ゲスト
(ka0000)
【蒼乱】地下都市防衛戦 side王の間
マスター:葉槻

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2016/09/19 07:30
- 完成日
- 2016/09/27 19:11
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「ムキーッ! でち」「ムカーッ! でち」
「「この恨み、晴らさで置くべきかーでち!」」
マシュとマロは自分達の住処である岩肌にぽかぽかと殴りを入れたり、悔しさにじったんばったんと床を転がっていた。
「ヒトのくせに!」「犬っころのくせに!」
「「生意気でちーっ!!」」
半分以上自分達がうっかり久しぶりの『他人との会話』に興じてしまった為だということは棚に上げて、地ベタに座り込むと白い尾で床を叩く。
「こうなったら」「あれをやるしか」
「「ミナゴロシの刑に処すでちーっ!!」」
後日、いくつかのコボルドの群れが竜に襲われ、全滅した。
しかし、本当の悲劇はこの数日後に発覚することとなる。
●
日中の気温が40度を下回ることは無い。その為、砂漠での長時間の移動が必要となる場合は、日中は休み、日没から移動するのが良いのだという。
初めての本格的な砂漠移動を前に、イズン・コスロヴァ(kz0144)はリアルブルーの砂漠出身者が纏めたという『砂漠ハウツー』なる本を取り寄せ読んでいたが、どうやら砂漠と一言で纏めても地域によって温度・湿度・砂の形状などが全て異なるらしいと身をもって痛感していた。
「モウ少シ先に、オアシスガ、アル。今日ハ、ソコマデ」
砂漠縦断の旅、3日目。
最初、オアシスからケン達の本拠地まではスムーズに行っても片道7日かかるのだと聞いた時、イズンは頭痛を訴えるこめかみを押さえたものだった。
移動時には見えていた冴え冴えとした上弦の月は地平線に沈み、ただただ煩いくらいの星の瞬きが頭上を照らしている。
今日はこれからオアシスの浄化を試み、休み、また日没後に移動を開始するのだろう。
日中の暑さに初日こそ休むことが困難だったが、翌日には疲労が勝ち、意識を失ったように眠れた自分に驚くより先に呆れ、軍人としての意識が足りないのでは無いかと軽く自己嫌悪に陥ったイズンだった。
ケン達と話す内に判ってきたことが幾つかある。
彼らはあのオアシスそばの海岸線で取れるマテリアル鉱石を採取にきていたのだという。
要約すれば「たまたま居合わせたのは幸運でした」と嬉しそうに尻尾を振るケンが言っていた。
また、ケン達コボルドが何故青い布を全身からすっぽりと纏わせているのか。
「青はチズムの証」との事で、他にも緑、黄、桃などの群れがいるらしく、ケンの父親が率いる群れの名を『チズム』と言うらしい。
「衣ハ、遺跡カラ見ツカル。見ツカッタ色ハ、ソノ群レに渡ス」
遺跡は共用の財産であり、そこから見つかる遺跡物はその色ごとに分配するのだという。
衣以外にも武器や何に使うのか判らない道具が見つかることもあるらしく、ケンは青銅で出来た剣を携えていた。
見れば、ケンの周囲にいるコボルド達も皆、柄まで全て石で出来た石槍や石剣を持っており、襲撃された際にはこれで戦う事もあるらしい。
が、基本は逃げる。彼らは蜘蛛の子を散らしたかのようにさぁっとてんでばらばらの方向へと逃げる。
そして、脅威が去ると自然とまた集まるのだから不思議だが、ケン曰く「何となく判る」というのだから、本能的な何かなのか、優れた嗅覚によるものなのかもしれない。
術士曰く。
ケン達コボルドが道中の目印代わりにしている枯れたような草やサボテンが生えている地点とはすなわち龍脈の上であるらしい。
そして、オアシスが湧くところは龍穴点――龍脈でも力のある所――であり、恐らく彼らコボルドはそれを本能で察知しているのだろうと。
ただ、全てのオアシスが転移門を造れるほどの力があるとは限らない。が、一つ一つの龍脈を浄化しなければハンター達は身体を休めることも出来ない。
結局イズン達は道中のオアシス分のイニシャライザーと術者を護衛しつつ、ひたすらに南下していった。
●
砂漠を進むにつれ、徐々にさらさらの砂砂漠からやや礫が混じるようになり、ついには風に砂が吹き飛ばされ岩盤がむき出しとなっている箇所が増えた。
少しずつ背の低い雑草が見えるようになるが、相変わらず樹はオアシス周囲以外では生えていない。
そして進行方向には砂の地平線では無く、岩肌の露出した山々が見えるようになってきていた。
7日目。
さらにそれは近付けば近付いただけ、奇異なかたちをしていることに気付く。
キノコのように傘を被っているように見える岩、トウモロコシのようなかたちをした岩、ヒトの指が空を掴もうとしているようなかたち。
煌々とした満月が周囲を幻想的に照らし出していた。
奇岩が立ち並ぶ中、もっと近付けば、いつくか穴が開いていることにも気付く。
「コノ地下、全部、遺跡」
「全部、ですか?」
ケンに説明を乞えば、ケンは何ともない事のように答えた。
「ソウ。トッテモ、広イ。深イ。中、迷ウ。ダカラ、持ッテ帰ッテクル、と、褒メラレル」
その時、今まで穏やかに会話をしていたケンが、くん、と鼻を鳴らすと、犬歯をむき出しにして唸った。
「竜の臭イ……! 父上っ!!」
ケンは乗っていたラクダの腹を蹴り、手綱を引くと、全速力で岩と岩の間を走って行く。
ケンを追って、他のコボルド達も一斉に走り出す。
「っ! 追います! 6名は術士の護衛最優先、オアシスへ引き返し、待機。残り12名は私と来て下さい」
イズンがハンター達に向けて叫ぶと、最後尾を走るコボルドの後に付いてラクダを駆った。
「狭い場所を行くから、大きい動物は入れない」そう、ケンが予め言っていたので今回ハンター達にユニットは置いてきて貰ったのだが、なるほどと後を追いながらイズンは納得する。
岩と岩の間、さらには岩の中を駆け抜け、くりぬかれた空間を幾つも通り過ぎる。確かにここはユニットを操作するには向かない。
コボルド達がラクダを降りた所でイズンもラクダを降りると、その後を付いて懸命に走った。
どれほど奥へ進んだか。そろそろ息が上がろうと言う頃に、ようやくイズンは剣を構え立つケンに追いついた。
細い三叉路。ケン達コボルド前には、アルマジロのような強欲竜が道を塞いでいた。
「……父上……っ!」
「ケン殿、お父上はこの先ですか?」
「ソウ」
ケンの視線が左右の通路を見た後、耳がピコピコと動く。
「……ケド、地上カラモ、マダ来ル……! アノ、双子竜」
「わかりました。従者の方に道案内を頼めますか。地上への道はハンターが向かいます」
イズンは背後にいるハンター達を振り返り、「いいですね?」と視線だけで問う。
頷いた6人が一斉に従者のコボルドと共に右の道へと走って行った。
「コレは、凄ク、硬イ。他ニモ、リザードマン、イッパイイル。気ヲ付ケテ」
「判りました」
イズンは頷くと大きく弓を引き絞った。
「ムキーッ! でち」「ムカーッ! でち」
「「この恨み、晴らさで置くべきかーでち!」」
マシュとマロは自分達の住処である岩肌にぽかぽかと殴りを入れたり、悔しさにじったんばったんと床を転がっていた。
「ヒトのくせに!」「犬っころのくせに!」
「「生意気でちーっ!!」」
半分以上自分達がうっかり久しぶりの『他人との会話』に興じてしまった為だということは棚に上げて、地ベタに座り込むと白い尾で床を叩く。
「こうなったら」「あれをやるしか」
「「ミナゴロシの刑に処すでちーっ!!」」
後日、いくつかのコボルドの群れが竜に襲われ、全滅した。
しかし、本当の悲劇はこの数日後に発覚することとなる。
●
日中の気温が40度を下回ることは無い。その為、砂漠での長時間の移動が必要となる場合は、日中は休み、日没から移動するのが良いのだという。
初めての本格的な砂漠移動を前に、イズン・コスロヴァ(kz0144)はリアルブルーの砂漠出身者が纏めたという『砂漠ハウツー』なる本を取り寄せ読んでいたが、どうやら砂漠と一言で纏めても地域によって温度・湿度・砂の形状などが全て異なるらしいと身をもって痛感していた。
「モウ少シ先に、オアシスガ、アル。今日ハ、ソコマデ」
砂漠縦断の旅、3日目。
最初、オアシスからケン達の本拠地まではスムーズに行っても片道7日かかるのだと聞いた時、イズンは頭痛を訴えるこめかみを押さえたものだった。
移動時には見えていた冴え冴えとした上弦の月は地平線に沈み、ただただ煩いくらいの星の瞬きが頭上を照らしている。
今日はこれからオアシスの浄化を試み、休み、また日没後に移動を開始するのだろう。
日中の暑さに初日こそ休むことが困難だったが、翌日には疲労が勝ち、意識を失ったように眠れた自分に驚くより先に呆れ、軍人としての意識が足りないのでは無いかと軽く自己嫌悪に陥ったイズンだった。
ケン達と話す内に判ってきたことが幾つかある。
彼らはあのオアシスそばの海岸線で取れるマテリアル鉱石を採取にきていたのだという。
要約すれば「たまたま居合わせたのは幸運でした」と嬉しそうに尻尾を振るケンが言っていた。
また、ケン達コボルドが何故青い布を全身からすっぽりと纏わせているのか。
「青はチズムの証」との事で、他にも緑、黄、桃などの群れがいるらしく、ケンの父親が率いる群れの名を『チズム』と言うらしい。
「衣ハ、遺跡カラ見ツカル。見ツカッタ色ハ、ソノ群レに渡ス」
遺跡は共用の財産であり、そこから見つかる遺跡物はその色ごとに分配するのだという。
衣以外にも武器や何に使うのか判らない道具が見つかることもあるらしく、ケンは青銅で出来た剣を携えていた。
見れば、ケンの周囲にいるコボルド達も皆、柄まで全て石で出来た石槍や石剣を持っており、襲撃された際にはこれで戦う事もあるらしい。
が、基本は逃げる。彼らは蜘蛛の子を散らしたかのようにさぁっとてんでばらばらの方向へと逃げる。
そして、脅威が去ると自然とまた集まるのだから不思議だが、ケン曰く「何となく判る」というのだから、本能的な何かなのか、優れた嗅覚によるものなのかもしれない。
術士曰く。
ケン達コボルドが道中の目印代わりにしている枯れたような草やサボテンが生えている地点とはすなわち龍脈の上であるらしい。
そして、オアシスが湧くところは龍穴点――龍脈でも力のある所――であり、恐らく彼らコボルドはそれを本能で察知しているのだろうと。
ただ、全てのオアシスが転移門を造れるほどの力があるとは限らない。が、一つ一つの龍脈を浄化しなければハンター達は身体を休めることも出来ない。
結局イズン達は道中のオアシス分のイニシャライザーと術者を護衛しつつ、ひたすらに南下していった。
●
砂漠を進むにつれ、徐々にさらさらの砂砂漠からやや礫が混じるようになり、ついには風に砂が吹き飛ばされ岩盤がむき出しとなっている箇所が増えた。
少しずつ背の低い雑草が見えるようになるが、相変わらず樹はオアシス周囲以外では生えていない。
そして進行方向には砂の地平線では無く、岩肌の露出した山々が見えるようになってきていた。
7日目。
さらにそれは近付けば近付いただけ、奇異なかたちをしていることに気付く。
キノコのように傘を被っているように見える岩、トウモロコシのようなかたちをした岩、ヒトの指が空を掴もうとしているようなかたち。
煌々とした満月が周囲を幻想的に照らし出していた。
奇岩が立ち並ぶ中、もっと近付けば、いつくか穴が開いていることにも気付く。
「コノ地下、全部、遺跡」
「全部、ですか?」
ケンに説明を乞えば、ケンは何ともない事のように答えた。
「ソウ。トッテモ、広イ。深イ。中、迷ウ。ダカラ、持ッテ帰ッテクル、と、褒メラレル」
その時、今まで穏やかに会話をしていたケンが、くん、と鼻を鳴らすと、犬歯をむき出しにして唸った。
「竜の臭イ……! 父上っ!!」
ケンは乗っていたラクダの腹を蹴り、手綱を引くと、全速力で岩と岩の間を走って行く。
ケンを追って、他のコボルド達も一斉に走り出す。
「っ! 追います! 6名は術士の護衛最優先、オアシスへ引き返し、待機。残り12名は私と来て下さい」
イズンがハンター達に向けて叫ぶと、最後尾を走るコボルドの後に付いてラクダを駆った。
「狭い場所を行くから、大きい動物は入れない」そう、ケンが予め言っていたので今回ハンター達にユニットは置いてきて貰ったのだが、なるほどと後を追いながらイズンは納得する。
岩と岩の間、さらには岩の中を駆け抜け、くりぬかれた空間を幾つも通り過ぎる。確かにここはユニットを操作するには向かない。
コボルド達がラクダを降りた所でイズンもラクダを降りると、その後を付いて懸命に走った。
どれほど奥へ進んだか。そろそろ息が上がろうと言う頃に、ようやくイズンは剣を構え立つケンに追いついた。
細い三叉路。ケン達コボルド前には、アルマジロのような強欲竜が道を塞いでいた。
「……父上……っ!」
「ケン殿、お父上はこの先ですか?」
「ソウ」
ケンの視線が左右の通路を見た後、耳がピコピコと動く。
「……ケド、地上カラモ、マダ来ル……! アノ、双子竜」
「わかりました。従者の方に道案内を頼めますか。地上への道はハンターが向かいます」
イズンは背後にいるハンター達を振り返り、「いいですね?」と視線だけで問う。
頷いた6人が一斉に従者のコボルドと共に右の道へと走って行った。
「コレは、凄ク、硬イ。他ニモ、リザードマン、イッパイイル。気ヲ付ケテ」
「判りました」
イズンは頷くと大きく弓を引き絞った。
リプレイ本文
●迷宮狂詩曲
狭い三叉路の進行方向にはグリプトドンが通路の真ん中で待ち構えている。
「此方の足止め……というところでしょうか。まぁ……立ち塞がるのであれば、打倒してでも通らせてもらいますがね」
遠退く6人と4匹の足音を聞きながら、フィルメリア・クリスティア(ka3380)はインストーラーの『エウカリス』を構える。
「迷路タイムアタック、か。チェックメイトはさせねぇよ」
その横で央崎 枢(ka5153)もガラティンを構え……その切っ先で天井を掻いた。
「っと。気を付けないと」
脇のホルターに入っているイグナイテッドにちらりと目をやり、適宜使い分ける事を視野に入れる。
その2人の後ろには身を低くし青銅剣を構えたケンとケンから視線を逸らし、落ち着き無くシルバースカルを触るティス・フュラー(ka3006)がいる。
(父上……か。今更だけど、今まで倒してきたコボルトやゴブリンたちにも家族はいたのよね)
ちらりと横目でケンを見て、再び視線を地面に落とす。
(……私もいつか、家族を戦火の中で失うのかしら)
脳裏を過ぎるのは4人の姉と2人の妹の顔。
「何者だろうと邪魔する奴は屠り尽くすまでだ!」
そんな勇ましいコーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)の言葉に、ティスははっと顔を上げた。
(でも今は、そんな事を気にしてもしょうがないわね。王の間へ急がなくちゃ……)
頭を振って気持ちを入れ替えると、ティスもまたプロト・サームを握り締めた。
6人が駆けていった地上へと繋がる道へイズン・コスロヴァ(kz0144)とコーネリアがそれぞれ弓と銃を構え、その後ろにマリエル(ka0116)、3人の前に近接攻撃がメインのテノール(ka5676)が立つ。
グリプトドンがゲッゲッという音を立てて大きく口を開くと空気砲を放った。
咄嗟に盾を構えたフィルメリアも含め、枢、ティス、ケンはその衝撃にそれぞれダメージを負う。
フィルメリアとしては出来るなら後衛に当たるティス、ケン、イズン、コーネリア、マリエルにはこの空気砲の範囲外にいて欲しかったが、そうすると道が湾曲している関係から彼らの攻撃や支援も届かなくなる。
フィルメリアはそれを苦々しく思いながら、じりじりと前後に足を広げて腰を落とす。
その横をティスの高威力の稲妻が駆け抜けた。それを追うようにテノールの拳がグリプトドンの額を殴打した。
酷く硬い音が響き、バックステップで後続に道を譲ったテノールは思わず殴り付けた右手を苛立たしげに何度か振った。
フィルメリアはそれを見て魔導符剣を納刀すると、右手に蒼光剣を顕現させ、それをグリプトドンの側面へと叩き込んだ。
通路全体を揺るがすようなビャオゥという大音量の鳴き声が響く。
「やはり……弱点は魔法攻撃」
フィルメリアやみんなの攻撃を見て枢はふむ、と頷く。
リアルブルーにいた頃、似たような恐竜を図鑑で見た事があった。
背中の硬い部分は鱗や甲羅ではなく、骨だという解説を見て驚いたのを覚えている。
もしも、あれと同等の物であるならば、引っ剥がすのも繋ぎ目を狙うのも困難だろう。
「なら、足から削ぐ!」
魔法攻撃は出来ない分、物理攻撃の通りそうな所を探すしかない。
枢は壁を蹴り飛び上がると天井とグリプトドンの僅かな間を飛び抜け、着地と同時に尻尾へと斬り付ける。
コーネリアがエタンドルE66を構え、冷気を纏った弾丸を撃った。
ピシピシと氷の張る音がして、グリプトドンの足元が凍り付く。
そこへ低い風切り音を立ててイズンの矢がグリプトドンの表皮を削る。
ケンもまた剣を突き立てるが、ガチンという岩を打ったような音が響き、ケンの両手に強いしびれが走る。
「ケンさん。心配だとは思いますが落ち着いてまいりましょう」
ケンの焦る気持ちを紛らわせようと、マリエルは柔らかな声音と癒しの力でケンを包む。
マリエルには家族の記憶は無かったが、大切な人はいる。だからケンの父親を心配する気持ちが伝わって来て、安心して貰える様に声をかけたいと思った。
「私たちに出来ることを確実に行いましょう。まずはそれに尽くす事が結果的に早く救うことに繋がるのだと思います」
マリエルの言葉と微笑みに、ケンもまた耳を伏せながら静かに頷いた。
氷の束縛から脱したグリプトドンが身体を丸めてフィルメリアに体当たりを仕掛ける。
「っ!」
盾が間に合わず足に鈍い痛みが走る。
ティスが再度轟音と共にライトニングボルトをグリプトドンへ放つ。
「……ふっ、中々しぶとい」
コーネリアが片眉を跳ね上げると赤い唇を釣り上げた。
全員が焦る思いを抑えながら、目の前の敵を倒すべく各々の得物を握り直した。
二体のグリプトドンと両手分のリザードマンを屠り、更に7人と1匹は地下へと降りていく。
「またいた……!」
魔導師タイプのリザードマンを見つけ、枢は走り寄ると刺突でその胴を切り裂き、横の僅かに空いた隙間からリザードマンの背後へと回る。
その後を追ってフィルメリアも魔導符剣を突き刺し、捻り引き抜く。
「物量作戦というのはな、全滅覚悟でやるものだ。その気があるのならいくらでも相手してやる!」
さらにコーネリアとイズンがタイミングを合わせて弾丸と矢を放つ。
魔導師タイプはおおよそこの連携があれば仕留めることが出来た。
剣士タイプであれば前衛のどちらかが引き付けている所を、仲間の間を縫うように放たれたティスのライトニングボルトとコーネリアの銃弾、イズンの弓矢が削り、手空きの前衛が留めを刺す。
その間、背後からの奇襲がないか、マリエルとテノールは警戒しながら確認を取りながら進んでいた。
「どうしたんですか?」
足を止めたテノールにマリエルが首を傾げた。
「ここなら、直線だから戦いやすいかな、って。気にしないで、先に行ってて」
にこりと微笑みテノールはマリエルに軽く手を振る。
前からはまた激しい剣戟の音が響いてきた。恐らくグリプトドンがいたのだろう。マリエルは後ろ髪を引かれながらも、怪我人がでないことを祈りながら走って行く。
「さて」
テノールは振り返り、天井に両掌を押しつけるようにして軽く背筋を伸ばす。首を左右に折ってコキリと鳴らすと、次いで指の関節もコキパキと鳴らした。
「トカゲ、ここは通行止めだ。通りたければ俺を殺してみろ?」
テノールの視線の先には3体のリザードマンがそれぞれの得物を構えながら慎重にテノールとの距離を縮めてきていた。
テノールが大地を強く踏みしめた次の瞬間、彼は先頭のリザードマンの眼前にいた。
殴るでもなく、ただ、触れるだけ。それだけでそのリザードマンは腹部に穴を開けて転がった。
それでもタダでは死なぬと足元目がけて払われた剣は、身を屈めながら跳んで躱す。
次いで奥の一体から突き出された剣はリパルションで受け流し、顔目がけて飛んできた火矢は右腕で受けた。
その腕の隙間から覗く瞳は氷よりも冷たい蒼。それを三日月のように細めると腰を落とした。
「食い荒らせ青龍」
練り上げた全身のマテリアルを右の拳に集め、一気に放出する。テノールの瞳とよく似た蒼白い龍が3体のリザードマンを飲み込んだ。
フィルメリアがファイアスローワーで前から近寄ってくるリザードマン達を焼き払いながら、隣の空き部屋へと後退する。
さらにティスがライトニングボルトを使い分けながら、なるべく複数の敵を巻き込むよう引き付けて攻撃しながらその後に続いた。
怒りの形相で2人を追ってきた手負いのリザードマン達はそこでコーネリアによる制圧射撃を受けてパニックになった。
フィルメリアは魔導符剣を構えるとこの機を逃さないよう、力強く地を蹴った。
「なに、俺に壁ドン? ノーノー、お断りだってば」
その手前の通路では枢は体当たりを仕掛けてきたグリプトドンを軽やかに避けると、ニヤリと口元を歪め、親指で首を軽く一掻きしてみせる。
「――こうなるよ? 疾影士を壁に追い詰めると」
そして壁を駆け上がると落下する勢いと共に回転を加え、赤い光を伴いながら大剣をその硬い装甲へと突き立てた。
そこへイズンの強弾とテノールの縮地と鎧徹しが炸裂し、グリプトドンは塵へと還っていく。
「これで、4体ですね」
水神切兼光を納刀しながら、マリエルがほぅ、と溜息を吐いた。
「デモマダ、リザードマンイル。気ヲ付ケテ」
ケンの言葉に4人は頷き、前から来たリザードマンの群れを相手取っている3人の元へと走った。
●犬と人の挽歌
「コノ先、右、曲ガッタラ、王ノ間」
途中、何度も分岐路があり、慣れている者で無ければ1回で辿り着くことなど到底不可能だと思われる道のりだった。
イズンは嫌な予感を抱えながらケンの後ろを走る。
出入口と思われる境には踏み荒らされ、薄汚れた青い布が落ちている。
「っ!」
フィルメリアが、枢が、ケンが、ティスが、イズンが、コーネリアが、マリエルが、テノールが雪崩れるように王の間へと駆け込んだ。
そこは、8体のリザードマンたちと、彼らに囲まれるように黒い染みの上に青い布の塊が落ちている。
ティスの横で獣のうなり声が響いた。
7人が状況を理解するより早く、フィルメリアと枢の間を縫ってケンが飛び出した。
横薙ぎに振った剣をリザードマンは己の剣の腹で受け弾き返すと、天井を削りながら上段から振り下ろす。それをケンは横っ飛びで避けると、脇に剣を構え飛び出る勢いのままに突き出す。
「ケン!」
「ケンさんっ!!」
怒りに身を任せた、無駄の多いがむしゃらな動きだった。
呆気にとられていた7人も我を取り戻すと、ケンに向かって攻撃を仕掛けようとしている他のリザードマン達へと向かって行った。
所詮敵はここまで散々相手取ってきたリザードマン。
7人は危ぶむところもなく順調に敵の数を減らし、王の間の鎮圧に成功した。
傷だらけのケンがクゥン、と鼻を鳴らしながら、青い布を抱き起こす。
ケンの様子からそれがワ王と呼ばれるケンの父親なのだと知る。
布の間から見えるのはケンとよく似た雰囲気の、年嵩のいったコボルドだった。
細かく瞼が揺れるのを見たマリエルが慌てて周囲の仲間を巻き込みながらヒーリングスフィアを施し、テノールは持っていたヒーリングポーションを水分代わりにその口元に少しずつ注いだ。
だが、ワ王は2人に視線だけで礼を言うと、ケンに向かって何事か呟いた後、安堵したように短く息を吐き、その瞳から光を失った。
ケンは震える手でその両目を閉じさせると、浅い呼吸を3度繰り返し、歯ぎしりの音が聞こえるほど奥歯を噛み締めた。
そして天井に向けて大きく吼えた。
その悲痛に満ちた遠吠えに7人は目を伏せた。
もっと早く着いていたら間に合ったのではないか。
そんな想いが7人の胸中を占める。
フィルメリアはこの地のことでワ王が知っている事を訊ねたかった。
ケンが言っていた伝承についてや、竜達の事で知っている事、伝わっている事を聞かせてもらいたかった。
この地での過去の出来事を、可能な限り詳しく知り、竜達の事を知り、この世界の事をもっと知る為に。
知る事で次へ繋げていく足掛かりを得たかった。
枢は思い切り壁を殴り付けて、奥歯を食いしばる。
この地下都市を一緒に見て回りたかった。コボルド達がどう暮らしてきたのか聞きたかった。
ティスは失礼でなければ、親愛の証しにティスが大好きで得意な手作りのツナサンドを献上しようと思っていた。
それが果たせないばかりか、家族を失うというその辛さを目の当たりにしてきつく目を閉じた。
マリエルは父親を亡くしたケンを見ているだけで、自分が大切な人を失ってしまったように辛く悲しくて胸が痛かった。
コーネリアは王の間への到着を最優先したつもりだった。
邪魔する敵は容赦無く撃ち殺し、歪虚を退治することこそがコーネリアの生きる理由。
だが。狭い通路、射線上に仲間がいれば攻撃もままならないこともあった。
他に最善があったのか。しかしもう時間は戻らない。ゆえに、強く拳を握り締める事しか出来ない。
テノールはワ王の顔から視線を上げた。
部屋の隅には黒い布の塊が落ちている。
……違う。青い布が血を吸って黒く見えるのだと気付き、ゆるゆるとそれに近付いた。
それは、変わり果てた若いコボルドの死体だった。
だが、こびりついた血は殆ど乾いている事に気付いたとき、一つの事実に至る。
「痛めつけたコボルドに……道案内をさせたのか」
分岐が多く、ケンの案内がなければここまで辿り着けないような場所なのに、リザードマン達は迷うことなく王の間に辿り着いた。
ケンは多分気付いていたのだろう。だからこそ、急いていたのだ。
他のコボルド達は無事だっただろうか? リザードマンの残党はもういないだろうか?
少し離れた所にいるイズンと目が合った。
イズンは静かに頷くと、ケンへと近付き、そして膝を折った。
「力及ばず、申し訳ありません」
ケンはイズンの言葉に黒い丸い双眸を瞬かせた。
「メシア様、悪クナイ。父ハ、ココノ秘密守ッテ大地ニ還ル。立派ナ最期」
ケンは父親の亡骸をそっと地面に寝かせると、7人に向かって頭を下げた。
「ミットモナイ姿、見セタ。モウ大丈夫。ワ王ガ、メシア様ニ見セタカッタモノ、案内スル」
●全ての生き物の聖譚曲
王の間の奥。
大きな岩を横にずらすと真っ暗な更に細い道が続いていた。
発光するマテリアル鉱石のランタンを持ち、ケンを先頭に言葉少なに7人は進む。
暫く行くとぽっかりと大きな空洞に出た。
ケンがマテリアル鉱石を壁掛けの燭台に入れて行くと、次第にその全貌が見えてきた。
「……聖堂……?」
信仰心の篤いマリエルはこの空間に静謐な空気を感じ思わず呟いた。
壁一面に大きな絵が描かれていた。
大きな竜と闘うヒトの姿
リザードマンと思わしきモノと戦うヒトの姿
噴火する火山と赤い龍
ヒトの王らしき者がコボルド達を跪かせている図
豊かな緑の中にヒトが暮らしている様子
山の奥深くで眠る赤い龍
そして、この聖堂の中央には夢幻のように儚く佇む神霊樹があった。
向こう側が透けて見える上に、パルムのいない神霊樹からは何のマテリアルの動きも感じられない。
まるで、実在しないかのような静寂さだった。
ただただ目の前の光景に圧倒され言葉を失っている7人に、ケンは跪くと頭を垂れた。
「ドウカ我らコボルドを。オ導キ下サイ、メシア様……!」
それはまるでこの絵画のヒトの王とコボルドの図のようで。
イズンは透明な神霊樹を見つめた後、ケンを静かに見つめたのだった。
狭い三叉路の進行方向にはグリプトドンが通路の真ん中で待ち構えている。
「此方の足止め……というところでしょうか。まぁ……立ち塞がるのであれば、打倒してでも通らせてもらいますがね」
遠退く6人と4匹の足音を聞きながら、フィルメリア・クリスティア(ka3380)はインストーラーの『エウカリス』を構える。
「迷路タイムアタック、か。チェックメイトはさせねぇよ」
その横で央崎 枢(ka5153)もガラティンを構え……その切っ先で天井を掻いた。
「っと。気を付けないと」
脇のホルターに入っているイグナイテッドにちらりと目をやり、適宜使い分ける事を視野に入れる。
その2人の後ろには身を低くし青銅剣を構えたケンとケンから視線を逸らし、落ち着き無くシルバースカルを触るティス・フュラー(ka3006)がいる。
(父上……か。今更だけど、今まで倒してきたコボルトやゴブリンたちにも家族はいたのよね)
ちらりと横目でケンを見て、再び視線を地面に落とす。
(……私もいつか、家族を戦火の中で失うのかしら)
脳裏を過ぎるのは4人の姉と2人の妹の顔。
「何者だろうと邪魔する奴は屠り尽くすまでだ!」
そんな勇ましいコーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)の言葉に、ティスははっと顔を上げた。
(でも今は、そんな事を気にしてもしょうがないわね。王の間へ急がなくちゃ……)
頭を振って気持ちを入れ替えると、ティスもまたプロト・サームを握り締めた。
6人が駆けていった地上へと繋がる道へイズン・コスロヴァ(kz0144)とコーネリアがそれぞれ弓と銃を構え、その後ろにマリエル(ka0116)、3人の前に近接攻撃がメインのテノール(ka5676)が立つ。
グリプトドンがゲッゲッという音を立てて大きく口を開くと空気砲を放った。
咄嗟に盾を構えたフィルメリアも含め、枢、ティス、ケンはその衝撃にそれぞれダメージを負う。
フィルメリアとしては出来るなら後衛に当たるティス、ケン、イズン、コーネリア、マリエルにはこの空気砲の範囲外にいて欲しかったが、そうすると道が湾曲している関係から彼らの攻撃や支援も届かなくなる。
フィルメリアはそれを苦々しく思いながら、じりじりと前後に足を広げて腰を落とす。
その横をティスの高威力の稲妻が駆け抜けた。それを追うようにテノールの拳がグリプトドンの額を殴打した。
酷く硬い音が響き、バックステップで後続に道を譲ったテノールは思わず殴り付けた右手を苛立たしげに何度か振った。
フィルメリアはそれを見て魔導符剣を納刀すると、右手に蒼光剣を顕現させ、それをグリプトドンの側面へと叩き込んだ。
通路全体を揺るがすようなビャオゥという大音量の鳴き声が響く。
「やはり……弱点は魔法攻撃」
フィルメリアやみんなの攻撃を見て枢はふむ、と頷く。
リアルブルーにいた頃、似たような恐竜を図鑑で見た事があった。
背中の硬い部分は鱗や甲羅ではなく、骨だという解説を見て驚いたのを覚えている。
もしも、あれと同等の物であるならば、引っ剥がすのも繋ぎ目を狙うのも困難だろう。
「なら、足から削ぐ!」
魔法攻撃は出来ない分、物理攻撃の通りそうな所を探すしかない。
枢は壁を蹴り飛び上がると天井とグリプトドンの僅かな間を飛び抜け、着地と同時に尻尾へと斬り付ける。
コーネリアがエタンドルE66を構え、冷気を纏った弾丸を撃った。
ピシピシと氷の張る音がして、グリプトドンの足元が凍り付く。
そこへ低い風切り音を立ててイズンの矢がグリプトドンの表皮を削る。
ケンもまた剣を突き立てるが、ガチンという岩を打ったような音が響き、ケンの両手に強いしびれが走る。
「ケンさん。心配だとは思いますが落ち着いてまいりましょう」
ケンの焦る気持ちを紛らわせようと、マリエルは柔らかな声音と癒しの力でケンを包む。
マリエルには家族の記憶は無かったが、大切な人はいる。だからケンの父親を心配する気持ちが伝わって来て、安心して貰える様に声をかけたいと思った。
「私たちに出来ることを確実に行いましょう。まずはそれに尽くす事が結果的に早く救うことに繋がるのだと思います」
マリエルの言葉と微笑みに、ケンもまた耳を伏せながら静かに頷いた。
氷の束縛から脱したグリプトドンが身体を丸めてフィルメリアに体当たりを仕掛ける。
「っ!」
盾が間に合わず足に鈍い痛みが走る。
ティスが再度轟音と共にライトニングボルトをグリプトドンへ放つ。
「……ふっ、中々しぶとい」
コーネリアが片眉を跳ね上げると赤い唇を釣り上げた。
全員が焦る思いを抑えながら、目の前の敵を倒すべく各々の得物を握り直した。
二体のグリプトドンと両手分のリザードマンを屠り、更に7人と1匹は地下へと降りていく。
「またいた……!」
魔導師タイプのリザードマンを見つけ、枢は走り寄ると刺突でその胴を切り裂き、横の僅かに空いた隙間からリザードマンの背後へと回る。
その後を追ってフィルメリアも魔導符剣を突き刺し、捻り引き抜く。
「物量作戦というのはな、全滅覚悟でやるものだ。その気があるのならいくらでも相手してやる!」
さらにコーネリアとイズンがタイミングを合わせて弾丸と矢を放つ。
魔導師タイプはおおよそこの連携があれば仕留めることが出来た。
剣士タイプであれば前衛のどちらかが引き付けている所を、仲間の間を縫うように放たれたティスのライトニングボルトとコーネリアの銃弾、イズンの弓矢が削り、手空きの前衛が留めを刺す。
その間、背後からの奇襲がないか、マリエルとテノールは警戒しながら確認を取りながら進んでいた。
「どうしたんですか?」
足を止めたテノールにマリエルが首を傾げた。
「ここなら、直線だから戦いやすいかな、って。気にしないで、先に行ってて」
にこりと微笑みテノールはマリエルに軽く手を振る。
前からはまた激しい剣戟の音が響いてきた。恐らくグリプトドンがいたのだろう。マリエルは後ろ髪を引かれながらも、怪我人がでないことを祈りながら走って行く。
「さて」
テノールは振り返り、天井に両掌を押しつけるようにして軽く背筋を伸ばす。首を左右に折ってコキリと鳴らすと、次いで指の関節もコキパキと鳴らした。
「トカゲ、ここは通行止めだ。通りたければ俺を殺してみろ?」
テノールの視線の先には3体のリザードマンがそれぞれの得物を構えながら慎重にテノールとの距離を縮めてきていた。
テノールが大地を強く踏みしめた次の瞬間、彼は先頭のリザードマンの眼前にいた。
殴るでもなく、ただ、触れるだけ。それだけでそのリザードマンは腹部に穴を開けて転がった。
それでもタダでは死なぬと足元目がけて払われた剣は、身を屈めながら跳んで躱す。
次いで奥の一体から突き出された剣はリパルションで受け流し、顔目がけて飛んできた火矢は右腕で受けた。
その腕の隙間から覗く瞳は氷よりも冷たい蒼。それを三日月のように細めると腰を落とした。
「食い荒らせ青龍」
練り上げた全身のマテリアルを右の拳に集め、一気に放出する。テノールの瞳とよく似た蒼白い龍が3体のリザードマンを飲み込んだ。
フィルメリアがファイアスローワーで前から近寄ってくるリザードマン達を焼き払いながら、隣の空き部屋へと後退する。
さらにティスがライトニングボルトを使い分けながら、なるべく複数の敵を巻き込むよう引き付けて攻撃しながらその後に続いた。
怒りの形相で2人を追ってきた手負いのリザードマン達はそこでコーネリアによる制圧射撃を受けてパニックになった。
フィルメリアは魔導符剣を構えるとこの機を逃さないよう、力強く地を蹴った。
「なに、俺に壁ドン? ノーノー、お断りだってば」
その手前の通路では枢は体当たりを仕掛けてきたグリプトドンを軽やかに避けると、ニヤリと口元を歪め、親指で首を軽く一掻きしてみせる。
「――こうなるよ? 疾影士を壁に追い詰めると」
そして壁を駆け上がると落下する勢いと共に回転を加え、赤い光を伴いながら大剣をその硬い装甲へと突き立てた。
そこへイズンの強弾とテノールの縮地と鎧徹しが炸裂し、グリプトドンは塵へと還っていく。
「これで、4体ですね」
水神切兼光を納刀しながら、マリエルがほぅ、と溜息を吐いた。
「デモマダ、リザードマンイル。気ヲ付ケテ」
ケンの言葉に4人は頷き、前から来たリザードマンの群れを相手取っている3人の元へと走った。
●犬と人の挽歌
「コノ先、右、曲ガッタラ、王ノ間」
途中、何度も分岐路があり、慣れている者で無ければ1回で辿り着くことなど到底不可能だと思われる道のりだった。
イズンは嫌な予感を抱えながらケンの後ろを走る。
出入口と思われる境には踏み荒らされ、薄汚れた青い布が落ちている。
「っ!」
フィルメリアが、枢が、ケンが、ティスが、イズンが、コーネリアが、マリエルが、テノールが雪崩れるように王の間へと駆け込んだ。
そこは、8体のリザードマンたちと、彼らに囲まれるように黒い染みの上に青い布の塊が落ちている。
ティスの横で獣のうなり声が響いた。
7人が状況を理解するより早く、フィルメリアと枢の間を縫ってケンが飛び出した。
横薙ぎに振った剣をリザードマンは己の剣の腹で受け弾き返すと、天井を削りながら上段から振り下ろす。それをケンは横っ飛びで避けると、脇に剣を構え飛び出る勢いのままに突き出す。
「ケン!」
「ケンさんっ!!」
怒りに身を任せた、無駄の多いがむしゃらな動きだった。
呆気にとられていた7人も我を取り戻すと、ケンに向かって攻撃を仕掛けようとしている他のリザードマン達へと向かって行った。
所詮敵はここまで散々相手取ってきたリザードマン。
7人は危ぶむところもなく順調に敵の数を減らし、王の間の鎮圧に成功した。
傷だらけのケンがクゥン、と鼻を鳴らしながら、青い布を抱き起こす。
ケンの様子からそれがワ王と呼ばれるケンの父親なのだと知る。
布の間から見えるのはケンとよく似た雰囲気の、年嵩のいったコボルドだった。
細かく瞼が揺れるのを見たマリエルが慌てて周囲の仲間を巻き込みながらヒーリングスフィアを施し、テノールは持っていたヒーリングポーションを水分代わりにその口元に少しずつ注いだ。
だが、ワ王は2人に視線だけで礼を言うと、ケンに向かって何事か呟いた後、安堵したように短く息を吐き、その瞳から光を失った。
ケンは震える手でその両目を閉じさせると、浅い呼吸を3度繰り返し、歯ぎしりの音が聞こえるほど奥歯を噛み締めた。
そして天井に向けて大きく吼えた。
その悲痛に満ちた遠吠えに7人は目を伏せた。
もっと早く着いていたら間に合ったのではないか。
そんな想いが7人の胸中を占める。
フィルメリアはこの地のことでワ王が知っている事を訊ねたかった。
ケンが言っていた伝承についてや、竜達の事で知っている事、伝わっている事を聞かせてもらいたかった。
この地での過去の出来事を、可能な限り詳しく知り、竜達の事を知り、この世界の事をもっと知る為に。
知る事で次へ繋げていく足掛かりを得たかった。
枢は思い切り壁を殴り付けて、奥歯を食いしばる。
この地下都市を一緒に見て回りたかった。コボルド達がどう暮らしてきたのか聞きたかった。
ティスは失礼でなければ、親愛の証しにティスが大好きで得意な手作りのツナサンドを献上しようと思っていた。
それが果たせないばかりか、家族を失うというその辛さを目の当たりにしてきつく目を閉じた。
マリエルは父親を亡くしたケンを見ているだけで、自分が大切な人を失ってしまったように辛く悲しくて胸が痛かった。
コーネリアは王の間への到着を最優先したつもりだった。
邪魔する敵は容赦無く撃ち殺し、歪虚を退治することこそがコーネリアの生きる理由。
だが。狭い通路、射線上に仲間がいれば攻撃もままならないこともあった。
他に最善があったのか。しかしもう時間は戻らない。ゆえに、強く拳を握り締める事しか出来ない。
テノールはワ王の顔から視線を上げた。
部屋の隅には黒い布の塊が落ちている。
……違う。青い布が血を吸って黒く見えるのだと気付き、ゆるゆるとそれに近付いた。
それは、変わり果てた若いコボルドの死体だった。
だが、こびりついた血は殆ど乾いている事に気付いたとき、一つの事実に至る。
「痛めつけたコボルドに……道案内をさせたのか」
分岐が多く、ケンの案内がなければここまで辿り着けないような場所なのに、リザードマン達は迷うことなく王の間に辿り着いた。
ケンは多分気付いていたのだろう。だからこそ、急いていたのだ。
他のコボルド達は無事だっただろうか? リザードマンの残党はもういないだろうか?
少し離れた所にいるイズンと目が合った。
イズンは静かに頷くと、ケンへと近付き、そして膝を折った。
「力及ばず、申し訳ありません」
ケンはイズンの言葉に黒い丸い双眸を瞬かせた。
「メシア様、悪クナイ。父ハ、ココノ秘密守ッテ大地ニ還ル。立派ナ最期」
ケンは父親の亡骸をそっと地面に寝かせると、7人に向かって頭を下げた。
「ミットモナイ姿、見セタ。モウ大丈夫。ワ王ガ、メシア様ニ見セタカッタモノ、案内スル」
●全ての生き物の聖譚曲
王の間の奥。
大きな岩を横にずらすと真っ暗な更に細い道が続いていた。
発光するマテリアル鉱石のランタンを持ち、ケンを先頭に言葉少なに7人は進む。
暫く行くとぽっかりと大きな空洞に出た。
ケンがマテリアル鉱石を壁掛けの燭台に入れて行くと、次第にその全貌が見えてきた。
「……聖堂……?」
信仰心の篤いマリエルはこの空間に静謐な空気を感じ思わず呟いた。
壁一面に大きな絵が描かれていた。
大きな竜と闘うヒトの姿
リザードマンと思わしきモノと戦うヒトの姿
噴火する火山と赤い龍
ヒトの王らしき者がコボルド達を跪かせている図
豊かな緑の中にヒトが暮らしている様子
山の奥深くで眠る赤い龍
そして、この聖堂の中央には夢幻のように儚く佇む神霊樹があった。
向こう側が透けて見える上に、パルムのいない神霊樹からは何のマテリアルの動きも感じられない。
まるで、実在しないかのような静寂さだった。
ただただ目の前の光景に圧倒され言葉を失っている7人に、ケンは跪くと頭を垂れた。
「ドウカ我らコボルドを。オ導キ下サイ、メシア様……!」
それはまるでこの絵画のヒトの王とコボルドの図のようで。
イズンは透明な神霊樹を見つめた後、ケンを静かに見つめたのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 ティス・フュラー(ka3006) エルフ|13才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/09/19 01:40:25 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/09/18 19:41:03 |
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質問卓 テノール(ka5676) 人間(クリムゾンウェスト)|26才|男性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2016/09/19 00:15:03 |