大きな少女と大きな群れ

マスター:春野紅葉

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2016/09/23 19:00
完成日
2016/09/29 12:16

みんなの思い出

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オープニング

●暗雲
 お祭りを終えて、町には普段ののんびりとした空気が帰ってきている。
 心の奥に燻る寂しさのような感情に、ぼうっと外を眺めるだけの一日を過ごしてしまったが、ユリヤは気持ちを持ち直して羊の護衛のお仕事をすべく、雇い主の男性の下へと歩みを進めていた。
「そう言えばなんだべが、あれ、最近は広がってるって話だべ?」
「あれ……あぁ、西のことかの?」
 雇い主の家に辿り着き、挨拶をしようとした時、ふとそんな会話が聞こえた。
「こんにちは~」
 そっと扉を開けると、中にいた初老の男性――雇主と、たしかその友人だったはずの同職の40代の男がいた。
「あぁ、こんにちは、ユリアお嬢ちゃん」
 初老の男性がにっこりと人の好い笑みを浮かべる。
「あの……何かあったんですか?」
「あぁ、実はのう、お嬢ちゃんがくるよりもちょっと前から何じゃがの、町の西側の草木が枯れ果ててもうた場所があるんじゃ」
「そういえば、西には行かなくていいっておっしゃってましたね。それが理由なんですか?」
「うむ……」
 初老の男性はそう言って彼がいつも自慢にしている長いあごひげを撫でる。
「この男の話じゃと、それが最近、広がっとるんじゃと。危険かもしれんから、行ってはいかんぞ?」
「はい。分かりました。いつも通りの辺りでやってきますね!」
 ぺこりと頭を下げて、ユリヤはその場を後にした。大通りを抜け、町の門へ辿り着いたところ、疲れ果てた様子で椅子に座っている男性を見つけた。
 夜中に外に出ていた――というのとは少し違う。そもそも、町の中では見慣れない顔だった。
「こんにちは……どうかなさったのですか?」
「君は……?」
「この町の住人でユリヤと申します」
「ああ……そうかい、いや、いいんだ。ちょっと狼に襲われてね。旅の予定を変えてここに来たんだ」
「それは……災難でした。大丈夫ですか?」
「ああ、うん……」
「何か、どうしようもないときは目を閉じてじっとしているのも、良いものですよ。私もそうやってるんです」
 元気づけようと、そう言うと男は小さく笑って目を閉じた。ユリヤはそっとその手を自身の手で握ると、自らも目を閉じる。
「大丈夫です。町の中にいれば、狼は来ません……だから、ゆっくりと」
 そうやって手を握った後、男の呼吸が落ち着いたのを感じて、ユリヤはそっと笑み、その場を後にした。

●平穏を裂く咆哮
 いつも通りの場所で、いつも通りに羊たちを放ち、ユリヤ自身は少し後ろから馬に跨ってそれを見渡していた。一応もうけられている柵の中を見回し、抜け出そうな羊がいたら犬と馬を駆ってそれを柵の中に戻す、ただそれだけを延々と続けるだけの作業である。
「あれって……」
 いつも通りの日常に、心地よい日差しを受けて一つ欠伸をしたところで、ユリヤはふと、それの姿を見た。犬ほどの大きさだが、ユリヤの知る感じではない。
「あれが、町に来た男性の言ってた狼?」
 たった一匹、それを見て、ユリヤは馬を走らせた。杖を抜いて、狼に向けて走りよる。馬が怯えぬよう、5メートルほどの所で飛び降りると、覚醒し、一気に近づいて行く。
 狼の進行方向へと躍り込み、柵を背にして構えた――ところで、胸が一つ、大きく鳴ったように感じた。
 それは、そう。正しく狼である。狼であることには、違いはないのだろう――ただ、ソレの顔の左半分や、足といった所々は腐り果てていた。
 ――ユリヤは知っている。これが何なのか、脳裏を駆け抜けていくのは、やっと意識さえしなければ思い出さなくなってきた、故郷での記憶。
 気付けば、ユリヤはわめき散らすように声を上げていた。
 後ろ腰に挿している片手剣を抜き、遮二無二ソレに向かって走り出す。頭は真っ白だ。
 狼との接近したら、いつの間にか手が動いていた。肉を貫く重みが、腕をつたっていく。
「うあああ!?」
 思わず叫ぶと、そのまま無理矢理、相手を押すようにして剣を引き抜いた。狼が飛び去り、間合いを開けたかと思うと、数度、吠えた。すると、どこに隠れていたのか、或いは単に追いついて来てなかったのか、更に2匹現れた。
 三匹を相手に、剣と杖を使って狂ったように格闘を続けていたユリヤだったが、やがて狼たちが踵を返して去っていく。
「待ちなさい!!」
 既に枯れつつあった声で叫び、走る。幾つか傷が増え、体力も使い果たし、呼吸を乱しながら走って、倒れ込みそうになったところで、馬が姿を現した。
「……ありがとう、追いますよ……」
 かすれた声で馬に指示をだし、走らせた。何とか呼吸を戻しながら、どれくらい馬に乗っただろう。
小さな丘を一つ越え――そこでユリヤは馬を止めた。
「なに、これ……」
 ただただ平原の広がる小さな町の、その近郊。そのはずなのに、そこは草一本も生えず、荒野と成り果てているように思えた。荒野自体、かなりの大きさであることはうかがえる。
「こんな数……ありえるの?」
 声が震えた。寒気も止まらない。何よりも恐ろしかった。こんなことが、こんなモノ達が、町のほど近くに存在していることそれ自体が、気持ち悪かった。
 危ないから西には行かないように、確かにそう言われていた。だが、まさかそれがこんなことになっているからなんて思わなかった。
「ほとんど土が見えない……何匹いるの……? この光景、まるで故郷と同じ……ううん違うもっとひどい」
 荒野を埋め尽くす狼たち。動揺も、緊張も、ありとあらゆる感情がはっきりと恐怖に塗りつぶされた。
 そのあり得ない程の数の狼――モドキの歪虚たちは、荒野と化したその一帯をある程度の数で歩き回っているように見える。それがいわゆる一つ一つの群れなのだろう。
 荒野の中心では、他の狼より一回り大きめの狼が静かに体を横たえていて、一匹たりともその近くへ近寄ろうとしない。まるで小さな国を見せられているかのような錯覚さえ覚えさせられる光景だった。
「戻らなきゃ……私一人がどうこうできる数じゃないよ……」
 ユリヤは馬が嘶きを発さないことを祈りながら、静かにそこから走り去った。急く気持ちを馬に乗せて、潰れないことを願いながら、無心に走らせた。

●討伐令を
 ほうほうの体で村へ帰還したユリヤは、すぐにハンターオフィスへ走り込んで、このことを伝えると、ふらふらと町に出た。
「どうしたんだ? ユリヤ」
 誰かにぶつかって、謝罪しようとして上を見る。そこにいたのは、ツェザールだった。
 震える声で同郷の士に事を告げる。しかし、恐怖で下を向いていたユリヤは、ツェザールの双眸に浮かぶ喜びのような感情に気付けなかった。

リプレイ本文

●作戦会議
 朝焼けが過ぎた頃、帝国領内のとある田舎町の門付近には11人の人影があった。
「ありがとうございます……みなさん、着てくださって」
 少し疲れた様子を見せる赤毛の少女――ユリアがどことなくぎこちなく笑う。
「ユリアちゃんからの救援要請だと伺ったので飛んできました……大まかな情報はギルドを通じて伺いました」
 火艶 静 (ka5731)はユリアを安心させようと、そっと抱きしめた。ふらりと倒れ込むように、少女の身体が静の懐へと入っていく。
「ユリアちゃんが見て気付いた敵の特徴や動向など……教えて貰えますか?」
「……あっ。はい、私が見た限りですが、お伝えします」
 言うと、ユリアは見つけた歪虚が狼型のゾンビであること、大きな狼が荒野の中心で眠っているかのような姿でいることを説明していく。相手がゾンビであると伝えるところで、一瞬、言葉を詰まらせながらも、少女は目を閉じてゆっくりと言の葉を紡いでいく。
「ユリヤと言ったな? まだまだ駆け出しの身だがな、俺も力を貸すとしよう」
 明王院 蔵人(ka5737)は言ってユリヤを見下ろした。
「狼のゾンビと踊り狂うなんて、たいした趣向の舞台なの! あたしがせっかく有名になっても、わたしを知ってくれた人達が死んじゃったら元も子もないの」
 札抜 シロ(ka6328)が言って、気力に満ちた笑みを浮かべる。せっかく祭りで手品を楽しんでくれた町の人々を護りたいというその気持ちは、確かな物だ。
「そろそろ行こうぜ。ここに居たって始まらねぇぜ」
 神薙玲那(ka6173)が言うと、11人はユリアの案内を受けて走り出した。

 ユリヤが町の人から提供してもらった馬に乗り、目的の場所までたどり着いた11人は、敵に視認されない位置から、遮蔽物のない荒野を見渡した。
「はてさて、狼ゾンビの群れみたいだねぇ? 思いのほかこの拳銃が有効そうかな?」
 ニッと笑って龍銃「ラントヴァイティル」の赤い銃身を撫でる箍崎 来流未(ka2219)の横で、スナイパーライフル「レスティヒクーゲル」を構えたオウカ・レンヴォルト(ka0301)は逸る義妹を見てそっと肩に手を置いた。
「くるみ、はやる気持ちはわからんでもない、が。今は我慢だ、ぞ」
「冗談じゃないよ。町の近くにそんな大群がいたら、危なっかしくて落ち着いて寝て藍ないじゃないのさ」
「群れってことなら、ここは魔法使いの面目躍如ってやつ? 私の魔法でまとめてドカーンと焼いちゃおう!」
 セレス・フュラー(ka6276)はその数の多さを少し面倒臭そうに感じつつ、隣では夢路 まよい(ka1328)が魔術師の範囲魔法の出番かと嬉しそうだ。
「確かに数が多いな。救援を求めたのは良い判断だ」
「相手が歪虚でゾンビなら、死者殺しである聖導士の力を存分に発揮できそうだな」
 二人の様子を横目にしつつ、ラジェンドラ(ka6353)は荒野を歩き回る狼型ゾンビ達の数を視認して呟き、相手が何なのかはっきりと見て、イレーヌ(ka1372)は微笑をこぼす。
「すげぇ数だねぇ。いい汗流せそうじゃん!」
 化け物退治が何よりも好きな玲那は楽しそうに笑って言う。
「あぁ、隠れようのない場所だ、あの数で囲まれると厄介だな。纏まって滴の動きを見ながら、陣を組むか」
 ラジェンドラが冷静に観察しながら、突入経路を他の者達と打ち合わせていく。各々の配置と、何をするべきか、それを確かめて11人は戦場へと飛び込んだ。

●咆哮と鮮血と闘争と
 駆け抜け、荒野へと辿り着いた11人は、やがて打ち合わせたとおりに持ち場について行く。
 前衛に並ぶは静、蔵人、玲那、セレス、ラジェンドラの5人、最前衛からはやや後ろに位置する形で来流未が、そして後列としてオウカ、イレーヌ、シロ、まよいが並ぶ。それは扇子を広げたような半円を描く陣形であった。
「アースウォール!!」
 まよいが叫ぶとともに、半円の後ろに土の壁がそびえる。この遮蔽物がない戦場に置いて、後ろを取られないための作戦である。
「ラジェンドラ、イレーヌ……くるみが前に行きすぎないように注意しておいてくれ」
 オウカは友であるラジェンドラと恋人のイレーヌにそう呼びかけながら、覚醒し、金色へと変質したその瞳で照準を合わせ、狙撃の第一射を大型に向けて構えた。
「旦那も、後ろは任せた」
 ラジェンドラが振り返ることなく答え、非覚醒時の10歳ほどの外見年齢を20代と思われる女性の姿に変化させたイレーヌは、レクイエムを歌う準備を整えながら、視線で了承の意を伝えた。
 レスティヒクーゲルの銃声と――ハンター達に気づいた狼の一群の雄叫び、それが開戦の合図だった。
 はるか先で大型狼へレスティヒクーゲルの弾丸が撃ち込まれた。眠るような体勢であった歪虚が、痛みからか唸るような声を上げる。
 ゆったりとした動作で、大型狼が腰を上げたかと思うと、地鳴りの如き雄叫びが荒野に轟いた。その雄叫びに呼応したのか、狼たちは群れ単位でまとまり、波の如くハンター達へと駆けだした。
 しかし、イレーヌのレクイエムが届く範囲に来ると、彼らはそれを忌避するかのように動きを止めていく。
 前衛右側、静は走り込んできた動きの鈍い一匹に向け、地面を擦りあげるようにして閃かせた一撃を打ち込んだ。赤い軌跡を残すその一太刀を入れながら、別の狼を盾で防ぎ、捌いていく。
 その視界の奥では、光の弾で狼を撃ち抜いた玲那が斧を振るっていた。いざとなった時に連携を取れる位置、そこを走り抜けながら、彼女は確実に狼に一撃を打ち込んでいった。
 前衛中央、ラジェンドラは自分からは前に行かず、レクイエムの効果で動きに鈍さを生じさせる獣へ向け、自分の眼前に浮かび上がった三角形から放たれる三筋の閃光を放出する。
 左翼側では体内のマテリアルを練り上げて全長120センチの棍をねじるように突き出して狼を叩きつつ、彼の眼は自分の方へ迫る狼の立ち位置を注視していた。
 ――狙うは、相手が直線状になった瞬間。全身のマテリアルを練り、ソレを打ち込む一瞬を、ずっと見つめ続けた。
「ここだ!」
 ぐっと力をこめ、気迫と共に放たれた突き。それはまるで青い龍が一直線上を食らいつくさんと言わんばかりの光景であった。直線状の敵を丸ごと抉り取らんばかりの一撃に、数匹の狼が姿を消した。
 巌のごとき堂々たる戦いの横では、反対に素早い動きで狼を叩くセレスの姿がある。近づいてきた群れには身体にマテリアルを潤滑させ、舞うかのようにしたたかに刃を刺し、遠くの敵に向けてはカードを投げて突き刺していく。

 まよいは近づく敵に対しては味方に任せていた。彼女の視線は遠く、敵の後続に当たる群れに注がれている。味方の気迫と狼の悲鳴が混合する中、詠唱を終え、産み出した炎球を、走る狼の群れへ向けて放り投げる。炎球は陽炎をもたらしながら進むと、群れの少し前で着弾し――爆音を轟かせて爆ぜた。群れはその爆風と炎に包み込まれていく。周りごと抉り取るような一撃を、一つ一つ打ち込んでいく。
 シロはトランプを符として狼に向けてそれをばらまいていた。狼に触れたトランプは燃え盛り、対象を焼いていく。その一方、何も持っていないはずの手に扇子を開いたようにトランプを補充していた。手品師たる己の矜持は、たとえ戦闘中であろうと捨てるつもりはない。
 爆音と悲鳴と遠吠えと、肉を断つ音。様々な音が奏でられながら、戦闘は続いて行く。しかし、その一方で面々は違和感を覚えつつあった。オウカの弾丸を受けながらも、未だその場から動くことのない大型狼。その存在は違和であり、そして不気味さでもあった。

●終結は突然に
 戦闘を開始してからどれほどが経っただろうか。前衛メンバーにやや疲れが見え始め、攻撃を受ける者も増え始めていたが、後衛メンバーによる支援で致命的と呼べる者はあまりない。
「群れと戦うときの基本は、頭から、だ……」
 マテリアルを魔導機械に収束させながら、その一方で静かに大型狼に狙いをつけて弾丸を撃ちこんでいく。着実に効いていることを確かめながら、確実に大型の命を奪うそのつもりでオウカは大型狼のみを狙って攻撃していた。
 しかし、そこで視界の端にいた来流未の様子がおかしい事に気づく。残りの狼は7匹といったところか。来流未は自分の傷を癒し、手に持つラントヴァイティルの装填に時間をかけていた。それが完了したかと思うと、彼女は獰猛に笑みを浮かべ、陣形の外へ向けて走り出す。
「さぁ、出てきなさい親玉狼! 切り刻んであげるわ!」
 自身へ群がろうとする狼を薙ぎ払いながら進もうとする来流未。その姿をみとめ、オウカは照準を彼女を狙う狼へと切り替えた。来流未の死角から飛び込まんとする狼を撃ち抜き、次の弾丸を込める。再び来流未に近づかんとした狼はラジェンドラが発動した結界により防がれた。
『ウォオオオオン』
 腹の底に響くような遠吠え。咄嗟に大型を見ると、それまで寝ころんでいたかの獣は、悠然と立ち上がっていた。じろりとハンターを見て、周囲を見渡すと、まるでしかりつけるかのような低い声を発するや、くるりと身を翻し、走り出した。
「逃がす、か!」
 咄嗟に装填し終えた弾丸で大型を撃つ。弾丸は獣の左の後ろ脚を撃ち抜くが、フラ対気速度を落とすものの、相手は止まらなかった。
 追撃――そう思っても、まだ7――いや、大型が消え、先程の間に新たに1匹を討ったために5匹の狼型ゾンビが残っていた。その狼たちは、大型が雄叫びを上げてから、まるで狂気につかれたかのように、それまで以上に暴力的に攻撃を繰り広げて来ている。
「追うのは難しい、か」
 やれないことはないだろう。しかし、まだ敵がいる状況で無暗に陣形を崩して大型を追うのは危険だ。
「残り7匹なら、逆にこちらから囲い込もう」
 ラジェンドラの声が戦場に響く。それに応じる形で、前衛を務めていたメンバーが狼たちを徐々に囲い込みながら逆に包囲していく。戦闘の結末はもはや決まったような物であった。

●残された荒野で
 玲那の斧が最後の一匹となった狼を真っ二つに裂き、その獣が散りとなって消えた。
「大型を追う前にこの荒野を調べてみないか? 唐突にここだけが荒野になるというのは歪虚がいるにしても怪しい」
 追撃するべきかどうか語り合う中で、不意にラジェンドラが告げる。
「……なるほど、何かあれば大型の居場所の検討もつけるかもしれない、な」
 何か特殊な土壌でもあるのなら、同じ土壌を探せばいい。そう考えて、オウカが同意した。
「取り敢えず、大型がずっといたあそこから確かめてみるべきだろうな」
 覚醒の狂気から覚めた来流未を優しく撫でていたイレーヌがそう訴える。一同も異論はないと言うように大型が眠り続けていたその場所に向けて歩き出した。

「……なんだか変な臭いがしないかな?」
 おおよそ大型がいた辺りまで歩いてきたところで、セレスが言う。
「うむ……何かが腐ったような臭いだ」
 続くようにして蔵人が告げ、六角棍を構える。しかし、自分たち以外にいたゾンビは全て葬った。何かがいるような気配はない。
「不思議ですね……ユリヤちゃん、何か聞いていませんか?」
 静の問いに、ユリヤはぶんぶんと否定するように首を振る。顔色が悪い彼女をいたわるように隣に寄り添い、静は心配そうに見ていた。
「……あれ?」
 別段の理由もなく、ただ足を一歩前に出したシロがそんな声を上げると、そのまま不思議そうな顔をしつつ歩き回った。
「ここ、なにかあるの」
 最後に一つ、ぴょんと跳ねて、彼女はそう言った。続くように玲那がそこに足を踏み込む。そうして顔をしかめた。
「とりあえず、掘ってみないかしら? 掘る以外にやれそうなこともないわよ」
 まよいに言われて、頷き合った11人が底を掘り出すと――ソレはすぐに姿を現した。
「……扉だな。開けてみよう」
 木製の扉に金属で枠をはめたソレを見てぽつりとラジェンドラがぐっと持ち上げる。その途端、先程までの悪臭を数倍にしたような刺激臭が当たりを包み込んだ。
 確実にこの下に何かある。それを確信して、11人は一気にそれを引いた。ぎぎっという立てつけの悪い音を奏でて、扉が動いてぱっくりと口を開く。そこには石畳で出来た階段があった。
「明かりのような物はなさそう、だ。……取り敢えず、あの狼がまた来ることを考えて3人は残そう」
 オウカの言葉に頷いて、玲那と静、ユリヤを残して7人は奥へと入っていった。
「ユリヤちゃん、大丈夫か?」
 玲那は地下へ他の面々が消えていったのを確認した後、振り返ってユリヤへ問いかけた。
「……はい、なんとか、大丈夫です」
 ぎこちなく笑って返すユリヤと視線を合わせた。
「悩みがあるならお姉さんが聞いてやるよ」
「悩み……いえ、悩みではないんです。ただ、ゾンビとかスケルトンを見ると故郷のことを思い出してしまって……」
「あの村で私達が戦ったのはスケルトンでしたね……」
 静は少し前にユリヤの故郷であった村のことを思い出しながら、ユリヤを優しくなでた。
「大丈夫だぜ、ユリヤちゃんは勝ったじゃねぇか。怯えることなんてないぜ」
 ニッと笑いながら、玲那がユリヤの肩を軽くたたいた。

 一歩進むごとに強くなる悪臭に各々の対応を迫られながら階段を降った7人、その先頭に立っていたラジェンドラが足を止め、後続も続いて足を止めた。
 そこは、3人が横並びになるとそれだけでいっぱいになる程度の幅しかない縦長の部屋のようになっていた。
「これ……」
 ぽつりと呟いたのは誰だったか。明りに照らされて薄ぼんやりと見えた光景に、一瞬言葉を失っていた。
「狼の死体を投棄したといったところか」
 濃い負のマテリアルと腐臭に満ちたそこは、うず高く、そして奥が見えぬほど長く、動物たちの遺体が転がっていた。
「これが自然にできるはずないよ!」
「ああ、明らかに人工的に作られた空間だ」
 あの数の狼ゾンビも、この遺体と同じように転がされ、やがて雑魔と化したのだろう。
「きな臭くなってきた、な」
「ああ、とりあえず遺体を外に出して燃やそう」
「私、他の3人も呼んでくるの。人が多い方がいいの」
 オウカとラジェンドラが頷きあい、シロが先に階段を昇って帰っていく。

●夕焼けに照らされて
 すべての遺体を燃やし終えて、11人が町へ戻ってくる頃には、全員が疲労を隠し切れないでいた。
「お疲れ様でした。ひどい怪我をされた方は安静にしてくださいね」
 来流未は全員の労をねぎらうようにボトル珈琲を配り歩いていた。
「お疲れ」
 そんな義妹の様子を見ながら来流未から受け取った珈琲を飲んでいたオウカは、不意に後ろからイレーヌに抱き着かれた。
「ああ、そうだ、な」
 愛しい恋人にそう言って、笑う。大型のことは気になるが、あの手負いですぐに何かができるとは思えなかった。ひとまずはここまでとするしかないだろう。
「あの扉のことは、私が責任を持って町長さんと話します……今回はありがとうございました!」
 お互いの慰労を行いながらいると、ユリヤが不意に告げた。
「少なくとも、あのゾンビ達のような群れはすぐにはできないと思います。もし何かあったら、また力を貸してください」
 少し震えるような声で少女が告げる言葉が、夕焼けの町に響いていった。

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参加者一覧

  • 和なる剣舞
    オウカ・レンヴォルト(ka0301
    人間(蒼)|26才|男性|機導師
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • 白嶺の慧眼
    イレーヌ(ka1372
    ドワーフ|10才|女性|聖導士
  • 戦場の舞姫
    箍崎 来流未(ka2219
    人間(蒼)|19才|女性|闘狩人
  • 森の主を討ち果たせし者
    火艶 静 (ka5731
    人間(紅)|35才|女性|舞刀士
  • 鉄壁の守護神
    明王院 蔵人(ka5737
    人間(蒼)|35才|男性|格闘士
  • 頼れるお姉さん
    神薙玲那(ka6173
    人間(蒼)|20才|女性|聖導士
  • 風と踊る娘
    通りすがりのSさん(ka6276
    エルフ|18才|女性|疾影士
  • イッツァショータイム!
    札抜 シロ(ka6328
    人間(蒼)|16才|女性|符術師
  • “我らに勝利を”
    ラジェンドラ(ka6353
    人間(蒼)|26才|男性|機導師

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/09/19 19:44:57
アイコン 相談卓
通りすがりのSさん(ka6276
エルフ|18才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2016/09/23 17:20:19