ゲスト
(ka0000)
【月機】Deadly Approach
マスター:剣崎宗二

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
1,500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/09/27 12:00
- 完成日
- 2016/10/07 06:31
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●Master of Games
「…へぇ」
後ろを向いたまま、歪虚『錬金術の到達者』コーリアスは、静かに報告を聞く。
報告を行うのは甲鬼 蛮蔵。彼の部下にして、強力な隠形を持つ歪虚の一人。
「――ご主人。良いのか?仕掛けた物は殆ど破壊されているぞ?」
「いいよいいよ。寧ろそれくらいじゃなきゃ面白くない。それすら破壊できないようなら、僕が出ないで皆に任せておこうかなってすら思ったくらいだからね」
少し間を置き、マスクの下のその口が僅かに歪む。
「それよりも問題は、あの妙なバリアだね。…どうやら魔力で構成されているらしくて、僕の力が通じない」
「それについては既に協力者たちが破壊に向かっている。間もなく解除されるであろう」
「……ま、解除が出来ればよし。出来なければ――遊んで帰るしかないだろうね」
何にしろ、楽しめればいい。それがコーリアスの最大の『原則』。
――その上で新しい玩具が手に入れば更に嬉しいが。
「さて、ゲームマスターとして。このゲームの『ラスボス』として。ここまで辿り着いたプレイヤーたちを迎えに行かなきゃならないようだね」
そこまで言われて、蛮蔵は気がついた。複数の人間の気配が、この場に近づいている事に。
「最後の量産型たちも出そう。最も、今回は少し改造を加えているけどね」
エントランスホールへと向かうコーリアスの顔は、さも楽しげに笑っていた。
●The Challenger
四方の結界点で戦闘が始まる中、嵐発生装置破壊の際に得られた僅かな痕跡、及び霧の障壁の先にあった構造から推測した『とある地点』。その地点への偵察によりコーリアスの本拠地が判明し……その建物の前に今、ハンターたちは到達していた。
場所は分かっている。しかし、その内部構造はほぼ『全くの未知』。
偵察を送らなかったわけではない。それ故に『場所が分かっている』のだ。
――内部に入った偵察兵は誰一人として帰って来なかった。遺体すら存在しない。
――この件の『交渉屋』であったロレント・フェイタリが、『準備期間は攻撃されない特権』を用いて内部に入ろうとしたが、彼が扉に手を掛けた際だけ、扉は開かなくなっていた。『交渉なら外で行うよ?』と言う、コーリアスの声と共に。さすがは『本拠地』。そう簡単には見させてくれないと言う訳か。
唯一の手がかりは、テトによる偵察。卓越したスカウト技能を持つ彼女ですら、確認できたのはエントランスホールの状況のみ。それ以上前に進もうとする彼女を、壁から生える無数の銃座と、神出鬼没のアンドロイド部隊が阻み、撤退を余儀なくされたと言うのだ。
――だが、その腹の探り合いも、ここで終わりだ。
最終決戦が始まり、全ての攻撃禁止ルールが解除された以上。偵察などと悠長な事を言っている時間は無くなった。
――今この刻も。仲間たちが、陣の要所を守るため、死闘を繰り広げている。その間に敵の首を取る事こそが、この場に集ったハンターたちの目的。
「行くぞ」
誰もとも無く、号令を発する。
それに対して、全員が――静かに頷いた。
この屋敷に如何なる『仕掛け』がされているのか、今のハンターたちにはまだ知る由はなかった――
「…へぇ」
後ろを向いたまま、歪虚『錬金術の到達者』コーリアスは、静かに報告を聞く。
報告を行うのは甲鬼 蛮蔵。彼の部下にして、強力な隠形を持つ歪虚の一人。
「――ご主人。良いのか?仕掛けた物は殆ど破壊されているぞ?」
「いいよいいよ。寧ろそれくらいじゃなきゃ面白くない。それすら破壊できないようなら、僕が出ないで皆に任せておこうかなってすら思ったくらいだからね」
少し間を置き、マスクの下のその口が僅かに歪む。
「それよりも問題は、あの妙なバリアだね。…どうやら魔力で構成されているらしくて、僕の力が通じない」
「それについては既に協力者たちが破壊に向かっている。間もなく解除されるであろう」
「……ま、解除が出来ればよし。出来なければ――遊んで帰るしかないだろうね」
何にしろ、楽しめればいい。それがコーリアスの最大の『原則』。
――その上で新しい玩具が手に入れば更に嬉しいが。
「さて、ゲームマスターとして。このゲームの『ラスボス』として。ここまで辿り着いたプレイヤーたちを迎えに行かなきゃならないようだね」
そこまで言われて、蛮蔵は気がついた。複数の人間の気配が、この場に近づいている事に。
「最後の量産型たちも出そう。最も、今回は少し改造を加えているけどね」
エントランスホールへと向かうコーリアスの顔は、さも楽しげに笑っていた。
●The Challenger
四方の結界点で戦闘が始まる中、嵐発生装置破壊の際に得られた僅かな痕跡、及び霧の障壁の先にあった構造から推測した『とある地点』。その地点への偵察によりコーリアスの本拠地が判明し……その建物の前に今、ハンターたちは到達していた。
場所は分かっている。しかし、その内部構造はほぼ『全くの未知』。
偵察を送らなかったわけではない。それ故に『場所が分かっている』のだ。
――内部に入った偵察兵は誰一人として帰って来なかった。遺体すら存在しない。
――この件の『交渉屋』であったロレント・フェイタリが、『準備期間は攻撃されない特権』を用いて内部に入ろうとしたが、彼が扉に手を掛けた際だけ、扉は開かなくなっていた。『交渉なら外で行うよ?』と言う、コーリアスの声と共に。さすがは『本拠地』。そう簡単には見させてくれないと言う訳か。
唯一の手がかりは、テトによる偵察。卓越したスカウト技能を持つ彼女ですら、確認できたのはエントランスホールの状況のみ。それ以上前に進もうとする彼女を、壁から生える無数の銃座と、神出鬼没のアンドロイド部隊が阻み、撤退を余儀なくされたと言うのだ。
――だが、その腹の探り合いも、ここで終わりだ。
最終決戦が始まり、全ての攻撃禁止ルールが解除された以上。偵察などと悠長な事を言っている時間は無くなった。
――今この刻も。仲間たちが、陣の要所を守るため、死闘を繰り広げている。その間に敵の首を取る事こそが、この場に集ったハンターたちの目的。
「行くぞ」
誰もとも無く、号令を発する。
それに対して、全員が――静かに頷いた。
この屋敷に如何なる『仕掛け』がされているのか、今のハンターたちにはまだ知る由はなかった――
リプレイ本文
●突入
バン。
「そらよ!」
扉が大きく開かれるのと同時に、投げ込まれる物体。
ロレントに用意された爆弾であるそれが爆発し、爆煙を巻き上げた直後。その煙に乗じ、投擲の張本人――ボルディア・コンフラムス(ka0796)が、館内へと突入する。
「よし、今ですよ!」
「了解――!」
機銃掃射の如く投入される泥球。ハンター側も機械投射装置を用いた……と言う訳ではない。飽くまでもアルマ・A・エインズワース(ka4901)、そしてジョージ・ユニクス(ka0442)による手動の投擲だ。
「イタズラしちゃうですよー!」
そう言いながら投擲するアルマは、実に楽しそうだ。
「……何やら面白い事をしているね?……ふむ」
自身の目の前に巨大な壁を立て、爆風を防いだコーリアスが、興味深そうにその壁に付着した泥を見る。
「なるほどね。どうやら貴公たちは、僕の作ったギミックを誤解しているようだ」
得心が行ったとばかりに手をポンと叩くコーリアス。
実際、見回せば、泥が付着したのは壁、そして銃座のみ。目標であった蛮蔵、そして量産型マティリアには何れも命中している様子はない。
それはありえない筈の事だった。
アルマとジョージの投擲は、無差別と言っていい程の掃射。そこに立っているのならば、如何に素早くとも、泥の飛沫すら付着しないのはおかしいのだ。
(つまり、その場には少なくとも『今は』いない……そんな所かな?)
己の身に風の障壁を纏いながら、フワ ハヤテ(ka0004)は、静かに状況を観察していた。
泥球への反撃とばかりに、四方からせり出す銃座。一斉掃射がアルマとジョージを入り口から退けると同時に、それに乗じ、如何なる理か、銃座の後ろに二体、量産型マティリアが出現していた。
バン。バン。
疾風の如く駆けるバイクが二体の間を駆け抜け、泥球をぶつけていく。
「そこかぁ! 皆、跳べぇ!」
「了解。巻き込まれるのは勘弁だ」
突進するボルティアの意を察し、バイクの騎手――クリスティン・ガフ(ka1090)が、大きく旋回し、入り口の方へと距離を取る。
掃射される機銃を斧でガードしながら突進。全ての中央に至ったかと思うと、大きく、その斧を振り上げるボルティア。
「おまえら全員……止まりやがれぇぇ!」
ドン。地面に突き立てられる斧が地を割り、局地的な地震を引き起こし、彼女に飛び掛ろうとした量産型マティリア二体の動きを止める。
「そして……砕けやがれぇぇ!」
引きずるようにして二回転。地面に擦り付けた斧が、炎の顎を纏う。友の祈りが、その炎を一段と大きく、膨張させる。
横薙ぎに斧を振るえば、炎の顎が、今にも逃げる術を失った量産型マティリアたちを飲み込まんと迫る!
ガキン。
「なっ……!?」
見れば、炎を纏った筈の斧は、量産型マティリアの表面装甲に止められていた。
鋼をも断つはずのその一撃。たとえ超硬度の装甲を纏おうとも、まともに食らって一歩も下がらないと言うのは、ありえない筈だった。
然し、防御したその理は判らずとも、ハンターたちの攻勢が、ここで終わるはずもまたなし。
「邪魔な砲台は凍らせちゃおうね」
ハヤテの展開した魔法陣が銃座を取り囲み、吹き荒れる氷雪が、それを凍結せしめる。
だが、砲座の展開は比較的にまばら。恐らくその射程から、同じ箇所に多く設置しても意味がなく、逆にお互いがお互いの射線を邪魔してしまう――と言う判断なのだろう。故に吹き荒れる氷雪は、一度に1-2体を凍結させるのが限界。
だが、攻め込むハンターたちにとっては『それで十分』。それを示すかのように、銃撃の合間を縫って、再度クリスティンは突撃していた。
地面を擦る刃先が、火花を散らす。
すれ違いさまの一閃が、量産型の装甲に大きなヒビを入れる。反撃が届くその前に、バイクの機動力を生かして射程外に離脱している。凍結が解けた機銃からの掃射が浴びせられる物の、その衝撃力はバイクを横転させるには至らず。寧ろバイクを盾にするように、クリスティンは離脱に成功する。
「やれやれ」
捻じ曲がって見えるその弾丸に、なんとなく嫌な予感はしていた。それ故にハヤテは、機銃弾にあたる事を避けていた。幸いにも風の加護を受けた彼ならば、銃弾をほぼ全て回避する事もまた、不可能ではなかった。
「っ――!」
だが、弾丸を回避し、反撃の魔法陣を展開したその一瞬。僅かな隙を突くように、彼の後ろには、量産型マティリアが出現していた。
それは正しく、テトが報告していた通りの、まるで瞬間移動のような出現。だが、既にそこに居た二体が動いた形跡はない。つまりそれは――
(突然出現したって事ね……!)
「Binding Ground」
回避しようとした瞬間。足が地面に絡め取られる。奥に居るコーリアスの仕業だろう……この館自体が彼の被造物故に、この館の中に於いては彼はありとあらゆる方向から錬成による攻撃を仕掛けられる。これさえなければ、疾風の加護を受けたハヤテは、奇襲とはいえその掴みを回避できたはずだった。
がっしりと、腰に手を回すように掴まれる。そのままスープレックスで頭から地面に叩き付けられる。
「面倒な事をしてくれるね……!」
魔法陣と共に放つはずだった氷結の魔力を無理やり両手に込め、そのまま自らをロックしている量産型マティリアの両腕から、更に流し込む。
その敵の背後に吹き荒れる氷雪が、流し込まれた魔力の壮絶さを物語る。一瞬にして凍結により量産型の行動が停止する。
だが、それは敵の攻勢が止まったと言う事では決してない。
――何故今まで、量産型マティリアが二体しか出現せず、フィルメリア・クリスティア(ka3380)を筆頭とするコーリアス対応班を奥に通したのか。
それは、コーリアスが己の対応能力に自信があったのが一つ。
だがもう一つは、彼の作戦。広く、目標を散らす事により、ハンターたちを分散させ……孤立した者を出現した『増援』によって叩く事。館のギミックは、その為に仕込まれていた物だ。
「……ふん」
足音はしない。だが。僅かな空気の動きが、『それ』が出現した事を伝える。
――『天井を駆け』、まるで空気から固形化したかのように、歪虚『甲鬼 蛮蔵』が出現する。
泥球の乱射が彼に届かなかった理由は明白。投射が水平射撃の体を取っており、天井、しかも非常事態対応のためコーリアス寄りに居た彼の高さに届かなかったからだ。
その彼が出現した理由はただ一つ。――攻撃の機がやってきたからだ。
回復役であるアニス・エリダヌス(ka2491)は既にコーリアスの空気氷弾を浴びせられていた前衛の回復の為前進していた。直ぐに引き返そうとするが、出現した量産型にその道を塞がれる事となる。距離を大きく取ったハヤテは…近接を中核とする殆どの味方と、大きく離れていたのだ。
「邪魔――しないでください!」
その身に宿す魔力が、光の花に変換させ、その蕾を開く。光は周囲に居た敵の全てを焼くが、致命打…一撃必殺には至らず。寧ろその一部は、まるで量産型の体内で循環されるように回転した後、空気中に光の粒子として放出されていた。
(対マテリアル防御――!?)
ダメージがない訳ではない。だが、推定していた物よりはずっと低い。恐らく魔術に対して働く一種の『受け流し』のような物だろう。この僅差で、アニスは一手多く、足止めされる事になる。そして、その一手が……この状況に於いては、影響を及ぼす事になる。
空中から襲い掛かる蛮蔵。既に掴まれている状況では、ハヤテに回避は望むべくもなし。ならば――!
「迎撃するしかないね」
冷静に体を捻り、凍結した量産型を蛮蔵の方向へと向けて盾とすると共に、両手の間に強烈な電撃を発生させる。
それは蛮蔵から見ると死角の位置で行われ、故に奇襲となる。蛮蔵の出現を察知したマッシュ・アクラシス(ka0771)、そしてジョージが既に向かってきている。もう一手あればアニスも障害を破砕できるだろう。つまり――この一手さえ乗り切れば、ハヤテはピンチを脱せる。
「纏めて……貫いちゃうよ!」
放たれる直線の雷撃が、間に挟まった量産型を貫通。そのまま一直線に、矢の如く蛮蔵に襲い掛かる。たとえ打ち倒せずとも、攻撃を遅らせる事が出来れば、それだけで目的は達成できる。
「討ち取らせてもらおう……!」
両手を打ち合わせる蛮蔵。作られし文字は『峰』。そのまま土塊を盾のように使い、空中からの蹴撃が正面から雷撃と衝突する!
バン。
土塊の盾の一部が弾け飛び、雷撃が蛮蔵の脇腹を掠め、焼け焦げた跡を残す。属性ではハヤテの雷撃の方が有利だ。
だが、傷を負って尚、蛮蔵の突撃は止まらない。
「ふん……!!!」
土の刃による突破は、氷結した量産型を貫き、『それ』ごと、ハヤテを貫き、地面に縫い付けた。
●開かれる手札
「そこだったか……!」
量産型の相手をしながらも蛮蔵を探索していたクリスティンが、目標の出現に対してバイクを回転させ、帰還しようとする。しかしその瞬間、
「!?」
バイクのが停止し、転倒する。投げ出されたクリスティンが見たのは、動力源につながるパイプの一本が、まるで何かに『溶解』されたかのように破壊されていた事。
――そう言えば、機銃銃座の攻撃は『実体弾』にしては衝撃力が低かった。まさか――
――同じ疑問を、量産型相手に奮闘を繰り広げていたボルティアもまた感じていた。
まるで、自身の攻撃力が下がっているようなそんな状況に、武器を観察してみれば。刃の部分が溶解され、鈍くなっていた。
その状況に繋がる原因は一つしか思い当たらない。突入時に機銃弾を武器で受け止めた事のみ。
何故、弾が歪んで見えたのか。それは弾が『固体』ではなく、発射の加速度で歪んだと言う事ではないのか。
(酸液弾…!?)
「機銃弾は受け止めるな!装備を溶かされるぞ!」
その結論は、直ぐに全ハンターの間で共有される事になる。
「いやはや、そう言う事なら、利用させてもらいましょう」
蛮蔵へ向かう途中で量産型に阻まれたマッシュは、それを聞き、即座に戦法を変更する。二刀による連撃で目の前の量産型の注意を引くと、踊るようなステップを踏み、回り込むように自らと銃座で量産型を挟み込むような位置取りをする。
銃座は無差別に攻撃を行い、液体弾を量産型に浴びせる。
「さて、これで弱りましたかね?」
追撃をすべく、両剣を交差させ、振り下ろそうとした瞬間。異変に気づくマッシュ。
(溶けていない……!?)
即座に剣を引き、バックステップで大きく距離を取る。瞬間。彼の居た位置を、振り払われた酸液の雫が通り過ぎた。
――考えてみれば、兆候はあった。テトの証言では、彼女が偵察に入った際も、機銃は量産型が居ても遠慮のない銃撃を仕掛けてきたと言っている。若しもそれで量産型がダメージを受けたとしたら、科学者でもあるコーリアスの事だ。その弱点を修正するような改造が施されてしかるべきだろう。
連続で拳打を繰り出してくる量産型。体の一部に酸液が付着している事もあり、近接型であるマッシュにはうかつには手は出せない。幸いにして動きは速くはないため、隙を突いて酸液のない部分を突きで攻撃し、破壊する事でダメージは与えられているが――
「面倒ですね……」
付着している分もさることながら、拳打が繰り出されるごとに予測不能な方向へと飛散する液の回避は困難で、それを強行するマッシュの疲労は予想以上に累積していた。
一方。蛮蔵側。
「っ……!」
斬撃からの拳打と見せかけ、ジョージが盾裏に隠していた泥球を蛮蔵に叩き付ける。
「これで……もう逃げ隠れはできない……!」
「……本当にそう思うのか?若人」
機銃弾が蛮蔵に浴びせられ、それを服の『泥の付いた箇所』で受ける蛮蔵。酸が泥を溶かし、一瞬にして清潔にする。
――機械である量産型マティリアが素材の特性により酸に抵抗したのは理解できる。しかし、蛮蔵までもが酸弾を無効化してきたと言う事は……
(存分に準備してきた……と言う事か……!)
――そもそも、この館はコーリアスのホームグラウンド。故にこの中のギミックは、彼によって、相互作用も含め考え抜かれていると思っていいだろう。自陣のギミックによる同士討ちは、何か氏らの方法で誘発しない限りは期待できないと思っていい。
描かれる『炮』の文字。降り注ぐ炎の雨が、ジョージの体力を削っていく。
ジョージの奥の手の帝王の剣は、射程内に応報する相手を捉える必要がある。――中距離からの強襲が多い蛮蔵とはいささか相性が悪い。所持武器が至近距離のみに届く大斧であれば尚更だ。
だが、ここで、バイクを捨て接近したクリスティンが、終に蛮蔵を射程距離に捉える。同時に時間はかけたが、強引にその腕力のみで量産型の一体を粉砕したボルティアもまた、蛮蔵に接近していた。
「おっと、向かわせませんよ」
マッシュの手から放たれる無数の突きが、壁のようになり、応援に向かおうとした量産型を阻む。
「こちらに集中させていただきましょうか」
魂を燃やし、ジョージが敵の注意を引き付ける。その光に蛮蔵が注意を裂いたのは、僅か一瞬。だが、それで十分だった。
「はぁっ!」
クリスティンの一撃が蛮蔵の手甲に直撃し、干渉を受けた漢字がその場に霧散する。
ひたすら蛮蔵に『仕事をさせない』、即ち彼の技の形成を妨げるのがクリスティンの作戦。
そして、その上から、手甲を狙って大振りの振り下ろしが放たれる!
「砕けろ!」
カン。ボルティアの全力の一撃は、然し蛮蔵に受け止められ、弾かれる。やはり武器が腐食されている状態では威力が足りないのか、漢字を霧散させられていない。故にクリスティンの次撃の前に、逆立ちの様な姿勢から『爆』が放たれる。半分を四散させられた際は、再構築にかかる時間もまた『半分』と言う事か。
広がる爆煙。土煙が静まった時、そこに蛮蔵の姿はない。またどこかに隠れたのか。そう考えたボルティアが鼻に神経を集中させ、隠蔽先を探知すべき努力する。
――蛮蔵のステルスは確かに強力だ。然し――この近距離で超嗅覚を誤魔化しきる程ではない。
直ぐにとは行かなかった物の、ボルティアは場所の特定に成功する。そして、その場所は――
「ジョージ、後ろだ!!」
「!」
咄嗟に盾を構え、反撃の用意をする。
いきなり空中に『爆』の文字が描かれ、爆発により吹き飛ばされる。反撃は爆発により距離が広がった為届かず、壁に叩き付けられる。
――奇襲を防げなかった原因の一つには、作戦の齟齬もまた存在する。
一部のハンターたちは味方からの煙幕弾投擲に期待していた。だが、誰一人として、その発煙デバイスを用意せず、また投擲の準備もしなかった。
それ故に煙幕実行時に行うべきプランは全て無効化され……蛮蔵の襲撃に繋がったのである。
そして、蛮蔵の攻撃によって吹き飛ばされたジョージに、出現した量産型たちが殺到する。ソウルトーチで注意を引いた以上、仕方ない事であるのだが。
「もう少し耐えてください。今――!」
アニスの放つ癒しの光が、蛮蔵の一撃で傷ついたジョージを回復させる。元より彼の防御力は低くはない。このまま耐え切る事は不可能ではない。
「邪魔だ、女」
『颶』。巻き起こる風が、アニスを押し飛ばし、ジョージをヒールの射程外に外す。全速力でクリスティンが蛮蔵の方へと向かうが、バイクの機動力を失った今では一手で接近と攻撃の両方を行うのは不可能。
「っ!?」
マッシュが相手をしていた目の前の量産型が、一瞬で消失する。即座に周りを見渡すが、その姿はない。武器を振り回しても命中しない事から、確かにその場から消えたようだ。
だが、周囲に撒き散らされたたいまつの灯りを頼りに注意深く観察してみれば、消えた場所の地面には、例の『割れ目』が。
(まさか……!?)
その推測は、振り返った瞬間実証される事になる。
割れ目が開いた。そう思えた瞬間、そこから量産型が出現していた。
咄嗟に、一撃を剣で受け止める。モーター音と共に、大きく押し出される。
(つまり、瞬間移動ではなく……ある個体を引っ込めるとともに、他の個体を別の出入り口から出したと言う事ですか……!)
このトリックが成立したのは、量産型たちが『量産型』故にまったく同じ外見をしていた事。そして、テトが偵察に集中していて、攻撃をしなかった事。瞬間移動元の個体の表面装甲に傷が付いてしまえば、それが真なる瞬間移動ではないことは、容易に気づかれていたはずだ。
その事実は、直ぐに、マッシュの口から、ハンター全員に伝えられる。
直後、彼は、切り捨てた量産型の残骸を出入り口に押し込むが…ばらばらの残骸であるが故に、封鎖する事は出来ず、出現する新たな量産型によって残骸が押し飛ばされる事となる。
●玉座への突撃
「邪魔だぜ……っ!」
巨大な刀の一閃が、量産型の一体を両断する。
ミリア・エインズワース(ka1287)、そして仁川 リア(ka3483)が両サイドから接近する量産型を迎撃した隙に、フィルメリアとアルマは、敵の大将――コーリアスを、その射程内に捉えていた。
「貰いましたよ――!」
接近と共に、腕に宿した蒼の炎を開放する。義手たるその右腕から、伸びる光炎の刃。
「コーリアスさん。僕、最近貴方の気持ちが少しわかる気がします。ほんの少しだけですっ」
初手から全力。手加減や長期戦などは一切考えていない。それが、今出せる彼の『最強の一撃』
「ほう」
「あんな出会い方でなければ、いいお友達になれたかもしれないですね?」
立ちはだかる、巨大な壁。ここまでは予想済み。
「だから、一緒に遊びましょう……命がけで!」
その為にタイミングをずらし、全力を込めた一閃。
だが、コーリアスとて、一度は脇腹に強烈な一撃を貰ったアルマの事を忘れた訳ではない。それ故に、彼の火力に耐えられるかの『実験』として、己が錬成できる『最強の素材』を以って、壁を立ち上げたのだ。幸いにも戦闘が開始した瞬間、アルマが向かってきたのは見えていた。――準備の期間は、僅かとは言えあった。
「Forge……『Multilayer Crystaline』」
油断はない。故に通常の砲撃の距離に入った時点で、アルマのマテリアル流に異変を観察した瞬間に……彼は壁を作り上げた。
キン。
「……やるね。五層障壁を四層まで割られるとは」
必殺の一閃は、然し壁を割るにギリギリには至らない。金属以上の硬度は想定していたが、どうやら熱やエネルギーにある程度耐性のある素材のようだ。それでも破壊ギリギリまで切り込んだと言う事実が、アルマの魔力の高さ、そして彼の技の強さを物語っていた。
「今なら、割れますわよね?」
放たれる砲撃。それは、アルマと同様に、エネルギーを重ねて強化された物。
氷を彷彿させる形、構造で展開された魔法陣。フィルメリアが放った一撃は、それを通過、増幅され、一寸違わずにアルマが斬撃を浴びせた箇所に命中した。
「っ……!」
貫通。
仮面に覆われたコーリアスの表情は正確に視認し難いものであったが、肩を打ちぬかれ、僅かに口元が歪んでいたのを、急速接近していたリアは確認していた。酸機銃弾をフィルメリアが剣で受け止めておらず腐食の効果を受けていなければ、もっとダメージは大きくなっていたはずである。
「少しでも時間を稼がせてもらうよ」
「うちの隊長がお世話になったみたいだし僕も相手して貰おう」
一撃が重いミリアの重撃と、速度に任せたリアの高速の連閃。それを硬化させた両腕でそれぞれ受け止めるが、貫通能力を持つミリアの突きはこの方法では受け止めきれず、僅かに装甲が割れ、出血する。
そのまま間合いを離すかのように、後退するコーリアス。今までほぼ全ての戦いで『動かずにして迎撃を行った』彼には、あまり見られない行動だ。近接攻撃が主体であるハンターたちは、そのまま追いすがる様に接近。次撃に備える。
「一人の攻撃じゃ君は倒せない、でも仲間との繋がりがあれば!」
――アルマとフィルメリアが採った「チャージにより攻撃の威力を増す」戦法は、威力の増大と引き換えに著しい『手数の低減』と言うデメリットがあった。それをミリアとリアの牽制攻撃が補うと言う形になっていたのだ。正しくリアの言う通り、連携が彼を圧倒していたのだ。
「確かにそうかもしれないね」
後退したコーリアスの周囲から、機銃銃座が出現する。
「だけど――」
●連携の行方
「ぐっ……!」
「そんな!?」
ステルスで場所を変えながら、アニスを『颶』で引き寄せ続け、ジョージを回復の対象から外し続けた蛮蔵の策略により、終にジョージが倒れる。自己回復だけでは、増え続ける量産型に対応し切れなかったのだ。
「放たせはしない!」
その蛮蔵に追いついたクリスティン。乱打が手甲を狙って振り下ろされ、術式を妨害する。
「ふん……この蛮蔵、魔術だけかと思ったか?」
猛烈な蹴撃が、刀の背を叩き、押し切るように逆に刃をクリスティン自身の喉へと向かわせて行く。
「――思っていないさ…だから、こういう手を用意した!」
喉へと刃が食い込む寸前、強引に手首を捻り、僅かに位置をずらす。鎖骨に食い込む刃を強引に引き、逆に蛇のような複雑な軌道で、蛮蔵の足に刃を食い込ませる!
「……これで如何に隠れようとも、その場からは動けないだろう」
「ああ、そうだな」
――しかし、蛮蔵の声は飽くまでも落ち着いていて。
「逃げも隠れもする必要がないならば、こうするのが王道だろう」
両手を付き合わせる。現れたのは『日』『月』――彼の奥義である、ステルス能力と引き換えに3回行動を行う業!
既に足に食い込んだ刃を引き、更に手甲を叩くには速度が足りない。まさかこれを計算にいれて足を犠牲にしたのか。
「くそがっ!!」
ボルティアの振り下ろしも蛮蔵を襲うが、先ほども実証されたように、武器を腐食されサブウェポンもない状態では蛮蔵の技発動を妨害するのは困難。そしてジョージが倒れた以上、マッシュは量産型の迎撃で手一杯であり、こちらの援護まで手が回らない。
「『明』――!」
一瞬の閃光。次の瞬間、空中には連続で三つの文字が出現してた。『爆』一発目を、体勢を低くして耐え切るボルティア。だが、反撃できる前に、直ぐに二発目の衝撃波が襲い来て、煽られて後退してしまう。
――機銃銃座の連射から大刀で機銃弾を弾くミリア。酸弾である事は分かっていた…それでも、最愛の恋人を酸弾に晒す事は、彼女にはどうしてもできなかった。
「……必ず、勝ちます!」
腕に込められた力が、青い炎となって燃え上がる。刃の形に固められたその炎を、コーリアスに向けるアルマ。
「一発でだめなら、何度でも……!」
展開した氷で出来た魔法陣の上から、更にもう一枚、魔法陣を展開する。
今度こそ――一撃必殺。全ての集中力を、フィルメリアはその中に注ぎ込んでいた。
――リアの剣撃が、コーリアスへと降り注ぐ。牽制攻撃である……後ろに控える二人の為の。
伸びるマテリアルの刃。それにコーリアスは決して触れようとしない。元より彼の能力はマテリアルで形成された物には通用しない。故に――
カン。
伸ばされたマテリアルの刃を、硬化した腕が弾く。然し、戦士ではないコーリアスはその一撃で体勢を崩す。彼自身の力はそれ程ではないのだ。
その隙に、更に刃を全身の力で押し込むリア。腕に力を込める事を余儀なくされるコーリアス。次の瞬間、彼の襟元を、フィルメリアが掴んでいた。
「この距離なら……外しませんわ」
彼女の手に集まるエネルギー。そして――
「これで――最後ですっ!」
飛び掛るアルマ。
その瞬間、コーリアスの足元の『割れ目』が開き、一体の量産型が出現し、盾にならんとせり出る。
「使わせてもらいますよ!」
コーリアスの錬金術を無効化する。その筈だった銃を取り出し、出現した量産型に打ち込むアルマ。
特に変化は表面からは見られなかったが、一瞬、量産型が停止する。
「邪魔はさせないぜ!」
斬魔刀を無理やり振り回し、量産型を断ち切ろうと斜め一直線に振り下ろすミリア。
酸弾を受け止めた後では威力は足りず、飽くまでも体の半分ほどに食い込むに留まる。マテリアルの攻撃ではなかったが故に『受け流されなかった』事だけが救いか。
だが、これで量産型はもう動けまい。後は少し、攻撃位置を横にずらせば――
「『Molten Metal』」
逆の手でコーリアスが動かなくなった量産型に触れた瞬間、それは一瞬にして『溶けた金属』へと還元される。
飛散したそれは、フィルメリア、そして――アルマの目に向かって飛来する。一瞬にして熱した金属は彼らの目を傷つけ、そして固形化し……完全に彼らの視界を封じる。
「『仲間との繋がりがあれば』……確かに、その通りだね。――けれど」
パチン、と指を鳴らすコーリアス。
「――それは、僕たちも同じだ」
天井を駆ける蛮蔵。接近すると共に、両手を二度、打ち合わせ――空中に二つの文字を表示させる。
『爆』の爆音が、聴覚を一瞬ながらにして誤魔化し、
『颶』が、『コーリアスを狙って』放たれる。横に引き寄せ、動かされるコーリアス。そしてそれは、彼を掴んでいるフィルメリアもまた同じ。魔術師にしては力が高い彼女。しかしそれでも、体勢が崩され前のめりになるのは避けられない。――元々、コーリアスの居た場所に向かって。
そして、攻撃態勢に入っていたアルマもまた、これは想定しなかった。既にコーリアスは錬成能力を使用している。これ以上何かが出来るとは思わなかったのだ。
「やめろアルマ!!」
――一閃。
完全にそちらに全身が引っ張られておらず、直撃は避けた物の――アルマの光炎の剣は、フィルメリアの左肩から左脇腹までを、大きく引き裂いていた。
もしもまだ目が見えていたミリアの制止がなければ、これでも致命傷になっていた可能性はある。
「やりますね……ですが」
深く傷つけられたフィルメリア。意識を失う前に、溜め込んだ全ての魔力を、無事な方の手から、解き放つ。
腕が切られた故に襟は放したが、この距離ならば回避はされない。コーリアスの錬金術もまだ、次の一手は放てない。これならば――
「…油断しすぎだ、ご主人」
空中に浮かんだ文字は『峰』。石塊を盾にしながら突進、割り込んだ蛮蔵が、そのまま塊を盾にし、一撃を防ぐ。
だが、複数回の魔力増幅を経た一撃の威力は――彼らの予想をも超えていた。
細く。細く。氷の魔法陣を貫通し、研ぎ澄まされた一条の光は、石の盾を貫き、蛮蔵の体を打ち抜いていた。
●錬金術師の心
ポタ。ポタ。
血が滴り落ちる傷口を押さえながら、蛮蔵はコーリアスに語りかける。
「ゲームは…我らの負けですな。ご主人」
「そう思う?蛮蔵」
「……この時間に至ってもまだ、あの障壁は破られていない。攻勢は失敗したと考えるべきだ」
「……やれやれ、兵士の質が足りなかったか。次は――」
「このままでは次もご主人は負けるでしょうな」
蛮蔵が、コーリアスの言葉を遮った。
「先ほどの一撃。俺が間に入らなければ、ご主人は打ち抜かれていたでしょう」
無言になるコーリアス。
「最初から全力を出していれば。ゲームと言わず、全力で里を潰していれば、ご主人は勝利していたでしょう。わざわざ自分に不利な条件を付加しなければ、もう少し、楽に戦えたでしょう。そして最初から『殺す気で』人体錬成を厭わなければ、何人かは既に金の像と化していたでしょうな。それが今の状態になったのは――偏に、ご主人の油断と慢心だ」
構えるハンターたち。然し、飛び出す者はいない。
既に三人が倒され、残りの者の多くも、酸弾を受け武器が腐食されている。この場でコーリアスを取り殺す事は難しく、寧ろ彼に死に物狂いで暴れられた場合――ハンターたちから複数の死者が出る可能性も考えなければならない。
「蛮蔵の指摘はもっとも……どうやら、僕は、貴公らを著しく甘く見ていたようだね」
仮面の奥に光る目の、ハンターたちを見る目線が、少し変わった気がした。
遊び相手の割合が少し減り、殺意が少し増えた…そんな感じだ。
「でも、僕に遊びを止めることは出来ない。そんな事をしたら、僕は僕ではなくなってしまうからね」
蛮蔵を抱え上げ、振り返るコーリアスの口元に、残酷な笑みが。
「だから次は……もう少し『全力で遊んであげる』。手加減をするのは、寧ろ君たちにも失礼になるからね。もう『ハンデ』はいらないくらいに、強くなっているでしょ?」
立ち去るコーリアス。かくして、完全とは言えないものの、ハンターたちはこの戦に『勝利した』。
――だが、喜ぶべき事ばかりではない。
コーリアスの最後の宣言は、ハンターたち、しいては人類に対して。
――災いの前兆になるべき物、だったのだから。
この場で取り殺せなかった以上。勝利の報告と――そして、彼に対する対策を改めて練らなければならない。
そう考えて、ハンターたちは帰途についたのだった。
バン。
「そらよ!」
扉が大きく開かれるのと同時に、投げ込まれる物体。
ロレントに用意された爆弾であるそれが爆発し、爆煙を巻き上げた直後。その煙に乗じ、投擲の張本人――ボルディア・コンフラムス(ka0796)が、館内へと突入する。
「よし、今ですよ!」
「了解――!」
機銃掃射の如く投入される泥球。ハンター側も機械投射装置を用いた……と言う訳ではない。飽くまでもアルマ・A・エインズワース(ka4901)、そしてジョージ・ユニクス(ka0442)による手動の投擲だ。
「イタズラしちゃうですよー!」
そう言いながら投擲するアルマは、実に楽しそうだ。
「……何やら面白い事をしているね?……ふむ」
自身の目の前に巨大な壁を立て、爆風を防いだコーリアスが、興味深そうにその壁に付着した泥を見る。
「なるほどね。どうやら貴公たちは、僕の作ったギミックを誤解しているようだ」
得心が行ったとばかりに手をポンと叩くコーリアス。
実際、見回せば、泥が付着したのは壁、そして銃座のみ。目標であった蛮蔵、そして量産型マティリアには何れも命中している様子はない。
それはありえない筈の事だった。
アルマとジョージの投擲は、無差別と言っていい程の掃射。そこに立っているのならば、如何に素早くとも、泥の飛沫すら付着しないのはおかしいのだ。
(つまり、その場には少なくとも『今は』いない……そんな所かな?)
己の身に風の障壁を纏いながら、フワ ハヤテ(ka0004)は、静かに状況を観察していた。
泥球への反撃とばかりに、四方からせり出す銃座。一斉掃射がアルマとジョージを入り口から退けると同時に、それに乗じ、如何なる理か、銃座の後ろに二体、量産型マティリアが出現していた。
バン。バン。
疾風の如く駆けるバイクが二体の間を駆け抜け、泥球をぶつけていく。
「そこかぁ! 皆、跳べぇ!」
「了解。巻き込まれるのは勘弁だ」
突進するボルティアの意を察し、バイクの騎手――クリスティン・ガフ(ka1090)が、大きく旋回し、入り口の方へと距離を取る。
掃射される機銃を斧でガードしながら突進。全ての中央に至ったかと思うと、大きく、その斧を振り上げるボルティア。
「おまえら全員……止まりやがれぇぇ!」
ドン。地面に突き立てられる斧が地を割り、局地的な地震を引き起こし、彼女に飛び掛ろうとした量産型マティリア二体の動きを止める。
「そして……砕けやがれぇぇ!」
引きずるようにして二回転。地面に擦り付けた斧が、炎の顎を纏う。友の祈りが、その炎を一段と大きく、膨張させる。
横薙ぎに斧を振るえば、炎の顎が、今にも逃げる術を失った量産型マティリアたちを飲み込まんと迫る!
ガキン。
「なっ……!?」
見れば、炎を纏った筈の斧は、量産型マティリアの表面装甲に止められていた。
鋼をも断つはずのその一撃。たとえ超硬度の装甲を纏おうとも、まともに食らって一歩も下がらないと言うのは、ありえない筈だった。
然し、防御したその理は判らずとも、ハンターたちの攻勢が、ここで終わるはずもまたなし。
「邪魔な砲台は凍らせちゃおうね」
ハヤテの展開した魔法陣が銃座を取り囲み、吹き荒れる氷雪が、それを凍結せしめる。
だが、砲座の展開は比較的にまばら。恐らくその射程から、同じ箇所に多く設置しても意味がなく、逆にお互いがお互いの射線を邪魔してしまう――と言う判断なのだろう。故に吹き荒れる氷雪は、一度に1-2体を凍結させるのが限界。
だが、攻め込むハンターたちにとっては『それで十分』。それを示すかのように、銃撃の合間を縫って、再度クリスティンは突撃していた。
地面を擦る刃先が、火花を散らす。
すれ違いさまの一閃が、量産型の装甲に大きなヒビを入れる。反撃が届くその前に、バイクの機動力を生かして射程外に離脱している。凍結が解けた機銃からの掃射が浴びせられる物の、その衝撃力はバイクを横転させるには至らず。寧ろバイクを盾にするように、クリスティンは離脱に成功する。
「やれやれ」
捻じ曲がって見えるその弾丸に、なんとなく嫌な予感はしていた。それ故にハヤテは、機銃弾にあたる事を避けていた。幸いにも風の加護を受けた彼ならば、銃弾をほぼ全て回避する事もまた、不可能ではなかった。
「っ――!」
だが、弾丸を回避し、反撃の魔法陣を展開したその一瞬。僅かな隙を突くように、彼の後ろには、量産型マティリアが出現していた。
それは正しく、テトが報告していた通りの、まるで瞬間移動のような出現。だが、既にそこに居た二体が動いた形跡はない。つまりそれは――
(突然出現したって事ね……!)
「Binding Ground」
回避しようとした瞬間。足が地面に絡め取られる。奥に居るコーリアスの仕業だろう……この館自体が彼の被造物故に、この館の中に於いては彼はありとあらゆる方向から錬成による攻撃を仕掛けられる。これさえなければ、疾風の加護を受けたハヤテは、奇襲とはいえその掴みを回避できたはずだった。
がっしりと、腰に手を回すように掴まれる。そのままスープレックスで頭から地面に叩き付けられる。
「面倒な事をしてくれるね……!」
魔法陣と共に放つはずだった氷結の魔力を無理やり両手に込め、そのまま自らをロックしている量産型マティリアの両腕から、更に流し込む。
その敵の背後に吹き荒れる氷雪が、流し込まれた魔力の壮絶さを物語る。一瞬にして凍結により量産型の行動が停止する。
だが、それは敵の攻勢が止まったと言う事では決してない。
――何故今まで、量産型マティリアが二体しか出現せず、フィルメリア・クリスティア(ka3380)を筆頭とするコーリアス対応班を奥に通したのか。
それは、コーリアスが己の対応能力に自信があったのが一つ。
だがもう一つは、彼の作戦。広く、目標を散らす事により、ハンターたちを分散させ……孤立した者を出現した『増援』によって叩く事。館のギミックは、その為に仕込まれていた物だ。
「……ふん」
足音はしない。だが。僅かな空気の動きが、『それ』が出現した事を伝える。
――『天井を駆け』、まるで空気から固形化したかのように、歪虚『甲鬼 蛮蔵』が出現する。
泥球の乱射が彼に届かなかった理由は明白。投射が水平射撃の体を取っており、天井、しかも非常事態対応のためコーリアス寄りに居た彼の高さに届かなかったからだ。
その彼が出現した理由はただ一つ。――攻撃の機がやってきたからだ。
回復役であるアニス・エリダヌス(ka2491)は既にコーリアスの空気氷弾を浴びせられていた前衛の回復の為前進していた。直ぐに引き返そうとするが、出現した量産型にその道を塞がれる事となる。距離を大きく取ったハヤテは…近接を中核とする殆どの味方と、大きく離れていたのだ。
「邪魔――しないでください!」
その身に宿す魔力が、光の花に変換させ、その蕾を開く。光は周囲に居た敵の全てを焼くが、致命打…一撃必殺には至らず。寧ろその一部は、まるで量産型の体内で循環されるように回転した後、空気中に光の粒子として放出されていた。
(対マテリアル防御――!?)
ダメージがない訳ではない。だが、推定していた物よりはずっと低い。恐らく魔術に対して働く一種の『受け流し』のような物だろう。この僅差で、アニスは一手多く、足止めされる事になる。そして、その一手が……この状況に於いては、影響を及ぼす事になる。
空中から襲い掛かる蛮蔵。既に掴まれている状況では、ハヤテに回避は望むべくもなし。ならば――!
「迎撃するしかないね」
冷静に体を捻り、凍結した量産型を蛮蔵の方向へと向けて盾とすると共に、両手の間に強烈な電撃を発生させる。
それは蛮蔵から見ると死角の位置で行われ、故に奇襲となる。蛮蔵の出現を察知したマッシュ・アクラシス(ka0771)、そしてジョージが既に向かってきている。もう一手あればアニスも障害を破砕できるだろう。つまり――この一手さえ乗り切れば、ハヤテはピンチを脱せる。
「纏めて……貫いちゃうよ!」
放たれる直線の雷撃が、間に挟まった量産型を貫通。そのまま一直線に、矢の如く蛮蔵に襲い掛かる。たとえ打ち倒せずとも、攻撃を遅らせる事が出来れば、それだけで目的は達成できる。
「討ち取らせてもらおう……!」
両手を打ち合わせる蛮蔵。作られし文字は『峰』。そのまま土塊を盾のように使い、空中からの蹴撃が正面から雷撃と衝突する!
バン。
土塊の盾の一部が弾け飛び、雷撃が蛮蔵の脇腹を掠め、焼け焦げた跡を残す。属性ではハヤテの雷撃の方が有利だ。
だが、傷を負って尚、蛮蔵の突撃は止まらない。
「ふん……!!!」
土の刃による突破は、氷結した量産型を貫き、『それ』ごと、ハヤテを貫き、地面に縫い付けた。
●開かれる手札
「そこだったか……!」
量産型の相手をしながらも蛮蔵を探索していたクリスティンが、目標の出現に対してバイクを回転させ、帰還しようとする。しかしその瞬間、
「!?」
バイクのが停止し、転倒する。投げ出されたクリスティンが見たのは、動力源につながるパイプの一本が、まるで何かに『溶解』されたかのように破壊されていた事。
――そう言えば、機銃銃座の攻撃は『実体弾』にしては衝撃力が低かった。まさか――
――同じ疑問を、量産型相手に奮闘を繰り広げていたボルティアもまた感じていた。
まるで、自身の攻撃力が下がっているようなそんな状況に、武器を観察してみれば。刃の部分が溶解され、鈍くなっていた。
その状況に繋がる原因は一つしか思い当たらない。突入時に機銃弾を武器で受け止めた事のみ。
何故、弾が歪んで見えたのか。それは弾が『固体』ではなく、発射の加速度で歪んだと言う事ではないのか。
(酸液弾…!?)
「機銃弾は受け止めるな!装備を溶かされるぞ!」
その結論は、直ぐに全ハンターの間で共有される事になる。
「いやはや、そう言う事なら、利用させてもらいましょう」
蛮蔵へ向かう途中で量産型に阻まれたマッシュは、それを聞き、即座に戦法を変更する。二刀による連撃で目の前の量産型の注意を引くと、踊るようなステップを踏み、回り込むように自らと銃座で量産型を挟み込むような位置取りをする。
銃座は無差別に攻撃を行い、液体弾を量産型に浴びせる。
「さて、これで弱りましたかね?」
追撃をすべく、両剣を交差させ、振り下ろそうとした瞬間。異変に気づくマッシュ。
(溶けていない……!?)
即座に剣を引き、バックステップで大きく距離を取る。瞬間。彼の居た位置を、振り払われた酸液の雫が通り過ぎた。
――考えてみれば、兆候はあった。テトの証言では、彼女が偵察に入った際も、機銃は量産型が居ても遠慮のない銃撃を仕掛けてきたと言っている。若しもそれで量産型がダメージを受けたとしたら、科学者でもあるコーリアスの事だ。その弱点を修正するような改造が施されてしかるべきだろう。
連続で拳打を繰り出してくる量産型。体の一部に酸液が付着している事もあり、近接型であるマッシュにはうかつには手は出せない。幸いにして動きは速くはないため、隙を突いて酸液のない部分を突きで攻撃し、破壊する事でダメージは与えられているが――
「面倒ですね……」
付着している分もさることながら、拳打が繰り出されるごとに予測不能な方向へと飛散する液の回避は困難で、それを強行するマッシュの疲労は予想以上に累積していた。
一方。蛮蔵側。
「っ……!」
斬撃からの拳打と見せかけ、ジョージが盾裏に隠していた泥球を蛮蔵に叩き付ける。
「これで……もう逃げ隠れはできない……!」
「……本当にそう思うのか?若人」
機銃弾が蛮蔵に浴びせられ、それを服の『泥の付いた箇所』で受ける蛮蔵。酸が泥を溶かし、一瞬にして清潔にする。
――機械である量産型マティリアが素材の特性により酸に抵抗したのは理解できる。しかし、蛮蔵までもが酸弾を無効化してきたと言う事は……
(存分に準備してきた……と言う事か……!)
――そもそも、この館はコーリアスのホームグラウンド。故にこの中のギミックは、彼によって、相互作用も含め考え抜かれていると思っていいだろう。自陣のギミックによる同士討ちは、何か氏らの方法で誘発しない限りは期待できないと思っていい。
描かれる『炮』の文字。降り注ぐ炎の雨が、ジョージの体力を削っていく。
ジョージの奥の手の帝王の剣は、射程内に応報する相手を捉える必要がある。――中距離からの強襲が多い蛮蔵とはいささか相性が悪い。所持武器が至近距離のみに届く大斧であれば尚更だ。
だが、ここで、バイクを捨て接近したクリスティンが、終に蛮蔵を射程距離に捉える。同時に時間はかけたが、強引にその腕力のみで量産型の一体を粉砕したボルティアもまた、蛮蔵に接近していた。
「おっと、向かわせませんよ」
マッシュの手から放たれる無数の突きが、壁のようになり、応援に向かおうとした量産型を阻む。
「こちらに集中させていただきましょうか」
魂を燃やし、ジョージが敵の注意を引き付ける。その光に蛮蔵が注意を裂いたのは、僅か一瞬。だが、それで十分だった。
「はぁっ!」
クリスティンの一撃が蛮蔵の手甲に直撃し、干渉を受けた漢字がその場に霧散する。
ひたすら蛮蔵に『仕事をさせない』、即ち彼の技の形成を妨げるのがクリスティンの作戦。
そして、その上から、手甲を狙って大振りの振り下ろしが放たれる!
「砕けろ!」
カン。ボルティアの全力の一撃は、然し蛮蔵に受け止められ、弾かれる。やはり武器が腐食されている状態では威力が足りないのか、漢字を霧散させられていない。故にクリスティンの次撃の前に、逆立ちの様な姿勢から『爆』が放たれる。半分を四散させられた際は、再構築にかかる時間もまた『半分』と言う事か。
広がる爆煙。土煙が静まった時、そこに蛮蔵の姿はない。またどこかに隠れたのか。そう考えたボルティアが鼻に神経を集中させ、隠蔽先を探知すべき努力する。
――蛮蔵のステルスは確かに強力だ。然し――この近距離で超嗅覚を誤魔化しきる程ではない。
直ぐにとは行かなかった物の、ボルティアは場所の特定に成功する。そして、その場所は――
「ジョージ、後ろだ!!」
「!」
咄嗟に盾を構え、反撃の用意をする。
いきなり空中に『爆』の文字が描かれ、爆発により吹き飛ばされる。反撃は爆発により距離が広がった為届かず、壁に叩き付けられる。
――奇襲を防げなかった原因の一つには、作戦の齟齬もまた存在する。
一部のハンターたちは味方からの煙幕弾投擲に期待していた。だが、誰一人として、その発煙デバイスを用意せず、また投擲の準備もしなかった。
それ故に煙幕実行時に行うべきプランは全て無効化され……蛮蔵の襲撃に繋がったのである。
そして、蛮蔵の攻撃によって吹き飛ばされたジョージに、出現した量産型たちが殺到する。ソウルトーチで注意を引いた以上、仕方ない事であるのだが。
「もう少し耐えてください。今――!」
アニスの放つ癒しの光が、蛮蔵の一撃で傷ついたジョージを回復させる。元より彼の防御力は低くはない。このまま耐え切る事は不可能ではない。
「邪魔だ、女」
『颶』。巻き起こる風が、アニスを押し飛ばし、ジョージをヒールの射程外に外す。全速力でクリスティンが蛮蔵の方へと向かうが、バイクの機動力を失った今では一手で接近と攻撃の両方を行うのは不可能。
「っ!?」
マッシュが相手をしていた目の前の量産型が、一瞬で消失する。即座に周りを見渡すが、その姿はない。武器を振り回しても命中しない事から、確かにその場から消えたようだ。
だが、周囲に撒き散らされたたいまつの灯りを頼りに注意深く観察してみれば、消えた場所の地面には、例の『割れ目』が。
(まさか……!?)
その推測は、振り返った瞬間実証される事になる。
割れ目が開いた。そう思えた瞬間、そこから量産型が出現していた。
咄嗟に、一撃を剣で受け止める。モーター音と共に、大きく押し出される。
(つまり、瞬間移動ではなく……ある個体を引っ込めるとともに、他の個体を別の出入り口から出したと言う事ですか……!)
このトリックが成立したのは、量産型たちが『量産型』故にまったく同じ外見をしていた事。そして、テトが偵察に集中していて、攻撃をしなかった事。瞬間移動元の個体の表面装甲に傷が付いてしまえば、それが真なる瞬間移動ではないことは、容易に気づかれていたはずだ。
その事実は、直ぐに、マッシュの口から、ハンター全員に伝えられる。
直後、彼は、切り捨てた量産型の残骸を出入り口に押し込むが…ばらばらの残骸であるが故に、封鎖する事は出来ず、出現する新たな量産型によって残骸が押し飛ばされる事となる。
●玉座への突撃
「邪魔だぜ……っ!」
巨大な刀の一閃が、量産型の一体を両断する。
ミリア・エインズワース(ka1287)、そして仁川 リア(ka3483)が両サイドから接近する量産型を迎撃した隙に、フィルメリアとアルマは、敵の大将――コーリアスを、その射程内に捉えていた。
「貰いましたよ――!」
接近と共に、腕に宿した蒼の炎を開放する。義手たるその右腕から、伸びる光炎の刃。
「コーリアスさん。僕、最近貴方の気持ちが少しわかる気がします。ほんの少しだけですっ」
初手から全力。手加減や長期戦などは一切考えていない。それが、今出せる彼の『最強の一撃』
「ほう」
「あんな出会い方でなければ、いいお友達になれたかもしれないですね?」
立ちはだかる、巨大な壁。ここまでは予想済み。
「だから、一緒に遊びましょう……命がけで!」
その為にタイミングをずらし、全力を込めた一閃。
だが、コーリアスとて、一度は脇腹に強烈な一撃を貰ったアルマの事を忘れた訳ではない。それ故に、彼の火力に耐えられるかの『実験』として、己が錬成できる『最強の素材』を以って、壁を立ち上げたのだ。幸いにも戦闘が開始した瞬間、アルマが向かってきたのは見えていた。――準備の期間は、僅かとは言えあった。
「Forge……『Multilayer Crystaline』」
油断はない。故に通常の砲撃の距離に入った時点で、アルマのマテリアル流に異変を観察した瞬間に……彼は壁を作り上げた。
キン。
「……やるね。五層障壁を四層まで割られるとは」
必殺の一閃は、然し壁を割るにギリギリには至らない。金属以上の硬度は想定していたが、どうやら熱やエネルギーにある程度耐性のある素材のようだ。それでも破壊ギリギリまで切り込んだと言う事実が、アルマの魔力の高さ、そして彼の技の強さを物語っていた。
「今なら、割れますわよね?」
放たれる砲撃。それは、アルマと同様に、エネルギーを重ねて強化された物。
氷を彷彿させる形、構造で展開された魔法陣。フィルメリアが放った一撃は、それを通過、増幅され、一寸違わずにアルマが斬撃を浴びせた箇所に命中した。
「っ……!」
貫通。
仮面に覆われたコーリアスの表情は正確に視認し難いものであったが、肩を打ちぬかれ、僅かに口元が歪んでいたのを、急速接近していたリアは確認していた。酸機銃弾をフィルメリアが剣で受け止めておらず腐食の効果を受けていなければ、もっとダメージは大きくなっていたはずである。
「少しでも時間を稼がせてもらうよ」
「うちの隊長がお世話になったみたいだし僕も相手して貰おう」
一撃が重いミリアの重撃と、速度に任せたリアの高速の連閃。それを硬化させた両腕でそれぞれ受け止めるが、貫通能力を持つミリアの突きはこの方法では受け止めきれず、僅かに装甲が割れ、出血する。
そのまま間合いを離すかのように、後退するコーリアス。今までほぼ全ての戦いで『動かずにして迎撃を行った』彼には、あまり見られない行動だ。近接攻撃が主体であるハンターたちは、そのまま追いすがる様に接近。次撃に備える。
「一人の攻撃じゃ君は倒せない、でも仲間との繋がりがあれば!」
――アルマとフィルメリアが採った「チャージにより攻撃の威力を増す」戦法は、威力の増大と引き換えに著しい『手数の低減』と言うデメリットがあった。それをミリアとリアの牽制攻撃が補うと言う形になっていたのだ。正しくリアの言う通り、連携が彼を圧倒していたのだ。
「確かにそうかもしれないね」
後退したコーリアスの周囲から、機銃銃座が出現する。
「だけど――」
●連携の行方
「ぐっ……!」
「そんな!?」
ステルスで場所を変えながら、アニスを『颶』で引き寄せ続け、ジョージを回復の対象から外し続けた蛮蔵の策略により、終にジョージが倒れる。自己回復だけでは、増え続ける量産型に対応し切れなかったのだ。
「放たせはしない!」
その蛮蔵に追いついたクリスティン。乱打が手甲を狙って振り下ろされ、術式を妨害する。
「ふん……この蛮蔵、魔術だけかと思ったか?」
猛烈な蹴撃が、刀の背を叩き、押し切るように逆に刃をクリスティン自身の喉へと向かわせて行く。
「――思っていないさ…だから、こういう手を用意した!」
喉へと刃が食い込む寸前、強引に手首を捻り、僅かに位置をずらす。鎖骨に食い込む刃を強引に引き、逆に蛇のような複雑な軌道で、蛮蔵の足に刃を食い込ませる!
「……これで如何に隠れようとも、その場からは動けないだろう」
「ああ、そうだな」
――しかし、蛮蔵の声は飽くまでも落ち着いていて。
「逃げも隠れもする必要がないならば、こうするのが王道だろう」
両手を付き合わせる。現れたのは『日』『月』――彼の奥義である、ステルス能力と引き換えに3回行動を行う業!
既に足に食い込んだ刃を引き、更に手甲を叩くには速度が足りない。まさかこれを計算にいれて足を犠牲にしたのか。
「くそがっ!!」
ボルティアの振り下ろしも蛮蔵を襲うが、先ほども実証されたように、武器を腐食されサブウェポンもない状態では蛮蔵の技発動を妨害するのは困難。そしてジョージが倒れた以上、マッシュは量産型の迎撃で手一杯であり、こちらの援護まで手が回らない。
「『明』――!」
一瞬の閃光。次の瞬間、空中には連続で三つの文字が出現してた。『爆』一発目を、体勢を低くして耐え切るボルティア。だが、反撃できる前に、直ぐに二発目の衝撃波が襲い来て、煽られて後退してしまう。
――機銃銃座の連射から大刀で機銃弾を弾くミリア。酸弾である事は分かっていた…それでも、最愛の恋人を酸弾に晒す事は、彼女にはどうしてもできなかった。
「……必ず、勝ちます!」
腕に込められた力が、青い炎となって燃え上がる。刃の形に固められたその炎を、コーリアスに向けるアルマ。
「一発でだめなら、何度でも……!」
展開した氷で出来た魔法陣の上から、更にもう一枚、魔法陣を展開する。
今度こそ――一撃必殺。全ての集中力を、フィルメリアはその中に注ぎ込んでいた。
――リアの剣撃が、コーリアスへと降り注ぐ。牽制攻撃である……後ろに控える二人の為の。
伸びるマテリアルの刃。それにコーリアスは決して触れようとしない。元より彼の能力はマテリアルで形成された物には通用しない。故に――
カン。
伸ばされたマテリアルの刃を、硬化した腕が弾く。然し、戦士ではないコーリアスはその一撃で体勢を崩す。彼自身の力はそれ程ではないのだ。
その隙に、更に刃を全身の力で押し込むリア。腕に力を込める事を余儀なくされるコーリアス。次の瞬間、彼の襟元を、フィルメリアが掴んでいた。
「この距離なら……外しませんわ」
彼女の手に集まるエネルギー。そして――
「これで――最後ですっ!」
飛び掛るアルマ。
その瞬間、コーリアスの足元の『割れ目』が開き、一体の量産型が出現し、盾にならんとせり出る。
「使わせてもらいますよ!」
コーリアスの錬金術を無効化する。その筈だった銃を取り出し、出現した量産型に打ち込むアルマ。
特に変化は表面からは見られなかったが、一瞬、量産型が停止する。
「邪魔はさせないぜ!」
斬魔刀を無理やり振り回し、量産型を断ち切ろうと斜め一直線に振り下ろすミリア。
酸弾を受け止めた後では威力は足りず、飽くまでも体の半分ほどに食い込むに留まる。マテリアルの攻撃ではなかったが故に『受け流されなかった』事だけが救いか。
だが、これで量産型はもう動けまい。後は少し、攻撃位置を横にずらせば――
「『Molten Metal』」
逆の手でコーリアスが動かなくなった量産型に触れた瞬間、それは一瞬にして『溶けた金属』へと還元される。
飛散したそれは、フィルメリア、そして――アルマの目に向かって飛来する。一瞬にして熱した金属は彼らの目を傷つけ、そして固形化し……完全に彼らの視界を封じる。
「『仲間との繋がりがあれば』……確かに、その通りだね。――けれど」
パチン、と指を鳴らすコーリアス。
「――それは、僕たちも同じだ」
天井を駆ける蛮蔵。接近すると共に、両手を二度、打ち合わせ――空中に二つの文字を表示させる。
『爆』の爆音が、聴覚を一瞬ながらにして誤魔化し、
『颶』が、『コーリアスを狙って』放たれる。横に引き寄せ、動かされるコーリアス。そしてそれは、彼を掴んでいるフィルメリアもまた同じ。魔術師にしては力が高い彼女。しかしそれでも、体勢が崩され前のめりになるのは避けられない。――元々、コーリアスの居た場所に向かって。
そして、攻撃態勢に入っていたアルマもまた、これは想定しなかった。既にコーリアスは錬成能力を使用している。これ以上何かが出来るとは思わなかったのだ。
「やめろアルマ!!」
――一閃。
完全にそちらに全身が引っ張られておらず、直撃は避けた物の――アルマの光炎の剣は、フィルメリアの左肩から左脇腹までを、大きく引き裂いていた。
もしもまだ目が見えていたミリアの制止がなければ、これでも致命傷になっていた可能性はある。
「やりますね……ですが」
深く傷つけられたフィルメリア。意識を失う前に、溜め込んだ全ての魔力を、無事な方の手から、解き放つ。
腕が切られた故に襟は放したが、この距離ならば回避はされない。コーリアスの錬金術もまだ、次の一手は放てない。これならば――
「…油断しすぎだ、ご主人」
空中に浮かんだ文字は『峰』。石塊を盾にしながら突進、割り込んだ蛮蔵が、そのまま塊を盾にし、一撃を防ぐ。
だが、複数回の魔力増幅を経た一撃の威力は――彼らの予想をも超えていた。
細く。細く。氷の魔法陣を貫通し、研ぎ澄まされた一条の光は、石の盾を貫き、蛮蔵の体を打ち抜いていた。
●錬金術師の心
ポタ。ポタ。
血が滴り落ちる傷口を押さえながら、蛮蔵はコーリアスに語りかける。
「ゲームは…我らの負けですな。ご主人」
「そう思う?蛮蔵」
「……この時間に至ってもまだ、あの障壁は破られていない。攻勢は失敗したと考えるべきだ」
「……やれやれ、兵士の質が足りなかったか。次は――」
「このままでは次もご主人は負けるでしょうな」
蛮蔵が、コーリアスの言葉を遮った。
「先ほどの一撃。俺が間に入らなければ、ご主人は打ち抜かれていたでしょう」
無言になるコーリアス。
「最初から全力を出していれば。ゲームと言わず、全力で里を潰していれば、ご主人は勝利していたでしょう。わざわざ自分に不利な条件を付加しなければ、もう少し、楽に戦えたでしょう。そして最初から『殺す気で』人体錬成を厭わなければ、何人かは既に金の像と化していたでしょうな。それが今の状態になったのは――偏に、ご主人の油断と慢心だ」
構えるハンターたち。然し、飛び出す者はいない。
既に三人が倒され、残りの者の多くも、酸弾を受け武器が腐食されている。この場でコーリアスを取り殺す事は難しく、寧ろ彼に死に物狂いで暴れられた場合――ハンターたちから複数の死者が出る可能性も考えなければならない。
「蛮蔵の指摘はもっとも……どうやら、僕は、貴公らを著しく甘く見ていたようだね」
仮面の奥に光る目の、ハンターたちを見る目線が、少し変わった気がした。
遊び相手の割合が少し減り、殺意が少し増えた…そんな感じだ。
「でも、僕に遊びを止めることは出来ない。そんな事をしたら、僕は僕ではなくなってしまうからね」
蛮蔵を抱え上げ、振り返るコーリアスの口元に、残酷な笑みが。
「だから次は……もう少し『全力で遊んであげる』。手加減をするのは、寧ろ君たちにも失礼になるからね。もう『ハンデ』はいらないくらいに、強くなっているでしょ?」
立ち去るコーリアス。かくして、完全とは言えないものの、ハンターたちはこの戦に『勝利した』。
――だが、喜ぶべき事ばかりではない。
コーリアスの最後の宣言は、ハンターたち、しいては人類に対して。
――災いの前兆になるべき物、だったのだから。
この場で取り殺せなかった以上。勝利の報告と――そして、彼に対する対策を改めて練らなければならない。
そう考えて、ハンターたちは帰途についたのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
- エイル・メヌエット(ka2807) → フィルメリア・クリスティア(ka3380)
- シガレット=ウナギパイ(ka2884) → ボルディア・コンフラムス(ka0796)
- デュシオン・ヴァニーユ(ka4696) → フィルメリア・クリスティア(ka3380)
- 高橋 鑑連(ka4760) → ボルディア・コンフラムス(ka0796)
- ルーファス(ka5250) → フィルメリア・クリスティア(ka3380)
- 夜桜 奏音(ka5754) → アルマ・A・エインズワース(ka4901)
- エステル(ka5826) → アルマ・A・エインズワース(ka4901)
- セリナ・アガスティア(ka6094) → アニス・エリダヌス(ka2491)
- 五百枝春樹(ka6324) → アルマ・A・エインズワース(ka4901)
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ロレントさんへの質問 フィルメリア・クリスティア(ka3380) 人間(リアルブルー)|25才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/09/26 12:10:28 |
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コーリアス撃退or殺害へ向けて フィルメリア・クリスティア(ka3380) 人間(リアルブルー)|25才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/09/27 12:00:50 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/09/27 02:03:54 |
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確認卓 ロレント・フェイタリ(kz0111) 人間(リアルブルー)|37才|男性|一般人 |
最終発言 2016/09/27 01:20:00 |