ゲスト
(ka0000)
【初心】クリムゾンウェストへようこそ!
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- LV1~LV20
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/10/04 09:00
- 完成日
- 2016/10/12 20:01
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
◆クリムゾンウェストへようこそ!
ハンター達が所属する『ハンターズソサエティ』の本部が置かれている冒険都市リゼリオ。
本部の門を新しく叩く者も、なんらかの事情があってハンター登録だけをしていた者など、様々だろう。
依頼を受け、転移門を通じて世界のあちらこちらに出向くハンター達。
いや、もしかして、今日は依頼の合間で休みかもしれない。
友と過ごす約束をした者もいるかもしれない。あるいは、大事な相棒の世話や整備かもしれないし、もしくは、愛する者との時間を過ごすのかもしれない――。
「異世界転生モノと言えば、こう、胸がどーん! な、可愛い女の子が『勇者様♪』とか言ってくるんじゃないのかよ!」
一人の青年がハンターオフィスの依頼カウンターで叫んでいた。
見た感じ、『ハンター』なのだろうか。それも、まだ駆け出しという感じの姿。その青年の真横にはスリムな体型の女の子が並んでいる。
「……貴方は間違っているわ。まず、『転生』ではなく『転移』です」
「細かい事は良いんだよ! とにかく、俺は生まれ変わった気持ちで毎日、毎日、過ごしているのに!」
力説する青年に向かって女の子が真面目な表情のまま尋ねる。
「では、逆に質問します。胸が大きければ良いのですか?」
「そうだよ! 母性溢れるばかりの胸が!」
「……分かりました」
女の子がクルッと身体を回すと、なにかモソモソと動いている。
やや経って、青年に向き直る女の子。
「おぉ! 胸が――って、お前、それ、何か詰め込んでるだろ!」
「『胸』が大きければ良いと言ったじゃないですか。貴方は『乳』とは言ってません」
その言葉に青年は大きく溜息をついた。
この糞真面目で感情の表出がない女の子と出会ったのは、十数日前の事だった。
「……ま、まぁ、今はそんな事より、依頼だ、依頼!」
気を取り直して青年は依頼のボードを仰ぎ見た。
そこには沢山の依頼が張り出されていた。危険なものもあれば、戦闘が予定されていない依頼もある。
「やっぱり、装備を強化して強くなりたいから、強化費用を稼ぐ為にも、難しい依頼に行くべきか」
「ずばり言います。貴方の力量だと、危険です。私は平気ですが」
遠慮する様子もなく言い放つ女の子。
この女の子もまた、ハンターであった。強力な魔法を扱うマギステル(魔術師)である。
「じゃ、どんな依頼にすればいいんだ?」
青年の質問に女の子はある依頼書を手に取った。
「これです」
「これは……なになに……初心者や駆け出しハンターの実態調査――依頼内容は、パルムの取材を受けるだけ!?」
パルムとはキノコっぽい雰囲気をした精霊の一種だ。
光景やシーンを神霊樹の情報ネットワークに蓄積する場合もあり、今回はその特性を利用した取材のようだ。
「これはいいな! しかも、初心者や駆け出しハンター支援で取材報酬も出るみたいだし!」
「ゴソゴソしている所とか、撮られないで下さいね」
女の子が発した内容に青年は思わず大きな声を上げたのであった。
「ば、馬鹿じゃねぇの! そ、そんな事、する訳ねぇだろ!」
「……とても、わかりやすいです」
ハンター達が所属する『ハンターズソサエティ』の本部が置かれている冒険都市リゼリオ。
本部の門を新しく叩く者も、なんらかの事情があってハンター登録だけをしていた者など、様々だろう。
依頼を受け、転移門を通じて世界のあちらこちらに出向くハンター達。
いや、もしかして、今日は依頼の合間で休みかもしれない。
友と過ごす約束をした者もいるかもしれない。あるいは、大事な相棒の世話や整備かもしれないし、もしくは、愛する者との時間を過ごすのかもしれない――。
「異世界転生モノと言えば、こう、胸がどーん! な、可愛い女の子が『勇者様♪』とか言ってくるんじゃないのかよ!」
一人の青年がハンターオフィスの依頼カウンターで叫んでいた。
見た感じ、『ハンター』なのだろうか。それも、まだ駆け出しという感じの姿。その青年の真横にはスリムな体型の女の子が並んでいる。
「……貴方は間違っているわ。まず、『転生』ではなく『転移』です」
「細かい事は良いんだよ! とにかく、俺は生まれ変わった気持ちで毎日、毎日、過ごしているのに!」
力説する青年に向かって女の子が真面目な表情のまま尋ねる。
「では、逆に質問します。胸が大きければ良いのですか?」
「そうだよ! 母性溢れるばかりの胸が!」
「……分かりました」
女の子がクルッと身体を回すと、なにかモソモソと動いている。
やや経って、青年に向き直る女の子。
「おぉ! 胸が――って、お前、それ、何か詰め込んでるだろ!」
「『胸』が大きければ良いと言ったじゃないですか。貴方は『乳』とは言ってません」
その言葉に青年は大きく溜息をついた。
この糞真面目で感情の表出がない女の子と出会ったのは、十数日前の事だった。
「……ま、まぁ、今はそんな事より、依頼だ、依頼!」
気を取り直して青年は依頼のボードを仰ぎ見た。
そこには沢山の依頼が張り出されていた。危険なものもあれば、戦闘が予定されていない依頼もある。
「やっぱり、装備を強化して強くなりたいから、強化費用を稼ぐ為にも、難しい依頼に行くべきか」
「ずばり言います。貴方の力量だと、危険です。私は平気ですが」
遠慮する様子もなく言い放つ女の子。
この女の子もまた、ハンターであった。強力な魔法を扱うマギステル(魔術師)である。
「じゃ、どんな依頼にすればいいんだ?」
青年の質問に女の子はある依頼書を手に取った。
「これです」
「これは……なになに……初心者や駆け出しハンターの実態調査――依頼内容は、パルムの取材を受けるだけ!?」
パルムとはキノコっぽい雰囲気をした精霊の一種だ。
光景やシーンを神霊樹の情報ネットワークに蓄積する場合もあり、今回はその特性を利用した取材のようだ。
「これはいいな! しかも、初心者や駆け出しハンター支援で取材報酬も出るみたいだし!」
「ゴソゴソしている所とか、撮られないで下さいね」
女の子が発した内容に青年は思わず大きな声を上げたのであった。
「ば、馬鹿じゃねぇの! そ、そんな事、する訳ねぇだろ!」
「……とても、わかりやすいです」
リプレイ本文
●ベル(ka1896)&泉(ka3737)
カランカランカラン――鐘鈴が鳴る。
繋いだ手が楽しそうに振られているが、ピタっとある屋台の前で止まった。
「ベル! 何食べるんじゃもん? 全部、おいしそーなんじゃもんっ♪」
目を輝かせた泉が声を張り上げた。
屋台には大小様々な魚が並び、一部は串焼きされていた。
「おいしそうなの~」
「これ下さいじゃもん」
二人は同じ焼き魚を受け取った。
大きく開いた口から図太い舌のようなモノが飛び出ている不気味で大きい魚だが……。
「ふあっ! おいしい!」
焼き魚の腹を一かじりしたベルがほっぺを抑える。
炭の香りと共に魚の優しい肉質とじゅわりと広がる汁。見た目グロテスクだが味は最高だ。
「おいしーじゃもん」
泉も満足そうだ。
そんな泉の様子に満面な笑みを浮かべたベルが視線を焼き魚から外した一瞬。
「イズミ、おさかなすっごいおいs……ない! ないいい!!」
手には串しか残されていない。
ふと、顔を上げてば、二匹の猫がそれぞれ、焼き魚を咥えて、してやったりとした顔をしていた。
「ボクのお魚返すんじゃもん!」
「まってええええ!!!」
カランカランカラン――鐘鈴が鳴り響く中、二人が猫を追いかける。
泥棒猫としてかなりの域に達しているのかもしれない猫は覚醒者の追撃を逃げ続けた。
「ボクのお魚返すんじゃもん!」
大きな屋敷の庭へと逃げ込む猫を追いかけて生垣を豪快に飛び越える泉。
一方、ベルは生垣の隙間をなんとか這って中庭へと入った。
「……な、なかよしは! あいさつから! おばさまいってた!」
生垣を越えた先は大きな小屋の入口。
のそっと白い毛並みの大きな犬と正面から見つめ合う。垂れた耳が可愛いが……。
突然現れたベルに驚いたのか、大きく吠えた。
「びえええええっ!」
涙目で逃げ出すべる。カランカランと鈴が鳴り、それが楽しかったのか、犬が追いかける。
「こらーっ! ベルにわんってしちゃダメなんじゃもんっ!」
猫を見失った泉がこの状況に加わった。新しいおもちゃが来たと犬が泉へと飛びかかる。
「にぁあっ!? のっかっちゃ重いんじゃもーっ!」
「イズミ!? がっがんばってええええ!」
泉を助けようと白い犬をガシっと掴むベル。
犬がじゃれているだけだと分かるには、もう少しもふもふした後だった。
●千歳 梓(ka6311)
早朝に全力でのマラソンを終え、街道に汗の跡を残した梓は、一度自宅に戻って、スッキリとした顔で昼前、再びリゼリオの街へと戻ってきた。
「……」
頬に走る痛々しい傷跡を持つ梓がある店の中で鋭い眼差しを向けている。
それは、獲物を一匹たりとも逃さない狙撃手のような冷静さと、敵を全て倒すまで死んでも戦い続けるという狂戦士のような獰猛さを湛えていた。
「……これ、と……それ、だ」
揺るぎない指先でケースの中の品物を死刑宣告の如く指差す。
「……あとは、その横の、と、下の段の、それ、と、あれとそれ……だ」
次から次へと獲物を指名する。そんなに多くと慄く店員。
相手がどれほどのものとも動じない。それが、軍人――千歳 梓――というものだ。
「――それでは、お品物でございます。ドーナッツ各種6個、ご確認下さい」
「……う、む」
商品を受け取った梓は中身を確認し、満足そうな笑みを一瞬だけ浮かべ――たと思ったら店を出た。
「次はあの店か」
狙いを定める先には、甘味屋、そして、ケーキ屋。
それらを買い占め――公園で黙々と食べる。それが、軍人千歳梓の日々の過ごし方なのだ。
●カリメラ・オ・ルヴォワール(ka2493)&アレス=マキナ(ka3724)
図書館で借りた幾つかの本が入った重たい鞄を持ちながらカリメラは街を歩いていた。
「あ……ここは観光案内に載ってた……あの人……ソサエティで見たことある……」
散策するにはリゼリオの街は広く、そして、どの景色も新鮮だった。
図書館へ行って多数の本を借りたのは、散策よりも後にすべきだったかもしれないと思った時には、既に体力をかなり消費してからだった。
バイオリンの高い音色が響く広場に出た所でふらふらとよろめいてバランスを崩した。
「あれ?」
産まれた時は体が小さく病弱であった。その後、覚醒者としてハンターとして、少しは逞しくなった方だ。
それでも本の重たさには叶わず、鞄と共に地に倒れる――。
「大丈夫ですか?」
寸前で腕を掴まれて倒れなかった。
カリメラの腕を取ったのはアレスだった。もう片方の手にはバイオリンが握られていた。
「あっ……大丈夫です。ちょっと歩き疲れただけで……」
「それなら、この先にあるお店で休むと良いでしょう」
エスコートするように腕を掴んでいた手を離し、サッとカリメラの手を取った。
「アレス=マキナと言います」
優雅な礼儀作法を魅せるアレスに対し、思わず緊張したカリメラも一礼した。父親は礼儀作法に厳しかったなと思い出しながら。
「初めまして、私はカリメラと言います。よろしくお願いします」
広場の端に見える店まで歩く二人。
先ほどまで聞こえていたバイオリンの音を思い出し、カリメラは尋ねた。
「マキナさんは、いつも、広場で演奏を?」
「日常の楽しさを、当たり前の日々を楽しく過ごしている――感じでしょうか」
優しげに微笑むアレス。
「その鞄には沢山の本が入っているようですが、カリメラさんは本がお好きなのですか?」
「はい。本を読んで勉強する事も、大事だと思うんです」
鞄をグッと持ち上げてカリメラは誇らしげに言った。
歴史や戦術に関する真面目な感じの本の背表紙が見える。
「変わっていく事、変えていく事。一日一日と変わりゆく日々が僕には愛しく思えます」
本を読むというのは知識を得るだけではない。
昨日の自分よりも、「変わった」自分に、あるいは、成長した自分にもなれるものだ。
「本が大好きで、あっという間に時間が過ぎてしまいます」
苦笑を浮かべるカリメラにアレスは爽やかな笑顔を向けて言った。
「時間は過ぎますが、きっと、心に何かを残すのだと。そう、思いますよ」
●北谷王子 朝騎(ka5818)
覚醒状態で街中を掛ける少女が1人。
交差点を塞ぐように通過する馬車を華麗なステップで飛び越え、なおも走る朝騎。それを必死の形相で追跡取材するパルム。
「何か誤解されてたみたいでちゅね」
パルムに向かってそんな事を告げる朝騎の言葉。
朝騎は幼女が変質者に襲われないようにとパトロールしていたのだが、逆に変質者と間違われて、この始末である。
「子供の健やかな成長を守るには、フカフカ天使指数は重要なんでちゅが。分かっていない店員でちゅね」
下着の山の中にダイブしてれば怪しまれるものだとツッコミを入れる者は今、この場には居なかった。
「仕方ないでちゅね、次へ行きまちょう」
気を取り直して銭湯、そして公園に行くも、行く先々で罵詈雑言を浴びせられ(注:朝騎視点)、その度に追われる。
気が付けば鮮やかな夕日。今日も一日が経過した。幼女を狙う変質者の出現はなかった(注:朝騎視点)。
「今日は、日が悪かったでちゅね。パルムさん全カットでお願いしまちゅ」
それだけ言い残して朝騎は取材パルムから立ち去ったのであった。
●フィアリス・クリスティア(ka6334)&ミュアリス・クリスティア(ka6335)
「なんだか……視線を感じるけど……」
周囲を見渡すミュアリス。芝生の公園なので、隠れる所はやや離れた林ぐらいしかないのだが。
「確かに、妙な視線を感じます」
フィアリスも眺めるが特に怪しい存在を目視する事はできなかった。
取材のパルムなのだろうが、奴らの中には時に危険な『えろぱるむ』という存在が居ると母から聞いているので油断はできない。
「怖いとか、危険な気配とか……そういうのは感じない……から……大丈夫、かな……」
「まぁ、心配する事でもないでしょう? いざとなれば、ヤルだけですしね?」
思わずスカートの裾を抑えながら心配するミュアリスに対し、フィアリスは拳を掲げた。
「フィアってば……相変わらず……荒っぽい事が絡むと、ちょっと物騒……だよ」
「まぁ、今は特にトラブルもありませんし、ゆっくり過ごしましょう。ね、ミュア?」
芝生にシートを広げた双子。
持ってきた荷物を置き、そして、最後にフィアリスは大型の手甲を装着し、ミュアリスは大太刀を手にした。
「父さんには、いつか必ず直撃を当てる。その為には日々の鍛錬は欠かせない」
「私は……母様のように、強くて綺麗な女性に……なりたい」
二人はそれぞれ決意するように呟くと間合いを取って対峙した。
仲良く散歩に出かける振りをして、実は秘密の特訓。それが今日の過ごし方。
「先手必勝だ!」
身体のマテリアルを噴出させて拳を突き出すように迫るフィアリス。
それを紙一重の所で上体をスライドさせ避けるミュアリス。
「間合い……詰められて、も」
ミュアリスは精神を統一してマテリアルを高めていた。紙一重で初撃を避けたのは運もあるが、実戦経験の差もあるだろう。
回避と共に踏み込んだ軸足を起点にクルっと身体をしなやかに回転させて大太刀を振るう。
フィアリスは手甲で受け止めたが、それで勢いが弱まる訳がなく、吹き飛ばされた。まずはミュアリスの1本だろう。
「まだまだ、だ!」
「それじゃ……もう1回」
真剣な眼差しで刀を構えるミュアリスを待ち受けるように、フィアリスは両手をクロスさせる。
こうして、双子の秘密の特訓は日が暮れるまで続けられたのだった。
●ヴィント・アッシェヴェルデン(ka6346)&ロゼッタ・ラプタイル(ka6434)&久延毘 羽々姫(ka6474)
歩む速度をわざと遅くしたヴィントは周囲の気配の中、パルムがちゃんと『尾行』しているか確認した。
付いて来ている……最初は追跡されていると警戒していたのだが、すぐに依頼の件だと気がついた。
一日普通に過ごしていればいいのだ。間違っても彼は『仕事』をしてはいけない。
好きに尾行させていたつもりだが、気が付けば気配を感じない。どうも、このパルム、尾行が超が付くほど下手くそのようだ。
「俺はここに居るぞ」
なので、キョロキョロと見渡すパルムの背後から声を掛けた。
パルムはビクっと驚き振り返り――ヴィントの姿を確認すると、ササーと距離を取る。
どうも、距離を取って取材したいらしい。
「仕方ないな」
ヴィントは諦めて広場の椅子に座った。今日はこのまま一日過ぎるのを待つしかないだろう。
「へえ、ハンターの日常を取材ね……」
通りのカフェで依頼書の内容を再確認した羽々姫は、視界の隅に見えたパルムに向かって言った。
「まあ、あたしに付いて回って良い記事が書けるなら、それに越した事は無いか」
ぴょんと座っていた椅子から降りる。
「兄貴の案内は、必要最低限だからな。まだまだ知らない事が多い街だし」
自分の足で調べるのも悪くないだろう。
そういう探究心か、好奇心か、似ているのはそれが兄妹なのだろうか。
「んじゃ、ちょいと出掛けっか。ほらパルム、付いてきなっ!」
駆け出した羽々姫を慌てて追いかけるパルム
ぐるーと街中を走り抜け、面白そうな場所をと問われたパルムが案内して、羽々姫は広場へと到着した。
ロゼッタはパッと見、普通の女の子だ。
そう――蛇のペット二匹と一緒に広場に居るだけの、普通の女の子だ。
「ええと……基本的には、いつも通り普通に過ごしていればいいんですよね……?」
そんな独り言をペットの蛇に話しかけた。
この状態のどのあたりが普通かというのは人によって判断が変わる所だが、とりあえず、普通に過ごしていればいいのだ。
『見て、あの子の首。蛇が取り付いているわ』
『周りに誰もいないし、なにかの罰ゲームか?』
『可哀想に……』
そんな周囲の(心の)声が響いたその時だった。
ペットの一匹が急に広場へと飛び出したのだ。自然とそれを追いかけるロゼッタ。
パルムを全力で追いかけて駆けていた羽々姫は、急に飛び出して来たロゼッタを避けられなかった。
「わぁ!」
「あぁ!」
派手にぶつかり、二人の少女は広場をゴロンゴロンと転がった。
「ご、ごめんなさい! あ……ファリン! エキドナ!」
謝りながらロゼッタはペットの二匹の行方を探す。
ぶつかった衝撃でどこかに飛んでいってしまったようだ。
「こっちこそごめん。急に止まれなくってさ」
よろよろとしながら立ち上がる羽々姫。
座り込んだままペットを探すロゼッタに手を差し出す。
「あ、ありがとうございます」
差し出された手を掴み、立ち上がるとペットの名を叫ぶ。
「ファリン! エキドナ!」
あんなに可愛い子達なのに……草や藪に紛れ込んだりして迷子になったら大変だ。
誰か心無い人に捕らわれて解体され――蒲焼になったりしたら、私、どうすれば……と不安になる。
「それは、この蛇の事か?」
背後から声を掛けられ、振り返るとヴィントがベンチに座っていた。
頭と蛇の周りに二匹の蛇が巻き付いている。
「あぁ! ファリン! エキドナ!」
パッと表情を変えて飛びかかるようにヴィントに詰め寄るロゼッタ。
「蛇のペットか。なかなか、良い趣味してるね」
二匹の蛇を抱えたロゼッタに、羽々姫はそんな感想を言った。
「大事な存在を大切に想うか――俺も同感だ」
様子を見守っていたヴィントもそんな言葉を紡ぐ。
二人の反応にロゼッタは、少し顔を赤らめて照れた。
単身転移した彼女は見知った人が居なかった。友人知人は少なく、こんな私でも、私の事を理解してくれる人が居る。なんだか、それが気恥しかった。
「え、えと……ロ、ロゼッタ・ラプタイルと……言います」
おどおどと名乗った少女に二人のハンターも応えたのだった。
「ヴィント・アッシェヴェルデンだ」
「あたしは、久延毘 羽々姫だよ!」
●皐月=A=カヤマ(ka3534)&十色 乃梛(ka5902)&悠里(ka6368)
雑貨屋を巡っていた悠里が、同じ商品に手を伸ばした皐月に出会い、同じ取材を受けていると分かり店を出た所で、取材パルムを追いかける乃梛と遭遇した。
「そこのふたり~。パ、パルムを捕まえてぇ~」
乃梛の勢いは必死だった。
急な事で反応が遅れた悠里と皐月の間を逃げる取材パルムが通過し――追いかける乃梛が二人の間をすり抜けようと姿勢を変えた時、バランスを崩し盛大に二人へと衝突した。
「精霊とか、異世界とか、これ、ガチでゲームの世界だ……」
地面に転がった皐月がよろめきながら、そんな事を呟いた。
それに反応したのは悠里がパッと表情を変えた。
「リアルブルーからの転移者なのですね」
「あぁ」
「実は僕もなんです」
嬉しそうに宣言する悠里。
そこへ、盛大に転んだ乃梛が手を挙げて混ざる。
「私も転移者だよ!」
こうして、3人のリアルブルー出身者が集まったのだった。
「ここだけリアルブルーみたいですね」
悠里が冷静に分析するように言った。
「……流石に、ぐうたらしすぎたかな」
皐月がそんな事を言いながら駆けていた。
転移してから元の世界に戻る為の情報集めを主に行っていた彼にとって、リゼリオの小さい路地まではさすがに把握していなかった。
「僕も東方系の物とかなら興味はあったのですが……」
申し訳なさそうに悠里が言う。
3人は乃梛を取材していたパルムを追いかけていたのだ。
「あのパルム……絶対に許さないからっ」
そこまで乃梛が怒るのも無理はない。
なにせ、試着室での更衣の様子をバッチリと覗き見ていたのだから。
その映像――乃梛が男の娘ではない事が証明されるような内容――が、報告官や他の第三者に漏れるのは防ぎたい。
なんとしてでも取材パルム……否、えろパルムをひっ捕まえて、ハンターオフィスに事情を説明しなければ。
「ちゃんと女の子が証明される映像って事は、裸か」
走りながら飄々とした皐月の台詞に、乃梛が顔を真っ赤にした。
「それは、詮索しなくていいし、捕まえても見なくていいからね!」
「女の子が嫌がるような事はしませんよ」
物静かに悠里が言うが、僅かに先を行く乃梛が振り返った。
「えへ。こう見えて、実はもう、成人してるの☆」
「「えっ」」
皐月と悠里の二人の声が重なった。
「マジかよ。俺らより年上じゃん」
「僕も、同じ年代かと思っていました」
外見的な年齢は同じように見えたので無理もない。
敢えて言わせて貰うと、女性らしいラインの少なさが更に幼く見せているの……かもしれない。
「年齢の割には胸が……いや、なんでもねぇ」
「良い心掛けだと思うよ」
途中まで言いかけた皐月は言葉を止めた。
不気味にニッコリと笑う乃梛は走る勢いを弱めずパルムを追いかける。
「ここは、包囲して退路を塞ぎましょう」
悠里の提案に二人は頷くと覚醒状態に入り、パッと離れる。
道に迷うが覚醒者としての速さを活かしてパルムを追跡。やがて、T字路に追い詰めた。
「もう、逃がさないんだからね!」
「これで終わりじゃん」
「諦めて下さいね」
3人が同時に走り――直前の所でパルムが何事も無かったかのように上昇した。
「「「あっ」」」
という声と共に3人は豪快にぶつかり合うのであった。
結局、3人の追跡は夕方頃までかかり……ムフフな映像は削除された上に報告官に渡されたという。
●テオバルト・グリム(ka1824)&柄永 和沙(ka6481)
悩んだ末に和沙がある商品を手に取った。
それは開いた傘を片手に持ち、目を見開いて直立している太った猫のような置物。
「これ、可愛いかも。目玉が大きくて……これどう? 可愛い?」
お世辞にも可愛いとは言えないが――そこは好みの問題なのだろうが――本気で言っているような和沙の台詞に、テオバルトは正直に答えた。
「おー。良いんじゃないか。可愛いと思うぜ」
「それじゃ、これにしよう」
商品を持って会計へ向かう和沙。
昼間は洋服の店を回っていた。転移したての和沙が着る服を探す為だ。さすがに、いつまでも制服という訳にはいかないだろう。
何件か店を下見して、好物のガムを探すついでに雑貨屋を巡っていた。置物を買ったのは、付き合ってもらったテオバルトへのお礼のつもりだ。
「夕方か……」
雑貨屋を出た二人を夕日が照らし、テオバルトは小さく呟いた。
「すっごく綺麗……あ、写メ撮っとこ……」
魔導カメラを取り出そうとした和沙をテオバルトが制した。
「それなら、見晴らしの良い所へ登ろう」
疾影士としての力を使い、空家になっている建物の屋根へと登る二人。
眼下にはリゼリオ港が広がり、真っ赤な夕日が西へと沈もうとしていた。何枚か写真を撮った所で和沙は記念写真を撮ろうと思い付く。
「これで、入ってるかな?」
「ここを押せばいいんだな」
肩や顔を寄せ合う。
和沙から魔導カメラを手渡されたテオバルトが腕を伸ばしてカメラを向ける。
出来上がった写真の1枚を和沙は満足そうな表情でテオバルトに渡した。
「テオバルトさんと、またこうやって話せてよかった……正直、まだ帰りたくないけど」
「今日は、俺も楽しかった。この写真、大事にするぜ」
名残惜しくはあるがこれで終わりという訳では無い。
明日も明後日も、日はまた訪れるのだから。
「あたしの大切な思い出。あたしも、写真、大事にするね」
微笑を浮かべた和沙にテオバルトは静かに頷いた。
そして、屋根から降りる為に、テオバルトは夕日を背を受けながら、和沙に手を伸ばした。
「クリムゾンウエストへようこそ、和沙」
これから先、楽しい思い出が沢山出来るようにと、そんな願いを想いながら。
●志鷹 恭一(ka2487)
「そうだ。よく出来たな」
二人の女の子の包丁使いを見守って、恭一は愛する子らの頭を撫でた。
今日は自宅で4人の子と共に過ごしている。妻は診療所で働いている日は、恭一が家事や育児を見る。それが恭一のスタイルだ。
「おとうさん、とってきたよ!」
玄関から元気な男の子の声が響く。
妻が庭で育てている野菜類を取りに行っていたのだ。
「ありがとう。それじゃ、これらも切ろうか」
「「はーい」」
子供達が張り切る。
野菜を洗う子、皮を剥く子。子供達は一生懸命だ。その姿を、恭一は温かな気持ちで見守る。
この生活がどれだけ尊いのか。胸の奥深くに去来した思いを静かに閉まった時だった。
玄関が開き、仕事を終えた妻の声が聞こえた。
「ただいまー!」
その声に反応して子供らは手を止めて玄関へと小走りする。
「おかえりー!」
その後を恭一は微笑を浮かべながらゆっくりと追いかけた。
そして、玄関で愛する人と顔を合わせた。
「おかえり」
当たり前の平和な日常。
恭一のかけがえの無い大切なひと時であるのだ。
●藤堂 小夏(ka5489)
割り当てれた自室の中で、小夏は部屋の隅を見つめていた。
「……にしても取材ね。パルムも大変だ」
今の所、パルムは目視できないが。どこからか覗いているのだろうか。
「ま、私は、普段通りに過ごすけど」
特に予定のない休日だ。なにかするべきなのだろうか?
まず、朝起きてご飯を食べ――
「いいや、考えるの面倒だしゲームやろう」
という結論にたどり着いた。面倒な事は避けたい。
となると、もう本日はゲーム三昧して過ごすしかないだろう。
「とりあえずクリア、かな」
携帯ゲーム機の電源を入れて寝転がりながらポチポチと始める。
1時間、2時間……とあっという間に時間が流れ、ゲーム機を置いたと思ったら昼ご飯を食べ、再び、ゲーム機へ。
気が付けば夕方。今日も一日が終わる。
「そろそろ、夕飯の時間になるから食材を買ってこよう」
夕飯は何が良いか。カツ丼かソーツカツ丼かトンカツ定食か――。
その時になって、ようやく暇そうにしているパルムを見つけた。
「……一緒に食べる?」
無表情のまま、小夏はパルムにそう尋ねるのだった。
●多々良 莢(ka6065)
「多々良屋」とは元々、王国領内に店を構えていた鍛冶屋だ。
その当主である莢は依頼を、布団の中で確認していた。
「いつも通り生活するだけでお金が貰える……」
既にパルムによって寝起き前の素顔からジッと観察されておりプレイベートな姿がダダ漏れだが、そこまで気が回っていないのか、気にしていないのか。
朝日が昇る前に日課である鍛錬は終わっている。いい加減止めてもいいかなと考える日課だが、止めたら負けと思ってしまう性分なのだ。
「……」
独特の文字が入ったシャツを着たまま、莢は布団を被った。
程よい暖かさが心地よく、眠気を誘う。もうそろそろ鍛冶屋の開店時間なのだが、気が乗らない。
「はぁ……疲れた……もう一眠りしよう……」
それがいい。きっと、パルムに寝姿を取材されているだろうが、今は眠気が優先だ。
そして、莢はすやぁと寝息を立てて、程よい世界へといってしまった。
取材パルムはその様子を、ただジッと眺め続け――。
「……あれ、よ、夜? え? えぇ!?」
●マカリオ・R・エインズワース(ka6449)&ルーレン・シュウールノート(ka6501)
日が沈み、徐々に辺りが暗くなっていく、そんな時刻。
広場でマカリオがコーヒー片手に、パルムと、ふくろうとエルフの青年に何か語っていた。
「……偶然ッつーのか、運命ッつーのか……この世界で最初に、会ったのが従兄弟だぜ。信じられるか?」
それはマカリオの転移する前からの話だった。
元々CAM乗りだった事、転移したら、森の中だった事。
叔父が転移していた事などから、自身がどうしてハンターになったのか、そんな話だ。
「そ、そんな……う、運命的な……」
と涙を流しているのはパルムでもふくろうでもなく、ルーレンだった。
涙腺が弱いみたいで、油断しているとすぐに流れてしまう。
「いやービビったね。あちらさんの驚きようも面白かったが」
「マカリオさんはどうして魔術師になられたのですか?」
涙をハンカチで拭こうと手を伸ばし、ふくろうのマウムを掴んだ。
びくっと震えたマウムに間違いだったと気がつくルーレン。
冷めたコーヒーをマカリオは口に付けた。
「あー……気まぐれだ。気まぐれ」
本当は違いのだが、話すとこれはこれで長くなるかもしれない。
だから、そんな風にマカリオは答えたのであった。
「あの……叔父さんは?」
「叔父さん? あぁ、死んでるよ。歪虚に堕ちてな」
しれっと言ったマカリオの台詞に、ぶわっと大粒の涙を流すルーレン。
「そんなに泣く事か?」
「は……はい……」
ハンカチで目元を押さえるルーレン。
「そうか……ありがとうよぉ。だがな……一つ言っていいか?」
自分ではない誰の事に涙を流す――それは慰みの言葉よりも温かみのある反応だった。
「はい……なんでしょうか?」
「それ、ハンカチじゃなくて、ふくろうだぞ」
「え……」
慌ててハンカチを握っている手を見る。
それは確かに、自分のペットであるふくろうだった。
ふくろうのマウムもなんだか泣いているようにも見えた――。
●天王寺茜(ka4080)&エリオ・アスコリ(ka5928)
「いらっしゃいませ!」
明朗活発な茜の声が酒場食堂に響いた。
ハンターの仕事は時として危険が伴う。両親が心配する事もあり、茜はハンター業以外にも給仕の仕事も行っていた。
「エール酒3つ、お待たせしましたっ。おつまみに枝豆、いかがですか?」
愛想の良い笑顔を振りまいて、ちょっとした看板娘である。
「あかねちゃぁぁん」
泥酔した馬鹿な客が飛びついて来るが、しれっと回避する。
「お客さん悪酔いしちゃ駄目ですよー。少し横になりましょうねー」
電撃を放って撃退する心強い用心棒であるのは店の常連であれば知っている事であった。
エリオもハンターである。だが、仕事がない時は「郵便屋」として働いている。
どんなに遠い場所でも危険な場所でも関係なく配達するのが売りだ。
「食事にしようかな」
辺はすっかり夜の様相である。
配達の仕事を終えたエリオはある酒場食堂に入った。
店内はピークが過ぎたようで店員が片付けに追われている。
「いらっしゃいませー!」
「1人だ」
聞かれるも早く、エリオは店員に伝えるとカウンター席に案内される。
「何にしますか? お酒は……まだ、未成年みたいですからダメですね」
クスっと笑った店員のネームには、おっきく丸文字で「あかね」と記されていた。
茜がカウンター越しに料理を渡す。それを受け取りながらエリオは会話を続ける。
「……という事で、休学中さ」
「そうなんだね~。私も似たようなものかな~」
LH044事件に巻き込まれて転移した茜も学校に行っているのか行ってないのか微妙な所だ。
「親の敷いたレールに乗って、なんとなく軍人になるのが嫌でさ」
エリオがデザートの果物にフォークを突き刺す。
何気ない動作でそれを茜に渡す。
「ハンターとして郵便屋として、いろんな場所でいろんな人に逢って……世界って広いんだなって再認識したよ」
「うんうん。そうだよね」
「それに今凄く楽しいし。郵便屋の仕事も良いものだよ、君みたいな可愛い子にも会えたわけだし」
爽やかな表情で腕を茜へと向けた。
「良かったら、一息入れに一緒にいかない?」
「……さぁ、もう一頑張りしなくちゃ!」
愛想笑いを浮かべて茜が別の接客へと向かう。
茜が立ち去った後、カウンターにはこの店の閉店時間が記されたパンフレットが置かれていたのだった。
●五百枝春樹(ka6324)
澄んだ光が差し込み、春樹は長身を起こして窓から見える朝陽をぼんやりと眺めた。眩しい。
「……依頼……取材……微妙に、気が重い……」
それでもなんとかベットから起き上がる。
その時、早くも部屋の隅に取材パルムが居る事を見つけた。
もう既に撮られているようだ。妙な恥ずかしさを感じ、薄手のシャツを羽織る。
「プライバシーは……守られるという……認識……で、良いはずですよね?」
パルムに一言告げてから軽い食事を摂る。
朝一で修練場で訓練する為だ。
修練場は朝早いというのもあり、チラホラと人が居る程度だった。
遠くに丸い的が設置してある弓の訓練場所へ到着すると静かに弓を構えた。
「……」
矢を番えず、弓の弦だけを何度も何度も引き絞っては離すという動作を繰り返した。
いわば、素引きである。基礎訓練ではあるが、春樹にとっては単なる基礎訓練で終わらない。
「矢を番えていると……いつもの自分じゃない気がするから」
静かに練習を繰り返しながら、精神統一する春樹は説明するように取材パルムに言った。
これが、彼なりの精神集中方法なのだ。
●未来への路を往く
アムユス(ka6465)が自宅の戸をしっかりと閉める。掃除や洗濯、布団干しは終わった。
これから、出来そうな依頼が今日はあるのか、ハンターオフィスに確認に行く所だ。
ふと、見上げた空には朝の日差しが眩しい。小鳥達が楽しそうに歌っていた。
「お婆ちゃん……」
この早朝の雰囲気が、どことなく、“あの時”を感じさせていた。
紫色の空と冷たい早朝の澄んだ空気の中、お婆ちゃんが亡くなった時の事、そして、託された遺言の事。
(今は何でもこなせる様に、もっともっと経験を積まないと)
大事にしているオオカミのお面を見つめ――姿勢を真っ直ぐ正す。
そして、握った右手を静かに、力強く、胸の中心にそっと置く。目を瞑って頭を僅かに下げて、わずかな間。
「いってきます」
と声を発する。
頭を上げるとゆっくりと目を見開き、踵を返してハンターオフィスに向かって歩き出す。
きっと今日も何か依頼があるはず。自分に出来る事があるはず。
彼は今日もおっとりとしつつ淡々とした日を過ごすのだろう。
未来へと進む為に。
おしまい。
カランカランカラン――鐘鈴が鳴る。
繋いだ手が楽しそうに振られているが、ピタっとある屋台の前で止まった。
「ベル! 何食べるんじゃもん? 全部、おいしそーなんじゃもんっ♪」
目を輝かせた泉が声を張り上げた。
屋台には大小様々な魚が並び、一部は串焼きされていた。
「おいしそうなの~」
「これ下さいじゃもん」
二人は同じ焼き魚を受け取った。
大きく開いた口から図太い舌のようなモノが飛び出ている不気味で大きい魚だが……。
「ふあっ! おいしい!」
焼き魚の腹を一かじりしたベルがほっぺを抑える。
炭の香りと共に魚の優しい肉質とじゅわりと広がる汁。見た目グロテスクだが味は最高だ。
「おいしーじゃもん」
泉も満足そうだ。
そんな泉の様子に満面な笑みを浮かべたベルが視線を焼き魚から外した一瞬。
「イズミ、おさかなすっごいおいs……ない! ないいい!!」
手には串しか残されていない。
ふと、顔を上げてば、二匹の猫がそれぞれ、焼き魚を咥えて、してやったりとした顔をしていた。
「ボクのお魚返すんじゃもん!」
「まってええええ!!!」
カランカランカラン――鐘鈴が鳴り響く中、二人が猫を追いかける。
泥棒猫としてかなりの域に達しているのかもしれない猫は覚醒者の追撃を逃げ続けた。
「ボクのお魚返すんじゃもん!」
大きな屋敷の庭へと逃げ込む猫を追いかけて生垣を豪快に飛び越える泉。
一方、ベルは生垣の隙間をなんとか這って中庭へと入った。
「……な、なかよしは! あいさつから! おばさまいってた!」
生垣を越えた先は大きな小屋の入口。
のそっと白い毛並みの大きな犬と正面から見つめ合う。垂れた耳が可愛いが……。
突然現れたベルに驚いたのか、大きく吠えた。
「びえええええっ!」
涙目で逃げ出すべる。カランカランと鈴が鳴り、それが楽しかったのか、犬が追いかける。
「こらーっ! ベルにわんってしちゃダメなんじゃもんっ!」
猫を見失った泉がこの状況に加わった。新しいおもちゃが来たと犬が泉へと飛びかかる。
「にぁあっ!? のっかっちゃ重いんじゃもーっ!」
「イズミ!? がっがんばってええええ!」
泉を助けようと白い犬をガシっと掴むベル。
犬がじゃれているだけだと分かるには、もう少しもふもふした後だった。
●千歳 梓(ka6311)
早朝に全力でのマラソンを終え、街道に汗の跡を残した梓は、一度自宅に戻って、スッキリとした顔で昼前、再びリゼリオの街へと戻ってきた。
「……」
頬に走る痛々しい傷跡を持つ梓がある店の中で鋭い眼差しを向けている。
それは、獲物を一匹たりとも逃さない狙撃手のような冷静さと、敵を全て倒すまで死んでも戦い続けるという狂戦士のような獰猛さを湛えていた。
「……これ、と……それ、だ」
揺るぎない指先でケースの中の品物を死刑宣告の如く指差す。
「……あとは、その横の、と、下の段の、それ、と、あれとそれ……だ」
次から次へと獲物を指名する。そんなに多くと慄く店員。
相手がどれほどのものとも動じない。それが、軍人――千歳 梓――というものだ。
「――それでは、お品物でございます。ドーナッツ各種6個、ご確認下さい」
「……う、む」
商品を受け取った梓は中身を確認し、満足そうな笑みを一瞬だけ浮かべ――たと思ったら店を出た。
「次はあの店か」
狙いを定める先には、甘味屋、そして、ケーキ屋。
それらを買い占め――公園で黙々と食べる。それが、軍人千歳梓の日々の過ごし方なのだ。
●カリメラ・オ・ルヴォワール(ka2493)&アレス=マキナ(ka3724)
図書館で借りた幾つかの本が入った重たい鞄を持ちながらカリメラは街を歩いていた。
「あ……ここは観光案内に載ってた……あの人……ソサエティで見たことある……」
散策するにはリゼリオの街は広く、そして、どの景色も新鮮だった。
図書館へ行って多数の本を借りたのは、散策よりも後にすべきだったかもしれないと思った時には、既に体力をかなり消費してからだった。
バイオリンの高い音色が響く広場に出た所でふらふらとよろめいてバランスを崩した。
「あれ?」
産まれた時は体が小さく病弱であった。その後、覚醒者としてハンターとして、少しは逞しくなった方だ。
それでも本の重たさには叶わず、鞄と共に地に倒れる――。
「大丈夫ですか?」
寸前で腕を掴まれて倒れなかった。
カリメラの腕を取ったのはアレスだった。もう片方の手にはバイオリンが握られていた。
「あっ……大丈夫です。ちょっと歩き疲れただけで……」
「それなら、この先にあるお店で休むと良いでしょう」
エスコートするように腕を掴んでいた手を離し、サッとカリメラの手を取った。
「アレス=マキナと言います」
優雅な礼儀作法を魅せるアレスに対し、思わず緊張したカリメラも一礼した。父親は礼儀作法に厳しかったなと思い出しながら。
「初めまして、私はカリメラと言います。よろしくお願いします」
広場の端に見える店まで歩く二人。
先ほどまで聞こえていたバイオリンの音を思い出し、カリメラは尋ねた。
「マキナさんは、いつも、広場で演奏を?」
「日常の楽しさを、当たり前の日々を楽しく過ごしている――感じでしょうか」
優しげに微笑むアレス。
「その鞄には沢山の本が入っているようですが、カリメラさんは本がお好きなのですか?」
「はい。本を読んで勉強する事も、大事だと思うんです」
鞄をグッと持ち上げてカリメラは誇らしげに言った。
歴史や戦術に関する真面目な感じの本の背表紙が見える。
「変わっていく事、変えていく事。一日一日と変わりゆく日々が僕には愛しく思えます」
本を読むというのは知識を得るだけではない。
昨日の自分よりも、「変わった」自分に、あるいは、成長した自分にもなれるものだ。
「本が大好きで、あっという間に時間が過ぎてしまいます」
苦笑を浮かべるカリメラにアレスは爽やかな笑顔を向けて言った。
「時間は過ぎますが、きっと、心に何かを残すのだと。そう、思いますよ」
●北谷王子 朝騎(ka5818)
覚醒状態で街中を掛ける少女が1人。
交差点を塞ぐように通過する馬車を華麗なステップで飛び越え、なおも走る朝騎。それを必死の形相で追跡取材するパルム。
「何か誤解されてたみたいでちゅね」
パルムに向かってそんな事を告げる朝騎の言葉。
朝騎は幼女が変質者に襲われないようにとパトロールしていたのだが、逆に変質者と間違われて、この始末である。
「子供の健やかな成長を守るには、フカフカ天使指数は重要なんでちゅが。分かっていない店員でちゅね」
下着の山の中にダイブしてれば怪しまれるものだとツッコミを入れる者は今、この場には居なかった。
「仕方ないでちゅね、次へ行きまちょう」
気を取り直して銭湯、そして公園に行くも、行く先々で罵詈雑言を浴びせられ(注:朝騎視点)、その度に追われる。
気が付けば鮮やかな夕日。今日も一日が経過した。幼女を狙う変質者の出現はなかった(注:朝騎視点)。
「今日は、日が悪かったでちゅね。パルムさん全カットでお願いしまちゅ」
それだけ言い残して朝騎は取材パルムから立ち去ったのであった。
●フィアリス・クリスティア(ka6334)&ミュアリス・クリスティア(ka6335)
「なんだか……視線を感じるけど……」
周囲を見渡すミュアリス。芝生の公園なので、隠れる所はやや離れた林ぐらいしかないのだが。
「確かに、妙な視線を感じます」
フィアリスも眺めるが特に怪しい存在を目視する事はできなかった。
取材のパルムなのだろうが、奴らの中には時に危険な『えろぱるむ』という存在が居ると母から聞いているので油断はできない。
「怖いとか、危険な気配とか……そういうのは感じない……から……大丈夫、かな……」
「まぁ、心配する事でもないでしょう? いざとなれば、ヤルだけですしね?」
思わずスカートの裾を抑えながら心配するミュアリスに対し、フィアリスは拳を掲げた。
「フィアってば……相変わらず……荒っぽい事が絡むと、ちょっと物騒……だよ」
「まぁ、今は特にトラブルもありませんし、ゆっくり過ごしましょう。ね、ミュア?」
芝生にシートを広げた双子。
持ってきた荷物を置き、そして、最後にフィアリスは大型の手甲を装着し、ミュアリスは大太刀を手にした。
「父さんには、いつか必ず直撃を当てる。その為には日々の鍛錬は欠かせない」
「私は……母様のように、強くて綺麗な女性に……なりたい」
二人はそれぞれ決意するように呟くと間合いを取って対峙した。
仲良く散歩に出かける振りをして、実は秘密の特訓。それが今日の過ごし方。
「先手必勝だ!」
身体のマテリアルを噴出させて拳を突き出すように迫るフィアリス。
それを紙一重の所で上体をスライドさせ避けるミュアリス。
「間合い……詰められて、も」
ミュアリスは精神を統一してマテリアルを高めていた。紙一重で初撃を避けたのは運もあるが、実戦経験の差もあるだろう。
回避と共に踏み込んだ軸足を起点にクルっと身体をしなやかに回転させて大太刀を振るう。
フィアリスは手甲で受け止めたが、それで勢いが弱まる訳がなく、吹き飛ばされた。まずはミュアリスの1本だろう。
「まだまだ、だ!」
「それじゃ……もう1回」
真剣な眼差しで刀を構えるミュアリスを待ち受けるように、フィアリスは両手をクロスさせる。
こうして、双子の秘密の特訓は日が暮れるまで続けられたのだった。
●ヴィント・アッシェヴェルデン(ka6346)&ロゼッタ・ラプタイル(ka6434)&久延毘 羽々姫(ka6474)
歩む速度をわざと遅くしたヴィントは周囲の気配の中、パルムがちゃんと『尾行』しているか確認した。
付いて来ている……最初は追跡されていると警戒していたのだが、すぐに依頼の件だと気がついた。
一日普通に過ごしていればいいのだ。間違っても彼は『仕事』をしてはいけない。
好きに尾行させていたつもりだが、気が付けば気配を感じない。どうも、このパルム、尾行が超が付くほど下手くそのようだ。
「俺はここに居るぞ」
なので、キョロキョロと見渡すパルムの背後から声を掛けた。
パルムはビクっと驚き振り返り――ヴィントの姿を確認すると、ササーと距離を取る。
どうも、距離を取って取材したいらしい。
「仕方ないな」
ヴィントは諦めて広場の椅子に座った。今日はこのまま一日過ぎるのを待つしかないだろう。
「へえ、ハンターの日常を取材ね……」
通りのカフェで依頼書の内容を再確認した羽々姫は、視界の隅に見えたパルムに向かって言った。
「まあ、あたしに付いて回って良い記事が書けるなら、それに越した事は無いか」
ぴょんと座っていた椅子から降りる。
「兄貴の案内は、必要最低限だからな。まだまだ知らない事が多い街だし」
自分の足で調べるのも悪くないだろう。
そういう探究心か、好奇心か、似ているのはそれが兄妹なのだろうか。
「んじゃ、ちょいと出掛けっか。ほらパルム、付いてきなっ!」
駆け出した羽々姫を慌てて追いかけるパルム
ぐるーと街中を走り抜け、面白そうな場所をと問われたパルムが案内して、羽々姫は広場へと到着した。
ロゼッタはパッと見、普通の女の子だ。
そう――蛇のペット二匹と一緒に広場に居るだけの、普通の女の子だ。
「ええと……基本的には、いつも通り普通に過ごしていればいいんですよね……?」
そんな独り言をペットの蛇に話しかけた。
この状態のどのあたりが普通かというのは人によって判断が変わる所だが、とりあえず、普通に過ごしていればいいのだ。
『見て、あの子の首。蛇が取り付いているわ』
『周りに誰もいないし、なにかの罰ゲームか?』
『可哀想に……』
そんな周囲の(心の)声が響いたその時だった。
ペットの一匹が急に広場へと飛び出したのだ。自然とそれを追いかけるロゼッタ。
パルムを全力で追いかけて駆けていた羽々姫は、急に飛び出して来たロゼッタを避けられなかった。
「わぁ!」
「あぁ!」
派手にぶつかり、二人の少女は広場をゴロンゴロンと転がった。
「ご、ごめんなさい! あ……ファリン! エキドナ!」
謝りながらロゼッタはペットの二匹の行方を探す。
ぶつかった衝撃でどこかに飛んでいってしまったようだ。
「こっちこそごめん。急に止まれなくってさ」
よろよろとしながら立ち上がる羽々姫。
座り込んだままペットを探すロゼッタに手を差し出す。
「あ、ありがとうございます」
差し出された手を掴み、立ち上がるとペットの名を叫ぶ。
「ファリン! エキドナ!」
あんなに可愛い子達なのに……草や藪に紛れ込んだりして迷子になったら大変だ。
誰か心無い人に捕らわれて解体され――蒲焼になったりしたら、私、どうすれば……と不安になる。
「それは、この蛇の事か?」
背後から声を掛けられ、振り返るとヴィントがベンチに座っていた。
頭と蛇の周りに二匹の蛇が巻き付いている。
「あぁ! ファリン! エキドナ!」
パッと表情を変えて飛びかかるようにヴィントに詰め寄るロゼッタ。
「蛇のペットか。なかなか、良い趣味してるね」
二匹の蛇を抱えたロゼッタに、羽々姫はそんな感想を言った。
「大事な存在を大切に想うか――俺も同感だ」
様子を見守っていたヴィントもそんな言葉を紡ぐ。
二人の反応にロゼッタは、少し顔を赤らめて照れた。
単身転移した彼女は見知った人が居なかった。友人知人は少なく、こんな私でも、私の事を理解してくれる人が居る。なんだか、それが気恥しかった。
「え、えと……ロ、ロゼッタ・ラプタイルと……言います」
おどおどと名乗った少女に二人のハンターも応えたのだった。
「ヴィント・アッシェヴェルデンだ」
「あたしは、久延毘 羽々姫だよ!」
●皐月=A=カヤマ(ka3534)&十色 乃梛(ka5902)&悠里(ka6368)
雑貨屋を巡っていた悠里が、同じ商品に手を伸ばした皐月に出会い、同じ取材を受けていると分かり店を出た所で、取材パルムを追いかける乃梛と遭遇した。
「そこのふたり~。パ、パルムを捕まえてぇ~」
乃梛の勢いは必死だった。
急な事で反応が遅れた悠里と皐月の間を逃げる取材パルムが通過し――追いかける乃梛が二人の間をすり抜けようと姿勢を変えた時、バランスを崩し盛大に二人へと衝突した。
「精霊とか、異世界とか、これ、ガチでゲームの世界だ……」
地面に転がった皐月がよろめきながら、そんな事を呟いた。
それに反応したのは悠里がパッと表情を変えた。
「リアルブルーからの転移者なのですね」
「あぁ」
「実は僕もなんです」
嬉しそうに宣言する悠里。
そこへ、盛大に転んだ乃梛が手を挙げて混ざる。
「私も転移者だよ!」
こうして、3人のリアルブルー出身者が集まったのだった。
「ここだけリアルブルーみたいですね」
悠里が冷静に分析するように言った。
「……流石に、ぐうたらしすぎたかな」
皐月がそんな事を言いながら駆けていた。
転移してから元の世界に戻る為の情報集めを主に行っていた彼にとって、リゼリオの小さい路地まではさすがに把握していなかった。
「僕も東方系の物とかなら興味はあったのですが……」
申し訳なさそうに悠里が言う。
3人は乃梛を取材していたパルムを追いかけていたのだ。
「あのパルム……絶対に許さないからっ」
そこまで乃梛が怒るのも無理はない。
なにせ、試着室での更衣の様子をバッチリと覗き見ていたのだから。
その映像――乃梛が男の娘ではない事が証明されるような内容――が、報告官や他の第三者に漏れるのは防ぎたい。
なんとしてでも取材パルム……否、えろパルムをひっ捕まえて、ハンターオフィスに事情を説明しなければ。
「ちゃんと女の子が証明される映像って事は、裸か」
走りながら飄々とした皐月の台詞に、乃梛が顔を真っ赤にした。
「それは、詮索しなくていいし、捕まえても見なくていいからね!」
「女の子が嫌がるような事はしませんよ」
物静かに悠里が言うが、僅かに先を行く乃梛が振り返った。
「えへ。こう見えて、実はもう、成人してるの☆」
「「えっ」」
皐月と悠里の二人の声が重なった。
「マジかよ。俺らより年上じゃん」
「僕も、同じ年代かと思っていました」
外見的な年齢は同じように見えたので無理もない。
敢えて言わせて貰うと、女性らしいラインの少なさが更に幼く見せているの……かもしれない。
「年齢の割には胸が……いや、なんでもねぇ」
「良い心掛けだと思うよ」
途中まで言いかけた皐月は言葉を止めた。
不気味にニッコリと笑う乃梛は走る勢いを弱めずパルムを追いかける。
「ここは、包囲して退路を塞ぎましょう」
悠里の提案に二人は頷くと覚醒状態に入り、パッと離れる。
道に迷うが覚醒者としての速さを活かしてパルムを追跡。やがて、T字路に追い詰めた。
「もう、逃がさないんだからね!」
「これで終わりじゃん」
「諦めて下さいね」
3人が同時に走り――直前の所でパルムが何事も無かったかのように上昇した。
「「「あっ」」」
という声と共に3人は豪快にぶつかり合うのであった。
結局、3人の追跡は夕方頃までかかり……ムフフな映像は削除された上に報告官に渡されたという。
●テオバルト・グリム(ka1824)&柄永 和沙(ka6481)
悩んだ末に和沙がある商品を手に取った。
それは開いた傘を片手に持ち、目を見開いて直立している太った猫のような置物。
「これ、可愛いかも。目玉が大きくて……これどう? 可愛い?」
お世辞にも可愛いとは言えないが――そこは好みの問題なのだろうが――本気で言っているような和沙の台詞に、テオバルトは正直に答えた。
「おー。良いんじゃないか。可愛いと思うぜ」
「それじゃ、これにしよう」
商品を持って会計へ向かう和沙。
昼間は洋服の店を回っていた。転移したての和沙が着る服を探す為だ。さすがに、いつまでも制服という訳にはいかないだろう。
何件か店を下見して、好物のガムを探すついでに雑貨屋を巡っていた。置物を買ったのは、付き合ってもらったテオバルトへのお礼のつもりだ。
「夕方か……」
雑貨屋を出た二人を夕日が照らし、テオバルトは小さく呟いた。
「すっごく綺麗……あ、写メ撮っとこ……」
魔導カメラを取り出そうとした和沙をテオバルトが制した。
「それなら、見晴らしの良い所へ登ろう」
疾影士としての力を使い、空家になっている建物の屋根へと登る二人。
眼下にはリゼリオ港が広がり、真っ赤な夕日が西へと沈もうとしていた。何枚か写真を撮った所で和沙は記念写真を撮ろうと思い付く。
「これで、入ってるかな?」
「ここを押せばいいんだな」
肩や顔を寄せ合う。
和沙から魔導カメラを手渡されたテオバルトが腕を伸ばしてカメラを向ける。
出来上がった写真の1枚を和沙は満足そうな表情でテオバルトに渡した。
「テオバルトさんと、またこうやって話せてよかった……正直、まだ帰りたくないけど」
「今日は、俺も楽しかった。この写真、大事にするぜ」
名残惜しくはあるがこれで終わりという訳では無い。
明日も明後日も、日はまた訪れるのだから。
「あたしの大切な思い出。あたしも、写真、大事にするね」
微笑を浮かべた和沙にテオバルトは静かに頷いた。
そして、屋根から降りる為に、テオバルトは夕日を背を受けながら、和沙に手を伸ばした。
「クリムゾンウエストへようこそ、和沙」
これから先、楽しい思い出が沢山出来るようにと、そんな願いを想いながら。
●志鷹 恭一(ka2487)
「そうだ。よく出来たな」
二人の女の子の包丁使いを見守って、恭一は愛する子らの頭を撫でた。
今日は自宅で4人の子と共に過ごしている。妻は診療所で働いている日は、恭一が家事や育児を見る。それが恭一のスタイルだ。
「おとうさん、とってきたよ!」
玄関から元気な男の子の声が響く。
妻が庭で育てている野菜類を取りに行っていたのだ。
「ありがとう。それじゃ、これらも切ろうか」
「「はーい」」
子供達が張り切る。
野菜を洗う子、皮を剥く子。子供達は一生懸命だ。その姿を、恭一は温かな気持ちで見守る。
この生活がどれだけ尊いのか。胸の奥深くに去来した思いを静かに閉まった時だった。
玄関が開き、仕事を終えた妻の声が聞こえた。
「ただいまー!」
その声に反応して子供らは手を止めて玄関へと小走りする。
「おかえりー!」
その後を恭一は微笑を浮かべながらゆっくりと追いかけた。
そして、玄関で愛する人と顔を合わせた。
「おかえり」
当たり前の平和な日常。
恭一のかけがえの無い大切なひと時であるのだ。
●藤堂 小夏(ka5489)
割り当てれた自室の中で、小夏は部屋の隅を見つめていた。
「……にしても取材ね。パルムも大変だ」
今の所、パルムは目視できないが。どこからか覗いているのだろうか。
「ま、私は、普段通りに過ごすけど」
特に予定のない休日だ。なにかするべきなのだろうか?
まず、朝起きてご飯を食べ――
「いいや、考えるの面倒だしゲームやろう」
という結論にたどり着いた。面倒な事は避けたい。
となると、もう本日はゲーム三昧して過ごすしかないだろう。
「とりあえずクリア、かな」
携帯ゲーム機の電源を入れて寝転がりながらポチポチと始める。
1時間、2時間……とあっという間に時間が流れ、ゲーム機を置いたと思ったら昼ご飯を食べ、再び、ゲーム機へ。
気が付けば夕方。今日も一日が終わる。
「そろそろ、夕飯の時間になるから食材を買ってこよう」
夕飯は何が良いか。カツ丼かソーツカツ丼かトンカツ定食か――。
その時になって、ようやく暇そうにしているパルムを見つけた。
「……一緒に食べる?」
無表情のまま、小夏はパルムにそう尋ねるのだった。
●多々良 莢(ka6065)
「多々良屋」とは元々、王国領内に店を構えていた鍛冶屋だ。
その当主である莢は依頼を、布団の中で確認していた。
「いつも通り生活するだけでお金が貰える……」
既にパルムによって寝起き前の素顔からジッと観察されておりプレイベートな姿がダダ漏れだが、そこまで気が回っていないのか、気にしていないのか。
朝日が昇る前に日課である鍛錬は終わっている。いい加減止めてもいいかなと考える日課だが、止めたら負けと思ってしまう性分なのだ。
「……」
独特の文字が入ったシャツを着たまま、莢は布団を被った。
程よい暖かさが心地よく、眠気を誘う。もうそろそろ鍛冶屋の開店時間なのだが、気が乗らない。
「はぁ……疲れた……もう一眠りしよう……」
それがいい。きっと、パルムに寝姿を取材されているだろうが、今は眠気が優先だ。
そして、莢はすやぁと寝息を立てて、程よい世界へといってしまった。
取材パルムはその様子を、ただジッと眺め続け――。
「……あれ、よ、夜? え? えぇ!?」
●マカリオ・R・エインズワース(ka6449)&ルーレン・シュウールノート(ka6501)
日が沈み、徐々に辺りが暗くなっていく、そんな時刻。
広場でマカリオがコーヒー片手に、パルムと、ふくろうとエルフの青年に何か語っていた。
「……偶然ッつーのか、運命ッつーのか……この世界で最初に、会ったのが従兄弟だぜ。信じられるか?」
それはマカリオの転移する前からの話だった。
元々CAM乗りだった事、転移したら、森の中だった事。
叔父が転移していた事などから、自身がどうしてハンターになったのか、そんな話だ。
「そ、そんな……う、運命的な……」
と涙を流しているのはパルムでもふくろうでもなく、ルーレンだった。
涙腺が弱いみたいで、油断しているとすぐに流れてしまう。
「いやービビったね。あちらさんの驚きようも面白かったが」
「マカリオさんはどうして魔術師になられたのですか?」
涙をハンカチで拭こうと手を伸ばし、ふくろうのマウムを掴んだ。
びくっと震えたマウムに間違いだったと気がつくルーレン。
冷めたコーヒーをマカリオは口に付けた。
「あー……気まぐれだ。気まぐれ」
本当は違いのだが、話すとこれはこれで長くなるかもしれない。
だから、そんな風にマカリオは答えたのであった。
「あの……叔父さんは?」
「叔父さん? あぁ、死んでるよ。歪虚に堕ちてな」
しれっと言ったマカリオの台詞に、ぶわっと大粒の涙を流すルーレン。
「そんなに泣く事か?」
「は……はい……」
ハンカチで目元を押さえるルーレン。
「そうか……ありがとうよぉ。だがな……一つ言っていいか?」
自分ではない誰の事に涙を流す――それは慰みの言葉よりも温かみのある反応だった。
「はい……なんでしょうか?」
「それ、ハンカチじゃなくて、ふくろうだぞ」
「え……」
慌ててハンカチを握っている手を見る。
それは確かに、自分のペットであるふくろうだった。
ふくろうのマウムもなんだか泣いているようにも見えた――。
●天王寺茜(ka4080)&エリオ・アスコリ(ka5928)
「いらっしゃいませ!」
明朗活発な茜の声が酒場食堂に響いた。
ハンターの仕事は時として危険が伴う。両親が心配する事もあり、茜はハンター業以外にも給仕の仕事も行っていた。
「エール酒3つ、お待たせしましたっ。おつまみに枝豆、いかがですか?」
愛想の良い笑顔を振りまいて、ちょっとした看板娘である。
「あかねちゃぁぁん」
泥酔した馬鹿な客が飛びついて来るが、しれっと回避する。
「お客さん悪酔いしちゃ駄目ですよー。少し横になりましょうねー」
電撃を放って撃退する心強い用心棒であるのは店の常連であれば知っている事であった。
エリオもハンターである。だが、仕事がない時は「郵便屋」として働いている。
どんなに遠い場所でも危険な場所でも関係なく配達するのが売りだ。
「食事にしようかな」
辺はすっかり夜の様相である。
配達の仕事を終えたエリオはある酒場食堂に入った。
店内はピークが過ぎたようで店員が片付けに追われている。
「いらっしゃいませー!」
「1人だ」
聞かれるも早く、エリオは店員に伝えるとカウンター席に案内される。
「何にしますか? お酒は……まだ、未成年みたいですからダメですね」
クスっと笑った店員のネームには、おっきく丸文字で「あかね」と記されていた。
茜がカウンター越しに料理を渡す。それを受け取りながらエリオは会話を続ける。
「……という事で、休学中さ」
「そうなんだね~。私も似たようなものかな~」
LH044事件に巻き込まれて転移した茜も学校に行っているのか行ってないのか微妙な所だ。
「親の敷いたレールに乗って、なんとなく軍人になるのが嫌でさ」
エリオがデザートの果物にフォークを突き刺す。
何気ない動作でそれを茜に渡す。
「ハンターとして郵便屋として、いろんな場所でいろんな人に逢って……世界って広いんだなって再認識したよ」
「うんうん。そうだよね」
「それに今凄く楽しいし。郵便屋の仕事も良いものだよ、君みたいな可愛い子にも会えたわけだし」
爽やかな表情で腕を茜へと向けた。
「良かったら、一息入れに一緒にいかない?」
「……さぁ、もう一頑張りしなくちゃ!」
愛想笑いを浮かべて茜が別の接客へと向かう。
茜が立ち去った後、カウンターにはこの店の閉店時間が記されたパンフレットが置かれていたのだった。
●五百枝春樹(ka6324)
澄んだ光が差し込み、春樹は長身を起こして窓から見える朝陽をぼんやりと眺めた。眩しい。
「……依頼……取材……微妙に、気が重い……」
それでもなんとかベットから起き上がる。
その時、早くも部屋の隅に取材パルムが居る事を見つけた。
もう既に撮られているようだ。妙な恥ずかしさを感じ、薄手のシャツを羽織る。
「プライバシーは……守られるという……認識……で、良いはずですよね?」
パルムに一言告げてから軽い食事を摂る。
朝一で修練場で訓練する為だ。
修練場は朝早いというのもあり、チラホラと人が居る程度だった。
遠くに丸い的が設置してある弓の訓練場所へ到着すると静かに弓を構えた。
「……」
矢を番えず、弓の弦だけを何度も何度も引き絞っては離すという動作を繰り返した。
いわば、素引きである。基礎訓練ではあるが、春樹にとっては単なる基礎訓練で終わらない。
「矢を番えていると……いつもの自分じゃない気がするから」
静かに練習を繰り返しながら、精神統一する春樹は説明するように取材パルムに言った。
これが、彼なりの精神集中方法なのだ。
●未来への路を往く
アムユス(ka6465)が自宅の戸をしっかりと閉める。掃除や洗濯、布団干しは終わった。
これから、出来そうな依頼が今日はあるのか、ハンターオフィスに確認に行く所だ。
ふと、見上げた空には朝の日差しが眩しい。小鳥達が楽しそうに歌っていた。
「お婆ちゃん……」
この早朝の雰囲気が、どことなく、“あの時”を感じさせていた。
紫色の空と冷たい早朝の澄んだ空気の中、お婆ちゃんが亡くなった時の事、そして、託された遺言の事。
(今は何でもこなせる様に、もっともっと経験を積まないと)
大事にしているオオカミのお面を見つめ――姿勢を真っ直ぐ正す。
そして、握った右手を静かに、力強く、胸の中心にそっと置く。目を瞑って頭を僅かに下げて、わずかな間。
「いってきます」
と声を発する。
頭を上げるとゆっくりと目を見開き、踵を返してハンターオフィスに向かって歩き出す。
きっと今日も何か依頼があるはず。自分に出来る事があるはず。
彼は今日もおっとりとしつつ淡々とした日を過ごすのだろう。
未来へと進む為に。
おしまい。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/10/04 07:31:30 |