ゲスト
(ka0000)
【蒼乱】橋の上のルビー
マスター:cr

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/09/21 19:00
- 完成日
- 2016/09/29 02:53
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「お待ちしておりました。それでは早速向かいましょう」
ここは大渓谷の遺跡の一つ。そこで彼女は別れた時と同じく待っていた。彼女の名はルビー。この遺跡に居た者である。
先日ハンター達は大渓谷の調査中にここにたどり着き、そこで彼女と出会った。この大渓谷の遺跡は一つながりになっていることを教えられ、代わりに彼女に『ルビー』という名を付け、そして彼女にこの遺跡を出て共に行くことを望んだ。
「……申し訳ございません。私はこの施設から離れるわけには行きません」
しかし彼女はこの遺跡から出ることを拒否した。それが彼女の存在意義だったのだろう。だが。
「ピースホライズン……この上に行くことは出来ますか?」
「……そこならば」
そしてルビーはピースホライズンに向かうことになったのである。
●
わからないことが多すぎる大渓谷内の遺跡調査において、ルビーの存在は非常に大きい。ハンターソサエティはそのためにピースホライズンでの彼女との交流、を一つの依頼として実行することにした。彼女とハンター達の交流で、なにか新しいことが分かれば御の字だが、そうでなくても仕方ない。何せ我々にはわからないことが多すぎる。彼女がどう動いているのかも。
だから今は新たな隣人として、ピースホライズンでルビーとの時を過ごすことを考えればいいのでは無いだろうか。
ハンター達はルビーをピースホライズンに向かわせるために首尾よく準備を整えていく。上に登るためのロープに彼女の体を固定し、そのロープが巻き上げられるときだった。
ルビーは自分の言葉でハンター達に話しかけた。
「この上に何があるのか……なにか不思議な感覚がします。これが『ワクワクする』ということなのでしょうか」
その時、ルビーが少し微笑んだ、ように見えた。
「お待ちしておりました。それでは早速向かいましょう」
ここは大渓谷の遺跡の一つ。そこで彼女は別れた時と同じく待っていた。彼女の名はルビー。この遺跡に居た者である。
先日ハンター達は大渓谷の調査中にここにたどり着き、そこで彼女と出会った。この大渓谷の遺跡は一つながりになっていることを教えられ、代わりに彼女に『ルビー』という名を付け、そして彼女にこの遺跡を出て共に行くことを望んだ。
「……申し訳ございません。私はこの施設から離れるわけには行きません」
しかし彼女はこの遺跡から出ることを拒否した。それが彼女の存在意義だったのだろう。だが。
「ピースホライズン……この上に行くことは出来ますか?」
「……そこならば」
そしてルビーはピースホライズンに向かうことになったのである。
●
わからないことが多すぎる大渓谷内の遺跡調査において、ルビーの存在は非常に大きい。ハンターソサエティはそのためにピースホライズンでの彼女との交流、を一つの依頼として実行することにした。彼女とハンター達の交流で、なにか新しいことが分かれば御の字だが、そうでなくても仕方ない。何せ我々にはわからないことが多すぎる。彼女がどう動いているのかも。
だから今は新たな隣人として、ピースホライズンでルビーとの時を過ごすことを考えればいいのでは無いだろうか。
ハンター達はルビーをピースホライズンに向かわせるために首尾よく準備を整えていく。上に登るためのロープに彼女の体を固定し、そのロープが巻き上げられるときだった。
ルビーは自分の言葉でハンター達に話しかけた。
「この上に何があるのか……なにか不思議な感覚がします。これが『ワクワクする』ということなのでしょうか」
その時、ルビーが少し微笑んだ、ように見えた。
リプレイ本文
●
「ルビー! 約束どおり迎え来たぜ! 外の世界に行こう!」
遺跡に大伴 鈴太郎(ka6016)の元気な声が響く。その声に反応してか、ルビーが姿を表す。そして鈴太郎に続いて他のハンター達が次々と降りてくる。
(遺跡で会った、ラプラス。それカラ『ミドリノセカイ』知らなきゃいけないコトがいっぱいのヨカン)
ロープを伝いながら、パトリシア=K=ポラリス(ka5996)はここ最近で起こった様々なことを思い返していた。でも今は。
「デモネ、パティは今日ハ、ルビーとオトモダチになりたいんダヨ」
軽く飛んで地面に降り立ちルビーの元へと駆け出すパティ。そして他のハンター達も集まり、再会を祝う輪が出来上がった。
「わたしの事覚えてる?」
「はい、八原篝さんですね」
八原 篝(ka3104)のその言葉にすぐに反応するルビー。
「ルビー、こんにちは。私たちのこと覚えてるかな?」
「はい、皆さんのことを覚えています」
天王寺茜(ka4080)の言葉にも、彼女は一人ずつ確かめるように見て、そしてそう言葉を返した。
「私は嬉しい。ルビー。貴方と再び出会えたことを」
「私もです。雨を告げる鳥さん。来てくれるのをお待ちしていました」
雨を告げる鳥(ka6258)の言葉に、彼女は僅かに抑揚のついた声でそう返事した。
そんな五人と一人の様子を春日 啓一(ka1621)は遠巻きに見ていた。
「遊びに来てもらうのは良いがそういやあの格好でくるのか……まあ歪虚とは思われねーと思うが着替えてもらうかね」
そして彼は気づいた。彼女の着ている白い服はまずクリムゾンウェストで見ない形であり、このまま向かえば浮いて目立つのは間違いない。街の人々を驚かせ無用な混乱を招きかねない。そこで。
「あー、済まねえがコレに着替えてくれるか?」
と、こんなこともあろうかと用意していた薄紅色のドレスと編み上げブーツを差し出す。それを見て他の五人にも彼の考えはわかったようだ。ならば。
「はーい、それじゃ春日さんはこっちですよー」
「レディの着替えは見ちゃいけないんダヨ」
「もし覗こうもんならこうだぜ!」
というわけで春日は遺跡の外へ押しやられ、程なくしてピースホライズンっ子の姿に変身を遂げたルビーが現れたのだった。
●
「ピースホライズン……か」
その頃、クロード・N・シックス(ka4741)は欄干にもたれかかりながら風に吹かれていた。この橋の上の街は去年の年末、歪虚達に襲われ戦場と化した。その復興の際に彼女も手伝いのために訪れた事がある。あれから一年も経っていないが、彼女がその時見た風景とはまるで変わっていた。数々の建物が立ち並び、人々は賑やかで楽しげな声と共に歩いている。まるでかつての傷跡は感じられない。これだけの時間でここまで取り戻したこの街は、人々の強かな生命力を表しているようだった。見知った顔も何人も見かけた。そんな人々と思い出話をしつつ、彼らの目は未来を向いていることを彼女は確かに感じていた。
そんな彼女の目に、一際賑やかに盛り上がりながら街へと入ってくる一団が見えた。その盛り上がりっぷりにどうしても目が向く。
「今回案内するのは、崖上都市ピースホライズン。北の帝国、南の王国を隔てる大渓谷。その大渓谷を渡る唯一の巨大な橋の上に造られた街よ」
「つまり私の居た施設に街を一個作ったということですね。驚きです」
篝の言葉に、一団の中心で少しだけ抑揚をつけてルビーが答える。
「それも勝手に造ってしまったワケだけど、それについては今回は勘弁してもらえると助かるわ?」
「大丈夫です。機能への損傷は認められませんでしたから」
「それは良かった……っと、危ない!」
一団は突然左に移動する。彼女たちが動いて空いた道の上を馬車が駆け抜けていく。ここは橋の上の都市。つまり天下の往来が中心にあるわけで、そこをひっきりなしに各種車両が動いていた。
「というわけで、交通量も多いから注意してね?」
「はい、ありがとうございます」
そんな一団を見ながら、クロードは目を丸くしていた。
「……やけに盛り上がってる団体様が居るわね。なんだか面白そうじゃない。あたしも混ぜてもーらおっと……コホン!」
咳払い一つして彼女は話しかける。
「ハジメマシテ! 初対面の人ばかりですカラ、まずは自己紹介! ワタシはクロードといいマス! よろしくネ!」
いきなり口調を変えて話しかけるクロード。明るい彼女の声に周囲がぱっと華やいだ様に感じる。
「クロードさんですね。初めまして、私はルビーです」
そんな彼女と対照的に機械的に反応するルビー。
「Oh, Ruby! Cool & Cuteな名前デス!」
そして仰々しく返すクロード。そのまま彼女は本題を話す。
「案内できるほど土地勘ないデスし、とりあえず皆サンと一緒に歩きマス!」
「私も散策したい。ピースホライズンの市場を。遺跡の調査も本格化している。もしかしたら、私の知己と出会えるかもしれない」
そんな彼女の言葉に、レインもまた対象的な口調と言い回しで自分の希望を述べる。
「私の知識にある事柄であれば解説しよう」
「賑やかしなら任せてくだサイ! そういうのは得意デス!」
こうして、一団は少し大きくなっていよいよこの橋の上の街へと入っていくのであった。
●
賑やかに進む一行は程なくしてとあるカフェに入った。
「お菓子か。美味しそうだ。私は提案する。皆で食べてみようと」
そんなレインの提案によって各々の前にコーヒーに店自慢のケーキが並ぶ。
「とても甘いです」
ルビーは口に運ぶとそう反応する。そんな彼女の様子をパティはニコニコして見ていた。そして彼女は話しかける。
「パティはね、若葉のグリーンが好き。空の青も。夕焼けの赤も。ソレカラ……キレイで甘いジュードのお菓子も♪」
そして一呼吸置いて尋ねた。
「ルビーの好きな色はナニ? 好きな食べ物ハ?」
その言葉に合わせるように茜がカバンからなにやら取り出した。
「ジャムにクリーム、チョコレート、ルビーの味覚に合うと良いんだけど」
小さな半円形の生地の間にクリームが挟まっている色とりどりのお菓子たち。彼女お手製のマカロンである。
茜がテーブルの上に並べると、四方八方から手が伸びる。そしてすぐに好評と歓喜の声が一帯を埋め尽くす。
しかし、ルビーは言葉を話さなくなっていた。どうしたのだろうと二人が覗き込む。
「好きな食べ物……好きな色……『好き』ということがわかりません」
記録システムのインターフェースとして作られた彼女には、好意という概念は無かった。存在してもいけなかった。
伏し目がちになっていくルビーに、二人は覗き込んだまま話しかけた。
「ソレナラ、好きなものを見つければイインダヨ」
「そうそう、この街には色々なものがあるしね」
どうやら、ルビーの今日の目的は決まったようだ。
一方、鈴太郎は何やらそわそわしていた。そんな彼女のもとに一人の女性がやってくる。
「遅いぞカズサ!」
「時間通りだすず」
「この人は誰でしょうか」
会うや否や会話を始めた二人にルビーが話しかける。
「コイツはダチのカズサ! ルビーに会わせたくてよ!」
「初めまして、柄永 和沙(ka6481)です。すずたろーがお世話になってます」
和沙は一人でこの街を散策しようと思っていた。しかし鈴太郎が強く頼んで、一行に混ざることになった。それは鈴太郎が自分の『好き』を紹介したいと思ったから。口では喧嘩しつつも、互いに友と思っている二人の表情がルビーに『好き』の意味を伝えていた。
●
「ルビーちゃん、どこにいるのかにゃ?」
その頃、ピースホライズンの一角でアルス・テオ・ルシフィール(ka6245)が周囲を見回していた。この街には彼女が見たこともないものが星の数ほどある。それは好奇心旺盛な彼女にとって宝箱と同じだった。キラキラと輝く瞳であちこちを訪ね歩いていた。それに今日は何と言ってもルビーと出会えるのだ。楽しみで仕方ない。
しかしそんな彼女は突然立ち止まった。あることに気づいたらしい。
「ルビーちゃんのお姿、ルーシー知らにゃい」
そう、彼女はルビーのことを見たことがなかった。これでは出会うことも出来ない。というわけでとりあえず彼女は甘い匂いに引かれて食べ歩きを始めることに相成った。
●
カフェを出た一行が街を歩く。この街には様々な物が存在する。それらを各々が口々にルビーに紹介しながら、ワイワイと街を進んでいく。
そうやって会話に熱中していたのが行けなかったようだ。一行の向かいからカップルが歩いてくる。買い物帰りなのか片腕いっぱいに雑貨やら食料やらを抱え込み、二人で買った串焼きをあーんと彼氏に食べさせつつ歩いている。つまりこのカップルにも周りが見えていなかった。となると結果。
「あっ、ごめんなさいっ! おねーさん、お怪我ないです?」
「大丈夫か? 怪我とか服とか」
そんなカップル、アルマ・A・エインズワース(ka4901)とミリア・エインズワース(ka1287)の前には尻餅をついたルビーの姿。盛大にぶつかってしまった結果がこれだった。
「大丈夫です。障害は発生していません」
しかしルビーは事も無げに立ち上がる。そんなルビーの様子を見て二人はほっと胸をなでおろす。そしてようやく回りが目に入った。そこには、ルビーの事を心配して集まる一行の姿があった。
「お友達と観光です?」
その様子を見てアルマが出した答えに、パティと茜がこくこく頷く。ならば二人にもできることがある。
「お買い物するならこの辺がいいですよー」
指で右側を指し示すアルマ。そこには個性豊かなファッションが集まる一角があった。なかなかガイドブックにも載っていない特別情報である。
「賑やかなのは向こう、食い物ならアッチの店がいいぞ」
一方ミリアは手に持った串で左側を指す。そこには美味しい串焼きを売る店がある。それが美味しいことはつい先程二人の口の中で実証済みだ。
「わふ。そうだ、お詫びとお近づきのしるしですっ」
そう言うとアルマは指をルビーの目の前に差し出した。そして彼がウィンクすると突然小さな造花が現れる。その様子に、ルビーよりパティ、茜、鈴太郎の三人のほうが目を丸くしている。
そんな三人をさておき、アルマはその造花をルビーの髪に刺した。実は元大道芸人である彼にとって、この程度の手品は造作も無いことだった。
「花もいいけどコイツももってけ」
一方ミリアは取り出した砂糖菓子をルビーに握らせる。そして二人は
「お気をつけてですー。よい一日を!」
「見て食って持ち帰って、いい日にしようぜ。じゃあまたなー」
手を振りながら去っていった。この出会いは、ルビーに何を教えたのだろうか。
●
二人と別れた一行はまずアルマの情報を元に右側へと向かう。が、その前に茜が一行を止める。広場でベンチに腰掛け休息する一行。どうやら彼女には別の用事があったようだ。
その用事であるもう一つの大きなカバンを置く茜。するとニャーニャーという声が聞こえてきた。
「これ、まさか……」
鈴太郎の表情が変わる。そして
「この子はこの間は紹介できなかった私の友達、ミールよ」
カバンの用に見えたそれは猫用のケージだった。蓋をあけると飛び出して茜の膝上に座るミール。
「あーっ! ズリィぞ!」
「へっ? 何かずるいの?」
「オレだってウチのに会わせたかったんだぞ!」
が、そんな二人を見つめるミールの姿に鈴太郎はすっかり骨抜きになっていた。こう見えて彼女は大の動物好き。ミールの可愛さに参ってしまっていた。茜の許可を得て抱き上げると、顔が緩んでしまう。
「可愛いだろー♪ ほら、抱っこしてやってみ?」
「この喉のトコ、撫でたげると喜ぶの」
鈴太郎にミールを渡されたルビーは、茜の言葉に従って喉を撫でる。すると甘えたようにニャーニャーと鳴き、ルビーに頬をすり寄せてくる。どうやらミールはルビーを気に入った様だ。
「ウチのは家猫だからよ。いつかさ……ルビーがもっと遠くにも行けるようになったら、ゼッテー会ってやってくれよな?」
そんなルビーの姿を見ながら、鈴太郎は自分自身にも確かめる様に言った。ルビーはこの遺跡のために作られた存在である。そんな彼女が遺跡から離れ鈴太郎の家に来れる可能性は低いと言わざるを得ない。しかし、彼女はいつかその時が来ることを信じていた。
●
その頃、この街の一角に開かれた蚤の市をテオバルト・グリム(ka1824)と神代 誠一(ka2086)が回っていた。
「誠一さん、これ何ですかね。鳥?」
よくわからない鳥の置物を片手に尋ねるテオ。それに対し
「ああ、これはプッチョヒポポンタスという伝説の鳥で……」
しれっと騙す神代だったが、結局吹き出してしまう。
「嘘ですよ」
「嘘なんですか」
そんな他愛もない会話をしている時、テオバルトは見知った顔を見かけた。
「ああ、柄永も来ていたのか」
「テオバルトさんこんにちは」
「それでこちらの方々は?」
「まあ観光に来たというかなんつーか……」
そんな会話をしている頃、神代が手に木の実を持ってテオバルトとルビー、二人に差し出していた。
「どうぞ。採れたての地物だそうですよ」
甘そうで美味しそうなそれらを口に運ぶルビー。
「これが美味しいなのですか」
そんなルビーの反応にテオバルトも口に運ぶが、次の瞬間口の中が燃え上がるような刺激に襲われた。
「くくくっ。やー、俺も食べた時は吃驚しました」
まんまと引っかかったテオバルトを見て肩を震わせて笑う。
「あー……」
「人が悪いなぁ。これは美味しいじゃねぇぞ……って何やってんだ?!」
鈴太郎が何も知らないルビーにレクチャーしていた。神代にも注意しようとそちらを見れば、変な被り物を被った彼の姿。
真面目な顔をして悪戯好きの神代だが、悪戯というものを理解していないルビー相手には少々分が悪かったようだ。それでも怒ったり、苦しんだり、笑ったりという周りの表情に影響されて、少しだけルビーの表情が変わったことに彼は気づいていたのだろうか。
別れ際、テオバルトは和沙に話しかける。
「遠慮しなくていいんじゃねぇか?」
「遠慮?」
「俺にはそう見えるぞ? まあ、頑張れ」
そして二人は去っていった。
「ジュードさんの店で菓子も買わないとな!」
●
「ここが流行の最先端の街! 私の育った田舎村と全然違う!」
その頃アシェ-ル(ka2983)はこの街の様子を見て目を丸くしていた。もうすぐハロウィン。それに向けて仮装のための衣装を探しに個性豊かなファッションが集まるというここにやって来たのだった。そしてそんな彼女の期待に応えられたかはその反応が示していた。
早速山ほどある各種アイテムをつけたり外したりして、お気に入りの一品を探す。しかし。
「うーん。鏡が無いと分かりませんね……あの、ちょっと良いですか?」
鏡が無かったため実際につけるとどうなるのかが分からない。というわけで、近くに居た少女に手にした猫耳カチューシャを付けてみる。
一方。猫耳を付けられて猫娘に変身したルビーはどう反応すればいいのか戸惑って固まっていた。そこに、一行がやってくる。
「わ、わ! ルビー、それ似合う!」
その似合いっぷりにその場に居る者達のテンションが自然上がる。
「こっちの柄と形も気になりますね」
そんな中アシェールは様々な物を取っ替え引っ替えしていた。その間ルビーはされるがままだ。
一方アシェールは手当たり次第にルビーに付けさせながら、ルビーに話しかけた。
「もうすぐ、ハロウィンっていうお祭りの時期が来るんですよ。仮装して悪霊を払うのです」
そしてここで始めて自分が名乗っていないことに気づく。
「あっと。私、アシェ-ルって言います」
「アシェールさんですね。わかりました」
「これは私よりルビーさんの方が似合いますね」
そしてアシェールは最初に付けた猫耳カチューシャを再びルビーにつける。
「これは私からのプレゼントです。ルビーさん、また、どこかで~」
自分のと二つ分の代金を払うと、アシェールは嵐のように去っていった。あとに残るのは猫耳ルビーだった。
しかし肝心のルビーはそれを気に入ったようだ。何度か撫でると、そのまま次の場所へ向けて歩き始めた。アシェールとの出会いの証は、彼女の頭の上に残っていた。
●
その頃、和沙は疲れていた。歩き疲れたからではない。
「……皆で遊ぶのは嫌じゃないけど、少し人見知りなのもあるからいきなりはきついっていうか」
彼女は元々団体行動が得意ではなかった。そんな彼女が集団で動くことは想像以上に疲労を与えていた。
「一人になってもいいかな……」
そこで彼女はこっそりと一行から離れていた。
「あれ?カズサがいねぇ。迷子!? やっべぇ、探さなきゃ!」
和沙が居なくなったことに気づいたのはやはり鈴太郎だった。ルビーとの時間は心惜しいが、友達を放っておく訳にも行かない。
「ルビー……また遊べンよな……?」
「はい」
迷うこと無く、頷いて返すルビー。それを見て鈴太郎は走り出した。何度も振り返り、一行を見送ってそして彼女は走り出した。
●
鈴太郎と別れた一行は今度はミリアのお勧めに従って屋台が立ち並ぶ一角にやって来ていた。様々な料理が供され、漂う匂いが否が応でも食欲を刺激する。早速屋台を巡り食べ歩きを始める一行。
そんな屋台街には先客が居た。道元 ガンジ(ka6005)が器用に右手に揚げ芋、左手に焼き鳥を持って食べながら歩いている。腕には一杯の食材。
安心して美味いご飯を楽しめる、ガンジはこの状況に平和を感じていた。そんな時、彼は一行と出会った。
「あんたはどんな味が好みだった?」
出会っての第一声がこれだった。美味しいご飯の数々に、感じた平和を他の人々と共有したいという気持ちが彼にこう言わせたのか。ともかく彼の言葉に一行は次々と感想を述べる。しかしその中心で、ルビーは何も答えられなかった。
「私は伝える。ルビーはこの下の遺跡に居た。故に美味しいという事を知らない」
「へえ、この下の遺跡にいたのか」
そんな彼女の特殊な立場を知って、ガンジはルビーの両肩に手を乗せこう言った。
「ルビーは遺跡に置いてけぼりにされていたわけじゃない。いつかきっと、希望の種になるようにって遺跡を残した技術者サンも願っていたんじゃないかな」
その深いルビー色の瞳がガンジに何かを語りかけているような気がした。だから。
「土に埋まってた種が芽ぇ出した……って感じがする子だから、ウン、やるよ」
ガンジはルビーの手に何かを握らせる。
「これは種子ですね」
「これ食う用に買ったんだけど、炒ってないから撒いたらなんか芽が出るだろ。ハハハ、食ってもいいけどな!」
そして別れ際、彼は一言ルビーに贈った。
「あんたも希望の種のひとつであること、忘れんなよ」
●
すっかり日も橋の向こう側に沈みだし、辺りはオレンジ色に染まっていた。そんな暮れなずむ街の中で一際人が集まっている一角があった。各種雑貨に甘いものを売っている店の様だ。その甘い匂いに惹かれてルーシーもここにたどり着いていた。
その中心ではジュード・エアハート(ka0410)がせわしなく働いていた。彼はこの店の主人であり、同時に看板娘だった。売るものに合わせて可愛らしく着飾った彼が様々な客を相手にしていた。
人が集まる所に一行は惹かれるようにやってきた。人だかりをかき分け頭を中に入れると、すぐにジュードが気づいた。
「あ、パティさんにレインさん! 今日はサービスしちゃうよー」
そして押し込まれる様にルビーが顔を出す。
「お友達のお友達は友達だから! おすすめは同盟の栗を使ったマロンプリン、それに王国産の小麦と紅茶を使った猫さんクッキーだよー♪」
マシンガンの様に浴びせかける商売文句にルビーが呆然としていたところで、レインが声をかけた。
「ジュード・エアハート。貴方が居るということはエアルドフリスもこの街に滞在しているのであろうか」
だが、それを聞いたジュードはツーンとそっぽを向いた。そんな時、ルビーに声をかける者が居た。
「ほう、あんたが噂の地下遺跡の住人か」
彼こそがエアルドフリス(ka1856)だった。彼はすぐにジュードに声をかける。
「浮気じゃあないと言ってるだろう。あれは偶々であってだね」
言い訳から入る彼の言葉に、ジュードは聞く耳を持たないとばかりにツーンとおすまし。
「悪かった。心配かけるつもりじゃあなかった」
平謝りしつつ、高級レストランのパンフレットを見せるエアルド。
「……言い訳位は聞いてあげる」
喧嘩中でも食事は別のようだ。
「……ルビーちゃんなの? ルーシーはルーシーにゃ!」
一方、ルーシーは奇跡が起こっていたことにやっと気づいた。思わず覚醒したルーシーとルビー、猫耳少女が二人猫が戯れる様にしている
そんな二人にエアルドはお近づきの印に何か奢ることにした。
「俺はレモンの焼き菓子と……辺境の干菓子が好きだ。二人は何がお好きかね?」
「ルーシーは甘いものならなんでも大好きにゃ!」
「……私には『好き』がありません。でも、ここに来て食べることは幸せだと理解しました」
だから。
「私も全部好きです」
それは彼女が好きを手に入れた瞬間だった。
●
昼と夜の間、黄昏時。岩井崎 メル(ka0520)は仕事帰りの道を歩いていた。
そこで見かけた少女。何か無機質な印象を受ける少女。メルはそんな彼女に惹かれてしまう。彼女を見れば好奇心が首をもたげる。
「君は?」
聞けば彼女はこの遺跡の下に居た少女だという。
「ルビー君、だね。私はメル」
道を歩きながら名乗り、そして言葉を続けた。
「そっかぁ……わざわざ遺跡の上まで。遠かっただろうに、来てくれて、ありがとうね」
「でも、とても興味深いです」
ルビーはスポンジが水を吸収するように、半日で人々の営みを身に付けていた。もっと知って貰いたくてお姉さんぶるメル。
「作るお仕事の帰り道なんだ、私。ルビー君は、何かを作った事がある?」
「無いです。それは『楽しい』ですか?」
「楽しいよ。ぜひ、挑戦してみて欲しいなぁ」
ただある物を知ることしか知らなかったルビーに与えられた『作る』という概念は、彼女の心を動かしたのだろうか。ともかく、あっという間に別れのときはやって来た。
「さようなら。また逢えたら良いいな」
そしてメルは祈りの言葉を続けた。
「夜も色々あるんでしょう? 良い事がありますように」
●
日が沈み、夜の帳が下りた頃。そこにボルディア・コンフラムス(ka0796)が居た。夜の時間の始まりだ。
「この前は世話ンなったな。お前らのお陰で命拾いしたぜ」
「怪我は大丈夫カナ?」
ここまで一緒に来た者達を見てボルディアが声をかける。さらに、そこに二人組が現れた。
「貴女がルビーね? 初めまして、フィルメリア・クリスティア(ka3380)です。宜しくお願いしますね?」
「ゼクス・シュトゥルムフート(ka5529)だ。まぁ、気楽にゼクスで構わないんで今日はよろしくなルビー」
ここからは彼女達に引き継ぐことになる。パティ達も見知った顔が居て一安心だ。
別れ際、レインはある物を贈った。
「私は贈る。ルビー。光明を呼ぶお守りである」
それはてるてる坊主だった。
「貴方に数多の出会いと、良き経験が訪れることを願っている」
そしてルビーは彼女たちのことを名残惜しそうに手を振って送った。
「へぇ……人間と全くかわらねぇなあ。これがアイツの言ってた『第三の世界』の技術か……」
一方一人残ったボルディアは、ルビーの姿をまじまじと見てそう漏らしていた。が、今は。
「まあ色々楽しもうぜ!」
というわけで夜の街を散策する一行。
「あっちはカジノ。金をドブに捨てたがる奴等が集まる。こっちは飲み屋。酒を飲んで嫌な事を忘れたい奴等が集まる。どうだ、欲望ドロドロで中々面白いだろ?」
「お酒を飲んで忘れる……意味がわからないです」
「あー……まあそうだろうな。じゃ、カジノにでも行くか?」
というわけで入店した一行。ルールはすぐに理解し、ルビーの前にカードが数枚配られた。
●
そして小一時間後、ルビーの前には山積みになった大量のチップが並んでいた。
「これでいいのでしょうか」
全てのカードを記憶し、確率を完璧に計算した結果がこれだった。おかげで周囲には黒山の人だかりに成っている。
「ああん? なんだあの似つかわしくねえ集団は……」
情報収集がてらふらついていた鵤(ka3319)もこの状況に目を向ける。そして。
「……へぇ、あれが噂の。ちょいと覗きに行こうかねぇ」
見物も兼ねて首を突っ込む鵤。
一方他の者達だが、かなり危険な状況になっていることを感じていた。イカサマを疑ったカジノの用心棒がルビーの元に近づいてくる。
それを感じたフィルとゼクスが動く。フィルがルビーの側に立ち、ゼクスが用心棒の腕を極めて取り押さえる。が、さらなる混乱を招くかのように他の者達が近づいてきた。こうなるともうひとつしか無い。
「やべぇ、逃げるぞ!」
「どうしてですか?」
「ほらぁ、あの自動機械連中のとこにいた娘でしょお? 結構噂になってるぜ?」
逃げ出す一行に鵤が声をかける。
「おっさん此処らはよく知ってんのよぉ。個人的な仕事でよく来るもんでぇ」
「助かった!」
というわけで夜の街に消えていった二人に、鵤は追加の情報を伝えていた。
「あ、そこの飯と此処のスイーツお勧めよ」
●
さて、何とか脱出した一行。落ち着いた所でフィルが何か取り出した。
「ルビーだって女の子だし、こういうのなら着けておいても邪魔にはならないでしょう?」
そしてそれを付ける。ルビーの胸元にブローチが輝く。それを彼女は愛おしそうに撫でていた。着飾るということを知らなかった彼女にも、何か新しい気持ちが目覚めたようだ。
「お、なかなか似合うな」
ゼクスが褒め、ついでにルビーに質問する。
「ところで、ルビーは何か好きな物とか苦手な物とかあるかい?あと良ければスリーサイz」
しかしその質問は全部言う前にフィルのパンチが炸裂していた。
「……悪かったフィル。ちょっとしたお茶目だって」
●
ブローチを身に付けたルビーと一行は大通りを散策する。眠らない街と呼ばれるだけあって、賑やかな音が聞こえてくる。
「交流……なぁ。難しく考えず、普通に接すれば良いか」
鞍馬 真(ka5819)は骨休めを兼ねてこの街に来ていた。そんな彼の元に、もう一つの目的であるルビーが現れる。早速挨拶と自己紹介を終えた彼は、見せたかった物を見せるために広場へと向かった。
そこでは音楽家達が様々な楽器を持って演奏していた。人々は聞いたり、共に歌ったりして楽しんでいる。
「これは『音楽』。多分見たことも聞いたことも無い……よな?」
頷いたルビーの姿を見て、鞍馬は笛を取り出し演奏に混じり始めた。音が一つ増えて益々賑やかになる演奏。
「どうしたのですか?」
そんな彼らの姿をぼんやりと見るルビーを見て、フィルが声をかける。
「私は『音楽』がわかりません。どうすればいいのかもわかりません」
だがルビーは言葉を続けた。
「でも、きっとこれは『楽しい』ことなんでしょう。私はもっと楽しいことを知りたいです」
●
楽しい時はあっという間に過ぎていく。夜もとっぷりとふけ、一行も宿屋へと移動を始めていた頃。
「ずっと独りきりでいた人形は何を想うのかしら? 笑い、悲しみ、喜び憂う心持てば、もう白磁の肌と宝石の瞳で作られても、ヒト、なのかしら?」
この街では例外的に静かな広場にアリア・セリウス(ka6424)が居た。彼女はここでルビーを待っていた。
そして星明りの下で、二人は出会う。
「ルビーは、青い世界の月を知っている?」
アリアは星空を眺めながら、そうルビーに問いかけた。
「存在は知っています。でもデータはありません」
「そう、それじゃ私と同じね」
空には月が浮かんでいた。青い世界の月は『彼』が知っている
「彼の産まれ、見てきた月を、いずれ見たい……そんな夢、最近みている」
その言葉を聞いて、ルビーは『夢』を胸の何処かにしまい込んだ。
●
長い一日も終わった。一行は宿屋に入る。あとは一晩休んで明日、ルビーを元の場所へ送り届ける。
「護衛? いや……案内役、ですか? 中々珍しそう……ですけれど、一体……何があったのでしょうね?」
そんな一行を天央 観智(ka0896)が興味深そうに見ていた。大勢でルビーを守るように入ってきた一行はどうしても目立つ。彼は一行にルビーのことを尋ねる。
「へぇ~。大渓谷の遺跡……ですか? 噂話には聞いた程度……ですけれど。なるほど……」
そして、彼はルビーに話しかける。
「ちょっと気になりますね。いや……ダメならダメで仕方ないですけれど。遺跡の事や、昔話とかも聞かせて貰えれば……。遺跡って、元々遺跡として作られる訳じゃなくて……結果として遺跡と呼ばれる事に成った、訳ですからね。何を目的に作られた物なのでしょう? とか……」
「ここは大渓谷の記録のために作られました」
天央の言葉にルビーが答える。それをきっかけに、就寝までの僅かな時だがこの遺跡の秘密のほんの先端を解き明かす話が始まった。
●
翌朝。共に泊まったフィル達の元に春日がやって来た。ルビーを元の場所に送り届けるためだ。
程なく一行は元の遺跡に戻る。別れ際、彼は語りかけた。
「楽しめたか?」
「わからないです。でも、楽しいということはわかったように思えます」
「それなら何よりだ、俺の気持ちはそいつに書いてあるから気が向いたら見てくれ」
そう言って去っていった。
「ルビー! 約束どおり迎え来たぜ! 外の世界に行こう!」
遺跡に大伴 鈴太郎(ka6016)の元気な声が響く。その声に反応してか、ルビーが姿を表す。そして鈴太郎に続いて他のハンター達が次々と降りてくる。
(遺跡で会った、ラプラス。それカラ『ミドリノセカイ』知らなきゃいけないコトがいっぱいのヨカン)
ロープを伝いながら、パトリシア=K=ポラリス(ka5996)はここ最近で起こった様々なことを思い返していた。でも今は。
「デモネ、パティは今日ハ、ルビーとオトモダチになりたいんダヨ」
軽く飛んで地面に降り立ちルビーの元へと駆け出すパティ。そして他のハンター達も集まり、再会を祝う輪が出来上がった。
「わたしの事覚えてる?」
「はい、八原篝さんですね」
八原 篝(ka3104)のその言葉にすぐに反応するルビー。
「ルビー、こんにちは。私たちのこと覚えてるかな?」
「はい、皆さんのことを覚えています」
天王寺茜(ka4080)の言葉にも、彼女は一人ずつ確かめるように見て、そしてそう言葉を返した。
「私は嬉しい。ルビー。貴方と再び出会えたことを」
「私もです。雨を告げる鳥さん。来てくれるのをお待ちしていました」
雨を告げる鳥(ka6258)の言葉に、彼女は僅かに抑揚のついた声でそう返事した。
そんな五人と一人の様子を春日 啓一(ka1621)は遠巻きに見ていた。
「遊びに来てもらうのは良いがそういやあの格好でくるのか……まあ歪虚とは思われねーと思うが着替えてもらうかね」
そして彼は気づいた。彼女の着ている白い服はまずクリムゾンウェストで見ない形であり、このまま向かえば浮いて目立つのは間違いない。街の人々を驚かせ無用な混乱を招きかねない。そこで。
「あー、済まねえがコレに着替えてくれるか?」
と、こんなこともあろうかと用意していた薄紅色のドレスと編み上げブーツを差し出す。それを見て他の五人にも彼の考えはわかったようだ。ならば。
「はーい、それじゃ春日さんはこっちですよー」
「レディの着替えは見ちゃいけないんダヨ」
「もし覗こうもんならこうだぜ!」
というわけで春日は遺跡の外へ押しやられ、程なくしてピースホライズンっ子の姿に変身を遂げたルビーが現れたのだった。
●
「ピースホライズン……か」
その頃、クロード・N・シックス(ka4741)は欄干にもたれかかりながら風に吹かれていた。この橋の上の街は去年の年末、歪虚達に襲われ戦場と化した。その復興の際に彼女も手伝いのために訪れた事がある。あれから一年も経っていないが、彼女がその時見た風景とはまるで変わっていた。数々の建物が立ち並び、人々は賑やかで楽しげな声と共に歩いている。まるでかつての傷跡は感じられない。これだけの時間でここまで取り戻したこの街は、人々の強かな生命力を表しているようだった。見知った顔も何人も見かけた。そんな人々と思い出話をしつつ、彼らの目は未来を向いていることを彼女は確かに感じていた。
そんな彼女の目に、一際賑やかに盛り上がりながら街へと入ってくる一団が見えた。その盛り上がりっぷりにどうしても目が向く。
「今回案内するのは、崖上都市ピースホライズン。北の帝国、南の王国を隔てる大渓谷。その大渓谷を渡る唯一の巨大な橋の上に造られた街よ」
「つまり私の居た施設に街を一個作ったということですね。驚きです」
篝の言葉に、一団の中心で少しだけ抑揚をつけてルビーが答える。
「それも勝手に造ってしまったワケだけど、それについては今回は勘弁してもらえると助かるわ?」
「大丈夫です。機能への損傷は認められませんでしたから」
「それは良かった……っと、危ない!」
一団は突然左に移動する。彼女たちが動いて空いた道の上を馬車が駆け抜けていく。ここは橋の上の都市。つまり天下の往来が中心にあるわけで、そこをひっきりなしに各種車両が動いていた。
「というわけで、交通量も多いから注意してね?」
「はい、ありがとうございます」
そんな一団を見ながら、クロードは目を丸くしていた。
「……やけに盛り上がってる団体様が居るわね。なんだか面白そうじゃない。あたしも混ぜてもーらおっと……コホン!」
咳払い一つして彼女は話しかける。
「ハジメマシテ! 初対面の人ばかりですカラ、まずは自己紹介! ワタシはクロードといいマス! よろしくネ!」
いきなり口調を変えて話しかけるクロード。明るい彼女の声に周囲がぱっと華やいだ様に感じる。
「クロードさんですね。初めまして、私はルビーです」
そんな彼女と対照的に機械的に反応するルビー。
「Oh, Ruby! Cool & Cuteな名前デス!」
そして仰々しく返すクロード。そのまま彼女は本題を話す。
「案内できるほど土地勘ないデスし、とりあえず皆サンと一緒に歩きマス!」
「私も散策したい。ピースホライズンの市場を。遺跡の調査も本格化している。もしかしたら、私の知己と出会えるかもしれない」
そんな彼女の言葉に、レインもまた対象的な口調と言い回しで自分の希望を述べる。
「私の知識にある事柄であれば解説しよう」
「賑やかしなら任せてくだサイ! そういうのは得意デス!」
こうして、一団は少し大きくなっていよいよこの橋の上の街へと入っていくのであった。
●
賑やかに進む一行は程なくしてとあるカフェに入った。
「お菓子か。美味しそうだ。私は提案する。皆で食べてみようと」
そんなレインの提案によって各々の前にコーヒーに店自慢のケーキが並ぶ。
「とても甘いです」
ルビーは口に運ぶとそう反応する。そんな彼女の様子をパティはニコニコして見ていた。そして彼女は話しかける。
「パティはね、若葉のグリーンが好き。空の青も。夕焼けの赤も。ソレカラ……キレイで甘いジュードのお菓子も♪」
そして一呼吸置いて尋ねた。
「ルビーの好きな色はナニ? 好きな食べ物ハ?」
その言葉に合わせるように茜がカバンからなにやら取り出した。
「ジャムにクリーム、チョコレート、ルビーの味覚に合うと良いんだけど」
小さな半円形の生地の間にクリームが挟まっている色とりどりのお菓子たち。彼女お手製のマカロンである。
茜がテーブルの上に並べると、四方八方から手が伸びる。そしてすぐに好評と歓喜の声が一帯を埋め尽くす。
しかし、ルビーは言葉を話さなくなっていた。どうしたのだろうと二人が覗き込む。
「好きな食べ物……好きな色……『好き』ということがわかりません」
記録システムのインターフェースとして作られた彼女には、好意という概念は無かった。存在してもいけなかった。
伏し目がちになっていくルビーに、二人は覗き込んだまま話しかけた。
「ソレナラ、好きなものを見つければイインダヨ」
「そうそう、この街には色々なものがあるしね」
どうやら、ルビーの今日の目的は決まったようだ。
一方、鈴太郎は何やらそわそわしていた。そんな彼女のもとに一人の女性がやってくる。
「遅いぞカズサ!」
「時間通りだすず」
「この人は誰でしょうか」
会うや否や会話を始めた二人にルビーが話しかける。
「コイツはダチのカズサ! ルビーに会わせたくてよ!」
「初めまして、柄永 和沙(ka6481)です。すずたろーがお世話になってます」
和沙は一人でこの街を散策しようと思っていた。しかし鈴太郎が強く頼んで、一行に混ざることになった。それは鈴太郎が自分の『好き』を紹介したいと思ったから。口では喧嘩しつつも、互いに友と思っている二人の表情がルビーに『好き』の意味を伝えていた。
●
「ルビーちゃん、どこにいるのかにゃ?」
その頃、ピースホライズンの一角でアルス・テオ・ルシフィール(ka6245)が周囲を見回していた。この街には彼女が見たこともないものが星の数ほどある。それは好奇心旺盛な彼女にとって宝箱と同じだった。キラキラと輝く瞳であちこちを訪ね歩いていた。それに今日は何と言ってもルビーと出会えるのだ。楽しみで仕方ない。
しかしそんな彼女は突然立ち止まった。あることに気づいたらしい。
「ルビーちゃんのお姿、ルーシー知らにゃい」
そう、彼女はルビーのことを見たことがなかった。これでは出会うことも出来ない。というわけでとりあえず彼女は甘い匂いに引かれて食べ歩きを始めることに相成った。
●
カフェを出た一行が街を歩く。この街には様々な物が存在する。それらを各々が口々にルビーに紹介しながら、ワイワイと街を進んでいく。
そうやって会話に熱中していたのが行けなかったようだ。一行の向かいからカップルが歩いてくる。買い物帰りなのか片腕いっぱいに雑貨やら食料やらを抱え込み、二人で買った串焼きをあーんと彼氏に食べさせつつ歩いている。つまりこのカップルにも周りが見えていなかった。となると結果。
「あっ、ごめんなさいっ! おねーさん、お怪我ないです?」
「大丈夫か? 怪我とか服とか」
そんなカップル、アルマ・A・エインズワース(ka4901)とミリア・エインズワース(ka1287)の前には尻餅をついたルビーの姿。盛大にぶつかってしまった結果がこれだった。
「大丈夫です。障害は発生していません」
しかしルビーは事も無げに立ち上がる。そんなルビーの様子を見て二人はほっと胸をなでおろす。そしてようやく回りが目に入った。そこには、ルビーの事を心配して集まる一行の姿があった。
「お友達と観光です?」
その様子を見てアルマが出した答えに、パティと茜がこくこく頷く。ならば二人にもできることがある。
「お買い物するならこの辺がいいですよー」
指で右側を指し示すアルマ。そこには個性豊かなファッションが集まる一角があった。なかなかガイドブックにも載っていない特別情報である。
「賑やかなのは向こう、食い物ならアッチの店がいいぞ」
一方ミリアは手に持った串で左側を指す。そこには美味しい串焼きを売る店がある。それが美味しいことはつい先程二人の口の中で実証済みだ。
「わふ。そうだ、お詫びとお近づきのしるしですっ」
そう言うとアルマは指をルビーの目の前に差し出した。そして彼がウィンクすると突然小さな造花が現れる。その様子に、ルビーよりパティ、茜、鈴太郎の三人のほうが目を丸くしている。
そんな三人をさておき、アルマはその造花をルビーの髪に刺した。実は元大道芸人である彼にとって、この程度の手品は造作も無いことだった。
「花もいいけどコイツももってけ」
一方ミリアは取り出した砂糖菓子をルビーに握らせる。そして二人は
「お気をつけてですー。よい一日を!」
「見て食って持ち帰って、いい日にしようぜ。じゃあまたなー」
手を振りながら去っていった。この出会いは、ルビーに何を教えたのだろうか。
●
二人と別れた一行はまずアルマの情報を元に右側へと向かう。が、その前に茜が一行を止める。広場でベンチに腰掛け休息する一行。どうやら彼女には別の用事があったようだ。
その用事であるもう一つの大きなカバンを置く茜。するとニャーニャーという声が聞こえてきた。
「これ、まさか……」
鈴太郎の表情が変わる。そして
「この子はこの間は紹介できなかった私の友達、ミールよ」
カバンの用に見えたそれは猫用のケージだった。蓋をあけると飛び出して茜の膝上に座るミール。
「あーっ! ズリィぞ!」
「へっ? 何かずるいの?」
「オレだってウチのに会わせたかったんだぞ!」
が、そんな二人を見つめるミールの姿に鈴太郎はすっかり骨抜きになっていた。こう見えて彼女は大の動物好き。ミールの可愛さに参ってしまっていた。茜の許可を得て抱き上げると、顔が緩んでしまう。
「可愛いだろー♪ ほら、抱っこしてやってみ?」
「この喉のトコ、撫でたげると喜ぶの」
鈴太郎にミールを渡されたルビーは、茜の言葉に従って喉を撫でる。すると甘えたようにニャーニャーと鳴き、ルビーに頬をすり寄せてくる。どうやらミールはルビーを気に入った様だ。
「ウチのは家猫だからよ。いつかさ……ルビーがもっと遠くにも行けるようになったら、ゼッテー会ってやってくれよな?」
そんなルビーの姿を見ながら、鈴太郎は自分自身にも確かめる様に言った。ルビーはこの遺跡のために作られた存在である。そんな彼女が遺跡から離れ鈴太郎の家に来れる可能性は低いと言わざるを得ない。しかし、彼女はいつかその時が来ることを信じていた。
●
その頃、この街の一角に開かれた蚤の市をテオバルト・グリム(ka1824)と神代 誠一(ka2086)が回っていた。
「誠一さん、これ何ですかね。鳥?」
よくわからない鳥の置物を片手に尋ねるテオ。それに対し
「ああ、これはプッチョヒポポンタスという伝説の鳥で……」
しれっと騙す神代だったが、結局吹き出してしまう。
「嘘ですよ」
「嘘なんですか」
そんな他愛もない会話をしている時、テオバルトは見知った顔を見かけた。
「ああ、柄永も来ていたのか」
「テオバルトさんこんにちは」
「それでこちらの方々は?」
「まあ観光に来たというかなんつーか……」
そんな会話をしている頃、神代が手に木の実を持ってテオバルトとルビー、二人に差し出していた。
「どうぞ。採れたての地物だそうですよ」
甘そうで美味しそうなそれらを口に運ぶルビー。
「これが美味しいなのですか」
そんなルビーの反応にテオバルトも口に運ぶが、次の瞬間口の中が燃え上がるような刺激に襲われた。
「くくくっ。やー、俺も食べた時は吃驚しました」
まんまと引っかかったテオバルトを見て肩を震わせて笑う。
「あー……」
「人が悪いなぁ。これは美味しいじゃねぇぞ……って何やってんだ?!」
鈴太郎が何も知らないルビーにレクチャーしていた。神代にも注意しようとそちらを見れば、変な被り物を被った彼の姿。
真面目な顔をして悪戯好きの神代だが、悪戯というものを理解していないルビー相手には少々分が悪かったようだ。それでも怒ったり、苦しんだり、笑ったりという周りの表情に影響されて、少しだけルビーの表情が変わったことに彼は気づいていたのだろうか。
別れ際、テオバルトは和沙に話しかける。
「遠慮しなくていいんじゃねぇか?」
「遠慮?」
「俺にはそう見えるぞ? まあ、頑張れ」
そして二人は去っていった。
「ジュードさんの店で菓子も買わないとな!」
●
「ここが流行の最先端の街! 私の育った田舎村と全然違う!」
その頃アシェ-ル(ka2983)はこの街の様子を見て目を丸くしていた。もうすぐハロウィン。それに向けて仮装のための衣装を探しに個性豊かなファッションが集まるというここにやって来たのだった。そしてそんな彼女の期待に応えられたかはその反応が示していた。
早速山ほどある各種アイテムをつけたり外したりして、お気に入りの一品を探す。しかし。
「うーん。鏡が無いと分かりませんね……あの、ちょっと良いですか?」
鏡が無かったため実際につけるとどうなるのかが分からない。というわけで、近くに居た少女に手にした猫耳カチューシャを付けてみる。
一方。猫耳を付けられて猫娘に変身したルビーはどう反応すればいいのか戸惑って固まっていた。そこに、一行がやってくる。
「わ、わ! ルビー、それ似合う!」
その似合いっぷりにその場に居る者達のテンションが自然上がる。
「こっちの柄と形も気になりますね」
そんな中アシェールは様々な物を取っ替え引っ替えしていた。その間ルビーはされるがままだ。
一方アシェールは手当たり次第にルビーに付けさせながら、ルビーに話しかけた。
「もうすぐ、ハロウィンっていうお祭りの時期が来るんですよ。仮装して悪霊を払うのです」
そしてここで始めて自分が名乗っていないことに気づく。
「あっと。私、アシェ-ルって言います」
「アシェールさんですね。わかりました」
「これは私よりルビーさんの方が似合いますね」
そしてアシェールは最初に付けた猫耳カチューシャを再びルビーにつける。
「これは私からのプレゼントです。ルビーさん、また、どこかで~」
自分のと二つ分の代金を払うと、アシェールは嵐のように去っていった。あとに残るのは猫耳ルビーだった。
しかし肝心のルビーはそれを気に入ったようだ。何度か撫でると、そのまま次の場所へ向けて歩き始めた。アシェールとの出会いの証は、彼女の頭の上に残っていた。
●
その頃、和沙は疲れていた。歩き疲れたからではない。
「……皆で遊ぶのは嫌じゃないけど、少し人見知りなのもあるからいきなりはきついっていうか」
彼女は元々団体行動が得意ではなかった。そんな彼女が集団で動くことは想像以上に疲労を与えていた。
「一人になってもいいかな……」
そこで彼女はこっそりと一行から離れていた。
「あれ?カズサがいねぇ。迷子!? やっべぇ、探さなきゃ!」
和沙が居なくなったことに気づいたのはやはり鈴太郎だった。ルビーとの時間は心惜しいが、友達を放っておく訳にも行かない。
「ルビー……また遊べンよな……?」
「はい」
迷うこと無く、頷いて返すルビー。それを見て鈴太郎は走り出した。何度も振り返り、一行を見送ってそして彼女は走り出した。
●
鈴太郎と別れた一行は今度はミリアのお勧めに従って屋台が立ち並ぶ一角にやって来ていた。様々な料理が供され、漂う匂いが否が応でも食欲を刺激する。早速屋台を巡り食べ歩きを始める一行。
そんな屋台街には先客が居た。道元 ガンジ(ka6005)が器用に右手に揚げ芋、左手に焼き鳥を持って食べながら歩いている。腕には一杯の食材。
安心して美味いご飯を楽しめる、ガンジはこの状況に平和を感じていた。そんな時、彼は一行と出会った。
「あんたはどんな味が好みだった?」
出会っての第一声がこれだった。美味しいご飯の数々に、感じた平和を他の人々と共有したいという気持ちが彼にこう言わせたのか。ともかく彼の言葉に一行は次々と感想を述べる。しかしその中心で、ルビーは何も答えられなかった。
「私は伝える。ルビーはこの下の遺跡に居た。故に美味しいという事を知らない」
「へえ、この下の遺跡にいたのか」
そんな彼女の特殊な立場を知って、ガンジはルビーの両肩に手を乗せこう言った。
「ルビーは遺跡に置いてけぼりにされていたわけじゃない。いつかきっと、希望の種になるようにって遺跡を残した技術者サンも願っていたんじゃないかな」
その深いルビー色の瞳がガンジに何かを語りかけているような気がした。だから。
「土に埋まってた種が芽ぇ出した……って感じがする子だから、ウン、やるよ」
ガンジはルビーの手に何かを握らせる。
「これは種子ですね」
「これ食う用に買ったんだけど、炒ってないから撒いたらなんか芽が出るだろ。ハハハ、食ってもいいけどな!」
そして別れ際、彼は一言ルビーに贈った。
「あんたも希望の種のひとつであること、忘れんなよ」
●
すっかり日も橋の向こう側に沈みだし、辺りはオレンジ色に染まっていた。そんな暮れなずむ街の中で一際人が集まっている一角があった。各種雑貨に甘いものを売っている店の様だ。その甘い匂いに惹かれてルーシーもここにたどり着いていた。
その中心ではジュード・エアハート(ka0410)がせわしなく働いていた。彼はこの店の主人であり、同時に看板娘だった。売るものに合わせて可愛らしく着飾った彼が様々な客を相手にしていた。
人が集まる所に一行は惹かれるようにやってきた。人だかりをかき分け頭を中に入れると、すぐにジュードが気づいた。
「あ、パティさんにレインさん! 今日はサービスしちゃうよー」
そして押し込まれる様にルビーが顔を出す。
「お友達のお友達は友達だから! おすすめは同盟の栗を使ったマロンプリン、それに王国産の小麦と紅茶を使った猫さんクッキーだよー♪」
マシンガンの様に浴びせかける商売文句にルビーが呆然としていたところで、レインが声をかけた。
「ジュード・エアハート。貴方が居るということはエアルドフリスもこの街に滞在しているのであろうか」
だが、それを聞いたジュードはツーンとそっぽを向いた。そんな時、ルビーに声をかける者が居た。
「ほう、あんたが噂の地下遺跡の住人か」
彼こそがエアルドフリス(ka1856)だった。彼はすぐにジュードに声をかける。
「浮気じゃあないと言ってるだろう。あれは偶々であってだね」
言い訳から入る彼の言葉に、ジュードは聞く耳を持たないとばかりにツーンとおすまし。
「悪かった。心配かけるつもりじゃあなかった」
平謝りしつつ、高級レストランのパンフレットを見せるエアルド。
「……言い訳位は聞いてあげる」
喧嘩中でも食事は別のようだ。
「……ルビーちゃんなの? ルーシーはルーシーにゃ!」
一方、ルーシーは奇跡が起こっていたことにやっと気づいた。思わず覚醒したルーシーとルビー、猫耳少女が二人猫が戯れる様にしている
そんな二人にエアルドはお近づきの印に何か奢ることにした。
「俺はレモンの焼き菓子と……辺境の干菓子が好きだ。二人は何がお好きかね?」
「ルーシーは甘いものならなんでも大好きにゃ!」
「……私には『好き』がありません。でも、ここに来て食べることは幸せだと理解しました」
だから。
「私も全部好きです」
それは彼女が好きを手に入れた瞬間だった。
●
昼と夜の間、黄昏時。岩井崎 メル(ka0520)は仕事帰りの道を歩いていた。
そこで見かけた少女。何か無機質な印象を受ける少女。メルはそんな彼女に惹かれてしまう。彼女を見れば好奇心が首をもたげる。
「君は?」
聞けば彼女はこの遺跡の下に居た少女だという。
「ルビー君、だね。私はメル」
道を歩きながら名乗り、そして言葉を続けた。
「そっかぁ……わざわざ遺跡の上まで。遠かっただろうに、来てくれて、ありがとうね」
「でも、とても興味深いです」
ルビーはスポンジが水を吸収するように、半日で人々の営みを身に付けていた。もっと知って貰いたくてお姉さんぶるメル。
「作るお仕事の帰り道なんだ、私。ルビー君は、何かを作った事がある?」
「無いです。それは『楽しい』ですか?」
「楽しいよ。ぜひ、挑戦してみて欲しいなぁ」
ただある物を知ることしか知らなかったルビーに与えられた『作る』という概念は、彼女の心を動かしたのだろうか。ともかく、あっという間に別れのときはやって来た。
「さようなら。また逢えたら良いいな」
そしてメルは祈りの言葉を続けた。
「夜も色々あるんでしょう? 良い事がありますように」
●
日が沈み、夜の帳が下りた頃。そこにボルディア・コンフラムス(ka0796)が居た。夜の時間の始まりだ。
「この前は世話ンなったな。お前らのお陰で命拾いしたぜ」
「怪我は大丈夫カナ?」
ここまで一緒に来た者達を見てボルディアが声をかける。さらに、そこに二人組が現れた。
「貴女がルビーね? 初めまして、フィルメリア・クリスティア(ka3380)です。宜しくお願いしますね?」
「ゼクス・シュトゥルムフート(ka5529)だ。まぁ、気楽にゼクスで構わないんで今日はよろしくなルビー」
ここからは彼女達に引き継ぐことになる。パティ達も見知った顔が居て一安心だ。
別れ際、レインはある物を贈った。
「私は贈る。ルビー。光明を呼ぶお守りである」
それはてるてる坊主だった。
「貴方に数多の出会いと、良き経験が訪れることを願っている」
そしてルビーは彼女たちのことを名残惜しそうに手を振って送った。
「へぇ……人間と全くかわらねぇなあ。これがアイツの言ってた『第三の世界』の技術か……」
一方一人残ったボルディアは、ルビーの姿をまじまじと見てそう漏らしていた。が、今は。
「まあ色々楽しもうぜ!」
というわけで夜の街を散策する一行。
「あっちはカジノ。金をドブに捨てたがる奴等が集まる。こっちは飲み屋。酒を飲んで嫌な事を忘れたい奴等が集まる。どうだ、欲望ドロドロで中々面白いだろ?」
「お酒を飲んで忘れる……意味がわからないです」
「あー……まあそうだろうな。じゃ、カジノにでも行くか?」
というわけで入店した一行。ルールはすぐに理解し、ルビーの前にカードが数枚配られた。
●
そして小一時間後、ルビーの前には山積みになった大量のチップが並んでいた。
「これでいいのでしょうか」
全てのカードを記憶し、確率を完璧に計算した結果がこれだった。おかげで周囲には黒山の人だかりに成っている。
「ああん? なんだあの似つかわしくねえ集団は……」
情報収集がてらふらついていた鵤(ka3319)もこの状況に目を向ける。そして。
「……へぇ、あれが噂の。ちょいと覗きに行こうかねぇ」
見物も兼ねて首を突っ込む鵤。
一方他の者達だが、かなり危険な状況になっていることを感じていた。イカサマを疑ったカジノの用心棒がルビーの元に近づいてくる。
それを感じたフィルとゼクスが動く。フィルがルビーの側に立ち、ゼクスが用心棒の腕を極めて取り押さえる。が、さらなる混乱を招くかのように他の者達が近づいてきた。こうなるともうひとつしか無い。
「やべぇ、逃げるぞ!」
「どうしてですか?」
「ほらぁ、あの自動機械連中のとこにいた娘でしょお? 結構噂になってるぜ?」
逃げ出す一行に鵤が声をかける。
「おっさん此処らはよく知ってんのよぉ。個人的な仕事でよく来るもんでぇ」
「助かった!」
というわけで夜の街に消えていった二人に、鵤は追加の情報を伝えていた。
「あ、そこの飯と此処のスイーツお勧めよ」
●
さて、何とか脱出した一行。落ち着いた所でフィルが何か取り出した。
「ルビーだって女の子だし、こういうのなら着けておいても邪魔にはならないでしょう?」
そしてそれを付ける。ルビーの胸元にブローチが輝く。それを彼女は愛おしそうに撫でていた。着飾るということを知らなかった彼女にも、何か新しい気持ちが目覚めたようだ。
「お、なかなか似合うな」
ゼクスが褒め、ついでにルビーに質問する。
「ところで、ルビーは何か好きな物とか苦手な物とかあるかい?あと良ければスリーサイz」
しかしその質問は全部言う前にフィルのパンチが炸裂していた。
「……悪かったフィル。ちょっとしたお茶目だって」
●
ブローチを身に付けたルビーと一行は大通りを散策する。眠らない街と呼ばれるだけあって、賑やかな音が聞こえてくる。
「交流……なぁ。難しく考えず、普通に接すれば良いか」
鞍馬 真(ka5819)は骨休めを兼ねてこの街に来ていた。そんな彼の元に、もう一つの目的であるルビーが現れる。早速挨拶と自己紹介を終えた彼は、見せたかった物を見せるために広場へと向かった。
そこでは音楽家達が様々な楽器を持って演奏していた。人々は聞いたり、共に歌ったりして楽しんでいる。
「これは『音楽』。多分見たことも聞いたことも無い……よな?」
頷いたルビーの姿を見て、鞍馬は笛を取り出し演奏に混じり始めた。音が一つ増えて益々賑やかになる演奏。
「どうしたのですか?」
そんな彼らの姿をぼんやりと見るルビーを見て、フィルが声をかける。
「私は『音楽』がわかりません。どうすればいいのかもわかりません」
だがルビーは言葉を続けた。
「でも、きっとこれは『楽しい』ことなんでしょう。私はもっと楽しいことを知りたいです」
●
楽しい時はあっという間に過ぎていく。夜もとっぷりとふけ、一行も宿屋へと移動を始めていた頃。
「ずっと独りきりでいた人形は何を想うのかしら? 笑い、悲しみ、喜び憂う心持てば、もう白磁の肌と宝石の瞳で作られても、ヒト、なのかしら?」
この街では例外的に静かな広場にアリア・セリウス(ka6424)が居た。彼女はここでルビーを待っていた。
そして星明りの下で、二人は出会う。
「ルビーは、青い世界の月を知っている?」
アリアは星空を眺めながら、そうルビーに問いかけた。
「存在は知っています。でもデータはありません」
「そう、それじゃ私と同じね」
空には月が浮かんでいた。青い世界の月は『彼』が知っている
「彼の産まれ、見てきた月を、いずれ見たい……そんな夢、最近みている」
その言葉を聞いて、ルビーは『夢』を胸の何処かにしまい込んだ。
●
長い一日も終わった。一行は宿屋に入る。あとは一晩休んで明日、ルビーを元の場所へ送り届ける。
「護衛? いや……案内役、ですか? 中々珍しそう……ですけれど、一体……何があったのでしょうね?」
そんな一行を天央 観智(ka0896)が興味深そうに見ていた。大勢でルビーを守るように入ってきた一行はどうしても目立つ。彼は一行にルビーのことを尋ねる。
「へぇ~。大渓谷の遺跡……ですか? 噂話には聞いた程度……ですけれど。なるほど……」
そして、彼はルビーに話しかける。
「ちょっと気になりますね。いや……ダメならダメで仕方ないですけれど。遺跡の事や、昔話とかも聞かせて貰えれば……。遺跡って、元々遺跡として作られる訳じゃなくて……結果として遺跡と呼ばれる事に成った、訳ですからね。何を目的に作られた物なのでしょう? とか……」
「ここは大渓谷の記録のために作られました」
天央の言葉にルビーが答える。それをきっかけに、就寝までの僅かな時だがこの遺跡の秘密のほんの先端を解き明かす話が始まった。
●
翌朝。共に泊まったフィル達の元に春日がやって来た。ルビーを元の場所に送り届けるためだ。
程なく一行は元の遺跡に戻る。別れ際、彼は語りかけた。
「楽しめたか?」
「わからないです。でも、楽しいということはわかったように思えます」
「それなら何よりだ、俺の気持ちはそいつに書いてあるから気が向いたら見てくれ」
そう言って去っていった。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 20人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
質問卓 八原 篝(ka3104) 人間(リアルブルー)|19才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/09/19 08:05:39 |
|
![]() |
遺跡都市の一日(雑談卓) 雨を告げる鳥(ka6258) エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/09/21 16:54:55 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/09/21 09:39:07 |