ゲスト
(ka0000)
訓練で水浸し
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/09/26 19:00
- 完成日
- 2014/10/05 04:05
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
なあ、知ってるか?
海に化け物が出たんだってよ。
お前、海知らねぇのか? 俺も本の挿絵しか見たことねぇけど。でっっっかい水溜まりだろ。
でさ、その水溜まりから魚の化け物が出てきたんだって。
怖ぇよな!
ああ、俺も怖ぇ。
だからさ、俺らも、訓練しねぇ?
●
田舎の分校勤めは何かと忙しい。年の違う子供を1つの教室で、それも1人で見なければならないし、何かあったら、都会の学校で会議に出なければならない。
今日もそう。分校の教師、エダがほんの数時間、子ども達に自習を言い渡して出掛けた隙に、この惨状だ。
「遊んでたんじゃないですー」
「訓練してたんですー」
「せんせー、街の学校のお話聞かせてー」
「みんなっ、おそうじ、してよぉ……っひぐ、う、えーん」
「…………ねむい……」
遊びたい盛りの子たちはまだ竹の水鉄砲を構えているし、真面目な子は雑巾を握って泣いているし。
お願い、先生のスカートを引っ張らないで、立ったまま寝ないで!
●
通りすがりの案内人が長閑な道を歩いていると、飛び出してきたエダと行き合った。
「お掃除の依頼は引き受けたことがありますが……」
「だめ、そんなことしたって、あの子達は反省しないわ」
「困りましたねぇ……ひとまず、ハンターさんを集めてみましょう! ハンターさんって、強くて格好良くってすごいんです。それに、知らない人の前だと、格好付けてお掃除、頑張るかも知れませんよ?」
エダと案内人の期待を背負って集められたハンター達、小さな校庭で5人の子どもと出会う。
水鉄砲を構えたハルとチカ、ハンター達を見詰めて円らな目を輝かせるマナ、雑巾を片手に愚図っているエミ、こっくりと船を漕ぐノノ。
『子ども達が、子ども達自身の手で、校舎を綺麗にするように監視して下さい。
危ないことが無いように見張って、ちゃんとできたら褒めてあげて下さい。
くれぐれも、ハンターさんがお掃除を終わらせてしまうことの無いようにお願いします』
ハルが言った。
「ハンターってさ、強ぇんだろ? 俺らも強ぇんだぜ」
そして、空に向かって水鉄砲を放ってみせた。
なあ、知ってるか?
海に化け物が出たんだってよ。
お前、海知らねぇのか? 俺も本の挿絵しか見たことねぇけど。でっっっかい水溜まりだろ。
でさ、その水溜まりから魚の化け物が出てきたんだって。
怖ぇよな!
ああ、俺も怖ぇ。
だからさ、俺らも、訓練しねぇ?
●
田舎の分校勤めは何かと忙しい。年の違う子供を1つの教室で、それも1人で見なければならないし、何かあったら、都会の学校で会議に出なければならない。
今日もそう。分校の教師、エダがほんの数時間、子ども達に自習を言い渡して出掛けた隙に、この惨状だ。
「遊んでたんじゃないですー」
「訓練してたんですー」
「せんせー、街の学校のお話聞かせてー」
「みんなっ、おそうじ、してよぉ……っひぐ、う、えーん」
「…………ねむい……」
遊びたい盛りの子たちはまだ竹の水鉄砲を構えているし、真面目な子は雑巾を握って泣いているし。
お願い、先生のスカートを引っ張らないで、立ったまま寝ないで!
●
通りすがりの案内人が長閑な道を歩いていると、飛び出してきたエダと行き合った。
「お掃除の依頼は引き受けたことがありますが……」
「だめ、そんなことしたって、あの子達は反省しないわ」
「困りましたねぇ……ひとまず、ハンターさんを集めてみましょう! ハンターさんって、強くて格好良くってすごいんです。それに、知らない人の前だと、格好付けてお掃除、頑張るかも知れませんよ?」
エダと案内人の期待を背負って集められたハンター達、小さな校庭で5人の子どもと出会う。
水鉄砲を構えたハルとチカ、ハンター達を見詰めて円らな目を輝かせるマナ、雑巾を片手に愚図っているエミ、こっくりと船を漕ぐノノ。
『子ども達が、子ども達自身の手で、校舎を綺麗にするように監視して下さい。
危ないことが無いように見張って、ちゃんとできたら褒めてあげて下さい。
くれぐれも、ハンターさんがお掃除を終わらせてしまうことの無いようにお願いします』
ハルが言った。
「ハンターってさ、強ぇんだろ? 俺らも強ぇんだぜ」
そして、空に向かって水鉄砲を放ってみせた。
リプレイ本文
●
放たれた水は中空で弧を描いて足下で跳ね上がり、砂混じりに跳ね上がって水溜まりを作った。
その一滴に膝下を掠めさせた夢路 まよい(ka1328)の青い瞳に光が灯る。
微風に揺らされたようにドレスの裾が揺れて、ふわりと丸く広がって、灰色の髪が柔らかに揺れる。その手に掴まれた身の丈程の杖を振りかざし、天空へと水球を放つ。
空間を射抜いたそれは子供達とハンター達の見上げる中爆ぜて、眩しい日差しに煌めき、虹を作ってかき消えた。
「強いんだね~。でも見て見て、私達のほうがずっと強いよ」
夢路が得意げに笑ってみせると、水鉄砲を構えたままのハルとチカがわぁ、と歓声を上げた。俺たちもと、再び水を放とうと構える中に、夢路が低く落とした声が告げる。
「私、水鉄砲で撃たれて水浸しになりたくないのよね~。あなたがその水鉄砲をまた撃ったりしたら……」
ざわめく中、一度は首を起こして空を見たノノだったが、すぐにこくりと揺れ始める。
「あー、寝ちゃだめなの。あやねもお片付けを手伝うの、一緒に頑張るの」
佐藤 絢音(ka0552)が彼女よりも僅かに大きく、揺れる度に倒れそうになる体を支えて起こす。
「ねえねえ、ハンターさん強い? ねえ、強い?」
マナが誰彼構わずに駆け寄って喋り掛けるのをアシェ・ブルゲス(ka3144)が捕まえ、視線を合わせて宥める様に言い聞かせる。
「頑張ったら、聞かせてあげるよ……そうだね、鉄砲を振り回すだけじゃない、かな?」
すごい、がんばる、と拳を作って、それでもまだうずうずとハンター達の顔を見上げて目を輝かせるマナを留めながら、アシェは他の子ども達にも目をやった。
涙を引っ込めながらも、吃逆を上げていた笑みは、ジョン・フラム(ka0786)が手を添え、佐藤と一緒にノノを支えて起こすように言うとこくりと頷き従った。
「あ、あの、ハンターさん。よろしくお願いします」
深く頭を下げたエミに佐藤は微笑んで、一緒に頑張るの、と手を差し出した。
「――綺麗で心地のよい場所にはよい想いが、汚く雑然とした場所には悪い想いが募るものです」
ジョンが、ぱん、と1つ手を打ち鳴らす。
子ども達が注目すると、朗々と通る声で掃除が如何に大切かと語り聞かせ……
その隙に頷き合ったリィフィ(ka2702)と狛(ka2456)が校舎へと忍び込む。
『こちら、白い狼っす』
狛が魔導短伝話でリィフィ伝える。
『準備完了っすよ、そっちはどうっすか?』
『黒い狼だよ。こっちもいいよ……廊下、びちょびちょ。先生の合図でびちょびちょするよ』
『あは、頼もしいっす』
リィフィが廊下の水溜まりを跳ねさせる水音を最後に通話を終えた。
一方、ジョンはエダの手を引いて生徒達の前へ連れ出していた。
「先生、先程お話しました通りに」
「は、はい……っ。み、皆さん、た、たた大変です、学校の、中に、ヴォ、ヴォイドが、はっせいしました」
緊張に裏返った声は、子ども達に程よい信憑性を感じさせた。
●
校舎の中へ駆け込むハンターと子ども達、昇降口から続く廊下、まず目に入るのはその水溜まりだ。しかし、その一番奥から、水溜まりを踏み散らして迫ってくる黒い三角耳がぴくぴくと震え、ふさふさの尻尾が揺れる。
「びっちょびちょできたなーい! たのしー!」
子ども達を見つけて、ぱしゃん、と大きな水溜まりを前足の両手で叩き、飛沫を跳ね上げると近付いては離れて、尻尾を振って楽しげに走り回る。
「遊んでいますね」
ジョンが子ども達に話し掛けると、ハルが未だ水の残っていたチカの水鉄砲を引ったくり、リィフィ――黒いもふもふ歪虚――に向かって放った。
リィフィはその水を軽く躱して、楽しげに跳ねてみせる。
「普通の攻撃なんてリィフィには効かないよ~」
ハルが舌打ちして地団駄を踏む。チカも一緒にどうするんだとハンター達を振り返った。
「どうしたら良いと思いますか?」
ジョンが屈んで視線を合わせる。
「あの歪虚、どうやら水溜まりが好きなようですよ」
子供2人は顔を見合わせ、チカが雑巾を取るとハルも渋々一枚掴んだ。
「私たちは、どうしましょうか?」
「……っ、拭くぞ! 水溜まりを全部無くしてやる!」
2人が廊下に雑巾を置くと勢いよく飛び出していった。
「私も混ざろっかな~。また水鉄砲で戦わないようにプレッシャーを掛けてあげなきゃ」
夢路が雑巾を取って2人とリィフィを眺める。リィフィはひょいひょいと水溜まりを伝って、逃げる振りをしながら廊下を拭う子ども達を見張っている。
「うー、まだよごれてる……もんねっ」
「よし、次はあそこだ!」
「うわあああ! やめろー! 綺麗になっていくうぅっ」
殆どの水溜まりを拭き終えて、リィフィの逃げ場が無くなった頃、ハルとチカが再び水鉄砲を取り出した。
「とどめだっ」
その背後に佇み、2人の肩にぽん、と細い手が乗せられる。
「また水浸しにするつもりかしら? ――まだ、そことそこ、濡れてるよね」
ひゃ、と声を上げて2人が廊下の隅を拭うと、リィフィはばたばたと藻掻いて、膨れっ面で子ども達を見上げた。
「こんな綺麗な廊下にはいられないよ!」
わぁぁと声を上げながら逃げ出していき、逃げた先で狛を呼び出した。
『こちら黒い狼』
『はいっす、声聞こえたっす』
『うん。第一ステージクリアだよ。次、頑張ってね』
『りょーかいっす!』
●
教室の扉が開かれる。廊下と同様に濡れた床、そして、前の扉を塞ぐ乱雑に積み重なる机と椅子。その影から現れたのは白い耳と、白い尻尾の狼男。不敵に笑って、子ども達を眺め回す。
「リィフィくんを倒したみたいっすねー。だけど、自分はそーはいかないっすよー?」
この教室には、水溜まりだけではなく、この机も有るのだから、と、肩を聳やかし。
廊下の戦いを終えたばかりのハルとチカが真っ先に床を拭き始めた。狛――白いもふもふ歪虚――は、攻撃を受けたかのように飛び跳ねて。
「くっ、なかなかやるっすね……でも、まだまだっすよ」
ちらりと視線を机に向ける。
佐藤が、マナとエミの背をぽんと撫でて促した。
「私たちも、お片づけするの。2人よりも早く片付けちゃうの、勝負なのよ!」
「わぁ、がんばるー」
「わ、わたし、も、机、運びますっ」
崩れそうな箇所を佐藤とアシェで支えながらマナとエミが机を運んでいく。
「絢音、机のならんでた順番しらないのよ。どこに並べたらいいの?」
「あっちとー、こっちとー」
「そ、その机は……ここ」
「重たいのは一緒に運ぶの。エミはそっちを持って欲しいの。マナは椅子を持ってきて欲しいの。みんなで頑張ったらすぐなのよ」
3人で机を元通りに並べていく。混乱していたエミも、佐藤に手を引かれて机を並べている内に落ち着いたのか、積極的に机を運ぶようになり、マナも騒がずに片付けを進めるようになった。
武器を使うだけが戦いじゃ無いの、と子ども達に話し掛ける。
「おかたづけ出来ない子は、かっこわるいの。それは女の子も同じなの」
はい、とマナが元気な声で返事をして、片付けます、と次の椅子を運び出す。佐藤はにこりと笑ってそれを褒めると、エミがハンターさん、と呼び掛けた。
「一緒に、つくえ、運ん、で?」
不安げな声を宥める様に佐藤は明るく頷いて、「一緒に!」と机の片側を持ち上げた。
机が元の配置に戻った頃、片付けられていく机を避けて跳ねていた狛がじたばたと暴れ始める。
「ま、まだ、……っす」
震えた指が一箇所歪んだ椅子を指した。側にいたノノがそれを正すと、埃を立てず、机にぶつからない程度に藻掻いてから、片付けられて開くようになった扉から逃げ出す。
「――っ、こんなとこにいられないっす……覚えてろっすー!」
綺麗に拭われた飴色の廊下を跳ねて、走る。そして図書室にて、リィフィと合流した。
「お疲れ様、さあ、最終ステージだね」
●
子ども達がドアを開けると、待ち構えていたように、リィフィと狛――黒と白のもふもふ歪虚――が本棚の影から顔を出している。
この部屋に散らかっているのは本、と乱れた椅子と机。
「またリィフィを追い出す気だね!」
「今度は負けないっすよー」
本棚の間を行き交って隠れながら、2人が子ども達を誘う。追いかける子ども達は、自然と図書室の中、出しっ放しの本が、机に床にと散らかって、椅子の乱れた室内へ招き入れられる。
「ここも散らかってたの」
「よーし、みんな、あと少しだよ」
連れていたマナとエミとノノを促して、アシェが前に出て行く。が、
「この部屋、もっと散らかしちゃえ」
「――っ、うわあ」
リィフィの動きに合わせて派手に転び、駆け寄ってきた子ども達に拾った本を差し出した。
「これを……エミ君、君がみんなを先導してくれるかな……立ち上がれたら、僕も手伝うよ」
エミがリィフィにびくつきながら頷いて本を受け取る。佐藤もマナとノノに1冊ずつ差し出して、負けないように頑張るの、と促した。1冊を背伸びしながら本棚へ収めると、エミが、ハンターさんを手伝うと言って隣でつま先立ちになる。これ以上汚させない、と背表紙を押した手を握り締めた。
4人が本を仕舞って振り返ると、リィフィがじたばたと暴れ始めた。
「本を片付けたら弱っていくみたいね。なら、水鉄砲は全然効かないね」
「あなた方でしたら、あちらの方々よりも、この教室を綺麗にできませんか?」
「あは、私も負けたくないな~」
夢路がちらりと視線を向けて、ジョンが屈んで目線を合わせる。ハルとチカはジョンに水鉄砲を押し付けるように預けると、行くぞ、と声を上げて散らかった本と、椅子に向かって走り出した。自分たちの学校を守ろうとする思い、そして幼い闘争心に火が付いた。
歪虚役の2人に釣られながらではあったが、次第に子ども達は自らの手で掃除を始めた。ハルとチカが机を整頓し、マナは床のゴミを拾う。また眠そうにこくりと首を揺らしたノノを起こして、エミは数冊の本を抱えた。
「この本、向こうの本棚なの。敵がいるから、一緒に来てね」
敵、と指された狛は抜けの目立つ本棚の前で飛び跳ねてみせる。
「ここはまだ散らかってるから居心地がいいっすー」
その本棚を見詰めたノノが狛に向かって走り出す。アシェが慌ててその後を追った。
「ど、どうしたんだ……」
ノノが庇った本棚の影、かさこそと微かな音を立てたのは、尻尾に包帯を巻いた小さなリスが入った紙箱だった。
「――ノノ君、これで攻撃だ」
「……えい……」
アシェが差し出した本をノノが本棚に差し込むと、狛は翻るように跳ねてその場を退いた。
「エミ君、今だよ! ――マナ君、そっちはどう?」
エミが本を抱えて走る。子供の腕にはまだ重たいそれを運ぶと、ノノと手分けして片付けていく。マナが紙くずを握った拳を突き上げて、お終い、と声を上げた。
「こっちも終わったぜ」
「お終いだー」
ハルとチカが最後の椅子を直すと、片腕に水鉄砲を抱えたままのジョンが2人を撫でて褒めている。
「ハンターめ……次は絶対に!」
狛が綺麗になった図書室を見回し、子ども達を1人すつ見詰めてからぱたりと倒れた。
「また汚くなったらくるからなー! おぼえてろー!」
リィフィが喚いて、
「ほら、逃げるよ」
狛を連れて図書室の窓から飛び出した。校舎の影に隠れて覚醒を解き、終わったとほっと胸を撫で下ろす。空腹感に腹を撫でて、リィフィは指先の丸い五本の指を空に翳す。
「あの子たち、きっといいハンターになるね」
「そうっすね、頑張ってたっす」
「大事なものを守るため戦う。それを忘れちゃだめだよね……」
●
5人の子ども達と4人のハンターは片付け終えた校舎の前に集まった。ジョンに促されて、再びエダが引っ張り出される。リィフィと狛と案内人が見守る中、エダの手から子ども達へ飴が1つずつ配られていく。
「どちらの子ども達が、頑張ったと思いますか?」
受け取った飴を握った子ども達が目を輝かせてエダを見詰めている。
「1個は先生にっす」
「先生も、褒めてくれますか? みんなすごく頑張ったんです」
歪虚役を終えて案内人が預かっていた飴を1つエダに渡した狛。
校舎から出ながら子ども達にせがまれて、彼是と話すアシェが言葉を切って囁いた。
「……さっきもそうだったよね、濡れてる床、危なかったんじゃないかな? 敵が来た時もそうじゃないときも……日々の生活の全て訓練なんだ」
アシェの言葉を子ども達が真っ直ぐ見詰めて聞いていた。
手の中で飴を握り直す。ジョンの腕には忘れられたような水鉄砲2つ。夢路と楽しげに笑っている悪戯っ子2人は少し大人びたようだ。
佐藤が気に掛けた少女ももうただの泣き虫じゃ無い。アシェに一番話をせがんでいた子も、今は黙って前を向いている。リスの箱を抱えた子はハンターさん達から何か大事なことを学んだのだろう。
「どちらの子ども達が、頑張ったと思いますか?」
「そうね――」
ジョンの問いかけを思い出し、すっと、息を吸い込んだ。
引き分け。みんなよく頑張りました!
放たれた水は中空で弧を描いて足下で跳ね上がり、砂混じりに跳ね上がって水溜まりを作った。
その一滴に膝下を掠めさせた夢路 まよい(ka1328)の青い瞳に光が灯る。
微風に揺らされたようにドレスの裾が揺れて、ふわりと丸く広がって、灰色の髪が柔らかに揺れる。その手に掴まれた身の丈程の杖を振りかざし、天空へと水球を放つ。
空間を射抜いたそれは子供達とハンター達の見上げる中爆ぜて、眩しい日差しに煌めき、虹を作ってかき消えた。
「強いんだね~。でも見て見て、私達のほうがずっと強いよ」
夢路が得意げに笑ってみせると、水鉄砲を構えたままのハルとチカがわぁ、と歓声を上げた。俺たちもと、再び水を放とうと構える中に、夢路が低く落とした声が告げる。
「私、水鉄砲で撃たれて水浸しになりたくないのよね~。あなたがその水鉄砲をまた撃ったりしたら……」
ざわめく中、一度は首を起こして空を見たノノだったが、すぐにこくりと揺れ始める。
「あー、寝ちゃだめなの。あやねもお片付けを手伝うの、一緒に頑張るの」
佐藤 絢音(ka0552)が彼女よりも僅かに大きく、揺れる度に倒れそうになる体を支えて起こす。
「ねえねえ、ハンターさん強い? ねえ、強い?」
マナが誰彼構わずに駆け寄って喋り掛けるのをアシェ・ブルゲス(ka3144)が捕まえ、視線を合わせて宥める様に言い聞かせる。
「頑張ったら、聞かせてあげるよ……そうだね、鉄砲を振り回すだけじゃない、かな?」
すごい、がんばる、と拳を作って、それでもまだうずうずとハンター達の顔を見上げて目を輝かせるマナを留めながら、アシェは他の子ども達にも目をやった。
涙を引っ込めながらも、吃逆を上げていた笑みは、ジョン・フラム(ka0786)が手を添え、佐藤と一緒にノノを支えて起こすように言うとこくりと頷き従った。
「あ、あの、ハンターさん。よろしくお願いします」
深く頭を下げたエミに佐藤は微笑んで、一緒に頑張るの、と手を差し出した。
「――綺麗で心地のよい場所にはよい想いが、汚く雑然とした場所には悪い想いが募るものです」
ジョンが、ぱん、と1つ手を打ち鳴らす。
子ども達が注目すると、朗々と通る声で掃除が如何に大切かと語り聞かせ……
その隙に頷き合ったリィフィ(ka2702)と狛(ka2456)が校舎へと忍び込む。
『こちら、白い狼っす』
狛が魔導短伝話でリィフィ伝える。
『準備完了っすよ、そっちはどうっすか?』
『黒い狼だよ。こっちもいいよ……廊下、びちょびちょ。先生の合図でびちょびちょするよ』
『あは、頼もしいっす』
リィフィが廊下の水溜まりを跳ねさせる水音を最後に通話を終えた。
一方、ジョンはエダの手を引いて生徒達の前へ連れ出していた。
「先生、先程お話しました通りに」
「は、はい……っ。み、皆さん、た、たた大変です、学校の、中に、ヴォ、ヴォイドが、はっせいしました」
緊張に裏返った声は、子ども達に程よい信憑性を感じさせた。
●
校舎の中へ駆け込むハンターと子ども達、昇降口から続く廊下、まず目に入るのはその水溜まりだ。しかし、その一番奥から、水溜まりを踏み散らして迫ってくる黒い三角耳がぴくぴくと震え、ふさふさの尻尾が揺れる。
「びっちょびちょできたなーい! たのしー!」
子ども達を見つけて、ぱしゃん、と大きな水溜まりを前足の両手で叩き、飛沫を跳ね上げると近付いては離れて、尻尾を振って楽しげに走り回る。
「遊んでいますね」
ジョンが子ども達に話し掛けると、ハルが未だ水の残っていたチカの水鉄砲を引ったくり、リィフィ――黒いもふもふ歪虚――に向かって放った。
リィフィはその水を軽く躱して、楽しげに跳ねてみせる。
「普通の攻撃なんてリィフィには効かないよ~」
ハルが舌打ちして地団駄を踏む。チカも一緒にどうするんだとハンター達を振り返った。
「どうしたら良いと思いますか?」
ジョンが屈んで視線を合わせる。
「あの歪虚、どうやら水溜まりが好きなようですよ」
子供2人は顔を見合わせ、チカが雑巾を取るとハルも渋々一枚掴んだ。
「私たちは、どうしましょうか?」
「……っ、拭くぞ! 水溜まりを全部無くしてやる!」
2人が廊下に雑巾を置くと勢いよく飛び出していった。
「私も混ざろっかな~。また水鉄砲で戦わないようにプレッシャーを掛けてあげなきゃ」
夢路が雑巾を取って2人とリィフィを眺める。リィフィはひょいひょいと水溜まりを伝って、逃げる振りをしながら廊下を拭う子ども達を見張っている。
「うー、まだよごれてる……もんねっ」
「よし、次はあそこだ!」
「うわあああ! やめろー! 綺麗になっていくうぅっ」
殆どの水溜まりを拭き終えて、リィフィの逃げ場が無くなった頃、ハルとチカが再び水鉄砲を取り出した。
「とどめだっ」
その背後に佇み、2人の肩にぽん、と細い手が乗せられる。
「また水浸しにするつもりかしら? ――まだ、そことそこ、濡れてるよね」
ひゃ、と声を上げて2人が廊下の隅を拭うと、リィフィはばたばたと藻掻いて、膨れっ面で子ども達を見上げた。
「こんな綺麗な廊下にはいられないよ!」
わぁぁと声を上げながら逃げ出していき、逃げた先で狛を呼び出した。
『こちら黒い狼』
『はいっす、声聞こえたっす』
『うん。第一ステージクリアだよ。次、頑張ってね』
『りょーかいっす!』
●
教室の扉が開かれる。廊下と同様に濡れた床、そして、前の扉を塞ぐ乱雑に積み重なる机と椅子。その影から現れたのは白い耳と、白い尻尾の狼男。不敵に笑って、子ども達を眺め回す。
「リィフィくんを倒したみたいっすねー。だけど、自分はそーはいかないっすよー?」
この教室には、水溜まりだけではなく、この机も有るのだから、と、肩を聳やかし。
廊下の戦いを終えたばかりのハルとチカが真っ先に床を拭き始めた。狛――白いもふもふ歪虚――は、攻撃を受けたかのように飛び跳ねて。
「くっ、なかなかやるっすね……でも、まだまだっすよ」
ちらりと視線を机に向ける。
佐藤が、マナとエミの背をぽんと撫でて促した。
「私たちも、お片づけするの。2人よりも早く片付けちゃうの、勝負なのよ!」
「わぁ、がんばるー」
「わ、わたし、も、机、運びますっ」
崩れそうな箇所を佐藤とアシェで支えながらマナとエミが机を運んでいく。
「絢音、机のならんでた順番しらないのよ。どこに並べたらいいの?」
「あっちとー、こっちとー」
「そ、その机は……ここ」
「重たいのは一緒に運ぶの。エミはそっちを持って欲しいの。マナは椅子を持ってきて欲しいの。みんなで頑張ったらすぐなのよ」
3人で机を元通りに並べていく。混乱していたエミも、佐藤に手を引かれて机を並べている内に落ち着いたのか、積極的に机を運ぶようになり、マナも騒がずに片付けを進めるようになった。
武器を使うだけが戦いじゃ無いの、と子ども達に話し掛ける。
「おかたづけ出来ない子は、かっこわるいの。それは女の子も同じなの」
はい、とマナが元気な声で返事をして、片付けます、と次の椅子を運び出す。佐藤はにこりと笑ってそれを褒めると、エミがハンターさん、と呼び掛けた。
「一緒に、つくえ、運ん、で?」
不安げな声を宥める様に佐藤は明るく頷いて、「一緒に!」と机の片側を持ち上げた。
机が元の配置に戻った頃、片付けられていく机を避けて跳ねていた狛がじたばたと暴れ始める。
「ま、まだ、……っす」
震えた指が一箇所歪んだ椅子を指した。側にいたノノがそれを正すと、埃を立てず、机にぶつからない程度に藻掻いてから、片付けられて開くようになった扉から逃げ出す。
「――っ、こんなとこにいられないっす……覚えてろっすー!」
綺麗に拭われた飴色の廊下を跳ねて、走る。そして図書室にて、リィフィと合流した。
「お疲れ様、さあ、最終ステージだね」
●
子ども達がドアを開けると、待ち構えていたように、リィフィと狛――黒と白のもふもふ歪虚――が本棚の影から顔を出している。
この部屋に散らかっているのは本、と乱れた椅子と机。
「またリィフィを追い出す気だね!」
「今度は負けないっすよー」
本棚の間を行き交って隠れながら、2人が子ども達を誘う。追いかける子ども達は、自然と図書室の中、出しっ放しの本が、机に床にと散らかって、椅子の乱れた室内へ招き入れられる。
「ここも散らかってたの」
「よーし、みんな、あと少しだよ」
連れていたマナとエミとノノを促して、アシェが前に出て行く。が、
「この部屋、もっと散らかしちゃえ」
「――っ、うわあ」
リィフィの動きに合わせて派手に転び、駆け寄ってきた子ども達に拾った本を差し出した。
「これを……エミ君、君がみんなを先導してくれるかな……立ち上がれたら、僕も手伝うよ」
エミがリィフィにびくつきながら頷いて本を受け取る。佐藤もマナとノノに1冊ずつ差し出して、負けないように頑張るの、と促した。1冊を背伸びしながら本棚へ収めると、エミが、ハンターさんを手伝うと言って隣でつま先立ちになる。これ以上汚させない、と背表紙を押した手を握り締めた。
4人が本を仕舞って振り返ると、リィフィがじたばたと暴れ始めた。
「本を片付けたら弱っていくみたいね。なら、水鉄砲は全然効かないね」
「あなた方でしたら、あちらの方々よりも、この教室を綺麗にできませんか?」
「あは、私も負けたくないな~」
夢路がちらりと視線を向けて、ジョンが屈んで目線を合わせる。ハルとチカはジョンに水鉄砲を押し付けるように預けると、行くぞ、と声を上げて散らかった本と、椅子に向かって走り出した。自分たちの学校を守ろうとする思い、そして幼い闘争心に火が付いた。
歪虚役の2人に釣られながらではあったが、次第に子ども達は自らの手で掃除を始めた。ハルとチカが机を整頓し、マナは床のゴミを拾う。また眠そうにこくりと首を揺らしたノノを起こして、エミは数冊の本を抱えた。
「この本、向こうの本棚なの。敵がいるから、一緒に来てね」
敵、と指された狛は抜けの目立つ本棚の前で飛び跳ねてみせる。
「ここはまだ散らかってるから居心地がいいっすー」
その本棚を見詰めたノノが狛に向かって走り出す。アシェが慌ててその後を追った。
「ど、どうしたんだ……」
ノノが庇った本棚の影、かさこそと微かな音を立てたのは、尻尾に包帯を巻いた小さなリスが入った紙箱だった。
「――ノノ君、これで攻撃だ」
「……えい……」
アシェが差し出した本をノノが本棚に差し込むと、狛は翻るように跳ねてその場を退いた。
「エミ君、今だよ! ――マナ君、そっちはどう?」
エミが本を抱えて走る。子供の腕にはまだ重たいそれを運ぶと、ノノと手分けして片付けていく。マナが紙くずを握った拳を突き上げて、お終い、と声を上げた。
「こっちも終わったぜ」
「お終いだー」
ハルとチカが最後の椅子を直すと、片腕に水鉄砲を抱えたままのジョンが2人を撫でて褒めている。
「ハンターめ……次は絶対に!」
狛が綺麗になった図書室を見回し、子ども達を1人すつ見詰めてからぱたりと倒れた。
「また汚くなったらくるからなー! おぼえてろー!」
リィフィが喚いて、
「ほら、逃げるよ」
狛を連れて図書室の窓から飛び出した。校舎の影に隠れて覚醒を解き、終わったとほっと胸を撫で下ろす。空腹感に腹を撫でて、リィフィは指先の丸い五本の指を空に翳す。
「あの子たち、きっといいハンターになるね」
「そうっすね、頑張ってたっす」
「大事なものを守るため戦う。それを忘れちゃだめだよね……」
●
5人の子ども達と4人のハンターは片付け終えた校舎の前に集まった。ジョンに促されて、再びエダが引っ張り出される。リィフィと狛と案内人が見守る中、エダの手から子ども達へ飴が1つずつ配られていく。
「どちらの子ども達が、頑張ったと思いますか?」
受け取った飴を握った子ども達が目を輝かせてエダを見詰めている。
「1個は先生にっす」
「先生も、褒めてくれますか? みんなすごく頑張ったんです」
歪虚役を終えて案内人が預かっていた飴を1つエダに渡した狛。
校舎から出ながら子ども達にせがまれて、彼是と話すアシェが言葉を切って囁いた。
「……さっきもそうだったよね、濡れてる床、危なかったんじゃないかな? 敵が来た時もそうじゃないときも……日々の生活の全て訓練なんだ」
アシェの言葉を子ども達が真っ直ぐ見詰めて聞いていた。
手の中で飴を握り直す。ジョンの腕には忘れられたような水鉄砲2つ。夢路と楽しげに笑っている悪戯っ子2人は少し大人びたようだ。
佐藤が気に掛けた少女ももうただの泣き虫じゃ無い。アシェに一番話をせがんでいた子も、今は黙って前を向いている。リスの箱を抱えた子はハンターさん達から何か大事なことを学んだのだろう。
「どちらの子ども達が、頑張ったと思いますか?」
「そうね――」
ジョンの問いかけを思い出し、すっと、息を吸い込んだ。
引き分け。みんなよく頑張りました!
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ミッション相談卓 夢路 まよい(ka1328) 人間(リアルブルー)|15才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2014/09/26 15:40:17 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/09/22 23:53:48 |