• 猫譚

【猫譚】再侵攻の巨大ヒツジ

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/09/29 09:00
完成日
2016/10/07 02:08

みんなの思い出

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オープニング

 グラズヘイム王国西部・リベルタース地方は、海を挟んでイスルダ島と接する、王国における対歪虚戦闘の最前線である。
 そのリベルタースの防衛を一手に担う王国最重要拠点・ハルトフォート砦は、緊迫した空気に包まれていた。黒大公べリアルによる王都侵攻以来となる大規模な戦力が、西の海岸線から上陸して来たのである。
「敵は羊型歪虚。総数知れず」
 その報告を狼煙で上げるや否や、海岸線の哨戒を担う『防人』たちは監視塔や前線陣地を放棄し、ハルトフォートへと撤収した。
 敵は長い海岸線の広い範囲にわたって、散発的に上陸を果たしていた。
 彼らは内陸に侵攻する。
 各所へ放たれたハルトフォートの偵察隊が、密かにその動向を探る……

 砲戦ゴーレムの開発実験中に、侵攻して来る巨大ヒツジの迎撃を余儀なくされた実験隊は、どうにか大型ヒツジを撃退(?)した後、無事、ハルトフォートへと帰還した。
 砦は喧騒の只中にあった。『商店街』では多くの出入りの商人たちが屋台を畳んで馬車の列なし、砦外への避難を余儀なくされていた。その傍らを慌ただしく駆けていく兵たち── 倉庫からは出来立ての新造砲も含め、ありったけの装備・大砲が引き出され、未だ旧式で心許ない城壁の守備へと駆り出される……
「特殊兵站幕僚殿。ラーズスヴァン閣下がお呼びです。司令部までお越しください」
 実験隊の責任者──責任者でありながら隊長ではないのがまたややこしい話だが──ジョアン・R・パラディールは、到着するや否や砦司令に呼び出された。刻令術師エレン・ブラッドリーにその場を任せ、ポツポツと大砲が並ぶコートヤードを抜けてタワーハウスへと入る。
 司令部へと入ると、喧々と交わされる人の声と人いきれの熱がジョアンを包んだ。王国最重要拠点の一つ、ハルトフォート砦── その司令部には、王都の近衛、騎士団、教会の聖堂戦士団と並び、王国でも最優秀の軍人たちが集められている。
「来たか、小僧」
 入室に気づいたラーズスヴァンが声を掛けると、その幕僚たちが一斉にジョアンを振り返った。その『圧』に怯みつつ、敬礼を返すジョアン。それきり興味をなくしたという風にそれぞれの思案に戻る幕僚たちの中で、(形式上)直接の上司である兵站幕僚だけが「お疲れ」とでも言う風に微笑を浮かべてくれた。
「で、どうじゃった? 巨大ヒツジの方は」
 ラーズスヴァンの言葉に、再び幕僚たちの視線が──今度は強い興味をもって──ジョアンに突き刺さる。
 再び気圧されつつ、ジョアンは砲戦ゴーレムの実験の様子を、幕僚たちの視線に急かされ流しつつ、交戦を経て得た大型ヒツジの情報を詳細に報告した。
 報告を聞いた幕僚たちの表情が険しくなった。
「高威力長射程の怪光線か……」
「やはり、こちらから打って出る必要が……」
 嫌な予感。ジョアンは恐る恐る発言を求め、いったい何が起こっているのか、尋ねた。
「いったい何が…… 大型ヒツジなら既に我がゴーレム隊(とハンターたち)が撃退したはずですが……」
「既に再侵攻を開始している。海水で身体を洗って『お召替え』を済ませたみたいだ」
「……それは砦で迎え撃つつもりで……?」
「伝え聞く大型ヒツジの怪光線相手に、未だ星形要塞への改装を終えていないこの砦の城壁では耐え切れん。奴を近づけさせるわけにはいかん」
 つまり、誰かが大型ヒツジを潰しに打って出る必要がある── 嫌な予感が当たった、とジョアンは内心で肩を落とした。大型ヒツジを相手にそれを成し得るのは砲戦ゴーレム実験隊の他になく。それも未だ実験中の代物とくれば、実験に同行していたハンターたちのユニットに頼らざるを得ない。
「今からハンターズソサエティにユニットの派遣を要請しても、敵の第一撃には間に合わん。であれば、手持ちの戦力でどうにかやりくりするしかない」
 そうだろうなぁ、とジョアンは心中で嘆息した。とは言え、この場にいる殆どの者が砲戦ゴーレムには期待していない。彼らが期待しているのはハンターたちの戦力だ。……砲戦型ゴーレム──正確には『大砲運用に特化した刻令ゴーレム』──を預かる実験隊の責任者としては、内心、忸怩たるものがある。
 そんなジョアンの想いに気付いたのか、砲戦ゴーレム開発の『総責任者』であるラーズスヴァンがニヤリと笑った。
「まあ、そう腐るな、小僧。ゴーレムの実験用に作ったばかりの、ほやほやの実験装備を持たせてやるから」
 ……ジョアンには、ラーズスヴァンの笑みが悪魔のそれに思われた。

 同刻、実験隊の置かれた砦のベイリーの一つ──
 数日後、或いは数刻後に始まるかもしれない砦の攻防戦に備え、ゴーレムの補修と補給を急がせるエレンの元へ、見知らぬ3人のドワーフたちが訪れた。
 エレンの見知らぬ顔だった。彼女が実験の為に砦から出ている間に新しく入った技術者だろうか? 例えば、ラーズスヴァンが同族の伝手を頼って招聘していた人たちとか。
「おおっ、こいつがゴーレムか!」
「うむ、見事に図面通りの寸法じゃ」
「これなら急ぎ作っておった試作装備も問題なく装着できるぞい」
 挨拶もそこそこに──故にエレンは彼らの名前を覚えることができなかった──3人は砦の半地下工房の職人たちに合図を出し、滑車と兵隊たちを使って、彼らの言う『試作装備』をエレンたちの前に引き出した。
「以前より注文のなされていたゴーレム用の『鎧』──増加装甲と、『置き盾』だぞい」
「ゴーレムを『歩兵の盾』としての運用する場合を想定した装備だそうじゃ」
「重量がある為、40ポンド砲との併用はまずできないが……まあ、20ポンド砲であれば問題なかろう」

 準備を終え、実験隊は再び砦を後にする。
 なんやかんやで自分は食事を取る暇もなかったが、エレンや作業員たちは休む時間を取れただろうか。そんな事を思いながら、先程東進してきたばかりの道を逆進して行く。
 ラーズスヴァンは実験隊の為に、露払いの騎兵部隊を付けてくれたが、彼らの出番は殆どなかった。
 彼らの行く手に──大型ヒツジの前面に、敵は殆どいなかった。その不自然さに若干の違和感を感じたものの、それが指向性を得る前に『ソレ』が彼らの目の前に現れた。
「敵大型ヒツジ×1、道路上を東進中! 敵は人型羊、20を伴う!」
 そう報告するや否や、騎兵たちはその馬首を巡らせて実験隊から離れていった。大型ヒツジの周囲に展開する他の人型羊たちを蹴散らしにいったのだ。
 互いに健闘を祈りながら走り去っていく騎兵隊。ジョアンは両手で頬を叩き、気合を入れ直した。眼前の大型ヒツジに人型30──これは僕たちの割り当てだ。
 ずれた眼鏡を直しながら、ジョアンは皆を振り返った。
「各ユニット、展開開始。目標、前方の大型羊を撃破せよ!」

リプレイ本文

 休憩時間もそこそこに、とりあえず飯だけかっ食らい── ゴーレム実験班とハンターたちは、騒然とするハルトフォート砦を後にした。
 ジョアンやエレンたち実験班の面々が乗る馬車の車列を中心に、ハンターたちの機体が周囲へ展開し── 周囲を警戒しつつ、西へと続く道の左右をドシン、ドシンと進んでいく……
「A1が欠けたのが痛いね。はたして火力が足りるかどうか」
 疲れも知らずに歩き続けるゴーレムの後に続きながら、メイム(ka2290)がその背を見上げて、唸った。
 そうなのか、と呟く五百枝春樹(ka6324)。そうなのよ、と返すメイム。戦力として投入できたゴーレムは、前回より1台少ない3台──彼女がA2と呼ぶ1機は引き続き40ポンド砲を装備。残る2機はより軽量の20ポンド砲に換装し、1機は巨大な置き盾、もう1機は増加装甲を施し、防御・耐久性能を向上させている。
 春樹はその内、増加装甲を装備したゴーレムの操作を担当していた。彼は自身が操作するこのタイプを端的に『鎧』と呼んでいた。メイムもその呼び方に倣い、自分が操作するA2以外を『鎧』と『盾』と呼称するようになった。
 その春樹とメイムは徒歩だった。馬が歩行中のゴーレムに怯えて近づかない為、馬車からは操作できなかったからだ。一応、ゴーレムに直接乗っかって操作する事も試してみたが…… 実際にそれをやるには上下の振動を何とかしないとダメだ、との結論に(酷い吐き気と共に)達した。
「やれやれ、考えなければならないことがいっぱいだ」
 荷台でジョアンが溜息した。ご苦労なことじゃな、と、ミグ・ロマイヤー(ka0665)が愛機(というか、もはや住処)・魔導型ドミニオン『ハリケーン・バウ』のコクピットで、トランシーバー越しに話し掛けた。
「どうにか無事に帰還を果たしたと思ったら、休む間もなく再出撃…… いや、ミグは雇われの身、文句を言うつもりはないぞ? CAMの戦術研磨という意味ではむしろ連戦は望むところ、否やはない。ただ、残念なのは、矢継ぎ早の戦闘故に優雅に風呂にも入れない事。それだけが何とも恨めしい」
 立て板に水を流す様に愚痴を零し…… ふと口を噤んで「聞いておるか?」とHMD越しに馬車を見下ろす。
 借り受けた無線機を物珍しそうに観察していたジョアンが、慌てて「聞いてますよ」と返す。
「ん? なんじゃ、ミグがどんな風呂に入っているか、そんなに気になるのか?」
「いえ、別に……」
「ドワーフは〇ヂリゥムの風呂にでも入っていそうとか思われているかもしれんが、さにあらず! ミグはバラの花びらと香油を湯船に撒いたバラ風呂が好みなのである! あぁ、バラの香りが恋しいのう…… いずれこのハリケーン・バウにも風呂を完備せねばのう」
 純白のロココ調(と訳された)浴室を思い浮かべ、コクピットの中で身をくねらせるミグ。一方、ジョアンはドラム缶風呂を背負ったハリケーン・バウを想像し、なんとなくホロリと落涙する……

「大型ヒツジおよび随伴する人型羊20、前方4里地点を東進中──」
 前方に展開する捜索騎兵が送って来た伝令に、実験班の皆の肌がざわり、と泡立った。
 急ぎ、会敵予定地点にまで前進し、そこに展開して敵を待つ。
 敵が近づくまでの間、メイムがジョアンに意見具申し、作戦会議の提案をした。春樹もそれに頷いた。綿密な打ち合わせは重要だ。特に、こんな強敵が相手となれば。
「粘着弾を複数食らわせた上で、近接戦闘に持ち込み、転倒させる…… 前回の状況を思い返して見れば、あのデカ羊が踵を返す条件はそんなところかな?」
 即席で設営された指揮所の天幕── 広げられた地図を前に、メイムがハンターの面々に意見を求めた。
 特に異論はなし── メイムは一つ頷くと、地図上に各機を現す駒を並べる。
「長距離攻撃圏に入ると、デカ羊の赤色ビームが来る…… 射程で優位なのはA2の40ポンド砲だけ。だから、その前面に『盾』を置いて砲撃の援護をさせつつ…… 春樹さんの『鎧』は、CAMの護衛付きでビームの射程外を反時計回りに前進して、敵の側方に回り込む構えを見せて欲しいの!」
「待った。ミグはメイム殿と見解を異にするのである。ゴーレムは言うほど素早くは動けず、十字砲火の形成は困難と見るが」
「んー…… 大丈夫だとは思うけど、確かにどうなるか分からないよね(←メタ発言)…… 一応、会敵前に走らせておこっか。最悪、回り込めなくても、動きを見せられればいいし…… 『鎧』の護衛はカンジさん、お願いできますか?」
 上目遣いで見て来るメイムのお願いに微苦笑を浮かべつつ、天央 観智(ka0896)は「了解です」と片手を上げて応じた。
 会議の最後に、ミグはハンターたちが持つ通信機に己のマテリアルを巡らせて機能を拡張。『連結通話』による同時通話を可能とした後、準備の為に散会した。
 春樹は自身が操作を担当する『鎧』に歩み寄ると、作業員たちに煙幕弾と炸裂弾を多めに積むよう指示を出す。
 テントから出たアルト・ハーニー(ka0113)は、小春日和のお天道様に大きく伸びをして…… 共通の知人を持つサクラ・エルフリード(ka2598)を見かけて、声を掛けた。
「よう、ちびっこ! 久しぶりだな! 今日はどうした?」
「ちびっこ…… orz いえ、依頼で機体を使うのは初めてなので、少し緊張気味なのです」
 そう……なのか? とアルトは答えた。いや、淡々とした表情のまま、どうにかHMDの隙間に猫耳カチューシャを捻じ込んだその姿からは、とてもそうは見えないのだが……
「……まあ、いいや。なら、お守りにこれをやろう」
 そう言うとアルトは紐を通した埴輪を取り出した。サクラは表情の薄い顔にあからさまに眉を寄せ、胡散臭げにそれを見返した。
「なんですか、この物体は。いえ、ハニワなるモノだと言う事は以前に聞きましたが」
「埴輪・お守りバージョンだ」
「お守り…… その効能は?」
「つんつんと揺らして見てると、幸せな気分になって笑いが止まらなくなるぞ」
 それは呪いか何かではないのか。サクラは思ったが、気遣いはありがたく受け取っておくことにした。……苛ついた時に叩き割れば、気分が晴れるかもしれないし。

「攻城能力を持つ大型ヒツジの撃退・足止めが優先……ですか。今回は実験の要素が少ないですね。……まぁ、そんな悠長な事を言っていられない状況であることは分かりますが」
 愛機・魔導型デュミナス(射撃戦仕様)の準備を終えて──開け放たれたコクピットから機を下りた観智は、通り掛かったジョアンを見かけて声を掛けた。
「火力一点主義や大艦巨砲主義も良いですけれど、武器や兵器は……戦術と両輪で進化……変化してきたモノですからね…… 片方だけでは均衡を欠きます」
 ジョアンは沈思する。観智の言う『両輪』──その進化の過程をすっ飛ばして生み出されようとしているのが、今の王国とゴーレムが置かれた現状と実情というやつだった。
 何もかもが手探り状態。もし、王国軍に採用されたとして、それはまるで前例のない新兵科。人材も足りない。運用に大きな混乱が伴う事は必至…… 得体の知れぬモノに対する反発が出ることも疑いようもない。
「兵器というものはハードウェア単体では成立せず、ドクトリンやロジスティクスといったソフトウェア全てをひっくるめて考える必要がある、でしたっけ?」
「ええ。例えば、制圧射撃……という用法。まぁ、リアルブルーにおける近現代戦での基本的な機関銃の用法ですけれど、これは……対象を打ち倒すことを目的とした射撃ではなく、弾幕を用いて……相手の行動を制限することを本義とした、味方への援護射撃です」
「大砲でも、同じことが?」
「数さえあれば。元々、リアルブルーの砲も、塹壕戦以降は……味方の突撃前に敵陣へ砲弾の雨を降らせて敵の頭を押さえる……そんな役割も担ったりしてますから」

 準備完了より半刻後── 進撃を続ける大型ヒツジを、遂に目視で確認する。
 動き出す『鎧』と春樹。追随する観智のデュミナス。
 主目標に随伴する人型羊たちは、既に騎乗状態にあった。その主たる大型ヒツジは、ツヤッツヤのスチールウール(体毛)を陽光に煌かせ、どこか誇らしげでステップも軽やかだ。
「毛のお手入れを入念にしてきたみてぇだな。……ってか、毛の状態が気になるお年頃(?)なのか?」
 遠目にヒツジの様子を窺いながら、魔導アーマー『埴輪1号』の『ボンネット』に両腕と顎とを乗せた姿勢でアルトが呟く。
 魔導型デュミナスのコクピットでギュッと操縦桿を握り直すサクラ。軽い緊張状態を感じ、ぶら下げられた埴輪を見る。……なるほど。この何も考えてなさそうな顔を見れば、自然と口の端に笑みも浮かぶか。

 40ポンド砲による砲撃が始まった。砲門は僅かに1門──いかにも寂しい限りだが、羊のビームに射程が優越する大砲はこれしかない。
「さて、まずはゴーレムに砲撃を頑張ってもらうとしますかね。楽できるならそれに越したことはないが……そうは問屋が卸さないだろうな、と」
 待機状態のまま羊の方を見やって、アルト。砲撃を受けた大型ヒツジはその移動速度を上げた。恐らく、また粘着弾でべたべたにされてはたまらないと思ったのだろう。随伴する人型羊たちは直掩を優先。大きく前には出てこない。
「だったらまず、その周りのから引き剥がしに掛かるよ!」
 ゴーレム本隊の指揮を執り、A2の操作をするメイムがパッと頭上を見上げた。メイムの桜型妖精『アリス』が、またですか、と言いたげに肩を落として嘆息し…… それでも主人の期待に応えるべく一生懸命、空へと上がる。
 メイムは腰に両拳を当てた姿勢で満足気に頷くと、まずは『盾』機のエレンに指示を出し、20ポンド砲の最大射程で円弾を撃たせた後、粘着弾を装填した状態で待機させた。その後、アリスがある程度の高度に上ったところで『ファミリアズアイ』を用いて妖精と視覚を共用し、鳥瞰的な視点から砲撃の弾着修正を行う。コントローラーを見ぬまま炸裂弾の装填操作。それに応じてゴーレムが背部の砲弾ラックから取り出した炸裂弾を砲口へと転がり入れる。
 発砲── ……着弾。それを見て再び若干ずつ砲角を変え、ゴーレムに腰を捻らせる。
「もうちょい遠く……ほんちょい左!」
 ペロリと唇をペ○ちゃんみたいに舐めつつ、両手でちょちょいとコントローラーを操作して。弾着修正を終えて再び発砲── やがて徐々に砲弾は大型ヒツジの周りに集弾し始め、人型羊たちは随伴を継続しつつ、主から一定程度の距離を取る。
「……羊。倒せばいいのか…… 頑張ろう」
 そんなヒツジたちを斜めに見ながら、操作する『鎧』を敵の斜め45度の位置まで前進させた春樹は、そこでゴーレムに砲撃姿勢を取らせながら、メイムに無線で指示を仰いだ。
 ゆっくりとその場に膝をつき始める『鎧』のゴーレムと、それを振り仰ぎ見ながらトランシーバーに叫ぶ春樹。その傍らを走り行くデュミナスを駆る観智は、砲撃の邪魔にならぬ位置に機体を滑り込ませると、その場でチェーンガンを腰だめに構えさせ、敵の動向に注意を払う。
 大型ヒツジはこちらに目もくれず、ただひたすらに直進を続けていた。砲撃している40ポンド砲を射程に捉えることを最優先にしているようだ。
「……砲撃準備態勢に入った。……指示を乞う」
「そろそろデカ羊の赤色ビームの射程に入ると思う。こっちは炸裂弾による砲撃を継続するから、そっちは弾着修正がてら煙幕の展張を!」
「了解。これより砲撃を開始する。前進する各機は巻き込まれないよう注意」
 春樹は、護衛についてくれた観智に「お願いします」と挨拶すると、有線コントローラーで大型ヒツジの前面に向け煙幕弾を発射した。
 1発、2発、と、ヒツジの進路上に転がる煙幕弾── もうもうと煙を吐き出し始めたそれから流れる風に乗って煙が棚引き、本隊へ通ずる視線と射線を遮断する。
 瞬間、随伴する人型羊たちが動いた。主の元を離れ、騎乗状態で素早く煙幕弾の元に駆け寄り、即座に分離。その手から温風と水流を噴射して、コロコロとヒツジの進路上からのけていく。
「あれはマズい」
「マズいですね」
 その光景を見て素早く操縦席へと戻るアルトとサクラ。鳥瞰的な視点から煙越しに戦場を観察していたメイムもぐぬぬ……と唸り。ふと、『盾』が先に放っておいた標定射撃痕にヒツジが到達するのに気付いてエレンに叫ぶ。
「『盾』機、粘着弾、撃てー!」
 ドォン! と砲撃を放つ『盾』。同時に、ヒツジの眼前から赤色怪光線が火を噴いた。
 大地を削りながらA2目がけて伸びる赤い火線── 位置を微調整した『盾』機の置き盾にマテリアルの光が宿り。直後、直撃した赤色怪光線が置き盾に弾かれ、放水の如く周囲へ飛び散る。
「なんとか…… でも、そう何回ももたないわよ!」
「退避! 『盾』とA2は敵の射程外を時計回り方向に移動してー!」
 腕を振って指示を飛ばすメイム。応じて砲撃体勢を解いたゴーレムたちが、適当に煙幕弾をばら撒きながら、せわしなく移動を開始する。
 同時に、直掩の魔導アーマーとCAMたちが前へと飛び出し、大型ヒツジへと動き出した。フレームに結び付けた埴輪をぶらんぶらん揺らしながら、機を飛び出させるアルトにサクラも続き。メグもまたメイムに煙幕弾を退ける随伴羊を排除する旨、告げると、重い機体に加速を掛けて重量感と共に前へと進ませる。
「アルトさん。吊るしていた埴輪が壁面にぶつかり、割れました」
「もう!?」
「これは吉兆ですか? 凶兆ですか?」
「き、吉兆だゼ、それは! ミサンガが切れた的な。うん、今、決めた!」
(余裕あるのぅ……)
 アルトとサクラのやり取りに微苦笑を浮かべながら、ミグはチェーンガンのセーフティを解除すると、銃床をしっかりと機の肩部に当てて構えさせ、前方の人型羊たちに向かって前進しながら、中距離から発砲した。銃身をやや下げて、敵の数歩前の距離に着弾させつつ、その弾着を見て射線を修正する。ダダダダダッ……! と煙と羊たちの只中を駆け抜けていくミシンの如き弾着と火線の鞭。その銃撃に相棒が粉々に打ち砕かれたのを嘆く間もなく、煙と巻き上がった砂塵の帳をヌゥッと押しのけ、姿を現すハリケーン・バウ。抜き放たれた超音波振動剣がブゥン、と煙を散らし── ダンッ、と踏み込みつつ振り下ろされたミグ機の剣が、驚愕する人型羊を一刀の元に血飛沫と肉塊と化し、破砕する……

 一方、左に展開した『鎧』たち──
 敵は直掩を二つに分けて、そちらにも人型羊の群れを放っていた。煙幕弾の射撃元を放置しておくわけにはいかなかったからだ。
「砲撃を継続してください。本隊が砲撃体勢を解除した今…… まともに砲撃できるのはその『鎧』だけです」
 迫る敵をHMD越しに見つめながら、観智が傍らの春樹へスピーカーから声を落とす。
「了解です。お任せします」
 春樹は動じることもなく、迫る人型への対処を観智に一任すると、自らは『鎧』に粘着弾を装填させた。……こうなってしまっては、もう敵の撃破ではなく撃退を狙うほかない。メイムの言う通りであれば、ヒツジは体毛が汚れればやる気をなくす。
「さて…… まずは出足を挫くとしますか」
 呟くと、観智は安全装置を解除し、機に腰溜めに構えさせたチェーンガンを連射させた。させつつ、銃口を左右に振って、敵前に火線の網を掛ける。先程、ジョアンに教示した弾幕による制圧射撃だ。
 弾着が羊たち周囲の地面に沸騰したが如く弾け、つんのめった中央の1騎が地面へ転がる。それを見た敵は隊列を大きく左右に広げて対抗した。やりますね、と呟く観智。銃口を振る角度が広くなれば、弾幕の密度は下がるが道理だ。そうなっては敵の前進は阻めない。
 観智は端の敵から銃撃を集中させると、密になった弾幕でもって1騎ずつその前進を阻んでいった。その間に距離を詰めてくる逆サイドの羊2騎。カシンッ! とスラスターライフルが弾切れを告げ…… 観智は機の左腕にアサルトライフルを引き抜かせると、傍らを駆け抜けんとする羊たちへ三点射を撃ち放つ。
 騎羊に銃撃を受け、倒れ込む1騎── だが、残る1騎は防衛線を突破し、ゴーレムを操る春樹に向けて角パチンコを撃ち放った。
 ピュンッ! と顔のすぐ間近の空気を切り裂く音にも動じず、発射ボタンを押す春樹。ドォン! と砲声が鳴り響き。飛翔した粘着弾が大型ヒツジに直撃する。

「予想通り…… こちらが十字砲火できるポジションを取れば、デカ羊は誰かに腹を晒す……!」
 煙と粉塵と砲弾と怪光線が飛び交う原色の戦場を走りながら、メイムが煤に汚れた顔にニヤリと笑みを浮かべる。
 粘着弾を放つ『鎧』へと頭を向け。晒した横原へ向け、アルト機とサクラ機、そしてミグ機が真正面から突っ込んだ。
「そらそら、潰されたくなかったら前に出て来るんじゃないさねぇ!」
 魔導アーマーの両腕を広げてジャランと展開する鉄球鉄鎖。それをぐるんぐるん振り回して走りながら、迎撃に出て来た羊たちを潰し、或いは吹っ飛ばす。
 頭部に装着した対人機銃で進路上の敵を銃撃し、進路を開拓したサクラが、正面、視界に飛び込んできた光景──粘着弾塗れになった大型ヒツジに一生懸命に『シャワー』を浴びせ、『ドライヤー』を掛ける人型羊たちと、されるがままの大型ヒツジ──を見て、ちょっぴりほんわかとした気持ちになる。
「か、可愛い…… 毛の手入れをしてくれる羊…… ちょっと私も欲しいかもです」
「えっと、中には筋肉ムキムキの人型羊もいるみたいだけど?」
「嘘です。容赦はしないです。歪虚死すべし。慈悲はないです」
 機に槍を抜き放たせ、主の毛の手入れをする羊たちを追い散らすサクラとアルト。そこに敵前衛を突破して来たミグも加わり、走りながらヒツジ頭部へ銃撃を集中。照準よりも回避を優先し、その砲撃を邪魔するように撃ち捲る。
 四つ足で対抗し切れぬとみた大型ヒツジが怒りの形相で前足を上げ…… そびえたつ塔の如く二本足で立ち上がる。
 同時に、サクラとアルトがその後ろ肢へ得物を振るった。脛を強かに殴打されて、ぼたりと巨大な涙が落ちて来る。同時に、加害者たちを涙目で睥睨しながら、ヒツジが角から全周へと電撃の雨を降り落とす。
「『私の名は埴輪1号である。南極ではない。戦闘は基本、ハンマーで殴る。……というか、それしかできない』…… 毛のない所を狙って攻撃、って、顔くらいしかなくね? なくね!?」
 電撃によってこんがりと焦げて(←ドリフ)混乱するアルトに、サクラはしょうがないですね、と、スチールウール越しにヒツジへ槍を突き立てた。
「これを思いっきり殴ってください」
「やっほう!」
 突き刺さった槍の石突を、手で直接持った鉄球でぶん殴るアルト機。
 同時に、もう一方の脚をミグ機が振動剣でもってX字に切り裂いて。ついでに傷口に蹴りを入れた後、どうじゃ! とヒツジを見上げる。
 くぐもった雄叫びと共に地面へ倒れたヒツジは再び自慢の体毛を泥だらけにされて…… 再びやる気をすっかりなくして、泣きながら踵を返し、海岸へ向け帰っていった。


「……ありがとうございました。それと……お疲れさまでした」
 自身の護衛についてくれた観智に礼を言い、戦闘を終えた皆に挨拶をして、春樹はゴーレムを砲撃体勢から解除した。
 ずしん、ずしん、と行く巨人たちを見送りながら、観智がジョアンに観察結果を告げる。
「大型ヒツジ相手には、粘着弾も……効果が薄そうでした。図体がデカい分、必要な弾数も多く要る……と言ったところでしょうか」
 ジョアンは頷き、心中に呟いた。

 ともかく、砦に迫る脅威は去った。取り除かれたわけではないが……

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参加者一覧

  • ヌリエのセンセ―
    アルト・ハーニー(ka0113
    人間(蒼)|25才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ハニワイチゴウ
    埴輪1号(ka0113unit001
    ユニット|魔導アーマー
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ハリケーンバウユーエスエフシー
    ハリケーン・バウ・USFC(ka0665unit002
    ユニット|CAM
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • ユニットアイコン
    マドウガタデュミナス
    魔導型デュミナス射撃戦仕様(ka0896unit003
    ユニット|CAM
  • タホ郷に新たな血を
    メイム(ka2290
    エルフ|15才|女性|霊闘士
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    マドウガタデュミナス
    魔導型デュミナス(ka2598unit001
    ユニット|CAM
  • 静寂の猟撃士
    五百枝春樹(ka6324
    人間(蒼)|18才|男性|猟撃士

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アイコン 相談卓
五百枝春樹(ka6324
人間(リアルブルー)|18才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2016/09/29 06:25:03
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/09/29 01:35:47