ゲスト
(ka0000)
【蒼乱】地下都市防衛戦 side双子竜
マスター:葉槻

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2016/09/19 07:30
- 完成日
- 2016/09/27 19:14
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「何してるんでちか?」「犬っころはみんなヒマでちか?」
「「なら、あたちたちと遊ぶでちー!」」
遺跡を探索し、様々な戦利品を抱えたコボルド達は、目の前に降り立った2人の幼女――ただし、白い尾が生えている――を見た瞬間、悲鳴を上げて逃げ出した。
「待つでちー!」「なんで逃げるでちかー!」
「「お前ら失礼でちよーっ!!」」
楽しそうな笑い声と、幾つもの断末魔の悲鳴が乾いた大地に血潮と共に吸い込まれていく。
「やっぱり犬っころは弱いでち」「あほだから会話もできないでち」
「「次“はんたー”と会えたら遊んでもらうでち」」
手に付いた血を舐めて、「おいしくないでち」と文句を言いながら双子竜はクスクスと嗤う。
そして動かない一体の衣を見る。
青い衣は血を吸って黒っぽくなっていたが、それが青だと確認して双子竜は頷き合った。
「「では、ミナゴロシの刑始めるでちーっ!」」
●
日中の気温が40度を下回ることは無い。その為、砂漠での長時間の移動が必要となる場合は、日中は休み、日没から移動するのが良いのだという。
初めての本格的な砂漠移動を前に、イズン・コスロヴァ(kz0144)はリアルブルーの砂漠出身者が纏めたという『砂漠ハウツー』なる本を取り寄せ読んでいたが、どうやら砂漠と一言で纏めても地域によって温度・湿度・砂の形状などが全て異なるらしいと身をもって痛感していた。
「モウ少シ先に、オアシスガ、アル。今日ハ、ソコマデ」
砂漠縦断の旅、3日目。
最初、オアシスからケン達の本拠地まではスムーズに行っても片道7日かかるのだと聞いた時、イズンは頭痛を訴えるこめかみを押さえたものだった。
移動時には見えていた冴え冴えとした上弦の月は地平線に沈み、ただただ煩いくらいの星の瞬きが頭上を照らしている。
今日はこれからオアシスの浄化を試み、休み、また日没後に移動を開始するのだろう。
日中の暑さに初日こそ休むことが困難だったが、翌日には疲労が勝ち、意識を失ったように眠れた自分に驚くより先に呆れ、軍人としての意識が足りないのでは無いかと軽く自己嫌悪に陥ったイズンだった。
ケン達と話す内に判ってきたことが幾つかある。
彼らはあのオアシスそばの海岸線で取れるマテリアル鉱石を採取にきていたのだという。
要約すれば「たまたま居合わせたのは幸運でした」と嬉しそうに尻尾を振るケンが言っていた。
また、ケン達コボルドが何故青い布を全身からすっぽりと纏わせているのか。
「青はチズムの証」との事で、他にも緑、黄、桃などの群れがいるらしく、ケンの父親が率いる群れの名を『チズム』と言うらしい。
「衣ハ、遺跡カラ見ツカル。見ツカッタ色ハ、ソノ群レに渡ス」
遺跡は共用の財産であり、そこから見つかる遺跡物はその色ごとに分配するのだという。
衣以外にも武器や何に使うのか判らない道具が見つかることもあるらしく、ケンは青銅で出来た剣を携えていた。
見れば、ケンの周囲にいるコボルド達も皆、柄まで全て石で出来た石槍や石剣を持っており、襲撃された際にはこれで戦う事もあるらしい。
が、基本は逃げる。彼らは蜘蛛の子を散らしたかのようにさぁっとてんでばらばらの方向へと逃げる。
そして、脅威が去ると自然とまた集まるのだから不思議だが、ケン曰く「何となく判る」というのだから、本能的な何かなのか、優れた嗅覚によるものなのかもしれない。
術士曰く。
ケン達コボルドが道中の目印代わりにしている枯れたような草やサボテンが生えている地点とはすなわち龍脈の上であるらしい。
そして、オアシスが湧くところは龍穴点――龍脈でも力のある所――であり、恐らく彼らコボルドはそれを本能で察知しているのだろうと。
ただ、全てのオアシスが転移門を造れるほどの力があるとは限らない。が、一つ一つの龍脈を浄化しなければハンター達は身体を休めることも出来ない。
結局イズン達は道中のオアシス分のイニシャライザーと術者を護衛しつつ、ひたすらに南下していった。
●
砂漠を進むにつれ、徐々にさらさらの砂砂漠からやや礫が混じるようになり、ついには風に砂が吹き飛ばされ岩盤がむき出しとなっている箇所が増えた。
少しずつ背の低い雑草が見えるようになるが、相変わらず樹はオアシス周囲以外では生えていない。
そして進行方向には砂の地平線では無く、岩肌の露出した山々が見えるようになってきていた。
7日目。
さらにそれは近付けば近付いただけ、奇異なかたちをしていることに気付く。
キノコのように傘を被っているように見える岩、トウモロコシのようなかたちをした岩、ヒトの指が空を掴もうとしているようなかたち。
煌々とした満月が周囲を幻想的に照らし出していた。
奇岩が立ち並ぶ中、もっと近付けば、いつくか穴が開いていることにも気付く。
「コノ地下、全部、遺跡」
「全部、ですか?」
ケンに説明を乞えば、ケンは何ともない事のように答えた。
「ソウ。トッテモ、広イ。深イ。中、迷ウ。ダカラ、持ッテ帰ッテクル、と、褒メラレル」
その時、今まで穏やかに会話をしていたケンが、くん、と鼻を鳴らすと、犬歯をむき出しにして唸った。
「竜の臭イ……! 父上っ!!」
ケンは乗っていたラクダの腹を蹴り、手綱を引くと、全速力で岩と岩の間を走って行く。
ケンを追って、他のコボルド達も一斉に走り出す。
「っ! 追います! 6名は術士の護衛最優先、オアシスへ引き返し、待機。残り12名は私と来て下さい」
イズンがハンター達に向けて叫ぶと、最後尾を走るコボルドの後に付いてラクダを駆った。
「狭い場所を行くから、大きい動物は入れない」そう、ケンが予め言っていたので今回ハンター達にユニットは置いてきて貰ったのだが、なるほどと後を追いながらイズンは納得する。
岩と岩の間、さらには岩の中を駆け抜け、くりぬかれた空間を幾つも通り過ぎる。確かにここはユニットを操作するには向かない。
コボルド達がラクダを降りた所でイズンもラクダを降りると、その後を付いて懸命に走った。
どれほど奥へ進んだか。そろそろ息が上がろうと言う頃に、ようやくイズンは剣を構え立つケンに追いついた。
細い三叉路。ケン達コボルド前には、アルマジロのような強欲竜が道を塞いでいた。
「……父上……っ!」
「ケン殿、お父上はこの先ですか?」
「ソウ」
ケンの視線が左右の通路を見た後、耳がピコピコと動く。
「……ケド、地上カラモ、マダ来ル……! アノ、双子竜」
「わかりました。従者の方に道案内を頼めますか。地上への道はハンターが向かいます」
イズンは背後にいるハンター達を振り返り、「いいですね?」と視線だけで問う。
ハンター達は顔を見合わせると、すぐに6人が走り出した従者コボルド達と共に右の通路へと飛び込んだ。
コボルド達が低いうなり声を上げる。
通路の奥でいくつもの影が蠢いていた。
「何してるんでちか?」「犬っころはみんなヒマでちか?」
「「なら、あたちたちと遊ぶでちー!」」
遺跡を探索し、様々な戦利品を抱えたコボルド達は、目の前に降り立った2人の幼女――ただし、白い尾が生えている――を見た瞬間、悲鳴を上げて逃げ出した。
「待つでちー!」「なんで逃げるでちかー!」
「「お前ら失礼でちよーっ!!」」
楽しそうな笑い声と、幾つもの断末魔の悲鳴が乾いた大地に血潮と共に吸い込まれていく。
「やっぱり犬っころは弱いでち」「あほだから会話もできないでち」
「「次“はんたー”と会えたら遊んでもらうでち」」
手に付いた血を舐めて、「おいしくないでち」と文句を言いながら双子竜はクスクスと嗤う。
そして動かない一体の衣を見る。
青い衣は血を吸って黒っぽくなっていたが、それが青だと確認して双子竜は頷き合った。
「「では、ミナゴロシの刑始めるでちーっ!」」
●
日中の気温が40度を下回ることは無い。その為、砂漠での長時間の移動が必要となる場合は、日中は休み、日没から移動するのが良いのだという。
初めての本格的な砂漠移動を前に、イズン・コスロヴァ(kz0144)はリアルブルーの砂漠出身者が纏めたという『砂漠ハウツー』なる本を取り寄せ読んでいたが、どうやら砂漠と一言で纏めても地域によって温度・湿度・砂の形状などが全て異なるらしいと身をもって痛感していた。
「モウ少シ先に、オアシスガ、アル。今日ハ、ソコマデ」
砂漠縦断の旅、3日目。
最初、オアシスからケン達の本拠地まではスムーズに行っても片道7日かかるのだと聞いた時、イズンは頭痛を訴えるこめかみを押さえたものだった。
移動時には見えていた冴え冴えとした上弦の月は地平線に沈み、ただただ煩いくらいの星の瞬きが頭上を照らしている。
今日はこれからオアシスの浄化を試み、休み、また日没後に移動を開始するのだろう。
日中の暑さに初日こそ休むことが困難だったが、翌日には疲労が勝ち、意識を失ったように眠れた自分に驚くより先に呆れ、軍人としての意識が足りないのでは無いかと軽く自己嫌悪に陥ったイズンだった。
ケン達と話す内に判ってきたことが幾つかある。
彼らはあのオアシスそばの海岸線で取れるマテリアル鉱石を採取にきていたのだという。
要約すれば「たまたま居合わせたのは幸運でした」と嬉しそうに尻尾を振るケンが言っていた。
また、ケン達コボルドが何故青い布を全身からすっぽりと纏わせているのか。
「青はチズムの証」との事で、他にも緑、黄、桃などの群れがいるらしく、ケンの父親が率いる群れの名を『チズム』と言うらしい。
「衣ハ、遺跡カラ見ツカル。見ツカッタ色ハ、ソノ群レに渡ス」
遺跡は共用の財産であり、そこから見つかる遺跡物はその色ごとに分配するのだという。
衣以外にも武器や何に使うのか判らない道具が見つかることもあるらしく、ケンは青銅で出来た剣を携えていた。
見れば、ケンの周囲にいるコボルド達も皆、柄まで全て石で出来た石槍や石剣を持っており、襲撃された際にはこれで戦う事もあるらしい。
が、基本は逃げる。彼らは蜘蛛の子を散らしたかのようにさぁっとてんでばらばらの方向へと逃げる。
そして、脅威が去ると自然とまた集まるのだから不思議だが、ケン曰く「何となく判る」というのだから、本能的な何かなのか、優れた嗅覚によるものなのかもしれない。
術士曰く。
ケン達コボルドが道中の目印代わりにしている枯れたような草やサボテンが生えている地点とはすなわち龍脈の上であるらしい。
そして、オアシスが湧くところは龍穴点――龍脈でも力のある所――であり、恐らく彼らコボルドはそれを本能で察知しているのだろうと。
ただ、全てのオアシスが転移門を造れるほどの力があるとは限らない。が、一つ一つの龍脈を浄化しなければハンター達は身体を休めることも出来ない。
結局イズン達は道中のオアシス分のイニシャライザーと術者を護衛しつつ、ひたすらに南下していった。
●
砂漠を進むにつれ、徐々にさらさらの砂砂漠からやや礫が混じるようになり、ついには風に砂が吹き飛ばされ岩盤がむき出しとなっている箇所が増えた。
少しずつ背の低い雑草が見えるようになるが、相変わらず樹はオアシス周囲以外では生えていない。
そして進行方向には砂の地平線では無く、岩肌の露出した山々が見えるようになってきていた。
7日目。
さらにそれは近付けば近付いただけ、奇異なかたちをしていることに気付く。
キノコのように傘を被っているように見える岩、トウモロコシのようなかたちをした岩、ヒトの指が空を掴もうとしているようなかたち。
煌々とした満月が周囲を幻想的に照らし出していた。
奇岩が立ち並ぶ中、もっと近付けば、いつくか穴が開いていることにも気付く。
「コノ地下、全部、遺跡」
「全部、ですか?」
ケンに説明を乞えば、ケンは何ともない事のように答えた。
「ソウ。トッテモ、広イ。深イ。中、迷ウ。ダカラ、持ッテ帰ッテクル、と、褒メラレル」
その時、今まで穏やかに会話をしていたケンが、くん、と鼻を鳴らすと、犬歯をむき出しにして唸った。
「竜の臭イ……! 父上っ!!」
ケンは乗っていたラクダの腹を蹴り、手綱を引くと、全速力で岩と岩の間を走って行く。
ケンを追って、他のコボルド達も一斉に走り出す。
「っ! 追います! 6名は術士の護衛最優先、オアシスへ引き返し、待機。残り12名は私と来て下さい」
イズンがハンター達に向けて叫ぶと、最後尾を走るコボルドの後に付いてラクダを駆った。
「狭い場所を行くから、大きい動物は入れない」そう、ケンが予め言っていたので今回ハンター達にユニットは置いてきて貰ったのだが、なるほどと後を追いながらイズンは納得する。
岩と岩の間、さらには岩の中を駆け抜け、くりぬかれた空間を幾つも通り過ぎる。確かにここはユニットを操作するには向かない。
コボルド達がラクダを降りた所でイズンもラクダを降りると、その後を付いて懸命に走った。
どれほど奥へ進んだか。そろそろ息が上がろうと言う頃に、ようやくイズンは剣を構え立つケンに追いついた。
細い三叉路。ケン達コボルド前には、アルマジロのような強欲竜が道を塞いでいた。
「……父上……っ!」
「ケン殿、お父上はこの先ですか?」
「ソウ」
ケンの視線が左右の通路を見た後、耳がピコピコと動く。
「……ケド、地上カラモ、マダ来ル……! アノ、双子竜」
「わかりました。従者の方に道案内を頼めますか。地上への道はハンターが向かいます」
イズンは背後にいるハンター達を振り返り、「いいですね?」と視線だけで問う。
ハンター達は顔を見合わせると、すぐに6人が走り出した従者コボルド達と共に右の通路へと飛び込んだ。
コボルド達が低いうなり声を上げる。
通路の奥でいくつもの影が蠢いていた。
リプレイ本文
●迷宮狂詩曲
「ここは俺たちに任せて、イズンさんたちは先に行くっす!」
無限 馨(ka0544)が王の間へ向かう仲間達へ向かって声を掛ける。
二つほど別れ道を過ぎた頃、コボルド達の様子と前方の影にアーサー・ホーガン(ka0471)が敵の接近を察知し、
エアルドフリス(ka1856)を見る。
「皆、さっきの向かい合わせに部屋があった所まで退くぞ」
「リュー、頼んだぞ」
「任しとけ!」
リュー・グランフェスト(ka2419)が勇ましく返事を返すと同時に真紅のマテリアルの光を立ち昇らせる。背後で仲間達が後退する足音と、構えたオートMURAMASAからの超音波振動の低い音が狭い通路に響く。
「よっし、来い!」
リューの姿を見たリザードマンが剣を片手に走り寄ってくる。突き出された剣を軽くアブソーブシールドで去なすとリューもまた踵を返して通路を逆走する。
それをリザードマン達は反射的に追い始めた。
リューは打ち合わせ通り向かって左手の入口に飛び込む。そこはおおよそ10×10m四方のこの辺りでは1番広かった部屋だ。
そこへリューを追って走ってきたリザードマン達が雪崩れ込む。その数、5体。
「やぁようこそ、さようなら」
どん詰まりで待ち構えていたエアルドフリスがにこりと微笑むとカドゥケウスから紫電が走る。
それでも倒れなかったリザードマン達へ、両サイドにいたアーサーとリュー、そして4匹のコボルド達が剣を振るう。
室内は一瞬にしてリザードマン達による阿鼻叫喚の坩堝と化した。
一方、通路には室内に入らなかったリザードマン達が轟音と悲鳴に一歩手前で尻込みしていた。
「こっちっすよー」
馨がリュー達がいる部屋の向かいから手を振る。
それを見たリザードマン達がやや警戒した足取りで部屋の入口へと向かう。
入口からみた正面奥には、馨が先ほどと変わらぬ様子で右の示指と中指の間にスローインカードを挟み、ひらひらとそれを泳がせて挑発する。
剣を持ったリザードマンが後ろに何やら合図を送ると一気に室内へと入ってきた。
室内は5×5m程。馨は持ち前の身軽さで左脚を後ろに引き、僅かに上体を反らすだけで突き出された剣を躱すとその喉元目がけてカードを放つ。そこへ剣士リザードマンの後ろ、術師タイプのリザードマンが通路から馨に向かって火矢を放った。
「せいっ!」
壁に張り付くようにして身を潜めていたセレスティア(ka2691)が、術を発動させた後で無防備になっている術士の手元を狙ってヴァーチカル・ウィンドを突き入れる。
咄嗟に振ったその袖に剣先が侵入し、セレスティアはグランシャリオを掲げつつもそのままレイピアを上向きにしながら後退。釣られるように術士はよたよたと室内へ足を踏み入れた。
そこへ、同じく死角に隠れていた金目(ka6190)がスケッギョルドで横薙ぎにする。
身長183cmの金目にとってこのコボルド達の本拠地はどこも天井が低い。それでも、刃元を握ることでなるべくコンパクトに両刃斧を動かした。
術士が悲鳴を上げると同時に、杖を握ったままの右腕が音を立てて地面に落ちた。
室内へ引き込んだリザードマン達を塵へと還した後、一同はリューの飛び込んだ部屋で合流した。
「予想より数が多かった。何体か行かせちまったな」
「恐らく、3体。私達の部屋に来たのがリーダー格だったみたいです」
金目とほぼ身長の変わらないアーサーが、天井に手を付きながら首を振り、セレスティアが申し訳なさそうに俯いた。
部屋に入る前のあの合図は後続に『先に進め』という合図だったのだろう。
「追うか?」
「迷子になったらシャレにならねぇっす。それより早く地上に向かった方がいいっす」
リューの問いにこの6人の中で最も背の高い馨が頭を振り『地上に』と拳で天井を叩き示す。
「……そうだな。まだ他にもリザードマン達は来そうかい?」
エアルドフリスがコボルド達に問うと、4匹はそれぞれ鼻をひくつかせたり、耳や髭を動かした後、同時に大きく頷いた。
「……だ、そうだ。これ以上奥へ行かせんよう慎重に行こう」
一同は重々しく頷くと、再び列を成して通路を進んでいく。
金目は後方からリザードマン達が来ないか警戒しながら最後尾を行く。……が、目前のコボルドの揺れる尻尾を見ていると、自然と頬が緩んでしまうのだった。
いくつもの分かれ道を越え、更に両手では足りないリザードマンを討った頃、外の乾いた風が通路を駆け抜けリューの頬を撫でた。
「もうすぐか?」
そっとアーサーが問うと、コボルドはこくりと頷き、そして指差す。
ぽっかりと開いた穴は、通路内がマテリアル鉱石のお陰で明るい分、深い闇色をしている。
リューとアーサーがそれぞれそっと外を窺う。
鋭敏視覚がある分、リューの方が早く夜目になれると、リザードマンの群れの向こうに岩に腰掛けている白い影を見つけた。
「あれか」
なる程、報告書通り色白の幼女の様な外見と、白い竜の尾が遠目にも見えた。
「こいつは……もしやジルボが言ってた変な竜か?」
人語を解するという事は高位種か、厄介な。そう独りごちてエアルドフリスが顎をさする。
馨もひょこっと顔だけ出して双子竜の位置を確認すると、そのままコボルド達の元へと戻った。
「……行くぞ」
アーサーの声に一同は頷くと、満月の下へと躍り出た。
●竜と人の奇想曲
「これはこれは、可愛らしいお嬢さん方。此処で何をなさってるのかな?」
エアルドフリスが恭しく礼をしながら双子竜に話しかけた。
そっくりな双子は暗闇も相まって腕のリボンでしか見分けが付かない。
パシャ、とアーサーが魔導カメラで双子を撮ると、「お近づきの印だ」とマシュへと手渡した。
「なんでち?」「絵でちか?」
「「おぉ、マシュとマロにそっくりでち」」
初めて見る写真に双子はおぉぉと感動の声を上げる。
「おや、ではこちらはどうかな?」
エアルドフリスが取り出したのは赤と白のブーケ。
「おぉぉお!?」「良い匂いでち!」
「「おいしそうでちっ!!」」
双子の予想外の声にエアルドフリスは苦笑しつつ、あげようか、どうしようかと焦らし、機嫌が悪くなる前にそれぞれに手渡した。
それを受け取った双子は「きゃーっ!」と喜色満面の体で、直ぐ様ブーケに食らいついた。
「美味しいでち」「美味しいでち」
「「こんなの産まれて初めてでち!」」
凄い勢いで花束を食べ尽くし、はしゃぐ双子を見て二人はそっと顔を見合わせ頷き合う。
しかし、食べ終わった双子竜はを二人見てすんすんと鼻を鳴らすと首を傾げた。
「懐かしい臭いがするでち」「あのおばちゃんの臭いでち」
「「おばちゃんに怒られて良くお前達無事でちね」」
一方。
エアルドフリスとアーサーが双子竜の気を引いている中、リューとセレスティア、金目の3人はリザードマンの群れを相手に奮闘していた。
「リュー君、今です!」
「任せろ!」
セレスティアが敵を引き付けながらリューの横を駆け抜けた。
リューは双子竜を挑発する気満々だったのだが、多数決の結果穏やかに気を引くという作戦になった。
それならそれで仕方が無い。リザードマンを可能な限り早く片付けてから竜退治に回るだけだと気持ちを切り替えると、セレスティアを追って殺到したリザードマン達を纏めて薙ぎ払う。
徐々に双子竜からリザードマン達を引き離し、なるべく分断させて攻撃する。とはいえ、剣戟の音が消せる訳では無い。にも関わらず双子竜はこちらを気にする様子がない。
それを少し不気味に思いながら、金目は光の三角形を形成すると、三体のリザードマンを貫いた。
「おばちゃん?」
エアルドフリスとアーサーは互いに顔を見合わせた。
「癇癪持ちで」「赤銅色のおばちゃんでち」
「「お前達のその傷からおばちゃんの臭いがするでち」」
赤銅色、と聞いてアーサーは目を見開いた。
「腐竜のことか」
「そのおばちゃん、とは知り合いなの?」
エアルドフリスの言葉に、双子は同時に頷いた。
「あたちたちに留守番押しつけて出て行ったでち」「ずーっと前のことでち」
「「お陰で遊びに行けなくてつまらないでち」」
「留守番……? なぁ、お前らの棲家はどこだ? 今度はこっちから遊びに行かせてくれ」
「あっちでち」「竜の巣でち」
「「でも、竜以外は近付けさせるなって言われているから来ちゃダメでち」」
アーサーの問いに双子は背後の大きな山を指差し、それから寂しそうに首を振る。
「あの山が、竜の巣……」
アーサーは月明かりによって巨大な黒い影となってそびえ立つ山影を見る。
その時、双子の後ろで何かがキラリと光った。
(……幼女に忍び寄って様子伺うとか、端から見たら事案っすねこれ……)
馨はコボルド達の案内により双子竜の背後側に出る入口へと辿り着いた。
そろそろと忍び寄り、短伝話のスイッチを入れ、仲間達へ合図を送る。
(さて、これでよし、っす。じゃ、行くっすかね!)
馨はネーベルナハトを構えると、一気に地を駆け、飛び上がった。
満月を背負い、慣性のままに急降下していく。
構えた槍の先が、竜の幼子の背後を捉えた。
●月下交響曲
絹を裂くような悲鳴が周囲に轟いた。
アーサーはマシュへと斬り掛かる。
しかし光耀をマシュは左腕一本で受け止めると、剣を外側へとはじき、アーサーの空いた胴へと回転しながらの尾撃を叩き込んだ。
「許さないでち!」
マシュが怒りに燃える瞳で馨を見ると砂嵐を起こした。
それを腕で顔面を覆いながら馨はバックステップで避けるが、耳の奥でノイズが残り、思わず片膝を付いた。
エアルドフリスもまた聴覚を侵されたせいで上手く呪文を紡げない。
リザードマンの相手をしていた3人は悲鳴と砂嵐の音で戦闘が始まったことを知った。
「え?」
セレスティアは思わず自分の持っている短伝話を確認したが、短伝話は沈黙したままだ。
リューは鍔迫り合いの最中飛んできた火矢を受け、思わず舌打ちすると、大きく一歩踏み出し盾でリザードマンの側頭部を殴り飛ばした。
「早く片付けて合流しましょう」
残り、手負い5体。金目は両刃斧を勢いよく振り下ろし、リザードマンの胴と首を切り落とした。
双子竜を分断し、戦う。
それが当初の予定であり、実際馨の奇襲は成功し、マロに深手を負わせている。
しかし、ここは神霊樹のネットワーク外。短伝話は機能しない。
結果、馨が入れたはずの合図は誰にも届かず、運良く気づけたアーサーだけが奇襲に反応出来た。
もっとも、短伝話そのものを持って来ている者も少なかった為、通信が出来ていたとしても有効だったかは疑しい。
そしてその齟齬は成功した奇襲を最大限に活用することを阻んだ。
アーサーがマシュの尾を掴むが、姿形は幼くとも流石は竜か。逆に尾に払われ、岩肌に全身を強かに打った。
馨は引き続きマロを素早い動きで執拗に責め立てる。
「痛いでちーっ!」
半泣きになりながらマロが叫ぶと、直ぐ様マシュがロケットの如く飛んできて、馨へと頭突きを叩き込む。
その衝撃に馨は受け身を取ったにも関わらず吹き飛んだ。
「均衡の裡に理よ路を変えよ。生命識る円環の智者、汝が牙もて氷毒を巡らせよ」
エアルドフリスの杖の先にこの土地では貴重な水が集まるとみるみるうちに空中で凍結していく。そして氷は蛇の形となると、マロに向かって食らい付いた。
「はっ! ぺちゃくちゃウルセェガキどもがっ! てめえら雑魚なんざおよびじゃねえんだよ!」
リザードマンを殲滅させ、駆けつけたリューは真紅のマテリアルを立ち上らせながら挑発する。
しかし、幼く見えても高位の竜である双子竜はリューを一瞥しただけで黙殺。
「大丈夫ですか? エアルドさん」
「あぁ、酷い目に合った」
エアルドフリスの護衛を務めるべく彼の前で盾を構えた金目に、エアルドフリスは耳に水が入った時のように首を傾けながら側頭部をとんとんと叩いて見せる。
「白き癒しの光よ。かの者の傷を癒したまえ」
セレスティアがアーサーへと治癒の光を飛ばすと、アーサーは礼代わりに短剣を持つ手を上げる。
ここから、ハンター達による総攻撃が始まった。
馨が氷結によって動けないマロへ何度も斬りつける。そこへリューが竜貫で更に斬り込む。
エアルドフリスが再度氷蛇咬でマロを捕らえ、セレスティアは馨を癒やす。
アーサーはマシュを相手取り、高く跳躍すると光耀を叩き込み、金目は油断無く双子を観察しながら最後のデルタレイを放った。
マシュも砂嵐を起こし、尾で鞭打ち、その小さな手からは想像も付かないような重いパンチを叩き込む。
マロもようやく氷結から抜け出すと、傷だらけの身体を震わせながらマシュへ白光を伴う支援を飛ばす。これを浴びた後のマシュの一撃は強烈で、ノーガードのまま殴られたアーサーは自己治癒とセレスティアの治癒が間に合わなければ危なかった程だ。
「これで、どうっすか!?」
幾度にも渡る攻防。馨の渾身の一撃が遂にマロの尻尾を切り落とした。
マロは衝撃に悲鳴を上げることもなく地に伏した。
「マロ!!」
咄嗟にアーサーを尾で払い飛ばし、力ないマロを抱きかかえると震える声で呟いた。
「ひどいでち。パパが言った通りだったでち」
「パパ……?」
馨が眉を顰めた。
「『強欲竜(ドラッケン)より人間の方が強欲だ。戦え、滅ぼせ! さもなければ滅びるのはお前達の方だ』……本当だったでちね。だまし討ちして、数の暴力振るうでち。ヒトは卑怯者でち」
「お前達がコボルド達にした事は何だ!」
振動刀の柄を音が鳴るほど強く握り締めたリューが噛みついた。
「遊びでち。ずーっとやってきたことでち。ヒトだって犬っころ殺してきたくせに」
「それは……!」
悪びれもしない断言と告発。
セレスティアが弁明しようと口を開きかけ、結局噤んだ。
今まで討ったコボルド達の殆どは雑魔化していた。だが、その全てが本当に雑魔化していたかは今となっては解らない。そして今でも西方文化圏では人の生活圏を侵す彼らは駆逐すべき害獣と同等であるのも事実だ。
「認めないでち。犬っころもパパもお前達を『救世主』って言うでち。この世界は滅びたがっているんでち。だから、この世界を滅ぼそうとするあたちたちの方が正しいでち。絶対、お前達を認めないし、許さないでちっ!」
6人の方を向いたまま、マシュは大きく後ろへ飛んだ。そして、そのまま彼らが追ってこないと見ると、暗い闇の中へとその白い身体を溶け込ませ、消えた。
煌々とした満月の周囲に星は見えない。
少し遠巻きに星々は語る。煩いくらいに。
しかしどんな会話をしているのか、耳を澄ましても月明かりに照らされた6人の耳には届かなかった。
「ここは俺たちに任せて、イズンさんたちは先に行くっす!」
無限 馨(ka0544)が王の間へ向かう仲間達へ向かって声を掛ける。
二つほど別れ道を過ぎた頃、コボルド達の様子と前方の影にアーサー・ホーガン(ka0471)が敵の接近を察知し、
エアルドフリス(ka1856)を見る。
「皆、さっきの向かい合わせに部屋があった所まで退くぞ」
「リュー、頼んだぞ」
「任しとけ!」
リュー・グランフェスト(ka2419)が勇ましく返事を返すと同時に真紅のマテリアルの光を立ち昇らせる。背後で仲間達が後退する足音と、構えたオートMURAMASAからの超音波振動の低い音が狭い通路に響く。
「よっし、来い!」
リューの姿を見たリザードマンが剣を片手に走り寄ってくる。突き出された剣を軽くアブソーブシールドで去なすとリューもまた踵を返して通路を逆走する。
それをリザードマン達は反射的に追い始めた。
リューは打ち合わせ通り向かって左手の入口に飛び込む。そこはおおよそ10×10m四方のこの辺りでは1番広かった部屋だ。
そこへリューを追って走ってきたリザードマン達が雪崩れ込む。その数、5体。
「やぁようこそ、さようなら」
どん詰まりで待ち構えていたエアルドフリスがにこりと微笑むとカドゥケウスから紫電が走る。
それでも倒れなかったリザードマン達へ、両サイドにいたアーサーとリュー、そして4匹のコボルド達が剣を振るう。
室内は一瞬にしてリザードマン達による阿鼻叫喚の坩堝と化した。
一方、通路には室内に入らなかったリザードマン達が轟音と悲鳴に一歩手前で尻込みしていた。
「こっちっすよー」
馨がリュー達がいる部屋の向かいから手を振る。
それを見たリザードマン達がやや警戒した足取りで部屋の入口へと向かう。
入口からみた正面奥には、馨が先ほどと変わらぬ様子で右の示指と中指の間にスローインカードを挟み、ひらひらとそれを泳がせて挑発する。
剣を持ったリザードマンが後ろに何やら合図を送ると一気に室内へと入ってきた。
室内は5×5m程。馨は持ち前の身軽さで左脚を後ろに引き、僅かに上体を反らすだけで突き出された剣を躱すとその喉元目がけてカードを放つ。そこへ剣士リザードマンの後ろ、術師タイプのリザードマンが通路から馨に向かって火矢を放った。
「せいっ!」
壁に張り付くようにして身を潜めていたセレスティア(ka2691)が、術を発動させた後で無防備になっている術士の手元を狙ってヴァーチカル・ウィンドを突き入れる。
咄嗟に振ったその袖に剣先が侵入し、セレスティアはグランシャリオを掲げつつもそのままレイピアを上向きにしながら後退。釣られるように術士はよたよたと室内へ足を踏み入れた。
そこへ、同じく死角に隠れていた金目(ka6190)がスケッギョルドで横薙ぎにする。
身長183cmの金目にとってこのコボルド達の本拠地はどこも天井が低い。それでも、刃元を握ることでなるべくコンパクトに両刃斧を動かした。
術士が悲鳴を上げると同時に、杖を握ったままの右腕が音を立てて地面に落ちた。
室内へ引き込んだリザードマン達を塵へと還した後、一同はリューの飛び込んだ部屋で合流した。
「予想より数が多かった。何体か行かせちまったな」
「恐らく、3体。私達の部屋に来たのがリーダー格だったみたいです」
金目とほぼ身長の変わらないアーサーが、天井に手を付きながら首を振り、セレスティアが申し訳なさそうに俯いた。
部屋に入る前のあの合図は後続に『先に進め』という合図だったのだろう。
「追うか?」
「迷子になったらシャレにならねぇっす。それより早く地上に向かった方がいいっす」
リューの問いにこの6人の中で最も背の高い馨が頭を振り『地上に』と拳で天井を叩き示す。
「……そうだな。まだ他にもリザードマン達は来そうかい?」
エアルドフリスがコボルド達に問うと、4匹はそれぞれ鼻をひくつかせたり、耳や髭を動かした後、同時に大きく頷いた。
「……だ、そうだ。これ以上奥へ行かせんよう慎重に行こう」
一同は重々しく頷くと、再び列を成して通路を進んでいく。
金目は後方からリザードマン達が来ないか警戒しながら最後尾を行く。……が、目前のコボルドの揺れる尻尾を見ていると、自然と頬が緩んでしまうのだった。
いくつもの分かれ道を越え、更に両手では足りないリザードマンを討った頃、外の乾いた風が通路を駆け抜けリューの頬を撫でた。
「もうすぐか?」
そっとアーサーが問うと、コボルドはこくりと頷き、そして指差す。
ぽっかりと開いた穴は、通路内がマテリアル鉱石のお陰で明るい分、深い闇色をしている。
リューとアーサーがそれぞれそっと外を窺う。
鋭敏視覚がある分、リューの方が早く夜目になれると、リザードマンの群れの向こうに岩に腰掛けている白い影を見つけた。
「あれか」
なる程、報告書通り色白の幼女の様な外見と、白い竜の尾が遠目にも見えた。
「こいつは……もしやジルボが言ってた変な竜か?」
人語を解するという事は高位種か、厄介な。そう独りごちてエアルドフリスが顎をさする。
馨もひょこっと顔だけ出して双子竜の位置を確認すると、そのままコボルド達の元へと戻った。
「……行くぞ」
アーサーの声に一同は頷くと、満月の下へと躍り出た。
●竜と人の奇想曲
「これはこれは、可愛らしいお嬢さん方。此処で何をなさってるのかな?」
エアルドフリスが恭しく礼をしながら双子竜に話しかけた。
そっくりな双子は暗闇も相まって腕のリボンでしか見分けが付かない。
パシャ、とアーサーが魔導カメラで双子を撮ると、「お近づきの印だ」とマシュへと手渡した。
「なんでち?」「絵でちか?」
「「おぉ、マシュとマロにそっくりでち」」
初めて見る写真に双子はおぉぉと感動の声を上げる。
「おや、ではこちらはどうかな?」
エアルドフリスが取り出したのは赤と白のブーケ。
「おぉぉお!?」「良い匂いでち!」
「「おいしそうでちっ!!」」
双子の予想外の声にエアルドフリスは苦笑しつつ、あげようか、どうしようかと焦らし、機嫌が悪くなる前にそれぞれに手渡した。
それを受け取った双子は「きゃーっ!」と喜色満面の体で、直ぐ様ブーケに食らいついた。
「美味しいでち」「美味しいでち」
「「こんなの産まれて初めてでち!」」
凄い勢いで花束を食べ尽くし、はしゃぐ双子を見て二人はそっと顔を見合わせ頷き合う。
しかし、食べ終わった双子竜はを二人見てすんすんと鼻を鳴らすと首を傾げた。
「懐かしい臭いがするでち」「あのおばちゃんの臭いでち」
「「おばちゃんに怒られて良くお前達無事でちね」」
一方。
エアルドフリスとアーサーが双子竜の気を引いている中、リューとセレスティア、金目の3人はリザードマンの群れを相手に奮闘していた。
「リュー君、今です!」
「任せろ!」
セレスティアが敵を引き付けながらリューの横を駆け抜けた。
リューは双子竜を挑発する気満々だったのだが、多数決の結果穏やかに気を引くという作戦になった。
それならそれで仕方が無い。リザードマンを可能な限り早く片付けてから竜退治に回るだけだと気持ちを切り替えると、セレスティアを追って殺到したリザードマン達を纏めて薙ぎ払う。
徐々に双子竜からリザードマン達を引き離し、なるべく分断させて攻撃する。とはいえ、剣戟の音が消せる訳では無い。にも関わらず双子竜はこちらを気にする様子がない。
それを少し不気味に思いながら、金目は光の三角形を形成すると、三体のリザードマンを貫いた。
「おばちゃん?」
エアルドフリスとアーサーは互いに顔を見合わせた。
「癇癪持ちで」「赤銅色のおばちゃんでち」
「「お前達のその傷からおばちゃんの臭いがするでち」」
赤銅色、と聞いてアーサーは目を見開いた。
「腐竜のことか」
「そのおばちゃん、とは知り合いなの?」
エアルドフリスの言葉に、双子は同時に頷いた。
「あたちたちに留守番押しつけて出て行ったでち」「ずーっと前のことでち」
「「お陰で遊びに行けなくてつまらないでち」」
「留守番……? なぁ、お前らの棲家はどこだ? 今度はこっちから遊びに行かせてくれ」
「あっちでち」「竜の巣でち」
「「でも、竜以外は近付けさせるなって言われているから来ちゃダメでち」」
アーサーの問いに双子は背後の大きな山を指差し、それから寂しそうに首を振る。
「あの山が、竜の巣……」
アーサーは月明かりによって巨大な黒い影となってそびえ立つ山影を見る。
その時、双子の後ろで何かがキラリと光った。
(……幼女に忍び寄って様子伺うとか、端から見たら事案っすねこれ……)
馨はコボルド達の案内により双子竜の背後側に出る入口へと辿り着いた。
そろそろと忍び寄り、短伝話のスイッチを入れ、仲間達へ合図を送る。
(さて、これでよし、っす。じゃ、行くっすかね!)
馨はネーベルナハトを構えると、一気に地を駆け、飛び上がった。
満月を背負い、慣性のままに急降下していく。
構えた槍の先が、竜の幼子の背後を捉えた。
●月下交響曲
絹を裂くような悲鳴が周囲に轟いた。
アーサーはマシュへと斬り掛かる。
しかし光耀をマシュは左腕一本で受け止めると、剣を外側へとはじき、アーサーの空いた胴へと回転しながらの尾撃を叩き込んだ。
「許さないでち!」
マシュが怒りに燃える瞳で馨を見ると砂嵐を起こした。
それを腕で顔面を覆いながら馨はバックステップで避けるが、耳の奥でノイズが残り、思わず片膝を付いた。
エアルドフリスもまた聴覚を侵されたせいで上手く呪文を紡げない。
リザードマンの相手をしていた3人は悲鳴と砂嵐の音で戦闘が始まったことを知った。
「え?」
セレスティアは思わず自分の持っている短伝話を確認したが、短伝話は沈黙したままだ。
リューは鍔迫り合いの最中飛んできた火矢を受け、思わず舌打ちすると、大きく一歩踏み出し盾でリザードマンの側頭部を殴り飛ばした。
「早く片付けて合流しましょう」
残り、手負い5体。金目は両刃斧を勢いよく振り下ろし、リザードマンの胴と首を切り落とした。
双子竜を分断し、戦う。
それが当初の予定であり、実際馨の奇襲は成功し、マロに深手を負わせている。
しかし、ここは神霊樹のネットワーク外。短伝話は機能しない。
結果、馨が入れたはずの合図は誰にも届かず、運良く気づけたアーサーだけが奇襲に反応出来た。
もっとも、短伝話そのものを持って来ている者も少なかった為、通信が出来ていたとしても有効だったかは疑しい。
そしてその齟齬は成功した奇襲を最大限に活用することを阻んだ。
アーサーがマシュの尾を掴むが、姿形は幼くとも流石は竜か。逆に尾に払われ、岩肌に全身を強かに打った。
馨は引き続きマロを素早い動きで執拗に責め立てる。
「痛いでちーっ!」
半泣きになりながらマロが叫ぶと、直ぐ様マシュがロケットの如く飛んできて、馨へと頭突きを叩き込む。
その衝撃に馨は受け身を取ったにも関わらず吹き飛んだ。
「均衡の裡に理よ路を変えよ。生命識る円環の智者、汝が牙もて氷毒を巡らせよ」
エアルドフリスの杖の先にこの土地では貴重な水が集まるとみるみるうちに空中で凍結していく。そして氷は蛇の形となると、マロに向かって食らい付いた。
「はっ! ぺちゃくちゃウルセェガキどもがっ! てめえら雑魚なんざおよびじゃねえんだよ!」
リザードマンを殲滅させ、駆けつけたリューは真紅のマテリアルを立ち上らせながら挑発する。
しかし、幼く見えても高位の竜である双子竜はリューを一瞥しただけで黙殺。
「大丈夫ですか? エアルドさん」
「あぁ、酷い目に合った」
エアルドフリスの護衛を務めるべく彼の前で盾を構えた金目に、エアルドフリスは耳に水が入った時のように首を傾けながら側頭部をとんとんと叩いて見せる。
「白き癒しの光よ。かの者の傷を癒したまえ」
セレスティアがアーサーへと治癒の光を飛ばすと、アーサーは礼代わりに短剣を持つ手を上げる。
ここから、ハンター達による総攻撃が始まった。
馨が氷結によって動けないマロへ何度も斬りつける。そこへリューが竜貫で更に斬り込む。
エアルドフリスが再度氷蛇咬でマロを捕らえ、セレスティアは馨を癒やす。
アーサーはマシュを相手取り、高く跳躍すると光耀を叩き込み、金目は油断無く双子を観察しながら最後のデルタレイを放った。
マシュも砂嵐を起こし、尾で鞭打ち、その小さな手からは想像も付かないような重いパンチを叩き込む。
マロもようやく氷結から抜け出すと、傷だらけの身体を震わせながらマシュへ白光を伴う支援を飛ばす。これを浴びた後のマシュの一撃は強烈で、ノーガードのまま殴られたアーサーは自己治癒とセレスティアの治癒が間に合わなければ危なかった程だ。
「これで、どうっすか!?」
幾度にも渡る攻防。馨の渾身の一撃が遂にマロの尻尾を切り落とした。
マロは衝撃に悲鳴を上げることもなく地に伏した。
「マロ!!」
咄嗟にアーサーを尾で払い飛ばし、力ないマロを抱きかかえると震える声で呟いた。
「ひどいでち。パパが言った通りだったでち」
「パパ……?」
馨が眉を顰めた。
「『強欲竜(ドラッケン)より人間の方が強欲だ。戦え、滅ぼせ! さもなければ滅びるのはお前達の方だ』……本当だったでちね。だまし討ちして、数の暴力振るうでち。ヒトは卑怯者でち」
「お前達がコボルド達にした事は何だ!」
振動刀の柄を音が鳴るほど強く握り締めたリューが噛みついた。
「遊びでち。ずーっとやってきたことでち。ヒトだって犬っころ殺してきたくせに」
「それは……!」
悪びれもしない断言と告発。
セレスティアが弁明しようと口を開きかけ、結局噤んだ。
今まで討ったコボルド達の殆どは雑魔化していた。だが、その全てが本当に雑魔化していたかは今となっては解らない。そして今でも西方文化圏では人の生活圏を侵す彼らは駆逐すべき害獣と同等であるのも事実だ。
「認めないでち。犬っころもパパもお前達を『救世主』って言うでち。この世界は滅びたがっているんでち。だから、この世界を滅ぼそうとするあたちたちの方が正しいでち。絶対、お前達を認めないし、許さないでちっ!」
6人の方を向いたまま、マシュは大きく後ろへ飛んだ。そして、そのまま彼らが追ってこないと見ると、暗い闇の中へとその白い身体を溶け込ませ、消えた。
煌々とした満月の周囲に星は見えない。
少し遠巻きに星々は語る。煩いくらいに。
しかしどんな会話をしているのか、耳を澄ましても月明かりに照らされた6人の耳には届かなかった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
イズン嬢へ質問 エアルドフリス(ka1856) 人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/09/19 02:45:03 |
|
![]() |
強欲種殲滅【相談卓】 エアルドフリス(ka1856) 人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/09/19 06:27:10 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/09/16 19:01:23 |