• 蒼乱

【蒼乱】暁に向かって撃て!

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
6~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/09/27 07:30
完成日
2016/10/03 02:22

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

◆大峡谷(大渓谷)の何処
 王国と帝国の間に存在する巨大な谷のある場所にその者は居た。
 人間――ではないが、人型の歪虚である。その端正な顔は、どちらかと言うと、美形……なのかもしれない。
 特徴的なのは幾何学模様の両角。ただし、片方の角の先端は折れていた。ハンターとの戦闘で失われた物だ。
 その歪虚はネル・ベル(kz0082)。
 傲慢に属する歪虚であり、王国に潜伏し悪事を繰り返してきた。直近で言うと、高濃度のマテリアルの秘宝『聖火の氷』に絡む一連の出来事だろう。
 結局は、ハンター達の活躍により、秘宝を奪われる事は無かった。ネル・ベルは敗北を認め、何処かへ消えた――はずだった。

「……マテリアルの転化には、やや時間が掛かるか?」
 『聖火の氷』が発見された洞窟の奥でネル・ベルは身体を休めていた。
 いや、正確に言うと、洞窟に残されたマテリアルを吸収しつつ、負のマテリアルへと転化させていたのだ。
 洞窟内に残されたマテリアルは、洞窟から持ち出された秘宝よりかは少ないが、それでも彼を成長させるには十分量が存在していたのだ。
「大地から滲みだされたマテリアルは、表出していない部分だけでも、かなりの量があると言う事だ」
 もちろん、大地のどこにでも存在しているものではない。
 ある原因と結果――この洞窟に集約されたマテリアルなのだ。
「それにしても、だ……」
 ネル・ベルは眉間にしわをつくる。
 この彼に不愉快な思いをさせている厄介な事があった。

 一つは古代兵器と思われる存在からの直接的な攻撃。
 歪虚を優先的に狙ってくるわけではないのだろうが、幾度となく洞窟内へと入って来た。
 その都度、ネル・ベルは古代兵器を破壊しなければならなかった。
 必要があれば、彼自身が積極的に討伐に出る事もあった。そこにハンター達が偶然居合わす事もあったが、気にはしなかった。

 突如、大響音と共に洞窟が揺れた。

「……崩れかねんな」
 ボソっと呟く。
 原因は分かっている。しばし、思案し――頷く。
 洞窟内に残っていたマテリアルの回収は終わった。転化もそこそこ進んでいる。となると、次に気になるのは『強さ』だ。
「ちょうどいい、この目障りな攻撃を放つ古代兵器で試させてもらおうか」
 ニヤっと笑ってネル・ベルは洞窟から姿を消した。

●大峡谷王国側
 調査隊の為の支援物資を、いくつかの集積場に分散させていた。
 その中の一つがある日の朝に壊滅した。
 原因は不明ではあるが、目撃者の話によると、『砲撃』を受けた――らしいのだ。
「そんな馬鹿な話があるか。この世界のどこに、一撃で広範囲を焼き尽くせるんだよ?」
 兵士の1人がその話を信じられないという雰囲気で言った。
 リアルブルーから漂着したという戦艦なら有り得そうな話ではあるが、そんな戦艦が移動していればすぐに目につくはずだ。
「でもよ、なんだか怖くないか? 調査箇所から外れているからと言ってもよ」
「気にしすぎだぜ。谷から離れているんだ」
 谷では古代の兵器との戦いが繰り広げられていると聞く。
 だが、ここは、谷ではない。むしろ、ゴブリンなどの亜人を警戒すべき所だ。
「そろそろ、太陽が顔を出すな」
 話題を変えようと兵士が言った。
 確かに太陽が少しずつ顔を出して居た。周囲も十分に明るい。
 辺りを警戒し――亜人や雑魔が居ない事を確認した兵士は安堵の表情を浮かべた。
 その時だった。
「な、なんだ、あれ?」
「う、そ、だろ……」
 兵士達は絶句した。
 夜明けの空になにかが高速で飛んできた。
 そして、それは、兵士達の頭上をあっという間に飛びすぎると、集積場へと直撃した。

 強烈な閃光。遅れて、爆発音。

「ほ、本当に、集積場が……」
 跡形もなく粉砕されていた。

●依頼
「数日前に行商が偶然にも目撃したそうだ」
 ハンター達に依頼を出した王国兵士が渋い顔で言った。
 地中から突然現れた四角い建物のようなもの――そこから、三角錐の何かが数本突き出したらしい。
「位置は大体わかっている」
 モニター上に映し出された映像には、その場所が記されていた。
 古代兵器の一種と思われるものだ。超長距離射撃を撃ってくるのだ。その一撃だけで集積場が吹き飛ぶのだから、相当な威力がある。
「討伐隊を差し向けたのだが、敵の防御線を突破できなかった」
 パッとモニター表示が変わる。
 そこには時間がカウントされていた。
「これは夜明けまでのカウントだ。敵の超長距離射撃にはリロードに大きく時間がかかるみたいで、一日一発が限度のようだ」
 カウントは――夜明けのタイミングだった。
 つまり、太陽が顔を出す前までに、この古代兵器を破壊しなければならないのだ。
 ハンター達のうち、何人かが時計を確認した。
 時間は……あまり残されていない。ゆっくりとしていたら間違いなく間に合わないだろう。
「次の射撃がどこを狙うか分からない。大半は無人の集積場だが……ここのように、大勢の人が集まる場所もある」
 万が一にも人がいる陣地を狙われたら、大惨事である。
「何卒よろしくお願いいたします」
 王国兵士は深々と頭を下げた。

◆荒野
 ハンター達の姿を見てネル・ベルは表情を緩めた。
 オキナからの情報で、ハンター達の動向は掴んでいる。あのハンターらは、古代兵器を破壊しに行くのだろう。
「ネオピア、行くぞ」
 振り返ると、そこには茶色の髪の毛に犬耳が可愛い従者。
 短く返事をすると、その従者は天に向かって吠える。次の瞬間、従者の姿は――巨大な犬のような姿となった。
 華麗な動きで背に飛び乗るとネル・ベルはハンターらに向かって駆け出した。


 ネル・ベルがハンターらに古代兵器の破壊を手伝ってやろうと言い出すのは、この直後である。

リプレイ本文


 従者であり、『幻獣イェジド』よりも一回りは大きい柴犬のような姿に変身しているネオピアの背に乗ってハンター達の前に姿を現した傲慢の歪虚ネル・ベル(kz0082)は、面々を順に確認してから口を開いた。
「また、貴様らか」
 歪虚がそう言うのも無理はない。
 半数以上のメンバーは、それぞれ、何かしらの因縁があったからだ。
「あれま……古代兵器にネル・ベル。気になってたトコ、いっぺんに来ちゃった」
 少し驚いたような表情を浮かべて小鳥遊 時雨(ka4921)が呟く。
「この私が貴様らを助けてやろうというのだ。感謝するといい」
「ふーん。お手伝いしてくれるのー? それじゃ助かるから、喜んでー」
 クフっといたずらっぽい笑顔を見せた時雨の横に並んだのはヴァイス(ka0364)だった。
 この歪虚との因縁は長く、深い。自然とお互いの視線が宙でぶつかった。
「……共闘という事になるだろうが、先に確認は取りたい」
「では、この私から提案しよう。古代兵器は共闘して徹底的に破壊する。お互い、古代兵器の部品などは持ち帰らない」
「分かった」
 ヴァイスの返事の言葉に、時雨がピクっと動いた――気がした。
 持ち帰って古代兵器の技術の解析に繋がるかもしれないと思っていたからだ。他にもハンターの中には同様の考えを持った者も居たかもしれない。
 もっとも、持ち帰る事が出来たとしても、技術レベルが違い過ぎて、解析できていないのと同じような結果なのだが……。
「写真ぐらいは構わないかしら?」
 魔導カメラを掲げてコントラルト(ka4753)が言った。
「構わないが――貴様は、アルトに似ているな。姉妹か?」
「コントラルトよ。あなたの事は、姉やお祖父ちゃんから聞いているわ」
 つまり、あの強者の妹かと歪虚は認識した。
 歪虚は視線を横に並ぶアルスレーテ・フュラー(ka6148)へと向ける。彼女はなにか深刻そうな表情で独り言を呟いていた。
「一日一回、夜明けに一発。迷惑な目覚まし時計ね……」
 ゆっくりと寝ていられない訳だ。
 こんな迷惑な古代兵器はすぐに破壊すべきなのだが。
「私とした事が、武器を間違えるなんて……」
 深刻そうな表情の理由はそこにあるようだった。
「貴様も初めて見る顔だな」
「そうね。アルスレーテよ。手伝ってくれるってんなら、手伝ってもらいたい処ね」
 歪虚相手にあっさりと言うアルスレーテの言葉を、歪虚は別に受け取ったようだ。
「ふむ。ならば、貴様に私の絶大なる力を貸してやろう」
「そう、ありがとう……え? なに?」
 聞き直そうとしたが、その時、既に歪虚は別のハンターへと注意を変えていた。
「ネル殿よ。その強大なるその力を存分にじゃな発揮して欲しいのじゃ」
「星輝は変わらずだな。まぁ、貴様に言われるまでもない。この偉大なる私の力の片鱗を思い知ると良い」
 グッと拳を握った歪虚を見て(ちょろい奴じゃ)と心の中でニヤリと笑う星輝 Amhran(ka0724)。
「犬子もよろしくじゃぞ」
「気安ク触ルナ」
 ネオピアの頭を撫でようとしたが、サッと避けられてしまった。
「なぜじゃ……イスカには触らせておるのに」
「先輩ハ鳥ノ匂イガスル。匂イガ移ル」
 素っ気ないネオオピアの言葉。
 一方、十分にもふもふを堪能したUisca Amhran(ka0754)は歪虚を見つめる。
「こちらも、話したい事もあったので、ちょうどいいです」
 古代兵器の事ではない。緑髪の少女――ノゾミ――の事だ。
 少女は自分の道をみつけ、歩み出した。その道の行く手で、この歪虚を無視する事はできないからだ。
 ヴァイスもUiscaの言葉に深く頷く。
 どうやら、単に古代兵器を破壊するだけではない事情があるようだなと歪虚は思った。
「積もる話があるようだな。ならば、さっさと目障りな古代兵器を破壊するまでだ」
 歪虚がネオピアの背に乗った。


 辺りが薄明るくなってきた。夜明けは近い。
 ハンター達は、ひたすら東に向かって疾走していた。だが、その行く手を阻むように、箱型の古代兵器がゴロゴロと姿を現す。
「よし、犬子と時雨とわしが残る故、皆は突破するのじゃ」
「そうそう。小型兵器には、(威力が)小さい私達が対応するから」
 星輝と時雨の言葉にハンター達は頷いた。
 敵の防衛ラインで立ち止まっている暇はないのだ。
「小型には、ミニサイズハンターと……これ、どこを見ておる。胸の事ではないわ!」
「見てない! 断じて、見てない!」
 必死に否定するヴァイス。
 時雨がからかうように両手で自身の身体を覆う。
「やっぱり、ロリ志向だったんだ」
「そういう事ではない!」
 ハンター達のやり取りに歪虚が真剣な顔をした。
「なるほど。つまり、(威力が)大きいから(殲滅には)良いと言う事か……」
「それで、私をなんで見るの。こう見えて、実は私も(武器間違いがなければ、威力は)ちゃんとあるからね」
 悔やむように胸に手を当てるアルスレーテ。
 小さい声でもう一度「ちゃんとあるんだから」と呟く。
「あ! 今、アルスレーテの胸も見たね」
「だから、断じて見てない!」
「大きいのも小さいのも、なんでもいいようじゃな」
「さすがは、歴戦の戦士だな。(威力が)大きくても小さくても問題ないとは」
 敵が近づく前から、こんな状況にある事に、コントラルトは危機感を覚えながらUiscaに尋ねた。
「……いつも、こんな調子なの?」
「否定できない……ですね」
 もはや、収拾がつかない気がしてきたので、大きく咳払いをUiscaがした。
「(威力が)大きいか小さいかは、今は気にしても仕方ないですよ!」
 どーんと胸を張って宣言するその姿に、星輝と時雨の二人がストーンと自分の胸を見つめる。
「そ、そうじゃな。ここは任せて、はよ、行くのじゃ」
「ネル・ベルも、この前は散々な結果だったでしょ? ストレス発散で、我が力を見よ! 的なノリで、派手にやっちゃってー!」
 二人のハンターが陰りが見える笑顔で仲間達と歪虚を送り出した。


 仲間のハンター達が突破する際に、幾体かを文字通り薙ぎ倒していく。
「行くぞ!」
 ヴァイスの掛け声と共に、グレン(イェジド)(ka0364unit001)が咆哮を上げた。眼光鋭く、深紅の美しい毛並みは燃えているようだった。
 勢いよく飛びかかり、1体の動きを止めると背に乗っていたヴァイスが長大な刀を振り回した。
 それに巻き込まれた幾体に対して、白狼型の幻獣が身を飛び込ませた。
 クフィン(イェジド)(ka0754unit001) は、白くて美しい毛に包まれた体躯を持つ。その背に乗っていたUiscaがマテリアルを高めながら杖を掲げる。
「姉さま、時雨さん、ここは任せますっ」
 彼女から放たれた翡翠色の光は波動となり、古代兵器らに衝撃を与える。
 突破口が開かれると、真っ先にコントラルトがレーフォロ(リーリー)(ka4753unit002)を滑り込ませた。
 せっかく開いた突破口を再び閉ざされるのを防ぐ為だったが、勢いあり過ぎて突破するとクルリと身体の向きを直した。
「先に行くわ」
 扇状に放たれた猛烈な炎のマテリアルは多くの古代兵器を包み込んだ。
 そこへ、戦線を突破するアルスレーテの眼前にネオピアと離れた歪虚が瞬間移動して来た。
「この私の力、存分に扱うと良い」
「え?」
 そんなつもりで言った訳ではないが、言い訳できる暇は無かった。
 歪虚の姿が歪み――人の姿が、一つのナックルへと変わったのだった。
 有無を言わさず、勝手に利き腕に装着された。その圧倒的な力は、聖拳プロミネント・グリムを遥かに越えているのかもしれない。
「この力の代償に『私の妻になれ』とか言われたら、お断りしたいけど」
「安心しろ。求める事はないし、言ったとしても『下僕』だな」
「ですよねー」
 自嘲的に返事をしたアルスレーテは早速、構えた拳にマテリアルを集中させる。
 放った衝撃波はさながら水龍の如く迸る。その威力はいつもよりも強大だった。同時に、ナックルと化した歪虚の飾りだと思われていた二つの角の間から猛烈な業火の渦が放たれる。
「凄い……水と炎が合わさって最強に見えるわ」
 この一撃でも数を減らした古代兵器ら。
 ハンター達の突破を許するが、追い縋って来るのを、2羽の漆黒の怪鳥が塞ぐ。
 由野(リーリー)(ka0724unit001)とくろべぇ(リーリー)(ka4921unit001)だ。
 申し合わせた訳ではないが、同色のリーリーが嘴から威嚇するように鳴く。ちなみに、区別をするには、尾の色の違いだろうか。
「由野よ、一体足りとも、逃がさぬぞ」
「よぉーし! くろべぇも初陣だし頑張るんだぞー! いーい? くろべぇ」
 主人達の言葉に、軽快に頭を八の字に振って戦闘モードの由野と、ピンと伸びていた尾羽根が急にくたっとなるくろべぇ。
「……訓練の差というか、性格の差かのぅ」
「だいじょーぶ! 時雨さんが上手いこと援護しとくし。それじゃ、ごーごー!」
 マテリアルを込めて放った2本の矢が古代兵器に直撃する。
 幸運な事に1本は謎ビームの発射口へと突き刺さった。
 その様子を確認して、星輝がニヤっと笑った。
「謎ビームの発射口は、直接内部に繋がっておる事請け合い……」
 巧みに太刀を振りかぶって斬りつける。
「攻撃の瞬間に、此方の攻撃が合わせられれば、ビームを封じ、上手く行けば致命の一撃じゃろう」
「さっすが、星輝! それじゃ、援護するね」
 次に番えた矢は天へと向ける時雨。
 その無防備な所を狙って古代兵器が突撃してくるが、くろべぇが割って入って進路妨害し、ネオピアが飛び掛って押さえ込む。
「鳥臭イガ仕方ナイ」
 鋭い牙でガッと噛み付く。
 だが、それで粉砕されるほど、古代兵器も脆くはない。
「中々硬い……ネオピアよ、もうちと、どかーんと何か出来ぬか?」
「ソンナ事ハデキナイ。ソシテ、勝手ニ背ニ乗ルナ」
「実は、出来るのじゃろう? 成長を見たいのじゃ!」
 あからさまにワクワクとする星輝の行動に鼻息をフンっと吹いた。
「デキナイ。ソレト、オリロ」
「仕方ないの」
 渋々とネオピアの背から降りる星輝。
 ヴォイドが成長するには負のマテリアルを得る必要がある。そして、ネオピアは以前、星輝が会った時と変わらなかった。それは、この犬娘が新たなマテリアルを得ていないという事なのだろう。
(となると、本来、歪虚が大幅に成長するという事は、案外、特殊な事例なのかもしれんのう)
 心の中でそんな事を思う。
 だからこそ、マテリアルを得る為には容赦がないのかもしれない。
「行くよ! 星輝!」
 時雨の声でハッと注意を取り戻す星輝。
 高められたマテリアルが天に放たれ――それらは、雨矢となって古代兵器らの頭上に降りかかった。
 身動きが出来なくなった所を狙って星輝は手裏剣を放つ。
「機械は所詮造られしモノ……何処ぞに継ぎ目やネジの類が有るはずよの。大体そういう所は脆弱じゃてな!」
 まとまって身動きがとれなくなった古代兵器らを手裏剣が舞う。
 由野、くろべぇも、鋭い足で強烈なキックを繰り出していく。
「くろべぇふぁいとー!」
 再び矢を天に向かって撃ち時雨は声援を送る。
 それに呼応するように、くろべぇが甲高い鳴き声を上げたのだった。

 結局、星輝と時雨らが防衛ラインに現れた古代兵器を全て破壊したのは、先行したハンター達と別れてそれほど時は経っていなかった。
 敵の数も多かったが、最初の一撃が効率良かったのだろう。
「よし、追いかけるのじゃ!」
「……ダカラ、背ニ乗ルナ」
 振り落とそうと藻掻くネオピアに必死に捕まりながら、もふもふを堪能する星輝。
 一方、時雨はやや青い顔をしてくろべぇに乗っていた。
「酔わない程度に安全ダッシュでよろしく、くろべぇ」
 くろべぇが自信なさげに小刻みに震えるのであった。


 戦士の気合の怒号が響き渡った。
 発射台から放たれる無数の銃弾を気にせず攻勢に専念しているからだ。
 夜明けは近い――太陽が姿を現す前には発射台を破壊しなければならない。ハンター達が必死になるのも当然の事だ。
「グレン! 出し惜しみはするな!」
 自身もそうであるように、全力で攻撃しながら相棒に言葉を掛けた。
 応じるようにグレンは咆哮をあげ、牙を立てて発射台へと向かう。その猛攻に特殊な防御装置が割れる。
「割れましたね! 私達も行きますよ、クフィン」
 Uiscaが光の波動を放ち、クフィンも発射台へと飛びかかる。
 本来であれば、発射台に到着したら星輝への援護へと向かわせるつもりだったが、戻るには距離があると感じたからだ。
 なにより、姉さまとお友達の二人なのだ。信頼して問題ないだろう。
「レフ、範囲に入らないように」
 コントラルトのそんな注意が聞こえたのか、思いっきり走って距離を稼ぐレーフォロ。ただ逃げ回っているのではない。発射台の迎撃装置のヘイトを集めているのだ。
 その隙を突いて、コントラルトが最大限にまで高めたマテリアルの炎を放った。
 扇状に広がったそれは、最大距離まで伸びると広範囲に発射台を包み込む。
「これなら、一気に破壊できそうね」
 相手が動かない的であり、巨大だから強みが最大に活かせるのだろう。
 次を撃つ為、再びマテリアルを集中させる。
 一方、発射台の目の前に張り付いて拳を繰り出すアルスレーテ。
「ちょーっと、女の子の戦いとしては可愛らしさも美しさもないけど」
「偉大なる私の力なのだ。可憐などと、か弱いものではない」
 武器として装着されている歪虚から言葉が発せられる。
 確かに威力としては仲間達に遜色ない。これが、歪虚の力なのは明らかではあるが……。
「ちょっと、息が上がってき、た?」
 歪虚は負のマテリアルの塊のようなものだ。
 装着しているだけで体力を消費していてもおかしくはない。
「私が壊れるのが先か、発射台が壊れるのが先か、ってところね」
 それでも拳を振るい続けるアルスレーテだった。
 無数の弾丸も激しさを増すが、ここまで来て気にする事はないとヴァイスは確信した。
「迎撃が激しいが、このまま押し切るぞ」
 ガッと強く踏み込むと全体重を乗せた一撃を振るう。
 ガリガリと音を立てて発射台に穴が出来た。
 その穴に向けて、グレンとクフィンが同時に噛み付き、装甲を剥がし広げる。
「まだ、魔法は撃てますよ」
 杖を掲げてUiscaの強力な魔法が発射台を揺るがした。
 その反対側ではコントラルトが剛火を放ち続けていた。
「もはや、時間の問題のようね」
 冷静に呟く。
 正しくその通りだった。
 発射台自体、特殊な防御装置や全周囲に対する迎撃能力を持っており、かなり手強いはずだっただろう。
 それでも今日ここに集まったハンター達の前には紙切れにしか過ぎなかった。
 この後もハンター達の猛攻は続き、防衛線を片付けた星輝と時雨が駆けつけた時には、発射台はその機能を失い、粉砕されていたのであった。


 駆けつけた仲間を出迎え、一緒だったネオピアにヴァイスは言った。
「一度牙を交えた仲だ……お前の力、頼りにさせて貰った。ありがとう」
「主ニ指示サレタダケノ事」
「お前は、人と共に歩めないのか?」
 ネオピアもまた、ヴォイドらしからぬ所がある。
「……人間ハ嫌イダ。ダガ、嫌イジャナイ人間モイル」
 それだけ言い残してネオピアは荒野に向かって駆け出した。既に用件は無いという事なのだろう。
 一方、武器と化していたネル・ベルは元の姿に戻り、余裕めいた表情をハンター達に向ける。
「なにか、言いたい事があるのだろう」
 その歪虚の言葉はヴァイスに向けられていた。
「決着は……付けなくてはいけないか?」
「この場は相応しくないだろう」
 周囲には発射台の残骸が広がっている。決戦の場所としては、なにか欠けている……そんな気にさせた。
 そして、欠けているものが何か――何人かは分かっていた。
「希は、元気だ。一時、危うい時もあったが、希は未来へと歩み始めた」
 ヴァイスの言葉に時雨が一瞬、視線を向けた。
 ネル・ベルが希の生存を知っていると伝えた訳ではない。ヴァイス自身が、ネル・ベルに“この事”を話す必要があると感じたからだった。
「邪魔な事をしたな」
「希を支えた人達が居る。それだけだ」
 胸を張った彼の言葉はどこか誇らしげだった。
「傲慢――アイテルカイト――は、決して裏切り者を許さない」
「それは、ノゾミも同様という事かのう?」
「そうだ。だが、偉大な私は従者には寛大なのだ。裏切りかどうかは時が来るまで、私は待つ」
 星輝の質問に歪虚は尊大な身振りと共に答えた。
 それが一体何を意味するのか、計りかねた中――時雨は左胸に手を当てた。
「……時間、まさか……」
「人間は何度でも希望を持つ。だが、絶望もまた、何度でも訪れる。そして、私は、従者が真に絶望する時を待てるのだ」
 生命を持たない歪虚は寿命というものがない。
 討伐されて消滅しない限り、存在は続くのだ。
「そんな事は、絶対にさせない。人は希望を灯し続ける事が出来るのだからな」
 力強く宣言したヴァイス。
 同時にそれは、彼が戦士であり続ける所以かもしれない。
 その宣言で話は終わったと判断したのだろう踵を返した歪虚の背中に向かってUiscaが言葉を掛ける。
「イケメンさん、フラベルさんの事、どう思っています?」
 ピタっと歪虚の動きが止まった。
「ノゾミちゃんを助けたのは、あの子がフラベルさんと似ていたからですね?」
 髪の色も、大切な人に認められたいと思っていた所も、フラベルに重なるとUiscaは思っていた。
「……イケメンさん、今でもフラベルさんの事が好きでしょう?」
「フラベル様は敬愛している。だが、私はもはや、フラベル様に拘ってはない」
 振り返った歪虚は全身から強大な負のマテリアルを放出していた。
「なんたる負のマテリアルじゃ……もしや、こやつ……」
 星輝の言葉に歪虚は口元を緩めた。
 今までとは違う。フラベルやクラベルにも匹敵するか、あるいはそれ以上か。
「成長しているのは貴様らだけではないという事だ」
「ノゾミちゃんも貴方の事は吹っ切れて、一人前のハンターとして成長して自立しつつありますよ」
「それは楽しみだな」
 今度こそ別れなのだろう。
 意識を集中するように瞳を閉じた歪虚へ最後、Uiscaは宣言する。
「私たちも、貴方と決着をつける時が近づいているようですね」
 直後、歪虚は瞬間移動して消え去った。
 奇襲の警戒をしていたが、十分な時間が経ち、星輝は息を静かに吐き出した。
「成長する敵じゃな……今まで倒す機会はどこかであったかもしれんのう」
 それは幾度かあったかもしれない。
 これからもきっと機会はあるだろう。相手が今までよりも強いという事だけで。
「その時が来る日まで、鍛錬は欠かさずじゃな」
 気持ちを入れ替えて時雨の背をバンバンと叩いた。
「……それまでに大きくなるかな」
 ボソっと時雨が俯いて呟いた。

 破壊された発射台の残骸をカメラで納めていくコントラルト。
 歪虚との約束を律儀に守る必要もないが、残骸は持って帰っても意味がないかなと思った。不可思議な技術なのか、壊された後はそれ以前と比べると全然違うものにも見える。
「この世界は、不思議が多すぎるわ」
 きっと、リアルブルーも不思議に満ち溢れているに違いないだろう。
「それにしても、驚く程、蚊帳の外だった」
 アルスレーテが先ほどまでの仲間達と歪虚の話を振り返った。
 希という名の少女に絡んだ話だったようだが……なにせ歪虚と会うのも始めての事だ。
「私は家族に話すけどね」
「家族……ね」
 溜息をつきながらアルスレーテはヨロヨロとふらつく。
 思った以上に体力を消費したのだ。それを観察したコントラルトが何気なく言葉を口にする。
「……痩せた? いや、やつれた?」
 その台詞に脊髄反射したアルスレーテが物凄い勢いでコントラルトに詰め寄る。
「痩せた? 本当?」
「え、えぇ……そ、そう思えるわ」
 やつれただけのように見えるが、あまりの勢いにそう答えるしかできなかった。
 アルスレーテはグッと拳を握った。
「痩せられる! あの歪虚が居れば、痩せられる!」
 なにか決意をしたアルスレーテ。
 強くなれる上に痩せられるのだ。一石二鳥とはこの事ではないか。
 その時、仲間が呼ぶ声が響く。どうやら記念写真を撮るつもりらしい。
「ビフォーアフターを記録するにもちょうどいいわ。行くわよ」
「私は武器そのものの方が気になるけど」
 二人は仲間達の所へと向けて駆け出した。


 ハンター達の活躍により、超長距離砲撃が発射される前に発射台を破壊できた。
 集積場への被害はなく大峡谷の探索は、以後も続けられるのであった。


 おしまい



 太陽が辺りを照らす。
 これでもう、厄介な音にも悩まされなくていいだろうが、既にどうでもいい。
「なるほど。人間に使われるのも、これはこれで良いアイデアだな」
 歪虚が不気味な微笑を浮かべた。
 単純に力が成長するよりも、その発想力、想像力が、豊かになる。それが、きっと、この歪虚の一番の成長なのだろう――。

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MVP一覧


  • ヴァイス・エリダヌスka0364
  • 最強守護者の妹
    コントラルトka4753

重体一覧

参加者一覧


  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    グレン
    グレン(ka0364unit001
    ユニット|幻獣
  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhran(ka0724
    エルフ|10才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ユーノ
    由野(ka0724unit001
    ユニット|幻獣
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    クフィン
    クフィン(ka0754unit001
    ユニット|幻獣
  • 最強守護者の妹
    コントラルト(ka4753
    人間(紅)|21才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    リーリー
    レーフォロ(ka4753unit002
    ユニット|幻獣

  • 小鳥遊 時雨(ka4921
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    クロベェ
    くろべぇ(ka4921unit001
    ユニット|幻獣
  • お約束のツナサンド
    アルスレーテ・フュラー(ka6148
    エルフ|27才|女性|格闘士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/09/22 19:00:12
アイコン 【質問卓】華麗なる質問卓
ネル・ベル(kz0082
歪虚|22才|男性|歪虚(ヴォイド)
最終発言
2016/09/24 17:23:51
アイコン 相談卓
アルスレーテ・フュラー(ka6148
エルフ|27才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2016/09/26 10:28:06