• 猫譚

【猫譚】勇者の条件

マスター:鹿野やいと

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2016/09/29 19:00
完成日
2016/10/06 22:52

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ユグディラという生き物は妙に感が良い。見張りを立てていない割にはすぐに異変に気づき、こちらの襲撃から何度となく逃れている。おかげで当初の目標をこなすのに手間取っていたが、それでも何度目かの襲撃で遂に先手を取ることに成功した。
 闇夜の森の一角に殺戮の嵐が吹き荒れ、辺り一帯に血の匂いが充満している。
「ブシシシ」
 ヤギの頭と下半身を持つ巨躯の歪虚アドラは、口の端をあげて邪な笑みを浮かべた。彼の喜びは当初の目標の達成も大きいのだが、何よりも弱者の血が喜悦を掻き立てる。
 アドラはひとしきり歓喜に震えた後、主からの仕事を思い出した。
「残ったユグディラどもはどうした?」
「メェ。取り逃がした猫達は、南にある人間の集落に逃げ込んだようですメェ」
 アドラに比べれば小さな二足歩行の羊が、跪きながら報告する。
「ブシシシ。それだけ分かれば十分だ」
 ユグディラは随分な数が居た。全てを狩る事は元より期待していない。一か所に逃げ込んでいるならむしろ好都合とも言える。
「で、その集落の規模は?」
「人間が300人ぐらいですメェ。100人は軍隊のようですメェ」
「むむむ」
 訂正。面倒なことになった。相手が軍隊では話が変わってくる。歪虚側の個体数が50程度。
 100人の兵士なら随伴の覚醒者は隊長含め多くても4人。戦ったところで勝利は揺るがないがどうしても損害は出る。今後を考えるならば損害を出すのは避けたい。
「私は面倒が嫌いだ」
 と、部下に言ったところで部下は「メェ」と鳴くだけで妙案を出してくれるわけでもない。アドラはしばし黙考し、一つの案をひらめいた。閃きながら、自身の頭の冴えに惚れ惚れとした。この提案を聞けば、人は命惜しさに醜態を晒すに違いない。
「そこのお前、今から言うことを一字一句間違えず、その集落の人間に伝えるのだ」
「かしこまりましたメェ」
 歪虚の暗躍がその日の日の出前。人類側にメッセージが伝わるのが、その日の昼頃であった。



 時刻は朝方の頃。一連の騒ぎは農村の人々が小麦の種まきに備えて畑を耕していた頃に起こった。突如現れたユグディラの群が大挙して集落に入ったのだ。
 無視し辛い上に面倒極まる報告を受けた中隊指揮官のダミアンは、部隊で手隙の者に命じて畑作そっちのけで始まった村人の捕り物の手伝いをさせた。ユグディラは農作物を掠め取る害獣。放置はできない。ただいつもと違い、猫達は身を隠すだけで食料に手をつける様子がなかった。どの個体も隠れた屋根の下で恐怖に震えており、捕まえれば暴れるので苦労させられた。
 猫達に怪我を負った者が多いという事を不審に思いもしたが、状況を察するよりも早く答えが向こうからやってきた。
 村の外に歪虚の羊が現れたのである。10匹の群れで現れた羊はよく響く甲高く声で、要求だけを伝えてきた。
「猫を渡せ」「猫を渡せば見逃してやる」「渡さぬならこの村を皆殺しにする」
「日が沈むまでに答えを出せ」「メェ」「メェ」「メェ」「メェ」「メェ」
 羊達は一方的に宣言すると、ニタニタと笑いながらその場を去っていった。王国軍はその羊を追跡するように斥候を派遣。斥候が戻ったのが夕刻頃であった。
 村に滞在するハンター達はこの報告を受け、王国軍の指揮官と共に天幕の中でその報告を待っていた。
「申し上げます。斥候隊が戻りました。北の森の入り口にて歪虚の軍勢を確認したとの事。数は50前後。内、4体が巨大な個体で最大のものは3mを越えます。軍勢は南下を開始しており、数時間の内に到達するとのことです」
「はーい、ご苦労さん。下がっていいよ」
「はっ」
 やる気のない素振りで手を振り、ダミアンは兵士を下がらせる。この中年の素行に慣れてしまったのか兵士は何も言わずに天幕を離れ持ち場に戻った。
 副官リーンベルはまだ小言を言い足りない風情であったが、部外者のハンターが揃った手前流石に差し控えた。報告の段階では仕事もせずに昼から酒を飲んで女を口説き、それは酷い有様だった。鎧を着てこの場にいるだけマシ、とは副官の言である。
 リーンベルは武官ゆえに化粧っ気の無い装いだが、そのせいで滲み出た苦労の後が部外者にもよく見えてしまった。短髪でボーイッシュに見えるのが余計に痛々しい。
「……というわけです、皆さん。由々しき事態です」
 リーンベルは気を取り直して、机の上に広げられた地図に情報を書き込んでいく。
「周囲は開墾途中の農地が広がっていますので、大きな動きはすぐにばれます。全員で気づかれずに脱出するのは不可能です。遮蔽に成りそうな物と言えば、農作業で使う小屋がある幾つかある程度ですね」
 応戦するならば間違いなく野戦となる。籠城するには村の柵は脆すぎるだろう。
「交渉において彼らの言うことを全面的に信用することはできませんが、ユグディラを渡せば少しぐらいは時間稼ぎになります。約束を反故にされたとしても、村人を逃がす時間ぐらいは作れはしますが……」
 リーンベルは一息に説明するとダミアンの顔を伺った。頷いたダミアンは「よっこらせ」と立ち上がり、机の前に立ってリーンベルの話を引き継いだ。
「その案も有りだがまだ大丈夫だ。まだ逃げ時じゃあない。ケツまくるにしても、先に一発かましておいたほうが敵もびびってくれる。ここが勝負所ってやつだな」
 歪虚に死の恐怖は無いにせよ「無為に消滅する」ことは恐れる。特にプライドの塊である【傲慢】であれば無様な死は恐怖であろう。
「歪虚のあの言い様、こちらを完全に舐めた発言だったが、もしかしたらハンター諸君を認識していない可能性がある。でなければあんな言い様、【傲慢】の歪虚でもできんだろうよ。宣言などせずに奇襲を思いつくはずだ。とはいえ奇襲の必要性に関しちゃこっちも同じ。まともにぶつかれば勝負はわからん」
 覚醒者対歪虚の戦いであればコントロールのしようもあるが、どちらも兵隊を抱えている。乱戦になれば歪虚の上位個体はこの上なく危険だ。
「ゆえにハンターの諸君は、最大の戦力であると同時に勝利の鍵でもある。あんたらが上手くやってくれりゃ、一方的な勝利で飾る目もあるってもんだ」
 言い終わるとダミアンは杯に波々と注いだワインを一気に飲み干す。
 酒に酔っている風でもないのに、心なしか声のトーンがあがっていた。
「こっちからは以上だ。さて、あんたらは一体何が得意なんだ? まずは何が出来るのか、話を聞かせてくれ」
 歪虚の非道に憤っていたのは自分達も同じこと。ハンター達は頷き合って、自分の手の内を明かし始めた。

リプレイ本文

 状況は綱渡りだが最悪ではない。残された優位を生かすためにも時間こそが勝負を分ける。
 かような状況ではあったが、ハンターの行動はなかなかまとまらない。能力を把握できたことを良しとして、指揮官のダミアンは各自の提案を調整することとした。
「部隊は集落の正面に全て展開。これで戦場を誘導し、ハンターの潜伏場所から注意をそらす」
 ダミアンの指示で兵士達は準備に走る。これは誠堂 匠(ka2876)の作戦案を全面的に採用するものであった。ユルゲンス・クリューガー(ka2335)、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)、不動シオン(ka5395)は攻撃よりも集落防衛を推したが、最終的には余剰戦力の少なさから戦力の集中を選択した。村人は避難を始めているが、正面が崩れればどの道守ることも逃げることもできない。
「戦場に潜伏するのはリューリ、ユルゲンス、誠堂、アルト、ユーロス、不動の6人。で、こちらの部隊内に潜伏するのが鵤とジャックの2名。と、これで確定だな」
 配置にはほぼ全員の提案を通したが、唯一ジャック・J・グリーヴ(ka1305)のみ配置を変更した。王国軍へ注目を集めるには小屋よりは部隊に随伴したほうが面倒がなく、数少ない後衛クラスの鵤(ka3319)やリーンベルを守るのにもちょうどいい。アルトもこの2名の防御を気にはしていたが、切り込みの最前線からでは間に合わない可能性もあるので、リューリ・ハルマ(ka0502)との連携を重視することとした。
 脅威が切り込めば自然と周囲への攻撃も弱まる。これで不足分を補うしかない。なによりリューリが敵中で孤立する危険もあり、この状況で中途半端は毒になる
 大方の作戦が決まり異論も消えたところで、ユーロス・フォルケ(ka3862)は静かに手を挙げた。
「作戦が始まったら村の畑を踏み荒らしちまうけど、そっちはいいのか?」
 良いも悪いも、死ぬよりはマシな以上踏み荒らすことは確定しているのだが、それでも気にしてしまうのは彼の優しさだ。ダミアンはリーンベルに視線を送った。
「既に確認済みです。まだ畝を耕してる最中で種をまいていませんので。畑を作り直すぐらいなんとかなります。我が隊の兵士には農作になれた半農の兵士も多数いますので、作戦後に作り直しを手伝うぐらいはできるでしょう」
 勝てばの話というは言外の話だが、ユーロスはそれで質問を打ち切った。ダミアンはこれで解散を宣言しようとしたが、声を上げる前にジャックが立ち上がった。
「話は終わりだな。それはそうと指揮官さんよ。てめぇ一人で随分美味そうなモン飲んでんじゃねぇかここは。俺様らがどうにかしてやろうってんだ、一杯位注いでくれてもいんじゃねぇの?」
「おっ。それもそうだな。リーンベル、景気づけの一杯だ。皆の分の杯とワインを用意してやってくれ」
 ダミアンは嬉しそうな顔を見て、リーンベルは渋い顔で不満を露にする。
「このアル中、自分が飲みたいだけでしょ」と口にしないだけ彼女は忍耐した。
 それでも景気づけという点には思うところもあったようで、彼女は未成年以外の全員と兵士全員に酒の一杯を支給するよう手配した。



 普段であれば月と星の僅かな明かりが頼りとなる耕作地。この夜は村の篝火の数を増やし、周囲に長い陰を生じさせていた。王国軍の兵士達が整然と並ぶ前方、歪虚は予告通り姿を現した。兵士達に緊張が走る。戦場に不慣れな者は少ないが、圧倒的不利な状況には変わらない。
 対する歪虚側には緊張の色はない。メェメェと口々に何かを喋りながら、陣形も持たずに一塊になったまま歩いてくる。傲慢ゆえの無策と嘲笑すべきところだが、それを差し引いても一方的な殺戮が可能なほど戦力差があった。
「落ち着け。てめぇらは何も心配する必要ねぇ、無敵の俺様がてめぇらの目の前にいるんだからよ」
 黄金の鎧をまとった美男子が大声で宣った。鼓舞するジャックの落ち着き払った様子に兵士達はわずかばかりにも統率を復活した。彼は作戦前に覚醒者のスキルで注目を自身に集めると宣言していた。危険を被る前提の今の発言である。兵士達にもこの言葉は重く響いた。
 鵤は変わりゆく雰囲気の変化をジャックの傍で冷静に観察していた。
(さすが貴族様。サマになってるじゃないの。これでちょっとは楽できそうだねぇ)
 この時の鵤の格好は周囲の兵士と大差ない服装であった。盾と槍を持っているが使う気は無く、盾の陰に本来の武器を隠し持っている。彼の近隣の兵士にはそれが事前に通達されており、彼が本来の性能を発揮する頃には文字通り盾となるよう命令されていた。
(あとはどう口火を切るか。相手の混乱をどこまで利用できるか。お手並み拝見といこうかね)
 鵤にとっては奇襲が失敗してもやることは変わらない。行動のタイミングだけが彼にとっての重要事だ。事前にはユグディラに似せた何かを囮にという案もあったが、行動が注目される王国軍側でそれを用意するのは看破される危険が高い為、小屋に隠れるハンターへの合図の都合も含めて不採用となった。急な連携となる作戦は単純なほうがいい。
 彼は一歩ずつ着実に前進する歪虚の群れと、群が通り過ぎた小屋を冷たい目で眺める。鵤は静かに小さく手を挙げる。横目で確認したジャックが更に声を張り上げた。
「来やがったなクソ畜生共! 何でもてめぇの思い通りになると思ってんのか!」
 ピタリと歪虚の進軍が止まる。それが合図となった。



 低い姿勢のまま小屋の陰から出ていたリューリ、誠堂、アルトは、警戒されることもなく歪虚軍の後ろについていた。ジャックが交渉の決裂を演出することで全ての視線が前に向かっている今が絶好の機会だ。
(リリーさん、ヘクターさん、私が弱くて守れなかった人達。羊ども、貴様らに私の二年を見せてやろう)
 アルトは横に並ぶリューリに視線を送る。リューリは言葉に出さず小さくうなづいた。誠堂は二人の意思を確認し、リューリと共に中腰のまま走り出す
(仕掛けるぞ)
 足音に気づいたのは後方の羊が数体。しかし遅すぎる。影が走る。水平に飛んだ黒塗りの手裏剣が狙い違わず3匹に命中。血をしぶき悲鳴を上げる羊たち。驚愕する歪虚達だが隙は与えない。近寄ったリューリが誠堂の抑えた敵めがけて斧を横薙ぎに振るう。銀の光がひらめき、羊2体の首を刈り取った。
 驚いた歪虚達が開けた陣の穴に、アルトが滑り込んだ。ハンター達の強襲は続く。小屋から飛び出した不動とユルゲンスが広がろうとする歪虚の部隊の機先を制した。
「交渉決裂だ。この喧嘩、買わせてもらうぞ」
 不動は動き出そうとする羊めがけて銃弾を撃ち込む。驚いて防御した羊を殺しきることはできなかったが、アルトへの追撃は封じた。そして武器による防御を選んだ羊の目をつぶした。動きを止めた羊めがけてユルゲンスは槍を突き立てた。ランスチャージを受けては歪虚とはいえ早々無傷とはいかない。掬い上げるような一撃で、羊が高々と吹き飛ばされる。
 王国軍もこの機を逃さない。ダミアンの指示の元、ボウガンの一斉射撃とリーンベルの範囲攻撃が放たれる。鵤とジャックもそれに続いた。王国軍側は敵の数が多く鵤は戦線崩壊の防止する為に目の前の敵に集中する必要があったが、その分挟撃の形をとったハンターは敵のリーダー格まで十分に突破可能な距離まで詰めた。羊達の応戦は始まっているが更に追い打つように、潜伏していた最後の一人のユーロスが行動を開始する。
(ここまでくれば十分だ)
 ユーロスは周囲の手薄になった大型の個体めがけて走る。大型の羊は寸前で気づくも回避には至らない。
「もらうぜ!」
 アルヴィトルの楔が回転しながら二筋の軌跡を描く。狙い違わず太ももに深い傷を残す。怒り狂った羊は大鎌で足元を掬うように薙ぎ払う。ユーロスは後ろへ跳び上がり回避。距離を取る。
「ちっ。しぶとい……」
 大型の太腿の傷は深く動きにも支障はあるようだが、動けないほどではない。まずいことに周囲に居た小型の羊も集まってきている。暗殺か敵の機動力を削ぐか。どちらも成しえずユーロスの思惑は潰える。問題はこのまま引くわけにもいかないということだ。
(逃げ回って戦ったほうが、突入した三人のフォローになるか)
 視線の先では最も大きな個体に大型の羊1体、そして多数の小型の羊と戦うアルト達の姿がある。
「らしくないことはしない信条だけどな」
 アルヴィトルの楔を構え、ユーロスは戦いの意思を示した。時間さえ稼げば突入した3人がなんとかしてくれる。そういう陣形だ。
 この時突入した3人は思惑通り敵リーダーと接敵していた。
「メェェ…。謀ったというのか、人間風情がこの私を!」
 アルトは笑みの形に口元を歪ませる。喜びというには暗い炎を連想させる笑いだった。
「貴様ら傲慢が作った私という刃、篤と味わえ」
 距離はあった。アルトの刃が届く前にアドラの鎌が振り下ろされるはずであった。強く踏み込んだアルトは爆発的に加速。アドラの脇をすり抜ける。直後、アドラの太腿から盛大な血しぶきが吹き上がった。
「!?」
 すり抜けざまにアルトの剣が切り裂いたのだ。位置の関係上足しか狙えなかったが、機動力を奪えるなら十分ではある。
「貴様ぁ!」
 振り返り鎌を振るうアドラ。凄まじい速さと質量に流石のアルトも完全な回避とは行かなかったが、長大な刀で衝撃を半ばまで殺しきる。武器を受け流して遠くに逸れた瞬間を狙い、懐に入り込みもう一撃。アドラはこれを体に似合わない俊敏さで一歩引き回避。アルトがバックステップで間合いを外れ、再び向かい合う形となった。
 アルトは刀を構えながらリューリの動きを見る。距離は近くまだ連携可能な位置だが、リューリは大型相手に足止めを食っていた。
「そこをどいて!!」
 巨大な斧を振り回し、猛烈な勢いで大型の個体を斬りつける。これにはたまらず歪虚も受けきれずに居たが、反撃しないままではない。大鎌で何度もリューリを斬りつける。回避しきれないリューリは斧で数合受け止める。拮抗した戦いを繰り広げているが、そう長くはもたないだろう。
 この時、その2人を見守っていた誠堂は1人焦っていた。
(殺しきれなかったのは良いが、この状況は……)
 羊達は徐々に攻撃に適応しつつある。それに対して味方同士の距離が遠い。誠堂は2人に近づく羊に応戦しながら、状況の好転を辛抱強く待った。
 


 ハンター達は強い。だがそれは個々の強さを保証する話でしかない。如何に強い力であれ、明確な意図を持って運用されなければ効果を発揮しない。奇襲には成功したものの、攻撃が分散したことが致命的であった。
 まず騎馬と徒歩の者は同じ速度では戦えない。羊達の武器は意図せずともこれらを分断した。背が高ければ目立ち的にもなる。結果、ユルゲンスは分断されたまま大怪我を負った。不動は比較的他の者と距離が近かった為に遅れたが状況は変わらない。ヒット&アウェイの作戦は分断を誘う結果となる。ユーロスも同様だ。逃げられない状況ではあったが、支援を受けられない単独行動は死に直結する。鵤と誠堂はそのカバーで動きを制限され、本来の役目を全うすることができなかった。誠堂は重傷者が逃げるまで殿を務めたものの、アルトやリューリとは完全に分断されてしまった。
 支援を分断された仲間の支援に当ててしまった以上、突入した2名は消極的な攻勢に移るのが精いっぱいである。リューリとアルトは合流して敵の大型との戦闘を継続しているが、人類側の戦力が減ったことで歪虚側は戦力を集中し、2人に四方からの攻撃に浴びせかけていた。
 二人とは共に優秀な戦士であり、アルトは騎士団のエリオットやダンテにも手が届く。それでもこの数の差には抗しがたい。防御や回避を選ぶたびに手数が減り、徐々に追い詰められていく。
「ブシシ。少ーしばかり驚いたがここまでだ」
 アルトは歯噛みする。目の前には敵リーダーに加え大型の個体が2体。羊が10匹。1体1体ならば勝ち目もあろうと言う敵に戦術で敗北していた。人よりも腕に自負があるからこそ、それは屈辱的な事実である。それでもアルトとリューリは仲間を信じ、共に防御に徹した。
「往生際が……?」
 何かをしゃべりかけたアドラの視線が横に振れる。光線が離れて指揮を行っていた大型個体の胸を貫いた。一撃、二撃。反応する間もなく撃ち込まれる魔力が大型の命を容赦なく奪う。
 アドラは一瞬、何が起きたのか理解できていなかった。これに対して鵤の能力を事前に聞いていたハンター達の立ち直りは早い。その一瞬が命取りになる。
「はぁぁぁっ!」
 大型の背後から飛びかかった誠堂の刀が、リューリと戦っていた個体の胸を貫く。どす黒い血を吐いた大型個体はそのまま霧となって消えた。大型の個体はこれで1体のみ。一気に形勢逆転となった。作戦初期の誘導が効いたおかげで小型の羊の多くを掃討、あるいは無力化出来た。その分、鵤やジャックの負担は大きかったが、山を乗り越えてしまえば圧倒的な優位となる。鵤と誠堂が戦場を広く見渡し、窮地の仲間をフォローし続けた事も大きい。
 戦況の変化にアドラが気づけなかったのは、アルトとリューリとの戦闘に専念して指揮の余裕が無かったからでもあるが、何にせよギリギリのところで彼らは互いの命を救う結果となった。分断されてしまったハンター達だが、ならばと人類側もこの混戦を存分に利用したのだ。
 アルト、リューリ、誠堂は敵のリーダー格を囲む。後方では鵤が小型の掃討を始めている。指揮官を失って烏合の衆となった彼らを狩るのは容易い。
 動きを止めるリーダー格。逃すまいとハンター達は一斉に襲いかかる。近づこうとする2体の間に入って誠堂が大型を牽制する。分断された敵リーダーにアルトとリューリが走った。距離の近かったリューリは渾身の力で斧を振り下ろし、敵リーダーの足を脛で完全にへし折る。倒れ込むように膝をつくアドラの首を、アルトがすれ違いざまに切り落とした。恨みがましく見上げるアドラの首を、誠堂は手裏剣を投げつけ貫いた。
 この歪虚のリーダーの死が、戦闘の勝敗を決定づけた。

● 
 
 歪虚のリーダーが全て倒されたことで歪虚軍はようやく撤退を開始する。
 混乱から復帰した後に、途中まで戦場が混沌としていた事で撤退の判断は遅れ、追撃によって歪虚軍は甚大な被害を出した。
 しかし綱渡りの作戦展開となった為に王国軍も無傷ではなく、ハンターにも大きな被害を出すこととなった。

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MVP一覧

  • 黒の懐刀
    誠堂 匠ka2876
  • は た ら け
    ka3319

重体一覧

  • ケンプファー
    ユルゲンス・クリューガーka2335
  • たたかう者
    ユーロス・フォルケka3862
  • 飢力
    不動 シオンka5395

参加者一覧

  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマ(ka0502
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • ケンプファー
    ユルゲンス・クリューガー(ka2335
    人間(紅)|40才|男性|闘狩人
  • 黒の懐刀
    誠堂 匠(ka2876
    人間(蒼)|25才|男性|疾影士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • は た ら け
    鵤(ka3319
    人間(蒼)|44才|男性|機導師
  • たたかう者
    ユーロス・フォルケ(ka3862
    人間(紅)|17才|男性|疾影士
  • 飢力
    不動 シオン(ka5395
    人間(蒼)|27才|女性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 作戦相談卓
不動 シオン(ka5395
人間(リアルブルー)|27才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/09/29 08:14:57
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/09/26 06:12:05