ゲスト
(ka0000)
【蒼乱】Laplace operator
マスター:cr

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/09/29 12:00
- 完成日
- 2016/10/06 00:59
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
女が剣を振るう。するとその一太刀で自動人形は縦に割かれ、活動を停止する。
女はそれに対して何か感情を表すわけでもなく、道を先に進む。その女の片手には剣、もう片方の手には天秤。そしてその身に纏うのは布一枚。異様な姿だった。
女の名はラプラス。黙示騎士の一人である。彼女は自動人形を止めると先に進み、とうとうこの遺跡の終点にたどり着いた。
「しかし我としたことが盲点だった。現在ではこの世界の人間達に通常レベル以上の認証を取得するのは不可能。考えてみれば当然なのだが、だがこれではフェアとは言えぬ」
ラプラスは壁に手を触れる。するとそこに埋め込まれていた機械達が活動を開始する。動作を示す青い光の筋が走り、壁一面をめぐり、やがてそれが赤に変わった。
「ふむ、『警備レベル:最大』、これでいいだろう」
そしてラプラスは天秤を揺らすと彼女の体が黒い光りに包まれ、消え失せた。
●
「総長、大変です!」
ハンターズソサエティ本部でナディアが地図をにらめっこしながらうんうん唸って居た所に、突然ミリア・クロスフィールド(kz0012)が飛び込んできた。
「な、何事じゃ?」
「大渓谷内に突然自動人形が現れました! 様々なタイプが居ますがどれも我々の進行を妨害しています! このままでは大渓谷内の遺跡調査を続けることはできません!」
「何じゃと?!」
それはまさに青天の霹靂だった。確かに大渓谷内遺跡群には大きさの違いこそあれ、様々な自動人形がそれらは基本的に遺跡内で侵入者達を止めようと動いていた。それが外に出てこちらを襲ってくるというのは想定外の出来事だった。
「何ゆえこのような事に……と調べるにもまずは自動人形を止めぬと話が始まらんな。よし、早速ハンター達にその自動人形の排除をしてもらおうかのう」
「それがですね……」
「まだ何かあるのかのう?」
「それら自動人形は大体体長7m程度あり、ハンター達だけで止めるのは厳しいかと……」
「それを先に言うのじゃ!」
そしてナディアは少し思案する。ややあって、彼女は決断を下す。
「仕方あるまい。CAMなり何なりを使って対抗するしか無いようじゃな!」
女が剣を振るう。するとその一太刀で自動人形は縦に割かれ、活動を停止する。
女はそれに対して何か感情を表すわけでもなく、道を先に進む。その女の片手には剣、もう片方の手には天秤。そしてその身に纏うのは布一枚。異様な姿だった。
女の名はラプラス。黙示騎士の一人である。彼女は自動人形を止めると先に進み、とうとうこの遺跡の終点にたどり着いた。
「しかし我としたことが盲点だった。現在ではこの世界の人間達に通常レベル以上の認証を取得するのは不可能。考えてみれば当然なのだが、だがこれではフェアとは言えぬ」
ラプラスは壁に手を触れる。するとそこに埋め込まれていた機械達が活動を開始する。動作を示す青い光の筋が走り、壁一面をめぐり、やがてそれが赤に変わった。
「ふむ、『警備レベル:最大』、これでいいだろう」
そしてラプラスは天秤を揺らすと彼女の体が黒い光りに包まれ、消え失せた。
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「総長、大変です!」
ハンターズソサエティ本部でナディアが地図をにらめっこしながらうんうん唸って居た所に、突然ミリア・クロスフィールド(kz0012)が飛び込んできた。
「な、何事じゃ?」
「大渓谷内に突然自動人形が現れました! 様々なタイプが居ますがどれも我々の進行を妨害しています! このままでは大渓谷内の遺跡調査を続けることはできません!」
「何じゃと?!」
それはまさに青天の霹靂だった。確かに大渓谷内遺跡群には大きさの違いこそあれ、様々な自動人形がそれらは基本的に遺跡内で侵入者達を止めようと動いていた。それが外に出てこちらを襲ってくるというのは想定外の出来事だった。
「何ゆえこのような事に……と調べるにもまずは自動人形を止めぬと話が始まらんな。よし、早速ハンター達にその自動人形の排除をしてもらおうかのう」
「それがですね……」
「まだ何かあるのかのう?」
「それら自動人形は大体体長7m程度あり、ハンター達だけで止めるのは厳しいかと……」
「それを先に言うのじゃ!」
そしてナディアは少し思案する。ややあって、彼女は決断を下す。
「仕方あるまい。CAMなり何なりを使って対抗するしか無いようじゃな!」
リプレイ本文
●
「おうおう、ご丁寧に陣を敷いてやがるな。いいAIでも積んでるのかねぇ?」
崖上でCAMにワイヤーを取り付けている間、鹿島 雲雀(ka3706)は下を覗き込んでいた。そこには待ち構えるように八体の自動人形が並んでいる。
「自動人形に囲まれているこの状況……厳しいですね」
しかもエリス・カルディコット(ka2572)が言う通り、降り立ったところを狙って取り囲むように自動人形達は並んでいた。かといって別の場所から降りることは巻き上げ機の関係で無理だし、もし出来た所で恐らく自動人形達はそちらに動いて取り囲むのだろう。
「なんだ、あの装備……ちょっとずりいんじゃねっすかね」
さらに言えば仙石 春樹(ka6003)の言うとおり、報告書の情報によるとかなり高性能の武器を搭載しているようだった。彼が愚痴りたくなる気持ちも分かる。
しかし彼らにも有利な部分があった。敵の動きを見知ってから作戦を立て挑むことができること。そこで彼らはチームを二班に分け、それぞれのチームが一体ずつ各個撃破していくことに決めた。早速ハンター達は分かれ手はずを整える。
「瀬崎・統夜だ。宜しくな」
光を全て吸い込む様に漆黒に彩られたデュミナス、愛機・黒騎士の元で瀬崎・統夜(ka5046)が班のメンバーに挨拶する。それを受けて
「綺導・沙織です。この子はエーデルワイスです。宜しくお願いしますね」
沙織(ka5977)が自分の騎乗するデュミナスと共に自己紹介をしていた。
「この間蜘蛛型機械をやっつけたばかりのはずなんですけどねー?」
その後ろでは葛音 水月(ka1895)が分厚い装甲を施し角ばった印象を与える自分の機体をチェックしながら、訝しむように、それでいて軽い口調でそう言って崖下を覗き込む。それに釣られるように沙織も覗き込む。そこにはやはり八体の自動人形。何度覗いたところで減ってくれる訳もない。それも人類には未知の技術を盛り込んだスペシャルな機体だ。沙織などはついつい興味を惹かれてしまうが、ぐっとこらえる。
そんな三人をアニス・テスタロッサ(ka0141)は自分の機体に取り付けられたスラスターライフルをメンテナンスしながら見ていた。赤と黒に塗られた彼女の機体はスナイパー用のカスタムが施されている。逆に言えば、このスラスターライフルこそが彼女の生命線だ。かつて軍人時代から何度も頼りにしてきた相棒を信じ、そのときに備えていた。
そんなこんなをしている内に機体を降下させるための準備が整った。ハンター達は時計を合わせ、作戦開始の時を待つ。5、4、3……。
「いこうか、白夜」
カウントダウンに合わせたカール・フォルシアン(ka3702)が黒騎士と対を為すように雪の結晶のごとく色塗られた自分の愛機の名前を呼ぶその言葉とともに、八つの機体は崖へとその身を踊らせた。
●
重力加速度に引かれて落ちていくCAM達を、ワイヤーが引き止める。二つの力が釣り合い、CAMを壊さないだけの速度で留まる。間もなくハンター達は目的地に到着する。しかしその瞬間自動人形達は一斉に攻撃を浴びせようと動いていた。しかしハンター達も黙ってやられるつもりもなかった。
地面に白夜の純白の脚部が触れるか触れないかのタイミングで、そこにあったスラスターが開かれる。魔導エンジンが駆動し、マテリアルが運動エネルギーに変換される。
白夜の目の前に並んでいた機体、仮に格闘型と呼ばれているそれが腹部の砲口からあらん限りの光線を撒き散らす。しかしその純白の機体は時にはかわし、時には盾を掲げ、光線の束を弾き返しながら先へと進んでいた。幾つかの光線がその機体を傷つける。しかしそれに止まること無く、純白のソレは流星と化し自動人形の群に突っ込んでいった。
「まずは、数的劣位を覆すか」
そしてその後ろで雲雀機が動いていた。予定したとおりにタイミングを合わせ、二つの機体は一体の格闘型自動人形を挟み込むように動く。このチームの最初の標的はこの機体だった。
しかし、それを自動人形達は簡単には許してくれなかった。ターゲットから離れた位置にあった機体が八つの砲門を一斉に開く。そこからほんの一瞬の溜めの後に、一斉に周囲に光線が撒き散らされる。その光線は今まさに格闘型に襲いかかろうとしていた白夜を貫く。
それだけでは無かった。白夜の後ろから追いかける形になった他の機体にも光線は向かっていた。その一本は仙石機の胴を撃ち、別の一本はエリス機の腕を灼く。
「……流石にずっとこの状態はまずい、っすか」
仙石は冷静に計算していた。包囲されているこの状況の解消のためには速攻しか無い。すでに先手は奪われている。迷う暇は無い。マニピュレーターがマシンガンにエネルギーを送り、銃口から銃弾が一気に放たれる。それによって生み出された弾幕が一体を覆い、二体のCAMの間をくぐり抜けその間に居た自動人形を撃った。
「お好きなようには致しませんっ!」
そしてエリスはもっと先を見ていた。彼女の視線に映るのは後方に待ち構え八つの砲門を開いているその自動人形。搭載されたマシンガンの照準をセットし、トリガーボタンを叩く。軽やかな発射音を鳴らしその弾丸は吸い込まれるように標的に命中した。
「鹿島様! 合わせていきますっ!」
「OK。援護射撃は任せるぞ、エリス!」
バランスを崩している自動人形を見てエリスが通信を送る。雲雀機の確認は必要なかった。相手がどの様に動いてくれるかは見なくても分かっていた。彼女のために白夜はその盾を押し当てるように格闘型に向け、盾を掴んでいた手甲部からプラズマカッターを出力して刺し貫く。
「随分と豪勢に束ねてるが。そこ、装甲が薄かったりしねーか?」
そして雲雀機はその腕に装備されていたハルバートを振り抜いた。狙う場所はただ一点、腹部、無数の砲身が束ねられたその部分。敵の攻撃部を破壊し穴を開けるための一撃。しかし、その一撃は敵の攻撃を弱めることにはならなかった。仙石とカール、二人の攻撃を既に受けていた自動人形はその刃を受け耐えることなく、活動を停止していた。
●
一方、白夜がアクティブスラスターを開いた時、反対側ではそれに合わせるように黒騎士がスラスターを全開にしていた。同じように盾を高く掲げ、格闘型自動人形から撒き散らされる光線の束の中へと突っ込んでいく。しかし、そこからの動きは白夜と対象的だった。盾を掲げてこそあれ、匠な操縦技術と読みを駆使してギリギリのところをかわす、というより隙間を縫うように進んでいく。コールサイン『バレット・オブ・ナイト』の名の通り、彼のCAMは弾丸と化して敵機へと飛び込もうとしていた。
しかし、自動人形に搭載されたアルゴリズムはそれを許さない。もう一体の格闘型機が体をこちら側に向け、重ねるように光線を浴びせてくる。
「速攻で一機潰すぞ! 続け、沙織!」
そして瀬崎は通信を送った。その通信を受け取るか受け取らないかのタイミングで、既にエーデルワイスは移動を開始していた。リアルブルーの軍人同士の息の合った連携を見せ、敵を倒すべく動く。
だが、そこに更に重ねるように、後方から光線が飛ぶ。一気に八連射され糸をひくように散らばっていく光線達。それはかわせるものではなかった。黒騎士の頭を貫き、エーデルワイスの胴を灼く。コックピット内にはその事を示す警告メッセージが流れる。
「頑張って、エーデルワイス!」
そのメッセージを見ながら、沙織は祈るようにレバーを倒していた。
一方、そんな二機の後方でアニスは悪態をついていた。全方向に発射された光線の一本は確かに彼女の機体も捉えていた。衝撃により傾いたそれを素早く修正して、彼女はターゲットサイトを合わせる。彼女のパーソナルカラーに塗られた機体は動きを止め、揺れ動かないようにスラスターライフルを固定する。
「ウゼェんだよ! 沈め!」
次の瞬間轟音とともに弾丸の雨が放たれる。それは一本の鎖のように連なって真っすぐ飛び、そして彼女達を狙ってきた自動人形を捉えてきた。その弾丸は確かに狙い通り、自動人形達がつい今しがた光線を放ったばかりの砲身をへし折っていた。
しかし敵側の更に後方、地面が切れるそこにも敵機が居た。肩には巨大な存在感を示す砲身が二本。それを少し上に上げる。
「支援型、砲撃来ます!」
「奥から砲撃きますよ、気を付けてー」
沙織がそれを見て敵機の狙いに気づき通信を送るのと同時に、アニスの更に後ろで機体を膝立ちにして待機していた葛音が反応した。ガトリングガンをスタンバイさせ、敵機からエネルギー弾が発射されると同時にトリガーを引く。
光弾と実体弾、二つは上空で交わり、耳をつんざくような轟音をこの大渓谷一体に轟かせる。しかし、その残響が晴れた後には何も残っては居なかった。
砲撃を止めたのなら後は目の前の敵を倒す時。頭部に光線の直撃を受けた衝撃を何とか逃した瀬崎は黒騎士を駆った。そのまま体当たりを食らわせるように自動人形に当たり、その勢いで装備していた斧を振り下ろす。まっすぐ振り下ろされた斧は自動人形の脚部を叩き潰す。
「頼むね。エーデルワイス。いけ!」
沙織はレバーを逆方向に倒す。するとエーデルワイスはそれに答え、急旋回して標的に向かう。スラスターが開き排気が吹き出され土埃が上がる。狙う一点、黒騎士と向かい合う位置、そこへ機体を滑り込ませると腕を振り上げた。甲高い回転音が起こり、腕に装着されたドリルが自動人形の方へと食い込んでいった。
●
「援護はお任せくださいませ」
エリスからの通信を受け、雲雀機が動く。マシンガンに換装を終えると、前に進みながら弾丸を降らせる。しかしそんな雲雀機よりさらに前にいるものがいた。純白の塗装は受けた光線で一部剥がれていたが、それでも間違いなくカールの愛機、白夜だった。それは誇り高く盾を掲げ、連続で降って来る光線に耐えながらひたすら前進する。そんな白夜が雲雀機にとってはいい盾になった。前へ、前へと出て行く両機を押すように、エリス機は後方から暴れ馬の如く大量の弾をばら撒いて文字通り弾幕を張る。
だがその時だった。最後方から光弾が発射される。それはそれはこの戦場の上を飛び、両機の間で炸裂する。
しかし白夜は既に離れていた。光弾を見た瞬間にスラスターを開いて急加速し、雲雀機から離れる。
そしてその光が晴れた時、そこには雲雀機が立っていた。そのハルバートの銀色の斧刃でもって光弾を受け止め、払う。
光を払った時に一帯に不気味な音が響いた。例えるなら幽霊のうめき声のような――それは仙石機に搭載されていたカノン砲の発射音だった。全長4メートルを超える長い砲身から巨大な砲弾が四連射される。強烈な反動を機体で抑えきり、その砲弾は前線の二機を超えて一気に射撃型自動人形に炸裂した。
それが好機だった。まずは白夜。自動人形に接敵し終えると、盾を下ろす、と同時に曲刀が現れ、それが一刀の元に縦に連なった砲門を斬りつける。白夜が振り下ろし切るやいなやそこに雲雀機が飛び込んできた。デュミナスの全質量を預けたような大上段から地面を穿つハルバートの一撃。左に四門、右に四門連なった自動人形の砲門をその後ろごとまとめて叩き折るような一撃。それが炸裂し、自動人形が自重に耐え切れず、原型を留めず崩れていく中、白夜は既に次の射撃型自動人形を倒すべく動き始めていた。
●
格闘型を一機屠ったエーデルワイスのカメラが動く。パイロットの沙織は周囲をモニタリングする。その間も絶え間なく光線が、エネルギー弾が浴びせられるがそれを黒騎士が守る。次に倒すべき相手はすぐに見つかった。残った格闘型が居た。
しかし、戦力を集中して二機を一気に潰した代償が襲いかかった。二機は同調してそれを止めるべく動くが、その敵機は間をすり抜けるようにして後衛へと襲い掛かってきたのだった。
それに素早くアニスが反応した。スラスターライフルを格納すると素早くクローとハンドガンを展開。スラスターを開いてあえて前に飛び出す。
「ったく……こちとらケンカは苦手なんだ。っと、オツムがガラ空きだぜ」
そのまま流れるようにハンドガンを頭部へ向けて連射する。格闘型は光線で弾幕を張り防ごうとするが、漏れ出た弾丸が確かに敵機頭部へと命中した。そして。
「お一人様いらっしゃーい?」
そこには葛音機のガトリングガンがターゲッティングしていた。銃身が回転を始め、弾丸が一気にばらまかれる。
「やりたいようにはやらせませんけどねー」
止めどなく機体を穿つ音が響き、敵機をその弾丸の嵐に晒して削り取っていく。そして。
「アホが! 胴体のど真ん中に砲口つけてりゃいい的だぜ!」
そこにアニス機のクローが胴をえぐり取った。深々と突き刺さった、砲身の束を掻き出すように払われた爪に続けて、黒騎士とエーデルワイスの斧とドリルが食い込めば、もはや活動を継続することはできなかった。
●
「包囲網の一部が破けましたっ! 反撃いたしましょうっ」
戦力バランスが崩れた。戦況は耐えて耐えて耐え抜いたハンター側に傾いた。明朗快活なエリスの声が通信網に乗って全機に届く。
それでたった今まで格闘型を対応していたアニス達も向き直る。勝利を掴むなら今しかない。
「あとはコイツ等だけか。……気ぃ抜いてまとめて吹っ飛ばされないように気をつけろよ?」
アニス機が再びスラスターライフルを構える。そこから狙うは射撃型自動人形。ターゲットは合わせた。呼吸を整えたのは一瞬だけ。そこでトリガーボタンを叩く。降り注いだ弾丸の雨が容赦なく自動人形のそのボディを削っていく。
一方、背中合わせになる形で居たエリス機は弾幕を張りながら、ほんの少しずつ前進を始めていた。自然弾幕そのものの前へと進み始める。自動人形はそこに飛び込むわけがない。弾幕の前進に合わせるように後退を始める。
そして前に進み始めたエリス機の後ろに位置取っていたのは仙石機だ。この機体のカメラアイは射撃型自動人形ではなく、その後ろで今まさに砲身を持ち上げた支援型機を映していた。エネルギーを貯め、炸裂するエネルギー弾を発射する。今だ。この位置ならマシンガンでも届く。追い詰めている射撃型機を倒す最後の一手を邪魔されないよう彼はエネルギー弾に合わせて操作ボタンを押す。
「それじゃ行きますよー」
その頃エリスの通信を聞いた葛音はレバーを倒し、ガトリングガンのターゲットサイトを動かした。モニターで照準マークが滑るように動き、それはピタリと射撃型自動人形に合う。アニス機の射撃に合わせてトリガーを入れれば、両機から繰り出される銃声がステレオとなって大渓谷一帯に広がっていった。
そしてそんなステレオ音の銃声に乗って、四体の機体は一気に前へと進み出た。白夜と雲雀機がエリス機が削っていた自動人形を挟み込み、黒騎士とエーデルワイスはステレオの銃声が集まる地点、すなわちもう一体の射撃型自動人形を挟み込んだ。
そして二体ずつのデュミナスがぶつかりそうになった瞬間、それらの自動人形たちは活動を停止した。そこには巨大な塊と化した物が残っていた。
●
射撃型自動人形を排除し終えても、エリス機が弾幕を張るのを止めなかった。更に前へ前へと押し進めていく。残るはこの戦場に炸裂弾を落としてきていた自動人形。
しかしそれはもはや後退する事は叶わなかった。その機体の後ろに広がっていたのは、何もない空間。大渓谷そのものが大きく口を開けて待ち構えていたのだから。
「突き落としてくださいませ!」
「任せろ。このままブチ落とす!」
そしてエニスからの通信に雲雀機が飛び出す。一気にその自動人形の懐へ飛び込んだかと思うと、思い切り脚部を振り上げた。まっすぐ横に突き出された脚部が自動人形の胴をえぐり弾く。見事な横蹴りが炸裂し、自動人形の巨大な体は吹き飛ばされる。そしてその下には何もなかった。自動人形は少しだけ空中を浮かぶと、あとは重力に惹かれ崖下へと落ちていった。
そしてエニスと雲雀は残る一体へとカメラを合わせる。そこで二人が見たものは、最後の一機を同じように蹴り飛ばしていたアニス機の姿だった。
「この高さから落ちて無事ならタフもいいトコだな」
彼女の言うとおり、長い長い沈黙の後に聞こえてきたのは、ほんの微かな衝突音だった。
●
戦闘は終わった。機体の損傷はあるとは言え、修復さえ済ませば再度運用可能。搭乗員にも問題は無し。作戦は成功を収めていた。
各機は元の位置に戻り、待機状態に移る。そして次々と各機のコックピットが開き、中からパイロットが降りてくる。
「お疲れ様でした、皆様」
あとは相棒をワイヤーに繋ぎ、地上まで巻き上げてもらえれば終わりだ。その前にここに降り立ってもいいだろう。崖上に集まったメンバーに、エリスは手際よく用意していた濡れたタオルと飲み物を渡していった。
何人かが飲み物で喉を濡らしていた頃、沙織と葛音は自動人形達の残骸に近づいていた。
「こんなのを僕の機体にも積めたら面白そうなんですけどね」
葛音が格闘型機の腹部砲門をチェックする。沙織もそれらをつぶさに調べる。しかし調べても調べても、彼女にはわからないことだらけだった。まず材質が違う。金属とも単純に言い切れない性質を持っているし、剛性を考えたら信じられないような運用を行っていることが見て取れる。
「どの型の武装も興味深かったから鹵獲したりできないでしょーか?」
葛音は今度は射撃型機を見ていた。一部破壊したとは言え、この八つの砲門は驚異的だ。もし自分たちの武器として運用できればこんなに素晴らしいことはない。しかし
「……残念ですけど無理ですね」
沙織は冷静に首を振ってそう答えた。彼女自身ももし自分たちで運用できればとは思ったが、材質が違う、設計が違う、操作方法に至っては思いもつかない。我々の知っている技術体系とは全く別の存在。それを運用することが叶わないことは残念ながら、すぐにわかった。
それでもと持ち運べるだけの残骸を機体に付けて、一同は再び愛機に乗り込む。程なくしてワイヤーが巻き上げられ彼らは地上へと回収されていった。これで再び調査が可能になるだろう。しかしそれはまた別のハンター達の話だ。崖下には沈黙だけが残っていた。
「……ふむ、やはりこの程度でもダメか。確かCAMとか言うのであったな。それをも運用する相手には無理だったか」
襲い来る自動人形を討ち払いながら、ラプラスはここで起こったことをそう振り返っていた。
「あれ程の力を持つ者たちに我と自動人形だけではフェアとは言えぬ。この戦いをフェアにするためには……」
そしてラプラスは天秤を揺らした。
「もう一つこちら側の武器が必要か」
その声が風に吹かれて消えていったとき、そこにはもはや誰の姿もなかった。
「おうおう、ご丁寧に陣を敷いてやがるな。いいAIでも積んでるのかねぇ?」
崖上でCAMにワイヤーを取り付けている間、鹿島 雲雀(ka3706)は下を覗き込んでいた。そこには待ち構えるように八体の自動人形が並んでいる。
「自動人形に囲まれているこの状況……厳しいですね」
しかもエリス・カルディコット(ka2572)が言う通り、降り立ったところを狙って取り囲むように自動人形達は並んでいた。かといって別の場所から降りることは巻き上げ機の関係で無理だし、もし出来た所で恐らく自動人形達はそちらに動いて取り囲むのだろう。
「なんだ、あの装備……ちょっとずりいんじゃねっすかね」
さらに言えば仙石 春樹(ka6003)の言うとおり、報告書の情報によるとかなり高性能の武器を搭載しているようだった。彼が愚痴りたくなる気持ちも分かる。
しかし彼らにも有利な部分があった。敵の動きを見知ってから作戦を立て挑むことができること。そこで彼らはチームを二班に分け、それぞれのチームが一体ずつ各個撃破していくことに決めた。早速ハンター達は分かれ手はずを整える。
「瀬崎・統夜だ。宜しくな」
光を全て吸い込む様に漆黒に彩られたデュミナス、愛機・黒騎士の元で瀬崎・統夜(ka5046)が班のメンバーに挨拶する。それを受けて
「綺導・沙織です。この子はエーデルワイスです。宜しくお願いしますね」
沙織(ka5977)が自分の騎乗するデュミナスと共に自己紹介をしていた。
「この間蜘蛛型機械をやっつけたばかりのはずなんですけどねー?」
その後ろでは葛音 水月(ka1895)が分厚い装甲を施し角ばった印象を与える自分の機体をチェックしながら、訝しむように、それでいて軽い口調でそう言って崖下を覗き込む。それに釣られるように沙織も覗き込む。そこにはやはり八体の自動人形。何度覗いたところで減ってくれる訳もない。それも人類には未知の技術を盛り込んだスペシャルな機体だ。沙織などはついつい興味を惹かれてしまうが、ぐっとこらえる。
そんな三人をアニス・テスタロッサ(ka0141)は自分の機体に取り付けられたスラスターライフルをメンテナンスしながら見ていた。赤と黒に塗られた彼女の機体はスナイパー用のカスタムが施されている。逆に言えば、このスラスターライフルこそが彼女の生命線だ。かつて軍人時代から何度も頼りにしてきた相棒を信じ、そのときに備えていた。
そんなこんなをしている内に機体を降下させるための準備が整った。ハンター達は時計を合わせ、作戦開始の時を待つ。5、4、3……。
「いこうか、白夜」
カウントダウンに合わせたカール・フォルシアン(ka3702)が黒騎士と対を為すように雪の結晶のごとく色塗られた自分の愛機の名前を呼ぶその言葉とともに、八つの機体は崖へとその身を踊らせた。
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重力加速度に引かれて落ちていくCAM達を、ワイヤーが引き止める。二つの力が釣り合い、CAMを壊さないだけの速度で留まる。間もなくハンター達は目的地に到着する。しかしその瞬間自動人形達は一斉に攻撃を浴びせようと動いていた。しかしハンター達も黙ってやられるつもりもなかった。
地面に白夜の純白の脚部が触れるか触れないかのタイミングで、そこにあったスラスターが開かれる。魔導エンジンが駆動し、マテリアルが運動エネルギーに変換される。
白夜の目の前に並んでいた機体、仮に格闘型と呼ばれているそれが腹部の砲口からあらん限りの光線を撒き散らす。しかしその純白の機体は時にはかわし、時には盾を掲げ、光線の束を弾き返しながら先へと進んでいた。幾つかの光線がその機体を傷つける。しかしそれに止まること無く、純白のソレは流星と化し自動人形の群に突っ込んでいった。
「まずは、数的劣位を覆すか」
そしてその後ろで雲雀機が動いていた。予定したとおりにタイミングを合わせ、二つの機体は一体の格闘型自動人形を挟み込むように動く。このチームの最初の標的はこの機体だった。
しかし、それを自動人形達は簡単には許してくれなかった。ターゲットから離れた位置にあった機体が八つの砲門を一斉に開く。そこからほんの一瞬の溜めの後に、一斉に周囲に光線が撒き散らされる。その光線は今まさに格闘型に襲いかかろうとしていた白夜を貫く。
それだけでは無かった。白夜の後ろから追いかける形になった他の機体にも光線は向かっていた。その一本は仙石機の胴を撃ち、別の一本はエリス機の腕を灼く。
「……流石にずっとこの状態はまずい、っすか」
仙石は冷静に計算していた。包囲されているこの状況の解消のためには速攻しか無い。すでに先手は奪われている。迷う暇は無い。マニピュレーターがマシンガンにエネルギーを送り、銃口から銃弾が一気に放たれる。それによって生み出された弾幕が一体を覆い、二体のCAMの間をくぐり抜けその間に居た自動人形を撃った。
「お好きなようには致しませんっ!」
そしてエリスはもっと先を見ていた。彼女の視線に映るのは後方に待ち構え八つの砲門を開いているその自動人形。搭載されたマシンガンの照準をセットし、トリガーボタンを叩く。軽やかな発射音を鳴らしその弾丸は吸い込まれるように標的に命中した。
「鹿島様! 合わせていきますっ!」
「OK。援護射撃は任せるぞ、エリス!」
バランスを崩している自動人形を見てエリスが通信を送る。雲雀機の確認は必要なかった。相手がどの様に動いてくれるかは見なくても分かっていた。彼女のために白夜はその盾を押し当てるように格闘型に向け、盾を掴んでいた手甲部からプラズマカッターを出力して刺し貫く。
「随分と豪勢に束ねてるが。そこ、装甲が薄かったりしねーか?」
そして雲雀機はその腕に装備されていたハルバートを振り抜いた。狙う場所はただ一点、腹部、無数の砲身が束ねられたその部分。敵の攻撃部を破壊し穴を開けるための一撃。しかし、その一撃は敵の攻撃を弱めることにはならなかった。仙石とカール、二人の攻撃を既に受けていた自動人形はその刃を受け耐えることなく、活動を停止していた。
●
一方、白夜がアクティブスラスターを開いた時、反対側ではそれに合わせるように黒騎士がスラスターを全開にしていた。同じように盾を高く掲げ、格闘型自動人形から撒き散らされる光線の束の中へと突っ込んでいく。しかし、そこからの動きは白夜と対象的だった。盾を掲げてこそあれ、匠な操縦技術と読みを駆使してギリギリのところをかわす、というより隙間を縫うように進んでいく。コールサイン『バレット・オブ・ナイト』の名の通り、彼のCAMは弾丸と化して敵機へと飛び込もうとしていた。
しかし、自動人形に搭載されたアルゴリズムはそれを許さない。もう一体の格闘型機が体をこちら側に向け、重ねるように光線を浴びせてくる。
「速攻で一機潰すぞ! 続け、沙織!」
そして瀬崎は通信を送った。その通信を受け取るか受け取らないかのタイミングで、既にエーデルワイスは移動を開始していた。リアルブルーの軍人同士の息の合った連携を見せ、敵を倒すべく動く。
だが、そこに更に重ねるように、後方から光線が飛ぶ。一気に八連射され糸をひくように散らばっていく光線達。それはかわせるものではなかった。黒騎士の頭を貫き、エーデルワイスの胴を灼く。コックピット内にはその事を示す警告メッセージが流れる。
「頑張って、エーデルワイス!」
そのメッセージを見ながら、沙織は祈るようにレバーを倒していた。
一方、そんな二機の後方でアニスは悪態をついていた。全方向に発射された光線の一本は確かに彼女の機体も捉えていた。衝撃により傾いたそれを素早く修正して、彼女はターゲットサイトを合わせる。彼女のパーソナルカラーに塗られた機体は動きを止め、揺れ動かないようにスラスターライフルを固定する。
「ウゼェんだよ! 沈め!」
次の瞬間轟音とともに弾丸の雨が放たれる。それは一本の鎖のように連なって真っすぐ飛び、そして彼女達を狙ってきた自動人形を捉えてきた。その弾丸は確かに狙い通り、自動人形達がつい今しがた光線を放ったばかりの砲身をへし折っていた。
しかし敵側の更に後方、地面が切れるそこにも敵機が居た。肩には巨大な存在感を示す砲身が二本。それを少し上に上げる。
「支援型、砲撃来ます!」
「奥から砲撃きますよ、気を付けてー」
沙織がそれを見て敵機の狙いに気づき通信を送るのと同時に、アニスの更に後ろで機体を膝立ちにして待機していた葛音が反応した。ガトリングガンをスタンバイさせ、敵機からエネルギー弾が発射されると同時にトリガーを引く。
光弾と実体弾、二つは上空で交わり、耳をつんざくような轟音をこの大渓谷一体に轟かせる。しかし、その残響が晴れた後には何も残っては居なかった。
砲撃を止めたのなら後は目の前の敵を倒す時。頭部に光線の直撃を受けた衝撃を何とか逃した瀬崎は黒騎士を駆った。そのまま体当たりを食らわせるように自動人形に当たり、その勢いで装備していた斧を振り下ろす。まっすぐ振り下ろされた斧は自動人形の脚部を叩き潰す。
「頼むね。エーデルワイス。いけ!」
沙織はレバーを逆方向に倒す。するとエーデルワイスはそれに答え、急旋回して標的に向かう。スラスターが開き排気が吹き出され土埃が上がる。狙う一点、黒騎士と向かい合う位置、そこへ機体を滑り込ませると腕を振り上げた。甲高い回転音が起こり、腕に装着されたドリルが自動人形の方へと食い込んでいった。
●
「援護はお任せくださいませ」
エリスからの通信を受け、雲雀機が動く。マシンガンに換装を終えると、前に進みながら弾丸を降らせる。しかしそんな雲雀機よりさらに前にいるものがいた。純白の塗装は受けた光線で一部剥がれていたが、それでも間違いなくカールの愛機、白夜だった。それは誇り高く盾を掲げ、連続で降って来る光線に耐えながらひたすら前進する。そんな白夜が雲雀機にとってはいい盾になった。前へ、前へと出て行く両機を押すように、エリス機は後方から暴れ馬の如く大量の弾をばら撒いて文字通り弾幕を張る。
だがその時だった。最後方から光弾が発射される。それはそれはこの戦場の上を飛び、両機の間で炸裂する。
しかし白夜は既に離れていた。光弾を見た瞬間にスラスターを開いて急加速し、雲雀機から離れる。
そしてその光が晴れた時、そこには雲雀機が立っていた。そのハルバートの銀色の斧刃でもって光弾を受け止め、払う。
光を払った時に一帯に不気味な音が響いた。例えるなら幽霊のうめき声のような――それは仙石機に搭載されていたカノン砲の発射音だった。全長4メートルを超える長い砲身から巨大な砲弾が四連射される。強烈な反動を機体で抑えきり、その砲弾は前線の二機を超えて一気に射撃型自動人形に炸裂した。
それが好機だった。まずは白夜。自動人形に接敵し終えると、盾を下ろす、と同時に曲刀が現れ、それが一刀の元に縦に連なった砲門を斬りつける。白夜が振り下ろし切るやいなやそこに雲雀機が飛び込んできた。デュミナスの全質量を預けたような大上段から地面を穿つハルバートの一撃。左に四門、右に四門連なった自動人形の砲門をその後ろごとまとめて叩き折るような一撃。それが炸裂し、自動人形が自重に耐え切れず、原型を留めず崩れていく中、白夜は既に次の射撃型自動人形を倒すべく動き始めていた。
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格闘型を一機屠ったエーデルワイスのカメラが動く。パイロットの沙織は周囲をモニタリングする。その間も絶え間なく光線が、エネルギー弾が浴びせられるがそれを黒騎士が守る。次に倒すべき相手はすぐに見つかった。残った格闘型が居た。
しかし、戦力を集中して二機を一気に潰した代償が襲いかかった。二機は同調してそれを止めるべく動くが、その敵機は間をすり抜けるようにして後衛へと襲い掛かってきたのだった。
それに素早くアニスが反応した。スラスターライフルを格納すると素早くクローとハンドガンを展開。スラスターを開いてあえて前に飛び出す。
「ったく……こちとらケンカは苦手なんだ。っと、オツムがガラ空きだぜ」
そのまま流れるようにハンドガンを頭部へ向けて連射する。格闘型は光線で弾幕を張り防ごうとするが、漏れ出た弾丸が確かに敵機頭部へと命中した。そして。
「お一人様いらっしゃーい?」
そこには葛音機のガトリングガンがターゲッティングしていた。銃身が回転を始め、弾丸が一気にばらまかれる。
「やりたいようにはやらせませんけどねー」
止めどなく機体を穿つ音が響き、敵機をその弾丸の嵐に晒して削り取っていく。そして。
「アホが! 胴体のど真ん中に砲口つけてりゃいい的だぜ!」
そこにアニス機のクローが胴をえぐり取った。深々と突き刺さった、砲身の束を掻き出すように払われた爪に続けて、黒騎士とエーデルワイスの斧とドリルが食い込めば、もはや活動を継続することはできなかった。
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「包囲網の一部が破けましたっ! 反撃いたしましょうっ」
戦力バランスが崩れた。戦況は耐えて耐えて耐え抜いたハンター側に傾いた。明朗快活なエリスの声が通信網に乗って全機に届く。
それでたった今まで格闘型を対応していたアニス達も向き直る。勝利を掴むなら今しかない。
「あとはコイツ等だけか。……気ぃ抜いてまとめて吹っ飛ばされないように気をつけろよ?」
アニス機が再びスラスターライフルを構える。そこから狙うは射撃型自動人形。ターゲットは合わせた。呼吸を整えたのは一瞬だけ。そこでトリガーボタンを叩く。降り注いだ弾丸の雨が容赦なく自動人形のそのボディを削っていく。
一方、背中合わせになる形で居たエリス機は弾幕を張りながら、ほんの少しずつ前進を始めていた。自然弾幕そのものの前へと進み始める。自動人形はそこに飛び込むわけがない。弾幕の前進に合わせるように後退を始める。
そして前に進み始めたエリス機の後ろに位置取っていたのは仙石機だ。この機体のカメラアイは射撃型自動人形ではなく、その後ろで今まさに砲身を持ち上げた支援型機を映していた。エネルギーを貯め、炸裂するエネルギー弾を発射する。今だ。この位置ならマシンガンでも届く。追い詰めている射撃型機を倒す最後の一手を邪魔されないよう彼はエネルギー弾に合わせて操作ボタンを押す。
「それじゃ行きますよー」
その頃エリスの通信を聞いた葛音はレバーを倒し、ガトリングガンのターゲットサイトを動かした。モニターで照準マークが滑るように動き、それはピタリと射撃型自動人形に合う。アニス機の射撃に合わせてトリガーを入れれば、両機から繰り出される銃声がステレオとなって大渓谷一帯に広がっていった。
そしてそんなステレオ音の銃声に乗って、四体の機体は一気に前へと進み出た。白夜と雲雀機がエリス機が削っていた自動人形を挟み込み、黒騎士とエーデルワイスはステレオの銃声が集まる地点、すなわちもう一体の射撃型自動人形を挟み込んだ。
そして二体ずつのデュミナスがぶつかりそうになった瞬間、それらの自動人形たちは活動を停止した。そこには巨大な塊と化した物が残っていた。
●
射撃型自動人形を排除し終えても、エリス機が弾幕を張るのを止めなかった。更に前へ前へと押し進めていく。残るはこの戦場に炸裂弾を落としてきていた自動人形。
しかしそれはもはや後退する事は叶わなかった。その機体の後ろに広がっていたのは、何もない空間。大渓谷そのものが大きく口を開けて待ち構えていたのだから。
「突き落としてくださいませ!」
「任せろ。このままブチ落とす!」
そしてエニスからの通信に雲雀機が飛び出す。一気にその自動人形の懐へ飛び込んだかと思うと、思い切り脚部を振り上げた。まっすぐ横に突き出された脚部が自動人形の胴をえぐり弾く。見事な横蹴りが炸裂し、自動人形の巨大な体は吹き飛ばされる。そしてその下には何もなかった。自動人形は少しだけ空中を浮かぶと、あとは重力に惹かれ崖下へと落ちていった。
そしてエニスと雲雀は残る一体へとカメラを合わせる。そこで二人が見たものは、最後の一機を同じように蹴り飛ばしていたアニス機の姿だった。
「この高さから落ちて無事ならタフもいいトコだな」
彼女の言うとおり、長い長い沈黙の後に聞こえてきたのは、ほんの微かな衝突音だった。
●
戦闘は終わった。機体の損傷はあるとは言え、修復さえ済ませば再度運用可能。搭乗員にも問題は無し。作戦は成功を収めていた。
各機は元の位置に戻り、待機状態に移る。そして次々と各機のコックピットが開き、中からパイロットが降りてくる。
「お疲れ様でした、皆様」
あとは相棒をワイヤーに繋ぎ、地上まで巻き上げてもらえれば終わりだ。その前にここに降り立ってもいいだろう。崖上に集まったメンバーに、エリスは手際よく用意していた濡れたタオルと飲み物を渡していった。
何人かが飲み物で喉を濡らしていた頃、沙織と葛音は自動人形達の残骸に近づいていた。
「こんなのを僕の機体にも積めたら面白そうなんですけどね」
葛音が格闘型機の腹部砲門をチェックする。沙織もそれらをつぶさに調べる。しかし調べても調べても、彼女にはわからないことだらけだった。まず材質が違う。金属とも単純に言い切れない性質を持っているし、剛性を考えたら信じられないような運用を行っていることが見て取れる。
「どの型の武装も興味深かったから鹵獲したりできないでしょーか?」
葛音は今度は射撃型機を見ていた。一部破壊したとは言え、この八つの砲門は驚異的だ。もし自分たちの武器として運用できればこんなに素晴らしいことはない。しかし
「……残念ですけど無理ですね」
沙織は冷静に首を振ってそう答えた。彼女自身ももし自分たちで運用できればとは思ったが、材質が違う、設計が違う、操作方法に至っては思いもつかない。我々の知っている技術体系とは全く別の存在。それを運用することが叶わないことは残念ながら、すぐにわかった。
それでもと持ち運べるだけの残骸を機体に付けて、一同は再び愛機に乗り込む。程なくしてワイヤーが巻き上げられ彼らは地上へと回収されていった。これで再び調査が可能になるだろう。しかしそれはまた別のハンター達の話だ。崖下には沈黙だけが残っていた。
「……ふむ、やはりこの程度でもダメか。確かCAMとか言うのであったな。それをも運用する相手には無理だったか」
襲い来る自動人形を討ち払いながら、ラプラスはここで起こったことをそう振り返っていた。
「あれ程の力を持つ者たちに我と自動人形だけではフェアとは言えぬ。この戦いをフェアにするためには……」
そしてラプラスは天秤を揺らした。
「もう一つこちら側の武器が必要か」
その声が風に吹かれて消えていったとき、そこにはもはや誰の姿もなかった。
依頼結果
参加者一覧
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 カール・フォルシアン(ka3702) 人間(リアルブルー)|13才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/09/28 19:19:01 |
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質問卓 アニス・テスタロッサ(ka0141) 人間(リアルブルー)|18才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/09/28 23:22:17 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/09/28 09:11:18 |