狂瀾怒涛

マスター:真柄葉

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~10人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/10/05 12:00
完成日
2016/10/11 06:19

みんなの思い出

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オープニング

●山の中腹
「状況は?」
 岩の上に胡坐をかき、眼下の砦を見下ろす。
「あの砦で最後ね。戦力の詳細は……自分で読んで」
「えー……」
 放り投げられた紙を渋々拾い上げ、男は紙に目を落とした。
「あ、俺、ジガヨメナインダッター」
 しばらく眺めたのち、降参とばかりに両手を上げる。
「突撃して死ねって書いてあるわ。よかったわね、頑張って散ってきて」
「……テューラちゃん、もしかして俺の事嫌い?」
「え……? 好かれてると思っていた事に驚愕だわ……」
「やばい、凹んだ。もう仕事しない」
「そう、じゃビックマーに報告しておくわ。あ、オーロラの方がいいかしら?」
「よーし、テューラちゃん、早速軍勢の編成の取り掛かるぞ!」
 その名が出た途端、男は勢い良く立ち上がり後ろに控える兵を見やった。
「……ねぇ、テューラちゃん」
「なに?」
「とても聞くのが怖いんだけど……」
「なによ。はっきり言いなさい。仮にも一軍の将でしょう。それともただの馬鹿なの? 死ぬの?」
「あぁ、うちの副官のお言葉が暖かすぎて、眼から汗が噴き出してきた」
「質問が無いなら私は自分の仕事に戻るわ」
「あー、待って待って。この山越えで減った兵って?」
 踵を返すテューラを引き止め、怠惰の将シックステンは問いかける。
「8割よ」
「8割も? そうか結構残ったなぁ。やっぱり俺の人望のおかげかなぁ?」
「寝言は寝て言えって、ビックマーに教わらなかった? それとも鳥並みの脳味噌には理解できなかったの? 脱落したのが『8割』よ」
「……はっはっはっ、さすが俺の軍。皆、怠惰に真面目だねぇ」
 溢れてくる涙を拭いながらシックステンは、欲望に忠実な仲間達の事を想う。
「2割という事は20か……さぁて、いよいよ面倒臭いことになってきたなぁ」
 無精に伸ばした髪を掻き毟り、シックステンは再び眼下の砦を見やった。
「どうせいつもの手で行くんでしょ?」
「うーん……やっぱそれしかないよねぇ」
 副官の声を背に聞きながら、シックステンは岩の上に再び胡坐をかく。
「あれマテリアル減るからあんまりやりたくないんだよねぇ。お腹すくし」
「だから貴方が特攻すればいいじゃない。兵も減らない、お腹も減らない。私も楽ができる。ほら、万事解決」
「テューラちゃん、俺は君と離れたくないんだ」
「やめて、鳥肌で死ぬわ」
「シクシクシク……」
 再びあふれ出る涙を拭いながら、シックステンは顔を上げた。
「まぁ、しょうがないよね。どうせビックマーは援軍なんかくれないし」
「当然でしょうね。きっと名前すらも知られて一介の指揮官にわざわざトップが援軍送る理由がないもの」
「酷い! この間だって人間の一軍全滅させたじゃない!」
「砦に立てこもった敵には負けたけど?」
「負けてないしー、援軍来るのわかってたから、被害を押さえる為に撤退しただけだしー」
 不器用に口を尖らせ抵抗するシックステンに、テューラは続ける。
「被害報告を聞きたいの? 貴方の采配のせいでどれだけの同胞が散ったか、今更知りたい……の?」
「え……あ、あれ? テューラちゃん……?」
 嗚咽を隠す様に背を向けたテューラに、シックステンは思わず手を伸ばした――途端。
「ふんっ!」
「おわっ!? いてぇっ!」
 腕を決められ、ゴンっごきっと、あまり好ましくない音を立て、天地がひっくり返る。
「さっさと働きなさい。私は早く帰りたいのよ」
「……へーい、仰せのままに」
 天地を逆さまにしたまま、シックステンはやる気のない返事を返した。

●砦前
 山間に設けられた石組みの関は、無骨なれど堅牢を誇っていた。
「あー……やっぱり帰らない?」
「敵前逃亡、っと。ビッグマーも喜ぶでしょうね」
「テューラ君。現状を報告したまえ」
「……はぁ。兵力増員は88匹。途中の集落で捕えた分ね」
 キリリと表情を引き締めたシックステンに、テューラは溜息まじりに報告する。
「ふむ、まずまずという所だねぇ。で、覚醒者は?」
「0よ」
「……えー」
 その報告に、シックステンは落胆に肩を落とした。
「一応、全部歪虚化は済んでるわ。まぁ、屍兵にしかならなかったけどね」
「はぁ、まーた正面作戦かぁ」
「いつも通りでよかったじゃない」
 辛辣な部下の返事に、瞳に汗を貯めながらシックステンは作戦を告げていく。
「とりあえず、屍兵を正面に。あ、女子供は最優先で前に出してね。それから、二列に武装した屍兵。これは男衆ね。んで、最後に人狼を配置。正面、側面どちらへも動けるように」
「妥当な策ね」
「お褒めに預かり光栄です、テューラ女史」
「キモいからやめて、鳥肌で死ぬって言ってるでしょ」
「酷いっ!?」

●砦
「敵兵、出現! 隊列を組んで砦へ進行してきます!」
 関の上から物見の兵が声を張り上げる。
「ち、違う! まて、あれは俺達の部族の人間だ! 服をよく見ろ!」
「そんなわけあるか! 二つの集落は敵襲を受けたんだぞ!」
「だから逃げてきてるんだよ! 早く入れてやってくれ!!」
 この砦には多くの避難民が逃れてきていた。
「馬鹿を言うな! あの目を見てみろ! 既に歪虚化されている!」
「そんなはず在るか! 嘘をついて住民を救わない気か!!」
「違う! あれは敵の罠だ! なんでわからない!」
 関の上では守備兵と避難民が掴み合い、門前では兵と住民が門の開閉を巡って、一触即発のにらみ合いを続けていた。
「そこをどけ!」
「近寄るな! 近寄った者は斬るぞ!」
「斬るだと!? 住民を斬るっていうのか!」
「何もしなければ、こちらも何もしない! とにかくここは開けるわけにはいかない!」
 門前に陣取る守備隊も、人の波の恐怖に打ち勝とうと声を荒げる。
 しかし、その声に住民達の不信感が限界を超えた。
「もういい! お前達のいう事は聞かない! 俺達の仲間は俺達で救い出す!」
 血気盛んな若者の一声が避難民達の心に火をつける。
 集団で門へと押し寄せる住民達に、兵は恐怖に身を引いた。
 自分の仲間達を救うという狂気の正義感に突き動かされた避難民達により、ついに門の閂が外される。

●北門
「おお、お前達、無事だ――ぐあぁつ!!」
「ま、まて! 俺だ! 判らないの――ぎゃああぁ!!」
 一斉に雪崩れ込んできた屍兵が、見境なく牙を剥く。
 目の前で牙を剥くのは、近くの部族の住民――だった者達だった。
 砦を護る兵達でさえ、混乱の極みの中、防衛を放棄。避難民達を差し置いて退路である南門へと押し寄せた。
「た、隊長、指示を!!」
「むむ……」
 この事態を南門の上から見つめていた守備隊長に、兵士が指示を求める。
 しかし、守備隊長自身、この事態をどうすればいいのか判断できずにいた。
「隊長! 撤退しましょう!! もうこの砦は持ちません!!」
「お、お前がそういうなら仕方ない! て、撤退だ!! 撤退しろぉぉ!!」
 決断の半分を部下に押し付け、守備隊長はようやく遅すぎる決断を下したのだった。

リプレイ本文

●砦
「くそっ! あれを閉めないと……!」
 ただ力任せに襲ってくる屍兵の一体を軽くいなし、カイ(ka3770)は急いで北門へと向かう。
「カイ、どういうことじゃ。斯様な事態……無粋に過ぎる」
 急ぐカイに並んだ蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が、向かってきた屍兵の脚を鉄扇で掬い上げ転倒させた。
「蜜鈴か! 俺にもわからん! 誰か状況を――」
 並走する蜜鈴の気配を感じながら、カイは少しでも情報を得ようと辺りを見渡す。
「敵襲です! どんどん敵が押し寄せています!」
 その声は関の上にあるルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)だった。
「後続は我等が何とか食い止めてみるが、そちらまで手は回せんぞ!」
「一体どうなってる! 詳しい状況を教えてくれ!」
「我等にも詳しい状況は解らぬ! とにかく敵襲じゃ!」
 再び関の上からかかるヴィルマ・ネーベル(ka2549)の声。
「ふむ、この手際、敵の指揮官は難物の様じゃ」
「暢気に言ってる場合か!?」
 と、その時、ヴェルマと蜜鈴の持つトランシーバーから声が聞こえた。
「――ふむ、なるほどのぅ。蜜鈴!」
「うむ、委細を承知した。此方は妾等が受け持とう」

●南門
 時を同じくして南門では――。
「やれやれ、襲った住民を先兵にか……無駄がないのは羨ましい限りだが。それで? この事態を収拾すべき司令官はどこへ行った」
「そ、それが……」
 と、ウルヴァン・ダイーヴァ(ka0992)の問いに兵士が指差したのは南門の先。
「……守るべき者を置いて、さっさと逃亡か。まるで美しくない」
「……」
「別に君を責めているわけじゃない。それよりもこれからの対応を考えよう」
「は、はい」
 配置に戻る兵士を見送ったウルヴァンは、腰に下げたトランシーバーからの声に気付いた。
「……了解した。こちらは任せてもらおう」

●砦
「――ふぅ、これで一先ずは大丈夫かな」
 ローエン・アイザック(ka5946)が秋の空を仰ぎふぅと息を吐いた。
「北門の封鎖は彼等に任せておけば問題ないだろうから、僕はこちらを何とかしようか」
 砦の中は混乱の極みにある。逃げ腰ながらも兵士たちが踏みとどまり屍兵を何とか押さえているが、やはり被害は徐々に広がりつつある。
「さて――」
 ローエンは大きく息を吸い込むと。
「兵士諸君!」
 砦中に響き渡るほどの大音声を上げた。
「僕はローゼン・アイザック。ハンターズソサエティの聖導士だ!」
 兵士だけでなく避難民の注目まで集め、ローエンは朗々と語りだす。
「甦りし死者は僕達が止めよう! 君達は君達の護るべき者の為に動いてくれ!」
 そういうと、ローエンが両手に掲げた杖で地面を突いた。
 地面に突かれた杖から波紋のように広がる高い音は、生者には凛とした産声に。死者には安とした子守唄に。
 心に染み渡る音色に、屍兵の動きが緩慢さを増した。
「今だ! 無用な死を広げない為、辺境部族の誇りをもって――動け、兵士諸君!!」
『うおぉぉぉ!!』
 杖の音と共に発せられたローエンの檄に、兵士達は雄叫びをもって答えた。

●北の関
「ここは私達に任せて、住民の誘導をお願いします! 大丈夫、南門で私達の仲間が待ってます!」
 ルンルンはどんと拳で胸を打ち、関を護る兵士達に撤退を呼びかける。
「うむ、ではやるか!」
 階段を駆け下りて行く兵士達の足音を背に聞き、ヴェルマは煌びやかな装飾が施された短杖を振るった。
「蒼に雨、白に霧、空に暗雲、地に霜辰」
 ヴェルマが指し示した場所は敵中。そこから一片の氷粒が顔を覗かせる。
「――朝霧の魔女ヴェルマ・ネーベルの名の下に、噴舞せよ、氷乱の嵐!!!」
 瞬間、氷粒は波紋の様に冷気を広げ、不格好に武器を携えた屍兵の一角を、瞬時に凍り付けた。
「私だってルンルン忍法を炸裂させちゃいます!」
 ヴェルマの成果に対抗心を燃やしたルンルンは、すちゃっと取り出した符を北門外に投げ放つ。
「トラップカードセット! ターンエンド――からのずっと私のターン!」
 紙吹雪の如く撒かれた符を、一つ一つ丁寧に指さしながら、ルンルンは高らかに歌い上げた。
「相手の進攻をトリガーに、トラップカード発動! ルンルン忍法土蜘蛛の術!」
 声に呼応した符が地面に吸い込まれると、そこをぬかるみに変える。
「ここからは誰一人通さないんだからっ!」

 関の上で奮戦する二人のおかげで流入する屍兵は激減していた。
「このまま一気に押し返すぞ! これ以上この砦に入れるなよ!!」
 しかし、門に取り付いていた屍兵が、門を閉めようとするカイを筆頭とする守備隊と門越しに力を拮抗させる。
「踏ん張れ! この門が閉まらなきゃ全滅なんだぞ!!」
『おぉぉ!!』
 カイの鼓舞に、閉門に力を貸す兵士達も気合を入れなおした。
「蜜鈴、まだか!」
「焦るでない。機とは微に見るものじゃて」
 門の中へと侵入した屍兵を往なしながら、蜜鈴はまるで焦る様子もなく――ただ、瞳には鋭い光を宿したまま――ぷかりと煙管を吹かせる。
「暢気も大概にしろよ! こっちはいっぱいいっぱいなんだぞ!!」
 少しでも気を緩めれば門を挟んだ力の均衡は一気に崩れる。
 カイは半ばやけくそに門を僅かに押し返した。
「うむ、良き男気じゃ! 誓の盾、堅牢なる檻、その身を以て災いより吾等を庇い護らんが為――」
 カイのその一歩を待っていたと、蜜鈴は誰にも届かぬ小さな声で大地に語り掛ける。
「佇立せぃ! 頑健なる巌の壁よ!」
 蜜鈴の声に大地が鳴動した。
 地の揺れに敵味方双方が一瞬動きを止めた時、門のすぐ外に巨大な土壁がせり出した。
「遅いんだよ! ったく、一気に行くぞ――」
 せり出した土壁が屍兵の数体を諸共突き上げたのを確認し、カイが兵士達に声をかける。
「今だ押せぇぇぇぇ!!」
 重い門扉は鈍い悲鳴を上げながらゆっくりと閉まっていき、ついにカイは兵士達と共に閂を差し込んだ。

●南門
 開け放たれた南門には避難民が殺到してきていた。
「門をくぐるのは、女子供、年老いた者だ! 体力のある者は関の上へ送れ!」
 その指示は、先ほど話を付けた兵士以下数名の少数にかけられたもの。
 ウルヴァンはあえて混乱する住民を落ち着かせようとすることなく、混乱させたまま南門からの逃走を促そうとしていた。
 兵士の手を借りると共に、巧みに張ったロープが混乱する避難民の道を作り出す。更には、門に松明を掲げることで、目的地を明確にした。
「いいぞ、美しい偽退だ」
 ウルヴァンは混乱しつつも的確に流れていく人の波を見つめる。
「こちらも順調のようだね」
「ローエンか。北門はいいのか?」
「ああ、兵士の皆が随分と奮い立ってくれたのでね。僕の仕事はなくなってしまったよ」
「ふん、あの演説を聞けば奮い立たぬ方がどうかしているだろう」
「ははは、ああいうのはあんまりガラじゃないんだけどね」
 少し困ったように話すローエンに、ウルヴァンは一呼吸置いて問いかけた。
「先ほど、北門は閉まったと報告があった」
「……何か言いたいことがあるみたいだね?」
「……ローエン、君はこれで終わったと思うか?」
「正直なところ、もうこれ以上は働きたくはない……かな」
「そうなる未来を望もう」
 そう言ってウルヴァンは、北にそびえる山々を見つめた。

●崖
「ひゅ~、止められたねぇ」
「何を暢気に……」
 岩の上に胡坐をかき、シックステンは眼下の戦況に口笛を吹いた。
「あっちにも知恵の回る者がいるみたいだ」
「いるみたいだって……このままでいいの?」
「え? だって、あの砦獲ればいいんでしょ?」
「……ええ、目的は砦の奪取よ」
「じゃ、いいんじゃないかな? 特別、何もしなくても逃げてくし、そのあとゆっくりもらえばさ」
 あー終わった終わったと、ぐっと伸びをするシックステン。
「……私が出るわ」
 そんな上官を睨み殺さん勢いで見つめ、テューラが呟いた。
「えぇっ!?」
「なぜ殺せる人間をみすみす逃がす必要があるの。ここで数を減らしてやるわ」
「いや、あの、テューラちゃん……? ちょっとキャラかわってない?」
 上官の言葉に耳を貸すつもりもないのか、テューラはさっさと踵を返す。
「あー……まってまって。わかったからさぁ」
「……なに?」
「殺せばいいんでしょ? 人間」
「……私が出た方が早いわ」
「テューラちゃんが出たら、獲らないといけない砦ごとなくなっちゃうよ」
「…………」
 岩の上で胡坐を組んだまま天を仰いだシックステンは、テューラに向けこう告げた。
「殺してあげるよ。君に絞りたての新鮮なマテリアルをご馳走しよう」

●関上
「なんじゃ、引き上げるじゃと……?」
 ハンター達の妨害工作に対し、ただ緩慢な攻撃を続けていた歪虚達が、一糸乱れず退却していく。
「諦めたんでしょうか……?」
 心もとなくなってきた符を数えていたルンルンもかくりと首を傾げた。
「引き上げたんでも諦めたんでもいい! 急いで撤退の準備だ!」
 関の下で閉門した門の前に置き石をしていたカイが叫ぶ。
「そうじゃな。何を企むかは関知せぬが、此れの機を逃すは愚ぞ」
 砦に侵入した屍兵の最後の一体を雷撃で焼いた蜜鈴が、扇を畳むと南門を指示した。
「よし、急ぐぞ! 皆、もう少しだ、気合を入れろよ!」
 共に閉門に力を合した兵士達にを従え、カイが南門へと急ぐ。
「ルンルン、我等も行くぞ」
「はいっ! それじゃ、私は念のために符を設置しながら――え……み、皆さん!!」
 ヴェルマに続き階段を下ろうとしたルンルンが、何の気なしにふと振り向いた途端、顔色を変え大声を上げた。
「と、突撃してきます!」
「なに!? 敵が戻ってきたのか!」
「戻ってきた……はい、戻ってきたんですが変なんです!」
「どういう事じゃ……?」
「一直線に綺麗に並んで、突っ込んできているんです!」
「一直線……? 何を企む……」
 関の上に残ったルンルンの声に、砦の中の者は皆首をかしげる。
「とにかく、急いでください!」
「な、何を急ぐんだ!!」
「逃げるんですよ!!」
 いつもの少しおどけた雰囲気など微塵も感じさせず、力の限りルンルンが叫んだ。
 まったくスピードを落とすことなく突撃してきた屍兵が肉の潰れる嫌な音と共に、そのまま関の壁へ激突する。
 後続もまた同じ速度で関の壁へ。屍兵に屍兵が折り重なっていき――ついに、関の中ほどにまで達する死者の階段が完成した。
「っ! まずいぞ!」
 急いで元の場所に駆け上ったヴェルマが目にしたものは――。
「人狼どもが越えてきよる!!」
 ヴェルマの叫び声よりも早く、最初の一匹が宙を舞った。


「くっ、こいつら速い……!」
 北門に配していたハンター達は、応戦しながらも撤退の流れに乗り急ぎ南門へ向かう。
 しかし、侵入してきた人狼はハンター達と真面にやり合わず建物や障害物を利用しつつ、機動力を生かし兵士に襲い掛かると、その命を刈り取っていった。
「気合を入れろ、それでも兵士か! お前達にも守りたいものがあるんだろう!」
 カイの激励に何とか心折れずに持ちこたえているものの、兵士は覚醒者ではない。純粋な歪虚の相手はやはり荷が重すぎる。
 撤退というよりも、這う這うの体で逃げていると言ったほうが正しい。
「これじゃ、折角撒いた符が活かせません……!」
「斯様な戦術……卑怯に残虐、まさに歪虚の本懐よのぉ」
「感心してる場合ではなかろうが!」
 自らも撤退しながら兵士をサポートするハンターも、この敵の攻撃に手を焼いていた。
「も、もう駄目だ……!」
「諦めるな! 南門まで行けば――しまった!」
 極度の緊張に膝を折った兵士に檄を飛ばそうとしていたカイの目の前で、その頭上を人狼が踊る。
「お前達はよくやった」
 人狼の毒牙がまさに振り下ろされようかとしたその瞬間、人狼が急に角度を変え側壁に激突した。
「ウルヴァン!」
 撤退してきた皆の前に現れたのは、後方で人員の退避を行っていたウルヴァンだった。
「多少の犠牲は出たが、避難民の撤退は完了した。残った者は皆、戦いに身を置くものだ」
 更に襲いくる人狼の一体を蹴り飛ばしたウルヴァンは、そのまま南関を指さす。
「ここからは俺達の領域だ。皆、頭を低くしろ!」
 逆らい難い意思の込められたウルヴァンの声に、理解の及ばないまま皆が一斉に頭を下げる。

『斉射一斉! てぇーー!!』

 それとほぼ同時、ローエンの声と共に、幾重にも銃声が轟いた。
「急いで関の方へ。大丈夫、死角は極力潰すよ。皆、焦らず退いてきてくれ」
 蜜鈴から受けたアドバイスにより、ローエンは関の上に横陣の銃隊を編成していた。
「次弾、散弾用意! 狙いは付けなくていいよ! 適当に弾幕をばらまいてやれ!」
 関上からの次弾は、時に散発的に、時に正確に、とても気まぐれに放たれる。
 自らに狙いを付けられたのなら避ける速さを持つ人狼達も、まるで狙いの無い弾幕に近寄ることができない。
「俺が殿を執る。行けるな?」
「ありがとうございますっ!」
 最後尾に降り立ったウルヴァンをそのまま殿に置き、関からの銃撃に守られ一行は南関まで退いた。

●南関
 南関まで退き、態勢を取り直したハンター達は、狙いを北関に向ける。
「……屍兵といい、人狼の卑劣な殺戮といい、実に趣味の悪い事じゃ。どこぞに悪知恵の働く歪虚がおるのじゃろうが……関係ない。我が業火ですべて焼き払って――む」
 ヴェルマは残りも少なくなったマテリアルの力を引き出そうと、
「なんじゃ、撤退していくじゃと……?」
「いや、違う。あれは距離を取っているんだ」
 ローエンの言う通り、人狼は撤退したのではなく後退し、北の関付近い布陣していた。
「真面目にやり合うつもりはないのか。それとも……」
「出てくるのかもね、本命が」
 カイの視線を追ってローエンが北の関、その先にいるであろう敵の指揮官の気配を窺う。
「どうする。一戦交えるか?」
「いや、睨み合いだ」
 これに答えたのはウルヴァンだった。
「にらみ合い……ですか?」
「そうだ。この場で戦場を停滞させる」
「ふむ、相手もこれ以上妾等とは遣り合いとぉ無い、という訳か」
「ああ、だがこちらにも砦を取り戻せる戦力はない。だからこのまま俺達が戦線を維持しながらゆっくりと後退していく。これ以上の無様は美学に反するからな」
 最後の文句を小さく呟くと、ウルヴァンは関の上に布陣した兵士に手で合図を送る。
 兵士達は非常時用の簡易階段を利用し、直接南関の外側へと脱していった。
 そして、最後に残るのは南門へと固まった6人のハンター達。
「随分死なせた……な」
「皆、ごめんね……ごめんね……」
「この場で弔ってやれぬが悔いよの」
「いずれ此れを取り返した時には、その魂必ずや送るでのぅ……許せよ」
「さぁて、最後だ。派手にやってやろうか」
 ローエンの合図に、皆が頷く。
 一斉に南門から距離をとったハンター達は、最後の仕上げとばかりに各々の最大火力を南門へとぶつけた。

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MVP一覧

  • 戦場の美学
    ウルヴァン・ダイーヴァka0992
  • 戦導師
    ローエン・アイザックka5946

重体一覧

参加者一覧

  • 戦場の美学
    ウルヴァン・ダイーヴァ(ka0992
    人間(蒼)|28才|男性|機導師
  • 其の霧に、籠め給ひしは
    ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549
    人間(紅)|23才|女性|魔術師
  • 情報屋兼便利屋
    カイ(ka3770
    人間(紅)|20才|男性|疾影士
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師
  • 戦導師
    ローエン・アイザック(ka5946
    人間(蒼)|30才|男性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/10/03 12:36:31
アイコン 質問卓
ローエン・アイザック(ka5946
人間(リアルブルー)|30才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2016/10/04 09:12:34
アイコン 撤退支援相談
ローエン・アイザック(ka5946
人間(リアルブルー)|30才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2016/10/05 05:05:45