ゲスト
(ka0000)
【蒼乱】ブリの人魚攻略作戦!
マスター:朝臣あむ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/09/21 15:00
- 完成日
- 2016/09/29 12:02
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
暗黒界域の地下神殿より僅かに離れた位置を航行する一行がいた。
錬魔院所属の船に乗り込み、人魚と並走して海を進むのはブリジッタ・ビットマン(kz0119)だ。
「人魚の島……なんだかどんどん『ふぁんたじー』になるのよ。この前遊んだゲームに出てきた人魚は……くっ」
どうやら亡くなったらしい……。
頭を抱えて蹲るブリジッタに、甲板で彼女を観察していた魚人のザウルが首を傾げる。
彼曰く『大きなる者の小さき母』であるブリジッタは色々と観察する必要があるのだというが、その行動は極めて謎が多いようだ。
何故ザウルが錬魔院の船に居るかと言うと、海底神殿に巣くっていた巨大イカ型歪虚を討伐した後、再びブリジッタたちと合流したからであり、彼らが討伐後に現れた巨大な影の伝承を知っていると言うからだ。
「まったく。向こうは向こうで大変そうだわ」
ため息交じりに甲板へ戻ってきたヤン・ビットマンは、こちらを見たザイルに笑みを向けると、小さく手を振ってブリジッタの傍に立った。
「うぅ……何かわかったのよさ?」
「ハンターズソサエティに確認をとったけど、該当の歪虚はいないみたいね」
潮風でモヒカンを湿気っぽくされたのだろうか。タオルを被って顎の下で結ぶ彼にザウルが噴き出す。
その様子に「失礼しちゃうわね」と笑って返すと、彼はアラに視線を向けた。
「ねえ、あーたたちの島に行くのはいいけど、あたしたちがいきなり行っても大丈夫なのかしら?」
アラは甲板に上がることが出来ないのだろう。船と並走して泳ぎながら、聞こえてきた声に手を振る。
「その心配はないわ。だって、あなたたちの船が島に近付いたら私が説明しに行くもの♪」
くるりと身を返して笑う彼女はどこまで行っても明るい。
天真爛漫というか、恐れを知らないというか……。
「良い子なんでしょうけどね……他の人魚や魚人が同じとはどうしても思えないのよね」
これまでもそうだった。
他の亜人との接触にはそれなりの労力が伴ったものだ。それこそ彼らの信用を得る何かが必要なのは確か。
アラやザウルに関して言うなら、彼女たちはハンターに助けてもらったという恩がある。けれど島の者は何も知らない。
いきなりこんな船が近付いて来たら驚くどころか、敵と捉えかねないのではないだろうか。
「アラハ、難シク、物事ヲ考エナイ。良クモ、悪クモ、全テヲ信ジル」
「だから心配なのね」
物怖じしないことを悪いとは言わないが、皆が皆そうではないということを学ぶべきだ。とは言え、彼女のそんな性格に救われて物事が進展しているのは確かだ。
そもそもここ数年――下手したら数百年、アラがいなければ人魚とコンタクトを取ることは出来なかっただろう。
ましてやその人魚が住まう島に行けるなど、夢のまた夢だったかもしれない。
「むむむ……魚型の魔導アーマー……たしかリアルブルーの乗りものにジェットなんちゃらがあったような……」
「静かだと思ったらまた何か思いついてるわね……って言うか、あーた乗り物酔いは大丈夫なの?」
「ふぉあ!?」
すっかり忘れてた。そう目を見開いた直後――
「うっ……ぅおええええええッ!!!!」
「ヤンさん、また余計なことをっ!! 誰か袋だ! あぁ、そこの魚人さん! アラお嬢さんを反対側に誘導してくれ! そこだと汚れる!!!」
人類史上初、人魚にゲロをかけた人間。とか不名誉極まりない記録だけは残せない。そう判断した研究員たちが走り回る。
こうしてブリジッタのゲロ騒動で船が賑わう中、船は無事目的の海域に達した。
「ここで待っててちょうだい! おばあさまに話をしてくるわ!」
言って海を泳ぎ始める彼女の軌道線上には小さな島が見える。
遺跡のような背の低い石造りの建物と僅かな地表。地表は遺跡を囲うように展開され、まるでドーナツの穴の中に遺跡があるように見える。
「きっと遺跡を囲ってる島が彼女たちの居住区を守っているのね」
予想では島のどこかに穴が開いていて、そこから遺跡へ向かうのが最短ルートなのだろう。
現にアラは海に潜るとその姿を消し、ザウルはヤンの言葉に警戒を含む一瞥を加えている。
「そんな風に見つめないでも、その通路を探したりはしないわ。あたしたちはあの巨大な影の話を聞きに来ただけなんだから」
「……ウインク、ヤメロ。ソレニ、信用シテナイワケジャ、ナイ……」
ふいっとそっぽを向く仕草に「あらん♪」と腰を振るヤン。だが次の瞬間、彼の表情が険しくなった。
「ちょっと、あの魚人は何?」
ヤンが指差した方向。そこにあったのはザウルとは肌の色が違う魚人だ。
手に銛を持ち、巨大な魚に乗ってくる魚人たちは、一直線に島を目指しているようだった。
「アレハ、黒ノ魚人ッ!!」
「黒の魚人?」
ヤンの声に頷き、ザウルは彼らが元は自分と同じ魚人であること、彼らが歪虚化してしまっている事を教えてくれた。
彼らは時折島にやってきては歪虚化していない仲間を襲うのだという。
「アラニ、知ラセナイト!」
「ま――」
「待つのよ、さ……っ! あたしたちに……任せるのよぉ、ぅ……!」
青い顔で立ち上がったブリジッタは、ザウルの前に進むとこう言葉を続けた。
「悪い、けど……これは、あたしたちの信用をあげる、チャンスなのよさ……」
「ブリジッタ……あーたもついに」
「ゲームの攻略に、好感度はひつよーふかけつ……これは、絶好の……うぷっ!?」
「これはゲームじゃないのよっ!?」
叫ぶヤンだったが、彼女の案は全くの無駄ではない。
アラが説得しているとは言え、ブリジッタたちは島の住人の目に見える形で信用を与えていない。
それはつまり、聞けるはずの情報が聞けない可能性があるということだ。
海底神殿の調査はハンターソサエティからも引き続き行って欲しいと要請が来ていることからもわかるように、いま彼らの信用を取り付けられることがどれだけの利益になるかわからない。
「……利益うんぬん抜きにして、人魚が死ぬのは、嫌なのよ……もう二度と、泡にはさせないのよさっ!」
グッと足に力を込めたブリジッタの目は本気だ。いったいゲームで何があったのか……。
とにかくやる気になったブリジッタを止める術はほぼない。
ヤンは苦笑気味に肩を竦めると、指示を待つように待機していた研究員らを振り返った。
「ヘイムダル改2はまだ起動できないわ! 他のハンターのユニットが起動できるならそれを起動させてもらって! 急ぐのよ!!」
目標は人魚の島を襲う魚人!
そう叫ぶヤンの声に神妙な面持ちで頷き返し、ブリジッタは迫りくる脅威に視線を飛ばす。
敵は巨大な魚とそれに騎乗する魚人。大と小の組み合わせはブリジッタの心を熱くさせる。
「あたしのプラヴァーがあれば、もっと……もっと効果的にっ」
そう呟きを漏らすと、彼女は指の先が白くなりそうなほどに強く柵を握り締めた。
錬魔院所属の船に乗り込み、人魚と並走して海を進むのはブリジッタ・ビットマン(kz0119)だ。
「人魚の島……なんだかどんどん『ふぁんたじー』になるのよ。この前遊んだゲームに出てきた人魚は……くっ」
どうやら亡くなったらしい……。
頭を抱えて蹲るブリジッタに、甲板で彼女を観察していた魚人のザウルが首を傾げる。
彼曰く『大きなる者の小さき母』であるブリジッタは色々と観察する必要があるのだというが、その行動は極めて謎が多いようだ。
何故ザウルが錬魔院の船に居るかと言うと、海底神殿に巣くっていた巨大イカ型歪虚を討伐した後、再びブリジッタたちと合流したからであり、彼らが討伐後に現れた巨大な影の伝承を知っていると言うからだ。
「まったく。向こうは向こうで大変そうだわ」
ため息交じりに甲板へ戻ってきたヤン・ビットマンは、こちらを見たザイルに笑みを向けると、小さく手を振ってブリジッタの傍に立った。
「うぅ……何かわかったのよさ?」
「ハンターズソサエティに確認をとったけど、該当の歪虚はいないみたいね」
潮風でモヒカンを湿気っぽくされたのだろうか。タオルを被って顎の下で結ぶ彼にザウルが噴き出す。
その様子に「失礼しちゃうわね」と笑って返すと、彼はアラに視線を向けた。
「ねえ、あーたたちの島に行くのはいいけど、あたしたちがいきなり行っても大丈夫なのかしら?」
アラは甲板に上がることが出来ないのだろう。船と並走して泳ぎながら、聞こえてきた声に手を振る。
「その心配はないわ。だって、あなたたちの船が島に近付いたら私が説明しに行くもの♪」
くるりと身を返して笑う彼女はどこまで行っても明るい。
天真爛漫というか、恐れを知らないというか……。
「良い子なんでしょうけどね……他の人魚や魚人が同じとはどうしても思えないのよね」
これまでもそうだった。
他の亜人との接触にはそれなりの労力が伴ったものだ。それこそ彼らの信用を得る何かが必要なのは確か。
アラやザウルに関して言うなら、彼女たちはハンターに助けてもらったという恩がある。けれど島の者は何も知らない。
いきなりこんな船が近付いて来たら驚くどころか、敵と捉えかねないのではないだろうか。
「アラハ、難シク、物事ヲ考エナイ。良クモ、悪クモ、全テヲ信ジル」
「だから心配なのね」
物怖じしないことを悪いとは言わないが、皆が皆そうではないということを学ぶべきだ。とは言え、彼女のそんな性格に救われて物事が進展しているのは確かだ。
そもそもここ数年――下手したら数百年、アラがいなければ人魚とコンタクトを取ることは出来なかっただろう。
ましてやその人魚が住まう島に行けるなど、夢のまた夢だったかもしれない。
「むむむ……魚型の魔導アーマー……たしかリアルブルーの乗りものにジェットなんちゃらがあったような……」
「静かだと思ったらまた何か思いついてるわね……って言うか、あーた乗り物酔いは大丈夫なの?」
「ふぉあ!?」
すっかり忘れてた。そう目を見開いた直後――
「うっ……ぅおええええええッ!!!!」
「ヤンさん、また余計なことをっ!! 誰か袋だ! あぁ、そこの魚人さん! アラお嬢さんを反対側に誘導してくれ! そこだと汚れる!!!」
人類史上初、人魚にゲロをかけた人間。とか不名誉極まりない記録だけは残せない。そう判断した研究員たちが走り回る。
こうしてブリジッタのゲロ騒動で船が賑わう中、船は無事目的の海域に達した。
「ここで待っててちょうだい! おばあさまに話をしてくるわ!」
言って海を泳ぎ始める彼女の軌道線上には小さな島が見える。
遺跡のような背の低い石造りの建物と僅かな地表。地表は遺跡を囲うように展開され、まるでドーナツの穴の中に遺跡があるように見える。
「きっと遺跡を囲ってる島が彼女たちの居住区を守っているのね」
予想では島のどこかに穴が開いていて、そこから遺跡へ向かうのが最短ルートなのだろう。
現にアラは海に潜るとその姿を消し、ザウルはヤンの言葉に警戒を含む一瞥を加えている。
「そんな風に見つめないでも、その通路を探したりはしないわ。あたしたちはあの巨大な影の話を聞きに来ただけなんだから」
「……ウインク、ヤメロ。ソレニ、信用シテナイワケジャ、ナイ……」
ふいっとそっぽを向く仕草に「あらん♪」と腰を振るヤン。だが次の瞬間、彼の表情が険しくなった。
「ちょっと、あの魚人は何?」
ヤンが指差した方向。そこにあったのはザウルとは肌の色が違う魚人だ。
手に銛を持ち、巨大な魚に乗ってくる魚人たちは、一直線に島を目指しているようだった。
「アレハ、黒ノ魚人ッ!!」
「黒の魚人?」
ヤンの声に頷き、ザウルは彼らが元は自分と同じ魚人であること、彼らが歪虚化してしまっている事を教えてくれた。
彼らは時折島にやってきては歪虚化していない仲間を襲うのだという。
「アラニ、知ラセナイト!」
「ま――」
「待つのよ、さ……っ! あたしたちに……任せるのよぉ、ぅ……!」
青い顔で立ち上がったブリジッタは、ザウルの前に進むとこう言葉を続けた。
「悪い、けど……これは、あたしたちの信用をあげる、チャンスなのよさ……」
「ブリジッタ……あーたもついに」
「ゲームの攻略に、好感度はひつよーふかけつ……これは、絶好の……うぷっ!?」
「これはゲームじゃないのよっ!?」
叫ぶヤンだったが、彼女の案は全くの無駄ではない。
アラが説得しているとは言え、ブリジッタたちは島の住人の目に見える形で信用を与えていない。
それはつまり、聞けるはずの情報が聞けない可能性があるということだ。
海底神殿の調査はハンターソサエティからも引き続き行って欲しいと要請が来ていることからもわかるように、いま彼らの信用を取り付けられることがどれだけの利益になるかわからない。
「……利益うんぬん抜きにして、人魚が死ぬのは、嫌なのよ……もう二度と、泡にはさせないのよさっ!」
グッと足に力を込めたブリジッタの目は本気だ。いったいゲームで何があったのか……。
とにかくやる気になったブリジッタを止める術はほぼない。
ヤンは苦笑気味に肩を竦めると、指示を待つように待機していた研究員らを振り返った。
「ヘイムダル改2はまだ起動できないわ! 他のハンターのユニットが起動できるならそれを起動させてもらって! 急ぐのよ!!」
目標は人魚の島を襲う魚人!
そう叫ぶヤンの声に神妙な面持ちで頷き返し、ブリジッタは迫りくる脅威に視線を飛ばす。
敵は巨大な魚とそれに騎乗する魚人。大と小の組み合わせはブリジッタの心を熱くさせる。
「あたしのプラヴァーがあれば、もっと……もっと効果的にっ」
そう呟きを漏らすと、彼女は指の先が白くなりそうなほどに強く柵を握り締めた。
リプレイ本文
耳を塞ぐ水から僅かに響く音。その音に耳を澄ませながら、フォークス(ka0570)は自らの足とした魚人ザウルに目を向けた。
粛々と海中を進む彼の前には5機のユニットが見える。CAMと魔導アーマーの混同パーティーは、海に投下される前に見えた黒の魚人を目指していた。
(そろそろ敵が見えるはずだが……なんだい、震えてるのか?)
ザウルに抱えられる形で海中を進み始めて少しした頃だ。
一見すれば小刻みすぎてわからなかったのだが、進行するにつれて大きくなる震えが布越しに伝わってくる。
船上で守原 有希遥(ka4729)としていた「無理はしない」という約束はこの時点で侵しているようにも感じる。とは言え、彼の協力なくして作戦が立ち行かないのも事実。
(何処まで踏ん張れるか。そこが運命の分かれ道……かもな)
上がる口角が状況と釣り合っていない。まるで状況を楽しんでいるかのようなフォークスはザウルから視線を前方に飛ばすと先行する仲間の姿を追った。
「戦闘区域目視。敵の姿も……守原さん、急ぎますのでしっかり掴まっていてください。落ちた場合は見捨てることも考慮しますので」
(かなり物騒な物言い――うお?!)
ごぽっと零れた空気。それは雨月彩萌(ka3925)の持ち込んだ魔導型ドミニオンのカーゴスペースから漏れた。その中には有希遥が体力温存のために控えている。
それを考慮しながらもアクティブスラスターを使って加速する彩萌に有希遥は苦笑気味に顔を上げた。
今回生身で戦闘に参加するのは有希遥とフォークスの2人だ。その他の面子は各自が持ち込んだ機体に乗り込んでいる。
その中の1つ。彩萌と同じ魔導型ドミニオンに乗り込むミグ・ロマイヤー(ka0665)は彩萌の加速に対応しながら手にしていたコミクッを懐にしまった。
「無事試せると良いんじゃが……っと、あの影が目標かの?」
海中に映し出される複数の黒い影。大きい影は魚型歪虚。そこに跨るのは歪虚化した魚人――ザウルたちは黒の魚人と呼んでいた存在が乗っている。
「イカの次は魚人共がお相手か、世界びっくりドッキリオンパレードじゃのう」
未知の存在である海洋生物。それに連続で出会える機会に恵まれたことは正に幸運だった。故に知らず心が躍っても致し方ないだろう。
「これが交流ではなく排除しなくてはならんと言うのがちと残念ではあるな。しかしどこも争いが絶えぬとは悲しいものよのう」
出来る事なら戦わず交流を深めたいものだ。
そう首を横に振ったミグの機体に通信が飛び込んでくる。それは少し距離を置いて移動する沙織(ka5977)のものだ。
「相手も人魚なんですね……お魚さんも歪虚、なのでしょうか」
『正しくは魚人だが……魚人も、いろいろ大変なんだろう』
思慮と警戒、そして不安を含める声に、瀬崎・統夜(ka5046)が苦笑気味に応える。もしかするとザウルも歪虚化すれば黒の魚人のようになってしまうのかもしれない。
もしそうなったら――
『敵、射程距離に入りました!』
思考を遮るように降った声。この声に統夜を含めた全員が戦闘態勢を取る。その中で沙織は、白のCAM「エーデルワイス」のアックスを構えると迫りくる影に向かってそれを構えた。
「これより先は通しません!」
敵の進行方向は明白だ。
彼らが目指すのは人魚の島の中。つまりアラが向かった先だ。
「ザウルさんには同情しますし哀れみの感情も抱きます。けれど、わたし自身の為に討たせていただきます」
進路を塞ぐようにして佇み、有希遥の入るカーゴスペースを開放する彩萌。彼女は負のためリアルに汚染された異常な存在を正常にするのが目的だ。
そのために敵が元は何であったのかは関係ない。
「異常を排除殲滅し、わたしの正常を証明する」
海中に落とされた有希遥を守るように手を伸ばす機体。彼女がアイリス・マーク1と名付けたそれが彼と向かい来る敵の間に伸び、
『味方機戦闘開始、っ! こちらも接触――』
声と同時に響く衝撃音に、沙織や統夜の機体が戦闘に入ったのを確認する。それを受け、敵の進行を遮った彩萌も臨戦態勢に入った。
直進し、突撃を試みるのはサメ型の歪虚だ。敵は黒の魚人を騎乗させたまま突っ込むと、下から掬い上げるようにして機体のバランスを崩しに掛かった。
「しまったッ!」
急ぎ体勢を整えにかかるが間に合わない。上体が逸れる機体に解放されたばかりの有希遥が巻き込まれそうになる。だが、
『させるか!』
蒼の機体がマーク1の機体を押さえた。
出来る限り緩やかに、水中で思うように体を支えられない有希遥を守るように手を差し伸べたのは、魔導アーマー「ヘイムダル」を改造したレオーネ・インヴェトーレ(ka1441)の機体、プラヴァー重装改だ。
彼はマーク1の背を押すようにして前に向かわせると、こちらを伺う有希遥に手を伸ばした。
海中で1回転して不安定な体勢から脱する彼の支えになりながら、レオーネはマーク1と対峙する敵を睨んだ。
「間一髪ってところだな。それにしてもこいつら、許せない……ブリにあんな顔させた報いは受けてもらうぜ」
操縦桿を握り締める手に力がこもる。
ブリジッタには大丈夫だと告げたのだ。自分と自分のプラヴァーがいるから、と。
「これ以上あんな顔はさせない! オレは絶対に負けない!」
確固たる信念を元に叫んだ声。その声を耳に、各機は敵の殲滅に向けて動き出した。
●
「統夜さん。そちら、お任せします!」
アックスを突き入れて敵の行動を阻害した沙織は、エーデルワイスの手を伸ばすと巨大魚の形をした歪虚の尾を掴んだ。
行動さえ遮ることが出来れば優位に立てる。それは最初の接触で判明した事だった。
「そこから落ちてもらいます……!」
水の抵抗を最大限に受けながら、一気に敵の体を引きずり下ろす。
水の抵抗だけでなく暴れる動きからも生まれる抵抗。それらを堪えるように水を蹴り上げると彼女の機体が引っくり返った。
『黒の魚人の離脱を確認。フォークスたちに合図を!』
無理矢理海底へ叩きつけられようとしている巨体から黒の巨人が振り落とされた。
それを見止めたエーデルワイスが盾を振って黒の魚人を奥へ。これにザウルに騎乗(?)していたフォークスが水中アサルトライフルを構える。
(もう少し右……そう、ソコだ!)
ザイルの腕を軽く蹴って位置を補正。照準を体勢が整う前の魚人の頭部へ向ける。そして臨む位置に敵の姿が入ると迷うことなく引き金を引いた。
命中。抵抗もなく沈みゆく敵にザウルが一瞬だけ震えた。それでもフォークスを離すことはない。事前に指示されていた優先順位をこなすのが彼の仕事だ。
(意外と使えるじゃないか。っと、次はあそこだ)
指差して次なる敵を目指し移動を再開する先に在ったのはミグのハリケーン・バウだ。彼女は盾を水平に構えると、距離のある敵めがけて振り下ろした。そこに生まれる水圧に飛び上がり――
「オブボッ?!」
落ちた。
思わず声を上げたザウルの口をフォークスが閉じさせて考察する。
察するに盾を立てる事で生まれる水流や水の抵抗を足場に移動を試みようとしたのだろう。結果は見ての通り。
『ブルースフィア産の「水中騎士」から学んだ方法じゃが……ユニットの大きさが大きさだからのう、漫画のようにはいかんとは思ったが』
案の定無理だった。と言う訳だ。とは言え彼女の元の思考はスラスターの燃料は無限ではないからという問題から。
移動に制限が掛かるのであればやはり当初の目的通り、
『迎え撃つしかないかのう、ッ!』
バウの動きを攻撃と見なしたのか、直進する敵にミグの目が光る。
『まったく、軌道がずれているではないか』
まるで子供を叱咤するように呟きアクティブスラスターを起動させる。そして目的の個所に到着するや否や、特殊モーターを搭載した巨大な曲刀を突き刺した。
『今更遅いわい』
クッと喉が鳴るのと、敵がミグの意図に気付いて勢いを減らしたのはほぼ同時だった。
突き刺した刃に喰い込むようにしてぶつかった体。まるで三枚おろしのように身が割かれる歪虚にバウの足が動く。
水の抵抗に威力を削がれながら振り上げた足が、中途半端に刃に刺さる身を削ぎ落す。これにより騎乗状態で難を逃れていた黒の魚人が突き落とされた。
クの字になって海中を漂う体。人間ならばここで体勢を整えるのは至難の業だ。だが相手は水中の動きに特化した魚人、一筋縄ではいかない。
「まずい、あいつらフォークスさんや有希遥さんを」
数体の騎乗用歪虚が倒された事で黒の魚人もユニットを相手に闘うのは不利と判断したのだろう。足を失った魚人から順番にフォークスや有希遥を狙い始めた。
勿論、ユニット側はこれを良しとしない。
生身の味方の前に立ちはだかり壁を作る。故に騎乗したままの歪虚はこの壁を乗り越えられない。けれど黒の魚人だけとなると話は別だ。
(この程度は予想の範囲内だな。さて三日月、鬼斬丸……頼むぞ)
トンッとプラヴァー重装改の表層を蹴って飛び上がった有希遥の手には二刀の刀が握られている。彼は矛を手に迫る敵がユニットの隙間を縫って泳ぎ来るのを見止めると、水の抵抗に抗うことなく体を反転させて刃を構えた。
ガンッ。
海中に矛と刃がぶつかる鈍い音が響き、支えのない体が揺らぐ。普通ならこの段階で水中戦に利のある相手の勝利だ。だが有希遥には心強い支援者がいる。
壁を作ったまま伸ばされたユニットの手。それはレオーネが差し出したものだ。彼は注意を前と後ろの双方に向けながら、仲間の声を元に有希遥の援護を行っている。
今は彼の動きが視界に入る位置で戦闘を行っている沙織の通信があってこその動きだ。
『有希遥さん、敵を撃破しました。もう1体――ぁ』
小さな声を掻き消すように水中で銃声が木霊する。成したのはフォークスだ。
彼女は水中拳銃の射程ギリギリから放って彼を救った。
互いに合わせる視線は一瞬。その中に感謝の気持ちを込めて有希遥は新たな敵に向き直る。
こうして次々と敵を葬る中、マーク1に騎乗する彩萌は僅かな隙を突いて、突っ込んで来ようとする敵と対峙していた。
「水中での近接戦、多少は慣れましたね。それでも敵の方が有利……油断はしません。確実に自分の役目を果します」
構えていたディフェンダーからCAMブレードに持ち替えて迎撃する。
機体全体に伝わる衝撃は然して大きくもない。ならば一気にその体を押し返し、斬り伏せるまで!
水圧と敵の力と、その双方に機体が押されるよりも早く突き入れる。そして攻撃の刹那、特殊モーターが超振動を起こして切れ味を増す中、彩萌は新たな脅威を目にしていた。
『――、っ岩陰にもう1組?!』
叫ぶ声が耳に木霊し、気持ちが一気に急いた。
雑になった攻撃が敵に止めを刺すことを止め、迫る新たな脅威に意識が分散する。そこを強靭なサメの牙が突いた。
よろける機体と追撃を加えようと迫る牙。更に目の前には倒し損ねた敵の姿まで、
『この俺がある内は、誰1人犠牲にはしねえ!』
衝撃音が響き、敵の騎乗歪虚に刃を突き入れた彩萌の目が飛ぶ。
そこに飛び込んで来たのは漆黒のカラーリングを施した統夜の機体だ。彼はサメの牙を己が機体で受け止めると、すぐさま反撃に出た。
「CAMがあるのは誰かを守るためであるってお題目には順じたいと思ってる。それが綺麗事だとしても……この金属の身体は守るためにあるんだからな!」
間近にあるサメの鼻っ面にパイルバンカーの先を向け、一気に引き金を引く。すると統夜が込めたマテリアルを受け、杭が高速で噴出された。
堪らず仰け反った敵の顔が吹き飛び、その背に乗っていた魚人が海中へと放り出される。
『これで終わりだ!』
両手を握るようにして飛来したプラヴァー重装改。
大きく振り上げたスタビライザーが水を切り、その勢いを借りて接近を果たす。そうして閉じていた手を敵の真正面で開くと、抵抗から身を守るように身を低くしていた有希遥が飛び出した。
驚きに目を見開く魚人。けれど彼は自分の末路を脳裏に描く間もなく首を吹き飛ばされることになった。
●
「えっと……ごめんなさい、かしら?」
歪虚の残骸を前に、アラは申し訳なさそうに眉を寄せてそう言った。
彼女が現れたのは歪虚を倒してすぐ。
ザウルが島の中へ入り状況を報告したのが切っ掛けだ。
「いいえ、大丈夫よ。この場合の謝罪は必要ないわ。それよりも」
そう視線を泳がす彩萌は、アラに同行している人魚を見て首を傾げた。
アラより少し小柄な人魚は、彼女に手を引かれる形でこの場に現れた。つまりそれは、
「そっちがあんたの言ってた『おばあさま』かい?」
「ええそうよ。こちらが私のおばあさま。ねえ、おばあさま。このヒトたちが尾のないヒト。そしてあちらにいるのが生み出されし巨人よ」
フォークスの声に頷いたアラは、ハンターを紹介するように手を動かす。その仕草に彼女の言う「おばあさま」が頷く。
「まずは島を守ってくれたことに感謝を。わしは人魚の島の長、サラハじゃ。お主らの話はアラから聞いておるでな。そちらの生み出されし巨人の話もの」
僅かに含められた警戒の声。これに反応して沙織が何かを言おうとするが、それを遮って統夜が口を開いた。
「これは魔導アーマー。こちらはCAMだ。どちらも人の手によって作り出されたものだが、危害を加えたりはしない」
「うむ。心配はしておらぬでな」
サラハは声に目元を緩めると、ぐるりとハンターを見回した。
彼女が覗かせた警戒は一瞬。それは初めて目にするユニットに驚きを抱いたからだったのかもしれない。
そんな彼女はハンターたちの目的をアラから聞いていたようで。
「お主らは神殿に巣食う『蒼黒の闇』について知りたいんじゃったな」
「蒼黒の闇……これまた大仰な名がついておるな」
「この呼び名はわしらだけの通称じゃ」
そう言ってサラハは島に伝わる伝承を教えてくれた。
数百年前。かの神殿は人魚や魚人にとってとても神聖な場所として崇められていた。
しかしある時を境に神殿に近付くことが出来なくなった。
その原因が『蒼黒の闇』と呼ばれる歪虚だ。
時を経ることに強さを増した歪虚は、神殿に近付く歪虚を尽く排除していった。
そして現在もその身を神殿に残し健在している。
「蒼黒の闇の力は強大じゃ。わしらはあの場へ近づくことも出来ぬでな……」
「まあ、近づかない方が良いだろうな。もしかするとあの神殿にはゲートがある可能性もある」
有希遥はそう口にしながら、万が一あの神殿がゲートだった場合の危険性を説明する。それを受け、サラハの顔が思案気に落ちた。
「うぅむ。しかし、いくら危険と言われてもわしらはここを動くことはできぬでな……神殿に近付くな、という言葉は聞けるがのう」
「大丈夫よ、おばあさま! きっとみなさんがなんとかしてくれるわ!」
「アラハ、マタソウ――」
簡単に言う。そうザウルが言おうとした時だ。
「そこの魚は黙るのよ! アラの言う通り、あたしたちが何とかするのよさ! どーんっと魔導アーマーに乗ったつもりで任せるのよさ!」
ちょっとバカ! そうヤンの声が聞こえた気もするがブリジッタは気にしない。
「オカマ! 今の話をハンターソサエティに伝えるのよ。場合によってはもっと多くの手が必要になるのよさ!」
「あんたはまた勝手に!」
騒ぐ開発者2人を横目に、レオーネは彼女たちの邪魔をしないように船の下を覗き込んだ。
そしてそこにいるアラとサラハに囁く。
「えっと……さっき倒した魚人についても調べたいんだけど、出来るか?」
「黒の魚人かしら? 装備くらいならもしかしたら出来るかもだけど」
何故? そう首を傾げる彼女に「何かわかれば」と返してブリジッタを見る。
当のブリジッタは新たな事実を前に意気揚々と次の段階を練り始めている。そんな彼女を見て思う。
(もしかすると、惚れた弱み……っていうのかな。この、気持ち)
黒の魚人が攻めてきたとき、ブリジッタは泣きそうな顔をして自分の無力さを悔いていた。
そんな彼女の力になりたい。彼女を笑顔にしたい。そう思う心がレオーネにはある。
彼は自らの胸に手を当てると僅かに笑みを零して海に目を飛ばした。そしてそんな彼らを見ていた彩萌が呟く。
「……ビットマンさんたちは人魚に対して思い入れが強いようですね。それがいい結果に繋がればいいのですが」
願わくばこの出会いと交流が良い方向へ動きますように。
そう心の中で囁き、彩萌は歪虚の攻撃で傷ついた自らの機体を振り仰いだのだった。
粛々と海中を進む彼の前には5機のユニットが見える。CAMと魔導アーマーの混同パーティーは、海に投下される前に見えた黒の魚人を目指していた。
(そろそろ敵が見えるはずだが……なんだい、震えてるのか?)
ザウルに抱えられる形で海中を進み始めて少しした頃だ。
一見すれば小刻みすぎてわからなかったのだが、進行するにつれて大きくなる震えが布越しに伝わってくる。
船上で守原 有希遥(ka4729)としていた「無理はしない」という約束はこの時点で侵しているようにも感じる。とは言え、彼の協力なくして作戦が立ち行かないのも事実。
(何処まで踏ん張れるか。そこが運命の分かれ道……かもな)
上がる口角が状況と釣り合っていない。まるで状況を楽しんでいるかのようなフォークスはザウルから視線を前方に飛ばすと先行する仲間の姿を追った。
「戦闘区域目視。敵の姿も……守原さん、急ぎますのでしっかり掴まっていてください。落ちた場合は見捨てることも考慮しますので」
(かなり物騒な物言い――うお?!)
ごぽっと零れた空気。それは雨月彩萌(ka3925)の持ち込んだ魔導型ドミニオンのカーゴスペースから漏れた。その中には有希遥が体力温存のために控えている。
それを考慮しながらもアクティブスラスターを使って加速する彩萌に有希遥は苦笑気味に顔を上げた。
今回生身で戦闘に参加するのは有希遥とフォークスの2人だ。その他の面子は各自が持ち込んだ機体に乗り込んでいる。
その中の1つ。彩萌と同じ魔導型ドミニオンに乗り込むミグ・ロマイヤー(ka0665)は彩萌の加速に対応しながら手にしていたコミクッを懐にしまった。
「無事試せると良いんじゃが……っと、あの影が目標かの?」
海中に映し出される複数の黒い影。大きい影は魚型歪虚。そこに跨るのは歪虚化した魚人――ザウルたちは黒の魚人と呼んでいた存在が乗っている。
「イカの次は魚人共がお相手か、世界びっくりドッキリオンパレードじゃのう」
未知の存在である海洋生物。それに連続で出会える機会に恵まれたことは正に幸運だった。故に知らず心が躍っても致し方ないだろう。
「これが交流ではなく排除しなくてはならんと言うのがちと残念ではあるな。しかしどこも争いが絶えぬとは悲しいものよのう」
出来る事なら戦わず交流を深めたいものだ。
そう首を横に振ったミグの機体に通信が飛び込んでくる。それは少し距離を置いて移動する沙織(ka5977)のものだ。
「相手も人魚なんですね……お魚さんも歪虚、なのでしょうか」
『正しくは魚人だが……魚人も、いろいろ大変なんだろう』
思慮と警戒、そして不安を含める声に、瀬崎・統夜(ka5046)が苦笑気味に応える。もしかするとザウルも歪虚化すれば黒の魚人のようになってしまうのかもしれない。
もしそうなったら――
『敵、射程距離に入りました!』
思考を遮るように降った声。この声に統夜を含めた全員が戦闘態勢を取る。その中で沙織は、白のCAM「エーデルワイス」のアックスを構えると迫りくる影に向かってそれを構えた。
「これより先は通しません!」
敵の進行方向は明白だ。
彼らが目指すのは人魚の島の中。つまりアラが向かった先だ。
「ザウルさんには同情しますし哀れみの感情も抱きます。けれど、わたし自身の為に討たせていただきます」
進路を塞ぐようにして佇み、有希遥の入るカーゴスペースを開放する彩萌。彼女は負のためリアルに汚染された異常な存在を正常にするのが目的だ。
そのために敵が元は何であったのかは関係ない。
「異常を排除殲滅し、わたしの正常を証明する」
海中に落とされた有希遥を守るように手を伸ばす機体。彼女がアイリス・マーク1と名付けたそれが彼と向かい来る敵の間に伸び、
『味方機戦闘開始、っ! こちらも接触――』
声と同時に響く衝撃音に、沙織や統夜の機体が戦闘に入ったのを確認する。それを受け、敵の進行を遮った彩萌も臨戦態勢に入った。
直進し、突撃を試みるのはサメ型の歪虚だ。敵は黒の魚人を騎乗させたまま突っ込むと、下から掬い上げるようにして機体のバランスを崩しに掛かった。
「しまったッ!」
急ぎ体勢を整えにかかるが間に合わない。上体が逸れる機体に解放されたばかりの有希遥が巻き込まれそうになる。だが、
『させるか!』
蒼の機体がマーク1の機体を押さえた。
出来る限り緩やかに、水中で思うように体を支えられない有希遥を守るように手を差し伸べたのは、魔導アーマー「ヘイムダル」を改造したレオーネ・インヴェトーレ(ka1441)の機体、プラヴァー重装改だ。
彼はマーク1の背を押すようにして前に向かわせると、こちらを伺う有希遥に手を伸ばした。
海中で1回転して不安定な体勢から脱する彼の支えになりながら、レオーネはマーク1と対峙する敵を睨んだ。
「間一髪ってところだな。それにしてもこいつら、許せない……ブリにあんな顔させた報いは受けてもらうぜ」
操縦桿を握り締める手に力がこもる。
ブリジッタには大丈夫だと告げたのだ。自分と自分のプラヴァーがいるから、と。
「これ以上あんな顔はさせない! オレは絶対に負けない!」
確固たる信念を元に叫んだ声。その声を耳に、各機は敵の殲滅に向けて動き出した。
●
「統夜さん。そちら、お任せします!」
アックスを突き入れて敵の行動を阻害した沙織は、エーデルワイスの手を伸ばすと巨大魚の形をした歪虚の尾を掴んだ。
行動さえ遮ることが出来れば優位に立てる。それは最初の接触で判明した事だった。
「そこから落ちてもらいます……!」
水の抵抗を最大限に受けながら、一気に敵の体を引きずり下ろす。
水の抵抗だけでなく暴れる動きからも生まれる抵抗。それらを堪えるように水を蹴り上げると彼女の機体が引っくり返った。
『黒の魚人の離脱を確認。フォークスたちに合図を!』
無理矢理海底へ叩きつけられようとしている巨体から黒の巨人が振り落とされた。
それを見止めたエーデルワイスが盾を振って黒の魚人を奥へ。これにザウルに騎乗(?)していたフォークスが水中アサルトライフルを構える。
(もう少し右……そう、ソコだ!)
ザイルの腕を軽く蹴って位置を補正。照準を体勢が整う前の魚人の頭部へ向ける。そして臨む位置に敵の姿が入ると迷うことなく引き金を引いた。
命中。抵抗もなく沈みゆく敵にザウルが一瞬だけ震えた。それでもフォークスを離すことはない。事前に指示されていた優先順位をこなすのが彼の仕事だ。
(意外と使えるじゃないか。っと、次はあそこだ)
指差して次なる敵を目指し移動を再開する先に在ったのはミグのハリケーン・バウだ。彼女は盾を水平に構えると、距離のある敵めがけて振り下ろした。そこに生まれる水圧に飛び上がり――
「オブボッ?!」
落ちた。
思わず声を上げたザウルの口をフォークスが閉じさせて考察する。
察するに盾を立てる事で生まれる水流や水の抵抗を足場に移動を試みようとしたのだろう。結果は見ての通り。
『ブルースフィア産の「水中騎士」から学んだ方法じゃが……ユニットの大きさが大きさだからのう、漫画のようにはいかんとは思ったが』
案の定無理だった。と言う訳だ。とは言え彼女の元の思考はスラスターの燃料は無限ではないからという問題から。
移動に制限が掛かるのであればやはり当初の目的通り、
『迎え撃つしかないかのう、ッ!』
バウの動きを攻撃と見なしたのか、直進する敵にミグの目が光る。
『まったく、軌道がずれているではないか』
まるで子供を叱咤するように呟きアクティブスラスターを起動させる。そして目的の個所に到着するや否や、特殊モーターを搭載した巨大な曲刀を突き刺した。
『今更遅いわい』
クッと喉が鳴るのと、敵がミグの意図に気付いて勢いを減らしたのはほぼ同時だった。
突き刺した刃に喰い込むようにしてぶつかった体。まるで三枚おろしのように身が割かれる歪虚にバウの足が動く。
水の抵抗に威力を削がれながら振り上げた足が、中途半端に刃に刺さる身を削ぎ落す。これにより騎乗状態で難を逃れていた黒の魚人が突き落とされた。
クの字になって海中を漂う体。人間ならばここで体勢を整えるのは至難の業だ。だが相手は水中の動きに特化した魚人、一筋縄ではいかない。
「まずい、あいつらフォークスさんや有希遥さんを」
数体の騎乗用歪虚が倒された事で黒の魚人もユニットを相手に闘うのは不利と判断したのだろう。足を失った魚人から順番にフォークスや有希遥を狙い始めた。
勿論、ユニット側はこれを良しとしない。
生身の味方の前に立ちはだかり壁を作る。故に騎乗したままの歪虚はこの壁を乗り越えられない。けれど黒の魚人だけとなると話は別だ。
(この程度は予想の範囲内だな。さて三日月、鬼斬丸……頼むぞ)
トンッとプラヴァー重装改の表層を蹴って飛び上がった有希遥の手には二刀の刀が握られている。彼は矛を手に迫る敵がユニットの隙間を縫って泳ぎ来るのを見止めると、水の抵抗に抗うことなく体を反転させて刃を構えた。
ガンッ。
海中に矛と刃がぶつかる鈍い音が響き、支えのない体が揺らぐ。普通ならこの段階で水中戦に利のある相手の勝利だ。だが有希遥には心強い支援者がいる。
壁を作ったまま伸ばされたユニットの手。それはレオーネが差し出したものだ。彼は注意を前と後ろの双方に向けながら、仲間の声を元に有希遥の援護を行っている。
今は彼の動きが視界に入る位置で戦闘を行っている沙織の通信があってこその動きだ。
『有希遥さん、敵を撃破しました。もう1体――ぁ』
小さな声を掻き消すように水中で銃声が木霊する。成したのはフォークスだ。
彼女は水中拳銃の射程ギリギリから放って彼を救った。
互いに合わせる視線は一瞬。その中に感謝の気持ちを込めて有希遥は新たな敵に向き直る。
こうして次々と敵を葬る中、マーク1に騎乗する彩萌は僅かな隙を突いて、突っ込んで来ようとする敵と対峙していた。
「水中での近接戦、多少は慣れましたね。それでも敵の方が有利……油断はしません。確実に自分の役目を果します」
構えていたディフェンダーからCAMブレードに持ち替えて迎撃する。
機体全体に伝わる衝撃は然して大きくもない。ならば一気にその体を押し返し、斬り伏せるまで!
水圧と敵の力と、その双方に機体が押されるよりも早く突き入れる。そして攻撃の刹那、特殊モーターが超振動を起こして切れ味を増す中、彩萌は新たな脅威を目にしていた。
『――、っ岩陰にもう1組?!』
叫ぶ声が耳に木霊し、気持ちが一気に急いた。
雑になった攻撃が敵に止めを刺すことを止め、迫る新たな脅威に意識が分散する。そこを強靭なサメの牙が突いた。
よろける機体と追撃を加えようと迫る牙。更に目の前には倒し損ねた敵の姿まで、
『この俺がある内は、誰1人犠牲にはしねえ!』
衝撃音が響き、敵の騎乗歪虚に刃を突き入れた彩萌の目が飛ぶ。
そこに飛び込んで来たのは漆黒のカラーリングを施した統夜の機体だ。彼はサメの牙を己が機体で受け止めると、すぐさま反撃に出た。
「CAMがあるのは誰かを守るためであるってお題目には順じたいと思ってる。それが綺麗事だとしても……この金属の身体は守るためにあるんだからな!」
間近にあるサメの鼻っ面にパイルバンカーの先を向け、一気に引き金を引く。すると統夜が込めたマテリアルを受け、杭が高速で噴出された。
堪らず仰け反った敵の顔が吹き飛び、その背に乗っていた魚人が海中へと放り出される。
『これで終わりだ!』
両手を握るようにして飛来したプラヴァー重装改。
大きく振り上げたスタビライザーが水を切り、その勢いを借りて接近を果たす。そうして閉じていた手を敵の真正面で開くと、抵抗から身を守るように身を低くしていた有希遥が飛び出した。
驚きに目を見開く魚人。けれど彼は自分の末路を脳裏に描く間もなく首を吹き飛ばされることになった。
●
「えっと……ごめんなさい、かしら?」
歪虚の残骸を前に、アラは申し訳なさそうに眉を寄せてそう言った。
彼女が現れたのは歪虚を倒してすぐ。
ザウルが島の中へ入り状況を報告したのが切っ掛けだ。
「いいえ、大丈夫よ。この場合の謝罪は必要ないわ。それよりも」
そう視線を泳がす彩萌は、アラに同行している人魚を見て首を傾げた。
アラより少し小柄な人魚は、彼女に手を引かれる形でこの場に現れた。つまりそれは、
「そっちがあんたの言ってた『おばあさま』かい?」
「ええそうよ。こちらが私のおばあさま。ねえ、おばあさま。このヒトたちが尾のないヒト。そしてあちらにいるのが生み出されし巨人よ」
フォークスの声に頷いたアラは、ハンターを紹介するように手を動かす。その仕草に彼女の言う「おばあさま」が頷く。
「まずは島を守ってくれたことに感謝を。わしは人魚の島の長、サラハじゃ。お主らの話はアラから聞いておるでな。そちらの生み出されし巨人の話もの」
僅かに含められた警戒の声。これに反応して沙織が何かを言おうとするが、それを遮って統夜が口を開いた。
「これは魔導アーマー。こちらはCAMだ。どちらも人の手によって作り出されたものだが、危害を加えたりはしない」
「うむ。心配はしておらぬでな」
サラハは声に目元を緩めると、ぐるりとハンターを見回した。
彼女が覗かせた警戒は一瞬。それは初めて目にするユニットに驚きを抱いたからだったのかもしれない。
そんな彼女はハンターたちの目的をアラから聞いていたようで。
「お主らは神殿に巣食う『蒼黒の闇』について知りたいんじゃったな」
「蒼黒の闇……これまた大仰な名がついておるな」
「この呼び名はわしらだけの通称じゃ」
そう言ってサラハは島に伝わる伝承を教えてくれた。
数百年前。かの神殿は人魚や魚人にとってとても神聖な場所として崇められていた。
しかしある時を境に神殿に近付くことが出来なくなった。
その原因が『蒼黒の闇』と呼ばれる歪虚だ。
時を経ることに強さを増した歪虚は、神殿に近付く歪虚を尽く排除していった。
そして現在もその身を神殿に残し健在している。
「蒼黒の闇の力は強大じゃ。わしらはあの場へ近づくことも出来ぬでな……」
「まあ、近づかない方が良いだろうな。もしかするとあの神殿にはゲートがある可能性もある」
有希遥はそう口にしながら、万が一あの神殿がゲートだった場合の危険性を説明する。それを受け、サラハの顔が思案気に落ちた。
「うぅむ。しかし、いくら危険と言われてもわしらはここを動くことはできぬでな……神殿に近付くな、という言葉は聞けるがのう」
「大丈夫よ、おばあさま! きっとみなさんがなんとかしてくれるわ!」
「アラハ、マタソウ――」
簡単に言う。そうザウルが言おうとした時だ。
「そこの魚は黙るのよ! アラの言う通り、あたしたちが何とかするのよさ! どーんっと魔導アーマーに乗ったつもりで任せるのよさ!」
ちょっとバカ! そうヤンの声が聞こえた気もするがブリジッタは気にしない。
「オカマ! 今の話をハンターソサエティに伝えるのよ。場合によってはもっと多くの手が必要になるのよさ!」
「あんたはまた勝手に!」
騒ぐ開発者2人を横目に、レオーネは彼女たちの邪魔をしないように船の下を覗き込んだ。
そしてそこにいるアラとサラハに囁く。
「えっと……さっき倒した魚人についても調べたいんだけど、出来るか?」
「黒の魚人かしら? 装備くらいならもしかしたら出来るかもだけど」
何故? そう首を傾げる彼女に「何かわかれば」と返してブリジッタを見る。
当のブリジッタは新たな事実を前に意気揚々と次の段階を練り始めている。そんな彼女を見て思う。
(もしかすると、惚れた弱み……っていうのかな。この、気持ち)
黒の魚人が攻めてきたとき、ブリジッタは泣きそうな顔をして自分の無力さを悔いていた。
そんな彼女の力になりたい。彼女を笑顔にしたい。そう思う心がレオーネにはある。
彼は自らの胸に手を当てると僅かに笑みを零して海に目を飛ばした。そしてそんな彼らを見ていた彩萌が呟く。
「……ビットマンさんたちは人魚に対して思い入れが強いようですね。それがいい結果に繋がればいいのですが」
願わくばこの出会いと交流が良い方向へ動きますように。
そう心の中で囁き、彩萌は歪虚の攻撃で傷ついた自らの機体を振り仰いだのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/09/18 02:23:05 |
|
![]() |
質問所「吐け、吐くんだブリ!」 守原 有希遥(ka4729) 人間(リアルブルー)|19才|男性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2016/09/21 14:39:27 |
|
![]() |
人魚集落防衛会議 守原 有希遥(ka4729) 人間(リアルブルー)|19才|男性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2016/09/20 22:51:04 |