ゲスト
(ka0000)
エルフとドワーフの逃避行
マスター:旅硝子

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/09/20 07:30
- 完成日
- 2014/09/28 01:32
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「ああ、美しく聡明なリオネスト、あなたはなぜエルフなの?」
「ああ、可愛らしく凛々しいパティカ、君はなぜドワーフなんだい?」
すらりとした肢体と整った顔立ちを持つ青年と、小さいが力強い身体にふっくらとした頬が可愛らしい少女は、揃ってため息をついた。
青年は、エルフハイムの中でも最奥の地、オプストハイムに住むエルフであった。
少女は、エルフハイムからやや離れた、銅を産出する鉱山を住処とする一族に生まれたドワーフであった。
恭順派、と呼ばれるエルフの古い暮らしを守るエルフの1人だったリオネストは、侵入者を追い出すため出かけた先で、雑魔に襲われたところをパティカに助けられた。
パティカはドワーフの一族の長女であり、族長を継ぐ身であった。武者修行と称して出掛けることを許されたのもそのためだ。
リオネストは槌を振り助けてくれたパティカの凛々しさに、パティカは傷を負った己を癒してくれたリオネストの温かさに、恋をした。
エルフとドワーフは、互いを見下しあっている。けれど、2人は互いを見下すべき対象とは、どうしても思えなかったのだ。
それでも反対されることは明らかだろうと、2人の恋は密やかに育まれ――無残に破られようとしていた。
「感心せんなぁパティカよ。最近、どうやら枯れ木男なんぞとほっつき歩いているようではないか」
久しぶりに呼ばれた父にそう切り出され、パティカの心臓がどきりと跳ねる。
「何のことでしょう、父さん?」
けれど平静を装って言った娘に、父はにっこりと笑った。
「ははは、ただの噂ならいいんだよ。ところで、お前ももうそろそろ婿を取って身を固めねばな」
何枚も渡された見合い用の絵姿には、ドワーフの美的センスでは見目麗しい青年達が並んでいる。
けれど、愛せるとは思えなかった。
パティカ自身もドワーフだから、彼らを格好いいとは思う。けれどパティカの心を捉えて離さないのは、あの華奢で折れてしまいそうな、けれど聡明で優しいエルフの青年。
「結婚式は来年の春でどうだろうなぁ。ああ、そうだ。結婚の準備に備えて明日から、お前つきのお手伝いさんを増やそうと思うんだ」
好意的な申し出に見えるそれは、逃げようとしても見つかるぞ、という牽制。
ここにいる限り結ばれぬというならば――そして、明日から出奔することが難しくなるというならば――今宵。
心を決めた少女は、それを淑やかな笑顔で隠して嬉しそうに頷いてみせた。
「リオネスト、私はあなたを、古き伝統を継ぐ立派なエルフだと思って、期待していたのですよ」
エルフの長老の1人に呼び出されたリオネストは、そうため息をつく長老の前で唇を噛み締めた。
ドワーフの少女に恋をしたリオネストにとって、エルフは古き風習のままに、異種族などと付き合わず森で暮らすべき、という考えは、既に賛同できぬものとなっていた。
いつかは森を去ることになるだろう――そう予感していたことが、現実になろうとしているのを感じる。
「長老様、僕は」
「どうしてもドワーフの娘などと一緒になりたいなら、少なくともオプストハイムでは、そしてエルフハイムでも、暮らすことは出来ません」
「わかっております」
決意を込めて頷いたリオネストの、説得は無駄だと語るような瞳に、長老は再び深いため息を漏らした。
「止めはしません。去る者は追わず、それもエルフの生き方の1つです」
「ありがとうございます。――今まで、お世話になりました」
深く、深く礼をして、リオネストは長老の元を辞す。
長老は、寂しげにそれを見送ったのみ。けれど、それよりも過激な手段に出ようとする者は存在したのだ。
――見下すべきドワーフ。そして帝国に味方する憎きドワーフ。そのような者と、仮にもエルフが婚姻するというならば。
その事実を消すしかない。
恭順派の他派閥とすら敵対しかねない、最も過激な者達は――森を後にしようとするリオネストを、静かに追った。
いつも会っていた場所に、ほとんど身一つで駆けてきた愛らしいドワーフの恋人を、エルフの青年は抱き締めた。
ありがとう。それ以外に、言葉はいらなかった。
行く先は、決まっていた。冒険都市リゼリオ――優秀な戦士であるパティカと、力ある癒し手であるリオネストならば、ハンターとして生きて行けるだろう。種族の境に縛られぬリゼリオでなら、一緒になることもできるだろう。
――娘の出奔に気付いた父が、翌朝にはハンターに娘を連れ戻すよう依頼するなどとは。過激な恭順派のエルフが、エルフの恥を抹殺すべくそっと後を追っているとは。知らずに。
2人は手を取りあって、夜の闇に挑むように走り出す。
「ああ、可愛らしく凛々しいパティカ、君はなぜドワーフなんだい?」
すらりとした肢体と整った顔立ちを持つ青年と、小さいが力強い身体にふっくらとした頬が可愛らしい少女は、揃ってため息をついた。
青年は、エルフハイムの中でも最奥の地、オプストハイムに住むエルフであった。
少女は、エルフハイムからやや離れた、銅を産出する鉱山を住処とする一族に生まれたドワーフであった。
恭順派、と呼ばれるエルフの古い暮らしを守るエルフの1人だったリオネストは、侵入者を追い出すため出かけた先で、雑魔に襲われたところをパティカに助けられた。
パティカはドワーフの一族の長女であり、族長を継ぐ身であった。武者修行と称して出掛けることを許されたのもそのためだ。
リオネストは槌を振り助けてくれたパティカの凛々しさに、パティカは傷を負った己を癒してくれたリオネストの温かさに、恋をした。
エルフとドワーフは、互いを見下しあっている。けれど、2人は互いを見下すべき対象とは、どうしても思えなかったのだ。
それでも反対されることは明らかだろうと、2人の恋は密やかに育まれ――無残に破られようとしていた。
「感心せんなぁパティカよ。最近、どうやら枯れ木男なんぞとほっつき歩いているようではないか」
久しぶりに呼ばれた父にそう切り出され、パティカの心臓がどきりと跳ねる。
「何のことでしょう、父さん?」
けれど平静を装って言った娘に、父はにっこりと笑った。
「ははは、ただの噂ならいいんだよ。ところで、お前ももうそろそろ婿を取って身を固めねばな」
何枚も渡された見合い用の絵姿には、ドワーフの美的センスでは見目麗しい青年達が並んでいる。
けれど、愛せるとは思えなかった。
パティカ自身もドワーフだから、彼らを格好いいとは思う。けれどパティカの心を捉えて離さないのは、あの華奢で折れてしまいそうな、けれど聡明で優しいエルフの青年。
「結婚式は来年の春でどうだろうなぁ。ああ、そうだ。結婚の準備に備えて明日から、お前つきのお手伝いさんを増やそうと思うんだ」
好意的な申し出に見えるそれは、逃げようとしても見つかるぞ、という牽制。
ここにいる限り結ばれぬというならば――そして、明日から出奔することが難しくなるというならば――今宵。
心を決めた少女は、それを淑やかな笑顔で隠して嬉しそうに頷いてみせた。
「リオネスト、私はあなたを、古き伝統を継ぐ立派なエルフだと思って、期待していたのですよ」
エルフの長老の1人に呼び出されたリオネストは、そうため息をつく長老の前で唇を噛み締めた。
ドワーフの少女に恋をしたリオネストにとって、エルフは古き風習のままに、異種族などと付き合わず森で暮らすべき、という考えは、既に賛同できぬものとなっていた。
いつかは森を去ることになるだろう――そう予感していたことが、現実になろうとしているのを感じる。
「長老様、僕は」
「どうしてもドワーフの娘などと一緒になりたいなら、少なくともオプストハイムでは、そしてエルフハイムでも、暮らすことは出来ません」
「わかっております」
決意を込めて頷いたリオネストの、説得は無駄だと語るような瞳に、長老は再び深いため息を漏らした。
「止めはしません。去る者は追わず、それもエルフの生き方の1つです」
「ありがとうございます。――今まで、お世話になりました」
深く、深く礼をして、リオネストは長老の元を辞す。
長老は、寂しげにそれを見送ったのみ。けれど、それよりも過激な手段に出ようとする者は存在したのだ。
――見下すべきドワーフ。そして帝国に味方する憎きドワーフ。そのような者と、仮にもエルフが婚姻するというならば。
その事実を消すしかない。
恭順派の他派閥とすら敵対しかねない、最も過激な者達は――森を後にしようとするリオネストを、静かに追った。
いつも会っていた場所に、ほとんど身一つで駆けてきた愛らしいドワーフの恋人を、エルフの青年は抱き締めた。
ありがとう。それ以外に、言葉はいらなかった。
行く先は、決まっていた。冒険都市リゼリオ――優秀な戦士であるパティカと、力ある癒し手であるリオネストならば、ハンターとして生きて行けるだろう。種族の境に縛られぬリゼリオでなら、一緒になることもできるだろう。
――娘の出奔に気付いた父が、翌朝にはハンターに娘を連れ戻すよう依頼するなどとは。過激な恭順派のエルフが、エルフの恥を抹殺すべくそっと後を追っているとは。知らずに。
2人は手を取りあって、夜の闇に挑むように走り出す。
リプレイ本文
闇を裂き走る恋人達に、その声は突如かけられた。
「こちらじゃ、お二方」
斧に手を掛けたパティカと、警戒心露わにあなたは、と問うリオネストに、現れたエルフの女性は優しげに目を細め口を開く。
「イーリス・クルクベウ。エルフハイムとは名乗らぬが、この森に生まれた者じゃ。今はハンターをしておるがな」
ハンター、という言葉に、はっとしてパティカは斧を離し、リオネストも安堵して名を名乗る。イーリス・クルクベウ(ka0481)は頷き、旅の同行を申し出た。
「同郷の維新派として、また同じ女性として、おぬし達の手助けをしたいのじゃ」
そう言ったイーリスに、2人はよろしくお願いしますと揃って頭を下げた。
――それよりしばらく前、別の場所で。
「そういえば、コレの使い方ってわかります……?」
ユーノ・ユティラ(ka0997)は旅の途中で仲良くなったフレデリク・リンドバーグ(ka2490)に、魔導短伝話を取り出し尋ねる。
「これ、事前に誰に掛けるか設定するので……これで私のと繋がりますから、何かあったら連絡してください」
「いいんですか? あ、ありがとうございます……!」
設定してもらった魔導短伝話を大事に抱え、ユーノは何度も礼を言う。2人の話は、旅路が別れるまで楽しく続いた。
――夜が明ける。
夜営を終えて歩き出すユーノに、イーリスとパティカ、リオネストが追いついたのは、まだ朝早く。
「……変装とか、した方がいいですよね……」
ユーノが荷物に付けた商品目録に古着とあるのを見て、リオネストが2人に囁く。
「そうじゃな。……エルフの行商人とは、珍しいのう」
警戒を緩めず、けれどイーリスはリオネストの提案に頷く。己も人間に変装しているし、彼らも変装するなら町に入る前の方が安全だろう。
それにユーノからは、こちらへの警戒も敵意も感じられない。
声をかければ驚いた様子だったが、客だとわかってユーノは顔を輝かせた。
「どういったものがいいですか……? えっと、数は少ないですけど……」
注文に応じ取り出された服を2人が購入する間、イーリスはユーノと周囲の様子に注意を払う。
やがて取引を終えて礼を言い、足早に去っていく3人に頭を下げて。
「いや~、恋って良い物ですね」
何も言われずとも2人の間に感じた絆に、ユーノはそっと微笑んだ。
「こんにちはっ! どちらに向かわれるんですか?」
最初の町に着いた途端、柏木 千春(ka3061)に声を掛けられて、人目忍ぶカップルは飛びあがる。
人間の少女。オプストハイムの過激派ではありえぬと確かめつつも、イーリスは不慮の事態に備え警戒を強める。
そして千春にどう応えようかと逡巡するカップルが、よほど困って見えたのだろう。
「やあ、君たち何かお困りかい!?」
スカート姿のエルフ、リアム・グッドフェロー(ka2480)の登場に驚くカップル。警戒を強めるイーリス。
「人間に変装しているとは余程の事情があるのだろうね」
こちらは声を潜めて。それでも2人の肩はびくりと跳ねる。
「ああ、そこのエルフの方もハンターかい? 協力してくれないか!」
「え、ええ。事情は気になっていましたし、手伝えることがありましたらもちろん!」
さらに様子を見ていたフレデリクをリアムが引っ張り込む。イーリスは彼らにも周囲にも警戒を強めつつ、もしかしてこの人達ただのお人好しなんじゃないかと思い始めていた。
だが、やはりお人好しなカップルを守るため、注意を払い続けるのが己の役目と任じているゆえ、気を緩めることはない。
とりあえず、全員を食事に誘う。衆目に晒されて見えぬ敵に機会を与えるより、まずはこの3人の様子に目を光らせるのが良かろうと。
――ハンターズソサエティ。
ふと目に留まった依頼書を、メイム(ka2290)が手に取る。
「エルフの男に騙された愛娘を連れ戻し、できることならば目を覚まさせてほしい……なるほどね」
まさにそれこそが、パティカの父が出した依頼。
この文面と帝国内の風潮、そしてエルフに対する知識から、メイムは何が起こっているかをほぼ真相通りに推測する。
この依頼を誰も請けていないことを確かめ、決意を固めたメイムは、急いで2人が通りそうな街道へと向かう。
必ず、その旅路を護りたいという思いを抱いて。困難な恋を実らせようとする努力が、報われるように。
――町の、食堂にて。
「ううう……難しい問題ですね……」
食事を共にし打ち解けたカップルが話してくれた経緯に、悩むフレデリク。
「いきなり仲良くしましょうというのが難しいのはわかります……けど……個人のことまでそんなに厳しくしなくても……と思うのは、私が森の外で育ったエルフだからでしょうか」
「いや、私は森で育ったエルフだけどね。ドワーフとエルフ? そんなことは拘ることかい? 大切な人ができるというのはとても素晴しいことじゃないか」
私も全力でお手伝いするよ、と言い切ってにっこり笑ったリアムに、パティカとリオネストも嬉しそうに礼を言う。
「ええ、パティカさんとリオネストさんのように、お互い分かり合える日がくるといいなあ……なんて……」
夢見るように瞳を細めたフレデリクに、カップルは頷く。
元々疎遠であった種族の2人が、恋によって繋がって、温かな視線を互いに向け、互いの同胞をも理解しようとしている。
「……うん、2人には幸せになってほしいですね!」
その思いに忠実であろうと決めて、フレデリクは屈託なく笑う。
「これからハンターとして登録して、リゼリオに向かおうと思うんだ」
「わー、お二人ともハンターを目指しているんですねーっ! ふふー、ならば私も先輩としてお手伝いをしないとですっ」
「では、先輩の私たちが道案内しましょうか!」
2人の言葉に目を輝かせる千春。フレデリクも頷き、2人とよろしくの握手を交わす。
「人数が変わったほうが追手の目は誤魔化し易いだろうからね。なんならリオ君、私の集落の格好でも真似てみるかい?」
もちろんリアムも協力を申し出る。彼の集落では性別問わず後衛の服装であるスカートを、変装にと勧められたリオネストは思わず躊躇。
「無理にとは言わないよ。世の中には色々な風習があるからね。これでも人間社会については色々学んでいるのさ!」
自分の知る価値観が全てとは思わず、いつもわくわくしていたい。そう言うリアムの真心を受け止め、リオネストは覚悟した顔で頷いた。
フレデリクと千春の護衛で2人それぞれが着替えを終えて、町から街道へ。
その途中、はっとした顔で駆け寄ってきたのは、エルフの少女――メイムだ。
「こんにちは、あたしはハンターのメイム。パティカさんと相方さんだね」
その問いに頷く2人の案外落ち着いた様子に、メイムは安堵する。警戒され攻撃される可能性も覚悟していたが、話を聞いてくれる方がもちろんありがたい。
持ってきたのは、他の全員が初めて知る情報でもあったのだから。
「あのね、パティカさんの郷から連れ戻し要請の依頼が出てたの」
「……父さん、かな」
ご迷惑おかけします、と頭を下げるパティカに、大丈夫と千春が胸を叩いてみせる。
「帝国内でわざわざ耳を隠してたら、事情のあるエルフだろうって思う人はいっぱい居るよ」
そう言って、メイムは変装を解くことを提案する。エルフであることは隠した方がいいとイーリスが助言し、話し合った結果ターバンではなく、ピンと髪の毛をうまく使って自然に見えるよう隠してみる。
エルフの里を出て活動する者は少なくはないが、頻繁に出会うほど多くもない。あからさまに耳を隠すのは目立つが、エルフであることも目立つのだ。
「あたしは2人がハンターになることを助けたいんだ。お手伝いさせてほしいな」
「それは嬉しいけど……なぜみんな、助けてくれるの?」
メイムの言葉に、2人が皆に問う。その理由はそれぞれ、けれど恋を貫く2人に幸せになってほしいのは、紛れもない事実。
皆からその思いを聞いた2人は、自分達は幸せ者だと嬉しそうに笑んだ。
7人となった一同の、少し前方を。
(これじゃ馴れ馴れしいかなぁ……でも離れていくのは寂しい……)
微妙に振り返りつつ歩くユーノ。イーリスに警戒される程度には怪しいのだが、当のユーノは気を使い過ぎて痛み出した腹を抱えそれどころではない。
「う、うぅ、お腹が……見られると恥ずかしいけど人が見えないのも怖いですし……」
人目につかず、でも街道が見える茂みに『花を摘みに』そっと入り込む。
――がさり。
「へっ?」
目の前に突如、刃。
「命が惜しくば、黙……」
「ひいやぁああ!」
脅しの言葉が終わる前に、ユーノは逃げ出す。咄嗟に掴んだ魔導短伝話に、助けを求めて。
「ユーノさん!?」
「た、たた助けて下さい短剣持った怖い人が!」
「エルフですか!?」
フレデリクの問いに思わず振り返って確かめ、追いつかれかけて慌ててハンター達の方へと全力疾走。
「は、はいそうです! 怖いエルフです!」
――フレデリクが大きく頷くと同時、イーリスが銃を取り出す。敵がいるかと目を付けていた場所の1つだが、この距離から対処できるのはユーノのお陰。
放たれた矢を、メイムが難なく盾で弾く。
「何者だい? 姿を現したまえ!」
リアムの呼び掛けに応えずもう一撃。千春がホーリーシールドを構え逸らすが、僅かに跳ねた矢の先が頬を掠める。ほぼ同時、リアムが集中を込め威力を高めた魔力の矢を解き放つ。
「千春さん、顔……!」
「だいじょーぶです! これぐらいの傷、すぐに治りますからー」
パティカの声に、心配させまいと笑みを浮かべる千春。急いで送られたリオネストの癒しに、千春は油断なく盾を構えながらも明るく礼を言う。
ストーンアーマーを纏ったユーノが炎の矢を乱射しつつ駆けてくる。続けて、短剣を持ったエルフが2人。
千春がパティカを守るよう前に出、攻性強化を施しながらフレデリクがそれに並ぶ。メイムが気迫を込めて踏み出し相手の萎縮を狙う。
「……貴様ら、過激派じゃな?」
イーリスの言葉に、ぴたりと敵が動きを止めた。
「このまま引き下がるなら止めはせぬ。但し、続けるならシャイネとエグゼントを通して長老達に報告させて貰うぞ。エルフハイムに害を為す者は処罰されるが、はてさて……」
「ほう、エグゼントは人間と繋がっていると」
良いことを聞いたと頷くエルフに、イーリスは表情を変えず問いかける。
「しかしこの件が明るみになった場合、処罰を受けるのは誰じゃろうな? 長老達から追放という許しを得、森を出て静かに暮らそうとするエルフか。それとも――浅はかな考えに囚われ、長老達の意向に背いて同族暗殺を謀ったエルフか。どちらをエルフハイムにとって、害と見るかのう?」
「長老も維新派相手に何もできぬ弱腰よ。いずれエルフハイムを救うのは我々だ」
「ならば、こちらも容赦はせぬ」
そう言ってイーリスが銃を向ける。相手に退く気がない上に、エグゼントに目を付けたらしき以上、このまま逃がすのは危険に過ぎる。
「エルフの恥など理解できないね。恋し、愛し、許し、夢を見る。自然に根ざした心の動きを、たかが慣習で否定する君たちこそ恥を知りたまえ」
リオネストの隣に並びながら、リアムが魔法の矢を宿した手をすっと突きつける。
「自然の盟友・エルフとして。そして、困った人達を助ける力を持つ覚醒者としてもね!」
放たれた光矢と共に再び始まった戦いは、執拗にリオネストを狙う刃を防ぎ、それで生じた隙を突くことで、ハンター達がすぐに圧倒し、命を奪わぬまま4人全員を無力化して決着する。
「さて。あとは、第三師団に……」
銃を下ろしたイーリスは――言葉を切り、愕然と一方向を見つめる。振り向いた全員も、同じ。
「我が同胞達が迷惑を掛けて申し訳ない」
優雅な一礼、穏やかな視線。けれど、そこにいたエルフの女性の気配に、誰も気づかなかったのだ。
彼女が話し始めるまで。
「この者達は、エルフハイムが責任を取って引き取ります。皆様はどうか良い旅を」
過激派のエルフ達を指し、決定事項の如く女性が告げる。とはいえ帝国軍に引き渡せど、殆どの場合エルフハイムに引き取られるのは同じ。
顔を見合わせてから頷いたハンター達を、行こうと促したのはリオネストだった。エルフの女性は丁寧に礼を言い、過激派のエルフ達を連れていく。
「な、何だか、すごい方、でしたね」
声を潜めて呟くユーノに、フレデリクがこくこくと頷く。
過激派ではないよね、と顔を見合わせる千春とパティカに、イーリスは複雑な顔で首肯してみせた。
「ともあれ、危機は去ったようだ!」
「偉い人が動いたみたいだしね。それじゃ、行こっか!」
リアムとメイムが務めて明るい声を出す。リオネストは、迷いを吹っ切るように頷いて。
パティカの手を、強く握った。
夕方に着いた町で、治安のよい場所に宿を取る。明日の午後には、もう旅は終わりだ。
「私、パティカさんのお話を聞きたいですー!」
そう千春はパティカを誘って、宿の酒場に繰り出す。千春は軽めの甘いカクテル、パティカはたっぷりのカルヴァドスで乾杯。
見た目は若いが、2人とも成人済みだ。
「今まで語れる人も限られていたでしょーし、私でいいならいくらでも聞きましょー!」
「え、は、恥ずかしいよぉ」
「同じ恋する乙女として見逃せませんしっ!」
恥じらうパティカに、目を輝かせ話をねだる千春。
それに今回エルフでないのは、この2人だけ。いくら仲良くなろうとしていても気を使うこともあろうと、パティカに息抜きの時間を設けたくもあった。
「ではでは、まずは馴れ初めから……」
「そこから!?」
顔を真っ赤にしながらも、パティカはおずおず、けれど徐々に饒舌に語り出す。
隠れて抑圧されていた恋だから、行く先には不安もあるだろうけれど――話す機会を得たパティカは、とっても幸せそうで。
表情が明るくなっていくのが、千春にはとても嬉しい。
「ふふー、大丈夫です。お二人の先には、きっとたくさんの幸せが待ってますから」
それは励ましでもあるが、千春の心からの言葉。互いをこんなにも大切にしている2人は、絶対に幸せになれると思うから。
――そしてやや離れたテーブルで、聞こえてくる恋人ののろけに笑み崩れるのを隠せないリオネストを、エルフ勢が皆で囲んで楽しげに肩を叩き応援する。いざという時に備えるのもあってだが……結局皆、この睦まじい恋人達を応援し手助けするのが、楽しくてたまらないのだ。
翌日は、平穏に目的地まで辿り着いた。
ハンターとなった2人を拍手で迎え、深く感謝して手を繋ぎ転送門で旅立つ2人に、或いは同行し、或いは幸せを祈って見送る。
恋人達を守り抜いたハンター達の話は、ここで終わり。けれど――恋人達の新たな物語は、ここから始まる。
「こちらじゃ、お二方」
斧に手を掛けたパティカと、警戒心露わにあなたは、と問うリオネストに、現れたエルフの女性は優しげに目を細め口を開く。
「イーリス・クルクベウ。エルフハイムとは名乗らぬが、この森に生まれた者じゃ。今はハンターをしておるがな」
ハンター、という言葉に、はっとしてパティカは斧を離し、リオネストも安堵して名を名乗る。イーリス・クルクベウ(ka0481)は頷き、旅の同行を申し出た。
「同郷の維新派として、また同じ女性として、おぬし達の手助けをしたいのじゃ」
そう言ったイーリスに、2人はよろしくお願いしますと揃って頭を下げた。
――それよりしばらく前、別の場所で。
「そういえば、コレの使い方ってわかります……?」
ユーノ・ユティラ(ka0997)は旅の途中で仲良くなったフレデリク・リンドバーグ(ka2490)に、魔導短伝話を取り出し尋ねる。
「これ、事前に誰に掛けるか設定するので……これで私のと繋がりますから、何かあったら連絡してください」
「いいんですか? あ、ありがとうございます……!」
設定してもらった魔導短伝話を大事に抱え、ユーノは何度も礼を言う。2人の話は、旅路が別れるまで楽しく続いた。
――夜が明ける。
夜営を終えて歩き出すユーノに、イーリスとパティカ、リオネストが追いついたのは、まだ朝早く。
「……変装とか、した方がいいですよね……」
ユーノが荷物に付けた商品目録に古着とあるのを見て、リオネストが2人に囁く。
「そうじゃな。……エルフの行商人とは、珍しいのう」
警戒を緩めず、けれどイーリスはリオネストの提案に頷く。己も人間に変装しているし、彼らも変装するなら町に入る前の方が安全だろう。
それにユーノからは、こちらへの警戒も敵意も感じられない。
声をかければ驚いた様子だったが、客だとわかってユーノは顔を輝かせた。
「どういったものがいいですか……? えっと、数は少ないですけど……」
注文に応じ取り出された服を2人が購入する間、イーリスはユーノと周囲の様子に注意を払う。
やがて取引を終えて礼を言い、足早に去っていく3人に頭を下げて。
「いや~、恋って良い物ですね」
何も言われずとも2人の間に感じた絆に、ユーノはそっと微笑んだ。
「こんにちはっ! どちらに向かわれるんですか?」
最初の町に着いた途端、柏木 千春(ka3061)に声を掛けられて、人目忍ぶカップルは飛びあがる。
人間の少女。オプストハイムの過激派ではありえぬと確かめつつも、イーリスは不慮の事態に備え警戒を強める。
そして千春にどう応えようかと逡巡するカップルが、よほど困って見えたのだろう。
「やあ、君たち何かお困りかい!?」
スカート姿のエルフ、リアム・グッドフェロー(ka2480)の登場に驚くカップル。警戒を強めるイーリス。
「人間に変装しているとは余程の事情があるのだろうね」
こちらは声を潜めて。それでも2人の肩はびくりと跳ねる。
「ああ、そこのエルフの方もハンターかい? 協力してくれないか!」
「え、ええ。事情は気になっていましたし、手伝えることがありましたらもちろん!」
さらに様子を見ていたフレデリクをリアムが引っ張り込む。イーリスは彼らにも周囲にも警戒を強めつつ、もしかしてこの人達ただのお人好しなんじゃないかと思い始めていた。
だが、やはりお人好しなカップルを守るため、注意を払い続けるのが己の役目と任じているゆえ、気を緩めることはない。
とりあえず、全員を食事に誘う。衆目に晒されて見えぬ敵に機会を与えるより、まずはこの3人の様子に目を光らせるのが良かろうと。
――ハンターズソサエティ。
ふと目に留まった依頼書を、メイム(ka2290)が手に取る。
「エルフの男に騙された愛娘を連れ戻し、できることならば目を覚まさせてほしい……なるほどね」
まさにそれこそが、パティカの父が出した依頼。
この文面と帝国内の風潮、そしてエルフに対する知識から、メイムは何が起こっているかをほぼ真相通りに推測する。
この依頼を誰も請けていないことを確かめ、決意を固めたメイムは、急いで2人が通りそうな街道へと向かう。
必ず、その旅路を護りたいという思いを抱いて。困難な恋を実らせようとする努力が、報われるように。
――町の、食堂にて。
「ううう……難しい問題ですね……」
食事を共にし打ち解けたカップルが話してくれた経緯に、悩むフレデリク。
「いきなり仲良くしましょうというのが難しいのはわかります……けど……個人のことまでそんなに厳しくしなくても……と思うのは、私が森の外で育ったエルフだからでしょうか」
「いや、私は森で育ったエルフだけどね。ドワーフとエルフ? そんなことは拘ることかい? 大切な人ができるというのはとても素晴しいことじゃないか」
私も全力でお手伝いするよ、と言い切ってにっこり笑ったリアムに、パティカとリオネストも嬉しそうに礼を言う。
「ええ、パティカさんとリオネストさんのように、お互い分かり合える日がくるといいなあ……なんて……」
夢見るように瞳を細めたフレデリクに、カップルは頷く。
元々疎遠であった種族の2人が、恋によって繋がって、温かな視線を互いに向け、互いの同胞をも理解しようとしている。
「……うん、2人には幸せになってほしいですね!」
その思いに忠実であろうと決めて、フレデリクは屈託なく笑う。
「これからハンターとして登録して、リゼリオに向かおうと思うんだ」
「わー、お二人ともハンターを目指しているんですねーっ! ふふー、ならば私も先輩としてお手伝いをしないとですっ」
「では、先輩の私たちが道案内しましょうか!」
2人の言葉に目を輝かせる千春。フレデリクも頷き、2人とよろしくの握手を交わす。
「人数が変わったほうが追手の目は誤魔化し易いだろうからね。なんならリオ君、私の集落の格好でも真似てみるかい?」
もちろんリアムも協力を申し出る。彼の集落では性別問わず後衛の服装であるスカートを、変装にと勧められたリオネストは思わず躊躇。
「無理にとは言わないよ。世の中には色々な風習があるからね。これでも人間社会については色々学んでいるのさ!」
自分の知る価値観が全てとは思わず、いつもわくわくしていたい。そう言うリアムの真心を受け止め、リオネストは覚悟した顔で頷いた。
フレデリクと千春の護衛で2人それぞれが着替えを終えて、町から街道へ。
その途中、はっとした顔で駆け寄ってきたのは、エルフの少女――メイムだ。
「こんにちは、あたしはハンターのメイム。パティカさんと相方さんだね」
その問いに頷く2人の案外落ち着いた様子に、メイムは安堵する。警戒され攻撃される可能性も覚悟していたが、話を聞いてくれる方がもちろんありがたい。
持ってきたのは、他の全員が初めて知る情報でもあったのだから。
「あのね、パティカさんの郷から連れ戻し要請の依頼が出てたの」
「……父さん、かな」
ご迷惑おかけします、と頭を下げるパティカに、大丈夫と千春が胸を叩いてみせる。
「帝国内でわざわざ耳を隠してたら、事情のあるエルフだろうって思う人はいっぱい居るよ」
そう言って、メイムは変装を解くことを提案する。エルフであることは隠した方がいいとイーリスが助言し、話し合った結果ターバンではなく、ピンと髪の毛をうまく使って自然に見えるよう隠してみる。
エルフの里を出て活動する者は少なくはないが、頻繁に出会うほど多くもない。あからさまに耳を隠すのは目立つが、エルフであることも目立つのだ。
「あたしは2人がハンターになることを助けたいんだ。お手伝いさせてほしいな」
「それは嬉しいけど……なぜみんな、助けてくれるの?」
メイムの言葉に、2人が皆に問う。その理由はそれぞれ、けれど恋を貫く2人に幸せになってほしいのは、紛れもない事実。
皆からその思いを聞いた2人は、自分達は幸せ者だと嬉しそうに笑んだ。
7人となった一同の、少し前方を。
(これじゃ馴れ馴れしいかなぁ……でも離れていくのは寂しい……)
微妙に振り返りつつ歩くユーノ。イーリスに警戒される程度には怪しいのだが、当のユーノは気を使い過ぎて痛み出した腹を抱えそれどころではない。
「う、うぅ、お腹が……見られると恥ずかしいけど人が見えないのも怖いですし……」
人目につかず、でも街道が見える茂みに『花を摘みに』そっと入り込む。
――がさり。
「へっ?」
目の前に突如、刃。
「命が惜しくば、黙……」
「ひいやぁああ!」
脅しの言葉が終わる前に、ユーノは逃げ出す。咄嗟に掴んだ魔導短伝話に、助けを求めて。
「ユーノさん!?」
「た、たた助けて下さい短剣持った怖い人が!」
「エルフですか!?」
フレデリクの問いに思わず振り返って確かめ、追いつかれかけて慌ててハンター達の方へと全力疾走。
「は、はいそうです! 怖いエルフです!」
――フレデリクが大きく頷くと同時、イーリスが銃を取り出す。敵がいるかと目を付けていた場所の1つだが、この距離から対処できるのはユーノのお陰。
放たれた矢を、メイムが難なく盾で弾く。
「何者だい? 姿を現したまえ!」
リアムの呼び掛けに応えずもう一撃。千春がホーリーシールドを構え逸らすが、僅かに跳ねた矢の先が頬を掠める。ほぼ同時、リアムが集中を込め威力を高めた魔力の矢を解き放つ。
「千春さん、顔……!」
「だいじょーぶです! これぐらいの傷、すぐに治りますからー」
パティカの声に、心配させまいと笑みを浮かべる千春。急いで送られたリオネストの癒しに、千春は油断なく盾を構えながらも明るく礼を言う。
ストーンアーマーを纏ったユーノが炎の矢を乱射しつつ駆けてくる。続けて、短剣を持ったエルフが2人。
千春がパティカを守るよう前に出、攻性強化を施しながらフレデリクがそれに並ぶ。メイムが気迫を込めて踏み出し相手の萎縮を狙う。
「……貴様ら、過激派じゃな?」
イーリスの言葉に、ぴたりと敵が動きを止めた。
「このまま引き下がるなら止めはせぬ。但し、続けるならシャイネとエグゼントを通して長老達に報告させて貰うぞ。エルフハイムに害を為す者は処罰されるが、はてさて……」
「ほう、エグゼントは人間と繋がっていると」
良いことを聞いたと頷くエルフに、イーリスは表情を変えず問いかける。
「しかしこの件が明るみになった場合、処罰を受けるのは誰じゃろうな? 長老達から追放という許しを得、森を出て静かに暮らそうとするエルフか。それとも――浅はかな考えに囚われ、長老達の意向に背いて同族暗殺を謀ったエルフか。どちらをエルフハイムにとって、害と見るかのう?」
「長老も維新派相手に何もできぬ弱腰よ。いずれエルフハイムを救うのは我々だ」
「ならば、こちらも容赦はせぬ」
そう言ってイーリスが銃を向ける。相手に退く気がない上に、エグゼントに目を付けたらしき以上、このまま逃がすのは危険に過ぎる。
「エルフの恥など理解できないね。恋し、愛し、許し、夢を見る。自然に根ざした心の動きを、たかが慣習で否定する君たちこそ恥を知りたまえ」
リオネストの隣に並びながら、リアムが魔法の矢を宿した手をすっと突きつける。
「自然の盟友・エルフとして。そして、困った人達を助ける力を持つ覚醒者としてもね!」
放たれた光矢と共に再び始まった戦いは、執拗にリオネストを狙う刃を防ぎ、それで生じた隙を突くことで、ハンター達がすぐに圧倒し、命を奪わぬまま4人全員を無力化して決着する。
「さて。あとは、第三師団に……」
銃を下ろしたイーリスは――言葉を切り、愕然と一方向を見つめる。振り向いた全員も、同じ。
「我が同胞達が迷惑を掛けて申し訳ない」
優雅な一礼、穏やかな視線。けれど、そこにいたエルフの女性の気配に、誰も気づかなかったのだ。
彼女が話し始めるまで。
「この者達は、エルフハイムが責任を取って引き取ります。皆様はどうか良い旅を」
過激派のエルフ達を指し、決定事項の如く女性が告げる。とはいえ帝国軍に引き渡せど、殆どの場合エルフハイムに引き取られるのは同じ。
顔を見合わせてから頷いたハンター達を、行こうと促したのはリオネストだった。エルフの女性は丁寧に礼を言い、過激派のエルフ達を連れていく。
「な、何だか、すごい方、でしたね」
声を潜めて呟くユーノに、フレデリクがこくこくと頷く。
過激派ではないよね、と顔を見合わせる千春とパティカに、イーリスは複雑な顔で首肯してみせた。
「ともあれ、危機は去ったようだ!」
「偉い人が動いたみたいだしね。それじゃ、行こっか!」
リアムとメイムが務めて明るい声を出す。リオネストは、迷いを吹っ切るように頷いて。
パティカの手を、強く握った。
夕方に着いた町で、治安のよい場所に宿を取る。明日の午後には、もう旅は終わりだ。
「私、パティカさんのお話を聞きたいですー!」
そう千春はパティカを誘って、宿の酒場に繰り出す。千春は軽めの甘いカクテル、パティカはたっぷりのカルヴァドスで乾杯。
見た目は若いが、2人とも成人済みだ。
「今まで語れる人も限られていたでしょーし、私でいいならいくらでも聞きましょー!」
「え、は、恥ずかしいよぉ」
「同じ恋する乙女として見逃せませんしっ!」
恥じらうパティカに、目を輝かせ話をねだる千春。
それに今回エルフでないのは、この2人だけ。いくら仲良くなろうとしていても気を使うこともあろうと、パティカに息抜きの時間を設けたくもあった。
「ではでは、まずは馴れ初めから……」
「そこから!?」
顔を真っ赤にしながらも、パティカはおずおず、けれど徐々に饒舌に語り出す。
隠れて抑圧されていた恋だから、行く先には不安もあるだろうけれど――話す機会を得たパティカは、とっても幸せそうで。
表情が明るくなっていくのが、千春にはとても嬉しい。
「ふふー、大丈夫です。お二人の先には、きっとたくさんの幸せが待ってますから」
それは励ましでもあるが、千春の心からの言葉。互いをこんなにも大切にしている2人は、絶対に幸せになれると思うから。
――そしてやや離れたテーブルで、聞こえてくる恋人ののろけに笑み崩れるのを隠せないリオネストを、エルフ勢が皆で囲んで楽しげに肩を叩き応援する。いざという時に備えるのもあってだが……結局皆、この睦まじい恋人達を応援し手助けするのが、楽しくてたまらないのだ。
翌日は、平穏に目的地まで辿り着いた。
ハンターとなった2人を拍手で迎え、深く感謝して手を繋ぎ転送門で旅立つ2人に、或いは同行し、或いは幸せを祈って見送る。
恋人達を守り抜いたハンター達の話は、ここで終わり。けれど――恋人達の新たな物語は、ここから始まる。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/09/14 21:38:15 |
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相談卓 柏木 千春(ka3061) 人間(リアルブルー)|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/09/28 08:16:11 |