ゲスト
(ka0000)
【猫譚】古城歴史探索〜もふもふの痕跡〜
マスター:芹沢かずい

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/09/29 09:00
- 完成日
- 2016/10/07 02:16
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ユグディラを追いかけた一騒動のあと。
寂しかった村には、若者を中心とした村人達の声が戻ってきていた。
村の安泰と発展は、この村に住む者にとって共通の願いだ。そのためにも、千年の歴史を持つ古城を修復し、観光の目玉にしようという動きにも勢いがついていた。
「あたしの目に狂いはなかったわね!」
リタならばこう言うだろう。……最初に古城を観光地にしようと言い出したのは、他でもない彼女だからだ。
ガーゴ爺やイル婆、村に残っていたリブ爺たちが若かりし頃、何度か開放されていたこともあるらしいのだが、長続きしなかったのだ。それ故、遠くない過去にゴブリンに占拠され、廃村の危機に晒される事態に陥った。
村人にとってここは帰るべき場所であり、当然のようにこの村が好きなのだ。そして、余所から流れるようにやってきた姉妹が、実は結構好きだったりする。
●
古城からは、修復作業の音が賑やかに響いていた。あの姉妹も参加しているが、連携の取れた村人チームの修復大工作業にはあまり関わっていない。……足手まといになるからだ。
なので、彼女達の仕事は各部屋の掃除がメインだったりする。ガーゴ爺は姉妹の監視も兼ねて(貴重なものが多いからだ)一緒に作業をしていた。
「ガーゴ爺ちゃん、エマ、そろそろ休憩にしない?」
頭から埃を被ったのか、真っ白になっているリタが提案する。ガーゴやエマは大量の埃から身体を護るために顔中に布を巻いていた。
「そうだね。そう言えば厨房が使えるようになったって聞いた?」
「そうなの? じゃあ食堂で休憩しましょ! お茶でも飲みながら」
「婆さんが何か作っていたようじゃから、頂くとしようかの」
ガーゴと姉妹が掃除していたのは、リタがユグディラに案内されたという東の塔の中。かつて使用人達の居室として利用されていた場所だ。
秘密の階段を下りて(今は隠していないので秘密ではないのだが)二階の回廊を通り、さらに螺旋階段を下りた先の食堂に向かう。
小綺麗に整頓されたテーブルにつくと、ことん、と目の前に白い皿が置かれた。
「?」
驚いて後ろを見ると、エマの背後に気配もなく近付いて来ていたイル婆だった。
「っ……お婆ちゃん? どうして気付かないように近付いて来れるの?」
「ふぉふぉふぉ、エマさんはまだまだのようじゃの」
嬉しそうに目を細め、動きで隣を示すイル婆。
「……お姉ちゃん」
隣に座ったリタが、同じようにイル婆から差し出されたお皿を自らの手で受け取っていたのだ。
「ふぉふぉ……どうかの? ユグディラで思い出してのぅ、昔教わったものを作ってみたんじゃ」
復活した厨房で作ったのだろう。お皿の上には丸いお菓子が乗っていた。
「有り難い事に、隣町から食糧の援助が受けられることになったからねぇ」
そう。現在この村は最低限の生活ができるまでに復興してきている。が、荒らされた畑を整備して、収穫を得るまでにはまだ時間がかかる。その間、格安で食糧を譲ってもらえることになったのだ。
隣町とはいえ、かつては古城を中心として栄えた一つの領地。この地に住む者は、村人に限らず古城の復興を願っている。
「あら? なんか可愛いわね。何て言うお菓子なの?」
「まんじゅうと言ったかのぅ。リアルブルーでは色んな種類があるらしいからの、こっちでイル婆風に作ってみたんじゃが、どうかいな?」
「うん、まず外見がいいわね!」
外見の評価から入るリタ。食レポというやつを実践しているようだ。
ふっくら柔らかく、それでいてしっとり感もある。リタの掌よりも一回り程小さいサイズのそれは、思っていたよりも重かった。そして何より、『可愛い』を言わせたのはその模様だ。苺か何かを使っているのだろうか、ピンク色のクリームで猫の肉球が描かれている。
「お姉ちゃんのは白とピンクなんだね。私のは茶色」
「それはコーヒーを練り込んだ生地じゃよ」
姉妹は同時に饅頭を割る。中から立ち上る甘い香りがふわりと鼻孔をくすぐった。
「中はカスタードクリームね! 美味しそう! 頂きまーす!」
「私のはチョコだね。頂きまーす!」
二人とも、一口目を頬張った時に食レポを忘れたらしい。甘い、美味しいを繰り返すばかりだ。
「そっちも旨そうじゃのぅ!」
陽気な声で言いながらやって来たのは、リブ爺。その手には緑色の饅頭が乗った皿。
リブ爺は修復作業の陣頭指揮を執っていたのだが、彼も休憩に来たらしい。甘いのが苦手なリブにと、イル婆が気を効かせたようだ。因みにガーゴが貰ったのはチョコレートの方。
「ハーブを練り込んだ生地と、甘さ控えめ、ビターチョコじゃ」
姉妹の視線を感じたイルが説明する。リブの饅頭には何故か爪痕が描かれている。
テーブルを囲んで、しばし饅頭とお茶をすする音。
「ほう、ユグディラか」
不意にリブが感心したような声を出した。
ガーゴとイル、エマがリブの視線を追う。そこで初めて気がついたのだ。抱えているのが猫ではないことに。
「え……? 連れて来ちゃったの?」
「良くついて来たのぅ」
非難がましい視線と感心する視線を、純粋な瞳で受け流し、リタは胸を張る。その胸元にはユグディラが一匹。
確かあの時、ユグディラは皆、遠くに見えたリンダールの森へと消えて行ったはずだ。
「しょうがないでしょ? 出遅れちゃったらしくて困ってたんだもの。ついて来る? って聞いたらついて来ちゃったんだし」
「ひょっとして……その子も方向音痴だったりして」
エマがちょっとだけ意地悪そうに、リタとユグディラを交互に見やって言う。
……心無しか、ユグディラがぐっと言葉に詰まるような音を鳴らした。リタは言われ慣れているので、全く気にも止めない。……少しは気にしろよ。
「お姉ちゃん、それ何?」
リタの前に置かれた物に気付いて、問いかける。
「さっきの部屋で見つけたのよ。持ったら崩れちゃったんだけど……かなり昔の日記帳か何かだと思うのよね。ほらここ」
珍しく神妙な顔つきで、ボロボロになったページの一部を示す。
そこには、お世辞にも上手いとは言えない絵が描かれていた。破れてしまったので一部だけだが、ユグディラのように見える。
「古城の歴史にも関係してくるのかのぅ。この辺りからユグディラが姿を消したのが300年かそれ以上前と言われとる」
古さでいえば、その頃の資料ではないか……ガーゴはそう言う。
「え? それじゃそんな昔からユグディラと交流があったってことですか?」
「伝え聞いた話じゃから、信憑性については保証できんがの。城が造られてからの文献も、探せばあるかもしれんが……」
がたんっ!
勢い良く椅子を蹴飛ばして立ち上がるリタ。
「古城の歴史が呼んでるわ! さあエマ! 早速調査よ!」
「ん……これ食べてからね」
「分かったわ!」
倒れた椅子を元に戻して、続きを食べ始めた。
ユグディラを追いかけた一騒動のあと。
寂しかった村には、若者を中心とした村人達の声が戻ってきていた。
村の安泰と発展は、この村に住む者にとって共通の願いだ。そのためにも、千年の歴史を持つ古城を修復し、観光の目玉にしようという動きにも勢いがついていた。
「あたしの目に狂いはなかったわね!」
リタならばこう言うだろう。……最初に古城を観光地にしようと言い出したのは、他でもない彼女だからだ。
ガーゴ爺やイル婆、村に残っていたリブ爺たちが若かりし頃、何度か開放されていたこともあるらしいのだが、長続きしなかったのだ。それ故、遠くない過去にゴブリンに占拠され、廃村の危機に晒される事態に陥った。
村人にとってここは帰るべき場所であり、当然のようにこの村が好きなのだ。そして、余所から流れるようにやってきた姉妹が、実は結構好きだったりする。
●
古城からは、修復作業の音が賑やかに響いていた。あの姉妹も参加しているが、連携の取れた村人チームの修復大工作業にはあまり関わっていない。……足手まといになるからだ。
なので、彼女達の仕事は各部屋の掃除がメインだったりする。ガーゴ爺は姉妹の監視も兼ねて(貴重なものが多いからだ)一緒に作業をしていた。
「ガーゴ爺ちゃん、エマ、そろそろ休憩にしない?」
頭から埃を被ったのか、真っ白になっているリタが提案する。ガーゴやエマは大量の埃から身体を護るために顔中に布を巻いていた。
「そうだね。そう言えば厨房が使えるようになったって聞いた?」
「そうなの? じゃあ食堂で休憩しましょ! お茶でも飲みながら」
「婆さんが何か作っていたようじゃから、頂くとしようかの」
ガーゴと姉妹が掃除していたのは、リタがユグディラに案内されたという東の塔の中。かつて使用人達の居室として利用されていた場所だ。
秘密の階段を下りて(今は隠していないので秘密ではないのだが)二階の回廊を通り、さらに螺旋階段を下りた先の食堂に向かう。
小綺麗に整頓されたテーブルにつくと、ことん、と目の前に白い皿が置かれた。
「?」
驚いて後ろを見ると、エマの背後に気配もなく近付いて来ていたイル婆だった。
「っ……お婆ちゃん? どうして気付かないように近付いて来れるの?」
「ふぉふぉふぉ、エマさんはまだまだのようじゃの」
嬉しそうに目を細め、動きで隣を示すイル婆。
「……お姉ちゃん」
隣に座ったリタが、同じようにイル婆から差し出されたお皿を自らの手で受け取っていたのだ。
「ふぉふぉ……どうかの? ユグディラで思い出してのぅ、昔教わったものを作ってみたんじゃ」
復活した厨房で作ったのだろう。お皿の上には丸いお菓子が乗っていた。
「有り難い事に、隣町から食糧の援助が受けられることになったからねぇ」
そう。現在この村は最低限の生活ができるまでに復興してきている。が、荒らされた畑を整備して、収穫を得るまでにはまだ時間がかかる。その間、格安で食糧を譲ってもらえることになったのだ。
隣町とはいえ、かつては古城を中心として栄えた一つの領地。この地に住む者は、村人に限らず古城の復興を願っている。
「あら? なんか可愛いわね。何て言うお菓子なの?」
「まんじゅうと言ったかのぅ。リアルブルーでは色んな種類があるらしいからの、こっちでイル婆風に作ってみたんじゃが、どうかいな?」
「うん、まず外見がいいわね!」
外見の評価から入るリタ。食レポというやつを実践しているようだ。
ふっくら柔らかく、それでいてしっとり感もある。リタの掌よりも一回り程小さいサイズのそれは、思っていたよりも重かった。そして何より、『可愛い』を言わせたのはその模様だ。苺か何かを使っているのだろうか、ピンク色のクリームで猫の肉球が描かれている。
「お姉ちゃんのは白とピンクなんだね。私のは茶色」
「それはコーヒーを練り込んだ生地じゃよ」
姉妹は同時に饅頭を割る。中から立ち上る甘い香りがふわりと鼻孔をくすぐった。
「中はカスタードクリームね! 美味しそう! 頂きまーす!」
「私のはチョコだね。頂きまーす!」
二人とも、一口目を頬張った時に食レポを忘れたらしい。甘い、美味しいを繰り返すばかりだ。
「そっちも旨そうじゃのぅ!」
陽気な声で言いながらやって来たのは、リブ爺。その手には緑色の饅頭が乗った皿。
リブ爺は修復作業の陣頭指揮を執っていたのだが、彼も休憩に来たらしい。甘いのが苦手なリブにと、イル婆が気を効かせたようだ。因みにガーゴが貰ったのはチョコレートの方。
「ハーブを練り込んだ生地と、甘さ控えめ、ビターチョコじゃ」
姉妹の視線を感じたイルが説明する。リブの饅頭には何故か爪痕が描かれている。
テーブルを囲んで、しばし饅頭とお茶をすする音。
「ほう、ユグディラか」
不意にリブが感心したような声を出した。
ガーゴとイル、エマがリブの視線を追う。そこで初めて気がついたのだ。抱えているのが猫ではないことに。
「え……? 連れて来ちゃったの?」
「良くついて来たのぅ」
非難がましい視線と感心する視線を、純粋な瞳で受け流し、リタは胸を張る。その胸元にはユグディラが一匹。
確かあの時、ユグディラは皆、遠くに見えたリンダールの森へと消えて行ったはずだ。
「しょうがないでしょ? 出遅れちゃったらしくて困ってたんだもの。ついて来る? って聞いたらついて来ちゃったんだし」
「ひょっとして……その子も方向音痴だったりして」
エマがちょっとだけ意地悪そうに、リタとユグディラを交互に見やって言う。
……心無しか、ユグディラがぐっと言葉に詰まるような音を鳴らした。リタは言われ慣れているので、全く気にも止めない。……少しは気にしろよ。
「お姉ちゃん、それ何?」
リタの前に置かれた物に気付いて、問いかける。
「さっきの部屋で見つけたのよ。持ったら崩れちゃったんだけど……かなり昔の日記帳か何かだと思うのよね。ほらここ」
珍しく神妙な顔つきで、ボロボロになったページの一部を示す。
そこには、お世辞にも上手いとは言えない絵が描かれていた。破れてしまったので一部だけだが、ユグディラのように見える。
「古城の歴史にも関係してくるのかのぅ。この辺りからユグディラが姿を消したのが300年かそれ以上前と言われとる」
古さでいえば、その頃の資料ではないか……ガーゴはそう言う。
「え? それじゃそんな昔からユグディラと交流があったってことですか?」
「伝え聞いた話じゃから、信憑性については保証できんがの。城が造られてからの文献も、探せばあるかもしれんが……」
がたんっ!
勢い良く椅子を蹴飛ばして立ち上がるリタ。
「古城の歴史が呼んでるわ! さあエマ! 早速調査よ!」
「ん……これ食べてからね」
「分かったわ!」
倒れた椅子を元に戻して、続きを食べ始めた。
リプレイ本文
●
古城の一階にある食堂に、ハンター達が集まっていた。
(この前来た時から大分修復は進んだのかな)
ザレム・アズール(ka0878)は前回の隠し部屋騒動の時にこの城を訪れている。
「またお邪魔します、なんてな」
にこやかな表情のザレムの前には、リタに抱えられたユグディラ。何を隠そう、彼はユグディラが大好きだ。
『よろしくお願いします!』
姉妹は揃って頭を下げる。
「かわいいわね、リタちゃんのお友だち?」
「そうよ、ゆぐでぃんっていうの」
リタとレオナ(ka6158)の間で可愛らしい会話が成立している。
「300年前の古い日記なんて、すてきね」
リタが見つけたボロボロの日記帳を見て言う。
「古城の調査か……面白そうだな!」
楽しそうに、テオバルト・グリム(ka1824)。
ここの独特の空気を楽しんでいるのは彼だけではない。
「古城の雰囲気って好きなんだよな」
「いいよね。歴史とか趣を感じられるし」
央崎 枢(ka5153)と央崎 遥華(ka5644)の姉弟。
スフィル・シラムクルム(ka6453)は密かにリベンジを誓う。
「前回は叫んじゃったけど、気を引き締めてかかるわよー」
「よーし、張り切って探すぜ!」
古城の古い物語、謎や仕掛けに心踊らせる皆を代表する、テオバルトの声。
探索の気分も上がる!
「……あ、おばちゃん饅頭1個ください」
●
螺旋階段を上った先にあるのが領主の間。室内は古い家具が多く、いかにも『何か』がありそうだ。
レオナが城内を把握して目星をつけたのは、ここ。
「昔の人はユグディラと一緒に、何をしていたのかしらね」
祖先から語り継いできたものがあるならば、ゆぐでぃんが教えてくれると良いのに……。思いを胸に、調査を進める。
注意深く引き出しを開け、本棚の境目を調べ、壁に仕掛けがないかを探す。特にユグディラのモチーフのある物を中心に。
「あら? これは……」
ライトが照らし出す先には、小さな猫マーク。引き出しの中には細長い筒状の小さな入れ物。中からカラカラ音がする。
「もしかして!」
慎重に開けると、中には小さな鍵。見つかったのはその鍵だけだったが、丁寧に埃を払って仕舞い込む。勿論連絡は忘れない。
●
事前に食堂でガーゴ爺達から話は聞いていたのだが、枢は自分の目で確かめるべく、東の塔に来ていた。
隠し部屋から上に続く階段があった場所は、一部を残して崩れていて、修復はまだのようだ。
見上げると、三階への扉らしきものが見える。枢は壁に貼り付くようにして調べてみたが、どうやっても開きそうになかった。首を傾げながら、別の場所へ移動する。
●
二階。南と西の塔に挟まれた部分に並ぶ、細長い部屋。壁の向こう側は、二つの塔を結ぶ通路になっているはずだ。前回の調査でザレム本人が通っている。窓は閉ざされ、回廊側から僅かに差し込む光はあるが、暗い。
(文献無いかな)
幾つもの棚が立ち並び、倉庫か資料室なのだろう。まだ掃除されていないので、大きな蜘蛛の巣もある。
ライトを照らし、がさごそ。お宝、文献、ユグディラの伝承記録……彼の探究心は尽きない。
●
北の塔。グロテスクな銅像がある場所で、スフィルとテオバルトが調査中だ。
「ここは宝物庫なのよね……? なんてもの集めてるのよ」
銅像を見上げて、スフィルが呟く。
「大丈夫か?」
「うん、一度見ちゃえば問題ないし! 怖くないし! っていうか気持ち悪っ!」
自分に言い聞かせるように捲し立てつつ、銅像を足掛かりにできないかを見極めている。これに登っても大丈夫だろうか。
「これがスイッチになってたのか」
テオバルトは目を輝かせて宝物庫を眺める。スイッチというのは猫の置物で、動かすことで銅像が出現した。
「肉球マークは他にもありそうな気がするけどな……」
「やっぱり上の方かしら」
スフィルは銅像に登り、天井付近に連なる棚に目を向ける。
テオバルトは自身のスキルと鞭を上手く使って身体を支えながら棚を物色していく。猫マークを優先的に探しているが、天井と床を往復しながらなので大変そうだ。
「ん? なんだこれ」
「どうしたの?」
「何か上の方に扉があるんだけど、開かないな」
スフィルも銅像を足掛かりに手の届く範囲を調査。前回のことがあるので、物を動かすときはやや慎重だ。
テオバルトが高い所、スフィルが下の部分というように協力しながら猫のマーク、ユグディラの文字を探してみると、比較的保存状態の良い品物があった。収納場所を間違ったのか、本もある。
「面白い話はあるかな……っと」
テオバルトがパラパラめくっているのは、背表紙に猫マークのある古い本。これは厨房に持って行くことにする。
「おぉ? ……何かあったぜ」
何やら発見したらしく、それをスフィルに見せる。
「何かしら?」
見つけたのは、二足歩行している猫の置物。……ユグディラだ。古いが損傷はない。気になるのはそのデザイン。ユグディラが鍵穴のついたバッグを持っている。
「これも……何か関係ありそうね!」
そしてスフィルも声を上げる。古い竪琴だった。最も重要なのは、猫マークの刻印。下には飾り文字のようなものもあるが、猫マークと一緒に半分に切れている。
「この半分の模様、他の何かとセットだったんじゃないかしら? これは厨房に持って行くわね! 凄い発見よねっ?」
竪琴を大事に抱えたその顔は、喜びに満ちて可愛らしい。スキップしそうな軽い足取りで塔を出ようとした時。
「あっ、スフィルさんにテオバルトさん!」
「あれ、リタ? 一人でうろうろしてたら迷子になるだろ」
「ゆぐでぃんがどっかに行っちゃったの」
「俺が探しといてやるから、エマんとこに行ってようぜ」
「お願いね!」
二人はリタと共に食堂へ向かう。リタをエマに引き渡すと、テオバルトは他の場所の調査に向かって行った。
スフィルは饅頭を貰ってから、厨房を見て回るようだ。
●
南の塔、書庫に向かったのは遥華と枢。
塔内は薄暗い。ランタンを付けると、古い書庫がさらに素敵な雰囲気になる(遥華談)。
遥華は手の届く範囲を、枢は高い所の本を調べている。見上げる本棚は天井近くまであり、梯子は壊れている。届かないからこそ気になるものだ(枢談)。
ライトで照らし、枢も気になれば手に取り目を通してみるが、長い時間壁に貼り付いていられるわけではない。壁と床を往復しつつの作業だ。
本好きな遥華にとって、ここは我慢のしどころだった。王国の歴史書の他、地域の動植物を取り扱ったものから、日々の生活に必要な知識や技術をまとめたものまで様々な本が置かれている。
古城に関する本もあったが、ここでじっくり読む訳にはいかず、遥華はぐっと我慢して拝借することにした。
立派な装丁の本に混じって、手作り感のあるものは目を引く。
「ん?」
凝った意匠の中にある、ノートのようなもの。遥華は丁寧にそれを引き抜くと、注意深く捲ってみる。
「……見っけ♪」
見つけたものは、日記のようだ。絵と共に日々の生活が書き綴られている。
(……棚の本を動かしたら仕掛けが動くとか……?)
枢が少しだけ期待を込めて本棚を調べていた時。
『にゃん!』
「わっ!」
突如聞こえた声に驚いて振り返ると、器用に登ってきたらしいユグディラが一匹。
「ゆぐでぃんこんな所にいたのっ?」
下からはリタの声。
「あらリタちゃん、どうしてここに? さっきテオバルトさんから伝話で連絡あったけど」
……これが迷子属性というやつなのか。苦笑しながら遥華が提案する。
「ここは貴重なものもあるから離れちゃダメだよー。本見つけるの手伝ってくれる?」
「分かったわ!」
『にゃうん、にゃん』
枢の肩越しに覗き込んできたゆぐでぃんの手の先には、古く小さな置物。
「お……?」
ごくんっ!
枢が置物を引っ張ると、鈍い音が響いた。さらにゆぐでぃんが見つめる先を追いかけていく。
「これ何だろ?」
何も無かったはずの場所に、小さな箱があった。木製で、施錠されている。
『にゃふーん』
「うん、古城に居る間は持ち歩いてみるか」
促されるように手に取ると、枢は大事に仕舞った。
そしてゆぐでぃんは塔を出て行ってしまった。……そして気付く。リタの姿がすでになかったことに。
●
南と西の塔の間にある、資料室。ザレムは慎重に、かつ貪欲に調査を進めている。
『なぉーん』
「ゆぐでぃんじゃないか。リタはどうしたんだ?」
話しかけながら毛並みを堪能する。
『にゃにゃにゃ』
ズボンの裾を引っぱり、何処かへ連れて行こうとする。……その仕草があまりに愛らしく、ザレムはついゆぐでぃんに連れられるままに西の塔へとやってきた。
「ここは俺も調べようと思ってたんだが」
『にゃう』
ゆぐでぃんは、古ぼけたドレス達の間を示して一声。ザレムの頭の中にイメージが広がる。
「この上に……?」
半信半疑だったが、ザレムは高く跳んでそれを確認する。崩れ落ちた階段を無視し、上に残っていた石段に足をかけて止まる。
「扉なのか? 全然開く気配がないな……」
『にゃっ』
ザレムが確認するのを見届けると、今度は元来た道を戻っていく。
ゆぐでぃんを追いかけ戻ってきたのは、先ほどの資料室だった。
不思議なユグディラは、資料室内を少し歩くと、円筒形の入れ物を見つけて来た。中には幾つもの大きな巻物。
ザレムは慎重に一つ取り出して広げる。……城内の見取り図のようだ。それも相当古い。建設当時のものだろうか。
『にゃう』
ゆぐでぃんが頷いたように見えた。
ザレムは喉元まで上がってきた声を飲み込んで、じっと目を凝らす。それから、徐に伝話を取り出して皆に報告した。
建設当時の見取り図……城の謎に立ち向かう、まさに冒険の予感がする……。
●
食堂へ集合したハンター達。
「すっごいな! なんか楽しくなってきた!」
テーブルに置かれた物を見て、普段はクールな枢が声を上げる。
ザレムが持ってきた城内の見取り図、スフィルとテオバルトが見つけた置物と楽器、文献。レオナは小さな鍵、遥華は日記と古城の歴史が刻まれた文献。そして枢が持ってきた小さな箱。
他に得た情報としては、四つの塔に共通して三階部分に開かずの扉があるということ。
『にゃにゃ……』
ゆぐでぃんが、古い見取り図を見て何やら考えているようだ……なんか和む。
「少し休憩しましょうか」
遥華がお茶を淹れてくれた。
「あ。お饅頭ください! カスタード!」
「はいな」
注文された饅頭を配るイル婆。手伝うエマ。リタの姿は……見当たらない。エマ曰く、
「危険な仕掛けはないと思うので、ほっといていいです」
だそうだ。
ザレムが用意していたデコレーションケーキは、ゆぐでぃんの目の前。クリームを顔中にくっつけて食べている。
美味しい紅茶とお菓子でリフレッシュすると、集まったものから色々と推測してみる。
「この鍵、枢さんが持ってきた箱の鍵じゃないでしょうか?」
レオナが言い、小さな鍵を差し出す。
「開けてみよう」
かちゃん。
……開いた。中にはまた鍵。先程のより一回り大きい。
「この日記はどうかな」
書庫から持ってきた古い日記を慎重に捲りながら、遥華。
「『今日腹を減らしていたユグディラを保護した。渡した食い物で腹一杯になると、お礼のつもりなのか、踊り出した。ついでに歌い出したから、合わせて伴奏してやったら喜んでいた。楽器を気に入ったようだから、それはそいつにプレゼントすることにした』だって」
文章の横には、二本の足で立つ猫の絵。隣に描かれている楽器は、竪琴だろうか。
「ひょっとして、これ?」
宝物庫で発見した竪琴を示して、スフィルが興奮した様子で問う。
「うん、似てるよな。こっちに続きがあるぜ?」
テオバルトは、宝物庫で見つけた文献を捲る。どうやらこちらも日記なのか、砕けた口調で書かれている。
「『そいつは楽器を……に献上するとか……に持ち帰るんだそうだ。記念に、それと対になる印を残そうと思う』だって! 竪琴の模様はそういうことか……へぇ、こいつは面白くなってきたな」
そして、テーブルに広げられた昔の見取り図。
『にゃふっ!』
見取り図で何かを思い出したのか、クリームを顔中につけたまま、ゆぐでぃんが走り出した。
「ユグディラの声が分かればよいのですが」
レオナが呟く。厨房内にゆぐでぃんの姿はない。
全員で厨房内、気になる所をつぶさに調査していると、奥の作業台近くで声が聞こえた。
『行き止まり? でも隙間があるわよね』
リタの大きな独り言が壁から聞こえる。
「ここ、不自然ですよね」
レオナが見つけたのは、作業台と壁の間の隙間。作業台を後から設置した為か、中途半端なスペースがある。その奥の壁にはモップの柄のような棒が立てかけられ、猫が通れる隙間もあった。
「何かの装置かな……? 動かしても大丈夫なのかな……」
遥華が皆の表情を確認しながら、棒に手をかける。レオナと二人で棒を引き倒すと……、
ゴウゴウゴウ……!
『!?』
盛大な音を立てて壁が動いた。
壁の向こうに細い通路。その先に、リタがゆぐでぃんを抱えて立っていた。
「あっ! みんな!」
通路を通り抜けて出た先は、螺旋階段の裏だった。
『にゃうん!』
ゆぐでぃんが壁に貼り付いている猫マークをガリガリしている。
『にゃーにゃ』
「……あっ、鍵!」
枢が何か閃いた。箱に入っていた小さな鍵。それがユグディラの置物が持つ鍵穴にぴったりなんじゃないか?
かちゃん。
ビンゴ。鍵を開けると土台の部分から猫マークが現れた。壁の猫マークとぴったり重なり……。
「これを押し込めば……」
皆が期待に目を輝かせて見守る中、テオバルトが力を込める。
がちゃこん……っ!
上の方、四方から同じ様な音が聞こえてきた。
『……塔のドアっ!』
一斉に叫ぶと、螺旋階段を駆け上り四方の塔へと走る! 探索中に見つけた、あの開かずのドアを目がけて。
●
「広いな……」
「凄い仕掛け」
「でも平和的ね」
「日記の宴会場所はここか」
「ゆぐでぃん嬉しそうだな」
「すてきね……」
外気が気持ち良い。8人が見守る中、屋上の真ん中でゆぐでぃんが走り回っている。
長い間雨ざらしだった屋上は廃墟のようだ。昔の人々は、ここに酒や食糧を持ち込んで宴を楽しんでいたのだろうか。
『にゃああ……』
『?』
ゆぐでぃんの声と共に、彼らの脳裏にイメージが広がる。
楽器を手にした一匹のユグディラ。日記にあったのと同じ楽器だ。周りにはたくさんのユグディラ達がいて、帰還を歓迎しているように見える。そして――。
「誰かに献上しているのか?」
呟く声はザレムのものか。
一段高い場所に座るユグディラが、彼らを統率しているのだろうか。王国内で伝え聞く噂の中には、ユグディラ達の国があると言われている。
古城探索は、ここでひとまず幕を閉じる――。
古城の一階にある食堂に、ハンター達が集まっていた。
(この前来た時から大分修復は進んだのかな)
ザレム・アズール(ka0878)は前回の隠し部屋騒動の時にこの城を訪れている。
「またお邪魔します、なんてな」
にこやかな表情のザレムの前には、リタに抱えられたユグディラ。何を隠そう、彼はユグディラが大好きだ。
『よろしくお願いします!』
姉妹は揃って頭を下げる。
「かわいいわね、リタちゃんのお友だち?」
「そうよ、ゆぐでぃんっていうの」
リタとレオナ(ka6158)の間で可愛らしい会話が成立している。
「300年前の古い日記なんて、すてきね」
リタが見つけたボロボロの日記帳を見て言う。
「古城の調査か……面白そうだな!」
楽しそうに、テオバルト・グリム(ka1824)。
ここの独特の空気を楽しんでいるのは彼だけではない。
「古城の雰囲気って好きなんだよな」
「いいよね。歴史とか趣を感じられるし」
央崎 枢(ka5153)と央崎 遥華(ka5644)の姉弟。
スフィル・シラムクルム(ka6453)は密かにリベンジを誓う。
「前回は叫んじゃったけど、気を引き締めてかかるわよー」
「よーし、張り切って探すぜ!」
古城の古い物語、謎や仕掛けに心踊らせる皆を代表する、テオバルトの声。
探索の気分も上がる!
「……あ、おばちゃん饅頭1個ください」
●
螺旋階段を上った先にあるのが領主の間。室内は古い家具が多く、いかにも『何か』がありそうだ。
レオナが城内を把握して目星をつけたのは、ここ。
「昔の人はユグディラと一緒に、何をしていたのかしらね」
祖先から語り継いできたものがあるならば、ゆぐでぃんが教えてくれると良いのに……。思いを胸に、調査を進める。
注意深く引き出しを開け、本棚の境目を調べ、壁に仕掛けがないかを探す。特にユグディラのモチーフのある物を中心に。
「あら? これは……」
ライトが照らし出す先には、小さな猫マーク。引き出しの中には細長い筒状の小さな入れ物。中からカラカラ音がする。
「もしかして!」
慎重に開けると、中には小さな鍵。見つかったのはその鍵だけだったが、丁寧に埃を払って仕舞い込む。勿論連絡は忘れない。
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事前に食堂でガーゴ爺達から話は聞いていたのだが、枢は自分の目で確かめるべく、東の塔に来ていた。
隠し部屋から上に続く階段があった場所は、一部を残して崩れていて、修復はまだのようだ。
見上げると、三階への扉らしきものが見える。枢は壁に貼り付くようにして調べてみたが、どうやっても開きそうになかった。首を傾げながら、別の場所へ移動する。
●
二階。南と西の塔に挟まれた部分に並ぶ、細長い部屋。壁の向こう側は、二つの塔を結ぶ通路になっているはずだ。前回の調査でザレム本人が通っている。窓は閉ざされ、回廊側から僅かに差し込む光はあるが、暗い。
(文献無いかな)
幾つもの棚が立ち並び、倉庫か資料室なのだろう。まだ掃除されていないので、大きな蜘蛛の巣もある。
ライトを照らし、がさごそ。お宝、文献、ユグディラの伝承記録……彼の探究心は尽きない。
●
北の塔。グロテスクな銅像がある場所で、スフィルとテオバルトが調査中だ。
「ここは宝物庫なのよね……? なんてもの集めてるのよ」
銅像を見上げて、スフィルが呟く。
「大丈夫か?」
「うん、一度見ちゃえば問題ないし! 怖くないし! っていうか気持ち悪っ!」
自分に言い聞かせるように捲し立てつつ、銅像を足掛かりにできないかを見極めている。これに登っても大丈夫だろうか。
「これがスイッチになってたのか」
テオバルトは目を輝かせて宝物庫を眺める。スイッチというのは猫の置物で、動かすことで銅像が出現した。
「肉球マークは他にもありそうな気がするけどな……」
「やっぱり上の方かしら」
スフィルは銅像に登り、天井付近に連なる棚に目を向ける。
テオバルトは自身のスキルと鞭を上手く使って身体を支えながら棚を物色していく。猫マークを優先的に探しているが、天井と床を往復しながらなので大変そうだ。
「ん? なんだこれ」
「どうしたの?」
「何か上の方に扉があるんだけど、開かないな」
スフィルも銅像を足掛かりに手の届く範囲を調査。前回のことがあるので、物を動かすときはやや慎重だ。
テオバルトが高い所、スフィルが下の部分というように協力しながら猫のマーク、ユグディラの文字を探してみると、比較的保存状態の良い品物があった。収納場所を間違ったのか、本もある。
「面白い話はあるかな……っと」
テオバルトがパラパラめくっているのは、背表紙に猫マークのある古い本。これは厨房に持って行くことにする。
「おぉ? ……何かあったぜ」
何やら発見したらしく、それをスフィルに見せる。
「何かしら?」
見つけたのは、二足歩行している猫の置物。……ユグディラだ。古いが損傷はない。気になるのはそのデザイン。ユグディラが鍵穴のついたバッグを持っている。
「これも……何か関係ありそうね!」
そしてスフィルも声を上げる。古い竪琴だった。最も重要なのは、猫マークの刻印。下には飾り文字のようなものもあるが、猫マークと一緒に半分に切れている。
「この半分の模様、他の何かとセットだったんじゃないかしら? これは厨房に持って行くわね! 凄い発見よねっ?」
竪琴を大事に抱えたその顔は、喜びに満ちて可愛らしい。スキップしそうな軽い足取りで塔を出ようとした時。
「あっ、スフィルさんにテオバルトさん!」
「あれ、リタ? 一人でうろうろしてたら迷子になるだろ」
「ゆぐでぃんがどっかに行っちゃったの」
「俺が探しといてやるから、エマんとこに行ってようぜ」
「お願いね!」
二人はリタと共に食堂へ向かう。リタをエマに引き渡すと、テオバルトは他の場所の調査に向かって行った。
スフィルは饅頭を貰ってから、厨房を見て回るようだ。
●
南の塔、書庫に向かったのは遥華と枢。
塔内は薄暗い。ランタンを付けると、古い書庫がさらに素敵な雰囲気になる(遥華談)。
遥華は手の届く範囲を、枢は高い所の本を調べている。見上げる本棚は天井近くまであり、梯子は壊れている。届かないからこそ気になるものだ(枢談)。
ライトで照らし、枢も気になれば手に取り目を通してみるが、長い時間壁に貼り付いていられるわけではない。壁と床を往復しつつの作業だ。
本好きな遥華にとって、ここは我慢のしどころだった。王国の歴史書の他、地域の動植物を取り扱ったものから、日々の生活に必要な知識や技術をまとめたものまで様々な本が置かれている。
古城に関する本もあったが、ここでじっくり読む訳にはいかず、遥華はぐっと我慢して拝借することにした。
立派な装丁の本に混じって、手作り感のあるものは目を引く。
「ん?」
凝った意匠の中にある、ノートのようなもの。遥華は丁寧にそれを引き抜くと、注意深く捲ってみる。
「……見っけ♪」
見つけたものは、日記のようだ。絵と共に日々の生活が書き綴られている。
(……棚の本を動かしたら仕掛けが動くとか……?)
枢が少しだけ期待を込めて本棚を調べていた時。
『にゃん!』
「わっ!」
突如聞こえた声に驚いて振り返ると、器用に登ってきたらしいユグディラが一匹。
「ゆぐでぃんこんな所にいたのっ?」
下からはリタの声。
「あらリタちゃん、どうしてここに? さっきテオバルトさんから伝話で連絡あったけど」
……これが迷子属性というやつなのか。苦笑しながら遥華が提案する。
「ここは貴重なものもあるから離れちゃダメだよー。本見つけるの手伝ってくれる?」
「分かったわ!」
『にゃうん、にゃん』
枢の肩越しに覗き込んできたゆぐでぃんの手の先には、古く小さな置物。
「お……?」
ごくんっ!
枢が置物を引っ張ると、鈍い音が響いた。さらにゆぐでぃんが見つめる先を追いかけていく。
「これ何だろ?」
何も無かったはずの場所に、小さな箱があった。木製で、施錠されている。
『にゃふーん』
「うん、古城に居る間は持ち歩いてみるか」
促されるように手に取ると、枢は大事に仕舞った。
そしてゆぐでぃんは塔を出て行ってしまった。……そして気付く。リタの姿がすでになかったことに。
●
南と西の塔の間にある、資料室。ザレムは慎重に、かつ貪欲に調査を進めている。
『なぉーん』
「ゆぐでぃんじゃないか。リタはどうしたんだ?」
話しかけながら毛並みを堪能する。
『にゃにゃにゃ』
ズボンの裾を引っぱり、何処かへ連れて行こうとする。……その仕草があまりに愛らしく、ザレムはついゆぐでぃんに連れられるままに西の塔へとやってきた。
「ここは俺も調べようと思ってたんだが」
『にゃう』
ゆぐでぃんは、古ぼけたドレス達の間を示して一声。ザレムの頭の中にイメージが広がる。
「この上に……?」
半信半疑だったが、ザレムは高く跳んでそれを確認する。崩れ落ちた階段を無視し、上に残っていた石段に足をかけて止まる。
「扉なのか? 全然開く気配がないな……」
『にゃっ』
ザレムが確認するのを見届けると、今度は元来た道を戻っていく。
ゆぐでぃんを追いかけ戻ってきたのは、先ほどの資料室だった。
不思議なユグディラは、資料室内を少し歩くと、円筒形の入れ物を見つけて来た。中には幾つもの大きな巻物。
ザレムは慎重に一つ取り出して広げる。……城内の見取り図のようだ。それも相当古い。建設当時のものだろうか。
『にゃう』
ゆぐでぃんが頷いたように見えた。
ザレムは喉元まで上がってきた声を飲み込んで、じっと目を凝らす。それから、徐に伝話を取り出して皆に報告した。
建設当時の見取り図……城の謎に立ち向かう、まさに冒険の予感がする……。
●
食堂へ集合したハンター達。
「すっごいな! なんか楽しくなってきた!」
テーブルに置かれた物を見て、普段はクールな枢が声を上げる。
ザレムが持ってきた城内の見取り図、スフィルとテオバルトが見つけた置物と楽器、文献。レオナは小さな鍵、遥華は日記と古城の歴史が刻まれた文献。そして枢が持ってきた小さな箱。
他に得た情報としては、四つの塔に共通して三階部分に開かずの扉があるということ。
『にゃにゃ……』
ゆぐでぃんが、古い見取り図を見て何やら考えているようだ……なんか和む。
「少し休憩しましょうか」
遥華がお茶を淹れてくれた。
「あ。お饅頭ください! カスタード!」
「はいな」
注文された饅頭を配るイル婆。手伝うエマ。リタの姿は……見当たらない。エマ曰く、
「危険な仕掛けはないと思うので、ほっといていいです」
だそうだ。
ザレムが用意していたデコレーションケーキは、ゆぐでぃんの目の前。クリームを顔中にくっつけて食べている。
美味しい紅茶とお菓子でリフレッシュすると、集まったものから色々と推測してみる。
「この鍵、枢さんが持ってきた箱の鍵じゃないでしょうか?」
レオナが言い、小さな鍵を差し出す。
「開けてみよう」
かちゃん。
……開いた。中にはまた鍵。先程のより一回り大きい。
「この日記はどうかな」
書庫から持ってきた古い日記を慎重に捲りながら、遥華。
「『今日腹を減らしていたユグディラを保護した。渡した食い物で腹一杯になると、お礼のつもりなのか、踊り出した。ついでに歌い出したから、合わせて伴奏してやったら喜んでいた。楽器を気に入ったようだから、それはそいつにプレゼントすることにした』だって」
文章の横には、二本の足で立つ猫の絵。隣に描かれている楽器は、竪琴だろうか。
「ひょっとして、これ?」
宝物庫で発見した竪琴を示して、スフィルが興奮した様子で問う。
「うん、似てるよな。こっちに続きがあるぜ?」
テオバルトは、宝物庫で見つけた文献を捲る。どうやらこちらも日記なのか、砕けた口調で書かれている。
「『そいつは楽器を……に献上するとか……に持ち帰るんだそうだ。記念に、それと対になる印を残そうと思う』だって! 竪琴の模様はそういうことか……へぇ、こいつは面白くなってきたな」
そして、テーブルに広げられた昔の見取り図。
『にゃふっ!』
見取り図で何かを思い出したのか、クリームを顔中につけたまま、ゆぐでぃんが走り出した。
「ユグディラの声が分かればよいのですが」
レオナが呟く。厨房内にゆぐでぃんの姿はない。
全員で厨房内、気になる所をつぶさに調査していると、奥の作業台近くで声が聞こえた。
『行き止まり? でも隙間があるわよね』
リタの大きな独り言が壁から聞こえる。
「ここ、不自然ですよね」
レオナが見つけたのは、作業台と壁の間の隙間。作業台を後から設置した為か、中途半端なスペースがある。その奥の壁にはモップの柄のような棒が立てかけられ、猫が通れる隙間もあった。
「何かの装置かな……? 動かしても大丈夫なのかな……」
遥華が皆の表情を確認しながら、棒に手をかける。レオナと二人で棒を引き倒すと……、
ゴウゴウゴウ……!
『!?』
盛大な音を立てて壁が動いた。
壁の向こうに細い通路。その先に、リタがゆぐでぃんを抱えて立っていた。
「あっ! みんな!」
通路を通り抜けて出た先は、螺旋階段の裏だった。
『にゃうん!』
ゆぐでぃんが壁に貼り付いている猫マークをガリガリしている。
『にゃーにゃ』
「……あっ、鍵!」
枢が何か閃いた。箱に入っていた小さな鍵。それがユグディラの置物が持つ鍵穴にぴったりなんじゃないか?
かちゃん。
ビンゴ。鍵を開けると土台の部分から猫マークが現れた。壁の猫マークとぴったり重なり……。
「これを押し込めば……」
皆が期待に目を輝かせて見守る中、テオバルトが力を込める。
がちゃこん……っ!
上の方、四方から同じ様な音が聞こえてきた。
『……塔のドアっ!』
一斉に叫ぶと、螺旋階段を駆け上り四方の塔へと走る! 探索中に見つけた、あの開かずのドアを目がけて。
●
「広いな……」
「凄い仕掛け」
「でも平和的ね」
「日記の宴会場所はここか」
「ゆぐでぃん嬉しそうだな」
「すてきね……」
外気が気持ち良い。8人が見守る中、屋上の真ん中でゆぐでぃんが走り回っている。
長い間雨ざらしだった屋上は廃墟のようだ。昔の人々は、ここに酒や食糧を持ち込んで宴を楽しんでいたのだろうか。
『にゃああ……』
『?』
ゆぐでぃんの声と共に、彼らの脳裏にイメージが広がる。
楽器を手にした一匹のユグディラ。日記にあったのと同じ楽器だ。周りにはたくさんのユグディラ達がいて、帰還を歓迎しているように見える。そして――。
「誰かに献上しているのか?」
呟く声はザレムのものか。
一段高い場所に座るユグディラが、彼らを統率しているのだろうか。王国内で伝え聞く噂の中には、ユグディラ達の国があると言われている。
古城探索は、ここでひとまず幕を閉じる――。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/09/28 00:40:12 |
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相談卓 スフィル・シラムクルム(ka6453) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/09/29 07:50:33 |