路地裏工房コンフォートと逃避行

マスター:佐倉眸

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2016/10/08 12:00
完成日
2016/10/18 00:13

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 人も荷物も満載にした乗り合いの馬車がヴァリオスの街道入り口に着いた。
 転がるように飛び降りた少年と、少年の手を取って、その腕の中へ飛び込むように下りた少女。
「たくさん我が儘を聞いて貰ったわ」
 少女がぽつりと零した。
「――いいよ、僕も少し興味がある。それに、ティナのお祖母様にもお目にかかりたいから」
「ふふ、ありがとう。安心して、お祖母ちゃんはパパ程煩くないから」
 楽しげな声、ティナと呼ばれた少女はくるくると踊るように歩きながら街を目指した。
「……マウロ、はやく。日が暮れるわ!」
 少年を急かして走り出す。

 閑静な住宅街の一角に小さな家が佇んでいた。
 手入れの行き届いた庭木にアイアンレースの緻密なデザイン、窓に嵌め込まれた色硝子壁から屋根瓦まで質の良さは窺えるとても小さな家だ。
「私が小さい頃は一緒に住んでいたお祖母ちゃんが、ときどき連れてきてくれた隠れ家なの」
「……素敵な場所だね」
「でしょう? 私も大好きなの」
 石畳を少し進んで、木のアーチを潜る。磨かれたノッカーを握って3つ叩く。
 2人を迎えたのは白い髪を纏め、鮮やかな色のドレスに身を包んだ優しげな老女。
 ティナに似た面差しで、肌には深い皺を刻みながらも背筋のしゃんと伸びた小柄なひと。
 ティナの祖母であるという彼女は2人を交互に見詰めて溜息を吐く。

「ヴァレンティーナ、感心しませんよ。あなたは楽しんだかも知れませんが、今回のことで、あなたのお父さんも、お母さんもとても心配していたんです。あなたは子供の頃から……

 玄関先での祖母の話は、小一時間続いた。

 それから、他所のお家に口を出すつもりはありませんが、モンテリーゾのお家の方々だって、大変心配されたと聞いています。マウロ君も、もう少しご家族のことを大切にしてあげなくては。あなたを立派に……

 更に1時間程、マウロに向かって話し続けた。そして。

 さあ、話しはお終い。お茶にしましょう」

 そう言って、祖母はにっこりと微笑み、2人をリビングへ招いた。
 奥様、と呼ぶ若い声。メイドが顔を覗かせる。
「ええ、この子達にもケーキを用意して。お茶は、そうね……この前のアップルティーが美味しかったわ。それにしましょう――さあ、座って。2人ともよく来てくれたわね、リゼリオはどんな街だったのかしら?」
 
 祖母はリゼリオでの話し、特にマウロがコボルトと遭遇した話しに目を輝かせた。
 好奇心旺盛なところがティナと似ている。ゲストルームを借りたマウロは、久しぶりの柔らかなベッドに横たわり、これからのことを考えながら瞼を伏せた。

 翌朝、ティナは先に起きてメイドと並んでキッチンに立っていた。
「お料理を習ったから披露してくれるんですって」
 祖母は2人の様子を見守りながら、マウロにも椅子を勧めた。
 ティナがフライパンを揺すって器用にオムレツを裏返して得意気に笑うと、不安そうにティナを見ていたメイドが拍手を送った。
 朝食後、すぐに戻ってポルトワールへ向かう馬車を探すというと、祖母はある住所を書いたメモと小切手を差し出した。
 若い頃に見付けた宝飾工房、小さな店だけど良い物を置いていた。一緒に見には行けないけれど、気に入る物を探しなさいと。


 諸諸の礼を告げて祖母の家を辞した2人はメモの住所へ向かう。
 巡回の馬車に乗って街道入り口の方へ走り、それを途中で降りると、メモに書かれた通りを見付けた。
 入り組んだ路地に時計屋に薬屋、色色と揃っている。その影にひっそりと「宝飾工房コンフォート」の看板を見付けた。
 ドアを叩くと小さな子供を背負った少女が鍵を開けた。
「いらっしゃいませ。でも、ごめんなさい、今、お祖父ちゃ、……オーナーが寝込んでいて」
「……ぴーのー。ねーね、もーか」
「ピノと、姉のモニカです、って、自己紹介してるの。お客さんが来た時はいつもそう」
 子供と視線を合わせながらティナが名乗る。マウロも初めましてと会釈をした。
「てーな。まーろ、ろっ、まーま、ぱーぱ?」
「多分、ご夫婦ですか? って、聞いてると思うんだけど」
 モニカは2人を見て肩を竦めた。そんなことを聞くのはまだ早いと背中のピノを揺らしながら。
 ドアを開けて店内の椅子を勧める。祖母の紹介だと伝えると、それは先代のことだろうとモニカは笑った。
 先代が亡くなり、建物としての店はオーナーが引き継いで片付ける予定だった。モニカは病床のオーナーの看病をしながら、偶に来る先代の頃の客の相手や修理の依頼を請け負っている。
「――売れる物は置いて無いんだけど、良かったらこれ着けてみて?」

 先代のデザインを参考にしながら、習作で作ったペアのシルバーリング。
 絡むように輪を重ねたレリーフ、2つ並べるとその流線が繋がりハートを描く。

「あら、ぴったり?」
 モニカは嬉しげに言い、磨くから待っていてと椅子を勧めた。
 作ったものの売れるような素材でも無く、出来は悪くなかったから捨てるのも惜しくてと、手元できらきらと銀を煌めかせながら言う。
「だから、合う人が来たらあげようって思ってたの」


 2人はこれからポルトワールに向かうと言う。ここまで来たような、護衛のある乗り合いの馬車が有れば良いけれど、と溜息交じりに。
 モニカは少し困ったように首を傾げた。
 来るときも襲われているなら、気を付けた方が良い。安くてもお願い出来る人がいると思うからと。
 自身も襲われたことがあるし、世話になっている薬屋の女性も、ジェオルジまでの道で遭遇している。
 いずれもハンターに助けられて無事だったと。
「……そうですね、僕はまだ、コボルト1匹ろくに倒せませんし……」
「あら! コボルトなら、箒とかブラシとかの柄を思い切り振って吹っ飛ばすのが効果的よ」

 探した安価な馬車は見付からず、直接ハンターオフィスに連絡を取る。
「予算が心許ないと言うことですね? 大丈夫です! それでもオーケイと言ってくれるハンターさんを探しますので!」
 食い気味に依頼を受け付けた受付嬢が掲示板にぺたりと募集の依頼を貼り付けた。


 互いの指に銀のリングを輝かせた2人を見送って、モニカは店のドアを閉める。祖父の体調は落ち付いているが、医者は冬を越すのは厳しいだろうと言っていた。ときどき不安になるが、悪化することも無く、穏やかに過ごしている。
 思い出すのは、彼の愛する本当の孫娘、モニカが姉と慕うある若い女性のこと。
 歪虚の起こした事件に巻き込まれて衰弱し、今は保護され静かに暮らしていると聞く。
 せめて、会いに来てくれたらと、叶わぬことを祖父の皺の多い手を握って祈る。
 どうかこの手の温もりの消えぬうちに、彼女の命の尽きて仕舞わぬことを。

 ベッドに寝かせていたピノが、火の付いたように泣きわめいた。

リプレイ本文


 街道を眺める依頼人の指に光るリングに気付いたユルゲンス・クリューガー(ka2335)が鎧の巨躯を屈めるようにそれを見る。
「ほう、年若いが2人は夫婦なのか……」
 夫婦、と首を傾げて顔を見合わせた依頼人は、くすりと笑ってから頷いた。
 2人の様子にミルティア・ミルティエラ(ka0155)が艶やかな桃色の髪を掻き上げて微笑む。
「ちゃんと幸せになる為の道だって言うなら、キチッと守って、ばしーんっと送り届けてあげちゃいますか」
 彼等の素性も、報酬も目を瞑って二の次にして。口角を上げて朗らかに言うと、表情を和ませた依頼人がありがとうございますと辞儀を。
 依頼に際して帰宅という目的を聞いたリン・フュラー(ka5869)は2人を見詰める緑の瞳を僅かに揺らし、柔らかな瞼でそれを覆った。
 あの日、家を飛び出していった妹は、と胸裏が突かれた様に痛む。
「きっとご家族も心配しているはず……無事に送り届けないと」
 思わず零れた言葉に、Serge・Dior(ka3569)が頷く。
「困っている方が居るなら、報酬の量に拘らず任務を遂行するのが騎士の務めです」
 彼等を無事に送り届けるために尽力しようと、端然と背筋を伸ばし。

 街道口を発って暫く、振り返ればまだ街の見える広い道、声を掛けようとする依頼人に鞍馬 真(ka5819)が首を竦めて眉を下げた。
「両方の手伝いをすることになるとはな」
 家出とその帰り道。そう溜息交じりの言葉に、依頼人も驚いたと言って歩む足下を眺めながら、逃げ出せば幸せになれると信じたあの日の礼を告げる。
「――さて、ここからは私が先行しよう、きみも良いか?」
 道へ張り出す枝が影を作り始めると、鞍馬は鐙に足を掛け、セルジュの方を覗った。
「はい、準備は出来ています」
 手綱を引いて応じる言葉に頷き、鞍馬は馬上から依頼人を見る。休憩するときにでもまた話そう。そう声を掛けると、先の陰る道に不安げにした依頼人がほっとしたように頷いた。
「ユンゲルス君、ボクたちも」
 先行する2人を送り出し、ミルティアは依頼人の傍に寄る。
 連絡に備えるユンゲルスも頷いて、周囲を軽く見回してから庇う様に。
「こっちに来たら、ボクの後ろに隠れてね」
 依頼人が頷き、リンと樋口 霰(ka6443)もその傍を固める。


 頻繁に行き交っているだろう馬車の轍を追う様に馬は駆って、その後に続く4人と依頼人も何事も無く進んでいく。けれど、歩き続けることに慣れない依頼人の顔に僅かに疲れが見え始めた。
 気遣う言葉がユンゲルスに届くが、すぐにその声が強張るのを聞く。
「……遭遇したようだ」

 鞍馬が依頼人の体調を尋ねる通信の最中、茂みから顔を覗かせたゴブリンにセルジュが盾と剣で応じる。棍棒の軽い打撃を盾に受け止め、鋭利な切っ先はその喉を貫いた。
 その1匹だけらしいと通信は続けながら、鞍馬は周囲への警戒を強める。
 血糊を払って剣を下ろし、セルジュも陰る街道を眺める。
「――気を付けて進みましょう」
「ああ、そうだな」
 木々の隙間を縫うように見詰めながら、ここで留まる訳にもいかないと、鞍馬は骸を茂みに押しやって駿馬を駆らせる。

「……行きますか」
 先行する2人の状況を聞き、ミルティアは依頼人とハンター達を見回す。
 通信を終えたユンゲルスも頷きながら依頼人に問う。
 依頼人は兜の奥の瞳を見上げて、大丈夫と答えると、急いだ方が良さそうだと道の先を眺めた。
 前方を気に掛けたリンも依頼人の側に戻る。
「1匹だけということは無いでしょう……こちらも気を付けなければ」
 仄暗い道は暫く続きそうだ。


 進み続けた道が広がり、木漏れ日が明るく差し始めた頃、微かな血臭と獣の匂いを知る。
 鞍馬は腕を翳してセルジュに合図を送りながら歩みを緩めた。
 蹄鉄の跡が緩やかに繋がっていく。左右に分かれて警戒を巡らせて黒い長柄の得物を振り翳す。
 馬上からも優に取り回せるそれを握り締めて、刃を下ろすと茂みの草を刈りながら片手で器用に手綱を繰る。
 些細な気配も見落とさぬよう凝らすセルジュの目が、遠くこちらを狙った鏃を捉えた。
「――真さん」
 咄嗟に声を掛けると鞍馬も手綱を引いて馬を反転、音を立てて空気を割くように凪ぐ得物の切っ先を敵へ向ける。
「あの3匹か?」
「ここから見えるのはそれだけです。しかし……」
「まだ居るだろうな。あれは、ここで倒しておきたい」
 石を砕いた歪な鏃が顔の横を抜けていく。その傍に大柄なものが1匹、影に隠れるようにもう1匹。
 計3匹のゴブリンが草を踏んで姿を覗かせた。
 セルジュは周囲に視線を走らせるが、その他は気配を感じるのみで、姿を見せる様子は無い。
 得物を握り直して、鞍馬は馬の横腹を蹴る。
 敵の中に駆けながら先を睨む双眸が瞬きの一瞬、金に灯る。
 その輝きが凪いで静かな青を湛えながら、敵からは逸らさない。
 刃が影に届き、身を隠す1匹を狙うが棍棒を向けながら飛び込んでくるもう1匹に阻まれる。
 更に先まで馬を駆ってセルジュは弓を持つ敵へ剣の切っ先を向ける。
 貫く為の鋭い先端が陽光に煌めいて鮮やかな流線を描いた。間合いを詰め切って、至近から放たれる矢を見切り盾に弾き、くすんだ毛の覆った腹を捉えた剣を更に押し込んで引き裂いた。
 鞍馬に向かって振り下ろされる棍棒を柄に捉えていなし、更にもう一撃。影から濁った鳴き声で喚くものへ、庇おうとするもう1匹毎貫くように切っ先を向けた。脚だけで馬を操り、2匹とも刈り取ろうとする瞬間、濁った声が響きわたる。

 何かが来ると気配を感じると同時にトランシーバーに通信が入った。
 焦る声が敵の接近を伝える。
「――こちらにも敵が向かってくる。数は、6、7匹、それ以上。先行の2人も交戦中だ。……来るぞ!」
 通信をハンター達に伝えながらユンゲルスは使い込んだ剣を抜く。その動きはどこかぎこちなく、構え1つ取っても苦しげに見えた。
「例え手負いであろうが遅れは取らぬわ!」
 茂みから飛び出してきた敵に向かい、依頼人を背に庇いながら剣を向けた。
 ミルティアの背から零れるように垂れ落ちた触手の幻影、無数の影は伸縮しながらその手足に絡む。白い腕にしゅるりと這って、その手の先に構えた得物まで、緩やかに波打って先へ先へと只管に伸びていく。
 金の頂きを重たげに、赤い柄を器用に操って掲げると、紅く染めた瞳で放たれた歪な鏃と重い棍棒を向ける敵を睨む。
「近付けさせない。それがボクの役目だからね。――2人とも、離れないで下さいよ!」
 不可視の壁を展開し、肩越しに依頼人を見遣って口角を上げる。
 刀は収めたままにして、柄にそっと手を乗せる。緑の瞳がマテリアルに呼応するようにどろりと濃い血の色に染まっていく。
 地面に足を躙って構え、接近する敵を見据えた。
「このままでは動けませんね、先の2人も……」
 助けを期待することも、向かうことも出来ない。棍棒を手に近付いてきた1匹に対峙しながらも戦況を見る眼は曇らせず。
 姿勢は低く保って、すらりと抜いた刃の切っ先を向ける。
 樋口も刀を携えて前へ、敵に接近すると抜き様に斬り掛かり、反撃をその刀身に受け流してすぐに体勢を立て直す。前から、横からと電流を纏った白刃が煌めいて敵を翻弄し、その身を貫くと、温い鮮血を散らして飛び退いた。
 次、と言う様に戦場を見る。

 響く声にそれが辺りのゴブリンの指導者と気付いたとき、鞍馬は咄嗟にトランシーバーを取る。手綱を引いて馬を返したセルジュが攻撃を引き受ける間に、敵の数を伝えた。
 話す内にも増える影に眉を寄せながらも、仲間の応答を聞いて攻撃の姿勢に戻る。
「――あちらへ向かったものが多い。私たちも」
 手負いの3匹へ止めを刺して、馬を急がせる。
 ミルティアが壁を作り、リンが迎撃に。越えて迫るものはユンゲルスが剣と盾と己が鎧で防いでいる。
 二人が合流すると、リンは更に前へと進み、濡れたように赤い眼差しで敵を見据える。
 足を引き姿勢を低く保って接近し、守りを捨てて踏み込めば棍棒が強か掠めた橙の着物の糸が散った。
 構わすに抜き放つ一撃で腕を払い、追撃を躱して腹を断つ。
 阻む1匹の隙に放たれる矢をセルジュが弾くと、リンは更に前へ継ぎの矢をつがえる前に白刃を突き付けた。
 依頼人の周囲こそ無事なものの、辺りにはゴブリンの骸が転がって、凄惨な様相を呈していく。尚も、その屍を踏み越えるように攻撃の手を伸ばす敵をミルティアが紅い目で睨んだ。
 鞍馬が依頼人の視界を庇う様に腕を伸ばして立ちはだかる。
 途切れてしまった壁を張り直す前に、狙ってくる敵へ魔力を纏わせた得物を叩き付ける。
 赤黒く禍々しい色をした魔力の揺らめきの軌跡に赤い花弁が舞い散った。
「――真っ赤に、咲かせてやりますよ!」
 重い一撃に傷口を咲かせてふらついた敵を一瞥し、ミルティアは壁を張り直した。近付かせないと拒む鋭い視線が敵を見据える。
 攻撃を躱し、刀身にいなして前へ出る樋口は、一旦鞘に刀を収めて敵を見据え、漆黒の髪を靡かせて斬り掛かる。躱す間も無く放たれる一撃に斃れたゴブリンを見下ろして上がった呼吸を整える。
 鞍馬は統率を無くした群を眺め、長柄を握り直して前に駆る。
 混乱に乗じるように数匹を巻き込んで凪ぐと、傷を負わせた物から的確に狙って仕留めていく。
 飛んでくる矢はミルティアの壁さえ越えてしまう。ユンゲルスは敵の弓に盾を向けるように依頼人を庇い、本調子で無い体を、鎧の守りで支えながら耐える。
 接近した敵があの1匹を最後になくなると、ミルティアも回りを見回して警戒を保ちながら、壁の維持に専心する。守る戦いは苦手だと肩を竦めながら張り直した結界の消える前には、視界が粗方開けていった。
 敵の姿が絶えて、遠方の敵を追い落としたセルジュとリンが戻ると、依頼人を急かす様に、戦いの跡の濃い道を通り過ぎる。可能な限り精神的にも傷付けたくは無いなと、傷の酷い骸を視界から隠すように。
 戦闘の衝撃に震える依頼人が再び歩き出せるまで明るい場所に留まり、歩き出せるようになると鞍馬とセルジュは斥候に戻って馬を走らせる。


 休憩をと、開けた場所に馬を止めて、連絡を入れる。
 無事に集合すると、依頼人とハンター達も腰を下ろした。
 リンが依頼人の体調や怪我を尋ねると、依頼人は憔悴と疲れを浮かべながらも、怪我は無いと答えた。
 疲れたしゴブリンには驚いたけど、まだ歩けるし、急がないとまた出てくるかも知れない。
 道を眺めて不安そうにする依頼人の傍らに座って、依頼人と仲間の無事に安堵しながら、リンはぽつりと呟いた。
「他人事には、思えないんです」
 リン自身が妹を心配しているから、2人を心配する家族のことが。
 だから必ず、無事に送り届けます。緑に落ち付いた両の瞳が依頼人を見詰めて微笑んだ。
 依頼人のことには口を出さないと言った通り、ミルティアは何も言わない。けれど、目が合うと、任せろというように笑ってみせる。
 依頼人の背後に座し、その背を守るように周囲を眺めながら、ユンゲルスは腕を伸ばし指を動かして感覚を探る。
 今し方の戦いで、足手纏いにこそならなかったが、どうしても深く斬り込める程の力は無い。
「……ふむ、……」
 柄を握りながら考え続ける。
 セルジュは弓の反撃を受けた脚を見下ろした。護りの薄い場所への攻撃に盾が間に合わず、反撃した後にマテリアルで塞いだ疵。
 軽くさすって、完治を確かめると、先に馬を駆って見回りに出る。
 疲れたと聞いたけれど、と鞍馬が依頼人に声を掛けた。
 先も長いから、休めるときは休んだ方が良いと顔色を眺めながら。
 怖いことがあった後だから、何か楽しい話しでもと誘うと、ヴァリオスに着いてからのことを少しずつ話し始めた。
 途切れがちな声が穏やかになった頃、そろそろ出発をと促されて立ち上がる。道の先が安全ならと祈りながら街道を進んだ。

 祈りが通じたり、通じなかったりと、街道のゴブリンや野生動物との遭遇は免れなかったが、依頼人とハンター達は怪我もなく無事に目的地に到着した。
 迎えに来ていた家族の姿に、疲れきっているはずの足を急かした依頼人に微笑み、そっと瞼を伏せる。
 別れ際、ハンター達へ依頼人から、彼等の家族からも感謝の言葉が伝えられた。
 鞍馬には苦い顔をして見せたティナの父親も、娘の無事を見るとその顰めた表情を幾らか和らげた。
 待って、と声を上げて、ティナがリンを呼び止めた。
 旅の礼を告げて、見付けてあげて、と、懇願するように言う。
 帰って来ることができて、家族に会えて嬉しかったから、と。

 口許に手を当てて、ありがとう、とハンター達へ向かって叫んだ声が、長く長く響いていた。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 6
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 明日への祝杯
    ミルティア・ミルティエラ(ka0155
    エルフ|20才|女性|聖導士
  • ケンプファー
    ユルゲンス・クリューガー(ka2335
    人間(紅)|40才|男性|闘狩人
  • 盾の騎士
    Serge・Dior(ka3569
    人間(紅)|26才|男性|闘狩人

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 紅の鎮魂歌
    リン・フュラー(ka5869
    エルフ|14才|女性|舞刀士

  • 二ノ宮 アザミ(ka6443
    人間(蒼)|23才|女性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 作戦相談卓
ユルゲンス・クリューガー(ka2335
人間(クリムゾンウェスト)|40才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/10/07 12:54:38
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/10/04 22:42:26