豊かな胸に指を這わせ、ブラウスの第二ボタンをツンツンと。
「おー、沈む沈む」
 カウンター越しで行われるケイトの所業に、ホリー列のハンター達♂がざわついた。
「あれ、取れちゃった」
「あらら」
 居並ぶハンター達♂のざわつきが3倍増しになる中、ポンと勢いよくはじけ飛んだボタンは、空中をくるくると5回ほど回転し、スポンと。
「ほっほー、これはこれは。……取るからちょっと動かないでよーっと」
 ふむふむと一人納得したケイトは、所有者の許可を取る事もなく、徐に指をたわわな谷間へ滑り込ませた。
 この小悪魔の所業に、ハンター達♂のざわめきが一際大きくなる。
「――はい、取れた」
 ケイトはちらりとハンター達の方に視線を遣り、僅かに口元を釣り上げると――。
「それにしてもホリー、汗すごいね」
 指先を湿らせるホリーの汗を、ぺろりと口に運んだ。
「こら、ケイト。汗は雑菌が繁殖しやすいから口に入れちゃダメよ?」
(そこじゃない!)と、並んでいたハンター達♂から心の総ツッコミを受けている事も梅雨知らず。
 人差し指をしゃぶるケイトに対し、ホリーは眼鏡のブリッジを押し上げ、教師然と注意した。
「はいはーい。あ、今裁縫道具ないから、第一ボタン止めておくね」
 ケイトは再び慣れた手つきで、空けてあったブラウスの第一ボタンを片手で止めた。
「これでよし」
「ありがと、ケイト」
 第二ボタンが取れたままに、第一ボタンを留める事で起こる相乗効果に満足したケイトは、ざわつくハンター達♂を横目にさっさと自分の席に戻る。
「さてと――」
 自分の席に戻ったケイトは、手元で何やら作業をしたかと思うと、どんと机の上に小さなイーゼルを置いた。
 イーゼルには、小さな黒板。そして、そこに記された文字に――。
「あ、あれ?」
 ホリーが戸惑う中、二人のハンターの列の長さが一瞬にして逆転する。
「はいはーい、押さない押さない! 減らないから大丈夫よー」
 人波が無くなったホリーの列とは対照的に、ケイトの列には目を血走らせるハンター達♂が、我先にと受付に詰め寄った。

 ケイトの机。そこには『コツ教えます』とだけ書かれた小さな黒板が置かれていたのだった――。

●別の日
 年中無休であるはずのハンターオフィスも、今日だけは臨時の休業日。
「さて、このオフィスとも今日でお別れだね」
 荷物の山を前に、ケイトが感慨深く呟いた。
「どうして? 明日からもこのオフィスよ?」
「今のこの姿は、今日で見納めっしょ?」
 ここ最近の辺境での動乱を受け、ハンターズソサエティは辺境の主要都市であるこのノアーラ・クンタウに正式なオフィス支部を置くことを決定した。
 今まで小さな支所でしかなかったここも新たに増床し、円滑にハンター支援業務の行える施設へと改装する事になったのだ。
「へぇ、ケイトでもそういう感傷的な事いうのね」
「何、もしかして馬鹿にしてる? 揉むわよ?」
「揉むなら肩をお願い。もう、凝って凝って……」
「そんなもん二つもぶら下げてるからよ」
 眉間に皺をよせコキコキと肩を鳴らすホリーに、ケイトは大きなため息をついた。
「そういえば正式な支部になれば、制服も支給されるのかな?」
「えー……あの制服かぁ。ちょっと厳しいよね。主に年齢的なものが」
 大きく肩の空いたハンターズソサエティの制服を思い浮かべ、ケイトは頬を引きつらせる。
「そう? ケイトは可愛いからきっと似合うわよ?」
「どこ見て言ってんの?」
 ニコニコと見下ろしてくるホリーに、ケイトはジト目で答えた。
「あんたは違う意味で厳しいでしょうが」
「違う意味? ああ、サイズ的なもの?」
「嫌味か、こらぁ!! この巨乳人妻がぁ!!」
「み、未亡人ですぅ!!」

「おやおや、ハンターオフィスの受付嬢ともあろう人が、公衆の面前で一体何をやっているのでしょうねぇ」

「あ、あんたは!?」
 いい年こいてじゃれあう二人の前に現れた青年の顔に、ケイトは驚き目を見開いた。
「パトロンとして、この様な従業員を抱える施設には出資を躊躇してしまうのですが」
 大仰に首を左右に振り深いため息をつく青年に、ケイトはあわあわと戸惑い、ホリーは何の事かときょとんと首をかしげる。
「ねぇねぇ、この人だれ?」
「ちょ!? 覚えてないの!?」
「うーん……ハンターさんの顔なら忘れないんだけど……あ、という事は、一般の方かな?」
「ヴェルナーよ! ヴェルナー!! この街で一番偉そう……違う! 違うでしょホリー! 偉い人よ!!」
「ケイトが言ったんじゃない……」
 完全にダダ漏れの内緒話を展開する二人に、ヴェルナー・ブロスフェルトも頬をぴくぴくと振るわせた。
「とにかく楽しみにしていますよ。このノアーラ・クンタウに見合う、素晴らしいオフィスにしてくださいね」
 くるりと無駄のない動きで180度回転したヴェルナーは、さして興味もなさそうに呟くと、街の中へと消えた。

リプレイ本文

●侍亭
「井戸は使わせてもらっても構わないんだね?」
「あれは共同井戸だ。好きに使うといい。ただし、枯らさないでくれよ?」
 茶目っ気を交えながら目を細めた酒場の主人『村上丈之助』は、仙道・宙(ka2134)に答える。
「心得たよ。だけど、あの件はやっぱり考慮してもらえないかな?」
「おいおい、まだ言うのか? こんな街中で掘削なんてどんだけ近所迷惑だと思ってるんだ」
「騒音対策には万全を期すよ」
「例えそうだとしてもだ。お前達、地下城の天井をぶち抜くつもりか?」
 宙を含め数人のハンターは、裏庭に温泉を引けないかと画策した。しかし、この街は山頂にあり、温泉を掘るとなると非常に大規模な掘削が必要になる。
 しかも途中にはドワーフ達の地下城【ヴェルド】があるのだ。
「温泉街テミスから引くのもやはり難しいだろうか?」
 沈黙してしまった宙に代わり、ジュリオ(ka6254)が問いかける。
「引くのは無理だろうなぁ。よくて運んでくる位か?」
「運んでくる、か……。流石にオフィスに人手はないか」
 丈之助の妥協案にもジュリオの顔は渋い。
「まぁ、小さな庭だしな。無理に何かを作る必要はないと思うがね。あんなところで温泉に入っても疲れは癒えないぞ?」
 先ほど見てきた裏庭は分樹や井戸もあり、お世辞にも広いとは言えない。
 二人は丈之助の助言に反論なく素直に受け入れた。
「では、しばらく騒がしくなるけど、よろしく頼むよ」
「ああ、気にせんでやってくれ。ただし、打ち上げはうちで頼むよ?」
「ああ、皆に伝えておくよ」
 気のいい隣人に軽く会釈し、宙達は酒場を後にオフィスへと足を向けた。

●二階
 新しく借りた二階は、今までの依頼の報告書や辺境の地理、文化、歴史などの各種資料が閲覧できる資料室へと改装が進んでいた。
 ドワーフの職人達に組み上げられていく本棚には、元からオフィスにあった資料や本、新たに買い足した資料が次々と並べられていく。
「伝声管はカウンターに据えておきましょう。ちなみに呼び鈴などを組み合わせることは出来ますか?」
 そんな中、金物職人へ設計図片手に問いかけるヘルヴェル(ka4784)は、多層階になった事により、今まで以上に目の届かない場所ができる事を危惧し、各フロアの主要な場所を繋ぐ伝声管を設置しようとしていた。
「借家という事ですので、出来る限り傷つけないように、階段の開口部を利用して這わせましょう」
 と、金物職人と綿密な打ち合わせをしていたヘルヴェルの眼に、フロアを横切る人影が映る。
「金目さん。お連れのアドバイザー殿は?」
 それは二階の資料室を友人と二人で担当していた金目(ka6190)だった。
「ああ。彼ならホリーさんに腕を抱えられながら一階の奥に下がりましたよ。さすがに重傷者に実務をさせるわけにはいきませんので」
 と、ヘルヴェルの問いに金目は嘆息交じりで答える。
「大丈夫でしょうか」
「その辺は……まぁ、問題ないでしょう。流石の彼でも我々が額に汗してる間に、重傷の身をおして事に及ぼうとは考えないはずです」
「い、いえ、お体の方が、です」
「そちらでしたか。それも問題ない。あの程度で死ぬ玉ではありません」
「はぁ、そうですか」
 どこか憮然と本棚へ本を並べていく金目を、ヘルヴェルは不思議そうに眺めながらもさらに問いかける。
「それにしても、これだけの本がよく揃いましたね。それに辺境の品々も」
 ヘルヴェルが目を移したのは資料室の一角。そこにはいくつかの木箱が積まれていた。
「知り合いに若いですがなかなかやり手の商人が居ましてね。仕入れを任せてあります」
「それでこの品々ですか。なるほど、いい人脈をお持ちなのですね」
 木箱を覗き込み、その品揃えのセンスにヘルヴェルは目を細めた。
「それでは資料関係はお任せしてよろしいですか?」
「ええ、構いません。そちらの作業も大変そうですし」
 と、金目は階段で鎚を打つ職人へ目を向ける。
「ああ、あちらの作業はもう職人の方々にお任せしてあります」
「では、他に何か?」
「はい、資料室の一角に書記台を設けようと思っています」
「書記台、ですか」
「ええ、ここの本を直接貸し出すと、どんな状態で戻ってくるのか想像するのも怖いですので、必要な部分だけ転写していただける場所を」
「なるほど、それは双方助かりますね。ぜひ設置しましょう」
「ありがとうございます。では一角お借りしますね」
 二人は新たに決まった修正点を図面に書き込むと、早速それぞれの作業に取り掛かった。

●一階
「はい、そちらは区切りを細かく。ええ、奥は大部屋にします。区切りは置かないでください」
 ドワーフの職人達を前に、綿密な打ち合わせを重ねる音羽 美沙樹(ka4757)。
 一階に設置される予定の個室は彼女の提案によるものであった。
 設けられた個室は、依頼を持ち込む者が周りの目や耳を気にすることなく相談できるように配慮したもの。
 また、大部屋は依頼を受けたハンター達が、出発前の相談などに活用できるようにとの思惑から提案したものだった。
「扉の立て付けには気を付けてください。出来るだけ音が漏れないよう、秘密を守れるようにお願いします」
 そのこだわりは部屋のレイアウトに留まらず、内装や使い勝手にまで及ぶ。
「小部屋の中にはそれぞれ、机と椅子、それと事務的な手続きが行いやすいよう書類棚の設置をお願いします」
 使い手の使用感に基づいた具体的な指示に、職人達も感心し、文句一つ噴出する事無く作業は進んでいた。
「大部屋には大きめのテーブルと必要数の椅子を。それから作戦立案用に、黒板と盤木をお願いします」
 と、美沙樹が更に細かい指示を職人達に出そうかとした時。
「音羽様、この小部屋は全て相談室にされるご予定でしょうか?」
「と、言いますと?」
 結良(ka6478)の問いに美沙樹は作業の手を止めた。
「はい、もし一室お借りできるのでしたら、前室……と言うほどのものではありませんが、少しの間休息ができる部屋を用意できればと考えました」
「休憩ですか。二階の休憩スペースとは別という事でしょうか?」
「ええ、二階はハンターの皆様が出発前の準備をする為のスペースであるかと思います。私が考えているのは、帰っていらしたハンターの方々が一息つける場所」
 結良は一呼吸おいて続ける。
「どうしても一階は出発前や依頼待ち等で人が多く詰め寄せます。そこで――ここです」
 と、結良は美沙樹が手にした設計図の一か所を指さした。
「入口の近く、喧騒を避ける事の出来る場所に、休憩するスペースを設けたいと思っております」
「……なるほど、確かに大変な依頼も多いですものね。ようやく帰り着いたオフィスで、人にもまれるのは……あたしもできれば避けたいですわ。わかりました。では、ここを使ってください」
 美沙樹が指差したのは、先ほど結良が指差した部屋よりもさらに入口に近い一室。
「よろしいのですか? ここは一番利用が見込まれる部屋ですが……」
「あたしもハンターですもの。依頼を終えた後の気持ちはよくわかりますわ」
 戸惑う結良に美沙樹はニコリと笑みを向け、図面に大きく休息室と書き加えた。

●三階
「おや、エアルドさんは?」
「よくお休みになってますよ」
「寝たんですか?」
「はい。随分と寝苦しそうでしたのですが、膝をお貸ししたらあっさりと」
「膝を……」
「どうかされました?」
「いえ、彼は他に何か言っていませんでしたか?」
「他に、ですか。うーん……あ、連絡先を聞かれたんですけど、ちょっと覚えて無かったので後で渡そうかなっと」
 と、ホリーはポケットから一枚のメモを取り出した。
「連絡、先…………なるほど、解りました。それは『友人』である僕が、責任をもって届けておきましょう。ええ、責任をもって」
「は、はぁ……」
 何やら決意めく金目にホリーは不思議そうに首をかしげながらも、メモを手渡す。
「――確かに。さて、ホリーさん、余談はこれくらいにして」
 しかと受け取ったメモを金目は大事そうに懐へしまい込み、再びホリーに問いかけた。
「はい?」
「事務所と休憩室の他に、こういうものを考えているのですが」
 と、金目が図面の一角に書かれた文字を指さす。
「託児場所……?」
「はい、ハンターの中には子供を抱えている者も多い。もちろん子供は依頼へ連れていくわけにはいきません。ですから、依頼へ行っている間、ここで面倒を見れないかなと思ったんですよ」
「え、ここで子供を預かるんですか?」
 金目の提案にホリーも目を瞬かせる。それもそのはず、託児所のあるオフィスなど聞いた事もないのだから。
「オフィスは依頼を終えて真っ先に立ち寄る場所です。そこで子供を迎えれるのであれば、子持ちにはこれほどありがたい事は無い。もちろん人員を裂くのは厳しいとも思います。ですので、せめて子供たちが自由に遊べるスペースを作っていただけないかなと」
「……なるほど」
 自身も小さな子がいる身。ホリーは金目の提案に深く頷いた。
「その提案、いただいてもいいですか?」
「という事は……」
「はい、私は責任をもって実施します」
 眼鏡のブリッジをくいっと持ち上げ、ホリーは金目に真剣な眼差しで答えた。

●オフィス前
「これだけ大きければ目立つかな」
 二軒長屋だけに、酒場を出ればそこはすぐにオフィスの入口。
 宙はオフィスの入口脇に新しく建てられた掲示板を見やり満足げに頷いた。

 建物を正面に、左側が酒場兼宿屋『侍亭』。そして、右側がハンターオフィス『ノアーラ・クンタウ支部』だ。
 暖簾が目を引く酒場に比べ、オフィスの入り口はあまりに簡素で一見してそれとわからない。
 そこで宙はオフィスの新しい看板として、大きな掲示板の設置を提案した。
 掲示板には特に急務である依頼や、大規模な作戦。又はオフィスが推していきたい依頼など、中に入らなくても確認できるよう掲示板に掲げるようにする。
 住宅街と繁華街を繋ぐこのオフィスの位置は幸い人通りも多い。

「効果的に活用できるといいんだけどね」
 宙は最後に『明日、新規オープン!』と書かれた張り紙を張り付けた。

●休憩
 休憩所として作られたペースには、円形の大きな座卓が置かれハンター達が膝を突き合わせ歓談できるようになっている。
 引っ越し作業も昼に差し掛かり、参加者達は昼食の準備を始めていた。
「皆さん、お待たせしました。侍亭さんの厨房をお借りして、おむすびとサンドイッチを用意しましたわ」
 階段から顔を覗かせた美沙樹が手にしたお盆には軽食が山と盛られている。
「デザートに蜂蜜茶や菓子もあるぞ。よかったら摘まんでくれ」
 続いて登ってきたジュリオの手には、甘い香りを放つポットとお菓子の数々が用意されていた。
「辺境産の新鮮な蜂蜜を使っていて疲労回復に効果がある。小腹を満たした後、食べてみてくれ」
 芳醇な香草に甘い蜂蜜が合わさり、何とも言えぬ良い香りを放っている。
「腹が減っては戦は出来ぬと言います。たくさん召し上げってくださいね」
 美沙樹が言うや否や、ハンターや職人達がご馳走目がけ一斉に手を伸ばした。

●資料室
「これらを辺境の『カタログ』に出来ればと、友人は言っていたんです」
「この品々をそのままカタログにですか。とても面白い考えですね」
 資料室で一角に設けられた展示スペースを前に、金目と結良が吟味を重ねる。
 ここには、各部族がそれぞれの特色を出した特産品が、食品から工芸品、毛皮や鉱石まで実に雑多に置いてあった。
「オフィスにはあまり似つかわしくないものかもしれませんが」
「そんな事は無いと思いますよ。あまり事務的に過ぎても息が詰まりますから、これくらい雑多――いえ、辺境らしさが出ている方が、この地を拠点にするハンター達には心地が良いかと思います」
 結良は苦笑する金目に真摯に向き合い、大丈夫だと大きく頷いた。

●庭
「うーむ……どう思う?」
「……若干浮いていますね」
 とりあえずと裏庭に仮組された東屋を見て、ジュリオとヘルヴェルは同時に唸った。
 大して広くない裏庭には、すでに井戸と分樹が幅を利かせており、自由に使えるスペースには限りがある。
 そんな中、癒しの場として簡単な東屋を建ててみたのだが……。
「これでは、よくて二人用だな」
 小さな東屋は狭く、設置できたとしても二人掛けのベンチがやっと。
「では足湯はどうですか? 池は無理でも、足湯イベント用に窪み位なら」
「いや、下手に窪みを掘れば足を取られ思わぬ怪我の元になりかねない。これは何もしない方が賢明だろうな」
 いくつかアイデアは上がったものの、この裏庭の狭い空間では実現は難しかった。
「さて、どうするか。流石に東屋だけでは侘しいしな」
 ジュリオとヘルヴェルは裏庭の風景を眺めながらしばし口をつぐむ。
「――では、果樹や香草など植えるというのはどうでしょうか? 幸い井戸がありますし」
「ああ、実は私もそれを考えていた。樹木程の大きなものは分樹に影響を与える可能性も考慮して難しいとは思うが、香草や花などは行けるだろう」
「それに草花に囲まれれば、あの東屋も――」
「ふむ、なるほど。確かにカップルには良い場所になるな」
 狭い事が幸いし、東屋の定員は二人。そうなれば必然的に何かを期待してしまう。
「『ここで告白した男女は末永く幸せになれる』とか、そんな噂でも出来ればいいと思いませんか?」
「はは、約束の分樹の下で愛を告白か? 若い君達には受けがよさそうだな」
 そんな事が本当にできるかどうかは別として、二人顔を見合わせくすくすと微笑み合った。

●夜
 夜も月が昇る頃には、オフィスの引っ越し作業は終わりを迎えた。

 一階には、元から設置してあったカウンターや転移門の他に、依頼者の為の個室。依頼へ向かうパーティの為の作戦部屋。そして、依頼を終えて帰ってきた者達を迎える休息部屋が造られた。
 二階には、辺境の独特な文化や地理、風習などを調べる事ができる資料室や、ハンター達が自由に歓談できる辺境様式の休憩所。そして、壁には大きな地図と交流の為の黒板が設置された。
 三階には、オフィス職員の事務所が置かれると共に、子供達が羽を伸ばせる休憩場所を作る事になっている。
 裏庭には小さな東屋を囲む様に香草や花が植えられ、街中にあって自然を触れ合える癒しの場所とした。
 そして、入り口に設置された大きな掲示板は、新たなオフィスの看板となる。

「すごいなぁ」
 たった一日でほとんど完成された新しいオフィスを見上げ、ホリーは感嘆の溜息を洩らした。
「頼んでよかった。やっぱりハンターさんは……すごいなぁ」
 瞳を閉じ僅か一日の出来事を思い返すだけで、感謝と感激に胸が満たされる。

『かんぱーい!』

「あ、始まっちゃった」
 貸し切りと看板の掛けられた隣から漏れる声に吸い寄せられるように、ホリーは侍亭の暖簾をくぐった。

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MVP一覧

  • 清冽の剣士
    音羽 美沙樹ka4757
  • 細工師
    金目ka6190

重体一覧

参加者一覧

  • 侍亭の新戦力
    仙道・宙(ka2134
    人間(蒼)|18才|男性|魔術師
  • 清冽の剣士
    音羽 美沙樹(ka4757
    人間(紅)|18才|女性|舞刀士
  • 絆を繋ぐ
    ヘルヴェル(ka4784
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • 細工師
    金目(ka6190
    人間(紅)|26才|男性|機導師
  • 華の創園
    ジュリオ(ka6254
    エルフ|24才|女性|符術師
  • 心癒の意思
    結良(ka6478
    人間(紅)|22才|女性|符術師

サポート一覧

  • エアルドフリス(ka1856)

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 準備室
金目(ka6190
人間(クリムゾンウェスト)|26才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2016/09/13 20:34:16
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/09/13 01:04:45
アイコン 質問卓ですよー
ホリー=アイスマン(kz0204
人間(リアルブルー)|28才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2016/09/13 00:28:37