ゲスト
(ka0000)
雑魔の沸く洞窟
マスター:瀬良はひふ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/06/16 12:00
- 完成日
- 2014/06/24 20:49
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ハンターズオフィスで、事務員の一人がハンターらしき人物と話している。
「長城の近くに洞窟があるのは知ってる?」
「どの洞窟のことかは知らないけど、知ってるわ」
「雑魔が出てきたんですって」
「へぇ、大変ね」
さして大変でもなさそうに、ハンターは小さくあくびをしながら応じた。サイドにくくられた金髪が軽く揺れる。
「それでね、エニー、物は相談なんだけど」
「依頼? いいけど」
「話が早くて助かるわ」
事務員はくすりと笑うと、依頼の詳細をハンター、エニー・オイマトに手渡した。
その内容を一読すると、エニーは小首をかしげ、腕を組む。腕の中で、豊かな胸が窮屈そうに形を変えた。
「面倒ね」
「別に、一人でやれ、なんて言ってないわよ」
「……そうね。お仲間でも、集いますか」
しばし考えてから、エニーは頷く。
良い機会だ、と思ったのだ。
「例の、サルヴァなんとかの後で増えた連中、ハンターでしょ?」
「ま、大体はね」
「お手並み拝見、と洒落込みますか」
ニッコリと笑うエニーの姿は、ハンターよりも相応しい職がいくらでもあるように見える。
が、その内面がいわゆるじゃじゃ馬であることは、多少でも付き合いのある者ならば理解している。
だから、付き合いの長いこの事務員は、肩をすくめて苦笑したのだ。
「程々になさいな」
「長城の近くに洞窟があるのは知ってる?」
「どの洞窟のことかは知らないけど、知ってるわ」
「雑魔が出てきたんですって」
「へぇ、大変ね」
さして大変でもなさそうに、ハンターは小さくあくびをしながら応じた。サイドにくくられた金髪が軽く揺れる。
「それでね、エニー、物は相談なんだけど」
「依頼? いいけど」
「話が早くて助かるわ」
事務員はくすりと笑うと、依頼の詳細をハンター、エニー・オイマトに手渡した。
その内容を一読すると、エニーは小首をかしげ、腕を組む。腕の中で、豊かな胸が窮屈そうに形を変えた。
「面倒ね」
「別に、一人でやれ、なんて言ってないわよ」
「……そうね。お仲間でも、集いますか」
しばし考えてから、エニーは頷く。
良い機会だ、と思ったのだ。
「例の、サルヴァなんとかの後で増えた連中、ハンターでしょ?」
「ま、大体はね」
「お手並み拝見、と洒落込みますか」
ニッコリと笑うエニーの姿は、ハンターよりも相応しい職がいくらでもあるように見える。
が、その内面がいわゆるじゃじゃ馬であることは、多少でも付き合いのある者ならば理解している。
だから、付き合いの長いこの事務員は、肩をすくめて苦笑したのだ。
「程々になさいな」
リプレイ本文
●世間は狭い
広いようで狭い世界。歪虚に蝕まれたクリムゾンウェストでは、それは疑いようがない。
その事実を、集合場所であるオフィスの一角に到着したティーア・ズィルバーン(ka0122)は、多少の時間を使って咀嚼した。
そして、少しだけ目を閉じて、よし、と頷くと、シェリア・プラティーン(ka1801)の元へと歩み寄った。
「よぅ、シェリア・プラティーン。いつのまにハンターになったんだい?」
「……ティーアさん!? まさかこんな所で貴方に会うなんて……偶然とは恐ろしいですわ……」
シェリアにしても、ティーアとの遭遇は予想外だったらしい。端正な顔に驚きの色をありありと浮かべている。
「サプライズ、といったところか」
その様子に、Charlotte・V・K(ka0468)が呟く。
かつての知人と同じ戦場に、という経験は彼女にも覚えがある。もっとも、その知人と会う機会は二度とないのだが。
「奇縁、だな。俺には、余り使う機会のなかった言葉だが」
そう言ったのは三船・啓司(ka0732)。
Charlotteが目を向けると、男は小さく会釈を返す。彼女に向けた言葉だったらしい。
「Japanisch?」
「ああ。猟師だ」
「イェーガー。今も昔も、か」
帽子をかぶり直すことを返答として、啓司はふと視線を移す。その先には、彼と同じイェーガー、リンランディア(ka0488)がいた。
エルフの青年は、やはりエルフの少女、メルディア・クロフィール(ka0525)に話しかけている。
「まさか一緒になるとはね。お互い頑張ろう」
「世の中って狭いんだね。頼りにしてるよ」
この二人は同じギルドに所属しており、リンランディアがギルド長、メルディアがその構成員であるようだ。
「戦神のお導きでしょうか。お知り合いが多いようですね」
そう言って微笑んだのは、アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)。
知り合い。
その単語に、ノイン=ジ=ハード(ka1135)は瞳を虚空に彷徨わせた。
家族さえも知らぬ自分にとって、それは酷く縁遠い概念に思える。ちくりと、胸の奥が疼く。覚醒とは別の刺激だ。
「揃ってるようね」
不意に、少女の肩に手が置かれた。反射的に振り向いた先には、見知らぬ女性の顔がある。
「ハロー、って言うんだっけ? エニー・オイマトよ」
「……ノインは、ノイン。エニー、さん」
「さん付けされるの、久々だわ。よろしくね、ノイン」
あはは、と笑いながら、エニーは別の者へと声を掛けにいく。ノインは叩かれた肩に手を当てると、よろしく、と呟いた。
ひとしきり挨拶を終えたハンター達は、まずは情報収集ということで、洞窟から近い場所にある集落へと向かった。
遊牧民のテントが10棟ほど建っているそこでは、家畜を世話する人々と、交易商人らしい人々が会話をしている。
そんな中、エニーが一番大きなテントへと入っていくと、少しして初老の男性を伴って戻ってきた。集落の長であるようだ。
「あなた方が……。ありがとうございます」
「礼を言うのはまだ早いかな? とりあえず、いくつか聞きたいことがある」
Charlotteは少しだけ笑いながら、仲間へと視線を送る。
促されるように、洞窟やその周囲の地形、スライムの情報など、必要と思われる質問が飛んだ。
長はその一つ一つに、時には事情に詳しいものを呼びながら答えていく。
簡単にまとめれば、次のようになる。
洞窟の周囲は草原で、洞窟の入口とは別のところから清水が湧いており、小さな川を作っている。見晴らしは良い。
洞窟自体は、そう深いものではない。一番奥まで往復しても、迷わなければ30分程度だろう。
幅も、複数人が行動するには問題ない程度には広いが、途中でいくつか分岐があるので、そこだけ注意が必要。
スライムについては、動きは鈍いので、近づきさえしなければ危険はない。とはいえ、雑魔には変わりなく、自分達の手には余る。
その他の敵対的な生物は見当たらない。
「……何かきっかけに心当たりはあるか? 例えば、前から変な場所があったとか」
洞窟の構造を地図として起こしていたティーアが、ふとペンを止めて尋ねる。
だが、それについては長に心当たりはないらしい。
「環境的な問題なのか……それとも、スライムの親玉でも住み着いた、かな?」
「その辺りは、実際に確認せねばな」
呟いたリンランディアに、啓司が応じる。
それもそうか、と頷いたエルフの青年は、他に質問がなさそうなことを確認すると、長に礼を述べた。
「この程度の御協力しかできませんが……どうぞ、よろしくお願いします」
「御安心を。雑魔は全て討ち滅ぼして見せますわ! 白金の名の下に」
深々と頭を下げた長に、シェリアが力強く頷いてみせる。
その言葉に、長はようやくホッとしたような微笑を浮かべた。
●スライム(弱)
集落から、およそ1時間半程度の場所に、その洞窟はあった。
小さな岩山から染み出る小川と、それを取り巻く草原。風光明媚と言って差し支えない光景だ。
ただし、蠢くスライムを除けば、の話である。
「情報通り、スライムだけみたいだね」
メルディアが僅かに目を細め、あれ、と呟く。
「情報より、多い?」
「聞いた話だと、3匹だったわね」
特に驚いた様子もなく、エニーが応じた。
「5匹……いる」
「増えた、ということですね」
ノインが数えたところで、アデリシアが僅かに柳眉をひそめる。
厄介である、というよりは、雑魔が増えたという事実が許し難いのかもしれない。
「これ以上増えても何だな。手早く片付けてしまおう」
リンランディアも、僅かに冷たさを交えた視線をスライムに向ける。
これが初戦闘である者も多いが、今の自分の実力がどの程度なのかを計る試金石として、スライムはそう悪くない。
「まぁ、油断しなければ怖い相手じゃないわ。フォローはするから、好きに暴れてみなさいな」
「ふふ、先輩と御一緒なのは心強いですわ♪ そして、ええ、雑魔如きに遅れはとりませんわ!」
力みすぎるな、というエニーの言葉にシェリアが笑顔で応えると、その全身から煌めくプラチナの粒子が舞った。
紅色に染まった瞳をスライムに向けると、少女は盾とロッドを携えて一気に駆け出す。
「さて……急所を狙えればいいのですが……」
アデリシアもまた、1mはあろうかというウォーハンマーを手に、ゆらりと歩き出した。
その細身の体に似つかわしくない得物ではあるが、持て余したようには見えない。戦鎚と美女。アリだと思います。
「私達も始めるか、イェーガー」
「ああ。相手も装備も違うが……やる事に変わりはない。人に害を為すモノを狩る。それだけだ」
「上等」
ニィ、と笑ったCharlotteがアルケミストデバイスを手に、そして啓司は弓に矢を番え、最適な間合いへと移動していく。
そんな折、不意にエニーが声を掛けた。
「……ああ、そうそう、一応言っとくけど、スキルを使いたいなら覚醒しないとダメよ」
この場合のスキルとは、いわゆるアクティブスキルのことである。
「御心配なく!」
そう元気に返したのは、早々に覚醒済みのシェリアである。
「そっか、覚醒を温存するなら、スキルも使えないんだよな。悩み所だけど……とりあえずやってみるか」
ティーアは少女の声に少しだけ苦笑する。
彼はショートソードの握りを確かめるように軽く弄ぶと、切っ先を敵に向けながらジリジリと近づいていく。
「んー、三者三様って感じ」
リアルブルー出身の三人の動きを興味深そうに眺めながら、メルディアは自身もワンドを構えた。
彼女はマギステルであるが、魔法を使わずとも戦えないわけではない。
「ま、ないよりマシでしょ」
「メル、援護はするけど、慎重にね」
「はいはーい」
リンランディアからの声にひらひらと手を振りながら、少女は手近なスライムへと目標を定めた。
スライムの知能は、お世辞にも高くはないようだ。
真っ先に間合いを詰めてきたシェリアへと、鈍いなりに集中攻撃を仕掛けようと動き始めている。
ある一点に向かって進むその動きは、控えめに言っても的に過ぎない。
最初にリンランディアの矢が、次いで啓司のそれが、別々のスライムに突き立った。ビクリと2匹が身悶えする。
「よし、当たるし、ダメージも通るな」
「……変ね」
リンランディアの声に、エニーが疑問を返す。
何事か、と見返した青年に、彼女は続ける。
「脆すぎるわ。丈夫なのが取り柄なのよ、スライムって」
「ならば、『弱い』スライムということか。いいじゃないか、強いよりは」
聞こえていたらしく、Charlotteが声を上げた。
ほぼ同時に、機導砲の光が啓司の矢を受けたスライムを貫く。液体が蒸発するような音がして、スライムの動きが目に見えて悪くなった。
「ま、それもそうね」
エニーは呟き、疑念を飲み込んだ。
まとわりつこうとするスライムを盾でいなしながら、シェリアがロッドを振るう。
粘性の液体が入った袋を叩くような、何ともいえない感触。ダメージの程度は外見から判別しづらいが、とりあえず手応えはある。
と、小さく風切り音がして、ナイフがスライムに突き立った。
「ノイン……こっちにいる」
いつの間にか、ノインがシェリアとは逆方向に位置していた。形としては、これで挟み撃ちだ。
それを察したわけでもないだろうが、スライム達の動きが動揺が見られた。
「今更慌てても、遅いですよ」
「そういうこと」
「囲んで棒とかで叩く。実際痛そうだよね」
少し遅れて、アデリシアとティーア、メルディアがスライムの群れを囲むような位置に立った。
スライムにとって致命的だったのは、包囲されたことでその動きが乱れたことだ。
恐らく、近くの敵を狙うか、攻撃を加えてきた敵を狙うかで迷いが生じたのだろう。いずれにせよ、この時点で雑魔の命運は尽きた。
「最早……小細工は必要あるまい」
反撃も覚束ぬ程に打ち据えられたスライムに、アデリシアがダメ押しとばかりに覚醒し、ウォーハンマーを振り下ろす。
水風船が弾けるような、呆気無い破裂音を残してスライムは地面の染みと化した。
●不吉な影
洞窟外の草原の安全を確かめたハンター達は、いよいよ洞窟内に踏み込んでいる。
前方にはティーア、アデリシア、ノイン、シェリアの4人が固まり、少し離れてCharlotte、リンランディア、メルディア、啓司の4人が続いている。
最後尾には、ランタンを持ったエニーがいた。
豊富に持ち込まれたLEDライト等の光源のお陰で、足元はおろか周囲も十分に明るい。
「スライムが発生するくらいだから、結構じめ~っとした感じだと思ってたけど……結構風の通りは良い感じだね」
内部をしばらく進んだところで、メルディアがふと呟いた。洞窟の奥からの心地よい冷気を纏った風が、時折少女の褐色の肌を撫で、銀の髪を揺らしている。
だが、何と形容するべきか、マテリアルが妙に澱んでいるような、そんな感覚があった。
それは、他の者も大なり小なり感じていたことらしい。吹き抜ける風の爽やかさとは裏腹に、名状しがたい違和感は徐々に強まっていた。
道中の分岐も、ティーアの地図と啓司のメモによって問題なく抜けた。恐らくは外へ向かっていたのだろうスライムも、2匹ほどを排除している。
洞窟に入ってから20分ほどが経っただろうか。
警戒しつつ進んでいるとはいえ、そろそろ最奥に到着しても不思議ではない距離を歩いている。
「あの先、かな」
ティーアが、地図とおよその現在地を照らしながら、道の先を示した。
ここまで、スライム発生の原因が見当たらなかった以上、恐らくはそこにあるのだろう。
ハンター達はお互いに視線を交わし合うと、最奥部へと入っていく。
そこは、ちょっとした空間になっていた。
そしてそこに、ソレはいた。いや、あった、というべきなのだろうか。
「何……これ……」
思わずメルディアが呻いたのも、無理はないだろう。
毒々しいピンク色のスライム。大きさは、2mはあるだろうか。それが、鎖のような拘束具で壁に縫い止められており、ぶるぶると震えながら奇妙に泡立ち、収縮を繰り返している。
「スライムの親玉、なのか? いや、しかし……」
リンランディアの推測は当たっている。それは、事前に想定していたことでもあった。
彼を戸惑わせているのは、なぜ拘束されているのか、これに尽きる。
「人為的なもの、というのはわかる。……今は、それで十分ではないかな」
ため息をついて、Charlotteが言った。
ここで考えて答えが出るようなことではない。
「とりあえず、こいつをぶっ潰そう。見てると変になりそうだ」
「そう……だね」
頭を抱えたティーアに、ノインが小さく応じた。
まるで、何かの実験であるかのようなその光景に、一瞬跳ね上がった心拍数を深呼吸で落ち着けると、ノインはダガーを構えた。
「射抜け、我が羽矢!」
「この一撃、外さん!」
イェーガー二人が、強弾を付与した矢をほぼ同時に放つ。
風を切り裂いて矢がスライムに突き刺さると、その軌道をなぞるように、マジックアローと機導砲が走った。
マテリアルの光が雑魔を貫き、ゴボリとその体が沸き立つ。その泡は見る間にコブとなり、今にも零れ落ちそうになる。
分裂。
だが、その寸前で、ウォーハンマーがコブごとスライムを叩きつけた。
「その姿、神への冒涜に等しい。……出し惜しみは、なしだ」
アデリシアは、吐き捨てるようにそう言うと、えぐり取るように戦鎚を振りぬく。
コブが千切れ飛び、壁の染みとなった。
「そこですわ!」
千切れた部分に、シェリアが更にロッドを振り下ろす。傷口がいっそう広がり、中身と思しき液体がだらだらと零れ落ちる。
最早満身創痍のスライムに、トドメとばかりにダガーとショートソードが閃き――力尽きたスライムは、蒸発するようにマテリアルへと還っていった。
「結局、何だったのでしょうねぇ」
洞窟から出たところで、アデリシアが呟いた。
「誰かが、何らかの目的で、スライムを設置した……分かることは、それくらいですわね」
シェリアもまた、首を傾げる。
この辺りにスライムが発生した原因は、アレで間違いはないだろう。
それを排除できたとなれば、依頼は大成功といえる。
「ま、それも含めて報告すればいいわよ。もし、何か厄介事なら……そのうち、嫌でもわかるわ」
「不吉なことを言うなぁ」
エニーの言葉に、ティーアが苦笑した。
「とりあえず、帰りましょ。疲れちゃった、色々と」
メルディアの言葉に異論は出ず、ハンター達は帰路へとついた。
その様子を、岩山の上から男が見下ろしている。
「やはり、この程度ではダメか」
何かを考えるように呟くと、男はハンター達とは逆方向へと去って行った。
広いようで狭い世界。歪虚に蝕まれたクリムゾンウェストでは、それは疑いようがない。
その事実を、集合場所であるオフィスの一角に到着したティーア・ズィルバーン(ka0122)は、多少の時間を使って咀嚼した。
そして、少しだけ目を閉じて、よし、と頷くと、シェリア・プラティーン(ka1801)の元へと歩み寄った。
「よぅ、シェリア・プラティーン。いつのまにハンターになったんだい?」
「……ティーアさん!? まさかこんな所で貴方に会うなんて……偶然とは恐ろしいですわ……」
シェリアにしても、ティーアとの遭遇は予想外だったらしい。端正な顔に驚きの色をありありと浮かべている。
「サプライズ、といったところか」
その様子に、Charlotte・V・K(ka0468)が呟く。
かつての知人と同じ戦場に、という経験は彼女にも覚えがある。もっとも、その知人と会う機会は二度とないのだが。
「奇縁、だな。俺には、余り使う機会のなかった言葉だが」
そう言ったのは三船・啓司(ka0732)。
Charlotteが目を向けると、男は小さく会釈を返す。彼女に向けた言葉だったらしい。
「Japanisch?」
「ああ。猟師だ」
「イェーガー。今も昔も、か」
帽子をかぶり直すことを返答として、啓司はふと視線を移す。その先には、彼と同じイェーガー、リンランディア(ka0488)がいた。
エルフの青年は、やはりエルフの少女、メルディア・クロフィール(ka0525)に話しかけている。
「まさか一緒になるとはね。お互い頑張ろう」
「世の中って狭いんだね。頼りにしてるよ」
この二人は同じギルドに所属しており、リンランディアがギルド長、メルディアがその構成員であるようだ。
「戦神のお導きでしょうか。お知り合いが多いようですね」
そう言って微笑んだのは、アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)。
知り合い。
その単語に、ノイン=ジ=ハード(ka1135)は瞳を虚空に彷徨わせた。
家族さえも知らぬ自分にとって、それは酷く縁遠い概念に思える。ちくりと、胸の奥が疼く。覚醒とは別の刺激だ。
「揃ってるようね」
不意に、少女の肩に手が置かれた。反射的に振り向いた先には、見知らぬ女性の顔がある。
「ハロー、って言うんだっけ? エニー・オイマトよ」
「……ノインは、ノイン。エニー、さん」
「さん付けされるの、久々だわ。よろしくね、ノイン」
あはは、と笑いながら、エニーは別の者へと声を掛けにいく。ノインは叩かれた肩に手を当てると、よろしく、と呟いた。
ひとしきり挨拶を終えたハンター達は、まずは情報収集ということで、洞窟から近い場所にある集落へと向かった。
遊牧民のテントが10棟ほど建っているそこでは、家畜を世話する人々と、交易商人らしい人々が会話をしている。
そんな中、エニーが一番大きなテントへと入っていくと、少しして初老の男性を伴って戻ってきた。集落の長であるようだ。
「あなた方が……。ありがとうございます」
「礼を言うのはまだ早いかな? とりあえず、いくつか聞きたいことがある」
Charlotteは少しだけ笑いながら、仲間へと視線を送る。
促されるように、洞窟やその周囲の地形、スライムの情報など、必要と思われる質問が飛んだ。
長はその一つ一つに、時には事情に詳しいものを呼びながら答えていく。
簡単にまとめれば、次のようになる。
洞窟の周囲は草原で、洞窟の入口とは別のところから清水が湧いており、小さな川を作っている。見晴らしは良い。
洞窟自体は、そう深いものではない。一番奥まで往復しても、迷わなければ30分程度だろう。
幅も、複数人が行動するには問題ない程度には広いが、途中でいくつか分岐があるので、そこだけ注意が必要。
スライムについては、動きは鈍いので、近づきさえしなければ危険はない。とはいえ、雑魔には変わりなく、自分達の手には余る。
その他の敵対的な生物は見当たらない。
「……何かきっかけに心当たりはあるか? 例えば、前から変な場所があったとか」
洞窟の構造を地図として起こしていたティーアが、ふとペンを止めて尋ねる。
だが、それについては長に心当たりはないらしい。
「環境的な問題なのか……それとも、スライムの親玉でも住み着いた、かな?」
「その辺りは、実際に確認せねばな」
呟いたリンランディアに、啓司が応じる。
それもそうか、と頷いたエルフの青年は、他に質問がなさそうなことを確認すると、長に礼を述べた。
「この程度の御協力しかできませんが……どうぞ、よろしくお願いします」
「御安心を。雑魔は全て討ち滅ぼして見せますわ! 白金の名の下に」
深々と頭を下げた長に、シェリアが力強く頷いてみせる。
その言葉に、長はようやくホッとしたような微笑を浮かべた。
●スライム(弱)
集落から、およそ1時間半程度の場所に、その洞窟はあった。
小さな岩山から染み出る小川と、それを取り巻く草原。風光明媚と言って差し支えない光景だ。
ただし、蠢くスライムを除けば、の話である。
「情報通り、スライムだけみたいだね」
メルディアが僅かに目を細め、あれ、と呟く。
「情報より、多い?」
「聞いた話だと、3匹だったわね」
特に驚いた様子もなく、エニーが応じた。
「5匹……いる」
「増えた、ということですね」
ノインが数えたところで、アデリシアが僅かに柳眉をひそめる。
厄介である、というよりは、雑魔が増えたという事実が許し難いのかもしれない。
「これ以上増えても何だな。手早く片付けてしまおう」
リンランディアも、僅かに冷たさを交えた視線をスライムに向ける。
これが初戦闘である者も多いが、今の自分の実力がどの程度なのかを計る試金石として、スライムはそう悪くない。
「まぁ、油断しなければ怖い相手じゃないわ。フォローはするから、好きに暴れてみなさいな」
「ふふ、先輩と御一緒なのは心強いですわ♪ そして、ええ、雑魔如きに遅れはとりませんわ!」
力みすぎるな、というエニーの言葉にシェリアが笑顔で応えると、その全身から煌めくプラチナの粒子が舞った。
紅色に染まった瞳をスライムに向けると、少女は盾とロッドを携えて一気に駆け出す。
「さて……急所を狙えればいいのですが……」
アデリシアもまた、1mはあろうかというウォーハンマーを手に、ゆらりと歩き出した。
その細身の体に似つかわしくない得物ではあるが、持て余したようには見えない。戦鎚と美女。アリだと思います。
「私達も始めるか、イェーガー」
「ああ。相手も装備も違うが……やる事に変わりはない。人に害を為すモノを狩る。それだけだ」
「上等」
ニィ、と笑ったCharlotteがアルケミストデバイスを手に、そして啓司は弓に矢を番え、最適な間合いへと移動していく。
そんな折、不意にエニーが声を掛けた。
「……ああ、そうそう、一応言っとくけど、スキルを使いたいなら覚醒しないとダメよ」
この場合のスキルとは、いわゆるアクティブスキルのことである。
「御心配なく!」
そう元気に返したのは、早々に覚醒済みのシェリアである。
「そっか、覚醒を温存するなら、スキルも使えないんだよな。悩み所だけど……とりあえずやってみるか」
ティーアは少女の声に少しだけ苦笑する。
彼はショートソードの握りを確かめるように軽く弄ぶと、切っ先を敵に向けながらジリジリと近づいていく。
「んー、三者三様って感じ」
リアルブルー出身の三人の動きを興味深そうに眺めながら、メルディアは自身もワンドを構えた。
彼女はマギステルであるが、魔法を使わずとも戦えないわけではない。
「ま、ないよりマシでしょ」
「メル、援護はするけど、慎重にね」
「はいはーい」
リンランディアからの声にひらひらと手を振りながら、少女は手近なスライムへと目標を定めた。
スライムの知能は、お世辞にも高くはないようだ。
真っ先に間合いを詰めてきたシェリアへと、鈍いなりに集中攻撃を仕掛けようと動き始めている。
ある一点に向かって進むその動きは、控えめに言っても的に過ぎない。
最初にリンランディアの矢が、次いで啓司のそれが、別々のスライムに突き立った。ビクリと2匹が身悶えする。
「よし、当たるし、ダメージも通るな」
「……変ね」
リンランディアの声に、エニーが疑問を返す。
何事か、と見返した青年に、彼女は続ける。
「脆すぎるわ。丈夫なのが取り柄なのよ、スライムって」
「ならば、『弱い』スライムということか。いいじゃないか、強いよりは」
聞こえていたらしく、Charlotteが声を上げた。
ほぼ同時に、機導砲の光が啓司の矢を受けたスライムを貫く。液体が蒸発するような音がして、スライムの動きが目に見えて悪くなった。
「ま、それもそうね」
エニーは呟き、疑念を飲み込んだ。
まとわりつこうとするスライムを盾でいなしながら、シェリアがロッドを振るう。
粘性の液体が入った袋を叩くような、何ともいえない感触。ダメージの程度は外見から判別しづらいが、とりあえず手応えはある。
と、小さく風切り音がして、ナイフがスライムに突き立った。
「ノイン……こっちにいる」
いつの間にか、ノインがシェリアとは逆方向に位置していた。形としては、これで挟み撃ちだ。
それを察したわけでもないだろうが、スライム達の動きが動揺が見られた。
「今更慌てても、遅いですよ」
「そういうこと」
「囲んで棒とかで叩く。実際痛そうだよね」
少し遅れて、アデリシアとティーア、メルディアがスライムの群れを囲むような位置に立った。
スライムにとって致命的だったのは、包囲されたことでその動きが乱れたことだ。
恐らく、近くの敵を狙うか、攻撃を加えてきた敵を狙うかで迷いが生じたのだろう。いずれにせよ、この時点で雑魔の命運は尽きた。
「最早……小細工は必要あるまい」
反撃も覚束ぬ程に打ち据えられたスライムに、アデリシアがダメ押しとばかりに覚醒し、ウォーハンマーを振り下ろす。
水風船が弾けるような、呆気無い破裂音を残してスライムは地面の染みと化した。
●不吉な影
洞窟外の草原の安全を確かめたハンター達は、いよいよ洞窟内に踏み込んでいる。
前方にはティーア、アデリシア、ノイン、シェリアの4人が固まり、少し離れてCharlotte、リンランディア、メルディア、啓司の4人が続いている。
最後尾には、ランタンを持ったエニーがいた。
豊富に持ち込まれたLEDライト等の光源のお陰で、足元はおろか周囲も十分に明るい。
「スライムが発生するくらいだから、結構じめ~っとした感じだと思ってたけど……結構風の通りは良い感じだね」
内部をしばらく進んだところで、メルディアがふと呟いた。洞窟の奥からの心地よい冷気を纏った風が、時折少女の褐色の肌を撫で、銀の髪を揺らしている。
だが、何と形容するべきか、マテリアルが妙に澱んでいるような、そんな感覚があった。
それは、他の者も大なり小なり感じていたことらしい。吹き抜ける風の爽やかさとは裏腹に、名状しがたい違和感は徐々に強まっていた。
道中の分岐も、ティーアの地図と啓司のメモによって問題なく抜けた。恐らくは外へ向かっていたのだろうスライムも、2匹ほどを排除している。
洞窟に入ってから20分ほどが経っただろうか。
警戒しつつ進んでいるとはいえ、そろそろ最奥に到着しても不思議ではない距離を歩いている。
「あの先、かな」
ティーアが、地図とおよその現在地を照らしながら、道の先を示した。
ここまで、スライム発生の原因が見当たらなかった以上、恐らくはそこにあるのだろう。
ハンター達はお互いに視線を交わし合うと、最奥部へと入っていく。
そこは、ちょっとした空間になっていた。
そしてそこに、ソレはいた。いや、あった、というべきなのだろうか。
「何……これ……」
思わずメルディアが呻いたのも、無理はないだろう。
毒々しいピンク色のスライム。大きさは、2mはあるだろうか。それが、鎖のような拘束具で壁に縫い止められており、ぶるぶると震えながら奇妙に泡立ち、収縮を繰り返している。
「スライムの親玉、なのか? いや、しかし……」
リンランディアの推測は当たっている。それは、事前に想定していたことでもあった。
彼を戸惑わせているのは、なぜ拘束されているのか、これに尽きる。
「人為的なもの、というのはわかる。……今は、それで十分ではないかな」
ため息をついて、Charlotteが言った。
ここで考えて答えが出るようなことではない。
「とりあえず、こいつをぶっ潰そう。見てると変になりそうだ」
「そう……だね」
頭を抱えたティーアに、ノインが小さく応じた。
まるで、何かの実験であるかのようなその光景に、一瞬跳ね上がった心拍数を深呼吸で落ち着けると、ノインはダガーを構えた。
「射抜け、我が羽矢!」
「この一撃、外さん!」
イェーガー二人が、強弾を付与した矢をほぼ同時に放つ。
風を切り裂いて矢がスライムに突き刺さると、その軌道をなぞるように、マジックアローと機導砲が走った。
マテリアルの光が雑魔を貫き、ゴボリとその体が沸き立つ。その泡は見る間にコブとなり、今にも零れ落ちそうになる。
分裂。
だが、その寸前で、ウォーハンマーがコブごとスライムを叩きつけた。
「その姿、神への冒涜に等しい。……出し惜しみは、なしだ」
アデリシアは、吐き捨てるようにそう言うと、えぐり取るように戦鎚を振りぬく。
コブが千切れ飛び、壁の染みとなった。
「そこですわ!」
千切れた部分に、シェリアが更にロッドを振り下ろす。傷口がいっそう広がり、中身と思しき液体がだらだらと零れ落ちる。
最早満身創痍のスライムに、トドメとばかりにダガーとショートソードが閃き――力尽きたスライムは、蒸発するようにマテリアルへと還っていった。
「結局、何だったのでしょうねぇ」
洞窟から出たところで、アデリシアが呟いた。
「誰かが、何らかの目的で、スライムを設置した……分かることは、それくらいですわね」
シェリアもまた、首を傾げる。
この辺りにスライムが発生した原因は、アレで間違いはないだろう。
それを排除できたとなれば、依頼は大成功といえる。
「ま、それも含めて報告すればいいわよ。もし、何か厄介事なら……そのうち、嫌でもわかるわ」
「不吉なことを言うなぁ」
エニーの言葉に、ティーアが苦笑した。
「とりあえず、帰りましょ。疲れちゃった、色々と」
メルディアの言葉に異論は出ず、ハンター達は帰路へとついた。
その様子を、岩山の上から男が見下ろしている。
「やはり、この程度ではダメか」
何かを考えるように呟くと、男はハンター達とは逆方向へと去って行った。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 12人 |
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- アックスブレード「ツヴァイシュトースツァーン」マイスター
ティーア・ズィルバーン(ka0122)
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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作戦相談卓 リンランディア(ka0488) エルフ|20才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2014/06/16 02:05:43 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/11 20:31:35 |