ゲスト
(ka0000)
【蒼乱】【猫譚】海と空と、時々ユグディラ
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/09/20 09:00
- 完成日
- 2016/09/25 19:12
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●猫譚――にゃんたん――
ピコっと毛に覆われた猫耳が立った。
それは猫――ではなく、所謂、ユグディラだ。
珍しい存在であるが、王国民にとっては認知度は低くはない。ぴょこっと現れ、いたずらをしては、幻のように消えてしまうからだ。
モニョモニョと口元を動かしながら、ただ南の方角を見つめていた。
このユグディラが居る場所は、人間でいう所の港街だ。
岸壁にも沖合にも多くの船が浮いていた。その中の一隻にユグディラは視線を向ける。
臆病な性格とも言われるユグディラが意を決して駆け出した。
◆南方領域へ至るとある海路
キーンと音を立てて鳥のような雑魔が急降下してくる。
「船長! 雑魔っす!」
慌てる船員。
手には銃や弓を構える者も多い。
だが、雑魔は大空を自由に飛び回り、急降下して一撃離脱してくるのだ。簡単に当たるハズがない。
「弾幕を張れ! 近付けさせるな!」
「帆が邪魔しちまう!」
船員達は帆を傷つけないような位置を探す努力に追われ、とても、反撃どころか、近づけさせない為の弾幕ですら満足に撃てなかった。
帆船は帆に風を受けて進むが、この様な戦闘では邪魔であった。かと言って、帆を畳んでしまえば、推力が落ちてしまい、雑魔の格好の的だ。
「あぁ! 帆がぁ!」
「船体の横っ腹に穴が!」
一方的に空襲を受け、損害を受けた帆船は回頭したのであった。
●港街ガンナ・エントラータ
「『暗黒海域及び南方領域へと向かう船団の支援活動』ですか……」
ソルラ・クート(kz0096)が騎士団本部から届いた命令書に目を通していた。
ゲートの話は耳にしている。王国としても大峡谷(大渓谷)での作戦に協力していた。
「つくづく、都合が良い女になってるな。ソルラの嬢ちゃんはよ」
アルテミス艦隊の旗艦の船長を務めるランドル船長がニヤリと口元を緩めた。
暗黒海域や南方領域への探索は、帝国や同盟と比べる海軍力に劣っている王国は遅れ気味である。
それでも『外交上』あるいは『体面上』などという大人の事情があり――その結果、ソルラにこの命令が下ったという訳だ。
「……否定できない事が悲しいです……」
東方へ北方でも似たような事情でソロ派遣された経緯があるだけにソルラはそう言うしかなかった。
もっとも、裏を返せば、それが出来る人材だという認識をされている事ではあるのだが。
「作戦は空襲をくぐり抜けての敵母船の撃沈か。こりゃ、骨が折れそうだな」
「対空用の武器はありますか?」
「そんなもの、ある訳ないだろう。良くて、弩や弓って程度だ。だが、扱える奴も少ない」
アルテミス艦隊は、同盟が持つような大型帆船ではなく、中小型の帆船が主である。
大型の対空兵装を積める訳もなく、また、それを扱える船員も足りず、訓練もできない。弓を扱うものは居るが、それは極めて少数だ。
「となると、やはり、ハンターなのですね」
「そういう事だな。丁度いい機会に『あれ』も使えるのだろう?」
「借り物ですけどね……実験船のままにしておくのは勿体無いので」
二人の視線の先には、最新の刻令術式外輪船が浮かんでいた。
ソルラの母方の実家の商会が技術開発と訓練を行っていた。リゼリオには富裕層向けの豪華客船まである。
「空襲を突破さえすれば、俺の船や僚船が雑魚を抑えている間に、母船へ突撃できるという寸法だ」
「細かい事はハンター達との打ち合わせになりますが、大筋、その流れになると思います」
その時、ソルラの視界の中に直立している猫のような姿をした何かが入った。
「あれ?」
注視しようと視線を動かした時には、その猫っぽいなにかの姿は掻き消えていたのであった。
●刻令術式外輪船――作戦室――
アルテミス小隊を率いるソルラが集まったハンター達の前に姿を現した。
……が、なんだか、いつもよりも疲れている様子に見える。
「えと、皆さん、よろしくお願いします」
明らかに悲愴感が漂っている。
「今回の作戦は、暗黒海域及び南方領域へと向かう船団を脅かす歪虚船の撃沈が目的です」
モニターには鮮明とは言い難いが戦闘の様子が映し出された。
青い空を我が物顔で飛び回る、鳥の姿をしたような雑魔。
それが帆船に襲いかかっているのだ。
「私達が乗船しているこの船は、刻令術を用いた外輪船です。普段は帆を張って航行していますが、必要時は外輪を動かして推力にできます」
戦闘中は帆を畳んで外輪を回すとの事だ。
改良が進み、外輪を回しながらの回頭も可能となったし、厳しい外洋にも耐えられるようになった。
「雑魔による空襲を掻い潜り、この雑魔の母船となっている歪虚船を撃沈させます」
歪虚船は巨大な鯨のような姿をしていた。
周囲にも魚を模した雑魔船も確認できるが……。
「敵の取り巻きは、別働艦隊が引き付ける事になっていますので、私達は歪虚船に集中できます」
歪虚船は最後まで雑魔を射出してくる可能性は高い。
最後まで対空戦の覚悟をしておいた方が良いかもしれない。
「作戦の詳細はハンターの皆さんにお願いします……そ、そ、それと……」
疲労が伺えるその表情が一転、顔を真っ赤に染めるソルラ。
「ど、どうしてか、船の中に……ユグディラがですね、迷い込んでいまして……」
王国各地でユグディラが絡む事件(?)が頻発していたのと繋がりがあるかどうか分からない。
戦闘に巻き込まれる恐れもあるので、なんとかして見つけ出したかったが、なかなか捕まえられなかったのだ。
「わ、私のですね、その……し、下着を奪って、逃走中なんです!」
ソルラの悲痛な叫びが作戦室に響き渡ったのであった。
ピコっと毛に覆われた猫耳が立った。
それは猫――ではなく、所謂、ユグディラだ。
珍しい存在であるが、王国民にとっては認知度は低くはない。ぴょこっと現れ、いたずらをしては、幻のように消えてしまうからだ。
モニョモニョと口元を動かしながら、ただ南の方角を見つめていた。
このユグディラが居る場所は、人間でいう所の港街だ。
岸壁にも沖合にも多くの船が浮いていた。その中の一隻にユグディラは視線を向ける。
臆病な性格とも言われるユグディラが意を決して駆け出した。
◆南方領域へ至るとある海路
キーンと音を立てて鳥のような雑魔が急降下してくる。
「船長! 雑魔っす!」
慌てる船員。
手には銃や弓を構える者も多い。
だが、雑魔は大空を自由に飛び回り、急降下して一撃離脱してくるのだ。簡単に当たるハズがない。
「弾幕を張れ! 近付けさせるな!」
「帆が邪魔しちまう!」
船員達は帆を傷つけないような位置を探す努力に追われ、とても、反撃どころか、近づけさせない為の弾幕ですら満足に撃てなかった。
帆船は帆に風を受けて進むが、この様な戦闘では邪魔であった。かと言って、帆を畳んでしまえば、推力が落ちてしまい、雑魔の格好の的だ。
「あぁ! 帆がぁ!」
「船体の横っ腹に穴が!」
一方的に空襲を受け、損害を受けた帆船は回頭したのであった。
●港街ガンナ・エントラータ
「『暗黒海域及び南方領域へと向かう船団の支援活動』ですか……」
ソルラ・クート(kz0096)が騎士団本部から届いた命令書に目を通していた。
ゲートの話は耳にしている。王国としても大峡谷(大渓谷)での作戦に協力していた。
「つくづく、都合が良い女になってるな。ソルラの嬢ちゃんはよ」
アルテミス艦隊の旗艦の船長を務めるランドル船長がニヤリと口元を緩めた。
暗黒海域や南方領域への探索は、帝国や同盟と比べる海軍力に劣っている王国は遅れ気味である。
それでも『外交上』あるいは『体面上』などという大人の事情があり――その結果、ソルラにこの命令が下ったという訳だ。
「……否定できない事が悲しいです……」
東方へ北方でも似たような事情でソロ派遣された経緯があるだけにソルラはそう言うしかなかった。
もっとも、裏を返せば、それが出来る人材だという認識をされている事ではあるのだが。
「作戦は空襲をくぐり抜けての敵母船の撃沈か。こりゃ、骨が折れそうだな」
「対空用の武器はありますか?」
「そんなもの、ある訳ないだろう。良くて、弩や弓って程度だ。だが、扱える奴も少ない」
アルテミス艦隊は、同盟が持つような大型帆船ではなく、中小型の帆船が主である。
大型の対空兵装を積める訳もなく、また、それを扱える船員も足りず、訓練もできない。弓を扱うものは居るが、それは極めて少数だ。
「となると、やはり、ハンターなのですね」
「そういう事だな。丁度いい機会に『あれ』も使えるのだろう?」
「借り物ですけどね……実験船のままにしておくのは勿体無いので」
二人の視線の先には、最新の刻令術式外輪船が浮かんでいた。
ソルラの母方の実家の商会が技術開発と訓練を行っていた。リゼリオには富裕層向けの豪華客船まである。
「空襲を突破さえすれば、俺の船や僚船が雑魚を抑えている間に、母船へ突撃できるという寸法だ」
「細かい事はハンター達との打ち合わせになりますが、大筋、その流れになると思います」
その時、ソルラの視界の中に直立している猫のような姿をした何かが入った。
「あれ?」
注視しようと視線を動かした時には、その猫っぽいなにかの姿は掻き消えていたのであった。
●刻令術式外輪船――作戦室――
アルテミス小隊を率いるソルラが集まったハンター達の前に姿を現した。
……が、なんだか、いつもよりも疲れている様子に見える。
「えと、皆さん、よろしくお願いします」
明らかに悲愴感が漂っている。
「今回の作戦は、暗黒海域及び南方領域へと向かう船団を脅かす歪虚船の撃沈が目的です」
モニターには鮮明とは言い難いが戦闘の様子が映し出された。
青い空を我が物顔で飛び回る、鳥の姿をしたような雑魔。
それが帆船に襲いかかっているのだ。
「私達が乗船しているこの船は、刻令術を用いた外輪船です。普段は帆を張って航行していますが、必要時は外輪を動かして推力にできます」
戦闘中は帆を畳んで外輪を回すとの事だ。
改良が進み、外輪を回しながらの回頭も可能となったし、厳しい外洋にも耐えられるようになった。
「雑魔による空襲を掻い潜り、この雑魔の母船となっている歪虚船を撃沈させます」
歪虚船は巨大な鯨のような姿をしていた。
周囲にも魚を模した雑魔船も確認できるが……。
「敵の取り巻きは、別働艦隊が引き付ける事になっていますので、私達は歪虚船に集中できます」
歪虚船は最後まで雑魔を射出してくる可能性は高い。
最後まで対空戦の覚悟をしておいた方が良いかもしれない。
「作戦の詳細はハンターの皆さんにお願いします……そ、そ、それと……」
疲労が伺えるその表情が一転、顔を真っ赤に染めるソルラ。
「ど、どうしてか、船の中に……ユグディラがですね、迷い込んでいまして……」
王国各地でユグディラが絡む事件(?)が頻発していたのと繋がりがあるかどうか分からない。
戦闘に巻き込まれる恐れもあるので、なんとかして見つけ出したかったが、なかなか捕まえられなかったのだ。
「わ、私のですね、その……し、下着を奪って、逃走中なんです!」
ソルラの悲痛な叫びが作戦室に響き渡ったのであった。
リプレイ本文
●
外輪が勢い良く回る。
刻令術を用いた動力だ。これなら、帆を張らずとも海上を疾走する事ができる。
「はー……これが、外輪船ですか」
鬼である鳳城 錬介(ka6053)は初めて見るようであった。思わず船から身を乗り出す。
「風が無くても進めるなんて、技術の進歩は凄いですね」
思わず感心。もっとも、帝国には魔導エンジンを積んだ最新鋭戦艦があるという噂ではあるのだが。
ちなみに、魔導エンジンと刻令術との違いはなんといっても、仕組みの差によるスペースの差だろう。あくまでも術である刻令術を用いた装置は同規模で考えればコンパクトで、クリーンという特徴がある。
ただ、弱点がない訳ではない。例えば、その一つが、錬介が眺めている外輪そのものだ。
「歪虚船に辿り着くまで、全力で守りますね」
「……雑魔を無数に放って来るみたいだから、殲滅力が勝負の決め手になりそうかな?」
シェラリンデ(ka3332)が大胆にも甲板の縁に腰掛けていた。
敵は空を飛んで空襲を仕掛けて来るのだ。それも1体や2体という数はではないだろう。
歪虚船の撃沈も考えれば、今回の戦いは、殲滅力が勝負の分かれ目なのは明らかだった。
「こんなのでも、使いようによっては役に立つだろうしね」
手に持っているのは、網だった。
端には重りが付いている。これを飛んで来る雑魔へと投げつけるつもりなのだ。
幸いな事に、港町が出発だったので、この手の物の調達は容易だった。
「歪虚船……鯨のような姿というとバテンカイトス型の剣機を連想出来るわね」
どういう訳か空を飛ぶそれを思い出しながら言ったのは和音・空(ka6228)だった。
符の調整に余念がない。
「こいつらが原材料で、これから着想を得たとかだったりするのかしら?」
真相の程は分からない。
だが、偶然の一致の可能性もある。少なくとも、今回の歪虚船は空を飛ばない事ではあるが、急に飛び上がって事が無ければとも思う。
「必要なら、歪虚船に直接乗り込むようかな?」
「俺もそう思います」
刀を手にしてながら言ったシェラリンデの言葉に錬介が追随した。
空は符を大事に仕舞いながら頷いて口を開く。
「どの程度、攻撃が通じるか分からないから、もしかして、そうなる可能性も」
高い殲滅力を期待されているが、限度という物が存在する。
その時が来たら総力戦になるだろう。
緊張感流れる甲板の空気を流すように、空が言った。
「っと、それは置いておいて、ソルラさんはどんな下着を盗まれたのかしらね?」
鉄壁の騎士と呼ばれ、アルテミス艦隊の司令となっている女性の姿を思い浮かべた。
その話題は船内のある一室で続けられていた。
ハンターやソルラに割り当てられた大部屋だった。荷物が端にまとめられている。
「ソルラさん……下着って、あの……無いの、こっちでしょうか?」
遠慮気味に尋ねたのは、央崎 遥華(ka5644)だった。
少し気まずそうに、オロオロとしながら股の方にジェスチャーで向ける。
もし、遥華の想像通りだと、今のソルラは下着を身に着けていない事になる。
(……今、履いてないんだ……)
と思わず想像した時音 ざくろ(ka1250)の顔は茹で蛸のように真っ赤だった。アルテミス小隊の制服はワンピースだ。スカート丈が短いので、万が一にも下着を身に着けていなければ……。
ざくろは、そっと、ソルラ・クート(kz0096)に耳打ちする。
「ソルラ……安心して……絶対取り返してあげるから」
「え? あ、あの……」
この女騎士が何か言おうとした所で遥華がローブの裾をしっかりと押さえる。
「私も、盗られたらどうしよう……。あ、でも丈が長いから! 見えたりは……」
万が一でも見えてしまったらどうしよう! と想像して、思わず目を瞑り、もの凄い勢いで頭を振る遥華。
ポンとソルラの肩に、夜桜 奏音(ka5754)が手を置いた。
「落ち込まないでください、ソルラ司令。敵を倒してから取り返しましょう」
励ますように言った奏音に対して、小刻みに頷くソルラ。
「あ、あの……皆さん、何か勘違いしているようですが……その……私……履いてますからね」
ワンピースの裾を手にしながらソルラは宣言した。
安心してくださいというべきか。
「え? でも、盗られたと?」
キョトンとする奏音の質問にソルラは顔を真っ赤にして答える。
そして、“自分達”の荷物を指さした。
「その……海の上ですので、万が一、濡れてしまった場合に備えて持ってきた着替え分のです……」
「ちょっと、待って。着替えって、ざくろ達も?」
「……はい。誰もお聞きにならなかったので、言い出す機会がなくて……」
その時点でサッと遥華が自分の着替えが入った鞄を確認する。
もちろん、奏音も同様だ。
確かに、作戦室でソルラは言った。下着がユグディラに盗まれたと。だが、誰も確認していなかった。もちろん、確認しにくい内容ではあるのだが。
「……私も下着が既に無いです!」
「……同様です」
二人は鞄を静かに閉め――溜息を漏らした。どうして、ユグディラが下着を盗むのか。毛布代わりにでもしようと思っただろうか。それとも、単なる変態ユグディラなのか。
一方、ざくろは安堵している。
「よかった。ざくろのは盗られてないや」
大丈夫だったと安心した彼が振り返ったそこには、憤怒の歪虚ですらも及ばないと思える程の怒りを発する乙女達の姿だった。
「この戦いに集中しなくちゃ!」
グッと杖を握り締める遥華。
「敵を手早く倒して、ユグディラ探しと行きましょうか! ユグディラは会った事が無いので楽しみです!」
奏音は符をしっかりと握っていた。
「やりましょう!」
鉄壁の騎士の宣言と共に、空襲を知らせる鐘が鳴った。
●
巨大なハゲワシのような姿をしている雑魔が、「キーン」と落下音を鳴きながら降下してくる。
足に掴んでいた負のマテリアルの塊――負マテ塊――を船目掛けて落とした。
それに対し、青白く光輝く矢を出現させる遥華。
「降り懸る火の粉は払い除けさせてもらいますから……我が意を示し、穿て!」
魔法の矢が直撃し、負マテ塊は衝撃で落下コースが外れ、海に落ちた。
同時に負のマテリアルが爆発し、高い水柱が立つ。
「空を飛ぶ敵は、面倒でしかありません」
奏音が宙に投げ放った符から稲妻が迸り、別の雑魔を直撃した。
運悪く翼に直撃し、負マテ塊を抱いたまま海面へと堕ちた。
その海面スレスレを更に別の雑魔が高速で飛行して船の側面へと近づく。
だが、再び、稲妻が宙を切り裂く。
「『空』から落ちる雷、存分に味わいなさい?」
風雷の符術を放ったのは、空であった。
頭上を見上げると低く垂れ込めた雲。雷雲ではないが、もし、雷が落ちたら、どっちが高威力なのだろうかと、ふと思った。
空の近くでソウルトーチを用いて囮になっているソルラが飛来した負マテ塊を剣で弾き飛ばす。
「船は絶対に沈めません!」
ソルラに引き寄せられるように急降下する雑魔の行く手を塞ぐようにシェラリンデが網を投げた。
成す術もなく、網によって捕われて落下した。空を飛べないのであれば、倒すのは容易い。
「露払いもそろそろかな?」
マストから飛び降りながら、甲板に落ちた雑魔にトドメを差してシェラリンデは言った。
圧倒的な数の雑魔による空襲を受けているはずなのに彼女らは全く気後れしていなかった。
むしろ、その逆で、物凄い勢いと、女子(威)力を感じる。
「なんと言うか……女子力怖いですね」
錬介はそんな感想を呟いた。
彼も銃で援護射撃をしようと思っていたのだが、これならば、回復に専念した方が良さそうである。
そんなムードの中、突如としてざくろの声が響いた。
「雲の中から来るよ!」
早期の発見が鍵を握るという先祖の手記が役に立った形だ。
雲の切れ目に雑魔の姿が一瞬だけ、チラっと見えたのだ。
「デルタドライブインストール!」
光の筋が伸び、雲の中から奇襲をしかけてきた雑魔らに次々と命中した。
その方向と攻撃は仲間達の注意を引くのに十分だった。
「……氷よ、凍てる矢となりて、突き刺さり、動きを封じよ!」
凍てつく氷の矢が遥華のスタッフから放たれ、直撃した雑魔の動きが鈍くなった所で、銃に持ち替えたシェラリンデが射撃。
「そう簡単には突破させないよ」
きりもみ状に落下しながら雑魔は消え去った。
なおも急降下してくる二体に対し、奏音と空は、船上を舞うように移動しながら符を放つ。
二本の稲妻が交互に雑魔らを直撃した。
「見えてきましたね。空さん、雑魔の母船が」
「可能な限り、符術を打ち込み続けるわ」
二人が再び符を構えた。
鯨のような歪虚船が迫る。
その間も、ハンター達はそれぞれが持てる手段で攻撃を重ねていた。
「接舷して乗り込みます!」
魔導銃からサーベルに持ち替えたソルラが宣言した。
「新しい雑魔が射出される前に、勝負をつけたい所かな」
シェラリンデも短銃身のライフルを甲板に立てかけ、刀を抜き放った。
母船から雑魔が再び出てきたら、必然的に対処しなければならなくなる。その前に畳み掛ける事が肝心だと思ったのだ。
「援護しますが、離れすぎないように注意して下さい」
回復魔法を行使しながら錬介が忠告した。
援護できる範囲もそうだが、歪虚船を撃破した場合、突然、崩れ落ちる可能性があるからだ。
「私も飛び移ります」
遥華が風を纏って船の縁に立ち上がった。ローブがひらひらと開き――見えそうで、見えない。
その彼女の両脇をいくつもの符が宙を駆ける。
「前回のように、消滅してくださるといいのですが」
幾度目かの符術。奏音は先の海戦の事を思い出しながらそう言った。
跡形もなく消滅してくれれば良い。ブクブクと沈んだだけだと倒したかどうか分かりにくいのだ。
「十分に優勢だったら、カメラに姿を押さえてみようかしら?」
空がそんな事を言いながら、それでも強力な符術を繰り出す。
後でなにか気が付ける事がある――かもしれないと思ったからだ。
いよいよ近づいた所で、ざくろは集中していたマテリアルを解き放つ。
「インストーラーフルチャージ完了……喰らえ! 必殺デルタマキシマム!」
強烈な三筋の光が歪虚船へと次々に直撃した。
歪虚船は頑健さを誇ったが、さすがにハンター達の猛攻を耐え切るものではなかった。
第二波を射出する前に、塵となって海へと消えていったのだった。
●
符を甲板に並べ――空が生命を感知する術を行使した。
不可視の結界の中にユグディラが居るかどうか調べているのだ。
(ユグディラが下着を持ったままだと……男性が捕まえた時に見られちゃうかしらね?)
ふと、そんな事を思ったが、今は術に集中する。
妖精の一種のようだが、猫のようでもあるユグディラは、果たして生命と言えるのか否か……。
「……いました。この甲板の真下です」
「確か……倉庫になっているはずです!」
思い出すように言ったソルラの言葉に、遥華と奏音が頷いた。
「ユグディラちゃんはしっかり捕まえないとね」
「敵は片付きましたし、ユグディラ探しと参りましょう」
三人の乙女を先頭に一行は甲板を降りる。
一方、錬介は別の入口の前で、ドンと立った。
「俺は、探知力も機動力も無いので、出入り口を一つ封鎖しておきます」
万が一逃げて来たら、身体を張って止めるか、それとも――持ってきた干物で物々交換できないかと思う。
盗まれた下着というのには深く考えない事にした。あくまでも盗まれた持ち物という気持ちでいようと考え至る。
「『女性は幾つになろうと女の子だ。大事に扱え』と、師匠が言っておりましたし」
一人頷き、空を見上げると、垂れ込めていた雲が晴れてきて、青い空が見え出していた。
甲板を降りて目的の部屋へと近づく中、シェラリンデが口元に手を当てながら呟いた。
「最近の話を聞くと、何か理由がある……にしても……下着を盗むのは、ちょっと許せないよね?」
王国各地でユグディラに絡む依頼が多数出ていた。
依頼だけでそんな状況なのだ。依頼に出てこない事象も含めると、かなりの数の筈だ。
「でも、なんで、海に……しかも、なんで下着」
謎は深まるばかりだ。
ユグディラとは意思の疎通が難しいと聞いている。人語を発する代わりにイメージのようなものを投げかけてくるという。
「観念しなさい」
空がユグディラが居るはずの扉を開けた。
刹那、なにかが飛び出た。素早く反応したソルラがそれを押さえつけるように捕らえる。
「やりまし……って、あれ? なにもない?」
一瞬の隙を突いて本命が飛び出した。とっさに遥華は手を伸ばしたが届かない。
ぴょんと逃げ出すユグディラ。猫のようなモフモフに包まれたそれは――しかし、急に立ち止まった。
ざくろがジェットブーツで先回りしたのだった。鮮やかな手並みでユグディラを掴み上げる。
「よし、捕まえた……あれ? 1つだけじゃない? ソルラのと……じ、事故、事故だから!」
バラバラと落ちた下着にざくろが顔を真っ赤にして弁解する。
1枚、ソルラの下着が頭に乗っているが、だって仕方ない事だ。らきすけなのだから。
「ざ、ざくろさぁぁぁん!」
半泣きで奪え返そうとしたソルラが猫の如く、ざくろに飛びかかり、真横に居た遥華も巻き込まれて3人が無様に転がる。
捕まえたはずのユグディラは再び逃げ出した。
なんとか、自分の下着を確保した遥華は両手でしっかりと握り締める。
「だ、大丈夫だよね……もう、盗られてない、よね?」
そこでハッとした。
この場に男性が居た事に。だが、その男性(ざくろ)は先ほどのソルラタックルにより、伸びているので問題はないだろう。
奏音は落ちた下着の1枚――正確に言うとざくろの頭に乗っていたもの――を手に取った。
「ソ、ソルラさんは、こんなものを日常的に付けているのですね」
その言葉に頭を抑えながら立ち上がったソルラが目を見開く。
「これは、ほら、あくまでも予備ですから!」
「さ、さすが、司令とまでになると……下着までも、凄い……です」
思わず広げた状態で奏音は下着をソルラに渡した。
「いかの鉄壁の騎士とはいえ、うら若き乙女なのですね」
「空さんも、変な感想言わないで下さいぃ~」
ソルラの悲鳴にも似た声が船の中に響いたのであった。
「あれは、ユグディラかな?」
入口を見張っていた錬介が甲板に姿を現したユグディラを見つけた。
どうやら、もっと別の所から出てきたようで、錬介には気がついていないようだ。
「あの方角に、なにかあるのか」
ユグディラは海の彼方、ある方向に顔を向けて、何事も無かったかのように佇んでいたのだった。
飛行する雑魔とその母船である歪虚船を討伐し、アルテミス艦隊の作戦は成功した。
これで南へと向かう船団の驚異の一つを取り除いたのであった。
おしまい
外輪が勢い良く回る。
刻令術を用いた動力だ。これなら、帆を張らずとも海上を疾走する事ができる。
「はー……これが、外輪船ですか」
鬼である鳳城 錬介(ka6053)は初めて見るようであった。思わず船から身を乗り出す。
「風が無くても進めるなんて、技術の進歩は凄いですね」
思わず感心。もっとも、帝国には魔導エンジンを積んだ最新鋭戦艦があるという噂ではあるのだが。
ちなみに、魔導エンジンと刻令術との違いはなんといっても、仕組みの差によるスペースの差だろう。あくまでも術である刻令術を用いた装置は同規模で考えればコンパクトで、クリーンという特徴がある。
ただ、弱点がない訳ではない。例えば、その一つが、錬介が眺めている外輪そのものだ。
「歪虚船に辿り着くまで、全力で守りますね」
「……雑魔を無数に放って来るみたいだから、殲滅力が勝負の決め手になりそうかな?」
シェラリンデ(ka3332)が大胆にも甲板の縁に腰掛けていた。
敵は空を飛んで空襲を仕掛けて来るのだ。それも1体や2体という数はではないだろう。
歪虚船の撃沈も考えれば、今回の戦いは、殲滅力が勝負の分かれ目なのは明らかだった。
「こんなのでも、使いようによっては役に立つだろうしね」
手に持っているのは、網だった。
端には重りが付いている。これを飛んで来る雑魔へと投げつけるつもりなのだ。
幸いな事に、港町が出発だったので、この手の物の調達は容易だった。
「歪虚船……鯨のような姿というとバテンカイトス型の剣機を連想出来るわね」
どういう訳か空を飛ぶそれを思い出しながら言ったのは和音・空(ka6228)だった。
符の調整に余念がない。
「こいつらが原材料で、これから着想を得たとかだったりするのかしら?」
真相の程は分からない。
だが、偶然の一致の可能性もある。少なくとも、今回の歪虚船は空を飛ばない事ではあるが、急に飛び上がって事が無ければとも思う。
「必要なら、歪虚船に直接乗り込むようかな?」
「俺もそう思います」
刀を手にしてながら言ったシェラリンデの言葉に錬介が追随した。
空は符を大事に仕舞いながら頷いて口を開く。
「どの程度、攻撃が通じるか分からないから、もしかして、そうなる可能性も」
高い殲滅力を期待されているが、限度という物が存在する。
その時が来たら総力戦になるだろう。
緊張感流れる甲板の空気を流すように、空が言った。
「っと、それは置いておいて、ソルラさんはどんな下着を盗まれたのかしらね?」
鉄壁の騎士と呼ばれ、アルテミス艦隊の司令となっている女性の姿を思い浮かべた。
その話題は船内のある一室で続けられていた。
ハンターやソルラに割り当てられた大部屋だった。荷物が端にまとめられている。
「ソルラさん……下着って、あの……無いの、こっちでしょうか?」
遠慮気味に尋ねたのは、央崎 遥華(ka5644)だった。
少し気まずそうに、オロオロとしながら股の方にジェスチャーで向ける。
もし、遥華の想像通りだと、今のソルラは下着を身に着けていない事になる。
(……今、履いてないんだ……)
と思わず想像した時音 ざくろ(ka1250)の顔は茹で蛸のように真っ赤だった。アルテミス小隊の制服はワンピースだ。スカート丈が短いので、万が一にも下着を身に着けていなければ……。
ざくろは、そっと、ソルラ・クート(kz0096)に耳打ちする。
「ソルラ……安心して……絶対取り返してあげるから」
「え? あ、あの……」
この女騎士が何か言おうとした所で遥華がローブの裾をしっかりと押さえる。
「私も、盗られたらどうしよう……。あ、でも丈が長いから! 見えたりは……」
万が一でも見えてしまったらどうしよう! と想像して、思わず目を瞑り、もの凄い勢いで頭を振る遥華。
ポンとソルラの肩に、夜桜 奏音(ka5754)が手を置いた。
「落ち込まないでください、ソルラ司令。敵を倒してから取り返しましょう」
励ますように言った奏音に対して、小刻みに頷くソルラ。
「あ、あの……皆さん、何か勘違いしているようですが……その……私……履いてますからね」
ワンピースの裾を手にしながらソルラは宣言した。
安心してくださいというべきか。
「え? でも、盗られたと?」
キョトンとする奏音の質問にソルラは顔を真っ赤にして答える。
そして、“自分達”の荷物を指さした。
「その……海の上ですので、万が一、濡れてしまった場合に備えて持ってきた着替え分のです……」
「ちょっと、待って。着替えって、ざくろ達も?」
「……はい。誰もお聞きにならなかったので、言い出す機会がなくて……」
その時点でサッと遥華が自分の着替えが入った鞄を確認する。
もちろん、奏音も同様だ。
確かに、作戦室でソルラは言った。下着がユグディラに盗まれたと。だが、誰も確認していなかった。もちろん、確認しにくい内容ではあるのだが。
「……私も下着が既に無いです!」
「……同様です」
二人は鞄を静かに閉め――溜息を漏らした。どうして、ユグディラが下着を盗むのか。毛布代わりにでもしようと思っただろうか。それとも、単なる変態ユグディラなのか。
一方、ざくろは安堵している。
「よかった。ざくろのは盗られてないや」
大丈夫だったと安心した彼が振り返ったそこには、憤怒の歪虚ですらも及ばないと思える程の怒りを発する乙女達の姿だった。
「この戦いに集中しなくちゃ!」
グッと杖を握り締める遥華。
「敵を手早く倒して、ユグディラ探しと行きましょうか! ユグディラは会った事が無いので楽しみです!」
奏音は符をしっかりと握っていた。
「やりましょう!」
鉄壁の騎士の宣言と共に、空襲を知らせる鐘が鳴った。
●
巨大なハゲワシのような姿をしている雑魔が、「キーン」と落下音を鳴きながら降下してくる。
足に掴んでいた負のマテリアルの塊――負マテ塊――を船目掛けて落とした。
それに対し、青白く光輝く矢を出現させる遥華。
「降り懸る火の粉は払い除けさせてもらいますから……我が意を示し、穿て!」
魔法の矢が直撃し、負マテ塊は衝撃で落下コースが外れ、海に落ちた。
同時に負のマテリアルが爆発し、高い水柱が立つ。
「空を飛ぶ敵は、面倒でしかありません」
奏音が宙に投げ放った符から稲妻が迸り、別の雑魔を直撃した。
運悪く翼に直撃し、負マテ塊を抱いたまま海面へと堕ちた。
その海面スレスレを更に別の雑魔が高速で飛行して船の側面へと近づく。
だが、再び、稲妻が宙を切り裂く。
「『空』から落ちる雷、存分に味わいなさい?」
風雷の符術を放ったのは、空であった。
頭上を見上げると低く垂れ込めた雲。雷雲ではないが、もし、雷が落ちたら、どっちが高威力なのだろうかと、ふと思った。
空の近くでソウルトーチを用いて囮になっているソルラが飛来した負マテ塊を剣で弾き飛ばす。
「船は絶対に沈めません!」
ソルラに引き寄せられるように急降下する雑魔の行く手を塞ぐようにシェラリンデが網を投げた。
成す術もなく、網によって捕われて落下した。空を飛べないのであれば、倒すのは容易い。
「露払いもそろそろかな?」
マストから飛び降りながら、甲板に落ちた雑魔にトドメを差してシェラリンデは言った。
圧倒的な数の雑魔による空襲を受けているはずなのに彼女らは全く気後れしていなかった。
むしろ、その逆で、物凄い勢いと、女子(威)力を感じる。
「なんと言うか……女子力怖いですね」
錬介はそんな感想を呟いた。
彼も銃で援護射撃をしようと思っていたのだが、これならば、回復に専念した方が良さそうである。
そんなムードの中、突如としてざくろの声が響いた。
「雲の中から来るよ!」
早期の発見が鍵を握るという先祖の手記が役に立った形だ。
雲の切れ目に雑魔の姿が一瞬だけ、チラっと見えたのだ。
「デルタドライブインストール!」
光の筋が伸び、雲の中から奇襲をしかけてきた雑魔らに次々と命中した。
その方向と攻撃は仲間達の注意を引くのに十分だった。
「……氷よ、凍てる矢となりて、突き刺さり、動きを封じよ!」
凍てつく氷の矢が遥華のスタッフから放たれ、直撃した雑魔の動きが鈍くなった所で、銃に持ち替えたシェラリンデが射撃。
「そう簡単には突破させないよ」
きりもみ状に落下しながら雑魔は消え去った。
なおも急降下してくる二体に対し、奏音と空は、船上を舞うように移動しながら符を放つ。
二本の稲妻が交互に雑魔らを直撃した。
「見えてきましたね。空さん、雑魔の母船が」
「可能な限り、符術を打ち込み続けるわ」
二人が再び符を構えた。
鯨のような歪虚船が迫る。
その間も、ハンター達はそれぞれが持てる手段で攻撃を重ねていた。
「接舷して乗り込みます!」
魔導銃からサーベルに持ち替えたソルラが宣言した。
「新しい雑魔が射出される前に、勝負をつけたい所かな」
シェラリンデも短銃身のライフルを甲板に立てかけ、刀を抜き放った。
母船から雑魔が再び出てきたら、必然的に対処しなければならなくなる。その前に畳み掛ける事が肝心だと思ったのだ。
「援護しますが、離れすぎないように注意して下さい」
回復魔法を行使しながら錬介が忠告した。
援護できる範囲もそうだが、歪虚船を撃破した場合、突然、崩れ落ちる可能性があるからだ。
「私も飛び移ります」
遥華が風を纏って船の縁に立ち上がった。ローブがひらひらと開き――見えそうで、見えない。
その彼女の両脇をいくつもの符が宙を駆ける。
「前回のように、消滅してくださるといいのですが」
幾度目かの符術。奏音は先の海戦の事を思い出しながらそう言った。
跡形もなく消滅してくれれば良い。ブクブクと沈んだだけだと倒したかどうか分かりにくいのだ。
「十分に優勢だったら、カメラに姿を押さえてみようかしら?」
空がそんな事を言いながら、それでも強力な符術を繰り出す。
後でなにか気が付ける事がある――かもしれないと思ったからだ。
いよいよ近づいた所で、ざくろは集中していたマテリアルを解き放つ。
「インストーラーフルチャージ完了……喰らえ! 必殺デルタマキシマム!」
強烈な三筋の光が歪虚船へと次々に直撃した。
歪虚船は頑健さを誇ったが、さすがにハンター達の猛攻を耐え切るものではなかった。
第二波を射出する前に、塵となって海へと消えていったのだった。
●
符を甲板に並べ――空が生命を感知する術を行使した。
不可視の結界の中にユグディラが居るかどうか調べているのだ。
(ユグディラが下着を持ったままだと……男性が捕まえた時に見られちゃうかしらね?)
ふと、そんな事を思ったが、今は術に集中する。
妖精の一種のようだが、猫のようでもあるユグディラは、果たして生命と言えるのか否か……。
「……いました。この甲板の真下です」
「確か……倉庫になっているはずです!」
思い出すように言ったソルラの言葉に、遥華と奏音が頷いた。
「ユグディラちゃんはしっかり捕まえないとね」
「敵は片付きましたし、ユグディラ探しと参りましょう」
三人の乙女を先頭に一行は甲板を降りる。
一方、錬介は別の入口の前で、ドンと立った。
「俺は、探知力も機動力も無いので、出入り口を一つ封鎖しておきます」
万が一逃げて来たら、身体を張って止めるか、それとも――持ってきた干物で物々交換できないかと思う。
盗まれた下着というのには深く考えない事にした。あくまでも盗まれた持ち物という気持ちでいようと考え至る。
「『女性は幾つになろうと女の子だ。大事に扱え』と、師匠が言っておりましたし」
一人頷き、空を見上げると、垂れ込めていた雲が晴れてきて、青い空が見え出していた。
甲板を降りて目的の部屋へと近づく中、シェラリンデが口元に手を当てながら呟いた。
「最近の話を聞くと、何か理由がある……にしても……下着を盗むのは、ちょっと許せないよね?」
王国各地でユグディラに絡む依頼が多数出ていた。
依頼だけでそんな状況なのだ。依頼に出てこない事象も含めると、かなりの数の筈だ。
「でも、なんで、海に……しかも、なんで下着」
謎は深まるばかりだ。
ユグディラとは意思の疎通が難しいと聞いている。人語を発する代わりにイメージのようなものを投げかけてくるという。
「観念しなさい」
空がユグディラが居るはずの扉を開けた。
刹那、なにかが飛び出た。素早く反応したソルラがそれを押さえつけるように捕らえる。
「やりまし……って、あれ? なにもない?」
一瞬の隙を突いて本命が飛び出した。とっさに遥華は手を伸ばしたが届かない。
ぴょんと逃げ出すユグディラ。猫のようなモフモフに包まれたそれは――しかし、急に立ち止まった。
ざくろがジェットブーツで先回りしたのだった。鮮やかな手並みでユグディラを掴み上げる。
「よし、捕まえた……あれ? 1つだけじゃない? ソルラのと……じ、事故、事故だから!」
バラバラと落ちた下着にざくろが顔を真っ赤にして弁解する。
1枚、ソルラの下着が頭に乗っているが、だって仕方ない事だ。らきすけなのだから。
「ざ、ざくろさぁぁぁん!」
半泣きで奪え返そうとしたソルラが猫の如く、ざくろに飛びかかり、真横に居た遥華も巻き込まれて3人が無様に転がる。
捕まえたはずのユグディラは再び逃げ出した。
なんとか、自分の下着を確保した遥華は両手でしっかりと握り締める。
「だ、大丈夫だよね……もう、盗られてない、よね?」
そこでハッとした。
この場に男性が居た事に。だが、その男性(ざくろ)は先ほどのソルラタックルにより、伸びているので問題はないだろう。
奏音は落ちた下着の1枚――正確に言うとざくろの頭に乗っていたもの――を手に取った。
「ソ、ソルラさんは、こんなものを日常的に付けているのですね」
その言葉に頭を抑えながら立ち上がったソルラが目を見開く。
「これは、ほら、あくまでも予備ですから!」
「さ、さすが、司令とまでになると……下着までも、凄い……です」
思わず広げた状態で奏音は下着をソルラに渡した。
「いかの鉄壁の騎士とはいえ、うら若き乙女なのですね」
「空さんも、変な感想言わないで下さいぃ~」
ソルラの悲鳴にも似た声が船の中に響いたのであった。
「あれは、ユグディラかな?」
入口を見張っていた錬介が甲板に姿を現したユグディラを見つけた。
どうやら、もっと別の所から出てきたようで、錬介には気がついていないようだ。
「あの方角に、なにかあるのか」
ユグディラは海の彼方、ある方向に顔を向けて、何事も無かったかのように佇んでいたのだった。
飛行する雑魔とその母船である歪虚船を討伐し、アルテミス艦隊の作戦は成功した。
これで南へと向かう船団の驚異の一つを取り除いたのであった。
おしまい
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/09/16 19:25:09 |
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【相談卓】アルテミス海戦 鳳城 錬介(ka6053) 鬼|19才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/09/18 20:23:40 |