ゲスト
(ka0000)
ドワーフ少女と宝石強盗
マスター:真太郎

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/09/26 19:00
- 完成日
- 2016/10/02 00:44
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
鉱山町『フールディン』は辺境のアルナス湖から流れるアルナス川の河口付近の山間にある。
町を治めるフルディン族の長ヴィブはある決断を胸に秘め、3人の子供達を呼び集めた。
「父上、どういった用件でしょう?」
次男のヴィオルが真っ先に尋ねる。
「近々ワシは70歳の誕生日を迎える」
「えぇ、盛大にお祝いしましょうね」
長女のスズリが笑顔を浮かべる。
「あぁ、ありがとう。だがワシは70歳を機に族長を引退しようと思う。そして次の族長の座を……フェグル、お前に任す」
「僕に……ですか?」
長男のフェグルが意外そうな顔でヴィブを見返した。
「おめでとうフェグ兄様!」
「おめでとうフェグル兄!」
スズリとヴィオルが笑顔で祝福してくれるが、フェグルの表情は困惑気味だった。
「父さん、僕は病弱です。この体では族長の重責に耐えられる自信がありません。族長にはヴィオルが相応しいと思……」
「心配するな兄上! 体を使う仕事は俺が手伝ってやる。兄上は机に座って指示を出してくれればいい。むしろ町の運営など俺にはサッパリなので兄上がしてくれないと困る!」
「そうよ兄様。私もお手伝いするわ」
「2人とも……」
ヴィブは美しい兄弟愛を目の辺りにして目頭が熱くなった。
3人の子供達は皆良い子に育ってくれた。
これなら安心して引退できるし、天に召された時にも胸を張って妻に会える。
「どうするフェグル?」
フェグルはまだ迷っているようだったが、やがてヴィブの目を真っ直ぐ見た。
「……分かりました。族長の座、お引き受けします」
「うむ!」
ヴィブは満足気に頷くと、族長の座を息子のフェグルに譲渡する約定を書に記した。
そしてその書を机の引き出しに入れる。
「スズリ、この引き出しを開けてみなさい」
「え?」
開けると、中に書状はなかった。
「あれ? なんで?」
「ハハハッ、この机はカラクリ式でな。決まった手順を踏まないと中に入れた物を出せないんじゃ」
ヴィブは自慢げに言うと、手順を踏んで開けて書状を取り出す。
「わっ凄い! 私にもやらせて」
スズリが好奇心で瞳を輝かせ、机の引き出しの仕掛けをいじり始める。
「フェグルも何か隠し物があるならここを使うといい」
「僕に隠し物なんてありませんよ」
フェグルが苦笑いを浮かべる。
「父上は母上に見せられない物をそこに隠してたのか?」
「い、いや。ワシにそんな物はなかったぞ」
ヴィオルに尋ねられたヴィブはあからさまに視線を反らした。
「ところでスズリや」
「なぁに父様」
机の仕掛けをうまく解けなくて弄り回しているスズリが生返事する。
「族長就任式で使う儀礼冠を修理に出しておったんだが、直ったらしくてな。それをスーダムまで取りに行って欲しいんじゃ」
「えっ! スーダム」
スズリの瞳が歓喜で輝く。
『スーダム』はアルナス川の河口付近にある港町だ。
同盟の商人と交易が行われているため、フールディンの近くでは最も栄えていて人も多い町である。
「父上、スズリを1人で行かせるのか?」
「いや、家政婦のマームと一緒に行ってもらうつもりじゃ」
マームはフェグル族とは遠縁のドワーフで、今は57歳。
母のクズリが死んだ後は乳母としてスズリを育ててくれた人だ。
「マームと2人では危険過ぎるだろう。俺も一緒に行く」
「お前はまだ足が折れとるだろうが」
ヴィブはギプスのハマったヴィオルの足を指差す。
「くぅぅぅ……そうだったぁ……。ならば護衛を付けさせてくれ」
「えぇぇー邪魔だよぉ~……。私もう14歳よ、スーダムの町くらい1人でだって行けるわ」
スズリが露骨に嫌そうな顔をする。
「まだ14歳だ! 子供に遠くの町まで買い物になど行かせられん!!」
ヴィオルは母のクズリが亡くなっ後にスズリの育児をしたせいか、ちょっと過保護だった。
「もう子供じゃないもん!」
スズリが子供っぽく頬を膨らませて怒る。
「父さん、さすがに僕もマームとスズリの2人では心配です」
フェグルもヴィオル程ではないものの、スズリには甘い。
「いや。しかし店で儀礼冠を受け取って帰ってくるだけだぞ?」
ヴィブは息子2人の妹への甘々っぷりに少し戸惑う。
「フェグ兄様まで私を子供扱いするの?」
「スズリがもう立派なレディだから心配してるんだよ」
フェグルがスズリの頭を撫でながら優しく微笑みかける。
「フェグ兄様がそこまで言うなら……」
フェグルはヴィオルより妹の扱いが上手かった。
「よし、では今から軍の中でも腕利きを呼ぶ」
フルディン族は小さいながらも私設軍隊を持っているのだ。
「軍の人はイヤ」
「何故だ?」
「ゴツイ鎧を着た人と一緒に町で買い物なんてしたくないわ」
「むぅぅ……ならばハンターを雇う。これならどうだ?」
「まぁ、それなら……。でも素敵な人にしてよ」
「そこまでは保証できん」
こうしてスズリは雇われたハンターと共に港町まで行く事になったのだが……。
「ねぇ兄さん……なんでこんなにいるの?」
2~3人くらいだろうと思っていた護衛が倍以上いたのでスズリは呆れた。
「これでも少ないくらいだ」
「多すぎるわよ!」
ともかくもう雇ってしまった以上は連れて行くしかなく、馬車の護衛をしてもらってスーダムの町ヘ向かう。
「マームはカレーを食べたことある?」
道中、スズリがマームに尋ねる。
「いいえ。残念ながらわたくしは食べた事がありません」
「そっか……。私ね、父様がずっと食べたいと言っていたカレーを誕生祝で作ってあげたいの。とっても美味しいらしいから兄様にも喜んで貰えると思うし。香辛料の煮込み料理なのよね?」
「はい。肉や野菜を香辛料で煮込んだ物だそうですよ」
「肉や野菜はフールディンでも買えるけど、香辛料は売ってないじゃない。でもスーダムなら売ってるかなって。だからマーム、一緒に香辛料を探してくれない?」
「はい。もちろんです、スズリ様」
町に着いたスズリ達は、まず宝石店に向かった。
修理に出していた儀礼冠を受け取るだけなのですぐ済むはずで、その後ゆっくりと香辛料を探すつもりだったからだ。
しかし店に入ると店内は荒らされており、店主と思われる人物が頭から血を流して倒れていた。
そして賊と思われる人物も6人おり、店内の物品を物色している。
「え……」
思いもかけぬ光景にスズリの思考が停止する。
スズリ達が現れたため、賊の内2人は裏口に走った。
1人は窓を突き破って外に出た。
1人は拳銃をスズリ達に向けた。
2人は刃物を振りかざしてスズリ達に向かってくる。
「スズリ様!!」
マームは咄嗟にスズリを抱き寄せ、自分の身を盾にするように庇った。
町を治めるフルディン族の長ヴィブはある決断を胸に秘め、3人の子供達を呼び集めた。
「父上、どういった用件でしょう?」
次男のヴィオルが真っ先に尋ねる。
「近々ワシは70歳の誕生日を迎える」
「えぇ、盛大にお祝いしましょうね」
長女のスズリが笑顔を浮かべる。
「あぁ、ありがとう。だがワシは70歳を機に族長を引退しようと思う。そして次の族長の座を……フェグル、お前に任す」
「僕に……ですか?」
長男のフェグルが意外そうな顔でヴィブを見返した。
「おめでとうフェグ兄様!」
「おめでとうフェグル兄!」
スズリとヴィオルが笑顔で祝福してくれるが、フェグルの表情は困惑気味だった。
「父さん、僕は病弱です。この体では族長の重責に耐えられる自信がありません。族長にはヴィオルが相応しいと思……」
「心配するな兄上! 体を使う仕事は俺が手伝ってやる。兄上は机に座って指示を出してくれればいい。むしろ町の運営など俺にはサッパリなので兄上がしてくれないと困る!」
「そうよ兄様。私もお手伝いするわ」
「2人とも……」
ヴィブは美しい兄弟愛を目の辺りにして目頭が熱くなった。
3人の子供達は皆良い子に育ってくれた。
これなら安心して引退できるし、天に召された時にも胸を張って妻に会える。
「どうするフェグル?」
フェグルはまだ迷っているようだったが、やがてヴィブの目を真っ直ぐ見た。
「……分かりました。族長の座、お引き受けします」
「うむ!」
ヴィブは満足気に頷くと、族長の座を息子のフェグルに譲渡する約定を書に記した。
そしてその書を机の引き出しに入れる。
「スズリ、この引き出しを開けてみなさい」
「え?」
開けると、中に書状はなかった。
「あれ? なんで?」
「ハハハッ、この机はカラクリ式でな。決まった手順を踏まないと中に入れた物を出せないんじゃ」
ヴィブは自慢げに言うと、手順を踏んで開けて書状を取り出す。
「わっ凄い! 私にもやらせて」
スズリが好奇心で瞳を輝かせ、机の引き出しの仕掛けをいじり始める。
「フェグルも何か隠し物があるならここを使うといい」
「僕に隠し物なんてありませんよ」
フェグルが苦笑いを浮かべる。
「父上は母上に見せられない物をそこに隠してたのか?」
「い、いや。ワシにそんな物はなかったぞ」
ヴィオルに尋ねられたヴィブはあからさまに視線を反らした。
「ところでスズリや」
「なぁに父様」
机の仕掛けをうまく解けなくて弄り回しているスズリが生返事する。
「族長就任式で使う儀礼冠を修理に出しておったんだが、直ったらしくてな。それをスーダムまで取りに行って欲しいんじゃ」
「えっ! スーダム」
スズリの瞳が歓喜で輝く。
『スーダム』はアルナス川の河口付近にある港町だ。
同盟の商人と交易が行われているため、フールディンの近くでは最も栄えていて人も多い町である。
「父上、スズリを1人で行かせるのか?」
「いや、家政婦のマームと一緒に行ってもらうつもりじゃ」
マームはフェグル族とは遠縁のドワーフで、今は57歳。
母のクズリが死んだ後は乳母としてスズリを育ててくれた人だ。
「マームと2人では危険過ぎるだろう。俺も一緒に行く」
「お前はまだ足が折れとるだろうが」
ヴィブはギプスのハマったヴィオルの足を指差す。
「くぅぅぅ……そうだったぁ……。ならば護衛を付けさせてくれ」
「えぇぇー邪魔だよぉ~……。私もう14歳よ、スーダムの町くらい1人でだって行けるわ」
スズリが露骨に嫌そうな顔をする。
「まだ14歳だ! 子供に遠くの町まで買い物になど行かせられん!!」
ヴィオルは母のクズリが亡くなっ後にスズリの育児をしたせいか、ちょっと過保護だった。
「もう子供じゃないもん!」
スズリが子供っぽく頬を膨らませて怒る。
「父さん、さすがに僕もマームとスズリの2人では心配です」
フェグルもヴィオル程ではないものの、スズリには甘い。
「いや。しかし店で儀礼冠を受け取って帰ってくるだけだぞ?」
ヴィブは息子2人の妹への甘々っぷりに少し戸惑う。
「フェグ兄様まで私を子供扱いするの?」
「スズリがもう立派なレディだから心配してるんだよ」
フェグルがスズリの頭を撫でながら優しく微笑みかける。
「フェグ兄様がそこまで言うなら……」
フェグルはヴィオルより妹の扱いが上手かった。
「よし、では今から軍の中でも腕利きを呼ぶ」
フルディン族は小さいながらも私設軍隊を持っているのだ。
「軍の人はイヤ」
「何故だ?」
「ゴツイ鎧を着た人と一緒に町で買い物なんてしたくないわ」
「むぅぅ……ならばハンターを雇う。これならどうだ?」
「まぁ、それなら……。でも素敵な人にしてよ」
「そこまでは保証できん」
こうしてスズリは雇われたハンターと共に港町まで行く事になったのだが……。
「ねぇ兄さん……なんでこんなにいるの?」
2~3人くらいだろうと思っていた護衛が倍以上いたのでスズリは呆れた。
「これでも少ないくらいだ」
「多すぎるわよ!」
ともかくもう雇ってしまった以上は連れて行くしかなく、馬車の護衛をしてもらってスーダムの町ヘ向かう。
「マームはカレーを食べたことある?」
道中、スズリがマームに尋ねる。
「いいえ。残念ながらわたくしは食べた事がありません」
「そっか……。私ね、父様がずっと食べたいと言っていたカレーを誕生祝で作ってあげたいの。とっても美味しいらしいから兄様にも喜んで貰えると思うし。香辛料の煮込み料理なのよね?」
「はい。肉や野菜を香辛料で煮込んだ物だそうですよ」
「肉や野菜はフールディンでも買えるけど、香辛料は売ってないじゃない。でもスーダムなら売ってるかなって。だからマーム、一緒に香辛料を探してくれない?」
「はい。もちろんです、スズリ様」
町に着いたスズリ達は、まず宝石店に向かった。
修理に出していた儀礼冠を受け取るだけなのですぐ済むはずで、その後ゆっくりと香辛料を探すつもりだったからだ。
しかし店に入ると店内は荒らされており、店主と思われる人物が頭から血を流して倒れていた。
そして賊と思われる人物も6人おり、店内の物品を物色している。
「え……」
思いもかけぬ光景にスズリの思考が停止する。
スズリ達が現れたため、賊の内2人は裏口に走った。
1人は窓を突き破って外に出た。
1人は拳銃をスズリ達に向けた。
2人は刃物を振りかざしてスズリ達に向かってくる。
「スズリ様!!」
マームは咄嗟にスズリを抱き寄せ、自分の身を盾にするように庇った。
リプレイ本文
1人の少女が買い物のためだけに4人のハンターと家政婦1人を連れている。
(確かに過保護な兄貴だな)
この光景を見たメンカル(ka5338)はそう思った。
(だが気持ちは解る)
メンカルにも下に双子の弟と妹がいる。
スズリの兄のヴィオルも妹を愛しているが故に心配でならないのだろう。
そんな事を考えている内に宝石店に到着し、スズリとマーム、リコ・ブジャルド(ka6450)と保・はじめ(ka5800)が店内に入ってゆく。
その直後。
「スズリ様!」
「強盗だ! 数は6人。2人店の奥の裏口から、1人は窓から逃げた!」
マームの悲鳴とリムの声が響き、ガラスの割れる音がする。
メンカルが店の横を覗くと、ガラス片の上に立つ男が走り出していた。
「武器は短剣と拳銃うわっ!」
店内のリムは更に詳しく伝えようとしたが、その最中に賊Aが短剣で斬りかかってきたため中断された。
短剣が顔面を狙って薙ぎ払われたが、身を反らして辛くも避ける。
「アルマさん2人を守って!」
同じく店内にいた保が店外にいるアルマ(ka3330)に頼む。
まだ状況をよく分かっていないアルマだが、賊が銃を持っている事は分かっている。
そして護衛対象の2人を銃から守る方法として咄嗟に思いついたのが『足にロープを掛けて転倒させる事』だった。
しかしアルマが荷物からロープを取り出したところで店内から発砲音がした。
今からロープを引っ掛けていたのでは間に合わない。
保は右手で抜けるだけの符を全部抜きつつ、スズリを庇っているマームの前に飛び出した。
「間に合えっ!」
左手のディーラーシールドで体を庇いながら『瑞鳥符』を発動。
銃弾は召喚された光の鳥を貫き、盾に命中。カァンと甲高い音を立てて跳ね飛ばした。
しかし賊Cが発砲したのと同時に賊Bも迫っており、突き出された短剣が保の左肩に突き刺さる。
「くぅ!」
保は痛みで顔を歪ませながらも右手の符に意識を集中する。
(こいつらは恐らく店内の物を盗んでいる)
盗品の事を考慮し、下半身を狙って『五色光符陣』を発動。
店内手前に展開された結界内に光が満ちる。
賊Cは間一髪避けたが、残る2人には光が降り注いた。
「ギャーー!!」
高熱の光で下半身を焼き焦がされた賊達が絶叫を上げる。
「足がぁー! 足があぁぁっ!!」
倒れて身悶える賊は自分の下半身の状態を確認しようとするが目が眩んでいて見えない。
だが見えなくて幸いだったかもしれない。
なぜなら下半身は焼け爛れて酷い有様になっていたからだ。
「あたしは奥のを追うからメンカルは窓の奴を頼んだ!」
2人の賊が無力化された隙にリコが裏口に走る。
本当は裏口近くに居た賊Eが外に出る前に自分が先に外に出てドアを閉めるつもりだった。
しかし入り口にいたリコが移動系スキルも使わず裏口近くにいた賊Eより先に裏口から出る事など到底不可能だった。
「てめぇ!! よくも仲間をっ!!」
仲間の惨状に激昂した賊Cが拳銃を保に向ける。
「因果応報じゃろうが」
しかし撃つ前にアルマが『刺突一閃』放ち、バスタードソード「フォルティス」で賊Cの大腿部を貫く。
脚から力の抜けた賊Cが膝をつき、照準がズレて放たれた弾丸は完全に外れて壁に穴を穿つ。
「くそっ!」
賊Cは標的をアルマに変え、拳銃を向ける。
アルマはバスターソードを離すと銃身を手で反らしつつ賊Cの懐に潜り込んだ。
「こういう時は体が小さいと便利じゃの」
そして掌底を賊Cの顎に叩き込む。
「ぐはっ……」
頭を縦に揺らされた賊Cは脳震盪を起こし、仰向けに倒れた。
「もう大丈夫じゃ。怪我はないかの?」
「はい。わたくしもスズリ様も無事です。本当にありがとうございます!」
マームが心底安堵した様子でアルマに感謝を述べる。
「こ、こ、ここ殺しちゃたんですか?」
しかしスズリは顔面蒼白で激しく動揺していた。
「いや、手加減したからの。アルマのやった奴は生きとるよ」
「こちらもまだ生きてますよ」
『五色光符陣』を喰らった2人の様子を見た保が言う。
(今はまだの)
しかしアルマには分かっていた。下半身全体に重度の火傷を負ってはもう助からないと。
「そうですか、よかった……」
それを知らないスズリは安堵するが、顔色はまだ悪い。
なぜなら室内には人の肉の焼ける嫌な匂いが立ち込めていたからだ。
「スズリ様。外に出ましょう」
マームがスズリを介抱しながら店の外に出る。
(スズリさんは人が死ぬ所を見た事がなかったのか……)
鬼族である保の生まれ故郷は歪虚の占領下だった土地柄か、死はそれ程珍しいものではなかった。
しかし辺境とはいえ一部族の族長の娘であるスズリにとって、人が人を殺す光景など滅多にある事ではない。
「乙女に対する配慮が成っとらんの」
アルマが肘で保を小突く。
「ま、2人を守る事を優先するため手加減しなかったんじゃろうが、お主の力量なら殺さずに済ます事もできたのではないか?」
それから2人は店主と店内の様子を見た。
「店主は重傷ですが生きてますね」
保はすぐ店主の治療にとりかかる。
「じゃが儀礼冠らしき物が見つからん。逃げた賊の誰かが持っとる可能性が高いの。追った者が上手く捕まえてくれれば良いが……」
一方、メンカルは窓から逃げた賊Dに『ランアウト』で一気に迫って捕らえようとしていた。
しかし賊Dが細い路地に逃げ込んだため、寸でのところで取り逃がしてしまう。
「逃さん!」
メンカルは『隠の徒』で気配を消すと『壁歩き』で建物の上に登り、高所から賊Dを探す。
(……いた!)
メンカルはすぐに屋根伝いに『ランアウト』で追跡を始めた。
本当は『隠の徒』も使って気配を消しながら追いたかったのだが、『ランアウト』と『隠の徒』を同時使用すると走る事がおぼつかなくなる。
それに『隠の徒』は全力疾走すると効果が解けてしまう。
なので気配を消すのは諦めるしかなかった。
賊Dは曲がりくねった路地を走りながら急に路地を変えたりしている。
(土地勘があるらしいな)
地上を走って追っていたら撒かれていたかもしれない。
だが屋根の上からなら賊Dの位置を捉えるのは容易だった。
そして追いついたメンカルは屋根から跳び、賊Dを背後から奇襲した。
狙うは後頭部。
(峰打ちで昏倒させる!)
しかし賊Dは何かが屋根を走る音に気づいており、それが自分に向かって来るなら追手だという事も分かっていた。
だからメンカルが奇襲してきた瞬間振り返り、拳銃を発泡した。
(なに!?)
跳躍中のメンカルは避けられず、着弾の痛みと衝撃が体を突き抜ける。
「ぐぅ!」
それでもメンカルは痛みは無視して竜尾刀「ディモルダクス」で斬りかかった。
だが賊Dには短剣で受け止められてしまう。
「屋根の上を追って来たのは名案だが、詰めが甘めぇよ」
鍔迫り合いをしながら賊Dが不敵に笑う。
「もう逃げないのか?」
「手負い相手に逃げる必要ないっしょ」
賊Dが馬鹿にした様子でヘラヘラ笑うが、メンカルにとっては好都合だった。
「……そうか」
メンカルは『ランアウト』を発動。
増強された脚力で地面を踏み、その衝撃による反動を腕まで伝えて刀を振り上げる。
強烈な斬撃で短剣ごと賊Dの左腕が跳ね上げられ、衝撃で短剣が宙を飛ぶ。
「へ?」
何が起こったのか分からない賊Dは間抜け面で左腕を真上に上げさせられた。
すかさずガラ空きの左脇腹を狙って刀を薙ぎ払う。
「ひっ!」
賊Dの顔が恐怖に引き攣り、逃げようとするがもう遅い。
刃の峰が脇腹を殴打。刀を通して肋骨の折れる感触が伝わってくる。
「ぐえぇぇ!!」
賊Dが痛みで体をくの字に曲げる。
そうして下がった頭を更に殴打し、昏倒させた。
「手負いだろうと真っ向勝負なら負けはせん」
メンカルは賊Dを捕縛すると魔導短伝話で仲間に連絡を取った。
「片付いたぞ」
すると店の賊も片付いたが儀礼冠がない事を告げられる。
賊Dの持ち物を探ったが見つからない。
「全く、要らん手間を……ふむ。折角だ、悪戯に付き合って貰おうか」
メンカルは悪い顔をして笑った。
その頃、リコは裏口から逃げた賊Eと賊Fを追っていた。
「待ちやがれ!」
リコはまだ距離の近い賊Eにスラッシュアンカーを向け、錨を発射した。
「ぐわっ! いってぇーー!!」
錨は背中に命中したが倒せるだけのダメージはなく、賊Eは背中から錨を抜くと大通りに向かって駆けた。
「殺される! 助けてくれぇー!」
そして声の限り叫ぶ。
大通りに居た者達が賊Eを見る。
続いて武器を持って追っているリコも見た。
(チッ! これじゃあこっちが悪者じゃねーか。だがな。世の中の半分は味方にできる上に加害者になるのも頷けるっつー魔法の言葉があるんだ)
リコは大きく息を吸って叫ぶ。
「待ちやがれ、この強姦魔っ!!」
「なにぃい!!」
賊Eの顔が驚愕で歪む。
もちろん嘘なのだがホントの事情は二の次である。
大通りの者達は再び賊Eを見た。
「ち、違う! 俺はそんな事してねぇ!!」
「あたしのダチをキズモノにして逃げられると思うんじゃねえぞ!!」
賊Eとリコが言い争うが、動揺しているのは明らかに賊Eの方だった。
それを見た大通りの者達は状況を想像し、導き出した結論は『男の方が有罪』であった。
「ふてぇ野郎だ!」
「このクズ野郎!」
「女の敵っ!」
「叩きのめしてやるっ!」
この町には正義感溢れる住人が多いのか怒りを露わにした人が次々と集まってくる。
「待ってくれ! 俺は本当に強姦なんてしてねぇ!!」
逃げ道を断たれた賊Eは必死に弁解しようとするが、本当の事も言えないのでしどろもどろだ。
「言い訳は牢獄でやりやがれぇー!!」
賊Dに追いついたリコは地面を蹴って跳び、『アルケミックパワー』を上乗せした飛び蹴りを放つ。
「かはっ!」
背中に蹴りを喰らった賊Eは背中が折れそうな程の衝撃で吹っ飛び、うつ伏せに倒れた。
「今だ捕まえろ!」
「神妙にしやがれ!」
「警ら隊に突き出してやる!」
そこを町の住人が取り押さえた。
「皆さん、どうもー。ご協力感謝ー」
リコは嘘をついている事にやや後ろめたさを感じつつも礼を言って回る。
「ところで強姦魔はもう1人いるんだが、誰か見ねーか? こいつと同じ格好してるんだけど」
「おい、誰か見たか?」
「いや、見てないな」
「探すぞ」
「おぅ!」
住人が何人か協力してくれたものの、賊Fは探し出す事ができなかった。
「チクショー! 逃げられたぁ!!」
叫ぶリコの元に警ら隊がやってくる。
「強姦魔の件で被害者のお友達に事情を聞きたいのですが、どこにおられますか?」
「え~と……」
それからリコは事情説明に苦慮したのであった。
メンカルは捕縛した賊Dを連れて宝石店に戻ってきた。
そして逃げた賊の行方を聞き出すため、賊Dに活を入れて起こす。
「ぅ……ん?」
目覚めた賊Dの目に、頭程の大きさの何かが入った布袋を持つメンカルの姿が映る。
布袋からは真っ赤な液が滴っており、メンカルの手や服も赤く汚れていた。
「ひっ!」
賊Dの顔が恐怖に染まる。
「お前だけが無事な理由は分かるな? 仲間の居場所は何処だ?」
「ひでぇ……俺らは殺しまではやってねぇってのに……」
「いいから吐くのか吐かないのか決めろ」
「……」
「素直にならんなら仕方ない。もう一つ首が必要か」
メンカルが見せつけるようにゆっくり刀を抜く。
「……み、港だ」
「港の何処だ?」
「商船の一つが俺らのアジトだ」
「そうか」
メンカルは満足気な様子で刀を鞘に戻す。
「だが船には何十人も仲間がいる。お前らだけじゃどーしようもねーよ! ざまーみろ!」
「それはこちらで判断する。これは礼だ」
メンカルは賊Dの膝の上に布袋を放った。
すると布が解けて割れたスイカが転がり出てくる。
「な! てめぇ! だましやがったなっ!」
「無益な殺生は好かんからな」
メンカルはしれっとした顔で答えた。
「さて、どうするのじゃ? この人数で攻め込むわけにもいくまい」
「そうですね……」
「やるなら余程の策を練らねばな……」
アルマ、保、メンカルが頭を悩ませる。
「いやぁ~……警ら隊に説明するのに時間掛かっちまったぜ」
そこにリコがふらっと戻ってきた。
「スズリ。はいコレ」
そしてひょいっと儀礼冠をスズリに手渡す。
「ん?」
「え?」
「あ……」
3人が呆気にとられる。
どうやら儀礼冠はリコが捕まえた賊Eが持っていたようだ。
しかし賊Fの盗んだ物はどうするかという問題が残っている。
「町の警ら隊にお任せしましょう。これ以上皆さんに危険な事をお願いできません」
「ま、儀礼冠は取り戻せておるしの」
「依頼主がそう言うなら依存ない」
「そこまではビズの契約に入ってないしな」
「僕もそれで構いません」
スズリの提案に4人も異論はなく、香辛料を探しを行う事となった。
「にしてもカレーか。レトルトなら手軽だぜ?」
「それはリアルブルー出身者らしい意見だな。レトルトカレーはサルヴァトーレ・ロッソからの流出品としてしか手に入らない。この辺境では香辛料を手に入れる以上に難しいだろう」
リコの思いつきにメンカルが講釈を入れる。
それから6人で町のアチコチを歩き回り、どうにか香辛料を手に入れた。
「皆さん、今日は本当にありがとうございました。簡単な買い物のはずがとんでもない事に巻き込んでしまって申し訳ないです」
「気にしなくてよいぞ」
「それより兄貴のお節介が功を奏したのが驚きだぜ」
頭を下げるスズリにアルマは手を振り、リコは苦笑を浮かべる。
(弟ならハグを要求しただろうな)
メンカルは胸の内で弟の事を思った。
「保さん肩は大丈夫ですか? 私達を庇って刺されたんですよね。すみません……」
保は自分が鬼族である事と今日の行いでスズリに恐れられたかもしれないと危惧していたが、どうやら杞憂だったらしい。
「このくらいの傷は日常茶飯事ですから、平気です」
こうしてハンター達の仕事は終わり、屋敷に戻ったスズリは早速カレーを作り始めた。
「父様。今日の夕飯はカレーよ♪」
そして嬉々として夕飯で振る舞ったが、父のヴィブは渋い顔をしていた。
なぜなら出された料理は、香辛料と野菜と肉をただ煮込んだだけの物だったからだ。
「スズリ。非常に言いづらいのだが……これはカレーではない」
「え?」
「カレーは香辛料を粉にして調合したものを使わなくてはいけないんじゃ」
「ご、ごめんなさい父様。私知らなくて……」
スズリは家族や一緒に探してくれたハンター達に申し訳ない気持ちになり、涙を滲ませた。
「気にするなスズリ! これはこれで美味い!」
「えぇ、本当に美味しいですよ」
2人の兄が構わず煮込み料理を食べる。
「ワシも美味いと思うが、今度は一緒に作ろうな。その方がきっと美味い」
「うん♪」
ヴィブに撫でられたスズリに笑顔が戻ってきた。
(確かに過保護な兄貴だな)
この光景を見たメンカル(ka5338)はそう思った。
(だが気持ちは解る)
メンカルにも下に双子の弟と妹がいる。
スズリの兄のヴィオルも妹を愛しているが故に心配でならないのだろう。
そんな事を考えている内に宝石店に到着し、スズリとマーム、リコ・ブジャルド(ka6450)と保・はじめ(ka5800)が店内に入ってゆく。
その直後。
「スズリ様!」
「強盗だ! 数は6人。2人店の奥の裏口から、1人は窓から逃げた!」
マームの悲鳴とリムの声が響き、ガラスの割れる音がする。
メンカルが店の横を覗くと、ガラス片の上に立つ男が走り出していた。
「武器は短剣と拳銃うわっ!」
店内のリムは更に詳しく伝えようとしたが、その最中に賊Aが短剣で斬りかかってきたため中断された。
短剣が顔面を狙って薙ぎ払われたが、身を反らして辛くも避ける。
「アルマさん2人を守って!」
同じく店内にいた保が店外にいるアルマ(ka3330)に頼む。
まだ状況をよく分かっていないアルマだが、賊が銃を持っている事は分かっている。
そして護衛対象の2人を銃から守る方法として咄嗟に思いついたのが『足にロープを掛けて転倒させる事』だった。
しかしアルマが荷物からロープを取り出したところで店内から発砲音がした。
今からロープを引っ掛けていたのでは間に合わない。
保は右手で抜けるだけの符を全部抜きつつ、スズリを庇っているマームの前に飛び出した。
「間に合えっ!」
左手のディーラーシールドで体を庇いながら『瑞鳥符』を発動。
銃弾は召喚された光の鳥を貫き、盾に命中。カァンと甲高い音を立てて跳ね飛ばした。
しかし賊Cが発砲したのと同時に賊Bも迫っており、突き出された短剣が保の左肩に突き刺さる。
「くぅ!」
保は痛みで顔を歪ませながらも右手の符に意識を集中する。
(こいつらは恐らく店内の物を盗んでいる)
盗品の事を考慮し、下半身を狙って『五色光符陣』を発動。
店内手前に展開された結界内に光が満ちる。
賊Cは間一髪避けたが、残る2人には光が降り注いた。
「ギャーー!!」
高熱の光で下半身を焼き焦がされた賊達が絶叫を上げる。
「足がぁー! 足があぁぁっ!!」
倒れて身悶える賊は自分の下半身の状態を確認しようとするが目が眩んでいて見えない。
だが見えなくて幸いだったかもしれない。
なぜなら下半身は焼け爛れて酷い有様になっていたからだ。
「あたしは奥のを追うからメンカルは窓の奴を頼んだ!」
2人の賊が無力化された隙にリコが裏口に走る。
本当は裏口近くに居た賊Eが外に出る前に自分が先に外に出てドアを閉めるつもりだった。
しかし入り口にいたリコが移動系スキルも使わず裏口近くにいた賊Eより先に裏口から出る事など到底不可能だった。
「てめぇ!! よくも仲間をっ!!」
仲間の惨状に激昂した賊Cが拳銃を保に向ける。
「因果応報じゃろうが」
しかし撃つ前にアルマが『刺突一閃』放ち、バスタードソード「フォルティス」で賊Cの大腿部を貫く。
脚から力の抜けた賊Cが膝をつき、照準がズレて放たれた弾丸は完全に外れて壁に穴を穿つ。
「くそっ!」
賊Cは標的をアルマに変え、拳銃を向ける。
アルマはバスターソードを離すと銃身を手で反らしつつ賊Cの懐に潜り込んだ。
「こういう時は体が小さいと便利じゃの」
そして掌底を賊Cの顎に叩き込む。
「ぐはっ……」
頭を縦に揺らされた賊Cは脳震盪を起こし、仰向けに倒れた。
「もう大丈夫じゃ。怪我はないかの?」
「はい。わたくしもスズリ様も無事です。本当にありがとうございます!」
マームが心底安堵した様子でアルマに感謝を述べる。
「こ、こ、ここ殺しちゃたんですか?」
しかしスズリは顔面蒼白で激しく動揺していた。
「いや、手加減したからの。アルマのやった奴は生きとるよ」
「こちらもまだ生きてますよ」
『五色光符陣』を喰らった2人の様子を見た保が言う。
(今はまだの)
しかしアルマには分かっていた。下半身全体に重度の火傷を負ってはもう助からないと。
「そうですか、よかった……」
それを知らないスズリは安堵するが、顔色はまだ悪い。
なぜなら室内には人の肉の焼ける嫌な匂いが立ち込めていたからだ。
「スズリ様。外に出ましょう」
マームがスズリを介抱しながら店の外に出る。
(スズリさんは人が死ぬ所を見た事がなかったのか……)
鬼族である保の生まれ故郷は歪虚の占領下だった土地柄か、死はそれ程珍しいものではなかった。
しかし辺境とはいえ一部族の族長の娘であるスズリにとって、人が人を殺す光景など滅多にある事ではない。
「乙女に対する配慮が成っとらんの」
アルマが肘で保を小突く。
「ま、2人を守る事を優先するため手加減しなかったんじゃろうが、お主の力量なら殺さずに済ます事もできたのではないか?」
それから2人は店主と店内の様子を見た。
「店主は重傷ですが生きてますね」
保はすぐ店主の治療にとりかかる。
「じゃが儀礼冠らしき物が見つからん。逃げた賊の誰かが持っとる可能性が高いの。追った者が上手く捕まえてくれれば良いが……」
一方、メンカルは窓から逃げた賊Dに『ランアウト』で一気に迫って捕らえようとしていた。
しかし賊Dが細い路地に逃げ込んだため、寸でのところで取り逃がしてしまう。
「逃さん!」
メンカルは『隠の徒』で気配を消すと『壁歩き』で建物の上に登り、高所から賊Dを探す。
(……いた!)
メンカルはすぐに屋根伝いに『ランアウト』で追跡を始めた。
本当は『隠の徒』も使って気配を消しながら追いたかったのだが、『ランアウト』と『隠の徒』を同時使用すると走る事がおぼつかなくなる。
それに『隠の徒』は全力疾走すると効果が解けてしまう。
なので気配を消すのは諦めるしかなかった。
賊Dは曲がりくねった路地を走りながら急に路地を変えたりしている。
(土地勘があるらしいな)
地上を走って追っていたら撒かれていたかもしれない。
だが屋根の上からなら賊Dの位置を捉えるのは容易だった。
そして追いついたメンカルは屋根から跳び、賊Dを背後から奇襲した。
狙うは後頭部。
(峰打ちで昏倒させる!)
しかし賊Dは何かが屋根を走る音に気づいており、それが自分に向かって来るなら追手だという事も分かっていた。
だからメンカルが奇襲してきた瞬間振り返り、拳銃を発泡した。
(なに!?)
跳躍中のメンカルは避けられず、着弾の痛みと衝撃が体を突き抜ける。
「ぐぅ!」
それでもメンカルは痛みは無視して竜尾刀「ディモルダクス」で斬りかかった。
だが賊Dには短剣で受け止められてしまう。
「屋根の上を追って来たのは名案だが、詰めが甘めぇよ」
鍔迫り合いをしながら賊Dが不敵に笑う。
「もう逃げないのか?」
「手負い相手に逃げる必要ないっしょ」
賊Dが馬鹿にした様子でヘラヘラ笑うが、メンカルにとっては好都合だった。
「……そうか」
メンカルは『ランアウト』を発動。
増強された脚力で地面を踏み、その衝撃による反動を腕まで伝えて刀を振り上げる。
強烈な斬撃で短剣ごと賊Dの左腕が跳ね上げられ、衝撃で短剣が宙を飛ぶ。
「へ?」
何が起こったのか分からない賊Dは間抜け面で左腕を真上に上げさせられた。
すかさずガラ空きの左脇腹を狙って刀を薙ぎ払う。
「ひっ!」
賊Dの顔が恐怖に引き攣り、逃げようとするがもう遅い。
刃の峰が脇腹を殴打。刀を通して肋骨の折れる感触が伝わってくる。
「ぐえぇぇ!!」
賊Dが痛みで体をくの字に曲げる。
そうして下がった頭を更に殴打し、昏倒させた。
「手負いだろうと真っ向勝負なら負けはせん」
メンカルは賊Dを捕縛すると魔導短伝話で仲間に連絡を取った。
「片付いたぞ」
すると店の賊も片付いたが儀礼冠がない事を告げられる。
賊Dの持ち物を探ったが見つからない。
「全く、要らん手間を……ふむ。折角だ、悪戯に付き合って貰おうか」
メンカルは悪い顔をして笑った。
その頃、リコは裏口から逃げた賊Eと賊Fを追っていた。
「待ちやがれ!」
リコはまだ距離の近い賊Eにスラッシュアンカーを向け、錨を発射した。
「ぐわっ! いってぇーー!!」
錨は背中に命中したが倒せるだけのダメージはなく、賊Eは背中から錨を抜くと大通りに向かって駆けた。
「殺される! 助けてくれぇー!」
そして声の限り叫ぶ。
大通りに居た者達が賊Eを見る。
続いて武器を持って追っているリコも見た。
(チッ! これじゃあこっちが悪者じゃねーか。だがな。世の中の半分は味方にできる上に加害者になるのも頷けるっつー魔法の言葉があるんだ)
リコは大きく息を吸って叫ぶ。
「待ちやがれ、この強姦魔っ!!」
「なにぃい!!」
賊Eの顔が驚愕で歪む。
もちろん嘘なのだがホントの事情は二の次である。
大通りの者達は再び賊Eを見た。
「ち、違う! 俺はそんな事してねぇ!!」
「あたしのダチをキズモノにして逃げられると思うんじゃねえぞ!!」
賊Eとリコが言い争うが、動揺しているのは明らかに賊Eの方だった。
それを見た大通りの者達は状況を想像し、導き出した結論は『男の方が有罪』であった。
「ふてぇ野郎だ!」
「このクズ野郎!」
「女の敵っ!」
「叩きのめしてやるっ!」
この町には正義感溢れる住人が多いのか怒りを露わにした人が次々と集まってくる。
「待ってくれ! 俺は本当に強姦なんてしてねぇ!!」
逃げ道を断たれた賊Eは必死に弁解しようとするが、本当の事も言えないのでしどろもどろだ。
「言い訳は牢獄でやりやがれぇー!!」
賊Dに追いついたリコは地面を蹴って跳び、『アルケミックパワー』を上乗せした飛び蹴りを放つ。
「かはっ!」
背中に蹴りを喰らった賊Eは背中が折れそうな程の衝撃で吹っ飛び、うつ伏せに倒れた。
「今だ捕まえろ!」
「神妙にしやがれ!」
「警ら隊に突き出してやる!」
そこを町の住人が取り押さえた。
「皆さん、どうもー。ご協力感謝ー」
リコは嘘をついている事にやや後ろめたさを感じつつも礼を言って回る。
「ところで強姦魔はもう1人いるんだが、誰か見ねーか? こいつと同じ格好してるんだけど」
「おい、誰か見たか?」
「いや、見てないな」
「探すぞ」
「おぅ!」
住人が何人か協力してくれたものの、賊Fは探し出す事ができなかった。
「チクショー! 逃げられたぁ!!」
叫ぶリコの元に警ら隊がやってくる。
「強姦魔の件で被害者のお友達に事情を聞きたいのですが、どこにおられますか?」
「え~と……」
それからリコは事情説明に苦慮したのであった。
メンカルは捕縛した賊Dを連れて宝石店に戻ってきた。
そして逃げた賊の行方を聞き出すため、賊Dに活を入れて起こす。
「ぅ……ん?」
目覚めた賊Dの目に、頭程の大きさの何かが入った布袋を持つメンカルの姿が映る。
布袋からは真っ赤な液が滴っており、メンカルの手や服も赤く汚れていた。
「ひっ!」
賊Dの顔が恐怖に染まる。
「お前だけが無事な理由は分かるな? 仲間の居場所は何処だ?」
「ひでぇ……俺らは殺しまではやってねぇってのに……」
「いいから吐くのか吐かないのか決めろ」
「……」
「素直にならんなら仕方ない。もう一つ首が必要か」
メンカルが見せつけるようにゆっくり刀を抜く。
「……み、港だ」
「港の何処だ?」
「商船の一つが俺らのアジトだ」
「そうか」
メンカルは満足気な様子で刀を鞘に戻す。
「だが船には何十人も仲間がいる。お前らだけじゃどーしようもねーよ! ざまーみろ!」
「それはこちらで判断する。これは礼だ」
メンカルは賊Dの膝の上に布袋を放った。
すると布が解けて割れたスイカが転がり出てくる。
「な! てめぇ! だましやがったなっ!」
「無益な殺生は好かんからな」
メンカルはしれっとした顔で答えた。
「さて、どうするのじゃ? この人数で攻め込むわけにもいくまい」
「そうですね……」
「やるなら余程の策を練らねばな……」
アルマ、保、メンカルが頭を悩ませる。
「いやぁ~……警ら隊に説明するのに時間掛かっちまったぜ」
そこにリコがふらっと戻ってきた。
「スズリ。はいコレ」
そしてひょいっと儀礼冠をスズリに手渡す。
「ん?」
「え?」
「あ……」
3人が呆気にとられる。
どうやら儀礼冠はリコが捕まえた賊Eが持っていたようだ。
しかし賊Fの盗んだ物はどうするかという問題が残っている。
「町の警ら隊にお任せしましょう。これ以上皆さんに危険な事をお願いできません」
「ま、儀礼冠は取り戻せておるしの」
「依頼主がそう言うなら依存ない」
「そこまではビズの契約に入ってないしな」
「僕もそれで構いません」
スズリの提案に4人も異論はなく、香辛料を探しを行う事となった。
「にしてもカレーか。レトルトなら手軽だぜ?」
「それはリアルブルー出身者らしい意見だな。レトルトカレーはサルヴァトーレ・ロッソからの流出品としてしか手に入らない。この辺境では香辛料を手に入れる以上に難しいだろう」
リコの思いつきにメンカルが講釈を入れる。
それから6人で町のアチコチを歩き回り、どうにか香辛料を手に入れた。
「皆さん、今日は本当にありがとうございました。簡単な買い物のはずがとんでもない事に巻き込んでしまって申し訳ないです」
「気にしなくてよいぞ」
「それより兄貴のお節介が功を奏したのが驚きだぜ」
頭を下げるスズリにアルマは手を振り、リコは苦笑を浮かべる。
(弟ならハグを要求しただろうな)
メンカルは胸の内で弟の事を思った。
「保さん肩は大丈夫ですか? 私達を庇って刺されたんですよね。すみません……」
保は自分が鬼族である事と今日の行いでスズリに恐れられたかもしれないと危惧していたが、どうやら杞憂だったらしい。
「このくらいの傷は日常茶飯事ですから、平気です」
こうしてハンター達の仕事は終わり、屋敷に戻ったスズリは早速カレーを作り始めた。
「父様。今日の夕飯はカレーよ♪」
そして嬉々として夕飯で振る舞ったが、父のヴィブは渋い顔をしていた。
なぜなら出された料理は、香辛料と野菜と肉をただ煮込んだだけの物だったからだ。
「スズリ。非常に言いづらいのだが……これはカレーではない」
「え?」
「カレーは香辛料を粉にして調合したものを使わなくてはいけないんじゃ」
「ご、ごめんなさい父様。私知らなくて……」
スズリは家族や一緒に探してくれたハンター達に申し訳ない気持ちになり、涙を滲ませた。
「気にするなスズリ! これはこれで美味い!」
「えぇ、本当に美味しいですよ」
2人の兄が構わず煮込み料理を食べる。
「ワシも美味いと思うが、今度は一緒に作ろうな。その方がきっと美味い」
「うん♪」
ヴィブに撫でられたスズリに笑顔が戻ってきた。
依頼結果
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相談卓 リコ・ブジャルド(ka6450) 人間(リアルブルー)|20才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/09/26 02:43:59 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/09/25 08:50:17 |