水無しの川のほとりで

マスター:尾仲ヒエル

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2016/09/30 22:00
完成日
2016/10/12 06:31

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「鈴の音……?」
「どうされました?」
「いいえ。気のせいみたいです」
 差し出された青年の手を取って、長い黒髪の少年が馬車を降りる。
 彼らの目の前に建つ古びた建物は、教団が支援している孤児院だ。
「急にすみません。宜しければ皆さんで食べてください」
「まあ。ササノハさま自ら、ありがとうございます。子供たちも喜びます」
 果物を受け取った孤児院の院長は、皺だらけの顔に笑顔を浮かべる。
「それにしても今日はお客様が多いこと。つい先程までシモンさまがいらしていたのですよ」
「シモンが?」
 ササノハが首を傾げる。
 孫を亡くして以来、教団幹部のシモンは、子供のいるところには近づかないはずだった。
「ええ。なんでも、教団が新しい孤児院を作ったそうで、そちらに新しく来た子たちをそちらに連れて行かれました。あの子たちが良い環境に行けて本当に良かった」

「新しい孤児院? そんなもの聞いたことありません……」
 孤児院から出たササノハが、厳しい面持ちで眼下を覗く。
 山の中腹にある孤児院から、山道を下っていく教団の馬車が見えた。
「……シモンを追います」
 短い沈黙の後、顔を上げたササノハの声には決意が込められていた。
「分かりました。それなら馬車は置いていきましょう。馬で山肌を降りれば追いつけるかもしれません」
 ひらりと馬に飛び乗ったゴウが手を差し出す。
「いいのですか。これから僕がすることは、もしかしたら」
 シモンの独断でなければ、朱花の教団全体に敵対することになるかもしれない。そうササノハの目が語る。
「構いません。私が敬愛するのはササノハさま御1人ですから」
 さらりと答えたゴウがササノハを馬上に引き上げる。
「……ありがとう。僕たちだけでは対処できないかもしれません。途中でハンターの皆さんに協力を求めましょう」

 朽ちかけた小屋。
 新しく出来た孤児院だとは到底思えない建物の前で、フードをかぶった2人組が荷車を引いている。
「シモン……!」
「……おや。ササノハさま。どうされました?」
 フードを下ろしたシモンが不思議そうに問い返す。
「その荷台にあるものを見せてください」
 荷台には布がかけられ、中を窺うことはできない。
 何か言おうとしたシモンが、苦しげに咳き込む。
 と、荷台にかけられていた布が動き、中から金髪の少年が顔を出した。
「ササノハさま、助けて!」
 なんとか自力で外したのだろう。
 必死な少年の口元には、猿ぐつわが垂れ下がっていた。
「ミーシャ!」
 顔見知りらしいササノハが名前を叫ぶ。
「おやおや。トワがびっくりしてしまうじゃないですか。……静かにさせなさい」
 そうシモンに命じられたもう1人の人物は、首を横に振って数歩後ずさった。
「い、いやだ。いくらポゴに会うためだからって、もうこんなことに協力できない」
 フードを取り去った男は、眼帯をしていない方の眼で逃げ道を探すように辺りを見回す。
「やれやれ。仕方ないですね」
 シモンがため息をつくと同時に、地面から黒い蔓のようなものがニュウと伸びて、少年の口に絡みついた。
 更にもう1本の蔓が暴れる少年の体を抑え込む。
 少年が暴れた拍子に荷台の布が払いのけられ、もう1人、少年によく似た少女が猿ぐつわをされ横たわっているのが見えた。
「シモン……」
 そんなシモンを見知らぬ人間を見るような目で見つめたまま、ササノハは言葉を失っている。
 そこには、ここに来るまでの途中でササノハがハンターたちに語った、かつて聖導士として活躍し、ササノハの教育係だったという老人の姿はもうない。
 その時、シモンの傍から眼帯の男が逃げ出した。
 黒い蔓が捕まえようとするように伸びるが、あと一歩のところで届かない。
 どうやら黒い蔓には届く範囲があるようだった。

「――ここは昔、川だったそうです」
 乾いた地面を見つめ、シモンが呟いた。
「8年前のことです。孫のトワにせがまれて、近くの川に行きました。すると突然、上流から凄まじい勢いで水が流れてきて……あっという間の出来事でした。流されたトワを必死に探しましたが、見つかった時には、もう」
 シモンが顔を覆う。
「何度夢に見て、何度繰り返しても、間に合わないんですよ。『おじいちゃん、おじいちゃん』と呼ぶ声が止まないんです」
 老人の足元の地面に、ぽつりぽつりと青い花が開き始める。
「ササノハさまに会えて少しだけ楽になりました。そして、モルガナさまに出会えた。私と契約し、約束してくださったんです。この子たちを連れて行けば、もう一度あの元気な悪戯っ子のトワに会えると。ですから……邪魔はさせません」
 シモンが咳き込みながら顔を上げた時、青い花の間から同じ色の蝶の群れが飛び立った。
 青い蝶たちは、シモンを取り巻くように群れをなして飛びかい始める。

「まあ。綺麗に咲いたわねえ」
 オペラグラスを片手に、赤い屋根に腰掛けたモルガナが呟いた。
「花言葉はそうね……後悔ってとこかしら?」
 隣に座った銀髪の少年に微笑みかけたモルガナは、再びオペラグラスを目に当てた。

リプレイ本文

 虚ろな眼差しのシモンに、ササノハの声は届かない。
「どうしたら……」
 うつむくササノハを励ますように、八原 篝(ka3104)が叫んだ。
「今生きている子供たちを生贄にして良いわけがない!」
「攫われた子供たちのご家族、そして裏切られる形となったササノハさん。すべて、あなたと同じ悲しみを背負うことになりますのよ」
 その隣で金鹿(ka5959)も声を張る。
「裏切るんだ? ふぅん。育てたササノハ君より、結局、自分が一番なんだ……」
 シモンを睨みつけるウーナ(ka1439)の瞳は、混じりけのない怒りに燃えている。
「死人にもう一度会える、と来たか。――ああ、まったく。心底くだらねえ謳い文句だ。腐れ外道共が狂喜しそうな話さな」
 ため息のように呟く文挟 ニレ(ka5696)の表情は、深い憂いに満ちていた。

 シモンへの説得が続く傍では、デュシオン・ヴァニーユ(ka4696)が眼帯の男に声を掛けていた。
「いつまでそうしているつもりです? 御手隙であればご協力願いたいのですが」
「俺はもうハンターじゃない」
 立ち去ろうとする男の背中に、デュシオンが重ねて声を掛ける。
「では何故、シモンの助太刀をしないのです? 何故、彼の命令に背き逃げ出したのです」
 足を止めた男が答えた。
「怖かったからだよ。あの爺さんに殺されるのが怖かったから従ったし、今は、あんたたちに殺されるのが怖いから逃げ出すんだ。もういいだろう。俺のことは放っておいてくれ!」
 男の語る言葉の一部は真実で、一部は真実ではない。
 そのことを知っているからデュシオンは諦めない。
「いいえ。先程、貴方様は『もうこんなことしたくない』と命令を拒絶しました。それが貴方様の本心ではないのですか。……もう分かっているのでしょう? この事象の間違いを、この事態の深刻さを」
 沈黙が流れる。
 これ以上の説得は逆効果と踏んだデュシオンは賭けに出た。
「来るなら、どうぞ」
 短くそう告げて歩き出したデュシオンの耳に、男がぼそりと呟いた言葉が聞こえた。
「……情報だけなら」
 背中を見せたまま、デュシオンは思わず安堵の表情を浮かべる。
 かたくなな態度をやっと崩した男が、デュシオンと、その隣に立つニレの元に近付いてくる。
「ポゴを探してるのかい」
 ニレの問いに、はっと男が顔を上げる。
「……あいつなら、とうの昔に墓の下さ。あっしが最期を看取ったんだ」
 静かに告げられた言葉に、男は声を失った。
「鬼は嘘を嫌うもんだ、と言ったところで、さて信じてもらえるかどうか」
 数秒の沈黙の後、顔をそむけた眼帯の男の足元に、ぽつりと雫が落ちた。
「……いや。信じるよ。ずっとそんな予感はしてたんだ。ただ……諦めきれなかっただけで」
 荒っぽい仕草で顔をぬぐった男が、着ていた白いローブを投げ捨てる。
「クソ爺を倒す理由ができた。俺も一緒に戦う。……なあ、後で話を聞かせてくれ」
「死ぬなよ」
「ああ。先に言っておくが、俺は足が速いだけで結構弱ぇぞ? 援護は頼むぜ」
 頼もしいような頼もしくないような一言を残し、眼帯の男が戦闘に加わった。

 地面に手を当てていた篝が立ち上がる。
「数が多すぎて駄目ね」
 地面の振動から蔓の動きを予測できないかという試み。
 難しかったようだが、挑戦は無駄にはならない。全ては少女の経験となり、次へと繋がる。
 素早く作戦を切り替えた篝がバイクにまたがった時、シモンが動いた。
「トワの声が聞こえる……早く。早く助けてやらないと」
 うわ言のように呟きながら、人質の子供たちに近寄ろうとするシモンを止めようと、篝がバイクで突っ込んだ。
「そんなの間違ってる!」
 バイクを乗り捨てた篝は、そのまま近距離から二挺拳銃をシモンに向ける。
 真っ直ぐな篝の言葉は、歪んだ夢にすがろうとするシモンにとっては邪魔なものでしかない。
 鞭のようにしなる蔓が篝に迫った。
「篝さん!」
 ササノハが目を覆った時、空を引き裂いて飛んだ稲妻が蔓を半ばから引きちぎった。
「爺さんよぉ。今おたくに聞こえてるそいつは現実じゃねえ。悪夢だ。……もう終いにしようや」
 篝を蔓から守ったニレは、続けて次の符を構えた。
 間髪おかず、篝のリボルバー型の魔導拳銃と、それよりも一回り大きいオートマチックが火を噴く。
 2人の攻撃をシモンが防ぐ中、デュシオンが光の矢を飛ばし、子供たちを捕えていた蔓を貫いた。
 はっとシモンが振り返るが、それよりも眼帯の男が走り出すほうが早い。
「よくもポゴを!」
「あんたを守るなんて、なんか変な感じ。だけど、そうも言ってられないよね!」
 そのままシモンに向かってナイフを投げる男をウーナが援護する。
 男目がけて振り下ろされた蔓は、ウーナの放った弾で吹き飛ばされた。

 仲間たちがシモンの注意を逸らしている間に、金鹿とデュシオンは人質の救出に向かう。
「もう大丈夫ですわ」
 デュシオンがナイフで残っていた蔓を切り、金鹿と共に子供たちを荷車から助け出そうとする。
 子供たちを奪われまいと、シモンが応戦の中で蔓を放った。
 と、思いもかけない出来事が起きた。
 苦しげに咳き込んだシモンの口から、ごぽりと血がこぼれる。
 そのせいで軌道の変わった蔓が、誰も――シモンすらも予想しなかった動きで荷車の上の少女に振り下ろされた。
 咄嗟にデュシオンが体を入れ、雛を守る親鳥のように腕を広げる。
 どん、という衝撃音と共にデュシオンの体が揺れた。
「お姉ちゃん!」
「……大丈夫ですわ。大切な友人たちがわたくしを待っていますもの。これしきのことでは倒れません」
 鋭い棘に背中を切り裂かれた痛みをこらえながら、デュシオンが怯える子供たちに微笑んで見せる。
 ならばとばかりに再び振り上げられた蔓を、今度は金鹿が盾で受けた。
「これ以上傷つけさせません」
 びいん、と、強い衝撃に痺れそうになる指を離すまいと、金鹿が盾を持つ手に力を込める。

「あたしたちのこと忘れてない?」
 眼帯の男がシモンにナイフを放つ横で、ウーナが銃を構える。
 男より危険だと判断したらしいシモンが、ウーナに向かって蔓を放つ。
 巻きつこうと迫る蔓にも怯まず、ウーナが不敵に笑う。
「遅いね! 青竜紅刃流、攻め崩し!」
 楽しげな声と共に愛用のオートマチックから放たれた弾が、正確に蔓を撃ち抜いた。
 そのままシモンの注意を引き付けようと、ニレと篝も加勢する。
「何をどうやっても、死人が蘇るなんてのは夢物語にすぎねえさ」
 幻想を打ち砕く言葉と共に、ニレが蔓を炎で焼き尽くす。
「モルガナさまは約束してくださった!」
 シモンが叫び、炎の影からひゅんと音を立てて伸びた蔓がニレの足を絡め取った。
「モルガナはあんたの気持ちを弄んでるだけだ! 遊びで子供の命を奪い、村を襲うような奴よ!」
 オートマチックに持ち替えた篝が蔓の根元付近を正確に撃ち抜くと、ちぎれた蔓はびくびくとのたうちながらニレの足から離れた。

 この隙に金鹿とデュシオンは子供たちを抱えると、素早く蔓の攻撃範囲から離脱する。
 子供たちの安全を確認したハンターたちも前線から下がった。
「あのヒラヒラした奴にも気を付けろ。一度見たことがあるが、傷を負った奴に群がって血を吸うんだ。で、どんな仕組みかは知らねえが、あの爺さんが回復する」
 青い蝶を示す男の言葉に、金鹿が頷く。
「でしたら簡単ですわ」
 すっと金鹿が前に進み出た。
 蔓が振り上げられるが、何故か金鹿は盾を構えようとしない。
 何の容赦もなく、棘の生えた蔓が振り下ろされた。
「……!」
 直接受け止めた金鹿の腕に幾筋もの傷が走り、そこから鮮やかな赤色が滴り落ちる。
「金鹿さん!」
 悲鳴のようなササノハの声が響く中、血の匂いに引き寄せられた蝶が金鹿に一斉に血に群がった。
 金鹿の体が靄のような青色に包まれる。
 ハンターたちが助けに駆け付けようとした時、蝶の群れの中から声が響いた。
「五色光符陣」
 集まった蝶を真っ白な光が焼く。
 金鹿の狙い通り、一撃で集まった蝶の半数が焼き尽くされた。
「……無茶しやがる。下手すりゃ死んでるかもしれないぜ?」
 眼帯の男が呆れたように呟く中、金鹿の怪我を案じながらハンターたちが残った蝶を倒していく。
「まったく……俺の格好良い見せ場がなくなっちまったじゃねえか」
 ぼやく男の顔には面白がるような表情が浮かんでいる。
「なんて危ないことをするんですか金鹿さん!」
 戻ってきた金鹿を、涙目になったササノハがぽかぽかと叩こうとする。
 少年の細腕では大した衝撃にもならないだろうが、いかんせん金鹿は怪我をしたばかりだ。
「ササノハさま、お怪我にさわります」
 ゴウにやんわりと腕を押さえられたササノハは、はっとしたように体を引いた。
「ご、ごめんなさい。僕……」
「大丈夫。加護符を使っていましたから軽傷ですわ」
 素早く止血した金鹿は、仲間たちと共に再びシモンに向き直る。

 人質がいなくなった今、ハンターたちの前には苦しげに咳き込むシモンだけが立っていた。
 地面から生える蔓も半数近くが千切れ、体力を回復するという蝶も残っていない。
「この人間のクズ!」
 ウーナの怒りの炎で研ぎ澄まされた鋭い言葉がシモンを刺す。
「結局、自分が一番大事だったんでしょ? だから恩人で、教え子でもあるササノハを捨てたんでしょ――それとも、最初から計算尽く?」
「違う。私は……」
 息つく暇もなく浴びせかけられる言葉に、混乱したようにシモンが一歩後ろに下がる。
「入りましたわ!」
 地縛符を準備していた金鹿が叫び、シモンの足が泥に埋まる。
「結果は見えておりますわ。どうぞ潔い降伏を」
 デュシオンの静かな言葉と共に冷気の嵐が吹き荒れ、シモンを守る蔓が凍りつく。
「……私は、トワに会って謝らなければ」
 シモンが最後の抵抗を示す。
「あっしは今まで、何人の手を掴み損ねたんだか。もう数えるのも億劫だね」
 情が深いほど、悲しみも深い。
 ニレの手から放たれた符が空高く舞い上がった。
「いくら悔いても嘆いても、死人は蘇らねえ……蘇っちゃいけない。そういうもんなのさ」
 ハンターになって以来、数えきれないほどの別れを経験してきたニレの、それが辿りついた答えだ。
 稲妻に姿を変えた符は、凍った蔓の間をすり抜けるように飛び、シモンの腕を貫いた。
「……!」
 腕を押さえるシモンに篝が迫る。
「あなたもハンターだったなら知ってるでしょう! 無理やりに起こされた死者がどれほど悲しい存在に堕ちてしまうのか!」
 篝の放つ言葉と銃弾が、シモンの力を削っていく。
「たとえまた会えたとしても、それは歪な生により目覚めし者。私達は、再び眠りにつかせなければならなくなりますわ」
 動揺する老人に、金鹿の言葉が最後に現実を突きつけた。
「やめろ! やめてくれ!」
「――もういやだ!」
 シモンの叫び声と、悲鳴のような叫び声が重なる。
 いつもは大人びた様子のササノハが、小さな子供のように叫んでいた。
「もう、誰かが傷つくのも、誰かがいなくなるのも、もういや! もう……やめて!」
 しゃくり上げるように言葉を繋ぎながら、最後には声を上げて泣き始める。
「ササノハさま……」
 長年傍にいたシモンでさえ、そんなササノハの姿を見たことがないのだろう。
 茫然と見つめるシモンの体から力が抜けていき、残った蔓は地面に吸い込まれるように消えていった。
 へたりこむように座ったシモンの頭に、ウーナが銃口を突きつける。
「降伏して。あんたなんか死ねばいいと思うけど、あの子が悲しむから」

「モルガナさま……いえ、モルガナが言っていました。私の命はもう長くはないと。だからこそ余計にトワに会いたかった」
 武器を手にしたハンターたちに囲まれた状態で、地面に座り込んだシモンが話し出す。
「最初は死体を持ってくるよう言われただけでした。しかし、何度やっても上手くいかなかった。『新鮮』ではないからだと言われました……生きた人間が必要だと」
 それが帝都周辺での誘拐事件の始まりだとシモンは語る。
「教団本部の地下に攫ってきた人々を入れる牢があります」
 隠し扉の位置を告げ、鍵を差し出したシモンに、篝が声を掛ける。
「今でもササノハを大切に想うのなら、教団内のモルガナの協力者を教えて」
 素直に数名の幹部の名を挙げたシモンは、ためらうように一度ササノハを見てから、観念した様子で答えた。
「そして……イリフネさまです」
「そんな」
 ササノハが顔を覆う。
 叔父の裏切りを知った少年に気の毒そうな視線を向けてから、篝は更に切り込む。
「ササノハの能力。あれも、ウソなんでしょ……? 不自然な点が多すぎる」
「それは……」
 シモンが言葉を詰まらせる。
 ササノハが夢で死者と会えるという能力を見せる時、いくつもの条件がある理由。
 シモンがササノハではなく、モルガナを頼った理由。
「そうです……全てはイリフネさまの指示で行われていました」
 そこまで答えたシモンが咳き込み、おびただしい量の血を吐いた。
「ササノハさま。恩のあるあなたに、私はひどい裏切りを……申し訳ありません」
 残された時間の短さを悟ったシモンが、地面に這いつくばるように頭を下げる。
 シモンの言葉を聞いたササノハは、老人の前にひざまずくと、血と泥にまみれた手をためらいもなく取った。
「シモン、僕はあなたがしてきたことを許す立場にありません。ただ、あなたが僕にしたこと全てを許します。いつだってあなたは僕の大切な先生でした」
「ササノハさま……」
 老人の頬に涙が流れ、その体から力が抜けていく。
 ササノハは最後まで手を離さなかった。

 ニレは約束通り、眼帯の男にポゴの最期について詳しく話していた。
「そうか。あいつはいつまでたっても、『兄者、兄者』ってうるさくてなあ。……ありがとよ。ポゴを眠らせてくれたのがあんたでよかった」
 眼帯の男の声に、ニレを恨む響きはない。
 近くでは、茫然とするササノハを篝が説得しようとしていた。
「ねえ。これが公になれば歪虚教団の教祖さまって事になってしまう。……全部放り出して逃げちゃえばいいじゃない」
「そうだよ! 教団に戻るのは絶対ダメ。どうしても戻るっていうならあたしたちもついてくから」
 本当についてきかねないウーナの勢いに、ササノハがゆるゆると頷く。
「手狭ですが、宿を営んでいる私の実家がこの近くにあります。ちょうどハンターオフィスの隣ですし、宜しければ御滞在ください」
 ゴウの申し出に、眼帯の男が付け加える。
「爺さんから、そいつとササノハさまには絶対に見つかるなって言われてた。だから信頼できると思うぜ」
 こうして一時的にではあるが、ササノハがゴウの実家に身を寄せることが決まった。
 怪我もなく無事に助け出された子供たちを除いて、朱花の教団の終わりが近いことを、そこにいる誰もが予感していた。

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MVP一覧

  • 舞い護る、金炎の蝶
    鬼塚 小毬ka5959

重体一覧

参加者一覧

  • 青竜紅刃流師範
    ウーナ(ka1439
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士
  • 弓師
    八原 篝(ka3104
    人間(蒼)|19才|女性|猟撃士
  • Ms.“Deadend”
    アメリア・フォーサイス(ka4111
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • ライラックは美しく咲く
    デュシオン・ヴァニーユ(ka4696
    人間(紅)|18才|女性|魔術師
  • 豪放なる慈鬼
    文挟 ニレ(ka5696
    鬼|23才|女性|符術師
  • 舞い護る、金炎の蝶
    鬼塚 小毬(ka5959
    人間(紅)|20才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 花言葉とか信じない(相談スレ)
ウーナ(ka1439
人間(リアルブルー)|16才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2016/09/29 23:40:47
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/09/26 21:19:30