ゲスト
(ka0000)
狂骨の泉
マスター:湖欄黒江

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/09/23 22:00
- 完成日
- 2014/09/27 11:39
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
あの土地に触れてはならない。
ディミトリ翁は再三、息子のアルマンにそう告げていたのだが、
現村長であるアルマンは、歳若く旧弊な言い伝えなど聞く耳持たない男たちを駆り集めて、
とうとう村の北側の野原に新しい井戸を掘り始めてしまった。
そのことを咎めるように、夕食の間じゅうじっと息子を睨む翁に対して、
「親父は不満なんだろうけどさ。雇った職人もあそこなら間違いないって、お墨つきなんだぜ。
村をこのまま失いたくないだろ? だったらもうギリギリってとこだ」
フォークとナイフを手にしたまま、アルマンは身振りをする。
村で今まで使われていた井戸が、どうやら涸れ始めたらしい。
そのことが分かるとアルマンはすぐさま街から井戸掘り職人を呼び、村の周辺を手当たり次第に調べさせた。
川から遠いこの村が今まで独り立ちしてやっていけていたのも、村の真ん中に水量の豊富な井戸があってのこと。
もし、このまま井戸の水が涸れてしまえば、あっという間に村の暮らしは成り立たなくなり、川に近い隣村――と言っても10キロ以上は離れている――の世話になるしかない。
全員が受け入れてもらえるとは限らないし、仮に移住が上手く進んだとしても、暮らし向きを今ほどに立て直すには大変な時間がかかる。若い者はまだ良いが……。
「この村に根つきのご老人たちはどうするんだ? 村がなくなっちまったら……。
俺は村長だし、村のことを考えて動いてくれてる若い奴らも居るんだ。
このまま手をこまねいてる訳には行かないんだよ。何かやらなくちゃ」
父親を説得、というよりは威圧するように、アルマンは身を乗り出して喋り出す。
周囲の家族は、ふたりのやり取りを息を潜めてうかがっている。
食事の手は、もう完全に止まってしまった。ディミトリ翁は鋭い目を息子に据えたまま、
「……例えそうだとしても、あの場所はいかん。
お前も知っておろうが。あの場所はかつて巨人たちの墓地……」
「ああ知ってるよ耳にタコが出来るくらい聞かされてたさガキの頃から。
あそこは昔ジャイアントどもの墓地で、祟りがあるから何も建てるな、ってか。
もしその言い伝えが本当だとしても、だ。
何百年も前に死んだ連中に、生きてる俺たちが気遣いしてられる状況じゃないぜ」
父の繰り言を掻き消そうと、なおもまくし立てるアルマン。
彼には父親を論破することで、どうにか掻き消したい不安があった。
井戸をある深さまで掘ったとき、白っぽい土の中から現れた大きな骨。
村の墓守りに尋ねたところ、人間の大腿骨に似ているがこんな大きいものは初めてだ、との答えが返ってきた。
恐らくはジャイアントの遺骨。言い伝えは本当だったようだが、だからと言って今更作業は止められない。
新しい井戸が無事使えるようになれば、後で慰霊碑のひとつも建てたって良いが、今はとにかく井戸が最優先だ。
「井戸は掘り始めちまった。しかも十中八九当たりだ。
今から井戸を潰したら、もう村には見込みなしって思われて、金のある連中から先に夜逃げが始まる。
最後に残されるのは行き場のない貧乏人だけだ。そいつらはどうすりゃ良い? 人の命がかかってるんだ……」
その時だった。どん、と大きな音がしたかと思うと、
村長宅の裏、例の野原の方角から、微かな水音が聴こえ出す。
●
野原にはアルマンの他にも、近くに住む井戸掘りの作業員たちが集まっていた。
彼らが見上げる先には、掘りかけだった井戸から勢い良く吹き上がる白い水柱。
降り注ぐ飛沫を浴びながら井戸の前まで行き、アルマンは振り返ると会心の笑みで、
「何だこりゃ……すごい、水が出たぞ! 当たりだ! 皆、これで村は――」
アルマンの背後の井戸から、水ではない何か白い影がぬっ、と飛び出した。
白い手、いや、白い骨。
5本の指が揃った人間の手の骨と見えたが、人間のものにしてはそれは些か大き過ぎて――
骨はさっと動くと、手の甲の側でアルマンを叩いた。アルマンの身体が弾き飛ばされる。
慌てて駆け寄る男たちの眼前で、井戸から骨の全身がずるずると抜け出てくる。
身長3、4メートルはあろうかという、巨人の全身骨格。
ぽっかりと空いた髑髏の眼窩には、鬼火のような青白い炎が揺らめいている。
「巨人――」
巨人のスケルトンは顎を開いて声なき咆哮を上げると、居並ぶ村人たちへ襲いかかる。
●
「半島西部のピュイドブラン村にて、『巨人のスケルトン』が現れたという報告がありました。
村人たちは全員が隣村に避難していますが、スケルトンに襲われた負傷者も数名出ています。
ピュイドブラン村は、スケルトンの打倒による村の安全確保を依頼しました。
証言によると、村の北側で掘り進めていた井戸から水の噴出と共に、
計3体の大型のスケルトンが出現。村人や村の家屋に攻撃を加えました。
地元の言い伝えでは、井戸の掘られた土地はかつてジャイアントの墓地であり、
祟りを恐れた代々の村人たちはその土地を空地のまま放っておいたそうです。
スケルトンが実際に言い伝えのジャイアントたちの亡骸なのかは分かりませんが、
ジャイアントの遺骨が長い時間を経る内に、何らかの理由で雑魔化した可能性はあります。
今のところ彼らは3体とも、北の野原を含む村の敷地内に留まっています。
負傷者たちの言では、逃亡の際、3体が連携して相手を追い詰めるような動きも見られた、とのことで、
スケルトンたちは互いにコミュニケーション、あるいは知覚の共有を行っているとも考えられます。
この依頼を受けられるハンターの方は、所定の書類にサインの後、
各々準備が整い次第、現場であるピュイドブラン村へ向かって下さい」
あの土地に触れてはならない。
ディミトリ翁は再三、息子のアルマンにそう告げていたのだが、
現村長であるアルマンは、歳若く旧弊な言い伝えなど聞く耳持たない男たちを駆り集めて、
とうとう村の北側の野原に新しい井戸を掘り始めてしまった。
そのことを咎めるように、夕食の間じゅうじっと息子を睨む翁に対して、
「親父は不満なんだろうけどさ。雇った職人もあそこなら間違いないって、お墨つきなんだぜ。
村をこのまま失いたくないだろ? だったらもうギリギリってとこだ」
フォークとナイフを手にしたまま、アルマンは身振りをする。
村で今まで使われていた井戸が、どうやら涸れ始めたらしい。
そのことが分かるとアルマンはすぐさま街から井戸掘り職人を呼び、村の周辺を手当たり次第に調べさせた。
川から遠いこの村が今まで独り立ちしてやっていけていたのも、村の真ん中に水量の豊富な井戸があってのこと。
もし、このまま井戸の水が涸れてしまえば、あっという間に村の暮らしは成り立たなくなり、川に近い隣村――と言っても10キロ以上は離れている――の世話になるしかない。
全員が受け入れてもらえるとは限らないし、仮に移住が上手く進んだとしても、暮らし向きを今ほどに立て直すには大変な時間がかかる。若い者はまだ良いが……。
「この村に根つきのご老人たちはどうするんだ? 村がなくなっちまったら……。
俺は村長だし、村のことを考えて動いてくれてる若い奴らも居るんだ。
このまま手をこまねいてる訳には行かないんだよ。何かやらなくちゃ」
父親を説得、というよりは威圧するように、アルマンは身を乗り出して喋り出す。
周囲の家族は、ふたりのやり取りを息を潜めてうかがっている。
食事の手は、もう完全に止まってしまった。ディミトリ翁は鋭い目を息子に据えたまま、
「……例えそうだとしても、あの場所はいかん。
お前も知っておろうが。あの場所はかつて巨人たちの墓地……」
「ああ知ってるよ耳にタコが出来るくらい聞かされてたさガキの頃から。
あそこは昔ジャイアントどもの墓地で、祟りがあるから何も建てるな、ってか。
もしその言い伝えが本当だとしても、だ。
何百年も前に死んだ連中に、生きてる俺たちが気遣いしてられる状況じゃないぜ」
父の繰り言を掻き消そうと、なおもまくし立てるアルマン。
彼には父親を論破することで、どうにか掻き消したい不安があった。
井戸をある深さまで掘ったとき、白っぽい土の中から現れた大きな骨。
村の墓守りに尋ねたところ、人間の大腿骨に似ているがこんな大きいものは初めてだ、との答えが返ってきた。
恐らくはジャイアントの遺骨。言い伝えは本当だったようだが、だからと言って今更作業は止められない。
新しい井戸が無事使えるようになれば、後で慰霊碑のひとつも建てたって良いが、今はとにかく井戸が最優先だ。
「井戸は掘り始めちまった。しかも十中八九当たりだ。
今から井戸を潰したら、もう村には見込みなしって思われて、金のある連中から先に夜逃げが始まる。
最後に残されるのは行き場のない貧乏人だけだ。そいつらはどうすりゃ良い? 人の命がかかってるんだ……」
その時だった。どん、と大きな音がしたかと思うと、
村長宅の裏、例の野原の方角から、微かな水音が聴こえ出す。
●
野原にはアルマンの他にも、近くに住む井戸掘りの作業員たちが集まっていた。
彼らが見上げる先には、掘りかけだった井戸から勢い良く吹き上がる白い水柱。
降り注ぐ飛沫を浴びながら井戸の前まで行き、アルマンは振り返ると会心の笑みで、
「何だこりゃ……すごい、水が出たぞ! 当たりだ! 皆、これで村は――」
アルマンの背後の井戸から、水ではない何か白い影がぬっ、と飛び出した。
白い手、いや、白い骨。
5本の指が揃った人間の手の骨と見えたが、人間のものにしてはそれは些か大き過ぎて――
骨はさっと動くと、手の甲の側でアルマンを叩いた。アルマンの身体が弾き飛ばされる。
慌てて駆け寄る男たちの眼前で、井戸から骨の全身がずるずると抜け出てくる。
身長3、4メートルはあろうかという、巨人の全身骨格。
ぽっかりと空いた髑髏の眼窩には、鬼火のような青白い炎が揺らめいている。
「巨人――」
巨人のスケルトンは顎を開いて声なき咆哮を上げると、居並ぶ村人たちへ襲いかかる。
●
「半島西部のピュイドブラン村にて、『巨人のスケルトン』が現れたという報告がありました。
村人たちは全員が隣村に避難していますが、スケルトンに襲われた負傷者も数名出ています。
ピュイドブラン村は、スケルトンの打倒による村の安全確保を依頼しました。
証言によると、村の北側で掘り進めていた井戸から水の噴出と共に、
計3体の大型のスケルトンが出現。村人や村の家屋に攻撃を加えました。
地元の言い伝えでは、井戸の掘られた土地はかつてジャイアントの墓地であり、
祟りを恐れた代々の村人たちはその土地を空地のまま放っておいたそうです。
スケルトンが実際に言い伝えのジャイアントたちの亡骸なのかは分かりませんが、
ジャイアントの遺骨が長い時間を経る内に、何らかの理由で雑魔化した可能性はあります。
今のところ彼らは3体とも、北の野原を含む村の敷地内に留まっています。
負傷者たちの言では、逃亡の際、3体が連携して相手を追い詰めるような動きも見られた、とのことで、
スケルトンたちは互いにコミュニケーション、あるいは知覚の共有を行っているとも考えられます。
この依頼を受けられるハンターの方は、所定の書類にサインの後、
各々準備が整い次第、現場であるピュイドブラン村へ向かって下さい」
リプレイ本文
●
夜闇に紛れての潜入ではあったがしかし、思いの外スケルトンたちの勘が良かった。
青白く燃える双眸が不意に、物陰から様子をうかがっていた鳴神 真吾(ka2626)へ向く。
(気づかれた!? マジかよ!)
身長約4メートル、大型スケルトンの威容が眼前へ迫ってきた。
真吾の後方には主力4人が待機中だというのに――
「アバンで1戦闘。これも特撮ヒーローのお約束か」
『え? 何すか?』
ぼやく真吾へ、トランシーバー越しにスフィカ・ゲーヴェルツ(ka3030)が尋ねる。
「ゴメン、バレた。死ぬ気で食い止めるから、そっち頼んます」
真吾はそれだけ言い残すと、観念して物陰から姿を現す。
声なき叫びを上げて震えるスケルトンに対し、深呼吸ひとつしてから、見栄を切った。
「蒼き故郷を……この紅き大地を! 貴様らヴォイドの好きにはさせん! 機導特査ぁ! ガイアァァァァドッ!」
敵の気を引く為、いつも以上に気合の入った前口上。
マテリアルの閃光が真吾の身体を包み込み、彼を『ガイアード』へと変身させる。
●
「……と、言う状況っす」
スフィカが皆に教えるまでもなく、真吾の怒声は既に村中に響き渡っていた。
スノゥ(ka1519)がかくん、と首を傾けて、
「アレは、真吾さんの呪文か何かですかぁ?」
「ええ多分そうっす。
ヴァンシュトールさんのほうとは距離があるけど、鳴神さんはすぐ近くっすからね~。うちらも動かないと……」
「こっちもバレちゃった」
ルア・パーシアーナ(ka0355)。
主力部隊の先鋒として不意を打つつもりだったが、こちらも予想外にスケルトンの知覚が鋭敏だった。
万が一真吾が突破されれば、前後で挟撃を受ける恰好になる。
「どうせ仕掛けなきゃいけない頃合いよ! ガイアードの為にも急がないと!」
「ガイアードって何ですか?」
「……知らない、知らないけどきっと、彼の信じてる神様の名前じゃないかしら!」
ルアの質問にセリス・アルマーズ(ka1079)が適当な答えを返した。
その間も、主力部隊を発見したスケルトンは放置された屋台や荷車を蹴散らしながら突進してくる。
「セリスさんはエクラの聖導士なんですよね? 良いんですか他の神様に協力しても」
「如何なる神の名の下にあろうと、歪虚打倒は万人の悲願! 行こうルア君!」
前衛のルアとセリスが、スケルトンを仕留めるべく前に出た。
「うひゃー! でっかいっすねぇ、カックイー! こいつぁ倒しがいがあるっす!」
呼応して銃を構えるスフィカを見て、支援魔法の準備をしつつ、スノゥが呟く。
「……エクラのシスターさんって、皆さん武闘派なんですねぇ」
●
やる気充分なのは良いんだけど、と思いつつ、ヴァンシュトール・H・R(ka0169)は弓に矢をつがえた。
(なし崩しに状況が悪くならないよう、僕も仕事をしないとね)
彼の見張っていた3体目のスケルトンは、踵を返して村の中心部へ行こうとする。
その後頭部を狙って射る。牽制射撃に気を取られて、スケルトンは振り返った。
「さっ、鬼ごっこの始まりだ。鬼さんならぬ、骨さんこちら、ってね」
村の外に予め仕掛けておいたロープ罠。出来ればそこまで連れ出したいが、距離がある。
動作は必ずしも俊敏ではないが、歩幅の広いスケルトンは意外と速く歩く。
ヴァンシュトールは慎重に間合いを測りつつ、後退した。
●
真吾の側のスケルトンが突然、かちかちと歯を鳴らしたかと思うと、がらんどうの口腔から青い炎を吐き出した。
火炎放射は、足止めを確実にしたいと真っ向突っ込んだ真吾を直撃する。
(……まだだ! まだこの程度ッ)
炎にまかれながらも、真吾は前転で敵の足元へ飛び込む。踏みつけ攻撃――咄嗟にかわした。
「マテリアルセイバー、スタンモード!」
真吾のワンドに接続されたアルケミストデバイスが展開し、電光を帯びる。
(後ろの皆は、大丈夫だろうか?)
スノゥの放った防性強化の術が、ルアとセリスに不可視の鎧をまとわせる。
セリスもルアに祝福の法術・ホーリーセイバーを投げかけ、光の精霊力を与えると、
「切り込み隊長は任せた! 奴の目を眩ませてやって!」
「はい!」
ルアが先んじてスケルトンの間近まで到達し、荷車を盾にする。
スケルトンの前蹴りがその車を粉々に吹き飛ばした。巨大な振り子をぶつけるような、凄まじい蹴り。
しかし――
「チビだからって、人間サマはそうそう簡単やられないっすよー!」
荷車に隠れていたはずのルアを見失ったスケルトンは、スフィカの魔導銃による射撃を食らって怯んだ。
その隙にルアはスケルトンの背後へ抜けると、家屋の壁を使って三角飛びを決める。
空中から、頸椎を狙った飛び足刀。スケルトンは素早く反応して、大木の枝のような腕を振るう。
「よっ……!」
水平に振り出された腕へ飛びつく。
ルアは空中ブランコの要領で回転を決めると、通りの反対側にある平屋の屋根へそのまま飛び移った。
彼女を追うスケルトンの視線は左右に振られ、狙いが定まらない。
ようやくルアの動きを捉えたときには、屋根から跳んでのドロップキックで膝を折られていた。
尻もちをついたスケルトンの前で着地を決めるなり、ルアは追撃に走る。
フィストガードで固めた拳で、靴の爪先で、飛燕の連撃をスケルトンに叩き込む。
反撃のパンチを退いてかわしたところで、セリスが入れ替わった。
「エクラの光は我らと共に!」
セリスの剣がマテリアルの光を強く帯びる。
スノゥの支援、セリス自身の法術、それだけではない。
彼女を知り、信頼する誰かの想いを受けて光り輝く刃が、スケルトンの上半身を袈裟がけに両断した。
再生は到底間に合わない。巨人の骨は見るみる内に茶色く変色して砕け散り、塵と帰す。
セリスは剣を振り抜くと残心を取りつつ、
「……成敗!」
●
「1体倒した!? 助かるよ。こっちはまだちょっと立て込んで――」
トランシーバー片手に走るヴァンシュトールの踵を、青い火炎が舐める。
スケルトンは順調に引きつけられているが、適切な間合いを保つのが難しい。
幸い敵の狙いは甘く、これまでは傷を負わずに逃げて来られたが、
(こっちも適度に撃って、気を引かないと)
トランシーバーを仕舞うと、向き直って弓を構え反撃した。
マテリアルの込められた鏃が敵を傷つけるも、多少のヒビは再生能力によってすぐに塞がれてしまう。
(スケルトンは身体の隙間が大きすぎて、狙い難いんだよね)
主力部隊がもう1体を片づけるまで、彼の仕事は続く。
「ここは通さん……!」
ガイアード――真吾のワンドから放たれる雷光が、スケルトンに絡みついた。
魔法の電撃は、骨格だけの雑魔にも充分に効果を発揮した。スケルトンの四肢が痙攣する。
やがて、後方からスフィカとスノゥの射撃が追い打ちをかける。
真吾は勝利を確信すると、スーツアクターとして身に染みついたガイアードの仕草で、ワンドを振りかぶった。
「正義の為……人々の笑顔を守る為!」
「滅せよ、雑魔!」
真吾が隣に一瞬目をやると、そこには彼と同じ構えを取ったセリスの姿が。
(ゲスト出演のヒーローとツープラトンで〆)
真吾は小さく頷き、気合一閃、ワンドに機導剣の光の刃をまとわせて、セリスと同時に斬りかかる。
●
「よっと」
ヴァンシュトールは放り出されたままの水桶を踏み越えつつ、スケルトンとの距離を空けるべく路地に入った。
桶の他にもあちこち転がる雑多ながらくたが障害物となって、スケルトンの足を多少は鈍らせてくれるはずだ。
それでも、牽制にも怯まず真っ直ぐ向かってくる敵を、無事なまま村の外へ誘き出すのは難しいか。
「おわっ」
逃げるヴァンシュトールの頭上を何かがかすめた。スケルトンががらくたを蹴って飛ばしたのだろう。
路地を抜けて、広い道を一気に走る。ちらと振り返ると、スケルトンもまだ追ってきていた。
弓に矢をつがえ、念押しの射撃をする。矢は頭蓋に命中したが、あまり堪えている様子はない。
敵の火炎放射――ぎりぎり射程外。また村外れを目指して、一目散に逃げ出した。
『あ、あー。ヴァンシュトールさん、今どこっすか?』
トランシーバーが、スフィカの声を少しノイズ混じりで送ってきた。
受話器を取るのが煩わしく、そのままでも聴こえるように大声を張り上げて答えた。
「えー、南方の通りを只今逃走中! 僕は無傷だが敵もほぼ無傷だ、僕ひとりで倒すのはやっぱり厳しいかな!」
『こっちは2体目、仕留めました! 今から救援行きますんで、もーちょい頑張って下さい』
「はいはい、頑張りますよー!」
さて、どうしたものか。
主力部隊が急行している今、下手に敵を連れ回すよりここで待たせたほうが話が早いかも知れない。
しかし仲間たちが間に合わなくて、ひとり火だるまになるのもまずい。
考える時間が欲しい――と、大きな石造りの井戸だ。高さもあるし、掩体に使えそうだ。
井戸の後ろに隠れて、そっと様子をうかがう。スケルトンは依然こちらを追ってくるが、距離はまだある。
綱を手繰って、吊るされていた釣瓶を井戸の中へ下ろした。
水分補給も出来て一石二鳥だ、とヴァンシュトールは考える。
スケルトンに追いつかれる寸前、彼は釣瓶を戻す手をどうにか間に合わせた。
走り通しで火照った顔にかかる勢いで、大きく開けた口へ水を注ぐ。
(うっ)
釣瓶を放り出して再び逃げながら、ヴァンシュトールは息を吐くたび、口の中に残った泥の匂いを感じた。
あの井戸はサイズからして村の第一の生活用水らしいが、水に土が混じっている。涸れかけている。
唾を吐き、口を拭った。
(雑魔に汚染された水でなきゃ良いけど)
●
「ヴァンシュトールさんがいるのがあっちなら、近道はこっちだよ!」
立体感覚を持つルアの先導で、4人は背の低い建物の屋根を越えて最短距離を進む。
「結構大きい村ですね、ここは」
筋力はないが小柄で身軽なスノゥは、2番手についている。
スフィカも銃をベルトで肩に吊り、自由な両手で易々とよじ登る。
一方装備の重いセリスと、ひとりでスケルトンの足止めをしたばかりの真吾は少し辛そうだ。
先に屋根へ登り終えたセリスが、真吾の手を掴んで引っ張り上げつつ、
「こんなときに何だけど、その鎧、カッコいいね!」
「あ、ありがとう……」
「ところでガイアードって、誰?」
「それは私の名前だ。世界の平和を守る、機導特査……」
「あれ、君、本名は鳴神真吾君じゃなかったっけ? 洗礼名かしら?」
「……そこは話し出すと長くなるので、ちょっと置いといてくれ」
「見つけました」
スノゥがスケルトンを発見する。
ヴァンシュトールはといえば、井戸から汲んだ水を飲むなり南に向けて走り出した。
「おしゃ。スノゥさん、ふたりで一気にぶっ放して、反撃の隙を与えずに仕留めるっすよ」
「了解、なのです」
スフィカが銃を構え、スノゥも機導砲の発射に意識を集中させる。
他3人は、スケルトンがこちらに接近し次第いつでも飛び出せるよう構えている。
「おらぁ、そこのノッポのガリガリ亡者!
今からテメェをコナゴナの骨粉にして、畑に撒いてやっからな! 覚悟しろォ!」
スフィカが魔導銃を連射する。
併せて、敵に的を絞らせないよう別の屋根から機導砲を発射しつつ、スノゥは思った。
(雑魔の骨って、肥料にはならなそうですねぇ)
弾丸がスケルトンを打ち据える。スノゥの機導砲が脚を焼き切り、転倒させる。
髑髏から火炎を吐こうとするも、スフィカの射撃が顔を叩いて、思うような向きに向かせない。
「このまま落とせるかな? あーしかし、骨ばっかのスカスカで弾が抜けちまうなぁ」
(それは僕も思った)
逃走を止めたヴァンシュトールが矢を射って、敵の頭蓋を打ち砕く。
頭部を半分がた失ってなお、スケルトンは両手で這い回っている。
「例え雑魔でも、こうなると些か哀れに感じるわね」
と、セリスが剣を片手に、屋根から降りていこうとする。
「同感だ」
「早く楽にしてあげないと……」
真吾とルアもそれに続こうとした。ところが、スノゥがさっと手を振って彼らを制止する。
「大丈夫。私たちでもう終いにしますから」
「リローディング! スノゥさん頼むっす!」
スフィカが弾の切れた魔導銃を再装填する。その間、射撃はスノゥひとりが引き受ける。
最早虫の息となったスケルトンへ手をかざすと、とどめの機導砲を放った。
白熱した光線が、残り僅かな骨格をばらばらに吹き飛ばしてしまう。
衝撃で地面の土埃が巻き上げられ、辺りは霞がかったようになる。
土埃が落ち着いた頃、雑魔は既に塵と消え、後には何も残っていなかった。
●
「ふむふむ。つまり君は、『あっち側』じゃ役者をやってたんだね」
「そういうこと。仕事は一所懸命やってたつもりだけど、あくまで芝居だから……
俺は単なる『ヒーロースーツの中の人』で。
それがまぁ、こっちに来て色々あって、本当のヒーローみたいな力を手に入れて……」
「晴れて本物のガイアードになった、という訳ね」
「その点は、正直まだ自信ないけど」
真吾の説明で、セリスとルアはガイアードが何者なのか合点がいったようだ。
彼女はガイアードにいたく感心し、教会にも変身ヒーローが欲しいなどと言い出す。
スケルトン3体を無事討伐し、村人たちの避難先へ報告に戻る道の途中だった。
「セリスさんご自身でエクラ教のヒーロー……ヒロインか、を目指してみても良いんじゃないかなー」
「成る程! 真吾君に色々教わって、私もカッコイイスーツ作るか!」
少し離れて後ろから、ヴァンシュトールとスノゥ、スフィカが続く。
「村の井戸はもう涸れかけていた。
水量はまだ多少あるように見えたけど、掬ってみると泥が混じってた。いずれ完全に水が尽きるよ」
「世知辛い話っすねぇ。巨人スケルトンと一緒に出てきた水がダメなら、結局村はアウトってことになりますわ」
「専門家の人を呼んで、汚染を調べて、新しい井戸に使えたら……って感じになるでしょうか~」
「でも、今回の騒ぎで言い伝えが信憑性を得た以上、例え安全と言われても素直に使う気になるかどうか」
ヴァンシュトールたちの会話に、セリスとルアが振り返る。
「金をケチらず、ちゃんとした僧侶を呼んでお祓いすれば、今回ほど酷いことはしばらく起きないんじゃないかな。
雑魔3体相手に大立ち回りをやって、その刺激で起きてこないんだから。私は大丈夫、だと思う」
「眠っていたところを、井戸堀りで叩き起こされちゃったのかな……」
ふと、真吾も振り向いて肩をすぼめ、
「気の毒っちゃ気の毒だけど、仕方ない。今生きてる人たちが優先だよ。
『大きな』お友達の前に、まずは良い子のみんなにサービスしなきゃ」
「え?」
「あ、や、言ってみただけ……」
夜闇に紛れての潜入ではあったがしかし、思いの外スケルトンたちの勘が良かった。
青白く燃える双眸が不意に、物陰から様子をうかがっていた鳴神 真吾(ka2626)へ向く。
(気づかれた!? マジかよ!)
身長約4メートル、大型スケルトンの威容が眼前へ迫ってきた。
真吾の後方には主力4人が待機中だというのに――
「アバンで1戦闘。これも特撮ヒーローのお約束か」
『え? 何すか?』
ぼやく真吾へ、トランシーバー越しにスフィカ・ゲーヴェルツ(ka3030)が尋ねる。
「ゴメン、バレた。死ぬ気で食い止めるから、そっち頼んます」
真吾はそれだけ言い残すと、観念して物陰から姿を現す。
声なき叫びを上げて震えるスケルトンに対し、深呼吸ひとつしてから、見栄を切った。
「蒼き故郷を……この紅き大地を! 貴様らヴォイドの好きにはさせん! 機導特査ぁ! ガイアァァァァドッ!」
敵の気を引く為、いつも以上に気合の入った前口上。
マテリアルの閃光が真吾の身体を包み込み、彼を『ガイアード』へと変身させる。
●
「……と、言う状況っす」
スフィカが皆に教えるまでもなく、真吾の怒声は既に村中に響き渡っていた。
スノゥ(ka1519)がかくん、と首を傾けて、
「アレは、真吾さんの呪文か何かですかぁ?」
「ええ多分そうっす。
ヴァンシュトールさんのほうとは距離があるけど、鳴神さんはすぐ近くっすからね~。うちらも動かないと……」
「こっちもバレちゃった」
ルア・パーシアーナ(ka0355)。
主力部隊の先鋒として不意を打つつもりだったが、こちらも予想外にスケルトンの知覚が鋭敏だった。
万が一真吾が突破されれば、前後で挟撃を受ける恰好になる。
「どうせ仕掛けなきゃいけない頃合いよ! ガイアードの為にも急がないと!」
「ガイアードって何ですか?」
「……知らない、知らないけどきっと、彼の信じてる神様の名前じゃないかしら!」
ルアの質問にセリス・アルマーズ(ka1079)が適当な答えを返した。
その間も、主力部隊を発見したスケルトンは放置された屋台や荷車を蹴散らしながら突進してくる。
「セリスさんはエクラの聖導士なんですよね? 良いんですか他の神様に協力しても」
「如何なる神の名の下にあろうと、歪虚打倒は万人の悲願! 行こうルア君!」
前衛のルアとセリスが、スケルトンを仕留めるべく前に出た。
「うひゃー! でっかいっすねぇ、カックイー! こいつぁ倒しがいがあるっす!」
呼応して銃を構えるスフィカを見て、支援魔法の準備をしつつ、スノゥが呟く。
「……エクラのシスターさんって、皆さん武闘派なんですねぇ」
●
やる気充分なのは良いんだけど、と思いつつ、ヴァンシュトール・H・R(ka0169)は弓に矢をつがえた。
(なし崩しに状況が悪くならないよう、僕も仕事をしないとね)
彼の見張っていた3体目のスケルトンは、踵を返して村の中心部へ行こうとする。
その後頭部を狙って射る。牽制射撃に気を取られて、スケルトンは振り返った。
「さっ、鬼ごっこの始まりだ。鬼さんならぬ、骨さんこちら、ってね」
村の外に予め仕掛けておいたロープ罠。出来ればそこまで連れ出したいが、距離がある。
動作は必ずしも俊敏ではないが、歩幅の広いスケルトンは意外と速く歩く。
ヴァンシュトールは慎重に間合いを測りつつ、後退した。
●
真吾の側のスケルトンが突然、かちかちと歯を鳴らしたかと思うと、がらんどうの口腔から青い炎を吐き出した。
火炎放射は、足止めを確実にしたいと真っ向突っ込んだ真吾を直撃する。
(……まだだ! まだこの程度ッ)
炎にまかれながらも、真吾は前転で敵の足元へ飛び込む。踏みつけ攻撃――咄嗟にかわした。
「マテリアルセイバー、スタンモード!」
真吾のワンドに接続されたアルケミストデバイスが展開し、電光を帯びる。
(後ろの皆は、大丈夫だろうか?)
スノゥの放った防性強化の術が、ルアとセリスに不可視の鎧をまとわせる。
セリスもルアに祝福の法術・ホーリーセイバーを投げかけ、光の精霊力を与えると、
「切り込み隊長は任せた! 奴の目を眩ませてやって!」
「はい!」
ルアが先んじてスケルトンの間近まで到達し、荷車を盾にする。
スケルトンの前蹴りがその車を粉々に吹き飛ばした。巨大な振り子をぶつけるような、凄まじい蹴り。
しかし――
「チビだからって、人間サマはそうそう簡単やられないっすよー!」
荷車に隠れていたはずのルアを見失ったスケルトンは、スフィカの魔導銃による射撃を食らって怯んだ。
その隙にルアはスケルトンの背後へ抜けると、家屋の壁を使って三角飛びを決める。
空中から、頸椎を狙った飛び足刀。スケルトンは素早く反応して、大木の枝のような腕を振るう。
「よっ……!」
水平に振り出された腕へ飛びつく。
ルアは空中ブランコの要領で回転を決めると、通りの反対側にある平屋の屋根へそのまま飛び移った。
彼女を追うスケルトンの視線は左右に振られ、狙いが定まらない。
ようやくルアの動きを捉えたときには、屋根から跳んでのドロップキックで膝を折られていた。
尻もちをついたスケルトンの前で着地を決めるなり、ルアは追撃に走る。
フィストガードで固めた拳で、靴の爪先で、飛燕の連撃をスケルトンに叩き込む。
反撃のパンチを退いてかわしたところで、セリスが入れ替わった。
「エクラの光は我らと共に!」
セリスの剣がマテリアルの光を強く帯びる。
スノゥの支援、セリス自身の法術、それだけではない。
彼女を知り、信頼する誰かの想いを受けて光り輝く刃が、スケルトンの上半身を袈裟がけに両断した。
再生は到底間に合わない。巨人の骨は見るみる内に茶色く変色して砕け散り、塵と帰す。
セリスは剣を振り抜くと残心を取りつつ、
「……成敗!」
●
「1体倒した!? 助かるよ。こっちはまだちょっと立て込んで――」
トランシーバー片手に走るヴァンシュトールの踵を、青い火炎が舐める。
スケルトンは順調に引きつけられているが、適切な間合いを保つのが難しい。
幸い敵の狙いは甘く、これまでは傷を負わずに逃げて来られたが、
(こっちも適度に撃って、気を引かないと)
トランシーバーを仕舞うと、向き直って弓を構え反撃した。
マテリアルの込められた鏃が敵を傷つけるも、多少のヒビは再生能力によってすぐに塞がれてしまう。
(スケルトンは身体の隙間が大きすぎて、狙い難いんだよね)
主力部隊がもう1体を片づけるまで、彼の仕事は続く。
「ここは通さん……!」
ガイアード――真吾のワンドから放たれる雷光が、スケルトンに絡みついた。
魔法の電撃は、骨格だけの雑魔にも充分に効果を発揮した。スケルトンの四肢が痙攣する。
やがて、後方からスフィカとスノゥの射撃が追い打ちをかける。
真吾は勝利を確信すると、スーツアクターとして身に染みついたガイアードの仕草で、ワンドを振りかぶった。
「正義の為……人々の笑顔を守る為!」
「滅せよ、雑魔!」
真吾が隣に一瞬目をやると、そこには彼と同じ構えを取ったセリスの姿が。
(ゲスト出演のヒーローとツープラトンで〆)
真吾は小さく頷き、気合一閃、ワンドに機導剣の光の刃をまとわせて、セリスと同時に斬りかかる。
●
「よっと」
ヴァンシュトールは放り出されたままの水桶を踏み越えつつ、スケルトンとの距離を空けるべく路地に入った。
桶の他にもあちこち転がる雑多ながらくたが障害物となって、スケルトンの足を多少は鈍らせてくれるはずだ。
それでも、牽制にも怯まず真っ直ぐ向かってくる敵を、無事なまま村の外へ誘き出すのは難しいか。
「おわっ」
逃げるヴァンシュトールの頭上を何かがかすめた。スケルトンががらくたを蹴って飛ばしたのだろう。
路地を抜けて、広い道を一気に走る。ちらと振り返ると、スケルトンもまだ追ってきていた。
弓に矢をつがえ、念押しの射撃をする。矢は頭蓋に命中したが、あまり堪えている様子はない。
敵の火炎放射――ぎりぎり射程外。また村外れを目指して、一目散に逃げ出した。
『あ、あー。ヴァンシュトールさん、今どこっすか?』
トランシーバーが、スフィカの声を少しノイズ混じりで送ってきた。
受話器を取るのが煩わしく、そのままでも聴こえるように大声を張り上げて答えた。
「えー、南方の通りを只今逃走中! 僕は無傷だが敵もほぼ無傷だ、僕ひとりで倒すのはやっぱり厳しいかな!」
『こっちは2体目、仕留めました! 今から救援行きますんで、もーちょい頑張って下さい』
「はいはい、頑張りますよー!」
さて、どうしたものか。
主力部隊が急行している今、下手に敵を連れ回すよりここで待たせたほうが話が早いかも知れない。
しかし仲間たちが間に合わなくて、ひとり火だるまになるのもまずい。
考える時間が欲しい――と、大きな石造りの井戸だ。高さもあるし、掩体に使えそうだ。
井戸の後ろに隠れて、そっと様子をうかがう。スケルトンは依然こちらを追ってくるが、距離はまだある。
綱を手繰って、吊るされていた釣瓶を井戸の中へ下ろした。
水分補給も出来て一石二鳥だ、とヴァンシュトールは考える。
スケルトンに追いつかれる寸前、彼は釣瓶を戻す手をどうにか間に合わせた。
走り通しで火照った顔にかかる勢いで、大きく開けた口へ水を注ぐ。
(うっ)
釣瓶を放り出して再び逃げながら、ヴァンシュトールは息を吐くたび、口の中に残った泥の匂いを感じた。
あの井戸はサイズからして村の第一の生活用水らしいが、水に土が混じっている。涸れかけている。
唾を吐き、口を拭った。
(雑魔に汚染された水でなきゃ良いけど)
●
「ヴァンシュトールさんがいるのがあっちなら、近道はこっちだよ!」
立体感覚を持つルアの先導で、4人は背の低い建物の屋根を越えて最短距離を進む。
「結構大きい村ですね、ここは」
筋力はないが小柄で身軽なスノゥは、2番手についている。
スフィカも銃をベルトで肩に吊り、自由な両手で易々とよじ登る。
一方装備の重いセリスと、ひとりでスケルトンの足止めをしたばかりの真吾は少し辛そうだ。
先に屋根へ登り終えたセリスが、真吾の手を掴んで引っ張り上げつつ、
「こんなときに何だけど、その鎧、カッコいいね!」
「あ、ありがとう……」
「ところでガイアードって、誰?」
「それは私の名前だ。世界の平和を守る、機導特査……」
「あれ、君、本名は鳴神真吾君じゃなかったっけ? 洗礼名かしら?」
「……そこは話し出すと長くなるので、ちょっと置いといてくれ」
「見つけました」
スノゥがスケルトンを発見する。
ヴァンシュトールはといえば、井戸から汲んだ水を飲むなり南に向けて走り出した。
「おしゃ。スノゥさん、ふたりで一気にぶっ放して、反撃の隙を与えずに仕留めるっすよ」
「了解、なのです」
スフィカが銃を構え、スノゥも機導砲の発射に意識を集中させる。
他3人は、スケルトンがこちらに接近し次第いつでも飛び出せるよう構えている。
「おらぁ、そこのノッポのガリガリ亡者!
今からテメェをコナゴナの骨粉にして、畑に撒いてやっからな! 覚悟しろォ!」
スフィカが魔導銃を連射する。
併せて、敵に的を絞らせないよう別の屋根から機導砲を発射しつつ、スノゥは思った。
(雑魔の骨って、肥料にはならなそうですねぇ)
弾丸がスケルトンを打ち据える。スノゥの機導砲が脚を焼き切り、転倒させる。
髑髏から火炎を吐こうとするも、スフィカの射撃が顔を叩いて、思うような向きに向かせない。
「このまま落とせるかな? あーしかし、骨ばっかのスカスカで弾が抜けちまうなぁ」
(それは僕も思った)
逃走を止めたヴァンシュトールが矢を射って、敵の頭蓋を打ち砕く。
頭部を半分がた失ってなお、スケルトンは両手で這い回っている。
「例え雑魔でも、こうなると些か哀れに感じるわね」
と、セリスが剣を片手に、屋根から降りていこうとする。
「同感だ」
「早く楽にしてあげないと……」
真吾とルアもそれに続こうとした。ところが、スノゥがさっと手を振って彼らを制止する。
「大丈夫。私たちでもう終いにしますから」
「リローディング! スノゥさん頼むっす!」
スフィカが弾の切れた魔導銃を再装填する。その間、射撃はスノゥひとりが引き受ける。
最早虫の息となったスケルトンへ手をかざすと、とどめの機導砲を放った。
白熱した光線が、残り僅かな骨格をばらばらに吹き飛ばしてしまう。
衝撃で地面の土埃が巻き上げられ、辺りは霞がかったようになる。
土埃が落ち着いた頃、雑魔は既に塵と消え、後には何も残っていなかった。
●
「ふむふむ。つまり君は、『あっち側』じゃ役者をやってたんだね」
「そういうこと。仕事は一所懸命やってたつもりだけど、あくまで芝居だから……
俺は単なる『ヒーロースーツの中の人』で。
それがまぁ、こっちに来て色々あって、本当のヒーローみたいな力を手に入れて……」
「晴れて本物のガイアードになった、という訳ね」
「その点は、正直まだ自信ないけど」
真吾の説明で、セリスとルアはガイアードが何者なのか合点がいったようだ。
彼女はガイアードにいたく感心し、教会にも変身ヒーローが欲しいなどと言い出す。
スケルトン3体を無事討伐し、村人たちの避難先へ報告に戻る道の途中だった。
「セリスさんご自身でエクラ教のヒーロー……ヒロインか、を目指してみても良いんじゃないかなー」
「成る程! 真吾君に色々教わって、私もカッコイイスーツ作るか!」
少し離れて後ろから、ヴァンシュトールとスノゥ、スフィカが続く。
「村の井戸はもう涸れかけていた。
水量はまだ多少あるように見えたけど、掬ってみると泥が混じってた。いずれ完全に水が尽きるよ」
「世知辛い話っすねぇ。巨人スケルトンと一緒に出てきた水がダメなら、結局村はアウトってことになりますわ」
「専門家の人を呼んで、汚染を調べて、新しい井戸に使えたら……って感じになるでしょうか~」
「でも、今回の騒ぎで言い伝えが信憑性を得た以上、例え安全と言われても素直に使う気になるかどうか」
ヴァンシュトールたちの会話に、セリスとルアが振り返る。
「金をケチらず、ちゃんとした僧侶を呼んでお祓いすれば、今回ほど酷いことはしばらく起きないんじゃないかな。
雑魔3体相手に大立ち回りをやって、その刺激で起きてこないんだから。私は大丈夫、だと思う」
「眠っていたところを、井戸堀りで叩き起こされちゃったのかな……」
ふと、真吾も振り向いて肩をすぼめ、
「気の毒っちゃ気の毒だけど、仕方ない。今生きてる人たちが優先だよ。
『大きな』お友達の前に、まずは良い子のみんなにサービスしなきゃ」
「え?」
「あ、や、言ってみただけ……」
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
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面白かった! | 6人 |
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相談卓 鳴神 真吾(ka2626) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/09/22 22:45:04 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/09/18 22:38:48 |