ゲスト
(ka0000)
【蒼乱】同盟海域、海底神殿へ
マスター:大林さゆる

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/10/07 09:00
- 完成日
- 2016/10/14 02:55
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ハンターズソサエティ率いるクリムゾンウェスト連合軍が実施している「ヴォイドゲート探索作戦」。
魔術師協会広報室からの要請で、同盟の海軍も最新式の大型軍艦ルナルギャルド号で暗黒海域を進み、ハンターたちの活躍により、『人魚の島』へと辿り着くことができた。
島の南に位置する海底には神殿があり、その奥には『聖なる海の門』があると人魚の長老が教えてくれた。
だが、海底で活動するには『海涙石』というマテリアル鉱石が必要なことが判明した。海涙石は、人魚の島には、ほとんど残っていなかった。何故なら、ヴォイドや海賊たちに奪われてしまったからだ。
ハンターたちは自由都市同盟に戻り、各地にある海涙石を集めることにした。回収作業も終わり、ハンターたちはルナルギャルド号に乗って、人魚の島へと向かった。
●
全長500メートルの箱舟のような大型軍艦、ルナルギャルド号が人魚の島周辺にある入江に到着した。
大型軍艦のハッチが開き、小型船4隻が島へと上陸……海軍の兵士たちが、魔術師スコットの指示により自由都市同盟で回収した海涙石を木箱に入れて、島の南へと運ぶ。
スコットや海軍兵士たちの護衛として、マクシミリアン・ヴァイス(kz0003)とラキ(kz0002)も同行していた。
リアルブルー出身のハンター、水本 壮(みずもと・そう)は、ラキに説得されて、人魚の島へと来ていた。
「仮にゲートが見つかったとしても、本当に元の世界に戻れるのか疑問だな。俺は別に、今のままでも良いし」
楽観的な意見にも聞こえるが、壮はどちらかと言うと諦めかけていた。
「また、そういうこと言って。リアルブルーには、水本くんの家族がいるんでしょ?」
ラキが言うと、壮は眉を顰めた。
「つーか、俺ら転移者は、あっちの世界じゃ『死亡扱い』になってるんだぜ。捜索願いを出してはみたものの、自分の子供が『死亡』なんて聞いたら……たくっ、冗談じゃねぇよ」
壮は苛立っていた。
「それだよ! どうして、リアルブルーのお偉いさんは、転移者さんたちをそういう扱いにするの?」
ラキも憤慨していた。
「……何か、あちら側にも都合があるのだろう」
マクシミリアンは一見すると落ち着き払っていたが、内心は少し怒りに近い感情があった。
思わず言い返すラキ。
「勝手な都合で、転移者さんたちを死亡扱いって、きっと裏があるに違いないよ」
「……俺も、そうではないかと思っていたが……まあ、いずれにしろ、リアルブルーに帰ることができなければ、問い質すこともできんだろう」
マクシミリアンは、壮に向って言った。
「……そのためにも、ゲートを見つける。頭では分かってるっすよ。だけど、気持ちが追いつかねぇんだよ」
相変わらず、壮は不機嫌だった。
そんなことも気にせず、スコットは回収した海涙石の中から一つ取り出し、その淡い美しさに魅入っていた。
「この石には、不思議な力が詰まっているのかな……クアルダさんにも見てもらおう」
島の南に行くと、人魚の長老であるクアルダが、波打ち際で座っていた。
「あら、本当に来てくれたのね」
「海涙石を集めて、持ってきました」
スコットは、木箱に入っている海涙石をクアルダに見せた。
「まあ、こんなにたくさん……よく集められたわね」
「ハンターたちに協力してもらって、ヴォイドや海賊を退治してきたんだ。そしたら、案の定、ヤツらが持っていたから、それらをできるだけ回収したんだよ」
「私が見たところ、ほとんど本物ね。ちょっと別の石も混ざってるみたいだけど、これだけ海涙石があれば、海底にある神殿に入れるわよ」
クアルダは海涙石に何やら施すと、ハンターたちに手渡した。
「ハンター1人につき、5個の海涙石を貸すわね。これがあれば、海中で半日くらいは活動できるわよ。私が特別に施したものだから、効果が切れると消滅してしまうから、気を付けてね」
海涙石は紐で繋がれており、リアルブルー人ならストラップのようだと思うだろう。
紐と言っても、人魚の秘術によって作られたもので、効果が無くなると、海涙石だけでなく紐も消えるのだ。
魔術師協会広報室は、古来から伝わる秘術の研究も密かに行っていたが、人魚の秘術を知ることも、例外ではなかった。
「クアルダさんが施した海涙石は、ユニット……つまり、幻獣や機械系の乗り物にも効果があるのかな?」
スコットの問いに、クアルダは少し考えてから応えた。
「幻獣さんなら、ハンターが騎乗している状態なら海涙石の効果はあるはずよ。人型の乗り物は、噂で聞いたところでは、海涙石の効果で水中でも活動できるらしいわよ」
「機械系ユニットは、実際に試してみないと分からないってことかな」
スコットは疑問に思いつつも、勇気のあるハンターが海涙石を受け取り「だったら、やってみるよ」と言い、魔導型デュミナスに騎乗して海中に入ると、神殿の入口まで辿り着くことができた。
しばらく偵察した後、そのハンターは魔導型デュミナスに乗ったまま、上陸してきた。
「どうだった? ヴォイドは?」
ラキが尋ねると、ハンターは「神殿の内部は半漁人らしき集団と、鮫のようなヴォイドが4体ほど見えた」と教えてくれた。
「と言うことは、『聖なる海の門』まで辿り着くには、ヴォイドも退治する必要がありそうだね。あたしたちは、人魚さんがヴォイドに襲われないように、島で見回りしてるね」
ラキたちは島に残り、依頼を受けたハンターたちが海底神殿へ行くことになった。
果たして、ハンターたちは『聖なる海の門』を発見することができるのだろうか。
人類の行く末をかけた探索が、今まさに始まろうとしていた。
ハンターズソサエティ率いるクリムゾンウェスト連合軍が実施している「ヴォイドゲート探索作戦」。
魔術師協会広報室からの要請で、同盟の海軍も最新式の大型軍艦ルナルギャルド号で暗黒海域を進み、ハンターたちの活躍により、『人魚の島』へと辿り着くことができた。
島の南に位置する海底には神殿があり、その奥には『聖なる海の門』があると人魚の長老が教えてくれた。
だが、海底で活動するには『海涙石』というマテリアル鉱石が必要なことが判明した。海涙石は、人魚の島には、ほとんど残っていなかった。何故なら、ヴォイドや海賊たちに奪われてしまったからだ。
ハンターたちは自由都市同盟に戻り、各地にある海涙石を集めることにした。回収作業も終わり、ハンターたちはルナルギャルド号に乗って、人魚の島へと向かった。
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全長500メートルの箱舟のような大型軍艦、ルナルギャルド号が人魚の島周辺にある入江に到着した。
大型軍艦のハッチが開き、小型船4隻が島へと上陸……海軍の兵士たちが、魔術師スコットの指示により自由都市同盟で回収した海涙石を木箱に入れて、島の南へと運ぶ。
スコットや海軍兵士たちの護衛として、マクシミリアン・ヴァイス(kz0003)とラキ(kz0002)も同行していた。
リアルブルー出身のハンター、水本 壮(みずもと・そう)は、ラキに説得されて、人魚の島へと来ていた。
「仮にゲートが見つかったとしても、本当に元の世界に戻れるのか疑問だな。俺は別に、今のままでも良いし」
楽観的な意見にも聞こえるが、壮はどちらかと言うと諦めかけていた。
「また、そういうこと言って。リアルブルーには、水本くんの家族がいるんでしょ?」
ラキが言うと、壮は眉を顰めた。
「つーか、俺ら転移者は、あっちの世界じゃ『死亡扱い』になってるんだぜ。捜索願いを出してはみたものの、自分の子供が『死亡』なんて聞いたら……たくっ、冗談じゃねぇよ」
壮は苛立っていた。
「それだよ! どうして、リアルブルーのお偉いさんは、転移者さんたちをそういう扱いにするの?」
ラキも憤慨していた。
「……何か、あちら側にも都合があるのだろう」
マクシミリアンは一見すると落ち着き払っていたが、内心は少し怒りに近い感情があった。
思わず言い返すラキ。
「勝手な都合で、転移者さんたちを死亡扱いって、きっと裏があるに違いないよ」
「……俺も、そうではないかと思っていたが……まあ、いずれにしろ、リアルブルーに帰ることができなければ、問い質すこともできんだろう」
マクシミリアンは、壮に向って言った。
「……そのためにも、ゲートを見つける。頭では分かってるっすよ。だけど、気持ちが追いつかねぇんだよ」
相変わらず、壮は不機嫌だった。
そんなことも気にせず、スコットは回収した海涙石の中から一つ取り出し、その淡い美しさに魅入っていた。
「この石には、不思議な力が詰まっているのかな……クアルダさんにも見てもらおう」
島の南に行くと、人魚の長老であるクアルダが、波打ち際で座っていた。
「あら、本当に来てくれたのね」
「海涙石を集めて、持ってきました」
スコットは、木箱に入っている海涙石をクアルダに見せた。
「まあ、こんなにたくさん……よく集められたわね」
「ハンターたちに協力してもらって、ヴォイドや海賊を退治してきたんだ。そしたら、案の定、ヤツらが持っていたから、それらをできるだけ回収したんだよ」
「私が見たところ、ほとんど本物ね。ちょっと別の石も混ざってるみたいだけど、これだけ海涙石があれば、海底にある神殿に入れるわよ」
クアルダは海涙石に何やら施すと、ハンターたちに手渡した。
「ハンター1人につき、5個の海涙石を貸すわね。これがあれば、海中で半日くらいは活動できるわよ。私が特別に施したものだから、効果が切れると消滅してしまうから、気を付けてね」
海涙石は紐で繋がれており、リアルブルー人ならストラップのようだと思うだろう。
紐と言っても、人魚の秘術によって作られたもので、効果が無くなると、海涙石だけでなく紐も消えるのだ。
魔術師協会広報室は、古来から伝わる秘術の研究も密かに行っていたが、人魚の秘術を知ることも、例外ではなかった。
「クアルダさんが施した海涙石は、ユニット……つまり、幻獣や機械系の乗り物にも効果があるのかな?」
スコットの問いに、クアルダは少し考えてから応えた。
「幻獣さんなら、ハンターが騎乗している状態なら海涙石の効果はあるはずよ。人型の乗り物は、噂で聞いたところでは、海涙石の効果で水中でも活動できるらしいわよ」
「機械系ユニットは、実際に試してみないと分からないってことかな」
スコットは疑問に思いつつも、勇気のあるハンターが海涙石を受け取り「だったら、やってみるよ」と言い、魔導型デュミナスに騎乗して海中に入ると、神殿の入口まで辿り着くことができた。
しばらく偵察した後、そのハンターは魔導型デュミナスに乗ったまま、上陸してきた。
「どうだった? ヴォイドは?」
ラキが尋ねると、ハンターは「神殿の内部は半漁人らしき集団と、鮫のようなヴォイドが4体ほど見えた」と教えてくれた。
「と言うことは、『聖なる海の門』まで辿り着くには、ヴォイドも退治する必要がありそうだね。あたしたちは、人魚さんがヴォイドに襲われないように、島で見回りしてるね」
ラキたちは島に残り、依頼を受けたハンターたちが海底神殿へ行くことになった。
果たして、ハンターたちは『聖なる海の門』を発見することができるのだろうか。
人類の行く末をかけた探索が、今まさに始まろうとしていた。
リプレイ本文
深い底に眠る者よ。
吠えろ、吠えろ。
この世界は、すでに歪んでいる。
歪んでいるが故に、存在しているのか?
そもそも、この世界は、いったい、なんなのだ?
争いを避けるために、戦闘を繰り広げる。
なんとも矛盾した思考ではないか。
相反するモノが同じ世界に「有る」とは、どういうことだ?
あってはならない事が、何度も繰り返されている。
これほど奇妙な存在は無い。
それは……ヒト。
ヒトであるが故に、世界は有り続けるのか?
遠い世界ではない。すぐ近くに、「それ」は存在したのだ。
●
人魚クアルダから特別に施された海涙石を受け取ったハンターたちは七人。
ジャック・エルギン(ka1522)はイェジドのフォーコに騎乗すると、万が一のことを考えて自分とフォーコにロープを繋げて落下防止に備えた。
「フォーコ、今回は海に潜って『聖なる海の門』の調査だ。俺にとっても同盟の海を取り戻すためには、避けられねえ大勝負だ。何事もチャレンジだぜ」
ジャックが手綱を引くと、フォーコは軽々と海に飛び込み、脚を動かしながら海底神殿の入口まで泳いでいく。本格的な海中での戦闘は初めてであったが、それでもジャックとフォーコは怯むことはなかった。
ウーナ(ka1439)は魔導型アゼル・デュミナスに乗り込み、箍崎 来流未(ka2219)を援護するように進んでいった。
来流未は自ら泳ぎながら、神殿の入口に辿り着いた。
魔導アーマー量産型に騎乗した鬼塚 雷蔵(ka3963)は、来流未の護衛を務めることになり、まずは自分の魔導アーマーを動かして神殿の内部に入った。
続いて、イェジドのВасилийに騎乗したHolmes(ka3813)が、ゆったりと内部へと進んでいく。
瀬崎・統夜(ka5046)は魔導型デュミナスの黒騎士に乗り、魔導型デュミナスのエーデルワイスに騎乗した沙織(ka5977)と共に、警戒しながら神殿の内部を窺っていた。
泳いで進んでいくと、黒い鱗に覆われた半漁人プワゾンの群れが、ハンターたちに攻撃をしかけてきた。
「あたしのアゼルくんに任せて!」
ウーナは来流未たちを守るように、プワゾンの攻撃をアゼルのシールド「バリスティック」で受け止めたが、数本の矢がアゼルの頭部と脚に突き刺さった。
ジャックと来流未は、アゼル・デュミナスのおかげで毒矢には当たらなかった。
来流未を狙うプワゾンもいたが、雷蔵の魔導アーマーが付かず離れずの距離にいたこともあり、敵の矢をアーマークローで受け、防御に徹していた。数本の矢が胴部に突き刺さるが、雷蔵にとっては計算内だ。
「箍崎は必ず守る。全員で帰還するのがベストだな」
依頼を達成することも大事だが、誰かが犠牲になることだけは雷蔵は避けたかった。
ジャックが『薙払「一閃」』で立ちはだかるプワゾンを6体、薙ぎ払い、敵が消えると同時に前方への経路を切り開く。来流未が、その隙に全力で泳いで突き進む。
エーデルワイスに乗った沙織は、アクティブスラスターを起動させ、魔導ドリル「ドゥンケルハイト」でプワゾン一匹を貫いた。その衝撃で敵が消滅……ハンターたちの気配に気付いたキラー・シャーク四体が、姿を現した。
Holmesは『現界せしもの』を発動させ、祖霊の幻影を纏い巨大化……『廻』を振り回し、周囲にいたプワゾンの群れとキラー・シャーク2体が巻き込まれ、薙ぎ払われていく。
プワゾンたちは消滅したが、鮫2体は攻撃を喰らっても、体勢を崩すことはなかった。
ジャックは別の方角から来た鮫に気付き、シーマンズボウで『貫徹の矢』を放った。体長8メートルの鮫に矢が貫通……深く突き刺さった矢は、鮫の守りさえ撃ち砕いた。かなりのダメージを受けた鮫は、統夜が操縦する黒騎士によるプラズマカッターで切り裂かれ、その衝撃で消滅した。
「鮫は残り三体か。だが、半漁人の群れにも注意だな」
海中での戦闘は慣れているのか、統夜は的確に戦況を把握していた。
「来流未ちゃんを狙うなら、手加減しないよ!」
ウーナは巧みにアゼル・デュミナスを動かしアクティブスラスターを発動させ、パイルバンカー「エンハンブレス」で鮫を攻撃。命中して、鮫が暴れ出す。
沙織は奮えながらも、落ち着いてエーデルワイスを乗りこなし、魔導ドリル「ドゥンケルハイト」で鮫一体の胴体を貫く。
雷蔵の乗った魔導アーマーは、来流未が戦闘に巻き込まれないように常に同じ速度で北へと目指す。
「……それにしても、妙だな」
鮫は確かにハンターたちを狙っていた。だが、半漁人たちは何かに操られているようにも見えた。
来流未は、ただひたすら目的地へと向って泳いでいた。
(……北の方角へ向かうにつれて、人工的に積まれた石があるなぁ。人魚たちが作ったものかな?)
石は一つずつ円形状に積まれていたが、それが何を意味するのか、今は分からなかった。
●
Holmesが接近してきた鮫の頭部にナイフを突き刺すと、フォーコに騎乗したジャックは敵の背後に廻り、バスタードソード「フォルティス」で『強打』を繰り出し、鮫の背ビレを叩き斬った。
HolmesはВасилийに合図して、その場から離れるが、予想通り、鮫たちはHolmesを狙って怪光線を吐き出してきた。ダメージを受けるHolmes……『リジェネレーション』で少しずつ傷が回復していく。
鮫の頭部に突き刺したナイフは、鮫が暴れ出すと海底へと沈んでいった。ナイフを取り戻す余裕もなかったが、Holmesが囮になることで、来流未は『聖なる海の門』の近くまで泳いでいくことができた。
黒騎士のプラズマカッターで鮫一体が切り裂かれて消滅し、アゼル・デュミナスが放ったパイルバンカー「エンハンブレス」で残りの鮫も息絶え、泡のごとく消えていった。
「やったね! 海の底って嫌いだけど、アゼルくんだったら、なんてことないね!」
鮫4体は全て退治することができた。半漁人の群れは残っていたが、何故かハンターたちに攻撃を仕掛けず、周囲の動向を窺っているだけだった。
「今のうちに、調査してしまうか」
雷蔵は魔導アーマー量産型を、神殿の底に着地させ、周囲を警戒していた。西側には出入り口のような大きなアーチが見えた。そのアーチから外の様子も見えるため、いつ、敵の襲撃があっても不思議ではない……しばらく緊張が走った。
来流未がハンディLEDライトを取り出した時、統夜の『直感視』は巨大な気配を看破した。
「門から離れろ!」
その刹那、無数の巨大な触手が来流未を捕まえようと迫りくる。
(ここまで来たのに……逃げる訳にはいかない!)
来流未が、そう覚悟した時、メンカルの忠告が脳裏に浮かんだ。
『無理をするなとは言わんが、無茶はするな。わかるな? 落ち着いて調査対象を観察するんだ。見落としはないか? 何か思い違いをしていないか? しっかり考えて、それから行動しろ』
来流未は我に帰り、一旦、その場から離れた。
危機一髪。ハンディLEDライトは巨大な触手によって粉々に砕け散ったが、来流未は難を逃れた。
「まさか、ゲートが巨大なヴォイドに乗っ取られてしまったのか?!」
統夜が思わずコックピット内で叫ぶ。
ウーナもまた、『直感視』で悟った。敵は今までにない脅威であると……。
「震えが止まらないよ。本体が近くにいるってこと?」
ジャックがシーマンズボウで矢を放ち、牽制する。フォーコは主を守るため、とっさに回避しようするが、巨大な触手はフォーコに絡みついてきた。
(人魚の言い伝えに出てきた『海底に棲まい荒ぶる者』……グラン・アルキトゥスなのか?!)
「ジャック、助太刀するぜ」
統夜は愛機、黒騎士のプラズマカッターで巨大な触手を切り裂き、フォーコはジャックを乗せて、泳いでその場から離れることができた。
ハンターたちの心身にノイズのようなモノが迸る。この感覚は何だ?!
黒い渦により空間が歪んでいるような穴のような門。
無数の触手が揺らめき、ハンターたちの前に立ちはだかる。
聖なる門は、グラン・アルキトゥスに占領されていたのだ。
海涙石が残り一個となり、ハンターたちは急いで神殿から出ることにした。
アゼル・デュミナスはアクティブスラスターを起動させ、門とは逆の方向へと移動していった。
巨大な触手は鞭のように波打ち、凄まじい水圧がハンターたちを巻き込み、荒れ狂う海の中、ハンターたちは渦に巻き込まれながら、海面へと押し流された。
●
気が付けば、ハンターたちは島の南に位置する砂浜に打ち上げられていた。
ウーナはコックピットの外から軽く叩く音が聴こえ、目を覚ました。
「大丈夫か、ウーナ」
アゼル・デュミナスから降りると、金髪碧眼の青年がいた。ウーナを呼びかけていたのは、ジャックだった。
フォーコは全身を振るわせ、海水を飛び散らせた。ロープは引き千切られて、ジャックもフォーコも怪我はしていたが、無事だった。
「あたしは平気だよ。来流未ちゃんは?」
ウーナは海面にシールド「バリスティック」が浮かんでいることに気が付いた。来流未は、その上で気を失っていた。雷蔵は魔導アーマー量産型を操縦しながら、慎重にシールドを引き寄せ、来流未を救出した。
「俺は無傷だったが、さすがにアーマーは、あちこちガタがきてるな」
それでも、来流未が無事だと分かると安堵する雷蔵。
ウーナが何度か名を呼びかけると、来流未は起き上がった。
「はあ……なんだか、すごいことになっちゃったね」
「運が良いのか悪いのか、聖なる門に近づこうとしたら、巨大な触手がいっぱい出てきて、気持ち悪かったなぁ」
ウーナがため息交じりに言う。
「海涙石のおかげで水中でも呼吸はできたけど、海中の光景を楽しむ暇もなかったね。まあ、興味深い『モノ』を見つけてしまったようだけど」
Holmesは、ご機嫌斜めであるВасилийの頭を撫でた。しばらくすると、Василийの顔色も良くなり、普段通りの表情に戻った。
「どうやら、Василийは巨大な触手が気に入らなかったようだね。無理もないか」
不気味な姿に複数の巨大な触手……グラン・アルキトゥスは、まだ海底に潜んでいたのだ。
水圧に巻き込まれながらも、黒騎士はエーデルワイスを守っていたこともあり、機体はダメージを受けてしまったが、統夜と沙織は無事に島へ戻ることができた。
「嫌な気配がしたと思ったら、グラン・アルキトゥスか」
統夜の言葉に、来流未は首を傾げた。
「グラン・アルキトゥス?」
「そういや、聞いたことがあるぜ。言い伝えでは『海底に棲まい荒ぶる者』とも言われているそうだ」
ジャックは、島に住む人魚たちのことが気掛かりだった。
すぐさま島の見回りをしていたマクシミリアン・ヴァイス(kz0003)、ラキ(kz0002)たちと合流することになった。
ハンターたちから事の次第を聞いて、マクシミリアンはトランシーバーを取り出し、艦長に報告した。
ラキが人魚クアルダと話をすると言い出すと、ジャックも同行した。
「聖なる海の門までは辿り着けた……クアルダ、『海底に棲まい荒ぶる者』っての聞いたことあるか?」
ジャックの問いに、クアルダは驚きを隠せなかった。
「知っています。200年近く気配がなかったのに、何故、今……活動を始めたのでしょう?」
クアルダにも、グラン・アルキトゥスが動き出した原因が分からなかった。
「ねえ、だったら、あたしたちと一緒に、この島から出ようよ」
心配のあまりラキが提案するが、クアルダは「島に残る」と答えた。
「海底に棲まい荒ぶる者が活動を始めたのなら、私達は尚更、人魚の島を守らなければなりません。これは、私たちの定めなのです」
強い意志の眼差し……クアルダの決意は固かった。
「なあ、クアルダ。以前、言ったよな。人間と人魚が共存して暮らせる海を取り戻すってさ。同盟の海を守りたいっていう気持ちは俺も同じだ」
ジャックにとっても、同盟の海はかけがえのない存在だ。
「ヴォイドゲートの重要性は分かってっけど、この海があればこそ、自然は成り立ってる。勝負はまだ始まったばかりだが、俺は必ず勝つぜ」
自信に満ちた表情のジャック。
統夜はリアルブルー生まれだが、しばらくは帰るつもりはなかった。
「……こっちの世界には恩がある。友人といえるヤツも何人かはいる。ほっておけないさ。だろ? 同じ人間だ。そう信じてりゃ、いつかは帰れるだろうさ」
リアルブルー世界が心配ではないと言えば嘘になるが、統夜にはクリムゾンウェストで出会った大切な仲間たちがいた。
沙織もまた、リアルブルーのことを忘れたことはなかった。転移実験での体験で、リアルブルーも決して安全では無いと思い知った。
だが、リアルブルーの人達とて無力ではない。彼らもなんとかしようとしてるから……。
そして、敵の強さを知ってるから、万が一が怖い。けれど……。
「向うへ帰れる日が来るまで、私達は私達にできる事をしましょう」
穏やかに告げる沙織。
人魚の長老クアルダは、ハンターたちの想いを聞き、共存できる未来を願っていた。
●
ハンターたちは、同盟海軍の大型戦艦ルナルギャルド号に乗って、自由都市同盟へと戻ることになった。
ウーナはアゼル・デュミナスのシールド「バリスティック」を装備し直すと、機体に騎乗したまま小型船に乗り込んだ。雷蔵が魔導アーマー量産型に騎乗しようとした時、黒い鱗の半漁人が襲いかかってきた。
「やれやれ、まったく気が抜けないな」
雷蔵は水中銃で半漁人を撃ち抜いた。消滅したかと思いきや、他にも半漁人がいるではないか。
ジャックが盾「アルマジロ」で毒矢を受け流すと、フォーコがクラッシュバイトで半漁人を噛み砕いた。
「油断も隙もねーな」
そう言いながらも、ジャックは密かに愁えていた。
海底に潜んでいた巨大なヴォイドが『グラン・アルキトゥス』ならば、十三魔の一体。
態勢を整えて、援軍を出す必要がある。そのためにもハンターズソサエティに報告しなければならない。
船上から海を眺めていたHolmesは、暗黒海域を目の当たりにした。
「海涙石はとても美しいのに、海底には悍ましい巨大ヴォイドが居る……なんとも皮肉だね」
Василийは怪我をしていたこともあり、Holmesに寄りかかっていた。
「グラン・アルキトゥスが聖なる門を陣取っていたなら、ヴォイドゲートの可能性は高いよね」
来流未はグラン・アルキトゥスと遭遇して、これは只事ではないと思っていた。
ルナルギャルド号が、自由都市同盟へ向って進んでいく。
艦内の個室で、ハンターたちは休んでいた。
ウーナはベッドに寝っ転がり、天井を見上げていた。
(ゲートは発見できたけど、あの時の変な感覚は、なんだったんだろうな)
心や体を掻き乱すような音。否、……声、だったのだろうか?
もし、あの時、その声に抵抗できなかったら、もしかしたら……?
様々な疑問が浮かび上がった。
その頃、ジャックはフォーコを連れて、船の上から島を眺めていた。
少しずつ、島が遠ざかっていく。
(ゲートがあれば、リアルブルーに戻れるヤツらもいるんだよな。けど……その前に、ヴォイドが蔓延る海をどうにかしねーと……クアルダと約束したからな。この海を元に取り戻すって)
人間と人魚が共存していける世界……そのためにも、美しい海を取り戻す。その結果、海に住む生き物たちにも恵みある世界になるだろう。
「……海は、この世界に住む全ての生き物たちの恵みそのものだ」
ジャックは改めて、海の大切さを実感していた。
Holmesと言えば、Василийと一緒に個室で書物を読んでいた。
本を読む時、Holmesは眼鏡をかけるようになっていた。
(ふむ、『聖なる門』というのは、一部の人魚たちが呼んでいる俗称か……およそ200年前の話では、暗黒海域に巣食う巨大な怪物がいた……この怪物が『グラン・アルキトゥス』であるとすれば、やっかいなことになりそうだね)
Holmesはそう思いながらも、全く動じることはなかった。
人生、長く生きていれば、いろいろあるが、海底にいる十三魔の一体と遭遇するとは希なことだと、はたまた、何かの因果なのか?
まあ、いずれにしろ、これから何か起こることは確かだとHolmesは推測していた。
来流未は生身で長時間、泳いでいたこともあり、疲れ果てて、ベッドで眠っていた。
何やら夢を見ているようだった。
『聖なる海の門』に辿り着き、その奥へ入ったら、見慣れた風景が広がっていた。
突如、その景色は粉々に散っていき、無数の巨大な触手が来流未に襲いかかってきた。
このままでは……?!
そう思った途端、来流未は驚いて目が覚めた。
「……ファンタジーじゃなくって、現実だよね?」
時空の歪みのような門だった。暗闇の中に、小さな光が見えた気がした。
一方。雷蔵は、統夜と沙織を連れて艦内の食堂に居た。
海軍の兵士たちは、食事をしながら世間話をしていた。
「食堂があるなら、料理の手伝いくらいはできそうだな」
雷蔵は家庭料理を得意としていた。
「なんだか、LH044にいた頃を思い出すな」
統夜は懐かしむが、どこか悲しげでもあった。
「……そうですね」
親しんだ日常が蘇り、沙織が微笑む。とは言え、やはり心の隙間が少し痛む。
リアルブルーとクリムゾンウェスト。
二つの世界を繋ぐゲート。
ゲートの一つ『聖なる門』は、グラン・アルキトゥスによって阻まれた。
運命というものがあるのなら、覚醒者たちは何故、転移してきたのか。
その転移者たちを、統一連合議会は『死亡扱い』にしていた。
それは何故か?
得体の知れない『何か』が、ハンターたちを翻弄していた。
吠えろ、吠えろ。
この世界は、すでに歪んでいる。
歪んでいるが故に、存在しているのか?
そもそも、この世界は、いったい、なんなのだ?
争いを避けるために、戦闘を繰り広げる。
なんとも矛盾した思考ではないか。
相反するモノが同じ世界に「有る」とは、どういうことだ?
あってはならない事が、何度も繰り返されている。
これほど奇妙な存在は無い。
それは……ヒト。
ヒトであるが故に、世界は有り続けるのか?
遠い世界ではない。すぐ近くに、「それ」は存在したのだ。
●
人魚クアルダから特別に施された海涙石を受け取ったハンターたちは七人。
ジャック・エルギン(ka1522)はイェジドのフォーコに騎乗すると、万が一のことを考えて自分とフォーコにロープを繋げて落下防止に備えた。
「フォーコ、今回は海に潜って『聖なる海の門』の調査だ。俺にとっても同盟の海を取り戻すためには、避けられねえ大勝負だ。何事もチャレンジだぜ」
ジャックが手綱を引くと、フォーコは軽々と海に飛び込み、脚を動かしながら海底神殿の入口まで泳いでいく。本格的な海中での戦闘は初めてであったが、それでもジャックとフォーコは怯むことはなかった。
ウーナ(ka1439)は魔導型アゼル・デュミナスに乗り込み、箍崎 来流未(ka2219)を援護するように進んでいった。
来流未は自ら泳ぎながら、神殿の入口に辿り着いた。
魔導アーマー量産型に騎乗した鬼塚 雷蔵(ka3963)は、来流未の護衛を務めることになり、まずは自分の魔導アーマーを動かして神殿の内部に入った。
続いて、イェジドのВасилийに騎乗したHolmes(ka3813)が、ゆったりと内部へと進んでいく。
瀬崎・統夜(ka5046)は魔導型デュミナスの黒騎士に乗り、魔導型デュミナスのエーデルワイスに騎乗した沙織(ka5977)と共に、警戒しながら神殿の内部を窺っていた。
泳いで進んでいくと、黒い鱗に覆われた半漁人プワゾンの群れが、ハンターたちに攻撃をしかけてきた。
「あたしのアゼルくんに任せて!」
ウーナは来流未たちを守るように、プワゾンの攻撃をアゼルのシールド「バリスティック」で受け止めたが、数本の矢がアゼルの頭部と脚に突き刺さった。
ジャックと来流未は、アゼル・デュミナスのおかげで毒矢には当たらなかった。
来流未を狙うプワゾンもいたが、雷蔵の魔導アーマーが付かず離れずの距離にいたこともあり、敵の矢をアーマークローで受け、防御に徹していた。数本の矢が胴部に突き刺さるが、雷蔵にとっては計算内だ。
「箍崎は必ず守る。全員で帰還するのがベストだな」
依頼を達成することも大事だが、誰かが犠牲になることだけは雷蔵は避けたかった。
ジャックが『薙払「一閃」』で立ちはだかるプワゾンを6体、薙ぎ払い、敵が消えると同時に前方への経路を切り開く。来流未が、その隙に全力で泳いで突き進む。
エーデルワイスに乗った沙織は、アクティブスラスターを起動させ、魔導ドリル「ドゥンケルハイト」でプワゾン一匹を貫いた。その衝撃で敵が消滅……ハンターたちの気配に気付いたキラー・シャーク四体が、姿を現した。
Holmesは『現界せしもの』を発動させ、祖霊の幻影を纏い巨大化……『廻』を振り回し、周囲にいたプワゾンの群れとキラー・シャーク2体が巻き込まれ、薙ぎ払われていく。
プワゾンたちは消滅したが、鮫2体は攻撃を喰らっても、体勢を崩すことはなかった。
ジャックは別の方角から来た鮫に気付き、シーマンズボウで『貫徹の矢』を放った。体長8メートルの鮫に矢が貫通……深く突き刺さった矢は、鮫の守りさえ撃ち砕いた。かなりのダメージを受けた鮫は、統夜が操縦する黒騎士によるプラズマカッターで切り裂かれ、その衝撃で消滅した。
「鮫は残り三体か。だが、半漁人の群れにも注意だな」
海中での戦闘は慣れているのか、統夜は的確に戦況を把握していた。
「来流未ちゃんを狙うなら、手加減しないよ!」
ウーナは巧みにアゼル・デュミナスを動かしアクティブスラスターを発動させ、パイルバンカー「エンハンブレス」で鮫を攻撃。命中して、鮫が暴れ出す。
沙織は奮えながらも、落ち着いてエーデルワイスを乗りこなし、魔導ドリル「ドゥンケルハイト」で鮫一体の胴体を貫く。
雷蔵の乗った魔導アーマーは、来流未が戦闘に巻き込まれないように常に同じ速度で北へと目指す。
「……それにしても、妙だな」
鮫は確かにハンターたちを狙っていた。だが、半漁人たちは何かに操られているようにも見えた。
来流未は、ただひたすら目的地へと向って泳いでいた。
(……北の方角へ向かうにつれて、人工的に積まれた石があるなぁ。人魚たちが作ったものかな?)
石は一つずつ円形状に積まれていたが、それが何を意味するのか、今は分からなかった。
●
Holmesが接近してきた鮫の頭部にナイフを突き刺すと、フォーコに騎乗したジャックは敵の背後に廻り、バスタードソード「フォルティス」で『強打』を繰り出し、鮫の背ビレを叩き斬った。
HolmesはВасилийに合図して、その場から離れるが、予想通り、鮫たちはHolmesを狙って怪光線を吐き出してきた。ダメージを受けるHolmes……『リジェネレーション』で少しずつ傷が回復していく。
鮫の頭部に突き刺したナイフは、鮫が暴れ出すと海底へと沈んでいった。ナイフを取り戻す余裕もなかったが、Holmesが囮になることで、来流未は『聖なる海の門』の近くまで泳いでいくことができた。
黒騎士のプラズマカッターで鮫一体が切り裂かれて消滅し、アゼル・デュミナスが放ったパイルバンカー「エンハンブレス」で残りの鮫も息絶え、泡のごとく消えていった。
「やったね! 海の底って嫌いだけど、アゼルくんだったら、なんてことないね!」
鮫4体は全て退治することができた。半漁人の群れは残っていたが、何故かハンターたちに攻撃を仕掛けず、周囲の動向を窺っているだけだった。
「今のうちに、調査してしまうか」
雷蔵は魔導アーマー量産型を、神殿の底に着地させ、周囲を警戒していた。西側には出入り口のような大きなアーチが見えた。そのアーチから外の様子も見えるため、いつ、敵の襲撃があっても不思議ではない……しばらく緊張が走った。
来流未がハンディLEDライトを取り出した時、統夜の『直感視』は巨大な気配を看破した。
「門から離れろ!」
その刹那、無数の巨大な触手が来流未を捕まえようと迫りくる。
(ここまで来たのに……逃げる訳にはいかない!)
来流未が、そう覚悟した時、メンカルの忠告が脳裏に浮かんだ。
『無理をするなとは言わんが、無茶はするな。わかるな? 落ち着いて調査対象を観察するんだ。見落としはないか? 何か思い違いをしていないか? しっかり考えて、それから行動しろ』
来流未は我に帰り、一旦、その場から離れた。
危機一髪。ハンディLEDライトは巨大な触手によって粉々に砕け散ったが、来流未は難を逃れた。
「まさか、ゲートが巨大なヴォイドに乗っ取られてしまったのか?!」
統夜が思わずコックピット内で叫ぶ。
ウーナもまた、『直感視』で悟った。敵は今までにない脅威であると……。
「震えが止まらないよ。本体が近くにいるってこと?」
ジャックがシーマンズボウで矢を放ち、牽制する。フォーコは主を守るため、とっさに回避しようするが、巨大な触手はフォーコに絡みついてきた。
(人魚の言い伝えに出てきた『海底に棲まい荒ぶる者』……グラン・アルキトゥスなのか?!)
「ジャック、助太刀するぜ」
統夜は愛機、黒騎士のプラズマカッターで巨大な触手を切り裂き、フォーコはジャックを乗せて、泳いでその場から離れることができた。
ハンターたちの心身にノイズのようなモノが迸る。この感覚は何だ?!
黒い渦により空間が歪んでいるような穴のような門。
無数の触手が揺らめき、ハンターたちの前に立ちはだかる。
聖なる門は、グラン・アルキトゥスに占領されていたのだ。
海涙石が残り一個となり、ハンターたちは急いで神殿から出ることにした。
アゼル・デュミナスはアクティブスラスターを起動させ、門とは逆の方向へと移動していった。
巨大な触手は鞭のように波打ち、凄まじい水圧がハンターたちを巻き込み、荒れ狂う海の中、ハンターたちは渦に巻き込まれながら、海面へと押し流された。
●
気が付けば、ハンターたちは島の南に位置する砂浜に打ち上げられていた。
ウーナはコックピットの外から軽く叩く音が聴こえ、目を覚ました。
「大丈夫か、ウーナ」
アゼル・デュミナスから降りると、金髪碧眼の青年がいた。ウーナを呼びかけていたのは、ジャックだった。
フォーコは全身を振るわせ、海水を飛び散らせた。ロープは引き千切られて、ジャックもフォーコも怪我はしていたが、無事だった。
「あたしは平気だよ。来流未ちゃんは?」
ウーナは海面にシールド「バリスティック」が浮かんでいることに気が付いた。来流未は、その上で気を失っていた。雷蔵は魔導アーマー量産型を操縦しながら、慎重にシールドを引き寄せ、来流未を救出した。
「俺は無傷だったが、さすがにアーマーは、あちこちガタがきてるな」
それでも、来流未が無事だと分かると安堵する雷蔵。
ウーナが何度か名を呼びかけると、来流未は起き上がった。
「はあ……なんだか、すごいことになっちゃったね」
「運が良いのか悪いのか、聖なる門に近づこうとしたら、巨大な触手がいっぱい出てきて、気持ち悪かったなぁ」
ウーナがため息交じりに言う。
「海涙石のおかげで水中でも呼吸はできたけど、海中の光景を楽しむ暇もなかったね。まあ、興味深い『モノ』を見つけてしまったようだけど」
Holmesは、ご機嫌斜めであるВасилийの頭を撫でた。しばらくすると、Василийの顔色も良くなり、普段通りの表情に戻った。
「どうやら、Василийは巨大な触手が気に入らなかったようだね。無理もないか」
不気味な姿に複数の巨大な触手……グラン・アルキトゥスは、まだ海底に潜んでいたのだ。
水圧に巻き込まれながらも、黒騎士はエーデルワイスを守っていたこともあり、機体はダメージを受けてしまったが、統夜と沙織は無事に島へ戻ることができた。
「嫌な気配がしたと思ったら、グラン・アルキトゥスか」
統夜の言葉に、来流未は首を傾げた。
「グラン・アルキトゥス?」
「そういや、聞いたことがあるぜ。言い伝えでは『海底に棲まい荒ぶる者』とも言われているそうだ」
ジャックは、島に住む人魚たちのことが気掛かりだった。
すぐさま島の見回りをしていたマクシミリアン・ヴァイス(kz0003)、ラキ(kz0002)たちと合流することになった。
ハンターたちから事の次第を聞いて、マクシミリアンはトランシーバーを取り出し、艦長に報告した。
ラキが人魚クアルダと話をすると言い出すと、ジャックも同行した。
「聖なる海の門までは辿り着けた……クアルダ、『海底に棲まい荒ぶる者』っての聞いたことあるか?」
ジャックの問いに、クアルダは驚きを隠せなかった。
「知っています。200年近く気配がなかったのに、何故、今……活動を始めたのでしょう?」
クアルダにも、グラン・アルキトゥスが動き出した原因が分からなかった。
「ねえ、だったら、あたしたちと一緒に、この島から出ようよ」
心配のあまりラキが提案するが、クアルダは「島に残る」と答えた。
「海底に棲まい荒ぶる者が活動を始めたのなら、私達は尚更、人魚の島を守らなければなりません。これは、私たちの定めなのです」
強い意志の眼差し……クアルダの決意は固かった。
「なあ、クアルダ。以前、言ったよな。人間と人魚が共存して暮らせる海を取り戻すってさ。同盟の海を守りたいっていう気持ちは俺も同じだ」
ジャックにとっても、同盟の海はかけがえのない存在だ。
「ヴォイドゲートの重要性は分かってっけど、この海があればこそ、自然は成り立ってる。勝負はまだ始まったばかりだが、俺は必ず勝つぜ」
自信に満ちた表情のジャック。
統夜はリアルブルー生まれだが、しばらくは帰るつもりはなかった。
「……こっちの世界には恩がある。友人といえるヤツも何人かはいる。ほっておけないさ。だろ? 同じ人間だ。そう信じてりゃ、いつかは帰れるだろうさ」
リアルブルー世界が心配ではないと言えば嘘になるが、統夜にはクリムゾンウェストで出会った大切な仲間たちがいた。
沙織もまた、リアルブルーのことを忘れたことはなかった。転移実験での体験で、リアルブルーも決して安全では無いと思い知った。
だが、リアルブルーの人達とて無力ではない。彼らもなんとかしようとしてるから……。
そして、敵の強さを知ってるから、万が一が怖い。けれど……。
「向うへ帰れる日が来るまで、私達は私達にできる事をしましょう」
穏やかに告げる沙織。
人魚の長老クアルダは、ハンターたちの想いを聞き、共存できる未来を願っていた。
●
ハンターたちは、同盟海軍の大型戦艦ルナルギャルド号に乗って、自由都市同盟へと戻ることになった。
ウーナはアゼル・デュミナスのシールド「バリスティック」を装備し直すと、機体に騎乗したまま小型船に乗り込んだ。雷蔵が魔導アーマー量産型に騎乗しようとした時、黒い鱗の半漁人が襲いかかってきた。
「やれやれ、まったく気が抜けないな」
雷蔵は水中銃で半漁人を撃ち抜いた。消滅したかと思いきや、他にも半漁人がいるではないか。
ジャックが盾「アルマジロ」で毒矢を受け流すと、フォーコがクラッシュバイトで半漁人を噛み砕いた。
「油断も隙もねーな」
そう言いながらも、ジャックは密かに愁えていた。
海底に潜んでいた巨大なヴォイドが『グラン・アルキトゥス』ならば、十三魔の一体。
態勢を整えて、援軍を出す必要がある。そのためにもハンターズソサエティに報告しなければならない。
船上から海を眺めていたHolmesは、暗黒海域を目の当たりにした。
「海涙石はとても美しいのに、海底には悍ましい巨大ヴォイドが居る……なんとも皮肉だね」
Василийは怪我をしていたこともあり、Holmesに寄りかかっていた。
「グラン・アルキトゥスが聖なる門を陣取っていたなら、ヴォイドゲートの可能性は高いよね」
来流未はグラン・アルキトゥスと遭遇して、これは只事ではないと思っていた。
ルナルギャルド号が、自由都市同盟へ向って進んでいく。
艦内の個室で、ハンターたちは休んでいた。
ウーナはベッドに寝っ転がり、天井を見上げていた。
(ゲートは発見できたけど、あの時の変な感覚は、なんだったんだろうな)
心や体を掻き乱すような音。否、……声、だったのだろうか?
もし、あの時、その声に抵抗できなかったら、もしかしたら……?
様々な疑問が浮かび上がった。
その頃、ジャックはフォーコを連れて、船の上から島を眺めていた。
少しずつ、島が遠ざかっていく。
(ゲートがあれば、リアルブルーに戻れるヤツらもいるんだよな。けど……その前に、ヴォイドが蔓延る海をどうにかしねーと……クアルダと約束したからな。この海を元に取り戻すって)
人間と人魚が共存していける世界……そのためにも、美しい海を取り戻す。その結果、海に住む生き物たちにも恵みある世界になるだろう。
「……海は、この世界に住む全ての生き物たちの恵みそのものだ」
ジャックは改めて、海の大切さを実感していた。
Holmesと言えば、Василийと一緒に個室で書物を読んでいた。
本を読む時、Holmesは眼鏡をかけるようになっていた。
(ふむ、『聖なる門』というのは、一部の人魚たちが呼んでいる俗称か……およそ200年前の話では、暗黒海域に巣食う巨大な怪物がいた……この怪物が『グラン・アルキトゥス』であるとすれば、やっかいなことになりそうだね)
Holmesはそう思いながらも、全く動じることはなかった。
人生、長く生きていれば、いろいろあるが、海底にいる十三魔の一体と遭遇するとは希なことだと、はたまた、何かの因果なのか?
まあ、いずれにしろ、これから何か起こることは確かだとHolmesは推測していた。
来流未は生身で長時間、泳いでいたこともあり、疲れ果てて、ベッドで眠っていた。
何やら夢を見ているようだった。
『聖なる海の門』に辿り着き、その奥へ入ったら、見慣れた風景が広がっていた。
突如、その景色は粉々に散っていき、無数の巨大な触手が来流未に襲いかかってきた。
このままでは……?!
そう思った途端、来流未は驚いて目が覚めた。
「……ファンタジーじゃなくって、現実だよね?」
時空の歪みのような門だった。暗闇の中に、小さな光が見えた気がした。
一方。雷蔵は、統夜と沙織を連れて艦内の食堂に居た。
海軍の兵士たちは、食事をしながら世間話をしていた。
「食堂があるなら、料理の手伝いくらいはできそうだな」
雷蔵は家庭料理を得意としていた。
「なんだか、LH044にいた頃を思い出すな」
統夜は懐かしむが、どこか悲しげでもあった。
「……そうですね」
親しんだ日常が蘇り、沙織が微笑む。とは言え、やはり心の隙間が少し痛む。
リアルブルーとクリムゾンウェスト。
二つの世界を繋ぐゲート。
ゲートの一つ『聖なる門』は、グラン・アルキトゥスによって阻まれた。
運命というものがあるのなら、覚醒者たちは何故、転移してきたのか。
その転移者たちを、統一連合議会は『死亡扱い』にしていた。
それは何故か?
得体の知れない『何か』が、ハンターたちを翻弄していた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
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質問卓 ジャック・エルギン(ka1522) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/10/05 11:19:06 |
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![]() |
相談卓 Holmes(ka3813) ドワーフ|8才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2016/10/07 00:32:56 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/10/05 21:42:27 |