ゲスト
(ka0000)
秋の嵐と植物異変
マスター:紡花雪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/09/26 12:00
- 完成日
- 2016/10/04 00:13
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●秋のヴェルフィオーレ
農耕推進地域『ジェオルジ』——その恵みの多き地域に、ヴェルフィオーレはある。
そこは温暖で一年中過ごしやすく、その地勢を活かして園芸と造園業を生業としている村だ。花と緑を愛し、林業や造園の伝統を重んじつつも、フワラーアレンジメントや植栽の貸し出しなど、都会的な事業にも積極的に取り組むヴェルフィオーレでは、今日も優しい風が花の香りと葉の揺れる音が流れているはずだった。
夏の暑さが下り坂になり、朝晩は涼しいと感じられる気温になってきた。この頃になると、大雨や強い風が吹き荒ぶ日も増えてくる。ヴェルフィオーレの造園家や林業家たちは、それぞれに忙しく秋の嵐を乗り切る手段を講じている。それは、花畑でも見られる光景だ。
多彩な花株を育て咲かせているヴェルフィオーレでは、数年前より新しい事業に乗り出していた。——養蜂である。まだ始めたばかりで採蜜量も多くはないが、村の事業としてはたしかな手応えを感じている。
養蜂にとって、秋の嵐は最大の敵を呼ぶ声になる。スズメバチである。夏の終わりからちらほら姿を見かけるようになる彼らだが、嵐のあとには大軍となって現れることがあるのだ。
●蜜源花畑の異変
「養蜂畑の様子がおかしい」
嵐のあと、そう言いだしたのは、村の壮年部会長でもある世話役のヴィジー・ペルティである。「林業親方」の愛称で親しまれる彼は、養蜂のために広葉樹を整備したり、蜜源となる花畑を用意したりしてきた人物でもある。
「ルシオ、お前は何か気が付かなかったか?」
「そうですね……ここのところ花枯れがところどころで見られていましたが、てっきり、嵐で水捌けが悪くなったせいだとばかり」
養蜂花畑の手入れを行っている青年、ルシオ・アロティーノは、寄せ植えとアレンジメントが得意なヴェルフィオーレ唯一の覚醒者である。
「うむ……もちろん、そのせいもあるだろうが、ミツバチの世話を任せているモレノが言うには、花畑の奥の区画から、黒っぽい紫色の煙が出てきたらしい」
「それは、かなり危険ですね。俺で対処できるものなら構いませんが、雑魔に出てこられるとそうもいかない」
「ああ、嵐でマテリアルのバランスが崩れたか……あの辺りは林を切り拓いて養蜂場にした経緯もある、マテリアルが不安定だったのかもしれん」
「その可能性はありますね。まだ実害が出ていないうちに、片付けないと」
「ああ。すまんがルシオ、ハンターオフィスに事情を説明に行ってもらえんか?」
「わかりました。先に様子を見てから、情報を持って行きます」
「うむ、頼んだぞ」
観光面に弱いヴェルフィオーレにとって、採取精製した蜂蜜による事業は、村の新たな展開を担っている。ルシオは足早に、養蜂花畑に向かうこととなった。
農耕推進地域『ジェオルジ』——その恵みの多き地域に、ヴェルフィオーレはある。
そこは温暖で一年中過ごしやすく、その地勢を活かして園芸と造園業を生業としている村だ。花と緑を愛し、林業や造園の伝統を重んじつつも、フワラーアレンジメントや植栽の貸し出しなど、都会的な事業にも積極的に取り組むヴェルフィオーレでは、今日も優しい風が花の香りと葉の揺れる音が流れているはずだった。
夏の暑さが下り坂になり、朝晩は涼しいと感じられる気温になってきた。この頃になると、大雨や強い風が吹き荒ぶ日も増えてくる。ヴェルフィオーレの造園家や林業家たちは、それぞれに忙しく秋の嵐を乗り切る手段を講じている。それは、花畑でも見られる光景だ。
多彩な花株を育て咲かせているヴェルフィオーレでは、数年前より新しい事業に乗り出していた。——養蜂である。まだ始めたばかりで採蜜量も多くはないが、村の事業としてはたしかな手応えを感じている。
養蜂にとって、秋の嵐は最大の敵を呼ぶ声になる。スズメバチである。夏の終わりからちらほら姿を見かけるようになる彼らだが、嵐のあとには大軍となって現れることがあるのだ。
●蜜源花畑の異変
「養蜂畑の様子がおかしい」
嵐のあと、そう言いだしたのは、村の壮年部会長でもある世話役のヴィジー・ペルティである。「林業親方」の愛称で親しまれる彼は、養蜂のために広葉樹を整備したり、蜜源となる花畑を用意したりしてきた人物でもある。
「ルシオ、お前は何か気が付かなかったか?」
「そうですね……ここのところ花枯れがところどころで見られていましたが、てっきり、嵐で水捌けが悪くなったせいだとばかり」
養蜂花畑の手入れを行っている青年、ルシオ・アロティーノは、寄せ植えとアレンジメントが得意なヴェルフィオーレ唯一の覚醒者である。
「うむ……もちろん、そのせいもあるだろうが、ミツバチの世話を任せているモレノが言うには、花畑の奥の区画から、黒っぽい紫色の煙が出てきたらしい」
「それは、かなり危険ですね。俺で対処できるものなら構いませんが、雑魔に出てこられるとそうもいかない」
「ああ、嵐でマテリアルのバランスが崩れたか……あの辺りは林を切り拓いて養蜂場にした経緯もある、マテリアルが不安定だったのかもしれん」
「その可能性はありますね。まだ実害が出ていないうちに、片付けないと」
「ああ。すまんがルシオ、ハンターオフィスに事情を説明に行ってもらえんか?」
「わかりました。先に様子を見てから、情報を持って行きます」
「うむ、頼んだぞ」
観光面に弱いヴェルフィオーレにとって、採取精製した蜂蜜による事業は、村の新たな展開を担っている。ルシオは足早に、養蜂花畑に向かうこととなった。
リプレイ本文
●ヴェルフィオーレの養蜂花畑
通りすぎた雨が、草花を濡らしていた。
農耕推進地域『ジェオルジ』で、園芸と造園を生業としている村、ヴェルフィオーレ。花と緑の景観鮮やかな土地だが、観光業に弱い一面も持っている。日持ちのする土産として生花は向かないこともあり、数年前より養蜂による蜂蜜作りが試験的に開始された。
依頼解決のためにハンターたちがヴェルフィオーレを訪れたのは、夜通しの雨が止んだあとである。普段のヴェルフィオーレにはない、どこかじっとりとした空気と重たい灰色の空が、この村に起こっている異変を報せているようだった。
「みんな、よろしくおねがいしますにゃ。雑魔がお花を枯らしちゃうなんて。メッなの!」
印象的なオッドアイをしたエルフの少女、アルス・テオ・ルシフィール(ka6245)が、ミツバチを助けるためにと意気込んで仲間たちに声をかけた。
「パティも、お花とミツバチさんのピンチと聞いてオタスケに来たんダヨっ」
元気いっぱいな金髪の少女、パトリシア=K=ポラリス(ka5996)は、その言葉に、被害がこれ以上広がることのないようにと、仲間と協力する決意をにじませていた。
「私は記録する。雑魔化した植物についてを。魔導カメラでその姿を記録しよう。だが、記録してばかりではいられない。ミツバチと養蜂畑を守るために尽力させてもらう」
感情の起伏を感じさせない、淡々とした口調の少女、雨を告げる鳥(ka6258)が言った。エルフの中でも、口伝だけではなく文献による伝承を続ける部族の生まれである彼女は、知識欲が強く、常に正と負のマテリアルの在り方を考察しているのだ。
「ハチミツは守ってみせる! 美味いものばんざい!」
きらきらと目を輝かせているのは、道元 ガンジ(ka6005)である。美味しい食べ物は世界を救うと強く信じている彼は、蜂蜜という貴重な食材が雑魔によって荒らされているのが我慢ならないようだ。
「そ、育ってるわねえ……」
天王寺茜(ka4080)は、案内された養蜂花畑の、あまりに毒々しい花の雑魔の様子に不快感を露わにした。案内役を務めるルシオ・アロティーノから汚染された花を焼却する許可を得て、自身の火属性魔法の使い方と花畑と巣箱の避難について相談をしている。
「花まで化け物とか何でもありだな、この世界……。綺麗な花が可哀想だから、とっとと排除してやらないとね」
リアルブルーで生まれ育ち、転移に巻き込まれてしまったという柄永 和沙(ka6481)は、戦闘はおろか喧嘩の経験もない普通の学生だった。少しの緊張と戸惑いを見せながらも、覚醒者として目の前の異変をしっかりと捉えている。
「――すでに汚染された花は、もう再生できないでしょう。いずれにせよ、焼却するなりしてきれいに土に還さなきゃならないんで、火の魔法は構いません。巣箱とミツバチは、皆さんの指示で俺が避難させます。よろしくお願いします」
同行のルシオ・アロティーノが、ハンターたちに一礼する。
湿った大地を踏みしめながら、ハンターたちは仲間たちとの最終確認と各々の戦闘準備に余念がないようだった。
●毒花との戦い
踏みしめた土と、草が雨に濡れて冷たい。
ハンターたちはそれぞれに意見を交わし、突撃のタイミングを見計らう。
進行の索敵を引き受けるのは、アルスだ。アルスが念じることにより、相棒である虎猫とシンクロして視覚を共有しすることができる。仲間たちの前衛として立ち、周辺の警戒と雑魔の攻撃の発見につとめる。
またパトリシアは、巣箱に符を施した。
「ダイジョウブ、きっと護ってみせるカラ」
陰陽符「降魔結界」には邪なるものを退ける呪文が綴られており、攻撃はできないが災いを撥ね退ける力があるのだ。周囲の花やミツバチへの、もう少しの間待っていてほしいという思いを込めた。
雨を告げる鳥は、ミツバチの巣箱や花を守るため、地の精霊の力を借りて土の壁を作り上げた。そしてルシオに、無事な花と変化が現れ始めている花の境界を見定めるように告げる。
「とにかく俺は前に出るぜ!」
気合いのこもった声を上げたガンジは、回避力を高めるために、地上を高速で移動する動物霊の力を借りて血色の刃の戦斧を構えた。敵を切り倒して進む気迫に溢れている。
汚染された草花の上に道を切り拓くのは、茜の役目だ。茜はマテリアルを集中させて、炎の力を宿した破壊エネルギーを噴射する。その方向や位置は、さきほどルシオと相談したとおりだ。
「それじゃ前に出る人、お願いっ」
茜から声がかかり、和沙はレシオンワイヤーをしっかりと構えて前に出る。警戒しながら、仲間たちを援護する体勢を整えていた。そして、ひときわ巨大化して毒々しい花――雑魔の本体と思われる目標へ、マテリアルを込めて移動力を上昇させ、素早い動きで詰め寄る。粘液攻撃には充分に注意し、洗練された動きで一撃を振り抜いた。
和沙のワイヤーでの一撃を受けた毒花は、柔らかくも弾力をもって撥ねるようにしなって反射的に毒性の粘液を撒き散らす。じゅわっと不快な音を立て、粘液を浴びた花が黒く萎れて枯れていく。
弾んだ毒々しい花が、葉をピンと伸ばして開く。開かれた葉はギザギザとノコギリのように尖っている。茎と葉を小刻みに震わせると、どこからかつむじ風が発生した。
ヴィィィン、と空気を裂くように風が唸り、ギザギザ葉がハンターたちに襲いかかる。
前に飛び出したのは、茜だ。茜はマテリアルを光の防御壁として変成し、飛ばされてきたギザギザ葉を受け止めた。だが、突出して切り込んでいたガンジにまで防御壁が届かず、流れてきたギザギザ葉が彼の脚に小さな裂傷を複数残す。
「葉っぱカッター! ガンジちゃん、大丈夫かにゃ!?」
アルスの心配を他所に、ガンジは気力に満ちた表情で毒花に向かい合っている。アルスは野生の動物霊の力を自身に宿らせて、聴覚を鋭敏に上昇させた。風の流れ、毒花が放つ粘液の音を聞き分け、次の攻撃をする。
「次の……毒粘液がくる前に攻撃するにゃん!」
「わかったヨ、アルスちゃん!」
パトリシアは、前衛であるガンジとアルスに符を投げ、大地のマテリアルの流れを通わせて彼らの戦闘力を底上げする。パトリシアは、ヴェルフィオーレの大地のあたたかいエネルギーを感じていた。
その後ろで、雨を告げる鳥は最前線に立つガンジを緑に輝く風で取り巻き、攻撃の軌道をわずかにそらすように魔法を施した。そして他の仲間たちにも風の祝福があるようにと、自然の摂理に語りかける言葉を紡ぐ。そして、ルシオには養蜂の巣箱を見守っていてほしいと告げた。
「いっくぜェ!」
つむじ風のギザギザ葉で負った裂傷など物ともせず、ガンジは素早い身のこなしで、身長よりも大きな戦斧を振るって毒花の茎に叩き込んだ。普通の花であればスパンと切れてしまいそうなものだが、雑魔化で強化されたそれは一度では斬り飛ばせないらしい。
軽やかなステップで一度後退した和沙は、毒花の動きをよく観察していた。かつて和沙が暮らしていた世界では剣や銃の所持が許されていなかったこともあり、こうした戦闘はとても新鮮に感じられる。粘液で濡れた大地を避けながら、ワイヤーでの攻撃を毒花に繰り出していた。
毒花は不気味にうごめく。ギザギザ葉を畳んで、次の攻撃に備えているように見えた。
●毒花よ、大地に散れ
毒花が小さく震える。花綸をもたげて茎をしならせたかと思うと、アルスがさきほど察知したとおり、毒の粘液を扇状に撒き散らした。だがすでに回避体勢を整えていたハンターたちには届かず、大地の草を溶かしただけだった。
広範囲に毒の粘液が撒き散らされていることもあり、ハンターたちの足場も次第に悪くなっていく。だが、アルスは動物霊の力で嗅覚を大幅に上昇させ、毒の粘液のにおいを花の香りを嗅ぎ分ける。そして、毒のにおいの薄いほうを指し示し、仲間たちを誘導した。
パトリシアは毒花を焼き払おうと、符に火の精霊力を付与する。周囲の花を巻き込まないようにしっかり真っ直ぐに狙いを定め、毒花に火炎を撃ち放った。魔法の火炎は、生花である雑魔をも容赦なく焼き焦がす。
雨を告げる鳥は推測する。植物の雑魔――すなわち、土属性の可能性が高いのでは、と。雨を告げる鳥は、パトリシアが撃ち放った火炎を煽るように鋭い風を放ち、毒花の葉を切り裂いて落とした。
最後の攻撃に向けて、ガンジは更に気合いを込める。
「迅速に片付けるぜ!」
草地を駆け、戦斧を振るい、切り口が深くなるように切り込んだ。
その攻撃に合わせ、茜も装備したナックルにマテリアルを注ぎ込む。手首部分に大型のシリンダーが取り付けられたナックルは、茜がマテリアルを込めたことで威力が増大する。そしてマテリアルから変換されたエネルギーは、一条の光となって毒花へと放たれた。
その光が弾けた直後、和沙が移動力を高めて素早い動きで毒花に迫り、力強く振るったワイヤーウィップで毒花の頭――花綸と茎を切り離すように断ち切った。力を失った毒花はあっというまに萎れ、黒々と変色し、やがてかさかさの粉となって霧散した。
●蜂蜜のお味は?
さきほどまでのどんよりとした空気を押し流すように、爽やかな風が養蜂花畑を吹き抜け、空に晴れ間が覗いた。
「変質しちゃったお花はないかにゃ? あれば取り除かにゃいと!」
戦闘のあとは、花畑の手入れだ。アルスは、毒花があった周辺を中心に丁寧に見回り、ときに枯れた花を摘み取っている。ルシオによりミツバチと巣箱の無事が確認されると、とても嬉しそうな表情を見せた。
パトリシアもまた、ルシオと一緒に歪虚化した花が残っていないかと確認して回っていた。また、仲間たちが摘み取った枯れた花をまとめて焼き払うことで、きれいな灰となって土に還れるようにする。
「フィールドワークは好きだ。よければ手伝おう」
雨を告げる鳥は、土を掘り返して調査をしていた。子株や根が残っている可能性を考えたのだ。根本から浄化をするには、土を入れ替えるべきだろうとルシオに提案していた。
ガンジは、野生の動物霊の力で、嗅覚を強化していた。付近に影響を受けている花が無いか念入りに調べるためだ。種子などの飛び散りも、見逃してはいけない。
「他にも後片付け、お手伝いさせてくださいっ」
茜は、自分が焼いた花の一帯を中心に手入れをしていた。ミツバチの世話をしているモレノが運んできた新しい土と入れ替えている。
和沙は、巣箱へミツバチの様子を見に行っていた。ルシオとともにミツバチの無事を確認しつつ、蜂蜜に思いを寄せているようだ。
「蜂蜜とか、もし食べられそうなら少しでもいいから食べてみたいな」
「ああ、そうでした。気が付かなくて申し訳ない。村の広場で、茶と菓子の準備がしてありますよ」
和沙の言葉で思い出したのか、ルシオはハンターたちを村の広場へと案内した。
美しい庭園のように整えられた村の広場にはテーブルが並べられ、奥方たちが茶と菓子の準備をしている。あたりには、甘く華やかな蜂蜜の香りが広がっている。
「あぅ、蜂蜜わけてくれないかなぁ?」
「ええ、あとで瓶詰めを用意しますわ。お気に入りのものがあったら、教えてくださいね」
アルスが奥方に尋ねると、奥方は蜂蜜を垂らした紅茶を持ってきて微笑んだ。
「ふへー、いっぱい動いたら、お腹が空いたんダヨ」
パトリシアも、いい香りと仲間たちの蜂蜜談義に腹の虫を鳴らした。
雨を告げる鳥も、友人たちと味わうことができるよう、持ち帰り用の蜂蜜を希望していた。
「うまい!」
すでに、蜂蜜が乗ったパンケーキを頬張って目を輝かせているのは、ガンジである。
「トーストにお菓子、そして肉料理……!」
茜の頭の中には、さまざまなレシピが思い浮かんでいた。それらの蜂蜜料理を振る舞うと、仲間たちに約束していた。
和沙も蜂蜜の試食して舌鼓を打ち、お土産を頼んでいた。
甘い香りと、とろりとした優しい口当たり。蜂蜜はその栄養価もさながら、ひとびとを笑顔にすることができる食品である。
養蜂花畑の完全再生までは少し時間がかかるかもしれないが、それでもこうして楽しそうに味わってくれるひとびとの笑顔のために、ヴェルフィオーレは養蜂を更に発展させていくに違いない。
通りすぎた雨が、草花を濡らしていた。
農耕推進地域『ジェオルジ』で、園芸と造園を生業としている村、ヴェルフィオーレ。花と緑の景観鮮やかな土地だが、観光業に弱い一面も持っている。日持ちのする土産として生花は向かないこともあり、数年前より養蜂による蜂蜜作りが試験的に開始された。
依頼解決のためにハンターたちがヴェルフィオーレを訪れたのは、夜通しの雨が止んだあとである。普段のヴェルフィオーレにはない、どこかじっとりとした空気と重たい灰色の空が、この村に起こっている異変を報せているようだった。
「みんな、よろしくおねがいしますにゃ。雑魔がお花を枯らしちゃうなんて。メッなの!」
印象的なオッドアイをしたエルフの少女、アルス・テオ・ルシフィール(ka6245)が、ミツバチを助けるためにと意気込んで仲間たちに声をかけた。
「パティも、お花とミツバチさんのピンチと聞いてオタスケに来たんダヨっ」
元気いっぱいな金髪の少女、パトリシア=K=ポラリス(ka5996)は、その言葉に、被害がこれ以上広がることのないようにと、仲間と協力する決意をにじませていた。
「私は記録する。雑魔化した植物についてを。魔導カメラでその姿を記録しよう。だが、記録してばかりではいられない。ミツバチと養蜂畑を守るために尽力させてもらう」
感情の起伏を感じさせない、淡々とした口調の少女、雨を告げる鳥(ka6258)が言った。エルフの中でも、口伝だけではなく文献による伝承を続ける部族の生まれである彼女は、知識欲が強く、常に正と負のマテリアルの在り方を考察しているのだ。
「ハチミツは守ってみせる! 美味いものばんざい!」
きらきらと目を輝かせているのは、道元 ガンジ(ka6005)である。美味しい食べ物は世界を救うと強く信じている彼は、蜂蜜という貴重な食材が雑魔によって荒らされているのが我慢ならないようだ。
「そ、育ってるわねえ……」
天王寺茜(ka4080)は、案内された養蜂花畑の、あまりに毒々しい花の雑魔の様子に不快感を露わにした。案内役を務めるルシオ・アロティーノから汚染された花を焼却する許可を得て、自身の火属性魔法の使い方と花畑と巣箱の避難について相談をしている。
「花まで化け物とか何でもありだな、この世界……。綺麗な花が可哀想だから、とっとと排除してやらないとね」
リアルブルーで生まれ育ち、転移に巻き込まれてしまったという柄永 和沙(ka6481)は、戦闘はおろか喧嘩の経験もない普通の学生だった。少しの緊張と戸惑いを見せながらも、覚醒者として目の前の異変をしっかりと捉えている。
「――すでに汚染された花は、もう再生できないでしょう。いずれにせよ、焼却するなりしてきれいに土に還さなきゃならないんで、火の魔法は構いません。巣箱とミツバチは、皆さんの指示で俺が避難させます。よろしくお願いします」
同行のルシオ・アロティーノが、ハンターたちに一礼する。
湿った大地を踏みしめながら、ハンターたちは仲間たちとの最終確認と各々の戦闘準備に余念がないようだった。
●毒花との戦い
踏みしめた土と、草が雨に濡れて冷たい。
ハンターたちはそれぞれに意見を交わし、突撃のタイミングを見計らう。
進行の索敵を引き受けるのは、アルスだ。アルスが念じることにより、相棒である虎猫とシンクロして視覚を共有しすることができる。仲間たちの前衛として立ち、周辺の警戒と雑魔の攻撃の発見につとめる。
またパトリシアは、巣箱に符を施した。
「ダイジョウブ、きっと護ってみせるカラ」
陰陽符「降魔結界」には邪なるものを退ける呪文が綴られており、攻撃はできないが災いを撥ね退ける力があるのだ。周囲の花やミツバチへの、もう少しの間待っていてほしいという思いを込めた。
雨を告げる鳥は、ミツバチの巣箱や花を守るため、地の精霊の力を借りて土の壁を作り上げた。そしてルシオに、無事な花と変化が現れ始めている花の境界を見定めるように告げる。
「とにかく俺は前に出るぜ!」
気合いのこもった声を上げたガンジは、回避力を高めるために、地上を高速で移動する動物霊の力を借りて血色の刃の戦斧を構えた。敵を切り倒して進む気迫に溢れている。
汚染された草花の上に道を切り拓くのは、茜の役目だ。茜はマテリアルを集中させて、炎の力を宿した破壊エネルギーを噴射する。その方向や位置は、さきほどルシオと相談したとおりだ。
「それじゃ前に出る人、お願いっ」
茜から声がかかり、和沙はレシオンワイヤーをしっかりと構えて前に出る。警戒しながら、仲間たちを援護する体勢を整えていた。そして、ひときわ巨大化して毒々しい花――雑魔の本体と思われる目標へ、マテリアルを込めて移動力を上昇させ、素早い動きで詰め寄る。粘液攻撃には充分に注意し、洗練された動きで一撃を振り抜いた。
和沙のワイヤーでの一撃を受けた毒花は、柔らかくも弾力をもって撥ねるようにしなって反射的に毒性の粘液を撒き散らす。じゅわっと不快な音を立て、粘液を浴びた花が黒く萎れて枯れていく。
弾んだ毒々しい花が、葉をピンと伸ばして開く。開かれた葉はギザギザとノコギリのように尖っている。茎と葉を小刻みに震わせると、どこからかつむじ風が発生した。
ヴィィィン、と空気を裂くように風が唸り、ギザギザ葉がハンターたちに襲いかかる。
前に飛び出したのは、茜だ。茜はマテリアルを光の防御壁として変成し、飛ばされてきたギザギザ葉を受け止めた。だが、突出して切り込んでいたガンジにまで防御壁が届かず、流れてきたギザギザ葉が彼の脚に小さな裂傷を複数残す。
「葉っぱカッター! ガンジちゃん、大丈夫かにゃ!?」
アルスの心配を他所に、ガンジは気力に満ちた表情で毒花に向かい合っている。アルスは野生の動物霊の力を自身に宿らせて、聴覚を鋭敏に上昇させた。風の流れ、毒花が放つ粘液の音を聞き分け、次の攻撃をする。
「次の……毒粘液がくる前に攻撃するにゃん!」
「わかったヨ、アルスちゃん!」
パトリシアは、前衛であるガンジとアルスに符を投げ、大地のマテリアルの流れを通わせて彼らの戦闘力を底上げする。パトリシアは、ヴェルフィオーレの大地のあたたかいエネルギーを感じていた。
その後ろで、雨を告げる鳥は最前線に立つガンジを緑に輝く風で取り巻き、攻撃の軌道をわずかにそらすように魔法を施した。そして他の仲間たちにも風の祝福があるようにと、自然の摂理に語りかける言葉を紡ぐ。そして、ルシオには養蜂の巣箱を見守っていてほしいと告げた。
「いっくぜェ!」
つむじ風のギザギザ葉で負った裂傷など物ともせず、ガンジは素早い身のこなしで、身長よりも大きな戦斧を振るって毒花の茎に叩き込んだ。普通の花であればスパンと切れてしまいそうなものだが、雑魔化で強化されたそれは一度では斬り飛ばせないらしい。
軽やかなステップで一度後退した和沙は、毒花の動きをよく観察していた。かつて和沙が暮らしていた世界では剣や銃の所持が許されていなかったこともあり、こうした戦闘はとても新鮮に感じられる。粘液で濡れた大地を避けながら、ワイヤーでの攻撃を毒花に繰り出していた。
毒花は不気味にうごめく。ギザギザ葉を畳んで、次の攻撃に備えているように見えた。
●毒花よ、大地に散れ
毒花が小さく震える。花綸をもたげて茎をしならせたかと思うと、アルスがさきほど察知したとおり、毒の粘液を扇状に撒き散らした。だがすでに回避体勢を整えていたハンターたちには届かず、大地の草を溶かしただけだった。
広範囲に毒の粘液が撒き散らされていることもあり、ハンターたちの足場も次第に悪くなっていく。だが、アルスは動物霊の力で嗅覚を大幅に上昇させ、毒の粘液のにおいを花の香りを嗅ぎ分ける。そして、毒のにおいの薄いほうを指し示し、仲間たちを誘導した。
パトリシアは毒花を焼き払おうと、符に火の精霊力を付与する。周囲の花を巻き込まないようにしっかり真っ直ぐに狙いを定め、毒花に火炎を撃ち放った。魔法の火炎は、生花である雑魔をも容赦なく焼き焦がす。
雨を告げる鳥は推測する。植物の雑魔――すなわち、土属性の可能性が高いのでは、と。雨を告げる鳥は、パトリシアが撃ち放った火炎を煽るように鋭い風を放ち、毒花の葉を切り裂いて落とした。
最後の攻撃に向けて、ガンジは更に気合いを込める。
「迅速に片付けるぜ!」
草地を駆け、戦斧を振るい、切り口が深くなるように切り込んだ。
その攻撃に合わせ、茜も装備したナックルにマテリアルを注ぎ込む。手首部分に大型のシリンダーが取り付けられたナックルは、茜がマテリアルを込めたことで威力が増大する。そしてマテリアルから変換されたエネルギーは、一条の光となって毒花へと放たれた。
その光が弾けた直後、和沙が移動力を高めて素早い動きで毒花に迫り、力強く振るったワイヤーウィップで毒花の頭――花綸と茎を切り離すように断ち切った。力を失った毒花はあっというまに萎れ、黒々と変色し、やがてかさかさの粉となって霧散した。
●蜂蜜のお味は?
さきほどまでのどんよりとした空気を押し流すように、爽やかな風が養蜂花畑を吹き抜け、空に晴れ間が覗いた。
「変質しちゃったお花はないかにゃ? あれば取り除かにゃいと!」
戦闘のあとは、花畑の手入れだ。アルスは、毒花があった周辺を中心に丁寧に見回り、ときに枯れた花を摘み取っている。ルシオによりミツバチと巣箱の無事が確認されると、とても嬉しそうな表情を見せた。
パトリシアもまた、ルシオと一緒に歪虚化した花が残っていないかと確認して回っていた。また、仲間たちが摘み取った枯れた花をまとめて焼き払うことで、きれいな灰となって土に還れるようにする。
「フィールドワークは好きだ。よければ手伝おう」
雨を告げる鳥は、土を掘り返して調査をしていた。子株や根が残っている可能性を考えたのだ。根本から浄化をするには、土を入れ替えるべきだろうとルシオに提案していた。
ガンジは、野生の動物霊の力で、嗅覚を強化していた。付近に影響を受けている花が無いか念入りに調べるためだ。種子などの飛び散りも、見逃してはいけない。
「他にも後片付け、お手伝いさせてくださいっ」
茜は、自分が焼いた花の一帯を中心に手入れをしていた。ミツバチの世話をしているモレノが運んできた新しい土と入れ替えている。
和沙は、巣箱へミツバチの様子を見に行っていた。ルシオとともにミツバチの無事を確認しつつ、蜂蜜に思いを寄せているようだ。
「蜂蜜とか、もし食べられそうなら少しでもいいから食べてみたいな」
「ああ、そうでした。気が付かなくて申し訳ない。村の広場で、茶と菓子の準備がしてありますよ」
和沙の言葉で思い出したのか、ルシオはハンターたちを村の広場へと案内した。
美しい庭園のように整えられた村の広場にはテーブルが並べられ、奥方たちが茶と菓子の準備をしている。あたりには、甘く華やかな蜂蜜の香りが広がっている。
「あぅ、蜂蜜わけてくれないかなぁ?」
「ええ、あとで瓶詰めを用意しますわ。お気に入りのものがあったら、教えてくださいね」
アルスが奥方に尋ねると、奥方は蜂蜜を垂らした紅茶を持ってきて微笑んだ。
「ふへー、いっぱい動いたら、お腹が空いたんダヨ」
パトリシアも、いい香りと仲間たちの蜂蜜談義に腹の虫を鳴らした。
雨を告げる鳥も、友人たちと味わうことができるよう、持ち帰り用の蜂蜜を希望していた。
「うまい!」
すでに、蜂蜜が乗ったパンケーキを頬張って目を輝かせているのは、ガンジである。
「トーストにお菓子、そして肉料理……!」
茜の頭の中には、さまざまなレシピが思い浮かんでいた。それらの蜂蜜料理を振る舞うと、仲間たちに約束していた。
和沙も蜂蜜の試食して舌鼓を打ち、お土産を頼んでいた。
甘い香りと、とろりとした優しい口当たり。蜂蜜はその栄養価もさながら、ひとびとを笑顔にすることができる食品である。
養蜂花畑の完全再生までは少し時間がかかるかもしれないが、それでもこうして楽しそうに味わってくれるひとびとの笑顔のために、ヴェルフィオーレは養蜂を更に発展させていくに違いない。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 雨を告げる鳥(ka6258) エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/09/25 20:54:34 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/09/23 19:29:07 |